「さようなら」
全てはこの一言から始まった。
何気ない挨拶の言葉に永遠の別れの意味を込めたのは、これがきっと最後になると確信していたからだろう。
押し倒し上にまたがり、抵抗する首をギュッと強く締め、そのまま細い首に爪を立て、顔が青ざめてきた頃に首に突き刺した爪で肉を引き裂いた。
肉が裂け、血が飛び出て、その暖かさに絶望した。
悲鳴ではない呼吸音が、耳に響いていた。
緑の瞳に、その最期の姿がカゲロウのように揺らいで見えた。
ボクは、涙を流していた。
こうして自ら手を下すのは二回目だ。
幾度となく繰り返した一日の中で、救うために翻弄した過去が何千回と存在する。その何千回の中で何度も死に様を見届け、自分も無様な死に様を残してきた。
しかし、こうして自ら手を下したのは二回。
体と心の両方を殺し完全な別れを告げ、動かなくなった身体を放置してーー。
いろんな初めてをなすりつけて、ボクの初恋は、夢より見飽きた現実となった。
→→→→→→→→→→→→
そんなふうに始まった終末のカウントダウンは、日付の変わる直前に0になって、完全に世界は終焉した。
そして、時間は進み、24時0分1秒を刻み始めた。
世界は無音となり、下品な蛍光の光が徐々に消え、美しい星が満点の輝きをくれた。
青白い輝きに照らされて、まるで、先までの惨事など誰も知らないかのように、静かに世界を包んでいた。
そして、再びボクは、今度は自らの意思で始まりの丘へと足を運んだ。そこに放置した遺体を弔うためである。
確信はあった。これが最後になると、心のどこかでそう確信していた。だから、真っ先に手を出して、地獄を見せる前に殺した。
だが、その死に様は、歪んでいた。
恐怖と絶望しかその顔にはなかった。
その事実が背筋を優しく撫で、耳元で囁いた。
今だけは、正常に進む世界を恨んだ。
時刻は26時を回っていた。
遺体を埋めて、したのは謝罪だけだった。世界が終わった今、弔いなどなんの意味も持たない。謝罪も後悔も希望も未来も、あるのはボクの命だけだ。
だから、ボクのしたことに意味を持たせるために、この儀式は必要だった。
マオウとして、世界を滅ぼした罪から逃れないように。この墓標に花を備え、祈ることを。どこまでも自分勝手で自分本位な後悔の念を、この世界から忘れ去らないために。
目を開けると、日が登っていた。
世界を滅ぼして、眠って、目を覚ましたらそこには偉大な太陽が頭を見せていた。
何もない世界だけど、何も無くさせた世界だけど、太陽と月は、そこにあるのだった。
赤い目を擦り、夜明けを眺める。
新しい一日が、始まったーー。