部長は今日も飢えている

  特に何かやらかしたわけではない。残業が発生する、それ自体は至極日常的なことだから。問題は、どう考えても終電すら見送ってしまいそうなほど仕事が終わる見込みがない現状なわけで。

  「ぐぇーーーー終わらんっ!」

  既に事務所に自分以外のヒトは一人たりともいやしないからこその絶叫。こんなの初めてだ、普段ならとっくの昔に布団の中で寝る準備をしてる頃合いだっていうのに!何が悲しくて日付が変わりそうになっても机にしがみついていなきゃいけないんだ。今日は帰りにジムへ寄ろうと思っていたのにだよ。

  こんな日に限って、普段ならまだ残っていそうな弊社残業四天王がこぞって不在だという事実が孤独をさらに加速させる。いつ寝てるんだか定かですらない課長すら先に帰った時は愕然としたよ、とことん見離された気分になるじゃないか。

  「……うん、帰るのはもう諦めよう。でも休憩くらいはしたいっ」

  こうなったら朝イチの始発で帰ってシャワーだけ浴びよう。そう決意したら残り時間を考えることが馬鹿らしくなってきたな。あぁ、集中が一気に切れて思考が散漫になっていく。これはどう考えても疲れすぎだ、思えば定時を過ぎてからろくに休憩をとっちゃいない。

  「んーっ……そうだ、トイレすら行ってなかったっけ」

  ひとつ大きな伸びをして、体の緊張をほぐすと膀胱が尿意を訴えていることに気付いた。ずっと椅子に座り続けていたことを考えれば相当我慢してたことだろう、自覚すると一気に漏れそうなくらいに下半身が震え出す。早くトイレに行かなければ。

  「電気……点いてないよなーもう! 点けてる時間が惜しい!」

  正直夜中の電気がついてないトイレほど心臓に悪いものもないけれど、電灯のスイッチを探しているより手に持っているスマホで直接便器を照らして用を足す方が手っ取り早い。まったく、いい加減人感センサーくらい付けてくれよな。急いでズボンを下ろして……ふぅ、間に合った。仕事が続いていた分の解放感がたまらん。……ついでにもう少し己を解放したいところだけれど、ここは職場だ。決して一日パンツの中で蒸らされた己のチンポの臭いに当てられたわけでは決してない。……自分のものとはいえ興奮するよな、こういうの。実のところ俺のチンポは今まで出会ってきた男と比べてもかなり大きい方ではある、背丈も平均以上はあるから、体格と合間って俺の密かな自慢だ。もっとも、こんな仕事漬けになっているうちは使う予定なんて。

  「おい」

  「ひゅい!?」

  っ……心臓が止まるかと思った。誰だよ、こんな暗い中で声をかけてくるのは。巡回の警備員か?

  「二課のイヌガミ君か」

  「……シシザキ、部長」

  いくつか予想は立てていたけれど、一番予想外の相手が俺のスマホで照らされている。こんな夜中でも鬣を整えたライオンの男、総務部のシシザキ部長その人が背後に立っていた。俺より少しくらい小柄で、幾人か存在する部長連中の中では若い部類に入る壮年で、笑ってるところを見たことがない程度には無愛想だけど仕事はすごく出来るヒトらしく、正直結構いい男だと思うこの人がこんな時間に何故ここに。

  「残業か、お疲れ様」

  「あ、お疲れ様です。その、シシザキ部長もですか」

  「あぁ、出先から帰るのが遅れてしまったからな。帰って自分の業務に取り組んでいたらこんな時間になってしまった」

  やれやれだ、と言わんばかりに肩を竦めるシシザキ部長だけれど、ちゃんと話すのは初めてだな。特段仕事の上で接点があるわけでもなし、まだまだ若手の部類に入る俺と面と向かって顔を見る機会なんて早々ないもんな。……案外ガタイいいな、鍛えているんだろうか。きっちりネクタイを締めたスーツは心なしか内側から張りつめている気がする。

  「イヌガミ君は電車通勤だろう、この時間まで残って大丈夫なのか」

  「あぁ……どうせ終わらないし、もう帰るの諦めましたよ。今日はこのまま泊りでなんとかします」

  俺の発言に対して露骨に顔を顰められたんだが、一体何が気に障ったんだ……?

  「その終わらない業務というのは、具体的には」

  「あ、それはですね……」

  「……なるほど。そういうのは明日に回してもいい、上長には僕から言っておく」

  「え”。……いいんです?」

  「いい。これ以上残業される方が困るからな」

  マジでか、言ってみるもんだなぁ。上司からは期限を設定されていたから焦っていたけれど、そうと決まれば部長の発言権を遠慮なく笠にさせてもらおう。逃れられる責任は全力で逃げていく男だぞ俺は。

  「ありがとうございます。じゃあ、近くのカプセルホテルでも探すかなぁ」

  「……僕もそろそろ帰るところだが、君さえよければ泊っていくか」

  「え”?」

  今夜はとことん思いもよらないことが起こるらしい。一体どういう風の吹き回しで、ほぼ初対面に等しい一社員にそんな声をかけるので?

  「会社都合でホテルに泊まらせるわけにもいかないだろう。僕みたいなオッサンの部屋が嫌でなければだが」

  「あっ嫌ではないですありがたいですハイ」

  ついつい食い気味に返事をしてしまったけれど、マジでかぁ。いきなりシシザキ部長のお宅訪問ができるだなんて、仕事を頑張った甲斐もあるというもの。下世話な下心をひた隠して、ここはありがたくお言葉に甘えておこうじゃないか。なんだか宅オフみたいでちょっと興奮してくるなぁ。

  「じゃあ上がる準備をしてくるから、下で待っていてくれ」

  「了解です、お世話になります!」

  「……それと、そのまま外に出るのは」

  うん? シシザキ部長が、俺の下半身に指を指して……あ”。

  「シツレイシマシタ」

  そういえば振り向いてからは驚きっぱなしで、ファスナーからしっかりと顔をお出ししている僕のチンポが太々しく揺れていた。このまま外に出てしまえばとんだ変質者もいいところだ、なんで気付かないかなぁ俺は!

  会社から部長の車に揺られること二十分程度、その間にいろいろと会話をしてある程度のパーソナルな部分はお互いに共有することができた。お互いの出身とか、生い立ちとか。俺は仕事も六年目に差し掛かって、後輩をもったり大きな業務にも携わるようになってきていたりとか、部長はその若さで出世してしまったものだから役員や周囲からの圧に耐えつつどうにか過ごしているとか。部長は運動が趣味らしく、俺もジムに通っていることをそれとなく伝えてみたり。それから、お互い独身で恋人もいないとか。俺はともかく、部長も今は仕事一筋で出会いとか付き合いにかまけている余裕がないらしい。出世するのも大変だ。

  「さ、上がってくれ」

  「お邪魔します。……広いですねぇ」

  やはり部長職に就いているだけあって、一人暮らしにしては割と広く感じるマンションの一室が俺を出迎えた。その分大変な仕事をしてるんだろうし、こういうところで釣り合いを取っているんだろうか。

  「来客は想定していなかったから所々乱れているが、あまりつつかないでくれると助かる」

  「いえいえ、俺の家よりよっぽど綺麗ですって。床が広いと清潔感出ますね」

  俺の家だってそこまで汚いわけではないけど、やはり床面積の差は明白だ。俺ももう少し収入に色が付いていればなぁ。

  「イヌガミ君はもう、すぐにでも寝たいだろうか」

  「あー、眠気はそこそこにありますけど……まだ大丈夫ですよ、明日もそこまで早くないですし」

  普段なら電車とバス込みで一時間以上かかる会社への道のりを三分の一まで抑えられるんだ、つまり四十分は長く寝られるということになる。これは大きい、朝の時間は貴重だからね。

  「そうか。それなら先にシャワーを、いや。しかしな」

  「部長?」

  何をそわそわしているんだろうか。背中を向けたまま何か躊躇しているようだが、背後から見ると尻の圧が凄いな。むっちむちにスラックスを内側から圧迫しちゃって、あまつさえその場でベルトを外してそのままパンツごと一気に降ろして肉厚な双丘を晒してえっえっえっ。

  「あのっ部長あのっ」

  「……悪いが、僕は君が思っているようなヒトではなくてね」

  振り向いた部長の呼気ははぁはぁと上気していて、興奮しているのは俺の目から見ても明確なわけで。なんで?

  「実のところ、君の逞しいおちんぽを見てから疼いてしまっているんだ。はしたないケツマンコで恐縮だが、犯してもらえるだろうか」

  部長の両手が尻肉を掴み、両方にぐいっと開かれる。うっわ、すげ……文字通りのケツマンコじゃないか、窄んでいると思った尻穴が縦にばっくり開いてヒクついていやがる。

  「部長、やば……どんだけアナル使い込んでるんですか」

  ノンケだったらドン引きしてるんだろうな、俺が救いようのないタイプのホモだったことに感謝してほしい。いきなり部下に使い込んだ尻穴見せつけるとか、どう考えても異常じゃないか。

  「さっきは運動が趣味だと言ったが、本当はアナルセックスが好きなんだ。太くて大きいおちんぽなら尚更いい」

  「マジですか、ど変態じゃないですか」

  何がすごいって、頬こそ若干紅潮しているみたいだけど、平然とした態度のまま下半身を見せつけているところだろう。一体全体どうしてここまで救いようのない変態になったんだか。

  「そうだ、ど変態の淫乱ライオンだ。どうか遠慮なく使ってくれると嬉しい」

  冷静に考えるとおかしいことこの上ないが、ここまで熟れた肉壺を堂々と見せつけられてムラつかない俺じゃあない。スーツを脱ぐのももどかしく、スラックスのファスナーを下ろして張り詰めた怒張を引っ張り出す。さっきから勃起しっぱなしで痛かったんだ、俺に犯されたくて疼いているふしだらな穴に今すぐにでもぶち込みたくてたまらない。

  「マジで、ヤっちゃいますよ」

  「あぁ、既に慣らしてある」

  いつ慣らしてたんだ、まだ部屋に入って五分も経ってないぞ。確かに部長の開いたケツマンコはローションと思しき粘液がてらてらと淫靡な光沢を纏っているし?脱ぎ捨てられた部長のよく見たら際どい下着の尻にあたる部分は若干湿っている。

  「君が用を足しに来る少し前から、個室でアナニーをしていた」

  「いや何してんですか変態」

  職場でなんてことしてんだこの上司は。俺は用を足すので夢中だったけど、その間すぐ後ろで声を押し殺して尻を弄ってたっていうんだな。

  「家まで我慢できなかった。君が入ってきた時は思わずイきかけた程だ」

  「やばすぎですよ部長」

  イってたら流石に臭いで気付いただろうか。いや、今となっては瑣末なことだな。シシザキ部長ほど淫乱だなんて認めたくはないけど、俺もそろそろ我慢が効かなくなりそうだ。

  「それじゃ、挿れますからね……!」

  亀頭が部長の柔肉と触れ合って、先端からずぶずぶと沈み込んでいく。これ想像以上に気持ちいい感触してるな、程よく緩くて俺のチンポでも苦もなく飲み込んでいくじゃんか。大抵は少しきつかったり全部入らなかったりするけれど、部長のケツはあっさり俺を根元まで飲み込んでいた。

  「どうです、全部入りましたよ……!」

  「あぁ、とてもいい。ここまで大きい生おちんぽは初めてだ」

  密着したまま部長の腰を掴んで、片手で部長の下腹部をそっと撫でてみる。なにせ全部入ってるんだ、臍下あたりまで押し込んでるかもしれないと思ってさ。

  「緩くないか」

  「大丈夫ですよっ、とろとろで気持ちいいです」

  「そうか、よかった。物足りなければ締めるから言ってくれ、多少手荒く抱いてくれるとありがたい」

  かなり太いものが内部を抉っているはずなんだが、背中越しに覗く部長の表情は相変わらずしっかりと理性を保ってそうに見える。俺だったら尻に何か入っている時点で乱れそうなのに、どういう精神してるんだこの変態上司。

  「それじゃ、動きますからっ」

  手荒くしていいと言うのならば、その通りにしてやろう。両手でしっかりと腰を掴んで、腰を引く。半分くらい抜けたところで、思い切り押し込む。

  「んっ」

  かなり勢いをつけて叩き込んだと思ったが、部長の口から漏れたのは喘ぎにも満たない小さな声だけだった。まさか、何も感じてないわけじゃないよな。

  「どうですか……?」

  「あぁ、その調子で構わない。……不感症ではないから安心してほしい、僕のおちんぽを見てもらえばわかると思う」

  そういえば部長のチンポはどんなものか、先に尻を見せつけられてしまったから見ていなかったな。それじゃあ失礼して。

  「ほんとだ、しっかり感じてるんですね」

  俺よりは控えめだが、それでもしっかりとした大きさを持った部長のチンポがしっかりと上を向いていた。試しに小突いてみると、先端から透明な雫が溢れて竿を濡らしていくところまでばっちり確認できる。相当なモロ感マンコじゃないか。

  「オナホとして扱われた頃に、表情に出さないよう躾けられただけだ。気にせず続けてくれ」

  「いや気になりますって。誘惑してきたのはシシザキ部長の方じゃないですか。俺はセックスしたいんですよ、シシザキ部長もヨガってるとこ見たいです」

  なるほど、文字通りオナホとして調教されてきたってことか。凄いなこのライオン、忠実に性処理道具であることを受け入れてきたのか。いっそ風俗で働いてた方が余程幸せなんじゃないのか?

  「一理あるな。わかった、善処しよう」

  「本当にわかってるんですかね。よっと!」

  どうやら感じてはいるらしいので、さっきよりも少し激しめに腰を押し込んでみる。普通これだけ派手にヤったら文句を言われるものだけど、部長の口からは不満一つ漏れてこない。なんてタフマンなんだこのヒト、反応が良ければ文句なしじゃないか。

  「まさかっ、シシザキ部長がホモセ中毒だなんて、思いませんでしたよっ!」

  「うまく隠し通せていたようで何よりだ」

  おまけに言葉での煽りも効いている感じがしない。無敵か? 部長の体が時折びくりと跳ねているのと、チンポの先端から押し出されるカウパーが感じていることは伝えてくれているけれど。

  「イヌガミ君はセックスが上手いんだな、とても気持ちいい」

  「真顔でっ、言ってんじゃ、ないですよっ……!」

  表情や態度は一切変わらないけれど、部長の尻肉がヒクついて俺チンポに絡みついてくる。本当に変な感覚だ。俺と部長は間違いなくセックスをしているのに、どこかオナホを使った独りよがりな自慰行為みたいな虚しさが残っているような。

  「イヌガミ君、今のペースでもう少し奥を突いてほしい。そろそろメスイキしそうだ」

  「イきそうなのかよっ! ほんっと、わかんねーヒトっ!」

  部長の肉壺の中でもがきながら、それでも早まる呼吸と紅潮した頬が見てとれた。どうやら絶頂が近いのは本当らしい。俺が犯しているのに、ペースは終始握られているようでもどかしい。というか、俺もこれだけ具合のいいケツマンコは初めてで、もう持ちそうにない。

  「シシザキ部長っ、俺もやばいですっ!」

  「構わない。好きなだけ中出ししてくれ」

  最後まで事務的に要望を述べていた部長の体が一瞬びくりと震えた。同時に尻穴が締まっていくから、俺のチンポももう限界を迎えるしかなかった。

  「部長、イくっ、イきますからねっ!!!」

  野放図に部長の中で精液を撒き散らしながら、何を律儀に報告しているんだろうな俺は。文字通り搾り取られるように、部長の尻肉が蠢いて俺のチンポから精液を吸い上げていく。俺が注いでるはずなのに、そんな錯覚すらしてしまう。

  「いい射精だった。お疲れ様、イヌガミ君」

  「……イった後くらい余韻持っていただいてもいいすか」

  床を見れば、部長の足元から壁にかけて白く歪な線が生まれていた。部長の精液、一回ですごい出てないか……?

  「あぁ、床は心配しなくていい。後で拭いておく」

  「いや、別に心配は。いや確かに部長の家を汚したのは申し訳ないですけど、あぁもう」

  事後ですら淡々とした対応をされたら、本当に性欲処理に付き合っただけみたいじゃないか。もうちょっと、こう、あるだろ!

  「……あの、ちょっと聞いてもいいですか。自分からオナホになりたかったんです?」

  「む、それは違うな。気付けば今の体に開発されていた。気になるのか」

  気にならないわけないだろう。このヒトは何がどうしたらここまで淫らなサラリーマンになってしまったんだ。

  「なら続けながら話そう。そのまま聞いてくれ」

  「嘘だろヤりながら!?」

  驚愕、というかドン引いていたら首だけ振り向いて視線で訴えてきたぞこの淫乱ライオン。これ俺がセックス再開しないと話してくれないやつだ、視線でわかる。こっちもイったばっかだってのに容赦ないなこのヒトは。

  「せめて場所変えませんか。玄関で盛りっぱなしというのも」

  「む、わかった。寝室に案内しよう」

  部長の寝室は一見すれば普通の寝室そのものだった。一人で寝るには妙にベッドが大きいのと、サイドテーブルからやけに雄の臭いがこびりついたビニールシートが出てきたこと以外は。

  「嫌に準備がいいですね……」

  「普段は二日に一回必ずアナニーをしているからな」

  「ほぼヤり部屋じゃねーですか」

  ここまで突き抜けた淫乱だといっそ感心すら抱いてしまう。移動の間に部長は衣類を全て脱ぎ捨て、スーツはしっかりとハンガーラックに畳んで整えていたしなんなら俺のスーツも纏めて片付けてくれた。ほんと、こういうところはしっかりしてるのにな。俺がチンポ引き抜いてまごまごしてる間に床の掃除もしれっと終わらせてたし。

  「さぁ、好きなように抱いてくれ。どんな体勢でも大丈夫だ」

  「いや普通に仰向けになっていただければ……」

  このヒトはなんの躊躇もなく仰向けになると股を開いて、相変わらず肉が詰まってぱんぱんの尻肉を掴むと、ぐいっと広げて精液を注がれて白く泡立った肉壺を見せつけられるんだ。少なくとも俺はここまで突き抜けた行為は若干躊躇してしまう。

  「……もしや、性的ではなかったか」

  「いやむちゃくちゃエロいですけど、飽和して麻痺してんですよこっちは」

  性に関してはゼロか百しかないのかこのライオンは。とはいえエロいと思っているのは事実なわけで、一回イったばっかだってのに俺のチンポはしっかり上を向いていきり勃ってんだもんな。部長の股の間に失礼しまして、今度は正面から部長の孔を穿っていく。

  「どうですか、喋る気になりましたか」

  こういうのって普通ピロートークでするものではないのだろうか。俺が腰を叩きつけるのもお構いなしに、本当に部長はぽつりと喋り出した。

  「去年退職したクマミネ部長を憶えているか」

  「え? そりゃ、憶えてますよっ。営業部長でしたしっ」

  「僕はあのヒトに躾けられた」

  マジでか。あの俺より体がデカくて豪快そうで、社内で一番の酒と煙草と女好きだと噂されてたクマミネ部長が、裏ではシシザキ部長をこんな体にしたってのか。

  「クマミネさんとはまだ君と同じくらいの年頃に出会った。当時僕はフリーターで、最初は恋人として付き合ってほしいと言われてな」

  クマミネ部長、確か妻帯者だったはずなんだが。あれ、確か退職した理由って……

  「最初は君みたいに抱いてくれていたが、段々と注文が増えていったんだ。抱かれている時は声を出すな、いつでもヤれるように準備していろ。呼んだらいつでも抱かれに来い。などだ」

  「都合のいいオナホじゃないですか」

  この分だと、まともに恋人らしいこともしてなさそうだ。そう思うと、一気にこの上司が不憫に思えてくる。

  「入社のきっかけも、いつでも使えるオナホがほしいから来いと言われたのが理由だ」

  「そんな最悪なコネ入社あります?」

  職権濫用極まりないし、従う方も従う方だろこれ。よく部長職が務まってるな、このヒト。

  「それから色々あって、営業部内で女性社員との社内不倫が発覚してクマミネ部長は自主退職しただろう。それ以来音沙汰がない」

  「あの噂、本当だったんですね……」

  深夜の事務所で堂々とセックスしてたのが発覚して、おまけに一人どころか複数単位で社内の女性に手を付けていることが暴かれたクマミネ部長は怒涛の勢いで退職していった。今は嫁から三行半を突き付けられて離婚調停の真っ最中なんだという噂はうちの課にも流れてきていたところだ。

  「……退職する前、最後になにか話とかしたんですか」

  「あぁ。社用車の中でヤって”ガバマンすぎてそろそろ飽きてきた”と言われた。きっと捨てられたのだろうということは理解している」

  ……深刻だ。軽い気持ちで聞く内容じゃなかったのは言うまでもない。もう腰を動かす余裕もなく聞き入ってしまったけれど、シシザキ部長は最後まで話してくれた。

  「なんだって、そこまで」

  「最初は僕に好意を抱いてくれた事実が嬉しかったから従っていた。だが道具のように扱われ始めてから、セックスしないと体が疼き出すようになっていった」

  もう立派なセックス中毒者じゃないか。毎日オナホ同然に調教されていると、ヒトはこうも救いようのない体になってしまうものなのか。

  「僕の話はこんなところだ。納得できたか」

  「いや、まぁ。なんでこうなったのかは納得しましたけど。よく一年も隠し通して仕事してましたね」

  「ある程度は我慢していたぞ。どうしても疼いて仕方がない時は密かにアナルプラグを挿れて凌いでいた」

  仕事中に何してんだこの上司。シシザキ部長と社内で顔を合わせたことは数回程度しかないものの、どれか一瞬でも尻に玩具を挿入していた瞬間があったんだろうか。

  「俺、もうシシザキ部長のこと上司として見れないかもしれないです」

  「むぅ、日頃は困るが今は嬉しいな。上司だからと遠慮せずに抱いてくれるのか」

  さっきは背後から犯していたからわからなかったけれど、こうして正面から顔を覗いてわかった。俺より一回り以上歳が離れていて、いつも真面目で頼れる上司を演じているであろうこのライオンは、それ以外の部分の成長が止まっているように見える。ただ性の快感を求める顔が、なんだかあどけなく見えてしまった。

  「俺、どうせヤるならちゃんとセックスしたい派なんですよ。部長とヤってるとオナホ使ってるのと変わりないじゃないですか」

  案の定というか、そう告げると耳が僅かに下を向いた。どうやら効いたらしい。

  「つまり、僕を抱くのが嫌ということか」

  「いや、だったら二回も突っ込んでませんって。……シシザキ部長、こういうことされたことあります?」

  チンポで繋がったままの部長の体を抱き起こし、両腕を背中に回して抱きしめてみる。こうしてみるとやはり俺よりは小柄だけど、案外体格自体はしっかりしてるな。セックスしてるうちに仕上がっていったんだろうか。

  「…………ない」

  「マジですか。俺はこうやってる時が好きなんですよね」

  ただ腰を振って、犯して、種を付けて満足。なんて行為は俺はあんまり好きじゃない。強いていうなら風情がないだろ?

  「こっち向いてもらっていいですか」

  「こうか。……!」

  間近で見るとやっぱいい顔してるなこのヒト。そのまま唇を奪って、あまつさえ舌まで入れちゃって。

  「ふ、ん、くちゅ……こういうのは、されたことありますか」

  「…………ない。キスされるのは、初めてだ」

  「えファーストキスなんです!?」

  クマミネ部長、徹頭徹尾性欲処理の対象としてしか見てなかったんだろうな。さては当時のシシザキ部長、かなりチョロい若者だったのでは。

  「やってみてどうでしたか」

  「……もっと、したい」

  「なら、シシザキ部長の方からやってみてください」

  ここにきて、ようやく部長の表情が崩れた。戸惑いと、それから少し照れているのかもしれない。受け身のままだらりと垂れ下がっていた両腕が俺の体に伸びていき、もう一度唇が重なる。

  「む、ぐ。ふ、ふーっ。むむっ」

  必死すぎだよ、ほんとにキスするの初めてなんだなこのヒト。俺の舌で味を占めたのか、貪るように食いついてくるじゃないか。あんまり夢中になっても苦しくなるってのに、なんか面白いなこのライオン。

  「ぷ、は。はぁっ……」

  「やっとらしい顔になってきましたね」

  口端から唾液を垂らして、ようやく部長の表情は抱かれている顔付きになってきた。やればちゃんとそそる顔できるじゃないですか。

  「それじゃ、ゆーっくり動いていきますからね」

  ずっとぴったり密着して、俺のチンポの形を覚えた疑惑すらある部長のケツマンコ。絶対に激しくなんか抱いてやるもんか、ゆっくり腰を引いて、じっくりと奥へ押し込んでいく。

  「……もどかしいぞ、イヌガミ君」

  「我慢してください」

  使い込まれてすっかりタフマンに変貌してるみたいだけど、そもそも性行為をする場所ではなく内臓なんだ。本来なら労わってやるべきだろ?

  「……っ、……ん」

  相変わらず表情は硬いけれども、反応は随分といじらしいものに変わってきている。ようやくセックスしてる感じが出てきたじゃないか。

  「どうですか、シシザキ部長」

  「……むず痒い。けれど、もっとしてほしい」

  素直に答えてくれるのは部長のいいところだな。さっきの作業みたいなセックスよりも、こっちの方が俺は好きだ。じっくりと丁寧に、お互いが気持ちよくなってこそだろう。

  「んっ、ふっ、んぅ」

  しっかしほんと、油断するとペースを持っていかれそうになるくらい部長のナカは具合がいい。使い古しのオナホにされたと思うと少しモヤつくものはあるけど、俺のチンポは今までにヤったどんな相手よりもこのケツマンコがいいと訴えている。根元までぴっちりと柔肉が包み込んで、内襞がチンポ全体と擦れる感触がたまらない。気を抜けば今すぐにでもイきそうだ。

  「シシザキ部長、イくとくは声を出してくださいよっ」

  「え、いや、それは」

  「お願いですから、俺もうイきそうなんですよっ」

  長年にわたって躾けられてきた体はそう思ったように反応することはないだろうけど、やっぱりイく時はちゃんと反応してほしいものだから。

  「……キスして、くれるなら。善処できる、かも、しれん」

  「……ん」

  もう一度密着して、互いの毛皮が擦れて熱くなっていく。おまけに舌を必死になって絡ませているものだから、もう抑えが効かなくなっていく。

  「んっ、あふ、ひふはひふ、んぐっ、んぐっ!」

  部長の両腕どころか、両脚までもが俺の体にしがみつく。ぶるりと一瞬震えて、腹の毛皮に何か熱くぬめる感触がする。なんだ、ちゃんと可愛いイき方もできるんじゃないか。

  「ぷは、はあっ、イイですよ部長っ……あー、俺もイ、イぐっ!!!」

  一発目よりも気持ちよく、打ち震えるような絶頂。これだよこれ、イくことに夢中になってしまう。

  「ん、ふ……あつい、な」

  我ながらわかりやすいというか、さっきよりも射精が長く続いている気がする。そのうち部長の腹も膨らんでいくんじゃないだろうか。

  「は、あ。どう、すか。俺のセックスは」

  「……とても、いい」

  お、目を逸らした。さては照れてるな、自分からケツマンコ見せておねだりするようなヒトが。

  「でしょ。気に入ってもらえたなら何よりです」

  「あぁ……これはこれで、病みつきになるな」

  部長のマンコが蠢いて、俺の種と肉が擦れあってるのか。これだけでまたイきそうなくらい気持ちいいな……

  「だから、その。もっと抱いてもらいたいのだが、どうだろうか」

  「……いいですよ、付き合います」

  こんなに気持ちいいのに、切り上げてしまうのはなんだか勿体無いな。なんて思ってしまった。もう一度部長に覆い被さって、今度は少しだけ激しく……

  顔を右に向ければ午前七時を指し示す時計の針。左に向ければ俺の上司であるライオンが寝息を立てている。裸で、俺の腕の中で。

  「いやー、ヤったなぁ……」

  少しずつ脳が寝る直前の記憶を呼び起こす。結局あれからお互い三発はイき散らかして、ようやく満足した後二人でなんとかシャワーを浴びて眠りに就いたんだ。あれだけヤりまくった後だし睡眠時間は確実に普段より削れているはずなのに、目覚めはどこかすっきりしていて心地よい。上司と肉体関係を持ってしまった事実なんて嘘みたいに。

  「これからどう顔を合わせればいいんだ……」

  「……む、ぅ。おはよう、イヌガミ君」

  爽やかな目覚めと相反する憂鬱を抱えた俺をよそに、部長もまた目を覚ましたらしい。

  「あ、お、オハヨウゴザイマス」

  「ん……昨日はありがとう。不躾な誘いだったと思うが、お陰でとてもよかった」

  「あっそれはドウモなによりですハイ」

  寝起きでも平然とできるんかいこのヒトは。俺が呆然としている間にてきぱきと服に着替えて朝の支度に移ってやがる。

  「君も準備するといい、車で行こう。それと、終業後は駐車場の近くで待っていてくれ」

  「あ、はい。……ハイ?」

  車で出社できるのはとてもありがたいけれど、最後なんて言った?

  「僕もなるべく早めに上がれるよう善処する。……楽しみにしておくので、あまり無理な残業は控えるように」

  これは、どう答えるべきだろう。咄嗟に言葉は出ないが、俺はどうにか首を振った。部長はそれ以上何も言わなかったが、俺は今この時初めてシシザキ部長が笑っている顔を見たかもしれない。