カップルヒーローの女戦士、カメムシ女になる

  この世界は今、危機に瀕している。

  秘密結社ダアクーが送り出す怪人たちによって多くの命が失われていった。

  しかし、人類はそんな恐るべき力を持った彼らに立ち向かう心を捨ててはいなかった。

  それが、秘密裏に開発されたバトルスーツを身に纏いダアクーと戦う二人組ヒーロー・ジャスティスツインズである。

  「ありがとうカズくん、今日一日凄く楽しかった!

  私、ずっと新しく出来たアトラクションに乗って見たかったの…!」

  「今日は久々の休暇だからな、由美が羽を伸ばせたみたいで何よりだよ。

  俺も滅茶苦茶楽しかったし!」

  とある遊園地の出口から出て来る二人の男女。

  ずっと乗りたかった新設のアトラクションを満喫出来て嬉しそうに笑う女性は葛城由美。

  セミロングの黒髪が似合う清楚な女性である。

  そして彼女の隣に立つのが相川一樹。

  明るくて人望が厚く、爽やかな青年だ。

  二人は恋人同士にして、ダアクーに立ち向かう戦士・ジャスティスツインズの正体でもあった。

  「…ね、ねぇカズくん。

  この後ってその、時間…あるかな?」

  ふと、思い立ったように由美はモジモジとしながら一樹に問いかける。

  「ん、この後か…?

  今日は丸一日休み取ってるから本部に寄る必要も無いし、特に予定は無いな」

  「そっか…!

  今日は遊園地で解散する予定だったけどさ、この後一緒に夜ご飯も食べに行けたら良いな、って…。

  その…、私、まだカズくんと離れたくなくなっちゃって……!!!」

  恥ずかしそうに、しかし真っすぐと一樹の目を見ながら、由美は自身の思いを素直に告白する。

  そんな由美のあどけない表情に、一樹もキュンと来てしまう。

  「おっ…、おう、そう…だな。

  俺ももっと由美と一緒にいたい。

  行こうぜ、夜ご飯」

  「やった…!

  ありがとう、カズくん!」

  二人は元々、互いに面識のないただの一般人であった。

  しかし、政府公認の秘密組織・対ダアクー戦略本部にスカウトされ、ジャスティスツインズとしてダアクーと戦う事になったのだ。

  初めは初々しい距離感だった二人だが、一緒に戦う中で絆が芽生え、やがてそれは恋心へと発展。

  一樹の一世一代の告白により、二人は数か月前に晴れて恋人同士となったのだ。

  しかし、ジャスティスツインズとして人々の平和を守るために奔走する二人には中々休息の時間は巡ってこない。

  この日は戦略本部の上層部の面々のご厚意で珍しく二人共休暇が与えられ、交際が始まってからは初めての本格的なデートだったのだ。

  それゆえ、少しでも長く相手と一緒にプライベートな時間を過ごしたいという思いが、二人の中で渦巻いていた。

  「それじゃ、この辺にあるお店をネットで探して…」

  「あっ…、ちょっと待って」

  スマホを取り出して飲食店を検索しようとする一樹を、由美はそっと止める。

  「私達…こんな身だし、次にいつ今日みたいに遊園地に来れるかわからないでしょ?

  だからさ、思い出作りのためにも、遊園地の前で一回カズくんと…キスしてみたいな」

  「あぁ……、そうだな。

  こんな風に二人揃って平和な一日を過ごせる時がまた来るとは限らない。

  俺も今日この日の事を一生思い出に焼き付けておきたくなった」

  幸い、周囲に人はいない。

  二人は遊園地を背景に、顔を見つめ合わせ、そっと口づけを……。

  ジリリリリリッ!!!

  交わそうとした瞬間、二人の左腕に装着された腕輪・ジャスティスリングから着信音が鳴り響く。

  ダアクーの怪人が現れたという本部からの知らせだ。

  「…どうやら、ダアクーの奴らは俺達に休息を与える事すら許してくれないらしい。

  ごめんな由美、キスと夕食はお預けだ…」

  「ううん、カズくんが気にする事じゃないよ。

  今は一刻も早く現場に急行して、ダアクーの怪人から人々を守らなくちゃ!!!

  行きましょう!」

  いちゃいちゃムードから一転、正義の味方としての自分にスイッチを切り替えた二人は、すぐさまリングの指示に従い現場に向かった。

  現場に到着した二人、しかし様子がおかしい。

  通常ならば動物や植物の力を持った恐ろしい怪人が一体と、その怪人が指揮する戦闘員が一緒に現れるはずなのだが、今日は怪人の姿が見えず、無数の黒い戦闘員だけが暴れまわっている。

  「「「ヤミーッ!」」」

  そう奇声を上げる戦闘員はまるで無地の黒い全身タイツを着たような外見で、顔も胴体も一切凸凹が無く全てツルペタなのが不気味な印象を与える。

  「怪人がいないみたい…。

  どうして戦闘員だけが!?」

  「構うもんか!

  俺達はとにかく襲われてる人を助けるまでさ!」

  二人は左腕のジャスティスリングのスイッチを押し、叫ぶ。

  「「着装!!!」」

  次の瞬間、二人は光に包まれ、一瞬のうちに全身をバトルスーツが包んでいく。

  光が止むと、そこには二人の戦士が立っていた。

  一樹が変身した金色の戦士・ゴルドジャスティス。

  そして由美が変身した銀色の戦士・シルバジャスティス。

  これが、人類の英知を結集して作った人類最後の切り札・ジャスティスツインズである。

  二人は早速、町で暴れまわる戦闘員を処理しに回る。

  「はぁっ!!!」

  「えいっ!!!」

  パンチやキックを浴びせ、次々と戦闘員は倒れて行った。

  しかし、一体一体は弱くてもすぐに別の個体が現れてキリがないのが戦闘員の厄介な所だ。

  「はぁ、はぁっ……。

  こいつら、どんだけいるんだ!?」

  「ふぅ…、今日はやけに戦闘員が多い気がする……。

  このままじゃスタミナが……」

  少しずつ体力が削られていく二人。

  すると。

  「フフフフフ…、ただの戦闘員に苦戦しているようじゃのう、お二人さん」

  そう言いながら現れた白髪の不気味な老人は、ダアクーの科学者・プロフェッサーアークである。

  「お前は…プロフェッサーアーク!?

  裏方の貴様が何故!?」

  ゴルドジャスティスの問いに、プロフェッサーアークはニヤニヤと笑みを浮かべながら答えた。

  「いやぁ、なに今日はちょっと作戦を変えてみようと思ってな。

  我々はいつも世界征服を最優先に作戦を展開して、その結果貴様らジャスティスツインズに敗北を喫しておる。

  そこでじゃ、まず先にジャスティスツインズの方を潰す事が出来れば、より円滑に作戦を進められるのではないか…!」

  すると…!

  「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

  「っ!?」

  悲鳴の聞こえた方を振り向くと、何とシルバジャスティス…由美が一瞬の隙を突かれて電気ネットで身体を縛られていた!

  それも、彼女を縛っているのはただの電気ネットではない。

  プロフェッサーアーク開発の、電子機器をショートさせる機能付きである。

  その影響で由美の纏うバトルスーツが機能を停止してしまい、変身が解除されてしまった…!

  「ゆ、由美ぃぃぃぃぃぃっ!!!」

  「いっ……たたた……。

  あれ…、スーツは!?

  私、何で変身が解除されて……」

  「ハーッハッハッハ!

  見たか!

  これがワシの開発した対ジャスティスツインズ用電気ネットじゃ!

  予算の都合で一個しか作れなかったが、それでもこうして女の方を捕獲出来たわい!!!」

  ゲス笑いを浮かべるプロフェッサーアーク。

  「このクズ野郎ッ……!

  この場で裁きを下してやる!

  待ってろ由美、今すぐ俺が……!!!」

  ゴルドジャスティスは怒りに震え、すぐさま由美を救助しに向かおうとする。

  しかし……。

  「おおっと、良いのかなゴルドジャスティスくん?

  貴様の後ろで今にも罪の無い民間人が殺されかけておるぞ~???」

  プロフェッサーアークの言う通り、ゴルドジャスティスの背後で逃げ遅れた少女が戦闘員に命を狙われていた。

  「イヤっ…!来ないでっ……!!!」

  「ヤミ~…!」

  「なっ…!?

  嘘だろ、こんな……!!!」

  ゴルドジャスティス…相川一樹に人生最大の二択が突きつけられる。

  愛する恋人を助けに行くか、見ず知らずの少女を救うか。

  正義の味方としては、当然後者を選択すべきである事は明白だ。

  しかし、後者を選択する事は命よりも大切な恋人を見捨てる事になるわけで……。

  「俺は…。

  俺はっ……!

  一体、どうすれば……!?!?!?」

  苦悩。

  しかし、その時…。

  「行って、カズくん!!!

  ううん、ゴルドジャスティス!!!!!!」

  一樹の耳に届く、愛する人の声。

  「罪の無い人々をダアクーから守るのが、あなたの使命でしょ!

  私の事は良い、だからその女の子を……助けてあげてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

  電気ネットで縛られながら、由美は懸命に、一樹に…いや、ゴルドジャスティスに叫んだ。

  「由美っ……!」

  その清く正しい言葉に、一樹の…ゴルドジャスティスの目が覚める。

  「クッ……、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」

  苦渋の決断…!

  ゴルドジャスティスは囚われた愛する恋人に背を向け、後方で今にも戦闘員に殺されそうになっている見知らぬ少女の救出に向かう。

  その光景を見て、プロフェッサーは大爆笑。

  「フッ…、ギャハハハハハハハハハ!!!!!!

  これは良い!!!

  何と美しき、正義の光景か!!!

  どうやら貴様ら二人はワシが思っていた以上に正義に生きる誇り高き戦士だったようじゃのう…!

  じゃが…、その美しい正義の心、果たしてこれから先何があろうと持ち続ける事は出来るかな?」

  「きゃっ…!?」

  プロフェッサーの指示で、戦闘員は数人がかりで由美を持ち上げる。

  「この女は、我々ダアクーが身柄を預かる。

  これはゴルドジャスティス、全て貴様が選んだ結末じゃからな?

  じゃあな、自分の欲望より正義を選んだ哀れな青年よ!

  ワハハハハ!!!」

  「嫌っ…、離してぇ!!!」

  プロフェッサーは由美を運ぶ戦闘員と共に、その場を離れていく。

  由美は抵抗しながらも、決してゴルドジャスティスには助けを求めない。

  そんな光景を横目に、ゴルドジャスティスは少女に群がる戦闘員を対処しながら叫ぶしか無かった。

  「由美ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっ!!!!!!!!!」

  「うっ…う~ん……。

  ここ、は……?」

  由美が目を覚ますと、そこは薄暗い空間だった。

  戦闘員に連れて行かれながら一樹と引き離された所までしか覚えていない。

  ここは一体どこなのだろうか。

  「フフフフフ…、ダアクーの秘密基地へようこそシルバジャスティス。

  いや…、葛城由美!!!」

  声のする方へ視線を向けると、プロフェッサーアークがニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべていた。

  そして、同時に自分が何か台のようなものの上に縛り付けられている事にも気が付く。

  「っ…、何これ!?

  動けない……!!!」

  「ほう…?

  やはりあのバトルスーツを身に纏っていないと非力な人間に過ぎないのじゃな。

  ワシの作ったダアクーの合成怪人たちがこんなチンケな人間に何度も敗北していたとは、いやはや情けない…!」

  「…これまで現れていた怪人は、やはりあなたが作っていたのね!?」

  「その通り!

  これまで貴様らが倒してきた怪人も、戦闘員も、全てこの天才科学者たるワシが偉大なるダアクー首領から命を受けて生み出した人造生命体じゃよ!

  何体倒されようと何度でも新しい戦力を生み出せたのも、遺伝子を合成して無から生成した合成生物だからというわけじゃ!

  …まぁ、予算の都合で一回の作戦につき怪人は一体しか作れないんじゃがな」

  少し自虐的な台詞も含めながら、嬉々と怪人の仕組みを話すプロフェッサー。

  「…それで、私をこんな風に捕らえて一体何をするつもりなの!?

  拷問?

  それとも処刑?

  悪いけど、たとえ私が死んだとしても私達人類はあなた達ダアクーへの抵抗を決して辞めないわよ!」

  "自分が死んだとしても"、そう己の口から出て来た事実に少し身震いしつつも、由美は気丈に振舞う。

  「いやぁ、実はこれもジャスティスツインズを潰すための作戦の一環でのう。

  貴様らジャスティスツインズをどうすれば壊滅させられるか、そう考えた時に一番効果的なのは…いっそジャスティスツインズを我々秘密結社ダアクーに引き込んでみてはどうかと思いついてな」

  「な、何を言って……」

  「ワシは今まで、様々な動物や植物の遺伝子を元に一から怪人を生成してきた。

  生成した怪人には人格も植え付け、しっかりと自我を与えている。

  そこで逆に、"無から新たなる怪人を生成出来る程の技術があれば、人間を改造して我らダアクーの尖兵に改造する位簡単なのではないか?"と考えた!

  一から新たなる肉体を作るよりは既存の肉体を弄る方が遥かに楽じゃし、合成生物に人格をインストールする技術を応用すれば脳を改造して洗脳する位訳も無い。

  今までは"必要が無いから"やらなかったが、戦闘経験の豊富なジャスティスツインズを素体として改造すれば、並みの合成怪人なぞ遥かに凌駕する最高の怪人を作り出せるはず!

  というわけで葛城由美くん、今から君には……改造手術で身も心もダアクーの怪人になってもらおうかのう!!!!!!」

  「……は?

  私を、怪人に……???」

  人間を怪人に改造する…。

  あまりに荒唐無稽な話だが、ダアクーの技術とプロフェッサーアークの知能を考えるとデタラメを言っているわけではないのだと由美にも理解出来てしまう。

  「そっ…、そんなのお断りよ!

  化け物になってあなた達の味方になる位なら死んだ方がマシだわ!!!」

  由美は自分が洗脳されて人類の…、そして一樹の敵になるという最悪のシナリオを回避するためにも、舌を噛み切って自ら命を絶とうとする。

  しかし、プロフェッサーはそれを見計らったように由美の口に麻酔ガスが流れる酸素マスクを押し当てた。

  「むぐっ…!?」

  「フフフ、させんよ自殺なぞ。

  このガスで眠ったが最後、次に目覚めた時は改造手術を終え、心身ともに立派なダアクー怪人として生まれ変わっておる!」

  麻酔ガスによって顎に力が入らなくなり、由美の意識は朦朧とし始める。

  「くっ……。

  たとえあなたが私の身体を弄ろうと…。

  私はあなた達ダアクーなんかに…屈しない……!

  怪人になったって……!

  正義の…心は…!

  保って…みせ……る……!!!」

  「威勢のいい事よ!

  果たして本当に自慢の正義の心でワシの洗脳をはねのけられるのか、見ものじゃなぁ!!!

  ハッハッハッハッハ!!!」

  視界がぼやけ、由美はどんどん暗闇に落ちていく。

  意識が途切れる寸前、由美は頭の中で

  (カズくん…。

  私、絶対洗脳なんかに負けないから……!

  身体は…ひょっとしたら醜い化け物になっちゃうかもしれないけど……。

  それでも絶対……心は保って見せるから……!

  だから…。

  もし私が……この窮地を乗り越えられたら……。

  今度こそ……キスしてくれたら……うれしい……な……)

  そう、最後の瞬間まで一樹への愛を吐露し続けた。

  「ゲキョゲキョゲキョ~!!!

  怪人カメムシ女、改造完了いたしました!!!!!!

  ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!!!!」

  奇声を上げながら、がに股で両腕の肘を上向きに直角に曲げるダアクー式の敬礼を披露する一体の怪人。

  そう、彼女こそ数時間前まで葛城由美と呼ばれていた人間の成れの果てである。

  くびれや乳房等の女性らしい身体のラインは保ちつつも、全身は緑色の外骨格で覆われており、背中には五角形の羽根が伸びる。

  両手の爪はどんなものでも切り裂けそうな程鋭く、両足は指が全て一体化してかかとはハイヒールのように伸びる等まるで靴のような外観だ。

  頭部も煩わしい髪の毛等という物は全て抜け落ちて緑色の外骨格に包まれており、目は黄色い複眼に、口はストローのように細長い口器になっている。

  額からは細長い一対の触覚が伸びて、その外見は正に人間とカメムシを合成したカメムシ怪人である。

  「ギャハハハハ!!!

  あれ程"正義の心は屈しない"等と言っておきながら、ワシの脳改造によってあっさり洗脳されておるではないか!

  これは傑作じゃわい!!!」

  身体の改造だけでなく脳改造も完璧にこなす事が出来、無様にダアクー怪人に身を堕とした元シルバジャスティスの哀れな姿にプロフェッサーは笑いが止まらない。

  「あぁん、おやめくださいプロフェッサーアーク様。

  それは改造手術を受ける以前のアタシがほざいていた愚かな戯言です。

  今のアタシは秘密結社ダアクーのカメムシ女、ダアクーに全ての忠誠を誓いますわ!

  ゲキョゲキョゲキョ~!!!」

  下品にがに股敬礼を見せるカメムシ女の姿に、最早正義のためにシルバジャスティスとして戦った葛城由美の面影はどこにも見当たらない。

  脳改造によって葛城由美は死に、最早ここにいるのはダアクーに忠誠を誓う悪の怪人・カメムシ女なのだ。

  「フフフ、それもそうじゃな。

  しかし、初めての改造手術でまさかここまで完璧な仕上がりに出来るとは…流石ワシじゃ……!

  してカメムシ女よ、お主はこの男をどう思うかね?」

  そう言ってプロフェッサーは、ゴルドジャスティスの写真をカメムシ女に見せる。

  するとカメムシ女は見るからに不機嫌そうな表情になり…。

  「ゴルドジャスティス、相川一樹…。

  偉大なる我らダアクーに楯突き人間を守ろうとする、愚かな人間だわ。

  以前のアタシはこんなクズ男とコンビを組んでダアクーに歯向かい、あまつさえ恋人同士だった等と…。

  思い出すだけで虫唾が走るッ!!!!!!」

  意識を失う直前、あれ程までに愛を吐露していた一樹に対して、心の底からの嫌悪を見せるカメムシ女。

  脳改造によって由美が持っていた彼への恋愛感情は完全に消去され、むしろダアクーに反逆する愚か者としてひたすら忌み嫌うようになってしまっている。

  「その通りじゃカメムシ女。

  彼奴は我らダアクーにとって目障りな存在…。

  しかし、じゃからこそかつてゴルドジャスティスと恋人関係だったお主の存在が切り札となる!!!」

  プロフェッサーに言われ、カメムシ女は一転して嬉しそうに笑みを浮かべる。

  「アタシにお任せください!

  あの男ならきっと、元は恋人だったアタシの変わり果てた姿を前にすれば絶望で打ちひしがれるはず。

  その隙にトドメを刺せば…ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!!!!」

  そう言ってカメムシ女はプロフェッサーが持つゴルドジャスティスの写真を受け取ると、それを躊躇なくビリビリに破り捨てた。

  そんなカメムシ女の姿に、プロフェッサーはご満悦。

  「素晴らしい!

  期待通り、お主がいればジャスティスツインズの壊滅等もはや目前!!!

  我々の世界征服も達成したも同然というわけじゃ!

  ナーッハッハッハ!!!!!!」

  我らのヒーロー・ジャスティスツインズに、最大の危機が訪れようとしていた……!

  [newpage]

  「クソッ……。

  俺は、正しい事をしたはずなんだ。

  由美も、俺にそうするよう背中を押してくれた。

  なのに、どうしてもモヤモヤが晴れない……。

  あの時俺は…由美を見捨てたも同然じゃないか……!!!」

  あの戦闘員大量発生事件から一日。

  由美に言われた通りに戦闘員に襲われる少女を救出した一樹だったが、やはり由美を助けられずにダアクーに連れて行かれてしまった事に負い目を感じ、本部にも戻らず公園のベンチで一人腐っていた。

  「本当なら、あの女の子をすぐに助けて、由美も救わなくちゃいけなかったんだ。

  なのに俺は力不足で……。

  自分の恋人すら守れなくて何が正義のヒーローだよ…。

  俺は…ヒーロー失格だ……!!!」

  「フフフフフ…、随分と落ち込んでいるようだなゴルドジャスティス。

  いや、相川一樹!!!」

  その声に反応して顔を上げると、一樹の目の前にあの憎きプロフェッサーアークがニタニタと笑みを浮かべているではないか。

  「プロフェッサーアーク…!

  今すぐに由美を返せッ!!!!!!」

  鬼の形相でプロフェッサーを睨みつける一樹。

  「まぁ待て、落ち着け!

  今日は貴様に、ワシの開発した新たなる最高傑作を紹介しようと思ってな」

  「黙れッ!!!!!!

  問答無用!!!!!!!!!

  着装!!!」

  ジャスティスリングを操作し、一樹は即座にゴルドジャスティスに変身する。

  そのままの勢いでプロフェッサーアークの顔面にパンチをお見舞いしようとした、その時……!

  「ムッ…、グッ、あぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?」

  突如、一樹の鼻孔を襲うとてつもない悪臭。

  これまでの人生で最も嫌悪感を感じさせる臭いによって力が入らなくなり、思わずマスク越しに鼻を両手で押さえてしまう。

  スーツのフルフェイスマスクを被っていてもこの臭いなのだから、生身で嗅いだらただでは済まないのではなかろうか。

  「なん、だ…!?

  この、鼻をつんざく臭さは!?!?!?」

  「ゲキョゲキョゲキョ~!!!

  アタシの分泌液から放たれるキョーレツな臭いはいかがかしら、ゴルドジャスティス???」

  そう言いながらプロフェッサーの背後から現れたのは、カメムシの意匠を持った女性の怪人だった。

  「っ…!

  プロフェッサーの野郎、また下らない怪人作りやがったな…!?

  こんな悪臭を放つ奴が最高傑作なんて笑わせられるぜ!!!」

  …だが、一樹は同時に、目の前に現れたカメムシ女の姿と声に、どこか言い表しようのない"違和感"を感じてもいた。

  (…何だ、この怪人。

  何故だかわからないけど…妙に引っかかるぞ)

  「彼女の名はカメムシ女。

  ワシがこれまでの怪人とは全く異なる方法で生み出した自信作じゃよ!」

  いつのまにやらガスマスクを装着しているプロフェッサー。

  カメムシ女の臭いを嗅がないようにするためだろう。

  「ゲキョゲキョゲキョ~!!!

  ゴルドジャスティス…、あなただけは許せないわ!

  このアタシの手で直接始末してア・ゲ・ル!

  ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!!!!」

  がに股で下品な奇声を上げるカメムシ女。

  両手で自分の胸からぶら下がる豊満な乳房を揉みしだくと、脇の下にある臭腺開口部から分泌液が発射され、さらに臭いがキツくなる。

  「あっはァ~…♡

  アタシのくっさい臭い最高~!!!

  もっともっと臭くしてやるわ~ん!!!

  ゲキョゲキョゲキョ~!!!」

  そう言って、カメムシ女は楽しそうに胸を揉んで分泌液を出し続ける。

  「や、ヤバい…!

  これ以上臭いが強くなったらマジで意識が飛ぶかもしれない…。

  そうなる前にあの怪人を…倒す!!!」

  一樹…いや、ゴルドジャスティスは悪臭を吸い込まないように息を止めて気合いを入れると、一気に駆け出してカメムシ女と間合いを詰めていく。

  そして彼女のみぞおちに勢いよく蹴りを入れようとした、その時だった。

  彼女の左腕に"見覚えのある物体"が装着されている事に気が付いたのは。

  「…は?」

  ピクッ。

  「隙ありィ!!!」

  硬直した一瞬の隙を突き、カメムシ女はゴルドジャスティスに回し蹴りを喰らわせた。

  「ゴハァッ!?」

  勢いよく後ろに吹っ飛ぶゴルドジャスティス。

  しかし、そのダメージが全く気にならない程、彼は今しがた目に入った"あの物体"の事で頭がいっぱいだった。

  「……おい。

  何で…お前が……着けてるんだよ……。

  由美の……ジャスティスリングをっ……!!!!!!」

  そう、ゴルドジャスティスが目にしたのは、カメムシ女の左腕に巻かれていた由美のジャスティスリングであった。

  「何で、って…のう?

  さっきワシが言うたじゃろうが、カメムシ女はこれまでの怪人とは全く異なる方法で生み出したと。

  もう薄々、お主も察して来ておるんじゃないか???」

  「何を…言って……、ッ!?」

  …ゴルドジャスティスは、一樹は、プロフェッサーの言葉によって一つの"可能性"を考えてしまった。

  だが、その"可能性"はあまりにも信じ難い、いや、信じ"たくない"、あまりに残酷な可能性だ。

  しかし、状況証拠を整理していくと、どんなに嫌でもその可能性を考えざるを得なくなるわけで……。

  「フフ…カメムシ女よ、そろそろ種明かしをしてやりなさい」

  「ゲキョゲキョゲキョ~!!!

  かしこまりました、プロフェッサーアーク様!

  よくお聞きなさい、ゴルドジャスティス。

  アタシは秘密結社ダアクーに忠誠を誓う怪人・カメムシ女!

  これまでダアクーが製造してきた合成怪人と異なり、人間を素体に改造手術でカメムシの遺伝子を注入されて生まれた新たなる怪人なのよ!

  ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!」

  「にん、げん……?」

  その言葉で、一樹の抱く"可能性"は"確信"へ変わる。

  「そして…。

  アタシの素体になった人間こそ……!

  貴様の恋人・シルバジャスティスこと葛城由美なんだよォ~!!!

  ゲ~キョゲキョゲキョ~ッ!!!!!!」

  「……あ。

  あぁぁぁッ……!!!!!!

  あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァっっっっっっ……!!!!!!!!!!!!」

  ゴルドジャスティスは、その場に崩れ落ちる。

  薄々、察してはいたのだ。

  下品な喋り方故聞こえ方は異なるが、それでも何度も何度も耳にしてきた、想い人に酷似した声。

  外見こそ醜悪なカメムシの意匠だが、身体その物はあまりにも由美と一致していたシルエット。

  そして、由美が持っていた筈なのにカメムシ女が左腕に巻いているジャスティスリング……。

  それらすべてが、目の前に立つ醜いカメムシの化け物が恋人である由美の成れの果てであると一樹に嫌でもわからせてしまったのである。

  「ゲキョゲキョゲキョ~!

  良いわぁ、その絶望に満ちた反応!!!

  それが見たくて、アタシは会いたくも無いあんたにもう一度会いに来たんですものォ!!!!!!

  ゲ~キョゲキョゲキョォォォ!!!」

  「アーッハッハッハッハ!!!

  カメムシ女の言う通り、素晴らしいショーじゃよゴルドジャスティス!!!!!!

  どうじゃ?

  愛する彼女に正義を全うするように言われて、それに従った結果がこれじゃよ!

  お主は正義の味方として見知らぬ人間を助ける事を優先した、そのせいで愛する彼女はワシの手で身も心も立派なダアクー怪人に生まれ変わってしもうた!!!

  こんなに笑えるコントはどこの劇場へ行っても見れんわい!

  ギャハハハハ!!!!!!!!!」

  カメムシ女もプロフェッサーアークも、うちひしがれるゴルドジャスティスの姿を大声で嘲笑う。

  「うふふ、せっかくだから追い打ちをかけてあげましょうか♪

  プロフェッサーアーク様の素晴らしい脳改造によってダアクーの偉大さを知ったアタシは、秘密結社ダアクーに全ての忠誠を誓ったの。

  以前のアタシが信じていた正義も、愛も、今となっては何もかも下らないわぁ。

  当然…相川一樹、あなたへの恋心もね。

  あなたのような馬鹿で間抜けな男のどこが好きだったのか、今のアタシにはこれっぽっちも理解出来ないわ。

  あんたと付き合ってた事実なんて反吐が出る。

  今すぐアタシのかぎ爪で八つ裂きにしてやりたい位、あんたの事が生理的に無理になっちゃった~!

  ごめんね~?

  "カ・ズ・く・ん"???

  ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!!!!!!!!!!」

  トドメの一撃と言わんばかりの毒を吐くカメムシ女。

  「そん…な……」

  ゴルドジャスティス…一樹の心は、今にも砕け散りそうな程ボロボロだ。

  優しくて清楚で、強い正義の心を持った、一樹の愛した葛城由美はもうこの世にいない。

  残っているのは、下品で悪辣なダアクーの怪人・カメムシ女だけであると、嫌でも理解させられた。

  「さぁ、今じゃカメムシ女!

  精神の壊れたゴルドジャスティスにトドメを刺し、お主の反吐が出るほど思い出したくない彼奴と"恋人同士だったという事実"を己の手で消し去るのじゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

  「ゲキョゲキョゲキョ~!!!

  勿論そのつもりですわ!

  ゴルドジャスティス、相川一樹……。

  死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!」

  カメムシ女は背中に伸びる五角形の羽根を動かして宙に浮かび、物凄いスピードでうなだれるゴルドジャスティスに突進する。

  両手の指から生えた鋭い爪で、宣言通り八つ裂きにするのだ。

  危うし、ゴルドジャスティス…!!!

  「……本当に、そうか???」

  ポツリ、と独り言のようにそう呟くゴルドジャスティス。

  地面に着いていた両手を浮かし、ゴルドジャスティスはその場に立ち上がる。

  そして、あろうことか自身のジャスティスリングを操作して変身を解除…一樹の姿に戻ってしまった!

  当然、鼻腔を通じてカメムシ女の発する異臭が直に入り込んでくるが、一樹は根性で我慢する。

  「フハハハハ!

  絶望のあまりヤケクソになったか!!!」

  一樹の愚行に爆笑するプロフェッサー。

  しかし、一樹は決してヤケクソになったわけでも、カメムシ女に八つ裂きにされる運命を受け入れたわけでも無かった。

  「君は…どんな人にも優しくて、思いやりがあって。

  でも、自分が信じた事は貫き通す確かな芯の強さがあった。

  俺は君のそんなところに惹かれて、好きになったんだ。

  だから俺は信じない。

  君が心の底までプロフェッサーアークに洗脳されてしまっただなんて。

  俺は…君がちょっと頭を弄られた位で悪に堕ちるタマじゃない事を知っている!!!

  君の正義も、愛も、心の中から消えてなんかいない!!!!!!」

  「ゲキョゲキョゲキョ…、そんな戯言でアタシの洗脳が解けるとでも…?」

  「今は脳改造の影響でちょっと操られているだけさ。

  だから……!!!」

  ついに一樹の目の前に達したカメムシ女。

  すぐさま右手を振り下ろして一樹を八つ裂きに…。

  しようとした、その時だった。

  「俺が、君の…!

  由美の全てを、思い出させてみせるッ!!!!!!」

  ムチュッ…!

  「なっ…、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?」

  思わず驚愕するプロフェッサー。

  何と一樹は、自身に向かって猛スピードで飛んできたカメムシ女をそっと抱き寄せ、その細長い口器に口付けしたのである!

  予想外の行動に、カメムシ女の右手は止まってしまう。

  (コイツ…高貴なアタシの唇を奪うなんて……!?

  しかもよりによって虫唾が走る程嫌いな相川一樹とキスさせられるとか最あk……)

  その瞬間、カメムシ女の脳裏に葛城由美としての記憶がフラッシュバックする。

  一樹との出会い、生まれる絆、育まれる恋愛感情、幸せな交際生活。

  そして。

  『もし私が……この窮地を乗り越えられたら……。

  今度こそ……キスしてくれたら……うれしい……な……』

  昨日お預けになっていた一樹とのキスがやっと出来た事への幸福感。

  (あ……れ……。

  何でアタシ、一樹の事殺そうとしてたんだっけ。

  アタシ、こんなに一樹の事…、カズくんの事、好きだったのに……)

  一樹が唇を離すと、カメムシ女は羽根を止めてその場に着地する。

  そして、突如として口から奇怪な声を漏らし始めた。

  「ゲッ…、キョ!?

  ゲキョゲキョゲキョゲゲゲゲゲゲガガガガガガガガガgggggggggggggggggggggッ!?!?!?」

  頭を押さえ、苦しみ始めるカメムシ女。

  「おっ…おい!

  どうしたカメムシ女!

  しっかりしろ!!!」

  プロフェッサーは慌てて声をかけるが、カメムシ女には聞こえていないらしい。

  「あっぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃるルルルルルルルルルrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!?

  ゲッ!

  ガガガッ!!!

  ザーザー!!!!!!

  きゅううううううううううううううううううううう!?!?!?!?!?!?」

  まるで壊れたコンピューターのように雑音を発し続けるカメムシ女。

  そんな彼女の様子を、一樹はジッと見つめていた。

  「あがっ…、ががが、が。

  アッ…アタシアタシアタシアタシアタシアタシわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたし……。

  わたし、は……」

  そこまで言うと、カメムシ女はまるで全身から力が抜けたように前に倒れてしまう。

  「由美っ!」

  一樹は咄嗟に彼女を受け止め、倒れるのを防いだ。

  「由美!

  しっかりしろ、由美っ!!!」

  何度も声をかける一樹。

  すると……。

  「……あり、がと。

  カズ、くん……」

  「っ…!

  由美!?

  由美なんだよな!?!?!?」

  「う…ん……。

  私は…葛城…由美……。

  カズくんの……恋人だよっ……!」

  「由美ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

  歓喜の声を上げながら、カメムシ女をギュッと抱きしめる一樹。

  正に奇跡である。

  何と一樹の言葉と口付けによって、カメムシ女としての人格ではなく、葛城由美としての自我を取り戻す事に成功したのだ。

  「ばっ……、馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?!?!?!?」

  「由美っ…良かった……ほんとに……!

  戻ってきてくれたんだなっ……!!!」

  「うん……。

  でも…私……こんな化け物になっちゃった……。

  ごめんね…カズくん……。

  こんな身体じゃ…もう…カズくんの恋人になる資格…無いよね……。

  ゲキョゲキョゲキョ……」

  由美の言う通り、戻ったのは由美の人格だけで、改造されたカメムシ女としての肉体は依然としてそのままである。

  脇の下の臭腺開口部からは、未だにかなりドギツい臭いが漂い続けている。

  "ゲキョゲキョ"という奇声のような鳴き声も、由美の意思とは関係なく勝手に口から出てしまうようだ。

  「何言ってんだよ…!

  どんな身体だろうと関係ない、由美は由美だ!

  何なら、もう一回キスしようか?」

  チュッ。

  一樹はすかさず、由美の口器に躊躇の無いキスを行う。

  「っ…!

  うれ…しい……!

  ありがとう…カズくん……!!!

  私…カメムシ女になっても…カズくんの彼女でい続けて良いんだ……!!!

  ゲキョゲキョゲキョ~……!!!!!!」

  安堵した笑顔を浮かべながら、由美の黄色い複眼からは一滴の涙が零れ落ちた。

  …と、二人が感動の再会を果たしている中、それを遠巻きに見ているプロフェッサーアークは逆にとてつもない絶望感を味わっていた。

  「そっ…、そんなはずは……!?

  ワシが施した"葛城由美の人格をカメムシ女としての人格で書き換える"脳改造は完璧だったはずじゃ!

  それともやはり…、人格を持たない人造生命体に一から作った人格を与えるのと元からある人格を別の物に書き換えるのでは勝手が違うというわけか…!?

  クッ…!

  改造完了直後はあれ程あっさり洗脳出来たと喜んでおったのに…!

  …そうか。

  "あっさりかかった洗脳は、何かの拍子であっさり解けてしまう"というわけか…チクショウめッ……!!!」

  実は今回の作戦、何分初めての試みが多かったために、通常の合成怪人を作る際よりも多くの予算が投じられている。

  だというのにこの体たらくでは、金にがめついダアクー首領の逆鱗に触れるのは間違いないだろう。

  「あぁぁぁっ…!

  まずい、このままでは予算の無駄遣いとして、偉大なるダアクー首領にどやされてしまう…!

  せっかく"あのにっくきジャスティスツインズを壊滅させられる"等とキャッチコピーを付けてプレゼンしたと言うのに…!!!

  この作戦中にジャスティスツインズ壊滅どころか民間人一人すら殺せていないではないか…。

  わっ…、ワシゃ破滅じゃ~ッ!!!!!!」

  今後の自分の運命を察し、恐怖でガクブル状態のプロフェッサーアーク。

  イチャつく二人に背を向け、首領にする言い訳を考えながらそそくさとその場を離れるのであった…。

  その後、対ダアクー戦略本部に戻った二人は、本部の皆に由美に起こった出来事の経緯を話した。

  その異形の姿から受け入れてもらえないのではと心配していた由美だったが、事情を知った皆はカメムシ女になった由美を快く受け入れてくれた。

  残念ながら現在の本部の技術力では由美の肉体を完全な人間の物に戻す事は出来なかったが、総力を結集する事で、外見だけは以前の由美の姿に擬態出来る機能をジャスティスリングに搭載する事に成功。

  擬態機能を搭載した代わりにシルバジャスティスのバトルスーツを身に纏う機能はオミットせざるを得なかったが、由美曰くシルバジャスティスのスーツよりもカメムシ女になった肉体の方が性能が良いとの事で、シルバジャスティスはグリンジャスティスに改名、カメムシ女としての姿でヒーロー活動を行う事になった。

  (ちなみに、あの厄介な対ジャスティスツインズ用電気ネットは二人の証言を元に開発陣がジャスティスリングをアップデートし、二度と効かないようになった)

  一方、何とか言い訳をこなし一度は処分を免れたプロフェッサーアークだったが、カメムシ女がグリンジャスティスとして活動する事になったせいで結果的に"敵を強くしてしまった"事となり、ダアクー首領は大激怒。

  プロフェッサーアークは処刑され、怪人制作には別の科学者が登用される事となった。

  そして、改造手術により生み出す人間を素体とした怪人は、洗脳が解けやすいというデメリットがかけた予算と釣り合わないとして計画が永久凍結。

  二度と元人間の怪人が生み出される事は無かった。

  [newpage]

  「パオ~ン!!!

  この土地は我々ダアクーが占拠したでごわすよ~ッ!!!」

  「「「ヤミ~ッ!!!」」」

  プロフェッサーアークが処刑されてから幾ばくかの月日が流れたあくる日、作戦のために必要であるとして、ダアクーの合成怪人・ゾウ男が戦闘員と共にとある土地を占領していた。

  何人かの民間人は戦闘員に囚われており、いつ殺されてもおかしくない危険な状況だ。

  しかし、そんなゾウ男たちの前に、二人の男女が立ちふさがる。

  「そこまでだ、ダアクーの怪人ども!」

  「これ以上あなた達の好き勝手にはさせない…!」

  そう、相川一樹と葛城由美である。

  ジャスティスリングのスイッチを押し、二人は叫んだ。

  「「着装!!!」」

  まばゆい光に包まれ、次の瞬間には一樹はゴルドジャスティスに、由美はカメムシ女…改めグリンジャスティスの姿に変じていた。

  本来であれば由美が行ったのは"着装"ではなく"擬態解除"なのだが、公には『グリンジャスティスは新しいスーツを身に纏ったシルバジャスティスである』という事にしており、カメムシ女の外見も一見するとスーツを着た人間に見えなくもないため、擬態を解除する時は変身する一樹に合わせて『着装』と叫んでいた。

  「出たなジャスティスツインズめ~っ!

  戦闘員ども、かかれぇ!!!」

  ゾウ男の指示で、一斉に襲い掛かる戦闘員たち。

  ゴルドジャスティスがそれを捌いている隙に、グリンジャスティスが羽根を広げて飛び立ち、民間人を捕えている戦闘員を倒す。

  「ゲキョっ…!

  皆さん、ここは危険です!

  今のうちに逃げて下さい!!!」

  「ありがとう、ジャスティスツインズ!」

  「あなたは命の恩人です…!」

  民間人たちは思い思いにグリンジャスティスに感謝し、遠くへ避難する。

  「民間人は解放したよっ、これで思う存分やっちゃって!!!」

  グリンジャスティス…由美の正義感や他人への思いやりの心は相変わらず健在だ。

  「あぁ、助かったぜグリンジャスティス!

  オリャぁっ!!!」

  民間人を気にしなくて良くなったため、ゴルドジャスティスは本気を出して早々と戦闘員を片付けていった。

  グリンジャスティスも加勢し、次々と戦闘員を倒す。

  しかし、その戦い方は先程民間人を救出しようとしていた時とはどこか様子が違うようで…。

  「あっはぁ…♡

  戦闘員たちの骨を砕く音、体を破壊する感覚…気持ち良い……♪

  悪い奴をやっつけるのって、最っ高にエクスタシーだわぁ~っ!

  ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!」

  恍惚とした声色で、敵を倒す行為を心の底から楽しんでいる様子のグリンジャスティス。

  「あ…あのぉ~。

  一応俺達はヒーローだから、あんまり羽目を外し過ぎないように、なっ?」

  「あっ…、ごめんごめん。

  私の中のカメムシ女としての本能がつい表に出ちゃったみたい。

  気を付けなくちゃね…ゲキョゲキョゲキョ……」

  ゴルドジャスティスから諫められ、グリンジャスティスは少し気を落とす。

  …実は、プロフェッサーアークに施された由美の洗脳はあっさりと解けた一方で、その身体に刷り込まれたカメムシ女としての本能は、未だ由美の中に渦巻いているのである。

  先程のように敵を倒す事に快感を覚える他、くさややドリアン、シュールストレミング等、臭いのキツい食材を好んで食べるようになった等、随所にカメムシの怪人らしい特性が滲み出てしまっていた。

  由美本人はそうしたカメムシ女としての本能を恥ずかしがっているのだが、あくまでも由美としての自我がメインになっているため他人に迷惑はかかっておらず、一樹を始め周囲の人々はすっかり受け入れていた。

  (※先程のように、少し行き過ぎた攻撃を行っていた際などは注意しているが…)

  「ほう、少しは骨のある奴らのようでごわすな。

  よかろう、このおいどんと力比べと行こうではないか!

  パオ~ンッ!!!!!!」

  戦闘員をあらかた倒し終わったため、ゾウ男が直接二人の前に立ちはだかる。

  「行くぞ、グリンジャスティス!」

  「うんっ!」

  ゴルドジャスティスは徒手空拳で、グリンジャスティスは空を飛びながら爪で引っ掻いてダメージを与えようとするが、ゾウ男の分厚い皮膚に阻まれて中々決定打を与えられない。

  「パオ~ン!

  貴様ら、その程度でごわすかぁ!?」

  「クッ…、何て固い装甲なんだ!

  ただでさえ皮膚が固いのに、全身の筋肉でさらに防御力が上がってやがる…!」

  このままではゾウ男を倒しきれない、どうすれば…!?

  すると、グリンジャスティスがゴルドジャスティスにそっと耳打ちをする。

  「なっ…、良いのか!?

  だって君、あんなに気にして……」

  「ううん…、私の事は良いの。

  あいつを倒してこの土地を解放するには、恥ずかしがってる暇なんて無い。

  取れる手段は何でも使わなきゃ!

  むしろそっちこそ、逆にダウンしちゃわないように気を付けてね…!

  出来る限り制御してみるけど、本能に呑まれたらどうなっちゃうか……」

  「わかった…こっちは大丈夫だから思いっきりお見舞いしてやれ!」

  作戦会議を終えたゴルドジャスティスは、再びゾウ男に向かって飛びかかった。

  「フッ、何度来ようと同じでごわす!

  おいどんの剛腕で叩き潰して……」

  すると、その時だった。

  「……モガぁっ!?!?!?

  あっ、ゴあァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!」

  突如、ゾウ男の鼻に届くこの世の物とは思えぬ臭い。

  「ゲキョゲキョゲキョ~ッ!

  私の分泌液が繰り出すキョーレツなカメムシ臭はどうかしら~ん???」

  グリンジャスティスはゴルドジャスティスの背後でがに股になりながら自身の乳房を触って身体を刺激し、脇の下にある臭腺開口部から分泌液をどんどん射出していた。

  「やっ…、やめろォォォォォォォォォっ!

  おいどんの優れた嗅覚にそんな悪臭を嗅がされたらッ…!?

  うごォォォォォォォォォ!?!?!?」

  ゾウ男の長い鼻は敏感で、非常に優れた嗅覚を持っている。

  そんな敏感な鼻にカメムシ女の放つ激クサ臭を嗅がされれば、当然耐えられるはずもなく…。

  「おらァッ!!!」

  バシッ!

  「グボォっ!?」

  悪臭によって硬直を維持出来なくなったゾウ男の筋肉が緩み、ゴルドジャスティスの攻撃が通るようになったのである。

  「さぁ、ここからはこっちの番だ!!!」

  目にも止まらぬ速さで、次々とゾウ男に的確な打撃を与えていくゴルドジャスティス。

  ゾウ男の体力はどんどん削られていった。

  「おあっ!?

  パオッ!?

  …ッ!?

  このままじゃおいどんッ!?

  負けっ……ゴふっ!?

  やめるでごわすカメムシ女ぁ!

  今すぐその反吐が出そうな臭いを止めろォォォォォォ!?」

  しかし、グリンジャスティスはゾウ男の言葉に聞く耳を持たない。

  「アッハ~ン♪

  私のくっせぇ臭い最高~♪

  ほんとは恥ずかしいけどやめられな~い♡

  もっともっと臭い匂い出したいわァ~ん!!!

  ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!!!!」

  カメムシ女としての本能で、グリンジャスティスはすっかり自分の出す臭いの虜になっている。

  そんな彼女の出す激クサ臭を、ゴルドジャスティスは何とか気合で耐え、一方でゾウ男は耐えきれず意識を失いかけていた。

  「これで終わりだァァァァァァァァァッ!!!」

  ドカッ…!

  ゾウ男のみぞおちに、ゴルドジャスティスの正義の鉄槌が炸裂する。

  「ギエぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?!?!?

  ダアクーに…栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!

  パオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォん!!!!!!!!!!!!」

  そう断末魔を残し、ゾウ男は爆発四散。

  肉体は合成された人工筋肉であるためその場に溶けて無くなった。

  「ゲキョゲキョゲキョッ……、はっ!?

  やだ、私ったらまた…いやぁっ……」

  我に返ったグリンジャスティスは、咄嗟に胸を揉むのをやめて分泌液を止めた。

  「…ごめんなさいカズくん。

  私また本能に呑まれて必要以上に臭い分泌液を出しちゃった…。

  きっと相当頑張って私の臭いを我慢してくれてたよね……ほんとにごめん……」

  すると、変身を解除した一樹は笑顔でグリンジャスティスの肩に手を置いた。

  「何言ってんだよ、由美のおかげでこの強敵を倒せたんだ。

  謝る必要なんて無いし、むしろ俺が感謝してるよ。

  本当は恥ずかしくて嫌がってる臭いの分泌を、自ら率先してやろうと提案してくれたんだ。

  中々出来る事じゃない、由美の強い正義感あってこそだよ!

  それに、何度も嗅いでるうちにもう慣れて来たから臭いの心配はしなくてもへーきだぜ!」

  一樹の労いの言葉に、グリンジャスティス…由美の心は一気に晴れ渡る。

  「ゲキョゲキョゲキョっ…!

  カズくんにそう言ってもらえて、私も嬉しいよっ!

  …そうだ、カズくんに迷惑かけちゃったお詫びに」

  そう言って、由美は軽く胸を揉み始める。

  脇下の臭腺開口部から僅かな分泌液が発射されるが、先ほどの悪臭とは違ってキツい臭いではない。

  「ん…?

  何だか身体が熱くなってきたような……?

  それに胸がドキドキして……」

  臭いを嗅いだ一樹の身体が火照り始め、心臓の鼓動も激しくなる。

  「なんか…急に由美とイチャイチャしたくなってきた……。

  由美、これは一体…!?」

  「うふふ、実はね。

  最近私のカメムシ女としての身体の事について本部の研究者の人達と一緒に調べてみたら、低濃度の臭いを出すとフェロモンとして利用出来る事がわかったの!

  本物のカメムシは低濃度の臭いを集合フェロモンに使ってるみたいなんだけど、私の低濃度分泌液から出るフェロモンは恋愛フェロモンの効果があるみたいで…。

  だからね、このフェロモンを上手く使ったら、いつも以上にカズくんと楽しい時間を過ごせるんじゃないか、って…!

  どう?興奮してきたでしょ?」

  「なっ…、通りで胸の高鳴りが収まらないわけだ。

  確かにこれなら、由美と今まで以上に濃密な時間を過ごせそうな気がしてくる…。

  ……けど、ここはさっき避難させた人達の持ってる土地だぜ?

  早くこの土地をあの人達に返して、続きは本部に帰ってから……」

  そう言いかけた一樹を、由美は強引に押し倒した。

  「どわぁぁぁっ!?」

  「あらぁ、良いじゃない♪

  あの人たちに返す前に一度本部の調査員の人達がダアクーに何か弄られてないか土地調査をしなくちゃだし、その調査員の皆さんがここに着くまでにもまだまだ時間がかかるもの。

  私達はあのゾウの怪人を倒して土地を取り返したんだし、ちょっとの間位好きに使わせてもらっても罰は当たらないと思うな♪」

  「け、けどよぉ……」

  「……もう、あの遊園地の時みたいにカズくんとのお楽しみの時間をお預けにしたくないの。

  もちろん、もし今また別のダアクー怪人が現れたりしたら別だけどね?

  でも少なくとも今この瞬間は好きに過ごして良いみたいだし、カズくんとイチャつける時間のためならこうしてカメムシ女としての力だって何だって使っちゃうんだから♡」

  「ハハッ…、そっかぁ。

  由美は相変わらず優しくて、芯の強さがあって、でもほんの少しだけ…怪人らしくもなったんだな」

  「うん…。

  洗脳が解けた時、カメムシ女としての"アタシ"の悪い人格もちょっとだけ混ざっちゃったみたい。

  どう?

  こんな私の事も…愛してくれる?」

  「もちろん」

  チュッ。

  由美の口器にキスする一樹。

  「嬉しい…!

  じゃあ調査員の人が来るまで、カズくんの事離さないんだから♪

  今この瞬間だけは正義のヒーローじゃなくて、悪の怪人として、全身全霊カズくんの事をかわいがっちゃうわ♡

  ゲキョゲキョゲキョ~ッ!!!!!!」

  こうして、本部の調査員が到着するまでの間、二人は何度も何度もお互いの愛を確かめ合い続けたのであった。

  金色の戦士・ゴルドジャスティスと、元シルバジャスティスにしてカメムシの女怪人・グリンジャスティス。

  異色のカップルヒーロー・ジャスティスツインズの奇妙な戦いは、まだまだ続く。