1
「大輔、やっぱお前、感じやすい体してるな」
狭い布団の上で、酒の匂いを漂わせながら、せんせは俺の首筋に舌を這わせる。
「せんせ、そんなこと言われたら恥ずかしいじゃねえか」
そう言いながら身もだえする俺を見てせんせはにやりと笑った。
「可愛い顔しやがってよ」
俺は、そう言いながら真っ赤に上気したせんせの顔を、上目遣いに眺めた。
俺、虎村大輔が高校時代の担任であるせんせ―熊田勝久―の家に転がり込んで、もう数ヶ月が経つ。
せんせは、俺にとって恩人だ。
学校でどうしようもない不良だった俺を更生させたのもせんせなら、付きっきりで勉強を教えてくれたのもせんせだった。
俺はそんなせんせが好きで、大学に合格すれば付き合ってくれるという約束を糧に、必死に人の何倍も遅れていた勉強を、取り戻そうと努力した。
そして、すったもんだはあったものの、無事合格することができたのだ。
『よかったな、よくやったな』
大学合格を報告したときに、抱きついて涙目で喜んでくれたその姿は、きっと俺の心に一生焼き付いて離れないと思う。
俺はせんせのおかげで、やっと人様に顔向けできるようになったのだ。
大学入学と共に、晴れて恋人同士になった俺は、せんせに頼み込んで居候させてもらっている。
初めは一緒に住むことを渋ったせんせだったが、俺が押しかけ女房のように部屋に居着いてしまったせいで、仕方なく受け入れてくれた。俺が両親と不仲なのを知っていたのもあるのだろう。
きちんと監督するからという名目で、両親に俺を預かると申し出てくれたのだ。
俺と一緒に暮らすことを快く思っていなかった両親は、これ幸いとせんせに俺を押し付け、結果、同棲できることになったのだった。
『大学合格のご褒美が高くついちまったな』
と、せんせはのちのちぼやいていたが。
好きな人との憧れの同棲生活、というのは思っていたよりも楽なものではなかった。
一緒に暮らしていても、せんせは俺の生活態度について結構厳しかったのだ。
『親御さんからお前を預かっているんだからな』と言うのが口癖。
だらけた生活をしていると鉄拳制裁は当たり前、大学生にありがちな不規則な生活なんてものは俺には存在しなかったのだ。
俺も、せんせに愛想つかされないように、授業の合間には必死に家事をこなした。
高校時代の俺を知るクラスメイトには信じられない姿だっただろう。不良の俺が掃除機をかけたり、洗濯物をたたんだり、エプロンつけて夕飯作っているような図は。
厳しいのはそれだけではない。
酒を呑んだせんせの相手が、何よりしんどかった。
何というか……絶倫なのだ。
普段は立派な教師でござい、という顔をしているのに、酒を飲むとまるで猛獣のように豹変して、俺に襲い掛かってくる。
しかも毎晩毎晩だ。
185センチと、虎獣人にしてもそれなりにガタイがいいと自負している俺がヘロヘロになるまで、せんせは何度も何度も俺を攻めたてる。
その、ヒグマ種にしては小柄な170センチの体で。
もちろん、すげぇ嬉しかったけど、毎回俺が腰砕けになるほどやらなくてもいいだろうと思わないでもなかった。
その分、ちゃんと俺にも気持ちいい思いをさせてはくれるから満足していないわけではないんだけど。
以前、せんせに初めて襲われたときに、『好きな相手が家に来てるってのに、ずっと手も出せずにお預けで、悶々してた俺の気持ちが分かるか!』、なんてことを言われたが、ほんと、それまではずっと我慢してくれていたんだなぁと思い知らされてしまった。
あのありあまる性欲を押さえつけて、せんせは俺の勉強を見ていてくれたのだ。
でも、それだけ俺を大事にしていてくれたんだなぁと思うと、嬉しくも申し訳なくもあった。
俺はちゃんとせんせのモノになれたんだと思うと、すごく幸せだった。
今のこのせんせの生活に満足していた。
それでも、エッチの時に全然攻めさせてはくれないのは、少しだけ悔しかったりはしたのだが。
その日も、そんなふうに仕事帰りのせんせに襲われているところだった。
酒に酔ったせんせは、俺に覆い被さったまま、俺の黄色と黒の毛を撫ぜながら、ゆっくりと体の輪郭に沿って指を下ろしていく。すぐに左手は、いきり勃つモノに手が触れる。
「お前のチンポ、もうこんなになってるぞ」
「しょ、しょうがないだろ!」
意地の悪い言い方に、俺はついつい顔を背けてしまう。
せんせは嬉しそうに笑うと、ぐいと俺の顔を押さえつけて無理やり正面に向けると、唇を重ねようとした。
俺はなんか照れくさくて、ゆっくりと目をつぶろうとする……。
リリリリリリリリリリ。
不意に甘い雰囲気を切り裂くような、鋭い音が部屋中に響き渡った。
「あ、俺の携帯か」
急にシラフに戻ったように、せんせはあっさりと覆いかぶさっていた俺の上で体を起こす。
……これだけ焦らしておいて、電話に出るのかよ。
心の中の俺の愚痴を無視して、せんせは枕元の携帯を手に取った。
「……ああ、久しぶり」
誰からだろう。
俺の事なんか忘れたように、電話に夢中になるせんせ。
その懐かしげな表情がなんだか癪に障って、俺はちょっとした意地悪を思いつく。
せんせは布団に膝立ちになり、俺の体をまたいで電話をしている。
俺は指を口に入れてたっぷり濡らすとそろそろとせんせの背後に回した。
狙うはただ一つ。
せんせの菊穴だ。
唾液でベッタリと濡れた指先をせんせのケツ穴に触れさせると、せんせの体がびくりと震える。
「んん! ……いや、な、なんでもない」
せんせは電話口ではなんでもないように装いながら、俺をにらみつける。
だが、手は出さない。
それをいいことに俺はゆっくりと指を進める。
「こっちは……元気だよ。そっちは、……みんな変わりない? ……っ!」
……すげぇ、これがせんせの穴なんだ。
さすが、学生時代は柔道部で遊んでいただけはある。
入り口は少し硬いが、ちょっと力を入れるとじゅぷり、と指を呑み込んだ。
「わ、馬鹿! ……いや、こっちのこと。気にしないでくれ。そ、それよりも……」
無理やり押し込むと中は柔らかくて温かい。
……俺もここに入れてみてぇ。
そして、せんせを女みたいに泣かしてみたい。
いつも攻められてるけど、今日こそはせんせを俺のものにするんだ!
俺は指を抜くと、体をずらし、いきり勃った逸物を……。
がつんっ!
頭に衝撃が走るとともに、目の前に火花が散った。
せんせが俺に拳骨を喰らわせたのだ。
それは脳震盪を起こしそうになるほどの威力があった。
涙目で見上げると、すごい形相で俺をにらみつけている。
……くそっ!
それならと、俺は仕返しとばかりに身をかがめる。
目の前にはせんせの表情とは裏腹に、元気のいいチンポが、先走りを垂らしたまま自己主張をしていた。
俺はそいつをぱくり、と咥えてやったのだ。
「んぐっ!」
せんせは俺の突然の反撃に目を白黒させる。
「だから……、大丈夫だって。ちょっと風邪気味なんだ。え、そばに? 誰もいないって」
取り繕うのに必死で、俺の方を見る余裕もない。膝だってがくがく震えている。それでも、せんせのムスコは、俺の口の中で気持ちよさげに暴れていた。
俺を睨みつけたまま、せんせは再び拳骨を振り下ろそうとするが、そうは問屋がおろさない。
俺はにやりと笑って、舌を絡めながら顔を上下に動かし始めた。
「うっ!」
せんせの感じるところなんて、すべてお見通しだ。
太短い肉棒を一旦、喉の奥まで呑み込んだ後、粘膜を絡みつかせるようにしながら引き出し、舌先で雁首をこねくり回す様に執拗に舐める。
音を立てないようにするのは、せめてもの武士の情けだ。
そして、右手で竿の根元を握り、上下にこするとともに左手で金玉をやわやわと優しく転がす。
「……………………!」
もう、堪えることができなくなったのか、携帯を遠ざけ、開いた手で自分の声が漏れるのを防ぐせんせ。
真っ赤に紅潮したその顔を見上げながら、俺はせんせを絶頂に追い込む。
「え、そんな突然……困るよ! ……っ! 明日? こっちも都合があるんだって」
せんせの逸物が、今までになかったほど膨れ上がる。
先走りが泉のように俺の口に溢れ出す。
……さあ、観念しろよ。
気分は下町娘の着物の帯をほどく、悪代官だ。
俺は少しずつ舌先と指の動きを速めていく。
「あ、……ば! ……わかった。わかったから、もう切るよ。明日駅まで迎えに行けばいいんだろ。わかったから、じゃ……あ、イ、イクぅ!」
無理やり話を終えて、携帯を切ったのとせんせが俺の口めがけて白濁液を発射したのは同時だった。チンポは何度もしゃくりあげ、俺の口の中を
いっぱいに満たしていく。
俺はその青臭い汁をごくりと飲み込んだ。
2
布団の上で正座したまま一時間。
それが、今回のお説教タイムだった。
もちろん、頭がぼこぼこになるほど拳骨もいただいた。
「ほんと、何考えてるんだ」
やっと落ち着いたのだろう。せんせの表情が怒りから呆れ顔へと変わっていった。
「だって、電話しながらだと、せんせも興奮するかと思ったから」
「あのなぁ……」
大きくため息をついて見せる、せんせ。
「そんなわけないだろうが。本当にお前はしょうがない奴だな」
……だって、せんせ勃起してたじゃん。
そんなことを言おうもんなら、頭を撫でてくれている掌がまたも拳骨に早代わりするのは分かっているので、俺は黙ったまま。
「この性欲魔人が」
……そんなこと、せんせに言われたくないんですけど。
「それより、せんせ。さっきの電話、誰からだったんだ」
俺はさっきからずっと気になってことを口に出す。
「えらく親しげだったし、……ひょっとして、昔の彼氏とか」
冷やかすような言葉に、せんせは投げやりに言い放つ。
「馬鹿野郎! 兄貴だよ」
「……へ?」
俺は間の抜けた返事を返してしまう。
「俺の兄貴だ」
……せんせ、兄貴なんていたんだ。
電話でのやり取りを思い出したように、せんせはため息をつく。
「お前が変なことするから、思いっきり不審に思われちまったじゃないか。おまけに、明日泊まりに来るってことになっちまった」
「あらら……」
これはちょっとまずい予感。
「お前と同棲してることは内緒なんだぞ! それだけならまだしも、付き合ってるってばれたらどうすんだよ! 相手は男で、しかももと教え子だなんて……」
せんせはうんざりした顔で頭を抱え込む。
「大変だな、せんせ」
俺は優しく肩を叩いた。
「お前に言われたくない!」
せんせはそんな俺の顔に枕を叩きつけた。
3
キッチンから水音が聞こえる。
それを目で確かめることが出来ないのは、俺が自室に閉じ込められているからだ。
コンコン。
扉をたたく音に、俺ははい、と返事をする。
「大輔君、よかったら出てこないか?」
扉越しに話し掛けるのはせんせのお兄さんだった。
デカイ熊獣人だな、というのが俺の第一印象だった。
小柄なせんせとはまったく違う。
2メートルは超えているだろう、見上げるだけで首が痛くなりそうだ。背丈だけではなく、横幅も大きい。肉厚でいいガタイをしている。取っ組み合いしたって、俺なんか子供のようにあしらわれてしまいそうだ。
そんなお兄さんの言葉に、俺は頬を引きつらせながら返事を返す。
「いやいや、お気遣いなく」
せんせに厳命されているのだ。
用がないのに部屋から出ないようにと。
お前は余計なことを喋ってしまいそうだからと言われて。
すでにお兄さんが家にいるのに、それはそれで不自然だと思うのだが。
せんせもテンパっているのだろう。
まあ、俺もお兄さんにせんせと付き合ってることがばれて、ここを追い出されたら困るから、言うとおりにしたのだが。
朝、駅までお兄さんを迎えに行ったせんせは、家に俺とお兄さんを残して仕事に出かけていた。
せんせはなぜか、このお兄さんを苦手としているらしい(嫌いではないと言っていたが)。
話を聞くと、すごく厳格できっちりしているから、せんせとは相性がよくないんだそうだ。
会うと、ことごとく説教をされてしまうとか。
せんせがお説教されてるところなんか、見てみたい気もするんだけど。
でも、せんせが苦手だと思っていても、向こうはそうは思っていないのだろう。
わざわざせんせの様子を見に来てくれるぐらいなのだから。
「まあ、そう言わずに。うまい茶菓子も持ってきたんだ。コーヒーも入れたし、よかったら付き合ってくれないか?」
再度のお誘いにさすがに俺も断りきれない。
「まあ、そう言うことなら……」
俺はおずおずと部屋から出て、こたつの前に座る。お兄さんはカチャカチャと鳴らしながら、コーヒーと大福を運んでくる。
……気まずい。
例えるなら、本妻と愛人が顔をつき合わせるぐらい気まずい。
「何、緊張してるんだい?」
「いや……」
頬を掻きながら、差し出されたコーヒーを啜る。もちろん、味なんか全然分からない。
「別に取って食ったりしないから安心してくれよ」
お兄さんは苦笑いを浮かべ、俺はその様子に慌てて手を振る。
「いや、そう言うわけじゃ……」
「君の話は、勝久から聞かされたことがあってね。ちょっと生意気で、目が離せない生徒が一人いるってさ。あいつの口ぶりではかなりかわいがってる感じだったんだ」
……せんせ、俺のことお兄さんに話してたんだ。
「まさか、その子と同棲してるとは思わなかったけどね」
「ど……」
俺は動転してお茶をこぼしそうになる。
「ど、同棲じゃないですよ。同居です、同居。ただ、俺が居候させてもらっているだけなんです!」
慌てて弁解する俺。
そんな様子に、まあまあと手を振るお兄さん。
「あの、お兄さんは……」
「ぷっ」
「へ?」
俺が言葉を発すると、突然、お兄さんは吹き出し、笑い始めたのだ。
「あっははははははは!」
腹を抱える大熊の目尻に、涙が光っている。
「あ、あの……」
「ごめんごめん。いや、お兄さんなんて、こそばゆい物言いされたのは初めてなもんで」
「そ、そうですか」
「君がそんなに緊張して、しかもお兄さん、だろ。『弟さんをお嫁に下さい』なんて言われるところを想像しちゃってさ」
「はは、まさか……」
……なんだ、その発想。
でも、おっそろしく鋭い。
背中が冷や汗で冷たい。
「で、何だい?」
「なんで、突然訪ねてこられたんですか?」
俺は言葉遣いに注意しながら気になっていた事を聞く。
「うん。あいつが何か隠し事してるのが分かったから」
「隠し事ですか?」
「そう。電話口で、一人じゃないのに一人、なんて嘘ついて。ねえ、あの時勝久にちょっかいかけてたの、大輔君だろう」
「……」
返答に困る。あの時、せんせがイクところまで聞かれていたら、はいそうです、なんて答えられないじゃないか。
「まあ、いいけどさ」
お茶を啜りながらお兄さんは言う。
「実際に、同棲してるなんて重要なことをごまかしてたんだし」
「だ、だから同棲じゃなくて。男と男ですよ、俺たち」
「ああ、ごめん。言葉の使い方間違ったかな」
お兄さんは平然と言う。
「でも、せんせの隠し事が分かったんなら、すぐ帰るんですか」
表情を変えないまま、目一杯の期待を込めて俺は聞く。
「そうだなぁ。どうしようか迷ってるところだよ。どうも、勝久はまだまだ隠し事をしてるみたいだし。大輔君もね」
「お、俺がですか」
「俺、勝久に聞いたんだよ、大輔君のこと」
……お、俺のこと?
せんせは、一体何を言ったんだ?
「……な、何を?」
俺はごくりと唾を飲み込む。
「大輔君は、見た目はいかついのにすごく甘党だってこと」
「?」
確かに俺は酒だけじゃなくて、甘いものにも目がないけど。
「つまり、コーヒーには砂糖とミルクを入れるって」
「へ?」
……何を言いたいんだ、この人は。
「それ、苦くないかい?」
お兄さんは俺が持っているコーヒーカップを指差す。そこには、ブラックのコーヒーが波打っていた。
「コーヒーの味がわからなくなるほど緊張するなんて、何か隠し事があるとしか思えないだろ」
済ました顔でコーヒーをすするお兄さん。
……このおっさん。
4
「うわ、この料理むっちゃうまいですね」
「そうかい? こう見えても料理は意外と得意なんだよ」
3人で囲む、夕食の席。
今日は俺が作るからと、お兄さんが料理を作ってくれたのだ。
せんせが先入観を持たせるから怖がってしまったが、お兄さんは案外いい人だった。
かなり鋭いところがあるから言葉には気をつける必要はあったが。
それでも、慣れてくると楽しく会話をすることができた。
俺のせいでお兄さんが来たのなら、ちゃんと納得して帰ってもらわないと。
俺は俺なりに、そんな責任感のようなものも感じていたのだ。
「大輔君とは食事の趣味があいそうだなぁ。酒も甘いもの好きってとこも同じだし」
「そうですね、そう言えば、持ってきてくださったあの大福、むちゃくちゃおいしかったです」
「だろう? 勝久は甘いものを食わないからな。そうだ、うちの近所にうまい和菓子屋があるんだよ。今度遊びにおいで」
「ありがとうございます! そう言えば、お兄さんは何のお仕事をしているんですか?」
「俺かい? 大工だよ。うちは昔から大工の家系でね」
「あれ、でもせんせのお父さん、ラブホの経営してるって」
「なんだ、勝久はそんなことまで話したのか。そうなんだよ。うちの親父も、昔は大工の棟梁だったんだがね。俺が一人前になったと同時に引退したんだ。昔からやりたかったことをするんだってさ。何をするのかと思えば、ラブホのオーナーだなんて。呆れて口も聞けなかったよ。あの好き者の親父め。部屋に監視カメラでも置いて、盗撮してるんじゃないだろうな」
くすくすと笑うお兄さん。
和気藹々と会話は進んでいく。
ただ一人、苦虫を噛み潰したような顔をしているせんせを除いて。
「なあ、兄貴」
やっと、せんせは口を開いた。
「なんだ?」
「いつ帰るつもりだ?」
「口を開けば、そんなことを言うのか。つれないなぁ。せっかくお前が住む町まで来たんだ。仕事も今は落ち着いてるし、もうしばらく居候しようかな」
「そうですか。じゃあ、明日あたりこの辺案内しましょうか」
その言葉に、せんせは俺を睨みつける。
「そりゃ、うれしいなぁ」
如才ない会話が続いていく。
「おい、大輔、どういうつもりだ!」
お兄さんが風呂に入っている間に、せんせは俺を問いただす。
「いや……」
「何で兄貴とあんなに仲良くなってるんだ」
「だって、せんせのお兄さんだから……」
嫌われたくないし。
「俺がお兄さんと仲良くなったら駄目なのかよ」
「そうじゃないが……」
「せんせ、どうしてそんなにピリピリしてんだよ。俺何か悪いことしたのかよ!」
「悪いことも何も、大輔が電話口で邪魔するから、こんなことになったんだろうが」
せんせは俺を睨みつける。
「分かってるよ、そんなの」
俺は小さく頷いた。
「悪いなあと思ってる。思ってるから、こうして気を使ってるんだよ。それをせんせがぶち壊しにしてどうするんだ」
「気を使うにも限度があるだろうが。大体、そんなにペラペラ喋って俺たちのことがばれたらどうすんだよ」
「……」
その言葉に、俺は何か言いようのない拒絶感を感じて、うつむいてしまう。
せんせの言葉からは、まるで、今やってる同棲がただのお遊びでしかないように感じられた。
結局、俺たちの関係は異端でしかないのだ。
分かってる。せんせにとっては、俺のことよりも世間体のほうが大事なんだろう。
それはしょうがないことなのかもしれない。
でも、それだったら、俺のせんせを思う気持ちは、どこにも届かないように思えてしまったのだ。
「もういい!」
しかし、せんせは俺の不安な気持ちに気づいてはくれなかった。
「俺は出かけるから。今日は帰らない」
「え?」
「そんなに仲良くしたいなら兄貴と仲良くすればいいだろう」
「せんせは……」
「ハッテン場にでも行って来る」
その投げやりな言葉に、俺は泣きそうになる。
「せんせ……」
「……」
もう何も言わず、せんせは俺に背を向ける。
「なんだ、喧嘩でもしてんのか」
タオルで頭を拭きながら、お兄さんが風呂場から出てくる。
「いや、なんでもない」
せんせがお兄さんに手を振る。
「さっき同僚から電話があって、今日の宿直変わってほしいって言われたんだ。それを大輔に伝えてただけだ。じゃあ、言ってくる」
お兄さんにそれだけ告げると、せんせは俺の顔も見ず、部屋を出て行く。
「……」
俺は何も言えなかった。
今日初めて会った人と、こんな風に布団を並べて寝るなんて。
分厚い布団に包まっているはずなのに、なぜか心が寒々しい。
寝返りばかりで、全然眠れない。
……そういえば、こんな風に喧嘩したの初めてだったな。
ちょっとした言い合いはいつもするけど、その度にせんせがため息をついて終わるか、俺が簡単に頭を下げて終わるかどちらかだった。
それが正面切って怒鳴りあうなんて。
……寂しい。
せんせがハッテン場で他の男を犯している場面を想像するだけで泣きそうなぐらい憂鬱になる。
やっぱり、俺はせんせが好きだ。
せんせがどう思っていたとしても、俺にはせんせしかいないんだ。喧嘩して初めて、俺はせんせの大事さに気がついた。
俺はただ、せんせに甘えていただけなんだ。
もっとお互い向き合わないといけないんだ。
じゃないと、ずっと一緒にいられないから。
「ごめんな。俺が来たせいで」
不意に、隣に寝ていたお兄さんが話しかけてくる。
「……いえ」
俺は小さく首を振った。
「あんな奴だが、悪い奴じゃないんだ。あれだけ直情的な行動を示せるなんて、きっとよっぽど君に心を許しているんだろう」
「そうだと……いいんですけど」
「兄としてお願いするよ。あいつのこと、よろしくな」
「……はい」
5
「すまんかった」
ドアを開けて開口一番、せんせはそう言った。
朝の七時。
玄関から小さな音が聞こえたので行ってみると、扉を開けたせんせの姿があった。
出迎えた俺の顔を見ると、せんせは小さく笑う。
「ちょっと言い過ぎた」
そして素直に頭を下げた。
「俺も、……ごめんなさい」
軽口はいくらでもわいてくるのに、大事な言葉はなかなか出てこない。謝るのは昔から苦手だ。面と向かって本心から頭を下げるのだって、生まれて初めてかもしれない。
でも、ちゃんと謝らなきゃ。
やっぱり、ずっとせんせと一緒にいたいから。
「いや……」
その言葉に顔を上げる。
「大輔は俺を気遣ってくれたのに、俺はその気持ちを汲めずにをお前を傷つけた。俺、お前に甘えてたんだな」
俺は、顔をくしゃくしゃにして笑う。
……俺とせんせ、同じこと考えていたんだな。
そう思うと嬉しくなって、俺はせんせに抱きついた。
「お、おい」
慌てて後ろ手にドアを閉めるせんせ。
「兄貴に見られるじゃないか」
「大丈夫。もう、帰ったから」
「帰った?」
「うん、さっき始発で」
なんでも、隠し事は全部分かったから、と。
「そうか」
と頷くせんせ。
兄貴は、聡いからなと、小さく呟いた。
「で、あの……」
俺は、小さく口ごもりながらせんせの顔を診る。
「何だ?」
「あの……ハッテン場は、どうだった?」
俺のおずおずとした口調を笑い飛ばすようにせんせは言う。
「馬鹿言え! そんなとこ行くかよ」
「え?」
「ありゃ口からでまかせだ。大体、どこにあるのかも知らねぇのによ。朝まで呑んでたんだよ、一人でな」
「よかった……」
俺の言葉に、せんせは笑みを浮かべる。
「だからちゃんと溜まってる分、お前が出してくれよ」
「うん!」
勢いよく頷く俺に向かって、せんせは小声で聞いた。
「今日は……お前が攻めてみるか?」
「え? ……いいの?」
俺はその言葉に、耳を疑う。
「こないだお前がケツ触ってから、なんか疼いちまってさ。たまにはこういうのも、いいだろ」
「う、うん!」
俺はもう一度強く頷いた。
6
「な、なんかいつもと違うから、照れるな」
ちょっと頬を赤らめているせんせを布団に押し倒し、俺たちは口と口を重ねる。
「こういうのもたまにはいいと思うよ」
俺は濃厚なキスをしながら、バナナの皮をはぐようにつるりと服を脱がせる。そして、柔らかい指の腹で、そのビロードのような黒いわき腹や太ももを刺激していく。
「く、くくぅ!」
歯を食いしばるせんせ。チンコだけじゃなくて、他のとこまでこんなに感じやすかっただなんて、俺は知らなかった。
「くそ、なんか恥ずかしい。……やっぱり止めだ止めだ。俺にやらせろ」
「駄目だよ、せんせ」
俺は起き上がろうとしたせんせを押さえつけたまま、そそり立つチンポに舌を這わせる。びくん、と体を震わせる熊獣人。
「だ、駄目だ……」
セックスの最中にこんな弱々しい声を出すせんせは初めてだ。いつもと立場が逆転するとそれはそれでそそられる。
俺は勢いづいて喉元までぶっとい肉棒を飲み込んだ。
ぐちゅり、ぬちゅり。
「あ、あ……」
泣きそうなせんせは、目をつぶってしまう。
……なんか、かわいい。
俺は顔の動きを早めながら、舌を使って亀頭をきつく締め付ける。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぬちゅ、ぬちゃ、ぐちゃ。
「ぅくくぅ……!」
悶えるせんせを見ながら、俺はゆっくりと太ももを抱えあげていく。
「じゃあ、いくよ」
俺は先走りでぬらぬらと光るモノをせんせの菊門に押し付けた。
「ちょっと痛いかもしれないけど、せんせ、辛抱しろよ」
そう言うと、ぐぐ、と力を入れていく。
「ぐ、ぐぐぐ」
せんせの菊門は、少しだけ抵抗をみせたが、少しずつおれを飲み込んでいく。
「大丈夫?」
久しぶりなのだろう、痛みに顔を引きつらせながら、何とか頷いてみせるその顔がいとおしい。
ぬちゅり。
「全部、入った」
きつい。この締め付けがたまらなく気持ちいい。
「悪い、このまま動かんでくれ」
「分かってる。どう、つらい?」
「つらいけど、少し気持ちいい」
その言葉通り、一度は萎えかけていたせんせの逸物がもう一度勢いを盛り返している。
俺は気が紛れるようにさわさわと片手でせんせのチンポを触りながら、もう一方の手で優しく乳首をつまんでみる。
「うぅ、うぅぅぅ」
「ああ、たまらない」
感じる場所に刺激を受けたせいか、尻の穴が蠢いて、俺のチンポを刺激する。もうこうやってじっとしているだけで発射してしまいそうだ。
あまりの気持ちよさに、おれはつい腰を動かしてしまう。
ぬちゃ。
「あぁ」
「ごめん、痛かった」
「いや。大丈夫だ」
その言葉に、俺は腰を動かし始める。
ぬちゃ、ぬちゅ、ぬちゃ、ぬちゅ。
今にも発射してしまいそうなのをなんとか堪え、俺はせんせの菊門を味わう。
「すっげぇ、気持ちいい」
「俺もなんか、ケツの奥が熱くて、なんか……なんか、変だ」
ぐちょ、ねちょ、ぬちゅ、ぬちゃ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちょ、ぐちゃ。
腰の動きと同時に、せんせのチンポを掴む俺の指の動きも自然と早くなってしまう。
「大輔。だめだ、だめだ。おかしくなる。このままだと、俺、イっちまいそうだ」
うわ言のように叫ぶせんせのチンポが破裂しそうなほど膨張している。
「いいよ、イってしまえ!」
ぬちゅぬちょごちゃぐちょぐちゅぐちょ!
「ああ、ぐぅぅ、イ、イクぅ!」
せんせの菊門が今までにないほど、ぎゅっと締まる。と同時に、俺の顎めがけて白い銃弾が打ち出された。
どびゅっ、どびゅっ!
あごが生温かいもので濡れていくのを感じたときに、俺の我慢が限界に達したことが分かった。
……これ以上は、ムリだ!
「くっ、すげぇ。おれも、おれもイク!」
俺はせんせの菊門深くに、白濁液を発射する。きつく締め付ける尻の穴を押し広げるように、チンポが脈打ち、そのたびに俺のザーメンがせんせの中を満たしていくのが分かった。
「たまには……逆転するのも悪くないだろ」
息を荒げながら、俺はせんせに片目をつぶって見せる。
「いやだ。やっぱり……恥ずかしいな」
この期に及んで、照れた顔を見せるせんせ。
俺はこれ以上口答えさせないために、唇でうるさい口を塞いでやった。
7
「せんせ、お兄さんから荷物届いてるよ」
数日後。
小さな宅配便を受け取ると、俺は玄関を閉めてせんせを呼んだ。
「何を送ってきたんだ」
嫌な顔をするせんせに、俺は荷物を押し付ける。
「さあ」
倉田堂と書かれているきれいな包装紙を無造作に破ると、中身を取り出すせんせ。
「ええ、なんで羊羹なんて送ってきてんだよ。俺甘いもの嫌いだって知ってるだろうに」
ぶつぶつと呟く声を聞きながら自室に戻ろうとすると、おい、とせんせに呼び止められる。
「なんだ?」
「これどうも、大輔宛てみたいだ」
取り出した羊羹の箱と、中に入っていた手紙を渡された。確かに、手紙には『大輔君へ』と書いてある。
「なんだろう」
俺は受け取った手紙を広げる。
「う……」
一読して、絶句する俺。
「何が書いてあるんっ……」
覗きこんだせんせも、言葉を無くす。
『大輔君へ
弟をよろしくな。
素直じゃないが、そんなに悪い奴でもないんで、末永くかわいがってやって下さい。
俺は二人の関係を応援するから。
追伸
でも、電話中はオイタはしちゃ駄目だぞ
熊田憲次」
「……これって、なんか……全部ばれてないか、俺たちの事」
「……うん」