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[chapter:1]
「危ない!」
鎧兜に身を固め、教会の紋章入りのサーコートを羽織った巨漢の騎士が、仲間の鰐獣人と魔物との間に割って入る。次の瞬間、彼の胴体程もあろうかと言う太い触手が頭上から振り下ろされてきた。同じく教会の紋章入りの大楯を咄嗟にそちらに向けて構え直したものの、それだけでは長く弾力性に富む触手を防ぎ切ることができず――
「ン゛グゥウウウウ……!?!?!?」
楯に激突した勢いで大きく[[rb:撓 > しな]]った触手の先が、騎士の股間を真下からしたたかに打ち上げた。武器や防具も含めれば相当な重量になる筈の巨体が地面から浮き上がる程のその衝撃に、ビクン! と全身を硬直させると受け身を取ることもままならず、あお向けにひっくり返ってしまう騎士。思わず楯を取り落とし、フルフェイスの兜の下で悶絶しつつも体勢を立て直そうとする彼だったが、魔物はすかさずもう一本の触手を彼めがけて振りかざし――
「そこだ!」
それまで表皮に覆い隠されていた魔物の心臓部が剥き出しになったと見るや、もう一人の仲間である[[rb:鴉 > からす]]鳥人が何本もの魔術の矢でそこを狙い撃ちにする。耳ざわりな悲鳴を上げると元通り己の急所を隠そうとする魔物だったが、それらの矢は拘束具を兼ねており、無理矢理表皮を広げて露出させるような形でそこに突き刺さっている。
それが分かると騎士を攻撃しようとしていた触手を引っ込め、そこを庇おうとする魔物。しかしその時既に、緑鱗の鰐は魔物の懐に潜り込んでいた。魔力を帯びた短剣が心臓部の中心に深々と突き立てられると、魔物は身の毛もよだつような絶叫を上げ――呆気なく息絶えた。それでも計六本の触手は尚うねうねと、せめて一人だけでも道連れにせんばかりに往生際悪く蠢いていたが、それらにも鴉が同じく魔術の矢を撃ち込んだり鰐が短剣で斬り付けたりしてやるとやがて機能を停止したのだった。
「ぐっ、うう……」
「大事ありませんか、ドノバン殿!?」
周囲に別の魔物が潜んでいないか気配を探り、ひとまず安全が確保されたと判断すると、騎士の元に駆け寄る鴉。容態確認のため面頬を上げると、灰毛の熊獣人の顔が露わになった。人間に換算すると三十代半ばと言ったところだろうか。如何にもベテランの騎士然とした武骨で精悍な顔立ちだが、今はそれを苦しげにしかめてうんうんと唸っており、自力で身を起こすどころか目を開けることすら難しいような有様だ。
――その間、鰐は短剣や己の身体に付着した魔物の返り血を念入りに拭っていた。作業が終わると鴉の肩越しにひょっこりと首を伸ばし、ドノバンの顔を覗き込んで、
「あっちゃー……。タイショー、またぞろ大事なトコをやられちまったんでやすかい? よくよく金的にご縁があるお人でやすねぇ」
「元はと言えば、貴様が前に出過ぎたからだろう! いいから装備を脱がせるのを手伝えレイフ!」
まるで他人事のように、半ば面白がってさえいる表情や声色で呑気な反応を見せる鰐に対し、ドノバンのサーコートをめくり上げながら怒鳴る鴉。レイフと呼ばれた鰐は「へいへい……」と若干面倒臭そうに応じると彼の傍らに膝をつき、ドノバンの草摺を胴側に折り返しつつ、
「コリンのセンセー、今回は右と左、どっちだと思いやす? それとも両方? 見事的中させた方が今夜はオゴリってことで――」
「……貴様は右と左、どちらから射貫かれたい?」
そう言って半笑いでこちらを振り返ってきたレイフの眉間に、バチバチと魔力を放っている矢の[[rb:鏃 > やじり]]を突き付けてやるコリン。「相変わらず冗談の通じねぇお人なんでやすから……」と瞬膜をウィンクさせて苦笑してみせると、レイフはすっかり慣れた手つきでドノバンの鎖帷子をめくって奥に片手を突っ込み、タイツ状の鎧下をゴソゴソと探った。
早くも腫れて熱を帯びてきている器官に鱗で覆われたゴツゴツした指が触れると、ドノバンは「むぅ……!」と苦悶の呻きを上げた。レイフはそれでもお構いなしに前開きのボタンを探り当てると、熱気が籠もり脂汗で湿ったタイツ内に何のためらいもなく片手を突っ込み、毛むくじゃらの陰嚢だけを器用に中から掴み出してきた。
「あう゛っ!? ぬ゛っ、ぐぁ……!」
「おいレイフ、もっと丁寧に扱わないか!」
「たぁ言っても、こうして外まで引っ張り出してやらねぇとセンセーも治療ができねぇでやしょう?」
一体誰が好き好んで同じ男の急所を握ったりするものか。ましてやむくつけき灰色熊のソコなんて……と言いたげな顔で鴉を見上げると、物の弾みかあるいは意図的にか、指先に力を加えた上で更にグイッ! と付け根から引き伸ばすようにするレイフ。途端に「ふぎぃ……!?」と言う情けない悲鳴が上がり、甲冑を纏ったドノバンの巨体が地面の上でビクンと跳ねた。
治療のためと言うより、むしろ同僚のタマを人質(?)に取っている風なレイフの態度に一段と難しい顔になるコリン。しかし相手の言い分自体は間違っていないので、身を起こすと己の得物の片端をドノバンの陰嚢へと宛がう。
――コリンはドノバンと同じく教会本部から派遣されてきた男。まだはたちを少し超えたくらいの年格好だが動植物の研究者として将来を嘱望されており、さすがに本職には敵わないが魔術の心得もある。戦闘中はどちらかと言うと弓のように用いていたその得物は、実のところ曲がりくねった[[rb:杖 > ・]]である。
「あうっ。ふんっ、ぐぅ……!」
「うーん、結局左でやしたか。にしてもこの腫れ具合、新記録達成じゃねぇでやすかい?」
「貴様は黙っていろレイフ!」
治癒の術を施すにはこうして対象に直接触れる必要がある事実はドノバンの側も重々承知の上、かつ如何にこの場には同性しかいないとは言え、雄の急所を無防備に晒すことを強いられるのはやはり自尊心を[[rb:害 > そこな]]うのだろう。金的の苦痛だけでなく恥辱の念からも身悶えし低く呻くドノバンだったが、レイフはそんな仲間を気遣うどころか無神経な発言を繰り返す。
――それもその筈。二人と異なり、レイフは教会本部とは縁もゆかりもない男。魔物討伐のため新たに結成・派遣されてきた部隊の案内役として、現地で一時的に雇われただけのケチな悪党なのだ。
しかし本部の予想に反して討伐対象は遥かに強大な魔物であった上、現地で発生していた異変はそれに留まらなかった。討伐隊のメンバーは一人また一人と“殉教”してゆき、今や残っているのは副隊長だったドノバンと、本来は非戦闘要員だったコリンだけ。外部との連絡が遮断され応援を要請することもままならない中、乗りかかった舟だからかそれとも教会に恩を売っておきたいからか、レイフは物好きにも未だに彼らと行動を共にしている。現状では貴重な戦力の一人だし、何だかんだ言って顔も広く物資の補給等に重宝するので、当初は「胡散臭い」「ノリがウザい」と毛嫌いしていたコリンも仕方なく雇い続けている。
――相手のペースに乗せられて、今ではすっかりツッコミ担当と化してしまっているが。
「ん゛っ!? むぅ……」
「少しの辛抱です、ドノバン殿」
顔と同じ灰色の毛皮に覆われたドノバンの陰嚢は明らかに腫れ上がり、左右非対称な形状に歪んでしまっている。そこまで鋭利でないとは言え杖の尖った片端をソコにグイッ! と押し当てられて、彼は一層顔をしかめる。
――そんな同僚のことを気遣いつつ、コリンはソコに治癒の術を施しはじめた。彼の[[rb:翼手 > て]]から杖を伝わってきた魔力が分厚い陰嚢を通り抜け、睾丸の中心にまで染み込んでくるような感覚に呻くドノバン。確かにダメージが回復していっている実感はあるが、それ以上にむず痒さや熱を感じてしまうのだ。
「いやー、にしてもタマがデカいならデカいで、ンな困り事が出て来ちまうんでやすねぇ。『同じ雄にしか分からない痛み』たぁよく聞きやすけど、あっしはスリット式に生まれてきたことを初めて天の神様に感謝しやしたぜ」
「本人がそう望んだわけでもないのに、そんな風に茶化すのはよせ。
――まぁ、斯く言う俺も総排出腔式だからあくまで想像の域を出ないし、治療の勝手もよく分からない部分が大きいが」
「むっ。くぅ……」
軽口を叩き続けるレイフのことを難しい顔で嗜めるコリンだったが、いずれにせよ羞恥プレイである事実に変わりはない。そのうち治療が完了したのかコリンは杖の片端を離したが、ドノバンの陰嚢は相変わらず左右非対称に腫れ上がったまま。
――レイフと交代すると、今度は自分の翼手で直に触診してみるコリン。鰐の指よりは柔らかく手つきも慎重とは言え、患部をグニッと握られた挙句指先で睾丸を探られたドノバンは悶絶し、とうとう目尻に涙まで滲ませてしまう。
「ふうっ……!? ん゛っ、ぐぅ……!」
「……ひとまず、傷付いた組織や血管は元通りになったようですね。内出血を起こしている分が再吸収されれば、腫れも引いてゆく筈です」
「あっしは魔術の心得がねぇもんでして、センセーとお会いするまではてっきり治癒が完了すると同時に何もかも元通りになって、熱や痛みも綺麗さっぱり飛んでくもんだと思い込んでやしたが――案外融通の利かねぇもんなんでやすね」
「あくまで自己治癒力に働きかけ、それを促進するものだからな。痛みを和らげる系の魔術も存在するが、下手に施すと却って治りが悪くなってしまう」
経過が順調なのを確認するとコリンは同僚の陰嚢から翼手を離し、元通り鎧下の前開きから内部へと収納させた。その頃にはドノバンもかなり回復してうっすらと目を開け、重厚な鎧の胴を上下させながら深呼吸していたが、まだ起き上がれるような体調ではないらしい。
「でも、こうして毎度毎度キンタマ休憩挟むのも考えもんでやすね。今回はデカブツが一匹だけでしたから命拾いしやしたが、タイショーがロクに動けねぇ状態でまた襲われでもした日にゃあ……」
「だ・か・ら! そう言う無神経な発言は慎めと!! 何度言えば分かるんだ!!! 大体さっきも言った通り、元はと言えば貴様が――」
レイフの背後に回ると、杖の曲がりくねった部分を相手の喉首に引っ掛けてグイグイ絞め上げてやるコリン。先述の通りこの鴉の本業は術士ではなくあくまで研究者で、教会本部から派遣されてきた当初は地元民からはもちろん同じ討伐隊のメンバーからさえ「お高く留まったエリート学者先生」扱いされていたのだが、今やすっかり[[rb:地 > ・]]が出てしまっている。
――レイフもそんな相手の反応が面白くてわざとやっている節があるのだが、見るに見かねたドノバンは己自身を叱咤して上体を起こすと、
「……いいんだ、コリン。身体を張って仲間を護るのが、私の役目なのだから。二人とも無事で、本当に良かった」
「ですがドノバンのタイショー、たとえその結果“殉教者”になろうがタイショーは本望かも知れやせんけど、いくら何でもキンタマ潰されたショックで昇天! っつうのは天の神様だって反応に困って――」
「レイフ!」
「――あ、でもタイショー方の信じてなさる宗教じゃあ、例えばオッパイ抉り取られた修道女が胸の病気の守護聖人に奉じられたりするんでやしたっけ? んじゃタイショーの場合『金的の守護聖人』聖ドノバンが爆誕……?」
杖を更に深く相手の喉首に食い込ませて半ば地面から吊り上げてやるコリンと、大袈裟に舌を突き出して両脚や尻尾をジタバタさせながら、羽毛で覆われた相手の腕を叩いて「降参」の意を示すレイフ。
――ドノバンはそんな仲間二人の姿に対して「喧嘩するほど仲が良い」と完全に勘違いしているような温かい視線を送っていたが、自らの片脚を慎重に抱き寄せると、それに両手で掴まる風にして上半身を支えた。未だに腫れの引かない睾丸がその拍子に彼自身の頑健な太腿に圧迫されて再び鈍痛を感じたが、なるべく平静を装いつつ、
「不覚を取ってしまったのは私だし……レイフの意見は[[rb:尤 > もっと]]もだ」
「えっ、んじゃ本気で『金的の守護聖人』を目指して!?」
「そっちじゃない!!!!」
みたびコリンに首を絞め上げられ、今度は演技ではなく「ぐげぇ!?」と蛙が踏み潰されるような悲鳴を上げるレイフ。本当ならズキズキと疼く己の陰嚢を撫でさすったり握ったりしたいところだったが、如何に気心の知れた仲間同士とは言え人前でそんな“無作法”な真似をするわけには行かない……と思い直したドノバンは、
「これでも立ち回りには注意を払っているつもりだし、ちゃんと神聖魔術で護りも固めているのだが……。恥ずかしながら、騎士に叙任される以前からたびたびこの手の災難に見舞われているのだ。一度など片方の睾丸が完全に、鼠径部から腹腔内に入り込んでしまったことが……」
「……総排出腔式の俺でも、お聞きしただけで何だかその辺りがヒヤリと致しますね」
「いっそ最初から左右ともンな風にしまい込んじまった上で、サラシか何かでぴっちり締め付けた状態で戦うってぇのは?」
「貴様は馬鹿か!? そんな状態では戦闘はおろかまともに呼吸すらできないだろうし、ポケットから物を出し入れするのとは訳が違うんだぞ!」
口が利ける程度に拘束を緩めてやったのも束の間、今度はレイフが白目を剥くまで絞め上げてやるコリン。それでも当の鰐獣人は何だか幸せそうに頬を緩ませている辺り、ひょっとするとこの学者先生による窒息プレイ、もとい“お仕置き”がすっかりクセになってしまったのかも知れない。
「ですがドノバン殿。[[rb:股鎧 > コッドピース]]……と呼ぶのでしたか。俺は専門外ですしそもそも縁もございませんが、雄の急所を護る用のパーツも甲冑一式には付属しているのでは?」
現に討伐隊の今は亡き同僚たちも、たとえ精巣が体内に格納されているタイプの種族であろうが騎士階級に在る限り儀礼的に、お揃いのサーコートの下にその種の防具を装備していた筈……と言いたげに尋ねてくるコリン。するとドノバンは照れ臭そうに頬に朱を散らしつつ、
「実は……なまじ[[rb:他人 > ひと]]より身体が大きいせいで、本部から支給される制式装備はおろか、市販品を探してみてもなかなかサイズが合わないのだ。見習い時代も私一人だけ制服がつんつるてんで、臍まで出てしまっていたし……。この甲冑にしても今回の任務に先立って自腹で新調したのだが、その――」
「あ、ひょっとしてキンタマを間近に観察されたりメジャーを当てられたりすんのが恥ずかしすぎて、ソコだけ計測を省略しちまった的な?」
「だから茶化すな!」
「体格相応の物を作ってもらった筈が、いざ試着してみると小さすぎてな……。ソコだけ作り直してもらうのも申し訳ないし出発の日も迫っているしで最初は無理矢理押し込んでいたのだが、案の定却って邪魔になってきて……。どの道サーコートを羽織っていては分からないだろうからと、現地に到着して三日目くらいからはもう着けなくなったのだ」
「斯く言うあっしも、さっぱり気付きやせんでしたからねぇ。何せ、他のお歴々よりよっぽどご立派にもっこりなさってるご様子がサーコート越しに――」
「レイフ……?」
杖を握っているコリンの両翼から魔術の矢が伸び、その鏃をレイフの左右のこめかみに突き付けてくる。さすがにこれ以上軽口を叩くと命が危ないと頭では理解できているのだが、「口から先に生まれてきた」と地元民に揶揄されている鰐はついつい、
「これがそんじょそこらの男でやしたら、適度に中身を搾り出して[[rb:萎 > しぼ]]ませもできるんでやしょうがねぇ。『純潔の誓い』なんぞ立てちまったばっかりに、タイショーのデカ玉は日に日に膨れてく一方。[[rb:女犯 > にょぼん]]は当然お稚児遊びも手淫も絶対禁止! だなんて教会もご無体な――」
「……」
「いえいえ別にセンセー方の思想信条を批判してるわけじゃねぇんでやすよ!? ンな“表向き”の教えを糞真面目に遵守なさってる騎士なんぞそれこそドノバンのタイショーお独りなんじゃ? たぁ夢にも思っておりやせん! あっしが言いてぇのは、つまりその……そう、たとえこの先も金的されまくってとうとう種なしになっちまったとしても、タイショーがその教えを愚直に守り通すおつもりなら別に何もお困りになるこたぁねぇ、むしろ天の神様のご意思に適う形になるんじゃねぇかと――」
「………………」
失言を取り繕うつもりが却って火に油を注ぐ結果となり、恐る恐るコリンの表情を窺うレイフ。しかしインテリ鴉は怒り狂うのを通り越してもはや「開いた[[rb:嘴 > くち]]が塞がらない」と言う顔で鰐を見つめ返すと、あっさり相手を解放した。それからくるりとレイフに背を向け、疲れ果てた様子で地面に両手で杖を突き、聞こえよがしにため息をつく。鳥人用のフード付きローブを羽織ったその背中は一連のやり取りの間に一挙に老け込んでしまったかのような、妙な哀愁を帯びていた。レイフがドノバンより少し若くて三十代前半だとすると、コリンがこの中では最年少の計算になるのだが……。
「ええっと……それで何でしたっけ、ドノバンのタイショー? あっしが雇われてからのお話に限っても事あるごとに金的食らいまくったせいで、段々耐性がついてきた……ってくだりの途中でやした?」
「いや、さすがに他の部位と異なってココは鍛えるにしても限度があるし、むしろ余計に膨らんできた気が――」
「がぁあ゛あ゛あ゛!!!!」
突如として奇声を上げ、頭の羽毛を両翼で掻き毟りはじめた学者先生の方を驚いて振り返る鰐と熊。何だかんだこの三人で明るく楽しく(?)やれているとは言っても未だに異変の原因は突き止められず、この地域からも脱出できない危機的な状況は続いているため、本来非戦闘要員であるコリンはとうとう精神的に限界に達したのか……と二人が心配そうに見つめてくる中、
「……レイフ。街一番の甲冑師を紹介しろ」
「ンな無茶な。この辺りが最後に戦場になったのはセンセーの生まれてきなさる前でやすぜ? 当時ならいざ知らず、今じゃもう現役の甲冑師なんざ――」
「別に本職でなくてもいい。とにかく腕の立つ職人だ。ドノバン殿の股鎧を[[rb:誂 > あつら]]えてもらう」
「いや、待てコリン。今は人員は無論、金子を追加で寄越していただくことさえ不可能な状況なのだ。一体いつになれば外部と連絡が取れるようになるか分からないこの状況下で、手元不如意になるのは致命的――」
こちらはこちらで生真面目すぎて微妙に天然が入ってしまっているドノバンに対し、翼手の間に頭から抜け落ちた羽根が挟まったままコリンは血相を変え、
「代金なら俺が何とか工面します! このままでは貴殿の生殖能力より先に、俺の胃の方が持たなくなるんです!! 毎度毎度、こんな阿呆らしいやり取りに付き合わされる俺の身になってもみてください!!! たとえ貴殿を縛り上げてでも、職人の元に連れて行ってやりますからね!!!!」
[newpage]
[chapter:2]
「――と、言うわけで。この方に股鎧を誂えてほしいんだ。無論謝礼は弾ませてもらう」
「はぁ……」
レイフの案内でやってきたのは、街外れに位置する工房。彼らを出迎えたのはもう還暦も過ぎようかと言う牛獣人の鍛冶師だった。往時は腕利きの甲冑師としてそこそこ名が売れていたものの、平和が訪れてからと言うものめっきりその手の依頼は途絶え、今では蹄鉄を打ったり農具を研いだり[[rb:鋸 > のこぎり]]の目を立てたりして細々と生計を立てているらしい。
――鍛冶師は両目をしょぼしょぼさせながらドノバンの巨体を見上げると、コリンへと視線を戻し、
「実に結構なお話じゃが……御覧の通りの老いぼれの上、今じゃもう甲冑をこしらえるのに使えそうな良質な鋼も手元にはなくてのう」
「既に在る甲冑を鋳潰し、再利用することは可能だろうか」
「コリン、まさか――」
同僚を制止しようとしたドノバンの腕を、レイフが掴んで引き留める。軽薄な性格なりに相手の心情を慮っているような口ぶりで、
「……タイショーにとっちゃ大切なお仲間の[[rb:形見 > ・・]]でやすからね。お気持ちはお察し致しやすよ。けどタイショーまで“殉教”しちまったら、一体誰がそいつをご遺族の元に届けてやれるんで? 自分で言うのも情けねぇ話でやすが、あっしとセンセーだけじゃこの先生き残れる見込みなんぞ皆無でやすし――何より、タイショーのお墓を掘るのなんざあっしは金輪際御免でやすからね!」
「レイフ……」
上手いこと乗せられている気がしなくもないのだが、この後ろ暗い半生を送ってきた鰐が真剣に己の身を案じてくれている事実に感激してしまうドノバン。彼らが教会本部から与えられた任務に命を懸けて臨んでいる姿を目の当たりにして回心を果たした……と言うわけではきっとないのだろうが、これだけでもこの地に来た甲斐はあったと内心神に感謝する。
――対するコリンはドノバンほど信仰心が篤くはないことに加え、「この状況では背に腹は代えられない」と自らを納得させたらしい。仲間の墓を掘り返すのはやはり抵抗感を覚えるものの、さりとてレイフに任せるのも汚れ仕事ばかり押し付けているようで気が引ける……と言う複雑そうな顔をしている。
「再利用すると、どうしても鋼の品質が一段落ちちまうが……それでも構わねぇなら」
「ありがたい!」
そうと決まれば早速採寸を……と言うわけで自主的にサーコートを脱ぐドノバンだったが、なぜか二人とも工房から退出する気配がない。レイフはともかくコリンにはその辺りのデリカシーがあって然るべきだと思ったのだが、鴉鳥人の研究者は大真面目に、
「貴殿に恩を着せるつもりはございませんし、このご老人の腕を疑っているわけでもありませんが、自腹を切るのはこの俺ですので。それに見合った品物がちゃんと出来上がるまで、見届ける義務があるかと」
「そうそう。あっしも後学のために是非見学を」
「いや、だが、しかし――」
「そう恥ずかしがる必要もなかろう。お互いいい年した男同士なんじゃから。
――そら、とっとと脱いだ脱いだ」
難色を示すドノバンだったが、当の鍛冶師にまでそう言われてしまってはそれ以上逆らうこともできず、仕方なく装備を解きにかかる。上は別にそのままでいいと言われたため、まず脛当を足から外して鉄靴を脱ぎ、草摺も胴から取り外して、下半身タイツ状の鎧下だけの姿になるドノバン。あれから半日ほど経って何とか腫れは引いたものの、彼の陰嚢は相変わらず目を見張るようなボリュームで以て鎧下の前にずっしりとのしかかり、今にもボタンを弾き飛ばしてひとりでに前開きからこぼれ落ちてきそうなまでにそこを膨らませていた。
――しかしいざ鎧下を脱ぐ段になるとドノバンは再び逡巡し、
「その……採寸なら、これを穿いた状態でも――」
「駄目でやすよ。一度それで失敗したって、タイショーご自身が仰ってたじゃありやせんか」
即座にレイフからツッコミが入り、コリンも無言で同意を示した上に鍛冶師からも促され、灰毛に覆われた頬に早くも朱を散らしながら鎧下を脱ぎはじめるドノバン。無駄な抵抗と知りつつもなるべく時間を稼ぐようにのろのろとそれをズリ下ろしていったが、逆に恥ずかしい想いをさせられる時間が長引くだけの気がしてきたので、男らしく覚悟を決めて一息に脱ぎ去る。
――それでもやはり恥ずかしくて心持ち内股&前屈みになってしまっていたのだが、鍛冶師は彼の頑健な太腿に手を添えると、両脚を肩幅に開いて背筋を伸ばすよう指示してきた。毛むくじゃらの陰嚢はもちろん、これまで仲間たちでさえ真正面から見たことはなかったドノバンの得物が曝け出される。
「へぇ……。タイショーってば随分と、お可愛らしいモノをお持ちだったんでやすね? それとも膨張率が頭抜けたりしてなさるんで? 道理で、キンタマを引っ張り出そうとあっしが中を探ってる時もどこにあるか分からねぇで――」
「だからレイフ! そう言う無神経な発言は控えろと[[rb:嘴 > くち]]を酸っぱくして……!!」
「っ……!」
恥辱に下唇を噛むドノバン。レイフの指摘通り、彼のソコは小ぶりどころか毛皮の中にほとんど埋没してしまっているような、極めて貧相な代物だった。なまじどこに出しても恥ずかしくないような堂々たる体格や、金貨がずっしり詰まった巾着袋でもソコにブラ下げているのかと見紛うほど巨大な陰嚢を有しているが故に、余計に惨めたらしく見えてしまう。
教会と無縁のレイフは言うまでもなく、研究者が本職のコリンも知る由はないだろう。『純潔の誓い』を立てた騎士たちの中でも、ドノバンのように教会付属の孤児院で育った者は、思春期を迎える前からずっと[[rb:貞操具 > ・・・]]の着用を義務付けられていたことを。それは肉欲を罪とする教義に則り他者との性交はもちろん自慰に耽ることによる“堕落”を未然に防ぐための器具であったが、単に外部からの刺激を封じるだけではなく獣根自体を激しく押し潰し、内側に金属の棘まで生えているようなサディスティックな構造になっていたこと。その結果たとえ朝勃ちしただけでも七転八倒するような苦痛を味わう破目になり、当然ながら獣根の発育自体が阻害されてしまったこと。
――正式に騎士へと叙任されたことでようやく貞操具を外してもらえたものの、その頃にはもう身体の他の部分は育ち切ってしまっていたこと。そしてまるで獣根の発育度合と引き換えにするようにして、元々体格相応に大きかった両睾丸がその後も、人並み外れてぐんぐん成長していってしまったことを……。
「でもまぁ、あっしだってンな他人様に自慢できるくれぇ立派なモンを持ってるわけでもねぇでやすが、雌を悦ばせることは十分できてやすし? サイズは関係ねぇでやすよ、ね、センセー? 何よりドノバンのタイショーは『純潔の誓い』を立ててなさるわけでやすから、短小包茎のお子様チンコだろうが一向に――」
「レイフ……?」
杖の握りに近い側で下顎をグイッと持ち上げられ、ようやく口を閉ざすと両手を挙げて「降参」の意を示すレイフ。生来のお調子者とは言え悪気があるわけではなく、彼なりに励ましたり慰めたりするつもりだったのだろうが、結果は御覧の通り傷口に塩どころか激辛ソースを塗り込んだような有様で、ドノバンはあまりの恥辱に物も言えず、牙を食いしばりながら筋骨隆々たる巨躯をプルプルと震わせてしまっている。総排出腔式=そもそも陰茎を持たないが故に短小だの包茎だのとは無縁なコリンまで何だか居たたまれない気持ちになってきて、せめてレイフだけは叩き出しておくべきだったと早くも後悔しはじめる。
――対する老鍛冶師は、甲冑師として最も脂が乗っていた時期に短小包茎もズル剥け巨根もすっかり見飽きてしまっていたのか、そちらには大して興味も示さなかった。が……
「これはこれは……確かにデカいのう」
さしもの彼もドノバンほどの陰嚢の持ち主にはお目にかかったことがなかったらしく、それまで気乗り薄な様子だったのが一転してしょぼしょぼさせていた両目を見開き、如何にも老練な職人と言った真剣なまなざしでその器官を観察しはじめる。胴も籠手もきっちり着込んでいると言うのに下半身は一糸纏わぬ裸、しかも局部まで丸出しにしている……と言う今の格好だけでもドノバンは正直恥ずかしすぎて気が遠くなりそうだったと言うのに、鍛冶師が節くれ立った指をソコに伸ばしてくると、まだ触れられてもいない段階からビクッ! と巨体を強張らせてしまう。
「そう緊張するでない。縮こまってしもうたら、数値に誤差が生じるじゃろうが」
布製のメジャーを伸ばすと、まずは陰嚢の付け根から端までの長さや、左右の睾丸どちらがより垂れ下がっているかを調べはじめる鍛冶師。そこまで綿密に測らなくてもとりあえず全体がすっぽり収まる形状や大きさの物を作ってくれれば……とドノバン自身は考えていたのだが、そんな“やっつけ仕事”は鍛冶師のプロ意識が許さないようだ。
「あっしは種族的にも金銭的にも全く縁がございやせんが、都会で高級なズボンを仕立てる時にゃ必ず『お据わり』を――てめぇの持ち物を普段、右と左のどっち寄りに収めるかを訊ねられたりするんでやしょう? きっとそれと同じでやすよ!」
「うっ、うむ……?」
しかし文字通り急所を握られてしまっているドノバンは気が気でない上、雄の肉体が防衛本能を働かせてソコをキュッと吊り上げたり縮こまらせたりしようとするが速いか鍛冶師の指に捕まって、元通り引き下げられたり皺を伸ばされたりしてしまう。鍛冶師の手つきはどこまでも職業的でレイフのような悪ふざけ感は皆無だったが、それが却ってドノバンの羞恥心を掻き立てて、あたかも己が異教徒に生け捕りにされた挙句見物人が大勢詰め寄せた広場で晒し物にされ、今まさにソコを切り落とされようとしているかの如き絶望的な感覚にまで陥ってしまう。脇の下や陰嚢の裏側にじっとりと、嫌な汗が滲み出てきた。
「ぬっ。む、ぐぅ……。まっ、まだ、終わらない、のか……?」
「落ち着かねぇのは分かるが、もうちっとの辛抱じゃ。後はふぐりの直径を――」
これまで不運にも幾度となく金的の犠牲となってきたとは言え、『純潔の誓い』を立てたドノバンにとってこんな風に他人にソコに触れられるのはほとんど初めてと言ってもいい経験である。徐々に慣れてくるに従って袋を揉みほぐされたりタマを探られたりする刺激が何だか快く感じられてきて、ドノバンはそれまで「へ」の字に引き結んでいた口を我知らず半開きにすると、はぁはぁと胴鎧を上下させはじめる。身体が芯からぽかぽかと温まってくると共に、これまで長い間物理的にも精神的にも抑圧されてきた“雄としての欲望”がじわじわと、まるで堅牢な鎧の隙間から滲み出るようにして広がってくるのが如実に感じられた。
――思わず喉の奥から漏れそうになる悩ましげな息を噛み殺しつつ、そんな己の“浅ましい”欲望を必死に再び封じ込めようとして、一心不乱に神へと祈りを捧げ続けるドノバン。一通りの採寸を終えたらしい鍛冶師がようやくソコから手を離してくれたので一安心したのだが、
「……あれ? タイショー、もしかして勃っちまってやす? いや、にしてもちっこすぎるから角度の関係でンな風に見えるだけかも知れやせんけど――」
「レイフ!」
再び喉首に杖を突き付けられて「降参」のポーズを取るレイフだったが時既に遅し、コリンや鍛冶師の視線もドノバンのソコに注がれてしまっていた。元がほとんど毛皮に埋没しているような有様だったので分かりづらいものの、確かにソコが熱を帯びている事実を誰よりもよく理解しているドノバンはますます顔を赤くする。
――それ自体は採寸中にありがちなハプニングらしく鍛冶師は平然としていたものの、事のついで、とばかりにソコにもメジャーを宛がってくる。己の粗チンぶりを明確な数値で示されたドノバンは危うく神に呪いの言葉を吐きかけてしまうところだったが、そんな仕打ちに遭いながら彼の分身は恥知らずにも目いっぱい膨張し、それでも毛皮が余って窄まっている先っちょからとうとう悔し涙まで滲ませはじめた。
「くっ。うう……」
「随分と溜まっておるようじゃのう。『純潔の誓い』だか何だか知らぬが、多少は吐き出さぬと身体に毒じゃぞ?」
慣れた手つきでその透明な雫をボロ[[rb:布 > きれ]]で吸い取ると、反対側の手のひらでドノバンの陰嚢を持ち上げ、まるで重さを量るようにユサユサと上下に揺らしてみせる鍛冶師。パンパンに張り詰めた左右の睾丸が内部で揺れ動く様が分厚い陰嚢越しにも明瞭に見て取れ、レイフは興味津々と言った顔。せっかく解放されたと思っていたのに再びソコをオモチャにされはじめたドノバンはこの辱めを必死に耐え忍ぶも、そうしてタマを揺さぶられていると何とも言えない快感が広がってくるのもまた否定しがたい事実だった。毛皮の隙間から糸を引いて垂れ落ちてきた我慢汁を、鍛冶師が再びボロ布で吸い取る。
「や、でも冗談は抜きにしてもこんだけデカいと戦闘中はおろか、普通に日常生活送るだけでも邪魔になっちまいそうでやすね。椅子に座る時にうっかり挟んじまって悶絶したり、走る時に草摺にバシバシぶち当たって吐きそうになったり。ンな重大なハンデを背負いつつも、よく今まであっしらのことを護ってくだすって――」
「……その舌を、上下の顎ごと矢で縫い留めてやろうか?」
「いや、そいつの言うことも尤もだ。こんな嵩張る代物を股の間にブラ下げてたんじゃあ、とても戦に集中できんじゃろうて。
――試しに、この場で足踏みや回れ右をしてみてくれんか? “可動範囲”を調べておきたい」
「なっ……!? いっ、いや、それは……」
こうして下半身裸で直立不動の体勢を保っているだけでも恥ずかしいのに、実際にタマをブラブラさせている現場まで見られるのは騎士としての沽券に係わる。さすがに難色を示してしまうドノバンだったが、鍛冶師は彼の剥き出しの太腿を軽く平手で打ち、有無を言わさず促してくる。
これが他の騎士ならば「無礼者!」と怒鳴って一刀の下に斬り伏せていたところかも知れないが、相手は真面目に己の職務を果たそうとしているだけだと重々承知しているドノバンは再び唇を「へ」の字に引き結ぶと、指示通り足踏みや回れ右をしてみせた。見習い時代の訓練と同様に、新たな指示が下るまでその場で何度も繰り返す。
毛むくじゃらの陰嚢が重量感たっぷりにユッサユッサと揺れ動くごとに先程と同じ、何とも言えない快感が広がってくる。おまけにそれに連動して獣根付近の毛皮が伸び縮みすることを繰り返し、まるで公衆の面前で皮オナでもさせられているような刺激と恥辱にドノバンはフー! フー! と鼻息を荒げつつも、粗チンをいじらしいほど膨らませてしまう。とは言え完全に勃起しても彼自身の小指にも満たないサイズのソレは毛皮にほとんど埋もれたままで、隙間から亀頭を覗かせもしない。ただ身動きするたびにその隙間からタラタラと漏れ出て陰嚢を伝い落ち、今や縫い目の半ばに達している我慢汁だけが彼の興奮具合を如実に指し示していた。
――鍛冶師から「もういい」との声がかかると、ドノバンはハッと我に返って動きを停めた。いつしか採寸中であることを忘れ、タマを揺さぶること自体やそれによってもたらされる快感に夢中になってしまっていたのだが……。
「お次は、もうちっと脚を広げて……そうじゃ。前後左右に、腰を大きく振ってみせてくれ」
対する鍛冶師ももはや本来の目的を忘れ、この大男がデカ玉をブラブラさせている光景自体に目が釘付けになってしまっているみたいだし、レイフはそれに便乗して面白がっているようだ。本来はストッパーになってくれる筈のコリンもすっかりドノバンの雄々しくも滑稽な器官やその動きに目を奪われてしまった風に、嘴を閉じて固唾を飲んでいる。
――そんな三人に対してさすがに生真面目なドノバンも反論したり、やはり躊躇を見せたりする……と思いきや、彼は素直に鍛冶師の指示に従った。逞しい両腕を組んでみせたり腰に当てたりしながら、むしろ「これも採寸の一環なのだから」と自己弁護する風に、これ見よがしにタマを前後左右に揺らしはじめる。あるいは頑健な内腿に、あるいはピコンと飛び出た尻尾の方に、あるいは小さな勃起を覆い隠すようにデカ玉が踊り狂う様は、ドノバン自身が真面目腐った顔をしていることも相俟って、本当にそう言う振り付けの民族舞踊や神楽でも披露しているかのようだ。
「……」
そんな目の前の光景にこれまでずっとふざけていたレイフまで急に厳粛な顔になって、手拍子を取りはじめる。宴会芸の時よろしく囃し立てるのではなく、自らもその一員として“神聖なる儀式”に参加しようとするかの如くに。コリンも鍛冶師もそれに釣られて手拍子に加わり、狭苦しい工房は一種異様な雰囲気に包まれた。
ドノバン本人もまたその雰囲気に完全に呑まれてしまったかのように、手拍子に合わせてひたすら腰を振り続ける。今や緊張と恥辱以外の理由で付け根に吊り上がって縮こまりつつある両睾丸を、まるで陰嚢ごと己の股間から振り落とそうとする風に時計回りや反時計回りに円を描いたり、逞しい臀部を後ろに突き出したり。そのたびごとに彼のデカ玉は遠心力で付け根から僅かに引き伸ばされては、また元に戻ることを繰り返す。
「うう……くっ。ふんっ、ふんっ! ぐぁ、ああ、はっ……!」
ベテランの騎士にとってはそこまで激しい運動ではない筈なのに灰色の毛皮はびっしょりと汗に濡れ、辺りに大粒の雫を飛び散らせている上、とめどなく溢れてくる我慢汁が銀色の糸を引きながらピッ! ピッ! と彼自身の膝や床を汚しはじめている。おまけにあまりに乱暴に振り回し続けているせいで鬱血してきてしまったのか、いつしか陰嚢全体が腫れぼったくなって熱を帯び、鈍痛まで感じるようになってきた。
それでもドノバンは小休止を挟むことなく無心に、真剣すぎてどこか滑稽なまでに腰を振り続ける。三人の手拍子に釣られたのか、それとも彼が腰を振る動きの方に三人が合わせたのか分からないが、その動きも手拍子もどんどん間隔が狭くなってゆく。
明らかに異様な……敢えて言うならば[[rb:異教的 > ・・・]]な雰囲気にも係わらず、否それだからこそ、ドノバンはもはや自分の意志ではその動きを停めることができなくなってしまっていた。まるで血液だけでなく己の思考力までもがその器官に降りて行き、滞ってしまったかのように。熱っぽさや鈍痛の中に混じっている紛れもない“快感”を――正規の手段では己に禁じられてしまっているその感覚を、ここぞとばかりに貪るように。
「ン゛ッ……!?!?!?」
ドノバンがまるで金的を食らった時のようにビクン! とその巨体を硬直させたかと思うと、毛皮の隙間から我慢汁とは明らかに異なる液体が漏れ出した。まさか年甲斐もなく失禁してしまったのか……と我に返って愕然とするドノバンだったが、ドプドプと溢れ出て来るその黄ばんだ液体は妙に粘っこく、重力にも逆らってなかなか垂れ落ちずに彼の毛皮にへばり付いている。強い獣臭が鼻を突き、我知らず両膝がわなわなと震えた。
――それこそ長年溜まりに溜まっていた己の子種であると、遅ればせながらに理解するドノバン。思春期を迎える前から貞操具を着用させられていた彼は精通すら極めて不自然な形でしか経験しておらず、従って一瞬その正体が分からなかったのだ。
己が神の教えに背いて“堕落”してしまった事実を知り、呆然とするドノバンだったが――それと同時に、彼はまた理解もしていた。これまでただの邪魔物やコンプレックスの対象でしかなかったデカ玉こそ、己にとって最大の[[rb:性感帯 > ・・・]]であったことを。……
〈了〉
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