大型魔物

  街は大騒ぎだった。パーカス達が討伐しに行った森の大型魔物がこれまでに見た事のないサイズだったからだ。街の外れは今やそれをひと目見ようと、沢山の街の獣人が押し寄せていた。

  僕もジェシーのお母さんに連れられて皆で見に来ていた。と言うより、ジェシーのお父さんも討伐に参加していたので迎えに行ったと言うのが正解かもしれない。

  「テディ、あそこに隠者様が居るよ?あ、お父さんも居た!」

  僕を抱っこしていたお兄ちゃんが、荷馬車の側に立っているパーカスを指差した。パーカスは獣人達より頭ひとつ大きいので直ぐに分かった。僕はお兄ちゃんに抱っこされながらパーカスの居る場所へと近寄って行った。

  「ぱーかちゅ!ぱーかちゅ!」

  非日常的な皆の熱気に僕もまた興奮させられていた。パーカスが満面の笑みで僕に手を挙げると、お兄ちゃんがやっぱりお父さん!と呼びかけているのに気づいた。

  「テディ、僕たちのお父さんはあそこだよ。」

  気がつけばジェシーがスタイルの良い男の人に走っていくのが見えた。ジェシー達と同じ小さめの三角の耳がそっくりだった。ふと、ジェシー達のお母さんの耳が違っているのを思い出した。もしかしてお母さんは猫科でも違う種族なのかもしれない。

  パーカスがマントを脱いで僕に手を差し出した。僕は礼を言って、お兄ちゃんの腕からパーカスに渡された。

  「ぱーかちゅ!まもろ、たおちた?」

  パーカスは僕を抱き上げて頬にキスすると、面白そうに言った。

  「どうやらテディは楽しくケント家で過ごした様だな?今度御礼をしなくては。魔物を見に行くか?」

  僕はウキウキと胸を高ぶらせながら、パーカスの腕の中から周囲を見回した。あちこちで魔物討伐に参加した獣人達が家族と合流している。

  その中にあのスイカジュースをくれたダダ屋の熊獣人を見つけた。熊獣人はスラリとした細身の美人の腰に手を回していて熱いキスをしていた。多分夫婦なんだろうけど、猫科っぽいその美人は明らかに男の人だ。僕はその事実に、この世界は種族も性別も関係なく婚姻関係になるのだと知ったんだ。

  「ほら、テディ。これが一番大きなやつだ。シシ魔物の中でもこのサイズのものは私にも経験が無かったな。」

  僕の目の前に口から牙が飛び出した、どこかで見た様な形態の魔物が横たわっていた。形だけ見れば猪の様だったけれど、黒光りする身体や目が三つある所は僕のイメージする魔物そのものだったし、一番はその大きさだった。2tトラックサイズとでも言うのだろうか、大きな台車に乗せられたソレは迫力があり過ぎた。

  こんな大きな魔物をどうやって倒したんだろう。じっと見つめていると、その魔物の後ろ脚の一部が妙に光っている様に見えた。何だろうあれ。

  「ぱーかちゅ、あち、ピカピカちてる。」

  僕がそう言って魔物の後ろ脚を指さすと、パーカスはじっと見てハッとすると、そばに来たダダ屋の熊獣人に呼び掛けた。

  「ダグラス、こいつが変異した訳が分かったぞ。脚にある魔石だ。」

  そう言うと僕をジェシー一家に預けて、パーカスはダグラスという名前のダダ屋の熊獣人と一緒にシシ魔物の検分を始めた。パーカスが魔物の光っている場所を指さすと、ダグラスは大きなナイフを取り出して、ギコギコと切った。随分と皮が硬そうだった。

  ドロリと紫色の血の様な物が流れると、肉の奥にぼんやりと光る手のひらサイズの大きな紫色の石をダグラスが取り出した。魔物から出る石と言えば魔石だろうか。僕がお兄ちゃんの腕の中からじっと観察していると、パーカスが僕の方を振り向いて言った。

  「テディの言う通りじゃ。魔石があったぞ!」

  ジェシーが僕を見上げて尋ねた。

  「テディが見つけたの!?」

  僕は首を傾げた。僕が見つけたと言うか、光ってるなって思ったからそう言っただけだけど。

  しばらくすると、パーカスが近づいて来て綺麗に洗った魔石を僕に見せながら言った。

  「このシシ魔物の心臓の魔石が小さくて、身体に見合わないと皆で不思議に思っていたのじゃ。まさか脚にあるとはのう。テディには魔石が何処にあるのか分かるのかのう。」

  僕はパーカスの手の上のまるで大きな紫水晶の様な魔石を見つめながら、首を傾げた。

  「わかんにゃい。ピカピカちてた。きえい、ねー?」

  僕がそう言うと、周囲がドッと笑った。何がそんなに可笑しかったんだろう。

  「魔石を見て綺麗だって言うのはテディくらいだよ。魔石はどちらかと言うと、魔力の塊だからお金の様な扱いだからね。でもテディにしてみれば、単純に綺麗なだけなんだろうね。」

  そうお兄ちゃんが言うので、僕はもう一度魔石を見た。魔石が価値ある物だとすれば、魔物狩りはそれを手に入れる為も有ったのかな。

  それから腕に覚えのある人達が解体を始めた出したので、僕はパーカスに抱っこされてひと足先に家に帰ることにした。流石にパーカスも疲れが溜まっている様だ。帰ろうと歩き出すと、熊獣人のダグラスが僕たちを追いかけて来た。

  「隠者様、本当にありがとうな。あんたが居なかったら、怪我人だけじゃ済まなかったかもしれん。アレは常軌を逸した大きさだったからなぁ。明日は昼から魔肉祭りだから、その可愛子ちゃん連れて絶対来てくれよ?魔石が見つかったのはテディのお陰だから、お礼も期待しててくれよ。じゃあな。」

  パーカスは随分活躍したみたいだ。竜人はやっぱり獣人より凄いのかな。僕はパーカスを見上げて尋ねた。

  「ぱーかちゅ、つおい?まもろ、いっぱい、たおちた?」

  パーカスは楽しそうに笑って言った。

  「ああ、私は強いぞ。元々王国騎士だからの。魔物討伐はお手のものじゃ。」

  僕はパーカスが自分の事を王国騎士だと言うのを初めて聞いた気がした。それは暗黙の了解で会話にしてはいけない事かと思っていたけれど、そんなことは無かったみたいだ。今度ゆっくりその話を聞いてみたいなと呑気な事を考えていた僕は、この後、この異世界のファンタジーを身を持って経験する事になるなんて、全然心の準備がなかったんだよね。