とある日の仕事帰り、ブラック企業から家路につくユウヤ、車を運転していたが、疲労で霞む視界に揺らめいている。
ユウヤ「…クソッ…オレは何の為に生きてンだ…」
封筒からはみ出た給与明細には15万円の数字。住居費・光熱費・保険料を差し引けば僅かな余りしかない。その上に別途毎月税金が容赦なく吸い上げていく。
ユウヤ「年金年金って…オレら世代はどうせ貰えやしねぇんだろ。無理矢理搾り取るだけ搾り取って、貰えねぇけど金は返しませんってなるんだろ…」
ユウヤ「市民税…健康保険…自動車税…ガソリンの高騰…物価高…はぁ…」
アパートの駐車場に車を駐めたユウヤは、ブツブツ呟きながら自室へと歩く。
自室のドアを開けると殺風景なワンルームが広がっている。必要最低限の物しか無い部屋…
作業着を脱ぎ捨て布団に倒れ込む。スマホを拾い上げると画面にはイズナの写真(当時イズナは現実世界に存在していない)
ユウヤ「また明日早くからクソみてぇな職場か…クソみてぇな連中と毎日会うのだけでも苦だぜ…パワハラにモラハラ…ホント嫌になっちまうぜ…もう既に嫌だが。」
* * *
そしてまた時が経ち、週末の公園で一人佇むユウヤ。冷たいベンチに腰掛け、人々の賑わいをぼんやり眺めていた。
ユウヤ「力さえあれば…理想の姿に、獣化できたらなぁ…」
無意識に口をついて出た言葉。それは幼少期から心の奥に秘めていた願いだった。人間というあまりにも無力で脆弱な存在に嫌気がさしていたユウヤは、常に強く気高いケモノ(獣人)への憧れを抱いていたのだ。
* * *
さらに数ヶ月後のある夜。ユウヤは自販機で買ったココアを飲み、再び公園のベンチに座っていた。
ユウヤ「獣化して、風の様に自由に生きてぇナ……」
とつぶやくと同時に風が吹き抜けた。
* * *
翌朝目覚めると奇妙な感覚があった。鏡を見る。自分でも気づかない内に人間の姿ではなくなっていた事に気付く。身体の形は人のままだったが、頭に生えた三角の耳に黒い毛並み、鼻から下の中心ラインは白い毛並みに黄緑色の瞳…
ユウヤ「んっ?…って…マジかよっ!?」
彼は狼と人間の融合体となった姿で鏡の中に立っていた。鋭い牙と爪を持ちながらも二足歩行できる姿。理性は完全に保たれたままだ。
ユウヤは考える
ユウヤ (望みが叶ったのは良いが、ずっと獣化姿もこの世界では生活し難いな…そうだ試してみよう。)
ユウヤは静かに言い放つ
ユウヤ『解ッ』
すると元の人間の姿に…そして。
ユウヤ『トランスファー!』
と言うと、今度はさっきの狼獣人の姿になった。
ユウヤ「よし、次は…」
ユウヤは集中してイメージする…
ユウヤ「まずはテーブルの上にあるペットボトルで試すか…」
ユウヤは想像する。風の刃でペットボトルが切り裂かれるイメージを…
ザシュッ!(切り裂かれる音)
何処にでも存在する空気、そこから生成された不可視の風の刃(自分には見える)が一瞬でボトルを切り裂いた!
ユウヤ「色々出来そうだナ、研鑽あるのみだぜっ。」
ユウヤ(獣化時)は思う
ユウヤ (さて……この能力……人間の姿では使えるかな……)
ユウヤ(人間時)は風を操る能力を使うのを試みる…しかし何も起こらなかった…
ユウヤ「人間の姿の時は使えねぇみてぇだナ…」
その後、ユウヤは獣化・人間化を自由に切り替えられる事を確認した。更に研究を重ねると、「獣化時以外は力が使えない」という制約も分かった。つまり普段通り生活したい時は人間の姿になるが、特殊な力が必要な時や戦闘態勢に入る時は獣化するのが最も合理的だった。また必要な時だけ体の一部を獣化することも可能だった。これにより日常生活にも大きな影響を与えずに能力を活用できるようになった。
今では獣化した姿が彼のアイデンティティになっている。
* * *
そして次の事を考える。
ユウヤ「まずはクソみてぇな職場をとっとと辞るとして、能力で腐った国のシステムをひっくり返し、皆が生き易い世の中を作るか、或いはオレの能力を活かし、風力発電で生計を立てるか…
ユウヤ「まずはオレ自身が生きられる様にするのが先決だな『金』は大嫌いだが、皮肉だが、その『金』と言う金属の塊や、紙切れがねぇと生きて行けねぇのがこの世界だ。」
(後にユウヤは自身の能力を活かし、風力発電所で雇ってもらった)
とある発電所の風車は、いつも凄いスピードで回り続けているとか。
ユウヤ「にしても……まさか本当に叶うとは思わなかったぜ。」
ユウヤは感慨深げに呟いた。
こうしてユウヤは理想の能力と共に新生活を始めたのだ。
* * *
ユウヤ「やっぱ人間は無力だな……
(今は人間の姿に戻ってるが、獣化してる時の獣人としての姿があるべき自分だと思ってるし)」
ユウヤ「(でも完全獣化の姿だとこの世界では目立つ…風の力を獣化以外で使い時も時は…)よし、この部分だけ獣化するか!」
と言い、手だけ獣化した。これによって風の力を局所的に使用することが可能になった。
ユウヤ「フンッ……やっぱり獣化姿が一番しっくりくるぜ!」
そして彼は今日も能力を探求する。
そして数年後…
イズナ「お兄ちゃんごはんだよ〜!」
(ユウヤとイズナの出会いは『EPISODE OF IZUNA』を参照)
ユウヤ「あ〜い!」
ユウヤとイズナはテーブルを挟んで向かい合い夕食を共にしていた。今日のメニューはイズナ特製の焼き鮭定食だった。
ユウヤ「ん〜ん!イズナはほんとに料理上手になったな」
ユウヤは口いっぱいにご飯を頬張りながら褒め称える。
イズナ「えへへっ」
イズナは照れくさそうに微笑んだ。
食事が終わると二人は片付けを始める。ユウヤは流し台で皿洗い、イズナは布巾で拭き取る役割分担だ。ユウヤは泡まみれの手で器用に皿を洗いながら考えていた。
(今のオレには力がある……けどイズナを守るためにどう使うべきか)
一方イズナはそんなユウヤの様子を盗み見る。
(お兄ちゃん最近何か悩んでるみたいだなぁ……)
洗い物が済むと二人はリビングでくつろいだ。テレビにはニュース番組が流れている。経済情勢、環境問題、政治家の汚職事件etc……。どれもユウヤの気に障るものばかりだった。
「クソみてぇなニュースばっかだな……」
ユウヤは不機嫌そうにチャンネルを替えた。
「どうしたのお兄ちゃん?」
イズナが心配そうに問いかける。
「いやなんでもねぇよ」
ユウヤは誤魔化すが内心では苛立ちが募っていた。
(相変わらず腐ってやがんなこの国は…)
ふと昔の記憶が蘇る。ブラック企業時代の記憶—上司の罵詈雑言、パワハラとモラハラの嵐…
イズナ「お兄ちゃん?」
ユウヤ「ん?なんでもねぇよ」
イズナ「そっかぁ…あ、そうだ!デュエモンしよっ?」
ユウヤ「お!いいぜ!だが手は抜かんゾ〜?」
イズナ「ボク絶対負けないからね!」
二人はいつもの日常に戻っていく。
いつも通りイズナとメシを食い、風呂に入り、そして今日もイズナと共に寝るのだ。
ユウヤ「イズナ、いつもありがとな。」
ユウヤは小さな声で呟くとその日はすぐに眠りについた。
そして翌朝—
イズナ「起きろーっ!!」
ユウヤ「ん…ん〜」
* * *
目を開けると、イズナの顔が目の前にあった。いつもの光景だ。ユウヤはニヤリと笑いながら言った。
ユウヤ「おはよ〜」
イズナ「おはよ〜!」
こうして今日も二人の一日が始まった。
* * *
時空が歪み、各地に他次元の能力者、或いは能力を得た者、獣人やその他の生命体が現れ共存する世界になるのは暫く先の話しである。
他次元からの干渉を受けてから数年後の話し
ある日ユウヤの家のインターホンが鳴った…
イズナ「誰だろ…」
ユウヤ「オレが出る。」
ユウヤがドアの覗き穴を除くと、そこにはフードを被った何者かが立っていた…ホログラムの様で実体があるのかも分からなかったが人間姿の自分と同じ様な何かを感じた。
ユウヤ「何者だ?おぬしは」
ユウヤが問いかけると、その者はユウヤの身体ごとドアをすり抜け、ユウヤの背後に来ると背中合わせの状態で答えた。
???「□□は□□□□の管□者□、この先に□□大きな戦い□…□□□は□□□□な…□□□□□□□…だが、□□を□えぬ程度□…□□□が□□ば、□□が変□□…こ□□□は□わ□……イズナ□□□死□□□□□□□□□□□□□□□□□イズナ□□れ…□□□□□□□□□イズナ□□□□□□□繋がっているのだから。□□□が死□□□、イズナ□死□□。」
ユウヤ「分かったぜ□□まぁオレが戦えば確かにそうだよな。控えとくぜ。」
???「□□□な□□。」
謎の存在は話し終えると消え去った。
イズナ「お兄ちゃん……?」
そして現在に至る。