-猪川 晴臣- 紫色した甘露の先に待つ黒い楽園 その1

  ☆

  「……ああ」

  僕は肩までどっぷりと湯に浸かると、目をつぶって大きく息を吐いた。

  それは僕にとって日常の一コマ。

  仕事帰りに近所にある行きつけの銭湯へ行くと、そのデカい湯船で一日の疲れを癒すのだ。

  ……僕のようないびつな猪獣人でも、それぐらいの至福の時間はあってもいいだろう。

  そんなことを頭に思い浮かべながら。

  ゲイの僕にとって、この銭湯は体の疲れを癒すだけではない。

  心の疲れも取り去ってくれる。

  ……この辺はドヤ街が近いからな。

  日雇いのガタイのいい兄ちゃんや、厳ついおっちゃんが入りに来ることが多い。

  その裸の身体や股間の逸物をチラ見しているだけでも、けっこう楽しいものなのだ。

  今日だって汗臭い牛人や、ぶっとい体のシャチ人が、洗い場で体を流している。

  僕はその裸を見ようと、湯船を出て少し離れた洗い場に腰掛けた。

  と……。

  「邪魔するで」

  僕の視線を遮るように、どっかりと隣に座る1人の男。

  ……せっかく見てたのに。

  眉をひそめながら上げた視線が、瞬時にその人に釘付けになってしまう。

  ……格好いい。

  それは、初老の虎人だった。

  ただでさえ大きな肉食獣人の中でも、頭一つ出ていると言ってもいいほど大柄なその男は、見る者に威圧感を与えるほどに分厚い体をしていた。

  筋肉と脂肪が層になったガチムチの体。

  きっと60は過ぎているが、まだ体を鍛えているのだろう。

  いや、日常的に使わざるを得ないような仕事をしているのか。

  威圧感を与えるのは何も体だけではない。

  その四角い顔からは、子供の頭なら簡単に呑み込めてしまえそうな大きな口と、そこから覗く太い牙とが獰猛さを感じさせる。

  そして、三白眼の鋭い目。

  もっともその右目は、大きな刀傷で覆われていたが。

  そう、男は隻眼だった。

  明らかにカタギとは思われない風貌。

  だが、僕のような性癖を持つ男にとって、目の前の虎人は、痛いほど刺さるのだ。

  「……」

  思わず見惚れてしまった僕に対して、にやりと笑ってみせる虎人。

  そんな姿もまた男臭くて格好いい。

  「あ、どうも……」

  とは言うものの、ぶしつけな視線を向けていたことに対してきまり悪さを感じた僕は、ごまかすように頭を下げた。

  いくら格好いいとは言えども、ヤクザのように見える男に絡まれたいわけではないのだ。

  だが、片目の虎人は、こちらを向いたままその口を開く。

  「……猪の兄ちゃん、男の裸に興味があるみたいやないか」

  隻眼の虎人は僕の耳元で小さく囁きかけるのだ。

  「えっ、いや……」

  僕が慌てると虎人は笑う。

  「いやいや、ごまかさんでもええ。その舐めるような視線で丸わかりやからな」

  「……」

  戸惑う僕にさらに言い募る虎のおっちゃん。

  「なあ……。わしなんかどうや?」

  「えっ」

  正直、タイプでしかない。

  「あの……」

  ごくり。

  僕は思わず唾を飲み込んでしまう。

  その仕草に脈があることがわかったのか。

  虎人がにやりと笑うと、僕の顎をしたからガシリと掴み、無理やり自分の方へ向けた。

  「よしよし。ほなおっちゃんと、スケベしようや」

  ☆

  僕の名前は、猪川(いがわ) 晴臣(はるおみ)という。

  猪人だ。

  体つきはご多分に漏れず、猪人に相応しい肉付きのいいぽっちゃりとした体をしている。

  49歳という歳の割には、だいぶ若く見えるせいか、相手してくれる人にはかわいがってもらえることが多い。

  それが何よりうれしかったりする。

  僕は『甘えた』なのだろう。

  幼少期の頃から孤児院育ちで、子供の頃に無条件に誰かに甘えるという事をしたことがなかったから。

  僕は両親の存在を覚えていない。

  というよりも、孤児院以前の記憶はほとんど残っていないのだ。

  なんでも、とある犯罪組織のアジトに警察が立ち入り捜査をかけた際、そこにまだ小さかった僕だけが残されていたのだとか。

  そこはいかがわしい悪魔召喚から、薬を使った人体改造まで、ありとあらゆる悪辣な事を行っていた組織らしく、きっと僕はどこからか攫われてきたのだろうと、警察官たちは話していたそうだ。

  そこでの経験は僕にとってよほどのトラウマだったのか、忘れてしまいたい記憶として、まるで頭の中で封印されてしまったように曖昧にしか浮かんでこない。

  だから両親の存在どころか、自分が誰なのかもわからないまま孤児院で育てられることになったのだ。

  この猪川 晴臣という名前も、施設でつけられたかりそめの名前。

  そんな経緯もあり、いつも心の底で誰かに甘えたいと思っていた僕は、気がつけばいかつい雄が好きなゲイとして育ってしまった。

  猛々しい雄に逸物を入れられることを望むウケになってしまっていたのだ。

  ……誰か1人に愛されて、雌にしてもらいたい。

  幸い実年齢よりもかなり若く見られるポチャ体系の僕は、それほど遊ぶ相手に苦労はしなかった。

  その関係が長続きすることは、少なかったが。

  ☆

  「なんや、坊主はもう49やったんか!」

  僕の歳を聞いて驚く虎次郎さん。

  そう、隻眼の虎人の名前は、関内虎次郎というらしい。

  年齢は63歳。

  貫禄があるから、もう少し年上だと思ったんだけど。

  その姿を見ればわかるように、元はヤクザだったらしい。

  かなりの地位まで上り詰めたようなのだが、極道に飽きてきっぱり足を洗い、今はカタギとしてドカタ仕事をしているのだとか。

  『いや、一生働かんでもすむぐらいの金はあるんやけどな。やっぱり人間、額に汗して働くのが一番やと気づいたんや。それに気取らないドヤの連中と一緒に過ごすのが楽しいてな」

  今まで住んでいた高級マンションを出て、わざわざドヤ街に住んでいる変わり者らしい。

  でも、悪い人ではなさそうだった。

  「しかし、30歳ぐらいやと思っとったわ」

  おっちゃんは雄臭い顔でがはがはと笑うのだ。

  ここは場末のラブホテル。

  銭湯で声をかけられた僕は、この厳つい虎人に誘われるまま、交情の場について来てしまった。

  お互いに裸になり、ベッドに腰掛けると、虎人はすでに自分のものだとでも言うように、僕のゆるゆるの大きなお腹を撫でさすりながらあれこれと聞いてくるのだ。

  「あの……若くないけど僕で大丈夫ですか?」

  気になって尋ねるが。

  「当たり前やないか。わしはなぁ、坊主の肉付きのええこのケツに、マラをがっつり埋め込んで、濃い雄汁をたんまり種付けしてやりたいんや。……自分はウケか?」

  「はい。タチをするのはあんまり好きじゃないから」

  「そりゃよかった。わしはタチ一本鎗でな。自分みたいにかわええ奴を掘ることしかできんからな」

  その言葉に、僕の心は震えてしまう。

  ……この人なら大丈夫かもしれない。

  淡い期待を抱きながら。

  「僕も……虎次郎さんに入れて欲しいです」

  熱に浮かされたような僕の顔を見て、にやりと笑ってみせる虎獣人。

  「おうおう、えらいかわいい事言いやがって。……わしの攻めは粘っこいからな。ひいひい悲鳴をあげさせたるで」

  ☆

  「あっ、あっ、あっ!」

  僕は快楽に満ちた悲鳴をあげる。

  虎人の体格にふさわしい、極大の肉棒。

  その竿の周りには細かな棘がついていた。

  それが抜き差しされるたび、まんべんなく、僕の敏感な肉襞を刺激するのだ。

  ぐちゃんっ、ずちゅんっ!

  「すごいぃぃぃっ!」

  「ええか? ここがええのんか?」

  その見た目通りに、虎次郎さんの交尾は荒々しいものだった。

  僕の服を剥ぎ取り、レイプのように無理やり押さえつけると、我慢汁の滴る逸物で、雌穴をこじ開ける。

  そして己の獣欲を満たすためだけに、ひたすら腰を振るのだ。

  だが、一見乱雑に見えるその動きは、確実に僕の感じるところを捉えていて、それがたまらなく気持ちよかった。

  執拗に繰り返される、荒く粘っこい抜き差し。

  それを恍惚とした表情で、僕は受け止める。

  目の前の猛々しい雄に、僕は体を使って奉仕しているのだ。

  ……ああ。

  汗と雄の匂い、そして加齢臭に包まれて、僕の心は満たされてしまう。

  ずるんっ、ずるずるずるずるっ!

  「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

  わななく肉襞を躾けるように、太い棘がぐりぐりとえぐっていく。

  その感触に、僕の目からは火花が飛び散ってしまうのだ。

  ……気持ちいい!

  その快感に身体がわなわなと震え、僕は思わずその大きな体にしがみつく。

  それを見下ろしながら、虎次郎さんは容赦なく腰を動かした。

  ぐじゅり、ぐじゅんっ!

  「ああっ♡♡!!」

  ゆっくりとしたロングストロークは、その棘の一つ一つを僕の肉穴に感じさせてしまうのだ。

  

  「晴臣、気持ちいいでぇ」

  満足そうな笑みを浮かべて、僕に囁く虎人。

  「この肉穴も具合ええやないか。わしの逸物をきゅっきゅっと締め付けおって」

  がちゅんっ、じゅるんっ、がちゅんがちゅんがちゅんっ!

  「んんんっ! ……だって、虎次郎さんのちんぽ、太くて気持ちいいから……」

  「なんや、かわええこと言ってくれるやないか。……なあ、晴臣。自分今、誰か付き合っとる奴、おるんか?」

  その言葉に、僕は首を振る。

  「そうか……。なあ、わしら付き合わんか?」

  「えっ……」

  「わしは自分が気に入ったんや。顔もかわええし、抱き心地のええ身体しとるし、何より吸い付くような雌穴がたまらん。晴臣みたいな上玉は手放したくないんや」

  「……」

  「どうや? わしと付き合ってくれんか?」

  僕の心の中は幸福感で一杯になる。

  ……この人だったら、ずっと僕と一緒にいてくれるかもしれない。

  いびつな僕のような存在とでも。

  「……はい」

  僕はこくりと頷いて見せる。

  「そうか!」

  パッと明るい表情に変わる虎次郎さん。

  「じゃあ、今日から自分はわしの嫁や。他の奴にこの体を使わせたらあかんでぇ。……そうと決まればいっぱい泣かせてやらんとなぁ」

  そう宣言すると、虎人の腰の動きが激しさを増した。

  がちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ!

  「んああああああああああああああっ!!」

  壊れてしまいそうな乱暴な抽挿。

  だが、その刺激はひたすら甘い快感へと変化して、俺の体を襲うのだ。

  がつがつがつがつっ、どちゅんっ、ごりごりごりごりっ、ばちゅんっ、ばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅっ、どちゅんっ、ごりごりごりごりっ、ばちゅんっ、ばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅっ!

  「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

  「どうや、晴臣。わしのちんぽは気持ちええか?」

  「気持ちいいっ!!」

  「そうかそうか。たまらんやろ、自分の雌穴も嬉しそうに震えとるで。……よしよし、いっぺんメスイキさせたる」

  ずちゅんっ!

  「ひぎぃぃぃぃぃぃっ!」

  それは熟練の技術なのだろう。

  まるでどうすればメスイキするのかわかっているかのように、虎人はピンポイントで僕の感じるところを打ち抜いたのだ。

  「んんんんんんんっっ!!」

  あまりの快感に、僕は歯を食いしばり体を震わせることしか出来ない。

  「おうおう、痛いほど締め付けてくるやないか。旦那のちんぽを食いちぎったらあかんで」

  茶化すように笑いながらも、虎人は腰の動きを止めない。

  がちゅんどちゅんがちゅんばちゅんっ、ぱんぱんぱんぱんっ、ぐじゅりっ、どちゅどちゅどちゅどちゅっ!

  「やだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

  硬軟織り交ぜたその動きは、僕の体をとろけさせるように、再び絶頂へと導こうとするのだ。

  「おら、もういっぺんイッとけ!」

  がちゅんっ!

  「イッじゃうぅぅぅっっ!!」

  目の前が真っ白になる。

  絶頂に押し上げられた体が、硬く強張るのがわかった。

  「……たまらんなぁ。かわいいぞ、晴臣」

  メスイキによってきつく締め付ける肉襞を、トゲチンで無理やりこじ開け、押し広げていく。

  「んがぁぁぁぁぁぁぁっ!」

  敏感な肉襞をえぐり取るようなその動きは、脳が沸騰するほど気持ちよかった。

  「やだ、やだぁぁぁぁぁぁっ!」

  「アホ抜かせ、気持ちええやろうが! わしの……旦那のちんぽの形を覚えるのが、嫁の役目なんやで!」

  その言葉通り、僕の体に逸物の形を覚え込ませるように、何度も何度も執拗に抜き差しを繰り返す。

  がちゅんっ、ごちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、どちゅっ、ごりごりごりごりっ、がつっ、がつっ、がつっ、がつっ!

  「んぎぃぃぃぃぃっ!」

  「……わしもそろそろイクぞ! 晴臣も一緒にイッとけ」

  そう言うと、虎次郎さんは腰を振りながら僕の勃起した逸物を掴む。

  「なんや、ウケにしとくには惜しいぐらい、デカいちんぽしとるやないか」

  「あっ、やめて!」

  僕は必死に虎次郎さんの腕を掴む。

  ……射精だけはしたくないのだ。

  だが、その太い腕は、僕の力では払いのけることなどできなかった。

  「なんや? 旦那と一緒にイクのいやなんか?」

  「そういうわけじゃ……」

  「ほな、一緒にいこうやないか」

  そう笑うと、先走りでびしょびしょになった僕の逸物を、ぐちゅぐちゅと擦りたてる。

  「だめぇぇぇっ!」

  前と後ろからの刺激に、僕はもう我慢などできなかった。

  快感の崖っぷちに立たされて、あとは突き落とされるのを待つだけなのだ。

  その最後の一押しを加えたのは、虎人の射精だった。

  「イクぞおぉぉぉぉぉぉっ!」

  淫らな叫び声とともに、吐き出される大量の白濁液。

  ぐじゅっ、ぐじゅっ、ぐじゅっ、ぐじゅっ!

  撃ち出されるという表現が当てはまるような勢いで放たれたそれは、敏感すぎる肉襞をゴリゴリと削るように押し広げていくのだ。

  「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」

  限界を感じ、堪えることが出来なかった僕は絶叫する。

  逸物から勢いよく噴き出す熱を感じながら。

  びゅるっ、びゅるるるるっ!

  己の体を汚すように、噴き出された僕のザーメン。

  「これは……」

  それを見て、顔を強張らせる虎人。

  ……ああ、やってしまった。

  虎次郎さんの視線は、僕の汚れた身体を捉えたまま動かない。

  吐き出されてしまった精液によって、紫色に染まった僕の身体を。

  ……見られて……しまった。

  だから、射精したくなかったのだ。

  僕はいびつな存在なのだろう。

  思春期を迎えて、精通した時から、僕の精液は毒々しい紫色をしていた。

  トリモチのように粘っこいそれが、普通でないという事は、初めて射精したばかりの僕にでもわかった。

  子供ながら、混乱し考えた末に、それが孤児院の来る前に捕らえられていた犯罪組織によって変えられてしまったのではないかと思い至るのだ。

  その組織が人体改造のようなことをしていたというのは、子供ながらネットで見て分かっていたし、何より精通の瞬間に、おぼろげながら一部の記憶を思い出したから。

  ベッドに縛られて、毎日のように異様な匂いのする薬液を飲まされたこと。

  泣き叫ぶ僕に注射を打ち、朦朧となった視線の先に見えた、鋭く光るメス。

  そして、怪しげな魔方陣の中で恐ろしい何かと対峙させられたこと。

  きっと僕の身体は変えられてしまったのだ。

  「……あの」

  自分が普通でないという事を知られて、僕は怯えながら虎人を見上げる。

  これを知られて、僕は何人もの人に避けられ、捨てられてきたのだ。

  ……この人にも拒絶されてしまうのか。

  でも、目の前の雄はそんな僕を見て優しく笑う。

  「なんや、珍しい色のザー汁しとるやないか」

  「……」

  「これがばれたから心配しとるんか? 大丈夫や。己の雌が少しぐらい変わっとったって、わしはかまへんで」

  「……」

  その言葉に、僕は涙が出そうになる。

  「でも……気持ち悪くないですか?」

  「晴臣はわしの大事な嫁さんや。全部受け止めたるよ」

  そう言うと、虎次郎さんは僕の唇に軽くキスを落とす。

  そして……。

  「あ、やめ……」

  紫色に染まった、僕の逸物をべろりと舐めた。

  「なんや、ザーメンにしてはえらく甘いんやなぁ」

  「……なんで」

  「嫁の事は何でも受け止める言うたやろ。かわいい晴臣のザーメンやったら、いくらでも舐められるわ」

  「……」

  男臭く笑うと、虎人はもう一度僕にキスをする。

  「なんや、またムラムラしてきたな。歳やっちゅうのに、一発イッてすぐに勃起するやなんて久しぶりや。これは晴臣がかわいいせいやな。……今日は朝までかわいがったるから、覚悟せいよ」

  僕は幸福感と不安感とを感じながら、厳つい虎人に抱きしめられた。

  ★

  かわいい雌を見つけてしまった。

  猪川晴臣。

  もう49になるという、30歳ぐらいにしか見えない童顔の猪人。

  銭湯で見つけて、その肉付きのいいケツに欲情したわしは、無理矢理口説いてホテルに連れ込んでヤッちまった。

  初めはしっかり者に見えたのだが、慣れてくると甘えたで人懐っこい一面を見せてくる。

  わしに懐いてくれるその様がかわいくて、わしはこいつを手放したくなかった。

  いつもそばにいて、抱いていたい。

  そう、晴臣とのセックスは、何物にも代えられないほどに極上のものだった。

  その柔らかい体を掻き抱き、肉穴にマラを突き入れると、たまらなく心地いいのだ。

  まるで処女のように小さくすぼまる薄ピンクの雌穴は、わしの逸物を咥えこんだ瞬間、貪欲に種をくれと、ねだる様に蠢いてくる。

  まるでイソギンチャクに捕らわれてしまったかのような肉襞の感触。

  初めて晴臣の中に入ったとき、わしは吐精を我慢するのにどれだけ苦労したことか。

  濡れた目でわしを求めて、それでも射精したくないと堪えるその様子は、わしの雄心を駆り立てる。

  そう、あいつは自分の精液にコンプレックスを感じていた。

  尋常ではないほどに甘く、粘っこい紫色のザーメン。

  だが、なぜかそれはわしにとっては精力剤のような効果を及ぼした。

  年齢的に枯れかけているせいか、一晩に2回出せば御の字だった射精が、晴臣のザーメンを舐めただけで、何度でも出せるのだ。

  逸物の勃起も、若い頃のようにがちがちにそそり勃つようになった。

  そしてなにより、気持ちよさが違うのだ。

  晴臣のザーメンを飲み、まぐわうだけで、天にも昇る気持ちになってしまう。

  快楽のあまり脳が、身体が、溶けだしてしまうように勘違いしてしまうほど。

  こんな経験は今まで生きてきて一度だってなかった。

  それはきっと、わしが晴臣を愛しているからなのだろう。

  あいつはわしにとって、運命のツガイなのだ。

  晴臣はザーメンを舐められることを嫌がるが、わしはケツを掘って無理やりイカせると、抑えつけてでもその甘いザーメンを余さず舐めとっていた。

  ウケの癖に絶倫の晴臣は、その太い逸物から何度でもザーメンをほとばしらせる。

  わしはそれを舐め、身体が発情するのを感じながら再び襲い掛かるのだ。

  ……晴臣。

  寝ても覚めても、あの愛しい猪獣人の事が、頭の中から離れなかった。

  毎日のように会っているというのに、この気持ちを抑えることが出来ないのだ。

  わしはドヤ街にあるぼろい部屋の一室で、1人晴臣を想いながらせんずりを掻く。

  あのつぶらな瞳、ふくよかな腹、ざらつく茶色い体毛、そして何より、俺を興奮させるザーメンを吐き出してくれる逸物。

  ああ……。

  くちゅくちゅ。

  涙目でわしを見ながら、入れてと呟く晴臣を想像するだけで、ぼたぼたと我慢汁が畳を汚すのだ。

  『何を入れて欲しいんや?』

  わしが耳元で囁くと、晴臣は恥ずかしそうに呟く。

  『虎次郎さんのちんぽ……入れて欲しいです……』

  『どこに入れて欲しいんや?』

  なおも言い募りわしに、顔をくしゃくしゃにして、やけになったように叫ぶ猪獣人。

  『ケツに……僕のケツマンコに入れてください!』

  わしはその言葉に我慢できずに、逸物を雌穴へと突き立てた。

  『ひぃぃぃぃぃぃっ!』

  わしはちんぽをしごきながら、泣き喚く晴臣の姿を思い浮かべる。

  ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。

  ガキの腕ほどもある太竿を力いっぱい握りしめ、擦りたてるのだ。

  ……あいつの締め付けは、こんなもんじゃねぇ。

  食いちぎられるかと思うほどのあの感触を思い出しながら、わしは必死にちんぽをしごく。

  ……ああ、晴臣。晴臣……。

  あの顔を、あのザーメンを思うたびに、わしの金玉はせりあがって……。

  「くそ、イクぅっ!」

  どろっ、どろっ……。

  10回目のせんずりで、もうわしの精液は枯れてしまっていた。

  数滴の汁が畳にこぼれるだけ。

  それでも、わしは手を止めることが出来ない。

  晴臣……晴臣……。

  ☆

  「どうですか?」

  僕は服を着ながら、目の前の男に問いかける。

  「いつもと変わらずだな」

  「そうですか……」

  白衣を着た高齢の犬人の言葉に、僕は肩を落とす。

  「仕方ねえよ。お前の体を変異させたのが、どのような手段によってなのかわからんからな。定期的に検査をして、現状を確認することぐらいしか出来んよ。……その犯罪組織とやらとコンタクトできれば、元に戻せるかもしれんが、もう何十年も前の話だしな」

  「そう、ですよね……」

  それはすでに何度も聞かされた言葉。

  目の前の男は医者だった。

  ここは小さな個人病院。

  それも、人に言えないような病気や怪我を診てくれる、俗に言う闇医者という奴なのだ。

  変異は精液だけではない。

  僕は他の人に比べて、極端に体の成長が遅く、また老化も遅かった。

  この異常体質を不安に思い、何とか元に戻らないかと、僕はこの病院を探し当てた。

  その性質上、普通の医者に相談することなどできなかったから。

  ただ、この症状に興味を持ったこの犬人の協力でも、僕の身体は普通の人に戻ることはなかった。

  出来たのはただ、自分の出す紫色をした精液の分析だけ。

  それは、悪辣な中毒性を持つ媚薬だった。

  このザーメンは、女性や自分が飲んでも一切問題は無いが、一度でも男性の体内に入ると、その非常に甘く強力な麻薬成分によって他では得られない多幸感に絡め捕られてしまうのだ。

  もう、それは雄を狂わせる麻薬と言ってもいい。

  それを知ったとき、僕は愕然としながらも、正直、少しだけ嬉しかった。

  これがあれば、大好きな相手を虜に出来るんじゃないかと。

  ……でも。

  それだけではなかったのだ。

  ……まさか僕の精液が、こんなにも凶悪なものだったなんて。

  そのおぞましさに、僕は吐き気を覚えてしまうほど。

  「しかしお前も諦めたんじゃなかったのか。どうせウケなんだ。行きずりの男と遊んで、ケツだけでイッてりゃいいだろ」

  「……好きな人が出来たんです」

  その言葉に、犬人の医者はため息をつく。

  「またか」

  「僕が人を好きになっちゃいけないんですか!」

  「……そんなことは言ってない。だが、お前が好きになった男たちの末路は、お前が一番よく知っているだろうが」

  「……」

  「そいつの事を思うなら、別れちまった方がいいんじゃねえか?」

  「……それでも……別れたくないんです」

  僕は、その大きな体でいつも優しく包み込んでくれる、隻眼の虎人の姿を思い浮かべる。

  明るくてほがらかで、雄臭い虎次郎さん。

  僕の精液を舐める前から、僕の事を嫁だと言ってくれた。

  こんなにも人を好きになったのは、久しぶりだった。

  僕はどうしても、あの人を手放したくなかったのだ。

  「そうか……。ひょっとして、そいつはお前の精液を舐めたのか?」

  「……はい。止めようとしたんですが……」

  「それなら……仕方ないのか……」

  犬人は再びため息をつく。

  「まあ、ほどほどの摂取ならお前に夢中になるだけですむかもしれん。だが、これ以上進めばどうなるかわかってるな」

  「はい。でも、大丈夫だと思います。虎次郎さんはきっと……」

  ……きっと虎次郎さんは、ずっと僕の側にいてくれるはずだ。

  「そうだといいがな」

  医者は気のない返事を返すだけだった。

  ☆

  あれから僕と虎次郎さんは、何度も会って交情を重ねた。

  医者に言われたこともあって少し距離を置こうと考えたが、虎次郎さんはそれを許してくれなかった。

  『なあ、わしのこと嫌いになったんか?』

  大好きな人にそんなことを言われて、拒めるはずがないじゃないか。

  『違うよ。嫌いになったりするわけないじゃないか』

  『そうか。……そうやな。ほな、交尾しようやないか。今日もたっぷりかわいがったるで』

  そして僕は、虎人の愛撫に溺れていく。

  ★

  いつもの通り、何度となく晴臣のケツに逸物をぶち込んで、わしは吐精を繰り返す。

  「んぎぃぃっ!」

  びくびくと体を痙攣させながら、その太い逸物から紫色のザーメンを噴き出させる愛しの猪人。

  わしはそれを指先ですくうと、ひたすら口に運ぶ。

  ……ああ。

  甘さと同時に、とろけてしまいそうな重い快感が体に広がっていくのがわかる。

  「虎次郎……さん……」

  うわ言のように小さく呟く晴臣。

  わしの与えた快感で、息も絶え絶えになった彼は、半分意識を失ってしまっていた。

  それでも、その身体は貪欲なまま。

  雌穴は執念深さを感じるほどに蠢きながらわしの子種を求め、その逸物は禍々しい色の雄汁を滴らせたまま、天を衝くように勃起していた。

  「……」

  わしはふと、思ってしまった。

  こいつの逸物をケツに入れたら、気持ちいいんじゃないかと。

  もちろん生粋のタチのわしは、ケツで受けたことなどない。

  そんなものは雌のやることで、雄のわしがすることではないからだ。

  だが……。

  わしの逸物で狂いなく晴臣を見ていると、思ってしまうのだ。

  ……どんなにか気持ちいいのだろうか。

  わしの頭はおかしくなっているのだろう。

  晴臣のザーメンで火照っているこの身体なら、あの野太い逸物を受け入れることが出来るかもしれない。

  そんなことを考えると、おさまりがつかなくなってしまったのだ。

  わしは晴臣の雌穴から、ぬちゅり、と逸物を引き抜く。

  ぶじゅっ。

  閉じる力をなくした菊門から、溢れ出る白濁液。

  わしはそれを掌で集めて、晴臣の逸物の上に垂らした。

  どろっ……どろどろどろ……

  白と紫のマーブル模様に彩られた極太の逸物。

  それを見るだけで、わしの口に唾が湧いてくる。

  ……入れられたい。

  今まで、そんなことを思ったことなどないのに。

  「虎次郎さん……何を……」

  意識を取り戻した晴臣が、朦朧とした顔のまま、こちらを見上げる。

  「晴臣に……晴臣にわしの処女をくれてやるからよ」

  わしの声に、一瞬で目が覚めたように顔を強張らせる猪人。

  「だ、駄目! もし、ケツの粘膜で受けたら……」

  しかし、もはや晴臣の言葉など、わしの耳には入らなかった。

  横たわる晴臣の体を跨ぐと、その猛々しい逸物を掴み、自らのケツにあてがう。

  「一緒に気持ちよくなろうな……」

  ぬちゅんっ!

  「だっ……んんんっ!」

  興奮で緩んでしまっていたのか。

  初めてだというのに、わしの処女ケツはたやすくその大きな逸物を呑み込んでしまう。

  「あ、あ、ああああああああああああっ♡♡!!」

  わしは喉が張り裂けるほどの絶叫を響かせた。

  ……気持ちいいっ!

  口でザーメンを飲み込むのとは違う、身体が震えるような快感が電撃のように全身を貫いた。

  野太い逸物がわしの肉壁をこじ開けて、肉襞の一つ一つにザーメンを擦り込んでいく。

  その粘膜から媚薬のような紫色の雄汁が細胞に染み込んでくのがわかった。

  ……すっ、すげぇぇっ!

  びゅるっ、びゅるっ!

  その感触だけで、わしは吐精をしてしまうのだ。

  「虎次郎さん、駄目だから……」

  晴臣の声など耳に入らない。

  入れただけでこんなにも気持ちいいのだ。

  これで、もっと抜き差ししたら……。

  わしの雌穴に、晴臣のザーメンを大量にぶち込んでもらったら……。

  そう考えると、我慢などできなかった。

  暴れる晴臣の体を押さえ付け、騎乗位のまま、わしは体を上下に揺する。

  まるで自分がオナホになってしまったようだった。

  「虎次郎さん、やめてぇっ!」

  必死に訴える猪人を見て、わしはにへら、と笑う。

  「何を言うてんねん。嫌がっとるわりに、晴臣のちんぽはビンビンやで。先走り流しながら膨れ上がっとるやないか。……なあ、気持ちええか? わしの処女ケツ気持ちええか?」

  嬲るように言いながら、わしはひたすら腰を動かす。

  はたから見れば無理やりレイプしているように見えるかもしれない。

  そんな荒々しさで、わしの肉穴は晴臣の肉棒を味わうのだ。

  ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ!

  「駄目ぇっ……出ちゃうからぁっ!」

  「いっぱい出したらええんやで」

  わしがそう言うと、堪えることが出来なくなったのだろう。

  目に涙を浮かべた晴臣は、喰いしばっている歯を開いて、絶叫する。

  「イッじゃうぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」

  どりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅっ!!

  「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”♡♡っ!!」

  わしを狂わせる、紫色の極悪な雄汁が、猛烈な勢いで奥の奥まで流し込まれていく。

  「んひぃぃぃぃぃぃぃっ♡♡!」

  それはわしの脳を破壊してしまいそうなほどの快感を、暴力的に叩き込むのだ。

  じょろ……じょろじょろじょろじょろ……。

  気がつけばちんぽから何かが漏れ出していたが、すでにそれが何かなんて、わしにはわからなくなっていた。

  わしにわかるのは、体を乱暴に包み込む破滅的な快楽の嵐だけ。

  「もっと♡……もっと♡♡……」

  それを呟いているのが自分だと気がついた時には、わしは騎乗位のまま、再び腰を振り出していた。

  ☆

  あれから虎次郎さんは変わってしまった。

  今まで以上にどん欲に僕を求めるようになってしまった。

  いや、正確に言えば、僕のザーメンを、だ。

  タチをすることも忘れて、会えばその肉穴にザーメンを受けることだけを求めてしまう。

  肉襞に僕のザーメンを擦り込まれる喜びを知ってしまったのだ。

  腸の粘膜は、口からよりも吸収率がいい。

  当然、媚薬となる僕の精液を体内に取り入れる量も格段に多くなっている。

  それはもう、戻れないほどの快感を虎人に与えてしまったはずなのだ。

  ……あの時我慢していれば。

  後悔をしたところで時間は戻らない。

  虎次郎さんは、嫌だと言っても会うたびに僕にタチをねだるのだ。

  そのためならば、金に糸目をつけることをしない。

  入れてもらうためならば、僕に媚びを売るようになり、美味しい食事や小遣いを用意して、精液を求めるのだ。

  己の口と雌穴とで。

  それでも好きな人のためだからと、いやいやながら腰を振っていたが、肝心の虎次郎さんからは、すでに愛は感じられなかった。

  ……やっぱり駄目なのか。

  ……僕は愛されては駄目な人間なのか。

  でも。

  ……今度は。今度だけは……。

  ……虎次郎さんなら、きっと。

  だが、祈るようなその想いは、天に通じることはなかった。

  ☆

  媚薬に狂わされた虎次郎さんの行動は、だんだんとエスカレートしていく。

  会えない日は毎日写真を送ってくるのだ。

  使い込まれてどす黒くなったちんぽやアナルの写真を。

  それだけじゃない。

  せんずりやアナニーの動画まで、スマホに送り付けてくるのだ。

  昼間、僕が仕事をしているというのに。

  『虎次郎さん、いい加減に……』

  あまりの頻度に、僕が電話口で苦言を呈しようとしても。

  『なあ、どうやった? わしのせんずりエロいやろ。晴臣の事だけ考えて、マス掻いとるんやで』

  『僕、仕事中だから……』

  『なあ、スケベしようや。晴臣をいっぱいかわいがったるさかい、ザーメンたんまり飲ませてくれや』

  『……』

  2人でいるときもそうだ。

  その尋常ではない様子は変わらない。

  街を歩いていても、その目は血走り、ズボンの上からも常に勃起していることがわかるのだ。

  『晴臣、こんなとこ歩いとらんと、どっかへしけ込んで交尾せえへんか?』

  まるで盛りのついた犬のようにがっつく虎次郎さん。

  『せっかくのデートだよ。もう少しゆっくりしようよ』

  『そ、そうか。そうやな……』

  一瞬は頷いて見せるが、その身体が発情したままなのは、繋いだ手の震える様でよくわかった。

  挙動不審なほどきょろきょろと辺りを見回すその目が探すのは、2人で休憩できるホテルなのだろう。

  それでも僕は、必死になって話しかける。

  『ねえ、ご飯食べに行こうよ。虎次郎さん、何が一番食べたい?』

  その言葉に、満面の笑みで答える虎人。

  『ザーメンや! 晴臣のザーメンが喰いたい!』

  人目も憚らず、虎次郎さんは大声を出す。

  『……』

  『なあ、喰わせてぇな。晴臣のザーメン、わしの口とケツから喰わせてぇな!晴臣のザーメンが欲しいんや。わしは晴臣のザーメンが欲しいんや!』

  ここまでくれば、もうわかってしまうのだ。

  ……虎次郎さんは、もう元に戻ることは出来ないのだと。

  僕を好きだった、僕を嫁だと言ってくれた虎次郎さんは、永遠に失われてしまったのだ。

  ……それならば、せめて。

  ☆

  「晴臣。なあ、晴臣。ザーメンくれや』

  僕が場末のラブホテルに呼び出すと、現れた隻眼の虎人は、せつない顔で僕の肩を掴んでせがんでくる。

  「わかったよ」

  その目を見ればわかる。

  虎次郎さんは、もう末期的な状態にまで陥ってしまっていることが。

  僕に出来ることはただ一つ。

  虎次郎さんの希望を、心ゆくまで叶えてあげることだった。

  「こっちにおいで」

  僕はこんな時のためにいつも持っている大きめのリュックをベッドの上に置き、服を脱ぎ捨てると、浴室に虎人を誘う。

  「ザーメン……欲しいんや」

  夢遊病者のようにふらふらとついてくる虎次郎さんの頭には、風呂場では服を脱ぐという常識すらも抜け落ちてしまっていた。

  それがわかっていた僕は服をゆっくりと脱がしてあげる。

  そんな僕の行為に対して、恥ずかしがる様子もなく、幼い子供のようにおとなしくされるがままになっているのだ。

  そこには猛々しかった雄臭い面影など、もうどこにもなかった。

  ……僕の知ってる虎次郎さんはもうどこにもいないんだ。

  その現実は、僕の心をひどく痛めつける。

  なぜそうなってしまったかを、自問自答する必要すらないのだから。

  それでも、僕は隻眼の虎人に笑みを見せた。

  「さあ、おいで」

  僕は空っぽの浴槽に裸の虎人をしゃがませると、その縁に腰を掛けた。

  こんな時だというのに、僕の逸物はいきり勃ったまま。

  それを目の前にして、だらだらとよだれを垂らしている虎次郎さんは、まるで餌を前にして『待て』をしている犬のようだった。

  「今日は満足するまで飲ませてあげるよ」

  その言葉に嬉しそうにこくこくと首を振ると、虎人はしゃがみ込んだまま僕の腰に手を回し、その大きな口で逸物を咥えこんだ。

  「……」

  僕が見下ろしたその顔には、すでに正気は残されていなかった。

  ★

  びゅるるるるっ!

  口の中に飛び込んでくるのは、甘ったるい紫色のザーメン。

  わしはそれを無心にごくごくと飲み込んでいく。

  ……ああ。

  どろりとした粘っこい雄汁が、食道を通り胃の腑まで届くのがわかった。

  その落ちていく過程にすら、快感が伴っているのだから。

  ……すげえ。

  それは神経が焼き切れるような強大な快感だった。

  飲み込んでいるだけだというのに。

  他に欲しいものなどない。

  晴臣のザーメンがあれば、わしは幸せでいられるのだ。

  ……もっと、もっと……。

  わしは尿道に残る精液を口をすぼめて吸い取ると、次の発射を求めてぐちゅぐちゅと口を動かした。

  タチだったはずのわしが、すっかり雌のように口の使い方を覚えてしまったのだ。

  舌先で飴を転がすように亀頭を舐め、その太長いマラを根元まで咥えこむ。

  喉を使ってやんわりと締め付けると、苦しさではなく幸福感がわしの心に広がっていく。

  ……早く、早く次のザーメンを……。

  せかすように見上げた晴臣の目には、涙が滲んでいるように見えた。

  それがなぜかなんて考える暇もなく、またも撃ち出されれる濃厚な子種汁。

  どりゅどりゅどりゅりゅりゅっ!

  

  味わう暇もなく、ザーメンを直接喉の奥へと撃ち込まれる。

  「ああっ、またザーメンやぁ♡!」

  わしは嬉々とした顔で、むせることもなくその紫汁を喉に流し込んだ。

  でも。

  ……こんなもんじゃ全然足りない。

  もっともっととねだる様にわしはひたすら口を動かした。

  ぬちゅぬちゅと下品な音を立てて、吸盤のようにひたすら肉棒に吸い付くのだ。

  そんなわしに期待に応えるように、晴臣は何度も何度も、枯れることなくザーメンを放出していく。

  ……おかしくなっちまう。

  一体どれだけのザーメンを摂取してしまったのだろう。

  わしはこれまでにないほど、身体が火照るのがわかった。

  まるでザーメンそのものが、直接身体すべての細胞に染み込んでいくようだった。

  ……ぎもじぃぃぃっ!!

  わしの細胞は快感に打ち震え、発熱しているのが確かに感じられた。

  おこりのように震える様は、きっと晴臣から見ても分かっただろう。

  身体が振動するその感覚に、わしの頭は真っ白になる。

  気持ちいいのだ。

  

  「あっ♡、あっ♡、あっ♡、あっ♡!」

  わしは逸物を咥えたまま、くぐもった声で甘く叫ぶ。

  それは涙が出るほどの快感だった。

  ザーメンを飲み込むだけで、触られているわけでもないのに、わしは吐精を繰り返すのだ。

  びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ!

  「イグっ♡、イグっ♡、イグっ♡、イグっ♡!」

  ただ小刻みに体が震えているだけなのに、今まで経験したことのない凶悪な快感が生み出されていくのがわかった。

  その小さい振動の1つ1つを感じるたびに、わしはイッてしまっていた。

  1秒間に何度も絶頂に達するのだ。

  その快感に堪えることが出来ず、脳が壊れていくのがわかった。

  「んぎぃっ♡、んぎぃぃぃぃぃぃっ♡!」

  体全体を媚薬に浸されたように、わしの身体もはや快感しか感じない。

  ザーメンを求めて晴臣の逸物を舐める舌の動きですら、わしはイッてしまっていた。

  「んっ♡、んっ♡、んっ♡、んっ♡!」

  その衝撃で思わず口を離しそうになるわしの頭を、晴臣は掴んだ。

  「駄目だよ。今日は最後まで飲ませてあげるんだから」

  「あっ♡、ああああっ♡!」

  その言葉を聞いて、わしはまたイッてしまう。

  わしの顔は、涙とよだれでどろどろになっているだろう。

  そんな醜い顔を、優しく見下ろす猪人。

  ……ああ。

  あまりの快感と幸福感で、わしの身体はとけてしまいそうだった。

  延々とイカされ続けながら、わしはただ快感を享受する。

  「んああああああああああああああっ♡♡!!」

  「もっと、もっと飲んでよ!」

  脳はひたすらイキ続けて、もう何も考えられない。

  自分の体がどうなっているのかも。

  「まだまだ出るからね。嬉しいでしょ、いっぱいイッていいからね」

  「んぎぃぃぃぃぃぃっ♡♡!!」

  違和感を感じたのは足元からだった。

  少しずつ、その存在が薄れていくような、そんな気がしたのだ。

  だが、目の前のマラに釘付けになっているわしにはどうなっているのかわからない。

  それに、足先から徐々に上がってくる違和感は、とてつもない快感を伴っていた。

  それはもう、死んでもいいと思うほどに爆発的な刺激をわしに与えてくれていたのだ。

  ……これがあれば、他に何もいらない。

  ……この一瞬の快楽があれば、すべてを失ってもいい。

  そう断言できるだけの快楽が、そこに存在したのだ。

  ……キモチイイ。

  身体が少しずつ軽くなっていく。

  まるで自分の体が、クズクズに崩れていくように感じられた。

  ……ナンダロウ。

  頭のナカも、スコシ壊れてイクようだった。

  ……それデモ、ギモジいい……。

  ワしの体ガ、チイサクなってしまったようにカンジる。

  自分でササエル事がデキズ、晴臣にヨリかカル。

  ……アかン、わしのガたいヤッタら、晴臣ササエられヘン……。

  だガ、晴臣ハカマわずわしの体ヲウケとめる。

  ぐしゃり。

  ヨリカかったハズのわしの身体ハ、首カラ下が、ぐずグズと崩レ落ちてシマった。

  ……マルでゼリーみたイダァ。

  それデも、わシはイキ続けてイルのだ。

  「ああ、ほとんど溶けちゃったね」

  ワシの頭ヲササえたまま、晴臣は明ルイ声デ囁く。

  

  ……ナガされテいく……。

  浴槽に溜まッタわしの身体ガ、スコシずつ排水口にナガさレテいくノガミエタ。

  ……ナンダコレ。

  ……ソレでモ、きモちイイ。

  キモチイイノダ。

  イッテ、いッテ、イきマクる。

  ワシのちんポもケつもナガさレタのに、脳だケでイッテイルのダ。

  「あっ♡、アッ♡、あっ♡、アッ♡!」

  掴マれた頭も、スコしずつヤワラカくナッテいく。

  晴臣ノ掌が、ずブズぶとめり込んでイク。

  ソノ感触もキモちイい。

  わしハタダ、晴臣をミアげル。

  その顔ハ……。

  ……あア、菩薩のヨウだぁナア。

  

  「幸せ?」

  震エる唇かラ放タレた短いタンゴ。

  わシはそれを涙を流シテ聞キナがら、ナンドモウナズイて……。

  ……シアワせダぁ。

  ぐしゃりっ。

  「……」

  ☆

  ……やっぱり、駄目だったんだ。

  手の中で崩れて溶けた虎次郎さん。

  僕の目から、涙がぼろぼろとこぼれてしまう。

  いつだって、結末は同じだった。

  僕の愛した人の末路は、必ず早い死を迎えることで終わるのだから。

  僕の精液に含まれているのは、中毒性のある媚薬効果だけではなかった。

  それは一種の毒薬なのだろう。

  一度体内に取り込まれると、決して排出されない麻薬のようなその成分は、蓄積され許容量を越えると、その相手を狂わせる。

  もう、僕のザーメンの事しか考えられなくしてしまうのだ。

  中和剤も存在せず、快楽狂いになってしまった頭は、もう戻ることが出来ない。

  そしてある一点を越えてしまうと、精神だけではなくその肉体すべてをも破壊してしまうのだ。

  そう、さっきまで目の前にいたはずの、虎次郎さんのように。

  精液に含まれた毒が細胞を壊し、ぐずぐずとゼリーのように柔らかく溶かしてしまう。

  だが、その過程には快感しか存在しないのだ。

  誰しもが、ザーメンを飲み込むことでおかしくなるほどの快感を味わいながら、身体が崩れ、溶けていく様を当たり前のように受け入れてしまう事しか出来ない。

  後には何も残らない。

  肉だけではない。

  髪や骨すらもジェルのように溶けてしまい、水に流せば消えてしまうのだ。

  僕を愛してくれた人など、初めからこの世にいなかったかのように。

  こうなることは、初めからわかっていたはずだ。

  もう何度も経験してきたのだから。

  愛する男をそうやって殺し続けて。

  社会にとって、僕のような男は害悪でしかないのだろう。

  ……それでもいつか、ずっとそばにいてくれる人が……。

  叶わない望みだとわかっていながら、僕は諦めることが出来なかった。

  その結果がこれだ。

  僕の身体には『死』が染みついてしまっていた。

  その存在のおぞましさに、僕は身震いする。

  ……それでも、僕は虎次郎さんが好きだったんだ。

  ……人を好きになることが、そんなに悪い事なのか。

  僕は泣きながら、今はもういない虎人の服を持ってきていた大きめのリュックに入れ、そっとホテルの部屋を出た。

  ……僕が何をしたって言うんだ。

  ただ、誰かを好きになっただけなのに。

  誰かに愛されたいと願っただけなのに。

  その問いかけに答えてくれるものは、どこにもいなかった。