ヒーロー:レギルベルト_活躍とおむつ堕ちの顛末

  1.ヒーローたちの戦い_V.S.クグワロゴール

  獣人がいる世界。近未来の多分、日本

  ステンドグラスが砕ける音が、深夜の聖堂に鳴り響いた。

  硝子の欠片が月光のプリズムを夜空に浮かべる中、少年がひとり降ってくる。

  着地と同時に銀の剣閃が周囲の闇を払い、かつて神を讃えた祭壇の前で鋭く構えられる。

  「ここで暴れてるのは……貴様か?」

  真っ黒な猫獣人がキラリと闇の中へと刃を向ける。

  体毛とは真逆の真っ白なヒーロースーツを全身にまとい、大理石の床を焦がす黒煙の向こう側へと目を光らせた。

  ガラ……ガラガラ

  色とりどりの小片が、背後に落ちる。

  「レギオン、聞こえるっすか? カラーはブルー、B級ヴィランっす」

  耳につけた無線機から、相棒ヒーローの声が聞こえる。

  「確認次第、討伐する」

  黒猫のヒーロー、レギオンは短く返答した。

  ガラリ……

  燻る闇の向こう側から、男が笑いながら歩いてくる。灰色のフード、灰色の瞳。

  だが一番目を引くのは、その両手に宿る、常識では測れない黒い炎。

  「へぇ……こんなとこに、もうヒーローが出張? 遅れて登場するのが流儀かと思ってたよ?」

  レギオンは暗闇を凝視すると、追っていた敵手の周囲にうっすらと冥く青い靄が見えた。

  「青……B級ヴィラン、クグワロゴールを目視」

  黒猫の青年は一瞥もせずに剣を構えた。

  眼前には灰色の毛並みをなびかせた犬の獣人を見据える。最近頭角を表してきた新しいヴィラン、通称クグワロ。

  「武器も持たずにどうした? 俺様に焼かれに来てくれた?」

  クグワロは挑発するように笑いながら、素早く炎を放つ。

  ゴウッ

  薄ら笑いを浮かべながらも、狙いは的確にヒーローの立っていた場所を焼き切った。未武装だったことを好機と判断し、相手が武装するより先に火ぶたを切ったのだ。

  「我は黒き火の簒奪者――ヴィランコード:892、[[rb:黒の葬火>ディーロス・フランメ]]」

  クグワロの両腕が唸る。黒炎が広がり、破裂する。

  だが、そこにヒーローの姿はない。

  床に撒かれた火の環の外側。壁を蹴って跳躍り、白い影は空中で身体をひねりながら、剣を構える。

  「マジかよ……?」

  クグワロの表情が引きつる。

  「届く距離、露出した動線、遮蔽なし」

  炎の隙間を掻い潜り、白銀の剣先を敵の眼前に突き付ける。

  そのヒーローは、ただ剥き出しの力だけで、ヴィランを追い詰めていた。

  「何なんだよ、お前……!」

  彼はやぶれかぶれに炎を放つが、視界の先に、もう敵の姿はなかった。

  一歩。白いヒーロースーツが翻り、空気を裂いて接近する。

  「討つ!」

  ゴウッ!

  炸裂。

  白銀の剣が喉笛を切り裂こうとした瞬間、黒炎が煙のように散った。クグワロが弾け飛び、衝撃で祭壇ごと巻き込んで倒れ込む。

  「俺様、コード無し負けるとか……あんた、ナニモンだよ?」

  彼は半ば自爆するような形で、息も絶え絶えに距離を取った。

  「炎……。貴様、呼び声は聞いてないか?」

  何の力も帯びないただの剣を再度構え、ヒーロー、レギオンは冷たく言い放つ。

  「は? なんの話? 聞いたと言えば……そうかもな」

  相手は考え込むような態度を見せる。暗い闇の中にもくもくと燻った煙が立ち込める。

  「そりゃどんな話だ? 俺様、気になるぜ?」

  クグワロのニヤついた顔。考えるふりをしていることは明白だった。

  「要らぬ問答だった」

  剣先が翻り、敵手を穿つ。

  ボウッ

  炎が広がり、あたり一帯を黒煙で満たした。

  「やべえ奴には関わるなって、ママに教わっただろ?」

  「小賢しい」

  煙が晴れると、その場にただ夜風と、割れた聖堂の静寂だけが残った。

  ヒーローは一歩、崩れかけた窓辺に近づき、黒煙の残滓を見つめる。

  アルデバランが冥く輝く日まで、あと3日。

  奇妙な声が、頭の中で重く響いた。

  [newpage]

  2.はじまりはおねしょ

  一夜明け、ヒーローたちの寄宿舎の一室、ドアのネームプレートには「レギルベルト」の名前が刻印されている。

  昨夜のヒーローは、自室のベッドで目を覚ました。

  ヒーロースーツを脱ぎ去り、レギオンを名乗るヒーローも、今は一人の青年に過ぎない。

  「……クッ、寝汗がひどいな」

  カーテンの隙間から差し込む朝日はやけに静かで、昨夜の喧騒が夢だったかのように錯覚させる。

  それでも昨夜の戦闘で燃え上がった身体は、未だにどこか火照っているようだ。

  グショ……

  起き上がり、布団を跳ね上げた途端、寝汗だけでは説明のつかない水たまりが、彼の股間部に広がっていた。

  「寝……汗……じゃ……」

  じっとりと大きく広がる水たまりは、明らかに彼の股間を始点に広がっている。

  見まごうことなく、それはおねしょだった。

  「い、いや……あ、ありえない」

  はとっくに成人しているし、経験は久しく無かった。

  子供の頃は夜尿症が治らないと、恥ずかしながらよく言われていたが、とっくに克服したものだと思っていた。

  「よっすレギー、起きてるっすか~?」

  ガチャ

  ノックもなしにドアが開く。

  「おっ、おおっ……なっ、なんだね!」

  悲鳴のような返事をしながら、ヒーロー、レギオンこと、レギルベルト。通称レギーは慌てて布団を下半身にかぶせた。

  心臓がばくばくと跳ね上がる。

  「どしたんすか? 金魚みたいな声出して」

  金トラの猫獣人、フィオメオがトレーナー姿で顔を出した。レギーの相棒ヒーローで、通称はフィオ。

  片手に牛乳パックともう片方の手でトーストを食べている。

  「きっ……金魚が声など出すか」

  「出たらきっとそんなに声っすよ。口、パクパクさせて」

  相棒がトーストをかじりながら、ズカズカと部屋に入ってくる。

  「どっ、ドアはノックしろと言っている」

  「へーい、すんませーん。けど俺、ノックしてるつもりだったんスよ?」

  「その両手でノック出来るものか」

  軽口を叩きながら相手をにらみつける。

  グシュ……

  両手はぎゅっと股間を握りしめ、濡れた下腹部を強く覆い隠した。

  「足でノックするんで、開けるのと同時になっちゃうっすね」

  「そんなものノックと言わんだろ、たわけが」

  フィオが気にせず入り込み、手元のデバイスから中空に情報モニタを表示する。

  「昨日は結局逃したとは言え、B級相手にコード無しは無茶っすよ」

  「あれくらい、どうとでもなる」

  「普通に規格外っすよ。C級相手でもヒーローコード使ってやっとトントンなのが普通っす」

  フィオは苦笑しつつ、トーストを頬張った。

  寄宿舎の窓の外では、他のヒーロー候補たちがランニングをしていた。

  人角のヒーローの中でも、フィオも十分トップランクの実力はあると自負している。

  それでもまだ、レギーの足者にも及んでいないことを痛感させられる。

  「要件は?」

  レギーがいつになく真剣な眼差しでフィオを睨んだ。

  同時に布団に隠れた股間部を、ぎゅうっと握り込む。

  「今日の夜の話っす。C級ヴィランの複数討伐」

  フィオは牛乳パックをゴミ箱に投げ捨てると、すんすんと鼻を鳴らした。

  「相談に来るのは殊勝だ。地下水路なら間違いなくB級が一体居る」

  「うげっ、やっぱり……?」

  フィオが再度鼻を鳴らす。

  「なんか、臭わないっすか?」

  「はあっ!?」

  レギーは飛び上がらんばかりに裏返った声で返事した。

  「薬品……? アンモニア系と、それからほんのり甘い……」

  「う、うるさい! 黙れ!」

  慌てて体を丸め、真っ赤な顔でフィオを睨んだ。

  「多分、どこかで嗅いだような……」

  「き、機密事項だ! 詮索するな!」

  無理やりな嘘だ。

  「まあ……、良いっすけど……」

  フィオはポリポリと頭を掻いた。

  「オホンッ……今夜のブリーフィングは追って連絡する。私に朝食も食べさせない気かね?」

  「普段、食べないっすよね」

  「昨日は特別疲れたからな、空腹で死にそうだ」

  大して食欲のわかない朝の胃袋をさすりながら、レギーは目をそらして言った。

  「わー! そ、そりゃ大変っす! 食堂行って、山盛りのごはん用意してもらってくるっす」

  「わ、私は……き、着替えるから、先に行きたまえ」

  「了解っす」

  パタパタと立ち去るフィオを見送ると、レギーは念入りに部屋の鍵を締めた。

  グショ……

  おもらしで濡れたパジャマとズボンを脱ぎ去り、手早く普段着に着替える。

  「くそっ……なんで……こんな」

  濡れたシーツはパジャマと丸めて、人目を盗んでランドリーに放り込んだ。

  マット素材は水を含ませてシミ取りしたうえで、部屋の日当たりのいい場所に立てかける。

  あとは、夜までに乾いてくれることを願うしかない。

  着替えるには明らかに時間がかかっているにもかかわらず、フィオは律儀に食堂で待っていた。

  彼は係員に頼み込んで作ってもらった山盛りのカツ丼を差し出し、レギーは苦笑いを浮かべながら腹に押し込んだ。

  [newpage]

  3.ヒーローたちの戦い_V.S.クラーケン

  夜。

  旧水道区画。

  街の裏に封鎖された地下施設。ひび割れた配管から、冷たい水が床を満たしている。

  「レギー……じゃなかった。レギオン、ジルバ、ヒーロー2名現場に到着っす」

  レギーと横に並びながら、フィオは手早く通信デバイスに通達した。通例に従って、公の会話ではヒーローネームを使う。デバイスの向こう側からは、事務的な応答が手短に返された。

  白いヒーロースーツの青年が向き直る。

  「今朝の議題だ。何故、今回のC級ヴィランが危険を伴うか。答えてみろ?」

  彼はヒーロー、レギオン。出生名、レギルベルト。通称、レギー。

  黒い毛並みに真っ白なヒーロースーツを身にまといながら、フィオに講釈を始めた。

  「えっと……。B級が居る可能性が高いからっす」

  金トラ柄の猫獣人が答える。彼はヒーロー、ジルバ。出生名フィオメオ。通称、フィオ。

  白と黄色のヒーロースーツを身にまとい、武器を構える。まだ何の力も帯びない、ただの[[rb:電撃銃>パルスガン]]。

  「貴様はオウムかね? それは今朝、私が言ったことだろう」

  レギーはやれやれと頭を掻いた。

  「C級ヴィランが何かは分かるな?」

  「B級ヴィランが作ってる、悪いやつっす」

  「貴様、ふざけているのかね?」

  暗い地下水路を足音を建てずに二人は歩く。

  会話は近距離脳波通信で制御されているので、外部にほとんど音は漏れない。

  「C級ヴィランのほとんどが非ヒト素体の怪物だ。自然発生する者もいれば人為的に作り出すやつらもいる」

  ピチャン……

  ペタ……ペタ……

  不自然な水音に二人は揃って反応し、歩みを止める。暗がりに隠れ潜み奥を覗き込むと、数体の人影が見えた。

  「うじゃうじゃいるっねー」

  二人の視線の先には二足歩行のイカのような怪人たちが、見える限りで7,8体と群生していた

  「やはり、水を媒介にしたか」

  イカの軍勢の更に奥、ちらちらと黒いローブ姿の人影が見える。

  「奥のあいつが、本命っすか?」

  暗がりを凝視すると、イカの怪人からはグレーのオーラ、奥の人影からはブルーのオーラが立ち上る。

  「カラーグレー、C級ヴィランが多数と、カラーブルー、B級ヴィラン一体を目視」

  「直感、大当たりっすね」

  「最後はカンだが、経験則だ。水や土といった生み出す属性のヴィランには、低級の味方を量産するタイプが多い」

  つとつとと講釈を垂れながらも、白いヒーローがスラリと剣を抜く。

  「へーい。それで水場からピンときたんすね」

  「グズグズしてると、次々敵が量産されていくぞ」

  「へいへーい。出勤っす」

  レギーはひらりと暗がりから飛び出し、フィオも後ろに続く。

  「C級ヴィランの量産を目視。言い逃れはできんぞ」

  レギーはスラリと白銀の剣を翻し、黒ローブにむけて構える。

  「ヒーロー、ヒーロー、ヒーロー、こんなところまで来るなんて、俺のこと気にしてんの? そうでしょ、嫉妬でしょ? 困るなあ」

  黒いローブの男が喚きながら二人に向き直る。

  灰茶の毛並みをした薄汚い狸の獣人だ。

  「接敵紹介、該当データ有り」

  フィオが手早く相手の情報を探る。

  「出生名不明。ヴィランネーム、クラーケン。B級ヴィランとして討伐対象になってるっす」

  「あーあー、有名になっちゃった。嫌なんだよねー、有名人になりたくないよねー。一般人に構ってるほど暇じゃないの。俺は」

  クラーケンと呼ばれるヴィランは、ブツブツと独り言をつぶやく。

  「駒共、ちょっと行ってボコしてこい」

  短い命令を皮切りに、数十にも及ぶイカ怪人たちが二人に襲いかかる。

  「雑魚が」

  キィン

  澄んだ剣閃とともにレギーが次々と一刀の下に伏せる。

  「ひーっ、どんだけいるんすかー?」

  弱音を吐きながらもフィオもその背中に食らいつき、通常の武器だけで次々とC級ヴィランを打ちのめしていく。

  凄腕のヒーローを名乗るに十分値する実力だ。

  「勿体ぶっちゃってさー、ヒーローってかっこいいよねー、ヒーロー、ヒーロー様がさあ、俺だってそれくらい出来るって」

  クラーケンと呼ばれたヴィランは手にした杖を持ち上げると、足場の水が持ち上がり周囲に渦潮を巻き起こした。

  「ヒーロー、ヒーロー、どうせお前らだって俺に嫉妬してるんだろ? 俺の実力が分かってるのに、認めたくないだけなんだろ? 代われよ。俺がヒーローやってやるよ」

  周囲を渦で囲い込み、まるで水の砦だ。

  「水のバリアか……届くか?」

  レギーは狂った独り言に耳も貸さず、相棒に短く問う。

  「サテライト使えば余裕っす」

  「なら、任せよう」

  「真正面からぶつかるから、レギーはああいう戦闘タイプ苦手っすよね」

  「物量でねじ伏せれば勝てるが?」

  「コスパ悪いんで、俺がちゃちゃっとやっちゃいますよ」

  フィオが一歩前に出る。

  「はーっだるっ、俺のほうが強いんだからさー。早く認めて、俺にやらせろよヒーロー。なあ? ヒーロー様よ」

  バシュン

  閃光が瞬き、黄色いヒーロースーツが淡く光を帯びる。

  「コード展開。強さを見せつけるのは、こっちのセリフっす」

  フィオがヒーローの力を開放する。

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「[[rb:顰>ひそ]]めエレクトリオンの導き手、超振動の[[rb:雷精回路>らいせいかいろ]]。我は[[rb:雷火>らいか]]と[[rb:明滅>めいめつ]]、跳ねる光のスキャッター──ヒーローコード:62、[[rb:跳電の追撃者>ジルバ・ヴォルト]]」

  手にした銃が電光を帯び、背中には数機の小型偵察機が展開される。

  「あーあ、虚勢張っちゃって。見苦しいね。コード展開」

  負けじとヴィランも杖を振りかざす。彼の体もまた淡い光に包まれた。

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「[[rb:歪>ひず]]めよ、流れし大河の一滴。揺り戻せ、影をも留めぬ[[rb:泥濘>でいねい]]の左手。アニモス・アルカウム、我は[[rb:逆巻>さかま]]きの歯車──ヴィランコード:2625、[[rb:逆流の鐘>クラーケン・テンポ]]」

  手に持つ杖の先端に大きな鐘が垂れ下がる。

  ガラガラと鳴らすと水柱が立ち上り、クラーケンは左手に大きな水の半球を纏った。

  まるで巨大なラウンドシールドだ。

  「諦めるなら早くしろよ、駒どもで囲ってボコして、下水に沈めてやるからよ」

  足元の濁流はじわじわと広がり、渦巻く水面下では、水を得た雑魚ヴィランが手ぐすねを引いて構えている。

  「見るからに、長期戦タイプっすね。レギーと相性悪そー」

  足元の渦からは次々とイカ怪人が湧き出てくる。

  本体を狙おうにも、巨大な盾は全身を多い、近づくにも足元の濁流を超えなくてはならない。

  「露払いくらいはしてやる」

  レギーが銀の刃を濁流へ向ける。

  「心強いっすけど、多分いらねっす。サテライト、展開」

  銀翼の飛行機械がクラーケンの周囲を囲みこむ。

  バチッ

  雷光が瞬く一瞬のうちに、フィオは姿を消し、ヴィランの背後から電撃が飛ぶ。

  「ぐあっ……てめっ」

  慌てて水の大盾を背後に向けるがそこにもヒーローの姿はない。

  展開した偵察機、サテライトは光を反射し拡散する。そこへ雷光となったフィオが、サテライトからサテライトへ目まぐるしく飛び回る。

  バリッバリッ

  バリバリバリッ

  金髪のヒーローは、死角という死角から、次々と銃弾を打ち込んだ。

  「めんどくせえなあ。ヒーローってやつはよお」

  更に水が持ち上がり、クラーケンの周囲を丸呑みした。

  完全な球を形作る。

  水の盾が全身を覆う。

  「これで、死角はねえぞ」

  「うーん。ちょっと臭うっすよ」

  フィオがヴィランのすぐ隣で、スンスンと鼻を鳴らす。

  「水はあるんすから、お風呂くらいはちゃんと入ったほうがいいっす」

  水の盾が広がるより先に、フィオはその内側に入り込んでいた。

  「な、なんで、中にっ」

  「水を操るのに集中しててこっち見てなかったっすから、楽勝っした」

  「ふ、不意打ちじゃねえかこんなの。ズルいってノーカンだろ、ノーカン。そ、そうだよ。認めねえ、俺は負けてねえ、負けるわけが……」

  「だから、勝てないんすよ」

  バチチチッ

  最大出力の電撃をヴィランに、打ち込んだ。

  「ゲームセットっすね。連コインのリベンジはご遠慮ください」

  主を失った水流は力なく四散し、生み出された雑魚ヴィランたちも、もう一人のヒーローの剣によって、瞬く間に討伐されていった。

  「よくやった。及第点くらいはくれてやろう」

  相棒が彼の活躍を手短に労った。

  「B級ヴィラン、クラーケン。討伐完了っす」

  ヒーロー、ジルバは通信デバイスに勝利を報告した。

  アルデバランが冥く輝く日まで、あと2日。

  またしても奇妙な声が、レギーの頭の中で重く響いた。

  遠くに人影がちらつく。

  白い、羊のような角。

  [newpage]

  4.おねしょ治療がはじまる

  夜が明け、レギーは自室のベッドで目を覚ました。

  いつも通りの天井を見上げ、いつものパジャマを着ている。

  グショ……

  「まただ……」

  レギーは起き上がった上体のままぺたんと座り込み頭を抱えた。

  「い、いや……そんな……2日も続けてなんて」

  ベッドに横たわる下半身はぐっしょりと濡れ、大きな世界地図が広がっていた。

  ガチャ

  「おはようございます。レギルベルトさん」

  ノックもなくドアが開かれ、白い羊の獣人が部屋に入ってきた。

  「なっなな、なんだね。あ、いや。これはその……。だ、誰だ貴様!」

  混乱した舌が口の中をから回った。

  「始めしてですよ。医療スタッフのラニスです」

  真っ白な体毛に大きな巻き角。その角まで白い。

  どこかで、見たような……。

  「健康診断の予定でしたが、早くも問題があるみたいですね」

  白い獣人はズカズカと部屋へと入り込んでくる。

  「はあっ! い、いや。これは……その……ね、寝汗がひどくて」

  レギーはぐっしょりと濡れたパジャマのズボンを、ぎゅうっと握りしめる。

  「そのようですね」

  バサッ

  レギーのベッドから掛け布団が乱暴に取り払われる。

  「あ……あの……これは、その……」

  「はい?」

  白い獣人はにっこりと笑う。

  「な、なんでも……ないです」

  おねしょをしたなんて、恥ずかしくて言えるはずがない。

  「そうですか。とりあえず着替えましょうか」

  ラニスはどこからともなく防水のおねしょシーツを床に広げた。

  「濡れないように、ここに立ってください」

  「い、いや……着替えくらい、一人でできるのだが?」

  「さっき、おねしょ隠そうとしましたよね?」

  「あ、いや……」

  黒猫の青年は目をキョロキョロと泳がせる。

  「そういうことされると、医療スタッフとしても作業に支障が出るんですよ」

  「そ、それは……」

  「じゃあ、ここに立ってください」

  グイッ

  ベッドから持ち上げられ、おねしょシーツの上へ案内される。

  布団から出て立たされると、下半身が大きく濡れていることが丸わかりだ。

  「あ、あまり見ないでくれ」

  レギーは顔を赤らめ、もじもじと内股をすり合わせる。

  「はいはい。じゃあ下も脱がせますよ」

  「な……っ!」

  シュル……ベショ

  スルリとズボンとパンツを抜き取られ、レギーは下半身を丸出しにされた。

  形の良い立派な股間がふるりと揺れるが、おしっこでぐっしょりと濡れて、雫が垂れている。

  「おねしょっ子なのに、モノは立派なんですね」

  「はあっ? じ、ジロジロ見るんじゃない」

  恥ずかしいところを見られ、また顔が赤くなる。

  「ふふっ。まあ、すぐにおねしょっ子にお似合いのサイズにしてあげますからね」

  「はあ?」

  股間を眺めながら医療スタッフが意味不明な独り言を吐いた。

  「ズボンも洗濯しますから、足上げてください」

  「う……うう……」

  レギーは顔を真っ赤にし、内股のままよちよと足踏みする。

  おねしょシーツのガサガサした感触。

  「シーツも洗濯。ベッドは良い機会ですし新しいもの申請しちゃましょう」

  ラニスはテキパキと粗相の後片付けを始める。

  その間も、レギーは下半身すっぽんぽんのまま立たされた。

  「パ、パンツも履かせてくれないのかね?」

  内股になって両手で股間を隠す。

  パジャマの上着だけではおしりも股間も全部丸見えだ。

  「まず綺麗に拭かないと、かぶれちゃいますよ」

  「だ、だったら……その……何だ」

  「ウエットティッシュがありますよ。まあ、体を拭くくらいはさせてあげてもいいですよ」

  差し出された濡れ紙を広げ、濡れた下半身を清めていく。

  部屋の中で下半身丸出しにされ、しょんぼりと股間を拭いていると、あまりの情けない格好に涙が滲んできた。

  「ぱ、パンツは戸棚にあるから、も、持ってきてくれないかね」

  「ベッド片付けちゃうんで、ちょっと待ってください」

  「い、いや、この格好では……その……」

  「おねしょしちゃう子には、お似合いですよ」

  「あうっ……」

  ラニスがベッドを解体し、濡れたスプリングマットを部屋の外へ持ち出すまで、またすっぽんぽんのまま立たされた。

  両手で股間を抑えるが、おしりを伝う風がひんやり伝わり、なんとも落ち着かない。

  「パンツと変えのズボンです」

  白い獣人が戸棚に入ったボクサーブリーフと綿のスラックス持ち出してくる。

  「す、すまないな」

  いそいそと足を通す。

  股間を手で抑えているせいで動きづらいし、いい年して他人の眼の前でパンツを履くなんて、居心地が悪い。

  「それから、一応のために渡しておきますねえ」

  カサッ

  白い紙製の塊が手渡される。

  「これは?」

  「おむつですよ」

  「おっ、おむっ……」

  レギーの顔が一気に真っ赤になる。

  「こ、こんなものは、付けられるわけがないだろう」

  「一応のためですって。おねしょしたら、またベッドの交換が必要なんですよ?」

  ラニスはにっこり笑ったまま、有無を言わさずに突き付ける。

  「こっ、こんな歳になってまで……」

  「まーまー、使わなければいいだけじゃないですか」

  顔を真っ赤にして激昂する黒猫の青年を見下ろし、白い獣人は笑みを崩さない。

  「ね、念のために……だぞ……」

  「はい。履いてても使わなければどうってことないですよ」

  「いいか、その……おねっ……しょが心配とかではなくだね」

  「分かってますよ。念のために、ですね」

  「そ、そうだ。大事を避けるための、ほ、保険に過ぎんのだよ」

  「そうです。ただの保険です」

  黒猫のヒーローは渋々と、白くもこもこした下着を受け取り、ベッドのサイドボード下に隠した。

  「じゃ、私はこれで。また明日も顔を出しますね」

  「は?」

  「念のためですよ。それとも、私じゃないほうがいいですか?」

  白い羊のような顔がずいっと近づいてくる。

  「レギルベルトくんのおねしょのこと、もっと色んな人に見てもらいたいってことですかね?」

  「い、いいや……そんなことは」

  黒猫はふるふるとかぶりを振った。

  「数日のうちだけですよ。おねしょしなくなったら、経過観察も不要ですから」

  「そ、そうか。経過観察……ね」

  医療スタッフの圧力に思わず屈してしまう。

  羊の獣人にしてはやけに大きな角が、さらに威圧感を増す。

  「そういえば、私、羊じゃないですよ」

  角を凝視していたせいか、ラニスが話題を変えた。

  「羊じゃなくてムフロンです。大きな角は生まれつきで、白い毛皮は珍しい遺伝だそうです」

  真っ白で巨大な巻角を自慢げに持ち上げて見せる。

  「そ、そうだったか」

  真っ黒な猫、真っ白なムフロン。

  対象的なふたりは互いに短く見つめ合う。

  「それでは、お大事になさってくださいね」

  「あ、ああ」

  ムフロンの獣人、ラニスは足取り軽く部屋から出ていった。

  おむつの準備まで整えてくるなんて、たまたま検診に来た医療スタッフと言うには、あまりに用意周到すぎるのではないか。

  レギーは一瞬訝ったが、同時に今朝の恥ずかしい記憶も思い出してしまいそうになっため、慌てて頭を振った。

  [newpage]

  5.ヒーローたちの戦い_V.S.クグワロゴール2

  夜。

  二人に緊急の呼び出しがかかった。

  「昼間からヴィランが暴れているとの通報っす」

  ヒーロースーツを着込んだ二人は、装甲車から降りる。

  運転手はヒーローコードを持たない一般人だ。ヴィランとの接敵が発生する地点からは徒歩での移動になる。

  「聞いている。相手は黒い炎、クグワロだな」

  レギーは先日逃した灰犬のヴィランを思い出した。

  「討伐対象はクグワロゴール。今はA級ヴィランっす」

  「逃したことが、かなり裏目に出たな」

  フィオは本部からの新たなデータに目を走らせる。

  「昨日の時点でヒーロー2名を返り討ちにしてるっす」

  レギーはポリポリと頭を掻いた。

  「私の落ち度だ」

  「たられば言っても仕方ないっすよ」

  足音を殺し、2人はヴィランの目撃場所へ走った。

  昨夜のC級ヴィラン、結果的にはB級クラーケンの討伐はレギーの決断だ。そして判断自体も間違っていたとは思わない。

  「昨日の時点でクグワロはB級ヴィラン。所持した能力も把握済で、引き継いだヒーローも経験豊富だ」

  「アクアリペルのコンビっすよね。B級に負けるとは思わないっすよ」

  「見落としていたのは、奴の成長速度だ。気を引き締めろ」

  「うっす」

  足早に歩きながら、フィオ鼻をすんすん鳴らす。

  「レギー、煙の匂いっす」

  廃工場の一角に、燻った煙が立ち上る。

  まるで見つけてくれと言わんばかりだ。

  「行くほかあるまい」

  月明かりの薄暗い倉庫にはアバラ屋根の細い影が落ちる。

  天井は崩れ落ち見通しがよく、室内にも隠れられる場所は無数にある。

  ザリッ

  2人が中を覗くと開けた中央、煙の先には、一人の少年ヒーローが横たわっていた。

  「斥候に行ってた駆け出しっす。まだ生きてるっすよ」

  少年は黒焦げに燻っているが、まだ遠巻きからでも胸が上下に動いているのが分かる。

  「馬鹿者っ」

  飛び出しそうになった相棒を、レギーは肩を掴んで引き止める。

  「早く助けないと」

  「十中八九、罠だ。貴様はサテライトを回せ」

  「罠って……じゃあ、どうするんすか」

  「私が行く」

  レギーはスラリと剣を構え、まっすぐに倒れた少年のところまで駆け寄った。

  倉庫中央は遮蔽物が少ない。狙撃、闇討ち、なんでもござれだ。

  ボウッ

  倉庫全体に黒い炎が立ち上る。

  「レギー、熱源。下から、いや、倉庫全体っす」

  爆炎。

  業火に包まれながら、レギーは少年に覆いかぶさるように抱き上げた。

  一目散に、出口へと走る。

  背中を炎に焼かれ、腕の中では細い肩が、粗い呼吸を繰り返す。

  「サテライト、2人を守るっす」

  フィオの偵察機が銀翼を広げ、身を盾にして炎を防ぐ。

  大した防御にもならないが、爆炎の直撃だけは避けられた。

  ドシャッ

  炎上する倉庫の外へと、転がるように這い出した。

  「強化スーツ、破損97.8%」

  体を守るヒーロースーツのほぼすべての機能が破壊され、ヴィランの攻撃どころか一般人のパンチでさえ耐えられないレベルだ。

  「大丈夫っすか」

  フィオが駆け寄る。

  抱きかかえられた少年ヒーローはすでに意識が無く、全身に負った火傷が痛々しい。

  「息してるっす。早くメディカルセンターへ」

  「あいつの出方次第だな」

  防御を失ったとこも意に介さず。レギーは剣を構えて倉庫へ向き直る。

  炎上する黒い炎を背に立つ、灰色のフードが翻った。

  「クグワロ」

  相手の姿を凝視する。

  灰色の毛並みをした犬の獣人。その周囲には赤色の靄が立ち上っている。

  「カラーは赤。A級ヴィラン、クグワロゴールを視認」

  「へえ、誰かと思えば、いつかのコード無し?」

  炎と月明かりに照らされ、黒炎のヴィランが姿を表わした。

  「無いわけなかろう。使う必要が無いと判断しただけだ」

  「随分手加減してもらって、俺様、助かっちゃったぜ?」

  「落ち度は認めよう。ここで雪がせてもらう」

  銀の剣先が、灰色のヴィランを正面に捉える。

  「フィオ、サテライトは?」

  短距離通信で状況を確認する。

  「動かせて数機、ほぼ全滅っす」

  「隠密相手に絨毯爆撃は良手だ。ついでに囮を庇ってダメージも受けてくれれば、なお良しか」

  「してやられたっすね。レギーはスーツ全壊、俺も武器が半壊、そのうえ要救護者一名、応援無しっす」

  「短期間で随分能力を使いこなしている」

  「関心してる場合っすか」

  「この小僧を頼む。早く連れ出してやってくれ」

  抱き上げた少年を相棒に託すと、レギーは剣を構えて立ち上がった。

  「……任されたっす」

  一瞬の逡巡の末、少年を抱きかかえ、フィオは背中を向けて走り出した。

  「呼び声を、聞いたか?」

  レギーは剣を構えたままクグワロに問いかける。

  「あー……あれか? 聞いたぜ」

  ヴィランは炎を両手に構えたまま悠然と立っている。

  「更に狂ったか」

  「目覚めたとか言えねえの?」

  「捉え方の違いだ」

  時間稼ぎくらいにはなるかと思って話してみたが、思いの外問答が続いた。

  意外だが、逃げる2人を追うつもりはないらしい。

  「気にしなくても、死にぞこない共は見逃してやるよ」

  クグワロは笑みと憤りが混ざった顔を浮かべた。

  「コード展開。言っとくけど、前のやつとはレベルが違うからね?」

  灰色のヴィランか淡く光る。

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「聖典は[[rb:焚>た]]かれ、希望は[[rb:煤>すす]]けた。我は[[rb:哂>わら]]う[[rb:虚>うつろ]]。堕ちた理想の[[rb:亡骸>なきがら]]に、[[rb:餞>はなむけ]]の[[rb:焔>ほむら]]を[[rb:刻>きざ]]め。──ヴィランコード:892、[[rb:亡き英雄像の荼毘>ディーロス・アクラシア]]」

  黒い炎が更に強く滾る。

  それは意思を持つかのように、有機的に経変幻自在に彼の体にまとわりついた。

  「自在に変形し、自在に発火する。そのスーツで受けたら、マジで死ぬよ?」

  クグワロは片手で黒い炎を弄ぶ。

  「随分、低く見積もられたものだ」

  自分も死に体であるにもかかわらず、レギーは一歩も引かずに剣を構える。

  「そうだ。ヒーロー二匹、見逃してやったんだし、一つ答えてよ」

  背後に気配はない。どうやら無事にこの場を去ったようだ。

  「感謝する。誠心誠意、答えよう」

  「ヒーローコード、この前は、なんで使わなかった?」

  ヴィランは苛立ち半分に炎を滾らせた。

  「……理由は、二つある」

  レギーは、なるべく正直な言葉を選んで答えた。

  「一つは、私は手加減ができない。生半なヴィランには使わずに越したことはない」

  「こないだの俺様のこと?」

  「……そうだ」

  「すげえ、正直に言うじゃん?」

  「此度は違う。実力は見せてもらった。全力で挑もう」

  「俺様の新しいコードにビビっちゃった?」

  「この短期間で著しい成長だ。心底関心した」

  クグワロがポカンとした顔で、手から力が抜ける。

  「俺様、褒められちゃってる?」

  「この問答は2人を逃してくれたことへの謝礼だ。真摯に答えよう」

  優しさのまじる口調ながら、構えた剣はピタリと敵を捉え続けている。

  「なーんか、調子狂うな。そんで、もう一つの理由は?」

  白銀の刃がキラリと月光を映す。

  「圧倒的実力差を見せつけるためだ。ヒーローには勝てない、と」

  「やっぱムカつくわ、あんた」

  ヴィランが黒い炎を滾らせる。

  バシュン

  レギーの体も淡く光る。

  「コード展開。その矜持は、今も曲げん」

  深く息を吐く。

  意識を研ぎ澄ます。剣のごとく、鋭く、冷たく。

  「骨身に刻め。ヒーローには勝てない、と」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「[[rb:帳>とばり]]を斬り裂け、天輪の[[rb:礎>いしずえ]]。白きの律動を[[rb:黄昏>たそがれ]]の[[rb:英霊>えいれい]]と[[rb:宵闇>よいやみ]]の[[rb:黒身>こくしん]]に宿す。エルミナの誓約を受領せし、我は孤絶[[rb:孤絶>こぜつ]]の刃[[rb:刃>やいば]]なり──ヒーローコード:07、煌[[rb:光の執行者>レギオン・エルミナ]]」

  ヒーロー、レギオンの周囲に、幾千の光の刃が集う。

  [[rb:剣>つるぎ]]、[[rb:刀>かたな]]、[[rb:鋸>のこぎり]]、[[rb:鉈>なた]]、[[rb:鎌>かま]]、[[rb:剣>つるぎ]]、[[rb:手斧>ちょうな]]

  光の粒子が、あやゆる姿、あらゆる刃の形をとって宙を舞う。

  [[rb:鋏>はさみ]]、[[rb:刺剣>レイピア]]、[[rb:剣>つるぎ]]、[[rb:外科刀>メス]]、[[rb:剃刀>かみそり]]、[[rb:大斧>グレートアクス]]

  白きヒーローが腕をふるう。幾万の武器が、持ち上がり、奔流が渦を巻く。

  [[rb:小刀>ナイフ]]、[[rb:手甲剣>パタ]]、[[rb:出刃包丁>でばぼうちょう]]、[[rb:牛刀>ぎゅうとう]]、[[rb:太刀>たち]]、[[rb:大鋸>おおが]]

  刃の竜巻が、うねり襲い掛かる。圧倒的物量、斬撃の嵐が、敵手を飲み込む。

  [[rb:懐刀>ふところがたな]]、[[rb:剣>つるぎ]]、[[rb:菜切包丁>なっきりぼうちょう]]、[[rb:剣>つるぎ]]、[[rb:斬馬刀>ざんばとう]]、[[rb:鮪包丁>まぐろぼうちょう]]

  黒炎が爆ぜ、光の刃が次々と撃ち落された。

  [[rb:彫刀>ちょうとう]]、[[rb:切出>きりだし]]、[[rb:打刀>うちがたな]]、[[rb:仕込み杖>しこみづえ]]、[[rb:枝切り鋏>えだきりばさみ]]、[[rb:剣>つるぎ]]

  千の刃が折れるとも、二千の刃がまだその首を狙う。

  [[rb:剣>つるぎ]]、[[rb:柳刃>やなぎば]]、[[rb:握短剣>ジャマダハル]]、[[rb:三日月刀>シミター]]、[[rb:蛇腹剣>ガリアンソード]]、[[rb:薙刀>なぎなた]]

  黒き爆炎がすべてを吹き飛ばして尚、那由多の鋭刃が襲い来る。

  [[rb:半月包丁>メッザルーナ]]、[[rb:大剣>ツヴァイヘンダー]]、[[rb:肉切小刀>サクス]]、[[rb:曲刀>シャムシール]]、[[rb:波打刃>クリス]]、[[rb:曲両刃>ショーテル]]

  刃は、退かず、止まらず、[[rb:躊躇>ためら]]わず。

  [[rb:両刃剣>ブロードソード]]、[[rb:山刀>マチェット]]、[[rb:金切鋏>かなきりばさみ]]、[[rb:鎧刺短剣>ミゼリコルデ]]、[[rb:内反刀剣>ククリ]]、[[rb:青龍偃月刀>せいりゅうえんげつとう]]

  その姿は、[[rb:大軍>レギオン]]だった。

  ゴウッ

  「クソがあ!!」

  灰色のヴィランは自身を半分巻き込むように、周囲一帯に黒炎を放つ。

  クグワロを巻き込む刃の大渦が掻き消えた。

  「はあー! はあー!」

  息も絶え絶えになったヴィランの目の前に、白いヒーロースーツがスラリと立つ。

  「一の軍を凌いだか」

  「もっと……マシなもん、用意しな?」

  「案ずるな、これにて幕だ」

  光の一閃。

  レギーの持つ二つ目の能力。

  キキィン

  彼が剣をふるうと同時に、一瞬で数千の光の斬撃が飛び交った。

  「がっ……はっ……」

  見切ることも、避けることもできず、灰色のヴィランはその場に倒れこんだ。

  「A級ヴィラン、クグワロゴール。討伐完了」

  白いヒーローは手短に、勝利を通達した。

  明日の夜。アルデバランが冥く輝く。

  奇妙な声、それでも聞き覚えのある声が、またレギーの頭の中で響く。

  迎えに行くよ。レギルベルト。

  記憶にちらつく白い影、羊のようなそれよりも大きな巻角。

  この声……は……たしか……?

  [newpage]

  6.はじめてのおむつ

  クグワロの討伐を終えた夜。

  ヒーロースーツが全壊したのみで、幸いレギーへのダメージは大したことがなかった。

  自室のベッド。

  彼はヴィランと対峙するよりも深刻な面持ちで、手に持つ白布を睨んだ。

  「こ、これは。単なる保険なのだよ」

  問わず語りを繰り返し、おずおずと広げる。

  カサッ

  見まごうことない紙おむつが、ベッドの上に広げられた。

  「た、ただ、穿いておくだけのこと。使わなければ……」

  下着のボクサーブリーフを抜きさると、ふるりと立派な股間が揺れる。

  クシュ

  柔らかな感触に下半身を包まれ、気恥ずかしさにふるふると震えた。

  レギーは顔を真っ赤にしながら、それでも横モレの隙間は無いかなど、律儀に紙おむつの穿き心地を確かめた。

  「うぅ……」

  おずおずと床につくと、戦いの疲れも相まって、すぐにとまどろみが落ちてきた。

  翌朝、差し込む朝日に、レギーは目を覚ました。

  「おはようございます。レギルベルト」

  大きな巻角、白いムフロンの獣人、ラニスがベッド脇に立っていた。

  「ああ、おはよう」

  寝ぼけた頭でボンヤリと返す。

  「昨日は大活躍だったらしいですね。ヒーロー3人を返り討ちにしたヴィランを見事討伐したとか」

  「実質ジルバも戦闘不能だった。ヒーロー4人は倒した計算だな」

  「随分、相手の肩を持つんですね」

  「事実だからだ。ヒーローの人材不足も嘆かわしい」

  ブツブツと文句を言いながらも、上体を起こす。

  グショ

  聞き慣れない濡れた衣擦れ音。

  寝ぼけた頭から、さっと血の気が引いた。

  「それで凄腕ヒーローさん、今朝の様子はどうでしたか?」

  「あっいや……」

  股間にはぐっしょりと濡れた感触が広がる。吸水部のおかげで半ば乾いているが、おもらしが広がっていることは明白だった。

  「経過観察に来るって伝えてましたよね?」

  大きな角がぐいぐいと近寄る。

  「その、昨日は大仕事で……ひ……一人にしてほしいのだが」

  言い訳しながら後ずさりし、掛け布団をぎゅうっと握りしめる。

  レギーがたじろぐ間にも、ラニスはベッドへ身を乗り出している。

  「ほら、隠したらだめですよ」

  いたずらっぽく笑いかけると、勢い良く布団が剥ぎ取られる。

  「ベッドは濡れてない。ちゃんとおむつ、穿いてくれたんですね?」

  「い、いや……っ、違う。これは、普段は」

  「おむつじゃないなら、見せてもらってもいいですよね?」

  「やめたまえ……その、ただのボクサーブリーフだぞ」

  白い指先がレギーの股間をそっと揉みしだく。

  グシュグシュ

  ただの下着と言うには明らかにふっくらとした感触が伝わる。濡れて膨らんだおむつの手触りだった。

  「うーん。ぐっしょり濡れてますね」

  「あ、いや……これは、その……」

  「中も見せてもらいましょうか」

  ぐぃ

  ベッドの上だ抱き寄せられ、ラニスが肩を寄せて隣に並ぶ。

  「み、見せ……」

  「ただのパンツなら、見られたくらい気にしなくてもいいですよね?」

  「い、いや……し、親しい仲にも礼儀というものがだね」

  「チェックしますねー」

  グショ

  おむつの腰ゴムを思い切り引っ張られ、パジャマごと中身があらわにされる。

  「あららビショビショ。おむつ穿いておいて良かったですね」

  「あ、ああ……そんなぁ……」

  持ち上げられたゴムの隙間から、立派なサイズのレギーの股間が垂れ下がって見える。

  それは明らかに濡れた膨らんだ吸水部に包まれ、ほんのり皮を被ったその先端にも、まだおしっこの雫が垂れていた。

  「おもらしっ子には不釣り合いなおちんちんですね」

  「うるさいっ、み、見るんじゃない」

  「いずれ毛も剃らないと、ムレるとかぶれちゃいますからね」

  「そ、剃る……」

  「おもらしっ子にお似合いの姿にしてあげますよ」

  ラニスはにっこりと笑みを浮かべるが、その目は本気そのものだった。

  「い、医療行為と言えど、それは……」

  「変なことじゃないですよ。それに、おねしょしなくなれば、そんな心配は不要すよ」

  「あうぅ……」

  3日連続の失敗を突きつけられ、心配無用と言い返せない自分が情けなくなった。

  「おむつ替えますから、お尻上げてください」

  「い、いい、いいや。それくらい、自分でする」

  パンツタイプのおむつくらい、自分で始末できるのだ。

  これ以上の痴態を他人に見られるなど、我慢できない。

  「うーん。まあ、良しとしましょう。おねしょシーツ敷くんで、その上で着替えてくださいね」

  「わ、分かった」

  パチン

  ゴム紐が手放され、股間がおむつに包まれる。

  間髪入れずにスルリとパジャマのズボンが剥ぎ取られてしまった。

  「濡れ具合は問題なさそうですね。横モレも無し、初めてにしては、綺麗に穿いたんですね」

  「あ、ああ……」

  おむつ丸出しの格好をまざまざと見せつけられる。

  薄く黄色く染まった大きな吸水部から、真っ黒な細い足が伸びる。鍛え上げられ引き締まった筋肉に、明らかに不釣り合いな下着がより一層目立つ。

  「着替えないと、他の人が来ちゃいますよ」

  「こ、この格好……」

  「どうせ脱ぐんですから、いいじゃないですか」

  「う……うぐぐ……」

  グショ……グショ……

  濡れたおむつのままベッドから立ち上がり、いつもの下着を棚から出す。

  ふっくらとしたおむつ丸出しの下半身がいやでも目立つ。

  素っ裸とどっちのほうが恥ずかしいか、悩ましいくらいだ。

  「足閉じると、垂れて漏れちゃいますよ」

  おねしょシーツを敷きながらラニスが言う。

  「うう、うるさい。そんなこと……」

  知ってるわけがない。

  レギーはおむつ姿で律儀に足を広げて歩くいた。

  情けないがに股姿だが、知らない知見には素直に従ったほうが良い。

  グショ……グショ……

  歩くたびにお尻が揺れて、なんとも恥ずかしい。

  戸棚までの距離が、数キロも歩いたように感じられる。

  「おむつは回収しますね。捨てる所、人に見られるのも嫌でしょうし」

  「わ、わかった。助かる」

  おねしょシーツの上に立ち、おずおずとおむつを脱ぐ。

  ぐっしょり濡れた股間を、渡されたウエットティッシュで拭いていく。

  情けない後始末の姿を、他人の眼の前で晒している。

  「昼間のおもらしは、大丈夫ですか?」

  「だ、だだ、大丈夫に決まっているだろう……」

  下半身すっぽんぽんでうろたえる姿を見せてしまう。

  凄腕ヒーローと持て囃されながらも、こんな姿になってしまう自分に、幻滅すら感じつつあった。

  「悪化の一途を辿ってますから、次失敗したらおむつのお世話は、私に一任させてもらいます」

  「お、お世話など……む、無用だ」

  「いいや、駄目です。いつも隠そうとするじゃないですか」

  「そ、それはだね……ともかく、私もいい大人なのだから、粗相の失敗くらい自分で片付ける」

  「そんなこと言って、隠し続けてたら悪化する一方ですからね」

  言いたいことは分かる。

  とは言え十分大人と言って差し支えない年齢になりながらも、おねしょの始末を他人に任せるなど、できるはずもない。

  「は、恥ずかしながら認めるが、着替えくらいは私がやる」

  「駄目です。おもらしっ子の管理は私の仕事です。そのうちヒーロー稼業にも差し障りが出てきますよ」

  言い返され、ぎりりと歯を噛みしめる。下半身素っ裸で問答しては、レギーの説得力など皆無だった。

  「ヒーローの仕事には関係ない。そうだな、私がヴィランに敗れることがあれば、その……考えてやろう」

  「ヴィランに負けたら……ですか」

  「力の誇示は私の矜持だからな。もし私が負けるようなことがあれば、ヒーローの仕事からも一歩引くつもりだった」

  それが自分に課した制約であり、その精神の支えも相まって強大なヒーロー、レギオンが作られている。

  ラニスが短く息を吐いた。

  「分かりました。レギーが一度でも負けたら、ヒーローの仕事も減らして、治療に専念してもらいますよ」

  「よかろう」

  余裕綽々に言って返すが、股間は丸出しで、お尻がスースーと冷たい。

  「ブリーフィングの時間もそろそろじゃないですか? 今夜は忙しくなりそうですよ」

  すっぽんぽんのお尻をペシペシと叩かれる。

  形の良いおちんちんがふるりと揺れた。

  「やっ、やめないかっ」

  慌てていつもの下着に足を通し、時計を見ると今夜の出動予定の会議が目前に迫っていた。

  テキパキと身支度を整えレギーは、ヒーロー、レギオンの姿になって人前に戻っていった。

  [newpage]

  7.ヒーローたちの戦い_V.S.ラノシェベリア

  夜。

  深夜の静まり返った住宅街。

  「正体不明のヴィランっすか?」

  黄色と白のヒーロースーツに身を包んだ、相棒のフィオが装甲車から降りながら聞き返す。

  「そのようだ。今回の任務は斥候。討伐すべきかは現場判断になる」

  真っ白なヒーロースーツを着た黒猫のヒーローも、装甲車から降り立った。

  通りは静まり返り、すべての窓に灯りはない。

  鈍色の空には、煌々と満月が光る。

  「それにしても、本部も人使い荒いっすよ。俺ら病み上がりっすからね」

  「昨日の一件は、互いに装備が壊れただけだろう」

  「だとしても、ここ数日、出ずっぱりじゃないっすか」

  「この地区はかねてよりヒーローが少ないうえ、クグワロの一件は大事だったからな」

  何もない道路を軽口を叩きながら歩く。

  人払いは済んでいて、車道の真ん中を二人で堂々と歩く。

  「斥候依頼にわざわざ俺らを呼びつけるっすかね。一応、ベテランっすよ」

  「推測するに、理由は二つある」

  「聞きましょう」

  「一つは時期。駆け出しの少年ヒーローを斥候に出して、人質にされたのが、つい先日だ」

  「クグワロの時っすね。あの子、あれから無事に回復に向かってるらしいっすよ」

  昨日、黒炎から助け出した少年ヒーローの顔を思い出した。

  「もう一つは場所。見ての通り住宅街での目撃情報だ」

  「人払いも大変っしたでしょうね」

  「討伐は現場判断と言っておきながら、早く解決しろって圧力がぷんぷんするだろう」

  「それで、ベテランヒーローに白羽の矢が立ったわけっすね」

  「仕方あるまい」

  はあ、とため息をつく相棒が、ぴくんと顔を上げる。

  「何の匂いっすか?」

  すんすんと鼻を鳴らす。

  「香水……? 人工的な甘い香り。道の先に、多分誰かいるっす」

  相棒が指差す先、一人として人通りのない交差点の真ん中に、人影が舞い降りた。

  「私も、視認した」

  相手は一人。

  音もなく、軽く、ふわりと着地する。

  「こんばんは、レギルベルト」

  真っ白な毛並み、ムフロンの巻角。

  見覚えのある顔。

  今朝の光景。

  「……ラニス?」

  ヴィランの目撃情報の場所には、医療スタッフを名乗る男が立っていた。

  強化スーツに見を包み、レギーとはちょうど真逆の配色だ。

  真っ白な毛並みに、真っ黒なスーツ。

  「改めまして、私はラノシェベリア。貴方がたの言う、いわゆるヴィランです」

  「なぜ、ここにいる?」

  対峙するレギーは剣構える。

  真っ黒な毛並みに、真っ白なスーツ。

  「今はアルデバランが冥く輝く夜ですよ」

  「何の話だ?」

  「貴方を迎えに、それと約束を果たしに来ました」

  「貴様との約束だと?」

  「ああ、私のことはラニスで結構。貴方のことも、これからレギーと呼ばせていただきます」

  「馴れ馴れしく呼ぶな。馬鹿者」

  すぐ隣のフィオが青い顔をして相手を凝視している。

  「れ、レギー……知り合いっすか? っていうか、あれは、なんなんすか?」

  「知り合いではない……が」

  「み、見てくださいっす、何者なんすか?」

  レギーは眼の前のヴィランを、凝視する。

  白い毛並みに、見たことのない黄色の靄が立ち上る。

  「カラー……イエロー? 聞いたことないっすよ」

  「A級外……」

  風の噂に、存在だけは聞いたとこがある。

  S級ヴィラン。

  「ヴィランのデータベースにはないでしょうね。我々は居ないことにされてますから」

  ラニスはふわりと飛び上がり、電柱の上に立つ。

  黒いスーツが月の逆光で、冷たい光沢を放つ。

  「フィオ、ラニスと言う名前に、聞き覚えは?」

  「初耳っす、ヒーローでも、ヴィランでも」

  「本部のデータベースに照合してみてくれ」

  「さっきからやってるっすけど、通信ノイズがひどいっす」

  「ノイズ?」

  「居たっす、医療スタッフ、ラノシェベリア……でもこのデータ」

  「まずいぞ、通信を切れ」

  「データが、リアルタイムで書き換わってるっす!」

  「今すぐ通信デバイスを焼き切れ! ヒーロー、ジルバ!」

  バチッ

  慌てて電撃を流し込み、力づくで通信を切った。

  「ハッキングされたな」

  電柱の上に立つヴィランを睨む。

  黒いスーツのほかは無手。暗号マイクロ波通信を傍受して内部アクセスができるような、受信機も解読用大型コンピュータも持ってない。

  いいや、電柱から伸びるいくつもの配線。おそらく高速のソリッド通信を張り巡らせて事前に準備していた。

  用意周到な相手だ。

  「面目ないっす」

  焦げた通信デバイスの火花を手で払って、相棒が肩を落とす。

  「いや、奴は二日前からすでに本部の中に出入りしていた。データベースへのアクセスも時間の問題だっただろう」

  「やっぱ、どこかで会ってたんすね」

  「それは……その……な、なんでもない」

  レギーの顔が赤くなった。

  「なんで急に黙るんすか」

  ふるふると頭を振って、白いヒーローは剣を構えて黒いヴィランに向き直る。

  「とにかくやることは、はっきりした。今ここで、奴を討つ」

  相棒も銃を構える。

  「了解っす」

  通信が途絶えた以上、本部と連絡を取るには、徒歩か車か、何かしらの交通手段でたどり着く必要がある。

  もしも奴が追ってきた場合、事態は最悪だ。間違いなく多くの一般人が巻き込まれる。

  ガゴン

  ズズズ……

  轟音を立て、眼の前の電柱が地面に埋まる。

  巨大なハンマーで打ち付けた釘のように、深々と真っ直ぐ地面に突き刺さった。

  「結構手をかけて用意したおもちゃだったのですが、良いところで邪魔されてしまいましたね」

  ラニスが同じ高さへ降りてくる。

  足元の電柱は重みに耐えきれない様子で、ひび割れ、沈み、埋まっている。

  敵の実力は不明。だが、討伐できれば良し、負けても最低限の交戦記録は残るはずだ。

  あとは、案じても仕方あるまい。

  捨て駒になる覚悟を決めろ。

  「S級ヴィラン、ラノシェベリアを視認。討伐する」

  「うっす」

  ラニスは道路標識を軽々と抜き取る。

  STOPと書かれた赤い看板が、ペン立ての鉛筆のように、ひょいと持ち上げられた。

  「コード展開。手加減は不要そうだ」

  「コード展開。多分マジの全力出さないと、ヤバいっす」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「[[rb:顰>ひそ]]めエレクトリオンの導き手、超振動の[[rb:雷精回路>らいせいかいろ]]。我は[[rb:雷火>らいか]]と[[rb:明滅>めいめつ]]、跳ねる光のスキャッター──ヒーローコード:62、[[rb:跳電の追撃者>ジルバ・ヴォルト]]」

  「[[rb:帳>とばり]]を斬り裂け、天輪の[[rb:礎>いしずえ]]。白きの律動を[[rb:黄昏>たそがれ]]の[[rb:英霊>えいれい]]と[[rb:宵闇>よいやみ]]の[[rb:黒身>こくしん]]に宿す。エルミナの誓約を受領せし、我は孤絶[[rb:孤絶>こぜつ]]の刃[[rb:刃>やいば]]なり──ヒーローコード:07、煌[[rb:光の執行者>レギオン・エルミナ]]」

  レギーの手元から光の刃たちが渦を巻き、一筋の流れとなってヴィランへ襲いかかる。

  「お近づきの印に、プレゼントですよ」

  黒いヴィランは手に持った道路標識を軽々と投げ捨てる。

  ウレタン材か何かのようにふわりと浮かんだと思うと、轟音をあげて真っ直ぐと飛んできた。

  ギギギギギッ

  幾千の刃を軽々と蹴散らして、投げつけられた看板は一直線にレギーへと向かう。

  あまりの重さに、光の刃が紙切れのように蹴散らされていく。

  ギン

  投げられた標識を剣で受けたが、すぐに悪手だったと覚る。

  質量の塊。

  あまりにも重く、巨大な岩石か、積載量超過の大型トラックをぶつけられたかのような衝撃だった。

  「レギーっ」

  雷化したフィオに横っ腹を蹴り飛ばされる。

  ズン

  間一髪、抜け出した。

  投げつけられた道路標識は、砂場にシャベルを落としたように、深々とアスファルトの道路に突き刺さった。

  「感謝する。受けた腕ごと、押しつぶされるかと思った」

  「軽そうに持ち上げたのに、飛んできたらめちゃ重たいって、どういうことっすか」

  「おそらく、そういう能力なのだろう」

  バシュン

  ラニスの体が淡く光る。

  「コード展開。貴方がたでは勝てませんよ。私は規格外ですから」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「我は再構築者。セフィラ・ヴェルティクス=イニシェの[[rb:幾禍学>きかがく]]を[[rb:啓>ひら]]け。秩序と法則へ別れを告げよ、[[rb:此処>ここ]]は[[rb:理>ことわり]]の[[rb:外縁>がいえん]]──ヴィランコード:-03、[[rb:栩質>ラァニヱ・リリ]]」

  フッ

  羽のように軽く、ヴィランは浮き上がった。

  風船のようにふわりと空に漂うと、手に取ったビー玉を辺りにバラ撒く。

  なんの変哲もないビー玉が、等比級数的の速度を超過して加速した。

  ずしりと重く、落下する。

  「退避っ!」

  ドドドドドドドド

  重鉄塊ほどの質量を持ったガラスの粒が、次々と地面を穿つ。

  光の刃で次々と撃ち落とすが、ほとんど軌跡を変えることもできず、防戦一方を強いられる。

  ヒーローの攻撃が、あまりに軽すぎる。

  「サテライト、展開」

  自身を雷化させ、フィオは空中の敵を迎撃する。

  バチッ

  「雷撃ですか。これは防げませんね」

  大したダメージは与えられてないようだ。

  体制を立て直すまでもなく、ヴィランの白い手が伸びてくる。

  ヒュッ

  すんでのところで身を翻し、再度雷撃を放つ。あの手に掴まれたら間違いなく一撃アウトだろう。

  雷撃で追い立て高度を落としたところに、即座にレギーが構えていた。

  「これなら、どうだね」

  光の斬撃。

  レギーには二つの能力があるが、彼はどちらも同種のものだと捉えている。

  最初は1つ目、光の粒子で刃を生み出す力だった。それを、幾万、幾億と生み出すうちに、いつしか刃を生み出すことすら必要なくなっていた。

  光による斬撃そのものを、直接敵へと叩き込む。

  キキン

  ドンピシャのタイミングで大技が入った。

  「光波による斬撃現象。これは流石に」

  敵のスーツにダメージが入る。

  謎のヴィランの力は強大だが、無敵ではない。

  バサッ

  ヴィランが街路樹の枝をひとつかみ、レギーに向かって投げつける。

  「レギオンッ」

  光の刃を全力で叩きつけ、莫大な重みを持った数枚の葉っぱを地面に叩き落とす。

  「そらっ、追加ですよ」

  黒スーツの男が、コンクリート塀をレゴブロックのように持ち上げる。

  大質量の一枚板が、空を覆った。

  「右手、サテライト!」

  バチッ

  雷化した相棒が駆けつけ、そのスピードに載せたまま、強引に体を引っ張り出す。

  ズウウウウ

  落ちた板がアスファルトの地面ごと、深々と沈み込む。

  押しつぶされれば、間違いなく命はなかった。

  ゴゥッ

  轟音とともに、二人に巨魁な迫る。

  丸々一棟の二世帯住宅が、片手で投げつけられた。

  「捕まるっすよ」

  金髪のヒーローは雷化と実体化を繰り返し、相棒ヒーローを抱えて空を駆ける。

  ズンッズズズ……

  地面に落ちた近代家屋は質量に耐えきれず自壊した。

  「助かった。このまま攻めろ」

  「もちろんっす」

  空き缶、街灯、砂利、歩道橋、トレーディングカード。

  あらゆるものが一撃必殺の重みをもって飛び交う。

  雷光が空を駆り、光の刃を防陣に展開し、二人は生死の境のギリギリを走り抜けた。

  「ヒーロー、お届けっす」

  空中に留まる敵めがけて、フィオは抱えていたヒーローを投げ飛ばす。

  「よくやった。ここで討つ」

  光る斬撃が、閃く。

  「あの光る斬撃は、困りますね」

  見かねて黒スーツのヴィランは足裏で虚空を蹴った。足の裏にある空気の塊が、急に大人一人を支えるに匹敵する質量を持つ。

  蹴った反動でヴィランは反対側へとジャンプし、距離を取った。

  突進撃は躱された。

  「躱したってことは」

  「効いてるってことっす。正面、三時にサテライト!」

  ガシャンッ

  偵察機の銀翼を踏みつけ、再度駆け上る。

  フィオのように空中戦ができないレギーにとって、この接近した好機に出せるだけの攻撃を込める。

  しかし黒い影は空中を自在に跳ね回り、またしても届かない。

  バヂッ

  眼の前のサテライトに、雷化したフィオが追いつく。

  「もういっちょ。いけよ、相棒」

  両手を構えて足場を作る。

  「任された」

  レギーが足をかけると同時に、思い切り高く打ち上げる。

  空を跳ねる敵が、目と鼻の先まで近づいた。

  キキン

  光の一閃。今度は確実に敵を捉えた。

  「おおっと、これは痛い」

  「うおおっ」

  ズシャ

  空中でぶつかりあった二人は錐揉みになりながら、地面に叩きつけられる。

  「サテライト!ありったけ」

  「配置済みっす」

  二人が着地した周囲に、数十の偵察機が銀翼を広げて待ち構える。

  「ここで討つ」

  レギーの光の斬撃が広がる。

  出せる攻撃をすべて、全力で叩きつける。

  「展開、拡散っす」

  フィオのサテライトは雷光を反射、拡散する能力を持つ。

  光の反射。

  それはフィオの雷光のみにとどまらない。

  白きヒーローが放った光の斬撃を、幾重にも映し出す。

  「名付けて、ブライトノヴァ。食らってたまげろっす」

  光の球が広がる。

  「ここでっ、討ち取る!」

  幾層にも重なる、絶え間ない連撃。

  無限の斬閃。

  それはあまりの密度の高さ故に、光る球にしか見えなくなった。

  キキキキ……キンッ

  レギーとフィオのコンビが出せる、最大火力。

  数万を軽く超える斬撃を一瞬の合間に叩き込んだ。

  「はあーっ、はあーっ」

  ヒーローは大きく息を切らし、なんとか足を踏み止まる。

  「流石に、楽には勝てませんか」

  2人の前に、黒いヴィランが立っている。

  相手の強化スーツは全壊寸前。間違いなくダメージは効いている。

  だが、倒し切るには、まだ足りない。

  奴の周囲が暗く歪んで見える。

  光を曲げるほどの質量。自身の周囲にブラックホール並の重さを与え、光の斬撃を反らしたのだ。

  バァン

  引力が解かれ強大な斥力が放たれる。

  「うがっ」

  衝撃波を真正面からくらい、無防備に壁に叩きつけられた。一瞬、視界が明滅する。

  慌てて剣を構え周囲を見回すと、ラニスの立っていた場所に巨大なクレーターが広がる。サテライトは全滅。

  その脇に、ヴィランとフィオの姿があった。

  「あなた、中々厄介ですね。計算外でしたよ」

  「はっ離せっす」

  ヴィランはフィオの片足を掴んで軽々と持ち上げている。掴まれたフィオの体はまるで風船のように軽く、ふわふわと浮いていた。

  トンットンッ

  黄色のヒーローは掴まれた手を必死に蹴り、殴るが、まるで効いている様子がない。

  パンチもキックも全てが軽い。

  「雷化の力も残ってないみたいですねえ」

  「くそっ、くそっ」

  「いっぺん。死にかけとけ」

  ラニスが軽々とフィオを投げ捨てる。

  「うあああー」

  ヒーローの姿はまたたく間に声が遠ざかり、風に飛ばされる枯れ葉のように、舞い上がって彼方に消える。

  「お、おい」

  「高度2,000mくらいまで飛ばしましたけど、多分死にはしないですよ」

  黒いヴィランが今度はレギーに向き直る。

  「安心してください。ちゃんと回収しますよお。記憶も消さないといけませんし」

  「貴様、何を言っている……?」

  「レギーは自分の心配をしたほうがいいですね」

  ピンッ

  ラニスの手からピンポン玉が投げ渡される。

  躱さなければ。

  足……いや、体が……もう動かない。

  度重なる疲労でヒーローの体は最早限界を超えていた。

  ピンポン玉がレギーの胸部を穿つ。

  ズンッ

  途方もない質量が体の一点に襲いかかる。

  「うあああーーっ」

  巨大な重さによってズブズブと体に沈み込む。

  スポンジケーキの上にボーリング玉を落としたように、ピンポン玉の重みがレギーを貫いていく。

  「うぐぁぁぁー」

  「約束通り、私の勝ちですね」

  黒いヴィランが柔らかな笑みを浮かべて言った。

  そこから先、レギーの意識は無い。

  [newpage]

  8.りっぱなちんちんに、わかれをつげて

  朝。

  ぼんやりとした頭で目覚める。

  昨日の記憶が無い。何かが抜け落ちたような感触だ。

  正体不明のヴィランの斥候。それから……どうなった?

  ヴィランの顔も戦いの記憶も思い出せない。

  「おはようございます。レギー」

  白い角。医療スタッフのラニスが、いつもの調子で部屋に入る。

  「昨日は大変だったみたいですね」

  「き、昨日」

  「起きて大丈夫ですか? 記憶操作攻撃だそうです」

  くらくらする頭を抱えながら、ベッドの上で上体を起こした。

  「記憶攻撃……」

  「昨日はA級を含むヴィラン数体との接敵。相手の詳細は不明、便宜的にアノニマス・スクワッドと名前がつけられています」

  「A級だけでなく、仲間複数体か……」

  「住宅街での戦闘でかなりの被害が出たらしいです。どでかいクレーターが空いたとか」

  「修繕費……頭が痛いな」

  「接敵したヒーロー2名によってヴィランは逃走したものの、敵グループの中に記憶操作能力者がいたため、敵ヴィランの概要は全て不明ってのが事の顛末です」

  「なるほど……合点がいった」

  記憶系の攻撃は以前にも食らったことがある。

  思い出せないのはもどかしいが、やられた以上は仕方ない。相手のほうが上手だったと認めよう。

  「私は、負けたのか……」

  詳細な記憶は失っているものの、感覚で分かる。

  ヒーローの力が落ちている。

  「ほとんど、相打ちと言っていい状況でした」

  「慰めかね?」

  「事実ですよ」

  ラニス不審な笑みを浮かべながら、昨日の資料を広げる。

  通信はジャミングされ、戦いの記録はほとんど残っていない。

  「二人を狙った用意周到な攻撃です。それでもレギオン、ジルバ、二人の活躍もあり、ヴィラン達は、ヒーローにトドメを指すことができなかった」

  「それで、存在を追われないよう記憶攻撃で忘れさせ、逃走した……と」

  「かなり計画的な行動ですね。住宅街は早々に修復作業が進められてますから、ヴィランに関する情報もどれだけ集められるか、見通しがつかないですね」

  「そうか」

  「とは言え、当面の間は安全でしょう。敵もかなり周到な準備をしながら、失敗を喫したわけですからね」

  記憶操作。

  昨日のヴィランの記憶は、レギーの中に何もない。

  「なあ、ラノシェベリア」

  「はい。なんでしょう?」

  ラノシェベリア?

  「あ、いや、なんでもない」

  何故、彼の名前を知っている?

  彼はここで、ラニスとしか名乗っていないはず……

  バサッ

  「落ち込み中のところ失礼ですが、約束がありましたよね」

  掛け布団が剥がされ、パジャマの下半身が顕になる。

  グショから…

  股間から伝わる濡れた感触に、レギーの頭がさっと青ざめる。

  「な、な……なんのことだね?」

  シュルッ

  言い返す間もなく、ラニスにズボンを抜き取られる。

  その下にはぷっくりと膨らんだパンツタイプのおむつ。

  「やっぱり、今日もおねしょしちゃいましたね」

  「これは……その……き、記憶攻撃がだね」

  「範囲は昨夜の短期記憶だけです。長期記憶野の生理機能に影響があるわけないでしょう」

  ラニスがやれやれといった目で、下半身を見る。

  「いや……ち、違うのだ……」

  言い訳をしようにも、言葉が出てこない。

  これで4日連続の失敗。

  そのうえ、売り言葉に買い言葉とはいえ、昨日、何かとんでもない約束をしてしまった覚えがある。

  「足は開いてくださいね」

  ベッドの上で両足に白い手がかかる。

  昨日の疲れのせいか、体が思うように動かず、ろくな抵抗が出来ない。

  「あっちょっ……」

  されるがままに、恥ずかしいポーズで股を開かれる。

  股間のおむつは開いてみる必要もなく、濡れて膨らんでいた。

  「すっかり、おねしょっ子になりましたね」

  白いおむつに青いラインが入る。おねしょをたっぷり吸収した証だ。

  「ち、違うのだこれは」

  レギーが足を閉じようと暴れが、まるで力が入らない。

  それどころか、ラニスの言葉に本能的に従ってしまう。

  「両手は上、顔の横ですよ」

  「あうぅ」

  両足を開かれ、手は上に置かれ、いわゆるおむつ替えポーズでベッドに横たわる。

  ビリビリ

  おむつのサイドステッチが破かれ、股間が顕になる。

  ふるん

  ヒーローらしささえ感じる立派なサイズの股間。

  平常時は薄く皮を被っているその先端から、薄黄色の雫が垂れている。

  開かれた吸水部は、見事にぐっしょりと濡れていた。

  「み、見るんじゃない……」

  恥ずかしい場所を大開きされて慌てて隠そうとするが、体はおむつ替えポーズのまま動かない。

  思春期を過ぎてから他人に見せたこともない秘所を、あられもなく凝視され顔が熱くなる。

  「綺麗にしたら、陰毛も剃っちゃいますね」

  「はあ? い、いや……それは……」

  「毛に絡まるとかぶれちゃいますし、おねしょっ子のちんちんはそれに相応しい形じゃないと」

  「そ、そんな」

  「まずは綺麗にしますね」

  シュルッ……

  ウエットティッシュの冷たい感触。

  開かれた股間部を丁寧に拭われていく。

  「じ、自分で……やるから……」

  じたじたと暴れるが、子供がぐずる程度にしか身動きが出来ない。

  お尻から太もも、玉の裏まで、丁寧に拭き清められる。

  キュ

  「あうぅ」

  股間の先端を摘まれ、思わず声が出た。

  「おやおや、元気ですね」

  他人の手に握られた刺激で、股間がひくひくと芯を持ち始める。

  「えっ、あっ……やっ……」

  連日の多忙による欲求不満も相まって、レギーの股間はまたたく間に屹立してしまった。

  「へえ、勃起すると綺麗に剥けるんですね」

  スラリと真っ直ぐそそり立ち、先端には皮の剥けた鬼頭が露出する。

  「ちゃんと洗ってて、偉いですね」

  色のいいピンクの露茎は、堂々とした雄らしい威風をたたえていた。

  「い、やっ……み、見るんじゃない……」

  「このままだとパンツ穿けないんで、ちっちゃくさせますね」

  ギュム

  白い指先が優しく股間を包み、上下にゆっくり動く。

  「あっあっあっ…」

  もとより禁欲的な黒猫の体が、ビクビクッと痙攣する。

  「よしよし。白いおしっこも、これからはおむつにおもらしですよ」

  その反応に気を良くして、さらに激しく手を動かす。

  シュッ シュッ

  「うぁっ……やっ……やだあっ……」

  股間の先がとろとろと濡れる感触に悶えながらも、その手を振り払うことが出来ない。

  「大人ちんちんは今日で最後ですから」

  「な、何を……言って……?」

  「最後にぴゅっぴゅして、お別れしましょうね」

  「あっあぅ……あーっ」

  ビュクッ……ビュッビュー……

  勢い良く飛び出した精液が、ラニスの手とおむつを白く染める。

  「よしよし、おもらしできましたね」

  「あ……あぅ……うぅ……」

  とてつもない痴態を晒されて、レギーは言葉が出なかった。

  「さて、毛の方も綺麗にしましょうね」

  ラニスがカバンから取り出した小さな鋏が、陰部の付け根にあてがわれる。

  「やっ……めっ……」

  必死に懇願するが、胸を上下して息を吐くだけで、呂律もうまく回らない。

  ショリ……ショリ……

  綺麗に生え揃った陰毛は周りの長さに切りそろえられ、すべすべした和毛に整えられた。

  まるで子供のように。

  「昼のおもらしは大丈夫みたいですが、念の為トレーニングパンツにしておきましょうか」

  「ううぅ……」

  厚手の綿生地の下着が広げられ、足に通されていく。

  「こんな、子供みたいな……」

  綿のパンツはゴム紐のブリーフのような形をして、パステルブルーの生地にポップな星柄が散りばめられている。

  「ほら、お似合いですよ」

  「そんなはず……なかろう」

  おねしょが取れない子供の下着姿を見せつけられ、黒猫の青年は唇を尖らせる。

  スルスル

  最後にズボンまで穿かせてもらい、レギーはやっと人心地ついたが、着替えまで何から全部なされるがままだった。

  「それで、ヒーローの力はどうなったんですか?」

  おむつ替え道具を片付けながら、ラニスが仕事の顔で聞く。

  「弱くなったわけじゃない。前みたいにポンポンと連発できなくはなった感じだ」

  「じゃあ、お休みが増えますね」

  「言っておくが、ヒーローを辞める訳ではないからな」

  「はいはい。そうなれば、私がサポートになりますかね」

  「あー……うぅ……」

  恥ずかしいところを散々見られてしまった青年は、ポリポリと頭を掻いた。

  「それとも、他の人にお願いします?」

  「うぐぐ……か、考えておこう……」

  レギーは身支度を整えると、ブリーフィングの会議室へと向かった。

  厚手のパンツがもこもことして、少し動きづらい。

  [newpage]

  9.ヒーローたちの戦い_別離

  夜

  「チーム解散っすか」

  黄色のヒーロースーツ、フィオが、意外も落ち着いた様子で答えた。

  ブリーフィングの席でも軽く聞いたが、フィオもまた昨夜の記憶がなくなっていたそうだ。

  2人を返り討ちにした正体不明の敵、記されるところによるとA級ヴィランが率いる謎のヴィラン集団については、一旦捜査が打ち切られ、詳細は謎のままとなった。

  「すぐというわけではないが、すまないがそういう事になる」

  白いヒーロースーツのレギーが、奥歯にものが挟まった様子で言う。

  「そんで、レギーの新しいバディが?」

  「私です。始めましてですね」

  黒のヒーロースーツを着たラニスが、黒猫の隣に立つ。

  正反対のコントラストが綺麗にハマる。

  「始めまして、フィオメオです。フィオでいいっすよ」

  「私はラノシェベリア。ラニスと呼んでください。医療スタッフですがヒーロー活動もできます。レギーの主治医兼サイドキックですね」

  白い巻角の顔がにこりと微笑む。

  フィオも笑顔で返し、鼻をすんすん鳴らす。普段から食い意地が強いせいか、食べ物に限らず色々と嗅ぐ。

  「ラニスはどんな力、持ってんすか」

  「物を軽くしたりする程度ですね。こんなふうに」

  フィオの銃に手を伸ばすと、軽く力を込めてみせる。

  手に持った銃が、風船のようにふわふわと浮き上がる。

  「うわーっ、おもしれっ、便利な能力っすね」

  「戦闘向きではないですが、サポートには便利ですよ」

  ムフロンの獣人がポリポリと頬をかく。

  「レギーの短所は機動力の低さっすからね。これで足場作ったり、いっぱい浮かべたら、空中戦もできるんじゃないっすか」

  「ヒトを軽くしたりもできますし、人命救助でも役立ちます」

  「ちょうどレギーが出来ない仕事を埋める感じっすね。それで、所属は医療班」

  「医療従事者資格もありますよ」

  「お医者さんしてヒーローって……かなりハイスペっすよ」

  元サイドキックは、新しいサイドキックをまじまじと見つめた。

  「それで君、まずは自己PRしてみたまえっす」

  フィオがふんぞり返って適当な話題を振り始める。

  「専門は医療で、戦えばそこそこ強いです。闘病と戦闘の両面からヒーローをサポートできます」

  ラニスも律儀に姿勢を正して答える。

  「えーっと……ご、ご趣味はなんだね?」

  「最近は少し凝った料理を作ったりしてます」

  「今度、食べさせてほしいっす」

  「お待ちしてます」

  「あー……えっと、我が社にとってのメリットは……もう聞いたっすね。そんで、えー、好きなタイプは?」

  「ツンツンしてるけど、裏では甘えん坊」

  「好きな……食べ物」

  「ピザ……ですかね。最近ピザ窯を買ったので、生地から作ってます」

  「うわっ、うまそっ」

  「薬の配合みたいで楽しいですよ」

  「好きなドリンク」

  「コールドブリューのブラックコーヒー」

  「好きなフルーツ」

  「りんご」

  「よろしい、合格っす。次代の相棒として、俺に並ぶ活躍を見せてくれたまえっす」

  「ありがたきしあわせ」

  フィオが後任ヒーローの肩をポンポンと叩く。

  「何の茶番だね?」

  当のメインヒーローはポカンとした顔でこめかみを掻いた。

  「チームは解散は分かったっす」

  今夜は非番をあてがわれ、ヒーローたちは街中を軽くパトロールする。

  ヴィラン索敵の仕事もあるが、ヒーローが姿を見せることで犯罪の抑止効果を狙う、パフォーマンス的な狙いもある。

  楽な仕事の上に市民からちやほやされることもあるので、好んでやりたがるヒーローも多い。

  「フィオのバディもなるべく早く探すよう手配する」

  レギーが今後の話をまとめようと話題を振る。

  「ありがたいけど、多分いらねっす。面白い話も来てるっすし」

  「貴様は顔が広いから、余計なお世話だったな」

  白、黒、黄色の影が夜空を駆け回る。

  地上からもチラリとヒーローの影くらいは見えるだろう。

  「具体的に、この先はどうするんすか?」

  「言っておくが、私は引退ではないからね。ほぼ毎日だったヒーロー活動を、週に二、三くらいに減らすだけだ」

  「休みっすか。いいなー」

  「休みではない。内勤の仕事が増える。もう少し具体的な話をすると、私の能力についての話だ」

  「レギオンが、どうしたんすか?」

  「強力な能力というものは、代わりに元来休眠期間が必要なのだ。私の場合は一度発動させたら一週間くらいは力が鈍る」

  「使いすぎは良くないって話っすね。俺も気をつけるっす」

  「これまでは不敗の誓約で、思えば無茶な使い方をしていた。その、しっぺ返しだ」

  「なーるほど。そんで、それは仕方ないとしても、俺みたいな凄腕ベテランヒーローまで休ませるわけにはいかないから、別のバディを探せって話っすね」

  「人手不足は、かねてより承知であろう?」

  「へーいっす」

  その日は何事もなく、郊外でC級ヴィラン一体を討伐し、帰路についた。

  [newpage]

  10.ひざのうえでおむつおもらし

  深夜、レギーの自室。

  「寝る前に、どれくらいおしっこ我慢できるか、テストしましょうか」

  ラニスがニコニコした顔で、当然のように部屋に入っている。

  「い、いや……不要だ。そのようなテスト」

  レギーはベッド上で、睨みつけながら言う。

  両足を広げられ腕を持ち上げた、いわゆるおむつ替えポーズで凄んだところでまるで威圧感がない。

  「まずは日中のおもらしチェックですね」

  スルリ

  普段着のズボンが取り払われ、幼児むけの厚手の下着、トレーニングパンツが出てくる。

  「き、着替えくらい……自分で」

  「だめですよ。私が管理すると言ったじゃないですか」

  慌てて起き上がろうとするが、体が無意識に彼の言うことを聞いてしまう。

  レギーは夜のパトロールを終えてからすぐ、ここへ連れ込まれて、言われるがままに両足を広げ、ベッドに体を預けている。

  スルリ

  トレーニングパンツが足から抜き取られ、股間がふるんと顕になる。

  陰毛をそられたせいか、心なしかサイズも小さく、可愛らしくなったように見える。

  「ちょっとチビッてますね。次からヒーロー活動以外の時は、日中もおむつにしましょうか」

  「は? いや、そんなはず……」

  目の前に厚手の綿生地を見せられる。トレーニングパンツの内側にほんのり薄黄色の染みが広がっている。

  「気づかなかったんですねー」

  「い、いや、ちゃんとがまんしていた……はず」

  「じゃあ、やっぱりテストしましょう。おむつをつけておしっこ我慢して、何分持つか測るんですよ」

  「うぐぐ……」

  ラニスがカサカサとおむつを広げる。

  さらに幼児むけに作られた、テープタイプのおむつだ。

  「お尻上げますね」

  「ぐうぅ……や、やめたまえ」

  両足をまとめて持ち上げられ、腰の高さまで持ち上げられる。

  ぷるりと垂れ下がった股間が見える。気のせいかかなり小さくなっているようにも見えた。

  「かぶれないように、パウダーも使いますね」

  ポンポンと白いパウダーがおしりに叩かれる。

  「あうぅ……」

  お尻から玉の裏まで丸見えにされて、思わず顔を手で覆ってしまう。

  叩かれるたびに、可愛らしいおちんちんがぷるぷると揺れた。

  「あんよおろして」

  クシュ……

  柔らかな感触がお知り全体を包まれる。

  ポンポン

  もう一度前部にタルカムパウダーを叩かれる。

  「ふうっ」

  敏感な股間を刺激され、思わず声が出た。

  指でつまめるサイズのおちんちんがぷるんと揺れ、明らかに以前より小さくなっているように見えてしまう。

  クシュ……ピッピッ

  おむつの前部が閉じられ、股間全体がふんわりとした感触に包まれる。

  もこもこと大判な吸水部のせいで、足がうまく閉じられない。

  そしてなにより……

  「ほ、ほかのデザインはなかったのかね?」

  真っ白なおむつにはパステルカラーの星や月が浮かび、前方には「まえ」後方には「うしろ」とひらがなで書かれている。

  明らかに幼児むけのデザインだった。

  「幼児むけの支給品を拝借してますから、子供向けタイプしかないですよ」

  「し、しかしだね。これではまるで……」

  「赤ん坊みたいで可愛いですよ」

  「ふ…‥ふざけないでくれたまえよ」

  可愛らしいおむつに下半身を包まれ、レギーは真っ赤な顔でふるふると震えた。

  「さて、これかテストですね」

  ぐいっ

  ベッドから抱き上げられ、ラニスの膝の上に乗せられる。

  「はあっ、な、なんだねこの格好は?」

  背後から抱き上げられ、足を広げられて股間部分をクシュクシュと揉みしだかれる。

  「モニタリングに最適なので、こうさせてもらいます」

  「い、いや、こんな……子供のような」

  膝に乗せられぬいぐるみのように大股を開いたポーズをさせられ、恥ずかしい下着に包まれた下半身もあって、レギーはぐるぐると目を回しそうだった。

  「とりあえず5分くらいテストしてみましょうか。ほらしー、しー」

  耳元でゆっくりとした抑揚で語りかけられ、股間がおむつの上から柔らかく揉み込まれる。

  「て、テストとは……なんだね」

  訝りながらも、下半身がふわふわと暖かくなってくる。

  「おしっこの我慢テストですよ。おむつの要らないお兄ちゃんだってこと、見せてみてください」

  「い、言わずもがなだが……」

  クシュクシュとリズミカルにおむつが刺激され、耳元で排尿を促す声が囁かれる。

  「しー、しー、レギーのおトイレはここだよ」

  「あっ……あっ‥…」

  催眠効果のせいか、みるみると尿意が溜まってきた。

  まだ始まって2分も経っていない。

  「しー、しー。あれ? ずいぶん静かになりましたね?」

  「う、うるさ‥…い‥…」

  股間部がじっとりと暖かくなり、体がぷるぷると震える。

  「しーしー、レギーはまだ赤ちゃんですから、おむつにおもらししちゃうんですよ」

  「たっ、たわけ‥…そ、そんな‥…」

  「しーしー、しーしー」

  尿意はあっという間に限界を迎えた。

  「そんなぁ‥…」

  シュウウウ‥…

  おむつがおしっこを吸ってぷっくりと膨らんでいく。

  テストが始まってから、2分んと少々。

  「やっぱり、レギーはおもらしっ子ですね」

  「い、いや‥…そんなことぉ‥…」

  回らない呂律のなか、恥ずかしい水音は止まらない。

  シュウ‥…

  おもらしの上からクシュクシュとおむつを撫でられ、まるでラニスの手のひらにおしっこを漏らしているみたいだ。

  「しーしー、しーしー」

  「.あぁ……うっ」

  シュ‥…グシュ

  程なくしておしっこは止まり、幼児用のおむつがたぷたぷと膨らんだ。

  前部の青いライン、いわゆるおもらしサインも綺麗に浮き出ている。

  「やっぱり、これからもっとトイレトレーニングしないとですね」

  「うう‥…そんなあ」

  「ヒーロー活動も減らしましたし、これからたっぷりお世話してあげますよ」

  「うぅ‥…」

  真っ赤な顔で渋々と頷く。

  「今日はおむつ替えて、もう寝ましょうか」

  「う‥…うむ」

  トスっ

  膝から降ろされ、ベッドに座らされた。

  「ごろんしてください」

  「うぅ」

  言われるまま仰向けになり、両足をがに股に開く。

  両手は顔の横につけて、まるで動物が降参を示すかのような、いわゆるおむつ替えポーズを自らとる。

  「よしよし、偉いですね」

  ポンポンと頭を軽く撫でられ、ついでビリビリとおむつが破かれる。

  パサッ

  おちんちんはしっとりと濡れ、おむつ全体におしっこの染みが広がる。

  「んんっ」

  失敗の様子が残る陰部をまじまじと見られ、思わず顔を手で覆ってしまう。

  「さっきも見たじゃないですか」

  やれやれと微笑むラニスが、ウェットティッシュを広げて股間にあてがってくる。

  「し、しかしだね‥…」

  何度やられても恥ずかしいものは恥ずかしい。

  キュッ

  摘み上げるように股間を引っ張られ、くにくにと皮被りの内側まで綺麗に拭き取られる。

  「あっやっ‥…」

  「ちゃんと綺麗にしましょうね」

  レギーの股間のサイズは、彼の指先程度。

  「うう‥…あ、赤ん坊ではないのだぞ」

  「おもらししちゃう子が、大人なんて言えないですよ」

  吹き終わると皮の先をピンと弾かれ、おちんちんがお腹にぺちんと当たる。

  「ふぐっ」

  真っ赤な顔をしたレギーを後目に、白い指先はテキパキと下半身を拭き清めていった。

  「新しいおむつは、猫ちゃん柄にしましょうね」

  「い、いや‥…もっとマシなものはないのかね」

  「いやいやしないでください。支給品に贅沢は言えないですよ」

  「うぐぐ‥…」

  クシュクシュ‥…

  またしても可愛らしいデザインの下着に下半身を包まれる。

  「今日から寝ている間、下半身はおむつだけにしますね」

  「はあっ? いや、そんな‥…」

  「上はいつものパジャマでいいですよ。ほらバンザーイ」

  「うぇっ」

  主治医の言葉に抗うことができず、両手を上げると上着が取り払われる。

  そしていつものパジャマを着せられた。

  「そうしておくと、おねしょも分かりやすいですし」

  「だ、だからって‥…これは、いくらなんでも」

  パジャマの短い上着の裾ではまるで隠すことができず、下半身はおむつ丸出しの格好だ。

  「毎朝ちゃんと、見に来てあげますから」

  「そ、そういう問題ではなくてだね‥…」

  クシャ

  ラニスに頭を撫でられる。

  「明日もヒーロー活動がありますし、夜ふかしせずに、ゆっくり休んでください」

  クシャクシャと頭を撫でられながら、体をベッドに沈められる。

  「うう‥…そ、そうだな」

  彼の言葉に誘われるように、とろとろと睡魔が襲ってきた。

  「おやすみ、レギー」

  おむつ丸出しの格好で、黒猫のヒーローはすーすーと寝息を立てた。

  翌朝、またもぐっしょりと濡れたおむつを晒してしまい。

  ヒーローは赤面しながら、主治医の男におむつを替えられてしまった。

  [newpage]

  11.ヒーローたちの戦い_少年の門出_V.S.グラウス

  夜。

  ヒーロー活動の間は、任務への支障を鑑みて、以前通りの服装を許されている。

  レギー自身、ヒーロースーツを身にまとっている間は、別人のように体の調子が良かった。

  スーツによる身体機能向上効果の一端だろうか。

  下着もいつものボクサーブリーフに、このときだけ戻っている。

  「今日はB級ヴィラン1体の討伐っす」

  黄色のヒーロースーツに見を包んだフィオが言いながら、カチャカチャと装備品を点検している。

  以前から少し装備が増えている気がする。

  「ヴィランネーム、グラウスと呼ばれている相手ですね」

  相棒の白いヒーロースーツの隣に、新サイドキックの黒いヒーロースーツ、ラニスも並ぶ。

  フィオのバディが決まるまで、3人での活動になった。

  「相手によりっすけど、ちょっと試したいこともあるんすよ」

  黄色のヒーローが新調したグローブを、ぐっぱと握る

  「遠からず独り立ちするのだし、存分に試せ」

  白いヒーロー、レギーが相棒を労うように言う。

  「なーんか、最近優しくないっすか?」

  「そんなことはない」

  「あんまりツンツンしてないって言うか‥…」

  「気のせいだ。まあ、解散に巻き込んでしまった落ち目くらいはあるか」

  「ふーん」

  報告された場所は廃棄された鉱山。

  縦穴が随所に広がり、所々に垂直坑道が降りている、深い地面の底の入り組んだ内部に潜んでいると言う。

  「うわっ、高いっすね」

  「高いのではない。深いのだ」

  坑道の奥を覗き込むと、かつてはリフトが可動していた坑道が、ぽっかりと大穴を広げている。

  穴の奥には暗闇が広がり、どれほどの深さか計り知れない。

  「この奥がB級ヴィランのアジトらしいっす。どうやって降りるかっすね」

  フィオがポリポリを頭を掻いていると、新人のラニスが脇に手を入れて、ぎゅっと抱き上げてきた。

  「なんすか?」

  「私に任せてくださいな」

  もう片方の手でレギーを抱き上げる。

  意外にも彼は素直に体を預けていた。

  「で、これから? ああーー!」

  二人を抱えたまま、黒いヒーローは躊躇なく垂直坑道を飛び降りた。

  「コード展開ですよ」

  バシュン

  ラニスの体が淡く光る。

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「我は幽<かそけ>き再構築者。律<りつ>を歪めしの[[rb:幾禍学>きかがく]]の残響。[[rb:理>ことわり]]の狭間に、セフィラの[[rb:干渉項>かんしょうこう]]打ち立てよ──ヒーローコード:1003、[[rb:栩質の揺界>ラニス・ルヱ・ミウセオ]]」

  ふわり

  3人の質量が空気抵抗を受けるほどにまで軽くなる。

  「このまま真っ直ぐ降りますね」

  「うわっ、やっぱ便利っすねー」

  ラニスが両脇に抱きかかえる格好で、3人は坑道の奥まで降りた。

  「B級ヴィラン、グラウス。視認っす」

  フィオが指で指し示した先に、たしかにヴィランがいた。

  筋肉の隆起した大柄な体躯を持つ、焦げ茶の熊獣人だ。

  「あ? なんで来てんだよ、あんた」

  手元に土塊を持ち、不意をつかれたように向き直る。

  「強い粘土質の匂い、間違いなく土系の属性っすね。ゴーレムでも作ってました?」

  黄色のヒーローが、鼻をすんすん鳴らす。

  「あ? 今作ってるだろうが!」

  「あー、土、水系って、まじでC級ヴィラン、作るんすね」

  「あ? 何知ったふうな口聞いてんだ」

  ヴィランが土塊を投げ捨てる。

  「一応釘を刺すが、ヴィラン作るタイプが多いのは、ただの経験則でだね」

  隣で白いヒーロースーツが補足を出す。

  「雷属性でエレメント軍団を作り上げたやつもいるし、水属性直接攻撃型のA級ヴィランは厄介な相手だった」

  「何があったんすか」

  「地上で溺れかけた」

  「こわっ」

  ガン

  会話を遮るように、グラウスが坑道の壁が殴りつける。

  彼の体に淡い光が灯る。

  「あ? 何だてめえら、来るのが早すぎんだよ! コード展開!」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「巨岩の[[rb:臓腑>ぞうふ]]よ、沈黙を破れ。[[rb:栄華>えいが]]の[[rb:足跡>そくせき]]、都市の[[rb:階>きざはし]]、すべて地に還れ。我は災厄の胎動、[[rb:石喰>いしくい]]の[[rb:顎>あぎと]]を鳴らせ──ヴィランコード:6161、[[rb:地禍の胎動>グラウス・マウレクス]]」

  周囲の土が隆起し、地面から槍となって襲いかかる。

  ガガッ

  3人のヒーローはひらりと躱して距離を取る。

  「あ? ダラダラしてんじゃ、ジリ貧だぜ!」

  ガンガンガン……

  次々と土の弾丸が飛び交う。

  一撃一撃が重く、加えて飛び交う巨魁そのものが、盾となって阻む。

  「岩が邪魔で俺の銃じゃ、真っ直ぐ撃っても撃ち負けるっすね」

  黄色のヒーローが手に持った[[rb:電撃銃>パルスガン]]を構える。

  「ラニスを盾にして突っ込んだらどうだ? 岩が軽くなるだろう?」

  レギーの立案に、思わず吹き出してしまう。

  「盾にするって、酷い言い方ですね」

  隣でラニスが頬を掻く。

  「良いアイデアっすけど、多分いらねっす。俺ももっと強くなりたいっすから」

  ヒーローが銃を構えて前に出る。

  「ちょっとの間、観戦希望っす」

  「そうか。心得た」

  ガンガン

  飛び交う土塊を躱して、黄色のヒーローは電撃の銃弾を撃ち返す。

  正面を避け、壁、天井に銃口を向ける。

  バチチッ

  ヴィランの側面、脇腹、側頭部、斜め角度を付けた場所から銃弾がヒットする。

  その隙に、敵手との距離を詰めた。

  「あ? てめっ、何しやがる!」

  飛び交う土塊を躱し、また銃弾を撃ち返す。

  壁、床、天井で跳弾した弾丸が、的確にヴィランを撃ち抜いた。

  「跳弾攻撃、リフレクショットっす。サテライト無しでも、まだまだやれるっすよ」

  フィオはコードを使うことなくヴィランとの距離をさらに詰める。

  まるで少し前のレギーを思わせる戦いぶりだった。

  「あ? そんな、曲芸まがいなもんが、何度も成功するかよっ!」

  バチッ

  フィオの跳弾は攻撃の隙間を正確に射抜いた。

  「場数が違うんすよ」

  銃弾で牽制しつつ、ひらりと前へ出る。

  「あ? クソッ、クソッ」

  目の前に巨大な土塊がたたきつけられる。

  「展開、スクラッチ!」

  ジャキン

  フィオのグローブから金属製の鋭い鉤爪が伸び、土塊をひっかく。

  銃を持ったまま戦うことができる、ヒーロー、ジルバの新しい仕込み武器。

  「うおおっ」

  半身巻き込まれながらも、錐揉み回転してダメージを逸らす。

  レギーみたく、無傷で楽勝とはいかないみたいだ。

  ズシャ

  最後の攻撃を飛び越え、目標は目の前にまで近づいた。

  「このまま、討つっすよ」

  鉤爪を翻し、勢いを乗せて切り裂く。

  ザシュッ

  「あ? クソがッ……」

  ヴィランが巨躯を翻し、拳を握りしめる。鉤爪だけの攻撃ではまだダメージが足りない。

  やはり先輩ヒーローのように、まだうまくはいかないようだ。

  「でも、ここで決めるっす。トニトルス!」

  バチッ

  雷光を放つ両爪が、敵を穿つ。

  バチッバチチヂヂッ

  左右の爪から絶え間ない雷の連撃が放たれた。

  「ぐああぁぁ……」

  ヴィラン、グラウスは膝から崩れ落ちた。

  「うーん。レギーみたく楽勝とはいかないっすね」

  フィオはポリポリと頬掻いた。

  「それに詰めも甘いぞ。レギオン!」

  白いスーツから光の刃が飛び、倒れたヴィランを追撃する。

  「あ? ぎにゃあっ!」

  ヴィランは最後の断末魔を上げて倒れた。

  「負けた振りだ。寝首をかかれるところだったな」

  「ううー。精進するっす」

  格好付けた手前、少しバツが悪い思いをする。

  「しかしB級をほとんどコード無しで討伐かね。私に無茶だと言ったのは、貴様ではなかったか?」

  「うへへ、まだまだっした」

  「いいや、上出来だ。よくやった」

  「へ? な、なんか……褒められると、調子狂うっすね」

  元バディが向き合い、いつになく居心地の悪い顔をする。

  ぎくしゃくした沈黙を先に破ったのはフィオのほうだった。

  「多分……呼び声を聞いたっす……」

  「貴様がか。無縁な性格だと思っていたのだがね」

  先輩ヒーローは意外にも驚きの表情を浮かべた。

  「だからチーム解散にも、あんまり驚かなかったんすよ」

  申告な顔をした二人の間に、三人目のヒーローが顔を出す。

  「あのー、呼び声ってなんなんですかね?」

  ラニスが手を上げて質問する。

  「えーっと、グオオーみたいな感じっす」

  「いやいや、ブォーンと言ったほうが近いのではないかね?」

  「いや、ブオオーブオオーみたいな?」

  二人でトンチンカンな説明を繰り返す。

  「えーっと、それで?」

  「うむ。呼び声と言うのは、例えた言い方だ。上位のヒーロー、ヴィランの間では一部認知されている、コードが書き換わる現象のことだ」

  「え? ヒーローコードって、勝手に書き換えたらいけないんですか?」

  素っ頓狂な声を上げるラニスを、「何言ってるんだ、こいつ」という表情で二人が睨む。

  「コードは力の在り方の根源だ。ヒトの中に無意識に備わっているものが顕化した力だ」

  倒れたヴィランを拘束具で捉えながら、白いヒーローが講釈を垂れる。

  「ヒーローかヴィランかも、無意識下でコードが与えられている」

  「それが、ヒーローコードとヴィランコードなんですね」

  ヒーローの基礎科目だが、医療班は学ばないのだろうか。

  「以上は基礎として学ぶが、ごく稀にコードが書き換わるヒーロー、ヴィランがいる。事前現象の証言などから、呼び声を聞くと称される」

  「変わるって、どこまで?」

  核心をついた質問に、レギーは深く頷いた。

  「程度による。単純に新たな能力を手にした者もいれば、ヒーローからヴィランに書き換わった奴もいる」

  「それで……」

  納得したように首肯して、ラニスは気絶したヴィランを軽々と持ち上げる。

  「一部では、呼び声を聞いた者は物語のトリックスターに任命される。などと称する奴も居る」

  「物語のトリックスターですか、彼が?」

  ラニスが風船のようにヴィランを持ち上げながら、チラとフィオを見る。

  「なんすか。意外っすか」

  「いえいえ適任ですね」

  「あー、バカにしてるっすね。俺だって、こう見えてそんな単純なやつじゃないんすよ」

  フィオがプンプンと怒る。

  「確かに貴方の雷化能力は厄介でしたね」

  「そっす。俺だって強いんすよ」

  「ええ。本当に厄介な相手でした」

  含みを込めた笑いで、ラニスは彼を睨みつけた。

  「そういえば、俺……」

  今日はコード無しで戦って見せた。

  雷化の力は使っていない。

  「さて、上まで運んで欲しいヒトは、私に捕まってくださいな」

  ラニスが垂直坑道の底で両手を広げる。

  「あ、お願いするっす。マジ便利。ラニス最高っす」

  昨日のC級ヴィランに使っただろうか? 何か引っかかった気もするが、考え過ぎだろうか。

  「そうだ、レギー」

  無闇に勘ぐるより先、言っておく事を思い出した。

  坑道に差し掛かる前に足を止めて、フィオは先輩ヒーローに向かい合う。

  「なんとなく分かる。俺、ヴィランにはならないっす」

  「そうだろうな。貴様の性格には似合わん」

  「新しいバディも、申し出があって受けようと思ってるっす」

  「そうか」

  「だからこれで、チーム解散っす」

  顔を上げると、黒猫の優しい瞳と目があった。

  「私のバディでいてくれて、何度も助かった。本当にありがとう」

  不意にかけられた言葉に、フィオの目に涙が浮かぶ。

  「そ、そんな、俺のほうこそ……あ、ありがとうっす」

  震えた声の相棒の肩を、レギーがポンポンと叩く。

  「いままで、本当……ありがとう、ございましたっす」

  新たに巣立つヒーローは、育ててくれた先輩に深々と頭を下げた。

  レギオン、ジルバのコンビは、この日をもって解散となった。

  「い、言っておくが、私は引退ではないのだからね」

  おどおどした顔、レギーが慌てて補足する。

  綺麗に別れた直後に必死な顔をしているので、思わず吹き出してしまう。

  「聞いたっすよ。もう、締まらないっね」

  涙目でくっくと笑いながら、フィオが顔を上げる。

  「うぐぐ……」

  「ラニスを待たせてるっすよ。早く行こうっす」

  二人は坑道下に駆け寄った。

  「はいはーい、あんまり待たせてると、置いていっちゃいますよー」

  意地悪そうな笑みを浮かべて、ラニスがポンポンと跳ねている。

  「連れてってくれっす」

  フィオはラニスの体に抱きつく。

  「ほら、レギーもどうぞ」

  黒いヒーロースーツから伸びる真っ白な手が、黒猫のヒーローに差し出される。

  「改めて、頼むよ相棒」

  レギーはその細い指先を握りかえした。

  「任せてくださいな。公私共々、お世話してあげますよ」

  「馬鹿者……余計な世話は要らぬ」

  ポーンと地面を蹴ると、軽々しく浮き上がり、地面がみるみる遠ざかる。

  「B級ヴィラン、グラウス。討伐完了っす」

  地上が近づき電波が入ったことを確認したフィオは、短く業務報告を放った。

  [newpage]

  12.こどもたちといっしょ

  翌朝

  下半身がおむつ丸出しになった、ヒーローレギオンことレギーは呆然と立ちつくしていた。

  「これは……その……」

  ぐっしょりと濡れたおむつは調べんまでもなく、おねしょをしたことを告げていた。

  「ヒーロースーツを脱いだ途端、すっかり赤ちゃんですね」

  クシュクシュとおむつを揉みしだきながら、主治医のラニスがニヤついた顔で言う。

  昨日までの威厳はどこ吹く風やら、立たされた黒猫は叱られた子供のようにしゅんと沈み込んでいた。

  「うぅ……」

  おねしょはすでに日常茶飯事で、もはや言い返す言葉もなかった。

  「お着替えする前に、朝のおしっこに行きましょうか」

  主治医が手を掴み、引っ張られる。

  「はあっ? こ、この格好でかね?」

  レギーの服はパジャマの上着だけで、下半身はふっくらと濡れたおむつ丸出しの姿だ。

  短く裾では隠すことも出来ない。

  「おねしょっ子の格好としては一番お似合いですよ」

  「い、いやしかしだね……私だって、もう結構な歳で……」

  「おもらし赤ちゃんが、恥ずかしがらないでくださいな」

  ぐいっ

  強引に手を引かれて部屋から連れ出される。

  グシュグシュ

  歩くたび、濡れそぼったおむつから湿った音が聞こえる。

  人気のない寄宿舎の廊下に二人の足音だけが響く

  「おい、その……や、やっぱり、戻らないか」

  丸出しの恥ずかしい下着を晒されて、顔は真っ赤に染まる。

  こんな姿を同僚に見られたらと思うと、頭が真っ白になる。

  「駄目です。ちゃんとレギーにふさわしい場所で訓練しなきゃいけませんから」

  「だからといって、こんな格好……ひとに見られたら……」

  「この時間は人通りが少ないですし、早く行きましょう。それとも、もっと遅い時間にしますか?」

  ヒーロー活動は夜が多い。

  そのためヒーローも夜型の傾向があり、朝の時間は比較的人が少ない。

  「い、いや……それもだね……」

  「じゃあ、ぐずぐずしないでついてきてくださいな」

  「うぐぅ……」

  濡れて膨らんだおむつをクシュクシュと鳴らし、レギーは苦虫を噛み潰したような顔をした。

  ラニスに以前言われた通り、律儀に足を開いてがに股の格好で歩く。

  「言いつけを守って、いい子ですね」

  クシャクシャお頭を撫でられる

  「ぐ……う、うるさいな」

  大股でお尻を左右に振って、人気のない廊下を歩かされた。

  グシュグシュ……

  ぷっくりと濡れて膨らんだおむつな歩きづらい上に、がに股歩きのなんとも情けない姿を晒す。

  「強情なくせに、素直で可愛いですね」

  ラニスが苦笑いで隣についてくる。

  グシュグシュ

  足を閉じようとすると、おむつに恥ずかしい染みが広がり、仕方なく足を広げる。

  顔は真っ赤に染まり、ぷるぷると震えながら歩く姿はまるで子供のようだ。

  「ほら、お部屋はすぐそこですから」

  ラニスが手を引かれ、目の前にはキッズプレイスと呼ばれる孤児養護施設があった。

  「キッズスペース……? いや、なんでこれがここに……?」

  ヒーローに助けられた孤児や、身元を探している子供たちが一時的に身を寄せる施設で、医療スタッフの管理のもと運営されている。

  キッズプレイス自体は前々から知っていたが、レギーの寄宿舎のすぐ後ろに有るとは記憶にない。

  「最近移転したんですよ。レギーのトレーニングにもピッタリですよね」

  パステルカラーの建物に向けて、手をひかれる。

  「はあっ? あ、あそこに連れて行こうと言うのかね」

  「そうですよ。おむつの取れない赤ちゃんとして、一緒にトレーニングしてもらいましょうね」

  「き、貴様、ふざけてるのかね。あそこは児童養護であって、わっ私はもういい歳した大人なのだぞ」

  恥ずかしい格好を思い出し、慌ててパジャマの裾を引っ張るが、丸出しの下半身はほとんど隠せていない。

  ポンポンと濡れたおむつを叩かれる。

  「へえ、それじゃあ、同僚みんなのいる本部に戻って、おむつ替えしましょうか?」

  ニヤニヤとした笑みと一緒に、残酷な提案を挙げられる。

  「い、いいや……そ、それはだね」

  レギーが真っ青になり、ラニスを見る。

  「あそこは医療班管轄で私も面倒が見やすいですし、レギーの知り合いも居なくて適切かと思ったのですが」

  「そ、それは確かに……知り合いは、いないが……」

  「あそこの子供たちにとっては、みんなまとめてヒーローのお兄ちゃんですから、このおむつっ子がヒーロー、レギオンだなんて分かりませんよ」

  グシュグシュとおむつを揉まれる。

  「うぐぐ……」

  この姿を知り合いに見られるよりはマシか。

  レギーは渋々と手を引かれてついて行った。

  グシュグシュ……

  キッズプレイスの中には初めて入る。壁や床まですべてがパステルカラーで統一され、見るから子供向けの施設だと分かる。

  「さ、おしっこの練習しましょうね」

  ガチャ

  可愛らしい扉を開くと、キッズトイレに連れ込まれる。

  「こ、ここは……子供用の……」

  「そうです。おむつの赤ちゃんにピッタリですねー」

  有無を言わせず中へと連れ込まれてしまう。

  キッズトイレの中は幾人の子供たちが出入りしていた。その誰もが未就学児未満かその前後で、レギーの腰ほどの身長しかない。

  「センセーおはようございます」「おはようごさいまーす」「……ます」

  ラニスの白衣を見た子どもたちが口々に挨拶を交わす。

  「はい。おはようございます。今日はこのお兄ちゃんにも、おトイレ使わせてもらえますか」

  穏やかな顔で返事をしながら、真っ赤な顔をした黒猫が一歩前に連れ出される。

  「あっあうぅ……」

  子供たちの視線が刺さるように集まる

  「ヒーローのお兄ちゃんだー!」「お兄ちゃん、おむつしてるー」「おねしょしちゃったの? ヒーローなのに?」

  珍しいヒーローの来訪に、子供たちがわらわらと寄ってきては囲まれる。

  「こ、これは、そのっ……」

  慌てて足を閉じて言い繕おうにも、丸出しのおむつを見られては、何の説得力も無い。

  「ほらほら、レギーはこっちですよー」

  ぐいっ。

  おむつ丸出しのまま手を引かれて、もじもじしながらキッズトイレの小便器の前に引き出される。

  「わー、ほんとにおむつだー」「おトイレできる?」「ぼく、きのうからパンツはいてるんだ」

  おむつ丸出しで歩かされる間、子供たちに野次を飛ばされる。

  「あうぅ……」

  レギーは肩を丸めて、部屋の真ん中を縦断した。

  目の前に立たされた、白にパステルカラーイエローの取っ手がついたその便器は明らかにサイズが小さく、明らかに子供用のものだと分かる。

  「こ、これ……子供用のぉ……」

  「おもらしっ子にはお似合いですよ」

  口をとがらせて抗議するが、全く取り合ってくれない。

  高さが足りないので、足広げられ膝立ちの格好でトイレに向かう。

  「ううう……」

  おむつ丸出しの格好で、もじもじしながら上目遣いで睨む。

  どうして……こ、この歳になってこんな小さな便器を使わなきゃならんのだ。

  内心ブツブツ言いながらも低い便器に腰を向け。促されるまま上部の取っ手を両手で掴む。

  膝立ちの足元は柔らかいウレタン素材の感触。

  小さな取っ手はつかまり立ちする子供をターゲットにした設計であることに否応なく気付かされる。

  「おむつ脱がせますね」

  ビリビリッ

  ラニスの白い指が伸び、後ろからおむつが破り取られる。

  ぷるん

  すっぽんぽんの下半身が顕になり、小さく可愛らしいおちんちんが揺れる。

  そう、小さい。

  「あ、あれ……こ、これは……」

  レギーの股間は、陰毛を剃られただけに留まらず、明らかにサイズまで小さくなっている。

  茎も玉も、ヒーローノ体に不釣り合いな小ささで、そこだけ見ればまるで赤ん坊のモノだった。

  「おねしょっ子に相応しいおちんちんですよ」

  「そんな……い、いや、私のは多分、もうちょっとくらいサイズが……」

  「いやいや、おねしょが治らない子は、相応のおちんちんにって言ったじゃないですか」

  「そんな……そん……な」

  キッズトイレに向かう小ささおちんちんがふるふると震える。

  「上着が濡れちゃいますから、脱がしておきますね」

  スルスルとパジャマの裾を巻き上げられ、ボタンが外されて脱ぎ取られる。

  両手から上着が抜き取られと、トイレのなかで素っ裸にされてしまった。

  「ふぐう……み、見ないでくれえ」

  両手は取っ手を掴んだまま、足を開いた格好では、もはや股間を遮るものは何もない。

  レギーの立派だった股間は、この部屋の子供たちと比べても、同じくらいかもっと赤ちゃんレベルのサイズにされていた。

  それはもはや、赤ちゃんちんちんと呼ぶようなサイズのモノだった。

  「おむつの取れない赤ちゃんちんちんですけど、頑張っておトイレしてみましょうか」

  足を広げられ、小便機へ向かわされる。

  小ささなおちんちんがぷるぷると揺れた。

  「あつ……やっ……」

  トイレの周囲には何の仕切りもなく、周囲からは丸見えだ。

  衆人環境で用を足すだけでも恥ずかしいのに、股の間には可愛らしいサイズのモノがふるふると揺れる。

  「しーしー、しーしー」

  耳元で囁かれると、次第に尿意が高まる。

  「や、やめてくれたまえ、こんな……人前で……」

  小さくされたおちんちんをぷるぷると震わせて抗議をする。

  「ほら、しーしー」

  耳元で囁かれながらクシャクシャと頭を撫でられる。

  「あぅう……」

  小さな取っ手をぎゅっと掴む。

  尿意は寸前まで迫る。

  「今朝のおねしょの残りですけど、おトイレにしーしーしましょうね」

  ラニスの指先におちんちんの先端をきゅっと摘まれる。

  「あぅ……い、いや……」

  長らく誰にも見せてすらいない陰部を軽く摘まれる。

  子供のような扱いもさることながら、慣れない刺激に目を白黒させる。

  「しーしー、トイレ似向かってしーしー」

  「な、なんてことするんだい……こっこんな場所で……」

  まだ子供たちが往来するキッズトイレで、股間からお尻まで丸出しの素っ裸の格好だ。

  そのうえ立派だった股間は小さくされ、赤ちゃんちんちんをトイレに向かう子供のように摘まれる。

  「しーしー、しーしー」

  「ふぐぅ……」

  情けなくて涙が出そうになるが、ラニスの声に応えるように、下半身がじわじわと暖かくなってくる。

  ポタポタ……チョロロ……

  「あ、あ……」

  小便器の真上で、レギーの小さなおちんちんからおしっこが垂れる。

  すっぽりと皮被りにされてしまった先端から、ポタポタと垂れ落ちるように小便器へと流される。

  「しーしー、上手にできて偉いですよ」

  股間を先端を摘まれ、便器へ向けられる。

  「ふぐぅっ」

  真っ赤な顔で、取っ手を握りしめる。

  視界の下にはポタポタと垂れるおしっこ。小さくされた股間は、つまみ上げられている細い指先に隠れてしまい、ほとんど見えない。

  先端のちょんと尖った皮被りの先だけ指先の間から顔を出し、余計に子供じみて見える。

  「しーしー、よくできましたね……」

  ポタポタと静か勢いが収まり、排尿が止まる。

  クシャクシャと頭を撫でられた顔は、羞恥に染まり今にも泣き出しそうだ。

  「おしっこできたー?」「しーしー、おトイレでするんだよ」「おちんちん、あかちゃんみてー」

  子供たちに口々に囃し立てられる。

  「さて、新しいおむつに着替えましょうね」

  「えっ、いやっ……だって」

  「だってって、今日はヒーローの仕事はないはずですよね」

  「そ、そうなのだが」

  キッズトイレの一角に、ブランケットを広げ、テキパキとおむつ替えの準備が整えられる。

  「言いましたよね。ヒーロー活動のない日は、おねしょトレーニングするって」

  「うぅ……それは、だね……その」

  「今日から、ここでおむつの練習です」

  ぐいっ

  腕を引かれて、小便器から離される。

  「うえっ……」

  すっぽんぽんで歩かされ、小さくおちんちんがぷるぷると揺れる。

  生まれた姿の裸にされ、可愛らしい下半身はどこも隠せていない。

  「フルチンだ、フルチン」「ヒーローのお兄ちゃん、ちんちんちっちゃい」「おむつだから、あかちゃんだよ」

  子供たちの囃した声が聞こえる。

  「こらこらみんな」

  ラニスが歩みを止め、子供たちに向き直る。

  当然その隣に、すっぽんぽんのまま直立させられる。

  「このお兄ちゃん、レギーくんは、おトイレトレーニング中ですから、みんなでお手伝いしてあげてくださいね」

  ラニスがにこやかに子供たちに告げる。

  「え……あ……」

  素っ裸のまま、子供たちの前に立たされる。

  両手は横に付け、股間がぷるぷると揺れる。

  「えー、しょうがないなー」「はいはーい!ぼくやるー!」「ぼくも、おてつだいできる」

  情けない全裸ヒーローを取り囲むようにして、子供たちの視線が集まる。

  手で股間を隠そうとすると、ラニスにぺちんと払われてしまう。

  むき出しの股間が、子供たちの前に晒される。

  「それじゃあみんな。新しいお友達と、仲良くてまきますか」

  「はーい」「はいはーい」

  元気よく応える可愛らしい声援の前で、レギーはぷるぷると震えることしかできなかった。

  ヒーローの体に不釣り合いなあかちゃんちんちんを、四方八方から見つめる視線が突き刺さる。

  「さ、ごろんしてくださいな」

  「うぅ……」

  促されるまま、ブランケットに横たわる。

  ウレタンの柔らかく反発と、ゴワゴワしてひんやりとした、綿の肌触り。

  言われる間もなくいつものおむつ替えポーズ取っていまう。

  素っ裸で降参するように、両手両足を広げて寝転ぶ。身を隠すものが何もない心もとなさに、思わず顔を手で覆う。

  「綺麗にしますからね」

  ラニスの手にしたウエットティッシュが広げられると、股間にその指が伸びる。

  きゅっ

  「あ……う……」

  小さくされたおちんちんを、優しく丁寧に拭き取られる。

  以前は掴めるほどだった股間も、今では指先で摘むように拭き清められていく。

  「すっかり、可愛いおちんちんになりましたね」

  くにくにと指先で隠れてしまう小さなそれを、愛おしそうに眺めて言われた。

  「ぐぅ、私の……その、お、おちんちん……に、な、何をしたんだね……」

  「何って、年齢相応のサイズになっただけですよ」

  「そんな……馬鹿な、私は大人で」

  「おもらしを治したら、また大人にしてあげますよ」

  ピンッ

  皮の先端を引っ張られる。

  内側に溜まったおしっこまで、絞るように拭きあげられた。

  「はうっ……」

  恥ずかしさに思わず顔を手で覆う。

  大股開きになって、太ももからお尻まで拭き取られる。

  「あんよ上げますね」

  両足をまとめて持ち上げられる。

  この格好は何度やられても恥ずかしい。

  「おしり、おしり」「おむつだー」「おっきいけど、こどものおむつだ」

  子供たちの声が、耳に痛い。

  クシュ

  お尻を降ろされると、柔らかいおむつの感触が伝わる。

  クシュクシュ……ピッ

  テープで止められ、パンツの形状が形作られる。

  「はい。新しいおむつですよ」

  「うう……」

  ふっくらとしたおむつに下半身を包まれる。

  素っ裸におむつ一丁の格好。

  「似合ってますよ」

  ニヤニヤと白い獣人が見つめる。おむつは明らかに子供向けのデザインだ。

  「か、からかうのはやめたまえ……こんな、子供向けの……」

  足を動かすとクシュクシュと衣擦れの音が響く。

  ふっくらとした給水部のせいで、相変わらず足がうまく閉じない。

  「さ、たっちして、ここのお洋服をもらいに行きますよ」

  「え? え?」

  ラニスにヒョイと持ち上げられ、おむつ一丁のまま立たされる。

  目を白黒させている間に、ブランケットが片付けられていった。

  「ほら、こっちです」

  「ふ、ふざけてるのかね……こんな……姿でぇ……」

  「たしか、支給品の受け取りは……」

  抵抗も虚しく、手をひかれるのままに廊下に連れ出されてしまう。

  いつしか彼の言葉には、抗いがたい威圧のようなものを感じるようになってしまった。

  「あっ……いやっ……」

  おむつ一丁で外を歩かされ、通り過ぎる子供や、他のスタッフたちの視線を受ける。

  「み、見ないでくれたまえ……」

  「おもらし赤ちゃんのことなんて、誰も気にしてないですよ」

  手をひかれるまま、ペタペタと歩く。

  ふっくらとしたおむつは、歩くたびと大きく左右に揺れる。

  廊下を曲がるたびに、集まる視線が刺さるように痛い。子供だらけの施設とは言え、おむつ以外すっぽんぽんの格好はさすがに目立つ。

  そのうえ、周囲からいくつも頭の抜けた青年の姿なのだから、さらによく目立っていた。

  「申請していた、おむつトレーニングの子なんですけど……」

  医療スタッフを見つけては、事情を説明しラニスは目的地を確かめる。

  その間もレギーはおむつ一丁のまま、すぐ隣で待たされた。

  スタッフたちは不思議とレギーの実年齢を気にする様子は無く、おむつが当たり前の子供のように接して、くすくすと微笑みかけてくれる。

  それでも、とっくに成人したレギーにとっては耐え難い辱めであった。

  「このヒーローお兄ちゃんはね、おむつがまだ取れないから、ここでトレーニング中なんですよ」

  時折歩みを止めては、興味津々の子供たちにも説明して回る。

  すっぽんぽんのおむつ姿をまじまじと見られ、顔から火が出そうだ。

  「そっかー、がんばってね」「おむつ、とれるといいね」

  協力的な子供たちが兄貴風を吹かせて、頭を撫でてくる。

  自分よりずっと小さな子供たちにさえ、さらに子供扱いされるのも歯がゆい思いがする。

  「う、うん。が、頑張る……よ」

  それでもこんな状態で自分が大人だと言い返すこともできず、レギーは真っ赤になった顔を俯かせたまま、小さくなされるがままだった。

  いくつかの廊下を渡り、やっとのことで目的の倉庫へとたどり着いた。

  レギーは入り口で立ったまま待たされ、主治医はいくつかの数字をタッチパネルに入力して中に入る。

  おむつ一丁の恰好では、立って待たされているだけでも、何時間もかかったように感じられる。

  「お待たせしました」

  ようやくラニスが奥の小部屋から戻ってきた。

  おむつ一丁のレギーは、もじもじと内股を擦り合わせながら、気持ち程度に手で股間を隠すように立って待っていた。

  「ここの制服に、お着換えしましょうね」

  「制服……医療班のものかね?」

  白衣か入院服かと思いきや、そう言って広げられた服は、パステルブルーのスモックだった。

  裾が広がり、袖をしぼめた作業着であり、子供の園児服としても知られている。

  「そ、それ……は?」

  「スモックですよ。ここにいる間は、これを着てもらいます」

  「ふ、ふざけないでくれたまえ」

  「下着はタンクトップがありますよ。ほら、バンザーイ」

  「い、いやっ……」

  スルスルと手を持ち上げられ、頭から白い綿のタンクトップを着せられる。

  おむつ一丁より少しはましになったものの、やはり子供っぽすぎる恰好に顔が熱くなる。

  「ほら、スモックですよ。バンザーイ」

  「それは、子供が着るやつで……」

  幾度となく繰り返された問答に、顔が青ざめる。

  「お漏らしも治ってない、赤ちゃんちんちんは、立派な大人ですかね?」

  「あっ……いや……それはだね……」

  「ほーら。バンザーイ」

  「うえっぷ」

  上半身を淡いブルーのスモックに包まれる。

  「お漏らしが分かるように、下はおむつのままにしておきましょう」

  「ええっ!」

  スモックは裾が短く、ふっくらとしたおむつは周囲から丸見えのままだ。

  「よく似合ってますよ。レギー」

  「そ、そんなはず……なかろう……」

  もじもじと裾を引っ張る。

  おむつが丸見えなのも恥ずかしいが、それよりもこんな格好をしている自分が子供扱いされ、それを受け入れている事実に耐えられない。

  「さて今日は予定もないですし、子供たちと一緒に過ごして、おむつのトレーニングを頑張りましょう」

  「こ、この恰好で……い、一緒にとは」

  「ええ。今日一日、子供たち一緒の扱いを受けてもらいます」

  「そ、そんなこと……」

  「さあ、朝のお遊戯の時間ですよ」

  スモックとおむつ丸出しの恰好のまま、腕を掴まれまた廊下へと連れ出される。

  廊下のいたるところから、子供のはしゃぐ声が響き渡っていた。

  「今日は、ヒーローのお兄ちゃんが一緒にお友達になってくれますよ」

  「うう……うぐぐ……」

  子供たちレギーと同じスモック姿に身を包むが、全員短パンかスカートを穿いていた。

  そんな中に一人、スモックと紙オムツの恰好をした青年は、当然大きく目立つ。

  「このお兄ちゃんは、おむつの練習中なので、お漏らししたら先生に教えてくださいね」

  「うう……」

  もじもじと立ち尽くしたヒーローを前に、子供たちは和気藹々と声を弾ませる。

  「ほらっ、挨拶くらいしてくださいよ」

  「あ……うう……」

  おむつをポンポンと叩かれ、顔を赤くする。

  「よ、よろしく……お……おねがいします」

  「はーい」「いいよー」「おねがいしまーす」

  可愛らしい声が響き、子供たちの輪に入れられる。

  ヒーローは抵抗することもできず、おむつ丸出しの姿のまま、キッズプレイスで一番小さい弟として扱われてしまう。

  「本当に、可愛らしい姿になりましたね」

  白く細い指が、いとおしそうに頭を撫でてくる。

  「お、お漏らしなんて、すぐに……治すからあ……」

  上目遣いに睨みつけるが、おむつ姿では威厳も何もあったものではない。

  表では無敵のヒーロー、レギオンとして名を馳せながらも、ヒーロースーツを脱いだ姿は、おむつの取れない赤ん坊の扱いにされてしまった。

  [newpage]

  13.ヒーローたちの戦い_少年の門出_V.S.シグマ

  翌日。

  ラニスと過ごした非番を終えて、久々の現場に立ち会う。

  レギオンの力はまだ万全とは言えないので、今回はバックアップに徹することになっている。

  「ヒーロースーツ、着用完了」

  レギーはスーツを着たとたん、別人のように顔つきが変わる。

  「なんでですかね? スーツを着るとおしっこの我慢も、バッドステータスみたいな扱いになるんでしょうか」

  黒いスーツを着た新しい相棒、ラニスがニヤニヤ顔で茶化す。

  「か、からかわないでくれたまえ。こっちが本来の姿であってだね……」

  「じゃあ、スーツを脱いだ時も、本来の姿でいられるように頑張りましょうね」

  「い、言わずもがなだ」

  キッズプレイスに連日連れ出された記憶を思い出し、顔を歪ませる。

  「メインヒーローたちは、もう到着しているころですかね」

  「若手チームの初陣だ。見守ってやろう」

  二人のバックアップ相手は、フィオだった。

  新たにコンビを組んだフィオのチームは、今日が初めての戦いになる。

  「レギー、お久しぶりっす」

  別車両の装甲車の前で、黄色いヒーロースーツに見を包んだフィオが手を振って呼ぶ。

  「元気そうで何より」

  「そちらこそっす。なんか、顔色良くなったっすか?」

  「まあ、その……色々あったからね」

  ラニスに連日、トレーニングと称され、色々な扱いを受けた事を思い出し、顔を引きつらせる。

  「なんで、急に黙るんすか」

  「いや、なんでもない」

  彼の私生活を知る由もないフィオは、ニコニコと嬉しそうに笑うだけだ。

  「ラニスも久しぶりっす」フィオが軽く手を振ると、「お元気そうで何よりです」とラニスから微笑んだ返事が来る。

  「新しいバディとの初陣だね」

  レギーが咳払いしつつ、話題を戻す。

  「そっす。新しい相棒は、一応、新人になるっすね」

  「在籍期間は?」

  「昨日、ヒーローになったばかりっす」

  「そうか。経験は浅くとも相性次第では……」

  「いけ好かない奴っす」

  「何故そんな輩を……?」

  「色々な成り行きでそうなったっす」

  フィオが乗ってきた装甲車の扉をゴンゴンと叩く。鉄の扉の向こうから「今行く」と短く返る。

  ガコン……

  扉がひらき、灰色に黒いラインのヒーロースーツに見を包んだ若者が姿を表す。

  灰色の毛並み、灰色の瞳。

  「超新星の新人ヒーロー、俺様だぜ?」

  黒い炎がチラチラと光る。

  元A級ヴィラン、黒い炎、クグワロゴールがそこに立っていた。

  「なんだ。クグワロか」

  「誰です?」

  白と黒のヒーローが、驚きもせず一瞥した。

  「は? 何その反応? もっとびっくり仰天とかしないわけ?」

  灰色のヒーロースーツが、見知った白の先輩に食って掛かる。

  「驚いては、いる」

  「もっと表情に出せ。クールぶってんの?」

  「やっぱり、呼び声を聞いたか」

  「前から聞いてるよ?」

  「この短期間で、ポンポンとコードが書き換わる奴は、さすがに珍しいな」

  呼び声と呼ばれるコードの書き換わり現象。

  ヒーローからヴィランに転向することもあるのだから、その逆も然り。

  「超新星のA級ヴィランが仲間になってやってんの。もっと驚いたりしたら?」

  「貴様のような大した思想もなく力も持て余した輩は、存外あっさりヒーロー側に付くタイプがいるからな」

  隣のフィオが、「会って早々、呼び声の話、してたっすね」と合点を示す。

  「はあ? 他人をタイプ分けして偏見で判断すんのは駄目だって、ママに教わらなかったか?」

  「すまないな。経験則は現場の即断に役に立つのだ」

  白いヒーローにさらりと弄ばれ、灰色のヒーローがギリギリと歯を鳴らす。「後半裏切って仲間になったり、なんやかんやでヒーローに肩入れするやつは、特に炎属性のヴィランに多い」

  「あるあるみたいに言うな!」

  「それで言うと風属性は裏切りそうで裏切らないな。一本筋通ってたり、意外に義理堅いやつをよく見る」

  「知らねーよ。そんなあるあるな話なの?」

  白いヒーローの隣で、灰色の犬獣人がキャンキャン吠える。

  「風の本質がそうさせるのですかね?」

  黒いヒーローが割って入って、話題を引き取る。

  「風と言うのは、気ままに流れているようにみえて、大きな奔流に沿って絶え間なく動くものじゃないですか」

  「ラニス、鋭い指摘だ。ヒーローコードは、潜在意識の顕化だから、本質的に風に近いヒトがそうなるのか」

  「ふむ。コードと言うものが、少し分かってきましたよ」

  「相変わらず、話の芯を食うのが上手いな」

  白と黒のヒーローが論議を交わす。

  「俺様、新生ヒーローの話題は?」

  クグワロが声を上げると「すまない」と軽く言って、話題を切り上げた。

  「とまあ、色々あって、新しいバディはクグワロになったっす」

  フィオが話題を元に戻す。

  「俺様に泣きつくんだから、ヒーローの人手不足も大概だね?」

  クグワロは小馬鹿にした顔で頭を振る。

  「こいつ、心臓に小型爆弾が入ってるっす」

  冷めた表情でフィオが指差して告げる。

  「うげっ……」

  クグワロが苦い顔をした隣で、レギーがなるほどと頷く

  「起爆装置は俺と、本部にも予備があるっす」

  黄色いヒーロースーツが無手をひらひらさせる。装備のどこかに隠されているらしい。

  「取引で恩赦もらって、首輪付けてヒーローやってるんす」

  「ちげーよ。ヒーローコードに書き換わったってのに、本部のやつらが信用しねーからだし?」

  灰色のヒーローが唇を尖らせる。

  「できるかって話っすよ」

  「しろよ。俺様だぞ?」

  やれやれと頭を振る。

  「そんで、ちょっと前まで普通にヴィランやってたから、ヒーローからの恨み買いまくりで……」

  黒い炎のクグワロと言えばつい先日まで、ベテラン含めヒーロー四人を返り討ちにした。大型新生ヴィランだった。

  「俺様が強すぎちまっただけだろ?」

  「見ての通り性格も終わってるから、ぼっちだったところを俺が引き取ったんす」

  「雑魚とつるむ気が無いだけだし?」

  事も顛末を聞かされ、レギーは深く納得した。

  彼が新人ヒーローとして現場に立てるのも、一重にフィオの人徳が成せる技だろう。

  「ツンツン具合は、レギーといい勝負ですね」

  黒のヒーローがニヤニヤと茶化す。

  「ふざけてるのかね?」

  「どこがだよ?」

  一緒になって食って掛かる姿を、黄色と黒がくすりと一笑した。

  ヴィランの報告は開けた盆地だった。

  見通しが良い場所で待ち構え、ヒーローへの挑戦状とも取れる。

  余計な刺激を避けるため、レギーとラニスのコンビは離れたところで待機し、現場にはフィオとクグワロの二人だけが着いた。

  「ヒーロー、ジルバ、ディロス。2名現場に到着っす」

  通信デバイスで短く通達した。

  探すまでもなく、開けた眼前に軍服姿の男が立っていた。

  デバイスを繫げながら相手を凝視する。周囲から赤色の靄が見える。

  「カラー赤、A級ヴィラン。接敵照会。ヴィランネーム、シグマを視認」

  「初出勤でいきなりA級かあ。俺様、期待されてるね?」

  灰色の相棒、ヒーロー、ディロスことクグワロは、隣で大あくびをする。

  「期待じゃなくて、働きで返せって匂いがプンプンするっすよ」

  フィオが説教する。言い方が先輩ヒーローそっくりで、ちょっと笑った。

  「A級相手に手こずるようなら」

  フィオは親指でスイッチを押す真似をする

  「あん? 信用ねえなー?」

  「さ、初出勤っすよ」

  フィオは開けた盆地に駆け出し、クグワロも後に続く。

  「ヴィラン、シグマを視認。討伐対象として選定されてるっすよ」

  「来たでありますね。ヒーロー、我輩の敵!」

  大柄な猿の獣人。ヴィラン、シグマがのっそりと立ち上がる。

  「はあ? のこのこ出てってんだよ? 奇襲くらいかけろよ」

  後ろからクグワロが追って出る。

  「何言ってんすか。ヒーローがそんなマネするわけないっすよ」

  「だからって、バカ正直に真ん前立つか?」

  「そんな発想してるから、いいトコ小悪党なんすよ」

  「なんだと? バカ電球」

  「なんすか。ぼっちの陰気丸さんは、騙し討ちしかまともに出来ないんすか」

  「あん? とんがりアホの助」

  「そういや最初っから、闇討ち陰キャ太郎っしたね」

  「おお? 一撃退場した雑魚電波くんが、なんか言ってら?」

  2人の不毛な言い争いが、A級ヴィランの目の前で繰り広げられる。

  「ヒーロー諸君! そのようなチームワークで、我輩に伍するとでも思っているのでありますか!」

  ヴィランは風をまとい飛び上がる。

  「心外であります。残念であります。我輩も、低く見られたものであります」

  シグマの体が淡く光る。

  「我が無敵戦術に散れ。コード展開であります」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「数式が[[rb:哭>な]]き、鋼が歌う。双翼は演算、空力は[[rb:詩篇>しへん]]。我は絶対の防衛機構、クロム・レゾンデールの[[rb:猛>たけ]]き翼。この身は戦術の終着点。ヴィランコード:498、[[rb:無敵鋼鉄翼>アンブレイカブル・シグマ]]」

  鋼鉄の翼がヴィランの背中から広がる。

  それだけではない。体中が分厚い甲冑姿に覆われる。

  「受けるでありますよ! 我輩の無敵の翼」

  鋼鉄の塊がジェット噴射で飛び立つ。

  高く舞い上がり、そのまま勢いを乗せて二人へと突っ込んでくる。

  「うおっ!」

  「わわっ」

  2人は口論を止め、慌てて飛びのく。

  スゴォ!

  鋼鉄の塊は地面をえぐり、再度高空へと舞い上がる。

  ジェットが点火し、こちらを向く。

  「第二波、来るっす」

  「見てるっての」

  スゴォッ

  二人を掠め、またも空高く舞い上がる。

  「これぞ最強の回避にして最強の防御。すなわち、最強の戦術であります」

  ヴィランが高らかに言うと、ジェットが光り、鋼の翼がこちらを向く。

  「すごいスピード、地面が焦げてるっすよ」

  フィオが鼻をすんすんと鳴らす。

  「防戦一方で、言ってる場合か?」

  「そうは言っても……」

  ガンガン

  手に持った電撃銃を敵に向かって撃つ。

  弾丸は空飛ぶ敵を正確に撃ち抜くも、ギンと軽い音を立て弾かれる。全身を纏う鎧甲冑相手にはダメージが通らない。

  「マジかよ、金ピカ豆鉄砲、意味ねえな?」

  「そういうあんたは、お喋り人形でもやりに来たんすか」

  「俺様の炎は遠距離向きじゃなくね?」

  ズゴォ

  また口論を始めた二人のを鋼鉄の塊が穿つ。

  すんでのところで、二人揃って避けた。

  「最強の回避。そして最強の防御。我輩に敵なしであります!」

  またしても空高く舞い上がり、ヴィランに逃げられる。

  暴れるジェットの塊が空で回転し、再度こちらに向かって方向転換する。

  開けた盆地に身を隠す場所は無い。

  「飛ぶくらい、いくらでも追いつくっすけど」

  「たかが鎧くらい、焼き尽くせば終いだろ?」

  二人は顔を見合わせる。

  空を駆る鉄塊は再度加速し、地上の標的に向けて落下する。

  攻撃自体は直線的で躱せないものではないが、いずれジリ貧の戦いではいつまでも集中力が持たない。

  バシュン

  フィオの体中が淡く光る。

  「コード展開。雷光のヒーローここに参上っす」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「[[rb:極光>きょっこう]]に鳴るは[[rb:導波>どうは]]の響き、[[rb:暁>あかつき]]を裂く[[rb:閃雷>せんらい]]よ、エレクトリオンの[[rb:雷精回路>らいせいかいろ]]を繋げ。[[rb:牙剥>きばむ]]く我は[[rb:雷火>らいか]]の[[rb:絶爪>ぜっそう]]──ヒーローコード:62、[[rb:白雷の狩爪>ジルバ・トニトルス]]」

  フィオの体中が雷化し、青白い幻影に変わる。

  ズゴォ

  地面に新たな弾痕が穿たれる、

  「圧倒的でありますな。我輩ぃー!」

  再度飛び立ち、ヴィランは高く飛び上がる。

  バヂッ

  雷光よりは低く、そして遅い。

  「最強の回避が、聞いて呆れるっす」

  サテライトも無く中空を飛び回り、黄色のヒーローは、またたく間にヴィランに追いついた。

  「わ、我輩のスピードにぃぃ!」

  電撃のパルスを先行放電で繋ぎ、電流の間を自在に飛び交う、フィオの新しい力。

  「どこまでも追うっすよ」

  「おのれぇ」

  ジェットを縦横無尽に発進させ、取り付いたヒーローを振り払う。

  バヂッ

  何度振り払おうと、黄色のヒーローは一瞬で追いついた。

  「残念っした。この銃に撃たれたら、もう逃げられないっす」

  先程の電撃銃によって、電荷を帯びた鎧の表面は、フィオにとって自由に出入りできるワープスポットだ。

  「おのれぇ、我輩の上にぃ、立つなであります!」

  雷の速さは振り切れない。

  後に語られる、回避不能の白雷。

  「スクラッチ、展開!」

  新たな武器、仕込み爪に大量の電撃を込める。

  バヂッバヂヂッ

  青く光を帯びる一対の雷爪の連撃、翼のジェット機構に叩き込む。

  「落ちろっす」

  ズガッ

  背中に爪を立て、鉄塊のヴィランを地面に叩き落とす。

  「き、き、効かーぬであります」

  鎧甲冑に見を包んだをまま、敵は余裕綽々に仰向けで倒れる。

  「我輩に一度泥を着けた程度。脆弱、至極。セカンドイグニッションへの時間稼ぎが精々であります」

  翼のジェットがもう一度エネルギーを貯め始める。

  ガンッ

  仰向けになった甲冑を、灰色のブーツが足蹴にして抑え込む。

  「もっと俺様の近くに落とせよ?」

  ハァハァと息を切らせたクグワロが、ヴィランを足蹴にして見下げる。

  「相棒なら、完璧に合わせてたっすよ」

  「俺様に合わせろ」

  「お喋り人形ネクラちゃんは、口先だけっすねー」

  「ちっ」

  バシュン

  灰色のヒーロースーツが淡く光る。

  「コード展開。俺様は俺様だぜ?」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「理想と嘘とが焼け[[rb:堕>お]]ちて、我は[[rb:哂>わら]]う[[rb:埋葬者>まいそうしゃ]]。干からびた英雄像の[[rb:塵灰>じんかい]]に[[rb:餞>はなむけ]]の[[rb:翳焔>えいえん]]を[[rb:灯>とも]]せ──ヒーローコード:892、[[rb:黯焔葬送>ディーロス・エンクラティア]]」

  黒い炎がクグワロを包んで滾る。

  「笑止!我輩の無敵の鎧が、たかが炎ごとき、防げぬとでもぁ……あっづ」

  灰色のヒーローの足元で、シグマが鎧の中で悶え苦しむ。

  「俺様の黒炎は自在に形を変え、自在に発火する」

  「あっああーづっ!」

  ヴィランの叫び声を足蹴にし、ヒーローがさらに火を強める。

  「帷子の隙間、板金の関節。あらゆるところに形を変えて入り込む」

  黒い炎が甲冑の内側から、ゴウゴウと立ち上る。

  「はばーっ、あがーっ」

  「どこから燃やしてやろうか? 目か? 喉か? 耳から火を吹くのはどうだ?」

  全ての壁を内側から焼き尽くす。

  後に語られる、防御不能の黒炎。

  「雑魚が。派手に燃えろよ?」

  鎧の隙間、バイザーの穴から勢い良く黒い炎が吹き上がる。

  「がっがっ……」

  黒焦げのヴィランががっくりと倒れた。

  能力で形作られた鎧は崩れ去り、気を失った中身が現れる。

  一定以下のダメージは概ね強化スーツが肩代わりするため、トドメを刺さない限りは命だけは助けられる。

  「殺さないなんて、俺様、優しすぎ?」

  手のひらに残った黒い炎をフッと吹き消した。

  「あったりまえっす」

  こめかみに怒りを浮き上がらせながら、相棒が空から降りてくる。

  「それ以上やったら、即ドカンっしたからね」

  「信用ねえなー。俺様、ヒーローだぜ?」

  「火力だけのカスヒーロー」

  「あん? ポンコツ銀玉鉄砲のピカピカ忍者くん?」

  「悪口しか語彙力が無いから、コミュ力もカスなんすよ」

  「誰がカスだ、外っ面だけのメッキヒーローがよ?」

  またしても不毛な口論が始まる。

  二人でぎゃいぎゃい言いながら、拘束したヴィランを連れて来た道を戻る。

  「A級ヴィラン、シグマ。討伐完了っす」

  「俺様がな?」

  「事務連絡に、余計な情報いらないっす」

  二人の初陣はA級相手に見事な白星を飾った。

  「あ、明日は私も出勤だったよね」

  わたわたと白いヒーロー、レギーが予定を確かめる。

  「我々コンビになっての初仕事ですが、良い所で話の腰を折らないでくださいな」

  新しいバディ、黒いヒーローのラニスが、ポリポリと立派な巻角を掻く。

  「後輩を見送っただけだからね。引退ではないからね」

  「知ってますよ。格好つかないヒトですねえ」

  手を振りながらやってくる二人のヒーローを、先輩二人が出迎える。

  新造コンビは最後まで言い合いを止めなかったので、取っ組み合いの喧嘩になる前にラニスが首根っこを掴み上げ、装甲車の荷台に投げ入れて現場から叩き出した。

  [newpage]

  14.おしおきはおしりぺんぺん

  夜半過ぎ。

  レギーとラニスを乗せた装甲車は、本部の寄宿舎側へと入り込んだ。

  カシュ……

  装甲車の中でレギーはヒーロースーツを脱ぐ。

  車の荷台にはスーツ用のロッカーと専用の武装ケージが揃えられ、普段ヒーローは車の中で着替え、装備を整える。

  「後輩の前でいい格好が見せられて良かったですねえ」

  白いムフロンの獣人、ラニスが黒いヒーロースーツを脱ぐ。

  スラリと細い体に白く薄いチェック柄のトランクスパンツが覗く。

  「含みのある言い方はやめたまえ」

  隣で黒猫の獣人、レギーが白いヒーロースーツを脱ぐ。

  黒いボクサーブリーフを穿いた、筋肉質な細身が現れた。

  「スーツ着てる時だけ、調子いいんですから」

  そう言って細い指先がボクサーブリーフを撫でる。

  「い、いつものこの調子だ。ふざけるのも大概にしたまえよ」

  白いムフロンがふーんと頷きながら、壁に付けた仕掛けに手を伸ばす。

  ガコン

  壁付きの装置からウレタン材の板が横向きに展開する。

  どこかで見た気もする。何なのか聞きたくないが、放って置くわけにも行くまい。

  「なんだね? そ、それは?」

  「おむつの交換台ですよ」

  それは確かに言ったとおりのものだった。公衆トイレなどで時折見かける、腰ほどの高さに子供を寝かせる高床が、あろうことかヒーローの装備品の中に持ち込まれている。

  「な、な、なんで、そんなものがここにあるのかね」

  「あなたに必要だから申請したんですよ」

  「ふざけないでくれたまえ。お、むつなど……へ、部屋だけで……」

  レギーは語気強く言い返すが、次第に言葉尻がしぼんでいく。

  「いいや、穿いてもらいます。部屋までの間に、お漏らししたら大変ですからね」

  「な、だ、大丈夫に決まっているだろう」

  就寝時のおむつは渋々承諾した。

  しかし、何もない日頃から付けるなどもってのほかだ。

  「最近、日中のおしっこも我慢出来ないですよね?」

  「あ、あれは……貴様が妙なところに連れ出すから、一度だけ、し、失敗してしまったのであって……」

  今はまだ昼間のお漏らしこそ少ないものの、キッズプレイスに連れ出されたときは、何度か紙おむつを使ってしまっている。

  「ふーん。場所の問題ってことですか?」

  「そ、そうだ。身なりの整った式典に赴くと、自ずと背筋が伸びるような……その、一種の言い聞かせ効果とでも言おうか」

  「なるほど。一理あるとしましょう」

  ガコン

  主治医がおむつ台を壁に戻した。

  「今日はこのまま、部屋まで行ってみることにしましょう」

  「そのくらい容易い」

  「私は不安ですねー、すっかり赤ちゃんちんちんになっちゃいましたし」

  クニュ

  細い指先にボクサーブリーフの股間部をふにふにと握られる。

  「か、からかうんじゃない! すぐに、元に戻してみせるからね」

  睨み返しながら、ふと相棒のパンツに視線を落とす。

  薄手のトランクスの下、見るからにふっくらと立派なシルエットが盛り上がっている。

  パンツの膨らみだけで、レギーとラニスの間で子供と大人程の差を見せつけられてしまった。

  「言い出したのはレギーですから、失敗したらお仕置きくらい受けてもらいますよ」

  「うぐぐ……ま、まあ、良いだろう」

  ニヤニヤ顔の相棒を睨みつけながら、下着はボクサーブリーフのまま白いスラックスに足を通す。折り目のきっちり着いた、清潔感のあるズボン。

  ラニスは医療班の白衣に着替える。

  本来ならばヒーローの装甲車は車庫のある整備センターへ向かうのだが、レギーはキッズプレイスの一角を拝借して寄宿舎に横付けしてもらっている。

  医療班へのコネとヒーロー、レギオンの地位があっての特別待遇を受け、車を出ると部屋まで、ほんの少しの距離だ。

  コツコツ

  まだ宵の口だけあって、寄宿舎のフロントロビーにもまばらな人通りが見える。

  肩で風を切るベテランヒーローから、不安な表情が消えない新米まで、様々なヒーローが往来していた。

  大御所の風格漂うレギーもまた、肩で風を切り時折挨拶など交わして、ロビーを後にする。

  「ど、どうだね? 問題ないだろう?」

  「ふむ。一旦はそのようですね」

  ロビーを抜け、個人の階層に入ると人混みが消える。

  ベテランヒーローの部屋はそれぞれ離れて用意されているので、ここまでくればさほど人目は気にならない。

  「よ、夜の件については、渋々だがその……多少は多めに見よう。だが、昼間は不要だ」

  共用スペースではあるので、言葉を濁しながらおむつの話題を振る。

  おねしょはまだしも、昼間のお漏らしは絶対に認められない。

  「そんなこと言って、その実、今もしーしー我慢してるんじゃないですか?」

  「ば、馬鹿者……そんなわけがなか……ろ……う」

  言葉尻がしぼみ、体がぷるぷると震える。

  意識してしまうと、一気に尿意がこみ上げてきた。

  「しーしー、我慢できてます? しーしー」

  「あっ……それは、その……」

  しどろもどろに、レギーは言葉を失い視線を彷徨わせる。

  慌てて股間を握りしめ、内股にもじもじと足をこすり合わせる。

  「部屋までもう少し、しーしー我慢。しーしー我慢」

  「や、やめたまえ。こっここは……共用の廊下でぇ……」

  「これは失礼。あとちょっとですよ。頑張りましょね」

  「あ、ああ……」

  内股で前かがみになって、じりじりと床を踏みしめる。我慢しようと意識するが、尿意は止まらない。

  足取りが重くなり、ついには歩みも止まってしまった。

  「どうしました? 足が止まってますよ」

  必死に股間を抑える。

  体がぷるぷると震え、足に力が入らない。

  ショロ……

  またの間から、じわじわと大きな濡れた感触が広がっていく。

  「ふぐぅ……」

  涙目になって股間を抑え、その場で立て尽くしてしまう。

  「あーあ、やっぱり我慢できませんでしたねえ」

  「あうぅ……そ、それは、その……」

  ショロロロ……

  流れるおしっこは留まる様子もなく、足元から丸く水溜りが広がる。

  「あとで片付けておきますから、しーしー、全部出しちゃいましょう」

  「ふぐぅ……うぅ……」

  ショロロ……

  公共廊下の真ん中で、外聞もなく涙目になってお漏らしを晒してしまう。

  「これじゃあ日中のパンツもまた駄目ですよ」

  「いや、そんな……そんなぁ……」

  ポタッ

  徐々に勢いが弱まり、レギーは水溜りの真ん中で立ち尽くした。

  パンツとスラックスがぐっしょりと濡れ、足に張り付いてしまう。

  「お部屋に戻ったら、今日はもうおむつにしましょうねえ」

  「ほ……それは……」

  レギーは涙目になりながら、水溜りの上でもじもじする。

  「ほら。他人が来ますし、早くお部屋に入りますよ」

  「あ、ああ……」

  差し伸ばされたラニスの手に引かれて部屋まで戻る。

  バサッ

  部屋に入り次第、真ん中におねしょシーツが広げられる。

  ズボンをぐっしょり濡らした黒猫は、促されるままその真ん中に立たされた。

  「まずは脱ぎ脱ぎしましょうねえ。上着も濡れてますし、バンザイしてください」

  「あぅっ……うえっぷ」

  スルリと上着とシャツが抜き取られる。

  「下も脱がしますよ。あんよ上げてくださいね」

  靴と靴下も脱がされ、びっしょりと濡れたズボンも降ろされる。

  「うぅ……」

  スルリッ

  黒のボクサーブリーフが容赦なく下ろされ、ぷるっと幼子のような柔らかな男根と見合うサイズのタマタマが晒された。

  レギーは自ら股間を隠そうと内股になるが、白い指先で軽く叩かれ、手は横に付けた気をつけのポーズを取らされる。

  「外の片付けをしてきますから、そこから動かないでくださいね」

  「ふぐぅ……うん」

  雑巾を手にしたラニスが甲斐甲斐しく部屋から出ていき、一人で部屋に残される。

  レギーは部屋の真ん中にすっぽんぽんで立ち尽くした。

  しっとりと濡れた下半身が冷えるが、震えるのは寒さのせいだけではないだろう。

  「わ、私は……」

  部屋の姿見を見ると、スラリとした筋肉質なヒーローの体。黒猫のサラサラとした毛並みが映る。

  しかし視線を落とすと、股間は綺麗に毛をそられ、子供のようなサラサラの和毛しかない。しかもそこからぶら下がるモノは、相変わらず小さく頼りないサイズでぷるぷると揺れている。

  ヒーローの体躯と、それに不釣り合いな赤ちゃんちんちんが見える。

  「ど、どうなってしまったんだ……」

  これまでの事を思い出しても、もっとヒーローらしい大きさと威厳があったはず。

  それなのに……

  今は情けないおちんちんを晒して、叱られた子供のように、部屋の真ん中で立て尽くすことしかできない。

  「良い子にしてましたか?」

  掃除道具をまとめたラニスが部屋に戻ってくる。

  「……うん」

  後片付けの後ろめたさもあって、素直に首を縦に振った。

  「約束通りお仕置きしますから、こっちに来てください」

  「えっ、ええっ」

  聞き慣れない単語に困惑しながら、手をひかれるままベッド脇に立たされる。

  「ここに、寝っ転がってくださいね」

  ラニスの膝にはバスタオルがかけられ、その上に寝ろと言われる。

  「うう、ね、寝るって、どういう……」

  「お尻を上にして、腹ばいに膝に乗ってください。お尻ペンペンします」

  「あえっ!」

  思いがけない言葉に、声が裏返る。

  「お尻ペンペンです。赤ちゃんにはよくあるお仕置きですよ」

  「い、いや……何度も言うが、私はだね……」

  大人だと言い返そうとしたが、白い毛並みにじろりと睨まれ、言葉を濁す。

  「わ、私はぁ……うぅ……」

  ぐぃっ

  乱暴に手を引かれ、すっぽんぽんのまま膝の上に腹ばいで寝かされる。

  おちんちんにバスタオルのごわごわした感触。

  むき出しのお尻がすーすーして落ち着かない。

  恥ずかしさと情けなさてぷるぷると震え、まるで本当にお仕置きされる赤ちゃんのようだ。

  「とりあえず二十回。そんなにキツくはしないですよ」

  パシン

  軽快な音を立てて、白く細い手にお尻を叩かれる。

  レギーのお尻は、ぷるんっと小気味よく震える。

  「ふぐぅ」

  確かに音の割に痛みはさほど強くない。

  しかしそれ以上に、子供のような仕打ちをさせられる羞恥心のほうが、心に痛い。

  「回数」

  「ふえ?」

  「ちゃんと数えないと終わらないですよ」

  パシン

  ラニスの平手に再度お尻を叩かれ、またお尻がぷるんと揺れる。

  「ひゃっ」

  「今何回ですか?」

  「に、2回……」

  「打つ度数えないと、終わりませんからね」

  パシンッ

  「うぅ……」

  添えられた手がお尻の上で止まる。

  「さ、3回ぃ……」

  自ら数え上げるお仕置きのカウントに、羞恥が込み上げる。

  「痛いですけど、頑張りましょうね」

  励ますように丸いお尻が撫でられる。

  その子供じみた扱いのほうが、尻の痛みよりもずっとキツい。

  パシンッ

  「ふぐぅ……4回」

  黒いい毛並みが細かく震え、形の良い小さなお尻が波打ち揺れる。

  パシンッ 「5回……」パシンッ 「6回……」

  小気味良い音に合わせて、お尻がぷるぷると揺れる。

  静かな室内に、お尻を叩かれる音がじんと反響して降り注ぐ。

  パシン「10回……」

  残りは立ってやりますね。

  ぐぃっ

  引っ張られるまま、立ち上がり、壁に向けられる。

  おねしょを床に広げて、その上に立たされた。

  「壁に手を付けて、お尻をこっちに出してくださいね」

  「ぐ……うぐぐ……」

  屈辱的なポーズを提案される。

  しかしすっぽんぽんで言い争ったところで、さらに惨めな思いをすることは目に見えていた。

  トス……

  両手を壁に付け、お尻を高く突き出す。

  ラニスに促されるまま、両足も開かれ、お尻の穴から玉の裏まで丸見えにされる。

  股間には子供のような小さなおちんちんを、ぷりぷりとタマが支えていた。

  「良い子ですねえ」

  そんなに格好で、ひとしきりお尻を撫で回される。

  レギーの目にはジワリと涙が浮かぶ。

  パシンッ 「11っ回」

  乾いた音を立てて、お尻が平手で打ちすえられる。

  叩かれるたびにおちんちんがぷるんと揺れ、膝の上とは違う恥ずかしさに悶える。

  その様子を楽しむかのように、ゆっくりとお尻を撫でられ、また打ち据えられる。

  パシン 「12回」

  パシン 「13回……」

  美しい黒い毛並みに、薄く赤い跡がじんじんと広がる。

  痛さよりも恥ずかしさで、黒猫は泣きそうに顔をしかめる。

  パシンッ 「19回」

  パシンッ 「に、20……回」

  レギーに課せられたやっとお仕置きが、やっと終わった。

  裸でお尻を突き出させられ、じんと赤く痛みが残るほど打たれた尻を震わせる。

  小さなおちんちんがぷるんと震え、痛みと羞恥ですっかり縮み上がっていた。

  「さ、もう良いですよ」

  お尻をポンポンと叩かれる、おずおずと上体を上げる。

  すっぽんぽんでまっすぐ立たされると、今の姿の情けなさが、より一層際立って感じられた。

  「お風呂入ったら、おむつしておやすみしましょうねえ」

  「……うん」

  黒猫は口を尖らせながら、俯いて答える。

  お尻ペシペシと叩かれながら、とぼとぼ浴室へと促されていく。

  その背中はまるで本物の、力のない子供のようだ。

  [newpage]

  15.ヒーローたちの戦い_最強の復帰_V.S.セラ=メサ&ドク

  翌日

  ヒーロー、レギーとラニス、コンビ結成での初仕事は、緊急の連絡が入り、討伐予定のヴィランが急遽変更になった。

  二人が現場に向かうと、すでに他のヒーローがヴィランと交戦している。

  廃鉱山に追い詰めたはいいものの、目標は籠城。

  周囲は坑道が陥没した大穴が広がり、天然の要塞になっている。

  「A級ヴィランが2名、徒党を組んでいるそうだ」

  純白のヒーロースーツに見を包んだをレギーは、渡された情報を整理する。ベテランらしく落ち着いた足取りで、手早く状況を掌握していく。

  「へえ。とりあえず倒せば良いんですよね?」

  相棒のラニスは、いつもの黒いヒーロースーツに身を包み、緊張感のない面持ちで付いてきた。

  「ヒーロー2組を迎撃し、もう1組のヒーローがここに追い詰めたものの、討伐には至らず敗退」

  「もう6名も倒されてるんですね」

  「かなりの手練のようだ。私が来て良かった」

  「我々ですよ」

  「そうだな。貴様の働きにも、期待している」

  ヒーローらしい威風を放つレギーの姿を見て、黒いヒーローは口を尖らせる。

  「ヒーロースーツを着ると、調子狂いますねえ」

  「何を言う、高エネルギー纏衣装置の発明はだね、元来の救命装具の観点から……」

  「うぅ……レギーが、ヒーローしてますよお」

  「私は元々ヒーローなのだがね?」

  引退の噂を拭い去らんとばかりに、白いヒーロースーツが勢力的に現場を視察する。

  上げられた情報をまとめると、まず通報を受けて接敵した最初の1組は、ほぼ一撃で倒され、救護センターに搬送されている。

  応援に駆けつけたのがベテランヒーロー、アクアリペルのコンビだが、相手ヴィラン二人組には手も足も出ない状態だった。もう1組のヒーローと共闘し、何とか戦線を維持してこの鉱山に追い詰めたものの、むしろ誘い込まれた様子で相手は籠城戦を開始。

  相手ヴィランをA級2体と断定して、最強のヒーロー、レギオンが招集された。

  「読み取れたコードからヴィランネームが便宜的に割り振られる。今回の相手は、セラ=メサとドクの2名。互いにA級」

  装甲車ロッカー前にファイルを展開して、レギーが情報を広げる。

  「片方は高出力のレーザー砲。もう片方は不明だが、何かしらのバリアを展開するそうだ」

  「聞き回った割には情報があんまりないですねえ」

  「まあ……強い相手だ。気を引き締めたまえよ」

  眉を釣り上げる白いヒーローに向かって、相棒が顎に手を当てて思案する。

  「推察ですが、貴方、途中から現場に顔を見せるのが目的でしたよね」

  「む……うむ。よく見ている」

  ヒーローは白い手袋で、ガリガリと頭を掻く。

  「珍しく一般人の多い現場ですし、引退の噂のしかえしに、ひと目立ちしてやろうとか思ってません?」

  「無いな。それは断じて」

  「へえ」

  サイドキックヒーローは茶化し半分の気の抜けた相槌をうつ。

  「私が来たからには、ヒーローの力を見せつけねばならん。そのために、現場の人員には、なるべく顔を見せる」

  「以前に聞きましたし、力を示すなら、戦うだけでいいじゃないですかあ」

  ジャリ……

  二人を乗せた装甲車が、ゆっくりと停車した。

  「そうではない。全てに見せつけるのだ」

  レギーは静かに付け加える。

  周囲には、恐怖に慄く住民。人員整理に奔走する警察官。一触即発の現場に立ち会う、ヒーロー補佐部隊。緊張した面持ちの市民防衛隊。

  ピンと張り詰めた空気が、2人を迎え入れる。

  ガコン

  装甲車の扉が開く。

  混乱した現場が、一瞬静まり返った。

  「ヒーロースーツ……」「応援が来た」「仲間が来たぞ」

  ざわざわと人々の声が飛び交う。

  白いヒーローは相棒を振り返って両手を広げる。

  彼の顔に威信にあふれた笑みが浮かぶ。自分のためではない。仲間に向けた笑い顔とも違う。

  恐怖に怯える人々のための、[[rb:穏やかな強き微笑み>アルカイックスマイル]]。

  「私は見せつけるのだ。人々に、ヒーローの力を」

  「仕方ないですねえ」

  気の抜けた黒いヒーローは苦笑して、“ヒーロー”と足並みを揃えた。

  「応援だ、道を開けてくれ」「至急連絡。現場に到着しました」「来ました……」

  混乱した人垣が2つに別れ、一本の道ができる。

  「来たぞ……」「おい、早く連絡しろ」「前線部隊、展開準備」

  2人のヒーローが、不安と恐怖の真ん中を歩く。

  「ヒーローが動くぞ」「巻き込まれるなよ」「2名、現場に入ります」

  輝く2つのヒーロースーツが、人々の瞳に焼き付く。

  「ヒーロー……」「ヒーローが来たぞ!」「ヒーローだ!」

  その瞳に、希望が宿る。

  「ヒーロー!」「あいつ、レギオンだ。めちゃ強いの」「頼むぞ、お前ら」

  人々の顔に、光が戻る。

  「ヒーローが来てくれた!」「白いスーツ、レギオン」「ヒーローだ」

  光が、戻る。

  「レギオン……」「頼む。ヒーロー……」「白い、レギオン」

  彼は歩みも止めず、振り返りもせず。

  黙って白い拳を突き上げた。

  「ヒーロー、レギオン!」

  静かな歓声を見送り、敵の最前線へ立つ。

  「ヒーロー、レギオン。ヒーロー、ラニス=ルエ。2名、現場到着」

  レギーは短く通信を終え、2人はヴィランの所へと走った。

  現場は廃坑の跡地で、かつて多くの作業員たちが往来する場所だったと聞くが、現在は見るも無惨な廃墟と化している。

  深い地底から時折、ゴゴゴ……と崩落音が聞こえてくる。

  望遠デバイスを覗くと、崩落した瓦礫の上に2名のヴィランが見える。

  「A級ヴィラン、おそらくセラ=メサとドクを視認」

  レギーが短く通信する。

  前線の人払いは済んでいるらしく、相手もヒーローが来たことを、なんとなく察知している頃だろう。

  ヴィランが陣取る場所は崩落した大穴に囲まれた天然の堀、巨大な要塞と化している。

  「格好付けて出てきたのに、なんかシュールな絵面ですねえ」

  相棒ヒーロー、ラニス=ルエこと、ラニスは苦笑いを浮かべる。

  地面に直立し片手を高く上げて、レギーを持ち上げていた。

  「発案は貴様であろう?」

  ラニスの手の上で、白いヒーローは直立横ばいに構える。

  「そのポーズは?」

  両手を頭上に掲げ、足を揃えてまっすぐに伸ばす。

  スーパーヒーローが空を飛ぶような格好で、ふわふわと相棒の手のひらに乗る。

  「貴様が狙いを着けやすいように、なるべく投げやすい格好と思ってだね」

  直立したヒトを片手持ち上げる姿は、槍投げ競技の格好に近い。

  あるいは、ヒーローフィギュアで遊ぶ子供のようにも見える。フィギュアのサイズが等身大だが。

  「このまま棒みたいに投げるイメージでしたか」

  「迎撃に対しても正面表面積が少なく済むだろう。もしくはボール型のほうが投げやすいかね?」

  「貴方って、そんなアホなタイプでしたっけ?」

  「至極、合理的だが?」

  心底不思議そうに、白いヒーロースーツが答える。

  妙なところで気を利かされたせいで、新技の絵面が大変シュールなことになってしまった。

  「ヒーローは接敵宣誓の原則がありますよね」

  「そうだ。交戦の意志の無いものとは戦えん」

  「この格好で、ヴィランの前に出ていくつもりでしたか?」

  白いヒーローは片手で持ち上げられ、空を飛ぶポーズを崩さない。

  「そうだが?」

  当然のように返され、黒いヒーローは軽く絶句した。

  「とりあえず、おろしますね」

  「心得た」

  ヒーロー、ラニス=ルエは気まずそうに向き直り、改めて作戦を説明した。

  切り立った陥没地帯の頂上、天然要塞のてっぺんに2名のヴィランが立つ。

  ちまちまと小競り合いを繰り返していた前線部隊が下がったことは、次の相手が現れたことを示す。

  ヴィランは臨戦態勢で、ヒーローの到着を待ち構えていた。

  眼下にヒーロー2名が降り立つ。

  1人は真っ白のスーツに身を包んだ、真っ黒な猫獣人。もう1人は対照的に、真っ黒いヒーロースーツの真っ白な羊に似た姿の獣人。

  「ヴィラン、セラ=メサおよびヴィラン、ドク。2名とも討伐対象として上げられている」

  白いスーツが剣を掲げて宣言する。

  「交戦の意志が無ければ、無傷での拘束を約束しよう」

  ヴィラン2名はケラケラと笑う。

  降参するつもりなどないことは、明らかだ。

  「やべーな。ドクだってよ。ドクってのは俺だよな?」

  ドクと名付けられたヴィランが笑い転げる。黒茶毛並みをボサボサに伸ばした、背の高いウサギ獣人だ。

  「セラ=メサ。我が高貴な名を、愚民はそう呼びやがるですか……」

  セラ=メサは、綺麗に整った毛並みの光る白いネズミの獣人だ。

  「やべー、今からおめーことセラ=メサって呼ぶわ。俺、ドクな」

  「憐憫に値すべき烏合どもの愚昧。ぶのめされるべきです」

  怒りを顕に、メラ=メサと呼ばれたヴィランの両手に、光の粒が集まる。

  「凡愚が。我が光に、ぶっ殺されろです」

  カッ

  閃光とともに、彼の手から光線が飛ぶ。

  「交戦の意志を確認」

  「まあ、こうなりますよ」

  ヒーロー2人はひらりと身をかわした。

  ヴィランとの間には陥没した大穴が残り、飛び越えるにしろ回り込むにしろ、レーザーの迎撃に対処しなくてはならない。

  「あれが報告されたレーザー砲だね」

  「槍投げヒーローは止めて正解でしたね。どう戦うつもりだったんです?」

  「貴様が私を投げ、軽くなった私は大穴を飛び越え、レギオンで正面から叩き伏せる」

  「貴方の戦術、正面衝突しかないんですか?」

  ドンッドンッ

  相棒の問いを、光線の連打が遮る。

  大穴の手前に陣取るヒーロー2名、充分な距離もあり光線の連打をやすやすと躱すが、攻め入る手段が足りない。

  「レギーは思うままに動いてくださいな。私が合わせますから」

  バシュン

  ラニスの黒いスーツが淡く光を帯びる。

  「ヒーロースーツの短距離脳波通信で、貴方の無意識を受信解読します」

  「本当にそんなことが可能なのかね?」

  ヒーロー2名が攻撃を回避し距離を取ると、敵側も無駄と判断したのか、レーザーが止んだ。

  「任せてくださいよ。レギーのことは何もかも、私が一番良く知ってるんですから」

  黒いヒーローが抱きつき、相棒の頭をくしゃくしゃと撫でる。

  「戯れは寄せ。だが、貴様の実力はよく把握している」

  レギーが抱きつく手を軽く払う。

  「喜んで、貴様に身を預けよう」

  「うぐぐ……ヒーローのレギーは、からかいがいがないですよお」

  「……ふざけているのかね?」

  レギーの白いスーツと淡く光りはじめる。

  「コード展開。頼むぞ、相棒」

  「コード展開。任されましょう」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「[[rb:帳>とばり]]を斬り裂け、天輪の[[rb:礎>いしずえ]]。白きの律動を[[rb:黄昏>たそがれ]]の[[rb:英霊>えいれい]]と[[rb:宵闇>よいやみ]]の[[rb:黒身>こくしん]]に宿す。エルミナの誓約を受領せし、我は孤絶[[rb:孤絶>こぜつ]]の刃[[rb:刃>やいば]]なり──ヒーローコード:07、煌[[rb:光の執行者>レギオン・エルミナ]]」

  「我は幽<かそけ>き再構築者。律<りつ>を歪めしの[[rb:幾禍学>きかがく]]の残響。[[rb:理>ことわり]]の狭間に、セフィラの[[rb:干渉項>かんしょうこう]]打ち立てよ──ヒーローコード:1003、[[rb:栩質の揺界>ラニス・ルヱ・ミウセオ]]」

  レギーの周囲に光の刃物がずらりと並ぶ。

  剣、鉈、鎌、鋏など、多種雑多な刃物が何千と渦を巻く。

  「やべー、やべー、めっちゃ刃物並んでんじゃん。蚤の市かよ」

  ヴィラン、ドクは余裕を見せて笑う。

  「衆愚、蒙昧、蝋の翼は折れるが定め。ここまでたどり着けるはずがねーですよ」

  セラ=メサの両手からレーザーを構える。

  「レギー、取り敢えず思い切りジャンプして下さいな」

  トンッ

  レギーは地面を蹴ると、軽々と高く飛び上がる。

  「おお。何とも不安定だね」

  光刃の渦が空を舞う。

  「浅知恵。飛び上がったところで、どーすんですか?」

  飛び上がった標的めがけて、ヴィランが手からレーザーを放つ。

  「正面攻撃、回避3時」

  レギーは叫ぶが、ふわふわと浮くだけで、うんともすんとも反応がない。

  ドドドッ

  「グッ……」

  レーザーが着弾。慌てて光の刃を重ねて受け止めた。

  「言語通達で間に合う訳ないですよ。普通に足で蹴ってくださいな」

  「こ、こうかね?」

  グンッ

  空中を蹴り、レギーが加速する。

  「質量が極小なら、動けば空気の塊にぶつかります。レギーが跳ぶ瞬間に合せて、軽さは私が調節しますよ」

  「うむ。把握してきた」

  グンッ

  更に加速し、ヴィランの砦へと空を駆ける。

  幾多の刃が宙を舞い、うねる光の竜巻が生き物のように上空を飛び回る。

  大軍が、空を飛び、襲い来る。

  「小癪。なめんじゃねーですよ」

  敵はレーザーを放つが、縦横無尽に飛び回るヒーローにはかすりもしない。

  グンッ グンッ

  大きく旋回しヴィランを翻弄しながら、ヒーローは遥か上空から距離を詰める。

  「射程圏内、露出した導線、攻勢に出る」

  レギーが空中から狙いを定めた。

  「うひー。頭が混乱しそうですんで、はやくやっちゃってくださいな」

  黒いヒーローは目を回しながら、地面を走っていた。

  相棒の脳波と思考をシンクロさせて、レギオンレイドの中空挙動を制御する。同時に自分の体を動かして、レギーが注目されている間に、別ルートからヴィランに接近を図る。

  2つの体を同時に別行動させるような処理に、脳がぐらぐらと揺れる。

  「討つ」

  幾千の刃が空から降り注ぐ。

  「やべーって、こりゃ、やべーや」

  ケラケラと笑いながら、ヴィラン、ドクが前に出る。

  シュウ……

  手をかざすと、光の刃がボロボロと崩れ去っていく。何らかの能力によって、レギーの刃がかき消されていった。

  「防衛陣、褒めて遣わす。てめーは、とっとと落ちろです」

  セラ=メサが力を貯め、再度レーザーの連射が飛ぶ。

  グンッ

  光の大軍は空を蹴ってひらりと躱す。

  「ドクが出てきた。能力の正体は不明。レギオンが消された」

  レギーは空を走りながら様子を見る。敵の攻撃の合間に何度も刃を向けるが、どれもが近づくだけでボロボロと崩れ落ちる。

  「うえー。なんとなく見えてますよ。消滅というか、劣化、分解が近い感じですねえー」

  ラニスはドタドタと地上を走りながら、空飛ぶ相棒の脳を中継して状況を把握していた。

  相棒の視界と自身の視界が混ざり、空中に浮いたかと思うと、足が地面を蹴っている。

  「こちらは機動力で勝る。ドクの力は不明だが、隙を付いて削っていけば、いずれ……」

  「無理ー! 理論上可能だと思いましたけど、の、脳が、焼ける」

  さすがのラニスでも、脳みそ二個分の処理には音を上げた。

  「貴様はどこかに隠れて、レギオンレイドの操作に尽力するのは、どうかね?」

  「無理です。焼け石に水。自分の脳を完全に遮断するなんて、瞑想の達人でもできっこないんです。空中戦は、制限時間があると思ってください」

  「了解。どのくらい持つ?」

  通信しながらもレギーは攻撃を躱し、反撃の刃を飛ばす。その間の処理も全て、相棒の脳に重くのしかかる。

  「ひー。私が追いつくくらいは持たせますから、陽動して下さいな」

  「任された」

  「目標は敵の分断。レギーに隠れて私が接近して、どっちか片方を思いっきり投げ飛ばします」

  グンッ

  光の渦が空から幾千の刃を落とす。

  それだけでも並のヴィランなら即時降伏を言い渡すような光景だ。レギーは無尽蔵の大軍を引き連れ、自由自在に空を飛び回る。

  その姿は無敵の軍勢と呼ぶに相応しい。

  [[rb:大軍強襲>レギオン・レイド]]

  「ひー、ひー。あれ? これ、どっちの足?」

  地上の相棒は息も絶え絶えだった。

  「やべーな。やっぱり俺って、やべー」

  ドクが最強のヒーローの攻撃をボロボロと無効化していく。

  「我ら最強布陣に虎口は無いぞ。とっととくたばれですよ!」

  ヴィランの連携も見事に互いを入れ替え、白いヒーローを追い詰めていく。

  「頃合いだな」

  空のヒーローが剣を掲げる。

  光の渦が高く積み上がる。幾千の刃が重なり織りなし、巨大な剣を形作った。

  「やべー、やべー。セラ=メサは下がってな」

  「献策受領。だが、その名で呼ぶな。ぶっ飛ばすですよ」

  振り下ろされる光の剣にウサギのヴィランは両手をかざす。

  「はい。ぶっ飛んでくださいな」

  ドクから離れたセラ=メサの脇腹に、黒いブーツが蹴りを入れる。

  追いついた黒いヒーロー、ラニスが、横からセラ=メサに鋭いキックを御見舞いした。

  「あっ、あぁぁーー!」

  ネズミのヴィランは空高く打ち上げられ、暗い雑木林の中に吸い込まれていった。

  「レギオン、戻れ」

  敵の正体不明の能力にかき消される寸前、レギーは光の剣は左右に分けて四散させる。

  バラバラになった白刃は、再度集結し持ち主の手元に戻る。

  「やっべ、フェイントとかやっちゃうわけ。しかもセラ=メサぶっ飛んでるし、やべーじゃん」

  ドクは向き直り、突然現れた黒いヒーローに距離を取る。

  上空のもう一人に気を配りながらも、接敵したヒーローに隙は見せない。

  「ひゃー、もう無理。頭が、脳が、火を吹く」

  突然割って入ったヒーロー、ラニスはわたわたと頭を振る。

  「限界です。着地は勝手にやってください」

  「む……、心得た」

  空を駆ける白いヒーローは糸が切れたように落ちていった。

  黒いヒーローはふらつき地面に手を着いた。

  勇んで飛び込んで来たかと思えば、敵の眼の前で、ゼーゼーと肩で息をして倒れ込む。

  「あ、これ。私の手。私の体だ……繋がって、動いてますよお」

  「やべえ。コイツ、やべー奴じゃん」

  いきなりの奇行に、ヴィランがちょっと引いた。

  「レギオン、防陣。下方展開」

  高空から落とされたレギーは、眼下に向けて光の刃を重ねる。

  地上と空中戦の双方向から刃物の塔を築き、互いにぶつけ合い落下の衝撃を分散させた。

  立ち上る光の塔の頂上に、白いヒーロースーツが降り立つ。

  「油断大敵、不倶戴天。しゃらくせえこと、しやがりますね」

  軽々と空を飛んでいたヴィランは、両手からレーザーを逆方向へ撃ち出し、推力を弱める。

  黒いヒーローに奪われた重みが徐々に戻り、両手の光線を地面に向けて、ゆっくりと着地する。

  暗い雑木ばやしに、二本の光線が伸びる。

  「互いに見つけやすい能力で良かったな。探す手間が省けた」

  先程と打って変わり、白いヒーローが刃の尖塔の頂上に立ち、眼下のヴィランを見下ろす。

  「鴻鵠の志を解さぬ燕雀ども。見下してんじゃねーですよ」

  ふつふつと怒りが湧き上がるヴィランの体が淡く光を帯びる。

  「コード展開。謹聴せよ、高貴なる我が名を。てめーはマジでぶっ潰す」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「[[rb:遍>あまね]]く照らせ、セレスティアム。我は[[rb:天帝>てんてい]]の[[rb:貴胤>きいん]]にして、[[rb:光理>こうり]]の断罪者。[[rb:焦>こ]]げ[[rb:爛>ただ]]れよ、旧世界の[[rb:蛮人>ばんじん]][[rb:凡夫>ぼんふ]]──ヴィランコード:3777、[[rb:天光滅殺断罪砲>セラフィックエクスキューション・メサイアジャッジメント]]」

  ヴィランの両手を広げながら、手の先に光を集める。

  「滅殺、断罪。ぶっ潰す」

  カッ

  両手から最大出力のレーザーを、尖塔の頂上へぶつける。

  「その身に刻め、ヒーローの力!」

  光の刃の尖塔が渦を巻き、真正面から光線を切り刻む。

  無数を光の刃が敵のエネルギーを剥ぎとり霧散させる。幾千の刃が砕けようとも、その大軍は一歩も引かない。

  「迂愚、暗愚、凡愚、衆愚、狂愚、大愚!おろかものが、ほろびろぉー!」

  光の大軍は、一歩、また一歩と前に進む。怯むことなく、戸惑うことなく、躊躇うことなく。

  光を放つ君臨者へ臨む、猛き民衆の勇猛の如く。

  キィン

  刃がきらめき、レーザーの光が弾け飛ぶ。

  圧倒的物量というシンプルな力によって、極太の光線さえも潰された。

  「これにて、幕だ」

  白いヒーローは、目と鼻の先まで接近していた。

  「痴愚!大いなる我を礼賛せよ。アホどもがよぉー!」

  肩で息をしながら、両手にレーザー光を集結させる。二本の光柱、レーザーソードがヴィランの手に収まる。

  「愚かか……。私も正面突破に傾向しすぎると窘められたのだったな」

  「愚か、愚か。民衆もヒーローも、みんなアホだらけだろうが」

  「いい機会だな。学ぶとしよう。攻陣、展開」

  ヒーローの周囲に渦巻いた光の刃は、拡散してヴィランに回り込む。刃を向け、その全方位を囲った。

  光のドームがヴィランの頭上に広がる。幾万の光る点の一つ一つが、鋭き刃を標的に向ける。

  「阿呆が。アホの群れどもがよぉー!」

  「飲み込め、レギオン」

  白いヒーローが剣を振り下ろす。

  ギギギギッ

  周囲の刃がヴィランの首を目掛けて飛び交う。

  「アホがよぉー!」

  二本のレーザーが次々と叩き落とす。

  千本、二千本と砕けようとも、三万、四万の刃がいまだ大将首に狙いを定める。

  無限の刃の鶴翼は、静かにその包囲網を狭めていった。

  「ア……ホゥ……」

  幾多の刃をその身に受け、光線を操るヴィランは倒れた。

  「ヴィラン、セラ=メサの討伐完了」

  レギーは短く、その勝利を告げた。

  「ちょっと待って、両手が二本か確かめますから」

  ラニスは地面に両手を付いて目を回している。

  「やべー、やべー奴来ちゃったよ」

  ケラケラ笑いながらも、敵は謎の能力を警戒している。

  軽薄な言動とは裏腹に、場数を踏んだ実力者だと伺える。

  「うあー、脳が焼けるかと思いました」

  首をこめかみを抑えながら、黒いヒーローが立ち去る。

  正面で半身を切りながら、ヴィランは空のヒーローが別の敵へ向かったことをちらりと確認した。

  警戒先を切り替え、黒いヒーローに向けて、臨戦態勢を取る。

  「そんで、俺の相手はこのやべー羊くんってこと?」

  「いやあ、そうなりますねえ。それと私、羊じゃなくて、ムフロンですよ」

  黒いスーツから伸びる真っ白な巻角をコリコリと撫でる。

  「やっべ。その気持ち、やべーわかるぜ。俺もノウサギだ。ウサギじゃねーのよ」

  会敵したヴィランは、ピンと伸びた耳と、大柄な体躯を揺らしてケラケラ笑った。

  「やべーなあ、俺、バトるの嫌いだってのによー」

  笑いながらも隙なく拳を構える。

  光の応酬で見えなかったが、両腕が赤錆色のオーラのようなもので覆われていた。

  「奇遇ですねえ。私も荒事は苦手なので、ここでお茶でもしませんか?」

  フラフラと頭を抑えながら、捨て石の山に手をついて寄りかかる。

  「やべーな、お前、マジでヒーローかよっ」

  シュッ

  ヴィランの正拳を、ラニスはひらりと躱す。

  シュウ……ガララッ

  寄りかかった捨て石山がえぐり削られ、無くなった場所の上部が崩れ落ちる。

  「やっべ。完璧に入ったと思ったのに。あんた、体軽すぎ、やべーな」

  「鉱石物と自生の植生がまとめて崩れているところを見るに、劣化、腐敗と分解。発動条件はその手で触れた物ってところですかね」

  ヴィランが一瞬沈黙する。

  「やべー……わざと俺に触らせたってのか。やべーな。あんた」

  ヴィランの体に淡い光が灯る。

  「やべーなあ、死んで貰わねえとなあ。コード展開」

  [[rb:DeDeDe>ディディディ]]...

  [[rb:Decode>ディコード]] [[rb:ignition>イグニッション]]!

  [[rb:Declare>ディクレァー]] [[rb:IaIa___//>プレイスホルダー]]!

  [[rb:Device Linked>ディバイス リンク]]

  [ [[rb:READY>レディ]] ]

  「祝福されし[[rb:無垢>むく]][[rb:白金>しろかね]]も、我が[[rb:接吻>せっぷん]]には[[rb:抗>あらが]]えぬ。崩れよ、[[rb:剣>つるぎ]]も、骨も、意志すらも。我は触れえぬ[[rb:疵>きず]]と[[rb:腐>くされ]]の[[rb:病>やまい]]──ヴィランコード:394、[[rb:錆と蝕>ドク・カテドラル]]」

  赤錆色のオーラが広がり、ドクの全身を包む。

  砂塵が舞い、木の葉が飛び交う。そのどれもがドクの体に触れた瞬間、塵に分解される。

  「俺はよお。やべー奴が味方に居るのが好きだ。笑えるからよお」

  赤錆のオーラがぐにぐにと形を変える。

  「やべー敵はよお。笑えねえんだよ!」

  赤錆が槍のように尖り、黒いヒーローに飛ぶ。

  シュウン

  ラニスは見を反らして躱すが、白い髪の毛がいくつか削り取られた。

  「さて、どうしましょうかねえ」

  捨て石から砂利を拾うと、親指て弾くように飛ばす。

  シュウ……

  ドクに近づくだけて塵となって消える。

  「やべーだろ。やべーだろ。セラ=メサもやべー、おめーもやべー。でも俺の能力が一番やべー」

  両腕を尖らせ、パタのように拳を突き出して攻撃する。

  速さも重さも無いが、腐食のオーラに当たれば、一撃で塵にされてしまう。

  「徒手空拳、剣撃刺突、電撃や火炎も消されそうですねえ」

  レギーの光の刃のような、半物質でも分解していたのだから、まともな攻撃は通りそうにない。

  「触れるもの、全て。塵になるんだよ! やべーよな。勝てねえよな!」

  「二人、思い当たりますね」

  黒いヒーローはスーツのポシェットから、小さな黒いカプセルを取り出した。

  「お?」

  ヴィランは警戒して一歩下がる。言動の割には警戒心が強い。

  「貴方に勝てるヒーローですよ。触れずに勝つ方法ならいくらでもありますしね」

  「やべー。いきなりの自慢話? 余裕見せつけてくれんじゃん」

  チラチラと雑木林から立つ光源を見ている。セラ=メサの様子を伺っているらしい。

  「一人は生意気で可愛い後輩ですね。彼なら呼吸する穴とか隙間から、黒い炎で焼くような、器用なことしてくれると思いますよ」

  ドクの腐食のオーラは全身を包むが、呼吸用の通気の隙間は確かにある。そうでなければ本人が吸う酸素も腐食してしまう。

  「そいつぁ、やべえや」

  言いながらヴィランは、ジリジリと距離を取る。

  「もう一人は私ですよ」

  グンッ

  周囲の空気の重さが代わり、ドクとラニスが宙に浮き始める。

  「やっべ、空飛んでんじゃん。やべーよ、やべーって」

  「喋ると舌を噛みますよ」

  カチッ

  黒いヒーローは取り出したカプセルのようなものを咥え、2人一緒に高空へと舞い上がる。

  グンッ

  地面がみるみる遠ざかる。

  ヴィランはジタジタと暴れるが、空気の圧に押しやられ、空へ空へと持ち上げられる。

  その隣で黒いヒーロースーツは、ハンモックに寝転ぶような格好で、一緒に空を舞う。

  「やべーなあ、高えなあ。でもよ、ここから突き落とそうとか考えてるなら無駄だぜ。着地の直前に地面もグズグズに分解しちまうからよ」

  シュコー……

  ラニスはカプセルを咥え、ゆっくりと息をする。

  高度、1000m。

  ここから先は、徐々に危険区域へと入る。

  「無視かよ、やべーな。てめえ」

  腐食のオーラを伸ばせば、すぐ隣ヒーローに攻撃することも出来る。しかし前後不覚に宙を待っている状態で、果たして狙いをつけられるだろうか。

  高度、2000m。

  空中戦は間違いなく黒いヒーローのテリトリー。

  しかし、最強を自負する腐食の能力が、そう安々と崩されるはずは無い。

  ヴィランは戸惑いながらも敵の縄張りに足を踏み入れていることに警戒し、能力は防御に回すことにした。

  高度が3000mを超えた。

  シュコー……

  ラニスの咥えるカプセルは、ヒーロー装備として特別に設えた、小型の酸素ボンベだ。こういう装備をすぐに整えてくれる点は、ヒーローになって良かったと思っている。

  「ハァハァ……やべえ、やべーよ」

  酸素欠乏症。

  判断力低下、異常な疲労感、酩酊状態、頭痛、耳鳴り、吐き気。

  高度4000m。

  ヒトが生活可能な臨界点を超える。

  生死の境。

  ラニスは涼しい顔で足を組んで横たわる。ヒーロースーツのおかげで、大体の環境に対応出来る。

  当然、呼吸機能も強化されているが、それはヒトの居住範囲を想定した話だ。

  「がっ……ぐっ……」

  隣のヴィランが苦悶な表情を浮かべる。

  高度5000m

  行動の自由を失う、動けず叫べない、虚脱、チアノーゼ。

  生命が活動できる限界の高度は、8000m。

  高度は着々とそこへ近づいていき、このままデスゾーンに足を踏み入れるなら、待っているのは不可避の死。

  トントン……

  ラニスはヴィランの拘束具を見せ、両手を差し出すジェスチャーをしてみせる。

  「だ……ずけて……」

  腐食のオーラが消え、ヴィランは自ら両手を差し出した。

  ヒーローは戦意喪失した敵を抱き寄せ、ゆっくりと地上へ戻った。

  「えー、えー、こちら、ラニス=ルエ。ヒーロー、ラニス=ルエです。ヴィラン、討伐完了。討伐完了しましたー」

  高高度の強風に煽られながら、黒いヒーロー、ラニスはバタバタと達成報告を送った。

  空から舞い降りる黒いヒーローを、相棒の白いヒーローが出迎える。

  強大なA級ヴィラン2体という、未曾有の敵対者は、新たなコンビによって見事討伐された。

  ヒーロー達を歓声が出迎え、互いに無傷のヒーロースーツがキラリと光り、驚きをもってその名が広まる。

  二人は苦笑しながらハイタッチを交わす。

  その姿はあらゆるヒーロー報道の一面を飾り、最強コンビの名声が広まった。

  [newpage]

  16.おふろして、おむつして

  翌朝、レギーの自室。

  ぐっしょりと濡れたベッドの上で、二人の口論が始まった。

  「いーやーだ。そんな、お、おむつなんて穿いて……人前になんて」

  「そんなこと言いますけど、今朝も盛大におねしょしましたよね?」

  口論をしているのは、レギーとラニス。

  昨日の功労を称えた報道会見があるのだが、そこに向かう服装で揉めていた。

  「おっおねしょは……。み、認める」

  じんわりと濡れたベッドの上で、おむつ姿のままシュンと肩を落とす。

  昨日の夜、ヴィラン騒動で忙しかったせいで、おむつチェックもなくそのまま寝てしまった。

  「い、いや、ちゃんと、穿いてねたぞ」

  真っ赤な顔で、レギーが濡れたパジャマの裾を持ち上げて見せる。

  横から漏れ出しているものの、その下にパンツのおむつを穿いていることを自ら明かした。

  「それ、薄手のタイプで吸収力が少ないんですよね」

  「それは、その……寡聞にして……」

  普段はテープタイプの大判なおむつを穿かされて眠りにつく。

  今回のそれは吸収量がたりなかったのか、ベッドの上に、じんわりと水たまりが広がっている。

  「まあ、疲れて寝たのは私も一緒です。むしろ、ちゃんと穿けてえらいですよ」

  「よ、夜の……その、夜尿症については……私も同意したはずだ」

  顔を真っ赤にしながらも、言ったことは曲げない彼の性格が滲み出る。

  ドンドンドン

  扉がノックされ、向こう側から「そろそろ、会見が始まります」と、連絡が入る。

  「いいじゃないですかあ。いっそ、この恰好のまま出ちゃいましょうよ」

  「貴様……それは、冗談でも」

  真っ赤な顔で睨みつける。

  考えたくもないような、悪い冗談だ。

  「着替えるにしても、もう時間もないですし、ここにはおむつしかないですし……」

  「うぐぐ……」

  寝るときはおむつの癖で、ここ最近、ランドリーに出した洗濯物を取りに行く習慣が減っていた。

  「それに会見中に、お漏らししちゃったら?」

  考えたくもない状況だが、それでも、レギーには曲げられない矜持があった。

  「頼む。なんとか、できないだろうか」

  シュンと耳を垂らし、懇願するように、相棒を見上げる。

  「私は、ヒーローの私は、決して幻滅されてはならないのだよ」

  昨日の一件もあり、ラニス自身もその矜持に感じ入るところはあった。

  「ヒーローの威厳を見せつけるってことですね?」

  「お願い……します」

  目に涙をためながら、おむつ姿で頭を下げる。

  ここまで自分の失態を見られてしまった彼だからこそ、恥も外聞もなく真摯に頭を下げた。

  「うう……絆されますねえ。普段ツンツンしてるくせに、弱いところ見せられると、キュンとくると言うか」

  「べ、別にツンツンなどしていないが?」

  ドンドン

  再度ドアがノックされる。

  「ヒーローの姿なら良いんですよね?」

  「う、うむ。ヒーローの私を、幻滅させないでくれ」

  「いいですよ。その代わり、レギーはおむつが取れるまで赤ちゃん扱いですからね?」

  「わ、分かった。ヒーロー、レギオンは、皆の支えなのだ」

  「分かりましたよ。公私ともに世話すると、私も言いましたしね」

  ラニスはシュンと肩を落とす相棒の頭をくしゃくしゃと撫で、整備室へ連絡した。

  「ヒーロー、レギオンの装甲車を至急待機駐車場へ」

  通信を切ると、ベッドでうずくまったレギーを乱暴に放り出す。

  「ちょっ、ど、どうするのかね?」

  「言ったことを実行するだけです。じっとしててください」

  ベリッベリッ

  躊躇せず、おむつが脱がされる。

  ぷるん

  すっかり可愛くなった、お子様ちんちんが、薄黄色の雫を垂らして揺れる。

  「バンザーイ」

  「うえっぷ」

  あっという間にすっぽんぽんにされてしまった。

  ガアア……

  寄宿舎の裏手、レギオン専用の駐車スペースに、装甲車が止まる。

  「気を付け!」

  「は、はい!」

  勢いのまま、言われた通り、両手を体の横に付ける。

  グルグルッ

  毛布で簀巻きにされ、身動きが取れない代わりに、外からも何か分からなくなった。

  バンッ

  窓を開け、簀巻きの毛布を抱えたまま、ラニスが飛び出す。

  ゴオオッ

  高層階から一直線で、駐車場まで跳び、着地の衝撃は能力で軽くした。

  バンッバンッ

  装甲車の扉を開け、簀巻きを蹴り入れて、即座に中に入って扉を閉める。

  「ぷはっ」

  毛布から解放され、レギーはようやくまともに息ができる。

  「公式活動なら、ヒーローはヒーロースーツでの登壇が許されます」

  目の前に、白いヒーロースーツが差し出される。もう片方の手には、ラニスの黒いヒーロースーツが光る。

  「お、お、恩に着る」

  立ち上がって毛布を脱ぐと、すっぽんぽんだった。

  「毛布で拭いちゃうんで、まっすぐ立っててください」

  ゴシゴシ

  ごわごわした毛布で、荒く体中を拭き取られる。

  「う……うむ」

  風呂場で体を拭かれる子供のような扱いだが、渋々と指示に従った。

  ぺしん

  拭き終わり、すっぽんぽんのお尻を軽く叩かれる。

  「はい、終わり。下着なんてないですから、そのまま着て」

  「り……了解した」

  お尻がすーすーして落ち着かないが、そのままヒーロースーツに袖を通す。

  隣で、ラニスも服を脱ぎ散らかして、黒いヒーロースーツに着替える。

  「気を付け」

  「……ん」

  直立したレギーを抱えて、来た道を戻る。

  部屋に戻ると、3度目のノックの音が響いていた。

  ガチャ

  「待たせてすまない。スーツの着用は、少し時間がかかるのだ」

  白いヒーロースーツを着た黒猫のヒーローが、涼しい顔で係員に顔を見せる。

  「昨日は遅かったんですから、大目に見てくださいよお」

  一緒になって、大あくびした黒いヒーロースーツが並ぶ。

  「ヒーローたるものだね……」

  「うう……ヒーローのレギーは絡みづらいですねえ」

  パタン

  扉が閉まる。

  天井に張り付いていた、おねしょのベッドや濡れた毛布が、ガラガラと音を立てて地面に落ちた。

  夕刻。

  会見と他組織との折衝外交が終わり、二人はようやく解放された。

  ヒーローたちの寄宿舎とはいえ、キラキラと光るヒーロースーツは、やはり目立つ。

  「やはりスーツを着ると、調子が良いな」

  「スーツ着たレギー、調子が狂いますよお」

  夕暮れの光が差し込み、寄宿舎のホールにはまばらの人だかりができていた。

  「今朝の一件、本当に助かった。感謝する」

  「いいですよお。それより、おしっこで濡れたままなんですから、すぐにお風呂入って、綺麗にしてくださいよ」

  「あっ……う……そ、そうだな」

  レギーの顔が一瞬で真っ赤になった。

  「そうだ、今なら大浴場に行きましょう」

  ピンと思い出し、ラニスは相棒の手を引く。

  「よ、浴場? 私は、一人で入浴するタイプなのだが」

  「大丈夫ですよ。知り合いもいない場所です」

  連れ出された先は、以前にも訪れたキッズプレイスだった。

  「き、貴様……ここは……」

  「ここの大浴場なら、この時間は入れますよ」

  手を引かれるまま中に入り、大きな入浴施設の目の前に立たされる。

  その規模は小さな銭湯ほどあり、一歩中に入った脱衣所には、施設に出入りする小さな子供が往来している。

  「こ、ここ……子供の……」

  「んー? 大人も居ますよ?」

  大半が子供たちだが付き添いや医療班の大人も、まばらに見かける。

  「ひーろーだ」「ひーろーのおにいちゃん、おふろはいりにきたの?」

  珍しい来客に子供たちが群がる。

  「そうですよー。こっちの赤ちゃんお兄ちゃんも一緒ですよ」

  「だ、誰が赤ちゃんかね」

  いきなりの自己紹介に、相棒を睨みつける。

  「ヒーローの時間は、おしまい」

  カシュン

  ヒーロースーツを脱がされ、すっぽんぽんにされる。

  「うぐ……」

  スラリと力強いヒーローの体に、不釣り合いな赤ちゃんサイズのおちんちんがぷるぷると震える。

  「ちょっと待っててください。私も脱ぎますから」

  カシュン

  ラニスは手早く服を脱ぎ、どこからか手ぬぐいを一枚持って戻ってきた。

  「さて、お風呂で綺麗にしないとですね」

  ふるりとおおぶりな股間を、手ぬぐいをまいて隠す。

  一方レギーは、赤ちゃんちんちんを隠すことなくぷらぷらさせる。

  「わ、私にも、手ぬぐいくらい」

  「おむつの赤ちゃんが恥ずかしがらないの」

  有無を言わせず、浴室へと連れ出された。

  ぷるぷる

  歩くたびに小さなおちんちんが揺れる。

  普段から浴槽に浸かる習慣もなく、一人シャワーで済ませてしまう性格も相まって、すっぽんぽんで衆人監視に立たされる状況に顔が熱くなる。

  そのうえ、手ぬぐいで隠すことも許されず、赤ん坊のようなおちんちんを見られてしまっている。

  「さて、綺麗にしますから、ここに立ってくださいね」

  「は? 体くらい、自分で洗えるのだが?」

  「レギー、おむつが取れないうちは?」

  「あ……う……」

  「赤ちゃんなんですから、大人がちゃんと綺麗にしてあげないと、ダメですよ」

  「そ、それは……う……ん」

  結局ラニスには抵抗できず、洗い場へと連れられる。鏡の前、幼児向けの小さな椅子を出されて座らされた。

  鏡のに映る体を見ると、ちょこんと股にのっかった、すべすべのちんちんが見える。

  「本当に、すっかり可愛くなっちゃいましたねえ」

  「こ、こんなはずは無いのだよ……私の体……もっと大人で」

  「本当に大人になったら、元に戻るって言ってますよね? ほらあんよ開いて」

  「うう……」

  なされるがままに全身洗われ、背中から抱っこされたままお風呂に入った。

  子供たちには囃し立てられ、また顔を赤くする。

  お湯から上りエスコートされながら、また別の湯船に向かってを歩き、終始すっぽんぽんで隠すこともできず、真っ赤な顔で手を引かれるまま歩かされた。

  「ふう、良いお湯でしたねえ」

  今は、脱衣所で体を拭かれている。

  ラニスはすでに下着姿になっていて、白いTシャツに、淡い色のトランクスをまとう。

  一方で、まだすっぽんぽんの恰好で体を拭かれていると、また一層恥ずかしさで体が熱くなる。

  くにゅ、くにゅ

  タオルで包まれた股間が刺激される。

  「あっ……そ、その……」

  思わず腰が引けるが、ラニスの手は離れない。

  年頃になって、しかも衆人監視の目の前で、股を拭かれる羞恥心は相当なものだった。

  そのうえ、小さくなったおちんちんが、ひくひくと芯を持ってしまっていた。

  「ふふっ、元気なのは良いことですよ?」

  「いや、こ、これはだね」

  ピンッ

  ラニスの指先で、おちんちんを弾かれる。

  言い訳する間もなくひくひくとと上を向いて、固くそそり立っている。

  サイズは小さいながらも雄を主張し、元気な子供ちんちんを精一杯に上を向いている。

  「大丈夫です。ちゃんとお漏らしさせてあげますからね」

  手を引かれ、脱衣所を横切るように歩かされる。

  「あっ……やっ……」

  ピンピンに勃起した股間を晒し、ペタペタとつられて歩く。

  歩くたびに股間がひくひくと左右に揺れる。

  「さあ、ごろんして」

  連れられた場所には、おむつ交換用の高台が置かれている。

  大人の体でも十分支えられそうな大型のサイズだ。

  「こ、この状態は……さすがに」

  ひくひくとまだ勃起した股間を両手で隠し、もじもじと太ももをすり合わせる。

  「ほら、いやいやしないでください」

  ひょいと持ち上げられ、おむつ台に寝かされた。

  「あっ……やっ……」

  「おててと、あんよ」

  ぐいっ

  足を広げられ、手は顔の横に置かれる。いつものおむつ替えポーズをやらされた。

  ひくひく……

  その股間の真ん中で、小さなおちんちんがぴんとそそり立ち、ひくひくと震えている。

  「うう……み、見ないで……」

  思わず、顔を手で覆う。

  恥ずかしさで顔から火が出そうだが、普段の禁欲もあって、勃起した股間はまるで収まりそうにない。

  「元気で、可愛らしいですよ」

  白くて細い指が伸びる

  くに……くにゅ……

  小さなおちんちんを指先でつまむようにして刺激される。

  いつかの立派な姿とは大違いで、勃起しても皮はすっぽりと先端を多い、手で剥いてもすぐに皮がもとに戻ってしまう。

  「あっ……やめっ……」

  それでも刺激の感度は変わらず、 皮の上から亀頭をこねくり回され、思わず腰を引いてしまう。

  ピン

  不意におちんちんを指ではじかれ、体がビクンと跳ねる。

  「レギー、これからは白いおしっこも、これからはおむつにお漏らしするんですよ?」

  カサカサと目の前でテープタイプの紙おむつが広げられる。

  「え……え……」

  困惑していると、両足をまとめて持ち上げられ、お尻の下におむつが入り込む。

  ピッ……ピッ……

  テープが止められ、おむつ一丁の恰好で寝転がる。

  ピンピンにそそり立つおちんちんが、おむつの吸水部に圧迫され、擦れる感触が伝わる。

  「白いおしっこ、しーしーしましょうねえ」

  そう言って、ラニスの手がおむつの上から股間を上下にこすってくる。

  クシュ……クシュ……

  「あっ……あっ……」

  大きな吸水部に包まれ、おちんちん全体をぎゅっと圧迫されるような感触に、思わず声が漏れる。

  可愛らしいお子様おちんちんを、おむつの上から刺激される。

  「しーしー、おむつにしーしー」

  クシュ……

  大きな細い指先におむつ越しにおちんちんをしごかれ、刺激される。

  多くの人に見られているのに、そのだれもが、子供のお漏らしを見るような温かいまなざしを送る。

  レギーだけが、真っ赤な顔で羞恥に悶えていた。

  「あっ……いっ……やだっ……」

  ビュクッ……ビュッビュッ……

  レギーの体が大きく跳ねる。

  びゅくびゅくと、おむつの中に射精したことが分かる。

  「しーしー、でました?」

  ひくひくと体が揺れて、快感と羞恥で視界がちかちかと明滅する。

  はーはー、と息を整えながら、おずおずと口を開く。

  「お、おもらし、しちゃ……た……」

  恥ずかしさで顔をぐしぐしを覆いながら、おむつを濡らしたことを伝える。

  「自分で言えて、良い子ですね」

  「……ん」

  それから新しいおむつを付けてもらい、部屋に戻って眠りについた。

  これからは、おむつが取れない限り、ずっとラニスに赤ちゃん扱いをされてしまうらしい。

  [newpage]

  17-1.エピローグ_フィオメオ:ザ・トリックスター

  フィオは自室の机、壊れた通信デバイスと向き合っていた。

  ガチャ

  「げ、おめえ、こんな良い部屋住んでんの?」

  ノックも無く、ヒーローの相棒、クグワロが部屋に入ってくる。

  「ノックって、知らないんすか」

  「俺様は、俺様の常識で動くんだぜ?」

  「陰気すぎると、世間の常識も忘れるんすか?」

  普段の朗らかな態度も、いけ好かない灰犬に対してはつっけんどんになってしまう。

  「どうした? ニコニコ豆電球。電池切れかけてんじゃねーか?」

  「なんでもないっすよ」

  「わざわざ呼びつけるってことは、何か話があんだろ?」

  苛立つ奴だが、妙な所で聡い。

  「まあ、大した話じゃないっす」

  「なーんか。調子狂うなぁ……」

  灰犬の相棒が、頭をガリガリ掻いて寄ってくる。

  背中でパタリと部屋のドアが閉まった。

  「うーん。まあ、聞くだけ聞くっすよ……」

  伏し目がちにおずおずとフィオが口を開く。

  「いいぜ? 笑わねーでやるよ?」

  クグワロが軽口を返すが、瞳はまっすぐと相棒を見つめる。

  普段と違うフィオの様子に、正面から向き合おうとしていた。

  「S級ヴィランって、居るんすかね?」

  おずおずとフィオが口にする。

  いつものおちゃらけた態度と一変した、疑惑と困惑の表情だった。

  「噂くれーはあるよ? B級、A級と来りゃ、その上があるって勘ぐるのは当然だろ?」

  「まあ、そんなもんっすよね」

  「それより、部屋、交換しね? 俺様の部屋、独房みてーなんだけど?」

  相棒がヘラヘラと笑いながら、近寄ってくる。

  「あんたの部屋、元懲罰房を改造して出来たんすから、当然っすよ」

  「げ。なんで俺様、そんな扱いなわけ?」

  「暴れたときに、すぐ抑え込めるようにっすよ」

  「信用ねえなー。俺様」

  ギュッ

  突然、灰犬の相棒が正面から抱きついてくる。

  「なんすか」

  ハグくらい特に気にすることも無いが、思いがけない相手に困惑のほうが大きい。

  「何って、適当な口実作って、俺様に会いたかったんだろ?」

  慣れない手付きで体を寄せ、相棒が擦り寄ってくる。

  「本気で嫌いって程じゃないっすが、特に仲良くした覚えもないっすよ」

  眉をしかめていると、耳元に相手の口が近づく。

  「S級ヴィラン、多分居るぜ」

  小声で囁かれる。

  「な、何で、急に小声になるんすか」

  「用心だよ。鈍いなあ? 問題を秘匿してる奴らが居る」

  一瞬考え込んだ後、ギュッとクグワロを抱き寄せる。

  「本部……ヒーローの上層部?」

  「可能性の話だ。ヴィランは用心深いほうが、長生きするんだぜ?」

  浮ついた顔で、さわさわと相棒の頭を撫でる。傍目には、秘密の逢瀬にしか見えないだろう。

  すんすんと鼻を鳴らす。

  焚き火の焦げ跡のような、思いの外、安心する匂いがした。

  「俺様の見聞を聞かせてやる。ありがたく聞け?」

  フィオは、こくんと頷く。

  「一部のヴィランにとって、A級の上がある事は、ほぼ確信してる。だがヒーロー側から見ると、不自然にそれが秘匿されている」

  「俺も聞いたことないっす」

  「俺様、当然不思議に思う。一方で存在は知られてても、異様に早く捜査が終わるヴィランも居る。たとえば、アノニマススクワッドなんていうふざけた名前とかな?」

  「あ、ああ……知ってるっす」

  思いがけない情報に目が泳ぐ。

  抱き合い擦れる胸の暖かさに心臓が高鳴るのは、恋のせいでは無い。

  「言っとくけどな、俺様の推論だぜ? 陰謀論みてーなもんだ」

  「わ、分かってるっすけど、何で本部は追わないんすか?」

  「これも陰謀論だが、S級の可能性があるやつらに限って、一般人の被害は0だ」

  「何が目的……ヒーロー?」

  くしゃくしゃとぎこちない手付きで頭を撫でられる。

  一発で愛撫の経験が一度も無いことが分かる。

  「俺様もそう思う。S級はヒーローしか狙わない」

  「本部は、何で?」

  「S級なんて未曾有の大災害をつっつくくらいなら、ヒーロー一匹、犠牲に払ったほうがお買い得って話?」

  「本当なんすか?」

  「言っただろ? 俺様の推論。陰謀論だぜ?」

  「筋は通ってるっすね」

  抱き合う顔を離し、相棒を正面に見据える。

  「俺様としちゃ、これ以上、上の連中に睨まれたくないってこと」

  「それにちゃ、随分詳しいっすね。S級を追ってるわけでもないのに、何でそんなに……」

  「S級を追う? 俺様、そんなことやる?」

  フィオはまた相棒をぎゅっと抱きしめる。

  その顔には、鬼気迫る表情が浮かんでいた。

  「あんた、ヒーローじゃないっす。なる気っすね?」

  「さあてね? 全部憶測だって言ったろ?」

  「S級になってみろ、即ドカンっすからね」

  「そう慌てんな。全部憶測。陰謀論って言ったろ?」

  仲睦まじく抱き合うにしては、互いに睨み合いの形相を見せる。

  「早合点がすぎるぜ? こっちも早漏か?」

  からかい半分に、つんつんと股間を突かれる。

  柔らかく形のいい股間が、くにくにと動く。

  「あいにく、わりと持つほうっす。どれくらい本気なんすか?」

  「与太話だよ。それに、今の生活だって悪くねえしな?」

  クグワロの体重がのしかかる。

  「俺様が退屈しないうちは、ヒーロー、やってやるぜ?」

  「あんた、本当に友達居ないんすね」

  抱きつく灰犬の相棒の肩に手を回し、腰を引き寄せる。

  「信用……して良いんすかね?」

  「この問答は謝礼よ? 誰かさんみたいに、真摯に答えちゃってるぜ?」

  「やけに素直っね」

  「今日の俺様、大マジ。一応感謝はしてんのよ。俺様、ヒーローにしてくれて」

  ハァ、と大きくため息をついて、相棒の体を愛撫する。

  「思ったより目的に近い話が聞けて嬉しかったっす。ありがとっす」

  「調子くるうなぁ。それに、お前の触りかた、なんか、やらしくね?」

  「あんたが抱きついてきたんすよ? 人目盗んでいちゃついてたら、これくらい普通っす」

  「は? そんな……ことあるか?」

  「慣れてなさすぎ、マジでぼっちの陰気丸なんすね」

  腰に手を回しつつ、相棒の股間に手を伸ばす。

  さっきの仕返しに少し突いてやると、すぐにピンと芯を持って、ズボンの中でカチカチに勃起してしまった。

  「マジで経験ないんすね」

  「は? うっせ……そんな……こと……」

  言葉尻が小さくなり、相棒が前かがみになって、口を歪める。

  固くなったそれを、またつんつんと突く。

  まっすぐと反り立ち、年頃にしては少しサイズが控えめな気もする。

  「クグワロの……勃ってるわりに、意外とちっさ……」

  ボウッ

  黒い炎が前髪を焼いた。

  「あぁーっ、ヴィラン以外に能力の使用は御法度っすよ」

  「ヴィランだよ。ヴィランネームは、脳みそピンクつんつん頭野郎」

  パサパサと頭を叩いて、頭の種火を消し去る。

  「うあー、チリチリになってるっす……美容室の予約しなきゃ」

  「自業自得だアホが」

  クグワロは噛み付きそうな顔で、ギリギリと睨む。

  「何やりてえのか知らねえが、俺様は巻き込まれるつもり無いからな?」

  踵を返し、クグワロは部屋から出ていこうとする。

  「了解っす。教えてくれて、ありがとっす」

  「……ま、まあな?」

  「これは、大マジのありがとうっす」

  振り返る灰犬がポリポリと頬を掻く。

  「一応、バディだしな? ヒーローの給料分くらいは、助けてやるよ?」

  目をそらしながら言い捨てて、クグワロは足早に去っていった。

  「あれで、性格がもう少しマシなら良かったっすけど……」

  とは言え、利害関係が分かりやすいから、逆にクグワロは信頼出来る。むしろ爆弾のスイッチが手元にある間は、裏切られる心配は無いだろう。

  フィオはデータベースにアクセスし、リストを広げる。

  ヒーローリスト。

  そこには百余名のヒーローが登録され、本部への出入りを許されている。

  机の上には、焼け焦げた通信デバイス。

  「クグワロには、マジのありがとうっすけど、これはやばいかもっすねー」

  アノニマススクワッド、記憶のないあの日、壊れた通信デバイス。思いがけない所から、情報が符合してしまった。

  本部データベースへのハッキング疑惑。

  「もしヴィランが狙うなら……」

  ヒーローリスト。

  ここに記載されている誰かに、S級ヴィランが成り済ましている。

  「本来なら、あり得ないっすよ」

  記憶を消された日、例えば実は謎のヴィランが、レギーに成り済ましてヒーロー本部に現れたとする。

  このヒーローリストは自身のコードと照合され、厳しく個人を特定しているから、照合を一致させることはまず不可能。

  ゴトッ

  「でも、この雷撃、間違える筈が無いっす」

  あの日つけていた通信デバイスは、雷撃によって回路が焼き切れ、故障している。そしてそれは間違いなく、フィオ自らが通信デバイスを破壊している証拠だった。

  何故?

  最もあり得る可能性は、ハッキングの緊急遮断。

  あの日、このリストの中に、誰かが増えた?

  「考えるとキリがないっすねー」

  以前から知り合いのヒーローなら、疑惑は薄い。レギー。そしてラニスは直接の知り合いではないが、レギーがあの日以前から知っていたらしい。

  だがそれも、完全では無い。

  たとえレギーであっても、ヴィランではないと100%言い切れる保証はないのだ。極端な話、あの日にレギーはもう殺されていて、このリストに載っているレギーの個人照合情報が、ヴィランのそれに書き換えられている可能性だってある。

  トン

  このリストの最末尾。クグワロの名前。

  100%

  唯一、彼だけは違う。

  記憶の消えたあの日以前からその名を知り、ハッキング以後にリストに名を連ねた、ただ一人のヒーロー。

  百人を超えるリストの中で、唯一信頼出来るヒーロー。

  「ま。俺の思い過ごしなら、それで良いんすけどねー」

  もちろん。全て仮説に仮説を重ねた、推論に過ぎない。

  ゴトッ

  壊れた通信デバイスを棚に戻す。

  焦げた前髪を最低限のクシで整え、フィオは美容室に予約の電話を入れた。

  [newpage]

  17-2.エピローグ_クグワロゴール:俺様、仲間を作る

  「ラニスせんせって、居ます?」

  パーカーを被った灰色の毛並みが、医療スタッフルームの廊下から顔を出した。

  「いますけども」

  ラニスの診療室に来客を告げられ、現れたのはクグワロだった。

  「貴方が私に用とは、珍しいですねえ」

  「俺様、ちょっと頼みがあってさ」

  「一応、聞きましょう」

  ラニスはタブレットでカルテをまとめながら、話半分に受け流す。

  「S級ヴィランの、なり方教えてよ?」

  クグワロがからかい半分で話を切り出す。

  「知らないですねえ」

  「そんなこと言って、同じヴィランとして、興味あるっしょ?」

  「興味ないですねえ」

  「ヴィランってとこは、否定しねえんだ?」

  「あんまり嗅ぎ回ってると、潰しますけどねえ」

  ポンッ

  手に持ったタブレットを、クグワロに投げつける。

  「[[rb:栩質>ラァニヱ・リリ]]」

  「[[rb:葬火>ディーロス]]!」

  ズンッ

  手に持ったタブレットの重さに、クグワロは床に押し付けられる。

  ゴッ

  黒い炎は的確にラニスの左目を焼いた。

  「重ってえー、何だこりゃ?」

  「眼球に直接発火……これは、防げませんねえ」

  「あんた、めちゃくちゃ強いけど、無敵じゃねえだろ?」

  「こうも計算外が多いと、いやになりますよ」

  ガンッ

  ラニスの足がクグワロの頬を踏みつける。

  ミシミシ……

  「貴方、本気で潰しますよ?」

  「俺様、手強いぜ?」

  ビシッ

  重みに耐えかねて、部屋の床に亀裂が走る。

  「……」

  「マジでやるなら、俺様も本気出すよ? まずは火災報知器、派手に暴れて人を呼んでやる。それとも、花火であんたの正体、打ち上げるか? 今ならマジで信じそうなバカ電球に直電繋げてやれるぜ?」

  フッ

  クグワロに乗っかる重みが消えた。

  「ゴホッゴホッ……ぐええ……ま、マジで死にかけた」

  「呆れましたね。ヒーローに泣きつくようなヴィラン様が、私に何の用ですか?」

  「い、一応、俺様ヒーローだから……ゴホッ……」

  「調子の良いことを……小物過ぎて、逆に安心しますよ」

  「かはっ、誰のが小さいって?」

  「まずヒトの器は小さそうですねえ」

  フワリ

  手も使わずに灰犬の獣人を起き上がらせ、診察椅子に座らせる。

  「話くらいは聞きますから、上着脱いで、そこに座ってくださいな」

  「は? 脱げっての?」

  「上着ですよ。診察もしないで冷やかしに来たなら、投げ飛ばしますよ」

  「あ、ああ」

  クグワロはおずおずとパーカーを脱ぐ。痩せぎすの体に、薄く骨が浮いている。

  ラニスは自分の腕を凝視すると、うっすらと黄色い靄が立ち上る。

  「いけない。いけない」

  心を閉ざし、コードをヒーローに合わせる。

  2人は改めて、診察室で向かい合った。

  「細い体ですねえ、ちゃんと食べてますか?」

  「う、うるせえっ、細いだの小さいだの言いやがって」

  「小さいとは言ってないですよお」

  形だけの診察を進めながら、ラニスが会話を切り出す。

  「それで、要求があるなら聞きましょうか?」

  「さっき言ったろ?」

  「S級ヴィランですか?」

  「あんたは俺様より色々詳しそうだからな、なんか知らねえか?」

  診察医は顎に手を当てて、一瞬考え込んだ。

  「アルデバランが次に輝く夜は?」

  「は? 知らんが? なんとなーく、500日後くらい?」

  ラニスの目が丸くなる。

  「見えてるんですか?」

  「何なんだよ! レギーといい、お前らモノクロコンビは、俺様に謎ワード飛ばすの流行ってんの?」

  「いやあ、本当に見えるかも知れないですね」

  くしゃくしゃと灰色の頭を撫でる。

  「お、おお。よく分かんねーけど。俺様、褒められちゃってる?」

  「ま、多分無理でしょうけどね」

  ポンポンと頭を叩いて、カルテに目を落とす。

  「じゃあ、もう一個お願いがあんのよ?」

  気を良くしたクグワロが、身を乗り出す。

  「聞くだけですよ?」

  「小型爆弾の場所、探ってくれね?」

  細い胸を親指でトントンと叩く。

  「無理です」

  「んだと? 火災報知器、鳴らすぞ?」

  「やるだけはやりますけど、隠蔽処置された小型装置なんて、大掛かりな機材使って見つかるかどうかですよ」

  「やれよ、俺様の頼みだぜ?」

  バチン

  ものすごく重いデコピンが飛ぶ。

  「おおっぴらにやって、ヒーローに睨まれるのが貴方だけなら知らないですよ」

  「お、おお。そうか」

  灰色毛並みのおでこをさすりながら、意外に物分りよく頷いた。

  「取り敢えず、非番の昼は空いてますので、ここに来てください。普通の医療スキャンでも、運が良ければ見つかるかもしれません」

  「それは、バレないやつ?」

  「普通の医療行為ですし、ヒーローのデータ収集とでも言えば、大したことないでしょう」

  「よ、よし。それで頼む」

  「言っておきますが、摘出手術は無理ですよ。そんな人員を避けるはずがないですし」

  「おいおい、俺様だぜ?」

  クグワロがしたり顔で、細い胸を反らせる。

  「黒い炎は、自在に形を変え、自在に発火する。場所さえ分かれば、回路を焼き切るだけだ」

  「意外と考えてるんですねえ」

  ラニスは小さく関心した。

  「ま、小型爆弾なんて無くても、貴方はヴィランには戻らないでしょうね」

  互いの要求はあらかた話し終わり、カルテに落書きをしながらラニスが言う。

  「あん? あんたもタイプ判断? 駄目だってママに教わらなかったか?」

  「いいえ。私は個人観察です。ここでの生活はどうですか?」

  「そりゃあまあ、悪くねえし、その……き、気に入ってるよ」

  細い肩がまた小さくなる。

  「実際、居心地が良いと思っているんでしょう? 栄養状態も良くなってきているみたいですし」

  「あ、あいつといると、メシが多いんだよ……」

  「そのうち、ヒーローの誰かに惚れたりなんかして、こっちに居座りそうですねえ」

  「はあ? なんで俺様が、あのバカ電球と?」

  「誰とは言ってないですよ?」

  巻角の顔がニコニコと細い少年を見つめる。

  くしゃり……細く白い指先が、また灰色獣人の頭を撫でる。頬をなで、顎を抜け、首元で指が止まる。

  「良いじゃないですか。一緒にヒーロー、やりましょうよ」

  「う、うるせっ……お、俺様は」

  「細い栄養失調気味の体に、古い殴打痕。極めつけ、普段パーカーで隠してますけど……」

  白い指先が灰色の毛並みに残る、細い痕跡をなぞる。

  「首に残る索条痕」

  「う、うるせえっ! み、見るな……」

  「貴方が時折口にする言葉から類推するに、虐待していたのはマ……」

  「うるせえっ……」

  ガッ

  クグワロがラニスに掴みかかり首を絞める。

  「騒ぎを起こして困るのは、どちらも同じですよねえ?」

  「う……うぅ……」

  喉仏にかかった細い腕が小さく震える。

  力はなく、よりかかるようにラニスに体重が寄りかかった。

  「眩しいでしょうね。貴方のような境遇からしたら、ヒーローなんて」

  ラニスは首を絞める腕ごと、灰色毛並みの後輩を抱き上げた。

  「うるせえっ……うるせっ……うるせえ……」

  震える指先に、もう力は込められていない。

  錯乱行動、乱れた過呼吸気味の呼気、PTSDの症状に近い。

  「首を上げて、上を見て、10数えてください」

  少年の顎に手を当てて、顔を上に持ち上げる。

  「1……2……3……4……5……」

  少年の呼吸が静かに落ち着きを取り戻した。

  「……10」

  細い肩を抱きしめると、首から指が離れ、ぎゅっと抱き返してきた。

  「ごめん。首、痛かったか?」

  大立ちぶるまいを経て、ラニスはやっと気づいた。

  彼自身が本当に揺れていたのだ。ヒーローとヴィランの狭間に。

  「大したことないですよ」

  落ち着いたクグワロを、また椅子に座らせる。

  「だ……誰にも言うなよ?」

  灰色の少年が、頬を膨らませて睨みつける。

  「普段のツンツン具合も、本当にラニスといい勝負なんですよねー」

  「んだよ? ちょっとヒト弱み見つけたぐれーでいい気になるな?」

  「いやいや、私が絆されると言うか、こーいうのにキュンと来ちゃうんですよねえ」

  「知らねえよ、お前のタイプなんか。っていうか、趣味悪いな?」

  思いがけずクグワロの心の傷を暴いてしまったが、これ以上無闇に踏み込むべきではなさそうだ。

  それに意外とフィオあたりが、あっさり解決してくれそうな気もする。

  「生意気に戻ったことですし、もう大丈夫そうですね」

  「大丈夫だし、生意気じゃねーし?」

  調子を取り戻した後輩をもう一度撫でる。

  羨望と嫉妬、ヒーローとヴィラン。二つが入り混じった少年。

  「可愛い後輩が、できてしまいましたね」

  彼は愛情に飢えている。愛情を受けることさえ、拒否してしまうくらいに。

  「あんた……どっち側のつもり?」

  「両方。貴方の仲間ですよ? ヴィランでありヒーローでもある」

  「別に、仲間じゃねーだろ」

  「敵対関係でもないですし、現状維持の利害状況は、ある程度一致しているはずですよね?」

  「ふん……じゃあ、せいぜい俺様の役に立て?」

  灰色のフードを目深にかぶって、クグワロは席を立って、診察室を後にした。

  「居心地が良いのは、私も同じなんですよねえ」

  ラニスが診療室で一人頬杖をつく。

  先日届いた段ボール箱には、ドビー織りの白布が大量に詰め込まれていた。

  [newpage]

  17-3.エピローグ_ラノシェベリア:暗躍の匂い

  「裏でなにかが動いている匂いがしますねえ」

  ギリギリと腕ひしぎ十字で関節を決めながら、ラニスは考えにふけった。

  バンバン

  マットに突っ伏したヒーロー候補生の少年が、床を叩く。

  「あらら、すみません。考え事をしていて」

  ラニスは黒いヒーロースーツを身にまとい、新人教育の組手に臨んでいた。

  次っ!

  血気盛んな少年たちが、代わる代わるラニスに戦いを挑む。

  「ヒーロー内部のヴィランに感づいている人間がいるとしたら……」

  少年から放たれる正拳をいなし、合気で投げ飛ばし床に叩きつける。

  「まあ、十中八九、フィオでしょうねえ」

  先日のクグワロの様子を見るに、なにか確信的な情報を得てラニスのもとへ訪ねて来ていた。フィオとクグワロの間で、なんらかの情報交換があったと見える。

  次っ!

  若くまっすぐな飛び蹴りをくるりと翻し、新手の少年を床に組み付した。

  「やはり、潰すか?」

  ミシミシと拳に力が入る。

  「痛っだだだ……すんません! ギブです!」アイアンクローを決めた手元で、無辜の少年がギブアップを宣言する。

  「あらら、またやっちゃいましたね。大丈夫ですか?」

  少年を立たせて介抱する。

  次っ!

  遊び半分に組手を交わしつつ、ラニスは状況を整理してみた。

  やはり、どっちに転ぶか分からないのは、フィオとクグワロ。トリックスターなどと一笑に付していたが、本当にこの二人が渦中に入るとは思わなかった。

  現状、フィオのほうは半信半疑だろう。

  クグワロが私をヴィランだと確信したのは、おそらく情報交換の後。フィオの様子からなにかを感づいて、ヴィランの秘密は交渉材料にカマをかけてみたってところか。

  結果的に手の内を晒し合い、クグワロとは現状維持で利害が一致している。彼の目下の目標は小型爆弾の探知で、この約束は取り付けられた。

  フィオが今以上の情報を得ることはないと思われるが、変に暗躍する連中を残しておくのも後味が悪い。

  クグワロは本人自身が揺れている。

  ヒーローとヴィラン。両方のアイデンティティの狭間で迷っている。

  ヒーローである自分に満足しながらも、ヴィランの後ろめたさと拒絶の恐怖に怯えている。S級ヴィランになりたいと言うのも、上位存在になることで、それらの葛藤から抜け出したいのだろう。

  絆された弱みもある。個人的にはクグワロの力になってやりたいと思うが、そうなればフィオとの衝突は避けられない。

  「クグワロがヒーローを受け入れて、フィオからの疑いも晴れれば、万々歳。でも、これじゃあ私に、真面目にヒーローになれって言ってるようなものじゃないですかあ」

  「貴様はヒーローではなかったのかね?」

  ビクッ!

  独り言に返答され、思わず体た飛び退いた。

  組手の正面には、白いヒーロースーツを装備した、レギーが立っていた。

  「レギー? あれ? 組手の相手は?」

  「私だ。他は全員、貴様がのしていたぞ?」

  見回すと訓練生たちは全員見学にまわり、一流ヒーローのエキシビジョンマッチに目を輝かせていた。

  「うへー、レギーとですかあ」

  「これもヒーローの仕事だ」

  バッ!

  鋭い拳が一息で3発ほど飛ぶ。カウンターでつかみ投げようとするが、退きも早い。

  フェイントを織り交ぜつつ、ぐんぐんと攻め立てられる。

  おおっ

  見学の少年たちから歓声が上がる。

  「えー、本気でやるんですかあ?」

  「ヒーローなら、勤めを果たせ」

  グッ

  レギーの踏み込みみあわせて、攻撃の出鼻を叩く。ぐるりと翻し、床めがけて綺麗な投げが入る。

  バシッ

  床にたたきつけられる直前、大きく身を翻し、レギーは受け身で着地した。

  歓声が湧き上がる。

  「レギーは、クグワロとフィオ、どっちの味方に付きます?」

  ラニスは肩で息をしながら、もやもやした話題を振ってみた。

  「どちらかが対立した場合かね?」

  拳を構えるレギーは、息一つ切らしていない。

  「そうですねえ」

  「なら、ヒーローに残ったほうだ」

  短く答え、距離を詰めて正拳が飛ぶ。

  合わせていなす瞬間に、レギーの姿が消えた。

  フェイントに合わせてしまい、懐に潜り込んだ白いスーツに、一瞬反応が遅れた。

  バシンッ

  下段の肘打ちが入り、勝負あり。

  「ぐええ……スーツ越しでも痛いですよ」

  組手とはいえ、力を込めた一撃に、殴られた部分がじんじんと痛む。

  「貴様はヒーローではなかったのかね?」

  独り言への質問を再度返され、冷や汗が流れる。

  「ヒーローじゃなかったら、戦うんですよねえ」

  「は? なぜだ?」

  黒猫のヒーローは大真面目に答える。

  「ヴィランだから討つのではない。市民への攻撃や政府への反逆、あるいは危険思想の洗脳など、討伐対象と認定されたから、ヴィランを討つのだろう?」

  「ええ、まあ。そうですねえ」

  「貴様の働きは、これからも頼りにしている」

  黒猫は短く言い放った。

  「私の正体がヴィランで、貴方を騙してここに居るとしても?」

  「貴様の過去は知らん。現在の貴様から判断して、未来も大丈夫だろうと結論づけたまでだ」

  黒猫のヒーローが、握手の手を差し出す。

  「ヒーローをやっていればヒーローだと、私は思う」

  「単純ですねえ」

  互いの手をがっしりと握り合い、試合終了の合図と歓声が湧いた。

  訓練は解散となり、2人のヒーローは人気のない廊下を寄宿舎の棟に向かって歩く。

  「フィオとクグワロが、ヴィランになったとしたら?」

  「彼らが選んでそれを決めたのなら、私は正々堂々と立ち塞がろう」

  「単純明快。それ故に強いのが、光属性の本質でしょうかねえ?」

  「良い着眼点だ。一理あるな」

  コツコツと、2人の足音だけが、廊下に流れる。

  「それに、貴様のような根無し草でフワフワしたタイプは、狭間に揺れる者たちにとって心強い」

  「げ。そのタイプ別診断、私にもやってたんですか」

  「経験則と未来予測だ。フィオとクグワロは呼び声を受けて揺れている。2人の力になってくれ」

  「私があの子たちの力になったら、ヴィランにしちゃうかもしれませんよ?」

  「彼らが選んだなら口は挟まん。私はそれほど傲慢ではない」

  レギーはふんぞり返って腕を組む。ヴィランの道が彼らにとって最良なら、それでも良い。単純明快で清々しいくらいだ

  「うーむ……私、信頼されちゃってますねえ」

  「何より、どこにも属さない仲間というのは、中々居るものではないからな」

  黒猫の相貌が、まっすぐに相棒を見つめる。

  「含みのある言い方ですねえ」

  どこにも属さないとは、ヒーローとヴィランの間を言っているのだろうか?

  黒猫のまなざしに、真意は見えない。

  互いに沈黙し、廊下には風の音だけが響き抜ける。

  「それで、辞めるなんて言ってくれるなよ?」

  沈黙に耐えかねたのかレギーが、先に口を開いた。

  「はい? 特に辞める予定はないですけど?」

  「そ、そうか。良かった。辞められたら、私のバディ探しをやらねばならん」

  黒猫がわたわたと心配そうに言い寄る。

  「貴方って、本当に格好良く締まらないですねえ」

  「ば、バディ探しは大変なのだよ? 実力差や相性問題もある……それに」

  「それに?」

  ラニスはニヤつい顔で、相棒を見る。

  「その、べ、別の問題もあるし……公私とも世話をすると、貴様が言ったのだろう?」

  彼は内股になって、白いスーツをもじもじとこすりつける。

  「もちろん」

  貴方のお世話は、私の役目です。

  ヴィランであっても、ヒーローであっても。

  黒猫のヒーローを連れて、2人は寄宿舎ではなく、医療スタッフの棟へと向かっていった。

  [newpage]

  18.エピローグ_レギルベルト:おむつのひーろーおにいちゃん

  最強のヒーローとして君臨し、現在は後進の育成と、外部のとの折衝交渉に奔走する。

  ヒーローの力は相変わらず不安定で、一度全力を出すと1週間前後はヒーロー活動を休ませてもらっている。

  今日から、まとまった非番と休日が続く。

  「こ、こっちは、道が違うのではないかね?」

  午前から昼の半ばにかけて、訓練生たちへの稽古を終わらせ、ヒーロースーツを身に着けたまま、寄宿舎への廊下を歩く。

  「さあ、いやいやしないで、行きますよ」

  相棒のラニスに手を引かれ、医療機関へと連れられそうになっている。

  「い、いやだ。貴様……どうせまた、は、恥ずかしい格好をさせるつもりだろう?」

  「恥ずかしくないですよ。おもらし赤ちゃんにはぴったりな」

  「い、言うなぁ……こ、公共の場所だぞ」

  「当分仕事はないんですから、じっくり、おもらしトレーニング頑張りましょうねえ」

  「うう……そ、それは……」

  ヒョイッ

  相棒の腕に軽々しく持ち上げられてしまう。

  「おお、下ろし給え。こんな、子供じみたこと……」

  体を軽くされたせいか、暴れても振り払えない。

  「さて、おもらし赤ちゃんは、キッズプレイスに戻りますよ」

  「あうぅ……せ、せめて、普通に歩かせてくれないかね」

  「いやいや赤ちゃんは、無理やり連れていくことにします」

  「ぐぅ……」

  赤ん坊のように抱っこされたまま、寄宿舎の裏手、キッズプレイスと呼ばれる児童養護施設兼幼稚園のような場所へ連れ込まれてしまった。

  「ヒーローのおにいちゃん」「だっこされてるー」「あかちゃんヒーローのおにいちゃん」

  ヒーロースーツでここに出入りする人間は珍しく、あっという間に子どもたちの注目の的になる。

  「そうなんですよー。ヒーローなのにまだ赤ちゃんですから、みんなでお世話してくださいねー」

  「はーい」と甲高い声がこだまする。

  「下ろしてくれたまえ」

  「お部屋についたら、おろしますよ」

  ガラッ

  部屋を開けると子供たちが集う、保育部屋だった。

  子どもたちは思い思いに遊び、数人の保育係が甲斐甲斐しく世話を焼いている。

  「さて、レギーもお着替えしますよ」

  「ふ、ふざけないでくれたまえ……こ、ここはあくまで子供用の部屋で……私は……」

  「ヒーローの時間は、おしまいですよお」

  カシュン

  ヒーローが外され、レギーがわなわなと震える。

  スーツを脱いで、下着はタンクトップにいつもの黒いボクサーブリーフ。それでも、心なしか少し不安げな表情が浮かぶ。

  「お着替え、しましょうねえ」

  「う……うむ」

  スーツを脱いだ途端、レギーの下半身は一抹の不安を覚えてしまう。スーツが無いときは、おむつを穿いた姿が当然だと、いつの間にか体が覚えてしまっていた。

  「ごろんして」

  床に広げられたブランケットの上に寝転がる。

  両手を顔の横、足はがに股に大きく開いた、いつものおむつ替えポーズ。

  ヒーローの彼とは似ても似つかない格好だ。

  「バンザーイ。それと、お兄さんパンツも脱ぎ脱ぎしますよ」

  シュルルッ

  あっという間に、すっぽんぽんにされてしまう。

  ぷるん

  すっかりお子様サイズになった、小さなおちんちんが、所在なさげに揺れる。

  「良い子ですねえ」

  「すっぽんぽんだー」「ヒーローのおにいちゃん。すっぽんぽん」「おちんちんでてる」

  「ふぐぅ……み、見ないでくれたまえ……」

  周囲に囃し立てられ、思わず顔を手で覆う。

  ポンポン

  甘い香りを漂わせて、タルカムパウダーを叩かれる。

  ぐいっ

  両足をまとめて腰の高さまで持ち上げられ、お尻から玉の裏まで丸見えにされる。

  「うう……」

  何度やられても、このポーズは耐え難い。

  ポスッ

  お尻の下にドビー織繊維のごわごわした感触。

  お漏らしの量が増え、ついには布おむつに変えられてしまった。

  「さあ、おむつつけましょうねえ」

  ポチッ……ポチッ……

  おむつカバーが閉じられ、下半身が大きな布の塊に覆われる。

  「うう……」

  おちんちんが大きな布に圧迫され、動きづらいが、どこか安心感さえ覚えてしまっている。

  「ここでの制服はスモックですからねえ」

  シャツを着せられ、その上からパステルブルーのスモックに袖を通される。

  「はい、遊んできていいですよ」

  ブルーのスモック姿に、下半身はふっくらと大きな布おむつが丸出しの恰好。

  室内なので、もこもこの大きな靴下を付けてもらっているが、それも余計に子供じみて見え恥ずかしい。

  「おむつのおにいちゃんだー」「おむつー」「あかちゃんヒーローのおにいちゃん」

  子供たちは、ヒーローの格好からおむつ姿になったことに、何の疑問も抱かずにレギーを囃し立てる。

  「うう……わ、私はヒーローで……」

  おずおずと立ち上がると、布おむつはごわごわと大きく、股の間はほとんど閉じることができない。

  「ヒーローですけど、おむつが取れないうちは、赤ちゃんですよ」

  「うう……」

  「ここにいる間は、あなたはおむつのお兄ちゃんですからね」

  ポンポンと大きく膨らんだお尻を叩かれる。

  「おしっこしちゃったら、ちゃんと言うんですよ?」

  「……ん」

  渋々と頭を縦に振る。視界にはじんわりと涙が浮かぶ。

  「さあ、少し遊んだらお昼寝の時間ですよ」

  「はーい」「おにいちゃん、あそぼ」「おえかきしようよ」

  子どもたちに囲まれながら、レギーは遊びに付き合わされる。

  スモックに短パン姿の子供に交じり、一人だけおむつ丸出しの恰好だ。

  「おれ、ひーろーだから、けんでたたかう」

  子供のヒーローごっこにも付き合わされると、少し稽古じみたこともつけてやることにした。

  「力任せにふらず、ゆっくりなぞる動きで、剣と腕をなじませるんだ」

  「げー、むずかしい」「おにいちゃん、ものしり」「あかちゃんだけど、ひーろーのおにいちゃんなんだよね」

  恥ずかしいがに股歩きしかできないが、大きなお尻を振って、子供たちの相手をしている。

  「はーい。お昼寝の時間ですよ。おしっこ出る人はおトイレ行って、しーしーしましょうね」

  保育スタッフが手を叩いで先導する。

  「お、おしっ……こ」

  不意に、下半身にじっとりとした尿意が高まる。

  「おしっこだよ」「おトイレにしーしーするの」「おにいちゃん、できる」

  ガクガクと足がふるえ、下半身が温かくなってくる。

  「あっ……あう……」

  ショロロロ……

  子供たちに囲まれるなか、おむつの中にお漏らしが流れていく。

  「あっ……あう……」

  ベショ

  体に力が入らず、その場にへたり込んでしまう。

  がに股の股間を手で押さえるが、大きなおむつは隠しようがない。

  ショロロロ……

  じっとりとおむつの中が温かく湿っていく。

  「おにいちゃん、おトイレいこ?」「おしっこ、できる?」

  「わ、私は……ち、違うんだ……よ……」

  おむつを両手で押さえながら、恥ずかしさに顔をゆがめる。

  「おもらし?」「おむつにちーしちゃった?」「おむつおにいちゃん、おもらしした」

  シュウ……

  勢いがなくなり、おむつがぐっしょりと濡れたことが、外からでもよくわかる。

  もはや何の言い逃れもできない。

  「お……おもらし、しちゃったあ……」

  レギーは目に涙を浮かべながら、短パン姿のお兄ちゃんたちに、自分の粗相を報告した。

  「お漏らししたこと、教えてくれたんですってねえ」

  おむつ替えの道具を一式そろえて、レギーが顔を出す。

  「うん。おしえてくれた」「おもらししちゃったって、じぶんでいってた」

  子供たちが赤ん坊の成長を喜ぶように、レギーの痴態を報告する。

  「ありがとうございます。レギーも良い子ですねえ」

  「あう……うぅ……」

  「さあて、お兄ちゃんたちに、おむつ替えもお願いしてみましょうか?」

  「ふ、ふざけないで……くれたまえ……」

  ぐしょぐしょと濡れた恥ずかしい下着を晒しても、レギーはなお大人の顔をして言い返そうとする。

  「ここでは、貴方はおむつの取れない赤ちゃんなんですよお」

  「いや……わ、私は……だね」

  「ほら、ごろんして」

  ポスッ

  仰向けのされ、背中にはブランケットの冷たい感触。

  スモックの裾が胸までまくり上げられ、覗き込む子供たちに向け、がに股のおむつ丸出しの恰好にされる。

  「さて、おてつだいしたいお兄ちゃんはいるかな?」

  「はあい」「ぼくやる。ひーろーになりたい」「ぼくも、ぼくも」

  我先にと手を上げる子供たちの真ん中で、レギーは不貞腐れた表情で、鼻を啜っている。

  「じゃあ、今回は貴方にお願いしますねえ」

  そのうちの子供一人が選ばれ、レギーのおむつをポチンポチンと外す。

  「こうやって、おむつとるよ」

  ぷるん

  おむつカバーが開かれ、相変わらずのお子様ちんちんが、再度晒される。

  ぐっしょりとおしっこに濡れ、先端からは雫が垂れる。同時に、黄色く染まるおむつカバーが広げられる。

  ポンポンとお尻を軽く叩かれると、レギーは軽くお尻を持ち上げる。

  クシュ……

  お尻を大きなブランケットの上に置いた。

  「おちんちん、きれいきれいするよ」

  「うう……うん」

  小さな手に、濡れた下半身を拭かれていく。

  ぷるん ぷるん 小さなおちんちんが、ウェットティッシュに擦れて揺れる。

  自分よりも何倍も小さな手に、恥ずかしい箇所を丁寧に優しく拭かれる。

  あまりに情けない光景に顔を赤く染め、唇をかみしめて震えていた。

  「新しいおむつは、お手伝いしますねえ」

  両足を掴まれ、頭上に大きく持ち上げられる。

  「あっ……やっ……」

  V字に持ち上げられた両足の間、股間はお尻の穴も玉も全部が丸見えになる。

  「お尻の下に、おむつカバーと、当て布を重ねるんですよ」

  ラニスが子供に指示を飛ばす間、ずっと両足は持ち上げられ、恥ずかしい姿を晒される。

  「あう……うぅ……」

  あまりの恥ずかしさに、レギーは両手で顔を覆う。

  下半身を丸出しにされ足を掴まれて持ち上げられた姿を、子供どころか大勢の保育スタッフにもしっかりと見られている。

  ぷるぷると小さなおちんちんがブランケットの上で揺れ動く。

  ポスッ

  やっと足を下ろしてもらえて、新しい乾いた布の感触がお尻に伝わる。

  ごわごわとして柔らかい、布おむつの当て布。

  「おちんちん、ないないするよ」

  「……ん」

  クシュクシュとまた大きなおむつに、下半身を覆われる。

  いつもの圧迫感に、ちょっとだけ胸をなでおろした。

  ポチンポチン

  おむつカバーのボタンが留められ、またおむつの恰好に戻る。

  「はいよくできました。レギーも、御礼を言いましょうね」

  寝転んだ視線の先に、したり顔の小さな子供が、レギーを見ている。

  「あ、ありがと……」

  真っ赤な顔で、消え入るような声で、レギーは御礼を言った。

  「さて、お昼寝ですよ。みなさん、お布団に入りましょうね」

  子供たちはいそいそと寝支度をはじめていく。

  「レギーも、バンザーイ」

  スモックを脱がされ、薄でのTシャツにおむつ一丁の恰好にされる。

  「ひ、昼寝など……私は……」

  「たまには休んだほうがいいですよお。貴方はすぐに仕事を積むんですから」

  「い、いや……それでも、子供たちとは……」

  「大人でも、お昼寝くらいやりますよお」

  「そ、それも……そうか?」

  「お休みなんですから、ゆーっくり寝てくださいね」

  「そ……う……か。お休み……だから……ね」

  レギーのゆっくりとした調子の声に、瞼がとろんと重くなる。

  「良い子だから、お昼寝しましょうねえ」

  「う、うむ……」

  寝ぼけ眼で布団へと誘われ、タオルケットをお腹にのせて眠りについた。

  すやすやと寝息を立てる子供たちの中で、一人だけ大きな体で大きなおむつを晒した子が混ざっていた。

  レギーが目を覚ますと、空はオレンジ色に光る。

  徐々に暗くなりつつある部屋の中、大きくあくびをして起き上がる。

  下半身はおむつ一丁。おむつの中はぐっしょり濡れて、ほんのりとまだ温かい。

  「あ……うう……」

  周りを見ると、子供たちが帰り支度をしているところだった。

  「おにいちゃん。おきた」「おむつおにいちゃん、おねしょしてる」「おねしょひーろー」

  子供たちが口々に、レギーが目を覚ましたことを報告する。

  一緒に、おねしょしている様子も伝わる。

  「ぐっすり眠れました? やっぱり、疲れがたまってたんですよ」

  ニヤニヤ顔のラニスがパタパタとやってくる。

  「ね、寝すぎてしまったようだね」

  「良いんですよ。貴方はもっと自分の体を労わったほうが良い」

  くしゃくしゃと、頭を撫でられる。

  恥ずかしいが、不思議と悪い気はしなかった。

  「それで、おねしょはどうでした?」

  「うっ……」

  寝起きの顔が一気に熱くなる。

  聞かれるまでもなく、布おむつはぐっしょりと濡れて、触るとグシュグシュと音が鳴る。

  「ちゃんと、自分で言えると良い子ですねえ」

  「し、し……しちゃった」

  顔を真っ赤にして、唇を尖らせて言う。

  「おねしょ……し、しちゃったあ」

  赤ん坊のような舌ったらずで、おずおずと自らの失態を伝える。

  ついに幼稚園児以下の扱いを受け入れてしまい、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めていた。

  「良い子ですねえ。子供たちのお見送りが終わったら、ご褒美とおむつを替えてあげますからね」

  そういって、ラニスは子供の送迎作業に戻っていった。

  子供がいなくなり、室内にはヒーローだった二人組だけが残された。

  オレンジの光が、強く室内を照らす。

  「おむつ替えの前に、今日は良い子のご褒美をあげますよ」

  ラニスに背中から抱き着かれ、膝の上に座らされる。

  おむつのせいで足が閉じず、相棒に支えられ、ぬいぐるみのように足を広げて座る。

  「ほ、褒美?」

  「これ、ですよ」

  困惑する目に、手持ちの電動マッサージ機が写った。

  いわゆる電マと言われる装置だ。

  「な、なんだね? それは?」

  「マッサージ機ですけど、見たことありません?」

  「ないが?」

  ポカンとした黒猫の顔に、相棒の白いムフロンはくっくと苦笑した。

  「本来の用途とは違うんですが、こうやって、ぐーっと押し込んで使います」

  おむつの前部に電マを押し当てられる。

  ぐしゅっと大きな布におちんちんが圧迫され、ぐりぐりと押し当てられている感触はある。

  「こ、こそばゆいな……」

  「それで、スイッチを入れます」

  ヴヴヴヴ……

  電マの先端が高速振動を繰り返す。

  「ああっ……あっ……あーっ」

  濡れたおむつ越しに、小刻みな振動がレギーのおちんちんに届く。

  おむつの圧迫感にも気持ちよさを覚えつつあり、大きな布の中で、あっという間に股間が屹立した。

  ヴヴ……

  そこに容赦なく振動の刺激が与えられる。

  「ご褒美ですよ。気持良いですか?」

  耳元にラニスの囁きと吐息を吹きかけなる。

  「あっあっ」

  ヴヴ……

  電マが小刻みな振動を繰り返し、じんわりと沈みこ込んでいく。

  おむつ越しに、大きな振動が伝わる。

  「あっやっ」

  ビュクッ、ビュクッ

  レギーの体が大きく跳ねあがり、おむつのなかに射精した。

  「白いおしっこ、お漏らしできました?」

  はーはーと肩で息をして、ぐったりと相棒にもたれかかりながら、こくこくと頭を縦に振った。

  「良い子ですねえ」

  ヴヴ……

  またも電マがおむつに押し付けられる。

  「うあっ、やあっ、やめないか。い、イッた……イッたから、もう」

  射精直後の敏感なおちんちんに、さらなる刺激が走る。

  グシュ……グシュ……

  暴れると濡れたおむつに擦れ、またおちんちんが強く圧迫される。

  「お漏らししーしー」

  「あっ……あう……うう……」

  シュウ……

  電マの刺激に耐えきれず、おむつの中にお漏らしをしてしまう。

  お尻がじんわりと温かい。

  「あー……うーあー」

  ぐしょぐしょになったおむつで大股開きになって、目を白黒させる。

  それでもまだ、電マは股間にあてがわれる。

  「今日はお兄ちゃんにおしっこを教えてくれて、おねしょも言えたし、とっても良い子でしたねえ」

  ヴヴ……ヴヴ……

  小刻みな振動が、おむつを揺らす。

  「やあっ……もう……」

  「たっぷりご褒美をあげますよお」

  ヴヴヴヴ……

  電マの先端がおむつに沈み込む。たっぷりと重なった当て布を電マが震え、振動でおむつが揺れる。

  「あーっあーっ」

  またも体がビクンと跳ねる。

  ビュクッ……ビューッビュー……

  何度も電マを押し当てられ、お漏らししているのか、射精しているのかも分からないくらい、レギーは何度もおむつを濡らした。

  チカチカした視界がようやく収まり、気が付くとおむつとスモックの恰好で、ラニスにもたれかかっていた。

  「たくさんおねしょして、良い子ですねえ」

  クシュ

  いつの間にか、布おむつは新しいものに変わっている。

  頭が冴えてきたせいで、この恰好がまたさらに恥ずかしく感じてしまう。

  くしゃくしゃ

  相棒に頭を撫でられる。

  「や、やめないか」

  払いのけようとするが、体がうまく動かない。

  「いいじゃないですかあ」

  この場所にいると、なぜか彼のいうことに本能的には逆らえない気がしてしまう。

  「ふざけないでくれたまえ、私は、大人でだね……?」

  「ここにいる間は、おむつのおねしょヒーローなんですから」

  ポンポンと、スモックから飛び出した、大きなおむつを撫でられる。

  「それは……その……」

  「約束ですよ。ヒーローの貴方を幻滅させることは、私が阻止しますからねえ」

  くしゃくしゃ

  また頭を撫でられる。

  「それはその……感謝……している」

  「だからここでは?」

  レギーの顔が真っ赤に染まる。

  「お、おむつが取れるまで、あ、赤ん坊の……」

  「レギーは、おむつのヒーローお兄ちゃんですよ」

  最後にぎゅっと抱き寄せられ、二人はキッズプレイスを後にした。

  スモックにおむつ丸出しの恰好で、寄宿舎まで歩かされ、レギーはまた顔が赤くなる。

  最強のヒーロー、レギオン

  おむつのヒーローお兄ちゃん、レギー

  レギルベルトの二重生活は、まだ続くらしい。

  おしまい