ウルフ×フォックス発情まとめ【R-18 腐】

  1.

  堪らなく、餓えていた。

  フォックスはのろのろと、しかし身体の中の衝動に圧されるようにして、重い身体を持ち上げた。

  唇の内側が、舌が、うずいて仕方ない。

  ここに、頭の奥から蕩けて溶け合うようなあの感触が、今すぐ欲しい。

  何なのだろう。夜だからだろうか。春だからだろうか。それにしたってこれは―――。

  フォックスは、こっそりと忍び込んだ部屋の中、仰向けに寝ているウルフの上に乗りかかった。

  唇を開き、舌を垂らす。己のハァハァという荒い息が、そこから漏れ出る。

  腕をつき身体をかがめ、まだ眠りの醒めないそれの口元を、

  フォックスは半ば必死になりながら、舐めた。

  ウルフが目を覚ます気配がした。

  構わずフォックスは続けた。

  ウルフは全く身体を動かずに目だけを細く開かせて、痴情を隠そうともしない己を、ただ見つめている。

  まるで他人から視姦されているようだ。

  構わない。この舌がこの温く柔らかい唇を求めている。

  周囲の少しざわついている灰色の毛も、まばらに生えた硬いヒゲも、その元の毛皮も、

  白く柔らかい産毛までしっとりと濡らしてしまうほど、

  フォックスはとにかく、ウルフのそこを舐め続けたかった。

  本当はその中身ごと欲しいのだ。

  知らずに腰を振ってしまう。

  こらえがちに、けれど自分のものではないように、下半身が揺れている。

  こんなもの、こらえられない。

  俺はこいつが欲しい。欲しくて堪らないんだ。

  舌の腹でウルフの唇を柔らかく押し上げて、唇の内側と歯肉の間に舌を長く差し入れる。

  ウルフの味を強く嗅ぎながら、相手の鋭い牙の形を確認するように舌でなぞる。

  それから噛み合わされた歯列を、開いてくれと頼み込むように前後につっつく。

  ―――ここまでやってやっているのに、ウルフはまだ、フォックスに明確な反応を返してくれない。

  畜生。

  いい加減フォックスがどうにかなりそうになったとき、ようやくウルフが動き、己の腰を掴んだ。

  己が相手を襲っているような、いや事実丸っきり襲っているのだが、とにかくそんな体勢のままで、

  フォックスは腰を抱かれながら、股間に手を伸ばされた。

  うあ、と、フォックスは一瞬身悶えた。

  とっくに大きくなって敏感になっているそこを、ウルフの掌が確認するように包んで来る。

  「っウルフ、くちを、開けてくれ…ッ」

  必死な己の声に対し素直にぱくりと開かれた目の前の口へ、

  フォックスは思い切り舌を入り込ませた。

  舌と舌とを濃厚に絡み合わせた瞬間、そのまま達してしまった。

  どく、どくと、フォックスの身体の中心が震える。

  「なんだ……、ずいぶんとサカっているようだな」

  「…うるさい。お前はどうなんだ」

  フォックスも同じようにウルフの股間に手を伸ばした。

  ウルフのそれは、反応はしているものの、即臨戦状態とまでは行っていない。

  せいぜい半勃ちと行ったところだろうか。

  己の身体との差に納得が行かず、フォックスはウルフのそこを触りながら、相手を見下ろした。

  「なんだその顔は…。

  フォックス、お前今、相当情けない顔をしているぞ」

  「う、うるさいなッ!仕方ないじゃないか!」

  何がどうして仕方ないのかなんて口にするほど、お互い野暮ではない。

  今は春で、これは本能という奴なのだ。

  ウルフのそれを揉んでいると、フォックスはまた己の腰が勝手に動いていくのを実感した。

  「いいから、もうこれ、なんとかしてくれよ、ウルフ。

  っ俺だっていい加減、こんな自分が嫌なんだ」

  そう言ってフォックスは、ウルフの首元に顔を下ろして、そこの毛並みを何度か舐めた。

  ウルフが、己の背を軽くポンポンと叩いた。

  己の身体の下に寝たまま、ウルフが再びフォックスの性器を指で弄んでいる。

  今度は、相手のそれが、己を確かめもう一度高め上げようとしている動きだと、よく分かる。

  フォックスは恥を自覚した。自分から求め、自分を弄る指を喜んで迎え入れている。

  しかし残念ながら、身体の欲情はそれよりもはるかに勝っている。

  本当は己も、されるがままではなく、ウルフに愛撫くらいはしてやりたい。

  そう思いはするのだが、思うだけで身体はすっかり快楽に犯され、動けない。

  ウルフの手が己を刺激するたびに、堪らない快感が腰の奥から走り、膝から崩れそうになる。

  そのまま崩れ落ちないように、下半身をわずかに浮かせているだけで、必死である。

  やがて、我慢の効かない衝動に身体の奥から押されるようにして、フォックスは射精した。

  ウルフの掌、それから己と相手の下腹部の毛を、己の精液が、汚していっている。

  昇りきった快楽で焦点の定まらない頭で、フォックスはそれをなんとなく感じていた。

  射精が終わりきるまで、フォックスはウルフの顔の横に頭を埋めていた。

  完全に終わって下半身がへたりこんだ今でも、相手の耳元で、

  はぁ、はぁと、熱い息を繰り返してしまう。

  二度、精液を吐き出した。

  それでもまだ、欲望は治まっていない。

  すまない、ウルフ、もっと、…してくれないか。

  フォックスがそう言うと、相手にひたすら要求をし続ける己に対して、

  ウルフは楽しそうににやりと笑い、いいぞ、と言った。

  ウルフが己の横をするりと抜け出し背後へ回る。

  フォックスは両腕を顔の前につき、膝だけを立てて後ろからの侵入を待った。

  尻尾が上へするりと上げられる。その感触だけで己の身体がぶるりと震えるのが分かる。

  少し慣らそうとウルフの指が侵入してくる。

  そんなのはいいんだ、いいから早く、早くしてくれ。

  焦ったようにフォックスが声を上げると、ウルフが少しだけ鼻で笑った。

  まだか、まだかと待ち焦がれる気分で、フォックスがたまらなく高潮したとき、

  ウルフの怒張したものが、己の中に突き込まれてきた。

  うあああ、と大きな声が漏れる。

  ずっと待っていたそこの充足感は、予想よりずっと強くフォックスを襲った。

  腰を掴まれる。強く振られる。己の腰もそれに合わせて積極的に動く。

  一度、二度、揺すられ、ずくずくと中に当たる度に、

  フォックスの喉からは何度も高く鳴くような声が出てきた。

  普段の声帯を震わす声ではない、完全なケモノのサカり声だ。

  唸るようなそれは、快楽にあてられて、身体の底からどうしようもなく湧き上がってくる。

  凝縮された快楽に訳が分からない。いつの間にやら涙さえ流している。

  自分は今、犯されているのだ。ウルフに、自分から、犯してもらっているのだ。

  それを強く意識すると、フォックスの中で、恥が快感に変わっていく。

  *

  ウルフは、泣きながら喘ぐフォックスを見て、己の身体の奥が更に興奮していくのを感じていた。

  凄まじい乱れようだ。ここまでのタガの外れ方は、普段の彼からは全く想像できない。

  そんな彼を相手にし、己が彼を更に乱しているというだけで、

  フォックスにひたすら奉仕し続けるだけでも、ウルフは十分に愉しんでいた。

  後ろから犯しながら、ウルフはフォックスの背中に乗りかかった。

  鼻先をフォックスの肩下に押し付ける。

  薄茶色の毛の中で充満した汗の匂いを嗅ぎながら、身体全体で奥へ奥へと強く圧迫する。

  快楽のあまり叫び出しかねないフォックスを、一度胸から鷲掴みに抱いた。

  それから汗と精液で濡れた腹の毛をなぞりながら手を下降させ、フォックスの性器を握る。

  だらだらとすっかり濡れたそれを、同じくぬるぬると濡れた自分の手で、激しくしごいた。

  フォックスの身体が激しく痙攣した。己の胸の下の身体が、張り詰めながらびくびく震えている。

  手の中の性器が精液を勢いよく放出し、暴れまわっている。

  高く長く喉から唸りながら、何にも邪魔されずに、フォックスはひたすら己の快楽を身体全体で味わっている。

  そんなフォックスを抱き、遠慮なくぎゅうぎゅうとしまるフォックスの中で、

  ウルフもどうしようもない快楽を実感し、そのまま思い切り精液をぶちまけた。

  自分の熱い迸りを中に当てるようにぶつけてやると、フォックスの身体がまた痙攣し出した。

  ****************

  後仕舞もそこそこに、ウルフはフォックスの腕を掴んで、自分の方を向かせた。

  何度も欲情を吐いて一応は落ち着いたのだろう、合わせる顔が見つからないのか、

  フォックスはなんとも言いがたい表情を顔に張り付かせている。

  「なんだ、なんでお前は、そんなに落ち着いているんだ、ウルフ、

  普通、この季節は、俺みたいに、…その、どうしようも、なくなるだろう」

  ウルフが何かを言う前に、先にフォックスから細切れに文句を投げられる。

  冷静さを取り戻そうとしながらも結局あわあわとうろたえを隠せない相手は、

  先ほどまでの淫らに積極的に乱れ狂っていた本人とも、

  すっかり目が醒めすっきりと覚醒した己とも、実に対照的である。

  「……まあ聞け、フォックス。

  俺は、お前よりは多く生きているし、経験もある。

  そういうものはある程度コントロール出来ないこともないんだよ。

  …いやそれにしたって今回のお前のは行き過ぎだと思うが。

  いや俺は別にそれでも構わないんだが」

  「…な、

  なんだよ、何なんだよそれ、どういう意味だよそれ全部」

  言われていることが何一つ納得出来ないのか、

  フォックスが眉を寄せながら口をパクパクと動かしている。

  まだ何か文句を垂れるつもりなのだろうか。

  「ああ、それよりお前、あまり俺の心臓に悪いことをするな」

  「はあ?」

  目を尖らせたキツネの睨みと呟きを受け流しながら、ウルフがふと思い出したように言うと、

  なんのことだとでも言いたげに、フォックスがますます顔をしかめさせた。

  憮然とした目の前の面持ちに、ウルフも呆れながら相手を見返した。

  「……寝ていて気がついたら、いきなり散々に口を舐められている。

  しかもその相手は、お前だ。普段はクソ真面目な、スターフォックスのリーダー様だ。

  そいつが俺の口を、びっくりするほどいやらしく舐め回している。

  唐突すぎる。俺はしばらく何が起こっているのかさっぱり分からなかった」

  「あ、ああぁ……」

  我を忘れきっていた自身をまた思い出したのだろう、

  不満げな呟きは消え、己を睨んでいた目線はバツが悪そうに泳いでいった。

  でもとか、それはとか、しどろもどろながらにまだ話を続けようとするフォックスが面倒臭くなって、

  ウルフはその顔に向かって手を伸ばした。

  頬を横に大きく引っ張られて、フォックスが不細工な顔になる。

  「普段抑制しすぎているからそんなことになるんだ、お前は、フォックス。

  今度からきちんと言えば俺はいつでも相手をしてやるから、もう何も言うな。俺も何も言わん」

  ウルフは返事を待たずにフォックスの顔を限界まで横に引っ張ってから手を放した。

  その後頬をさするフォックスからかけられた文句は、痛いじゃないか、という一言だけだった。

  [newpage]

  2.

  フォックスは眠ったままうなされていた。

  身体が重い。何か大きなものが己の上に堂々と乗っかっている。

  なんなのだ。

  無理やり覚醒させられ、あまりいい気分ではないまま、手をそれに伸ばした。

  掌に触れたのは、ざわざわとした毛並みである。

  「……おい、ウルフか?」

  「あ?ぁあ…フォックスか。

  済まん、お前が起きないから少し寝てしまった」

  ウルフがもぞもぞと己の上で動いた。手をつき、頭を軽く横に振っている。

  上からはどいてくれない。

  「意味が分からない…部屋を間違えたのか?」

  「そういう訳ではない」

  「……酔っているのか?」

  「シラフだ。まあいいからお前今から俺に身体貸せ」

  「はあ?」

  言ったと同時に服を脱がしにかかられた。

  「ちょっと待て!いきなりすぎだろ!」

  慌てて抵抗すると、ウルフが心外だと言わんばかりに己の腕を掴んだ。

  負けてはいない、フォックスもウルフの腕を掴みかかる。

  目が合った。

  「俺は別にいきなりじゃない。 起きるまで待った。宣言はした。

  順序を踏んでいるぞ、俺は」

  「俺に何か言いたいのかそれは。…いやそういうことじゃなくて!」

  ウルフは、冷静そうな声とは裏腹に、目が血走っている。

  それが獣としての習性から来ているものだと、フォックスはすぐに理解した。

  今日はお前か。

  「いいから落ち着け、ウルフ。お前言ってたよな。

  別にそれ、コントロール出来るんだろ?」

  「……出来るがしたくない」

  「ふざけるなよ!」

  「いいから黙れ、フォックス」

  ぐ、と腕を持つ手に力が込められ、軽く睨まれる。

  「俺はあのときお前に付き合ってやった、

  だからお前も俺を受け入れるべきだ、そう思うだろ?」

  そう言われると立つ瀬がなかった。

  その件に関しては、自分はウルフに弱みを握られているようなものだ。

  しかし何故そんな真剣な口調で言う…。

  フォックスは口をつぐまされ宙ぶらりんの気持ちのままウルフの腕を掴んでいた。

  それを軽く払いのけられ、あっという間に服を剥がされる。

  じゃあ俺が突っ込んでやろうか、前と逆の立場なんだから…、

  そんな台詞もチラリと頭をよぎったが、ウルフの妙な迫力に、とてもじゃないが言い出せなかった。

  まあいい。とりあえず目は覚めたから、対応は出来る。

  すぐに口を舐め回される。

  その舐め方がまたいやらしい。

  唇の内側に舌を入れられ、歯列を舐めあげられ、外側ばかりをなぞりあげられる。

  それは劣情からというよりは、以前のフォックスを真似してからかっている動きである。

  ずいぶんと余裕のあることだ。発情しているくせに。

  腹が立つやら悔しいやらで、己は思い切り反応してやった。

  噛み付きかねない勢いで舌を受け入れる。己の口の中で互いの唾液が混ざり合う。

  無理やりでも口中に引き止める。俺はとうへんぼくだったお前とは違うんだ。

  …なんだか乗せられている気もする。

  一通り舐め終わって満足したのだろう、ウルフが己を後ろに向かせ、そのまま背後へ回った。

  はあ、と待っていると、いきなりウルフのモノがそこに宛がわれて、

  フォックスはぎょっとした。

  「ちょっと待てよウルフ。…少しは慣らしてくれ」

  「前はいきなりでも大丈夫だった」

  「……頼むからもうそれ持ち出さないでくれよ!」

  「あれだってお前だろうが。……ああもう面倒だ、やりたきゃ自分でやれ」

  「は?」

  言われていることがよく分からなくて、フォックスが聞き返すと、

  ウルフが待ちきれないようにイライラと言葉を続ける。

  「やりたいなら自分で慣らせと言っている。でなきゃ俺はこのまま突っ込む」

  なんてことを言い出すんだろう、こいつ。

  けれどもその間にもぐんぐんと後ろから迫ってくる。

  「……分かった。分かったから、無理矢理押し付けないでくれ」

  本当に仕方がない。

  フォックスが後ろへ手を伸ばして相手のそれを払いのけ、少しずつ指で己を触り始める。

  するとウルフが後ろから身体を無理に掴んで、そのまま力任せにフォックスを反転させた。

  座り込んだウルフの身体に向かって全身を思い切り突っ込ませられる。

  相手の腹毛の中にぶわりと顔を押し付けさせられたかと思うと、

  そのままフォックスは頭をウルフの下半身に下降させられた。

  何故己はこんな器用なことをしなければならないのだろう。

  牡臭い匂いを口いっぱいに味わいながらフォックスは思った。

  口の形が形なので、ほぼ直角にウルフの性器を咥えさせられている。

  顎は開きっぱなし、涎がだらだら垂れていく中で、

  己の厚い舌だけを使って上下に愛撫しなくてはならない。

  もっとひどいのは同時に己も相手にしなければならないということだ。

  胡坐をかいて座り込んだ相手の股間に顔を突っ込み、顎を支えられ、

  片肘をついた四つん這いの亜種のような形で、己の手指を自らの尻へ回している。

  これから犯される為に自分で自分の入口を広げさせられるとは。たまったものじゃない。

  今の己の全身図を客観的に想像して、フォックスは泣きそうな顔になった自分を思った。

  これを上から見下ろしているウルフはきっとそれが全部見えている。

  尻尾をバタバタと振って「見るな!」と強調してみた。

  多分無駄なことだ。

  いっそ尻尾はだらりと足の間に下げ入れて、己を弄る指を隠してしまおうか。

  …それはそれで怯え屈服しているようで面白くない。

  全てあのときの自分が悪いのだろうか。

  いや違う、俺は悪くない、こいつが悪い。

  いつまでもあれを引きずってこちらをすかし脅し辱めて言うことを聞かすこいつが悪い。

  そもそもあのとき何故己はこいつを相手に選んでしまっていたのだろう。

  あのときの自分は何を考えて…

  クソッ、またあの色狂った自分を思い出してしまった。

  ウルフがこちらを見て笑っている。

  結局は従順なこちらが愉快なのだ。

  クソ…畜生!

  急に歯を立て口の中のものに思いきり噛みついてしまいたくなったが、流石にそれは後が怖い。

  フォックスは喉の入口が拒否したがっているのをなんとか我慢しながら、

  ぬるぬるとした口の中で舌を動かし続けた。

  同じように指も己に向かって突き動かす。

  二本、三本、入れてみるが、こんな体勢では結局奥までは指が届かない。

  もういい、適当にしておけば後はなんとかなるだろう。

  「ウルフ、もう…大丈夫なんだけど」

  「入れてくださいは?言えよホラ」

  「ッお前が入れたがってんだろ!俺はどうでもいいんだはっきり言って!」

  投げやりな自分の言葉に、ウルフがカチンとしたのがフォックスにも分かった。

  けれど、そんなこと知ったことじゃないと思った。

  さっきからずっと、勝手なことばかりだ。

  本来ならば入れさせて下さいと頭を下げろとでも言ってやりたい。

  しかし相手は全くそういう気持ちではないようである。

  「お前…この俺様に向かってそんなこと言えるとはいい度胸だな」

  「なんだよ……別にいいじゃないか、事実だ」

  「事実じゃねえ」

  「事実だろ!」

  フォックスが声を張り上げると、ウルフが己の身体を振り払うようにして立ち上がり、

  ずかずかとフォックスの後ろへ回っていった。

  己もすかさず立ち上がろうとしたが、

  四つん這いのそれから立ち上がるにはどうしても一歩遅くなる。

  もう間に合わなかった。

  腰を力任せに掴まれ寄せられ、下半身を身動き取れなくされてから尾を上へどかされる。

  何か嫌な予感がして後ろを振り向く前に、思い切り性器の根元を握られた。

  「な―――ッぐああああああッ!」

  そこを強く握り締められたまま、いきなり一気に挿入された。

  ぞんざいにしか慣らさなかったそこへ一息に硬いものを突きこまれ、

  全身の毛穴が開くように己の毛が逆立った。

  熱い、痛い、焼け付くようだ、たまらない。

  気持ちいいとか性感だとかそういうものは一切飛び越している。

  しかも性器は思い切り握り締められたままだ。

  そのままで、ウルフは無理やり抽迭を開始しようとし始めている。

  どうやらこちらへの快楽を一切否定し拒否させるつもりのようだ。

  冗談じゃない。快楽はともかく、それ以前に痛いのだ。

  放せ、と言おうした瞬間に、にじゅりと一度大きく抜かれ、また強く奥まで挿れられた。

  思わずフォックスは大きく呻いた。本当に、たまったものじゃない。

  奥に入られる度に性器が根元からきつく締め上げられる。

  その度に身体の中心がぎゅっと縮こまる思いがする。

  その握る指の力が少し緩められ、かと思うと、

  中に入るのと同時に勢いづけられて一気に握られる。

  何度もそれらを繰り返される。身体が痛みでぶるぶる震える。ウルフが笑っている。

  太ももの毛が上のほうからたらたらと熱く湿っていく。

  きっと血だ。己の血が流れている。

  己のそこは無理やりこじ開けられて力いっぱい拒否しているのだ。

  性器は握り締められていて痛い。きっと充血して真っ赤だ。とにかく痛い。張り詰めている。

  なのに、ウルフの動きからは一切それらへの考慮は感じられない。

  フォックスは悟った。こいつ力加減を全く考えていない。

  自身のいらつきのまま衝動のままこちらの身体を痛めつけている。

  このままでは真剣に、生命レベルで危険だ。

  性行為とは別のところで、フォックスの背筋が寒くなった。

  「ちょっとウル」

  「うるせえ」

  駄目だ、聞く耳を持っていない。

  なんとかしなければ、そう焦ったとき、ウルフが背中にぐっと抱きついてきた。

  身体ごと押し付けられる。そのままウルフの奮えが伝わってきた。

  フォックスはどうすることも出来ずに、己の性器をびくびくと握り締められながら、

  中に精液を吐き出されていった。

  これで、終わった、とりあえず…。なんとかおかしなことにはならなかった。

  フォックスは思わずほうと安堵のため息をついた。

  が、すぐに己の中から出て行かないウルフに気がついた。

  それどころか、またむくむくと体積と硬さを増していっている。

  「おい、ウルフ…?」

  「俺が」

  そこでウルフは一度一息つくように間を空けた。

  それからもう一度改めて腰を掴まれる。フォックスの身体がぎくりとする。

  「これで終わる訳ないだろうが。

  というかお前が素直になるまでやり続ける。このまま終わってたまるか」

  「ッ!お前、いいかげ、うわ、っあ」

  また動きだした。信じられない。こちらは押さえられ続けているのだ。

  だいたい素直ってなんだ。この間言っていたきちんと言えってのはそういう意味だったのか。

  俺はいつでもお前へ尻尾を振れと?いつでも交尾を求めろと?

  冗談じゃない。何考えてるんだ。俺をなんだと思っているんだ。せめて対等だろ。

  フォックスの頭がぐるぐると回っているうちに、

  すぐに回復したウルフによってまた己の身体が支配され始める。

  「ウルフ、待てって、俺はもう」

  「オラッ!あァ?どうして欲しいんだ!?」

  また奥まで力任せに突かれる。

  うわあああ、と大きく叫ばされた。もちろん性器も力任せに握り締められている。

  完全に人の話を聞く耳を持っていない。しかも身体も思い切り固定され、逃げられない。

  「あァ、なんだ!?言わないとこのままだぞ!」

  「うぁッ、あッ、うあああ、ッ、ッ!」

  痛いとかそういうことより、今度は律動によって喋ることが出来ない。

  こんな動きの中でまともに話せる訳がない。

  こっちにやらせたいことと本人がやっていることが完全に矛盾している。

  こいつ完全に頭に血が上っている。本当にもう…。

  「ごめ、ごめんッ、ごめんウルフ、ぐあッ、うあああッ」

  とにかくフォックスは必死に口を動かせ、謝った。

  もうなんだかよく分からなかったが、謝るしかないと思った。

  「とっとと言えよこの野郎!面倒かけんな!」

  ガシガシと物凄い勢いで腰を打ち付けられる。何を、何を言えばおさまるのだ。

  「だ、だから、ッえっと、俺も、俺もしたい、俺もイきたいってッ!」

  「ハァ?何だッ?もっと言えよ!」

  「だから、俺も、っイきたい、お前としたい、やりたい、手を放してくれッ」

  「だからッ?なんだって!?」

  「まだ…!?だ、だから……ッ!」

  「ッ頼む、ウルフ、お願いだ、もう、頼むよ、もう駄目なんだッ」

  「はァッ?ナニがッ!?」

  「だから…、……ッ、ッ!」

  下に俯きながらフォックスは必死にウルフに恥ずかしいことを言い続ける。

  だんだん意味が分からなくなってくる。

  悔しいことに少しずつ、己の身体の中に痛みだけでないものが生じてきている。

  本当は言わされている通りなのか?俺は本当に求めていたのか?

  いや違う。これは命の危険を回避しているだけだ。

  股間を締められ後ろは何度も犯され口は辱められているこの状況で、

  何よりも優先すべきはプライドより快楽より身体の安全だと決めただけだ。

  だからこんなこと言うのは仕方ないのか?

  いや違う。だっていつの間にか己は本当にイきたがっている。

  けれどはちきれそうなペニスは未だ強く根を握られていて、

  本当は射精したいのにどうすることも出来ず、ますます痛くなっていく。

  突かれ続ける後ろだってもうずっと熱くておかしくてたまらない。

  いや違う。全部違う。もう何がなんだか分からない。

  どうでもいいからもう早くどうにかして欲しい。

  「言えよッ!ナニが駄目だってッ?あァ!?」

  「お、俺の、が、ッ痛いんだ、あ、いや違う、もう、イきたいんだッ、放してくれッ」

  「あァーッ!聞こえねえなあッ!」

  「嘘つけ、聞こえてるだろッ!ッうあ、あうう、分かった、分かったよ、

  俺も、イきたい、入れて欲しい、もう限界だッ!

  本当、だから、ごめん、入れてくれ、やって、ッしてくれよウルフッ!」

  「ッ最初からそう言え!」

  もう入れてやりまくっているじゃないか、わざわざ言わせて何様のつもりだ、この野郎、大馬鹿野郎、

  そんなことは迫力負けして口には出せず、

  胸の中で叫ぶだけでフォックスにはいっぱいいっぱいだった。

  けれどなんとか、助かった。やっとこのおかしな状況から解放される。

  ウルフがようやく無理やり突くのをやめ……ない。

  「ちょっと待てって!このままだと俺、本当に」

  激しさに死んでしまう。そうでなくとも不能になる。

  「ァあッ、ほら、手は放してやったッ!

  お前がしろって今言ったんだろ!やめる気はねえ!」

  「そんな、あ、ッああーもう嫌だッ!ぐ――ッ!」

  「何が嫌だッ!さっきからッ、こんなぐっちゃぐちゃじゃねェかてめえは!」

  ウルフがフォックスの濡れた太ももを下からわしわしと撫で付けた。

  さっきたらたらと湿っていったところだ。いつの間にかだらだらになっている。

  それは血だろ、とフォックスが言う前に、ウルフがその手で己の口元を押さえつけた。

  その匂いがフォックスの鼻元に広がる。思わず眉が寄った。

  これ、血じゃない。

  というか、………。

  信じられなくて耳が逆立ちぶるぶると震える。

  それは、己の血ではなく、己の…、いや、相手の…?でも、タイミングからいって…?

  それは精液であった。

  血やら汗やら他のものも多少混ざっていたが、確かに精液の匂いと味であった。

  押さえられていたのに、何故?…痛みの中でいつの間にか、出していたのか…?

  しかも、自分のものなら、もしかしてかなり最初の方で…?

  なんで、俺、そういう時期過ぎてたはずじゃ、本当に、なんで、こいつ相手だと…だから…?

  フォックスがよく分からない間に、その指が己の口中に入り込んでくる。

  だらだらした指で舌を挟まれ舌上をぐにぐにと押さえつけられる。

  うえ、となったが、逆らえなかった。正直、もう逆らいたくなかった。

  「オラッ、もっと言えよ!どうなりたい、あァ!?」

  「うあッ、イ、うう、ひあッ!

  イ、イひたッ、イひたいッ、イかせてッ、うわあ、あああッ!」

  舌を押さえつけられながら繰り返し言わされ続け、そのままフォックスは射精させられた。

  ウルフも同じように中で射精している。何度目だ。もう全部がどろどろだ。

  その後もそのまま長い間、フォックスは連動して口と後ろを犯され続けた。

  ***************

  「……痛い」

  お互い落ち着いた頃には、もう朝方だった。

  フォックスは座り込んでいた。正確にはうずくまっていた。

  身体はもう動かせないほど疲労が溜まりきっているのに、

  痛くて腰がしっかりと下ろせないのだ。

  「……いや、なんだ、その……済まん」

  ウルフが謝りの言葉を口にしてくる。

  じろりと睨むと、申し訳ないのか何なのか、相手はむすりとよく分からない顔になっている。

  「……何がコントロール出来るだ。嘘ばっかりじゃないか」

  「嘘ではないんだがな…しなかっただけで」

  「しろよ。しなかったじゃないよ。俺が死んだらどうするんだよ。

  …死ななくても病院にでも運び込まれてみろ。どっちのチームにとっても大恥だ」

  「流石に俺もそこまでは、しないと、思う」

  「思うで殺されたり取り返しがつかなくなったらこっちは堪ったものじゃない。

  俺は命も男も捨てたくはないんだ」

  「………」

  己の言い方に、ウルフは少し黙った。

  構わずにフォックスは続けた。

  「もうこんなのはこりごりだ俺は。命の取り合いは戦場だけにしてくれ」

  「……全くだ。同感だな」

  「分かったか。……分かってくれればいいんだ」

  殊勝な返事をする相手に対しうっかり頬が緩み、フォックスは安堵の笑みを投げかけた。

  ウルフがにやりと笑った。

  「次からお前が早く折れれば何の問題もない」

  「……いい加減にしろ。俺はもう二度とスターウルフとは組まない」

  「それは結構な話だな。

  お前がそれで満足出来るなら好きにしろ、フォックス」

  「………………」

  鼻で笑う相手に、今のフォックスには出来るとも出来ないとも言い出せなかった。

  チームの事情もあるし、やはりどうしてもその、己の事情もちらつくのだ。

  結局はまた俺が何も言い返せなくなって終わるのか。

  フォックスは口の中で小さく、馬鹿野郎と呟いた。

  [newpage]

  3.

  ウルフの身体の上に乗っていた。

  自分から誘いに来たくせに、部屋に入ってくるなりずるずるとベッドへ連れて行った癖に、

  いざ行為が始まると、陸に上げられたマグロのように、ウルフは動かない。

  仕方なくフォックスはやる気のないウルフの上でいろいろと試みてみるのだが、どうもいまいち盛り上がらない。

  ウルフの冷たい鼻を舐め、首筋を舐め、そこから下降し徐々に下半身へ行く。

  ウルフの性器を陰茎嚢から取り出し、そのまま舌でぺろりと舐める。

  腿に手をかけながらそのままべろべろと舐め続ける。

  ウルフは動かない。性器の反応だけは正常であるが。

  本当はこちらも触って欲しいのだが、

  まさか己から性器を取り出し、それをしてくれとは、フォックスは言い出せない。

  なんだかだんだんと面倒くさくなってきて、フォックスは顔を上げた。

  己の頭を眺めていたウルフと目が合う。

  舌を引っ込めると、喉の奥に苦い匂いが広がった。

  「おい、俺にばっかり働かせるな」

  「たまにはいいじゃねえか」

  「……いつもじゃないか?よく考えると」

  「ンなことねえよ。まあいいだろ?」

  どうもこいつにはのらりくらりと己の言い分をかわされる。

  「俺は疲れているんだ。もうお前がやってくれよフォックス」

  「…なんかお前、もう若くないんだな…」

  「ァあ!?なんか言ったか!?」

  ため息交じりの老けた台詞を揶揄してやると途端に激高したような声が飛んできたが、

  そんなことは知らないとフォックスは思った。

  自分は感じたことを言っただけだ。

  けれどウルフは声を張り上げることは出来ても身体を動かす気は未だないようで、

  仕方がなくフォックスはそこから一度降り、寝そべって互いの股間に向きあうように身体を下ろした。

  俺のも触れ、とさりげなく場所取りをする。ウルフの手がそこに触れた。

  手で慰め合うだけで今日はもういいと多分お互い思っている。

  己の股間にも少しずつ快楽がやってくる。

  ようやくフォックスの心も盛り上がってきた。

  気付かず己の指と舌遣いも相手を急かすようになっていく。

  緩やかな快楽だったが、それでも、暖かいウルフの舌は気持ちよく、心地いい。

  怠惰に流れていく生暖かい時間が快い。

  けれど、このまま気持ちよくなって、互いにイって、イかせて、いつものようにこれでおしまい、と、

  それでいいのだろうか、と、フォックスはふと思った。

  俺とこいつっていったい何なのだろう?

  急に沸いてしまった小さな雑念は、昇って行こうとしていた快楽をさりげなく阻害してくる。

  イきたいけど、気分が乗らない。熱くなりたいのに、熱くなりきれない。

  やはり今日は何かがおかしいなと、そう思いながら、フォックスは口を離した。

  「……ウルフ」

  「なんだ?挿れて欲しい?」

  「ッ違う!」

  お前の頭にはそっちしかないのか、と悪態をつくと、

  違う、お前の頭にそっちしかないのだと思ったんだ、と失礼な返しをされた。

  「……なんだか俺は、もうお前が分からなくなってきたんだ、ウルフ」

  「なんだいきなり。

  …別に俺はお前に分かってもらおうなんざ思ってねえんだが」

  「ッなんだそれは!」

  思わずかっと熱くなってしまった。

  「……分かったぞ。

  俺はお前が、俺のことばっか分かってるみたいな口きくのが腹立つんだ」

  口にしてみてフォックスは初めて気づいた。

  自分のことはいつも棚にあげて、いつでもこちらを見透かしているような相手が、

  己は常々気に食わなかったのだ。

  手を止め完全にそれをやめてから、少し冷静な口調に戻した。

  「よし、ちょっと、今から俺の聞くことに答えてみろよウルフ」

  ウルフが変な顔をした。いや、見えないが、きっと変な顔をしている。

  「嫌だ。 ……分かった、早くしろ」

  モノを持っている手に力を込めていったら、渋々承諾した。

  それでも心底どうでもよさそうだが、問い始める。

  「そうだな…名前は?」

  「そんなことも何故知らない?ウルフ・オドネルだ」

  「…一応確認だ。じゃあ年齢は?」

  「忘れた」

  「出身の星は?」

  「知らん」

  「家族は?」

  「どこかには居るんじゃないのか」

  「お前まともに答える気ないだろ…。

  スターウルフの次の仕事は?」

  「お前、スパイにでもなりたいのか?俺に身体売って」

  「やらしい言い方するなよ!

  …じゃあ俺の父さんとの関係は?」

  「……てめぇそれ以上聞いたらぶっ殺す」

  一番気になっているのに。

  まさか己とのような関係ではないと思うが。

  「俺それどうしても気になってるんだけど。父さんのことは、ずっと」

  食い下がるフォックスに向かってウルフが身体を曲げた。

  「おかしなこと聞きやがるのはこの口か?ぁあ?」

  「んむむむッ!んッ!んんッ!」

  鼻を口ごと両手で包まれるように掴まれ、そのままぎゅううと握力をかけられた。

  無理やり歯を噛み合わさせられる。痛い、痛い。

  やめろと言う代わりにウルフをボンボンと殴り、手がぶつかった場所の毛を引っ張った。

  手が放され、ため息が聞こえる。

  「で、どうするんだ。続けるのか?やめるのか?

  せっかくの興を削いでくれやがったお前はどうしたいんだ?」

  「…………。……続ける」

  フォックスは小さくもごもごと答えた。

  話を紛らわされたのは腹が立つが、そもそも行為を紛らわせたのは己であるが、

  それはそれ、これはこれ。

  やはり一度始めた以上は最後までしておきたいのだ。

  ごまかされたというのに、フォックスは目の前の、すぐに手が届く怠惰な快楽に逆らえなかった。

  互いに萎えかけたモノを、互いにもう一度奮い立たせるように手を伸ばした。

  [newpage]

  4.※ウルフ×フォックス → ファルコ×ウルフ

  いつものごとく、二人で裸になって行為に没頭していた。

  今は己がウルフの性器にむしゃぶりついている。

  フォックスは、ウルフ相手にそういった行為をすることに、かなり違和感を覚えなくなってきていた。

  生理的には未だに嫌だが、精神的にはそこまででもない。

  頭を撫でられ耳を捕まえられ、それはやめろと時々手で払いながら、

  それを続けていると、突然思いもよらないことが起こった。

  「何やってんだ…てめえら!」

  「…ッう、あ゛……!?」

  考えてもいなかった声の出現に、フォックスは喉から呻いた。

  己の後ろから、声がした。よく知っている、声だ。

  急にフォックスは頭の中が真っ白になった。

  「見りゃ分かんだろファルコ」

  ウルフの声が頭上で飛んでいる。

  ウルフから見ればそいつは正面だ。己から見ればそいつは後ろに立っている。

  行為を見られたというのに身動きもほぼしないウルフは、

  どうして己よりずっと落ち着いていられるのか。

  だって、ファルコだ。そうだ、ファルコ……。

  ファルコ?俺の親友の、あのファルコ?

  どうしてここに?どうして?俺を見てる?今のこの俺を?

  だって俺は今裸で、ウルフも裸で、俺の口には今……。

  「てめえフォックスに何してやがる!」

  ファルコの怒鳴り声がぐわんぐわんとフォックスの頭に響く。

  ただでさえ回らない思考回路が余計に動かなくなる。

  ウルフが、己の頭を諭すように押さえた。

  「勘違いするな。俺は無理やりはさせていない。

  それに元はといえばフォックスからだ、これは」

  「そうなのかフォックスッ!」

  「…ッ!」

  何も言えない。ただ口にモノを留めたまま、ぶるぶる背を震わせるのみだ。

  己の尻尾が完全にへたり込んでいる。情けないことに耳だけが勝手に後ろの様子を窺っている。

  「分かっただろう。

  さあ、邪魔者はさっさと出て行け」

  己が今ひっ付いているウルフの身体の動きで、

  ウルフがファルコに向かって顎で扉を指し示したのが分かった。

  ファルコが勢いよく出て行った。きっと、ぎり、と嘴を強く引き結んでいただろう、

  「ふん、ばれちまったな」

  「う、うあ、…」

  口を離して上を仰ぎ見ると、ウルフは平常と変わらないような顔をして己を見下ろしている。

  「どうせ続けていればいつかはばれてる。別に関係ねえだろ」

  「………ッ」

  「それよりとっとと続きするぞ」

  へにゃりとなったフォックスの身体を、ウルフが支えた。

  フォックスの手が、力が入らないながらに、ウルフにしがみついた。

  ***************

  「で、なんだこれは」

  そう言った己の声が、ウルフ自身の耳の中でぐわりと響いた。

  殴られた影響がまだ残っているようだ。

  あの後、とりあえず行為をして、ぐったりとなったフォックスを自室に届け、

  己の部屋へ戻るとき、ウルフは後ろから思い切り頭を強打された。

  油断していたのだろう、そのまま意識を失い、気がつくと己の部屋に戻っていた。

  両手を締められベッドにくくり付けられて、だが。

  「俺達のリーダーになんてことしやがった」

  ウルフの上で青い頭をした黄色い嘴がわなないた。

  己に向かった目も声も、同じように震えている。

  これでもやっと抑制してやっているんだと言わんばかりだ。

  「だから、元はといえばあいつから俺に迫ってきたんだ」

  「嘘をつけッ!」

  「本当だ。…直接あいつに聞いてみればいいじゃないか」

  ウルフがふふんと笑うと、ファルコの赤い目元が更に怒りを露にした。

  「てめえ、許さねえッ」

  「許さないならどうするんだ、このまま俺を犯すのか」

  「その通りだッ」

  …本当か。それは少し予想外だった。

  「そんなことをしてどうなるんだ?」

  あくまで冷静そうな声をウルフは出した。

  本当に冷静なのかどうかは自分でも分からない。

  「あいつだけ、てめえにやられっぱなしなのが気に食わねえ」

  興奮を押さえ切れていないファルコの声が、うるさくウルフに跳ね返ってくる。

  顔をしかめさせながら、ウルフは、こいつらはなんでこう突拍子もないのだ、とこっそり思った。

  「…よく分からないな。

  というか、お前達は意味が分からない」

  思ったことがそのまま相手を舐めた口調でウルフの口から出ていく。

  それが相手をますます興奮させていくことは分かっているのに、

  己の斜に構えきった性は止められそうにない。

  「てめえが分かろうが分からなかろうがどうでもいいッ」

  案の定怒ったファルコによって、乱暴にガチャガチャとベルトが外されていく。

  先ほど使ったばかりのそれを見られても、ウルフにあまり羞恥心は沸かなかった。

  下穿きを全て剥ぎ取られ、ファルコがこちらの足を広げ、後ろに指を入れてくる。

  かなり無理やりだ。

  「おい、本当にヤるならローションでも使えよ、その辺にまだ転がってるだろ」

  「はァ?…そうだな、このままじゃ入りそうにねえ……

  って、おい、これもしかして」

  「さっきフォックスと使った」

  「………ッ!!」

  怒りでトサカが天をつくとはいい表現だな、とウルフは思った。

  ああ、それは怒髪か。でもこいつはどっちも同じだから結局は間違ってはいまい。

  呑気なことを考えていると、ファルコが蓋ごとそれを剥いて一気に逆さにした。

  「…ッ!おい、かけすぎだッ!」

  「うるせえ!こんなもの全部なくなっちまえばいいんだッ!」

  「次フォックスが痛がるだろ!」

  「ッてめえとフォックスに次なんてねえよ!あってたまるかッ!!」

  明らかに余分にずぶ濡れたそこを、ファルコの指が再び乱暴に動く。

  ぐちゃぐちゃという音が響く中、手を縛られたままのウルフは、天井を見るしかなかった。

  「……はァ。もう、いいだろ」

  「…とっととしろよ、トリ」

  それから無言のまましばらく続き、やっと準備が整ったようだった。

  ファルコが指を抜き、ごそごそとしている。

  待つというのはこんな気分だったか。久しぶりに思い出した。

  ぎゅうとファルコの硬いモノが己の中に入ってくる。

  そちらを使うのは随分と久しぶりで、感覚自体には慣れていたとはいえ、

  やはりウルフにはきついものがあった。

  自然と眉間に力が入る。吐息が漏れそうになるのをぐっと抑える。

  ファルコもつらそうに目を伏せ眉を寄せている。

  嘴から熱い息を吐いている。興奮で目元がいつもより赤い気がする。

  「…始まりはなんにしろ、お前が、フォックスをおかしくしたのは、間違いないだろ」

  挿入を終え、ファルコがゆっくりと動きながら、こちらを掴んで動かしながら、暫く閉じていた嘴を開いた。

  熱を孕む声を無理やりに冷静に抑えようとしているような、微妙な声色だ。

  「別にあいつはっ、何も、変わっちゃいねえ、よ」

  ウルフも同じような声で言葉を返す。

  「むしろ、性欲に素直になれる、うはッ、今の方が、っあ、本人にとっては楽じゃ、ねえのかっ?」

  声に自動的に吐息と喘ぎが混ざる。忘れていた感覚が思い出されていく。

  「ってめえが!あいつのこと言うんじゃねえよ!」

  がっと一気に奥に突かれた。衝撃に顎が仰け反った。

  身体が弓なりになりながら、上を向いている己の性器を何故か妙に意識した。

  腹の毛の上でそれはだらだらと透明な液体をこぼれさせている。

  己は突かれて感じているのだ。

  「てめえに、ッ何が分かるって言うんだ!あいつの、何が…ッ!」

  ファルコが短く鋭く言葉を発する度に、ウルフの内側が強く抉られる。

  その度にウルフの喉から、あまり聞かれたくはないような声が出る。

  一つに縛られた腕が突かれるのと同時に衝撃に動かされてしまい、

  その度に縛られている部分が食い込んで痛い。

  それでもこの拘束を外してくれと懇願するようなことはしたくないので、

  なるべくそれが動かないように身体の力を抜く。

  そうすると己の身体がますます相手の成すがままになっていく。

  動かされて腰の奥がきゅうとおかしな反応を示す。

  性器が互いの腹に圧されて毛に擦られ痛いほどに勃起している。

  けれど弄ばれ十分に反応している身体とは裏腹に、

  ムキになり続けるファルコの気持ちが、ウルフにはだんだんと分かってきた。

  「分かった、ぞ。っお前、フォックスが好きなんだろっ」

  「はァ!?」

  己に覆い被さっていたファルコの全身がしなり上がった。

  「な、ない、何言ってやがるんだッ!」

  「何焦ってやがんだっ、

  だからそんなに、うあッ、ぐッ、…俺に怒っているんだろッ」

  「ッそんなんじゃねえ!」

  急に無理やり激しく突き始めた。

  ウルフの言葉をやめさせようとするような動きだ。

  「…俺はただ!あいつが!

  俺達のリーダーがッ、お前におかしくされたのが許せねえだけだッ!」

  熱くなったり冷静になろうとしたり話しているうちにやっぱり熱くなったり、ファルコの声色がどんどん変わる。

  己の腰を掴む奴の掌の力がおかしくなっている。抽迭の動きも本能のままに激しくなっている。

  分かりやすい奴だ。

  「『俺の』、リーダーだろう。…全く、くぅっ、大変だなッ」

  「てめえ黙らねえとっ、このまま首絞めて息の根止めてやるぞ!」

  「そうなったらフォックスが悲しがるな……うおッ!」

  「ふざけんなッ!せいせいする、だろ!」

  ファルコの動きがどんどんひどくなる。

  もうお互いにくだらない言葉の応酬をし合う余裕などなかった。

  互いに快楽を求めて、互いの身体を貪りあう。

  腰の奥からやってきた何かおかしなものがどんどん大きくなっていき、

  ウルフの下半身を丸ごと包むように襲ってきた。

  身体がひとりでにひくひく動く。胸が電気を通されたようにガクガクと揺れる。

  気が付くと、己も相手も射精していた。

  ***************

  「大丈夫だぜ、俺達は身体だけの関係だからな」

  終わったあとで、ウルフはファルコの青い背中に投げかけた。

  向こうを向いてベッドに腰掛けているファルコは、

  気だるそうに顎に手をつき、考え込むような姿勢をしている。

  「……あいつはお前みたいに割り切れるタイプじゃねえ。

  身体も気持ちも一緒にくっついてっちまうんだよ」

  「じゃあてめえもあいつとヤれ」

  「だから俺はそういうのは望んでねえんだッ!ただ側にいれりゃいいんだよ!」

  ファルコが全力で振り返った。

  「……本音が出たな、…くくく」

  喉の奥から低い笑いが出た。

  我ながら嫌味ったらしい笑い方だ、とウルフは思った。

  「くッ…!とにかく、てめえは二度とあいつに近寄るな。…分かったな」

  低い声で凄まれ、ウルフはとりあえず分かったと告げた。

  どこも大変なことだ。こういうものが面倒だから気持ちの入れ合いは嫌なのだ。

  もちろんウルフにはフォックスとの関係をやめるつもりはない。

  今度こいつの部屋の隣でヤってやろうか。それを想像すると少し楽しくなる。

  企みを膨らませながら互いに少し休んだ後で、

  ウルフは思い出したようにファルコを部屋から追い出した。

  ――あいつはお前みたいに割り切れるタイプじゃねえ。

  身体も気持ちも一緒にくっついてっちまうんだよ。

  ファルコの言葉を、ウルフはもう一度思い返した。

  ……そうか、確かに、あいつはそういう奴だな。

  心の隅でウルフは少し考えた。

  [newpage]

  5.

  今回はやけに長引いているな、とウルフは思った。

  任務もさることながら、一人の相手と関係を持続させること自体がだ。

  任務の関係上とはいえ、相手と同じ場所、ひとところに留まっていることがまたよくない。

  己の側にあって己を受け入れるものに、うっかりと考えずに手を伸ばしてしまうのは、

  ウルフの悪い癖だった。

  今のその相手、フォックスとは成り行きでそのようになったはずなのだが、

  その成り行きはもうあまり意味のないものとなっている。

  本来は相手とどのような関係だったかを考えることも怠けてきた。

  ただ現在の関係だけがふわふわと己と相手の間に浮遊しているだけである。

  一度、二度だけだったはずが、どうしてこんなに長引いているのか。

  互いの相性か、性格か、まあ要因はどうでもいいのだが、

  問題はこれからどうするかだ、とウルフは軽く唇を尖らせた。

  右手で力強くフォックスの腕を引っ張りながら考えることではないのだろうが。

  乱暴な力に引きずられてフォックスがベッドの上の己に雪崩れ込む。

  何するんだ痛いだろ!と騒がしい文句が胸から聞こえる。

  そうして己の上へ飛び込ませて、相手の下肢を手早くまさぐる。

  性急な己の動きに、フォックスはやや戸惑うように起き上がるが、

  そのままウルフは己のしたいようにフォックスの身体を好き勝手扱った。

  元来は己はこうして性交をするのだ。

  相手を省みることなど面倒なだけである。

  フォックスの口が文句を連ねようと開きかけたので、相手の敏感な部分を刺激して喘ぎ声で黙らせた。

  その行為は卑怯だと眉をひそめて歪んだ緑色の目が訴えてくる。

  悔しいのならばよがってないで喋ってみろと、

  ウルフは毛の中をまさぐりながら挑発するように笑ってやった。

  どうやらフォックスは何も言い返せないらしい。

  悔しさを目の奥に留まらせたまま己の上で震えるフォックスを見るのは確かに愉しかった。

  そのまま尻を掴んで左右に開き、早急に己を下から捻じ込んだ。

  きつい。愛撫もほぼしていない。

  痛いと主張するようにぎゅうと締め付けてくる。フォックスがのけ反っている。

  それでも構わずウルフは突き上げ始めた。

  フォックスが身を捩じらせながら痛みをこらえている。

  気にせず己の欲望に従って突き上げた。ミリミリと、無理矢理に近かった。

  フォックスの途切れ途切れの声が喘ぎながら制止を訴えてきている。

  普段の自分ならばそこでしばらく待ってやったか、

  相手の性器でも刺激して痛みを緩和させてやったかもしれない。

  けれどウルフは今はそうはしたくなかった。

  今回は何もかも自分勝手に動かそうと思っていた。

  それでも徐々に感じるようにはなっていったのだろう、

  己の勝手な動きに対してフォックスが徐々に感応し始めていく様子を、

  いつの間にかウルフは観察するような気分で眺めていた。

  痛いやめろと言っていたフォックスの声が、次第に潤み、かすれ、意味のない言葉になっていった。

  俯いて表情を隠し快感に耐える茶色い頭と、

  それと一緒に視界に飛び込む、上向きに充血した相手の性器との対照が、何かおかしかった。

  そんなものを視界に入れながらずくずくと出し入れを繰り返し、

  フォックスがもう駄目だとぎゅうと抱きついてきたとき、ウルフは妙な違和感を感じた。

  俺は今自分勝手に動いていたはずだ。

  なのに何だ?結局最後にはそうなるのか?

  俺とこいつはこんな関係だったか?

  そんな微妙な己の違和感を全く感じ取らずに、フォックスがとうとう鼻先を押し付けてきた。

  己の鼻先も覆いかぶさってきたフォックスの首元に押し付けた。

  舌を出してその辺りをべろべろと舐めると、フォックスが口元まで舌を差し出してきた。

  それを受け入れて、互いに舌を舐めあった。

  口の中までフォックスの熱い息が入ってくる。

  ふと、まるで恋人のようだと思った。

  ぞっとしたウルフは、ますます乱暴に抽迭を強要した。

  フォックスががくがくと揺れながら必死にしがみつき、うああと鳴いた。

  別にフォックスは、己にしなだれかかってくる訳でもなく、抱きついてくる訳でもなく、

  口を開けば文句ばかりで、ふざけるな、お前は何様のつもりだなどと噛み付いてくる。

  それは何も変わっていない。

  けれど、何か違う。

  いつの間にこいつと俺の間にあった空気が変わっていったのか。

  お前、今日は部屋に戻れ。

  ウルフがフォックスを一瞥すると、フォックスはふと虚をつかれたような顔をした。

  けれどすぐに眉間に皺を寄せた顔に、ここは俺の部屋だ!と叫ばれた。

  そうだったか。すまん、間違えた。

  そんなことを言って出て行く自分に向かって、

  別にいいだろ、と声がかけられた。

  振り向いて周りを考えろと言うと、それはお前には関係ないと否定される。

  トリに見られたときの激しい動揺は、今は全くその目に見られない。

  やはり駄目だ。俺も相手も、これじゃ駄目だ。

  そのまま何も言わずにウルフは出て行った。

  [newpage]

  6.

  任務が終了した。

  長かったと言えば長かったのだろうが、戦争なんて大体こんなものだ。

  今回の仕事は大規模で、更に己たちはその中で少々特殊な役割を演じていた。

  だからこんな風に、普段は敵対しあっている組織との協力なんて奇妙な状況も、

  作り上げられていたのだろう。

  己のチーム、スターウルフが丸ごとしばらくスターフォックスの厄介になっていた。

  それもたまには刺激的だと、酔狂好きなうちのチームメンバーは、

  それぞれ思っていたのかもしれない。

  それももう終わりだ。

  報酬のチーム間分配の話し合いがついた後、

  会議の部屋からウルフはそのまま滑走路へ向かった。

  「待て、どこへ行くんだ」

  静かな戦艦の中を歩いていくと、己の機体が見えたところで、後ろから呼び留められた。

  無線機を通さない声もすっかり聞きなれた相手だ。

  振り返った。

  「どこって、戻るんだ」

  「俺はどうするつもりだ」

  「お前は俺の女か?フォックス」

  「違う!そういうことじゃない!」

  何のことを言われるのかの大体の見当はついていたが、やはりそれか、とウルフは思った。

  先ほどの会議での、少しでも多くの配分をと冷静に駆け引きを吹っ掛けてきたチームリーダーらしい姿とは全く違い、

  フォックスは急激に興奮し出している。

  見境がついていないように、毛も尻尾も逆立たせて、

  それは戸惑いというよりは、怒りそのものだ。

  「フォックス。

  お前には、チームも、恋人も、親友もいるだろ。

  俺は少しの間お前を借りてただけだ」

  「俺はそんなつもりだった訳じゃないッ!」

  フォックスが大声を張り上げる。

  誰かに聞かれてもいいのか、とチラリと思ったが、フォックスの様子は変わらない。

  「確かに、変な関係だが、おかしな始まり方だったが、それでも、俺とお前は関係があった。

  それをほったらかして、そのまま行くつもりか。

  …けじめとか、そういうものはないのか」

  「それはお前がそうしたいだけだろ。

  お前の都合なんて俺は知らん。俺はどうもしたくない。

  したいなら勝手に割り切って勝手にケリつけとけ」

  フォックスが拳を握り締めてぶるぶると震えているのを、

  ウルフは目を細くして見やった。

  無言が続きそうで、そのまま踵を返すと、フォックスの細い声が背中から聞こえた。

  「…お前と俺はなんだったんだ」

  振り返らずに答えた。

  「互いに持て余していた暇と欲を潰していただけだ」

  「なんだよそれッ!」

  フォックスの怒鳴り声が滑走通路内に響いた。

  他メンバーがいる艦内まで聞こえてしまうくらいの大声だ。

  そんな配慮は今のフォックスには全く頭から消え去っているのだろう。

  ウルフが振り向けば、フォックスは下を向き、全身に力を込めている。

  「ウルフ。

  俺は、気持ちのない相手とは、ああいうことは出来ない。続けられない。

  途中から、俺は覚悟した。お前は違うのか。お前は違ったって言うのか。

  …ファルコに、ファルコに見られたとき、関係ないって言ったのは、

  お前はただそのとき、俺の身体が抱きたかっただけってことだったのかッ!」

  俯いた後で見上げ真っ直ぐとこちらに向かってきた狐の目と声は、真剣そのものだった。

  それをウルフは正面から受け止めた。

  相手に気圧されたりはしていない。

  「……そうだ。その通りだ。

  俺はお前の身体が抱きたかっただけだ」

  「………ッ!

  なんで、なんでそんなことが平気で言えるんだッ!」

  信じてたまるか、違うだろうと、こちらを頭ごなしに拒否している叫びだ。

  「若いな、お前は。俺とは違うな、フォックス」

  「……そうやってお前は、また俺をバカにするんだな…ウルフ」

  最後まではぐらかそうとする己に、

  フォックスの強張った表情がますます頑なになっていく。

  己の頭を掌で横から押さえながら、長々と言うのは面倒だったのにな、とウルフは思った。

  「フォックス、違う」

  「何が違う!」

  すぐに条件反射のようにフォックスから言葉をぶつけられる。

  「いいから黙って聞け。

  フォックス、俺はお前をバカになんかしていない。

  お前は俺のものじゃないと言っているだけだ。

  お前は俺のものじゃない。俺もお前のものじゃない。

  そんなところに気持ちを乗せるな。そんな下手を打つんじゃない。

  俺も悪かった、ずるずるとお前に甘えてあんなことし続けていたのは謝る。

  けれど、冷静に考えろ。

  お前には周りにもっと気持ちを乗せるべき相手がいるだろ。

  お前の周りには、……いい奴らが揃ってるだろ。

  俺はそいつらとは違う。勘違いするな、俺は違う。

  俺とお前はどうにもならない。俺にそんなこと考えても無駄なだけだ。

  理解したか。いや理解しろフォックス」

  ゆっくりと、説くようにウルフは言葉を選んでいった。

  ふいに空気が激しく揺れた。

  己の言うことをじっと聞いていたフォックスが、握り締めていた拳を思い切り壁に叩き付けたのだ。

  ウルフは口をつぐんだ。どの道言いたいことは大体言い終えているから構わない。

  辺りに響き渡った凄まじい衝撃音で、耳がおかしくなる。

  空間ごと震わす音の中でも、互いに動きはない。

  いくつも壁の破片が落ちてきた。

  衝撃が収まった今でも、老朽化の激しいグレイトフォックス内は、まだパラパラとその余韻を残している。

  粉塵で視界が汚れた中、フォックスが口を開いたのが見えた。

  「…………勝手にしろ。勝手なことを言い続けろ!

  ウルフ。お前の言っていることは、

  結局、お前は俺なんかどうでもよかったってことだろ。

  それを、グダグダもったいぶって、理由をつけて。

  挙句の果てにはそれを全部俺のためだみたいに言いやがって!

  お前は何様のつもりだ。何をそんなに分かったみたいな口がきけるんだ?

  つまりお前は、俺の今の気持ちなんて、本当にどうでもいいってことだろ。

  そうだよな、この俺の気持ちは下手打ってるだけだって今お前は言ったんだからな」

  震えるような、しかし芯の通った、はっきりした声だった。

  フォックスが一度大きく息を吐いた。

  それから、もう一度こちらを真っ直ぐに向いた。

  「お前には俺への気持ちなんて全然ないんだよな。そうだろう?」

  「…………。……その通りだ」

  「……そうか。……そうだよな」

  ふっと空気が緩んだ気がした。

  諦めのようなものがフォックスの顔に滲んでいた。

  その顔を見たら、今の自分の言葉が嘘だったのかそれとも本当のことなのか、

  ウルフにもよく分からなくなっていた。

  「……俺が聞きたかったのはそれだけだ、ウルフ。

  初めから俺はそれだけしか聞いていない」

  「お前には、周りの」

  「他の俺の事に口を出してくれなんて誰が言った!」

  フォックスが吠えた。再び激高し、全身から怒りの咆哮を発した。

  「自惚れるのもいい加減にしろッ!お前に俺の何が分かる!

  ウルフ、お前はいつもそうだ!俺よりいつも上から物を言う!

  前にも言っただろ!俺はお前の、そうやって俺のこと見透かしているような態度に腹が立つんだ!

  俺はガキじゃない!お前が見下し続けているバカみたいなガキじゃない!

  俺はお前と対等でいたかった!

  対等でいたかったんだ!

  なのに、それは俺だけだったッ。

  お前は俺を、ずっとそういう目で、ずっと見続けて、見下して、バカにして……ッ!」

  噛み付きかかるようだったフォックスの怒鳴り声が、

  どんどん細く、不規則に震えていく。

  自分は余計なことを言ったのだと、ウルフは今更気付いた。

  「………泣くなよ」

  「っ誰がお前なんかに泣くものかッ!」

  弾けるように吐き捨て、フォックスが目をごしごしとこすっている。

  ウルフは思わず手を前に伸ばしかけたが、すぐにそれを戒めた。

  己がそれに近づくことは出来ない、と思った。

  「よく分かった。引き止めて悪かったな、ウルフ。

  ……俺はもう、お前の顔も見たくない」

  フォックスの、落ち着いた声での捨て台詞だった。

  それをウルフは黙って聞いていた。

  フォックスが己を見ずに後ろを向いた。

  もうこのまま艦内に戻っていくのだろう。

  しばらくそれを動かず見ていたが、最後に背中に声をかけた。

  「お前の親父だが」

  「……なんだ…ッ!?」

  フォックスがぎりと振り返る。

  「俺とは何もなかった」

  「何故今更そんなことを俺に言う!」

  「気にしているようだったからな。……言っておきたくなっただけだ」

  本当のことかどうかは関係なくな、とは、勿論言わない。

  互いに踏ん切りをつけるためには、そう伝えておけばいいと思っただけだ。

  ウルフはそのままウルフェンに乗りこんでいった。振り返りなどはしない。

  一足先にスターウルフのメンバー達は飛び立っている。

  操縦桿を握りしめる。減圧を開始する。

  スターフォックスとの共同戦線なんておかしな状況は、もう二度とやってこないだろう。

  フォックスはとっくにこの場から去っている。

  久々にチームメンバーだけで過ごす夜のことを、ウルフは考えた。

  頭や身体にまだ残っているフォックスの面影は、考えないようにした。

  気持ちなんてものは俺にはいらないのだと、いつの間にか呟いていた。

  そうだ。俺にそんなものはいらない。

  自分のも、相手のも、持て余すだけだ。

  けれど、あいつの周りにはそういうものはたくさんあるだろう。

  何故それが分からない。何故一時の感情に激しく突き動かされる。

  まともに考えろ。俺とどうにかなったらお前はどうなるんだ?お前の周りはどうなるんだ?

  状況も見えないのか?感情さえあればどうにでもなるとでも思っているのか?

  見下していただと?当たり前だ。お前は俺よりずっと若いんだ。

  お前達が辿っていきそうな道なんか俺には丸見えなんだ。

  お前は既にあるその道をずっと歩いていけばいいんだ。

  お前はお前、俺は俺だ。俺は俺で生きている。それだけだろう。

  なのに、全てを無視して、俺に真っ直ぐに交わってこようとしないでくれ。

  もういい。こんなこと考えたってもう今更だ。

  こんなこと本人に言う訳もない。

  その機会もない。あいつと直接会うことはもうきっとない。

  俺がそうなるようにした。

  もう全部終わったことなんだ。

  グレイトフォックスが見えなくなっていく。