ギャングな鰐とティラノ獣人が双頭ディルドで心もカラダも繋がる話

  [chapter:On the couch, two beastmen…]

  ベージュ色で、少しヒビ割れした革製のカウチに[[rb:鰐 > クロコ]]は気怠げに背をもたれかけていた。部屋は薄暗く、鰐の真ん前に設えられたモニターから放たれるチカチカとした光だけが部屋をうっすらと照らしている。

  モニターに流れているのは、動画サイトに投稿されたポルノビデオ。筋骨隆々とした[[rb:虎 >タイガー]]が真新しいシーツの敷かれたベッドの上に気怠げに寝そべって、虎よりはすらっとした体型をした[[rb:猫 > キャット]]に乳首を舐められているところだった。素人がスマートフォンで撮影しているかのようなカメラワークは、ぎこちなくゆっくりと、ジャーキーのように肥大し、黒ずんだ一対の乳首にクローズアップする。

  典型的なキジトラ柄の毛並みをした猫は、随分と従順になって、丹念に平べったい舌をきめ細やかに動かしていたが、鰐が唆られたのはそこではなく、画面には映っていない、唸り声とも文字通りの猫撫で声ともつかない嬌声を上げている虎の表情だった。猫の頭を包み込むように掻き撫でる大ぶりな手、刈り入れ後の田畑を思わせる短い体毛、黄金地に刻まれた雄渾な黒線——そうしたことから、虎がどんな表情を浮かべているのか、鰐は想像を逞しくしていた。

  鰐もまた、映像の虎に劣らぬ肉体を誇っていた。肌着をまとわない上体からは、タンパク質をいっぱいに溜め込んだ筋肉の形が、腕にも肩にも胸にも明瞭に浮き上がっていて、筋肉とは対極にある脂肪はあたかも東洋の金剛力士の足に踏み潰され、ひれ伏している餓鬼のように大人しい。

  鰐の聴覚に朧げながら、シャワーの音が知覚され出した。不意に膨らませた風船が弾け飛んだのに驚くかのようにハッとした。さっきから聴こえていたはずの音だったが、ポルノに気を取られているうちに聴こえなくなっていたらしい。電球の切れたままの天井灯を見ることなく見て、鰐はシャワーの音がする方へとぼんやりとその細長い顔を向けた。

  やかましいわりに単調で眠気さえ誘うシャワーの音がふっと消える。ガサゴソと小さな物音がした後、部屋の扉がガチャリと開いた。

  「おう」

  鰐が丸みを帯びた口吻をしゃくり上げると、それに応じるように風呂から上がったばかりの[[rb:恐竜 > ティラノ]]がゆっくりと頷いた。

  「随分と長風呂だったじゃねえか。シャワ浣はうまくいったか?」

  「ガキ扱いすんなよ」

  「粗相があるといけねえからな。事が終わった後で臭うのは興醒めだものな」

  「話、聞けよ」

  ティラノは無愛想に返事しながらも、鰐と同じくカラダにピッタリと密着したパンツを履いただけの姿で、カウチにどっさりと腰掛けた。モニターがよく見えるように鰐は少し脇にどけてやった。猫はまだ虎の乳首をしつこく舐め続けていた。このカメラマンはよっぽど開発されてぷっくりと膨れ上がった奇形的な乳首が好きなのか。

  コイツとは[[rb:組織 > マフィア]]に属する同士であった。一応、鰐の方がここに来たのは早かったが、それなりの時間が過ぎてしまえば、そんなことはどうでもいいことだった。いい大人になってから、わざわざ数年程度の学年の違いを気にすることもない。そして今は、訳あって相棒のような存在になっていた。

  風呂上がりのティラノの肉体からはベールのような白い湯気が立っていた。その肉体も鰐に負けず劣らぬ見事なものだった。当然のようにガッチリと発達した胸板の下方には、ふっくら焼き上がったパンのような腹筋が鎮座している。それに比べれば鰐の腹部は筋肉質であるには違いないものの、やや肉感がある。

  組織に属していなければ、オリンピアンにでもなっているべき雄だった。あるいはボクシングの世界チャンピオンか? 鰐は毎晩この裸体を見ながら、眼福な気分になると同時に少しの哀れみも覚えるのだった。

  立派な胴体と比べるとやや小振りに見える上腕を後頭部に組んで、ティラノは胸を大きく開き、腋窩を見せつけるような姿勢でくつろぐ。目線はモニターのやや上の方に向いていた。機敏に動く舌先に弄ばれる虎の乳首が、ボクシングの練習に使う宙吊りのパンチボールのようにぷるぷると小刻みに揺れているのを、カメラは映し出していたが、あまり熱心に観てはいないようだった。

  「アンタって、こういうプレイ、好きなのか?」

  「まあ、嫌いじゃねえけど」

  「あっ、そ」

  ティラノは顔を顰めてふっと鋭く息を吐く。僅かな沈黙を差し挟むように、虎が突飛な喘ぎ声を上げた。

  「ははっ。まるで猫みてえだ」

  「虎も猫も似たようなもんじゃねえかよ」

  首をぐるぐると回しながらティラノは言う。そこに大した関心が含まれていなかった。ティラノは別に、虎のことも猫のことも良く知らないのだ。裏の世界で生きていかざるを得なかったティラノにとって、彼らはどこまでも単なる他者にしか思えない、それだけのことだ。

  鰐とティラノはカウチの上で肩を並べ、虎のやけに甲高い喘ぎと猫の執拗な水音に耳を澄ませていた。呆れるほど、ポルノの映像は長回しだった。モニターの音声のほか、何も聞こえない部屋の中。宇宙船の中で過ごしているかのようだった。

  ティラノがもぞもぞと腰を揺らしながら、少しずつ鰐との距離を詰めていることに鰐は気づいていた。気づかないふりをしながら、相棒の肘が時折うっかりを装いながら鰐の大胸や脇腹に触れてくる。いかにもガキっぽいな、と揶揄いたくなる。もうそんなわざとらしいことなどしなくても構わないのだが、強面のくせに未だに奥手なところがあるのが、ガキの時分からこんな世界に放り出されて這いずるように生きてきた雄らしくて、慈しみのような感情が沸き起こってくる。

  「アイツからの連絡見たか?」

  さっき、秘匿性の高いメッセージアプリから何やら長文が送られてきていたが、鰐は一瞥するだけで無視していた。文面には「風紀」だの「是正」だの「風通し」だの「膿を出し切る」というもっともらしい単語が地べたを這いずり回るミミズのように浮かんでいたのは覚えている。組織の新たなボスになったばかりの[[rb:鹿 > ディア]]からの通達だろうことは明らかだった。

  「ありがたいお言葉だぜ」

  鰐は軽蔑を露わにしながら言った。

  「実にありがたい言葉なんじゃねえか。お前も感謝しとかねえとな?」

  「なんでだよ」

  あのクソったれの鹿め。鰐は不味い肉を食うような気分で、エリート然としたあの鹿の容貌を思い浮かべた。草食というレッテルが似合う細っそりとした体つきで、伊達か何か知らないがいつもメガネをかけていやがる。くい、と人差し指と中指を合わせてメガネを持ち上げる、わざとらしく癪に障る仕草が目に見えるようだった。

  ついこの間まで自分たちのボスだった[[rb:雄牛 > ブル]]は、金も権力も、水道の蛇口を捻れば捻るほど出てくるような野郎だったが、部下の中からこれと決めた雄を呼び出しては、事に及ぶのを好んでいた。組織には倒錯した連中というのがいくつかいはしたが、その中でもとびっきりの変態だった。

  前のボスにまとわりつく腰巾着だった鹿の野郎は、上司である雄牛の欲望に忠実に従って下っ端の中からめぼしい雄に目をつけては、出世という甘い言葉を弄してボスに引き合わせる役目を嬉々として担っていた。たったそれだけで、鹿は雄牛の右腕になりおおせた。そして、ボスが死んで早々、その後釜にうまいこと収まってしまったらしい。一瞥したメッセージの文面から察するに、今や巨大企業のCEO気取りで組織を取り仕切っているようだった。雄牛に雄を上納していたのも、あくまでも立身出世のためであって、今となっては、そんなことを犯していたことなどまるで忘れてしまったかのような振る舞いだった。それで風紀だの何だの宣っているのが、鰐にはお笑いだった。

  鰐もまたそういう雄たちの一部に過ぎなかった。希望に胸膨らませなどと言うと言い過ぎだが、成り上がるチャンスを与えられたとなれば、雄牛のもとに赴かない道理など、なかった。

  ちょっと我慢するだけでいい、と鹿は恭しくも言ってのけたものだった。もっとも、初めのうちは確かにそうだった。雄牛のいる個室に呼び出されて、少しばかり胸板や尻の肉や股間を触られる程度だった。噂では、もっと激しい行為をしていると聞いていたので、随分と拍子抜けしたことを鰐は覚えている。

  だが、どんな職場だって最初の数日は思ったほどには楽なものだ。雄牛からの要求は回を重ねるごとに過激さを増した。同衾するのはまだマシな方だった。雄牛のアジトの隠し部屋に連れられて、雄牛自身が蒐集したであろうありとあらゆる拷問器具が並べられているのを見た時、鰐は慄然としながら、自分が如何に矮小な存在であるかを思い知らされたものだった。

  あの鹿にとっては、自分が成り上がることができさえすれば手段は関係ないのだった、それで、どれだけの雄が雄牛の手にかかろうとも。考えれば考えるほど腹が立ってくるが、さしあたって鰐にできることは何もなかった。できることといえば、やや古びたカウチに腰を下ろして、気怠げなポルノビデオを鑑賞することくらいだった。

  「……雄牛とどっちがマシだったもんかなあ」

  「くだらねえよ」

  ティラノは手持ち無沙汰に乳首の辺りを掻いていた。

  「ろくでもねえ奴とろくでもねえ奴を比べて、何になる」

  いい加減ウジウジしているようだった。こんなくだらない話も、しょうもないポルノも、ティラノにとってはどうでもいいことだということなど、鰐はとうにわかっていた。ティラノがいま何を考えているのか、何を欲しがっているのか。そんな感情の機敏まで、鰐は鱗に張り巡らされた黒点の感覚器に伝わってくるように思った。

  「お前はラッキーだったんだぜ?」

  揶揄うようにニヤニヤと[[rb:鰐 > クロコ]]は薄笑いを浮かべる。

  「たった一回、あんな思いをするだけで十分だったんだからな」

  「……自慢にもなんねえ」

  ティラノはぶっきらぼうに言って、会話の流れを断ち切ろうとする。また尻がモゾモゾと、さりげなく鰐の方へ寄った。

  「一回だってたまったもんじゃねえのに」

  あの日は、この夏のうちでも特に猛烈な暑さだった。鱗を覆ったカラダにも堪えるほどの陽射しが、別荘地のプールサイドに照りつけていた。雄牛はまたしても個人的な嗜虐心と性欲を満たすために、お気に入りとなっていた鰐と、兼ねてから目をつけていたティラノを呼び出したのだった。あの時、穿いていた自分たちの体格より一回りは小さい水着にしても、ご丁寧に雄牛がご丁寧に用意したものだった。

  「いつあの水着がはち切れるか、気が気じゃなかった」

  ティラノはまだ恥ずかしそうに振り返るのだった。

  「けど、似合ってたじゃねえか。ほんとスケベだったぜえ? ブラザー」

  「うるせえ」

  「俺の前でもっかい見せてくれてもいいのによ」

  「やだよ」

  言葉とは裏腹にまんざらでもなさそうなのが面白かった。肩を叩くと、わずかにカラダをピクリ、とさせる。悪事が露見することを恐れたクソガキのように。

  「落ち着いたら俺とナイトプールでもどうだ? Good boy?」

  「その言い方、やめろよ、キメエ」

  「それか高跳びして、ファイアー・アイランドでも乗り込もうじゃねえか? んんっ?」

  ウンザリしたようにティラノはゆっくりと首を回す。映像はいつのまにか別の場面に切り替わっていた。[[rb:虎 > タイガー]]は四つん這いになって、自分よりもずっとスラッとした[[rb:猫 > キャット]]に激しくアナルを犯されていた。唾液を口内でかき混ぜるような音を立てながら出入りを繰り返す、猫のペニスからはイボイボとした棘が見えた。虎は大きな広背を皮骨のように鋭く突き出しながら、全身を丸めるようにして、その攻めを耐え忍んでいた。濁点混じりの汚い声が、薄暗い部屋に響き渡った。

  「うげっ……」

  ティラノはしかめ面して気持ち悪そうに顔を背けた。鰐に向かって「なんでこんなもん観てんだよ」と言いたげな不信の眼差しを送った。

  「陰茎棘って言うらしいぜ。猫特有のもんだそうだ」

  「んなこと別に、聞いてねえよ」

  ティラノはいきなり立ち上がって、テーブルの端っこに置かれたリモコンを手に取って、チャンネルを変えた。毒にも薬にもならないバラエティ・ショーの場違いな歓声を背に受けながらそそくさと鰐の脇に戻ってくる。今度は鰐にピッタリとカラダを横付けた。今の話の流れを口実にでもするように。

  「わざと焦らしやがって」

  「どうしたんだ、いきなり?」

  わざとらしくスッとぼけると、ティラノはいよいよじれったくなってきて、

  「早くヤろうぜ、ムラムラしてきた」

  シャワーを浴びている間からずっと言いたいと思っていたであろうことを、ぶっきらぼうに言い放った。それでも鰐は流暢にカウチに深く背中を預けながら、何一つ内容も魅力もわからないバラエティの映像の断片を見つめ続けていた。

  「なあ、聞いてんのかよ……」

  「どうした?」

  手をカウチの底にオケラのように潜らせて、ティラノの柔らかい尻たぶを掻き分けて襞のように放射線状に中央に向かって集まる菊門に触れる。そこだけ周りと明らかに触感の違うすぼみを中指の爪先で弾くように幾度か擦ると、ティラノほんの少しだけカラダを浮かせて、ささやかな抵抗など、してみせる。

  「クソが。いま言っただろ。俺、アンタと……」

  「いちいち、うるせえ野郎だな」

  「んっ……!」

  「へっ。[[rb:恐竜 > ティラノ]]のくせに、鶏みてえに喚きやがる」

  鰐はやにわに相棒をキツく抱き寄せてやる。鰐の胸に埋める格好となったティラノは、初め驚いたものの、そのうち安堵したように鼻先を鰐の装甲じみた肩の上にのっけて、何度もゆっくりと深呼吸する。すっかり安心しきって、犬よりも犬らしいと思えるその荒くも繊細な鼻息を耳元で聴きながら、鰐は指をティラノの幅広な背中に這わす。鋭く盛り上がって、今にも鱗を突き破って伸び出てきそうな肩甲骨の形はいくら弄り回しても飽きない。

  「へっ。抱かれただけですぐ犬みたいになりやがって。可愛い相棒だぜ」

  「……そういうとこ、マジうざってえ」

  成人こそしてはいるが、まともな教育を受けてこなかったためか、ティラノは時折子供じみたところを見せる。感情的になって、無鉄砲な行動をしだすところもそうだった。顔をぶち抜かれた雄牛の上にティラノが跨って放り出しやがったのは、振り返ってみても傑作だった。あの現場を目撃した連中全てが、雄牛が殺されたことに驚くよりも早く、本能的な嫌悪感を催したに違いない。

  「ほんと、あのクソ野郎にはあれはお誂え向けの最期だったよな。クソだけに」

  わざとらしく「クソだけに」などと幼稚な揶揄いをすると、不貞腐れたように鰐の胸元で俯く。

  「なんでいまそんな話、すんだよ?」

  「いいだろ。面白え話は何度話したっていいもんなんだからな」

  ティラノの鼻腔が微細に動いて、鰐の胸板をくすぐる。口先はぴったりと鳩尾に嵌って、グリグリと鰐のカラダに押し付けている。心が未熟なまま、カラダばかり立派になってしまった雄が、欲望を我慢しきれなくなって同じ雄に恥も外聞もなく、甘えているのがいかにも可愛らしいな——と鰐は思った。

  「俺、考えたことがあるんだけどよ」

  画面上にクローズアップされた虎の表情——鰐が想像した通りに、悩ましげな顔つきを浮かべながら快感に浸っている——を眺めながら鰐は話し出した。

  「雄牛の野郎が何を考えてたか、わかっちまったかもしんねえ」

  「はあ?」

  ティラノは呆気に取られたように顔を上げた。

  「ちょっとぼんやり考えりゃわかることだ。あいつは確かにクソ野郎だったが、周囲が思ってるほどバケモンでもねえ。根っこは俺たちと同じ。こういうクソッタレな世界で、根無し草同然に生まれて、この組織でしか生きられなかった哀れな雄に過ぎなかった」

  「アンタ、あいつに同情してんのかよ?」

  信じらんねえ、と言わんばかりに露骨に嫌悪感を隠さなかった。迫るように身を乗り出すように見せかけて、手は鰐の胸板をしっかりと鷲掴んでいる。

  「どうだろうな?」

  「だとしたら、ヤベエよ」

  「けど、よお」

  そう言いがけ、鰐は見せつけるように目一杯開脚すると、ティラノの視線が一瞬そちらに釣られた。

  「俺たちを犯してる時に、あのクソ野郎が何考えてたかはわかる。神話に出てくるような筋肉モリモリマッチョな雄がよ、ケツとチンポを丸出しになんかして、情けねえ格好して好き勝手ぶち犯されて、アホみたいな声を出して呻いてる。雌みてえとかじゃねえ、ガキっぽいってわけでもねえ、何と言えばいいのかわかんねえけど、惨めな存在になっちまってるってことに、アイツはたまらなく興奮してたんじゃねえかってな」

  「んなわけ、あるかよ」

  ティラノはカッとなって言い返した。

  「アイツはクソ野郎だった、それだけだろ」

  「きっとアイツも同じ目に遭ったんだろうな。俺があの野郎にやられたことは全部、あの野郎は経験してきたんだろう。だから仕返し、ってわけでもねえんだろうが、そっくりそのまま俺やお前や、他のもっとたくさんの雄どもにおんなじことをしたんだろう」

  「何、言ってんだよ。頭がイカれちまったんじゃねえか?」

  「かもなあ」

  鰐は余裕綽々で、鱗の薄く青白い下顎を指先で撫でた。

  「年甲斐もなく、ムキになるお前も可愛いぜ?」

  「変なこと言ってんじゃねえよ。一応立場が上だからって、俺のこと揶揄ってんじゃねえよ」

  「大した口利けるようになったじゃねえか。たった一晩で随分成長したじゃねえかよ。ご褒美にこれからいっぱい可愛がってやっかなあ……[[rb:かわいこちゃん > Good boy]]」

  「だから、その言い方マジ、キモいんだっ、つうの……」

  ティラノの減らず口を牙を剥き出しにした口で塞いでやると、面白いくらいすんなりと接吻を受け入れるのだった。鼻腔から熱い息が漏れる。ティラノのやつ、仏頂面をしながら、コレを待ち焦がれていたのだと思うと、鰐の官能はいっそうと昂る。

  相手の口腔に舌を捩じ込ませてがむしゃらに貪ってやると、ティラノは苦しげながら満足げな呻き声をあげる。鰐に負けじと不器用にも舌で貪り返そうとする様は、いかにも子供らしかった。

  カウチには唾液の黒いシミが、三つ、四つ、できていた。ようやく口吻を離した鰐の目には、呆然と大口を開いているティラノの腑抜けた顔があった。凶悪な牙を見せつけながらも、肉食獣らしい迫力も覇気も微塵も感じられない。潤んだ瞳からは、子供時代の面影が見える気がした。

  その顎に手をやって、爪先だけで軽々と持ち上げて、改めてその顔を検分する。鱗や皮骨によって複雑に隆起したティラノ特有のゴツゴツとした頭蓋を眺めまわしながら、鰐は感慨に耽っていた。

  こういうのを、吊り橋効果って言うものなのか。ラブストーリーでしか見たことないものに巡り合うとは鰐にも思いも寄らなかった。おまけに、あんな異常な出来事の後で。ビーチベッドに横たわった雄牛の血まみれの死骸を見下ろしながら、鰐とティラノは説明不能な力によって惹かれ合っていたのだった。逃げるようにあの悍ましい別荘を飛び出し、追手を恐れて場末のホテルの一室に飛び込んだ。ほとぼりが冷めるまでは、ここで息を潜めていなければならない。そんな状況で一晩を明かしてたら、なおさらのことだった。アホになったみたいに二匹は雄臭い交尾に耽っていたのだった。

  「雄が二匹、ケツ丸出しにして同じ雄に好き放題アナルを捏ねくり回されて、生まれる関係もあるんだなあ」

  ティラノは罰が悪そうに、鰐から目を逸らす。

  「ぶっちゃけ、アンタ、あの状況に興奮してたよな」

  「お互い様じゃねえか……[[rb:Hey, Come on, good boys > ほら、来いよ、ガキども]]!」

  「だから、その言い方やめろって」

  雄牛の口ぶりを真似しながら、相手の顔を正面に向け直した。

  「お互い様じゃねえか? テメエも大した発情ぶりだったぜ」

  「……別の意味で興奮してたんだよ。感情がぐちゃぐちゃになって、頭に血が上って、訳がわからなくなって」

  「とても初めて使われるケツには思えなかったがなあ」

  「拳銃をケツにぶち込まれて興奮してる変態に言われたくねえ」

  「雄牛の奴が俺の前立腺に向かって銃の引き金を引こうとした瞬間、俺、死ぬかもと思って、お前と夢中でキスしてたけど、あんなに気が狂うほど気持ちいいことはなかったよ。そいつは確かだ」

  「ちょっと何言ってんのかわかんねえ」

  「いつかわかるさ」

  「……アンタ、結構いい加減なこと言うよな」

  最早パンツが意味をなさないほどに盛り上がった股間を指し示してやると、ティラノはゆっくりと身を屈めて、目をトロリとさせながら布地から浮き上がる二房の逸物に気を取られる。

  「うおっ……」

  ゆっくりと鼻先を近づけ、すぐに布越しに密着した。

  「ふあぁっ……!」

  緩慢な調子で臭気を吸い込むと、風呂上がりながら既に蒸れ始めている雄の臭いに気圧されたかのように、ふっと息を吐き出す。が、聞き分けが悪いかのようにまたぞろゆっくりとすえた臭いを吸い出す。中毒のように、何度も、それを繰り返した。

  「俺のここ、そんなに好きなのかよ、お前は」

  微笑ましく語りかけながら、促すように肩を叩くと、ティラノはますますその浮き上がった形に口吻をキツく押し付け、キツい臭気にうっとりとする。ゴツゴツとした頭をゴシゴシと撫でさすりながら、挑発するように、鰐は股間を突き上げる。

  「嗅いでるだけでいいのか? ほら、ほら」

  「……ん」

  ティラノは何かに操られてでもいるかのように、目をうっすらと閉じながら、カウチの上で跪くような姿勢を取った。ゆっくりと伸ばされた手が、鰐の履くカルヴァン・クラインに触れる。暗闇の中で探し物をするかのような身振りで、ようやっとブランドロゴの刻まれたゴムに爪先がたどり着いた。

  「ふぅ……ぐる、ぐるるるっ……」

  野獣じみたという言い回しがピッタリな唸り声を絞り出しながら、ティラノは薄い布地をめくるようにゆっくりと下ろした。[[rb:鰐 > クロコ]]は膝立ちになって、相棒の緩慢な動作と共に、はみ出したペニスがずりさがるパンツとともに歪んでいくのを眺めていた。とうとう、房になったヘミペニスが布地から解放されると、ゆさゆさと、ティラノの眼前で揺れた。

  「ふぅ……んふ、っ……」

  恥じらいか、照れ隠しか、噴き出したような声を漏らしながらティラノはそのまま鰐のペニスを二本、丸ごと咥えてのけた。上下の顎を限界まで開き、喉奥にまで自ら突っ込ませた。

  「お、っと……」

  小気味の良い吸水音を立てながら、軽快とさえ言っていいくらいに頭を前後に揺り動かすティラノ。種族柄口唇はないから、口元できゅっとペニスをしゃぶることはできない代わり、奥へと吸いよせるバキュームじみた喉の力が、鰐のヘミペニスをまとめて締め付けるのが、鰐にはとても堪えられないものだった。「この手の経験はないと嘯いているくせ、口の使い方はやたらと上手なんだな。嘘つきめ。今まで何匹のチンポを喰ってきたんだ?」

  ティラノはムッとした上目遣いでニヤニヤする鰐を睨みつける。言いたいことは大方わかっていた。……初めてに決まってんだろ。誰かに言われなきゃ、嫌いな野郎のチンポしゃぶるなんてこと、誰がするかよ。

  まあ、別にいいさ。そういうつもりでティラノの頭をあしらうようにポンポンと叩いてやりながら、好きなようにフェラをさせた。自分たちにとって、過去も未来もおよそないようなもので、あるのはただペニスをしゃぶりしゃぶられるいまだけだった。

  クンクンと匂いを嗅ぎ回る時のように、頭を低く腰を高くしてティラノはいっそうと熱心なフェラをする。首元から尾の付け根まで急勾配を描き、カラダの他の部位に比べるとふっくらと、丸みを帯びて柔らかに見える尻肉で頂点を迎える、そのラインを眺めるだけで鰐は興奮してくる。犬っころだって、このごろはとっくのとうに忘れてしまっただろうはしたない姿勢をしているのが、面白くも、堪らなかった。

  「んぅ、んぅ、んぅ、んぅ、んぅ、んぅぅ……」

  一定のリズムで唸るような音を出しながら鰐に奉仕するティラノを見下ろしていると、下腹がますます劣情で火照ってくる。油断すると、あえなくティラノにイカされてしまいそうだ。まだ、始まったばかりというのに。

  「おし、そろそろいいぞ……」

  肩を爪先でトン、トンと叩いて合図すると、鰐はゆっくりと腰を引いた。ティラノの大口から、唾液と我慢汁の入り混じった刺激臭を放ちながら二つのペニスが引き抜かれた。うっすらと湯気さえ立てているそいつを、ティラノはなおもフェラをしていると勘違いしているかのように、口を開けたまま、ぼんやりとして見つめている。なんだか、初めて大都会の喧騒を目の当たりにした無垢なガキの表情だった。

  このまま、ボケッとしたティラノをカウチの上に押し倒して、思い切りカマを掘っても良かった。だが、今晩はちょっと違うことをしたい気分だった。テレビモニターは流行りの[[rb:S&B > ソウル・アンド・ビート]]を垂れ流している。ラップを交えながら繰り広げられるメロウなリズムをBGMにして、[[rb:鰐 > クロコ]]はティラノと長いフレンチ・キスを交わしながら、カウチの座面と背もたれの隙間に腕を伸ばして、ひとしきり弄った。

  「サプライズプレゼントだ」

  そう言って、鰐はほくそ笑んだ。

  「何だよ、それ……」

  寝起きのように目を瞬かせながら、ティラノは鰐が片手に握りしめているブツを見つめる。細長く、真っ黒で、薄目にはウナギのようにしか見えなかった。鰐がそれを軽く振ると、ブルンブルンと揺れながらその頬を優しくはたく。

  「どうだ? すげえ変態って感じがするだろ」

  そいつは雄牛の別荘から抜け出す際に、どさくさに紛れて拾ってきた代物だった。ディルドではあるが、両端ともにペニスを模した形状をしている双頭ディルド。言うまでもなく、雄牛が自分の邪な楽しみに使っていたものだった。

  「なんてもん、こっそり持ち出してやがんだよ、気色悪っ……」

  「けど、ちょっと興味あるだろ?」

  ティラノが即座に否定しないのを見て、鰐はニンマリとしながらキツく肩を組んだ。

  「……相棒のよしみだからな。今日はコイツで一緒に気持ちよくなろうぜ♡」

  「今晩のアンタ、雄牛が取り憑いてるみてえ」

  [[rb:鰐 > クロコ]]は胸筋をビクビクと動かしながら、ティラノの尾っぽの陰にぎゅっと爪を押し付けると、「ん゛ふっ」とおよそ雄々しさからはかけ離れた艶かしい声を挙げる。

  「けど、欲しいんだろ? 早くアンタとしてえ、っていった[[rb:かわいこちゃん > good boy]]はどいつだ?」

  「……」

  「何度でも言うけどな、お前と一緒にケツ犯されてるとき、雄牛には悪いが本望だったんだよ。攻めが違う相手だったら、もっかいしたいくらいにはな」

  「だから、そんなん持ってきたのかよ。雄牛も雄牛だけど、アンタも所詮、アンタじゃんか」

  「遊び終わった後でも同じことが言えっかな? まあ、時間はたっぷりあるんだ。何でも試してみようぜえ?」

  いつのまにか硬くなったティラノの乳首を爪先で弄ると、「おふう」と気の抜けた声が上がる。

  [newpage]

  「んぅ……ぐるるるる、るうっ……」

  低く喉を鳴らしながら、ティラノは鼻腔から健やかな吐息を漏らす。

  「おう、どうだ。痛くねえか?」

  「おぅ……い……い゛いっ」

  「けっ……良いのか、痛えのか、どっちなんだよ?」

  揶揄うように尻を打つと、ティラノはプルプルと小刻みに腰を振るわせる。

  「き、気持ぢ……い……ひっ」

  曖昧な発話が、そうやってかろうじて言葉になる。ゴム製の双頭ディルドの片っぽを愛しいティラノのアナルにゆっくりとねじ込んでいた。初めは訝しんでいたくせ、コイツのケツめどにディルドを突っ込んだらすぐメロつきやがる。そんな年下の相棒を、面白がりつつも、鰐は慈しみのような感情も湧き起こってきた。

  ディルドは大型の肉食向けに大きく作られていたが、シャワ浣でどれだけ丁寧に中を洗ったおかげか、ゆっくりではあるが、ティラノの尻はしっかりと咥え込んだ。めいっぱい押し込んでやると、直腸の突き当たりにぶつかったディルドの先端が、コリコリとした感触を捉える。[[rb:鰐 > クロコ]]は躊躇うことなく、細い棒で隙間に落っこちた小銭をかき集めようとするように、ディルドを繊細に揺り動かして、ティラノの前立腺を弄り回す。

  「んおっ……ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛おっ……」

  鰐の期待と欲望に応えるかのように、ティラノは全身を微かに震わせ、上半身を捻るようにしてディルドを挿入されている自分の尻の辺りを、険しげな表情で見つめながら、ゆっくりと息をすう、はあ、している。

  「お゛お゛っ……お゛お゛んっ……」

  ティラノのペースに合わせるようにディルドを出し挿れする。空いた方の手は峻厳さと柔和さを兼ね備えた尻を鷲掴んで、凝りを解すような手つきで、滑らかな尻たぶをねっとりと捏ねくり回しては、時折ピシャリと叩いて気を引き締めてやる。滑らかでつやつやとした光沢を放つ臀部は、目を惹きつけられるものがある。鰐は何度も口吻を近づけて、その艶かしい尻に音高く口づけをした。そのたび、ティラノはドキリ、としたように腰をほのかに突き上げるのが、みずみずしい。

  他の鱗の部位と比べると薄白くて、ほんのりと競泳パンツの日焼け跡も残る潤った尻の愛らしさに、鰐は何度も口吻を押し付けるのだった。厳かな龍が握りしめる宝珠に妖しく口づけをするように。思えば、雄牛の要望であの別荘に来る前日に浜辺で日焼けまでさせられていたのだ。

  股ぐらからティラノのご立派なペニスが堂々と勃起して、早くも先端をしとどに濡らし、トロリとした白湯を思わせる汁をボトボトと垂らしなどしている。口では黙っていても、ペニスは何にも増して雄弁だった。

  「あー……お前のプリケツたまんねえ、たまんねえよぉ……」

  ——けっ、[[rb:テメエのプリケツたまんねえぜ > I love that butt, good boy!]]、と[[rb:雄牛 > ブル]]の口癖がつい口に出る。雄牛めの言葉なんぞ、お気にのドラマのセリフのように覚えてしまった[[rb:鰐 > クロコ]]鰐である。

  「あ゛はっ……お゛お゛っほっ……」

  薄笑いと喘ぎを同時に言おうとして、ティラノの声が妙に上擦った。不出来な鳥の囀りみたいで可愛らしい。邪魔な長い尾を押し分けて、その背中から尻にかけての稜線をくしゃくしゃに撫で回す。手の平にジョリジョリと鱗の擦れる感触がクセになる。腿と胴の境目にあたる山脈のように大きく隆起した斜腹の筋肉はパンパンに張り詰めて、触り心地が良い。これほどに理想的なガタイをした雄が、ケツにぶっといディルドを挿れられて弱々しげに喘いでいる。雄牛に犯されていたときは少し我慢していた様子であったが、所詮は鰐と同じ穴の狢だと気づくと、どことなく嬉しかった。

  雄の精悍な肉体が生み出す淫らな絶景に、麻薬のような幸福感を覚えながら、ディルドを出し挿れするペースを早めたり、逆に緩めたりする。開錠するような手つきで玩具を奥へ捩じ込ませては、抵抗する直腸の締め付けを楽しんだ。

  [[rb:鰐 > クロコ]]の視界にはディルドを咥え込んだティラノの丸々とした尻しか映っていなかった。筋肉と脂肪を程よく溜め込んだ、高い宝石屋に並ぶエマーユのように、艶ややかで滑らかな尻。ガキが安価なキャンディをしゃぶるような調子で、大人の悍ましい玩具を平然と舐っているはしたなさ。時折、直腸を蠕動させると、咥え込んだ玩具がゆっくりと外へ放り出されていくが、それがすっかり出るか出ないかという辺りで、ぱっくりと大きくなったアナルが収斂して、その大ぶりで凶悪な形をしたカリを蛇が獲物を一飲みするように吸い込んでいく。

  さっき観ていたポルノビデオの奇怪なカメラワークがフラッシュバックした。犯される[[rb:虎 > タイガー]]のぷっくりと、ドライソーセージのように肥大化した乳首を執拗に捉える、誰だかわからない、カメラマンかどうかもわからない誰かの眼差しのことを、不意に思い返して、鰐はほくそ笑む。もしかしたら、あれを撮ったのは自分だったかもしれねえ、などと意味もない冗談を思い浮かべさえ、する。

  「そろそろ、いいかなあ」

  軽く口笛さえ吹きながら、鰐はおもむろにカウチの上に、ティラノと尻を向かい合わせるようにひざまづく。ディルドの片方は相棒のアナルに挿したまま。

  「はぁ……はあっ……」

  すっかり下半身の快楽を味わされたティラノは、普段のような皮肉や嫌味一つ垂れず、半目の朧げな表情で鰐の所作を、どこか傍観者のように見つめている。カウチの背もたれにゆるく海老反りになった上体をもたれかけさせながら、注意深くディルドのもう片方の先端を、鰐自身の恥部にあてがう。僅かに脱肛し、捲れ上がった腸壁を収縮させて、プルプルと揺れるそいつが触れる感触に、たまらないとばかりにゾワっと身震いする。

  「ほら、これから俺たちひとつながりになるんだぜ、俺たち[[rb:奴隷 > ”slave boys”]]になるんだぜ」

  「んうっ……こんな時まで軽口叩いてん、じゃねえようっ……あ゛あっ……はあっ……」

  この双頭ディルドで[[rb:鰐 > クロコ]]何度か雄牛に遊ばれたことがあるのだった。その時は別の下っ端の雄が相手だったが、ひとしきり指でケツを弄り回されたところで、雄牛は自慢げに筋肉をやたらピクピクと震わせながら言ったものだった。

  ——[[rb: もっとデカいもん > something bigger]]、欲しいだろぉ? 欲しいよなぁ? クズどもめ。

  そうして、尻合わせに四つん這いにさせられた二匹の雄の獣人の間に陣取った[[rb:雄牛 > ブル]]は、そのご自慢な遊び道具を取り出して、鰐と別の雄の尻に、それぞれの先端を挿入したのだった。ディルドを握りしめた雄牛の手の僅かな動きが、そのままディルドを介して直腸から前立腺までに伝わって、ただ指やペニスを挿れられているのとはまるで違う。

  ——へへっ。こうするとよお……テメエらのケツから、コイルみてえに電気が起こるんだぜぇ。これが止まったら、地球の運動がすべて止まっちまうんだ。テメエら、責任重大だぜ……がははっ……わかったらケツ気張れよ、[[rb:奴隷ども > slave boys]]! ほら、ほら……! もっと俺を喜ばせろよ! へっへっへ、クソガキどもがっ!

  噴飯ものの冗談を吐きながら、泥酔した雄牛が激しくディルドを左右にシェイクすると、「ガン掘り」されている時とは別物の感覚が一気に押し寄せてきたのだった。後ろの口で番になった雄たちの阿鼻叫喚に雄牛の高笑いが混じり合って、幻覚を見せられているように鰐は錯覚したものだった。尻の中でパチパチと静電気が弾けるかのような衝撃を覚えながら、雄牛の気の済むのを、シーツをキツく握りしめながら思っていた。

  屈辱に快楽が交じり合うのに時間はかからなかった。コインの裏表というよりは、角度によって見え方が変わるレンチキュラーのように、ボスに好き勝手されていることへの悔しさと、こうした行為に耽ることへの純粋な悦びが平然と共存するのだった。

  雄同士が尻で繋がるなどという行為には、案外すぐに慣れてしまった。あまつさえ、嫌いではなくなってしまっていた。生憎なことに、雄牛の欲望のための玩具になればなるほど、鰐もまた自分が押し隠していた欲望の何たるかを自覚するようにさえなっていた。

  自分から積極的に腰をくねらせているうち、その勇猛な雄らしからぬ甲斐甲斐しい姿が雄牛の気に入ったらしい。何度もお呼ばれされているうち、引き合わされることになったのがティラノだった。

  昔のことを思い返すにつれ、[[rb:鰐 > クロコ]]は居ても立っても居られなくなってきた。今夜は気心の知れる相棒となってしまったティラノと、それをすることができるのだ。ティラノにサッと背中を向けると、ひんやりとしたゴムの感触にゾクゾクとしながら、慎重にディルドを自分の中に挿し込んでいく。

  「ほら、いくぞ……」

  少しの抵抗感のあとでカリの部分がアナルをしゅるりと潜り抜けた。もたれていた上体を上反りの姿勢にしながら、さらにディルドを奥へと導き入れる。

  「くぅ……もたもたすんなって」

  焦れたティラノは腕を伸ばして鰐の尻べたを掴むと、ぐっと横へ押し広げる。相方のアシストもあって、泥の中に沈み込むようにディルドの片方が鰐の尻に収まっていった。気味悪がっていたくせに、もう夢中になっているのは、いかにも子供らしい。そんな相手の反応もことごとく煽情的に思われた。

  「へっ……一丁前なこと言いやがってなあ……」

  早く、早く、こいつと一つになりてえ。急く心を抑えて、少しずつディルドを奥へ突っ込ませる。しばらくして、もう十分挿入ったと思しきところで、鰐は上体を低く屈めて四つん這いの体勢に移った。

  「うふぉっ……」

  まずはゆさゆさと腰を振る。尻に異物の入る感触は今さら言うまでもないことではあったが、それでも堪らなくなってくる。腹にいっぱいものを蓄え込んで腹が張り、俄かに起きる排泄感に痺れそうになる。

  いつもの感覚と言えばそうだが、今晩は少し勝手が違った。背後には鰐と同じ姿勢を取ったティラノが、自分と同じように腰を動かしている。その動きをディルド越しに感じ取ると、堪らずに腰を振り返したくなる。

  「おい、どうだぁ?……」

  「っ……アンタってやっぱっ……マジ変態……だなっ……」

  「へへっ……お前も大概じゃねえか……[[rb:おませさん > good boy]]がよっ」

  「だからっ……その言い方やめろ……って」

  不意に込み上げてきた感覚を堪えようとして牙を噛み締めかけたが間に合わず、腑抜けた溜め息を漏らすティラノを尻目に見ながら、

  「んなこと言ったって、かわいらしくお尻振り振りしやがったら、説得力も糞もねえだろぉ?……」

  「うっせ……っ」

  「かわいい奴……ほら、もっとケツ気持ちよくなろうぜえ」

  「くうっ……!」

  鏡合わせのようになった雄二匹は、[[rb:背中合わせ > back to back]]になって、互いの尻を刺激し合って愉しんだ。間に挟まって不規則にディルドを動かす[[rb:雄牛 > ブル]]のような奴はいなかったが、その代わりに互いのペースでディルドが直腸を出入りする感触に耽った。しかもそれぞれの腰の微妙な動きがディルドを通じて伝わってくる。振り向かずとも、ティラノがぎこちなく控え目に腰を前後させている素振りさえ、鰐は想像することができた。

  腰の振りを少しずつ激しくしながら、鰐は項垂れながら目を瞑り、しばしディルドが出たり挿入ったりしている尻の感触に集中する。していることは雄牛に調教されている時と変わらないにもかかわらず、猛烈な幸福感に頭がおかしくなりそうだった。気持ちいいとか、嬉しいとか、幸せだとか叫びたくなるそばから、需要を遥かに上回る[[rb:幸福感 > ハピネス]]が心も身体もどっと押し寄せてくる。

  「う゛ほお゛お゛お゛お゛ん……♡」

  甘い声で唸るのにも鰐は躊躇いなどしなかった。生温かい息を吐きながら尻の力を緩めると、ゆっくりとディルドが外に押し出されていく。あと僅かで抜け出してしまいそうなところで、ぎゅっと尻を締めると今度は逆に玩具が鰐の内側に吸い込まれていった。それを何度も繰り返し反芻しているうちに、腰が砕けそうなほどの快感が襲ってくる。

  「はあっ……ん゛っ……お゛お゛っ……やっべ……やっゔぇ♡……ケツいくっ♡♡♡」

  思った言葉が空気のように率直に口から吐き出される。すぐに堪らなくなって、しばしのあいだ腰を高く突き上げたまま、ぶるるっ、と太腿を震わせた。それにつられて、直腸の内側でディルドがのたうち回ると、痒みのような刺激が鰐に押し寄せてきて、また勝手に脚を震わせてしまう。

  「ほ……ほお゛う゛っ♡……」

  高揚したライブ・アーティストのような掛け声で、鰐は上体を捻りざま、ティラノの尾から尻までを乱暴に撫でさする。それだけじゃ足りないと、一発、軽快な音を立てて尻をスパンクする。股越しにティラノのすっかり勃起したペニスに手を伸ばすと、コーティングをしたかのように全体をすっかり汁でまといつつある巨根は、硬いながらも滑らかな手触りが快かった。

  振り返ってティラノの様子を見ると、ディルドはしっかりとしゃぶってはいるものの、尻の動きは依然ぎこちなかった。雄牛の奴に、「チッ、[[rb:早くしろよ > Come on]]!」と言いながら激しく尻を打って催促されちまいそうだ。

  「ふうっ……ったく、半人前だなあ゛っ……サボってんじゃねえっ♡……それじゃ♡……雄牛にお仕置きされちまうぜぇ!……♡」

  死んだ雄牛に負けじと、その消極的なティラノの尻を勢いざま引っ叩いた。ぐっ!……カウチの革に顎を埋めながら、ティラノは低い声で不満とも歓喜とも言えない唸り声を上げるのがいじらしい。

  「……っ……っせっ……こういう時に変な……ことっ……ふううううっ!……思いださせ……んんんっ!……なっっっっ……てえっ……んんんっ……」

  「いいだろ、相棒……ほらっ……こうやって変態に腰振るんだよ……っ♡」

  ティラノを教え導いてやるように、メリハリをつけて腰を上下させると、ミチミチと生々しい咀嚼音を立てて尻がディルドを飲み込んでいく。調子が出てくると、蒸気機関のように鰐の腰は規則的かつ威勢よくくねる。雄牛がいたく感心し、幾度となく尻を撫でたり舐めたりした見事な献身ぶりだった。

  「うおっ……おっ……」

  [[rb:鰐 > クロコ]]の動きに合わせるようにティラノも渋々と腰を大ぶりに動かし出す。鰐の手慣れた動きに比べればまだ半人前であるが、僅かながらもディルドをさらに奥深くまで咥えこんでいく。

  「へへっ♡……悪くないぜえっ♡……このままお互い気持ち良くなるんだ、相棒♡……」

  「んっ!……んっ!……んっ!……んんんんっ……」

  激しいワークアウトの時のような苦悶の声を上げながら、ティラノは腰を振る。みち、みち、とディルドが捩じ込まれていく軋むような音が大きくなる。

  「いぇあ゛あ゛っ……ぐっ……お゛っ……♡」

  「おおっ!……おお!……んっ!……」

  棒状のチョコレート菓子を両端から咥えて齧っていくようなおふざけを続けるうち、ついに双頭ディルド全体が彼らのカラダの中に収まってしまう。鰐とティラノは精悍な尻同士をぺったりとくっつけ合う格好になった。勇猛な雄二匹がそのような姿勢を取っていると、どこかの名家の紋章にもなりそうだった。

  「お゛ほっ……ああケツがっ♡……すっげ、俺たちケツでキスしちまった♡……」

  「っは……っ……やっばっ……」

  「へへっ……ウブの割りには大した[[rb:ケツ > butt]]だなっ♡……お前、やっぱりここ来る前はウリしてたろ?……そうでなきゃ、こんなケツありえねえもんなあっ♡……認めろよ、このっ♡……このっ♡」

  「……うっせえって……ふうっ……いちいちっ俺のほっ……こと詮索すんなっ……んふっ!」

  「おう、気持ちいいだろ♡……ほれ、もっとケツ振ってやっからなあ♡……ほら、ほら、ほらよっ♡」

  「んんんんっ!」

  揶揄うように尻を左右に揺さぶると、互いの直腸にキツキツに収まったディルドがのたうち回るかのようで、途端に得も言われない快感が屈強な雄たちに襲いかかる。肉体は神々しいといえども、今は無防備で無抵抗に過ぎない鰐とティラノはあっさりとその刺激に屈服し、まともな言葉も出せなくなる。

  「はああっ!……はああっ!……」

  「ん゛お゛っ!……お゛お゛っ!……お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っふ♡……すゅっげっ♡……ケツしゅっげえ♡」

  犬が遠吠えするように口吻を高く突き上げながら、[[rb:鰐 > クロコ]]は喘ぐ。恥も外聞も今はなかった。雄牛の前では少なからず抑制していた感情も、ティラノ相手なら何ら構わずに吐露できた。組織の一員であることも、鰐であることも、雄であることも、尻の快楽に比べればどうでも良いことにすら思えた。ティラノの喘ぎはまだ素直になり切れない声音ではあったが、クソガキのようでかえって可愛らしい。

  「っ……♡」

  「ぐっ……ぎゅうっ……」

  しばらく、尻をくっつけ合ったまま、彼らは乱れた息を整えていたが、その間もスモウ・レスラーが怪力をぶつけ合って取っ組み合い、土俵の上でピタリと静止しているように、尻をグリグリと押し付け合っている。ペタペタと乾いた音を立てながら押しくらしていると、微細な刺激が前立腺のあたりにジンワリと広がって、切なくなってくる。

  自ずから唆りたった尻尾はいつの間にか蔓のように巻き付き合い、絡み合って木のように屹立している。ちょうど二匹の尻の谷間の隙間からニョキニョキと生え出てきたかのようだった。

  「へっ♡……」

  カウチの端に放り出したスマートフォンを取り出すと、鰐は上体をキツく海老反りにしながら、自分たちのアラレもない姿を何枚も自撮りした。

  「っ……何勝手に撮ってんだってのっ……!」

  「いいだろ? 俺たちがこうして絆で繋がった記念日なんだからよっ♡」

  「きっも……っ」

  そう嘲るティラノの顔は、スマホ上では満更でもない表情を浮かべていた。口こそキツく結んでいるものの、目元は隠し切れないほどに緩んでいる。今度は動画モードに切り替えて、結合部にカメラをクローズアップさせて、もごもごと蠢く二つの尻と、その間から微かに見え隠れする黒いディルドをネットリと撮影する。そこだけを拡大すると、まるで異生物が蠢き、競うように獲物を奪い合っているかのように見えた。

  「おっ!……うああっ……う゛う゛っ!……」

  俄かにティラノの声が恥じらいを帯びたので股ぐらを覗き込むと、慄いたように震えるペニスが、勢いよく潮を噴いてしまっていた。それを止めようと必死に腹に力を入れているようだったが、揶揄いに鰐が尻を揺すると、そこから発する刺激に耐えられずに、次々と潮が飛び出て、カウチを汚してしまう。

  「へへっ♡……よっぽど繋がるのが気に入ったんだな、相棒?」

  「……変なことっ……言うなよ……ううっ」

  「別に、いくらでも出していいんだぜえ♡……お゛お゛っ♡……お前がンな姿晒しちまったから、俺も出したくなっちまったよ♡」

  ここまでに散々溜まった情欲を一挙にカウチの上にぶちまけるべく、鰐は激しく二本のペニスをまとめて握って擦り出した。相棒の情けないザマを観たらもう我慢できそうになかった。既に[[rb:我慢汁 > pre cum]]でビチョビチョになっていて、爪の中でニュルニュルと海棲生物のように滑った。

  「お゛おっ♡……っ♡……ゲツ気持ぢ♡……ヂンポ切ねえよおっ♡……お゛お゛んっ♡……ヂンボすっげぜつなぐでだまんねえええええっ♡……」

  がむしゃらにペニスを擦るたび、絶頂感が高まっていく。口吻はだらしなく開き、息づかいは、絵本に描かれた汽車がシュッシュッポッポと煙を上げる様を思い出させた。絶頂に達するか達しないかという時、なぜだか、ガキの時分に見ていた景色——薄汚れた路地、牢獄よりも狭い家、不味い食事、不潔という言葉ではとても形容しきれない便所、下水が混じりの川、鳴り止まない銃声、耳を覆いたくなるような悲鳴、ペンキのように壁にぶっかかった血の跡——が脳裏に浮かんだ。そんなところで生きていた鰐は、今や立派なギャングであり、同じような境遇をした雄と変態している。馬鹿馬鹿しくも、クソったれと言いたくなるほどに最高だと思った。

  「はあっ♡……はあっ♡……」

  ぶちまけられた精液がたちまちすえた臭いを撒き散らす。顔をカウチに伏せて、自分の子種の臭いを嗅ぎながら、鰐はもう夢見心地でいた。合図をするようにまだディルドを含んだままの尻を揺さぶると、ティラノも微かに尻を振る。尻尾は相変わらず、もつれ合っていた。

  もう少し、いや、いつまでもこの格好でいたかった。どうせ明日ならいくらでもある。緩慢に、揶揄うように尻に走る気怠げな刺激に、ピク、ピクと腰を震わせながら鰐はティラノとの行為以外のことなど、おつむから吹っ飛んでしまった。

  「ホント、ケツの相性までバッチリだな、俺たちはよお♡」

  「……ふうっ」

  「恥じらってんじゃねえよっ♡……このっ、ど変態ザウルスがよっ♡……」

  「って……いちいちケツ叩くなよ……んんっ!」

  「ほら、今夜はずっとこのままでいようぜっ♡……あ゛あ゛っ♡……

  キスの代わりに、また互いの尻をスタンプし合った。ゴリゴリとディルドが直腸をゴリゴリと擦る快感にまたぞろ彼らを堪らなくさせていた。……

  とはいえ、彼らにとっての愛の絶頂は、突然扉が蹴飛ばされ、新たなボスとなった[[rb:鹿 > ディア]]がけしかけた黒スーツの追手どもが銃を乱射する、ほんの数秒前のことに過ぎなかったのだが。