『青春エゴイズム15』無配 あのこどこのこ、きみはぼくのこ 番外編

  『青春エゴイズム15』無配

  あのこどこのこ、きみはぼくのこ 番外編

  「ぷっぷー!プゥ!」

  アパートの庭で、幼児用の手押し車に乗ったりんが、ハンドルを掴みながら運転手の真似事をしている。

  僕は平和そのものな光景を眺めながら、りんの後ろに乗りながら、後ろから押せと言わんばかりにこちらをじっと見つめるさえちゃんの視線を、精一杯見て見ぬふりするのであった。ここで彼らの言うことを聞くと、日が暮れるまで【運転手ごっこもとい、人力お散歩】をすることは間違いない。というか、このバスを模した幼児用の車を購入して以降、毎日二人の運転ごっこに付き合わされているから、確実にその未来はやってくるだろう。

  僕は早く二人のブームが過ぎないかなと、さえちゃんの視線の圧と戦うのであった。

  手押し車を購入したきっかけは、少し離れた大型のホームセンターへ行った時だ。

  同じ敷地内にスーパーやドラッグストアが立ち並ぶそこは、生活必需品がまとめて揃うため便利なのだが、いかんせん自宅から微妙に距離があるため、滅多に訪れることはない。

  今回は、掛け布団がダメになってしまったので、仕方ないと向かうことにしたのだ。

  布団がダメになった理由は、りんの噛み癖のせいである。りんはさえちゃん以上に撫でろと僕に要求する。大抵は応えるのだけど、僕が仕事の忙しさの疲れから無視したり、雑に撫でたりすると布団を噛んで抗議するのだ。後で知ったことだけど、グルーミングする方が立場が下らしい。

  そんなわけで、僕は布団セットを目指してホームセンターに向かった。さえちゃんとりんは、初めて訪れる場所に警戒で耳をピンと立てつつ、好奇心から気になるのか落ち着かなげに辺りを見回していた。

  ショッピングカートを引きながら布団売り場へ向かう道中で、りんとさえちゃんが急に走り出した。

  「あ!こら!走らない!」

  ピャッとあっという間に視界から消える二人を追いかけていけば、おもちゃコーナーからご機嫌なブゥブゥという鳴き声が聞こえてきた。

  そこには、幼児用の手押し車にそれぞれ収まっている二人がいた。しかもメロディがなるタイプだ。しかし、ハンドルを握っているものの、動き出す気配は一向にない。

  さえちゃんとりんが僕をじっと見つめる。どうやら押せということらしい。

  僕は駄々を捏ねられるよりはさっさと満足してもらおうと、取手の部分を押してやる。すると二人はテンションが上がったのか、体ごとゆらゆら揺らして、ぷーぷーとはしゃぎ始めるのであった。

  「はい、おしまい」

  僕はもういいだろうと押すことをやめる。しかし、二人は物足りなさそうにブゥブゥと大合唱をする。

  「これは見本だからね。お店の迷惑になるからもう行くよ」

  「ぶっ!」

  「ぶぎゅ!」

  さえちゃんとりんは体をさらに丸め、全身で全力の拒否をする。テコでも離れないという二人の強い意志に僕も負けじと抗う。しかしそこは二対一。石のように動かない二人に僕は白旗をあげたのだった。我慢比べは仔うさぎ達に軍牌が上がったのだ。

  しかし、いつまでもこのホームセンターに居座るわけにはいかない。というわけで、まんまとこの幼児用の手押し車を買う羽目になったのだった。

  「めし!はやくおせ」

  「めしゅ!」

  「一回だけね」

  多分一回だけで終わらない予感を抱きつつ、手押し車を勢いよく押してやる。するとさえちゃんとりんは一層高くプゥ!と鳴いた。僕は年相応にはしゃぐ二人の姿に、拾った時のことを思い出す。荒れて雑巾みたいだった毛並みと血色の悪かった顔色は、すっかり見る影もない。

  責任も取れないのにと、誰かが囁く。ただの偽善だと誹られても、二人のふくふくとした頬と、ぽっこりとしたまあるいお腹に、僕の心は満たされるのであった。

  END