夜、公園のベンチに座りぼんやりと月を眺めていた。
そろそろ君が来る頃だろう。
「おはよう。」
「もうすぐ0時だぞ。いつも思うけど、その挨拶は違くないか?」
「だって、僕らにとっては今が朝みたいなものじゃない?」
君はいつもこんな調子だ。
「そりゃ、夜行性かもしれないけどさ。」
こんな感じでいつもと同じような他愛もない話をするだけの時間。
今公園にいるのは、狼獣人の俺と蝙蝠獣人の君だけだ。
「何か最近面白いことあった?」
「面白いこと?そういえば、バイト先の店長が子供に足踏まれてめっちゃ変な声あげてたなぁ。」
「どんな感じ?」
「ンガァァ!?って感じの声。店長声デカいから、店中に響いて笑っちゃったよね。」
「へぇ~。今ってお客さん多いの?」
「まぁお盆だからね、居酒屋は稼ぎ時だよ。」
フリーターの俺は居酒屋のバイトで生計を立てている。夜型で大した学歴でもない獣人ができる仕事は限られてくるのだ。
「そっちこそどうなんだ?最近は?」
「大学生って言っても通信制の大学だし、ほとんど家から出ないし特に変わりないかなぁ。」
「大学の勉強って難しくないのか?」
「難しい言葉とか概念は沢山あるけど、高校までと違って興味のある分野の勉強だから頑張れる感じかな。」
「そっか。」
いわゆる引きこもりだった君は一念発起して、去年から通信制大学に入学し、勉学に励んでいるとの話だった。俺からしてみれば、努力して自分を成長させようとする君はすごい奴だ。
その後、しばしの沈黙。
「ねぇさぁ。」
「? どうした?」
「何か夢ってある?」
「夢?いきなりどうした?」
「僕はさ、元々引きこもりではあったけど社会の役に立てるようになりたいと思ってこのままじゃまずいと思ったから、夜でも学位が取れる通信制大学に入った。でも夜型で、獣人で、いわゆる日中活動するフツーの人間にはどうやったってなれないじゃない?」
獣人というだけで、いわゆる人間とは違い明らかに地位が低い世の中であることは確かだ。そして、夜型であればなおさらなことは俺自身が身に染みてわかっている。
「僕は怖いよ。フツーの人間が日の光の中で勉強や仕事をして自分の夢に向かって頑張っているんだよ?」
「そうだな。」
「僕はなれない。そんな自分が夢を持つことに何か意味あるのかなって思うことがあるんだよね。」
俯き少し苦しそうに話す君。
「う~ん、俺はあんまり真剣に考えたことないし、別に夢って程のものはないけど……。」
自分も同じような境遇なはずなのに何となく過ごしていた自分にとって、君の問題はあまりにも答えづらいものだった。
どう返してあげるべきかと悩んで、ふと上を見上げる。
「あっ。ほら、上見てみなよ。」
俺は空を指さす。
「?」
君が見上げた先には、十三夜の月が浮かぶ夜空が見える。
「日の光はないけど、夜には月の光はあるだろ。夜型なのも獣人なのも変えられるわけじゃないけど、だからといって光がない訳じゃない。夢を持って頑張ることはきっとお月様が見てくれるだろ。」
何とも、それらしくまとめてみたが少し臭いセリフだっただろうか?
君はあっけにとられたような顔でいた、すぐに返答を返してくれた。
「ありがとう。」
「いいってことよ、友達だろ?」
「そうだね。ところで、眼鏡変えたの?前の方が似合ってたと思うけど。」
「変えたけど、このタイミングで前の方が良いとか言っちゃう!?」
こうしていつもの他愛のない時間を過ごす。
今を生きる獣達の姿を今宵の月だけが見守っていた。