妾は狸の守護神。とある神社に祀られておる由緒正しい狸じゃ。地域の信仰は厚く、お供え物が供えられない日はないくらいじゃ。妾に供えられるお供え物は、大抵は食べ物や酒なのじゃが、今回はちと変わったものでの...
「おぬし、人間の子供か?」
「うん!はなっていうの!」
驚いた。まさか人間が供えられるとは...
いや、食べはせぬぞ!?いくら妾が大食らいとはいえ、生きた人を食べるほど飢えてはおらぬ!人間——確かはなといったな——は、妾の大きなお腹にしがみついた。
「おなかあったかいねぇ」
はぁ〜なんとも愛らしい……。うむ、これはなかなか良いものだのう……。
しばらくすると、はなが寝てしまったようなので、妾も目を閉じた。
*****
「で、神社に連れてきたと」
隣の神社の狐が、半ば呆れ気味に呟いた。はなは、あのまま妾からくっついて離れなかったのじゃ。妾も、悪い気はしなかった。妾も、子供は好きじゃからのぉ。
「きつねさん、しっぽふさふさ〜」
どうやら狐にも興味があるようじゃ。狐の方も満更ではない様子で、尻尾を振りながら撫でられておった。
「しかし、このままでは不味いな……」
「何故じゃ?別にいいではないか」
「いや、狸よ。お前、今何歳だと思ってるんだ?」
何を当たり前のことを言っておるのか。妾は齢千年を超える古狸であるぞ?まあ、確かに最近は運動不足もあって少し太って来たように感じるが……
「見た目の話よ!!もう完全に子供じゃないだろう!?」
言われてみるとそうかもしれんな。
「だからまずいのだ。もし見つかったら、大変なことになるぞ」
それは困る。妾だって命は惜しい。なんとか誤魔化さねば……
「はなちゃん、私と一緒に遊ぼうねー!」
「うん!!」
…………大丈夫だろうか。
「おねえちゃーん!」
「わっ、ちょっと待っててねー」
「うん!」
あやつは本当に世話焼きじゃな。あれだけ小さい子なら放っておいても勝手に遊ぶであろうに。
それにしても、あの娘、どうしてお供え物と一緒に供えられておったのかのぉ。何か事情がありそうだが……聞いても良いものかどうか……
「あー!またしっぽさわろうとしてるぅ!」
「ごめんなさぃ……」
「ほっぺたぷにぷにしてあげるから許してぇ」
「えへへ……」
全く、仲が良いことじゃな。羨ましいのう。……まあいいか。今は、この時間を楽しませて貰おうかの。
「あー!きつねさんずるい!はなちゃんわたしも!」
「ふふん、早い者勝ちじゃよ〜」
「はなちゃん、こっちおいで〜?」
ぐぎゅぅぅぅ
派手に大きな音が響いた。妾の腹の虫が鳴いたのじゃ。そういや、そろそろ飯の時間かの。
「たぬきさん、おなかすいたの?」
「うむ、少しばかりな。さて、お供え物でも食べようかの」
「おそなえもの?」
尋ねるはなに妾は、「そうじゃ」と軽くうなずいた。妾の飯は、神社に供えられているお供え物じゃ。なんやかんや信仰が厚いものじゃから、たくさんのお供え物が供えられておる。
「食べ過ぎないでよねー」
狐が声をかける。全く、余計なお世話じゃ。「分かっておるぞー」と軽く返事をしながら、妾はお供え物の一つを手に取ったのじゃ。
「あぐっ」
うむ、今日も美味い。美味いものを食べられるというのはいいものじゃな。妾は喜びのあまり、腹をぽんぽんと叩いた。ぐぎゅるるる 再び大きな音が鳴る。今度は先程よりも大きかった気がする。というより、かなり大きい。まるで、雷のような音じゃった。
「た、たぬきさん……?」
はなが不安そうな顔で妾を見つめていた。
「きつねさん、すごいおこってるの……」
「な、なぜじゃ!?そんなはずは……はっ!」
よく見ると、狐の尻尾がぶわっと膨らんでいる。そして、耳もピンッと立っていた。これは怒っている証拠である。
「お前……!またやったな!!」
ふと、手に取ったお供え物を見つめる。すると、そいつには狐の紋様が入れてあったのじゃ。ああ、しまった... 妾は、狐のお供え物を間違えて食べてしまったのじゃ。神社が隣同士ということもあり、たまにこうしてお供え物が混ざることがあるのじゃ。いつもは狐が注意してくれるのだが……
ぶくんっ!
妾の腹が急激に膨らむ。おかしい、たった一口食べただけなのに...
「他人のお供え物を勝手に食べたらどうなるか、知ってるわよねぇ?」
狐が言う。そうじゃ、自分以外のお供え物を食べると、急激に太ってしまうのじゃ。まあ、妾はもう既に規格外に太っておるが、それ以上に身動きが取れないレベルまでぶっくぶくに太ってしまうのじゃ。
「たぬきさん、おなかおっきくなってる...」
はなは、不安そうに妾を見つめている。小さい子には、ちと刺激が強すぎたかの。こんな残酷な罰——
「かわいい!」
は?と妾の頭に疑問符が浮かぶ。まさか、はなの奴、ぽっちゃりが好きなのか!?いや、妾レベルにもなると、ぽっちゃりではなく、でっぷりなのじゃろうが...それでも可愛いとはどういうことじゃ!?
「はなもそう思う?それじゃ、もーっと太ってもらうわ」
「わーい!」
狐は、嬉しそうに罰を執行する。何ということじゃ... はなが狐の味方になってしまっては、もう罰は免れぬ... このままぶくぶくに太ってしまうのか...ぶよよよよよよ
体が重くなる。体の中から膨らんでいるのを感じる。体のあちこちがぶくぶくと膨らむ。
「うぅ……うぐぅ…………」
苦しい。苦しくて仕方がない。息ができないくらいに、どんどん体重が増えていく。
「あははっ!面白いねこれぇ!」
「おもしろぉい!」
二人は無邪気に笑っていた。しかし、その笑顔の裏では、恐ろしい計画を立てていることだろう。
「ふぅー……ふぅー……ううっ」
意識が遠退く。呼吸ができなくなってくる。全身がぶくんぶくんと膨張していく。
「ごめんなさいは?」
狐が問いかける。
「ごめ、ん、なさぃ……」
妾は必死で声を出した。
「もっと大きく」
「ご、め、ん、な、さぁーーーーい!!!!!」
ぶよんっ!!妾の体はさらに大きくなった。
「あははははははははっ!!!」
「あははははははははっ!!」
二人も楽しそうだ。
「うぐうぐっ……」
もう、妾の声すらも聞こえていないようだ。
「上に乗っちゃおー!」
そう言うとはなは、妾の丸く膨れた腹に飛び乗った。
「わあっ!ふかふか!」
そして、そのままゴロンゴロンと転がり始めた。
「ちょっ!ちょっと待て!それはまずい!」
ぶくぶくぶくぶく……
「わー!すごい!どこまでも大きくなる!」
「お、おい!止まってくれ!」
だが、妾の言葉など届くはずもない。妾の体を縦横無尽に転がっていく。
「や、止めてくれえ!!」
妾は泣き叫んだ。
*****
「はぁ〜面白かった〜」
しばらくして、やっと満足したようで、はなが妾の腹から降りた。
「もう反省した?」
狐が声をかける。
「こ、今回は妾が悪いんじゃ……だから許してくりゃれ……」
妾は、涙ながらに訴えかけた。すると、狐はニコッと笑い、「いいよ♪」と言った。
「ほんとか!?」
「うん、今度からは気をつけてよね?」
妾は安堵のため息をつく。
「で、妾の腹はいつ元に戻るんじゃ?」
許されたはずじゃが、妾の腹が元に戻る兆しはない。腹の膨らみはおさまったものの、やはりこの体では動きづらい。
「ああ、元に戻るのは明日だよ?今日一日はそのままね♡」
「な、なんと!?」
妾は再び絶望の淵に立たされた。
「またおなかもふもふできるね!」
はなは、相変わらず嬉しそうじゃ。
「ほ、本当にすまなかったのじゃ……頼む……なんでもするからの……元の体に戻らせておくれ……」
妾は必死に懇願した。だが、狐には届かないようだった。
「だーめ♡」
「そ、そんなぁ……」
ぼよんっ、とはなが妾の腹に飛び込む。妾は絶望に打ちひしがれた。