【掌編】空を一緒に

  6時限目が終わり、高校からの帰り道を親友とだらだらと歩いていた。

  「そういえばさ、俺飛行免許とったよ!」

  そう言ってくるのはカケル。体長2m超えの竜人である。

  「えっ、卒業前によくとれたね?」

  「まあね、俺結構飛行センス良いからね。」

  空を飛べる種族は何も自由に空を飛んでいる訳ではない。

  自動車で公道を走るのと同じように、空の公道ともいえる空路が存在する。

  空を飛べる鳥人や竜人は自動車教習所と同じように、飛行教習所で飛行免許を取得しなければならないのだ。

  「だからさ、今度お前乗せて飛んでみようかなって思うんだよね。」

  「初心者飛行で俺乗っちゃって大丈夫なの?」

  「いやさぁ、人を乗せて飛ぶ練習がしたいんだけど、知っての通りうちの家族みんな2m超えだし、重くて乗せられないじゃん。お前体ちっちゃいしそんなに重くないだろうからちょうどいいなと思ったんだよね。」

  ついでに俺は雑種の猫獣人で身長140cmぐらい。家族もみんな小柄だ。

  「そりゃ竜人よりは重くはないだろうけど……。って小柄な事バカにしてるのか!?」

  「ごめんごめん。ともかく、俺の飛行練習付き合ってよ!今度の土曜日俺ん家10時集合ね!それじゃ!」

  そう言ってカケルは分かれ道を自分の家の方向へと歩いて行った。

  「えぇ……。」

  半ば強引に押し切られてしまったが、ともかくこうして今週末の土曜日は

  タンデムすることとなったのだった。

  そして、土曜日。

  約束通りカケルの家の前に着いた。

  呼び鈴を鳴らすと、フルハーネス姿のカケルが出てくる。

  「待ってたよ!ほらお前の分の飛行用ハーネス用意しといたからさ!たぶん身長のサイズで合わせてるから大きさは大丈夫だと思う。」

  「それを俺もつけるの?」

  「あぁ、実際の空は風の影響をモロに受けるからお互いの身体を固定しなきゃいけないんだ。掴まっていた手を離したらそのまま地面に真っ逆さまは嫌でしょ?」

  「……それはそうだね。」

  「ほら、付けるの手伝うよ。」

  そういってカケルに手伝ってもらいながら、俺もハーネス付ける。

  意外と空を飛ぶのにも準備が必要なんだなぁ。

  「ええっと、これ俺はどうすればいいんだ?」

  「おんぶされる感じになるかな。ほら背中に掴まって。」

  カケルはそう言ってかがんで俺に背中を見せる。

  大きくて頼れる我が親友の背中だ。

  俺はカケルの首に手をまわし、おんぶされるように体重を背中へ預けた。

  「フックで固定はできてる?」

  「全部固定したよ。」

  「よし。高度上げているときは俺がいいって言うまでは喋らないでね、舌嚙むから。それじゃあ……行くぞ!」

  カケルはかがんだ状態で大きな翼で羽ばたき始め、そのまま勢いをつけて俺たちは空へと飛びあがった。

  ぐんぐんと高度を上げ数分後、カケルは安定飛行に入った。

  「……よし、安定したからもう喋ってもいいよ。大丈夫そう?」

  「いや、思ったよりキツイ……。」

  空を飛ぶなんて一度は憧れるものだけど、実際はかなり不安定な状態で掴まっているからズリ落ちないよう必死だ。

  今日天気はいいけど、風が強く吹き付けてくるし、風の音とカケルの羽ばたきの音がとにかくうるさいので、大きな声でないと意思疎通がなかなかに大変だ。

  「いやぁ、お前重くはないけどやっぱり人を乗せるとなるとバランス難しいな。」

  「っていうかさ、もう少し高度下げらんない?」

  「下は空路が混むから、初心者は少し高度が高い方が安全に飛べるんだよ。でもちょっと高度落としてみるわ。」

  カケルは風の流れに合わせて少し高度を下げた。

  俺も少し慣れてきて、幾らか心の余裕がでてきた。

  「こうしていざ飛んでみると、人も街も何だかちっぽけに見えるんだな。」

  「でしょ?空を初めて飛んだ時俺も同じこと思ったんだよね~。竜人って大体の獣人よりも大きいから普段はあんまり感じないんだけどさ。人も街も地球全体でみたらめちゃめちゃ小っちゃいんだよ!当たり前の話だけど改めて思うよね。ほら、俺たちの高校もあんな大きさだよ?」

  「本当だ、教室移動ダルいと思ってたけど、結構小さいんだな。」

  こうして空から街の建物の大きさを眺めてあーだこーだと他愛のない話をしていた。

  「そろそろ家に戻るよ。空の旅はどうだった?」

  「楽しいけど、ラクではないな。登下校の時に乗せてもらうのは遠慮するよ。」

  「ちょっと、人の事車と同じ移動手段にしないでよ!今度頼んだって乗せてあげないからね。」

  「はいはい、分かったって。」

  「……ごめん、嘘。」

  「?、何が?」

  「今度も一緒にさ、飛んでくれる?」

  「それは別にいいけど、どうしたのさ?」

  「良かった~。一緒に見たい景色が色々あるんだよね。ほら、俺達学校卒業したら県外へ進学と地元で就職とでバラバラになるじゃん。だから……まだまだ色々と遊びたくてさ……。」

  カケルの大きな背中が少し震えたような気がした。

  俺は少しだけ首に回している手に力を込めた。

  「な~に、感傷的になってんだよ。俺も街以外の景色見てみたいさ。だから、また連れてってくれよな。」

  「……うん!」

  そうして着陸態勢に入り、俺達は無事にカケルの家の前に到着した。

  ハーネスはわざわざカケルが買ってくれたものらしく、俺に持っていてくれと言われた。

  さすがに金払うよと言ったけど、カケルは聞かずに「また一緒に空を飛ぶ時のために持っていて。」と言われてしまった。

  「それじゃあ、今日はありがとうな。また月曜日にな!」

  「うん、またね。」

  こうして俺と親友の初めての空の旅は終わった。

  あの飛行から十数年経つが、結局成人しても小柄な俺は今でもこのハーネスを使い続けている。