少年は毎朝の日課となっているランニングを朝のひんやりとした空気が肺に入る感覚を楽しみながら行っている。静かな住宅街を抜けて小川に架かる小さな橋を渡り曲がった時にふと気になるものが見えた。
「ん?なんだろうずいぶん散らかっているなぁ」
好奇心に駆られ急な斜面を慎重に降りていく。風化して砕けかけた石材や朽ちかけた木片などが散らばっていた。そして、祠の傍らに置かれた小さな狛犬。形こそ崩れているもののかつてはそれなりに立派な祠だったのだろう。時の流れと自然の力に抗えずその姿を失っていた。
そんな祠を見ると少年の胸に、なぜか申し訳ないような気持ちが湧き上がる。こういう祠は誰かが大切に祀っていたものに違いない…。
「こんな状態じゃ…なんだか可哀想だよな……できる範囲で直してみるか!」
散らばった石材を拾い集め、少しずつ祠の形が見えてきた。しかし、素人の技量では限界がある。出来上がったものは、芸術的なセンスが壊滅的だったのもあり元の形に近づけようするほど明らかに不格好で、オリジナルの美しさには程遠いものが出来上がってしまった…。
「うーん、これが精一杯かな!」
満足した少年は小走りで去っていく少年はふと背中に違和感を覚えた。誰かに見られているような、そんな奇妙な感覚。振り返ってみても誰もいないので気のせいと思いランニングに戻っていくのだった。
深夜、少年は突如として目を覚ましてしまう。少年は眠りの中から引き戻された感覚に戸惑いを覚え何か違和感があった。体を動かそうとするが指一本すら動かない。
目は開いているのに体が全く動かない。そう気づいた瞬間、金縛りのような状態に陥ったことに恐怖を感じた。体を動かすことができないので視線だけを動かしてみる。
部屋を見回す少年の目に、異様な光景が飛び込んでくる。そこには、半透明の幽霊のような存在が浮かんでいたのだ。薄い霧のように揺らめきながら、それは確かにそこに在った。
(な…何だ…これ…)
時間が過ぎるにつれ、幽霊の輪郭は炎のように揺らめいておりくっきりとは見えていないが形としてはっきり見え始めた。人間の女性のような風貌があるが耳の形は三角形と長く突き出てい短い尻尾は巻き上がっている。
ふわりと目の前に立ち止まると苦笑いをしながら軽くと一礼をされる。その仕草に少年は驚きを隠せなかった。言葉こそ発していないがその姿勢からはこれから起こることへの許しを請うかのような申し訳なさを感じられた。
そして、獣毛と肉球の見える手のひらを少年の頭上にそっと置いた。
突如として、少年の体を覆っていた布団が吹き飛んだ。まるで強風に煽られたかのように、部屋の隅へと舞い飛んでいく。次の瞬間、少年の体は仰向けの大の字に固定された。
目の前の何かも少年と同じポーズをとりゆっくりと近づいてくる。その姿は、少年の体に重なろうとしているかのようだった。恐怖と好奇心が入り混じった感情が、少年の胸の内で渦巻く。
(え!何が起こってるの!……僕どうなっちゃうんだよ…)
極限まで近づいた影は、少年の足先から徐々に重なり始めた。それは、まるで柔らかい風船を押し付けられて、体に何かが入ってくるような不思議な感覚が広がり始めた。
(んぐぐっ!…怖いけど!動けない!……でも、なんか心地よい感じもするし…)
心の中では抵抗を続けているが体がピクリとも動かすことはできなかった…。
足先から徐々に上へと、その感覚は広がっていく。気持ちがいいものの少年の意識は恐怖と困惑の間で揺れ動く。体の自由は奪われて心が浸食されている感覚感じているのに、むしろ解放されていくような感覚。
ふくらはぎ、腰、胸と、徐々に上へと進んでいく重なり合う感覚。それはマッサージを受けた後のような心地よさが強くなり、少年の意識をとろけさせていく。しだいに恐怖心は薄れ、しだいに穏やかな受容の気持ちの支配が強くなる。
(ああ……なんか気持ちいいし…このままで…いいのかな…)
首元まで重なり到達し頭部分が重なり始める。もはや頭も回らなくなっていた。体が動かないことへの不安も消え、むしろこのまま動かなくてもいいという思いが強くなる。全てを受け入れ、ただ身を任せる。そんな心境へと完全に少年は変化していた。
ついにピタリと重なったその瞬間、少年の体が熱くなりどくん、どくんと鼓動の間隔が少しずつ早くなっていく。
「はうっ!?……んっ?…………ううっっうっ!!」
いつの間にか意識が戻り声が発せるようになったことなど気にする余裕もなく唐突な火照りが少年を襲う。
少年はこの感覚を何度か味わったことがあった。この年にもなると男性のほとんどは体験するであろう感覚……。
自身も何度か経験したその感覚は紛れもない自分を慰める快感そのものだった。刺激してもいないのに唐突に生まれたことで少年は戸惑いを隠せなくなっていた。
(なんだよっ!!……い、いきなり!…んっ……きもち……よ…くぅぅっ)
下半身に血流が集まり、むくむくと角度が増し鎌首をもたげていく。身体に送られる快感と理解が追い付かない高ぶりに身をよじりたいが金縛りのせいで動くことができない。全身を甘い撫でられるような感覚が奔り、竿の先端から透き通った粘り気のある滴が鈴口からぷっくりとと滲み出しはじめる。
「んっ!!……ぐぅ…ううううっ!!」
快楽に喘いでしまう少年の声が響く。
いままでに一番のすさまじい快楽を抑えきれず、股間の竿は膨張しきり先走りをドロドロと垂れ流しながら、強制的に自慰の最終地点まで上り詰める。反射的に危険な快楽に抗おうとするが理性や意識が下半身が集まっていき自分という心のすべてが上半身から押し出され股間へと集まっていくことは止めることのできないことであった。
「ゔあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!!!!…んっ!!ぐゔゔゔゔゔぅ゙ぅ゙ぅ゙!!!!」
快感が弾け白い白濁を吐き出すとともに感情も理性も思考、常識、まるで魂を射精しているような強烈な射精が始まった。
いままで絶頂の経験してきたものとは次元の違う感覚に、脳から思考が抜けきるような錯覚が断続的に続き意識が飛んでしまう。
そして、絶頂で意識を飛ばされ強烈な快感で覚醒する。止まる気配を見せず連続して射精を行われ男性としての限界など超えた量の白濁を噴出している。
「ぼ、ぼくが出ていくぅぅぅぅ!!………ワタ…ぼクが変わっちゃっ!…うぅぅうぅぅぅ!!!!」
吐き出すたびに陰茎の大きさが縮んでいき完全に縮み切ると同時に体全体も変化が起きる。
消えている男性の筋肉質な体から丸みを帯びた女性のものに変わっていく。精液が止まるころにはすっかり身体は変化してしまっていた。全身の肌は透き通るような白い肌になり胸もかなり大きくなっている。陰茎は陰核に変わっており玉袋はなく変わりに筋が出来上がり割れ目が存在していた。
「っあああんっ!!!!」」
体を大きく震わせ出来上がった割れ目から、透き通った体液を吹き出し少年は初めての女性の絶頂を迎えた。
女性となった少年にさらなる変化が襲う。パキパキと音を立てながら足先から獣毛に覆われていき骨格までもが変形していく。お尻から生えたふさふさの尾は次第に大きくなりくるっと丸くなる。頭からは大きな耳がぴょこんと飛び出し鼻の位置が高くなる。
少年を依り代に綺麗な白い獣毛が全身を纏う祠の神に仕える狛犬の獣人として顕現した。
「はぁ…はぁ……無事に体を借りることができましたね……」
荒い息遣いが先ほどの喘ぎが静まり返った部屋に響く。少年…いや、もはや少年とは呼べない崇高な存在が、ゆっくりとその場に立ち上がった。
「さすがに裸ははしたないですからね」
彼女の体から淡い光が放たれ始めまるで青く光る炎のようなものが凝縮したかのような神秘的な輝きを放つ帯が生まれる。その帯は彼女の体を包み込むように広がりやがて形を成し始め、徐々に実体化していった。真っ白な襟元、深紅の袴がとなり巫女装束のようなものに変化する。
「先ほどは祠を直していただき大変ありがたかったのですが……その……ちょっとアレでしたので…」
彼女は祠の神の使いであった。少年が祠を修復してくれたがあまりにも不格好だったために自分手を加えて完全に直すために少年の体を借りて降臨したのだ。
「こうして人の体を借りないと物理的に干渉できないのは不便ですね。依り代にしたあの少年には申し訳ないことをしましたが……こうでもしないと主様がうるさかったもので…」
当たりを見渡し窓を開けるとベランダに足をかけて飛び降りる。夜の闇に溶け込んでいくように姿をくらませていった。
朝日がカーテンの隙間差し込み、少年の瞼を刺激する。ゆっくりと目を開け天井を見上げる。起きたばかりで頭の中は靄がかかったようにぼんやりとしていた。
「ん…なんだか変な夢を見た気がする…」
体を起こそうとしたが腕に鈍い痛みを感じた。筋肉痛のような感覚があり特に腕の痛みが強く、まるで腕全体を使った労働を何時間もしていたかのようだった。
「おかしいな...昨日そんなに運動したっけ?」
記憶を辿ろうとするが、昨夜の出来事はぼんやりとしか思い出せない。金縛りにあったことは覚えているが、それ以降のことは霧がかかったようにはっきりしない。何かあった忘れているような、そんなもどかしい感覚が胸の中にあった。
ベッドから起き上がると不自然な匂いを感じ部屋を見回した。そして、机の上に目が留まる。そこには見覚えのない工具類が散らばっていた。木くずの匂いが残る小さなのこぎり、接着剤、そして…小さな狛犬の像。
「これ...いつの間に...?」
少年は慎重に狛犬を手に取った。手のひらに乗るほどの小さな置物だが不思議な温かみを感じる。どこかで見たような気がするが、はっきりとは思い出せない。
「ますます分からなくなってきたなぁ…」
頭を抱えながら深いため息をつく。考えれば考えるほど、昨夜の出来事が謎に包まれていく。しかし、いくら悩んでも答えは出そうにない。
少年は肩をすくめ、日課のランニングの準備を始めた。体を動かせば、すっきりするかもしれない。
いつものコースを走りながら、少年の心は徐々に落ち着いていった。
しかし、ある場所に差し掛かったとき、少年の足が自然と止まった。
「あれ…?」
目の前には、昨日見つけた古い祠がある。しかし、その姿は昨日とは明らかに違っていた。壊れていたはずの祠がきれいに修復されているのだ。
「町の役場の方が直したのかな……ま、きれいになってよかったかな」
少年は軽く手を合わせ、祠に一礼した。そして、再びジョギングを再開しようとしたその時だった。
『ありがとうございました…』
その瞬間、耳元でかすかな声が聞こえた気がした。少年は驚いて振り返ったが、そこには誰もいない。ただ、電柱の上にいる小鳥たちのさえずりが聞こえてくるだけだった。
首を傾げながらも、少年の心には不思議と温かいものが広がっていた。祠の前を走り去る少年の姿を誰かが温かな眼差しで見守っているような気配がかすかに漂う。
それが誰なのか、少年には気づくべくもなかった…。