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【イナバ×アギョウ】遠回りする夕暮れ【関西けもケット10新刊サンプル】
[chapter:完熟みかんの余熱から]
「イナバってさ、チューってしたことあるのか?」
いつもの会話をキャッチボールに例えるとしたら、このときのイナバは突然の剛速球を顔面で受け止めたようなものである。
二月の終わり、金曜日の午後四時半。神宿学園に程近い第一セーフハウスの居室に設置された小さなこたつに潜り込み、雪の薄らと積もる窓の外を眺めながら、いつものように他愛もない雑談に耽っていた最中のことである。狛犬の少年アギョウが前触れなく発したその言葉は、イナバをひどく困惑させた。
「え゙」
カエルの潰れたような声を上げ、イナバは本日三つ目のみかんを取り落とした。こたつ机を挟んでイナバの真向かいに座るアギョウは、机に転がる蜜柑を目で追い、それから困惑を露骨に表す友人に対して眉をひそめた。
「なんだよその反応」
「いやあ、えっとお……」
ちくちくと刺さるアギョウの視線に、イナバは目を泳がせた。
イナバにとって、アギョウは神宿学園初等部のわんぱく半ズボン男子ズの一員という認識である。なれば当然花より団子、恋の駆け引きよりもドッジボール、恋バナより今週の魔法少女スネグーラチカというのが似つかわしいおこちゃまであると理解していた。
そんなアギョウから、唐突に〝チュー〟などという言葉――子どもじみた響きながら、ほのかに色めき立つもの――が吐き出されたものだから、驚きを露にするのも無理はないのである。
「えー、一体どうしたんです藪から棒に。変なもの食べました?」
「食べてねえよ。つーか、そんなに驚かなくたっていいだろ」
さすがに大袈裟だぜ、とアギョウは不服そうに口を尖らせる。しかし、徐々に衝撃に適応してきたイナバはまるで悪びれる様子もなく、それどころかむくれるアギョウとは対照的に、徐々にふくふくとした笑みを浮かはじめていた。
「いやいやそりゃあ驚きますよう! だってまさかあのアギョウくんが恋にお目覚めになるなんて、この縁結びの白兎にして、恋愛成就のマイスターことイナバの知見をもってしても見抜けませんでしたもの。ところでなんです。ひょっとして誰かお慕い申し上げている御方でも? あっそうだおみくじ引きます? 私めが、とっても手厚く、お手伝いしましょうかっ⁉」
いやにわきわきとした手つきでミカンの皮を剥き始め、ぴょんぴょん跳ねるような語気でイナバは息巻いた。身も声もさわがしさには定評のあるイナバだが、とりわけ恋の話題となるとひときわ饒舌になる傾向がある。
「おまえこういう話になると早口になるよな」
「なッりますよそりゃあ! このイナバ、恋に咲く徒花の蜜を啜って生きておりますもの!」
キモいちょうちょみたいだな、とアギョウに微弱な毒を吐かれるのもどこ吹く風、イナバは誇らしげに鼻を膨らませた。
(中略)
「ならさ、試してみようぜ」
そう言って、真顔で身体を寄せてくるアギョウに、イナバはふたたび困惑する。すぐにお互いの身体は密着寸前、鼻先に吐息が掛かるほどの距離にまで肉薄する。
にわかにクリーム色がかった毛並みに、冴え冴えとした浅葱色のたてがみ、つぶらな縦長の双眸、あどけなさを溢れんばかりに湛えた小さな狛犬の面立ち。それが文字通り目と鼻の先まで差し迫って、イナバはなぜだかどきりとした。。
「試すって……もしかして、私と、チューを⁉」
「だってさ、気になるだろ。季節で変わるんなら、冬はどんな味なのかな、とか……?」
「や、それって俗説ですし、別に気になりませんし。というか、チューはほら、好きなひととしなきゃダメなんですよ!」
いやこの東京にはいろんな文化があって、いろんな転光元があって、いろんな考え方があるので一口にそうとは断言し難いですけど、わたしのいたタカマガハラやたぶんアギョウくんのいたワノクニでも! とイナバは畳みかけた。
「そっか、そうなんだ」
わめくイナバと対照的に、アギョウはすんと真顔だった。
「そうです。このひととなら添い遂げてもいいっていう気概がなきゃ、だめです!」
「ん、そっか」
「ええ。ですからしてちょっと離れ、ん、むうっ――⁉」
わずかに顔を強張らせたアギョウが、イナバにその硬さの意味を理解させないまま身体ごと肉薄して、ちゅ、と触れる。
次の息を吸おうとしていたくちびるが不意に塞がれて、顔ごとぐっと押し付けられて、熱い鼻息が鼻の下をふうとくすぐった。澄んだアギョウの瞳に自分の顔が映りこみ、イナバはそこでようやく口づけを受けていることに気付く。垂れていた薄桃色の兎耳がぴんと張る。
「ん、んんっ――⁉」
一体何を――と上げようとした声も、アギョウの口にせき止められてくぐもるばかりだった。
背中に回されたアギョウの腕が、身体にすがりつくように強い力を帯びて、ぎゅっと抱き寄せられる。思いのほか力が強く、これではまるで抱きしめられているみたいで、いやもうどこからどう考えたって〝みたい〟どころか〝そう〟でしかなくて、ということは、これはいったいどういうことか。
[newpage]
[chapter:遠回りする夕暮れ]
ぜんぶがぜんぶ、遠くで鳴る雷のせいだった。
二時間目の体育の授業のとき、助走の足取りがもつれて見事に跳び箱に激突したことも、四時間目の算数の授業で円柱の高さを底辺かける高さと言ってしまい赤っ恥をかいたことも、大好きな六時間目の東京言語の授業において、クラスメイトの音読の声が全くもって頭に入ってこないことも、ぜんぶ。
授業の終わりまでもう十分を切っていた。自分の席の逆サイドから聞こえてくる句点読みの声は、東京言語の苦手なあの子のもので、案の定発声はとてもたどたどしい。このペースでは、次の音読の順番が回ってくることはないだろう。
イナバはちゃんと授業に集中しているふうを装って、まるでミミズが踊り狂ったかのようにぐちゃぐちゃの字をノートに書きつけていた。気もそぞろな様子で視線を宙に投げ出しながら、考えるのはあの日のできごとだ。
先週の末の、大雪の日のこと。サモナーズの定例会議――という名目の勉強会、もといダベり会――において、初等部で学校の終わりが一番早いからという理由で普段から鍵当番を任命されていたアギョウとイナバは、いつものように他のメンバーに先駆けてセーフハウスに入っていた。
サモナーズのリーダーが冬はコレでしょ、と経理担当の委員長に黙って導入したこたつに潜り込み、リョウタ氏がこたつにはコレだよね、と経理担当の委員長に黙って購入したみかん(段ボール三箱分)を肴にいつものようにくだらない話に花を咲かせていたところ、アギョウは突然イナバに対してチューをしたのだ。しかもほっぺたとかでなく、口と口と、で。
もちろん、様々な価値観・種族の集まるこの東京だから、口づけを気さくな挨拶の方法とする文化があったって妙ではない。けれど、アギョウと同じワノクニ出身のモリタカにそれとなく話を振ってみたところ、『くくく口吸いを挨拶とする破廉恥な風習など、ワノクニには御座りませぬ!』とか言って真っ赤になって走り出し雪で滑りそのまま電柱に衝突していたところを見るに、ワノクニにおけるチューとは、イナバが理解しているのと同等の意味合いを持つと考えてよいはずだった。
チューの事実とワノクニの価値観。二つの要素から導き出される答えはとても単純なもののはずだ。これまでに数多の恋を解きほぐしてきたイナバなら、鼻歌交じりにでも論を結ぶことができるだろう。
しかし、実際はそううまくもいかないのだ。事実から先のことを推論しようとするたびに、不意にどこからか鳴り響いてやまない遠雷のせいで思考がかき乱される。どうしたって思い浮かぶ間近で眺めたアギョウの顔とあの時の余熱が邪魔をして、そのたびに色々なことが覚束なくなってしまって、結局上手に考えがまとまらないまま、早一週間が過ぎ去ろうとしていた。
(ああもう、アギョウくんは、どうして私にチューなんか……)
結局、今日も迷い路から抜け出すことは叶わずに、ノートのうえには幾何学模様の黒い線だけが広がっていくのだった。
考え疲れたイナバは窓の外に広がる校庭に視線を投げ出した。校庭には体育の授業らしく校庭を駆ける少年少女の姿があり、真っ白な体操服は夕焼けの陽を吸って茜色に染まっている。
顔ぶれからして、初等部B組の体育の授業だろう。B組といえばアギョウのクラスである。イナバの視線は、無意識のうちに彼の乳白色の毛並みを探していた。
(あれ、いない?)
同年代と比べ縦にも横にもやや大きい、乳白と浅葱のツートンな毛並みはよく目立つはずなのに。加えて、転光して以来毎日のように顔を突き合わせているのだから、その姿を見つけられないなど有り得ない話なのだが、やはりどこに視線を巡らせても校庭にアギョウの姿は見つけられなかった。
サボった、なんてこともないはずだ。どこぞのぐうたら仔ウサギとは対照的に、アギョウといえば帰り道の買い食いにすら難色を示すぐらいの真面目っ子で、授業を放棄して遊びにいくなんて天地がひっくり返ったって考えられないことだ。
きんかんこん、と授業終わりのチャイムが鳴った。日直当番の投げやりな掛け声に合わせて、起立、着席、礼。色とりどりの、小気味よい挨拶の声がばらばらと教室に響く。
先生が去り、堰を切ったように教室は賑わい始める。子どもたちにとっては長い授業から解放された瞬間で、待ち構える土日休みの存在がクラス中に朗らかな空気を広げていく。
しかし、そんな喜びの輪の中には入れそうもなく、イナバは気もそぞろに校庭から引き上げるB組の生徒たちを見つめていた。
(中略)
「え、なに、しゃしゅつ? ……射出ぅ⁉」
聞き返す間もなくワニザメの身体は急旋回。いきなりの進路変更に体重を傾けきれず、イナバは速度を乗せたままワニザメの背からぽおんと射出される。
「うわあああああッ! あ、アギョウくうううん!」
――鮮やかな放物線を描いて、一匹の仔ウサギが宙を舞う。
膝に顔を埋めていたアギョウが、不意に上から降る絶叫に顔を上げ、目が合った。
「え……い、イナバぁ⁉」
つい先ほど、無理やり突き放したばかりの友人が、なぜか高速で空から降ってくるという奇怪な現象に、アギョウの思考は完全に凍り付いた。呆けたように口を開け、イナバが地面に着弾する様子を見守ることしかできない。
「あああああああああっ――ん、おぶっ、ぐええっ……!」
イナバの身体が河川敷の地面に叩きつけられ、ぼよんぼよんと二、三跳ねて大回転。勢い余って土手のふもとに生える蒲の群生に突き刺さり、そこでようやく躍動が止まった。
「あいででで……。うう、ひどいよおワニザメくうん!」
全身を打ち付けた痛みに数秒悶えてから、イナバはがばりと起き上がった。人間だったら確実に病院行きの速度で突っ込んだが、獣人の頑強さならこの程度はなんとか耐えられる。とりわけイナバの幸せボディは、そのもっちりとした装甲により、思いのほか耐衝撃性能が高い。尤も、それをワニザメが知っているかは定かではないが。
とはいえ、流石にちくちく言葉の一つでも言う権利があるだろう。イナバはワニザメの姿を探した。しかし、もう役目は終えたとばかりに悠々と川を泳ぎ去る背びれは、既に川面の遠くだ。
「もうワニザメくんとは絶交するもんね……」
一人だけいい空気を吸っていた。少なくとも三日は口を聞いてやらないぞ、と固い決意を浮かべるイナバに、おそるおそるの足取りでアギョウが近づいてくる。
「あの……とりあえずさ、大丈夫か」
流石にあんな跳躍もとい墜落を見せられたあとでは、降り積もった気まずさよりも心配が勝つものらしい。
目と目が合う。イナバは、アギョウの目が充血で赤くなっていることに気付く。それに、声もどことなく涙ぐんでいた。
「アギョウくん。えーっと……ぴ、ぴょーん!」
「うわっ!」
一瞬の逡巡、しかしこの機を逃すまいと、イナバはやにわにアギョウに飛びついた。半ば体当たりのような速度で組み伏せ、二人団子になって地面に転がりこむ。
「あ、ってて……なにすんだよ! てか、いったい何しに……」
「会いに来たんですよ!」
吠えるアギョウに、イナバはにこやかに言葉を続けた。
「だからお話しましょう、アギョウくん」
[newpage][chapter:春めくふたり]
(前文略)
「そんなに見られると、ちょっと困るっていいますか……」
目を伏せ、くちびるを噛むイナバの顔は、羞恥が沸々と湧き立って赤く染まっている。
いつものような、わざとらしくおどけた照れ方ではなかった。我慢できずに人の目の前でおしっこをするという痴態を、しかもよりにもよって恋人の前で晒してしまっているという事実に対して、本気で身の竦むような恥ずかしさに苛まれているのだ。
「すげー出るじゃん。相当もれそうだったんだな、おまえ」
「うう……わざわざ言わないでよう……」
そんなイナバの恥じらいに油を注ぐように、アギョウは飄々と言葉を紡いだ。いつでも調子よく振舞っているイナバが、こんなに毛並みをぼわぼわにして、ぱっと顔を赤らめてきまり悪そうにするのがたまらなく痛快だった。
「んもう! あっち向いてください!」
「やだ」
「うぐぐ……。じゃあもう、見りゃいいじゃないですか好きなだけ! アギョウくんのおバカ! どヘンタイ!」
水流の勢いは多少落ち着いたが、まだまだ止まる気配はない。全部を出し切るまでは逃げるに逃げられず、一方的に恥ずかしい姿を見られ続けるしかないという状況に、イナバはどうすることもできない。普段仕掛けられている分のやり返しとばかりに増長するアギョウに向けて、イナバはやけくそ混じりに喚き散らした。
「なら見るけど」
「ああんもう、やっぱ見ないでくださいよお……!」
からかうたび、込み上げる含羞に満ち満ちて乱れるイナバに、アギョウはなんともいじらしい気持ちになった。普段のふくふくとした笑顔から到底想像できないような表情を眺めていると、これまでとは違う愉しさがこみ上げてくる。
(恥ずかしがってるイナバ、なんかすげーかわいいかも)
純朴だったアギョウの胸の内に、底知れぬ感情が芽吹き始めていた。情欲と呼ぶには青々しく、しかし好奇心というにはあまりに邪なもの。そのことを思うと妙に体の内がぐつぐつとして、湯船に浸かり過ぎたのも相まって頭の中がふわついて。
「なあ、イナバ」
「……なんです?」
「今日さ……エッチなこと、してみようぜ」
熱に浮かされたばかりに、つい魔が差してしまうのだ。
(中略)
「うー……」
握り込んだ両手をしぶしぶずらすと、緊張で小さくすぼまったアギョウの蕾が露になる。体色と同じ乳白色の包皮に包まれた先端から、淡い桜色の亀頭がほんのわずかに覗いている。
「よろしい。……じゃ、お布団いきましょっか」
「ん……そうだな」
しばしば銭湯に出かけることもあれば、初等部のプールの授業では二組が合同ということもあり、お互いに真っ裸の姿を見たことがない訳ではない。しかし、普段生活している居室のなかで示し合わせて互いに裸になるというのは、これまでにはない奇妙な興奮と背徳感が生じる行いだった。風が普段は衣服に遮られる敏感な部位をくすぐるたびに、一層妙な気持ちになる。
「せめて、電気消そうぜ。オレ、落ち着かない……」
ひとつの敷布団の上に二人で転がり込んだはいいが、天井のシーリングライトがぎらぎらと真白い光を放っていて眩しい。互いの顔や裸体が白日の下に晒されているようで、これではなんだか気分が削がれてしまう。
「そうですね……わたしも、ちょっと恥ずかしいです」
最低明度に切り替えたライトの昏い光が、世界を一気に狭くする。しんとする静けさの中、お互いの呼気が鮮明に聞こえ始めて、緊張感がじりじりと高まっていく。
「わたしから触りましょうか」
「いや……オレから、触りたい、かも」
「なら、どうぞ。どこでも、アギョウくんのお好きに」
体を仰向けにして、イナバは目を閉じた。毛が擦れるほどの近くに感じるアギョウの体温に、心臓が俄かに昂り始める。
イナバの身体の上を、アギョウの指が迷い箸のように彷徨って、やがて獲物を見つけた鳥のように、イナバの股座にちょこんと突き出た薄桃色の柔肉――未成熟な性器の先をつついた。
「ひゃっ……」
ぴり、とイナバの身体に小さな痺れが走って、艶気を含んだ声がこぼれ落ちる。その妙に色めいた響きに、アギョウは息を呑む。
「いっ、いきなり、ちんちんさわんないでよ……」
最初は周辺の部位から責められるのかと思えば、いきなり本丸とは、心の準備もなにもあったものではない。照れと呆れの綯交ぜになったイナバの言葉に、アギョウは口端を歪めた。
「好きなとこって言っただろ」
「もうちょっとこう、勿体ぶってですね……ん、ひっ」
生意気を叩く口を封じるように、アギョウはイナバの長耳に指を添えた。そのまま、指の平で耳の裏をすりすりと撫でると、イナバは効果覿面とばかりにへにょへにょと体をくねらせる。
「あっ、あっ、みみ、ぞわぞわするっ……」
鋭敏な感覚器は急所にもなり得るものだ。獣人の多くが尻尾を弱点とするように、兎獣人にとって長い耳は責められると弱いことを、アギョウは日頃の戯れのなかで既に知っていた。
まさぐるように指先を強く躍らせて、アギョウはイナバの額を、首元を、胸を、脇腹を、遍く毛並みをじりじりと撫ぜくり回す。性感帯である耳への刺激で鋭敏になった肉体に、息つく暇もなく責め立てる指先が、微細な快感を幾重にも植え込んでいく。
「あ、うう……ん、そこ、くすぐった……くうう……っ」
肩を震わせる。身体をぎゅっと硬直させる。腰を浮かせて沈む。一挙一動のそのたびに、イナバの喉から聞いたことのない濡れ声が吐き出される。
イナバの吐息が次第に荒くなって、やがてとろりとした熱を帯びた瞳が見開かれる。
「チュー……してください」
「ん」
乞うような眼差しに引き寄せられるように、イナバの横たわった身体に覆い被さって、アギョウは力強く口づけを交わした。かつての河川敷のときより粗っぽい、イナバのくちびるの上に乗った熱を吸い上げてむさぼるような口づけを、何度も何度も、食いつくようにして。
(中略)
「好きですよ、アギョウくん」
「お、おれも……ん、はうっ……」
まじないごとを耳元に吹きかける。吐息がいたずらに耳朶を擽って、アギョウはくすぐったさに小さく悶える。
鋭敏になった耳の先端を、イナバは半ば不意打ち気味にちゅうと吸った。湿って熱く、少しざらついた舌先でなぞり上げられ、アギョウはぞわぞわとして体を震わせる。
「ふぁ……そ、それは反則……あ、ひううっ……」
その一手を先駆けに、イナバは緩急をつけながら、時には不意打ち気味に、意識の外にあった部位へと刺激を与えていく。
まるでいたずらウサギが跳ね回るように、耳に舌を添わせたかと思えば頬を手で包み、脇腹をくすぐり、かと思えば不意打ち気味にもう一度キスをして、首元の毛なみをかき回し、尻尾の付け根をとんとんと叩き、薄桃色に張った幼い乳首をこねくり回す。一心不乱に責め立てるアギョウとは対照的に、起伏をつけて、しかし絶え間なく責め立てる。
身の方々に立ち込めるこそばゆさに身悶えながらも、ふと、アギョウはそのむずりとした感覚が、今までにない不思議な痺れに置換されていくのを感じていた。
「ひゃ……うう、へんな、とこばっか、さわんなよっ……」
色彩に満ちた無数の快感が、アギョウの柔らかな脳を揉みしだく。愛撫による刺激が、体のありとあらゆる部分をいいようにされている事実が、まだ幼いアギョウの心身を急速に成熟させていく。
受けた刺激は身体の内で蓄積されて、にわかに強張ったアギョウの雄の部分に流れていく。いつのまにか、アギョウの小さな肉蕾には少しずつ芯が通い始め、普段よりも少しだけ存在感を増した薄桃色の亀頭に、滑らかな腺液が滲む。
「ん、あ……っ」
内腿をなぞり上げられ、走る痺れにアギョウはひときわ大きな甘声を漏らした。これまでよりも激しく、堪えようのない快感が襲って、未だ余韻に小さく震えるその様子を、イナバはいたずらっぽくはにかんだ。
「ここ、くすぐったいんですね」
「う、るさ……ふ、あっ」
つうとイナバの指先が這って、アギョウの内腿をなぞる。
ぞくり、と敏感になった体が震えた。甘く痺れるような快感がじんじんと腹の底に響いて、同時にアギョウの股座に下がる、すっぽりと皮を被った小蕾の根元に熱が注ぎ込まれる。
ぴく、ぴくと、断続的に込み上げる未知のむず痒さに悶える、皮に包まれた薄桃色の鈴口。いつしかてらてらとしたぬめりを帯びて物足りなさそうに跳ね上がり、固く強張っていた。
「イナバぁ……オレ、チンコも……さわって、ほしい」
下腹部に渦巻くじれったさをどうすることも出来ず、もぞもぞと身を捩り、アギョウは切なげな声音で囁いた。
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