変身物―似てない兄弟

  夏。広大な北の大地は蒼色に輝く。

  どこまでも続く青空と緑の草原、その中で悠々と草を喰む大きく育った赤毛の牛達。

  その肥沃な大地の恵を受けた家畜達に負けないほど巨大な男が歩いていた。

  短く刈った薄いごま塩頭、モジャモジャに伸びた髭、作業着から飛び出た大きな手、その甲を覆う濃い体毛。

  胸筋に押し出されて空いた胸元からは熊のような剛毛が覗き、いくつか白い毛が混じっている。

  肩には黒帯で丸めた柔道着を引っ掛けて、小高い丘の上にあるボロボロの厩舎へと力強く登っていく。

  「よー、やっとるかあ?」

  地面を揺さぶるように低く、それでいてどこか温かみのある声が、厩舎を改装した柔道場で練習する子供達にかけられる。その声に子供達は笑顔で振り向くと、一斉にその大男に集まっていった。

  「先生ぇ! 見てみて、巴投げできたんだよ!」

  「先生、ジイちゃんが鹿引いたから肉取りに来いって」

  「先生ぇぇ、宿題手伝ってぇぇぇ」

  皆口々に話しながら、それぞれが男の大きな脚にしがみつき、太い手首がのぞく袖口を引っ張る。

  しかし、男は微動だにしない。畳に根が張った大木のように沢山の子供達を笑いながらどっしりと受け止めていた。

  「今日もみんな元気だなぁ」

  男の名前は伊藤正彦。

  家畜達と暮らしながら、空いた時間には彼の唯一の楽しみである柔道を子供達に教えていた。

  その柔道の教え方は太陽のように暖かく優しく。雲のように自由で。子供達やその家族、みなに好かれていた。

  「先生、さよぉ〜なら〜」

  「おーう、きいつけて帰れよぉ〜」

  最後まで練習していた子供達が自転車にまたがって坂道を降りていった。

  その小さな背中が見えなくなるまで正彦は道場の前に立って見守る。

  空は既に暗闇におおわれて、草原の端に紅い光が残るのみだ。

  汗をかいて火照っていた身体に夕暮れの風が心地いい。

  すでに正彦は道着を脱いで半袖短パンのいで立ちになっている。

  彼の大きな身体にはいささか小さすぎるような気がするが、ここは草原地帯の真ん中で道場関係者しか訪れる者が居ない。

  なのであまり身に着けるものに頓着しないのだ。

  もう少し気温が高くなれば、練習終わりに服を脱ぎ捨て備え付けの水道で汗を流すのだが、今日はそこまで暑くはない。

  「んーっ、くぅぅ今日も疲れたのぉ」

  正彦はその巨体を大きく伸ばし、今日一日の出来事に思いを馳せる。

  小さな子供達が楽しそうに柔道をする姿。

  彼らの姿にありし日の己と弟を重ねた。

  もう何十年と会っていない。

  酔っ払った町長の話では、弟はえらい大学の教授になったという事だけ聞いていた。

  町の自慢だと。

  連絡はとっているのかと。

  正彦は己の大きな手を見つめる。

  無骨で豆だらけの汚れた手。爪の間には堆肥が挟まっている。

  「俺はダメな兄ちゃんだからなぁ」

  2つ違いの弟、伊藤義信は大きく育った兄と違って葦のように細い男だった。

  父親ゆずりの太い眉だけが彼ら兄弟の共通点であった。

  それでもあまり大きさの違わない小さな頃は同じように柔道を楽しんでいたのだが、2人の体格差が広がっていくように、彼らの距離も広がっていく。

  中学にあがる頃には、彼ら兄弟はでこぼこ兄弟と言われるほど見た目が異なった。知らぬ人が見れば赤の他人だと思うだろう。

  だが真面目そうな太い眉根だけは、全く異なる体格であっても2人の繋がりの証となっていた。

  体格に恵まれない弟は、その分だけ勉学に励んだ。

  結果、兄は道内の公立の農業高校だったが、弟は東京の有名私立高校に合格したのだ。

  「やったなぁ」

  裸電球のぶら下がった男兄弟にはいくらか狭い室内。

  小さな窓の向こうには真っ白な雪原が月の光で輝いている。

  2人は久しぶりに互いの顔を見て言葉を交わした。

  嬉しそうに合格を伝える弟の顔。

  しばらくの間、弟のこんな明るい笑顔を見ていなかった兄は喜びが極まって、つい弟の細い肩を強く抱きしめてしまった。

  口下手な兄の精一杯の祝福であった。

  「やめてくれっ」

  しかし、弟は兄を拒絶した。

  太い眉を八の字にして、今にも泣きそうな顔のまま、弟は部屋から飛び出していく。

  それっきりだった。

  顔も合わせず、言葉も交わさず。狭い部屋で寝る時もただ無表情。

  正彦から言葉をかけても、雪の降る音しか聞こえない。

  ついには、義信が東京に旅立つ日にも氷のように冷たく大きな壁が2人の間に挟まっていた。

  遠く離れていく汽車を眺めながら、正彦はようやく気がついたのだ。

  自分は弟に嫌われているのだと。

  以来、彼ら兄弟を繋ぐものは無くなってしまった。

  両親とは連絡をとっていたようだが、正彦とは電話や手紙のやりとりもない。

  老いた両親の葬式にも来なかった。

  親族からは親不孝者と言われたが「あいつは立派な仕事をしてるんだ」と弟をかばった。

  「俺がもっと気がきけばなぁ」

  手のひらの深い皺。

  「にいちゃんの手はでっかいなぁ」幼い弟が無邪気に手を合わせてきたのは、いつだったのか。

  稽古の帰り道。短い夏の夕暮れ時に。白い胴着を肩からかけて、兄弟2人で帰ったのは幻だったのだろうか。

  稜線の赤色が消えていく。

  正彦は帰り支度をしようと、その大きな背中を丸めて道場の中へと入ろうとした。

  「兄さーん」

  遠くから声がした。

  星の瞬きのように細く響いて、それでも兄の老いた耳にはしかと聞こえた。

  「ノブかぁー?」

  夜の草原に地を震わせて弟の名前を呼んだ。

  遠く轍の向こうから、細長い影が手を振って歩いてくる。

  「正彦兄さーん!」

  丘を登るにつれ、その影の輪郭がはっきりしてくる。

  背広姿の初老の男。

  中折れ帽に丸い眼鏡。小ぶりのボストンバック。そしてステッキ。

  イギリス紳士のように真っ白な髪と髭。

  「久しぶりだね」

  眼鏡の奥に太く真っ白な眉毛をのぞかせて、義信はあの頃のように微笑んだ。

  「ううっ・・・」

  「わわっ兄さん!」

  数十年ぶりの再会に、兄は思わず弟を抱きしめた。

  涙でくしゃくしゃになったその顔を見られたくなかったのだ。

  「ごめんね・・・。ただいま」

  弟はその太い腕にそっと手を添えて、数十年ぶりの抱擁を受け止める。

  彼らの長い冬がいま終わったのだった。

  「まさか、この道場がまだあるなんてね」

  「おうよ。修理に修理を重ねてな。松吉の奴にも手伝ってもらってな」

  「松吉さんは元気にしてる?」

  「ぎっくり腰になってからこっちの方は全然だけどよ。まだまだ働いてるなぁ。最近じゃラジコンみたいな機械をいじくってるぞ」

  「あぁ、農業用ドローンか。相変わらず新しい物に目がないね」

  ささくれた畳の上、あぐらをかいて座り込んで取り止めもなく言葉を重ねる。

  義信が手土産に持ってきた日本酒を水垢のついたコップに注ぐ。

  透明な液体がチロチロと流れ落ち、時と共に白くぼやけた器を満たした。

  「乾杯」

  「おうっ」

  兄弟はその酒をぐいと飲み干す。

  空になったコップに、今度は兄が酒を注いだ。

  「ノブが飲めるとは知らなかった」

  「父さんの血かな。これでもそこそこ酒は飲むんだ」

  「へへっ、俺もよく寝しなに飲んでるぞ。しかし、この酒はなかなか強いなぁ。腹の中がくぅっと熱くなる」

  弟が帰ってきた事が嬉しいのか。兄はコップの酒を水のように飲み干していく。

  弟もまた兄に負けじと酒を飲む。

  2人とも笑顔を浮かべていた。

  久しぶりの家族の団欒。

  しかし、嬉しそうな兄の笑みとは対照的に弟の口端はどこか卑屈に歪んでいる。

  「兄さん。久しぶりに柔道でもやらないか」

  「んおっ、どうした急に」

  持ってきた酒が空になった頃、義信は唐突に正彦を柔道に誘ってきた。

  「昔を思い出してさ。小さな頃は僕とよく乱取りをしたじゃないか」

  「いや、しかし・・・」

  確かに小さな頃に正彦と義信はよく柔道で遊んでいた。

  じゃれ合うように勝負をしたり、時には真剣に勝ち負けを競い合った。

  だが大人になるにつれ、兄と弟の体格差は広がって、義信は兄に勝てなくなり、さらに体格に恵まれなかった義信は他の生徒にも負けるようになった。

  次第に道場から弟は遠のき、兄との溝が広がったのだ。

  そんな柔道を、弟は望んでいる。

  「いいじゃないか。遊びだよ。遊び」

  「ふぅむ・・・道着はあるのか?」

  「ああ、持ってきてるよ」

  ボストンバックの中から真っ白な柔道着を取り出す。

  それは義信の身体よりも随分と大きい。どちらかというと、兄の正彦が着た方がピッタリしそうな大きさであった。

  「随分と大きいみたいだが・・・お前が着るのか?」

  「ああ、そうだよ。今日の為に特別にあつらえたんだ」

  酒のせいなのか弟の瞳はやけに鋭くぎらついていた。

  「お前がやりたいならかまわんが・・・」

  そんな気迫に押されてか、兄は弟の願いを受け、その場で私服を脱いで柔道着を着込んでいく。

  柔道と酪農作業で鍛えられた筋肉。

  日頃の食事と寝酒で蓄えられた脂肪。

  そして熊のように毛深い身体。

  男同士。いや家族の前だからこそ、兄はその剛体を晒しながら使い込まれた道着を身に着ける。

  そんな無防備な姿を義信の瞳孔が写している。

  その紳士然とした風貌に似合わぬ怪しい光は、これから起こる事に期待し、兄の身体を舐めるように見つめている。

  「さぁ、準備できたぞ」

  「僕もできたよ」

  鬼に立ち向かう一寸法師。それ程の体格差が二人にはあった。

  兄、正彦の柔道着から飛び出した四肢や、胸は、太い樹木や熊を思わせる。

  たいして、弟、義信の何とも頼りない事か。まるで大人の柔道着を子供が無理をして着込んでいるようだった。

  だがしかし、そのまなじりは兄と同じ太い眉も相まって、体格差をものともしないほどの熱量を帯びている。

  その熱に当てられ、正彦の酒で緩んだ気持ちが引き締まる。

  ボロボロの柔道着の襟をただし、一礼する。

  対峙する義信もまた礼を返す。

  二人の間に静かな緊張が走る。

  真剣勝負さながらに道場の空気もまた奇妙な熱を帯び始めていた。

  初めに動いたのは義信だった。

  兄の襟袖を掴み、その重心を揺さぶる。

  しかし、大木のような正彦の堂々たる体躯は微動だにしない。

  しゃにむにうちかかる弟をまるで生徒のように優しく見つめる兄。

  先ほどまでの異様な緊張もどこへやら、兄はこうして弟と柔道を楽しんでいた幼き日々を懐かしむ余裕すらあった。

  それ程までに兄と弟の差は大きかった。

  その力の差が彼ら兄弟を引き裂いていく。

  弟の義信が懸命に技をかければかけるほど、そのひび割れはより深く暗く沈んでゆき渓谷のような溝ができる。

  もはやその溝は地の底の底まで深くなり、覗いてみても暗闇しか見えない。

  「ぐぅっ、くそぉぉっ」

  信彦から漏れる声は苦悶に満ちていた。

  兄から技をかけられたわけでも、手を払われたわけでもない。ただまっすぐ立っている兄を投げ飛ばせない己の非力を嘆いている。

  「くっ」

  義信は膝から崩れ落ちた。額からは滝のように汗を流し、息も絶え絶えである。

  対して、兄の正彦は弟の事を心底心配し、その表情には戸惑いを浮かべていた。

  なぜこんなに必死なのか。なぜこんなことをするのか。

  弟の遊びを越えた奇行ともとれる行動を必死に理解しようとしていた。

  なぜなら兄はもう弟を離したくなかったからだ。

  「大丈夫か?」

  兄の大きな手が弟の肩に触れる。

  そのか細い肩がピクリと大きく震えた。

  かつて兄に抱きしめられたあの心の震え。

  家族を越えて兄弟の境を越えて、あの喜びの中で弟である義信は兄へのどうしようもない愛情とドロドロに煮えたぎる欲情を理解してしまったのだ。

  若かりし頃は、その感情を否定して思わず愛しい兄の手を拒絶してしまった。

  しかし、マグマのような欲情は日増しに彼を内から焦がし、次第にその研ぎ澄まされた知性を灼熱色に狂わせていく。

  あれから数十年。それはもうどうしようもなく。炎の川となって義信の心から流れ落ちていた。

  「ああっ、兄さん・・・」

  義信は兄の手を舐めた。

  節くれだち毛の生えた太い指を、目を細め舌を伸ばし、果実の露を舐め取るように。

  「なっ!?」

  突然の事に正彦は思わず手を引いた。

  しかしその手は義信によって捕まれてしまう。

  振り解こうとする正彦。

  その力を利用され、バランスを崩された兄の巨体はあっさりと尻餅をついてしまう。

  「ふふふっ、兄さんを転がしてやった」

  信彦はそんな兄を見おろす。その姿は異様であった。

  まるで天から覗かれているように、その爛々と光る眼差しはあまりにも高いのだ。

  兄はまだ気がついていなかった。

  弟の着ていたダボダボの柔道着。その裾丈が次第に弟の身体にピッタリとあい始めているのを。

  柔道着が縮んでいるのではない。

  ゴムが伸びるように、信彦の細身の身体が長くなりはじめていた。

  腕が伸び、足が長くなり、その背丈も高くなる。

  細い身体はそのままに、骨と筋肉が引き伸ばされていく。

  それは夕暮れ時の影のように、どこか不安で悪魔めいていた。

  「計算通り兄さんと同じ背丈になるかな・・・ふふふっ」

  すっかり弟の身体は大きく伸びて、兄と同じ大男に変わってしまった。

  だがそれは背丈だけで話だ。

  その腕や足、胸や首は幽鬼のように痩せている。

  巨大なミイラのような身体が尻餅をついた兄に覆い被さっていく。

  「うおおっ」

  咄嗟に支えようとした兄をそのまま畳に押し付ける。

  彼の大きな背中が道場の畳に触れるなど、久方ぶりのことであった。しかもその相手は優男の義信なのである。

  「の、のぶ。お前いったいその身体は!?」

  「僕の研究の成果だよ。兄さんの体組織を取り込んで、僕の遺伝子の眠っていた部分を刺激したんだ」

  「遺伝子?」

  「僕にも父さんや兄さんのような成長因子があるんだ。それを目覚めさせてやれば・・・ほら見てて・・・」

  そう言うと、義信は正彦の首筋に吸い付いた。さながらそれは白黒映画の吸血鬼のように筋肉の浮き上がった首に顔を埋め、甘く噛みつく。

  「あっああっ」

  正彦の身体が痙攣する。

  首筋から、義信の口が触れている所から、何とも言えない快感の波が身体中に広がっていくのだ。

  「やめろっノブっ!」

  太い腕で弟を突き放そうとするが、力がうまく入らない。

  ジタバタと丸太のような手足を動かすのだが首筋を啜る弟の唇から逃れる事が出来なかった。

  「プハァァあぁぁぁ、なんて素敵な感覚なんだろう・・・いま兄さんの身体から滲み出た老廃物が僕の中を駆け巡って、遺伝子を刺激していくのがわかるよ」

  そう言って義信は兄に見せつけるように手を広げた。

  柔道着からのぞく細い手首は枯れ木のようで、長い指先はいまにも折れてしまいそうだ。

  それがギュチギュチと奇妙な音を立てて膨れていく。

  筋肉と骨が、弟を構成する細胞同士が、恐るべき速度で分裂し、それらがぶつかり合って擦れる音が、肥大化していく指先から不気味な音を鳴らしているのだ。

  「あはっ、ほらほら兄さんや父さんみたいにゴツゴツした男の手になっていくよ」

  義信は嬉しそうに変わっていく手を見つめている。

  その狂気が伝播していくように手から手首、そして腕へ。ギュチギュチと異音が移動する。

  女のように細かった手首がウィスキー瓶のように太くなり、腕はぶかぶかだった柔道着の袖を内側から破くように筋肉と骨の厚い束に変わる。

  首から胸にかけて筋肉が波打つと巨大な山脈が胸元を押し上げ、両肩が盛り上がった。

  肋骨が浮き上がり脂肪でぽっこりと膨らんでいた丸い腹は別種の生き物のように動き回ると、分厚い腹筋と脂肪に覆われた熊のような腹に変わる。

  首から胸にかけて筋肉が波打つと巨大な山脈が胸元を押し上げ、両肩が盛り上がった。

  肋骨が浮き上がり脂肪でぽっこりと膨らんでいた丸い腹は別種の生き物のように動き回ると、爆発するような勢いで分厚い腹筋と脂肪に覆われたレスラーのような腹に変わる。

  その勢いで腰に巻いていた白帯が千切れ飛んでしまった。

  薄い尻肉。ヒョロ長い両脚。足の甲には骨が浮き出ている。

  そんな糸のような足もまたギュチギュチと細胞がぶつかり合いながら膨れ上がり、広大な大地を踏み締める逞しい男の足へと変わっていくのだった。

  「あっくうぅぅ、兄さん見て、見てよほら、兄さんと同じ腕、同じ胸、同じ脚だ。腹の脂肪だっておんなじだよ。ははっ兄さんのお腹って結構柔らかいんだね」

  義信な正彦にまたがりながら己の腹を揉んでいた。

  帯が千切れてはだけた胴着から、逞しい胸板と腹筋が見えている。それは体毛が生えていないことを別にすれば、稽古の傷や皺の走り方まで全てが兄の正彦と同じであった。

  「ほら、兄さんも触ってごらんよ」

  逞しい腕を無骨な手が掴み。自らの筋肉を触らせる。

  脈打つ肌は熱く。激しい鼓動が正彦に伝わってくる。

  脇腹に残るトラクターとぶつかった傷痕に触れて、彼は本当に弟が自分と同じになっているのだと自覚し、そして恐怖した。

  「な、なんで・・・」

  「なんでってそりゃあ兄さんが大好きだからだよ。好きで好きで好きすぎて・・・。だから僕は兄さんみたいに逞しくなりたいと思ったんだ」

  「俺のことが・・・好きだと・・・?」

  「そうだよ兄さん。子供の頃から大好きだったんだ。でも、僕と兄さんは違いすぎた。それに・・・男の僕が兄さんを好きだなんて・・・そんなの嫌われるに決まってる。だから、離れようとしたんだ」

  義信の狂気が薄らいで、その瞳はうっすらと潤んでいた。

  身体がそっくり兄と同じに変わっても、その顔はまだ学者然とした細面のままである。

  その顔の深い皺と目の下のクマが彼のこれまでの人生を容易に想像できた。

  「あぁ、でもあの日。高校に受かったあの日に、そんな僕の虚勢は打ち砕かれてしまった。兄さんに抱きしめられたあの日から。僕は狂ってしまったんだよ」

  義信は兄の両手を彼の頭上へとまるでバンザイさせるように動かす。

  兄はもはや抵抗していなかった。ただ呆然と弟の言葉を反芻し、取り止めのない弟との記憶を思い浮かべ、次々と波打つように感じる多幸感でこの状況をうまく理解できない。

  それには理由があった。

  弟が土産に持ってきていたあの酒である。

  あれには義信の長年の成果である遺伝子変化を誘発させる薬と催眠と催淫作用のある薬剤が混ぜられていたのだ。

  あらかじめ解毒薬を飲んでいた弟とは異なり、兄の頭は時間とともに鈍っていく。

  「薬が効いてきたかな? 大丈夫、会話ができなくなるほど強い薬じゃないよ。ただ身体を動かすのが面倒になって、気持ちいい事が大好きになるだけだから」

  「そんなことぉやめるんだぁ」

  「やめないよ。僕が何年待ったと思ってるんだ。大丈夫、兄さんを気持ち良くするために僕はこっちの方も沢山勉強したんだよ」

  義信のゴツゴツした指先が兄の柔道着の胸元へと潜り込む。その厚い布地の下に隠された薄く黒ずんだ突起をクリクリとこね始めた。

  甘美な刺激が兄の強面顔を歪める。

  乳首から感じる熱と感触は思わず声が漏れるほど気持ちが良かった。

  「やっぱり兄さんもここで感じるんだね。僕たちは似てなくても兄弟なんだ」

  義信は嬉しそうに笑うと両手を上げてバンザイしている兄の脇へと顔を近づけていく。

  そこは柔道着をぐっしょりと濡らすほど汗染みが浮かんでいた。

  体温によって熱された汗は、よく発酵した酒のように脇から芳醇な香りを放っている。

  一般的に言えば目もくらむような悪臭だろう。

  汗と老廃物の混ざり合った生ごみのような汚物の密集地帯。

  だが、そんな悪臭も義信にとっては蠱惑的香りであった。

  わき毛の生い茂る肉の谷間は、彼にとっては御馳走にほかならない。

  欲望で蕩けた顔を兄の脇へと近づけて濡れた布地ごと舐めしゃぶっていく。

  鼻が曲がるような濃い雄臭。舌が痺れるような酸味と苦み。

  長年使われてきた柔道着越しに味わう兄の脇汗は弟のたたなくなって久しい男根を震わせた。

  義信は恍惚とした表情を浮かべながら、丹念に兄の脇を味わっていく。

  「んくっ、そんなっところをぉぉんっ」

  兄もまたそこを舐められる快楽に悶えていた。

  全身の筋肉を痙攣させ、巨大な男根をいきり立たせる。

  くすぐったさと羞恥の中に混ざり込んでいる快楽。そんな初めての感覚が己の臭い脇から生み出されているのだ。

  「ノブっノブぅぅ、やめてくれぇぇぇ」

  未知の快感に兄は喘ぐことしかできない。

  薬で朦朧とするなか、力を振り絞って弟を払い除けようとしても、同じように逞しい筋肉を身につけた義信には羽虫ほどの抵抗に等しい。

  「んああっ」

  それどころか乳首を弄られて女のように嬌声をあげてしまう。

  もはや兄の男根ははち切れんばかりに勃起し、射精寸前である。

  「ふぅ・・・そろそろかな」

  義信がようやく顔を上げた。

  ヨダレと汗でその口元は怪しく光り、ぬらぬらと輝いている。

  それはどこか狂犬のようで、鼻筋が通った知的な彼の顔とはチグハグに感じられた。

  ふと彼の頭皮から一雫の汗が流れ落ちた。

  ロマンスグレーの髪をワックスで綺麗に撫で付けていたその髪型はとっくに崩れてはいるのだが、その頭髪が少しずつ後退していく。

  それとともに義信の身体から流れ出す汗の量も増していくのだ。

  「ああっ僕の内側から兄さんが溢れてくるのを感じるよ」

  それはフェロモンであった。

  人体は様々なフェロモンを生成する事によって興奮や悲しみを制御する。

  それは複雑な調合をした香水のように個々人で異なる配合である。

  それを義信は親愛なる兄と全く同じにしたのだ。

  いまや彼から分泌される汗や唾液、臭いに至るまで兄と全く同じになった。

  「こうしているだけで汗が出る。ほら兄さんも味わって」

  弟の脇が兄の顔を押さえ込んだ。

  滝のように流れ出した汗は、義信の真新しい柔道着の脇に汗染みを広げていく。

  「んんっ!?」

  そのあまりの臭さに兄は両脚をばたつかせるのだが、逃げることなどできやしない。

  目に染みる酸っぱい臭いは鼻や口を通って彼の脳を揺さぶる。

  「そんなに嫌なのかい? 自分の臭いなんだからもっと喜んで欲しいなあ」

  雄臭で気を失いかけた時、正彦の顔が開放された。

  新鮮な空気を吸い込んでいると、兄を押さえつけていた義信はモゾモゾとズボンを脱ぎ始めた。

  今は異なるが、昔は柔道着の下には何も身につけていなかった。

  帯を解き、ズボンを脱げば生まれたての姿がそこにある。

  義信もまさにそれであった。

  柔道着のズボンを脱ぐと、新しく生まれ変わったフェロモンで蒸れる。義信の萎えたチンポがぶら下がっていた。

  兄と同じ見上げるような大男に変わっても、そのチンポだけはいまだに優男の弟のモノであった。

  「チンポは僕のだけど臭いはもう全然別物だ・・・。兄さんにはこれからこの臭いにも慣れてもらわないと・・・」

  そう言って、弟は脱ぎ立ての柔道着のズボンを兄の口に突っ込んだ。

  わざわさ、その臭い――フェロモンの染み込んだ股間部分が口に入るようにして。

  「んんんっっっ!!!」

  脇よりも臭い。強烈な雄臭が脳を焼く。

  汗、尿、痴垢、先走り。

  複雑なフェロモンが正彦の口内でブレンドされその混沌に目を回す。

  「気に入ってくれたかな。でもまだ足りない。もっともっと兄さんにならないと」

  下半身を露出して萎えたチンポをいじり始める。文系の義信は精力もあまりなく、そうじて陰茎や陰嚢はこぶりである。

  きゅうりのようなチンポと、梅干しのような金玉に、ちぢれた陰毛がほんのりと生えているだけのみすぼらしい股間だ。

  そんなイチモツを弄りながら、彼は器用に兄の胴着を脱がしていく。

  黒帯を解き、上半身をあらわにさせ、前袋が隆起しているズボンの細紐を緩める。

  むわりとした白い熱気とともに巨大ナマズのようなチンポが腹を叩いた。

  半分皮を被った鬼頭は黒ずみ、先端からはとめどなく先走りを垂れ流し、いまにも精の奔流を溢れさせようとしている。

  「あはぁぁ」

  義信はその立派なチンポではなく。その下にぶら下がる陰嚢から目が離せなかった。

  それは長い年月によって成長し熟された菴摩羅。洋名ではマンゴーと呼ばれる果実そのものだった。

  丸太のような両脚に挟まれながらも圧倒的な存在感を放ち。

  年月によって熟成し、なんとも言えない甘美な芳香が漂う。

  その魅力的なフルーツは、今まさに子種を打ち出そうと心臓のように激しく脈打っていた。

  「これが・・・兄さんの・・・」

  幼い頃、兄とともに泳いだ時に目に焼き付けた子供チンポとは違う。

  雄大な北の大地で暮らし、酪農と柔道によって成熟した大自然そのもののような巨大な陰嚢だ。

  義信はそれに触れようと手を伸ばしかけた。だがしかし、歯を食いしばりその欲望に耐えて手を止める。

  「ここはまだ取っておこうね」

  解いた黒帯で兄の陰茎の根本を縛る。

  尿道をしめられ、射精寸前だった砲身はますますその身を硬くした。

  「兄さんの身体・・・子供の時よりかっこいいね。ステキだよ」

  そう言って、義信は正彦の裸体を撫でる。

  ゴツゴツした手が筋肉と生い茂った体毛を掻き分けていく。

  正彦の肌は紅潮し五十数年の人生でも出したことのない甘い声を漏らしてしまう。

  

  男に――弟に触られて、女のように悶えてしまう自分自身に正彦は戸惑っていた。

  女を抱いたことが無いわけではない。

  学生時代は先輩後輩とともに繁華街に繰り出しては、その場の流れで女子をナンパし風俗にも行った。

  何人かの女性とも付き合い、結婚を考えた彼女もいた。

  しかし、籍を入れるまでには至らなかった。

  女のしなやかな裸体に興奮し、そのほどの中に熱く硬くなった己のチンポを突っ込んで、思うさまに精を放っても正彦の深い部分はどこか冷めていた。

  それが相手にも無意識に伝わってしまっていたのかもしれない。

  「貴方は良い人だけど・・・私じゃないんだと思う」

  四十前に付き合っていた彼女の別れの言葉。

  それ以来、正彦は誰かと身体を重ねる事はなくなった。

  内側から燃えるような性欲は厳しいトレーニングと一日数回の自慰で耐えた。

  それも年齢とともに落ち着いて、穏やかな晴耕雨読の生活に慣れ始めていた。それなのに・・・。

  「んあぁっ、ノブぅぅ」

  弟の手が己の身体を撫でるたびに熱い猛りがこみあげてくる。

  腕を撫でられると身体が火照り。太ももに触れられると、縛られた男根が痛くなる。

  腹に手のひらが乗るとジンジンと疼きが止まらなくなり、胸を弄られると甘い声が溢れた。

  その先端、指先でもてあそばれて硬くなったそこを弟の口先がついばんだ。

  「ひぁぁっ」

  正彦の巨体が跳ねた。

  背中をのけ反らせ、顔を真っ赤にして。快感の波に岩のような肉体を躍らせる。

  信彦は暴れる兄の巨体を力ずくで押さえつけて、その胸の突起を――乳首をちゅうちゅうと吸い取っていく。

  時折、舌先で転がし、もう片方の乳首を指で弾く。

  「んっ、おうぅ、くぅ、ああっ」

  楽器のように高音と低音を響かせながら、その快楽から逃れようと四肢をバタつかせる。

  だが、薬によって感覚の朧げな肉体は、筋骨隆々となった弟から逃れる事は出来ない。

  そうして、義信は兄の乳首を吸いながらまた一つ兄の身体に近づいていく。

  次は体毛であった。

  熊のように全身に生い茂る兄の体毛。

  腕や足はもちろん、胸や腹、ケツの割れ目に至るまで、びっしりと生え揃った黒い密林。

  それらが新しい繁殖地を見つけたかのように、弟の殆ど無毛の身体から生え始めた。

  頼りない陰茎と陰嚢を真っ黒な剛毛が包み込み、そこから伝播するように腹や尻、胸から腕、指の先に至るまで濃い体毛が伝播していく。

  足の甲にまで毛が生えると、義信の身体の臭いがさらにきつくなった。

  体毛によって汗や汚れが溜まりやすくなり、その臭いは更に熟成されて兄と全く同じになった。

  そして弟の髪の毛が落ち葉のようにハラハラと落ちていく。

  ロマンスグレーの髪の毛が、兄と同じ短く刈りとった薄いごま塩頭に変わっていくのだ。

  「んっふぅ、どうだい兄さん。僕の研究は遺伝子情報だけではなく。その人の現在の状態すら同じにできるんだ。人為的に加工された髪の毛だって、この通り全く同じになるんだよ」

  そう言って、嬉しそうに兄と同じごま塩頭になった頭髪を撫でる。

  目鼻口以外は全く同じになった弟を見て、兄の心は奇妙な興奮が湧き上がっているのを感じていた。

  弟の狂気と薬の影響か、兄もまた何かが狂い始めている。

  「はぁ、兄さんの体毛と僕の体毛が絡み合って・・・抱き合う以上に繋がってる気がするよ・・・」

  胸と胸を合わせるように抱き合うと、互いの体毛が絡み合い恋人同士が手をつなぐように胸が高鳴る。

  互いの乳首がキスをするように擦れ合い。兄と弟は息を吐く。

  もはやその口臭すらも同じになった彼らは互いに視線を交合わせると、震える唇を重ね合わせていく。

  その柔らかな感触。求めるように絡み合う舌。

  二人をへだてていた心の壁が解けていく。それは更に兄弟の垣根が曖昧になり、より深く彼らの心を狂わせていくのだ。

  それを体現するかのように、次の変化が始まった。

  口づけをしながら義信の知性的な顔は、正彦のような野性味あふれる男の顔に変わっていく。

  高く伸びた鼻は、低く横に広がり。

  細く尖った顎は、力強い岩石の様な顎に変わった。

  歯並びも歯の大きさも、試合で取れた歯の代わりの銀歯すら、義信の顔は兄と同じになっていく。

  優しそうな少し垂れた瞳は、強い意志を感じる切り上がった瞳となり、そしてその声帯も同じ形になってしまった。

  「兄さん・・・愛してるよ」

  全く同じ顔と声が正彦に愛を囁く。

  兄の心の底から喜びが溢れ、上手く力の入らない手を動かし、もう一人の己を抱きしめた。

  弟の告白に応えるように自ら熱い口づけを交わす。

  同じ形の唇でくちゅくちゅとイヤらしい音を鳴らしながら、義信は喜びに震える手を兄の下腹部に滑らせていく。

  兄と同じ大男になり、その鎧のような筋肉を身にまとう。

  屈強な肉体から流れ出る汗と、野獣のような体毛すらも同じになり、ついには顔すらも一卵性双生児のように全く同じになった。

  あとは彼の最も望む物。似ていない兄弟が最も異なっていた部位。

  「あひぃぃ」

  弟の手で男根を縛っていた黒帯を解かれると、正彦は表情を崩して情けない声を上げた。

  せき止められていたものが尿道を駆けあがり、漏れそうになったのだ。

  「おっと」

  その気配を察して、弟は太短い指で兄の男根を絞めた。

  ビクビクと震えて空射ちをする陰茎の振動は力強く、それだけで弟はこれからの行為を想像し勃起障害の陰茎を震わせる。

  「僕のと違って元気だね・・・ふふっこれからはコレで兄さんと愛し合えると思うとそれだけでイキそうだよ」

  義信は兄の上にまたがると、屈伸するかのようにぶ厚い尻を下していく。

  むさ苦しいほど生えたケツ毛の中心。硬く閉じられた尻穴を兄の硬くそそり立つ男根の先端へと腰を動かしていく。

  「あっくううああぁぁ」

  鉄のように硬い亀頭を菊門に突き刺していく。

  かつての義信の身体は、何人もの逞しい男に抱かれてその尻肉はオマンコに等しかった。

  しかし、いまは兄の尻肉である。未開発の肉穴は硬く閉じて、兄の巨大な男根を受け入れる事などできない。

  だが、義信は兄の雄柱を受け入れたかった。

  数十年の鬱屈しねじ曲がった望みを。その狂気を。たかだか尻の痛み程度で諦める事などできなかった。

  「ふううぅぅ」

  尻穴を開くように力を込める。

  以前の肉体では簡単にできていたことが、この兄の身体では上手くできない。

  何でもできる兄でも、できないことがあったのだなと兄と同じ身体になってから気づき、自嘲してしまう。

  「つっ、仕方ない・・・薬で・・・」

  弟は立ち上がると道場の片隅に脱ぎ捨てていた自らの上着に手を突っ込んだ。

  もはやこの巨体では着る事が出来ない。その上着のポケットを引き裂くように薬液が入った瓶を取り出す。

  その瓶の蓋を片手で開け、沸き立つ臭気を鼻から吸い込む。

  「あっ・・・はぁぁ」

  途端に弟の表情が兄と同じように夢をみるように蕩けてしまう。

  手を尻穴へと伸ばし、その蜜壺に指を入れていく。

  一本、二本、三本の指が入っても、その毛深い肉穴は痛みではなく快感を生み出す。

  「兄さん・・・待たせたね」

  互いに呆けた顔でもう一度キスをする。

  正彦は弟の準備が終わるまで、自らの男根を手で押さえ、射精しないように我慢していた。

  これから行われる兄弟の交じり合いに、兄もまた期待しているのだった。

  「いくよ。正彦兄さん」

  「ああっ・・・のぶぅぅ」

  再び義信の尻穴が正彦の巨根を飲み込もうと動いていく。

  互いに熱い息を吐き、何かに耐えながら、全く形の同じ腰が近づいて、そして密着していく。

  「兄さん・・・」

  「のぶぅぅ」

  肌と肌が完全に密着し、正彦の巨根の根元まで義信の中に埋没した。

  兄の男根の脈動は熱い波となって弟に伝わり、それが身体中で快感として反響する。

  快感は身体を震わせ、正彦のチンポを締め付けた。

  それだけでもはや兄は限界であった。

  「のぶっ、おれはっもうっ」

  「いいよっ、いっぱいだしてっ」

  互いの手を握り合い、正彦は義信の身体を打ち上げた。

  「うごごぉぉ、ぐふぅぅぅぅ!!」

  酒で力を入れづらいにもかかわらず、己と同じ肉体を玩具のように激しく突き上げる。

  鉄のように硬い陰茎と、柔道で鍛えた強靭な足腰。そして何よりも性への衝動が兄の馬力を跳ね上げた。

  「あっあああっなかにっ中に出てるぅ!」

  既に正彦は信彦の中に精を放っている。

  それでも兄は止まらない。次から次にあふれてくる精液全てを愛しい弟に吐き出すまで、その打ち込みは繰り返される。

  「あひっひぃぃぃ」

  兄の精液を尻に受けたことで、信彦の情けないチンポがむくむくと硬くなっていく。

  萎えたチンポは下からの突き上げで、風に吹かれる柳のように揺れるだけだったのだが、その肉竿に固い芯が通り始めるとバネのように上下に揺れ始める。

  「んぎっ」

  「ああっっ」

  熱い種汁がそそがれるほど、弟のチンポは太く長く成長し、その根元の陰嚢もまた風船のように膨れていく。

  萎びたきゅうりのような陰茎は、大なまずのように黒く野太いチンポに変わった。

  小さなミカンと同じくらいだった陰嚢は、ずっしりと重い良く熟したマンゴーのように、ぼってりと重く垂れさがりその生まれ変わった精巣は、正彦とまったく同じ種汁を生産しはじめる。

  たちまち熱い塊は尿道を駆けあがり黒ずんだ亀頭へと昇りつめた。

  「いくっ!」

  ゼリーのような濃い汁が鉄砲水のように遠くまで飛んだ。

  それは真っ白の線で正彦の身体や雄臭い顔を汚していく。

  「ぐあっすごいっとまらないっ」

  兄と同じ陰茎になった義信もまた一発出しただけでは満足できない身体になっていた。

  上下に震える男根からは壊れたように次々と精液が打ち出され、自身の身体も正彦の身体も白く染めていく。

  兄弟の真っ黒な体毛に白い雪が降り積もるように精液が絡み、それを潤滑油にして義信は互いの乳首や腹を指先で撫でさする。

  そして、弟の精液がかかろうが兄の激しい打ち込みは止まらない。

  何度目かわからない精液を義信の中に注ぎ込むと、今度はその腰を掴み野獣のように声を上げてさらに強くチンポで揺すり上げていく。

  「おうっおうっ」

  「ああっいいっ」

  全く同じ顔が再び熱い口づけをする。

  互いに舌を伸ばし、ちゅぷちゅぷと濡れた音を鳴らしながら口内を犯し合う。

  上下の穴を繋ぎあった二つの同一の肉体。

  彼らはより強く溶け合うように互いの身体を強く抱きしめる。

  「「んんっ」」

  深い口づけをしながら、二人は全く同じ声を出して同時に射精した。

  全く同じ快感。ただ異なるのは陰茎からの快感か、前立腺からの刺激かの差しかない。

  「兄さん・・・」

  「のぶぅ・・・」

  透明な糸を引き二つの顔が離れる。

  潤んだ瞳には互いの姿がまさに鏡のように映りこんでいた。

  「これで僕たちは全部同じだ」

  義信は兄のチンポにまたがったまま、その肉体を兄に見せつける。

  力強く曲げられた太い二の腕には、筋肉のこぶがいくつも浮き上がり、熊のように濃い体毛が指先から二の腕。そして脇から胸へと流れるように繋がっている。

  胸は大きく盛り上がり、まるで世界地図のように黒々とした絨毯が広がる。

  腹は脂肪によって丸くなっているが、その奥にはみっちりと筋肉が詰まっている事が容易にわかる。

  その腹を真っ二つに割るように生え茂るギャランドゥの道は、いまだに固くそそり立ち白い汁を垂らす、なまずのような男根へと導く。

  太く長いその男根は、半分ほど皮の被った仮性包茎であるが、その規格外の太さによって逆に生々しい存在感がある。

  そしてその根元にたわわに垂れる巨大な陰嚢。濃い体毛が玉袋を獣のように覆い、あれだけ出してもまだ精を作り出そうと脈動を繰り返す。

  「ああ・・・」

  兄が腰を止め、すっかり逞しくなった弟の身体に触れた。

  己と全く同じ肉体。毎日のように鏡に映っていた見慣れた顔。

  「俺はいったいどうしちまったんだ・・・?」

  そんな自分そっくりになった弟。

  その姿に、正彦はときめきを感じているのだ。

  本来ならこんな異常な状況で、そんな事を思うはずがない。

  しかも弟は、チンポを尻穴にくわえ込み、股間の雄柱をたぎらせて汁を垂れ流している。

  いままで異性に感じていた愛情や情欲を目の前の雄に感じてしまっていた。

  そんな正彦を誘うように、義信は自らの陰茎を擦り乳首をねっとりといじり始める。

  淫売のように腰をくねらせ、熱を帯びた瞳でじっと彼をみつめる。

  「僕の計算だと、そろそろ兄さんにも薬が効いてくるんだけど・・・」

  そう言って、弟は腰を浮かせて立ち上がった。

  広がりきった菊門から真っ白な粘液がドロドロと流れ落ち、正彦の下半身を濡らし、道場にべっとりとした水たまりを作る。

  兄の体組織を十分取り込んだ義信は、酒にまぜた薬のおかげで正彦とそっくり同じ身体になっていた。

  「大丈夫、兄さんはあんな非力な身体にはならないよ。既に僕は完全に兄さんの肉体になっているからね。変えるのは心の方さ」

  「こころ・・・?」

  「ああそうだよ・・・」

  立ち上がった義信は道場に広がった精液だまりに己の足裏を突っ込んだ。

  その白い粘液を足にまんべんなく塗り付ける。指の間まで糸がひくほどまぶすとゆっくりと持ち上げて、兄の顔へと向けた。

  仰向けに寝そべっている正彦に精液まみれの足が近づいていく。

  「なっ・・・なんだ?」

  おぞましいモノが兄の眼前に迫ってくる。

  臭く、汚い、雄の精液。しかも、先ほどまで弟の直腸に入っていたモノである。

  それがいつも水虫と臭気に悩まされていた己と全く同じ足裏に絡まって、もはや鼻と口に触れる距離にあった。

  いつもの正彦ならば、気持ち悪くて顔を背けて拒否をしていただろう。

  それなのに――正彦はこれまでの人生でもっとも興奮していたのだ。

  「欲しいかい?」

  足が止まった。

  ザーメンがしたたり、臭気が鼻をつく。

  正彦の呼吸は荒く、舌を伸ばしたい衝動を必死に抑えている。

  「ふふっ、兄さんはわかりやすいなぁ。我慢しなくても良いんだよ。薬の影響で兄さんは僕の影響を受け始めてるんだ。この薬は遺伝子情報だけではなく。髪型みたいな遺伝子情報に関わらないものもその人の現在の状態と同じにできる。もちろん、脳細胞やそこに流れる電気信号までね」

  正彦の脳内は、薬を飲んだことで義信の影響を受け始めていた。

  義信は東京に出て勉学に励むかたわら、兄のように逞しい男に抱かれていた。

  夜の街に繰り出しては、男同士の社交場で互いの情愛を貪り合う。

  それは大学教授になっても続き、その内容もエスカレートしていく。

  肛門性交。SMプレイ。自ら開発した薬を使ったレイプまがいの乱交。

  義信は逞しい男に蹂躙されることに至上の喜びを見出すようになったのだ。

  そんな彼の脳が、電気信号が、兄の義信にも生まれ始めていた。

  「脳をコピーするのはまだ不安定な部分もあるんだけど・・・上手くいっているのを確信しているよ。なぜなら『僕』も『俺』になってきてるのがわかるからな」

  義信がその強面の顔に似合った男臭い笑みを浮かべた。

  彼の心もまた兄の脳細胞と電気信号によって変わり始めている。

  「ああ、兄貴も後悔してたんだな。ずっと悩んで・・・そうか・・・」

  「のぶ・・・?」

  義信は過去を思い出すように、兄の記憶を全て見た。

  弟との別れを、そして女たちとの別れを。

  兄の心全てを覗いた影響なのか、義信の口調は兄そのものと同じになっている。

  「兄貴も苦労してたんだな・・・大丈夫だ、俺が兄貴とずっと一緒になってやるよ」

  「ああぁ・・・のぶ・・・」

  「だから兄貴も俺を理解してくれよ」

  義信の精液まみれの足がゆっくりと動き出した。

  万力で締めるように、汚れた足が正彦の唇を鼻を、そして顔全体を押しつぶしていく。

  「んんんぅぅぅぅ!!!」

  喜びの叫びが足裏から漏れ出す。

  臭気が、苦みが、圧力が、兄の心を喜びで満たしていく。

  そして義信の足裏を舌で舐める事で、さらに正彦の脳内が弟の記憶で汚染される。

  男達との性行為。情熱的で退廃的な夜の記憶。それらが自分の記憶であるかのように、北の大地で育った益荒男を淫売に変えていくのだ。

  もはや正彦は、押しつぶしてくる義信の足裏を喜びとともに口内に受け入れている。

  「ふんっ、力加減が難しいな」

  義信が押しつぶさない程度にさらに足で踏むと、ウシ蛙の鳴き声のようにくぐもった声が道場に響き渡った。

  その声と足を舐める舌の刺激に、弟は新しい興奮が生まれたのがわかった。

  心地よい嗜虐性に酔いながら、弟は兄を踏みつける。

  兄はその弟の足を舐め取りながら、乳首とチンポを手で弄っていた。

  子供たちが練習に励んでいた柔道場で、兄と弟が数十年ぶりの再会を喜び合う。

  それは狂愛によって変わり果てた淫らな性行為となってしまったが、それでも彼らは求めあい続けるのだった。

  「いくぞっ兄貴っ」

  「ああっノブぅっ、きてくれぇ!」

  足を舐め続けて高ぶった二人の心は、互いの立ち位置を変えてしまった。

  四つん這いになってぶ厚い尻肉を犬のように振る兄の正彦。

  そしてその未開発の肉穴へナマズのような剛直を挿入していく弟の義信。

  「んあぁぁぁ」

  「おおっおおおぅぅ」

  メリメリと兄の中に弟の陰茎が入り込んでいく。

  兄もまた茶色い瓶から発した空気を吸い込み、その身を貫く杭の痛みを背徳的な刺激に変えている。

  二つの巨大な肉がぴったりと重なると、彼らは顔を振り向き舌を伸ばして互いの口を吸い合う。

  「んっふぅふっ」

  「あっひっいっ」

  そのまま、どちらともなく腰を動かし始める。

  始めはゆっくりだったその動きは、次第に激しく強くなり、やがて獣の交尾のように無遠慮にチンポを突き入れては互いに咆哮する。

  重なり合う肉体と声はまるでユニゾンしているかのように完璧な調和を二人にもたらす。

  兄の中に弟の種汁がそそがれる。

  それがトリガーとなって、より深く兄と弟の脳内は同一化し、心が解け合っていく。

  「のぶぅ?」

  「あにきぃ?」

  どちらがどちらなのか曖昧になっていく。

  挿入しているのは兄なのか。挿入されているのは弟なのか。

  正彦と義信の垣根が崩れ、二人は一卵性双生児よりも同じ兄弟へと変わる。

  「「おっおっおっおっ」」

  二人は同じ雄たけびを上げて、互いの巨体を貪り合った。

  それは薬が切れる翌朝まで続いたのだった。

  ◆

  「よしのぶ先生ぇ! 見てみて、山嵐できたんだよ!」

  「よしのぶ先生、ジイちゃんが熊引いたから肉取りに来いって」

  「よしのぶ先生ぇぇ、宿題手伝ってぇぇぇ」

  皆口々に話しながら、それぞれが男の大きな脚にしがみつき、太い手首がのぞく袖口を引っ張る。

  しかし、男は微動だにしない。畳に根が張った大木のように沢山の子供達を笑いながらどっしりと受け止めていた。

  「今日もみんな元気だなぁ」

  「ノブ、そろそろ始めるぞ」

  「ああ、兄貴わかったよ」

  北の大地の柔道場に、新しい先生が加わった。

  その男の名前は伊藤義信。道場主である伊藤正彦の弟である。

  数十年も連絡が無く、突然実家に戻ってきた弟は兄と同じく大きな身体でよく笑う人好きのする性格であった。

  なのですぐに子供たちに懐かれて、いまでは当たり前のように地域の皆に溶け込んでいた。

  ただ、昔から彼らを知る町長だけは今でも首をひねっている。

  ◆

  「まさひこ先生、じゃーねー」

  「おーう、気いつけて帰れよー」

  正彦は最後の生徒を送りだすと、汗の垂れる額を道着の袖でふき取る。

  「兄貴、みんな帰ったかい?」

  道場から掃除中の弟の義信が顔を出す。その額にも同じように汗が輝いている。

  「ああ、みんな帰ったよ。だから――兄貴、今夜も良いかな」

  先ほどまで兄の名前で呼ばれていた男が照れながら、道場から歩み寄ってくる弟を兄と呼んだ。

  日が沈む北の大地。兄弟二人はどちらかともなく汗を流す巨体を触れ合わせると、互いに硬くなり始めたチンポを柔道着越しに触り始める。

  「『兄貴』か・・・じゃあ今夜は僕が『兄貴』で良いんだな? ノブよ」

  「ああ、今日の俺は『義信』の気分なんだ・・・兄さん」

  全く同じ顔が近づき、深い接吻を交わす。

  舌が互いの中を蹂躙し、手が互いの乳首や股間を刺激し合う。

  流れる汗が体毛に絡み、熊のような肉体が柔道とは異なる熱を帯びていく。

  帯を解き、柔道着を脱ぎ始める『ノブ』と呼ばれた雄は、仰向けになると剛毛の生えた肉壺を『兄貴』に向けて開いた。

  ぽっかりと熟れた雄マンコ。

  あれから毎晩のように盛り合い、菊門はすっかり第二の性器とかしている。

  そこに真っ黒などす黒いチンポがズプズプと入っていく。

  「おおおっノブのマンコは最高だな」

  「ああっいいっ兄さん」

  正常位で二人は抱き合った。

  四本の剛腕は互いをきつく抱き合いながら、その精をほとぼらせる。

  何度も、何度も、互いが満足するまで、その猛りをぶつけ合うのだ。

  しばらくすると、二人の動きが緩慢になり、やがてゆっくりと口づけをしあう。

  どうやら少し性欲が落ち着いたようだ。

  「ふぅふぅ・・・満足したか?」

  「ああ、凄く良かったよ兄さん・・・」

  「じゃあ、今度はお前が兄貴だな」

  「仕方ないなぁ。沢山かわいがってやるよノブ」

  「ああ、兄さん・・・今度は薬も使おうよ」

  「おう、またお前と一つになってドロドロに愛し合おうぜ」

  彼らは同じように蕩けた顔を浮かべると、道場の隅に置いていた酒を飲んだ。

  その中には、義信が正彦になるために使った薬が入っている。

  「んんっきたぞ」

  「僕もっ」

  互いに薬を飲み干すと、今度は攻守を変えて犯し合いを始めた。

  薬の効果で彼らはまた同一の脳細胞になり、全く同じ電気信号が流れ始める。

  「ああっノブ、兄貴、好きだ、すきだぁぁ」

  「兄貴ぃぃ、ノブぅぅ、愛してるぞぉぉ」

  彼らは再び同一の存在になってしまった。

  もはや彼らは夜毎の薬を使った性交によって元々がどちらだったのかわからなくなっている。

  しかし、それでも互いへの愛情は揺るがない。

  「「おっおっおっおっおっおっ」」

  こうして仲の良い似たモノ同士の兄弟の夜はふけていくのであった。