シリウスの輝き

  カーテンを開けると、昨日からの雪は止み、外には一面の銀世界が広がっていた。

  「朝食が終わったら、森に行くか」

  俺の傍に佇むサモエド犬、虎徹と虎太郎に尋ねると、2匹は異議なしという目で俺を見つめ頷いた。

  手早く朝食を済ませ、虎徹と虎太郎にリードをつけて森へと向かう。

  太陽の光を浴びながら、凛とした気持ちのいい冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。

  朝の森を歩く人はいないようで、雪の上に残っているのは小動物と思われる足跡だけだ。

  木々に積もった雪は朝陽を浴びて眩い光を放ち、時おり葉から滑り落ちる雪の音が聞こえるほど、森は静かだった。

  2匹の歩みに任せてひたすら進んでいると、やがて前方で木立が途切れ、少し開けた原っぱで何かが動いているのに気がついた。

  虎徹と虎太郎も耳をピンと立てて、原っぱを見つめている。

  二匹はゆっくり歩を進めると、木立に姿を隠して原っぱに顔を向けた。

  原っぱで動いているのは2匹の狐で、後になり先になり、楽しげに追いかけっこをしている。

  走り回る狐たちは、2年前に出会った2人、いや2頭の人狼のようだった。

  人狼、人間でもあり狼でもあるという、お伽話かSF物語に出てくるような種族。

  神々しいまでに美しいあの2頭に出会ったのは、まさにこの場所だ。

  そんなことを思っていると、すぐそばの枝から雪が滑り落ち、その音が合図であるかのように、狐たちは原っぱの奥の森へと消えていった。

  狐たちを追いかけそうな2匹のリードをひっぱり、さらに森の奥へと歩いていくと、やがて、切り立った崖の上の原っぱが現れた。

  そこは、やはり2年前のクリスマスイブの夜、人狼たちが彼らの楽園へと旅立っていった原っぱだ。

  赤い低緯度オーロラが楽園の扉が開く合図だったっけ。

  日本中に潜んでいた人狼たちが集まったようで、ここは人狼で溢れていた。

  あの2頭の人狼は、楽園で元気に暮らしているだろうか。

  そういえば、数日前に低緯度オーロラが出たとニュースやSNSで話題になっていたが、楽園への扉は開いたんだろうか。

  虎徹と虎太郎もあの2頭のことを考えているのか、崖の方に視線を向けている。

  「やっぱり、クリスマスイブだから来られるんだな」

  そう呟く俺の横で虎徹と虎太郎は、遠吠えを始めた。

  その声は、細く高く空へと響きわたり、やがて森の中に消えていった。

  2年前、人狼たちが楽園に旅立ったあと、彼らと出会った場所に行こうとしたが、どういうわけか、見つけることができなかった。

  あの頃は難なくたどり着けたのに。そして楽しい時間を過ごしたのに。

  雪が溶け、やがて夏が過ぎ秋も去って、季節が一回りした去年の冬。

  やはり今日のように雪が積もった朝、すでに日課となった、あの場所探しに森へ出かけた。

  その日は虎徹と虎太郎の足取りが軽やかで、しかも心なしか笑顔を浮かべているようだった。

  もしかしたら……。

  予感は当たって、あの2頭と出会った原っぱに出ることができた。

  さらに奥に進むと、低緯度オーロラの出現によって楽園への扉につながった崖にたどり着いたのだ。

  一年たって、やっとたどり着けた。

  その時、俺は気がついた。今日はクリスマスイブだ。

  低緯度オーロラが出て彼らが楽園に旅立った日も、クリスマスイブだった。

  翌日のクリスマスの日は、思い出の場所に難なく行き着くことができた。しかし、それ以降は、どれほど森を歩き回っても、思い出の場所に行くことは叶わなかった。

  そして一年たった今日、クリスマスイブの日、ちゃんと思い出の場所に来ることができたというわけだ。

  これは彼らからのクリスマスプレゼントなんだろうか。

  毎年、クリスマスイブにここに来ていれば、いつの日か、また会えるだろうか。

  会えないまでも、彼らとの繋がりを持っていられるだろうか。

  その夜、満天の星空を見上げると、シリウスー天狼ーが、ひときわ明るく輝いていた。