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幕間:獅子に鰭

  [chapter:1]

  「大将! 生4つ、大ジョッキで!」

  「……ったく、昼の[[rb:日中 > ひなか]]から」

  平日の昼休み。某大学の近傍に位置する、スポーツ居酒屋にて。「大将」と呼ばれた鮫魚人はモニターから目を離すと、客商売にはあるまじき悪態をつきつつ、声が聞こえてきた方角をジロリとねめつけた。そこの座敷席では顔なじみの、柔道部所属の大学生たちが、彼らの体格に比べると小さく見えてしまうテーブルを囲んでいる。

  ――利益率の高いアルコール類の注文は本来、店側としてはありがたい限りなのだが、

  「……てめぇら、[[rb:自転車 > チャリ]]や原付転がしてきてねぇだろうな? キックボードでもアウトだぞ。俺ぁ、飲酒運転の片棒担ぐ気は更々ねぇからな」

  「やだなー、歩きに決まってるじゃないっすかー」

  「オレらが[[rb:鞍懸 > くらかけ]]のタイショーにご迷惑かかるような真似、するわけないっしょ?」

  「それに今日は、ランチ営業オンリーの曜日でしょう? ですから自分たちなりに、このお店の売り上げに貢献したいと思いまして」

  「……ふん」

  肝心の勉学をおろそかにして部活にばかり打ち込んでいる連中だが、そう言う方面では案外真面目だと理解している鞍懸は渋々ながらも注文を承った。サーバーからビールを注いだりテーブルまで運ばせたりするのはバイトの学生に一任し、自分は引き続きカウンターの内側で注文の料理を作り続ける。

  年の頃は、不惑をいくつか過ぎた辺りだろうか。文字通りの鮫肌は濃い灰色で、額にはねじり鉢巻き。骨太かつがっしりした体格で、母校のカラーと思しきラガーシャツの両袖は力こぶでパンパンに膨らんでいた。

  シャツの背中のスリットからは大きな背鰭が覗き、ハーフ丈のチノパンの後ろからは太い尻尾が伸びて、尾鰭の先が床に接しそうになっている。腰には酒造メーカーの屋号等が染め抜かれた藍色の前垂れを巻いていた。まな板に向かって前屈みになっている今も、その身の丈は2メートルを超えている。

  「……」

  武骨な手や節くれ立った指とは裏腹に器用、かつ几帳面さが窺われる包丁捌きであったものの、鞍懸の視線はともすれば先述のモニターに吸い寄せられてしまうようだった。そこには現在、某スタジアムで開催中のレスリング選手権大会の模様が映し出されている。店内の要所要所に設置されている他のモニター群でも、全く同じチャンネルが放映されていた。しかし客たちは誰1人として、それに関して不服を申し立てようとしない。それどころか、大多数は興味深げに観戦している様子だ。

  ――カウンター席に座っていた常連客の熊獣人は、そんな彼の様子を見るとにやけ面で、

  「どうした大将? 目の色が変わってやがるぜ?」

  「……ふん。同じ吊りパンだからって、一緒くたにしやがって」

  相手の目の前に注文の料理を手ずから置くと、鞍懸は前垂れで手を拭き拭き、半ば無意識的に背後の壁を振り仰いだ。そこには真紅のシングレット+Tシャツ姿の若かりし日の彼が、種目の1つ:スクワットにてバーベルを背中に担いで深々としゃがみ込んだ状態と、そこから膝をまっすぐ伸ばして静止した状態との写真が2枚並べて飾ってある。

  ――そう、この大男は学生時代パワーリフティングの全国大会で連覇経験のある、当該分野では名の知れた選手であった。将来的には世界選手権への出場を視野に入れ、大手スポンサーとの契約も成立しかけていたものの、無理が祟って肩を壊し、引退を余儀なくさせられた。その後は色々あったのだが、今はこうしてスポーツ居酒屋を切り盛りしているのだ。

  主な客筋は体育学科や、体育会系のサークルに所属する学生たち。そしてスポーツ観戦が三度の飯より好きな男衆だ。モニターにはご覧の通り生配信中の公開競技や試合の他、過去の録画映像が流される時もある。オリンピックのような国際的な大会の開催期間中は連日大賑わいだ。

  おかげさまで、お世辞にも愛想がいいとは言えず、気も利かない彼のような男が店主でも結構繁盛させてもらっている。先日も国の代表に選出された元常連客がやってきて、サイン入りユニフォームを飾っていってくれた。

  「カッコいいなぁ。写真じゃなくて、実際に観てみたかったかも。

  ――あっ、もちろん鞍懸さんは今でもカッコいいと言いますか、僕的にはむしろ今の方が渋くていいと思いますけどね!」

  釣られてその写真を見上げながら呟いたバイトの学生が、ふと我に返り、彼と目が合うなり慌てふためく。「下らねぇこと言ってねぇで、空いた皿でも下げてこい」と彼が片手で邪険にあしらうと、ビールケースに足をぶつけながらカウンターの外へと出て行った。「大将もなかなか隅に置けないねぇ」と言いたげな熊のにやけ面に対して、仏頂面を返す鞍懸。

  ――今の犬獣人は今年、大学に入ったばかり。体格自体には恵まれているものの専攻は文科系だし、スポーツ観戦に熱狂する柄でもない。それなのにこんな店でバイトを始めたのは、どうやら「下心」あってのことらしいと彼も既に勘付いていた。しかしてっきり相手の目当ては、客の方だと考えていたのだが……。

  [newpage]

  [chapter:2]

  「……ったく、昼の日中から」

  バイトたちを帰し、暖簾を下ろして路上の置き看板も取り入れた店内にて。どっしりとした胴回りに両手を添えた鞍懸は、先程と全く同じセリフを口にした。しかしその対象は柔道部の学生たちではなく、カウンター席に腰かけていたあの熊獣人である。

  ――年齢は鞍懸より2つか3つ下だろうか。この近くの会社に勤めているらしく、スーツにネクタイ姿で、ワイシャツの胸ポケットにはネームホルダーを突っ込んでいる。

  「俺をこんな風にしちまったのは大将だろ。頼む、[[rb:犯 > ヤ]]ってくれよ。メシ食ってる間だって、ずっと濡らしちまってたんだ……」

  鞍懸の足元にひざまずき、その仏頂面を哀れっぽい表情で見上げながら、自らの尻尾の下を探る熊。スラックスの尻の縫い目に生じた黒いシミが、ジュン……と更に広がった。

  ――そのうち辛抱たまらなくなったのか、鞍懸の股間に顔面をうずめてきたかと思うと、ソコをフンフン嗅ぎ回ってくる。前掛け越しにソコに舌を這わせながら、欲情に濡れたまなざしで鞍懸を見上げ、

  「大将のチンポじゃないと、俺、もうイけないんだ。夕べもケツが切なすぎて自分でディルド2本ブチ込んでみたんだが、全然気持ち良くなれなかったんだよ……!」

  「……生憎と、今日は先約があるもんでな」

  「まさか、あのバイトの小僧と――」

  「んなわけあっか。この店を開く時に世話んなった連中と、久方ぶりに顔を合わせるってだけだよ。

  ――ただ、少々改まった席なもんでな。遅刻厳禁なんだ」

  さもなきゃ、てめぇをたっぷり可愛がってやってから発つんだが……と言う含みを持たせてそう答えると、相手の頭を撫でてやる鞍懸。熊はそれでもしばらく名残惜しげに股間に頬ずりしてきていたが、鞍懸に促されると立ち上がり、

  「明日の閉店後とか……どうだい?」

  「……ったく、こらえ性のねぇ野郎だな。こちとら仕込みだの発注だの帳簿の計算だので、やるこたぁ山積みなんだが――ま、都合が良けりゃあ、な」

  スラックス越しに尻を撫でてやってから、施錠してあった引き戸を開け、熊を送り出す鞍懸。恐らくは例のバイトが彼に気があるのを知って、嫉妬した部分も大きいのだろうが……そろそろあいつとも潮時かと考える。

  鞍懸の好みは屈強な肉体の上に、純朴そうな顔を乗せている男である。その意味ではこの店の主な客筋はまさしくストライクゾーンと言うか、だからこそこの立地を選んだ部分も大きい。鞍懸が同性愛者である事実も含めて常連客の間では既に暗黙の了解と化しており、酔いに任せて彼を誘惑する者も多く、現に今の会社員もその中の1人である。何なら嘗て彼から「男の味」を教わった学生が、後輩を紹介しに連れてくることさえあるのだ。

  据え膳はありがたく平らげる主義の鞍懸だが、今の所特定個人と真剣に交際した経験はない。男同士の関係なんて所詮はそんなものだと割り切っている節もあるとは言え、それ以上に[[rb:中身 > ・・]]を重視するからだ。如何に見た目や普段の言動が雄臭くても、ケツを掘られた途端みっともなく喘ぎまくり、呆気なく雌堕ちしてしまうような輩は願い下げ。同じ男に犯される恥辱に顔を歪め、快楽に翻弄されつつも負けじとこちらを睨み返してくるようなお相手こそが望ましい。

  ――そのせいで関係が深まり、お相手がこちらにぞっこんになればなる程、彼はむしろ冷めていってしまうのだ。

  (……我ながら難儀な性分だとは思うし、相手に対して申し訳ねぇ気もするんだが……。こればっかは、自分でもどうしようもねぇんだよなぁ……)

  前掛けを解いて几帳面に畳むと、カウンターの端に乗せる鞍懸。戸締まりや火元を再確認した上で、店舗の裏の居住スペースへと移動する。さっきの常連客を体よく追い返す方便として用いたのは事実だが、「改まった席」だの「遅刻厳禁」だのと語った内容自体は真実なのだ。

  ――身体が酒臭かったので熱いシャワーを浴びてから、一張羅のスーツに着替える。きっちりネクタイも締めた姿を鏡で見ると、ただの勤め人のようだ。手ぶらで住宅側の玄関から出ると、配車アプリで呼んでおいたタクシーに乗り込み、国内外のセレブ御用達の某高級ホテルの名称を目的地として告げる。正直彼には不似合いな場所だからか、ルームミラー越しに運転手が不審そうな一瞥を投げかけてきた。

  (……いい加減、縁を切るべきなのは分かってる。もう借金も返し終わったことだし、運転資金だって十分すぎるくれぇ貯まった。いくらあちらさんからお呼びがかかったからって、義理立てしてやる必要なんざどこにもねぇんだ。

  ――だのに……)

  四半時間もかからずに目的地に到着すると、鞍懸は着飾った紳士淑女で賑わうエントランスを突っ切った。支配人である老齢の山羊獣人から専用の通信アプリで2次元コードを受け取り、「チェックイン」の手続きを済ませる。しかるのち『関係者以外立入禁止』の扉の電子ロックをそのコードで解除すると、鞍懸は大股に通路を進み、地下直通のVIP専用エレベーターに乗り込んだ。

  (……いつでも「足抜け」できるんだ。俺さえその気になりゃあ。

  ――だから、もう少しだけ……)

  思索に耽る暇もなくエレベーターが停止して扉が開き、ホテルの明るく豪奢な内装とは打って変わった、暗く殺風景な空間が鞍懸の前に広がる。2枚目そして3枚目の『関係者以外立入禁止』の扉をくぐると、鞍懸は所定の部屋の電子ロックを同じく2次元コードで開錠する。

  ――地上のホテルのスイートルームにも引けを取らない、設備の整った室内。しかも、どう見ても鮫魚人と言う種族や彼自身の体格に合わせて家具や調度類までセッティングされている。扉のオートロックが作動した音を聞くと、鞍懸は気を鎮めるように大きく息を吐いてから、窮屈なネクタイの結び目を緩めた。何だかんだ言いつつも、道中ずっと心身が昂ってしまっていたのだ。

  「……」

  ネクタイをほどきつつ、クローゼットに歩み寄る鞍懸。観音開きの扉を両手でゆっくりと開くと、その中に吊るされていたのは真新しい黒のスラックスと――白と黒との、縦縞シャツ。誰の目にも明らかな、[[rb:レフェリー > ・・・・・]]の制服であった。

  [newpage]

  [chapter:3]

  彼がこの〈劇場〉に初めて足を踏み入れたのは、大学3年生の時。パワーリフティング選手としての将来を閉ざされ、酒浸り&セックス三昧の日々を送っていた頃……とあるビアガーデンで、やたらガタイのいい猪獣人にコナをかけられた。誘われるがままにこのホテルのバーで飲み直し、その勢いのままに上階の一室で抜かずの3連戦と洒落込んだのだが――荒れた生活の中で体力がすっかり落ち、ふかふかのベッドに沈没してしまっていた彼とは裏腹に、まだまだ余力を残しているらしいその猪は半身を起こしてタバコを吸いながら、実は自分は現役のプロレスラーなのだと明かした。そしてこのホテルの地下には、完全会員制・秘密厳守の〈劇場〉があるのだとも。

  『〈劇場〉だぁ……? あんた、この俺がオペラだのミュージカルだのに興味津々って柄に見えるかよ?』

  『ま、百聞は一見に如かずって奴だ。チケット代ならオレが出すからよ。

  ――ちょうど後30分程で、「開演」の時間なんだ……』

  酔っ払っていたせいもあってそれまではほとんど気に留めていなかったが、ここは最近大手外資ブランドとして装いも新たに開業したばかりの、セレブ御用達の高級ホテルだ。その一室を贅沢にもラブホ代わりに使えるなんて、この自称レスラーはさぞかし懐が温かいに違いない。ヒモになるのも悪くないだろうから、ここはお義理で付き合ってやるか……。

  鞍懸はそんな打算的な思考が半分、もう何もかもどうでもよくなってしまっていたのが残り半分で、気だるい身体をベッドから引き剥がし、熱いシャワーを浴びた。いつの間に手配してあったのか、仕立てのいい黒スーツに着替えさせられた上で仮面まで渡される。「観劇」に際しては最低限守るべきドレスコードがあると言う話だったが、現に客席を埋め尽くしていたのは彼らと同じ格好の紳士淑女で、さすがに酔いが醒めると同時に異様な雰囲気を嗅ぎ取る鞍懸。

  ――おまけに「あれが『舞台』さ」と言って指差された先にあったのは、誰がどう見てもプロレスのリングだ。

  『……おい。一体、何がどうなって――』

  『しーっ。いいから観てなって。きっとお前さんにも、贔屓の「役者」が見つかる筈だから、よ……』

  そう、ホテルはただの隠れ蓑。会員たちの真の目当ては、夜毎この〈劇場〉で催される「演目」……多額の賭け金が飛び交う、地下プロレスの世界だったのだ。

  急所攻撃や凶器攻撃は当たり前。もはやただの性的凌辱でしかないような技の数々。汗と涙と血と涎と吐瀉物、そして我慢汁と子種が飛び散るリングマット。とりわけ[[rb:悪玉 > ヒール]]の[[rb:善玉 > ベビーフェイス]]に対する攻撃は苛烈を極め、種族柄精巣が体内に格納されている鞍懸すら、いわゆるタマヒュンの感覚に襲われることもしばしばだった。度重なる急所攻撃でパンパンに腫れ上がった両睾丸がタイツの前をいびつに膨らませている様や、ソコにヒールの指が容赦なく食い込み、濃い子種をドロドロと搾り出させる様がモニターに大写しにされる。

  レフェリーは5カウント以内ならば基本的に見て見ぬフリを決め込み、たまにストップをかける時もルール上どうこうと言うよりも、単に同じような場面ばかり続くと「見映え」が悪いからと言うだけの理由。司会進行役も実況解説役も、「あー、これはいけませんねぇ」「痛そうですねぇ」などと白々しいコメントを発するだけで、何なら言葉責めに加担する場合も多い。

  [[rb:演目 > しあい]]を盛り上げるための大袈裟なパフォーマンスなどでは有り得ない、まじりっけなしの「暴力」がぶつかり合い、本物の苦悶のうめきや激痛による咆哮がこだまするその舞台に鞍懸はまず度肝を抜かれ、混乱し、次いで「こんなこと許される筈がない」と義憤に駆られ……しかし結局は、目を離せなくなってしまった。文字通り血沸き肉躍る感覚が、選手生命を絶たれて以来、久方ぶりに身内によみがえってくる。

  ――さっき抜かずの3連戦してきたばかりだと言うのに、いつしか大きく盛り上がっていた鞍懸のスラックスの股間を、猪が淫靡に撫でさすってきた。

  『明日の夜は、オレも「出演」する予定なんだ。

  ――良かったら、観に来ないか……?』

  リングではなく「舞台」。選手ではなく「役者」。リングネームではなく「芸名」。リングコスチュームではなく「舞台衣装」。試合ではなく「演目」。試合開始のゴングではなく「開演のベル」。名乗りではなく「口上」で、勝利者へのインタビューではなく「カーテンコール」……。

  そうした言い換え表現は全て、〈劇場〉流の悪趣味なレトリック。『この物語の登場人物は全員18才以上です』だの『実際の性行為に当たっては性感染症防止のため必ず避妊具を装着して云々』だのと言った大真面目な但し書きや、『※個人の感想です』だの『※後でスタッフが美味しく頂きました』だのと言った白々しいテロップと同種のものだ。

  これらは全て、ただのお芝居だと。従ってどんなに「役者」が苦痛を訴えていようが観客に助けを求めていようが、迫真の演技に過ぎないのだと。飛び散る血も精液もよく出来た偽物に過ぎないのだと嘯くことで「暴力」を正当化し、それを[[rb:娯楽 > ・・]]として提供し……あまつさえ、賭け事の対象にまでしている。

  ――しかし社会からドロップアウトしてしまった鞍懸にとって、そんな「非日常」の世界に身を置くことはむしろ心が安らいだし……何より一敗地にまみれ、衆人環視下で凌辱の限りを尽くされながらも決して「雄としての誇り」を手放そうとしないベビーフェイスたちの姿はまさしく、鞍懸がセックスのお相手に求めるものであったのだ。

  「……」

  ベルトを緩め、スラックスを膝の上まで落とす鞍懸。その下には洗い晒しの、白い六尺褌を締めている。自宅でシャワーを浴びた時に締め直したばかりなので十分清潔なのだが、鞍懸はそれをさっさとほどいてしまうと、制服一式と同様、あらかじめ〈劇場〉側に用意してもらってある皺1つない木綿布を手に取った。[[rb:舞台 > リング]]に上がる際は必ず新品を身に着ける習慣なのだ。こんな非日常の世界だからこそ、ルールは遵守せねばならない。己こそその番人なのだと言う自覚を込めて。

  肩の故障のために、生憎[[rb:役者 > レスラー]]になることは叶わなかったが……どうしても自らもあの舞台に立つ夢を諦め切れなかった鞍懸は猛勉強の末、レフェリーとして採用されるに至った。彼の経歴は〈劇場〉側も把握済みだったし、何年もの間あくまで観劇に徹して賭け事には一切係わろうとしなかった事実も、信用に値する人物として評価された点であったらしい。あまりにも融通が利かないからと一部の役者陣からは敬遠されてしまっているものの、幸い〈劇場〉の運営側はむしろ「迫真の演技」に真実味を増させると歓迎してくれている。

  役者はもちろん[[rb:表方・裏方 > スタッフ]]の入れ替わりも激しい当〈劇場〉に於いて、今年でもう勤続10年を数えるのだから大ベテランだ。今では生き字引として後輩のレフェリーや、駆け出しの役者陣から教えを乞われることも多い。

  (……思えば、色んなことがあったな。のちに『狂獣』と呼ばれたあの男の、衝撃的なヒール堕ち。ベオウルフの登場。そして、粛清……)

  縦縞シャツのボタンを留めつつ、とりわけ印象的だった出来事を振り返る鞍懸。実際にはほんの4、5年前なのに随分昔に感じられるのは、それだけ現[[rb:王者 > チャンピオン]]による「治世」が安定しているからだろうか。

  (……そうさ。たとえこんな地下プロレスの世界にだって、最低限のルールは存在する。『狂獣』はそれを破った。叩き出されて、然るべきだったのさ……)

  仮にあのまま『狂獣』の独擅場が続いていたら、自分はきっと嫌気が差してこの〈劇場〉を去っていただろうと鞍懸は考える。しかし解釈次第では、そのせいで却って潮時を逃してしまったとも言える。40を超えるとさすがに二足の草鞋を履き続けるのも辛くなってきたが、あんな好立地に小さいながらも自分の店を構えることができたのも、〈劇場〉の根回しあってのことだし――

  「Hey、ミスター・鞍懸! 『開演』まで2時間たっぷりはあるって言うのに、相も変わらず職務熱心なこった」

  「……!?」

  着替えを終え、自分用の「楽屋」を後にした鞍懸はそんな風に考え事を続けながら、舞台に続く廊下を渡っていたのだが……突き当たりの壁に寄りかかっている人影に気付き、思わず足を止める。鮫魚人の鋭い嗅覚が、華やかでスパイシーな香水の匂いを感じ取った。

  豊かな漆黒の鬣に、黒褐色の艶やかな毛並みをした獅子獣人。2メートル越えの鞍懸より更に背が高く、筋骨隆々たる肉体にカウボーイ風の舞台衣装をまとっている。素肌もとい毛皮に直接袖なしのベストを羽織り、首元には派手な色と柄のスカーフ。腰に下げているのは丸く束ねた投げ縄とブルウィップだ。

  目深にかぶっていたテンガロンハットを、こちらに敬意を表する風に気障っぽく持ち上げてみせる黒獅子。その顔の上半分が、赤地に金糸の縁取りが施されたマスクで覆われているのが分かった。

  おかげで実年齢を読み取りづらいが、ギリギリ20代と言った所だろうか。エクステなのか本当に染め分けているのか定かでないが、鬣の一部を赤金黒3色の三つ編みにして垂らしてある。口元には気安い微笑を浮かべてみせているものの、その唇の片端からは肉食獣の鋭い牙が覗いていた。

  この黒獅子は〈劇場〉の花形役者。芸名を『イクリプス・ザ・パニッシャー』と言う。『荒野の無法者』の肩書で呼ばれ、〈劇場〉最強最悪のヒールと自ら称している覆面レスラーだ。さすがに現王者たるベオウルフとは歴然たる実力差があるものの、そんなビッグマウスを叩くだけの戦績は誇っている。ファンサービスに余念がないことも手伝って、イクリプスをお目当てに通い詰める者も数多いのだ。

  ――問題は、如何にヒールとしてのパフォーマンスやファンサの一環とは言え、嬉々として対戦相手の尊厳を破壊するタイプであること。従ってベオウルフ派の鞍懸とはあまり反りが合わないのだが、今回彼が驚いたのは、そんな相手が馴れ馴れしく声をかけてきたからではなかった。

  「……随分とご無沙汰だったじゃねぇか。身体の方はもういいのか?」

  内心の動揺を押し隠し、さりげない調子で尋ねる鞍懸。その視線がひとりでに、相手の股間へと滑ってゆく。

  イクリプスは前回、デビュー初日の現役DK相手にまさかの敗北を喫した。それも勝利を確信して慢心し、魅せ技でトドメを刺そうとして見事にカウンターを食らっただけならまだしも……その拍子に片方の睾丸が腹腔内にめり込んでしまい、試合どころではなくなった挙句に10カウントKOを決められると言う屈辱的な形で。

  この大番狂わせに観衆は沸きに沸いたものの、イクリプスの面目は丸潰れ。役者どころか「男」自体からの引退を余儀なくされるのではないかと、観客や同じ役者陣たちはもちろん、表方・裏方の間でもまことしやかに噂されていた。

  ――現にあれからもう1ヶ月近く経つと言うのにイクリプスは一度も〈劇場〉に姿を見せず、演目の予定表にも名前が見当たらなかったため、斯く言う鞍懸も噂は真実だと思いはじめていた。そんな風に人知れず〈劇場〉を去っていった者たちなど、あの猪を含めて掃いて捨てるほど存在してきたのだから……。

  「ああ、おかげさんでな。さすがのオレ様も3日はねぐらで安静にしてたし、まだちょいと違和感が残ってやがるが――リハビリも兼ねて、久々に顔を出そうと思ってな」

  流暢な日本語だが、僅かに外国訛りのあるアクセントで答えるイクリプス。鞍懸が一体どこに注目しているのか承知の上で、めり込まされた側の睾丸を真っ赤なショートタイツ越しに握ると、これ見よがしに揉みしだいてみせる。

  その淫靡な指捌きにつれて布面積の少ないタイツ内で嵩張る代物が揺れ動き、反対側の睾丸はもちろん、いわゆる外人サイズの巨根の輪郭までくっきり浮き上がったりまた薄れたりする。上にはチャプス風のロングタイツを重ね穿きしているものの、股間はおろか内腿まで大幅に露出しているデザインのせいで、ショートタイツから盛大にハミ出している「下の鬣」が余計に悪目立ちしている。ヒールとしてのキャラ作りの一環だと理解してはいるものの、やはり眉をひそめてしまう鞍懸。

  マスクと悪辣な表情とに隠れがちだが、イクリプスはよくよく見ると貴族的とも評すべき端正な顔立ちをしている。持ち物に関してもご覧の通り、平常時・最大勃起時共に〈劇場〉一の巨根であることに疑いの余地はない。デビュー当初から期待の新人扱いで、現にあっと言う間に花形になったのも頷けるが――鞍懸自身は、どうしても虫が好かなかった。往年の西部劇の悪漢を戯画化したような[[rb:キャラ設定 > ギミック]]の背景に、何か極めて屈折した心理を感じるのだ。対戦カード、もとい「W主演」を決めたのは運営側とは言え、あんなまだ鬣も生え揃っていないような子供を容赦なく責め立てたのは正直、観ていて気分の良いものではなかったし……。

  さりとてあの『狂獣』とは異なり、イクリプスは地下プロレスと言う枠組み自体は尊重し、最低限守るようにしている。厳密にはその抜け道を見つけ出し最大限活用するくらいには悪知恵が働くので、レフェリーとしてはむしろ始末に終えないのだが……。

  「……まさかあの小僧相手に、リベンジマッチ――もとい『再上演』を申し込むつもりじゃねぇだろうな」

  「ご明察。このままやられっぱなしでいちゃあ、『荒野の無法者』の名が廃るってもんだろう? あのボーヤには是非とも、このオレ様の名に懸けて『[[rb:お仕置き > パニッシュメント]]』を下してやらなきゃなぁ……?」

  股間から手を離すと、今度は左の内腿を撫でさすってみせるイクリプス。その目立つ古傷を例のDKに狙われた時のことを思い出し、改めて復讐の炎を燃やしているのだろう。

  それはイクリプスが初舞台を踏んでまだ間もない頃、先輩ヒールに付けられた傷。イクリプスはまだ包帯も取れないうちに挑戦状を叩き付けると、舞台衣装も雄としての誇りも、そして〈劇場〉最強最悪のヒールと言う称号をもその相手からもぎ取った末に引退へと追い込んだ。元々そう言った傾向はあったものの、その一件がきっかけでイクリプスは輪をかけて嗜虐的に、かつ執念深くなり、名実共に極悪レイパーと化してしまったのだ。現在の悪趣味な舞台衣装もその古傷を敢えて目立たせることで過去の恨みを忘れないためだろうと、鞍懸は推察している。

  ――結果的にはあんな大番狂わせになったとは言え、デビュー初日の者に対していきなりイクリプスのような強豪をあてがったこと。有名な(元)学生レスラーの弟だか何だか知らないが、そもそもあんな子供を舞台に上がらせたことに関して、鞍懸は疑問と危機感を抱いている。せっかくベオウルフが〈劇場〉の健全化を進めてきてくれたのに、肝心の運営側やスポンサーや観客(の一部)が『狂獣』の時代を懐かしみ、そこに回帰しようとしている兆候ではないのかと。自分が求めているのは非合法ながらも純粋な力と技のぶつかり合いであって、ただの悪趣味な拷問やレイプショーでも、ましてやそこから発生する莫大な利益でもないと言うのに……。

  「……ふん。ま、勝手にしな」

  しかし鞍懸はそんな真情はおくびにも出さず、その場を立ち去ろうとする。自分は所詮、いちレフェリー。〈劇場〉の運営方針に関して口出しできる立場にはないし、そんな真似をするような身の程知らずでもない。一つ間違えれば奈落へと真っ逆さまのこの非日常の世界を10年もの間、五体満足に生き延びてこられたのは「我関せず焉」の態度の賜物だ。頭がどんなにすげ変わろうと、自分はただ、与えられた職務を忠実にこなすだけ。いつか、黙って消えるだけ……。

  「――てなわけで、実はミスター・鞍懸に、折り入って頼み事があるんだが……」

  そのまま前を通り過ぎ、通路の角を曲がる鞍懸。しかし大股に彼を追い抜いたイクリプスが壁にドンと片手を突き、行く手を遮ってくる。これまで一度も聞いたことのないような、猫撫で声だ。

  ――猛烈に嫌な予感を覚えつつも、鞍懸はやはり内心の緊張は押し隠して、相手をジロリと睨み上げる。イクリプスはこれまた、却って薄気味の悪い微笑を浮かべてみせると、

  「オレ様のリハビリに、付き合っちゃあくれないかい?」

  「……『舞台稽古』に立ち会ってくれって話か? 悪ぃが、他を当たってくれ。開演前の舞台に無断で上がるなんて畏れ多いこと、俺にゃあ出来っこねぇんでな」

  「てめぇなら話は別かも知んねぇが」と言うニュアンスを込めて、鞍懸はイクリプスの[[rb:金色 > こんじき]]の瞳を、横目でじっと睨み据える。本人が初舞台を踏んだの自体は『狂獣』がベオウルフによって粛清された後のことでも、実際にはイクリプスはずっと以前から地上のホテルや、当〈劇場〉の有力なスポンサーであった事実を……何なら例の専用通信アプリの開発にすら係わっていた事実を、鞍懸は把握しているのだ。

  本人はあくまで趣味で舞台に立っているようだから、〈劇場〉運営からの回し者とまでは言わないものの、色んな意味で要警戒の人物であることに間違いはない。〈劇場〉運営やスポンサー内での、はたまた観客同士の権力闘争に巻き込まれるつもりなど鞍懸には更々ないのだ。

  ――「おカタいことは言いっこなしで……」と馴れ馴れしく肩を組んでこようとした相手の腕を、邪険に振り払う鞍懸。イクリプスは口元に微笑を浮かべたままだったが、鞍懸の言わんとすることは完全に見抜いているらしく、マスクの奥でスッ……と両目を細めた。

  「……さっすが、この〈劇場〉の生き字引様だけはありやがるな。オレ様はこれでも覆面レスラーとして売り出してるんだから、たとえ正体に薄々勘付いてても、知らぬ存ぜぬで通すのがこの世界のお約束だと――[[rb:賢い生き方 > ・・・・・]]だと思うんだが……?」

  「……」

  「ただし。舞台稽古って点だけは、見当外れもいいトコだぜ」

  「……? 誰か適当な野郎と実戦形式で対戦するから、レフェリーとして立ち会ってほしいって話じゃあ――ん゛ぎっ……!?!?!?」

  意表を突かれ、思わず警戒を緩めてしまった鞍懸の股間へと、イクリプスが膝蹴りを叩き込んだ。スリット式とは言え雄の急所には違いない部位へと見事にマン的を決められ、鞍懸の巨体が僅かに床から浮き上がる。

  ――ガツン! と目の高さまで伝わってくるような衝撃に息を詰め、身体をこわばらせる鞍懸。イクリプスはすかさず十八番のラリアットでその喉首に追撃を加えると、背鰭や尻尾の分も含めれば自らより重いであろう鞍懸の巨体を担ぎ、軽々と舞台の方に引きずってゆく。

  「ゲホッ、ガホッ……! てっ、てめぇ、何のつもりだ……!?」

  「だから最初に言ったじゃないか、[[rb:リハビリ > ・・・・]]に付き合ってくれって。

  ――あれから何とか自力で引っ張り出して知り合いの医者に診てもらいもしたんだが、オレ様のこっち側のキンタマ、倍くらいのデカさに腫れちまってなぁ……。ミスター・鞍懸もご存じの通り、役者生命どころか雄としての生命自体を危ぶまれる事態だったんだ」

  尚も抵抗を試みた鞍懸の胴体にエルボーを食らわせると、その巨体を抱え上げ、ロープの隙間から押し込むイクリプス。それから自分も舞台に上がってくると、何とか身を起こそうとした鞍懸の腹を拍車付きの乗馬用ブーツでグリグリと踏み躙る。

  「ぐうっ!? げっ、が……!」

  「てなわけで、あのクソガキに再上演を申し込むに先立って、ソッチの機能がちゃんと回復してるかどうか確かめとく必要があると思ってな。どっかにちょうど良さそうな相手がいないか考えてた時に、ふとあんたのその仏頂面が思い浮かんだって事の次第だ」

  「役者じゃなくただのレフェリー、しかも肩を壊してる俺なら簡単にモノに出来るとでも? 舐めやがって! 病み上がりだからと思って、仕方なくてめぇの下らねぇおしゃべりに付き合ってやってたってのに――げはぁ!?!?!?」

  今度はブーツの硬い爪先で思いっきり股間を蹴り飛ばされ、彼は頭をのけ反らせる。一瞬意識がホワイトアウトした程のその衝撃に、3対の鰓裂をパクパクさせながら尻尾をのたうたせる鞍懸。

  そんな彼をイクリプスは獰悪な表情で見下ろすと、腰に下げていた投げ縄で、鞍懸の両手首をコーナーポストに括り付けた。しかるのち鞍懸のベルトを緩め、スラックスを脱がしてくる。

  ――下半身をよじらせてせめてもの抵抗を続ける彼であったが、こちらの方が手っ取り早いと、あるいはより屈辱的だろうと判断したのか、イクリプスは鞍懸のファスナーを全開にさせた後、何とスラックスの縫い目をバリィ! と力任せに引き裂いてきた。弾け飛んだボタンや金具がリングマットの上に落ちる。

  「……へぇ。この制服に着替えるついでに、毎回新品を身に着けてくるって噂は本当だったみたいだな」

  「くっ……!」

  身動きしたりマン的を食らったりした影響で多少皺が寄っているものの、ついさっき締め直したばかりのおろしたての六尺褌が舞台照明をまばゆいまでに真っ白に反射する。その前袋がぺったんこなのは種族柄仕方のないことなのだが、真っ赤なショートタイツから今にもこぼれ落ちそうになっている相手のたわわな膨らみと至近距離で対比させられるとどうしても「雄としての格の差」を白日の下に曝されているような気分に陥って、鞍懸は恥辱に身悶えする。

  ――そんな彼の内心を見透かした風に、その嵩張る代物をユッサユッサと揺らしながら身を起こすイクリプス。マット上にあお向けに転がされた状態でソレを見上げると一段とボリューミーに映り、鞍懸は苦々しい表情で首を真横にねじ向けた。

  「となると、もう1つの噂の信憑性も高くなってくるわけだな? ミスター・鞍懸はムッツリスケベ。ベテランのレフェリーだけあって、演目中にどんなハプニングが起ころうとも己の職務を淡々と、公明正大に果たしちゃあいるが――その実、スラックスの下では褌をべちょ濡れにしてやがるって言う噂も、よぉ……!」

  「っ……!!!!」

  それは紛れもない真実だ。いずれ劣らぬ屈強な雄同士の意地や面子や誇りや矜持、そして貞操を懸けた果たし合いを誰よりも間近に眺められると言う[[rb:役得 > ・・]]があるからこそ鞍懸はレフェリーの道を志し、いい加減足を洗うべきだと頭では理解できつつも、今なお〈劇場〉通いをやめられないのだから。

  どうしても心身の昂ぶりを抑え切れない場合は、その夜の全演目終了後、同じく不完全燃焼そうな役者相手に火照りを鎮めることもある。無論毎回お相手が誘いに応じてくれるとは限らないが、舞台上でベビーフェイスを苛烈に責め立てていたヒールが今度は自分に組み伏せられて呻いているような姿を見ると、鞍懸は客と1発スッキリする時よりも心身共に、遥かに深く満足できるのであった。

  ――当然ながら、そうしてカラダの関係を持ったからと言ってその役者に便宜を図ってやるような真似は断じてしないし、相手にもあらかじめ釘を刺している。だからこそ運営に睨まれることもなく、こうしてレフェリーを続けられているのだが……。

  「いやいや、何も批難したり、小馬鹿にしたりしてるわけじゃないぜ? オレ様自身はこの舞台衣装や演目での姿を他人がどんなにオカズにしてくれようが大歓迎だし、何ならそれこそ[[rb:人気の証 > ・・・・]]だって考えてるからな。

  ――ただまぁ、個人的には些か意外だったって言うか? 何せミスター・鞍懸はこの〈劇場〉で一番のカタブツだとばかり思ってたから、よぉ……?」

  ニヤニヤしながら上体を屈め、鞍懸の頬に片手を伸ばしてくる鞍懸。彼が反対側にしかめ面を背けると、その手を己の股間にやり、ストリップショーさながらの煽情的な手つきで股間の巨大な膨らみを揉みしだいてみせはじめる。

  「どうした。今言った通り、好きなだけガン見してくれていいんだぜ? 自分がぺったんこなもんで、オレ様たちのご立派なもっこりに密かに羨望のまなざしを注いでは、演目中にソレがブルンブルン揺れ動いたり汗で湿って中身が透けてきたり、果ては膨らんできたりする様子を固唾を呑んで見守ってやがったんだろ?

  ――んで以て、そんな連中が急所攻撃を食らったり、事故でタマが引っ込んじまったりして七転八倒する姿を眺めながら、内心『ザマぁ見やがれ』って思ってたんだろ。とりわけ、オレ様みたいに虫の好かない相手に対しては、よぉ……?」

  最後は明らかに特定の演目を想い起こしながら、詰問してくるイクリプス。あの日レフェリーを務めていたのは別人で、鞍懸は後日映像アーカイヴで確認しただけなのだが、正直そんな風に感じたのは否めない。イクリプスの如何にも悪役然とした下卑た笑みの裏側に冷たく鋭い怒りを垣間見た鞍懸は、背筋の鱗がゾワゾワし出すのを感じる。

  ――そんな彼を見下ろしつつ、タイツの脇から自慢の巨根を掴み出すイクリプス。自分のことを内心面白くなく思っている現王者のシンパを舞台上で、しかもレフェリーとしての制服姿で犯してやれると言うこのシチュ自体にこの上なく興奮しているのか、その雄の凶器は既に8割がた勃起している。あたかも戦に先立って得物を研ぎ澄ますかの如くに、最も太い箇所だとイクリプス自身の指でも回り切らないソレを何度かシゴき上げてみせると、鈴口から搾り出されてきた我慢汁がまばゆい舞台照明に煌めきながらボタボタと鞍懸の剥き出しの内腿や褌の前袋に垂れ落ちてきた。

  「よっ、よせ! 俺ぁ、タチが専門で……!」

  「奇遇だな、オレ様もだ。ま、あのボーヤみたいな、大人のことを舐め腐ってやがるガキんちょを理解らせてやるのもそれはそれで愉しそうだが……。やっぱ、一番オツなのは――」

  とほくそ笑みつつ鞍懸の脚の間に太い胴体を割り込ませると、イクリプスは得物の切っ先を褌の前袋にあてがって、それに隠された割れ目を探るように上から下、下から上へと動かした。そのたびごとに我慢汁がおろしたての木綿布に染み込んで、灰色っぽく湿らせてゆく。

  「自他共に認めるバリタチを、[[rb:屈服 > ・・]]させてやることだよ、なぁ……?」

  「ん゛うっ!? うあっ、そ、ソコは……!!!!」

  てっきり褌のたてみつをズラして後ろの穴を狙ってくると思いきやスリットの方を、しかも前袋越しにこじ開けようとしてくるイクリプス。当然ながら木綿布はゴム膜のような伸縮性など持ち合わせていないので、それにつられて引っ張られたたてみつやよこみつが鮫肌に食い込んでくる上に、スリット内の粘膜に布がこすれて痛みを感じる。グイグイと強引に雄の凶器を突き立ててくるイクリプスであったが、前袋の布が2枚重ねになった部分は得物の切っ先ごと数センチ鞍懸のスリット内へと沈み込んでは、すぐにひとりでに押し戻されてくることを繰り返す。

  ――如何に己の得物のサイズや絶倫ぶりに自信を有しているイクリプスでも、ソレで前袋を突き破ってやれるとはさすがに考えていないだろう。にも係わらず、わざわざこんな「前戯」をしてみせているのは鞍懸のことを[[rb:嘲弄 > ・・]]するため。鞍懸がそのおろしたての真っ白な六尺に込めたレフェリーとしての気構えを、そして雄としての誇りを文字通り穢してやるため……。

  「くっ、うう……!」

  「どうした。ムッツリスケベのミスター・鞍懸のことだから、生チンポは初体験ってだけで、てっきりスリットニーの経験くらいあるもんだと見込んでたんだが……まさか、マジで新品未使用なのか?

  ――ハハ、こりゃあいい! 鮫族の処女マンコとは、ある意味フカヒレ以上の珍味だな!」

  「てっ、てめぇ……!」

  ほんの先っちょだけとは言え、イクリプスのズル剥け&ドス黒く淫水焼けした亀頭は肉厚で相当なボリュームがある。そんなブツで褌越しにスリットをこじ開けられてはまた戻されることを繰り返されているだけで恥辱の極みだと言うのに、ソコをマンコ呼ばわりまでされて自尊心を著しく傷付けられた鞍懸は、演目中にヒールによって意図的に攻撃に巻き込まれた時にも見せたことのないような鬼の形相でギロリと相手の顔を睨み返す。おまけにそうして前戯を続けられるうちにイクリプスの我慢汁がどんどん前袋に染み込んできて、その生ぬるい粘液で濡れた布地がスリット内の粘膜にへばり付いてはまた剥がれるおぞましい感覚まで伝わってきたのだ。

  ――そんな鞍懸の鼻面に容赦なくヘッドバッドを食らわせてくるイクリプス。ロレンチーニ器官が半分に叩き潰されたかと錯覚する程の衝撃に鞍懸が思わず目を回してしまうと、イクリプスはその隙に湿った前袋を脇に寄せ、口が僅かに緩んだスリットをしげしげと眺めた。身体の他の表面と同様ソコも鮫肌で覆われているものの、垣間見える内部の粘膜は柔らかで、[[rb:初心 > うぶ]]なピンク色を保っているようだ。

  「ちょいとお肌が荒れてやがるが、なかなか締まり具合の良さそうなパイパンマンコじゃないか。タマさえありゃあオレ様と同じ苦しみを味わわせてやれたのにと、実は少々残念に思ってたんだが――これはこれで、愉しませてもらえそうだな……?」

  「離しやがれっ、こん畜生! 同じ役者ならいざ知らず、レフェリーを力ずくでモノにしようとするなんぞ、あのベオウルフが赦すと思うのか!? 何だかんだでプロ意識や根性はあるからって、お目溢ししてもらえてるだけの癖に! いずれてめぇも、あの『狂獣』みてぇに粛清され――ん゛ぎゃあぁあ゛あ゛あ゛……!?!?!?」

  目の上のタンコブである銀狼や、何かにつけて引き合いに出されがちな『狂獣』の名を鞍懸が口にしたことが逆鱗に触れたらしい。それまでわざとらしい獰悪な笑みを浮かべていたイクリプスが一瞬真顔になったかと思うと、雄の凶器をスリットにねじ込んできた。

  しばしば蛇やトカゲ族のヘミペニスと混同されるが、2本で1組になっているのは同じでも、鮫魚人の雄の生殖器は「クラスパー」と呼ばれ、左右の腹鰭の一部が変化したものである。しかし鮫属が地上で二足歩行生活を営むうちに腹鰭自体が退化し、クラスパーも平常時は体内に格納されるように環境に適応していったのだ。

  ――従って見た目こそ上述の爬虫類系の獣人や竜人のスリットに似通っているものの、容積に関しては遥かに劣る構造となっている。イクリプスはそんなことなどお構いなしに、しかも潤滑剤となるべき我慢汁も大半は褌に染み込んだ状態でいきなり全長の半分強まで突っ込んできたものだから、文字通り身体が引き裂かれるような苦痛に襲われる鞍懸。おまけにイクリプスはそんな彼の反応を心から愉しみながら、残り半分をも無理やり押し込もうとする風にズンズン腰を打ち付けてきた。

  「がぁ!? ふうっ、ん゛っ、ぎぃ……!」

  「ったく、色気もへったくれもない喘ぎ方しやがって。ベテランのレフェリーとして数々の名舞台に立ち会ってきた経験は一体どこに行っちまったんだ、んん?

  ――で以て、コイツが鮫族の『クリトリス』とやらか? こんな穴ん中でフニャフニャのまま縮こまっちまってて、男らしさのカケラもないな!」

  わざと1文字目以外合っていない単語を口にしつつ、鞍懸のクラスパーを己の得物の切っ先でグイグイ押し潰してくるイクリプス。完全勃起時は体格相応の肉銛×2と化す上、その気になれば一人二輪挿しだってしてやれるので、もっこりの有無はさて措き、鞍懸は己のバリタチとしての能力には密かに自負を有している。

  ――それなのにマンコ呼ばわりのお次はソコをそんな風に虚仮にされ、あまりの恥辱と怒りと憎悪のために口も利けなくなってしまう。鮫肌を鑢代わりにして手首の拘束を解こうとするも、イクリプスはそれすらも織り込み済みで普段より強度の高い投げ縄を用意してきていたらしく全く以て歯が立たない。

  「ほら、見てみろよミスター・鞍懸。オレ様のデカマラが、もう3/4くらい入っちまったぜ? 初めてオンナにしてもらえたのがこのイクリプス様だなんて、アンタも幸せ者だなぁ……?」

  「てっ、てめぇなんぞ願い下げだ。この、ナルシシストの[[rb:下種 > げす]]野郎が……!」

  「……いや、それとも不幸せかな? 何せこの先、オレ様以外のチンポじゃ満足できないカラダになっちまうんだから――よぉ!!!!」

  「ぐがぁああ゛あ゛あ゛……!?!?!?」

  今度は「下種」と言う表現が逆鱗に触れたらしい。ギリギリ抜け落ちない程度まで一旦腰を引いたかと思うと、その巨根を勢いよく付け根まで突き立ててくるイクリプス。まるでスリットの底を突き破られ、[[rb:臓腑 > はらわた]]をその猛り狂う雄の凶器で直接抉られているかのような感覚に、如何に心身共にタフな鞍懸も半ば白目を剥き、砂浜に打ち上げられた魚よろしく、ビチビチとその巨体や尻尾を跳ねさせる。上下の端が裂ける限界まで左右に無理やり押し拡げられたスリットはヒクヒクと痙攣しながら、イクリプスの勃起の付け根付近に浮かび上がった太い血管の力強い脈動を粘膜から鞍懸に伝えてきていた。

  「ぐぁあ!? 裂ける。腹が、破け、るぅ……! こん畜生、ぶっ殺して、やる……!!!!」

  「おいおい、レフェリーが舞台の上でそんな発言しちまっていいのかよ。紳士淑女の皆々様の前で[[rb:放送禁止用語 > フォー・レター・ワーズ]]連呼しても許されんのはオレ様たちヒールだけだぜ? アンタこそベオウルフの野郎に粛清されるべきなんじゃないか。

  ――オラッ、どうなんだよ!?」

  「かっ……は。う゛っ。ぐっ、げぇ……!」

  今度は少しだけ腰を引くと、渾身の力で一番奥をドズン! と突き上げてくるイクリプス。あたかも柄まで深々と貫き通した得物をグリグリと動かして敵にトドメを刺そうとするかの如くに下腹部同士を密着させた状態で腰を蠢かせると、豊かな「下の鬣」が鞍懸のスリット周辺にゴワゴワした肌触りを伝えてきた。

  今や鞍懸の腹は哺乳類で言う所のヘソの位置までこんもりと盛り上がり、縦縞のシャツを膨らませている。スリット処女喪失の激痛はもちろんだがそうして物理的に腹を圧迫されていることで呼吸困難に陥り、鰓をパクパクさせながら巨体を弓なりにのけ反らせ、太い尻尾をくねらせる鞍懸。

  「さてと……。小手調べの意味も兼ねて、まずはコッチに1発種付けしといてやるか。ありがたく受け取れよ、ミスター・鞍懸……!!!!」

  「うあっ、あ゛っ、んぐぅ……!? あっ、熱ぅ……!?!?!?」

  スリットが擦り切れる勢いで激しく抜き差ししてきたかと思うと、イクリプスの巨根が付け根から更にブワッと一回り大きく膨れ上がり……次の瞬間、夥しい白濁液をドクドクと吐き出してきた。前回片方の睾丸を痛めてからと言うもの回復に専念していたからか、その子種は半ばゼリー状と化している程に濃厚な上、極めて量が多い。ただでさえイクリプスの巨大な勃起と鞍懸自身のクラスパー×2で容量的に限界を迎えていたスリットに収まり切る筈もなく、たちまち隙間からブジュブジュと溢れ出してきた白濁液が鞍懸自身の下腹はもちろんイクリプスの「下の鬣」もベトベトに汚して粘っこい糸を引いた。

  約1ヶ月ぶりの射精、そして日頃から内心目障りに感じていたベオウルフ派のレフェリーのスリットに舞台上で中出しを決めてやる快感を堪能する風に、改めて己の得物を付け根までねじ込んでグリグリと腰を動かしてくるイクリプス。スリットの一番奥の壁がその切っ先の形に沿って、破裂する寸前まで拡張された挙句、ソコに密着している鈴口から煮えたぎる子種が尚もドクドクと注ぎ込まれつつあるのを感じた鞍懸はあまりのおぞましさに気が遠くなりかける。

  ――長い吐精がようやく一段落すると、己の生殖能力が負傷前と同等まで無事回復した事実を体感できて得意顔のイクリプスは、未だ萎える気配のない巨根をズルズルと引き抜いてゆく。それとは対照的に萎え切ったままの鞍懸のクラスパー×2は、この短時間ですっかり口も中身も拡がってしまったスリット内で雄ミルク漬けになっていた。鞍懸が手足や尻尾を痙攣させるたび、緩みっぱなしのスリットの口からドロォ……と子種が垂れ落ちてくる。

  「ザマぁないな、ミスター・鞍懸?

  ――ま、自称バリタチの連中ほど、いざ自分が犯られてみると呆然自失になっちまうのはよくあることだが……」

  鞍懸のスラックスに手をかけると、その裂け目を拡げるイクリプス。六尺褌の端っこをしゅるしゅるとほどくと、白濁まみれの己の得物をこれ見よがしにゴシゴシと拭き清める。彼自身にとってはレフェリーとしての制服の一部である物をそんな風にウエットティッシュ代わりに用いられた鞍懸は恥辱と怒りと憎悪の感情を再燃させることで我に返り、遅まきながら反撃に転じようとしたのだが――またもやイクリプスにマン的を決められた挙句、半開きだった口にその白濁まみれの布の端を突っ込まれてしまう。

  「ぶぐぅ!? む゛っ、ぎぃ……!?!?!?」

  「ったく、せっかく拭いたばかりだったってのにまた汚れちまったじゃないか。コイツは『お仕置き』案件だよなぁ、ミスター・鞍懸……?」

  マン的の拍子に鞍懸のスリットから飛び出してきた己自身の白濁液が毛皮や舞台衣装に付着している様を見て、わざとらしく顔をしかめてみせるイクリプス。元はと言えば何もかも自らが原因なのに責任転嫁も甚だしいが、ブルウィップをホルダーから抜いて正面に構えてみせる。投げ縄と同じく、それもカウボーイを演ずるに当たっての重要な小道具の1つである。

  ――今度は股間を鞭打たれでもするのかと、身をこわばらせる鞍懸。しかしイクリプスは鞭の握りの方を回転させると、そこのカバーを取り外してみせた。何とそこにはもう1つの「凶器」として、ディルドが仕込まれていたのだ。

  「スリットに二輪挿しされるか、ケツの穴と同時に責められるか……どっちがいい?」

  「がぼっ、ん゛ーっ、ぐむ゛ぅーーーー!!!!」

  これ見よがしに根元辺りをギュッギュとリズミカルに握りしめながら、酷薄な笑みで問いかけてくるイクリプス。それでもディルドのサイズ自体は本人の持ち物に劣る……と思いきや実はポンプ式になっているようで、そのたびごとに内部に空気が送り込まれてどんどん膨らんでゆく。

  白濁まみれの六尺を口に突っ込まれている鞍懸は当然ながら返答など不可能で、死に物狂いで身をよじらせる他ない。そうして暴れた拍子にスラックスの裂け目が拡がり、尻尾の付け根とスリットの下端との間に位置している排泄腔が露わになった。言うまでもなくこちらもスリット同様完全に新品・未使用である。

  「何だ何だ、やっぱこんなオモチャなんかじゃなく、オレ様自身のデカマラでアナルヴァージンも奪ってほしいってアピールか? 分かったよ。最初はコイツで慣らしてやろうかと思ってたんだが、ミスター・鞍懸がそこまでおねだりしてくるのなら――」

  「ぐうっ、がぁーーーー!!!! んお゛っ、ごっ、ぼぉ……!?!?!?」

  六尺で拭き取ったとは言え未だ子種の残滓が付着している切っ先を鞍懸の排泄腔にあてがったかと思うと、容赦なく串刺しにしてくるイクリプス。スリット処女を喪失させられた時とはまた質の違う苦痛や異物感に鞍懸は口を塞がれたまま絶叫し、太い尻尾を左右に振りながら尾鰭をビタン! ビタン! とリングマットに打ち付ける。

  「役者ならいざ知らず、レフェリーにタップアウトなんて許されちゃいないぜ、ミスター・鞍懸? ま、アンタがレフェリーを志したのは肩の故障が原因らしいが――この程度の『凶器攻撃』ですぐに音を上げちまうようじゃ、どのみち役者には向いてなかっただろうよ」

  左腿に消えない傷を負わされようが半ば自爆とは言え片方の睾丸が腹腔内にめり込んでしまおうが、その雪辱を果たすため再び、そして何度でも舞台に立つこの自分とは違って……と言う含みを持たせながらそう吐き捨てると、イクリプスは更に奥深くまで雄の凶器を突き立ててくる。相手が冗談抜きで呼吸困難に陥り意識を失いかけている姿を見ると白濁と、今や鞍懸自身の唾液とにまみれている六尺を口から引っ張り出してやった。

  激しく咳き込むと辛うじて意識を取り戻した鞍懸であったが、もはや肉体的にも精神的にも抵抗する力など残ってはいない。一刻も早くこの地獄の責め苦が終わってくれることを祈るばかりであったが、イクリプスはそんな彼を嘲笑うかの如くに、お留守になっていたスリットにディルドを突っ込んで激しく掻き回してきた。内部をたっぷりと満たしていた白濁液が、聞くに堪えない音を立てながら縦縞のシャツに飛び散る。

  「ぐああっ!? 頼む、もう、勘弁してくれ……! 穴が、拡がるっ。もう二度と閉じられなくなっちま、うぅ……!」

  「何だ、ようやくベオウルフからこのイクリプス様に鞍替えする気になったのか? ま、所詮『鞍』なんざカウボーイに下敷きにされる運命でしかないんだが。

  ――とは言え、オレ様は結構根に持つタイプでな。アンタのスリットもケツの穴もガバガバになって1つに繋がっちまうまで、赦してやるつもりはないぜ?」

  ディルドを抜いてくれたと思いきや、お次は片手を手首までスリット内に突っ込んで、底の方に縮こまっているクラスパー×2をむんずと握りしめてくるイクリプス。おまけにその状態で手首を左右に回転させてきたものだから、クラスパーが引っこ抜けそうになるわ指の関節の尖った箇所で内部の粘膜や筋肉をグリグリされるわで、さしもの鞍懸もとうとう涙を流しはじめた。当然ながらその間もイクリプスは鞍懸の尻を掘り進め、ズコズコと腰を遣ってきている。

  ――遂に腸内の凶器の切っ先と、スリット内のイクリプスの拳とが粘膜及び筋肉を隔てて触れ合ってしまったのを感じ、軽く失禁してしまう鞍懸。無論プライドの高いイクリプスがそんな粗相を赦してくれる筈もなく、子種と小水が付着した拳でしたたかに鼻面を殴られた挙句、排泄腔との結合部にディルドを突っ込まれて二輪挿しを決められてしまう。

  「ぎゃあぁああ゛あ゛あ゛……!?!?!? 頼む、頼むぅ……! この年で前も後ろも垂れ流しになんざ、なりたく、ねぇ……!

  ――分かった、あの小僧にリベンジかましてぇんだろ!? 俺の方からも運営に掛け合ってやるから。実際の演目中もてめぇに便宜を図ってやるか、ら゛ぁ……!?!?!?」

  僅かな隙間に突っ込まれているディルドを乱暴に上下左右に揺り動かされた鞍懸は、冗談抜きでソコが縦に裂けてスリットと1本に繋がってしまうのではと恐怖する程の激痛に恥も外聞もなく泣き叫び、まな板の上で活け造りにされつつある魚の如く、イクリプスの巨体の下でジタバタと暴れ狂う。

  ――そこにはもはや一本気で、公明正大なレフェリーの面影など見当たらない。事ここに至って、鞍懸はようやく己のカラダに思い知らされたのだ。なぜこれまで関係を持ってきた男たちが揃いも揃って、いつしか雄としての誇りを失ってしまうのか。彼の膝に縋り付き、「お情け」を求めてくるような情けない雌犬に成り下がってしまうのか……。

  「『便宜を図る』だと? そんなふざけたことを抜かしやがるのはコッチの口か、あぁん?

  ――前回はさしものオレ様も、ちょいとファンサと油断が過ぎたってだけだ。あんな[[rb:犬っころ > パピー]]1匹理解らせてやんのに、八百長なんぞする必要ないし……第一、オレ様自身の実力でキャンキャン啼かせてやらなきゃ本当の意味で勝ったことにはならないんだよ……!!!!」

  またしても鞍懸の発言が逆鱗に触れたのか、二輪挿しに用いていたディルドを引き抜くと、再びスリットを掻き回しながら尻をガン掘りしてくるイクリプス。

  タフネスに定評のあるこの黒獅子もここまでぶっ続けで鞍懸を責め立ててきた結果、さすがに流汗淋漓。しかししっとりと湿った黒褐色の毛皮は舞台照明の下で一段と光沢を増し、体温の上昇に伴い一回り大きくパンプアップした全身の筋肉の陰影を強調している。ズパン! ズパン! と力強く鞍懸の一番奥を突き上げるたび、イクリプスの我慢汁と鞍懸自身の分泌液とが混じり合った粘液が白く泡立ちながら結合部から漏れ出すのはもちろん、執拗にディルドで拡張され続けているスリットは左右のフチが大きくめくれ返って、真っ赤に充血し、かつイクリプスの子種でまだらに白く汚れた内側の粘膜を覗かせていた。

  「タッグマッチ中、ヒールが急所攻撃だの凶器攻撃だのやりまくってやがるのに、そっちにはわざとらしく背を向けて、もう1組の方に気を取られてる『演技』をすることなんざベテランのレフェリーにとっちゃあ十八番だろ? ああ言う感じでいいんだよ、ただ、それだけで。

  ――オレ様としてはどっちかと言うと、くだんの『狂獣』が今どこで何してるかって方に興味があるな。運営側の資料からも奴の個人情報は抹消されちまってるが、アンタなら心当たりがある筈だよなぁ。何せこの〈劇場〉の生き字引様なんだから、よぉ……!!!!」

  「教える、分かった、俺の知ってる限りのことを教える、から゛っ! だから頼む、もう勘弁して、くれ゛ぇ……! スリットが、ケツがぁ。壊れっ、る゛ぅ……!?!?!?」

  レフェリーとしての長年のキャリアもそこから来る所のプロ意識もかなぐり捨て、顔面を涙や涎や、スリットからそこにまで飛び散ったイクリプスの子種でグチャグチャにしながら哀願する鞍懸。対するイクリプスはあっぱれな絶倫ぶりでピストン運動を続けていたが、そんな鞍懸の尖った鼻先を片手でグイッと握りしめると、

  「口の利き方を知らないようだな。『どうかお願いします、イクリプス様』だろ……?」

  「ど……どうか、お願い、します。イクリプス、様ぁ……」

  蚊の泣くような声で、途切れ途切れに答える鞍懸。精神的に完全に白旗を上げてしまったその姿を見下ろしてイクリプスは、黒々とした口元を耳から耳まで三日月型に大きく裂けさせると、真っ白に光る鋭い牙を剥き出し、会心の笑みを浮かべてみせた。[[rb:皆既蝕 > トータル・イクリプス]]から月や太陽が、その輝きを覗かせるかの如くに。あるいは『荒野の無法者』の[[rb:仮面 > マスク]]に隠されていた、そんな戯画化された悪役より遥かにタチの悪い存在が素顔を垣間見せたかの如くに……。

  激しいピストン運動を中断すると、巨根を鞍懸の排泄孔からズルリと引き抜くイクリプス。その場に仁王立ちになると、もはや気息奄々の鞍懸に存分に見せ付けてやるようにしながら、お互いの分泌液をローション代わりにソレをダイナミックにシゴき上げ、負傷した側の睾丸をもう片手で揉みしだく。

  ――程なくして射出された熱い子種が、教科書通りの放物線を描きながら鞍懸の上半身へビチャビチャと降り注いだ。スリット内に放出したのは上澄みに過ぎなかったのか、量は無論のこと濃さも先刻を上回るように思われる白濁液が鞍懸の顔面を、そして縦縞のシャツを瞬く間に塗り潰してゆく。

  「……へっ。[[rb:腸内 > ナカ]]にたっぷり種付けしてやるのと、どっちにしようか迷ったんだが……。やっぱ、こっちの方がいい眺めだな。アンタもそう思わないか、ミスター・鞍懸……?」

  当初の目的は鞍懸にも伝えた通りあくまで「リハビリ」の一環に過ぎなかったのだが、予想外の収穫を得られたことでご満悦のイクリプスは、己の得物を一旦ショートタイツ内に押し込みながらそう問いかける。レフェリーの象徴とも言える、白と黒との縦縞シャツ……。「白黒をはっきり付けさせる」と言う意味合いも込められているらしいその制服は今やイクリプスの子種でまだらに塗り潰され、明らかに「白」側に大きく偏ってしまっていた。

  軽く頭を起こすと、自分の目でもその有様を確認する鞍懸。己のレフェリーとしての、そして雄としての誇りが名実共に切り裂かれ、穢し尽くされてしまった事実に絶望のどん底に突き落とされるも――なぜか彼のクラスパー×2は白濁まみれのスリット内でむくむくと膨張し、完全に開きっぱなしになってしまっているその口からひとりでに露出してきたかと思うと……まるでソコからも悔し涙を、あるいは随喜の涙を流すかのように、トプトプと子種を漏らしたのであった。……

  [newpage]

  [chapter:4]

  数日後。『イクリプス・ザ・パニッシャー』――こと某外資系ベンチャー企業の若きCEO:レオンハルトはハイブランドのスーツ姿で、自宅のソファに腰掛けていた。目の前のコーヒーテーブルに据えたラップトップPCの画面を、真剣そのものと言った表情で、広い背中を丸めて覗き込んでいる。

  ただでさえ珍しい黒獅子、しかも人並み外れたこの体格とあっては如何に覆面レスラーとして「舞台」に上がっているにせよ、ひと目で素性が割れてしまいそうなものなのだが……豊かな鬣をオールバックに綺麗に撫で付け、銀縁の伊達眼鏡をかけていると言う外面的な変化に留まらず、あの粗野で下品な『イクリプス』と同一人物とは信じられないくらい今の彼は知的で怜悧、かつ紳士的な雰囲気を醸し出している。その意味では、〈劇場〉流のレトリックに留まらない「役者」としての才能が彼には生まれつき具わっていたのだろう。

  ――果たしてどちらが素顔で、どちらが仮面なのか。あるいはどちらも仮面に過ぎないのか。もはや彼自身にも分からなくなってきてはいるものの……TPOに応じて完璧に演じ分ける程度のことは、起業家としても覆面レスラーとしても当然だと考えている。

  「……」

  画面に映し出されているのは前回、彼が屈辱的な逆転KO負けを喫した「演目」だ。本来この手の、一定以上のランクの会員向けに限定公開されるたぐいの映像記録は〈劇場〉外への持ち出し厳禁なのだが、そこは大口スポンサーの特権と言う奴である。

  果たしてリベンジマッチの申し出を対戦相手の方が受けてくれるか、そこだけが懸案事項ではあったが……案の定、前回の「ビギナーズラック」を己の実力だと勘違いし、調子に乗ったお相手はファイトマネーに目がくらみ、二つ返事で応じてくれたと言う。既に日程も決まり、後はそれに向けてコンディションを整えるだけ。

  ――その一環として彼はこの、己の「引退公演」になりかねなかった映像記録を繰り返し視聴しては当時の肉体的・精神的苦痛を思い出し、復讐の炎に[[rb:薪 > たきぎ]]を[[rb:焚 > く]]べているのである。

  「……」

  その片手が半ば無意識的に、己の股間へと滑ってゆく。前屈みの姿勢も相俟ってスラックスの前立てを大きく膨らませているソコを、画面に目を釘付けにしたまま上等な生地越しにしばらく撫でさすっていたが――やがて辛抱たまらなくなった風にもどかしげにベルトを緩め、腰を浮かせるとスラックスを膝の上までズリ下ろした。普段から下着代わりに穿いている真っ赤なショートタイツが露わになったが、ただでさえ面積の少ないその布切れは既に中身を収納し切れず突き破られそうになってしまっている上、亀頭に接している箇所が真っ黒に湿っている。

  イクリプスはやはりもどかしげに巨大な勃起を掴み出すと、上半身にはプレスの効いたジャケットを羽織りネクタイもきっちり締めたままの姿で、一心不乱にソレをシゴきはじめた。その間も両目は画面を凝視したままだが、徐々に呼吸が荒くなり、こちらも高級な革靴に包まれた両足がリズミカルに床を叩いたり、ソファの背もたれとの間に挟まれた尻尾が鞭のようにしなったりしはじめる。喉の奥からグルグルと、野性的な唸り声が響き出した。

  動画のシークバーが右端の方まで動き、遂にその場面が映し出される。イクリプス自身が投げ捨てたマイクを拾い上げると、対戦相手のKO勝ちを高らかに宣言する司会者。その華麗なる「[[rb:どんでん返し > 大逆転劇]]」に熱狂し、本日初舞台を踏んだばかりの「役者」の名を連呼する観客たち。

  ――それらに対して「こんなの余裕だ」と言わんばかりに軽く肩をすくめてみせると、その青毛の狼獣人の少年は、まるで道端のゴミ屑でも見るような冷たい一瞥を黒獅子へと投げかけた。それこそはイクリプスが完全に意識を失ってしまう前、最後に覚えている相手の表情……。

  「っ……! うっ、ぐぅ、うぬ゛ぅ……!!!!」

  動画をその場面で一時停止させると、悪鬼さながらに顔をしかめたイクリプスは積もり積もった恥辱や怒りや憎悪を全てこの一瞬に凝縮するかの如く凄まじい唸り声を上げ――そしてそれを形に変えて己の中心からほとばしらせるかのように、画面一杯に拡大された相手のその表情へとブチ撒けた。

  夥しい子種が画面を垂れ落ち、まだ鼻面の伸び切っていない、あどけなさを残した少年の顔をドロドロと塗り潰してゆく。とうとうキーボードの方にまで流れてきて隙間に入り込んでしまったが、そんな些事は歯牙にもかけず、彼は呼吸を整えながら、尚も白濁越しに「仇」の顔を睨み続ける。

  「次に会ったが百年目、『[[rb:お仕置き > パニッシュメント]]』のお時間だ。束の間の勝利にせいぜい酔い痴れてやがれ。[[rb:蒼月 > そうげつ]]、[[rb:朔夜 > さくや]]ァ……!!!!」

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