新生する風船魔獣、始まりの人狼風船

  此処は、龍狼達が住んでいる世界に殆ど似ているパラレルワールドの一つ。

  その世界に住む者達にとって人知れぬ片隅にて、一つのワームホールが出現していた。

  「ガッ、ンッ、ガガガガガ…ッ!」

  そのワームホールから現れ出たのは、赤いゴムの様な皮に似たモノであり、ソレはまるで爆発に吹き飛んできたかのように少しの火の粉を伴いながら、ワームホールから飛び出して地面を数回バウンドしてから削る様に滑っていった。

  「ガッ…ガッ…ガッ…」

  先程からこの場で聞こえている声は、地面を削ってようやく止まった赤いゴムの様なモノから発せられており、良く見るとソレには生物なら殆どのものが持っている「目」があり、それが見せる表情から弱々しくなっている事が分かった。

  実はこの赤いゴムの様なモノ、この世界とは違うトコロで猛威を振るっていた魔獣であり、「風船魔獣バルンガンマ」と呼ばれていたソレは、ある町に住んでいた多くの人間達をその目から発射される光線でみんな風船の様に膨らませ、浮かんできた彼らを一定の時間になったら爆破するという、トンデモナイ計画を実行しようとしていたのである。

  「ガ、ンッ…ガ、ンッ…」

  だがその計画に至ろうとした直後、その世界で活躍するヒーローの一人「リュウガンオー」が放ったドラゴンキャノンをもろに受けてしまって爆発飛散、その細胞片である存在が偶発的に発生したワームホールを抜けたのが、赤いゴムの様なモノの正体であった。

  しかしドラゴンキャノンを受けて爆発し既に大ダメージだったソレは、もはや動く事すら出来ない程に成っており、このままではその命すら尽き果ててしまう状態故に、残る気力でソレは悲痛な声を上げていた。

  「…ンッ…ガッ!?」

  だがその命運は、もう一つの奇跡によって生かされる事になった。

  地面を抉っていった影響で脆くなっていた場所ごとソレが落下し、その先にあったのが魔力持つモノを癒し変質させる魔力溜まりがあったという、奇跡に。

  「ガッ、ガアァ…アアアアァ…!」

  魔力溜まりにドボンと落ちるように入ったソレは、その魔力によってゴムの切れ端みたいな状態になっていた身体が元の赤い風船の身体へと治ってゆく感覚と、自身の思考がその魔力によって変わり始めている感覚に、声を上げていた。

  元々人間達を風船の様に膨らませるのが目的だったバルンガンマは、膨らんだ彼らがそれを楽しんでいる事に困惑すると同時に、ある一つの小さな感情が芽生えた。

  それは、「愛でたい」という特別な感情であり、自身に似た風船となった存在をその大きな目で眺め、自身の下にある手の代わりになるロープや自らの身体で触れ合って、彼らの悩みなんて何処かへ飛んでいっちゃう程にしちゃいたい。

  「ア、アァァ…イ…」

  空に浮かんでいるのにドロリとしたその感情は、上司の作戦変更によって捨てざるを得なかったが、魔力溜まりで身体が治されると同時に、その思考が改変し始めていたソレは、その燻っていた感情を取り戻して前面に押し出し始めていってた。

  ソレの思考が変化した事で身体にも影響が出ており、バルンガンマだった頃に周囲を付き纏っていた数々の風船が無くなった代わりに、身体の下から伸び出てきたロープが自身の意のままに動かせるようになると、その先端が手の様な形状に変化する効果が加わり、仕上げとして、自身の象徴と呼べるその目の色が変幻自在に変わってゆきながら、ソレは新たな独自の性格を持って風船魔獣として、再誕を果たした。

  「ほっ、よっ、はっ…っと、ふふっ。夜の散歩ってのも乙なものだな…」

  その日の満月の夜のこと、この世界での「智月龍狼」は、帽子を被った人狼姿で気楽な散歩をしており、周りに誰もいない道でそんな独り言を溢していた。

  [newpage]

  「こんなに見事なお月様の下での散歩が、気持ち良い…って、な、何だありゃ…」

  特徴的な脚で踊るように歩いてゆき、着ている服の上から全身に月の光を浴びながらそう言っていると、突然その月の前に大きなシルエットが現れ、そのシルエットの形から風船と思われるモノが龍狼の眼前に浮かび上がってきた。

  「アドバルーン…にしちゃ、あんな趣味の悪いアドバルーンあるわけ無いよな…?」

  夜空を見上げながら、龍狼が夜目を利かしてそのシルエットを見たところ、ソレは暗い赤色の巨大な風船であったが、ずいぶん個性的な特徴を持っており、それはマスカット色をした巨大な「目」であり、その目の奥で様々な色が虹のスペクトルの如く煌めいて、それが何かを探してるかのようにキョロキョロと動いていた。

  これこそ、バルンガンマだった切れ端が魔力溜まりによって新生した存在、「風船魔獣バルンアイム」であった。

  「な、なんか不気味だな…そろそろ帰るか」

  バルンアイムの姿を見た龍狼は薄ら寒く感じ、散歩をやめて家の方へ帰ろうかと考えていたが、自分が今持っている能力の試運転の相手を探していたバルンアイムにとって、元の世界では見られない「存在」に目を引かない訳が無かった。

  「…アァーイ…!」

  「な…こっち見てるのか…!?」

  バルンアイムは初めて見る存在を見てまだ幼く感じさせる声を発すると、現れた風船から声を出したのを聞いた龍狼が驚くのを余所に、自身の魔力を溜め始めた。

  「い、急いで逃げねぇと…「ヂュウゥン!」わわぁっ!?」

  龍狼が呟いた直後、バルンアイムの魔力充填が完了し、バルンアイムの目から緑色のビームが発射された。

  龍狼は今いる所から横に飛び、ギリギリ回避をして逃げようとするも、間髪入れずバルンアイムはビームを発射し、駆け出し逃走しようとした龍狼の身体に緑色のビームを命中させた。

  [newpage]

  「うぐぉっ!?」

  ビームの魔力が迸り、一瞬で龍狼の身体中に魔力が染み渡っていった。

  「っと…ぉ?」

  一瞬身体が痺れ立ち止まってしまった龍狼だったが、身体に異変が無い事に気付いた。

  「み、見せ掛け…だったのか…んぐぁ!?」

  龍狼がバルンアイムからの攻撃が見せ掛けなのかそう呟いた瞬間、突如として彼の身体に言い様の無い違和感が走った。

  「ハッ、ハッ…な、何だ、これ…腹八分目で過ごしてる、のに…急に苦しく…ウグォッ…ハァァァァアッ…!!」

  バルンアイムが龍狼の異変を見てニヤニヤ目が笑って見せると、身体が押し広げられる様な感覚が沸き上がり、お腹からビーチボールに空気を入れる様な音が鳴り始め、龍狼のお腹がムクムクと膨らみだした。

  「なっ、と、止まれっ…!」

  お腹が突然膨らんだのを見て、その膨らみを抑えようと龍狼は両腕で精一杯お腹を抑え込むが、無慈悲な事にそんなことはお構い無しだと言わんばかりに、お腹の膨らみは止まらない。

  「グルゥ…何、だ…こりゃぁ…!」

  「イッー、イッイッイィッー…!」

  「笑っ、てんじゃ、ねぇっ…フグゥッ!」

  思わず唸り声を溢した龍狼を見て、バルンアイムは龍狼に近づきながら笑い声を上げており、その笑みに反応する龍狼だったが、直ぐに膨らむお腹に集中せざるを得なくなる。

  「ルグヴゥ…!」

  服にあった狼をイメージしたであろう印刷が、一瞬それだと分からないくらいにお腹が膨らんできており、服とズボンの間から溢れる茶色の毛並みに気付かない程、龍狼は空気を腹一杯に詰められていた。

  「アァーイ…イッ!」「ウォオン!?」

  バルンアイムがその様子を見てその様な声を出してから、緑色のビームを目から発射し龍狼の臀部の方に命中させると、腹周りに続く形で尻までムクムクと膨らみ始めた。

  「ア、アウゥ…」

  膨らむ腹と尻にズボンがミチミチと音を立て延び始めてしまい、パツパツになったそれが尻の巨大さを強調させていた。

  (なん、だよっ…どうなっ、てんだよ、俺の、身体っ…パンッパンに、膨らんでいってる癖に…重くねぇっ…むしろこれは…軽くなってきてる…!?)

  身体が膨らんでゆく中、龍狼は非常におかしな感覚を感じており、自身の身体の体積はどんどん増えてきているにも関わらず、龍狼自身は全く重みを感じず、それどころか体重は身体が膨らんでいく毎にドンドン軽くなってる気さえしていた。

  (もしかして、俺の身体…本物の風船に近づいていってるのか…!?)

  [newpage]

  「イ…あなた…ア…丸く…ア…可愛い…!」

  「ガアァ…!」

  バルンアイムから聞こえる声が意味のある単語一つ一つに成っているのを聞きながら、龍狼は身体全体が丸みを帯びて膨らみ始めてるのを感じだし始めた。

  腹周りの膨らみは留まることを知らず、どんどん丸みを帯びて前後左右上下所構わず縦横無尽に大きく膨らんでゆき、背中や肩も人体構造を無視した丸みを帯び始め、身体全体がボールのように変わってゆく。

  「ウォ、ルゥ…」

  上下に身体が膨らんでいった事で、お腹の膨らみを抑えていた両腕は上へとずり上がってしまい、左右に身体が拡大していったが故に、重ね合わせてたそれはいつしか離れ、気付けば両胸の辺りを抑えているだけとなり、龍狼の身体が元に戻らない限り、彼の腕同士が触れる事は二度と出来ないだろう。

  彼のズボンに入れていた連絡用のスマートフォンも、上下左右に膨らんでったお腹の影響を受けて、風船の赤道と言わんばかりの一番巨大なお腹周りに位置してしまった。

  身体の膨らみと共に相対的に(長さは変わってないが)短くなってしまった腕脚と相まって、龍狼が家にいる皆に連絡を届けることはもう不可能だろう。

  前を開けたままの上着は膨らんでゆく身体を覆い切れず、ピチピチの状態で肩(全身が丸くなり過ぎて肩と言い切れるのか分からないが取り敢えず「肩の部分だった箇所」)に張り付き、元の職務を諦めてしまっていた。

  そんな上着の代わりに下に着てた、最早何の動物をイメージしてたか分からない印刷の青い服はパツッパツに引き伸ばされており、服からはだけて茶色の毛並みを露にした上半身の上部分でまだ残っていた。

  「ウッ、ウォウゥ…」「イアッ?」

  只でさえ最初の膨張によって悲鳴をあげていたズボンは、更にパツパッツンに成っており、破れまいと必死に耐えるズボンにどこ吹く風とムクムクと膨らみ続ける腹周りの対決は、龍狼にこの上ない圧迫感と気持ち良さを与え続けていた。

  「ア、アオォン…!?」

  バキャリと前の方から異音が聞こえ、自身の身体が大変な事に成ったかと感じた龍狼であったが、ただ我慢比べに惨敗したズボンのベルトが砕けて弾け飛んでしまっただけで、敗北の証にズボンのチャックが降りてゆき、毛皮の中からパンツが露になってしまった。

  「ヴ、ぐっ…も、もっと軽くなるのか!?」

  「そう…アァ…気持ち…イィ?」

  窮屈さが無くなってズボンのチャックが全開になるも自前の毛皮のお陰でアレが露にならなかった龍狼であるが、まん丸に膨らんでゆく間も彼の体重はドンドン失われており、バルンアイムの声が段々と意味のある言葉になってきていた。

  「…あっ」

  突然膨らむのが終わった龍狼であったが、自身の身体が全く重くないどころか、その重さ自体が完全に失われてしまった事に気付いてしまった。

  そして龍狼の身体から体重が失われたと同時に、彼の両足が地面から離れフワリと地上から浮き上がった時、

  智月龍狼は既に、完全なる風船へと化していた。

  [newpage]

  「ま、まさか…風船みたいになるなんて…」

  「おぉ…犬頭の子、風船になった感想は?」

  「いや…風船みたいになる作品は見たことあるけど、実際になるなんて…ってえっ!?」

  自身の変わり果てた身体を見て呆然とする龍狼だったが、バルンアイムが自身に対し会話をしてきた事に気付き、それに驚愕した龍狼はバルンアイムの方を見た。

  「フムフム…腕脚除いて全身空気でパンパンに満たされてるね。ホント可愛いなぁ…」

  「な…え…き、君は一体…?」

  直径2.5mのアドバルーンの様な体型に成り果てた龍狼は、背中や尻、腰や腹までが身体の境目が無くなってしまい、全く分からなくなっていた。

  最早何が印刷されてるかも不明となった服は、真ん丸に膨らみきった腹と背中によって引き伸ばされて胸の辺りに張り付き、上半身を覆っていた上着は腹を覆いきれなくなる程ずり上がってしまった。

  ズボンは腹と尻によってパッツンパッツンにされてしまい、ベルトは破壊されて弾け飛んでベルト紐だけが残る中、チャックは全開になってしまった。

  唯一膨らんでない手足と尻尾は、膨らんでいく上半身と尻によって手足は体の隅へと押しやられ、無様に大の字に開いてしまい、その下でだらしなく付いてぶら下がっている尻尾が、龍狼が本物の風船を思わせるかのように成っていた。

  「…あぁ、自己紹介がまだだったね…僕は風船魔獣バルンアイム。君みたいな興味深い存在を膨らませて、愛でるのが好きなんだ。」

  「ま、魔獣だって…ウォウン!?」

  バルンアイムが自身の自己紹介を行い、膨らんだことで引き伸ばされ変な形となった帽子を被ってる龍狼の疑問の声を待たずに、バルンアイムの下にあるロープが、五指をもつ手を模した形に変わってゆくと、その手が龍狼の膨らんだ身体を撫で出し始めた。

  「この身体で初めて能力を使ってみたけど…問題なく膨らんでくれたようだね?」

  「な、何が…問題、なく…アウゥーン!」

  その様な事を言ってくるバルンアイムに抗議しようとする龍狼であったが、自身の膨らんだ身体を撫でてくるバルンアイムの手を模したロープの撫で加減が上手く、気持ちよく色のある咆哮をあげてしまう。

  「へえぇ…君って、膨らんだ身体で気持ちよく成っちゃうのか…」

  「そ、そんな…わけ…ンウォウゥ!」

  「そんな反応じゃあ図星なんでしょ…なら、前の僕が持ってなかった能力を使ってみようかね…っと!」

  龍狼が膨らんでる事に気持ち良さを感じているのを、バルンアイムが気付いてそう言い出すと、自らの目から今までの緑色とは異なる赤の光線を龍狼に向けて発射し、彼の身体に更なる変化を与えてみせた。

  [newpage]

  「ぐあっ…な、何を…!?」

  バルンアイムの赤い光線を受けた龍狼が何をしたかとバルンアイムに言い掛けた直後、自慢の茶色の毛並みが赤く成りだしてる事に気付き、龍狼は目の前の赤い風船みたいに変化してる事に気が付いた。

  「へへ…だんだん僕に似てきたね。もう少ししたら僕みたいになってしまうよ!」

  バルンアイムが龍狼の身体が赤くなってゆくのを見て笑いながらそう言ってゆくと、龍狼の身体が更に膨らんでゆくと同時に、尻尾が長くなりながら一つに纏まりだしており、それがまるで風船についてくる紐のように成りだしてた。

  「だ、誰…が…ダズゲ…むぐっ!」

  龍狼はバルンアイムに似てきてる事に怖くなり、助けを呼び掛けるも頬まで膨らんで満足に言葉を出すことが出来なくなり、無事であった筈の手足までもが膨らんできた事で、唯一出来るのが紐みたいになった尻尾をバタバタと動かすだけになってしまった。

  「あははっ、君すっごく僕に近い姿に成れたねっ…素質あったんじゃない?」

  (な、なんだって…!?)

  ようやく膨らむのが止まった龍狼を見て、バルンアイムは笑いながらそう言った。

  今の龍狼の身体は、その赤く染まったお腹に大きな目がない事と、自身の目がバルンアイムと同じ色になっている人狼の顔と動かなくなった手足が残っていることに加え、着ていた服や帽子も破れることなく張り付いている事を除いて、バルンアイムに似た大きさと姿に変化していた。

  「僕が持ってる膨張させるビームの力をコピー&ペーストして与えたから、君もその力が使えるよぉーん…」

  「む、ムググッ…ンンッ、ムゥ!」

  「…おやっ…我慢するな、少ししたらコントロール出来る筈だから…「ヂュヴゥン!」…フフッ」

  バルンアイムは自身によく似た姿と化した龍狼に、当てた対象を膨張させるビームを発射する能力を与えた事を話すと、龍狼は目の奥から魔力が湧き上がってくるのを感じ取って、周りの被害を考えた彼が必死に抑えようと目を瞑ろうとしたが、バルンアイムのその言葉と共にロープの手によって強引に開けられてしまい、淡い緑色のビームがバルンアイム目掛けて発射されるも、能力の大本であるバルンアイムの前で解ける様に消えてった。

  [newpage]

  (はっ、はっ…強引に開けさせるなんて、なんて奴だ…あれ、あいつの表情が手に取るように見て分かる…もしかして、視力が上がってるのか…?)

  バルンアイムの強引な手に文句を言い掛けた龍狼であったが、スマホやタブレットを見るのが長いが故に低下していた視力が回復している事に気付き、笑みを浮かべているバルンアイムを見ながらそう思った。

  「ふふっ、視力が回復してきたみたいだね…僕と同じ視界はかなり良いだろ…ほら、あれとかもよく見える様になったでしょ?」

  バルンアイムは様子が変わった龍狼の心を見透かしたかの様にそう言い出すと、バルンアイムはその目でかなり遠くにある建物が見れるかと、龍狼に視線を送ってきた。

  (た、確かに…かなり遠いけど、建物に書かれてる文字まではっきり見える。これがバルンアイムの見ている世界なのか…?)

  龍狼は建物に書かれていた施設名まではっきりと見え、膨らんだ身体でその様な事を考えてる中、バルンアイムが彼のコレクション場所にピッタリな場所を思い付いた事に気付いてなかった。

  「あははっ…僕ってチョー頭良いっ、風船に成った子に飲まず食わずでも生きてられる様にすりゃ、彼処ほど良い場所はないねっ!」

  (んっ…ば、バルンアイムだったっけ…何か不気味な雰囲気醸し出してるけど、一体何をする…んぉっ!?)

  「確か君は、皆から龍狼くんって呼ばれてるんだよね…「ンンッ、ンッーンヴゥ!?」ふふっ…風船に成った際、それまで君が経験した出来事は全て僕に共有する事が出来てね…君が膨らむことに気持ち良さを感じてるのもそれで分かったよ。「ム、ムヴッ!?」あははっ、本当に愛でたいなぁ…さて、僕からの新しい名前を持ってもっと気持ち良いところに行かせてあげる。「ンムッ、ヴゥ!?」満天の星満ちる場へ…行っけぇバルンリューロよぉ!」

  バルンアイムが変なことを思いついているのを、龍狼がその目の表情を見て思い浮かんでいると、突如としてバルンアイムが言った筈の無い自身の名前を呟いたのを聞き、混乱を隠せてない彼を見ながらバルンアイムがなぜ知ってるかの種明かしをする序でに、その中で自身の秘密の好みがバレてたことを知り動転する龍狼を見て、笑みを更に浮かべたバルンアイムが、そう言いながらその形を保っていたロープの手を使って龍狼の全身を包み込むと、渾身の力を込めてぶん投げ上げると同時に新たな名前を与え出して、バルンアイムによって名付けた龍狼改め「バルンリューロ」は、赤い流れ星の如く地上から星空へ向かって一直線に打ち上げられた。

  [newpage]

  (うぐおおぉーっ…お、お腹が張って…く、苦しい…でも、なんか、ちょっと気持ち良い…?)

  打ち上げロケットに乗った人のように膨らんだ身体にGがかかると共に、高度によって更に張り出してきた身体に、バルンリューロは気持ちよさも感じ出していた。

  「ふふっ、気持ち良いだろ…君って丸くて良い身体してるよね。上がってくにつれ、君の身体はどんどん丸くなってくよ。」

  流星の様に赤い軌跡を描いて上がってゆくバルンリューロを眺めながらバルンアイムはそう言ってゆき、雲が存在しえる高度も超えて尚上げられた勢いの止まらぬバルンリューロは、バルンアイムに包み込まれた際に施された高度によって割れぬ風船の身体を得たことにより、無限の気持ち良さが沸き上がり始めていた。

  (あ、あぁ…気持ち良い…身体が膨らむのってこんなにも気持ち良いだなんて…っ)

  打ち上げられたことで十分な呼吸をする事が出来ず、酸欠状態に成り掛けていたバルンリューロであったが、それによってチカチカする頭で満足のゆく気持ち良さを味わいながら、彼は夜空と違う星の様子を視界の端に捉えていた。

  「あははっ、凄く楽しんでってる様だね…どんどん広がって丸くなってるわよ?」

  大気圏を突破し、周りが熱せられた状態に成って尚ダメージを受けているのが見受けられないバルンリューロを見て、バルンアイムはその先に在るであろう世界の事を思い浮かべ、笑いながらそう言ってみせた。

  (ウォ、ウォウー…か、身体が張り積めてってる…き、も、ち、い、い…っ!)

  そして、その視界全てが満天の星空に満たされると共に、膨れ上がった身体中も気持ち良さで満たされ、その気持ち良さに溺れきってしまったバルンリューロは、膨らみきった風船の身体のまま、意識を失ってしまった。

  [newpage]

  終わりの見えない宇宙空間、その空間を漂いながら浮かんでいる赤い巨大風船の名前はバルンリューロと呼び、彼は老いること無く飲まず食わずで呼吸もせずにいる為、初見では生きてるのかと思うであろうが、彼は正真正銘生き長らえており、自身の中に満たされている気持ち良さを共に味わおうと力を使ってくる。

  この世界で宇宙旅行をしたいのなら、全身が赤く全く使い物にならない腕と脚を持ちながら、面白い形に変形した帽子を被ったマスカット色の目をしている狼の顔を持って、紐のように長くなった尻尾と延びきってしまっている服を着ている風船を見掛けたら、ご用心せよ。

  もっとも、同じ気持ち良さを味わいたいのであれば話しは別であるが

  [newpage]

  「いやぁー、彼処まで割れないで宇宙空間に漂うレベルでバルンリューロくんが生きてるだなんて…ますます興奮しちゃうよ、僕。」

  バルンリューロの結末を見届けたバルンアイムは、その大きな目を糸目にする程に笑みを溢して空を漂っていた。

  「決めたっ…僕あそこまで面白い子達を膨らませて、心行くまで愛でてあげよう…ふふ、どんな感じにやってゆこうかなぁー…?」

  このパラレルワールドで、自身の目的を定めたバルンアイムは、風船の身体に成った者にしか聞こえない言葉で思案する。

  こうして、このもしもの世界はバルンアイムの手によって、風船の身体に成った者達で満たさせてゆく運命と成ってしまった。

  それはある種の発展か、それともその気持ち良さによる滅亡に至るのかは、

  まだ、この世界の誰にも分からない