貴方の事が好き……らしいです?

  「貴方の事が好きらしいです」

  言葉を聞いて、首を傾げた僕は正常であると願いたい。告白なのにらしいをつけるとはどういう事か。新作のハニードーナツでも途中で視界に入ってしまったのか、花粉の症状が堪え切れずに曖昧な言葉を選んでしまったのか。電柱に身を隠していた僕は姿を隠す行動を止め、呆然としながら明後日の方向を眺め続けている友人に声を掛ける。黒のスタジャンを着込み、灰色のテーパードを穿いている。お洒落の知識は乏しいので何とも言えないが、近所にアイスを買う程度なら別段問題はないだろう。

  一瞥した服装から、友人の姿形に目を向けてみよう。丸みを帯びた耳、白と黒が交互に入り混じる体毛。ホワイトタイガー、つまる所虎である。性別は僕が記憶している限り雄。身長は低くも高くもない。

  「随分曖昧な告白をされたみたいだけれど。感想を聞かせて欲しいな、前屈みになりそう? 好みだった? それともタイプじゃない?」

  「……ハッ! 一辺に尋ねるな。好みはそうだな、嫌いではないが好きという程でもない。結婚を前提にお付き合いを申し込まれる覚えはないとだけ言っておこう」

  冷静な低音が返って来たが、よく白い虎を観察すると明らかな動揺の証である足の震えが窺える。余程衝撃的だったのだろう、雪が溶け春の足音も近づいてきたというのにいきなり真冬に飛ばされたようだ。

  告白の文を述べられ、足早に立ち去られた後悩む。

  一見、普通に見えるだろうか。好きでも何でもない相手と恋仲を結ぶのは理想ではない、経済面摘観点から見ると胃が頻繁に空にならなければ人それぞれだろう。問題があるとすれば、相手の性別が自身と合致している事だろうか。桃色のスカートも水玉模様のスカーフも巻いておらず、ペイルオレンジのシャツを着こんだ百獣の王だと僕の脳は告白して来た相手を判断する。鬣が特徴的だったし、間違いはない。

  状況を整理すれば、雄が雄に自身の愛を告げた。心温まり、性別の壁など今のご時世ぶっ壊す先進的な発想だ。大衆に受け入れられるかは別として。兎も角、思った以上に告白された方は状況を上手く脳で整理出来ずに呑み込めていない様子だったので。一度、深呼吸やらラマーズ法を試させ落ち着かせる事とした。

  「一度落ち着こう。何事も焦ったらいい判断が出来なくなるよ。吸って、吐いて。吸って、吐いて」

  「そうだな、落ち着くべきだ。慌ててはいないんだが、思考を冷やすには丁度いい。すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ……すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ」

  指示通りに深呼吸を白い虎は始める。素直に従ってしまっている辺り、相当の焦りを感じているのだろう。彼を落ち着かせるには何がいいか、悩みに悩んだ結果。今やっているかと僕自身脳の処理機能が低迷していた事実を確認し。冷静になれば解けない謎はないと信じたい一般人根性を沸き立たせ、事件の解決に邁進するべく。

  「落ち着いたよね。それじゃあ整理して理解しようか」

  [newpage] 近場に座れる場所がないか探し、よさそうなベンチに腰を掛ける。白い虎は珈琲を片手に、僕は水道水をコップに注ぎ口に含みながら。うがいが目的ではない、状況の整理と解決に向けた行動をするにはどうすればいいかを話し合う為だ。

  「好きと告白されたのは喜ばしい事だよね。相手が好みの相手かどうかは別としても、悪い気分にはならないよね」

  「川の流れのように無関心と敵意を向けるのは止めてくれ。住所も連絡先も知らない相手の告白を断るにはどうすればいいんだ」

  喜ばしい事ではある、祝いの言葉位は渡しても別にいいだろう。ただ、素直に喜べというのは友人として嫉妬の一つ抱かないというのは。仮に、好みの人ではなかったとしてもだ。素知らぬ誰かからお誘いを受けるのは非常に、魅力はないが憧れる。

  「ごめんなさい。たった六文字で解決する話ではあるよね。だっていきなりなんでしょ、好きでも何でもないなら断ればいい。相手の迷惑を考えないのは人としてどうかと思うし」

  「真面目に考えて答えてるなら冷め切ってるな。もっとあるだろう、例えよい返事を出せなくとも友達としてならいいとか。ご縁が無く、来世に期待しましょうとか」

  「気まずい雰囲気漂う交友関係を持ちたいなら別だよ。告白されて、友達から。疚しい気持ちが相手にないと考える方が無理あるよね」

  率直に、全ていいえの精神を出した方がいいと提案を出す。日本人はどんな事にもはいと答えてしまいがちだが、断る部分は断らないと貧乏くじだけでなくあたり棒を当てる機会を逃してしまう。それだけは駄目だ。

  「そうは言ってもだな。勇気を出して告白して来た相手だぞ、無下にするのも気が引けるし」

  「ワンチャンスあるって思わせる方が危険だと思うんだけどな。知らないよ、飲み物に一杯盛られて目が覚めたら体を縛られてアダルトなグッズに囲まれていたとしても。股間にバイブがあったり肛門にアナルビーズ詰められていたりしても知らないからね?」

  「公共の場で交わす言葉じゃないな……」

  呆れ気味に息を吐かれるが、意中の相手に告白し成就する夢を持っている者ならありえなくはないだろう。メンヘラ思考、とかいう奴。五分に一回メールを返さないと包丁持って押しかけてくるのは実際だったか作り話だったか。

  「どっちでもいいか。いいから断りなよ、好きでも何でもないんでしょ。だったら悩む必要ないじゃん。無駄な時間を過ごさせている僕の身にもなってみなよ。アイスかクレープ、種類は何でもいいから奢って貰わないと割に合わないよ」

  「好奇心で突き動いている奴が口にする言葉じゃないな。分かった、断るさ。縁を切ってさようなら、それが一番いいだろう」

  素直に切らせて貰えるかは分からないけれどね。出掛けた万が一の可能性を頭に過らせ、違うと願いたい身勝手な思いから口を噤んでいる事にした。大丈夫、多分。薄い本が厚くなる展開になったら、ご愁傷様という事で。

  [newpage] 蝋燭の火が仄かに辺りを照らしている。光源が蝋燭しかないせいか、嫌に暗さが目立つ。酒でも飲んだのだろうか、甘い味が口内に広がり後を引いている。曖昧な視界が鮮明になり、自身の状態が整然となった。

  縄できつく、体を縛られている。木製の椅子に、入念に。

  頭の理解が追い付かず、体を少し捻る。これがどうか、悪い夢でありますようにと願いながら。食い込む縄、痛みを訴える肌。間違いはない、現実だ。頬を抓って最終確認を取りたい所だが、腕も縛られていて動きが取れない。

  「目覚めましたね、おはようございます。今の時間は子供が寝る時間ですが、大人の空間は夜に広がり無限の広がりを見せるものです」

  爽やかな声が耳に届くが、体は寒気を走らせた。驚きよりも、恐怖が全身を走り抜けているのは何故だろうか。視界に人が入る、光が蝋燭だけであるからか。輪郭も曖昧で認識が辛い。

  「い……言っている事の意味は分からないが、助けてくれ。縄を解くだけでいいんだ、頼む。それくらいなら力がなさそうな貴方にも出来るだろう」

  交渉を持ち掛ける。失礼な物言いだとは重々承知で、それでも混乱を脳に走らせながら選んだ言葉なのだから多めに見て欲しい。SOSのサインを浮かべる声を発するが、相手は状況を理解していないらしく。頭がこんがらがる意味不明な言葉を並べる。

  「夜は長いと思いますか、短いと思いますか。私は長いと思います、何故なら好きな人と一緒に居るのですから。共有したいですよね、好きな人と一緒にいるという時間は」

  妙な引っかかりを覚えた。指摘するには至らなかったが、首を傾げても文句は言われないだろうと信じたい。言いたい事は一つ、縄を解いて欲しい。緊縛趣味は残念ながらない、お引き取り願おう。

  「頼みます、折角の休みを潰すのはケーキに乗っている苺を最初にも最後にも食べず落としてしまうような物。分かってくれませんか?」

  懇願の意を込めて、消え入るように伝えてみる。蚊が鳴くような声にはなっていないだろうから、伝わったとは思ったのだが。首を下に傾けていたペイルオレンジのシャツを着た獅子は、徐に俺に近づき。

  「貴方がいけないんですよ、貴方が。私の告白を断るんですから、叶うとは思っていませんでしたが。夢に見る位、いいじゃありませんか!」

  口に独特の臭いを放つ縄を当てられ、言葉を発せなくさせられる。呼吸困難には陥らないが、窮屈さは増した。解放、されるだろうか。一抹の不安を胸中に抱き、誰かが助けに来ますようにと祈りを捧げた。警察でも何でもいい、誰か助けてくれ。

  「縄で体を縛られた白い虎は、自身の肉棒を握られ小さな声を漏らす。『くっ…ううぅん! 止めろ、止めてくれ。友達から、という話だっただろう。お前とは深い関係を築きたく…あぁっ…そこは……』火照った体は快楽に正直だった。身をよじり、透明な雄臭い液を漏らしながら、頭で否定を繰り返し。底なし沼に沈むように、徐々に快楽に身を落としていく……という筋書きを考えたんだけど、実践してみる気は?」

  「一切ありません」

  きっぱりと断られてしまった。折角禁断の密会が出来るというのに、薄情な奴だ。縄で縛られ、雄を詰られる。鞭で背中でも叩かれるのだろうか、一昔前という三文字が過ったのは僕が持つ想像力が著しく低いせいだろうか。

  「夜のホテル街に消えてずっこんばっこんランデブーする気がないなら、やっぱり二択の内の一択であるいいえを選ぶべきだと思うよ」

  「言い方をもう少しオブラートに包む気はないか。直球な考えは嫌いじゃないが、あんまり度が過ぎると引かれるぞ」

  過ぎたるは及ばざるが如しなる諺もある事だし、この辺りでストップをかけるか。それで、何の話だったか。縄で体を拘束されてしまい、泣き寝入りする形で性奴隷になる懇願をするのだったか。

  「鈴口を縄で縛られて、射精出来なくさせられるのって浪漫があるよね」

  「食べて消化しておけ。告白の返事をどうするかだったか……断るって言ったよな。何で悩んでるんだ、こんな事で」

  栗の味を空気に混ぜて飲み込み、そろそろ真剣に考えてみるとしよう。住所不定職業不明姿形百獣の王さんをどうするかを考えねばならない。答えは出ているが、伝える方法がなければ駄目だろう。

  「手紙でも出してみるというのはどうかな、『愛していない君へ、返事はノーです』シンプルに行こうよ」

  「渡す手段がないだろう、地面に置くのか。梟にでも頼んでみるのか、相手に届いたら本当にラッキーだな」

  皮肉交じりに笑い飛ばされたが、伝える手段としては昔を思わせるグッドなアイディアだと思う。成功率が低そうとは感じている、口に出していないだけで。顔に文字が浮かび上がる前に、参考になりそうな意見を出してみるか。

  「じゃあもう白い虎の精液を添えて送るのはどうだろう。それがいいよ、今僕天才的な思いつきをした」

  「自分で言うな、自画自賛は恰好悪いぞ。というかだ、俺に射精せと? 受け入れられたと勘違いされてバッドエンドだろ」

  我儘だな、本当に。満更でもなさそうな表情ではなく、顔が引き攣り珍現象でも目撃したような顔だ。引かれているのは確かだろう、両手を上げられ賛成されてもそれはそれで困るが。

  「『はぁはぁ……うっ』して出して、断りの返事出しなよ。そうすれば相手は今後のおかずが手に入り、関係が断ち切られる。ウィン―ウィンだろう?」

  「蟠りは残るだろう、雄がついてる手紙とか持ち歩きたくないし。不衛生だろ」

  子供を成す大切な遺伝子だというのに、あんまりな言い方だ。仕方がない、ここは一肌脱いでやろう。とっておきとは言えないが、気乗りしない行動をする前段階。やる気を出すやる気を引き出すのも友人の役目だ。

  「町中を探すのは手間がかかるし、こうしよう。告白された場所に立ち尽くして、相手が来るのを待つんだ」

  「以外と理に適った作戦だな。偶々偶然、同じ場所ですれ違う可能性に賭けてみる訳か」

  「……偶然じゃない可能性、狙いを澄ました犯行の可能性もないとは言い切れないけれど」

  気にしすぎるのもどうだろう、という事で深くは考えずに告白された場所へ舞い戻る事にした。僕は勿論、目撃した電柱に潜み。野次馬根性を胸に抱え、様子を見守る体勢を取る。

  「そ、それであの。返事を…返事を聞かせて下さい」

  桜は舞わず、甘くも酸っぱくもならない。敢えて言葉を選び、場所を示すなら通行路。鬣を右手で弄り、緊張を走らせているのが窺える百獣の王。サラリーマンの恰好をしていたら僕自身も可愛いと呟いていた可能性があるなと自身の性癖の扉を電柱の後ろで広げ、見守る姿勢を続ける。

  「返事か、返事とは。好きという言葉に、返すという事だな。それは、あれだ。ゲームにもよく登場する二択。はいといいえの右側の方だ」

  断るとか、ごめんなさいとか言えないのだろうか。それにはいといいえは時偶変則的な位置を取る事だってある。相手が誤解をしたら大変だ、その辺白い虎は考えているのだろうか。不安を募らせながら、返事をされた百獣の王に視線を向ける。

  「そうなの……ですか。それはそれは、非常に残念というか。機会が巡って来るのを待つ日々をまた待つばかりというか」

  様子がおかしいと感じた僕は正常だろう。照れというには直感が違うと断じる。爪を立てて頭を百獣の王は掻いている。頬に赤みは含まれていないし、繁華街に直行し体を連結させる雰囲気が漂って来ない。単なる冗談だったのだろうか、それならこの辺りでお暇しておこう。深追いは禁物、追い詰められた鼠は猫も噛むと言うし。電柱に身を隠したまま、別れるのを待とう。

  「よかったです、貴方がそう答えてくれて。もし、はいと言われたらどうしようかと。嫌がっている相手に快楽を覚え込ませる楽しみがなくなる所でした、よかった」

  んっんっんー? 聞き間違いだろうか、聞き間違いであって欲しい。嫌がっている相手に快楽を覚え込ませる楽しみがなくなる所でしたと聞こえた気がする。いやそんなまさか、ある筈がないあってたまるか。聞き耳を立てよう、言い間違いや口が滑った可能性だってある。後者の場合本音か、なら前者で頼む。無理を現実に押し付け、電柱から見守っているのが悪かった。網が広げられ、じたばたと手足を動かす白い虎の姿。間違いない、捕らわれたらしい。荷物を地面に引きずる音が、耳に届いた。

  [newpage]「放せ! 一体何をする気だ。警察を呼ばれて豚箱にぶちこまれたいのか?」

  「何を言っているんですか、永遠の愛を誓い合った仲だというのに。中に出したいですね、熱くて粘り気があり感情を昂らせる魔法の液体を。沢山注ぎたいです」

  恍惚の感情を表に晒し、獅子は身を捻りながら直視を避けたくなる動きをする。くねくねと動く様は最近何処かで見たような、子供の玩具ですと言い切られた方が精神衛生上よろしい。現実は何も好転していないが、夢に出て来られる前に退散の願いを出しておこう。

  「ふざけるな。俺にあんたを愛す理由がない。縛って身動きを封じて、これで何が芽生えるというのだ」

  性愛は芽生えるんじゃないかな。少なくとも、億歩譲れば。知人の呟き声が幻聴として耳に届く。本当に空気を伝って耳に届いたかのように細いが鮮明な声だった。視界を動かせる範囲で確認を取り。鉄格子と南京錠の存在を確認する。冗談という割には、本格的な舞台装置だ。今から始まるのは何だ、落ち着いて考えろ。

  「それでは、貴方に訊ねましょう。愛とは何でございましょうか」

  縛られている縄を無理やりにでも千切ろうとしていた動きを、相手の問い掛けで静止してしまう。突然己を拘束し、言う事を欠いて愛を訊ねる。意味不明だ、訳分からん。脳の混乱を鎮め、自身の答えを述べるならば。

  「自然に芽生える物なんじゃないか。偶然、それこそ有り得ないを何万と重ねた先に。そうあって欲しいとかいう願いから生まれた……願望みたいなもん」

  望み願う。我ながら、酷い答えだ。愛とは何か、答えをどうしても出して欲しいと言われたら。何て答えれば、正解なのか。

  「私はそうは思いません。愛とは偶然ではなく必然。運命が告げる、赤い糸のような。焦がれる想い!」

  鬣を揺らし、情熱的に言い切った。個人の考えにまで口は挟みたくはないが、夢を見るのはベッドの中にしてくれ。思想の自由って憲法で保障されてなかったか、表現の自由もあったよな。そこまで詳しくはないが生きていれば発生する権利を脳裏に浮かび上がらせ、自分は行為に同意してないので権利侵害。

  無理やりは好みじゃないんだ、すまんな。

  「下らないと言う人もいます、所詮錯覚だと断じる声も勿論。耳に入れるだけ入れて、異論とは認めませんでしたが。関係ないのです、愛とは性! そう、つまりは性義。絶対に不変の善なのです」

  自分の考えを正当化しようとしている所悪いが、押し付けられているこちらは堪った物ではない。早くお引き取りを願おう。縄をどうにか外せないか、力を振り絞り千切ろうとする。縄はそんなに丈夫ではないらしく、ご高説を獅子が垂れている内に自由の身になりそうだった。時間切れを示すように、獅子が口元を歪め。それと同時に、自身の力が抜け。急速に体全体に熱が回らなければ。

  「ショウタイムです、どうぞお楽しみ下さい。それこそ、壊れるまで」

  血液が急速に流れ、命令を出していた動きに待ったが掛かる。もう少しで千切れそうだった縄は割ける事なく緩み、拘束するには不十分の働きをしている。百獣の王の表情は余裕そうだ、獲物が自ら墓穴を掘り嵌まってくれた。自身が仕掛けた罠に、時限式の爆弾に。

  「拝聴頂き、有難うございます。おかげで助かりました、遅効性の薬を使用してしまいましたので。聞く価値がそんなにない演説、如何だったでしょう。暇潰しにはなりましたよね、素直になる前準備が整う程度には」

  愉快さを含んだ笑みを百獣の王は浮かべる。白い虎は苦痛に喘ぐように百獣の王を睨み、自身の状態に目を張った。股間部が膨らみ、息が荒くなる。恥部を晒した画像を見たが如く、発情しているのが窺えた。

  「なるほど、まんまと落ちちまった訳か。貴方の事が好きらしいです。嘘やハッタリであって欲しかったんだが、真実か」

  「はい。自身が仕掛けた罠に自ら入っていく獣の姿は見て居て痛快でした。檻に閉じ込められた獣様には更なる罠をどうぞ。心行くまで、お楽しみください」

  楽しむのは貴方だと思うけれど。赤いランプが点滅し、録画が始まる。どうやら、どこかで撮影されているらしい。場所は残念ながら、捕らえられた身では判断が着かないが。問題はないだろう。

  「まずは、小手調べ。お触りから行きましょう。鍛えては……おられませんか。それは少し残念です、精神が脆弱でないのを祈るばかりにございます」

  至極残念そうに、白い虎の肉体を手で確認し終えた百獣の王はそうぼやいた。悪かったな、そこまでの肉体美じゃなくて。睨みの効果は発情の眼差しで軽減されていると思えたが、それでも捕食者の目は体を震え上がらせるには十分だった。百獣の王の手が、白い虎に触れる。胸部から腰、厭らしい手つきかどうかは分からないが。遅効性の媚薬の効果もあるのだろう、歯を噛締め殺すような勢いを見せながら。喘ぎを白い虎は漏らしてしまう。

  「ふっ……ううっ……うぁんっ……何だよ、その手つきは……ぁっ……全然、気持ちよくないじゃないか……っ」

  「服の上から触られているだけだというのに、随分強気ですね。これからですよ、これから。行きつく先は決まっています、楽しみにして下さい」

  折角手に入れた玩具を簡単に壊すのは勿体ないとでも言いたげに。服は邪魔です、着衣プレイは魅力ですが、今の気分は生まれたままの姿。全裸こそ自然のままの、あるべき獣の身。理解不能の言葉を発し、スタジャンとテーパードが脱がされ。下着一枚、山を作った状態で外気に晒される。

  屈辱の念が強いらしい、小さな悲鳴を出したくなる程。白い虎の顔は、殺意に満ち溢れていた。

  山を作った白い虎の股間部を百獣の王は優しく撫でる。恥部を撫でられた白い虎は小さく声を漏らし、快感を得ていた。

  「ぬふっ……ふあっ…どうした、その程度か……ぁっ……」

  口では強気の発言だが、染みが残念ながら出来ていた。本の微かに、雄の遺伝子であり最重要である排出物。先走りのカウパー汁でも雄の臭いは厳しい。鼻を抓みたくはなったが、今それをやると取返しが付かなくなる。大人しく、終わるまで耐えるしかない。

  「ほらほら、擦られて段々出したくなって来たでしょう。息子さんが出したいと意思表明していますよ。立派な山も作って、出したいでしょう」

  「出したい……がっ……お前に出されるのは御免だな。帰って……ふぅあ……一人で出すさ……はっ」

  追い詰められるだけだとは思うが、意地があるらしい。挑発行動を白い虎は取る。癪に障ったのか、それとも欲望に従っただけか。擦る速度が速まり、白い虎が発する息も弱弱しさを増す。出したいと体も心も思い出すのに時間は必要ないだろう。素直になるのか、強情を晒し我慢を選ぶのか。歯を噛締め、血の味で理性を呼び戻し。白い虎は呟く。

  「屈するか、屈する筈がない。好きでも何でもない奴に物弄られて射精すなんざ、論外と言わざるを得ないな。見てみたいぜ、無様に汁を漏らす雄の顔って奴を」

  「いいだろう、鏡でも持ってきて見せてあげましょう。一生の記憶に残り、毎晩の夢で傷跡を残す。毎日増やせば崩壊も速いでしょうしね」

  百獣の王の顔が歪む。醜く、邪知暴虐を働く悪役のように。

  手で擦られているだけであっても、限界は来る。生理現象なのだ、欲望に身を任せるのは仕方のない事だろう。雄の臭いは強まり、酷く残る。記憶にも体にも、深く。ビクンと、白い虎は。視界と頭を体毛と同じように真っ白にして、自身の竿に溜まっていた精液を吐き出す。勢いよく、吹き出した精液は。白い虎が履いていた下着を濡らし、周囲に濃い雄を漂わせるに至った。

  「口では何とでも言える、勇ましいのはいい事だ。無謀な見栄であるのを除けばだが……なぁ!」

  鈍い音を百獣の王の後頭部で鳴らす。手にドラム缶を持ち、振り下ろすだけの簡単な。簡単な、変態撃退方法です。百獣の王は痛みに悶える事なく意識を失う。口を横に広げ、笑顔が作れているだろうかと一瞬不安を脳裏に過らせながら。

  「助けに来たって恰好よく言えればいいんだけど。生憎、撮影していた身なもので。後で責められる姿を暗記するまで見よう、そうしよう」

  「助かったと言いたい所だが、下心が丸見えだ。カメラこっちに寄こせ、削除して証拠隠滅。それから……」

  白い虎は百獣の王を眺め、口角を吊り上げる。気絶している、縄は千切れていない。撮影用の機材はある。もう分かるだろう、やられてもやり返さないのは余計な不満を出さない為だそうだ。

  それがどうした。やられたらやり返すのは基本だ、とびっきりの愛嬌を込めて。毒気を抜かれて、一生の誓いをさせるまでに追い込む。そこまでするのが、何でもありの現実だ。

  「「なにしようか(すっか)なぁ……」」

  [newpage]薄暗い部屋に招かれ蝋燭が光を齎している。幻想的とは呼べなくても、ある程度の高揚は湧くだろう。誕生日だったり記念日だったり、特別感を出すなら持って来いである。今回の場合、特別感の感の字が姦になる訳だが。正義を騙る悪役に、性義を返すのは世の常であろう。

  「さてと、どう調理しようか。ミディアムやレア、間を取ってスモールでもいいとは思う」

  「焼き加減でも大きさでもない。手の初めは機械による断続的な刺激だ。どれ位持つかな」

  下品な笑みという言葉を実際に使える日が来るとは夢にも思っていなかった。白い虎の顔と自身の顔に浮かび上がった表情を形容するなら。通報されてもおかしくはない、酷い顔だった。カチッと徐に白い虎はスイッチを入れ、縛り上げた状態のまま瞼を開けない百獣の王に付随された機械が揺れ動く。振動を与えられた百獣の王の物は秒刻みに膨らみ。先端から汁を漏らし、雄の臭いを放ち始めた。

  「んぅあっ……あぅ……あっ………っ……あ…………」

  「無様って言葉、現実で使える日が来るとは思わなかったな。正しく愉快に痛快、物故割れるまで続けるか」

  「鬼畜の所業……でもないか。快楽の災禍に落とそうとしていたんだし、やり返されても文句は言えないよね」

  滴る透明な汁、吐き出される白濁の液。雄の臭いが充満するのに時間は掛からなかった。口元を歪ませるというのを、本当に行っている。屈辱的な行為を相手に施せるか。純粋な好奇心に任せ、突っ走るのも悪くはないが。

  秘密という言葉に憧れを隠せない者で。

  静かに、幕を下ろそう。百獣の王は機械の心地よさに目覚め半生を機械と共に生きた。人の前でも、誰の眼前に居ようと外す事はなかった。自身の生き甲斐として、百獣の王は機械を付け続けた。

  そんな馬鹿な話があるかとお思いだろうか。だが事実である、僕の目に映っている限りではあるが。

  END