豪雪! チルミネーション現地リポート!

  「こんばんは。ハム時のニュースをお伝えいたします」

  仕事を終えて帰宅すると、娘がリビングでテレビを見ていた。

  テーブルに広げられた宿題のドリルは順調に進んでいるようで、鉛筆を握る手の側面は真っ黒になっている。

  妻はキッチンで料理をしていて、ふたりとも作業BGM感覚でニュース番組を流しっぱなしにしているようだ。

  「ヒマワリの種の高騰が続いています」

  アナウンサーのジャンガリアンさんは、とても美人だ。

  深い灰色の被毛に、額にくっきりと墨を引いたような縞模様。彼女は若い頃の妻に似ている。特に、深刻な原稿を読み上げるときの険しい表情には、どこか雄を惹きつける魅力があって。

  「あなた、お仕事おつかれさま。砂風呂をあっためてあるから、先に入ってきてください」

  「ありがとう、いつもすまないね」

  今日は、細い指が千切れそうなほど寒かった。

  我々の先祖は、冬には冬眠をしていたというが、叶うなら暖かい春がくるまで、仕事にも行かず布団で寝ていたいぐらいだ。

  「……冬の風物詩『チルミネーション』が見ごろを迎えております」

  「おっ、もうそんな季節か」

  冷えた空気を纏ったコートを脱ぎながら、一人ごちる。

  早く砂風呂に入ったほうがいいとは思ったが、気になるニュースだったのでリビングに残ることにした。

  娘も気になっているのか、ひらがなの書き取りをしていた手を止めて、じっとテレビ画面を見つめている。

  「現地リポーターのナタネさんと中継が繋がっております。ナタネさーん?」

  「ハムハーイ! リポーターのナタネでーす!」

  ゴールデンハムスターのナタネさんは、春夏秋冬いつでも元気な若い雌アナウンサーだ。体を張ったロケが売りで、天真爛漫な彼女の笑顔見たさに、この番組を視聴するファンも多い。

  「一昨年から始まった、こちらのチルミネーション! 今年は昨年からグレードアップしまして、会場には三十本ものオチンポが勃ち並んでおります」

  柔らかな毛並みの中、会場は多くのハムスターやネズミたちで賑わっている。我々の身長の三倍近くはある、巨大な魔羅の森だ。その一本一本に、根元から首元にかけて電飾が巻かれ、赤や青、金色といった光をきらめかせている。

  どのオチンポの頂きにも、金の飾り星がきらきらと輝き、鈴口の先に煌びやかな杭を打たれた赤黒い肉の柱たちは、中継の映像からでも分かるほどの先走りを滴らせながらビクビクと震えていた。

  「すばらしいですね、ナタネさん。今年のオチンポは、去年より三倍近く増えたそうですが」

  「そうなんですよね~! 当イベントのオチンポに参加したいと仰られるデカケモさんが、年々増えておりまして、イベントの規模も、年々おおきくなっているんですね~!」

  ちびケモと呼ばれる、我々ハムスターやネズミの獣人は、デカケモと呼ばれるウシやウマなどの大型獣人たちと比べて何もかもが小さいため、普段は居住地域を分けて暮らし、交流することもほとんどない。

  しかし、このような奇祭を通して交流することは稀にあり、チルミネーションのイベントはデカケモたちのボランティアによって成り立っていると言っても過言ではない。

  「ご覧ください、こちらはキリンさんのオチンポでございます」

  ナタネさんが立ち止まったのは、足元の毛皮にうっすらと白と茶色の網目模様が広がるエリアだった。彼女の背後にそびえる肉の塔は、ほかオチンポと比べると細くて長く、身につけた電飾は控えめで、金と銀の淡い光の中に浮かぶ太い血管が生き生きと脈打っている。

  「……そして、あちらは、ゾウさんのオチンポですね。なんと、今回はご兄弟でのご参加ということでして、二本並べての展示となっております!」

  「わあっ、赤と青の並びがとても鮮やかですねえ」

  兄ゾウのオチンポは根元が太く、青と水色の電飾を波のように纏って美しいオブジェのような佇まいを見せている。

  弟ゾウのオチンポもなかなかのモノだ。根元から先端へかけて黒からピンクへのグラデーションが見事で、その色合いを引き立たせるかのようなピンクとオレンジの電飾を纏っている。

  この兄弟オチンポは特に人気らしく、来場者たちは灰色のごわごわした地面の上でぴょんぴょん飛び跳ねたり、友達と二色のオチンポをバックに記念撮影したりしている。

  「……あ、あちらをご覧ください! チルミネーション恒例の『大雪』の準備が始まっております」

  ナタネさんが尖った鼻先をひくつかせ、彼女の右手奥にそびえるウマのオチンポへと駆けていく。

  黒々としたウマチンポの根元には、黒いスタッフジャンパーを着た黒ネズミたちがぐるりと取り囲み、それを見た周りの来場者たちも目を輝かせながら集まってきた。

  「ナタネさーん、リポートお願いします。大雪とは、どんなイベントなのでしょうか?」

  「あっ、すみません!」

  スタジオから呼びかけられたナタネさんは興奮した顔で振り返って、すぐに凛としたリポーターの顔に戻る。やはりプロだ。

  「えー、間もなくですね、一時間に一度のお楽しみとして、ランダムに選ばれた十本のオチンポから、大量の雪が降るんです! 今回のチルミネーションは、とにかくオチンポの本数が多くてですね……はい、ご覧のように、スタッフ総出での作業となっております」

  黒ずくめのネズミたちが六人、オチンポの根元に梯子をかけ、電飾できらめく竿の真ん中あたりを取り囲んだ。そして、柄の長いブラシを血管の浮いたぶっといウマチンポの好きそうなところにあてがうと、六人で一斉にごしごしと擦りはじめた。

  「うわっ、わわ~! 会場が、すっごい揺れてます! あちらでも、こちらでも……あ、大丈夫ですよ。チルミネーションにご参加いただいているデカケモの皆様は、事前にちゃんと訓練を受けておりますので!」

  黒毛のウマ獣人のお腹がくすぐったそうにびくびくと震えて、その上に立っていた来場者たちはきゃあきゃあと楽しそうに揺れられている。

  揺られながらも、凄腕のテレビクルーはブラシに擦られるオチンポにカメラを向けたまま、しっかりとチルミネーションのメインイベントをリポートしようと食らいついている。

  「さあ、そろそろ降るでしょうか?」

  来場者たちもふかふかの地面にしがみつきながら、オチンポツリーの先に携帯のカメラを向けて、その瞬間を待っている。

  ――ォオオオオオオオッ!

  上空で様々なデカケモたちの雄叫びが響きわたり、そびえるツリーの頂上からドクドクと真っ白な豪雪が迸った。

  スタッフに擦られたオチンポたちは、身に纏った電飾を揺るがす勢いで精を放ち、その白は、鈴口を貫く星の飾りをも吹き飛ばして来場者の頭上に温かな雨となって降り注ぐ。

  「きました! 出ました! 濃厚な大雪です!」

  ナタネさんは、頭からどっぷりと粘っこい雪を被って、おおはしゃぎだ。

  「あちらでも、こちらでも……次々に大雪が弾け飛んでおります!」

  真っ暗な夜空の下で、無数の肉の柱が、巻きつけられた光を揺らしながら雪を噴き上げ、会場は一瞬にして白一色に染まった。

  「今の大雪で、会場内はとってもあったかくなっております。そして、濃いオスのにおいも充満していて……ああ~っ、ウマさんのオチンポザーメン、と~ってもいいお味ですぅ」

  熱気に包まれる会場の様子と共に、ナタネさんは雪の食レポまでこなしている。

  すごいプロ根性だ。彼女以外の一般客たちは、濃厚なオスの香りにやられて呆然としていて、中には、立ったまま絶頂してしまう者までいたというのに。

  「はあ……はぁ~っ……私、三年連続でこちらの会場をリポートさせていただいているのですが、やっぱり迫力が違いますね!」

  訓練されたオチンポたちは皆、一度出した程度では物足りないと言わんばかりに、変わらずまっすぐ星空へとまっすぐそそり勃ち、スタッフたちが梯子をかけて濡れた亀頭を掃除してあげると、嬉しそうにピクピクと全身を震わせていた。

  掃除が終わったオチンポは、再び鈴口に星の飾りを突っ込まれる。そうして、再び大雪を許されるまで、健気に待ち続けるらしい。

  「さてさて、お掃除と換気が済んだようですが、まだまだ皆様、楽しんでいらっしゃいますね~。ちょっと、お話をうかがってみましょうか」

  来場者たちは皆、思い思いに雪を満喫していた。両手に受けて味わう者もいるし、地面に広がったぬるぬるした雪の上でスケートをしている者もいる。

  ……ああ、私もあの雪に飛び込みたい。頭から、熱くて濃厚な雪を被って、久しぶりにエクスタシーしてみたい。

  「ねえ、あなた。そのイベントっていつまでやってるの?」

  台所から離れられない妻に声をかけられて、私はようやくテレビから目を離した。娘も私もテレビに夢中で、ドリルのことも砂風呂のことも、すっかり忘れてしまっていた。

  「あたしもチルミネーション見にいきたーい」

  「よしよし。冬休みになったら、三人で見に行くか」

  「やったー、パパ大好き! ねえ、一緒に砂風呂入ろ~っ」

  「あら、いいわねえ。お夕飯までもうちょっとかかるから、先に二人で行ってらっしゃい」

  今年の冬休みは、楽しい思い出ができそうだ。