その囚人は少し変わった雰囲気だったという。
とにかく落ち着いていた。
明日、彼の犯した多くの罪に対しての罰が執行される。
四肢の完全な除去。
もう何もできない肉塊になってもらうというもの。
人権も失う、死刑がない代わりの重罰である。
もう間もなく己の四肢を失うというのに
惜しむ素振りがなかった。
翌々日の目覚めもため息ひとつといった程度。
もはや自分の世話もできなくなり
他人の庇護を受けるようになっても取り乱さない、
それどころか世話役の職員に礼を言う程であった。
客観的に見ればおかしいとしか考えられないが、
その時の職員達は多忙を極めており
手間がかからなくて良い、
という程度にしか思わかっただそうだ。
四肢を失い人権も剥奪された虎は
送り出す職員達に微笑み返し、
そして閉じられた木箱の中でニヤリと口角を釣り上げた。
-----
昼も夜もない真っ暗な木箱の中では
時間の感覚もわからなくなる。
ぎっしりと隙間もない緩衝材の間に挟まれて、
ただひたすらに運ばれている感覚だけが伝わってくる。
唐突なゆさぶり、ゆらりと重力感覚がなくなる。
どうやら到着したらしい。
話が聞こえてくる。
計画に間違いがなければ・・・
開けられた木箱に差し込む光に目が眩む。
「おう、お帰り。」
計画に問題などあるわけがなかった、あいつの声だ。
「おう、戻ったぞ。」
別れる前と変わらない笑顔を見せるライオンに
俺は心から微笑んだ。
この痩せライオンはスフォラという、
心から信頼できる相棒であり、友であり、そして・・・。
スフォラは俺を抱え上げて梱包材の中から救出する。
「人権剥奪されたから、前の名前は名乗れないんだよな・・・
そうだな、今日からお前は縞々虎猫のタマちゃんだ。」
「ふん、やめろそんなの、俺はガルバディだ。」
「しょうがねえな。
じゃあ改めてよろしくな、ガディ。」
わかってたとばかりに笑うあいつを見て安堵を覚えた。
「さてと、まずは飯か風呂か?それとも・・・どうする?」
相変わらずの準備の良さだった。
全く動かなかったのもあって空腹感はそれ程でもない。
「では風呂からで頼む。
梱包材か何かが毛に絡んで気分が悪い。」
背中の辺りが気になっていたものの
体をうねらせても捻っても余計絡むだけで
自力ではどうしようもなかったのだ。
「よしわかった。」
そういうとスフォラは俺を抱きかかえた。
相変わらず痩せた腕だと思う、
密着するとあばらっぽくって抱かれ心地もそんなに良くない。
少し、いや少しではない。暖かかい。
車椅子で廊下を運ばれながら
俺が達磨になってる間の事を尋ねた。
まずは組員が全員無事かどうか。
「だいたい、予定通りだ。
捕まった奴の大半は雇った偽装組員。
すでに目を付けられている幾人かは
一緒に捕まってもらうしかなかった。
まだ回収できていないが、
全員、居場所の見当はついてる。
まず一人無事に回収できたし、
他も全員回収できるだろう。」
つまり捕まった連中で回収できたのは俺だけなのかと尋ねる。
「ああ、おまえが最初だ。」
思いついた疑問を察するかのようにスフォラは続けた。
「ん、おまえみたいにほど重い身体刑を受けた場合は省略されるが、
本来は歩行訓練とかある程度のリハビリがあるそうだ。
だからまだ時間がかかるだろう。」
ふむ、と相槌。
「あいつらもお前と同じように覚悟の上でのことだ。
偽装組員として雇った奴らの家族にも
十分すぎるくらい報酬を渡した。
いまさま気にすることではない。」
もう始まってしまったのだから引き返せはしまい。
そうだ。もういまさらどうしようもない。
-----
まともに身体を洗えたのはどのくらい前か、
そう、まともな身体だった頃が最後だ。
いまは風呂場に用意されたマットにうつ伏せに置かれ
全身を洗われている。
毛皮が泡立てられ、油脂が落ちていく。
洗い方はマッサージも兼ねている。
狭い木箱の中で固まっていた筋肉が順番に揉みほぐされていく。
「ここは痛みとかはないか?」
肩の腕の付け根であった部分をつかまれた
「案外丁寧に処理されていたから痛みはない、
ただ少しかゆみがあった。
同じように解してくれ。」
両肩と両腰の四か所を揉み解される。
もう自身では二度と触れられないなったところからは
古傷にあるような痒み程度の弱い痛みや
肩のような腕のような不思議な触覚を覚えた。
うとうととしてきたが、まだ聞かねばならない事がある。
ここまでやるからには目的も達成されなければ意味がない。
「そうだな、世間一般の認識を言うと、
ガルバディ逮捕、そして刑罰執行。
ヘッドが不在となり、ガルバディ・ファミリーは分裂して崩壊、
取るに足らない残党がいくらか残るっている程度。
そんなところだ。
もう監視対象からも外れているのも確認した。」
スフォラは手を止めずにすらすらと近況について語る。
「完全に崩壊。そう見せかけることには成功した。
誰もがおまえの計画と帰還を信じて潜伏している。」
湯をかけられて泡が流される。背中は洗い終えたようだ。
「おまえが無事に帰ってきてくれて俺は、・・・
いや、みんなうれしく思うだろうな。」
体を持ち上げられて仰向けにさせられると、
少し紅潮し、視線を逸らす痩せライオンがいた。
まったくこいつは。
「ああーそう、あとは、そうだな。葉っぱの栽培状況も上々だ。
新しい地下精製工場の建設も進んでいて・・・」
-----
ふと気がつく。
目の前に料理が出来上がっている。
スプーンを手に取ることにした。
食器に触った気がするが持てなかった。
「ガディ起きたか?飯の用意はしたがどうする?
もし疲れているならもう寝るか。」
食器に触れたような気がしたが、
夢うつつの中で記憶が混濁しただけの錯覚だった。
そうだ、確か風呂場にいた。うたた寝してしまったようだ。
着替えも済んでいて毛皮も乾いている。
「ああ、平気だ。食べよう。
あーいや、食べさせてくれ。」
少しニヤリと笑ったスフォラが応じ、隣に座ってスプーンを手に取る。
料理は粥であった。
スプーンで差し出された粥を口を開けて受け取る。
初めからぬるめであったようで猫舌でも問題ない。
まるで子どもになったようだ。
いや子どもでも自力で食事くらいはできる。
もはや今の俺は赤子同然だ。
粥は薄めの塩味で少し物足りない。
俺の体調を気遣っているのだろうか、
そこまでは悪くはつもりだがまあいいだろう。
付け合せにローストビーフを添えたサラダがある。
まだ何も言っていない。その前に視線で察したのか、
スプーンをフォークに持ち替え、肉を差し出してくる。
こいつは気の効くやつだがここまでとは思わなかった。
肉の味は、非常に美味い。
スフォラの味付けだ。
雄ライオンのクセに家庭的な奴だ。
急に日常に戻ってきたような気がする。
日常と言ってもマフィアの日常など非常事態ばかりだが、
それでも懐かしい。
そうだ。
肥大化し、完全に包囲監視され、
身動きの取れなくなった組織をどうにかする必要があった。
崩壊したと見せかけて再び再結成する。
その崩壊の説得力を持たせるために、
そして俺自身への注目も逸らすため、我が身を犠牲にすることにした。
覚悟はしていた。
それにスフォラがいれば例えどこかで失敗したとしても
すぐにフォローしてくれると信じられた。
それに全くダメだったとしてもスフォラさえいればと思っている。
だから。
「ガディ、ここには俺しかいない。
辛かったら言ってくれ。」
ごちゃごちゃ考えていたのを見抜かれたようだ。
本当にこいつは。
そう思い身をよじり、倒れ込むように身を任せた。
俺を支えるスフォラの顔を覗き込むようにして口を開いた。
「なあ、俺。もう何にもできないんだな。」
スフォラに会えたことで
強張ってた思いが解けて何でもない当たり前のことを実感した。
「そうだな。
お前の世話もお前のやりたいことも
これからは全部俺がやってやるから。」
こいつはいつも俺の後ろからついてくるくせに
こういうことはまっすぐに見て恥ずかし気もなく言ってくる。
「・・・お前を抱きしめたい。」
スフォラだから言える本音の吐露。
「自分の手で抱きしめたいってことか、
それはどうしもうもないな。」
これで我慢してくれと言いながら俺は抱きしめられた。
顔がライオンの鬣に埋もれるとスフォラの臭いでいっぱいになった。
触りたい、触れたい。
思いが心から溢れてしまった。
-----
すでに服を脱がされた俺はベッドで横たわりながら見上げていた。
服を脱ぎながらスフォラが言う。
「あんな感情的なガディも中々新鮮な感じだったな。」
ふんと顔を反らしてやった。
裸になったスフォラが俺の上に覆いかぶさるようにしてくる。
自然と俺達は見つめ合うことになる。
何気なく思いついた。
「案外、夜はそう不自由しないかもしれんな。」
いつもこの体勢多かったと思い出した。
ただ俺が動けない分、いつもよりもスフォラがグッと近づいて口づけをした。
すでにかなり興奮してしまっている。
全力で勃起しているチンポをスフォラが咥えた。
あいつの方も興奮しているのか、いつもよりも激しく舐る。
ローションを自らの尻に塗りたくり自分で仕上げていく。
ずいぶんとせっかちな様子だ。
「おおい、少し強すぎる。
お前も自慰で済ますんじゃないぞ。」
へへっと笑う紅潮した顔はずいぶんと艶めかしく若返って見える。
こいつは割としっかりしているようで、
ベッドの上ではだらしないくらいに雌になる。
全部俺の指導の賜物だが、才能はあったということだ。
改めて俺にまたがると俺のチンポの上に腰を下ろしていく。
俺は何もできない。
いや本当に何にもできないわけではない。
腹筋や背筋を全力で使えば腰を突き上げられる。
こんな風にな。
「ヒャァ!アァイヒン!」
想定していなかった動きで突き入れられた
不意打ちを受けたスフォラは奇声を上げて喘ぐ。
完全に雌のものとして出来上がっている十数年物の尻穴を貫く、
サカナか何かかのように腰を跳ねさせる。
パンパンと小気味良い音が数度鳴ったところで
早くもスフォラが放ってしまった。
とはいえこちらも久々の快感にあえなく放った。
びしゃびしゃとスフォラの精液に塗れ、
自分の精液が垂れてきて腰もベタベタに塗れた。
サプライズ成功。
としたり顔で言いたいところだが、
疲労感が強く息も切れ切れでとてもではなかった。
全身精液塗れになりながら、非常に充実した思いに満ちた。
やっと会えたのだ、一回程度じゃ終わらせないさ。
終わった後も一緒にくっついていた。
むしろ行為中よりもくっついてくる。
俺の腹と背中にに腕を回し抱きかかえるようして
俺の顔に顔を押し付けて擦り付けてくる。
「なあおい、ずいぶんベタベタするな。」
嫌な気はしない。それどころか気持ちいい。
ただスフォラが積極的にやることじゃないようだとも感じた。
「今日気が付いた。
お前ってスキンシップが特に好きだったんだってな。
いつもそうだったのにやっと気が付いた。
俺も結構好きだってことにも気が付けた。」
おまえが満足できるくらいなと
今度は足まで使って全身で俺を抱っこしてきやがった。
本当にこいつはと思いながら、
俺も顔を寄せてあいつの鼻っ面を舐めてやった。
-----
とある街の屋敷。
もはやこの街一帯で彼らに手を出せるものはいない。
警察組織すらもう彼らの手中にある。
屋敷に数台の車が到着する。
そのうちの一台が屋敷の正面に止まり、
車を出迎えるのはいかつい連中、このファミリーに従う者達だ。
降りてきたのは白髪交混じりの鬣を持つライオン。
しかしこのファミリーのヘッドはこの老ライオンではない。
二人がかりで車から降ろした四肢のない虎人、
この方こそがヘッドである。
達磨を載せた車椅子を押すのは最初に降りたライオンだ。
この男は車椅子を押す役目だけは他の誰にも譲らない。
屋敷の食堂ではヘッドの到着を待っていたようで、
見知った顔が揃っていた。
重鎮と言える顔ぶれはほとんどが義手や義足、車椅子だ。
一人では食事ができず介助者が付き添っている者も多い。
大きな代償があった、
しかし誰も欠けることなく再結成できたことはこの虎とっては
とても喜ばしく誇りに思っていることであった。
夜の自室にて、
「買収の話はすんなりと進みそうで良かったな。」
車椅子から降ろされながら昼の話を思い出した。
「元々向こうにも得る物が多い話だからな、
それにこんな覚悟の塊みたいな奴がヘッドなら
それ以上言う事ないだろう。」
スフォラに身を任せ、服を脱がしてもらう。
何もできないというわけではなく、
上を向いて首のボタンを外しやすくするくらいはしている。
上裸となり、ほとんど布袋みたいなパンツだけとなると、
後ろから腕を回されて腹を撫でられた。
「少し、いや結構太ったな。」
「そりゃ仕方ないな。」
さらに顔を寄せて頬が触れ合う。
「運動しないといかんな。」
「そうか、それじゃたっぷり運動させてくれ。」
お互いの感触を確かめ合うように顔を動かすと
二人の毛皮が絡み臭いが混じり、ぬくもりが行き来した。
「ベッドの上でな。」