【デリバード♂】DELI HELL BIRD 2025【???????】

  「いやはや、もう2年も経ってしまっていたのですね」

  デリバードは、まるで長旅から自宅に帰ってきたかのように満足げな様子で溜息を吐きながらどっかとソファに深く腰掛けた。もっとも、ここは私の部屋なのだったが、彼にとってはさしたる問題ではないらしかった。

  「改めまして、ご無沙汰しておりますな。長いようで短いお互いの人生、2年も会わないでいるとちょっとした喪失にも思われます。とはいえ、文面ではたびたびやり取りはさせていただいていましたが」

  デリバードは相変わらず脂肪のせいで大きく前にせり出した腹をたぷたぷと揺すりながら話す。最後に会った時よりも、さらに豊満さ——敢えて肯定的な言葉を使うとすれば——が増したように見える。

  デリバードは頸を掻きながら、緩慢に首を左右させて薄暗い部屋を見渡す。部屋の片隅でクリスマスツリーに雑に巻きつけられたLEDライトがチカチカと点滅している。テーブルには生クリームの残骸がくっついた紙皿と、骨に残りカスのついたフライドチキンだったものが、広げられたアルミホイルの上に轢死体のように散らばっている。それらを取り囲むようにロングの缶ビールが何本も立ったり転がったりしていた。

  「もてなしていただいて感謝いたしますよ。仕事中ゆえ、ノンアルで我慢しないといけないのが残念ではありますが」

  げふう、と躊躇なくゲップをする。豊かなはずの羽毛はフライドチキンの油と衣に塗れてギトギトだが、デリバードは気にする素振りも見せなかった。

  「何から話せばいいでしょうかね」

  思考を巡らしているようであるその表情はまともな人間ならば見るに堪えないものに見えただろう。

  「我々の業界はいま、率直に言えば最悪の状態にあります。疫病騒ぎが一段落したとはいえ、その後が大問題です。戦争は終わらないし、物価も上がりっぱなしです。おまけに国際情勢ときたら、まったく予測がつかないとくる。このような始末ですから、嗜好品の需要は総じて落ち込んでしまいまして。我々の業界も例外ではありません。人々はなるだけ安価でお手軽な手段でおのおの欲望を発散してしまおうという傾向が強まりました。この世界に足を踏み入れて来年で30年となりますが、このような事態は初めて直面いたしました」

  デリバードは身を乗り出していた。が、貧弱な腹筋の力を使い果たしてしまったのか、すぐにくたびれた様子でまたソファに背中を沈める。

  「とはいえ、これはあくまでも外的要因にすぎません。もっと大きな要因は、あなたも既にお察しかと思いますが、まさしく内的要因、コレなのです」

  デリバードは羽根がまとまって、握り拳を作ったまま固まってしまったような手をピンと突き立てる。とはいえ今時、「私はコレで会社を辞めました」なんてジェスチャーは通じない。

  「私自身、なかなかに妙案が浮かんでこなかった、ということに尽きるのです」

  急にデリバードは元気を取り戻し、こちらの顔をジロジロと皿を見るように眺めてくる。一本いいですか、と断ってから胸毛の中にしまっていたメビウスを取り出し、火をつけた。いやはや、防衛だの防災だのの名目でタバコばかり高くなっていきますね、などと愚痴りながら煙を燻らせているうち、血糖値スパイクでトロリとしていた目つきは再び冴えてきたようだった。

  「去年は私にとり、まさにスランプと言ってよい年でした。マスカーニャ、ウェーニバル、シャリタツ、セグレイブ……泡のようなアイデアが浮かんでは消え、浮かんでは消え、です。思考はそれ以上、進んでくれはしません。そんな体たらくでしたから、昨年はあなたの元に参上するのを自粛したと言うワケです……いえいえ、あなたの言わんとすることはよく分かります。何もなくともあなたが歓待してくれるであろうことは重々承知するところであります。しかしながら、『顧客との関係は良き商品と共にあり』。これが私の30年来のポリシーです。大人のためのサンタクロースを自認しているのですから尚更のこと。手ぶらのサンタクロースなど、物笑いの種にしかすぎません」

  ♬ 「赤いオニがきたよ」と洒落てみるか——

  不意にデリバードは口ずさむ。

  「さて、前置きが長くなってしまいましたな。私がここへやって来たということは、勿論、あなたにプレゼントがあるということですからね」

  事実、デリバードの脇にはいつものように大きな袋があった。が、それは墜落した気球のようにソファ上でペシャンコになっているだけだった。

  「訝しんでおられるのでしょう?」

  してやったりと、こちらの反応は丸分かりだと言わんばかりに鷹揚に頷く。

  「まあ、見ていてください……」

  デリバードは袋におもむろに手を伸ばそうとする。が、ソファの上では自由に身動きが取りにくいのと、翼が短いために袋に手が届かなかった。

  「ああ、そうだ……いっそのこと」

  そう独りごちると、翼をパン、パンと叩いて鋭く鳴いた。すると部屋の窓に黒い影が現れたかと思うと、そいつは窮屈そうに身を捩りながら部屋に入ってきた。

  その見た目は初め何とも言いようがなかった。星型でラベンダー色の体色に中心を飾るルビーのようなコア。強いて言えばスターミーだ。なのだが、その割にはあまりにも脚がすらりと伸びすぎていて、やはりスターミーなのだが、スターミーとは言い難い、しかしスターミー以外には何とも喩えようがない、非常に困った見た目をしていた。

  「驚きでしょうな、はっはっは」

  デリバードはホクホク顔で、してやったりとばかりに全身を揺さぶって笑う。

  「その反応を見ると、ますます2年ぶりだという気がしますね……本当はもう少し伏せておきたかったですが、まあ別に構いません。私としても早く見せたくてウズウズしていましたから」

  デリバードはそのスターミーのような何かをそばに呼び寄せた。

  「ヒトッ!!」

  とそれは元気よく叫んだ。おそらく「はいっ!」と優等生的な受け答えをしているのだろう。

  「スターミーにこのような姿があったとは、私も初めは信じられませんでした」

  あたかもアメリカ製のドキュメンタリーか、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーにありがちな口調でデリバードは語る。

  「実際にスターミナイトを入手し、それをスターミーに使用するまでは。もっとも、それでもなお半信半疑だったのです。スターミーという、それ自体で完結しているようなポケモンに、これ以上何を付け加えることができるでしょう?……しかしながら、結果は私の予想を大きく超えるものでした。無論、良き意味でのことです。この姿を見れば、わかるでしょう?」

  メガスターミーは非常に恭しい態度で我々の側に侍った。胡座を掻くのか正座をするのかと見ていると、ちょこんと体操座りをする。図体は大きいが、初めての場所で緊張しているらしい。頻りに落ち着きなく部屋を見回しながら、コアの色を七色に輝かせ、イルミネーションよりも綺麗だった。

  「なぞのポケモンとは申しますが、これでますます謎がフカマル、ですな」

  何かがツボに嵌ったのか、一匹でクツクツとこもるように笑う。

  「さて、今晩は私のアシスタントとして彼には働いてもらうことにしましょう」

  デリバードが先ほどと同じ仕草でパン、パンと翼を打ち叩くと、メガスターミーは驚くべき速度で立ち上がり、やたら長い脚をパリコレのモデルのように動かしながら、主人たるデリバードの側に近寄った。

  デリバードが袋を指さすと、メガスターミーはまるで昭和時代の理想の女房のように、両腕をおしとやかにコアの下方に重ね合わせねながらお辞儀をした。それから、ソファの袋の中をまさぐり出した。大きな袋のわりに、プレゼントは袋の底の方にあったため、取り出すのにモタついた。そのあいだ、我々はくしゃくしゃになった袋の細かな皺や陰影を見つめていた。

  「ヒ……ヒトッ!!」

  ガッツポーズをするように、メガスターミーは左腕を突き出した。その先端には丸い小石のようなものがくっついていた。

  「……ありがとう」

  デリバードにそれを手渡すために、メガスターミーは主人の側に膝をついて、頭を低くした。権力者に貢物を贈る使者のような姿勢だった。うんうんと頷くデリバード自身も玉座でふんぞりかえる為政者を思わせた。為政者といっても、貧国の独裁者といった風貌だが。

  メガスターミーは、家具を蹴飛ばしたりしないように針に糸を通すような慎重さで、テーブルの反対側に移り、「プレゼント」をこちらに渡す。モンスターボールよりも一回りほど小さく、透き通った中身には波打つような模様が浮かび上がった小石が、ペンダントのように仕立て上げられている。

  「それがガメノデナイトです。いやはや、あなたからお問い合わせがあったからには、ご用意しないわけにはいきませんでしたよ」

  デリバードはまたしてもゲップをする。熟年期の夫婦のような遠慮のなさだった。

  「久々にカロス地方へ参りましたが、まあ随分と様変わりしまして。ミアレシティのあちこちに野生ポケモンが住み着くようになったとかで、封鎖されている街路もあり、ただでさえ迷いやすいというのに厄介なことです。以前お世話になったゴーゴーシャトルも使えなくなりまして、やむなくタクシーを使いましたが、ミアレのタクシードライバーというのはどうも反りが合わんのですね……とはいえ、あまりミアレの外に出なくともポケモンを探しに行きやすくなったのは、私としては(と言いながらふとましいお腹をポンと叩く)ありがたいことでしたが」

  あらかじめ用意していたモンスターボールを放り投げると、白い光を放ちながらガメノデスが出てくる。デリバードの姿を認めると、何かを思い出したのか慌ててソファの影に隠れた。

  「この子とは5年ぶりですかな。いえいえ、あなたならきっと大事にしているだろうとは確信しておりました。それに、あの時私は断言しましたからね。『千回ヤれる子です。千回ヤっても飽きない子です。不思議な子です』と。ははは、まだまだその道を極めるには、お互い長いですなあ……」

  しばし昔のことを談笑した。スターミーはそのあいだ、こちらの隣に腰掛けて大人しくしている。両手にあたると思しき腕を交差させて、両腿と思しき部位に置いて、頻りに流し目を送ってくる。そのコアがスターミーの顔であり目であるとすればの話だが。

  ガメノデスを呼び寄せると、おずおずとこちらへ近寄ってきた。その首にガメノデナイトをかけると、少し嬉しそうに頬を染める。岩石に半ば沈んだ顔は、マフラーに首を埋めているかのような風情だった。

  「……ヒトッ」

  メガスターミーがリングのようなものを渡してきた。いつの間にかデリバードが準備をしていたものらしい。

  「メガシンカさせるにはこのメガリングを着用してください。これを手に入れるために、巷で噂のZAロワイヤルに参加しましてね。仕事で日常的にポケモンを扱ってはおりますが、バトルとなると話は別でして、Fランクまで上がるのは随分と骨折りでした。おまけに、連中は私に向かって不意打ちまでしてくる始末でした。まったく、くそったれです……」

  嫌なことを思い出したのかデリバードはしょっぱい顔をした。黒い斑模様に囲まれた目が、脂肪のためにすっかり埋もれた。

  「ミアレ滞在中はホテルZに投宿させていただきました。路地裏の静かなところで結構でした。名物とかいうクロワッサンにカレーをぶっかけた代物は、どうしても最後まで嘴に合いませんでしたが……オーナーだったAZ氏は先日亡くなられたそうです。以前、カロスを訪ねた時に偶然お見かけしたことがあったのですが、確かに3000年生きたと言われても頷いてしまうような風貌でしたね。おっと話が逸れました。もちろん、ガメノデナイトを手に入れたのですから、すぐに試したくてたまらないでしょう?」

  デリバードは切り出す。

  「ですが、私も仕事のために来ておりますので。ひとしきりの説明はさせてくださいよ……メガリングの使い方はいたって簡単です。そこがボタンのようになっているので、押してみて下さい……ポチッとな、とね。特撮ヒーローが変身するみたいな感じです」

  言われた通りにボタンを押す。たちまちにして手首のメガリングとガメノデスのメガストーンが唸りを立てて共鳴した。ガメノデスの全身が殻のようなものに包まれると、真っ白な放射線状の光を放つ。しばらくして殻にヒビが入ったかと思うと、ガラス窓を突き破るかのような音とともに、ガメノデスは新たな姿を現した。

  普段の姿よりも一回り大きくなったカラダ。ずんぐりと三角形を描くような体型も、メガシンカによってスラリと細長くなり、体躯も引き締まっていた。上体を取り囲む腕は左右四本ずつに増えて、まるで千手観音のような威厳さえ漂わせる。その腕たちを司る頭部は、メガシンカする前と比べて、拳がやや開いた形となっており、顔つきがよく伺えるようになっていた。特に、垂直に伸びた二本の爪が角のようになって、ガメノデスに新たな表情を与えていた。

  思わず感嘆の声が漏れる。ソファと一体化したような奇妙な格好をしたデリバードも、ガメノデスの方に目を遣って不敵な笑みを浮かべる。

  「ヒトオッ……」

  メガスターミーは両腕をコアの下部——恐らくは口元——にあてて驚嘆している。コアの色は真っ青に変わっていた。言葉をあてるなら「あら、まあっ」というところだろう。

  メガシンカしたガメノデスは変貌した自分の姿を落ち着かない様子で見つめている。時折、こちらの反応を気にしてか、ソファの方に目線を向ける。

  「ご覧の通り、元の姿を保ちつつもいっそうと体つきが良くなったと思います。スラリとした背丈だけでも、十分にあらゆる意味での鑑賞に堪えることでしょうし、顔立ちもよりスッキリといたしましたので、『ビジュ』もグッと良くなりました」

  流行り言葉も交えながら、カルチャーセンターの講師然とした口調でデリバードは話す。この空気も二年ぶりのものだった。

  「猛烈なメガシンカエネルギーによって、上半身を構成する腕が四本増えたことは見逃せません。ええ、ええ! 聡明なあなたならお分かりのことかと思いますが」

  デリバードが翼の先端をはためかせて命令を下すと、メガスターミーはすかさずメガガメノデスの背後に回り込み、背中から抱き上げるように拘束した。メガガメノデスが気づいて抵抗しようとしても遅かった。その珍妙な見た目からは想像もできないほどのすばしっこい動作だった。

  「ただでさえ六本の腕を持て余していたガメノデスがメガシンカなどしたら一体どうなるのか? これはあなたが期待されていることですし、私自身強く関心を惹き立てられることなのです。覚えていらっしゃるでしょうが、このガメノデスは私が翼によりをかけて厳選した『七体の性格が全く一致せず、なぜ一体のガメノデスとして成り立っているのかわからないような個体』なのですから。もちろんスラリとした脚を司る二本のカメノテも自我を持っていることをお忘れなきよう」

  誇らしげに、デリバードはタバコをまた一本吸った。ソファの側の小卓に置かれた灰皿には吸殻がバンバドロの糞のようにいっぱいになっている。

  メガガメノデスの頭部を取り囲む八本の腕はおのおの自分勝手に、揺蕩ったり、震えたり、ブンブンと回ったり、コイキングのように跳ねたり、ジッとしたり、苛立たしげに頭部に攻撃を加えたり、後ろのメガスターミーに興味を示したり、歪み合ったりしていた。紛糾する腕たちの中心でメガガメノデスの頭部は、オドオドとするばかりだった。

  「果たして、メガシンカ前以上にこの頭部は苛まれておりますね」

  デリバードは弛んだお腹を掻きながら続ける。

  「当然、メガシンカによって腕たちの自我もいっそう強まりました。ますます、これが一体のポケモンとしてまとまっていることが神秘的なことにすら感じられる程です。腕たちはおのおの好きなように考え、行動するのですが、それらの神経はすべて中心の頭部と繋がっています。これがどういうことを意味するのか? あなたに今更説明しなくても良さそうですが、敢えて言わせてください。言うならば、実に十体の膨大な意識が絶え間なく、たった一体の意識の中に流れ込んでくるのです。それは、ライブ会場のような騒音の中で眠らされることも、立ったまま光を浴びせられて眠られない拷問とも比較にならないほどの、言語に絶する苦行なのです。魔晄炉に転落したクラウド・ストライフもかくや、です」

  FFVIIのリメイクはいつ完結するんでしょうね、などと関係のないことをデリバードは独言ちながら、メガスターミーにあれこれと指示を出すと、背後からメガガメノデスの首と胴体を一気に締め上げる。

  「!!!!!!」

  姿は変わったといえども、がんじがらめにさせられたメガガメノデスはなす術もない。カッと目を見開き、苦しげな鳴き声を上げた。せっかくの整った顔立ちもこれでは形無しだった。その一方、他の腕たちは頭部の苦悶などどこ吹く風といった様子で相変わらず好き勝手に蠢いていた。

  「いかがでしょう?」

  デリバードはソファの上で、ぽふぽふとカラダを弾ませ、やや興奮した様子である。

  「いっそう怪獣じみた風貌を獲得したにも拘らず、このガメノデスの本質は変わりありません。ですが、そこにこそ意味があるのです。かつて、私がガメノデスに対して追求したのは『秩序と無秩序の均衡』でした。しかし、ガメノデスがメガシンカをするということが明らかになったことで、コンセプトを少々修正する必要が出てきました。問題は秩序か無秩序ではないのです。私たちが直面しているのは、いわば『秩序と無秩序の止揚』とでも呼ぶべき事態に他なりません。すなわち——デリバードは翼をピンと垂直に立てた——秩序と無秩序を超越した何か、です」

  メガスターミーはいっそうと腕を絞める力を強めると、メガガメノデスのほっそりとしたカラダを覆う岩石が甲高い音を立てる。締め付けられた岩石を通じて、メガガメノデスの本体はなおのこと痛めつけられていく。

  「この姿だけでも十分にお酒を飲むことができそうです。まさに堕ちたヒーローといった趣ではありませんか。ちなみに、メガシンカによりかくとうタイプが加わりました。要するに、いっそうとこの子のカラダは唆られるものになったという塩梅式です。しかしながら、私たちの目標は酒を飲むことではありません。果たして『メガガメノデスは美たりうるか?』、これが重要なのです」

  拘束が俄かに緩まると、メガガメノデスはこちらにもハッキリと聞こえるほど大きく深呼吸を繰り返した。まだ落ち着きを取り戻さないでいるうちに、メガスターミーは次の行動に移った。軽快な身のこなしでメガガメノデスの正面に移動すると、柔道選手を思わせる見事な大外刈りを食らわせた。堪らず、仰向けにひっくり返ったメガガメノデスが慌てて起き上がろうとうつ伏せにひっくり返った隙を見逃さず、今度はレスリング選手のように後ろからタックルした。

  「ヒトッ! ヒトオッ!」

  メガスターミーはデリバードの方を向きながら、次の指示を求めているようだった。コアはエメラルドのような緑色に点滅している。

  デリバードは膝元に引っ張ってきていた袋をガサゴソと弄って、何かを取り出した。一瞬、何故こんな時に大根など取り出すのかと勘違いする程に大きく、傍目にはそれがディルドであるとは信じ難いものであった。

  「このために新作を用意しておきました。DHB-25-3XXL、タイプ:メガカイリュー。我が社の自信作です」

  それをメガスターミーに向けて放り投げると、容易くキャッチする。力ずくでメガガメノデスを四つん這いの姿勢にさせると、ちょうどお尻にあたる部分が丸出しになった。異物を挿入するのに不便がないよう、肛門の周りは岩が掘削されているのだった。メガスターミーは片方の腕でディルドごとメガガメノデスの腰の辺りをしっかりと抑えて身動きを取れないようにしながら、もう片方でゆっくりとした動きで窄んだ肛門を捏ねる。

  「!……」

  数えきれないほどに犯した箇所なので、そこを触られるだけで本能的にガメノデスは興奮してしまう。たとえ、メガシンカを得たとしても、それは少しも変わりないのだった。

  「どうです、なかなかサマになっているでしょう? アシスタントとしてしっかりと学ばせましたから、手管では私にも負けず劣らずの腕になりました」

  デリバードが言う通り、メガスターミーの慣らし方は随分と板についていた。手早く括約筋の凝りを解すと、腕先をゆっくりと肛門から直腸へと埋め込むように挿入した。ねっとりとした音を立てながら、腕がメガガメノデスの肛門を出挿りする。合いの手を入れるかのようにメガガメノデスの頭部からひ弱な声が漏れる。その様子をデリバードは翼を組みながら、真剣な面持ちで見つめていた。

  ある程度肛門を慣らし終えたところで、メガスターミーは勢いよく腕を引き抜いた。メガガメノデスは下腹を直角に突き立たせながら、しばし人目も憚らずピクピクと全身を痙攣させた。爪先立ちになった足の裏から潰れたカメテテの目がチラリと見えた。

  「……ヒトッ」

  メガスターミーは今一度デリバードの方を見つめて、意を決したように頷くと、いよいよDHB-25-3XXL、タイプ:メガカイリューを握って、メガガメノデスの肛門に当てがった。雁首からしてニンゲンの握り拳と比してもさらに一回りは大きいかと思われるほどの代物だった。

  「!……!……」

  ほんのチラリとでもその異様な形を見てしまったメガガメノデスは、まるで危険予知でもしたかのように震えていたが、その素振りはメガスターミーを狼狽させるほどのものではなく、どこか諦めのようなものも滲んでいた。

  メガスターミーのコアが赤から白、白から青、青から黒、黒から緑、そして緑から赤へと絶え間なく変化した。一見心許なさそうなメガガメノデスの細い腰に、メガカイリューの性器を模したディルドはまるで魔法のように埋まっていく。

  「メガカイリューモデルの自慢は、何と言っても一目でわかるその凶悪さです」

  メガガメノデスが声にならない悲鳴を上げ、目や口から涙と唾液の混じったものを垂れ流しているのを眺めながらデリバードは話した。

  「ポケモン勝負を早く終えることが相手へのやさしさ——というメガカイリューの生態的特徴を再現するために、全社を挙げて知恵を出し合いました。慈悲深さが一周回って狂気の域へ達したメガカイリューの性質を、いかに性器の形に収斂させるべきか?……難題ではありましたが、久々に心が躍る仕事でした」

  デリバードが熱っぽく、インタビューにでも答えているかのように話すあいだ、メガスターミーは熱心にその情熱の結晶たるディルドをメガガメノデスの尻に楽しげに出し挿れさせていた。

  「ただ無闇に大きいだけではありません。雁首から胴部、根本に至るまで事細かな計算を重ね、苦痛と快楽がギリギリのところで調和する絶妙なスケールを追求しました。さらに表面にも特殊な加工を施しました。具体的には、ディルドの表面全体に微妙な凹凸を作ったのです。掻き落としという一般的に陶芸などで行われる技法を応用したものですが、これによってディルド全体が微妙に異なる擦れ感を得ることとなりました。通常の性器では考え得べくもない感覚を、DHB-25-3XXLは保証いたします」

  メガガメノデスは全身が心臓と化したかのように、一定のリズムで全身を激しく波打たせた。下半身の岩石から蔓のような性器がにょろにょろと飛び出して、出涸らしのような精液を弱々しく迸らせていた。

  「せっかくメガストーンの力を借りて、これだけの恵まれた姿になったというのに、早速この有り様になるとは、まさしく堕落したヒーローといった趣ではありませんか……ちなみに、メガシンカによりかくとうタイプが加わっております。要するに、よりいっそう、この子のカラダは唆られるものになったという塩梅式です」

  やがて、メガガメノデスのカラダが光り輝き、次の瞬間にはいつものガメノデスに戻っていた。あらゆる意味で力を使い果たしたガメノデスは、荒い呼吸が次第に緩慢になっていくと、やがてゆっくりと眠りについた。

  「このようにメガシンカ状態は一定時間で解除されますが、今回はデモンストレーションですので、早めに私から解除させていただきました。ですが、短時間でも凄まじいインパクトでしょう? ガメノデスにとっては普段の10倍、いや100倍にも及ぶ性エネルギーを消費しているのです。製品版では、性行為を心置きなく行うには十分な時間継続するような設定にしておりますので、そこのところはご安心ください。ガメノデスの可能性を最大限にまで引き立てる、『ガメノデナイト拡張パック、DHB-25-3XXLセット』、もちろんお気に召していただけたことと思います……ローグライクとゲームの比喩を使ってそう標榜するからには、DLCは欠くべからざるものですからね。ええ、ええ……はははは、あなたはやはり実に素晴らしいお客様ですよ」

  デリバードは上機嫌に料金の内訳を伝え、電子決済用の端末を差し出そうとした。

  「これで終わり、かと思ったでしょう?」

  そう思うでしょう? とデリバードはいかにも愉快そうに嘴を大開きにして笑った。

  「そうは問屋が卸さないのが『デリ・ヘル・バード』。サプライズあってこそのプレゼントですからね」

  気がつくと、一仕事を終えたメガスターミーがすぐ隣に腰掛けていた。キャバクラ嬢のようにこちらにその身をもたれかけさせながら、腕を頻りに膝へと伸ばす。やけに馴れ馴れしい態度でこちらに迫ろうとしているのがわかった。

  「今回は、このメガスターミーを特別な条件であなたに提供させていただければと思います」

  「……ヒトッ!」

  メガスターミーは艶っぽく叫んだ。ラズベリー色の体色が恥じらいでほんのりと紅色に染まっていた。

  「率直に申し上げれば、この子のユニークな姿を一目見た瞬間に、あなたのことを思い浮かべていました。一刻も早く、あなたにプレゼントを届けに行かねばと熱烈に感じたのです。2年もブランクがあっただけに、なおさらのことでした。なぜかと言えば」

  デリバードはそこで言葉を切り、まるで告白でもするかのようにモジモジとしながら話を続けた。すっかりくたびれて折れっぱなしになっているトサカが今はピンとそそり立っていた。

  「メガスターミーはまさしく新玉です。加工する必要のない、完璧なダイヤモンドのようなものです。ですからわざわざ私たちが無駄な加工をするよりも、そのままの姿を信頼のできる顧客に託すべきである——そう私は結論付けました。どうか、是非とも、この子を本当の人間にしてやってくれませんか? それを頼めるのは、あなただけなのですよ」

  モゾモゾとソファ上で身を動かしながらデリバードは言う。ゲップを吐きながら脂肪の塊のような鳥が動く様子はどこか化け物じみていて、ダーク・ファンタジーに登場するクリーチャーと見紛うばかりだったが、吐き出される言葉は純粋だった。

  「ですからスターミーには我が社自慢の『すごいとっくん』をさせておりません。ただDHB秘伝の技術を用いてメガシンカ状態が永続するようにしておりますが——そうでないと面白みがないですからね。いずれにせよ、これは我が社としては異例な事だとあなたは思うでしょうな。そこが肝なのですよ、と私は敢えて申すことにいたしましょう。メガスターミーの奇矯な姿をひとしきり眺めながら、それこそ私は長い思索に耽ったものです……柄にもなく散歩に出たりね。この子の可能性とやらをもっとも輝かせるのに必要なものは何か? 幾晩も考えた末、私はある逆説に至ったのです」

  こちらが何かを答える時間を与えるべく、少しの沈黙を挟んでからデリバードは続けた。

  「『いや、何も必要はない』と。理由は……この姿を見れば一目瞭然でしょう? 『善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや』と親鸞は言いましたが、私はこう言いたくなります。『善人なおもて絶頂をとぐ、いわんやメガスターミーをや』。どうやらメガスターミー自身は人間になったつもりでいるようです。あたかも、人慣れしたワンパチが我が物顔をして人前でふんぞりかえるように、です。性については一通りのことは教え込んでおりますが、しかし、あくまでも表面的な内容に留めました。メガガメノデスを相手にしている時も、この子からすれば、ただ積み木を組み立てて遊んでいるにも等しい」

  「……ヒトッ」

  メガスターミーはますますこちらにべったりとくっついてくる。その素振りは明らかに媚びる風ではあったが、芸人のギャグを調子づいた学生が猿真似するのによろしく、どこか表面をなぞっただけで、まだまだこなれない感じがした。

  「あなたがよろしければ、料金は一年後に請求することといたします。お気に召さないようであれば、一年以内であれば勿論返品対応はさせていただきます。もしあなたがこの子を人間にすることができたならば、料金は大きくまけさせていただきます……ははは、賭けに乗りましたな。わかっていましたよ。ですから、私はあなたのことを誰よりも信頼しているのです」

  デリバードは満足げに、電子決済用の端末を取り出し、こちらが差し出したスマートフォンから二次元コードを読み込んだ。

  「そういえば、前私が乗っていたあのコライドンがいたでしょう。こないだ売れてしまったのです。顧客が売れと言って聞かなかったのですね。まったく、非売品だと口を酸っぱくして言っているにも拘らず。ですが、フジタの絵画に匹敵する額を出されたら堪りません。現金な話ではありますが、経営的には大変ありがたかったのも、また事実です」

  そう愚痴りながら、デリバードはやっとのことで窓辺に立った。まだ横に突っ伏したままのガメノデスを一瞥し、白い息を吐く。

  「『デリ・ヘル・バード』をご利用いただきありがとうございました。2年ぶりのプレゼントが、あなたの心もカラダも満たすことを心からお祈りします。メリー・クリスマス、ついでに……よいお年を!」

  はてさて、来年の株価はどうなることやら。そんなことを言いながら、デリバードは窓から飛び立つというよりは飛び降りていった。衝突音のようなものがしなかったので、恐らくは無事に飛ぶことができたのだろう。

  「ヒトッ」

  メガスターミーはずっとこちらに寄り添っていた。その細長い脚の裏側に手を回し、ひとしきり撫でてやると、

  「……ヒット」

  コアをほのかに青く点滅させるのだった。