近所に住んでいてよく遊んであげていた獣人ちゃんが、成長してからは露骨に自分を狙ってきているので、あまりに執着的で恐怖を感じ、黙って引っ越して逃げようとしちゃう話
近所の獣人ちゃんとは、幼い頃から遊んであげていて、昔はとても仲が良かった。
特に、出会った頃というのは、僕も平凡な学生で、だからこそ年下に対して先輩風を吹かせたかった気持ちもあったのだと思う。
それで、ある日公園で1人寂しそうにしていた獣人ちゃんと遊んであげ始めたのがきっかけだった。
だから、最初はとても円満だった。
始めの頃は大人しかった獣人ちゃんも、仲良くなり始めてからは、しょっちゅう「にいさん!あそぼ~!」と言って着いて回るようになってきて、それが可愛らしかったし「にいさん!おとなになったら、わたしとつがいになってね!」とか言ってきて、子供がよく言っちゃう大人になったら結婚しよう的なやつか~、なんて微笑ましく思いながら「いいよ、大人になったらね」なんて返していた。
彼女が本気にするなどとは全く思っていないまま。
あれから数年が経って、僕は就職し、獣人ちゃんも成長して立派な少女になった。
それでも僕と獣人ちゃんの交流は続いていて、今でも道端で出会えば談笑するし、それなりの頻度で獣人ちゃんが僕の家に遊びに来たりもしている。
ただ、正直に言うと、僕は今の彼女のことがとても恐ろしかった。
先程、道端で会えば談笑すると述べたけれど、それも止むを得ずのことで、どれだけ通勤時間をバラバラにズラしても毎日のように何故かばったり通学途中の獣人ちゃんと出会うことが常だし、そうすると彼女は全く偶然かのように装って「……あ、兄さんじゃないですか。ふふ、今日も会ってしまいましたね。それじゃ、せっかくですし駅まで一緒に歩きましょうか」と言いながらさりげなく身体をぴとっとくっつけてくる。
まあ、これだけなら毎日一緒に通学したいけれど正直には言い出せなくて、僕が家を出るのを見計らっているのだと言われても、納得はできるしそれなら可愛らしいものだと思って流すことは出来るだろう。
しかし、僕が恐怖を感じている要素はこれだけには留まらない。
彼女はよく、休日になると「兄さん、遊びに来ました。今日も一緒にゲームしましょう」と言って、僕が年頃の女の子を家にあげるわけにはな……と渋っていても、強引に入り込んでくる。
そうして仕方なく一緒にゲームをしてあげるのだけど、プレイ中の彼女はやたらと距離が近いし、それを指摘しようとして「あの、獣人ちゃん……ちょっとこれは……」と言いかければ「兄さん、今良いとこなんですから集中してくださいっ」と叱られてしまう。
そんなわけで、強く言われると反論できなくなってしまう気が弱い性格も災いし、例え彼女が膝の上に乗ってきたとしても、途中から息を荒くして腰をじりじりと動かして股間に擦りつけてくるような所作をされようとも、どうにも言い返すことが出来なかった。
今思えばその行動も、彼女に期待を与えるようで良くなかったのかもしれない。
ある日の休日、同じく彼女とゲームをしている最中に、なんだかボーッとしてしまって、気がつけば寝落ちしてしまっていた。
ゆさゆさと身体が揺られる感覚で目を覚ませば、ベッドの上。獣人ちゃんが気を使ってくれたのかな……と思ったのも束の間、自分の身体の上に馬乗りになってきている獣人ちゃんを見て思わず「はっ……?え、な……なにしてるの……?」と声を漏らす。
蕩けた表情で、息を荒くし、必死に腰をヘコヘコと動かしている獣人ちゃん。
幸い服は着ているし、服越しに擦り付けて来ているだけで、本格的な行為には及んでいないようだった。
獣人ちゃんは僕に声をかけられたのに気がついて、一瞬ビックリしたようにピタッと動きを止めると、大きく目を見開いて絶句してしまう。
それから「兄さん……」と一言呟いてきたかと思うと、彼女は唐突にグワッととんでもない力を入れてベッドに押さえつけてきて、その気迫に恐ろしさを感じて必死に抗おうとしたけれど、相手は女の子で、しかも年下なのに全く歯が立たず、完全に人間と獣人の力の上下関係を思い知らされてしまった。
ああ……もうダメだ……襲われてしまう――と、思ったのだけれど、獣人ちゃんは数秒後、不意に力を緩めてきたかと思うと、本人自身も混乱したような顔で「……ごめんなさい。別にさっきのはなんでもありませんから。あの、今日はもう帰ります」と言って、僕のズボンは湿っているし、明らかに自分が何をしていたかバレていることなんてわかっているはずなのに、あくまで知らないフリをしてそそくさと部屋を出ていく。
その出来事はあまりにも怖くて、一日中動悸が止まらなかった。
その日からだった、明確に獣人ちゃんのことが恐ろしくなってしまったのは。
しかも、次の日からは獣人ちゃんは何事も無かったかのように接してくるから余計に恐怖が助長された。
もうダメだ、僕には耐えられなかった。
正直言って、別に好ましく思われているのは悪いとは思わない。
獣人ちゃんは可愛い顔をしているし普段は性格も良くて、人に好かれる真面目な子だ。
歳が離れていて今更恋愛対象には見られないけれど、悪い気はしない。
しかし、それは純粋な好意を向けられているならの話だ。
僕からすると、今、彼女の純粋な好意の裏側にはドロドロとした肉欲が隠れているのが丸わかりで、ふと目が会う度に彼女の瞳の中に獣の本能的な欲が垣間見えるような気がしてすぐに怖くて目を逸らしてしまう。
このままだといつか本当に襲われてしまう。
そのことしか考えていなくて、ノイローゼになりそうだった。
けれどそんなある日のことだった。
仕事の都合で転勤することが決まった。
転勤する、ということは、ここから近くではない違う場所で働くということ。
近くではない場所で働くということは、この家から引っ越さなければならない。
そして、引っ越すということは獣人ちゃんと離れられるということだ。
僕は嬉しかった。自分から彼女を拒絶すれば、何があるかわからなくて怖かった。
けれど、これなら理由があるし、心持ち的にも罪悪感を覚えない。
瞬く間に、僕は早く転勤して引っ越したい気持ちでいっぱいになった。
とはいえ、1つ問題はあった。
獣人ちゃんに引っ越すことを言うかどうか。
少し悩んで、僕はすぐに言わない方がいいんじゃないかと思うことにした。
言ったら何をされてしまうかわかったものじゃないし、黙って引っ越してしまっても行方はわからないだろう。
そう思った。思ってしまった。
それからしばらくが経った。
新しく引っ越したアパートは、前に住んでいた場所とは全く離れている別の地域だし、もう朝通勤する時に獣人ちゃんに偶然を装われて出会ってしまうことも無いと思うと、とても心が軽かった。
結局、獣人ちゃんには最後まで引っ越すことは言わなかったし、悟られないように頑張って接していたから、恐らく行方は知らないはず。
良かった……離れられて。
そう思っていたある日の休日。
家で過ごしていると、突然インターホンが鳴らされた。
ネットの通販で新しい家具を注文していたので、きっと配達員だろう。
心当たりはあったので、覗き窓も見ず、深く考えずに扉を開こうとする……が、途中で何か悪い予感がした。
まさかな……と思いつつも、もうドアノブには手をかけて回してしまっている。
外の人間には、もう僕がここに居るということがバレてしまっている。
どうしよう……。悩んだけれど、数秒ののち、開けることに決めて。
そして、すぐに後悔することになった。
「……あれ?もしかして……兄さん?……に、兄さんじゃないですかっ!ひ、久しぶりですねっ!……こんなところで再会できるなんてとっても嬉しいですっ!……って……あっ、すみません急にはしゃいじゃって……。いやあ、でもまさかこんな偶然なんてあるんですね。実は私、この春進学したんですけど、学校がこっちの方にあって、それでたまたま隣の部屋に引っ越してきて――」
ペラペラと流暢に理由を語り始める獣人ちゃんに唖然としてしまった。
偶然だって?……そんなわけないだろ……。
ほとんど脊髄反射だった。
彼女が言いかけているうちに、僕は扉を勢い良く閉めようとした。
が――バシッと扉に手をかけられ、すぐにそれは阻止されてしまう。
それから、彼女は平静を装った顔で訊いてきた。
「兄さん……なんで閉めようとしたんですか?」
なんて言えばいいなんて言えばいいなんて言えばいい。
考えても答えは出てこない。
そうこうしているうちに、獣人ちゃんは「ハァ……」と突然豹変したかのように不機嫌そうな顔でため息を吐くと、バキィッと音立てて金属製の扉を歪ませ、破壊してしまった。
それが突然で、あまりの恐怖に僕が尻もちをついてしまうと、獣人ちゃんはスタスタと家の中まで入ってきて、僕ににじり寄ってくる。
そして、さっきよりずっと底冷えのする暗い声で「……なんで閉めようとしたんですかって訊いてるんですけど」と言ってきた。
やばい……どうしよう。
怖くて後退りしようとするけれど、そうすると獣人ちゃんはギュッと僕の腕を掴んできて離してくれない。
そのうち、獣人ちゃんは微笑むのをやめて、真顔で、「そもそもなんですけど……なんで私に黙って引っ越したんですか?」と問うてくる。
「そ、それは……」
なんとか返事をしなければとそこまで声が出たけれど、また何とも言えずにいると、獣人ちゃんは痺れを切らしたように「私から逃げようとしたんだろ💢💢正直に言えよッ!!!💢💢」と突然大声で叫び、胸ぐらを掴んできて、僕はベッドの上に乱暴に放り投げられてしまう。
それから彼女はほとんどノータイムで僕を拘束するあのように、僕の身体の上にあの日のように馬乗りになってくると、「兄さん、私のこと嫌いになったんですか?💢💢逃げるってことはそうですよね?💢💢嫌いになったんですよね?💢💢」と尋ねてきた。
その言葉に、これ以上キレさせたらやばい……と思って、取り繕うように「そ、そんなことはなくて……」と言うけれど「嘘つきッ💢💢私のこと弄ぼうとしてたんだろッ💢💢」と言って、唐突にお腹をぶん殴ってくる。
躊躇の無いパンチの痛さに喘いでいると、獣人ちゃんはますます怒りを増したように「兄さんって、昔私の番になってくれるって約束しましたよね?💢💢だから私は、大人になったら兄さんと愛し合えるのだと思って希望に満ち溢れた生活を送っていたんです💢💢兄さんと交尾したくって、目が会う度に子宮がイライラして発情しちゃって、そのたび早く子作りしたいって思ってて💢💢それなのに!!!💢💢それなのに逃げられた私の気持ちがわかりますか!?!?💢💢」と言って、素早く服を脱ぎ始めると、僕の衣服を乱暴に剥ぎ取ってきた。
「わかるわけありませんよね💢💢人の心を弄ぶような人に理解できるわけありません💢💢だから私、ずっと前から決めてたんです💢💢わかってくれないなら力づくでわからせてやろうって💢💢流石に黙って引っ越された時はびっくりしましたけど、そんなので逃げられるわけないでしょ💢💢兄さん、私から逃げられると思いました?💢💢そんなの許すわけないじゃないですか💢💢兄さんは私のモノです💢💢私の番なんですっ💢💢約束したんだから責任取ってください💢💢」
「ご、ごめんっ……でもっ――」
叫び散らす獣人ちゃんに対して、僕が何か弁明しようとすれば、彼女は素早く舌を入れてきて、暴力的と取れるような窒息しそうなほど激しいキスをしてきて。
「れろぉじゅる❤ちゅるっ❤じゅぷぷ❤くちゅっんちゅっ❤じゅぞぞ❤んぷっんっ❤っっっんはあっ❤はぁ……❤……黙っててくれませんか❤💢💢謝罪なんかして今更私が許すとでも?❤💢💢ほんとに図々しいですね❤💢💢大人しく運命受け入れて下さい❤💢💢もう兄さんは私の番なんですから❤💢💢」
そう言われて、恐怖を感じるけど、抗えるわけもなく、ただただ獣人ちゃんにマーキングされ続けて、搾り取られ続けて、絶望しながら彼女の番になったことを受け入れるしかない話