狼、虎、ライオンさんの物語【完全版】

  「おめでとうございます!特賞の旅行券です!!」

  

  「ええっ!」

  

  僕は女性の甲高い声と鳴り響くベルの音に驚いて目の前の女性をじっと見つめながら思わず大声を出してしまった。僕の視線に気づいた女性はにっこりと笑いながら僕のことを見つめ返してきた。

  

  大きな瞳が印象的で、僕は思わず視線を下に向けて彼女から目を逸らしてしまった。通りすがりの人たちが僕の様子を見ているような感じがして恥ずかしさでいっぱいだった。

  

  女性は僕の心情を察してくれたようで、素早く旅行券を用意してくれた。そして、僕に手渡す時に「旅行を楽しんで下さいね」と優しく声を掛けてくれた。

  

  商店街で買い物をしてもらった福引券。特別な期待はしていなかったけど、まさか、特賞である旅行券を当てるなんて僕は相当に運が良かったようだ。

  

  僕はドキドキしながら旅行券を握り締めると急いで家路についた。

  

  

  

  「旅行券かあ・・・どこに行こうかなあ・・・」

  

  家に帰ってから直ぐに中身を見てみると、高額の旅行券が入っていた。商店街の福引で貰えるものとは思えないほどの金額だった。

  

  1人で行くのは勿体ない気がする。それなら、誰かを誘って旅行に行くのもいいかもしれない。僕の脳裏に親友たちの顔が浮かんだ。

  

  この時間だったら仕事、終わってるかな・・・。

  

  僕はスマホの着信履歴から電話をかけた。何回かコールが鳴った後に弾んだような声が聞こえてきた。

  

  「おう。どうしたよ、オオカミ。久しぶりだな!」

  

  「あっ、ライオンくん?今、時間は大丈夫かな。ちょっと話があるんだけどさ・・・」

  

  ライオンくんは、ニューヨークを起点として世界中を飛び回っている大企業の商社マンだ。鋭い目つきと立派な鬣(たてがみ)とその大きな体格から近寄りがたいイメージがあるけれど、本人は人懐こくて誰にでも気さくに接してくれる。

  

  「ちょうど、休憩中だったんだよ。で、どうした?」

  

  「えっとね・・・」

  

  僕はライオンくんに簡単に経緯を話した。電話の向こうで相槌をしながらライオンくんは話を聞いてくれている。

  

  「今月末の月曜日が休みで3連休になるから平気かなって思ったんだけど、どうかな?やっぱり、忙しい?」

  

  「いや、丁度、日本に戻る予定だったし、今はそんなに抱えている仕事もないから大丈夫そうだ。まあ、何かあっても予定を調節しておくから行けるようにしておく。あっ、トラも誘うって言っていたけどよ、あいつにはまだ電話していないんだよな。あいつ、絶対に喜ぶから早く連絡してやれよな」

  

  「そうだね、これから電話してみるよ」

  

  「そっか。んじゃ、トラから返事をもらったらLINEでもいいから連絡くれよな」

  

  「うん、分かった。じゃあ、忙しいところありがとう」

  

  「良いって、良いって。んじゃな!」

  

  「うん」

  

  普段は多忙なライオンくんから二つ返事で旅行に行けるって返事が返ってきたことは嬉しかった。そんな高揚した気持ちを僕は抱いたまま、トラくんにも電話をかけた。

  

  

  

  「・・・うん、そうだね。僕が今回は企画者だから内容を考えるよ」

  

  「ライオンくんにも声をかけてあるよ、大丈夫だって」

  

  「・・・えっと、詳細は後で話せばいいかな?うん、分かったよ。じゃあね」

  

  トラくんからもすぐに快諾を得ることが出来た。

  

  トラくんは老舗の和菓子屋を受け継いだばかりで忙しい身分だ。僕たちの中で唯一の既婚者で子どもが6人もいる。普段はお調子者で調子の良いことばかり言っているけれど仕事に対する姿勢は真面目だ。体格はライオンくんと背丈は同じくらいだけど、横幅がある。和菓子のせいたって本人は言っているけど・・・。

  

  でも、3人で旅行に行くだなんて学生時代以来だろうか。でも、大人になってからも遠足の前日みたいに気持ちが昂ってしまうこの気持ちは変わらないんだなって僕は思った。

  

  あの頃はライオンくんが企画をしてくれて、僕とトラくんが内容を決めるような感じだったような気がしたなあ。

  

  たまに、僕が企画することもあったけど、みんなが楽しんでくれるか心配で眠れなかったこともあったんだよね・・・。何だか懐かしいな。

  

  そんなことを思いながら、僕はパソコンを起動させた。

  

  

  

  旅行のパンフレットを取り寄せて、旅行会社に問い合わせをした結果、温泉旅行に行く方向で考えがまとまった。普段は仕事で疲れているだろうし、歩き回って遊ぶよりも疲れを癒す方がいいかなって。

  

  僕はパンフレットを眺めながら旅行の行程を頭の中で思い描くと、トラくんに電話をかけて内容の確認を一緒にすることにした。

  

  「・・・で、温泉で疲れを癒しながら美味しいご飯や観光地を巡るという感じなんだけど、どうかな?」

  

  「やっぱ、こないだ話をしていた通りに温泉か。たまには良いんじゃねーの?日頃の疲れを癒したいよな」

  

  「うん。で、新幹線の予約は僕がしておくよ。後は旅館だけど、すごくいいところがあって、なかなか予約が取れないんだけど、1番いい部屋に空きがあったから良かったよ」

  

  「おお、そっか。お前の日頃の行いがいいからだよ。でも、悪いよな。お前が当てた旅行券を使わせることになってな」

  

  「ううん、僕だけで使うのは勿体なかったし。やっぱり、皆にも会いたかったからさ」

  

  「そっか。じゃあ、今回は甘えさせてもらうぜ。後、色々と動いてくれてありがとうな。お前も就職したばっかで忙しいだろうに」

  

  「ううん。店長のロバさんは優しいし、僕の体調を気遣ってくれるんだ。本当、今のパン屋で働くことが出来て良かったと思っているよ。じゃあ、また連絡するから」

  

  「おう、また、連絡してくれよな」

  

  「うん、またね」

  

  トラくんは僕が腰痛でパン屋を辞めた時に一時期アルバイトとして僕を雇ってくれた。それ以降、更に僕のことを気遣ってくれるようになった。そんなトラくんの気遣いがとても嬉しい。それに、ライオンくんも時間を見つけては連絡をくれる。そんな2人に感謝をしているんだ。

  

  

  

  旅行当日。

  

  目が覚めたのは午前6時。目覚まし時計が鳴る前に僕は目を覚ました。お昼に新幹線に乗ればいいのにちょっと早く目が覚めてしまった。僕は眠い目を擦って顔を洗うと冷蔵庫に向かって生地の確認をした。実は、数日前にトラくんから良いものを貰っていた。せっかくだから、これを使ってパンを作ろう僕は考えていた。僕は冷蔵庫から『それ』を取り出すと台所に立って準備を始めた。

  

  みんな、喜んでくれるといいな。そんな気持ちを込めながら僕は生地に練り込んでいった。

  

  

  

  駅のホームはそれなりに混雑をしていた。新幹線専用の改札付近で待ち合わせをしたけれど、3連休の初日だけあって同じように待ち合わせをしている人が多い。パン作りに夢中になって時計を確認するのを忘れていたけれど、どうやら僕は1番乗りみたいで安心した。

  

  僕は音楽を聞きながらそれとなく辺りを見渡した。まだ時間には幾分早いからのんびり待つつもりだったけど、突然に「オオカミ!」と僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

  

  「おっ、けっこう早いな。1番乗りの予定だったんだけどよ」

  

  イヤーフォンを外しながら近付いてきたのはボストンバッグを片手にダウンジャケットを格好良く着こなしたライオンくんだった。いつもはスーツを着こなしているけど、今日は割りとラフな格好だ。

  

  「僕が新幹線のチケットを持っているからね。遅れるわけにはいかないよ」

  

  「はは・・・そうじゃなくたって遅刻はしねーだろ?あらかた、今日の朝だって随分と早起きしたんじゃねーの?」

  

  「うん、その通りだよ」

  

  「はは、昔からそうだったよな。すげー真面目でよ。相変わらずだよな」

  

  僕は見透かされたようでちょっと恥ずかしかった。でも、ライオンくんが屈託のない笑顔で笑うと僕も自然に笑みを浮かべてしまう。

  

  「さて、トラは時間通りか遅れるかだよな。じゃあ、その間におれは飲み物でも買ってくるな。お前はお茶でいいか?」

  

  「うん、ありがとう」

  

  「おう」

  

  ライオンくんが人ごみの中に消えていくと、彼と入れ替わるかのような形でトラくんがやってきた。いつものバスケット選手が着るようなユニフォームに軽く上着を羽織っている格好をして大きなリュックを背負っている。冬も近いのにトラくん、寒くないのかな?

  

  「よっ。後はライオンだけか。あいつ、時間には厳しい奴なのにな」

  

  「ライオンくんは飲み物を買いに行っているんだよ。それより、トラくん、寒くないの?」

  

  「はは・・・おれは猛獣だぜ?猛獣は毛皮を着ないだろ?」

  

  「そ、それはそうかもしれないけど」

  

  やけに猛獣アピールするよなあ、トラくんって・・・。僕も肉食動物としてそれくらい強気の方がいいのかな・・・。

  

  トラくんと一緒にいるとそう思う。

  

  「お前はダッフルコートにマフラーって冬を先取りし過ぎだって」

  

  「うーん、そうかなあ・・・」

  

  「おっ、トラも着いたか!」

  

  僕の背後からライオンくんの明るい声が聞こえてきた。

  

  「おー、ライオン!」

  

  「よし、これはオオカミの分だ。トラ、お前もお茶だ」

  

  「ありがとう、ライオンくん」

  

  「ありがとよ、てか、茶か」

  

  「ますます、メタボになるぜ?お茶でいいんだよ」

  

  「ちぇ、少し腹が出てきたくらいだぜ?」

  

  「はは、気を悪くするなって・・・じゃ、行こうぜ」

  

  僕たちは改札を抜けて駅のホームへと向かった。

  

  途中、構内でお弁当屋さんを見つけた。トラくんが立ち止まってお弁当眺めている。どうやら買う気満々らしい。

  

  「旨そうなのが並んでるじゃん。ここで買おうぜ」

  

  「そうだね。ライオンくんもここでいい?」

  

  「ああ。割と品揃えもいいしな」

  

  ライオンくんもお弁当を眺めながら嬉しそうに答えた。

  

  「猛獣の皆さん方にオススメのお弁当もありますから、良かったらそちらもご覧になって下さい」

  

  白い調理着を着た大柄のサイさんが低い声だけど優しそうな口調で僕たちに声をかけてきた。

  

  その太い腕の先には他とは明らかにサイズの違うお弁当が並んでいた。どれも大きくて肉類が目立っているような感じだ。

  

  「えっと『牛豚鶏羊肉ボリュームたっぷり弁当』ねえ。牛肉の厚めなステーキに豚のしょうが焼き、鶏の唐揚げ、ジンギスカンか・・・こりゃ腹に溜まるな。これで、2000円か。安いのか高いのか分からんな・・・」

  

  大柄のライオンくんが両手に抱えるほどの大きさだ。ご飯もかなりの量だ。きっと、僕だったら三食分に値するよ。いや、それ以上かもしれない。

  

  「そちらは、かなりのボリュームですので、複数人で召し上がる方もいらっしゃいますよ。抱き合わせでサラダを購入されることも多いです」

  

  サイさんは鋭い目つきを細めて笑顔でお勧めしてくれる。うん、見た目は怖いけど商売は上手なようだ。

  

  「おいおい『漫画肉弁当』だってよ。こりゃすげえ!」

  

  実際には夢のような漫画肉じゃなくて、骨に肩ロース肉を巻いた感じみたいに見えるけど。見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。

  

  「はい、そちらは柔らかく似た牛モモ肉の塊に肩ロース肉を巻いたものです。肉を肉で巻いていますので、ワイルドな肉食系の方にお勧めですね」

  

  「・・・マスターが喜びそうだなあ」

  

  僕の脳裏にバーを営んでいるグリズリーさんの顔が浮かんだ。

  

  「おれ、これにする」

  

  「トラらしいな。おれはこっちだ」

  

  「ありがとうございます!さて、オオカミの兄さんはどうされますか?オススメは『七切れの仔山羊〜赤ズッキーニ添え〜』ですよ。お肉とお野菜がバランスよく摂れますよ」

  

  お伽噺のような名前の弁当だなあ。サイさんが名付けたのかな。

  

  「えっと、僕はこっちの『旬の野菜を使った彩り弁当』でお願いします」

  

  「何だよ、オオカミ。まさか猛獣のくせにヘルシー嗜好ってか!?」

  

  トラくんが肩に手を置いて肘で僕のほっぺたをツンツンと突っついてきた。

  

  「や、止めてよ。僕は草食系肉食動物なんだからさ」

  

  「な、何だよそれ・・・」

  

  「まあまあ、好みってのがあるんだ。無理強いはすんなって」

  

  ライオンくんがさりげなく間に入ってくれた。トラくんは「そりゃそうか、悪かったな」と肩に手を置いてくれた。

  

  「皆さん、仲がよろしいんですねえ。これ、サービスしておきますよ」

  

  サイさんはサラダとデザートをサービスしてくれた。僕たちはお礼を言って、それぞれ好きな弁当を購入するとホームへと向かった。

  

  

  

  外に出ると冷たい風が頬を撫でた。やっぱりマフラーを巻いてきて正解だ。

  

  新幹線が来るまでに少し余裕があったから僕たちは温かいホームの待ち合い室で待つことにした。

  

  自動ドアを開けると暖かい空気が流れてきてポカポカする。僕はマフラーを外すと並んだベンチに腰を下ろした。

  

  窓から見える景色をぼんやりと眺めながら僕たちはゆっくりと過ごした。

  

  「たまにはいいよな、こうやってのんびりと過ごすのはよ」

  

  「うん。まだ、出発もしていないけどね」

  

  「けっこう、分単位で仕事をする日もあるからな。こうやって、のんびり待つってのはよ、なかなかないんだよな。ありがたいよ」

  

  ライオンくんは空を見つめながら嬉しそうに呟く。

  

  「眠くなってきたぜ・・・」

  

  「トラくんはあまり寝てないの?」

  

  「いや、寝たつもりだったんだけどよ。意外に早く目が覚めちまつてよ。やっぱ、こうやって3人で会う機会ってあんまりねえからな」

  

  「へえ、トラくんも」

  

  「何だ、お前もかよ、オオカミ」

  

  「はは、楽しみにしてたんだよな、まあ、おれもだけどな。」

  

  僕たちは新幹線が来るまでのんびりと話をしながら過ごした。こうやっていると、何だか学生時代を思い出すなあ・・・。

  

  そんなことを考えていると、新幹線がやってきた。僕たちは駆け足で新幹線に乗り込んだ。逸る気持ちを抑えられないかのように・・・。

  

  

  

  「あー、旨い!景色を見ながら食う飯は格別ってもんだな!」

  

  トラくんはかぶりつくようにして大きな口を開けて漫画肉?を食べている。トラくんのイメージ通りというかなんというか・・・。それにしても豪快な食べっぷりだなあ。でも、僕もあれくらい豪快だったらトラくんみたいにボディもメンタルも強くなれるのかな。

  

  「しかしよ、甘いもんが食いたくなるぜ」

  

  「てか、まだ食うのか?」

  

  僕の隣に座っているライオンくんが呆れたような顔でトラくんの顔とお弁当を交互に見つめている。

  

  「朝から何も食ってなかったからよー。腹減っちまったんだよ。サラダもデザートも食っちまったしよ。もう1個買っておけば良かったぜ・・・」

  

  「じゃあ、これ食べる?僕、作ってきたんだけど」

  

  僕は旅行鞄から布で包まれた四角い箱を取り出した。中身はトラくんからもらった餡で作った餡パンが入っている。そう、トラくんから貰ったものの正体はお手製の餡だったんだ。

  

  「おお、流石はオオカミ!気が利くぜ!」

  

  「アンパンか、それ?」

  

  蓋を開けると2人とも興味深々な様子で中身を覗いてきた。

  

  「うん。前にトラくんに食べてもらったんだけど好評だったからね。トラくんから貰った餡で作ったアンぱんだよ」

  

  「へえ、いいじゃねえか。よし、1個もらうな」

  

  ライオンくんは手を伸ばしてアンパンを掴んだ。

  

  「もしかして、麩(ふすま)が入っているか?」

  

  「何だ、麩って・・・?」

  

  「えっと、小麦を挽いた時に出る皮のことだよ、ライオンくん」

  

  「へえ・・・じゃあ、いただきます。おっ、美味いな。今まで食ってきたアンパンとはレベルが違う・・・」

  

  「おれももらうぜ。おっ・・・前に食ったのより更に旨くなっているな。小麦の配合とか変えたか?」

  

  「おお、流石はトラくん。トラくんのくれた餡に更に合うように使っている小麦の配合や焼成時間を変えてみたんだ。それと、ロバさんから練り方のコツとか水分量の調節の仕方を丁寧に教えてもらってね」

  

  「オオカミの技術向上があってこそだな」

  

  「何だよ、おれの餡だって旨いだろうが」

  

  「はいはい。お前も見えないところで努力する奴だからな。小豆、砂糖、水。全部こだわっているんだろう?それが伝わってくるぜ」

  

  ライオンくんは頷きながら、残りの餡パンを美味しそうに口に放り込んだ。トラくんは珍しく恥ずかしそうに照れた表情を浮かべていた。

  

  「おれがよ、これに合うようにオオカミの望む小麦の仕入れルートを確保したり、マーケティング調査でもすりゃあ・・・もっと凄いものが出来るかもしれねえな。おれも協力出来ることがあれば何でも言ってくれよ」

  

  「そりゃいいな!なあ、オオカミ!」

  

  「うん!」

  

  ライオンくんの話に僕は心が弾むようだった。もし、それが実現したらどんなに素晴らしいだろうか。僕たち3人で作るものを皆に届けることが出来たらどんなに素晴らしいだろうか。

  

  新幹線は順調に僕たちを目的地まで運んでいく。流れ行く景色を楽しみつつ、談笑しながら目的地までの時間をのんびりと過ごした。

  

  

  

  「寒い・・・」

  

  トラくんが新幹線を降りてからしきりに呟いている。薄い上着を羽織っているだけだしね。僕はそっとマフラーを差し出した。こんなこともあろうかと2枚用意していてよかった。

  

  「悪ィな!いやー、こんなに寒くなるなんて思わなかったしよ」

  

  「全く・・・相変わらずだよな。北に移動するんだからよ、それくらい想定しろって話だ。じゃあ、荷物を旅館に置いてからこの辺りを観光でもするか?それとも、先に観光をしてからにするか?」

  

  「そうだな、どっちでもいいけどよ。オオカミ。ここから旅館はどれくらいなんだ?」

  

  「えっとね・・・」

  

  周りは山々に囲まれているけれど、舗装された道が続いている。パンフレットによるとバスでも温泉街に行けるけれども、地元の人も乗るバスで、迂回をするように走るらしいから歩いても時間は変わらないらしい。

  

  温泉街までは一本道を真っ直ぐに歩くだけだから迷う心配はない。景色を見て、美味しい空気を吸いながら歩くのもいいよね。

  

  「バスも出ているけど、歩いても行ける距離らしいよ。歩きながら行くのはどうかな。観光も出来るし、のんびり行きたいなって」

  

  僕は歩くことを提案した。たまには良いよなって、2人とも賛同をしてくれて、僕たちは一本道を歩くことにした。

  

  歩き始めてから10分ちょっと。ちょうど身体が暖まってきたところで温泉街の入り口に着いた。ひとの数も増えてきて賑やかになってきた。目的の旅館は温泉街の中心に構えてあるらしい。中を進むと美味しそうなお饅頭の匂いやお煎餅の香りが嗅覚を刺激してきた。さっき昼食を食べたばかりなのにお腹が鳴りそうだ。

  

  「旨そうだな・・・」

  

  「さっき、あんだけ食っただろ。まあ、確かに旨そうな匂いはするけどよ」

  

  「別腹なんだって!」

  

  「別腹、かよ!」

  

  「あっ、あったよ!」

  

  「んっ?」

  

  目の前には木で出来た大きな門があり、その脇には立派な字で旅館の名前が記された看板があった。その門の奥には歴史を感じさせるような旅館が堂々と構えていた。

  

  「広い庭だな。ほら、あの池に鯉も泳いでいる」

  

  「きっと、かなりの値段があるぜ、あの鯉。錦鯉だからな。メスのようだし・・・」

  

  「えっ、鯉ってそんなに高いの?」

  

  「俺たちの年収をはるかに凌ぐこともあるらしいからな」

  

  僕たちはそんなことを喋りながら旅館の入口に向かった。暖簾をくぐると初老の女性が僕たちを出迎えてくれた。背筋がしっかりと伸びていて、着物がよく似合う品のある女性だった。

  

  「お待ちしておりました」

  

  女性の後ろには背丈の高い黒い牛が立っていた。ガッチリとした体格で迫力がある。どう見ても老舗旅館には似つかわしくないけど、どうやら荷物を持ってくれるらしい。女将さんの後ろで少し緊張したような面持ちで立っている。

  

  「ようこそ、いらっしゃいました。では、お荷物をお持ち致しますね」

  

  黒牛さんは軽々と僕たちの荷物を肩に背負ってくれた。凄いなあ、重いはずなのに。

  

  「では、手続きはこちらでお願いいたします。」

  

  「あっ、はい」

  

  僕たちは手続きを済まると、黒牛さんに部屋の案内をされた。廊下はロの形になっていて、廊下の中心にはきれいに整えられた庭があった。イメージでいえば江戸時代のお城のようだ。そこに庭師らしき方がいて、目が合うとにっこりと笑って僕たちに会釈をしてくれた。直ぐに仕事に戻ると再び真剣な目つきで目の前の茂みと向き合い始めた。

  

  案内された部屋は『松の間』という名前らしい。鍵を開けて入ると黒牛さんが荷物を部屋の隅に置いて旅館と部屋の説明を丁寧にしてくれた。

  

  「・・・という訳です。すみません、俺・・・じゃなかった。自分、不器用なものでして。言葉足らずな点もあったかと思いますが、お話、分かりやすかったでしょうか?」

  

  「はい。分かりやすい説明でしたよ。ところで、黒牛さんはここに勤めて日が浅いんですか?」

  

  「あっ、え、えっと・・・」

  

  急な質問に黒牛さんは驚いたらしく目を丸くしている。

  

  「あっ、はい。自分は働きはじめてそこまで日は経っていないのですが・・・女将さんからお掃除や言葉遣いを教えてもらって・・・最近になって、ようやく、お客様の案内もさせてもらえるようになったんです」

  

  「へえ。頑張って下さいね!すごく丁寧で良かったと思いますよ」

  

  「あ、ありがとう・・・ございます!」

  

  黒牛さんは厳つい顔でちょっと怖い感じだったけど、にっこりと笑うとまだあどけなさの残るような少年の顔になった。

  

  「あっ、そうだ・・・じゃなや。えっと、食事は何時頃にお持ちいたしますか?メインの黒毛和牛、最高に美味しいですよ」

  

  黒牛さんが黒毛和牛を最高って言っているけど・・・。それはいいのかな?

  

  そんなことを思いながら、僕は黒牛さんに夕食の時間を伝えた。

  

  黒牛さんが静かに部屋を出ていくのを見届けると、僕たちは一息入れることにした。

  

  この畳20枚以上はある和式の部屋は充分なくらいに広い。

  

  それに、何といっても庭があって露天風呂が付いているというのが凄いと思う。きちんと露天風呂として整備されているし、温泉も僕たち全員がお風呂に浸かったとしても余裕がありそうな広さだ。

  

  「へー、こりゃすげーな」

  

  「24時間入れるってことだな」

  

  窓から外の様子を覗く僕の頭上から2人の嬉しそうな声が聞こえた。

  

  「だな。後で入ろうぜ」

  

  「しかしよ、これだけの旅館に泊まれるだなんて、商店街の福引きに感謝。オオカミに感謝だな!後は、食事が旨ければいい!」

  

  「また、食う事かよ」

  

  「期待してもいいと思うよ。ここの旅館にそれを目当てに来る人もいるくらいだし」

  

  「へえ、楽しみだな」

  

  

  僕たちは一息入れた後に観光に出た。温泉街の奥へと進むと更に、甘い匂いが漂ってきた。店先でどうやらお饅頭を蒸かしているようだ。おばちゃんが汗をかきながら慣れた手つきで手を動かしている。

  

  「お土産用に買うのもいいかもね、ライオンくん」

  

  「だな。やっぱ、喜ばれるのは食い物だしな。宅配出来っかな?」

  

  「ほれ、饅頭。ここら辺の名物だってよ」

  

  トラくんの姿が見えないと思ったら、お饅頭を頬張りながらやって来た。僕とライオンくんにお饅頭を手渡すと、また、お店の商品を夢中になって見ている。

  

  「トラくん、食べ過ぎ・・・」

  

  「んっ。でも、旨いな」

  

  「うん」

  

  半分に割ると餡の甘い香りが広がった。あまり大きくはないから、これくらいなら夕食前でも食べられそうだ。

  

  「あっ、店のおばちゃんの情報によるとな、温泉街を抜けたところに極上のマッサージが受けられる秘湯があるそうだ。後は、オススメの土産リストを貰ってきて観光スポットも聞いてきた」

  

  「トラは行動が早いよな」

  

  感心したようにライオンくんは頷いている。僕もその通りだと思った。

  

  「当たり前よ、接客業やってりゃ身に付くもんよ。あっ、宅配も出来るらしいからよ。たくさん買っても大丈夫だぜ?」

  

  「おお、そうか。じゃあ、宅配で送ってもらう。で、明日はその観光スポットを巡ってみようか」

  

  「うん、そうしようか」

  

  「子どもたちに腹一杯旨いものを食わせたいから買い込むか」

  

  「は、張り切ってるね、トラくん」

  

  「へっ、まあな。」

  

  ちょっと嬉しそうなトラくんの横顔は『父親』らしさを僕に感じさせた。僕もいつかはこのような表情を作ることが出来るようになるんだろうか。そんなことを思いながら僕はトラくんのことを見つめていた。

  

  「トラく・・・」

  

  一通り購入するものを決めてトラくんに声をかけようとすると、大量のお菓子類やシャツらしきものを段ボールに詰めてもらっているところだった。

  

  「たくさん買ったね」

  

  「んっ、まあな。ちっと買いすぎたかもな」

  

  「うん」

  

  「でもよ、ライオンもそうだぜ」

  

  トラくんが 視線を送った先にはライオンくんがいた。どうやら、ライオンくんも荷物を詰めて貰っているらしい。

  

  「ライオンくんもたくさん買ったね」

  

  「まあ、会社の連中にな。部署の連中だけでもかなりの数になるからな。オオカミ、お前は何を買ったんだ?」

  

  「僕…?僕も似たようなものかな。職場用にお饅頭とか、自分用に入浴セットとか。特に石鹸は通販とかで出回ってないから貴重なものなんだって」

  

  「へえ。それを聞くと買いたくなるよな。よし、俺も石鹸を買うかな」

  

  「うん」

  

  僕たちはそれぞれお土産を購入して、旅館に戻ることにした。辺りはすっかり暗くなっていて、更に気温が低くなっているようだった。戻る最中にトラくんがくしゃみをした。どうして薄着で来るんだろう・・・。

  

  

  

  先付二種:柿釜盛り 柿の白和え

  

  前 菜:冬の前菜五種盛り

  

  お造り:舟盛り(伊勢海老洗い 鯛 鮪 間八)

  

  吸い物:土瓶蒸し (松茸 鱧 海老 三つ葉)

  

  蓋 物:のど黒の芋そば蒸し

  

  陶 板:黒毛和牛と鮑の石焼き

  

  添え鉢:野菜サラダ

  

  酢 物:ずわい蟹酢

  

  ご 飯:松茸釜飯

  

  留 椀:蜆汁

  

  香の物:二種盛り

  

  果 物:季節の果物

  

  お品書きに書かれた料理を眺めただけで汚い話だけどよだれが出ちゃいそうだ。だって、アワビや松茸なんて滅多に食べないものだしね。

  

  ふと、2人に目をやると、トラくんもライオンくんも期待に満ちた目をしている。楽しみにしているようだ。

  

  「接待とかで懐石料理とか高いもんを食うときもあるけどよ、あんまりそういう場だと味わっている暇がないからな。楽しみだよ」

  

  「懐石料理ってのか?こういう形式的なものは苦手なんだけどよ・・・でも、旨そうだよな眺めているだけで期待が高まってくる感じだよな」

  

  「そうだよね。僕はあまりこういうのは食べないからドキドキしているんだ」

  

  そんな会話をしていると、女将さんが部屋に入ってきて料理を運んできた。僕たちの目の前に料理が並べられると丁寧に料理の説明をしてくれた。

  

  期待に胸を躍らせつつ口に運ぶと、素材の良さと丁寧な仕事ぶりが伝わってくるような味だった。

  

  美味しいものを食べると言葉が出なくなるというのは本当なのかもしれない。食べている時に僕たちはほとんど言葉を発することはなかった。あのトラくんが味わうように食べている。最後の一滴も残さないように。しっかりと味わっている。

  

  ライオンくんがにこやかな表情で食べている。しっかりと素材の味を噛み締めるかのように。丁寧に食材を口に運ぶ所作は様になっている。

  

  最後のデザートを食べ終える頃には気持ちのいい満腹感と幸福巻に僕は包まれていた。

  

  「いやー、最高だったぜ。マジで旨かったな。酒も旨かったし。酔っちまったなあ」

  

  「うん。僕もお腹が膨れるくらい食べちゃったよ。食べ過ぎかな?」

  

  「食事も酒も最高だった。確かに食べ過ぎたかもな。俺も酔っちまったよ」

  

  「お前はもっと食った方がいいぞ、オオカミ!」

  

  「えー、トラくんみたいになっちゃうよ」

  

  「おいおい、そんなに太ってるか・・・まあ、今は腹が出てるか!」

  

  トラくんはお腹を叩くと無邪気な笑顔を見せた。僕たちもトラくんにつられて笑ってしまった。

  

  「ちょっと苦しいな。よし、浴衣に着替えるか」

  

  「そうだな。着替えて酒でも飲みながらのんびり過ごすか」

  

  「賛成!」

  

  「ああ、ツマミも頼もうぜ」

  

  「トラ、まだ食うのかよ!」

  

  僕たちはのんびりとお酒を飲みながら過ごした。こういうのんびりした時間ってなかなかないから本当に穏やかな気持ちになった。ついつい飲み過ぎちゃったけど、ほろ酔い気分で気持ちがいい。

  

  先ほどからこんな穏やかな時間が続いていて嬉しい。ずっと・・・これからもずっと続いて欲しいな・・・。

  

  「そういや、部屋の露天風呂、入ってみないか?」

  

  「そーだな、確か、パンフを見たら大浴場は朝の6時から23時までやっているんだったな。今の時間だと混んでそうだし・・・まあ、ここでも十分に広いんだ。明日の朝でも入れるようだし、いいんじゃねえか?」

  

  トラくんの視線の先にある時計に目をやると、8時をちょっと過ぎたところだった。確かに、今の時間は入浴するひとが多いかもしれない。

  

  「じゃあ、入ってみようか」

  

  襖の向こうはちょっとした脱衣所になっている。暖房器具や脱衣かご、それにタオル類が置いてある。

  

  暖房器具をつけて、少し脱衣所を暖めてから僕たちは脱衣所に入った。

  

  

  

  「やっぱ、お前、太ったよな?」

  

  ライオンくんが帯を緩めて少しお腹が見えたトラくんに対して遠慮のないストレートな言葉をぶつけた。

  

  「オオカミにも言われたぜ・・・。まあ、これくらいが丁度いいんだ」

  

  トラくんは柔らかそうな白い毛で被われたお腹を擦りながらそのお肉をぷにっと摘まんだ。

  

  学生時代は引き締まった身体をしていたトラくん。でも、今のトラくんは筋肉の上に脂肪が乗っかったという感じでそこまで太っているという印象を与える訳ではない。猛獣らしく、腕とかは当時のままでかなり太い。その太い腕が美味しい和菓子を作り出す秘密なのかもしれない。

  

  「おおう、柔らかいな。旨そうだ」

  

  「はは、止せよ・・・くすぐったいぜ」

  

  ライオンくんはふざけてトラくんのお腹をぷにぷにと触っている。何だか、その光景が懐かしく見えてきた。学生時代はこういうことをよくしていたっけ。

  

  「オオカミも触ってみろよ。柔らかいからよ」

  

  「僕も?」

  

  トラくんのお腹は思った以上に柔らかかった。さっき食べたお饅頭のように柔らかい。何度も触ったからか、トラくんはくすぐったそうにして笑っていた。

  

  「しかし、ライオンは前より筋肉が落ちたんじゃねーの?もっと胸とか筋肉あっただろ?」

  

  「運動する暇があまりないからな。この体型を維持するのも大変になってきた、そんな感じだな・・・」

  

  「だよな。やっぱ、30近くなると基礎代謝が落ちるからか太るんだよなあ」

  

  ライオンくんはスマートな感じだ。そんなことを言いながらもきっと影で相当な努力をしているんだろうなあ・・・。

  

  緩めた浴衣の隙間から見えたライオンくんのお腹はそんな感じだった胸筋も硬そうだし、腹筋も綺麗に割れている。ライオンくんのふさふさの毛の上からもそれが窺えるということは、それだけの筋肉量があるということだ。

  

  「オオカミは?」

  

  「えっ、僕?」

  

  「お前は変わらないようだけどな」

  

  「トラくんの言うとおりかも。僕、あまり食べても太らないタイプだから」

  

  「だよな、このわき腹!」

  

  「うわっ!」

  

  突然、トラくんが僕を抱えあげてきた。まるで、父親が子どもを後ろから抱き抱えるかのように。

  

  「は、恥ずかしいよ、下ろしてよ、トラくん!」

  

  「おう。何だよ、痩せてるからいいじゃねーかよ。このわき腹!あばらが触れるぜ」

  

  「そ、そういう問題じゃないし・・・」

  

  僕とトラくんは体格に相当な差がある。僕よりも一回り以上は大きい。ライオンくんとトラくんは背丈こそほぼ一緒だけど、トラくんの方が横に幅がある。そんなトラくんだから僕は簡単に持ち上げられるんだろうなあ。

  

  「はは、酔っぱらってんなあ。ほら、入るぞ」

  

  ライオンくんは浴衣をそっとかごに入れると、僕とトラくんに声をかけてそのまま露天風呂に颯爽と向かった。

  

  「待てよ、一番風呂は俺だ!」

  

  トラくんは僕をゆっくりと下ろすと、浴衣をその辺りに放り投げて慌てた様子でライオンくんの後を追った。

  

  「もう・・・」

  

  僕はトラくんが放り投げた浴衣を畳んでかごに入れると、自分の分も畳んでかごに入れた。そして、畳んで積んであったあったタオルを取ると腰の部分でタオルをきつく結んでから僕は露天風呂に向かった。ライオンくんとトラくんは何も巻かずに向かったけど・・・。

  

  扉を開けると、ひんやりとした冷たい空気が流れてきた。そして、微かに漂う温泉の匂いと湯気が僕の身体を包んだ。

  

  「ったく、こいつはもうだめだ。いきなり飛び込みやがった!」

  

  「へへ、誰もいないいんだ。いいじゃねえか!」

  

  湯気の向こうでトラくんはライオンくんに叱られている。

  

  「おいおい、オオカミよ」

  

  「んっ?」

  

  トラくんは僕の姿を見るなり急に叫んだ。

  

  「お前、タオルで隠しているんじゃねーよ!猛獣なら正々堂々だろうが!」

  

  ええっ!?

  

  「かもな・・・別に隠すもんじゃねえだろ」

  

  ライオンくんまで!?

  

  まさか、お酒の影響・・・?

  

  「おお、ライオンと意見が合った!!」

  

  「だなあ・・・」

  

  2人とも立ち上がると、お風呂から出て堂々とした態度で僕の目の前まで迫って来た。そして、生まれたままの姿で僕を見下ろしてくる。

  

  ま、まさか・・・。

  

  「ほら、見ろ!」

  

  トラくんはわざわざ腰をつき出して僕に見せつけるかのように下半身を見せつけてきた。

  

  「猛獣なら・・・いや、男なら堂々と晒せよ!そんなにでかくなくても、太さには自信があるぜ!?これくらいは自慢してもいいな!後、玉がでかいって言われるぜ?」

  

  かなり酔っぱらっているのかなトラくん?確かに夕食の地酒は美味しかったけど・・・。そういえば、食事の後もかなり飲んでいたっけ・・・。

  

  でも、トラくんのは確かに太い・・・。平常時のはずなのに重量感がある。それに、確かにたくさん中身が詰まっていそう・・・。

  

  「へえ、相変わらずトラのは太いよなあ。」

  

  ライオンがトラくんのおちんちんを見つめながら頷いている。

  

  「だろだろ?後は、お前みたいに完全に剥けたらいいんだけどな。おれ、半分は被っちまうから・・・太いのに皮が余っているからか?」

  

  どうして、こんな話題になるんだろう?そんな大きさとか、太さとか、皮がどうだとかって恥ずかしい話なのになあ・・・。

  

  「どうだかなあ」

  

  トラくんは自分のおちんちんを握ると、皮を引っ張って剥き始めた。でも、直ぐに戻ってしまうようで、また、半分ほど皮で覆われてしまった。

  

  「ほら、何だよ、これ!」

  

  「・・・別に剥けてるからって得したことはないぜ。いいんじゃないのか?」

  

  「そうか?まあ、お前が言うならなあ・・・しかし、ライオンのは長いよなあ・・・」

  

  「おいおい、あんまり見つめんなよ・・・」

  

  「オオカミもそう思うだろ?」

  

  そう言われて、トラくんに続いてライオンくんのおちんちんも見つめてしまった。確かにライオンくんのはだらりと垂れ下がって長さがある。しかも、露茎していて大人そのものだ。

  

  「痛い!おい、握るな!いや、皮を引っ張るな!どうせ、戻っちまうから!」

  

  「マジだ・・・くそ、見栄じゃねえのかよ」

  

  「たく・・・」

  

  トラくんやライオンくんのと比べたら僕のなんて。僕はこっそり、温泉に浸かろうとした。

  

  「という訳で、猛獣ならタオルを取れ!」

  

  「うわっ!」

  

  こっそり入ろうとした僕はトラくんに覆いかぶされるような倒されると、抵抗をする暇もなく僕はタオルを取られてしまった。

  

  「うっ、うう」

  

  「んっ、まあ・・・普通だな」

  

  「そうだなあ」

  

  トラくんもライオンくんも僕のおちんちんをじっと見ている・・・。

  

  「標準でスタンダードってとこだな。形はいいんじゃないか?そこまで、完全に被っちまっているけどよ、そこまで余っていないし・・・んっ・・・?」

  

  僕のおちんちんは恥ずかしさからか少しずつ硬くなっていった。

  

  「トラくん・・・ごめん・・・」

  

  僕のは完全に勃ってしまっていた。

  

  「おいおい、勃起させてんじゃねえよ・・・やべえ・・・」

  

  僕らは学生時代から仲が良かった。

  

  僕は学生時代にとある悩みを抱えていて寂しくてたまらなかった。そして、トラくんに救われ、僕は彼と特別な一晩を過ごした。

  

  ライオンくんもその事実を知っていたけど、何も変わることなく僕らに接してくれた。学生時代を経て、僕らはそれぞれの道を歩き始めた。ライオンくんは商社マンとして世界中を渡り歩くようにあった。トラくんは和菓子屋さんの職人として成功し、その後、結婚をしてたくさんの子どもに囲まれて幸せに暮らしている。そして、僕は自分の道をずっと模索して、ようやくパン屋の職人として生きる道を見つけることが出来た。

  

  僕が行き詰まりそうになった時、いつも、そこにはライオンくんがいた。そして、トラくんがいた。

  

  実は、卒業後に数回・・・トラくんに抱かれたことがあった。

  

  僕は・・・もしかしたら、トラくんのことが友達としてではなく、同性として好きなのかもしれない。その気持ちをトラくんに話したことはない。僕も気のせいだと思っていた。

  

  でも、この身体の火照りはそれが気のせいでないことを示していた。

  

  「オオカミ・・・いいか?」

  

  「トラくん・・・触って・・・」

  

  トラくんの大きな手が僕のおちんちんに触れる。柔らかくて大きな手が僕のおちんちんを刺激する。

  

  「んっ・・・」

  

  「ちゃんと掃除してるか・・・?」

  

  「ああっ・・・んっ、トラくんの気持ちいい・・・」

  

  皮を剥くと、舌を使って味わうかのように僕のおちんちんを舐めてきた。猫科特有の舌のざらつきがとても気持ちよくて僕は思わず声を漏らしてしまう。

  

  「オオカミ・・・お前よう・・・普段は真面目なのによ・・・こういう時はエロいのな。そのギャップがたまらねえ・・・」

  

  「トラくんだって、すごく丁寧に・・・っ・・・ハァ、ハァ・・・駄目・・・そんなところまで舐めないで・・・恥ずかしいよ・・・」

  

  「美味いぜ・・・へへっ・・・」

  

  「トラくん・・・」

  

  「俺のもよ・・・痛いくらいに勃起しちまった。なあ、舐めてくれねえか?」

  

  「うん」

  

  太かったトラくんのおちんちんが更に太くなってだらりと露が垂れている。

  

  「んっ・・・」

  

  口に収まらないくらい、トラくんのは太い。でも、僕は懸命に口や舌を動かした。

  

  「ああっ・・・、気持ちいいぜ・・・やべえ・・・」

  

  「僕も・・・出してもいいよ・・・」

  

  僕はいつの間にか自分のを擦っていた。そして、僕の吐息とトラくんの吐息が混ざり合う。そして、トラくんはそろそろ出てしまいそうなのか、トラくんも自分のを擦り始めた。

  

  「オオカミ・・・いいか、出してえ・・・お前の顔に・・・いいか?」

  

  「うん・・・出して・・・たくさん・・・」

  

  「うあっ・・・ぐっ・・・うおっ!」

  

  「ああ、僕も・・・ああっ・・・」

  

  信じられないほどの快楽が僕たちを襲った。トラくんは倒れ込むように僕に覆いかぶさると、強く抱きしめてくれた。

  

  「すまねえ・・・オオカミ・・・」

  

  「うん、いいんだ・・・」

  

  「・・・」

  

  僕はそこで痛いくらいの視線に気づいた。

  

  同様にトラくんもだ気付いたようだった。

  

  「・・・」

  

  「ああ、ライオンくん・・・」

  

  「すまねえ、ライオン!!俺は猛烈に反省をしている!!!」

  

  「いや・・・お前らのことは前から知っていたから特別に驚きはしねえけどよ・・・まあ、見境なくっつうのは不味いよな」

  

  「うう、僕は・・・」

  

  「返す言葉もねえ・・・」

  

  「オオカミはよ、お前はどうしても他人に依存しちまうところがあるよな。で、俺も心理学者でも何でもねえから詳しいことは分からねえけどよ、お前は、心の隙間をひとの温もり・・・肌と肌の触れ合いで埋めようとしちまうんだよな。安易にその行為で満たそうとするのは感心しないな」

  

  「うん・・・」

  

  「でもよ、お前は随分と変わったよ。ロバのパン屋で働き始めてからか・・・?以前のような自信のないような態度は見られなくなった。お前は自己評価が低いんだよ。でもよ、俺はお前を認めているぜ?お前の作ったパン・・・それにお前の全てが込められてよ。伝わって来たぜ。もっと自信を持て」

  

  「あ、ありがとう・・・」

  

  「で、トラ。自重しろ」

  

  「おう・・・」

  

  「オオカミ、こいつはな、ずっとお前のことを心配してたんだよ。こいつは本当に愛情深い奴でなあ・・・気に入った相手をとことん愛しちまうんだ。まあ、その気に入った奴ってのはこいつ奥さんと子どもたち、お前くらいしかいねえんだけどな・・・。暴走し過ぎることもあるからストッパーが必要なんだけどな」

  

  「トラ・・・くん・・・」

  

  「まあ、俺たち3人で揃って丁度いいのかもな。オオカミ。こうやって、集まる機会を作ってくれてありがとよ・・・俺もさ、本当、忙しくて余裕のない毎日だった。こうやって穏やかに過ごせて嬉しかった。良かったらよ、定期的にもっと集まろうぜ・・・」

  

  「う、うん!」

  

  「いい話に水を注すようだけどよ、ライオンさ、勃起してんぜ!」

  

  「えっ、おいっ!どこがだ!!」

  

  「してたろ?」

  

  「・・・見たら勃つだろ」

  

  「へへ、抜いてやろうか?」

  

  「調子に乗るな!」

  

  

  

  僕たちは満天の星空の下で、温泉に浸かった。すっかり冷えてしまった身体に優しく沁みわたっていく。

  

  「そういやよ、お前は腰を痛めたんだよな。腰痛にも効くらしいからゆっくり浸かった方がいいぞ」

  

  「ありがとう。確かにそんな感じがするよ」

  

  「トラも立ち仕事なんだからよ、無理はすんなよ?」

  

  「おー、だな」

  

  トラくんは長く息を吐き出すと、目をつぶって気持ち良さそうに肩までお湯に浸かった。僕も肩まで浸かると、空を見上げて満天の星空を眺めた。

  

  都会では比べものにならないくらいの星が輝いていた。まるで、子どものころに描いた星空の絵のように。

  

  「僕はさ、トラくんとライオンくんが友達で本当に良かったと思うよ。僕はトラくんのようにボディもメンタルも強くないし、ライオンくんみたいに理知的でタフじゃないけど・・・いつかは立派な猛獣になるよ」

  

  「バーカ!お前はそれでいいんだよ。俺は口癖で猛獣、猛獣って言ってるけどよ。優しいお前のままでいいんだよ。そのままでいいんだ。まあ、そうだな・・・ライオンの言ってたみたいによ、自信を持てばいいだけだな」

  

  「後、訂正があるな。友達じゃない。俺は『親友』だと思っているよ。これから、何があっても・・・ずっと変わらない。親友だ」

  

  「ライオンくん・・・トラくん・・・ううっ・・・」

  

  「泣くなよ、オオカミ。泣き虫だなあ」

  

  「全くだ」

  

  「ぐすっ、うん、泣かない・・・」

  

  潤んだ瞳で夜空を見上げると星が輝いていた。

  

  トラくんもライオンくんも続けて夜空を見上げた。

  

  その瞳にも幾千万の星が輝いていた。僕は微笑むと夜空を再び見上げた。

  

  僕はこの時間が、3人でいられる時間が、もっと、もっと続きますように。

  

  ずっと、ずっと、変わらずにいられるように

  

  そう星空に願った。

  

  その願いを聞き入れたかのように星が輝き、流れた。