「それ」を始めたときは、分かりやすく教室の隅から全員のを手に取った。種族男女好感度関係なく、体育の時に少しだけ遅れたり、放課後の誰もいない隙を狙ったりして、体操着や制服を嗅いだ。
身なりに気を使っている相手は柔軟剤の他に、爽やかな制汗剤や、粉っぽい化粧品が香って、あまり気を使わない相手は、汗や皮脂が染みて強烈だ。僕はどれも好きだ。
廊下側の一番前から後ろまで嗅ぐと、その隣の列。そしてその隣の列。そして隣の……と、しらみつぶしに嗅いでいくと、だんだん匂いと顔と名前が一致してくる。このちょっと香辛料っぽいのはあの人、あまり汗っぽい感じはしないけど家独特の丸い匂いがするのはあの人、それから、ちょっと甘くてうっすら汗の酸っぱいところがあって、もっと嗅ぎたくなるのはあの人、という風に。僕は毛並みが長くて、ほとんど目にかぶさっているし、顔を見なくても匂いで誰か分かるのは便利だった。
窓の列の一番後ろまで嗅いで、教室中の匂いを把握すると、一番好きな匂いをしている相手が分かった。
匂いが分かった、というか、教室の中にもやもやと広がる色んな人の匂いの中で、いつもいい匂いが隠れていて、その匂いの持ち主が分かった。
シャツの襟や脇、体育着の背中に染みたその匂いは、甘くて、背筋がびりびりして、垂れた耳が膨らんで、尻尾が逆立つくらい強烈だ。
「ノイノイさー」
「…………?」
「どこの匂いが好きとかあるの? ほら、……お尻、というか臭腺……が一番濃いけど、脇とか、首とかさ。俺とかノイノイは垂れ耳じゃん? 耳の内側とかもけっこうするじゃん。どこが一番好きかなーって」
「…………」
「なーなー、いいじゃーん」
僕とヨゼフはあの時からしょっちゅう一緒に遊ぶようになった。家に遊びに来たり、僕の方から遊びに行ったりしていた。今日は僕の家に来てくれている。例によって両親は仕事なので、二人きりだ。
二人きりということは、つまりそういうことなわけで。
服は着たままで、ベッドに腰かけた僕の股間に、ヨゼフは床に四つん這いになって顔を埋めている。
ボーダーコリーの小さな顔と吊り目がちな瞳は、いつもだとちょっと気だるげなのに、こういう時は上気して、とろんとしている。少しだけ開いた口からは、小ぶりな牙と舌の粘膜が覗いている。僕はヘンタイかもしれないけれど、ヨゼフだって同じくらいヘンタイだ。
「…………?」
そっちは? と聞くと、
「俺? んんー、どこも好きだけど、やっぱ……」
ヨゼフは細い鼻先を僕の股間にうずめた。そこはもう硬くなっている。硬さを確かめるように黒く湿った鼻でヨゼフはぐりぐりと押し付けられる。あまりされてしまうと出てしまいそうになるので、僕は腰を引いた。ヨゼフがにやりと笑う。
しなやかな身体を上げて、ヨゼフは僕をベッドに倒す。前を広げたシャツ、しっとりとした胸の毛並みが僕の鼻を覆った。体温と汗の湿り気の気配、そして強いヨゼフの匂い。
くらくらする。
もっと嗅ぎたくなる。
胸もいいし、脇もいい。耳の裏だって素敵だ。臭腺を嗅ぐのも濃厚でたまらない。服の匂いだって、直接とは違った感じがある。
「で? ノイノイはどこー?」
「…………」
答えた。
にんまりとヨゼフが笑みを深めた。