1
「せんせ、これ全然わかんねえよ」
「わかんねえじゃないだろうが。ちったぁ自分で考えろ」
俺―熊田勝久―は、机にかじりついたままうなっている年若いトラ獣人の頭を、ヒグマ種特有の黒い体毛で覆われた手で軽くはたいてやった。
「そんなこと言わねぇでさ、教えてくれよ」
体育教官室の隅で不満そうな顔で唇を尖らせるこの虎獣人の生徒は、放課後になると当たり前のように、俺に勉強を教えてくれと押しかけてきているのだ。
体育教師に勉強を教わりにくるなよと初めは内心思ったものだが、今まで不良として突っ張っていた手前、俺の他には頼ることも出来ないのだろう。
……不器用な奴だからな。
もっと素直になれば、もっと違った世界も見えてくるだろうに。
まあ、そのきっかけを掴むために大学に行かせたい俺としては、勉強を見てやるのも仕方なしと思い、協力しているのだが。
これが日常の1コマになって、数ヶ月が経つ。
今まで、ろくに勉強なんかしていなかったこいつが、出来ないなりに首を捻りながら問題集とにらめっこしている姿を見られるのは喜ばしいことだ。
教師冥利に尽きるとも言える。
特に、こいつが不良然としていた頃を知っている身としては。
虎村大輔。
185センチと、生意気にも俺より身長が高くガタイもいいこの虎獣人は、高校教師をしている俺の担当生徒だ。
喧嘩っ早くて、成績が悪くて、学校じゃ友達もほとんど作っていない、まあ一匹狼のような奴だったのだが、それでも俺なんかに懐いてくれている。
俺のことが……好きなのだそうだ。
教師として尊敬しているのではなく、恋愛対象としての、好き。
こんな小さいおっさんのどこが好きなのか、俺にはまったく理解できないのだが。
そしてまあ、俺もこんな大輔のことが嫌いじゃない。
にくからず思っている。
まるで手のかかる弟といった感じなのだろう。
生意気だが、意外にかわいいところもある。
といっても、俺の立場は一教師。もちろん、生徒に手を出すなんてことは、出来るわけがない。
俺と付き合いたいという大輔には、無事卒業して大学に入ってからだと釘を刺している。そのせいで、奴は今まで勉強をしていなかったツケを払わされているのだ。
……もっとも、大学へ行けば、こいつの気持ちも変わってしまうんだろうけどな。
俺を好いてくれる気持ちはうれしいが、しょせんそれは学校という狭い環境の中でのこと。
もっと広い社会に出れば、こいつは俺なんかよりもっと好きな、ふさわしい相手が見つかるだろう。
学校の教師に憧れている生徒の気持ちなんて、まあそんなもんだ。
そして、その方がこいつにとってはいいことなんじゃないか。
……俺みたいな、しがない体育教師と付き合ったって、いいことなんざないだろうからな。
そんなことを考えると、一抹の寂しさとともになぜか胸にちくりと痛みを感じてしまう。
しかし、そんな気持ちを俺は心の奥底に押し込める。
……俺の役目は、こいつを無事大学に送り出してやることなんだから。
それが教師として俺が大輔にしてやれる一番のこと。
そう、まずはこいつを無事大学に合格させることが先決なのだ。
2
「熊田先生、いますか?」
部屋の隅でうんうん唸る大輔を見るのにも飽きて、扉のそばで雑務をしていると、ふいに、低い声が外から漏れ響いてくる。
「はい」
俺が返事をすると同時に、部屋の扉が開けられた。
と、見上げる俺の目の前には、肉厚な白い塊が展開される。
190センチはあるだろう、俺とはまるで違う、熊獣人にふさわしい縦にも横にも大きな身体。
「ああ、熊ヶ谷さん」
きょろきょろと部屋を見回していた白熊─熊ヶ谷一朗─は、真下から聞こえる俺の声に、そのふてぶてしく見える顔を下に向けた。
その巨躯のため、前を向いていては俺のことが視界に入らなかったのか。
こちらを見て、罰の悪そうな苦笑いを浮かべている。
悪いことをしたと思っているのだろう。
……まあ、そう考えるのもしょうがないだろうな。
その表情に、俺は思わずふきだしそうになった。
熊ヶ谷さんとは違い、おなじ熊獣人だと言うのに(ヒグマと白熊の違いはあるとは言え)、俺は170センチ足らずしかない。当然、この白熊獣人どころか、生徒である大輔にも見下ろされるような有様だ。
それをこの白熊獣人が、コンプレックスに思っていると考えるのも無理はない。
まあ、32年も付き合った身体だから、今さら嫌も応もないのだけれど。
ただ、たまに生徒の間で囁かれる『こぐま』というあだ名だけは勘弁して欲しいと思ってたりはする。
ともあれ、せっかく訪ねてきてくれたのに気まずい思いをさせることもない。
向こうが謝罪を口にする前に、こちらから話しかける。
「最近、評判ですよ。熊ヶ谷さんのおかげで、松前がおとなしくなったって」
「そうですか」
松前というのは、1年の狼獣人の生徒だ。
大輔と同じく、不良のように荒れた生活をしていたのだが、このところその行動がめっきりおとなしくなってきた。
どうやら、それを指導したのが用務員である熊ヶ谷さんなんだとか。
……大輔担当の俺と同じく、この人も不良担当要員にさせられちゃったんだな。
そんな熊ヶ谷さんの用件とは、やはりその村松聡史に関することだった。
彼のために、わざわざ体育教官室まで足を運んで、俺に頭を下げに来たのだろう。
……しかし、面倒くさがりのこの人が、随分と入れ込んだものだなぁ。
俺は感心する。
用務員としての最低限の仕事はこなすが、それ以外のことは決して進んでやるような性格じゃないと思っていたのだけれども。
何か、2人の間には事情があるのだろう。
……まあ、ああいう手のかかる生徒はついつい面倒見たくなるもんなのかね。しかもそれが自分に懐いてくれるとなると、特に。
そんな気持ちを押し隠し、話を聞いていると、ふいに後方から大きな声が聞こえる。
「せんせ、まだ話終わんねぇのかよ。早くここ教えて欲しいんだよ」
見ると大輔がノートを広げて泣きそうな顔でこちらを見ている。
ふう、と俺はため息をつくと、声を張り上げて怒鳴り返す。
「馬鹿野郎っ! 熊ヶ谷さんに失礼だろうがっ!」
その言葉に、まるで青菜に塩といった様子で、大輔はしゅん、と耳を垂らした。
「お前には勉強よりも礼儀を教えなきゃいけないようだな」
「……俺だって浪人したくねぇから、必死なんだよぉ」
言い訳がましく小さくブツブツと言う大輔を見ると、俺はため息を抑えることができなかった。
「お互い、不出来な生徒を持つと大変ですな」
俺は白熊獣人に向き直り、似合わないウィンクなんか寄越して見せると、彼は目を白黒させてこちらに頷いて見せた。
「まったく、もうちょっとなんとかならないもんか?」
熊ヶ谷さんを帰した後、俺の説教に大輔はうなだれてみせる。
「だってよぉ……。あと1ヵ月なんだぜ」
彼の希望する大学の前期試験は2月。
あと一ヵ月をきっている。
「焦る気持ちは分かるけどな」
試験科目は国語と英語のみ。
それほど難しい学校でもないし、今の学力なら十中八九大丈夫だろうと俺は思っているのだが、大輔は不安を隠すことが出来ないのだろう。
「しかし、本当にお前は手がかかるな。まったく、熊ヶ谷さんがうらやましいよ。村松はお前と違って、成績はいいみたいだし」
あちらは、普段の素行に問題があるだけで、勉強はできるらしい。
「せ、せんせは俺なんかより、村松の方がい、いいのかよっ!」
俺の言葉を真に受けたのか、大輔は口から唾を飛ばして、食ってかかってきた。
……やれやれ。
強気に見せているが、その瞳は、不安で揺らいでいるのがよく分かる。
……本当にこいつ、甘え下手な奴だなぁ。
まあ、そういうところは見ようによっちゃかわいいのだが。
「馬鹿、気にしすぎだよ。人は人、だ。お前は本当にしょうがない奴だなぁ」
俺は大輔の頭に手をやり、くしゃくしゃと撫でてやった。
3
「おお、さむさむ」
夜の11時。
2月に入り、寒さもピークを迎えている。
分厚い上着を羽織っていても、冷たい空気は針のように俺の肌を刺す。
かじかんだ太い指先で、ポケットの中から小さな鍵を苦労しながら取り出すと、俺は急いで鍵穴に差し込み、扉を開けた。
中に飛び込み扉を後ろ手に閉めると、暖房をつけていないとは言え冷気は遮断されたために家の中は暖かく感じた。
そのまま玄関から部屋の中へ目をやると、乱雑に散らかった部屋の様子が目に飛び込んでくる。
普段からこぎれいにしているわけではないのだが、最近はもうゴミ溜めと言われても仕方ない有様。
冬場だからいいようなものの、夏場だとゴミの匂いで辟易してしまうかもしれない。
「この時期はしょうがないよな」
3年の生徒を受け持つ身としては、この受験シーズンは1年間の中で1番の山場だ。
当然、自分の私生活に構っている余裕なんてなくなる。
今日だって、こんな遅い時間まで学校で一心不乱に仕事をしていたのだ。
「……にしても、部屋の片付けぐらいはしたいもんだ」
まずエアコンのスイッチを入れ、ちゃぶ台の上にのった食事の残骸をゴミ袋に放り込むと、新たに、スーパーで買ってきた冷えた惣菜を並べる。
空腹感にさいなまれて、暖めなおす時間も惜しいのだ。
そして、唯一の楽しみであるビールのプルタブを開けると、俺は一息で半分を喉に流し込んだ。
「ふう」
身体の中の細胞が歓喜するような刺激に、生き返ったような心地になる。
こればっかりは、部屋が冷え切っていようと、なぜかうまく感じてしまう。
「そういえば」
人心地ついて安心したせいか、ふと大輔の顔を思い出す。
「明日か……」
明日、大輔の希望する大学の前期試験がある。
他の生徒とのやりとりもしなければならないため、ここ2週間ばかりあまりかまってやれていない。
むろん、勉強会もお預けのままだ。
「大丈夫かな、あいつ」
今日の帰りのホームルームでは、平静を保っていたし、大丈夫だと思うのだが。
彼の希望する大学は、それほど偏差値が高いわけじゃない。順当に成績も上がっているし、今の大輔なら、充分に受かるだろう。
……しょうもない凡ミスしなきゃいいんだけど。
ビールを飲みながら、そんな物思いにふけっていた俺は、扉を叩くコンコンという音に、しばらくの間気づかなかった。
やがて、
「せんせ、いないのかよ」
という小さな声に、はっと我に返る。
聞き覚えがあるというよりも、毎日嫌というほど聞いている声。
「大輔か?」
扉の外には、たった今考えていた生徒がたたずんでいる。
「うん」
俺は慌てて扉を開ける。
そこには、すっかり冷え切った身体の虎獣人が立っていた。
かわいそうに、あまりの寒さに尻尾の毛までそそけだっている。
「ごめん、急に訪ねたりして」
「いいから。とりあえず、中に入れ」
俺は大輔を中に招き入れると、部屋の暖房の最大にした。
おずおずと部屋に入ったくせに、こいつははちゃぶ台の上の惣菜を見ると、ごくりと喉を鳴らす。
「なんだ、お前飯食ってないのか」
「うん」
俺は顔をしかめる。
試験前日だってのに、何を考えているんだ。
「しょうがない奴だなぁ。とにかく、これでも食ってろ」
箸を手渡し、テーブルの上の惣菜を指差す。
大輔はうんと頷くと、俺の夕飯を口に運びだした。
温かいものも欲しいだろうと、俺は湯を沸かして即席の味噌汁をこしらえると、大輔の前に置く。
うれしそうに、ふうふうと息を吹きかけながら味噌汁をすする大輔。
そんな姿を見ながら、俺は再びビールをあおった。
「お前、明日は試験だってのに、何しに来たんだ」
明日に備えて今日は早く寝ろと、ホームルームで言ったはずだろうが。
「……うん」
大輔は箸を止めて小さく頷く。
「どうかしたのか」
「俺……なんかすげぇ落ち着かなくて」
言葉少なに呟く大輔。
「家にいても、飯が喉を取らなかったんだ」
「よく言うよ、俺の飯を横取りしてるくせに」
俺は呆れたように言う。
「せんせの顔見てたら、なんだか食欲がわいてきたんだよ」
「ふん、わりかし繊細な奴だなぁ。まったく、普段は大きな顔してる癖によぉ」
「しょ、しょうがねぇじゃねえか。……不安なんだからよ」
言い返す言葉にも、張りがない。
……不安か。
俺は意外なものでも見るような表情で、大輔の顔を見てしまった。
そんな言葉が大輔の口から出るとは思っても見なかった。
そんなにも、大学受験が怖いのか。
どんな相手と喧嘩するときだって、弱気な姿を見せることはなかったというのに。
いつもは肝の太いこいつがそれだけ不安に感じているというのは、よほどこの大学入試を真剣に考えているのだろう。
俺の勧めで大学進学を決めた当初は、あまり乗り気ではなかったのだが。
……自分の将来について、本気で考えてくれているのか。
これはいい傾向だ。
教師としても、うれしい誤算だった。
俺は大輔の背後に回ると、俺より大きなその身体をぎゅっと抱きしめてやる。
「あっ」
顔を赤らめる大輔。
……かわいい奴だな。
「お前は良くやってるよ。だから焦る必要はないんだ。ちゃんと全力を出せたら大丈夫、合格するよ。俺が保証してやる」
「……せんせ、ありがとう」
「今日は泊まってくか」
飯を腹に入れたせいか、少し落ち着いた顔の大輔を見て、俺は言う。
「せんせ、いいのか?」
「まあ、今から追い出して、風邪でもひかれたらかなわんからな」
俺の言葉に、大輔は顔を輝かせる。
「じゃ、じゃあ、ちょっとはエッチぃことも……」
「馬鹿野郎。ホームルームで言ったろうが。明日に備えて早く寝ろと」
「じゃあさ、一緒の布団で寝ていいかな?」
「駄目だ。あんな狭いところで2人で寝たら寝にくいだろうが」
俺の言葉に、『ふん、ケチ』と悪態をつく大輔。
「お前なぁ、明日が試験だって本当に分かってるのか」
「分かってるよ」
さっきまでの不安な表情は何だったのか。
ふてぶてしいくせにウブで……。
ふいに、白熊獣人の姿を思い出す。
「お前、熊ヶ谷さんによく似てるよなぁ」
「ええぇ。熊ヶ谷ってあの白熊の用務員かよ」
俺の言葉に、嫌そうな顔をする大輔。
「この間な、新年会でキャバクラ行ってきたんだけどよ」
つい先日の話だ。
学園長が全額負担してくれるというので、女性職員の目をかいくぐり、男たち全員で行ってきたのだ。
「……キャバクラ」
「ああ。熊ヶ谷さん、ああ見えて意外とウブでな、隣に座った女の子の手も自分から握れねぇんだ。もうちょっと女慣れしててもいいだろうに」
その姿を思い出して、俺は小さく笑う。
あの巨躯と顔を知っている人間なら、そのギャップに誰でも笑えてしまうはずだ。
「……」
「あのふてぶてしい面構えからは想像も出来ないだろ。いいガタイしてんのに、女の子に言い寄られて似合わず顔を赤らめてるところなんざ。ウブなところはお前にそっくりだよ。……ああ、これ内緒だから学校で喋っちゃいけねぇぞ」
そんなことがばれたら、熊ヶ谷さんから鉄拳制裁を食らいかねない。
「……」
俺の話に黙りこくったままの虎獣人。
「ん? どうした」
……面白くなかったのか。
大輔もぽつりと言う。
「せんせも……そんなとこ行くんだな」
そりゃ行きたくなくても付き合いだからな、と言い訳しようとしたが、そんな大人のしがらみを高校生に説明することを考えるとむなしくなってくる。
だから、俺は言葉少なに頷いた。
「まあな」
「……」
「ん? 興味あるのか。よし、受かったらお前も連れて行ってやろうか」
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
嫌に大きな声で拒絶する大輔。
「? まあいいや。じゃ、そろそろ寝るか。明日は俺が責任持って起こしてやるから、朝寝坊することだけはないよ」
「……うん」
4
「……じゃあ、行ってきます」
玄関の外で白い息を吐きながら、大輔は俺に頭を下げる。
「おう。頑張ってこいよ。実力を出し切れたらちゃんと受かるはずだ」
「……はい」
また不安がぶり返してきたのか、浮かない顔をしている大輔は少し腫れぼったい目をしている。
……こいつ、ちゃんと眠れたのかな。
「俺も学校があるから、大学に応援に行ってやるわけにはいかないけど、学校で吉報を待ってるからな」
「……うん」
大輔はもう一度頷くと、身をひるがえし、逃げるようにその場から駆け去った。
「よし、俺も学校に行くか」
大輔の志望大学は、試験内容が2科目と少なく、また学科の募集人数が少ない為、試験結果はその日のうちに出る。
午前中には試験が終わり、昼過ぎには結果が出るはずだ。
「遅いな」
俺はいらいらしながら、体育教官室の時計を睨む。
もう放課後になったというのに、奴はいっこうに姿を見せない。
……もうとっくに、大輔は帰ってきてもいい時間なのだが。
「何やってんだ、あいつ」
合格したせいで浮かれて、どっかで買い食いでもしてるんじゃないだろうな。
……まったく、真っ先に俺に知らせに来いよ。
せめて電話ぐらいくれりゃあいいのに。
俺の頭には、落ちているなんてことは微塵も考えられなかった。
ここ数ヶ月の頑張りで、あいつの学力は充分に合格レベルに達していた。
あいつは不安がっていたが、まず、100%受かっているはずだ。
……早く帰ってこねぇと職員会議が始まるだろうが。
学校に戻ってきたら、誰よりも先に祝ってやりたいのに。
職員会議が始まったら、また10時過ぎまで缶詰状態だ。
あいつに声をかけてやれなくなっちまう。
俺がやきもきしていると、体育教官室の扉がゆっくりと開いた。
「大輔!」
「ん? どうかしましたか、熊田先生」
扉の外からに顔を覗かせたのは、大輔ではなく、狐獣人の教頭だった。
「いえ……。なんでもありません」
「そうですか。そろそろ職員会議が始まりますよ」
俺を呼びに来てくれたのか。
「はい、わざわざありがとうございます」
俺は仕方なく、廊下に出て、教官室の戸締りをする。そして、先導する教頭の後に続き職員室へと向かう。
「君が目をかけている生徒がいるでしょう」
「……虎村のことですか」
「ええ。今日が大学入試でしたね」
「ええ。もう、結果が出ているとは思うんですが、まだ報告に来ないんですよ。まったく、何をやっているのか」
俺たちが廊下を進み、校舎の入り口に差し掛かる。
もう辺りも暗くなり、ひっそりとした下駄箱の陰に、1人の生徒のシルエットがぽつりとたたずんでいた。
「おい、大……虎村じゃないか」
それは大輔の姿だった。
俺は教頭の後ろを離れて大輔に駆け寄る。
「馬鹿野郎。何で、真っ先に俺のところに来ないんだ。お前の吉報を待ってたんだぞ」
「……」
「で、試験は楽勝だったか。ちゃんと合格したんだろうな」
なぜかうつむいたままの大輔は、震えながら小さく口を開いた。
「う……」
「どうしたんだよ」
「うるせぇよ!」
顔を上げて、俺の方を睨みつける大輔。
その姿に、俺は戸惑った。
「おい、大輔……」
俺の言葉は、最後まで続けることが出来なかった。
大輔は、きびすを返し、その場を走り去ってしまったのだ。
俺は意味も分からずその場に立ち尽くすことしか出来ない。
「どうしたんですか、熊田先生。職員会議に行きますよ」
「あ、はい……」
教頭にせかされ、俺はその場を後にした。
……まさか大輔の奴、落ちたんじゃないだろうな。
……そんなわけがない。充分合格圏にいたはずだ。
……試験だって、それほど難しくはないだろう。
……倍率も、今年は高くなかったはずだ。
……でも、なんであんな顔をしていた。涙まで浮かべていて。
「それでは来年の進路指導に関する職員会議を始めます。ええと、まず、担当を決めて、それから細かい役割分担を決定していきます」
職員会議が始まっても、俺の意識は大輔に向けられたままだった。
まったく集中できない。
合格しているに決まっているという確信があるのに、それが徐々に不安に塗り変わっていく。
そのまま何時間経ったのかわからないまま、俺はぼんやりとその場に座っていることしか出来なかった。
「で、熊田先生はどう思われますか?」
「え? あ、はい、あの……」
俺の言葉に、指名した教頭はため息をつく。
「どうしたんですか、上の空で」
「あ、すいません……」
俺は頭を下げる。
「ちょっとお疲れのようですね。まあ、このところ会議続きでしたし、皆さんもそうでしょう」
教頭は自分の腕にはめた時計をちらりと見る。
「今日はちょっと早いですが、これで終わりにしましょうか。続きはまた明日ということで」
その言葉に、部屋中の教師の口から安堵の息がこぼれた。
「では、解散」
教頭の一言で、教師たちはみな帰り支度を始める。
俺も身支度を整えると、席を立ち、職員室の外へ向かった。
「熊田先生」
俺を呼び止める声がする。
見ると、そこには大柄な白熊獣人が俺を待っていた。
「熊ヶ谷さん。こんな時間までどうしたんですか」
用務員である彼は、とっくに帰っていてもいい時間なのに。
「いや、熊田先生に伝えたいことがあって。職員会議中は部外者は立ち入り禁止なもんで」
それで、終わるまでずっと待っていてくれたのか。
「これはすみません。俺のために……。それで、なんでしょうか」
「あの、虎村って生徒のことで」
「虎村のことで何か?」
「今日、彼が入試を受けた大学から連絡があって……」
熊ヶ谷さんは言いにくそうに口を開く。
「不合格だったそうです」
「……」
そんな馬鹿な……、という気持ちと、やっぱり……という気持ちが入り混じって俺は何も言葉を発することが出来なかった。
「……ありがとうございます」
俺はなんとかそれだけ言うと、その場から駆け出した。
「……そうですか、帰ってきていませんか」
俺は短く礼を言うと、携帯電話の通話ボタンを切る。
あれからすぐに大輔の家に電話をかけたのだが、未だ帰っていないというのだ。
……もう9時だってのに。
「何やってるんだ、あいつ」
ひょっとして俺の家に来ているかもと思い、急いで戻ってみたのだが、大輔が待っている形跡もなかった。
……家に帰れないんだろうな、きっと。
「くそう、あの時俺がもっと……」
あの下駄箱で、もっとあいつの話をちゃんと聞いてやれれば。
それよりも何であの時俺はあいつのことを引き止めなかったんだ。
職員会議なんかより、大輔の方が大事なのはわかりきっていたじゃないか。
「どこに、いるんだ」
俺はいてもたってもいられず、大輔を探すために、夜の街に足を向けた。
5
こんな小さな街じゃ、繁華街といってもその規模はたかが知れている。
それでも、隈なく歩き回れば、1時間やそこらはかかるだろう。
俺は路地裏の隅の隅まで、大輔の姿を求めてさまよう。
……あいつ、今頃どんな気持ちで。
もしかして落ちているかもという可能性に少しでも考えが及んでいれば、あんな冷たい仕打ちをすることはなかったのに。
悔恨を胸に、俺はひたすら大輔の姿を探す。
路地裏から、怒声が響く。
「大人をなめてんのかよ!」
それは数人の男たちのいさかいだった。
大学生ぐらいだろうか。酔っ払っているのか、顔を赤らめている3人の獣人がいた。
運動部にでも所属しているのだろう。その獅子、黒豹、熊獣人は、背丈はさほどでもないが(それでも俺よりは大きいが)、その筋肉のつきようが尋常ではなかった。服の下から窮屈そうに盛り上がっているのが分かる。
そして、それに絡まれているのが虎獣人である、大輔だった。
「何言ってんだ。最初にぶつかってきたの、そっちじゃねぇか」
男たちは口答えする大輔を口々に罵る。
「ガキの癖に生意気言いやがって」
「殴られねぇうちに、謝っちまった方がいいんじゃねぇのか」
「子供が舐めた口利くと、痛い目に遭うぞ」
3対1で余裕がある男たちを、それでも大輔は怯むことなく睨みつけた。
「うるせぇよ! 酔っ払っていちゃもんつけるような大人が、どれだけ偉いんだよ!」
……なんでこんなところで喧嘩してるんだよ。
俺は目を疑った。
俺に勉強を教わりだして、喧嘩なんかまるでしなくなっていたのに。
……自棄になってるのか。
いくらなんでも、あの体格の大人3人相手では、敵わないのは分かっているだろう。
それでも、大輔は一歩も引こうとはしなかった。
俺が見ている間も、押し問答は続き。
折れない虎獣人の様子に、いらついていたはずの男たちは、何を思ったのか、にやにやといやらしい笑みを浮かべだした。
「そんなに反抗的なら、ちょっとかわいがってやろうじゃねえか」
「大人の世界の厳しさってのを教えてやる」
……まずい。
ごつごつしたサザエのような拳が、大輔に向かって撃ち出される。
そして、獅子と黒豹は、有無を言わさず大輔に殴りかかった。
鍛えられた身体から繰り出される動きは、案の定素早いものだった。しかし、いかんせん酔っているためか、足元がおぼつかない。
大輔はそんな2人のパンチも危なげなくかわした。
一撃でしとめるつもりが軽々とよけられて、頭に血が上ったのか。
男たちはゆるんでいた表情を引き締めて、本気で襲い掛かる。
「くそっ、ガキが。ちょこまかと動きやがって」
「おとなしく殴られてろよ」
息切れしながら口汚く罵る男たち。
一方、大輔もただ襲われているだけではなかった。
少し前まで喧嘩で慣らした身体だ。
男たちの攻撃をかわしながら隙を窺っている。
だが、その間に1番体格のいい熊獣人が背後に回っていることに大輔は気がつかなかった。
「酔っ払いはおとなしく帰って寝てろ!」
相手のパンチをよけた虎獣人が拳を繰り出そうとした瞬間、
「捕まえた」
後ろに回った男が、身構える大輔の身体を捕まえ、がっしりと羽交い絞めにしたのだ。
「は、放せよ!」
拘束から逃れようと必死に抗う大輔だが、男は余裕の笑みを浮かべたままその身体を放そうとはしない。
「手間をかけさせやがって」
「このままたこ殴りにしてやるよ」
……やばい。
荒い息を吐いている男2人が、身動きできない大輔に近づく。
「とりあえず、1発殴られとけ」
獅子獣人はにたにた笑いながら拳を握りしめると、大輔のみぞおち目掛けて一撃を繰り出した。
……間に合えっ!
ばちっ!
「がはっ!」
獅子の拳は腹部に吸い込まれ、濡れた雑巾を床に叩きつけたような音を響かせた。
「せ、せんせ……何で、こんなところに」
そう、俺の腹部に。
獅子の拳は、飛び出した俺の腹を強打したのだ。
俺は痛みに脂汗を流しながら、男たちに頭を下げる。
「す、すいませんでした。こいつには後でちゃんと言い聞かせるので、許してやってください」
だが、突然の乱入者に男たちは顔をしかめる。
「関係ないおっさんが、しゃしゃりでてくるんじゃねぇよ」
「おめぇもひどい目に遭わされたいのかよ」
そう言うと、獅子はもう一度拳を放つ。
顔を狙ったそれを、俺はよけなかった。
がっ!
唇が切れ、口の端から血が滴る。
それでも、俺は顔色一つ変えなかった。
「なっ」
それを見て、声を上げる獅子獣人。
俺はそんな彼らをじろりと見つめる。
驚いたようにじりじりと身を引く男たち。
そんな彼らを見ながら俺は―その場にしゃがみこんで頭を地面にこすり付けた。
「お願いします。許して、ください」
「……」
「……」
「……」
俺の態度に男たちは動揺したように顔を見合わせる。
やがて。
「ま、まあ、いいさ」
「どこまでするなら、許してやるよ」
「しょうがねえ」
男たちはそう言い残すと、暗闇の中に歩き去っていった。
残されたのは、俺と大輔の2人。
……けっこう、いいのもらっちまったな。
未だ鈍い痛みが広がったまま。
俺は殴られた腹を押さえながら、よろよろと立ち上がった。
血の味がする唇を腕で乱暴に拭う。
そんな俺を見下ろして、大輔は声を張り上げる。
「せんせ、なんで止めたんだよ」
「……」
「それもあんな奴らに土下座なんかして。なんだよあれ! 格好悪いじゃねぇか!」
俺は顔を歪める大輔を見て、静かに口を開く。
「いいじゃねぇか。格好悪くたって。俺が土下座して、事が丸く収まるならよ」
「でも、せんせならあんな奴らに負けねぇだろ!」
「喧嘩なんざして、警察沙汰にでもなってみろ。お前、後期の試験受けられなくなるだろうが」
それが、一番怖かった。
ここ数ヶ月の大輔の努力が水泡に帰してしまうことが一番怖かったのだ。
警察沙汰にされて、試験を受けられなくなるぐらいなら、殴られた方がなんぼかマシだ。
「……せんせ、試験のこと」
「ああ、聞いたよ。残念だったな」
俺の言葉に、大輔は唇を噛む。
「……もう、いいんだよ。どうせ、俺じゃ、駄目だったんだ」
「何を言ってるんだ。あれだけ頑張ってきたんだろうが。それが全部無駄になっちまうんだぞ」
「もう、いいんだよ。俺の事なんかほっといてくれよ!」
「馬鹿野郎!」
俺はこらえきれず、大輔を殴ろうと拳を振り上げる。
そんな俺を睨みつける大輔。
「っ!」
俺はその目が、きらりと光っているのを見て思わず手を止めた。
……泣いているのか。
大輔の瞳には、涙が浮かんでいた。
……涙を流すほど、こいつはどうしようもなく追い詰められていたのか。
俺は振り上げた手を下ろした。
……なんで俺は、こうも大輔の気持ちを分かってやれなかったのか。
俺は両腕を伸ばし、大輔の体に手を回すと、そのままぎゅっと力を込めた。
「ごめんな。これだけお前が追い詰められているなんて、俺は全然気がつかなかった。本当、ごめんな」
その言葉に、大輔の瞳から大粒の涙がぽろぽろとこぼれる。
「せんせ……、ごめんなさい、ごめんなさい」
6
俺はそのまま、泣きじゃくる大輔を連れて家に戻った。
ちゃぶ台の前に座らせ、コップに酒をついで、目の前に置く。
「ほら、酒でも呑んで落ち着け」
しかし、大輔は手を伸ばそうとはしなかった。
俺はため息をついて、一升瓶のまま酒をあおった。
切れた口にアルコールがしみる。
「なあ、なんであんなことしたんだ」
「……」
俺は理由を聞くが、大輔は口を利こうとはしない。
……喋ってくれなきゃ、わからねぇじゃねえか。
俺はいらいらして、なおも酒をあおる。
熱い衝動が胃の腑を焼いていく。
それでも、俺は気持ちを落ち着けるために、口に酒を注ぎ続けた。
俺が一升瓶を空にした頃、ようやく大輔は口を開いた。
「もう、どうしていいのか、わからなかったんだ」
大輔は、やっと震えながら呟いた。
「試験に落ちて。せんせに声をかけられて、逃げ出して。気がつけばあんなところに突っ立っていて。そばにいたあいつらにいちゃもんつけられたんだ」
「……逃げりゃあいいだろうが。それとも、3人相手に勝てるとでも思ったのか」
「思わなかった。でも、もう全部めちゃくちゃになればいいと思ってた。あのままボコボコにされてもいいって思ってた」
「……試験に落ちたのがショックだったのは分かる。だが、まだ後期試験だって残ってるだろうが」
……まだ希望がなくなったわけじゃないだろうに。
「俺には無理だよ」
「……」
「今日の試験だって、ちゃんと出来たと思ったのに、問題だって全部解けたし、いけるって思ったのに、受かってなかった」
「……」
「これでせんせと付き合えるって思ったのに、せんせのものになれるって思ったのに、駄目だった。やっぱり、俺みたいなおちこぼれが、いまさら頑張ったって駄目なんだよ。俺みたいな奴に出来ることなんて、何もないんだ」
「……」
俺には何も言えなかった。
おちこぼれなんて、言うなよ。
……なんでそんな自分を貶めるようなことを言うんだ。
一生懸命やっていた裏で、こいつはこんなコンプレックスを感じていたなんて。
……もっと、俺が気を配ってやれば。
「……」
俺は自分の不甲斐なさで、大輔に対して何も言ってやることができなかった。
そんな俺の沈黙をこいつに対する拒絶だと受け取ったのだろう。
大輔は、うつむきながら口を開く。
「せんせが、こんな駄目な俺に呆れ果てているのは分かってるんだ。俺だって、こんな奴がそばにいたら嫌だと思う。だから今までみたいに親身になってもらえなくてもいい。もう、付き合ってもらえなくてもいい。でも……」
大輔は小さな声を震わせながら呟いた。
「お願いだから……嫌いにならないでください」
「……っ! ば、馬鹿野郎っ!」
俺はその頬を思わず拳で殴る。
そして顔を泣きそうに強張らせた大輔を見て、ひっしと抱きしめた。
「俺がお前を嫌いになるわけないだろうがっ!」
こいつにこんなこと言わしちゃいけねぇのに。
……教師失格じゃねぇか。
「なんで、なんでそんなこと考えるんだ」
「だって、結局勉強もできねぇし、俺みたいな人間は、せんせにふさわしくないと思ったから」
「……」
ふさわしくないって、何なんだよ!
「せんせ、こないだキャバクラ行ったろ」
「ん? ああ」
「それって、やっぱ……今でも女が好きってことなんだろ」
「……」
「でも、俺は女じゃねぇから、きっとせんせに本気で好きになってもらえない。それはしょうがないんだ。でも、ならせめて、せんせとの約束を守りたかった。大学にいければ、たとえお情けでも、約束だからって胸を張ってせんせのそばにいられる」
「……」
「でも、あんな成績じゃ無理じゃねぇか! せんせとの約束も守れない、そんな俺がせんせのそばにいられるわけがないだろ。俺はせんせにふさわしくないんだ」
あの時、付き合いでしょうがなく行ったと伝えなかったことを、こんなに後悔する羽目になるなんて……。
だが、いまさらそれを口に出しても、言い訳にしか聞こえないだろう。
「なに、似合ねぇこと言ってるんだよ!」
……やくざ相手に喧嘩してた強気なお前はどこにいったんだよ!
俺が怒鳴ると、大輔は悲痛な声で怒鳴り返す。
「俺だって、こんな女々しいこと考えたくねぇよ! でも、自分が一番好きな相手の足枷になんて、なりたくねえじゃねぇか!」
「……」
「俺、せんせが世界で一番好きだから、せんせが一番望むように生きて欲しいんだ。せんせの邪魔になりたくないんだ!」
大輔のその言葉に、俺の中の何かがぷつりと音を立てて切れた。
俺は大輔を黙らせるように、その身体の上から襲い掛かる。
「せ、せんせ、何するんだ」
「うるせぇ! さっきからガキが生意気なことを言いやがって!」
そこには、冷静な心でいようとする教師の姿はなかった。
酒の勢いもあったのだろう。
そこにはただ、自分の心の忠実な、獣の欲望しか存在しなかった。
「俺が一番望むように生きて欲しいだ? 面白ぇじゃねえか。じゃあ、一番やりてぇことやってやるよ」
俺はそう言うと、若い虎獣人の身体を押し倒した。
「俺がどれだけおめぇの身体をかわいがってやりたかったか分かるのか! 好きな相手が家に来てるってのに、ずっと手も出せずにお預けで、悶々してた俺の気持ちが分かるか!」
俺は大輔が嫌がるのも気にせず、着ている服を引きちぎる。
「せんせ、服が……」
大輔は怯えたような表情を見せる。
それが、この上なく俺の嗜虐心を誘った。
「うるせぇ! いつもいつも生殺しにしやがって! おめぇのためにひたすら我慢してたっていうのによぉ。後からおめぇを想ってどれだけ抜いたと思ってやがる。大人を舐めるんじゃねぇぞ!」
俺は荒々しく、大輔と唇を重ねる。
「あっ……」
舌を引っこ抜くような勢いで吸い、からめる。
「おめぇはなぁ、もう俺のもんなんだ。他の奴の事なんざ、眼中にねぇんだよ。くだらねぇこと気にしてるんじゃねぇ!」
今まで辛抱を重ねてきた分、もうこれ以上我慢することは出来なかった。
俺は大輔の身体を押さえつけたまま、重ねた唇から下へ下へ口を這わせていく。
舌先を蛇のようにうごめかしながら、大輔の身体を余すことなく味わうように。
若い匂いのあふれる首筋に鼻をうずめ、その匂いを堪能する。そして、、ぴちゃぴちゃと舌を動かしながら、俺の匂いに染めていく。
「あっ」
くすぐったいのか、大輔は身をよじろうとするが、それは俺が許さない。
そのまま舐め下がり、小さな乳首にたどり着くと、舌先を小刻みに動かしながらその小さなふくらみを弄んでやる。
「うっ、くっ」
女のように身悶えして抵抗しなくなった大輔の体から押さえつけていた手を放すと、今度は反対の乳首を軽くつまんでやる。
びくん、と身体をのけぞらせる大輔。
「せ、せんせ……こんな……」
「うるせぇ、黙ってろ。おめぇは俺のもんなんだよ!」
そのまま、強弱をつけながらいたぶってやると、大輔はたまりかねたように小さな嬌声をあげた。
「おい、このままどうして欲しい」
俺はゆっくりとへそまで舌を動かしながら、くぐもった声で聞く。
……もっと大輔を気持ちよくしてやりたい。
俺の頭の中には、それしかなかった。
「う、うぅ……」
「おい、どうして欲しいんだよっ」
「チ、チンポに、触って欲しい……」
恥ずかしそうなその言葉に、俺は指先を大輔の下腹部に向ける。
そこには、先走りにまみれた逸物が、腹を打たんばかりに勃ち上がっていた。
まだ幼い色の逸物は、俺よりも若干大きく見えた。
「こんな、いやらしい汁垂らしやがって」
俺はそれを、舌先でべろりと舐め上げた。
「あぁっ」
雄の味がする。
大輔の味がする。
「せんせ……!」
俺は上目遣いであえぐ大輔の顔を見上げながら、口いっぱいに逸物を頬張り、くちゅくちゅと音を立てながら大輔の反応を楽しんだ。
「あ……、せんせ、すげぇ……チンポが、とろけちまいそう」
ぶっとい逸物が喉をついて苦しいが、俺はかまわず顔を上下させ、その肉棒をむさぼり続ける。
大輔の限界が訪れるたのはすぐだった。
「あ、駄目だ。もう……、せんせ!」
逸物が一段と太く硬くなり、発射を迎えようとする。
俺はその瞬間を味わおうと、舌先で大輔の亀頭をぐりぐりと強く擦るように刺激してやった。
「あ、せんせ、駄目だ……すまねぇ!」
どぷっ、どぷっ。
その言葉と同時だった。青臭く苦い白濁液が俺の舌を直撃した。
舌先に重たいその大量の濃い液体を、俺はゆっくり味わいながら呑み込む。
射精して敏感になっている亀頭を俺は下でそのまま刺激し続ける。
身体をビクンビクン動かす大輔。
「まだ萎えてねぇじゃねえか。もう1発イっとけ」
「せんせ、無理だよ」
「俺に逆らうんじゃねぇ!」
今度は手のひらで、重たい金玉を弄ぶ。
そして、もう一方の手で竿をしごきながら、もう一度激しく亀頭を舐め上げる。
「あ、あぁっ、せんせ、また、イっちゃうよ!」
「ああ、イケ、イっちまえっ! 俺の口に思いっきりぶっ放せっ!」
俺は亀頭を喉の奥まで突っ込んだ。
「ごほっ、ごほっ」
急に噴き出したザーメンに俺はむせながら、喉を鳴らす。
やがて口を離すと、ぐったりと目をつぶる大輔の姿が目に入った。
その顔が、たまらなく愛おしく感じる。
……こいつは、俺のもんだ。
俺は掌に大量の唾を落とすと、その手で自分の逸物をこねくりまわす。唾液と先走りとでずるずるになった肉棒。そのまま大輔の両足を抱え込んで、肉棒をケツに押し当てる
「せんせ、何を」
「二度としょうもねぇことを考えられないようにしてやるよ!」
……こいつは、俺のもんなんだ!
「あっ」
「ほれ、力を抜け!」
硬くすぼまるケツ穴に俺は逸物を突き立てた。
「ううっ」
むろん初めてなのだろう。
押し広げるそこは本能からか、俺を受け入れまいと必死に抗うが、大輔はそれでも俺の言葉どおり力を抜こうと努力する。
「うぐっ」
やがて、唾液と先走りのおかげか、俺の亀頭が、するりと大輔の中に呑み込まれた。
「大丈夫か」
「うん。せんせ……」
大輔は俺に向かって手を伸ばす。その指先を重なるように絡めてやる。
そして、俺はずんずんと腰を突き進めた。
初めての道を切り開く喜びに、俺の逸物がよりいっそう硬くなるのが分かる。
大輔は異物感に耐えながら、必死に俺の指を握りしめる。
「これで……全部だ」
ずんっ!
「す、げぇ」
うわごとのように呟く、大輔。
温かい大輔の中は、俺を離したくないとでも言うようにきつく締め付けている。
「くそっ」
その感触に、そのままでもイってしまいそうだった。
俺は爆発しそうな快感に耐え、大輔の表情を見ながら、ゆっくりと腰を動かす。
少しずつ押し広げるように。
ぬちゅり、ぬちゅりと、淫猥な音が響く。
「エロい音させやがって」
その言葉に、大輔は顔を赤らめる。
やがて、俺の肉棒の存在に慣れてきたのか、ちょっとずつ締め付けがゆるくなり、動かせる範囲が広がっていく。
俺は腰の動きを前後だけでなく左右にも動かしながら、その感触を楽しんだ。
「あっ!」
腹の内側をえぐるように動かすと、ふいに大輔が声を上げた。
「なんだ、気持ちいのか」
前立腺をうまいこと刺激したのだろう。
見れば、萎えたはずの大輔のチンポが、もう一度勃起し始めている。
「うん。なんか、わかんねぇけど……」
前立腺を刺激されるのは初めてなのだろう。今まで味わったことのない快感に、戸惑いを見せる大輔。
「ここが、いいんだな」
俺は腰を大きく動かして、肉棒を強くこすり付けてやる。
「ああっ!」
口を大きく開ける大輔。
「え、どう気持ちいいんだ」
俺がその顔を見つめると、大輔は恥ずかしそうな顔をする。
「なんか、なんかむずがゆいような、小便が漏れそうな……でも、ケツの奥が気持ちいいんだ」
「よかったじゃねぇか。ケツの奥で感じるなんて。おめぇ、女になる才能が立派にあるんじゃねぇのか」
「せんせ、そんな、恥ずかしいこと……あぁっ
俺はみなまで言わせなかった。腰の動きを早め、大輔が感じるポイントを執拗に付き続けた。
「あ、駄目だ、せんせ。すげぇ、すげぇよぉっ!」
初めての感触に乱れる大輔。
俺はその姿を堪能しながら、腰の動きを止めることはなかった。
いつまで、掘り続けただろう。
「せんせ、もう……気持ちよすぎて……壊れちゃいそう、だ。もう、イカせてくれよ」
そう言いながら、自分の逸物に手を伸ばそうとする。
あまりの気持ちよさに怖くなってしまったのだろう。
しかし、俺はその手を押さえつける。
「馬鹿野郎。気持ちいいんだろうが。このまま、壊れちまえ!」
俺はそう言うと、今まで以上に肉棒を強く叩き込み続けた。
より強く、より早く。
「あっ、ああっ、せんせ、、せんせ、もう、ああっ!」
突如、俺の肉棒が引きちぎられそうなほど、大輔のケツが締まる。
「イ、イクぅっ!」
若い逸物から、勢いのないザーメンが、しかし二度目とは思えないほど大量にあふれ出していく。
「大輔、大輔! 俺も、俺もイっちまうからな。くそっ、ぐぅぅぅっ!」
俺も我慢の限界だった。
唇を噛み、唸りながら大輔の中に、己の子種を思いっきりぶっ放す。
ぶちゅっ、ぶちゅっ。
金玉がすっからかんになりそうな快感とともに、大量の白濁液が大輔の中を満たしていく。
その快感に体中を浸しながら、俺は目をつぶった。
そのまま、しばらく意識が遠のいてしまったのか
気がつくと、雄臭い匂いが充満する部屋の中で、俺は大輔の上に覆いかぶさっていた。
はっ、と顔を上げると、大輔のうつろな表情が目に入った。
……俺は、何ということを。
酒に酔ってしまったとは言え、教師にあるまじき行為をしてしまった……。
俺は慌てて身を起こし、大輔に声をかける。
「すまん。大丈夫か」
さっ、と手を差し伸べようとして、俺は躊躇した。
それは脳裏に浮かぶ大輔の表情のためだった。
追い詰められ、涙を流すその瞳。
服を引きちぎられ、怯えたその顔。
教え子にそんな顔をさせたのは、おれ自身なのだ。
……俺にはもう、大輔に触れる資格すらないのではないか。
手を宙に浮かしたまま、俺は動かすことが出来なかった。
と、その指先を大輔が掴む。
「大輔……」
「せんせ、俺、ちゃんとせんせのものなんだな。俺、せんせのものになれたんだな」
震えながらもその表情は明るさに彩られていた。
「……嫌じゃなかったか」
「怖かったけど、うれしかったんだ。初めてがせんせで、本当によかった。ありがとう、せんせ」
俺の思惑とは真逆の反応に俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
……やれやれ。
俺は自分のしでかしたことに戸惑ってたっていうのに、こいつはそれを喜んでいるなんて。
「まったく、お前は本当にしょうがない奴だよ」
俺はそういうと、大輔の頭をくしゃくしゃと撫でた。
7
「もう、あんなケアレミスなんて、するんじゃないぞ」
「何度も同じこと言うなよ。分かってるよ」
大輔は、俺の言葉にうんざりしたような表情を浮かべた。
「しょうがないだろうが。まさか、あんなミスをするなんて」
前期試験の話だ。
あの後、大輔の答案をチェックしてみると、マークシートの欄をすべて一段ずつ塗り間違えていたというのが分かった。
……それで合格するわけがない。
「あの時は、せんせがキャバクラに行ったとか言ってたから、動揺してチェックする余裕がなかったんだよ」
「何でも、人のせいにするんじゃねぇよ」
俺はポカリと大輔の頭を殴る。
「今日は大丈夫だよ」
大輔は、笑う。
そう、今日は後期の入学試験。
またも俺の部屋から登校する大輔は、前期のときとは違い、はつらつとした表情を俺に見せる。
「合格にしろ不合格にしろ、結果が出たらすぐにおれに知らせに来いよ」
駄目だったら駄目で今後のことも考える必要があるんだからな。
そう言うと、大輔は生意気にも笑って見せた。
「大丈夫。絶対受かって見せるから」
「まあ、その自信があれば、大丈夫か」
……その自信を生んだのが、俺のあの晩の暴挙とは考えたくないのだが。
教師としてはあるまじき過ちを思い出し、俺が赤面していると、
「そのかわり、受かったら今夜はまた一緒に寝てくれよな」
とんでもないことを言い出す大輔。
「ば、馬鹿野郎! それはちゃんと卒業してからだ!」
「そんなこと言ったって。分かってるんだぜ、せんせに酒を呑ましたら襲ってくれることぐらい」
「……」
「でも、酔っ払ったせんせは、むちゃむちゃ男らしくて格好いいから惚れ直しちまった」
「……」
「じゃあ、行ってくるよ」
「……ああ。頑張って来いよ」
「うん!」
呆れ顔のまま見送る俺に、大輔は大きく手を振った。