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灰狼「こっ、これはあくまで強くなるため。仲間たちを守るためなんだ……!」

  [chapter:1]

  「……皆、揃っているな」

  〈[[rb:扉 > ゲート]]〉から最後の1人が無事転送されてきたのを確認すると、その灰毛の狼獣人は言葉少なながらも安堵の表情を見せた。年の頃は、人間に換算すれば20代前半だろうか。鍛え抜かれた逆三角形の身体つきをしており、太腿の筋肉も膝丈のズボンをパンパンに膨らませている。防具は籠手に胸当て、それに脛当てくらいで比較的軽装だったが、マントを羽織った肩には大ぶりな両刃斧を軽々と担いでいた。名をクラストと言う。

  ――しかしそんな風に余力を残しているのは彼独りで、3人の仲間たちは疲労困憊。息も絶え絶えと言った有様で地べたにうずくまったり、大の字に寝転がって胸を上下させたりしている。

  この街の地下に広がる、恐怖と神秘の大〈迷宮〉。彼らもまた富や知識や名声や、魔物との闘い自体を求めてこの街を訪れた冒険者たちである。己の実力を過信してあたら若い命を散らす者、運良く生還しつつも心が折れて失意の[[rb:裡 > うち]]に街を去る者、はたまた当初の目的を捨て去ってこの街に根を下ろしそれなりに楽しく過ごす者も決して少なくない中、彼らは今なお真剣に踏破を目指している者たちの集まりだった。

  今のところ目立った手柄こそ立てられていないものの、地上の入口から地道かつ着実に歩みを進め、自力で「中層」まで辿り着いた結果、冒険者ギルドから正式に〈扉〉の利用を許可されるに至った。実力も知名度も中堅一歩手前と言った[[rb:塩梅 > あんばい]]で、もしもこの〈迷宮〉の完全踏破に成功する者がいるとすればそれは案外彼らのような存在ではないかと、周囲からは期待されているのだが――ここ最近は、思うように探索が[[rb:捗 > はかど]]っていなかった。「中層」とは言っても単なる便宜上の区分だし、偉大な先人たちの手になる地図もここまではまだ役に立つのだから……と正直甘く見ていたのだが、魔物の強さや罠の危険度は言うに及ばず〈迷宮〉自体の広さや複雑さ、更には環境の過酷さがいきなり跳ね上がったのだ。

  現に今回も〈扉〉への帰り道で厄介な魔物に通せん坊をされたため、かなり危ないところだった。仲間たちの消耗の色が濃くなってきた頃合いを見計らい、リーダー格のクラストが早期撤収を主張していなければ全滅こそ免れられても、何人か犠牲者を出してしまっていたかも知れない。

  ――その事実を再認識し、「今回は運が良かっただけ」と実感した仲間の1人はクラストに改めて礼を述べる。それから大の字になったまま天を仰いでしみじみと、

  「ジェラルドさんとか、現役の頃のハバクゥさんとか……。『深層』まで辿り着いた人たちって、本当にすげえんだなあ。オレ、ちょっと自信失くしちまったよ」

  「……そう落ち込むな。今回の反省点を活かしてしっかり準備を整えてゆけば、次はもっと深くまで潜れるさ。これまでだって、ずっとそうしてきただろう?」

  淡々とした口調ながらも、仲間を励ますクラスト。しかしその猪獣人の格闘家は不満げに豚っ鼻を鳴らし、

  「でもここんとこ、ずっとこんな調子だろ? 焦りは禁物だって分かっちゃいるけど、やっぱ不安になっちまうよ。オレたち、こんまま永遠に『中堅』どまりなのかなーとか。お前の足を引っ張っちまってんじゃねえのかなー、とか……」

  「突然、何を言い出すんだ。そんなわけないだろう」

  耳を疑い、言下に否定するクラスト。しかし残る2人も大なり小なり同じ不安を抱いていたようで、独りだけ明らかに余力を残しているリーダー格のことをじっと見つめてくる。

  ――まさか、遅かれ早かれ自分が彼らに見切りを付け、別のパーティに鞍替えするとでも疑っているのだろうか? 折角ここまで苦楽を共にしてきたのだ。仮にこの先新たなメンバーを迎えるようなことがあったとしても、その逆は有り得ない。誰1人欠けることなく〈迷宮〉の最深部に辿り着き、その達成感や栄誉を分かち合いたいと自分は心から願っているのに……。

  「あーあ。オレもテイマーに転職すっかなー」

  クラストに背を向けるようにゴロンと横に転がると、ぼやく猪。とあるシーフが「中層」で場違いに強大な魔物に遭遇したものの逆に手懐け、今や忠実なパートナーアニマルと化した相手を連れてサクサク探索を進めている事実を念頭に置いて言っているようだ。あれはあくまで例外中の例外で、真似しようと思ってもできるものではないと猪自身も理解してはいる筈だが、それだけ“手っ取り早く強くなれる手段”を欲しているのだろう。

  「……転職はさて措き、これ以上探索を進めるに先立って、全体的な戦力の底上げを図るべきだと言う意見には俺も賛成だ。幸い懐には余裕があることだしな」

  「とは言え、店売りの武器や防具の性能など高が知れておりますからね。これまでコツコツ中層の探索を進めてきた結果それなりに素材も集まってまいりましたが、それでも何とか1人分仕立てるに足りるか足りないか、と言ったところでしょう」

  山羊獣人の魔術師がメモ帳をめくり、記録を再確認しながら答える。「1人分」との言葉に仲間たちの視線が再び己に集まるのを感じるクラスト。彼らに比べて余力を多く残しているのは事実だが、それは今回のような不測の事態に備えてなるべく力を温存しているからと言うよりはむしろ、今の武器や防具では己の実力を思うように発揮できないからと言う理由の方が大きかった。そろそろ〈迷宮〉由来の素材をふんだんに用いた逸品をオーダーメイドしたいところだったが、パーティの戦力バランス的にも彼自身の心情的にも、仲間たちを差し置いて独りだけ装備を調えるわけには行かない。

  ――どうにも気詰まりな沈黙が、その場に重苦しく立ち込める。そんな雰囲気を払拭しようとする風に、パーティ最年少の鼠獣人が殊更に明るい声で、

  「――そっ、そう言えば! 例の裏通りは? おいらはまだ一度も行ったことないっすけど、色々珍しい品物が置いてあるんすよね?」

  「裏通り、か……」

  クラストが難しい顔をする。そこは昼間から薄暗く、どこかいかがわしい雰囲気を漂わせている地区。軒を並べているのも表通りに比べると如何にも「一見さんお断り」感の強い店ばかりで、実際〈迷宮〉由来の装備や消耗品の中でもとりわけ特殊な品々――俗に言う『魔道具』をいずれも専門に商っている。高い効果を発揮する分取り扱いが難しく、一歩間違えれば持ち主自身に仇をなしかねないため、表向きは禁止されているものも多いのだが……。

  「我々冒険者の間ではもはや[[rb:公然の秘密 > ・・・・・]]と化しておりますし、国やギルドも黙認及び放任の構えのようですからね。実際ハバクゥ翁の『魔力補充屋』など、中堅以上の魔術師たちで連日大賑わいだそうですし」

  「本気で深層を目指すなら否応なく裏通りの住人や品物の世話んなるし、現にジェラルドさんも常連だって聞いたぜ。そのおかげで、お弟子さんだってあんなに早く駆け出しを卒業できたんだろ?」

  「しかし、な……」

  「その手があったか」とばかりに顔を明るくする山羊と猪に対し、尚も難色を示すクラスト。彼が渋るのも無理はない。魔道具の種類によっては己の肉体に異物を挿入したり穴を開けたり、果てはスライムや触手と言った本来は危険な魔物を“生きたまま”利用したりするらしいと、まことしやかに噂されているのだ。ステータスシンボルとも呼べるきらびやかな甲冑を身に纏い、豪奢なマントを翻して憧れの的となっている高名な冒険者たちだが、その下にはおぞましい“真の姿”が隠されている。中にはいつの間にか手段と目的がすり替わり、肉体改造や魔物との共生自体に病み付きになってしまった者まで存在するのだと。

  ――猪も山羊もそうした噂自体は一応把握しているようだが、

  「けどまあ、所詮はただの無責任な噂っつうか、ジェラルドさんやハバクゥさんみてえな有名人に対する[[rb:やっかみ > ・・・・]]かも知んねえし?」

  「そうですよ。ひょっとするとその種の熟練者向けの魔道具も実在するのかも知れませんが、それなら逆に初心者向きのものだってある筈ですし」

  「そうそう、とりあえず話だけ聞いてみて、自分にはちょっと無理そうだと思ったら他のを探せばいいだけの話っすよ!」

  そこに鼠が便乗し、3人はすっかり行く気満々。そうは言っても、やはり自分はもう少し“真っ当”な手段で強くなりたいのだが……と悩むクラストだったが、

  「さっきはガラにもなく弱音を吐いちまったが、オレだって初志貫徹してえ。見事この〈迷宮〉を踏破して、全員で祝杯を挙げてえんだよ。そのためなら何だってやってやるさ。

  ――いいだろ? クラスト……」

  いつになく真剣な表情と口調で訴えてきた猪につい[[rb:絆 > ほだ]]されて、自らも同行を決めてしまう。ひとまず宿に荷物を置いて着替えや簡単な腹ごしらえを済ませた上で、全員で裏通りに向かうことになったのだが……。

  [newpage]

  [chapter:2]

  「――なるほど。それで“初心者向け”の品をお探し、と……」

  裏通りに到着すると、クラストは「一旦ここで解散。各自が自由に店を見て回る」方針を提案した。全員固まって動くより効率的だと言う単純な理由もあったが、噂が真実ならかなり際どい品も多い筈だから、いくら信頼している仲間&男同士とは言え他人の目が気になって、好きな店に入ったり品物を選んだりしにくいだろうと考えたのだ。

  それは誰よりもまずクラスト自身が気恥ずかしいからだったが、仲間たちも同じ気持ちだったのか、二つ返事で了承してくれた。集合場所と時間を定めた上で、予算を等分する。

  ――独りになるととりあえず、単に時間を潰しているだけのような顔をして通りをぶらぶら歩いてみるクラスト。しかしそんな素振りをしても住人には“一見さん”だとすぐに見抜かれてしまったのか、露天商の1人が声をかけてきたのだ。

  「これらも、魔道具の一種なのか……?」

  簡潔に事情を説明した上で、敷物に並べられたり木の台に吊るされたりしている品々をしげしげと眺めるクラスト。元々その手のお洒落に無頓着なこともあり、彼には表通りの店でもよく見かけるような、手作りの装飾品や小物と見分けがつかなかったのだが……。

  「仰る通り。主に肉体の突端部に装着することで、様々な恩恵をもたらすのです。手軽で比較的安価ですので、まずはこう言ったリングやカフ、ピアスからお試しになる方々が多いですよ。ご本人に合わせてカスタマイズもしやすいですし、複数個を組み合わせることで大型の魔道具に引けを取らない効果を発揮させることも可能ですしね」

  「突端部と言うと、指や耳。それに尻尾や鼻……か?」

  「後は乳首や性器ですね」

  「――――――は?」

  (さすがに鼻にピアス穴を開けるのは痛そうだし、俺の趣味にも合わんな)と悠長なことを考えていたクラストは呆気に取られる。何かの聞き間違いかと思ったが露天商は平然と、如何にもこの道のプロと言った顔で、

  「例えば、自己強化系の魔術を行使する場合。己の肉体と言うものを漠然と思い描くか、あるいは隅々に至るまで精確に思い描くかによってその効果には歴然たる違いが表れてまいります。1枚の布を頭からばさりとかぶるだけなのか、ぴったりフィットした衣服を身に纏うかの違い、とでも申しましょうか。後者の方が同じ量の魔力を消費しても、遥かに効率が良いのは申し上げるまでもございません。

  ――乳首や性器と言った普段はご自分の目からも隠され、戦闘中には意識にも上らないであろう“突端部”にこれらを装着することは、そうした『精確な身体イメージ』を脳内で素早く構築する一助になるのでございますよ」

  「……とは言え、俺は強化魔術には頼らず、己の〈気〉のみを練り上げて戦うスタイルだからな……」

  「ならば尚更、重要度が高いかと存じます。〈気〉を練る際、お客様も自然と臍下丹田に力を込めておいででしょう? ご存知の通り、ソコは“性”と密接不可分な関係に在る部位。ご自身の精力を〈気〉や魔力に変換して蓄えておく魔道具はごく一般的ですが、乳首を始めとする性感帯や性器そのものに取り付け、普段から性的エネルギーを高めておくための品物と併用するとより効率的なのでございますよ」

  「ごく一般的……なのか……?」

  平静を装いつつも、灰毛で覆われた頬に朱を散らしてしまうクラスト。初めて〈迷宮〉に潜った前夜に童貞は捨てたとは言え、基本的に堅物であれっきり娼館に足を運んだことはなく、従って性具の類いにもなじみが薄かったのだ。

  ――しかし露天商はそんなクラストのウブな反応も織り込み済みだったらしく、

  「お見受けしたところ、お客様がお求めになっているのは『なるべく肉体への負担が少ないもの』のご様子。でしたら、こんな品は如何でしょう?」

  そう言って売り物の中から選び出してきたのは、鎧の留め金にも似た形状の小型の金属製品×2。実際留め金と同様にバネで開閉する仕組みだが、歯には洗濯バサミのような滑り止めが付属している。てっきり耳にでも挟んで着けるのかと思いきや、

  「乳首用のクリップにございます」

  「ちち、乳首用……!?」

  「こう言った武骨な物から花や動物を象った物、果ては宝石をちりばめた豪奢な物等々デザイン性が高いですし、着脱やメンテナンスも簡便で初心者にはオススメの一品でございますよ。その分激しく身動きするとどうしても勝手に外れてしまいやすいのが難点と言えば難点ですが、バネの強度や滑り止めの形状を調節すればある程度は対策が可能です。

  ――まずはこちらからお試しになってみて、お気に召されましたら徐々にステップアップを図ってゆく、と言うのは如何でしょう……?」

  「う、うむ……」

  さすがに長年この商売をしてきているだけあって立て板に水を流すような相手の売り文句、そして物柔らかながらも有無を言わせないような語り口にすっかり呑まれたクラストは唯々諾々と、予算を告げたり価格を交渉したりするのも忘れて購入を決めてしまった。とは言え露天商の側もそこは商売上手で、今回はあくまで“お試し”だからと称してかなり安価で譲ってくれた上、オマケまで付けてくれる。大型の魔物の髭からでもこしらえてあるのか、金属製の頭をつまんで振るとよく[[rb:撓 > しな]]った。

  ――しかし鞭にするには長さも太さも明らかに足りず、羽ペンの軸と同程度。一体何のために用いるのか分からずにクラストが相手を見つめ返すと、

  「尿道プラグにございます」

  「にょ……!?」

  「ご自身の大切なお持ち物にまでピアス穴を開けるのはさすがに抵抗がある、と言う方々のために考案されました。使用法は簡単。きちんと煮沸消毒した上で、尿道に挿入するだけです」

  「本体はあくまでこの金属製の頭の方で、残りの部分はそれを固定しておくためのもの……と言う認識で合っているか? それならこんなに長くする必要は……」

  「さりとて、あまり短くするとやはり勝手に鈴口から抜け落ちてしまいますからね。実はそれでもまだ短い方なのですよ。“熟練者向け”になりますと先端が膀胱に届くほどの長さで、太さもご本人の親指ほど。しかも頭のみならず先端まで柔軟性のある特殊な金属で出来ております。プラグ自体に刻印された浄化魔術が自動的に老廃物を分解したり水分を身体に再吸収させたりしてくれるおかげで、排尿と言う行為自体が不要になる優れ物にございますよ。

  ――ただ、宿主の老廃物を無駄なく糧とし、自己修復や成長、果ては自己防衛まで全自動でこなすスライムや触手製の鎧下に比べるとどうしても見劣りしてしまいますが」

  「す、スライムや触手製の……!?」

  一応は装身具や医療器具、はたまた性具のカテゴリーに含まれるであろうこれらの魔道具ならともかく、いくら何でもそれは実在しないものとばかり思っていたクラストは目を白黒させる。しかも相手の言い回しから察するに、本当に魔物を“生きたまま”己の肉体に寄生(共生?)させて用いる品のようだ。

  興味があるなら『仕立屋』を紹介すると言われたが、さすがにそんなものにまで手を出すともう後戻りできないような気がしたので、クラストは丁重にお断りした。ちょうど約束の刻限も迫ってきていたので、それを口実にそそくさと露店を後にする。

  (……)

  己の顔が紅潮し、心臓が激しく動悸を打って、なぜか股間まで突っ張ってきているのを感じるクラスト。正直言って童貞を捨てた時よりも緊張するし猛烈に恥ずかしいし、まるで露店からこれらの品物を盗んできたような罪悪感に囚われて、乳首クリップと尿道プラグをズボンのポケットに突っ込むと、股間の隆起を誤魔化す意味合いも兼ねてそこに片手を入れっぱなしにしておく。パーティのリーダー格としての気骨はどこへやら、明らかに挙動不審になっている事実を自覚すると尚更人目が気になると同時に、(素知らぬ顔をしているが、こいつらも鎧やローブの下には……)と裏通りを行き交う人々の胸や股間を盗み見てしまう。

  ――しかし仲間たちは仲間たちで各自クラストと同様のカルチャーショックを受けてきた直後らしく、お互いの顔色を探り合うように、何だか言葉少なでモジモジしている。〈迷宮〉から脱出してきた後とはまた異なる気詰まりな雰囲気に、結局情報交換どころか具体的に何を買ったかを報告し合うこともなく。再び宿に帰り着くと、各自、己の部屋に籠もってしまったのだった。……

  [newpage]

  [chapter:3]

  ――それから、約3ヶ月後。

  「……皆、揃っているな」

  〈扉〉から最後の1人が無事転送されてきたのを確認すると、クラストは言葉少なながらも安堵の表情を見せた。いつぞやに比べると装備が数段グレードアップしており、防具は首から下をがっちりと固める武骨な鎧に、武器は常人ならば持ち上げることさえ難しそうなバルディッシュへと変わっている。肩に羽織ったマントも魔物の毛皮を丸ごと用いたワイルドな一品へと変化しており、高名な冒険者たちとも遜色ない貫禄を漂わせている。

  ――それもその筈。元々中堅一歩手前としてその総合力や将来性を高く評価されていた彼らであったが、魔道具を利用するようになってからと言うものめきめきと頭角を現した。あれだけ苦戦していた筈の「中層」を次々と突破してゆき、今や「深層」は目前。それでも堅実な探索の進め具合は健在で、今回も逸る気持ちを抑え、万全を期した上で深層に突入するために一旦地上へと帰還してきたのだ。

  「ま、こればっかはしょうがねえわな。深層まで行くと〈迷宮〉内の〈気〉や魔力の流れがとんでもなく不安定になっちまうんだろ?」

  「はい。それ以降はたとえハバクゥ翁ほどの大魔術師が大規模な転移魔術を行使したところで直接地上と行き来することは不可能となります。逆に言えば〈迷宮〉内の別地点に転移することは不可能ではないわけですが、それが〈迷宮〉自体の構造が変化するタイミングと折悪しく重なってしまうと――まぁ、死ぬより酷い目に遭いかねませんね」

  「やべぇ魔物がわんさかいる、地図も役に立たねぇ状況でのサバイバル生活。しかも帰りは徒歩かぁ……。正直ブルっちまうけど、ここまで来たらおいらも覚悟を決めるっすよ!」

  そしていつぞやに比べると、今回はクラスト以外の3人も明らかに余力を残している。各自の装備が数段グレードアップしているのも同様だったが、クラストを含めた皆が皆、心なしか顔を赤らめ、どこか落ち着かなさげにしていた。それはいよいよ深層に、ひいてはこの〈迷宮〉の真実に自分たちが足を踏み入れようとしていると言う興奮や緊張の為せる業――でも、あったのだが……。

  「……今日は一旦宿に帰って、各自、英気を養うように。必要な品物があるならば金に糸目をつける必要はないし、少しでも体調に不安を感じるようなことがあれば無理せず回復を待て。何せ、次は一体いつ地上に戻ってこられるかも分からんのだからな。

  ――いいな?」

  「了解!」

  これまた数段グレードアップした宿に帰り着くと、早々に仲間たちと別れて自室に籠もるクラスト。扉の戸締まりを確認し、窓のカーテンをしっかり閉ざすと、ようやく己の装備を解きにかかる。以前愛用していた胸当てや籠手や脛当てと違って各パーツが革のベルトや金具等で連結されており、大きさや重さも増しているために独りで着脱するのはかなり骨が折れる様子だったが、クラストがふぅふぅと息を荒げているのはそれだけが理由ではないようだった。

  やがて上下ともダークブルーの鎧下1枚の姿になると、クラストはベッドによろよろと歩み寄り、その端に浅く腰掛けた。その鎧下自体は被弾時の衝撃を和らげたり鎧が身体にフィットするよう調節したりするため、タイツ状の布地にところどころ詰め物を縫い付けた至って一般的な代物であったが――その股間は不自然に盛り上がり、まるで失禁でもしてしまったかのように、内腿どころか膝の辺りまでぐっしょりと黒く湿っている。クラストが股間の隆起を恐る恐る握ってみると、詰め物に吸収されていた粘液が途端にじわぁ……と滲み出て来て彼の指を汚し、一部は長い糸を引きながら床へと滴り落ちた。

  「はあっ、はあっ……!」

  手の汚れを腿の外側になすり付けると、もどかしげに上半身の方を脱ぎ捨てるクラスト。灰毛に覆われた見事な逆三角形の肉体が露わになった――が、肥大化して真っ黒に色素が沈着した左右の乳首が毛皮から飛び出している上、そこにはあのクリップではなく半月型の太いピアスが嵌められて、[[rb:錘 > おもり]]まで接続されているのだ。クラストがほんの少し身じろぎするだけでそれらの涙滴型の錘はブランブランと左右別々に激しく揺れ動き、両乳首を今にもちぎれんばかりに引き延ばす。

  「あぐぅうう……!? んふっ、ひっ、ぐぅ……!」

  咄嗟に片手で口を押さえるも、仲間たちにはとても聞かせられないようなあられもない声を漏らしてしまう。そうして乳首から刺激を受けるたびにクラストの股間はビクン! ビクン! と大きく脈打ち、もはや詰め物では吸収し切れなくなった夥しい粘液が内腿を伝い落ちては鎧下のシミを広げた。

  「せっ、洗濯……しない、と……」

  これ以上汚してしまう前に下半身の方も脱ごうとして、ベッドに腰かけたまま尻を動かし、少しずつ鎧下をズリ下ろしてゆくクラスト。既に完全に勃起していた逸物が大粒の我慢汁を飛ばしながら、ぶるんっ! とバネ仕掛けのように跳ね上がった。太さと言い長さと言い反りと言い体格に恥じぬ業物である一方、こちらは乳首と異なりほとんど色素が沈着していない。

  ――しかしその切っ先には、亀頭の窪みを貫いて鈴口を通るように、リング状のピアスが嵌められている。尿道にはあの時オマケで貰ったものより明らかに太くて長いプラグがぎっちりと挿入され、裏筋を盛り上げている。誤って抜け落ちたりあるいは尿道内に完全に入り込んだりしてしまう事故を防止するためなのか、金属製のその頭はピアスに金具で留められていた。鈴口からはもちろんピアス穴からもひっきりなしに我慢汁が滴り落ちては、クラストの足元に小さな水たまりを形作ってゆく。

  「うう。はっ、ぐうっ……!」

  背を丸めて床を拭こうとした拍子にまた乳首ピアスの錘が揺れ、背筋の毛を逆立てるクラスト。半開きになってわなわなと震える口の端から濃い唾液がこぼれ出し、更に水たまりの面積を広げる。錘が動かないよう片腕で胸元を押さえると、毛皮にこすれた両乳首が充血してピンと尖ってきた。

  「くうっ……! これはあくまで、強くなるため。仲間を守る力を得るためなんだ。手段と目的を、履き違えては、いかん……!」

  そう己自身に言い聞かせつつも、クラストの両手は半ば無意識的に左右の乳首へと向かい、指の肉球で軽くつまんだり狼の爪でソコを引っ掻いたりしはじめる。途端に両乳首と臍下丹田がV字状に繋がったかのような電撃的な快感が身体を貫き、クラストは「キュウゥン……!?」と情けない鼻声を上げた。それに連動する風に逸物が激しく脈打ち、彼自身の下腹をビタンビタンと打ち据える。

  ――早くも射精の予兆で吊り上がってきた両睾丸を片手で握ると、毛むくじゃらの陰嚢を揉みほぐしながら逸物ごと引き下げようとするクラスト。しかしその程度では到底射精欲を抑え切れないと分かると荷物を漁り、陰嚢の付け根を革ベルトで括るとソコにも錘をブラ下げる。赤黒く染まった亀頭が本体に抗議するように膨張と収縮を繰り返し、悔し涙をボタボタと垂らした。

  「……そうだ。これしきのことで呆気なく気を遣ってしまっていては、リーダーなど務まらん。深層踏破など夢のまた夢、だっ……!」

  [newpage]

  [chapter:4]

  「何と言うか、やはり、いざとなると気恥ずかしいものだな……」

  初めて裏通りの露店を利用した日。クラストは宿の自室に籠もると、ポケットから乳首クリップと尿道プラグを取り出した。未だに頬が火照って胸は動悸を打ち、ズボンの前も突っ張っている。プラグの方はさすがに手を出す気にはなれなかったので、上半身裸になると差し当たりクリップの方だけ試すことにする。

  灰毛を掻き分けると、その時点ではまだ無垢な色合いを保ち、大きさも至って平均的だった乳首が姿を現した。誤って毛を巻き込まないよう恐る恐るクリップで挟んでみると思いの外痛み等は感じず、却って拍子抜けしてしまったクラストは続いて反対側も装着した。

  ――部屋の鏡に映してみると、案の定変態的と言うかかなりお間抜けな格好だ。元通りシャツを羽織ってもクリップの形状が布地に浮かび上がってしまったが、更にこの上から胸当てを装着すれば他人からは分からないだろう。

  「あいつらは一体、どんな物を仕入れてきたんだろうか……」

  きっと仲間たちも今頃は彼と同様、各自の部屋でおっかなびっくり魔道具を試しているところだろう。中にはその場で試着したまま彼らと合流し、逆にコソコソ取り外している者もいるかも知れない。大の男が揃いも揃って、滑稽な話だ。

  ――それにしても、こんな物が本当に冒険の役に立つのだろうか……とクラストが疑問に思いはじめた矢先、妙に両乳首が熱くなってきた。当初は単にクリップに圧迫されているせいで鬱血してきただけかと思ったが、彼が普段〈気〉を練る際に臍下丹田に感じるのと同じ、どこか切ないような熱い疼きだ。

  「う。あっ……?」

  思わずシャツの前を広げて両手をクリップにやるクラストだったが、指先がそれらに軽く触れた瞬間今度は正真正銘臍下丹田におなじみの疼きが走り、彼はビクッ! と全身を硬直させた。平常時に戻りつつあった筈の逸物が再び強張ってくると同時に、下穿きが我慢汁で濡れるのが分かる。

  「あ。あっ……!?」

  己の肉体に起こりつつある変化を理解できないまま、(もしこの状態で〈気〉を練ったら一体どうなるのか)と考えるクラスト。試しに臍下丹田に意識を集中してみると、今度はそちらからエネルギーが2方向に分岐して逆流してくるような感覚と共に、両乳首が激しく疼いた。クリップの歯の形状やその硬さ、徐々に己自身の体温で温まってくる感触等が克明に伝わってきたかと思うと、それらが同じ経路を通じて再び臍下丹田へと向かって合流し……と言う未知の感覚が幾度となく繰り返される。そのたびごとに臍下丹田に〈気〉が蓄積し、凝縮→純化されてゆくのを感じるクラスト。

  そうして体内に練り上げられた膨大な〈気〉で自家中毒を起こしてしまったのか、不意にめまいや吐き気を覚えたクラストはふらふらと鏡の前から離れると、ベッドに横向きに倒れ込んだ。これ以上は今の己の実力では危険が伴うと判断してクリップを外そうとしたが、やはり指先が触れるだけで恐ろしいほどの“快感”が全身を痺れさせてきて――結局ズボンの中に夥しい精を漏らしながら、意識を失ってしまったのだった。……

  「――なるほど。それでもうクリップ程度では物足りなく……もとい、より効果の高い魔道具がご入用になった、と?」

  「あ、ああ……」

  それから約半月後、クラストは再び例の露店を訪れていた。今回は仲間たちに黙って出て来たこともあり前回以上に挙動不審になってしまっていたが、対する露天商はこうなることなど完全に予測済みだったように、営業スマイルを浮かべつつもクラストの胸元を無遠慮に眺めてきている。

  ――彼を近くの路地裏にいざなうと、露天商は胸を見せるようやんわりと求めてきた。人目を気にし、早くも羞恥や緊張から指先を震わせつつも従順に胸当てを外し、シャツの前を開くクラスト。〈迷宮〉から帰還してきた直後でもこの後すぐ潜る予定でもないと言うのに、その両乳首にはクリップが装着されっぱなしになっていた。

  「では、少し失礼して……」

  露天商が慣れた手つきで左→右とクリップを外してくる。そうして他人に職業的な仕草で外されるのは自らの手で恐る恐る外す時とはまた異なる羞恥心を覚え、クラストは思わず悩ましげな吐息を漏らすと胸を上下させてしまう。路地裏に入った時点で既にかなり突っ張っていた股間は今や痛いほどに張り詰めて、ズボンの表面にまで我慢汁が滲み出してこないか心配になるくらいだった。

  クラストの体温ですっかり温まっているクリップ×2を左手に握り込むと、乳首の開発状況を仔細に検分しはじめる露天商。最初の2~3日はそれを着けて〈気〉を練るだけで呆気なく暴発させてしまい実戦投入するどころの騒ぎではなかったのだが、自分なりに“鍛錬”を重ねた結果、クラストはそうして練り上げた膨大な〈気〉を臍下丹田に蓄積しておく術を編み出した。おかげで「中層」に巣食う多種多様な魔物たちとも互角以上に渡り合えるようになり、それを着けた状態で戦えば戦うほど己のポテンシャルが引き出されてゆくことを実感した。

  この街の冒険者の間には、『武器や防具は身体の一部も同然』との有名な格言がある。クラストもまたそれを実践するために、慣れてくると〈迷宮〉の探索中はもちろん日常生活でもなるべくクリップを着けっぱなしにしていたのだが――その結果、彼の乳首はこの半月の間に明らかに黒ずみ肥大化しつつあったのだ。

  「ふむ……これはまた随分とご鍛錬に励まれたご様子。これでは確かにこんなクリップ程度ではもう、ご満足の行くパフォーマンスを発揮できないでしょう」

  「“中級者向け”のクリップは……置いてある、だろうか……?」

  「もちろんお望みとあらば直ちにご用意できますが、クリップ自体が初心者向けの品でございますからね。どんなにバネを強くしたり歯を鋭くしたりしても、お客様にはもはや物足りないかと」

  自分の店の方に戻ると、売り物の中から何かを見繕ってすぐに引き返してくる露天商。両側が丸くなった釘状の物体を親指と人差し指の間につまむと、クラストの片乳首に宛がってくる。ちょうど乳輪の直径と同じくらいの長さだ。

  「ピア……ス……?」

  「クリップと異なり、よほどのことがなければ外れません。経絡との密着度がより高い分〈気〉を練る効率も段違いでございますよ」

  「だが……」

  「穴の開け方、でございますか? 商売柄わたくしめにも心得はございますし、これも経験だからお客様ご自身の手で……と仰るならば器具をお貸しいたしますが……。やはり施療院の医師に依頼するのが最も安心・安全ですよ。

  ――何もお恥ずかしがりになる必要などございません。あの方々は[[rb:プロ > ・・]]なのですから……」

  これまで施療院には幾度となく世話になってきたクラストだったが、それ専門のスタッフが常駐していようとは夢にも思わなかった。(とりあえず相談だけでも……)と思って小声で案内を乞うと、受付の若者は万事心得た様子で微笑み、目立たない場所にあった診察室までの道順を教えてくる。

  ――『診察中』の札がかかっている扉の前で少しの間待っていると、彼と同じ冒険者風の男が中から出て来た。片手で腹を押さえているところを見ると、どうやら臍にピアス穴を開けたか、あるいはその辺りに刺青でも刻んだものと思われる。顔が赤らんで足元が覚束なく、何より子種特有の青臭いにおいを漂わせているその男と入れ違いに、緊張した面持ちで診察室へと入るクラスト。簡単な施術ならこの部屋で済ませているのか、壁際に清潔なベッドや医療器具の乗ったワゴンが据えられている。

  机に向かって何やら書き物をしていたのは、40がらみの犀獣人。白衣を羽織って縁の太い眼鏡をかけているところは如何にも世間一般にイメージされる“医師”らしかったが、嘗ては彼自身もひとかどの冒険者として〈迷宮〉に潜っていたのか、実戦的な筋肉がその肩や二の腕や背中を隆々と盛り上げている様がクラストにはよく分かった。

  ――犀は眼鏡越しにクラストを横目でちらりと眺めると、そこに座るよう黙って椅子へと視線を動かす。クラストがそれに従ってもう少し待っていると、相手はようやく羽ペンを置いて書き物の上に吸い取り紙を乗せた。それからクラストへと億劫そうに向き直ると、椅子の肘掛けで頬杖をし、

  「――で?」

  「えっ? いや、その……」

  こちらの緊張を解きほぐそうとするどころか、医師らしからぬ横柄な態度を取ってくる相手に対して戸惑い、余計に挙動不審になってしまうクラスト。しかし「さっさと本題に入れ」と言う意味だとそれを解釈するとズボンのポケットを探り、布に包んでいた乳首ピアス×2を相手に示す。

  ――てっきり問診から入るものと思いきや、犀はそれらを見るとすぐ上を脱ぐよう促してきた。乳首の開発状況やピアスの品質等を簡単に確認すると、今度はベッドに上がるよう求めてくる。連日連夜同様の“患者”が来るせいでもう慣れっこになっており、ほとんど流れ作業のように施術を済ませているのだとクラストにも理解できたが、

  「あの……先生も、この手の魔道具を……?」

  別に相手の医師としての腕前を疑うわけではないが、つい不安になって尋ねてしまう。すると犀は無言で己のシャツをめくり上げると、小型の南京錠にも似た左右の乳首ピアスが細い鎖で繋がれている様を示してみせた。続いてズボンの前をガサゴソすると、己の持ち物を取り出してみせる。野太いその逸物は堅牢な貞操具内に完全に囚われの身となり、尿道まで金属製のプラグでぎっちり塞がれていた。

  ――あれからもう半月経つものの、未だ尿道プラグの方には手を出せずにいたクラストはゴクリと生唾を飲み込むと、

  「その……やはり、効果がありますか? 尿道プラグも、併用した方が……」

  「私のコレはどちらかと言うと、恋人がヤキモチ焼きのせいだが――ああ、実際効果はあるぞ。これでも数年前までは冒険者の端くれだったんだが、〈気〉や魔力の量に限って言えば今の方が格段に増しているし……忙しいさなかにわざわざ小用に立ったり、そのたびに手指を消毒し直したりする必要もなくなったからな。

  ――ちなみに、尻にも魔道具を挿入してある。厳密にはこの貞操具の一部だが」

  さすがにソコまで見せたら奴に殺されるがな、とぼやきつつ着衣を整えると、浄化魔術で手指を消毒する犀。クラストがベッドにあお向けに横たわると、彼の両乳首やその周辺も同様に消毒する。今の話を聞いたせいで自分の心臓がドキドキと脈打っているのも、既に下穿きを我慢汁で濡らしてしまっているのもきっと相手には筒抜けなのだろうと考えるとクラストはますます緊張してきたが、

  「その恋人のために……引退、を……?」

  「さもないと無理心中させられかねない剣幕だったものでな。君も呪術師と関係を持つ時はよく考えた方がいい。

  ――で、麻酔はどうする? 中には手段と目的が完全にすり替わってしまっていると言うか、むしろ施術時の苦痛や異物感の方が目当ての者もいるが」

  「何せ初めてなもので……。できれば、優しく……」

  「分かった」

  乳首を挟んだ両側に、羽ペンで印を付けてくる犀。続いてワゴンからピアスの口径に合わせた針を取り上げると、そこに何やら魔力を纏わせるのが分かった。どうやら元々そう言った針(あるいは[[rb:鍼 > はり]])を媒体にして魔術を行使する冒険者であったらしい。

  ――努めて腹式呼吸をしようとするクラストだが、緊張からか不安からかそれとも幾許かの期待からか自然と息が浅くなり、胸が弾んできてしまう。

  「注射される時は目をつむったり、顔を思い切り背けたりする派? それとも針先をじっと見つめる派か?」

  緊張をほぐすためではなく、純粋な学術的興味から統計でも取っているような口ぶりで尋ねてくる犀。クラストが答えの代わりに相手の手元に目をやると、先程の印の1つにそっと針先を宛がってくる。

  「はあっ。あ゛、ん゛っ……!!!!」

  冷たく鋭い金属がすうっ……とそこに沈み込んでくる。巧みに神経や血管を外してくれているのかそれとも針に纏わせた魔力の賜物なのか、チクリと言う痛みすら感じることなく、出血も見られない。にも係わらず、まるであの野太い逸物で尻穴を穿たれ、臍下丹田を内側からグイッと突き上げられたような甘く切ない感覚が全身に広がったかと思うと、クラストは夢見心地の表情で頭をのけ反らせて大きく喘ぎ――射精、した。今にもはち切れんばかりに盛り上がったズボンの前がズキン! ズキン! と脈打つたび白濁が表面に滲み出て、特有の臭気を漂わせる。クリップを装着した状態で〈気〉を練る鍛錬をした時もクラストは未知の快感に幾度となく精を漏らしてしまったものだが、あんな刺激とは比べ物にならない、深い満足感を伴う絶頂だった。そちらはまだ純潔を保っている尻穴が湿り気を帯び、絶頂の余韻でヒクヒクとひとりでに蠢いているのが分かる。

  「……まだ片側だけだと言うのに。感じやすいんだな」

  「めっ、面目、ない……」

  「気にするな。ここではよくあることだ」

  犀は反対側の印まで針をスムーズに貫き通すと、出血等が見られないか再度確認した上で、一旦ガーゼ&テープで固定した。クラストの上半身に脂汗が噴き出し、鳩尾に溜まったり脇腹を伝い落ちたりしているのを見るとタオルでそれらを丁寧に拭き清め、もう片方の乳首を改めて消毒する。

  「……で、こちら側はどうする。少しだけ麻酔を弱めてみるか?」

  「た、頼、む……」

  [newpage]

  [chapter:5]

  「ううっ、く。あっ、は……!」

  そして現在。何とか下の方も脱ぎ終えて一糸纏わぬ姿になったクラストは、ベッドの端に腰かけて両乳首をいじり続けていた。一応それと並行して〈気〉を練り上げたり自己強化系の魔術を展開→解除したりする鍛錬もおこなってはいるのだが、今の彼にとって重要なのはそれらの精度や純度や速度を高めることではなく、その過程でもたらされる快楽だった。

  半開きになった口からは涎まみれの舌がだらしなく垂れ下がり、両耳はぺたんと斜め後ろに伏せられて、極度の性的興奮から鼻は乾き切ってしまっている。情欲に霞んだ両目は己の指先と両乳首、そしてそれらの真下でビクン! ビクン! と前後に頭を振り立てては我慢汁の雫を撒き散らしている己の勃起だけを恍惚として見つめていた。そうして逸物が脈打つごとに革のベルトが陰嚢の付け根に食い込み、そこから吊るされている錘も重たげに揺れるのだが、それによる鈍痛も今のクラストには快楽をより高めるための絶妙なスパイスとして働くのだった。

  「ち……乳首。チクビ、気持ち、いい。チンポに……ケツにっ。直接、響くぅ……!」

  灰毛に覆われた頬を真っ赤に染めつつも、恐る恐る言葉に出してみるクラスト。如何に自室で独りきりとは言えこんな風に浅ましい行為に耽り、淫らに喘いでしまっている現実を再認識すると男一匹として耐えがたい恥辱の念や自己嫌悪感に襲われた――が、それらこそ背徳的な、目くるめく[[rb:快感 > ・・]]と表裏一体のものであることをクラストはもう嫌と言うほど思い知らされていた。

  臍にくっ付くほどいきり立って反り返った逸物が腹回りの毛皮をも我慢汁でべちょべちょに濡らすと同時に、度重なる刺激で充血し腫れぼったくなっていた両乳首が更に膨張し、半月型のピアスの針を完全に覆い隠さんばかりになる。錘を接続できるよう先日買い替え、それに合わせてピアス穴も施療院で一回り大きく拡げてもらったばかりなのだが、

  「はあっ、はあっ……。露天商の言っていた通り、次はいっそ既製品ではなくオーダーメイドを試してみるか……。もう少し先の階層ならば、魔道具に加工するのに適した鉱石や魔物の素材も数多く手に入る筈。そのためにも、『深層』の探索を進めねば……!」

  すっかり懇意になった相手の顔を思い浮かべ、独り言ちるクラスト。手段と目的を履き違えてはいけないとついさっき己自身に言い聞かせていたことも忘れ、一体どんなデザインにしてもらおうかと早くも胸を躍らせながらチクニーに没頭する。雄にとっては無用もいいところだと信じていた器官が、ここまで敏感な性感帯に変化しようとは思ってもみなかった。

  ――そうして乳首を直接こねくり回したりピアスをグイグイ引っ張ったり錘を揺らしたりするたびに〈気〉と魔力が、そしてそれらと渾然一体となった“性”そのもののエネルギーが螺旋を描くようにして己の臍下丹田に蓄積→凝縮されてゆく様がまざまざと感じ取られる。ただベッドの端に腰かけて乳首をいじっているだけだと言うのに、クラストは強大な魔物と死闘を繰り広げている時以上に全身の筋肉を膨張させて毛皮を汗でしとどに濡らし、性的興奮のみならず単純な暑さからハッ! ハッ! と息を切らしはじめていた。

  「ううっ。かっ、は。あ……! いっ、イきたい。チンポには指一本触れんまま、子種をビュービューぶっ放してやりたい……!

  ――だっ、だが、まだ駄目だ。“鍛錬”の途中なのだから。仲間たちを守るために、俺はもっと、強くならねばならないのだから……!」

  禁断の快楽に耽っている真っ最中にもその“建前”を忘れはしなかった――と言うよりはむしろ「更なる快楽のため」にチクニーを中断し、射精欲の潮が引くまで呼吸を整えるクラスト。ナイトテーブルに置いてあった水差しで喉を潤すと、そうして小休止を挟みつつも一向に勃起の治まる気配がない……どころか一旦お預けにされてしまったことに抗議するようにビクン! ビクン! と凶暴なまでに力強く脈打ち続けている己の分身を、じっと見下ろす。

  種族や性別を問わずあれからどこにも突っ込んでおらず、チクニー中もソコに直接的な刺激を与えるようなことはなるべく控えているせいか、彼の得物は3ヶ月前とほとんど変わらないウブな色合いを保っている。しかし寸止めを繰り返してきた影響かそれとも単純に尿道プラグが挿入されているからか、魔道具を利用しはじめる前より明らかにフル勃起時の太さも長さも、それに硬度も増している風に感じられた。

  ――休憩中もずっと我慢汁が垂れ流しになっていたせいで床はもう酷い有様になっており、試しに片足をそっと浮かせてみると裏の肉球との間にネチャッ……と糸が引くのが分かった。万が一自らの我慢汁で足を滑らせてベッドの角で頭を打ちでもしたら、後世まで物笑いの種にされてしまうことだろう。

  「スライムや触手製の鎧下なら、汗はもちろん我慢汁も一滴残らず吸い取ってくれて、いちいち拭き取ったり着替えたりする必要もなくなるのだろうが……。さすがに、な……」

  これだけ乳首を開発しピアス穴を徐々に拡げるようにまでなっていても尚、それらの魔物に対する生理的嫌悪感は未だに深く心に根差していると見え、複雑そうな面持ちをするクラスト。まるで己の分身に意見を求めるように亀頭を見つめてそう呟いたかと思うと、ゴクリと生唾を飲み込み、今度はソコに嵌まっているリング状のピアスを指先で前後に回転させはじめる。

  ――こちらのピアス穴もやはり施療院で、あの犀獣人の医師に開けてもらったものだ。犀は相変わらず横柄にさえ感じるような言動で淡々と己の職務を遂行したものの、頼んだ通り麻酔なしでの作業に際してクラストは未だ嘗てなかったほど昂ぶり、太い針先がブツリと尿道内から裏筋側に貫通してくるや否や、相手の眼鏡のレンズにまで子種のしぶきを飛ばしてしまったものだった。

  「ウーッ。グーッ。フウウーッ……!」

  両目をつむってその瞬間のことを鮮明に思い返しつつ、リング状のピアスで穴を摩擦し続けるクラスト。尿道の奥からひっきりなしに湧き上がってくる我慢汁がピアスの滑りを良くして更なる快感を彼に与えると共に、瞬く間にその指をベトベトに汚す。狼らしい野性的な唸り声を上げながらその感覚を堪能するクラストだったが、そんな刺激も彼にとってはもはや単なる“前戯”に過ぎなかった。

  ――うっすらとまぶたを開くと、クラストは汁まみれの指先やピアスを簡単に布でぬぐった上で、そこに繋がっている金具を取り外す。それからゴクリと再び生唾を飲み込むと、自由になった尿道プラグの頭をつまんでそろそろと引き抜きはじめた。

  「ん゛ん゛っ……!? ひっ、ふ、うぐぅ……!」

  こちらも我慢汁にまみれたプラグがずるずると、尿道内から姿を現してくる。それはあの時オマケで貰った魔物の髭製の品ではなく、露天商が言及していた“熟練者向け”の金属製品。クラスト自身の親指とまでは行かないが人差し指ほどの太さがある上、表面に大小様々な突起まで付属している。それらの突起に前立腺を内側から刺激されたり、尿道内の粘膜をこすり上げられたりするたびにクラストは頑健な太腿をガクガクと震わせ、首をのけ反らせて大きく喘いだ。

  ――その尿道プラグの先端は膀胱内にまで達するほどの長さがあったが、これまた露天商の説明にあった通り、プラグ自体に刻印されている浄化魔術のおかげでこんな風に何の準備もなく抜いていっても小水が漏れ出るようなことはない。

  「くぅ……。あ゛っ、うっ、ぬ゛ぐぅ……!?」

  ようやく全長の半分強を抜き出せたと言ったところで、クラストはふと思い出したように、空いている方の手を近い側の乳首に伸ばした。ソコを引っ掻いたりピアスを引っ張ったりして刺激しながら、プラグを尿道内へと再び挿入しはじめる。単純に向きが反対になったと言うだけでもまた異なる種類の快感にだらしなく舌を垂らすクラストだったがそれ以上に、「雄の象徴に異物を挿入されている」事実そのものに対して彼は倒錯的な興奮を覚えているようだった。

  「あ゛うっ……。駄目だ、こっ、こんな。これ以上穴が拡がったら、本当にプラグを手放せなくなってしまうっ。先生と違って誰かに着用を強制されているわけではないんだから、その気になれば、いつでもやめられるんだ。いつでもやめられるよう、節度を保っておくべきなんだ……!

  ――ああ、だが、しかし。気持ちいい。チンポを奥までじゅぼじゅぼされるの、キモチ、イイ……!」

  己自身の我慢汁を潤滑剤代わりにプラグを激しく抜き差しすると、表面の突起で尿道内の粘膜を徹底的にこすり立てるのはもちろん、既に硬く腫れ上がっている前立腺をある程度は自在に曲がる先端で内側からコリュッ! ゴリッ! と揉み潰すクラスト。空気を含んで白く泡立った我慢汁が尿道とプラグの隙間からジュプジュプと溢れ出る。クラストの両足のつま先が曲がったり伸びたりしては虚空を引っ掻き、ふさふさとした尻尾がベッドの上で勢いよく左右に揺れはじめた。

  そうして尿道オナニーの禁断の快楽を貪りつつも、クラストはこのプラグを握っているのが自分ではなく他人の手であったなら……と言う埒もない空想を始める。仲間の誰かか、施療院のあの医師か、ジェラルドのような高名な冒険者か――はたまた、[[rb:魔物 > ・・]]であったなら……?

  「うう。あっ、あっ……!? ひぃ。ふぐっ、む゛ぅ……!」

  そうだ。スライムや触手のような魔物であればこんな“オモチャ”など持ち出してくる必要もなく、自らの肉体を用いて彼の鈴口をこじ開け、尿道をギチギチに犯し、前立腺を自由自在に責め立てて――膀胱内をたっぷりと満たしてくれることだろう。それと同時にチンポを外側からもリズミカルにシゴき上げ、タマにも吸い付いてグニャグニャと転がして、とうとうケツの穴にまで潜り込んできたかと思うと、直腸側と尿道側の両方から同時に前立腺を磨り潰して、きて……。

  「ぐあうっ!? いっ……イく。[[rb:射精 > で]]るっ。チクビいじられながらチンポ穴ほじほじされてイ゛ぐぅ! んっ、ぐっ、お゛ふぅ……!

  ――ん゛ひぃ!? あっ、おっ、ア゛ォオオーーーーン……!!!!」

  最後に膀胱まで深々と刺さった状態から一気にプラグを引き抜くと、クラストはちょうど狼が遠吠えをする時のように背筋をのけ反らせて天を仰ぎ、あられもない嬌声を上げた。そんな本体の動作に呼応するかの如くに彼の勃起もまた直立すると、ぱっくり開いた拡張済みの鈴口から夥しい子種を噴き上げる。〈迷宮〉を探索している間からずっと寸止めされ続けていたも同然だった影響でその量や濃さはもちろん勢いも凄まじく、クラスト自身の下顎に直撃した子種のしぶきが天井まで届くかと思われるくらいだった。

  「あっ。あっ。あ……!」

  臍下丹田に溜まりに溜まっていた〈気〉と魔力が子種と共に一挙に体外へと放出されてゆくような感覚に、その姿勢のまま全身をガクガクと痙攣させ、半ば白目を剥くクラスト。如何に上等な宿の個室とは言えこんな大きな声を出したら仲間たちにバレてしまう筈だが、彼らは彼らで各自の“新装備”でお楽しみの真っ最中らしく、耳を澄ますと似たような喘ぎ声があちこちから聞こえてきた。

  クラストがようやく我に返った頃には、ベッドも床も彼自身の下半身も、まるでシチューの器をひっくり返したような見っともない有様になっていた。(また、やってしまった……)と途方に暮れると共に改めて恥辱の念や自己嫌悪感がひしひしと押し寄せてきたが、右手に握ったままだった尿道プラグにまで己の子種が纏わり付いていることにふと気が付くと、半ば無意識的にその先端を口元へと持って行き――恐る恐る、舐め取った。

  「――そうだ。深層でキャンプするともなれば、おちおち行水や洗濯もできんだろうから……スライムや触手製の鎧下を着込んでゆけば最初からそんな手間が省け、結果的にパーティ全体の生存率向上に資するかも知れん。そうと決まれば早速あの露天商に、例の『仕立屋』を紹介してもらうか……」

  ああだこうだと理屈をこねて自己正当化を図りつつも、この世ならざる快楽の期待に逸物を早くもビクン! ビクン! と大きく脈打たせてしまうクラスト。尿道プラグを先端から付け根まで己の舌で舐め清めると、それを逆手に持ち直す。あたかも今まさにスライムや触手を“試着”させられているかの如くに夢想しながら、プラグを尿道内に再び挿入してゆくと――未開発の筈の彼の尻穴が、なぜか物欲しげにパクパクと口を開閉させはじめたのだった。……

  〈了〉

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