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ドラゴンホークは、ブルームバロウに土着する厄災の獣ではありません。しかし、厄災の獣である彼ら彼女らと、ネズミやトカゲやリスといった小さなアニマルフォークたちから同等の存在、「雷雲の鷹」と見なされています。
ドラゴンホークは他者と言葉を交わしません。ゆえに、このブルームバロウで自分の真の姿を、タルキール次元のドラゴンである事を知る者は存在しません。下嘴や翼の先端に、ドラゴンとしての名残りを持つドラゴンホークのその特徴の意味を知る者が。そして、この次元においてドラゴンホークは、厄災の獣から喧嘩を売り買いするのを日常としています。
切り立った崖をなぞるように、ドラゴンホークが翼を傾け宙を駆けていきます。その後方から一羽の厄災の獣が追従しています。二羽の距離は徐々に縮まっています。ドラゴンホークは羽ばたきながら小さく振り返りました。青緑色の羽毛とオーラに包まれたそのトキは、おそらく突風の化身でしょう。このブルームバロウ次元は、他次元からの訪問者を動物に変え、次元内の季節や気候さえ動物の形をしています。
ドラゴンホークは空に向かって力強く羽ばたき、雷雲を呼び寄せました。しかし、それはすぐさま雲の形を失い霧散していきます。ドラゴンホークは顔をしかめながら、厄災の獣のトキへと振り返りました。あの獣が操る突風が、雷雲を吹き飛ばしたのでしょう。ドラゴンホークは羽毛の下でコポコポと音を立てるお腹の圧迫感の高まりを覚えながら、降下に入りました。
あの厄災の獣は、近頃のドラゴンホークが最も楽しみとしている食事の時間に襲来しました。集めた芋を雷撃で焼き、甘さと暖かさが増した
それを何個も啄んでいる時です。本来は焼き芋を食べた後のドラゴンホークは、誰も見ていない場所まで飛び去って「ガス抜き」をしています。しかし、今回はそのような猶予などありませんでした。
森の木々の上を飛ぶドラゴンホークとトキの距離は、ドラゴンホークの尾羽にトキの嘴の先端が当たりそうなほど接近しています。空の戦いにおいて、追われる側は追う側よりも圧倒的に不利です。このままでは、ドラゴンホークは眼下に広がる森に叩き落とされるでしょう。
そして、ドラゴンホークは我慢の限界に達しようとしていました。鳥類は身体構造上、排泄やそれに準ずる行為を抑制するのが難しい動物です。自分のすぐ後方には厄災の獣であるトキが、木々の枝の合間からは二羽の戦いの行方を覗き見しているネズミやカエルやウサギといった小さなアニマルフォークたちがいます。この状況で逃げ場などどこにもありません。むしろ、ドラゴンホークは「それ」を活用するつもりでいます。
トキが繰り出した鋭い嘴による刺突を回避したドラゴンホークは、その厄災の獣の横顔に対して、今まで向けていた尾羽ではなく、自慢の四枚羽と足を広げました。その中心には、毛並みの下で普段より膨らんだ
お腹と、逆立てた羽毛によってあらわになった孔があります。その姿にトキが呆気に取られた、次の瞬間でした。
ブフォッ!!!!
自身の敵であるトキの顔面に向けて、ドラゴンホークはとても臭くて量も多いオナラを浴びせました。ブルームバロウを訪れてから大好物になった焼き芋によって、今のドラゴンホークは激臭大爆音のオナラこきです。
そのドラゴンホークの羽毛に覆われた顔面に、「してやったり」と「恥ずかしい」が入り混じった複雑な表情が浮かびます。襲撃者へ文字通り不意打ちを浴びせる事はできましたが、今まで隠し通してきたのに他者の目の前でオナラをこいてしまったからです。
トキの戦意はまだ続いていました。翼をはためかせる事で落下を始めていた体は風に乗り、ドラゴンホークへと一直線に突進します。
ブオオオ!!!!
しかし、ドラゴンホークにもう躊躇いはありませんでした。再び大きなオナラをこいて迎え撃つと、顔面を大きく歪ませたトキはどこかへ飛び失せました。つまり、ドラゴンホークのオナラ勝ちです。
大爆音の激臭オナラをこいてしまったドラゴンホークの胸中を、まるで枯れ野原に落ちた落雷から大火事が起こるように、多大な羞恥心が襲います。故郷においてドラゴンホークは、巨体とそれに見合う矜持を持ち合わせた、強大なドラゴンでした。しかし、今は一羽の恥ずかしいオナラこきのただの鷹でしかありません。仮に氏族の同胞が今のドラゴンホークの「臭態」を見たら、その眼差しに間違いなく蔑みと哀れみを浮かべながら嘲笑するでしょう。
しかし、このブルームバロウではタルキールを知る者など、ドラゴンホークが見た限りでは存在しません。ならば、思う存分オナラをこきまくっても、本来の自分や氏族の矜持に傷をつけないでしょう。故郷ではドラゴンとして自由に飛び自由に暴れ回っていたのが、ここでは鷹として自由に飛び自由にオナラをこくのに置き換わっただけです。
そして、ドラゴンホークは知っています。複数の次元にわたって、大きな思惑が渦巻いている事を。いつか自分はその渦中へ、タルキールへ戻る時が来るのでしょう。だからこそ、今はただのオナラこき鷹を堪能しておくべきです。
ブフォッブオオオオ!!!!
三回目のオナラをこいたドラゴンホークはそれによって加速をつけて飛行を始めました。向かう先はもちろん、先ほど食べ残してきた焼き芋のもとです。
こうしてドラゴンホークは、夜の化身のフクロウである大いなるマーハと並ぶ、「焼き芋の大嵐」という二つ名で恐れられるようになりました。
了
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