ホストクラブ ・neco mimi・それは私のお気に入りのホストクラブである。
ここで働いているのは皆、猫の獣人。だからこその店名でもある。
近くには『inu mimi』があれば『usa mimi』もある。ここら一帯は獣人が働く街でもある。
私も一通り店を試してみたが、その上で一番良かったのがこの『neco mimi』である。
私の推しは黒猫の獣人、クロフォードさん。私は相性を込めてクロフと呼んでいる。
クロフは寡黙で、黙って私の話を聞いてくれる。愚痴も嬉しい事も悲しい事も、何だって聞いてくれる。
時折「ねぇ、聞いてる?」と質問すると「もちろん。後輩のご指導にご苦労なさっているんですね。私が思うに、もう少し肩の力を抜いても大丈夫と思いますよ」なんて、アドバイスと一緒に返してくれる。
余計な一言、なんて思わない。私の話を客観的な視点で聞いてくれた上でのアドバイスだ。とても参考になる。
クロフは泣きたい時に胸を貸してくれる。
「どうぞ。私の胸で思う存分猫吸いを楽しんでください。気持ちが落ち着くまで、ご堪能下さい」
私はクロフの胸に飛び込む。周りには私が猫吸いを楽しんでいるようにしか見えない。
私はクロフの胸の中で人には見せられない涙を流す事が少なくなかった。
クロフの胸から離れると、クロフはサッと胸の毛繕いを始める。
「貴方の涙を舐め取る事で、私は貴方の悲しみを少しでも飲み込んであげたい」
キザったらしいセリフも、クロフにはとても似合っていたし、その心遣いがとても嬉しかった。
neco mimiで働く獣人たちは基本お酒を飲まない。
人間用のお酒を用意しているのは人間に振る舞う為である。
だからと言うわけでもないだろうが、ここで働く獣人たちは下戸でも受け入れてくれる。
お酒を飲まずにホストクラブを楽しむ。人間相手のホストクラブでは難しい事もここでなら出来る。
高いものを注文しなくても嫌な顔一つしない。…ように見える。
人でありながら猫でもある。その接しやすさから、この店を選ぶ人も多い。
少し前の事だ。店を出て、少し歩いていると元彼と再会した。
「お前、ケモナーになったの?いくら人間の男に相手にされないからってウケる!」
私を笑いものにする元彼。
「お前こそ、メス猫に相手にされないからと元カノに八つ当たりか?笑う気にもなれんな」
俯く私の肩をクロフがそっと抱いてくれていた。
「失礼…私の耳が貴方の悲鳴を捉えたような気がしてつい、来てしまいました」
視線を元彼に向けるクロフ。
牙をむき出し、威嚇している。
「シロンから報告を受けている。お前だな。ガールズバー ・neco mimi・で女どもにちょっかいを出しては引っかかれているバカは」
クロフの言葉に鼻白む元彼。
「な…何で知って…いや、お前には関係ないだろう!」
「関係ないわけあるか!俺の家族に害なす輩はこの俺が地の果てまで追い詰めてその身を八つ裂きにしてやる!」
クロフの怒声に元彼は腰を抜かし、這う這うの体で逃げ出した。
「…怖がらせてしまい、申し訳ありません」
謝ってくるクロフ。
ううん。大丈夫。むしろ助けてくれてありがとう。
「浮かない顔をしていますね…理由を聞かせてもらえますか?」
さっきクロフは「俺の家族」と言った。
そっか…そうだよね…クロフに恋人や奥さんがいても、おかしくないよね…
私の言葉にクロフはふっと笑った。
「シロンは妹ですよ。一緒に生まれた、4匹きょうだいの末っ子です。ちなみに私は長男です。獣人故に私は大家族に属しております。neco mimiで働く仲間も、皆実は私の兄弟なんですよ」
クロフが悪戯っぽく笑う。
何故か、凄くホッとしてしまった。
私は明日もまた、クロフに会いに行くと決めた。
明日はシロンさんの事や、他の兄弟について話を聞かせてもらおう。