肉体盗賊の短刀(ダガーオブボディシーブズ) 前編、中編、後編、オマケ FANBOX053,054,055,056

  人族シーフのガルーダは毒の湖沼に囲まれた大魔導時代(ギガ・マギカ・イーラ)の遺跡を漁っていた。

  この世界、この時代にあって人族というのは非常に珍しい。

  百年前の大魔導時代には人族は隆盛の極みであったのだが、突如としてその文明は一夜にして崩壊した。

  極限まで発達した魔導文明において禁忌の魔法に手を出し、その究極極大魔法が暴走したことが原因だという。

  人族の人口は数%まで激減し、現在は獣人族の時代である。

  人族は希少であるだけでなく、迫害も受けていた。

  それは、魔道文明の崩壊に際し、世界各地に重篤な被害、災害をもたらしたからである。

  この遺跡を囲う毒の湖沼もその典型的な例である。さらに、大魔導時代、人族は驕り高ぶり、その高度に発達した魔法で獣人族を奴隷の様に使役していたのだ。

  恨まれ憎まれ、その力関係が逆転した時、迫害される様になるのも宜なるかな。

  百年たった今の彼ら人族に直接的な責任はないことであるが、それは仕方のないことである。誰を恨みようもなかった。

  この時代、人族は獣人族から、多少は希少価値のあるモノとしての扱いを受けていたのであった。

  故に、人族のガルーダは人目を憚り獣人たちに見つからない様に、シーフというよりは遺跡荒らしに身を窶していた。

  正業に就きようもなかったのである。

  ガルーダは大魔導時代の稀少な魔法アイテム、魔法書、巻物、呪具などを求めて各地を転々とする。

  遺跡の中にとてつもないお宝が埋もれている場合がごく稀にあるのだ。だが、それ故にあらかたの遺跡はすでに発掘し尽くされていた。

  今回の遺跡、毒の湖沼に囲まれたこの遺跡であればまだ未踏ではないかとの甘い期待も早くも打ち砕かれた。

  ここもすでに発掘というよりは大規模な盗掘にあった後であった。

  あらゆるものが破壊し尽くされている。

  「骨折り損のくたびれ儲けか」

  ガルーダは独りごちた。

  今夜はここで野宿かと思った瞬間、目の端に西陽の反射が入り込んできた。

  何かが地平線に落ちかかる太陽の光を浴びて己を主張している。

  それは一見しては分からなかったか確かに宝箱であった。何故一見して分からなかったか。

  それは鍵穴が見当たらない立方体の箱であったから。

  だが、ガルーダのシーフとしての経験、勘がガルーダに囁く。これは仕掛け細工箱である。

  箱の上面、側面、底面の意匠を法則に従って、縦に横に動かし右に左に回転させる。

  動かし方は単純に計算するなら24*23*22*21*20*19通りのパターンがあるが、ヒントはこの意匠だ。これに法則が隠されているのだ。そしてこれは人族でしか気付かない符号であった。

  意匠から読み解いた順番に従って動かす。

  カチリと音がして、上面のカバーが外れた。

  「やった」

  心の中で小さくそう叫ぶ。

  しかし、現れたのは鍵穴ではなく、掌型の窪み、しかも、人族の手のひらの形の窪みだけであった。鍵穴ならガルーダのスキルをもってすれば、多少時間はかかろうともどんな鍵でも開ける自信がある。

  だがおそらくこれは魔法で封をしてあるのだ。窪み部分に手のひらを置き呪文を唱えると開く、システムとしては割とありふれたタイプのものだが、その呪文、合言葉が分からなければ意味がない。それでも諦めきれないガルーダは窪みに右掌を置いた。

  するとひとりでに蓋が開いて行くではないか。

  ガルーダは気付かなかったがどうやらこの宝箱は人族の気に反応し、人族でしか開けられない魔法がかかっていた様だ。意匠の暗号といい、人族でしか開けられない様に念の入った仕掛けの様だった。

  中からは手のひらサイズの小振りの短刀が現れた。

  ただソレは研がれておらず鈍い光を放った鈍らな刃であった。

  ガルーダは失望した。

  大仰な仕掛けの割には出て来たのは草一本も刈れない様な鈍小刀一本。これでは調理用に肉を切ることさえままならないであろう。武器としても全く使えそうにない。

  泰山鳴動して鼠一匹。

  だが、出てきたのは鼠ではなく、豚、いや、獣人豚族の男であった。

  「おいおい、俺らのシマで何やらコソコソしている奴がいると思ったら、人族様じゃねーか」

  豚族の男は下卑た笑みを浮かべながら、ガルーダに詰め寄った。

  身の丈は人族の中でも小柄なガルーダの1.5倍ほど、体重は2倍いや3倍では効かないほどの大きな体躯の獣人で毛皮のチョッキに黒い短衣を穿き大刀をひっさげ、野卑な雰囲気を漂わせている。

  おそらくここらあたりを縄張りにしている山賊一味の一員であろう。

  「まさか、こんなところで珍しい人族様に出会えるとはな。奴隷商人にでも売り捌くか、それとも俺の慰み者にでもするか」

  舌舐めずりしながら一歩一歩とガルーダとの距離を縮める。

  ガルーダは素早く豚族の男の脇を抜け、逃走にかかったが、剛拳一発、ガルーダの体は軽々と吹き飛ばされた。

  そもそも人族と獣人では、その体格、膂力が違いすぎる。一時、大魔導時代に人族が獣人たちを支配していたのは、その魔力と高度な魔法故であった。

  単純な戦闘では力、スピードともに叶うわけがない。そしてガルーダは魔力など持ち合わせておらず、魔法も使えないのだ。

  「グェヘヘヘ、どうせ売りもんにするなら先にいただいちまっても構わないよなー」

  豚族の獣人は種族や性別すら問題としないその旺盛な性欲で有名なのだ。

  ガルーダは先程得た短刀を構えた。

  「おいおい、なんだそのへっぴり腰に鈍刀は。そんなモンで俺を毛ほどでも傷つけられると思ってるのか」

  豚族の男にすぐに見抜かれた様にガルーダは戦闘が得意ではなかった。

  グワハハハと豚族の獣人は高笑いしながら、委細構わず覆い被さってきた。

  ガルーダは眼前に迫るその大きな太鼓腹目掛けて眼を瞑りながら短刀を突き出した。

  豚族の男の思惑ではボヨンと間抜けな音を立てて軽く弾かれるはずであった。

  だが実際には出た音は豚族の悲鳴であった。

  「グワーッ」

  地響きが立ち大地が揺れる。

  ガルーダが恐る恐る目を開けると豚族の男が倒れ伏していた。

  俺がやったのか?

  ガルーダは信じられないとばかり倒れた豚族の男をマジマジと観察する。

  信じられないのは目の前の獣人の様子だった。

  豚族の男の腹から胸にかけて一文字に大きく傷が入っている。

  だが、その傷から血は噴き出てはおらず、体の中身、内臓も見えなかった。

  傷から見えたのは漆黒の闇だ。

  怖じ怖じとその大きな傷、闇へと手を伸ばす。

  「うわーっ」

  ガルーダは自分の手が体がその傷に吸い込まれて行く様に感じ、意識を失った。

  「イテテテテッ。クソーッ、あの人族、どこへ行きやがった」

  豚族の胴間声を聞いて、ガルーダは意識を取り戻し慌てて周りを見やる。だが、豚族の男はどこにもいなかった。

  視点が急激に変わる。自分の体が勝手に立ち上がったのだ。そして、自分の体に着いた土をパンパンと払う。自分の意思によらずに。

  ガルーダは視覚に入った大きなピンク色の太鼓腹で気付いた。これは先程の豚族の男の体だ。

  どうやら自分は豚族の体の中に入り込んでしまったらしい。

  「逃げやがったか。クソッ、久しぶりに中に出したかったのによー。それにアイツの体なら売れば一万ゴルダくらいにはなったろうに。惜しいことしたぜ」

  ゾッとする様な内容をガルーダは当の豚族の男の身体の中で聞いた。いささか変なことになった様だ。

  視界の隅に鈍く光るものがある。

  「おっと、コイツはさっきの鈍刀じゃねーか。この開けられた箱から見るに、さっきの人族のヤローがこの遺跡で見つけたってことか。ってことは、何かしらのマジックアイテムかも知れねーな。念の為ヤシマのジジィに診てもらうか。俺にはただの鈍な短刀にしか見えねーがな」

  豚族の男は短刀を拾い上げ懐にしまい、ノシノシと歩き出した。

  どうやらここは山賊たちのアジトらしい。

  「合言葉は?」

  門番に尋ねられ、豚族の男は

  「ネフリフ川」

  と答えた。と、同時に指で小さくマークを作る。

  なるほど、合言葉はカモフラージュか。実際には合言葉を問われた時にこの指で示すマークが重要なんだな。よく出来ている。豚族の男の身体の中でガルーダは思った。

  「よし、通れ」

  そんなガルーダの感心した思いとは無関係に豚族の男はアジト内を闊歩する。

  そして別の豚族の男に話しかける。

  「おい、交代だぞ」

  どうやらこの豚族の男は縄張り内のパトロールに当番で出ていたらしい。そこでガルーダと鉢合わせたということか。

  「なんか変わったことはあったか」

  そう問われた時、この豚族の男の体の中でガルーダはマズイと思った。

  先ほどのことを話されたら面倒なことになる。

  だが、この豚族の男は

  「なーんもなかったぜ。平穏そのものさ」

  そう答えた。

  先ほど、人族のガルーダに出会ったこと、また、遺跡で拾い懐に忍ばせた短刀についても、一切おくびにも出さなかった。

  「そうか。じゃ、次は俺の番だな。行ってくる」

  別の豚族の男はそう言って出て行った。

  豚族の男の体の中でガルーダは「ふぅ」と胸を撫で下ろした。

  そのまま誰に知らせることもなく、あてがわれている建屋に戻り、椅子にその大きな尻を預け腰掛ける。

  しかし、いささか奇妙なことになったものだ。豚族の男の身体の中でガルーダはそう思った。

  あの短刀のせいか。この豚族の身体を突いたら大きな傷ができ、その傷から体に吸い込まれてしまったのだ。

  そう思った瞬間、豚族の男は懐から短刀を取り出し、それを繁々と眺め始めた。

  もしや?ガルーダの心の中に閃くものがあった。

  続きはFANBOXにて

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