ねぇママー
なぁに?
さんたさんって、みんなにぷれぜんとあげてるんでしょ?ボクもおねがいしたらもらえるかなぁ?
そうねぇ……良い子にしてたら、きっとサンタさんがお願いを聞いてくれるんじゃないかしら?
え~、イイコじゃないともらえないの~?
そうよ?ケンちゃんはもうすぐお兄ちゃんになるんだから。良い子にしてないと、サンタさん、怒ってお願い聞いてくれないわよ?
そんなのやだー!!ボク、がんばってイイコになるー!!イイコになってさんたさんにおねがいごとする!!
ふふっ、頼りにしてるからね?お兄ちゃん?
うん!!
ところで、ケンちゃんはサンタさんに何をお願いするの?
えっとねー、みんななかよくいっしょにいられますようにって!
そっか~、サンタさん、お願い事聞いてくれるといいね
うん!
1
「・・・サンタクロースって本当にいると思う?」
ケンから出された問い。突然すぎるその質問に、巌は咥えていたタバコの灰を床に落としてしまう。慌てて足で払うも、落ちた灰は絨毯に靄のような染みを作る。テーブルに置かれた布巾を手に取り擦ってみるも、靄は広がるばかりだった。巌は諦めて布巾を無造作に投げ、タバコを消した。
「・・・・・・なんだ?いきなり・・」
二人はケンのマンションにいた。彩られ飾られ、ざわついた街を二人並んで歩き、買ってきたチキンを食べ、シャンパンを飲んだ。いつも通り交互に風呂に入り、ケーキを食べながら、無駄に特番ばかり用意されたテレビ番組を流し見る。
音楽番組の特番を二人は並んで見ていた。見ていた、といっても興味があって見ているのではなく、ぼんやりと歌を聴いていただけだった。少なくとも巌は。ただ、隣に居て様子を見る限り、ケンも興味があって見ているようには見えなかった。
そんな中、出された問い。巌は返答に困った。思えば他愛もない質問かも知れない。意味など、ましてや『答え』など求めていないのかも知れない。それでも巌は困った。
番組の司会者がサンタクロースの存在の有無を質問したわけではない。出演者の殆どがクリスマス特番にちなんだ衣装を着ているが、それも大きな問題ではない。多少は関係あるのかもしれないが、この際どうでもいい。問題なのは・・・
「・・・何て言って欲しいんだ?」
「・・・ん・・別に?・・・」
ケンの様子だった。どこかというより、あからさまに。普段とは違う。いつもの元気さも無邪気さも無い。いつもなら、いるって思ってる方がロマンティックじゃん☆とか何とか言ってきそうなものなのに。クリスマスを二人きりで過ごしたいとか言っていたから怒っているのかとも思ったがどうやら違う。拗ねているようでも無かった。
期待はずれに終わった回答と共に、巌は困っていた。
ケンは相変わらずぼんやりとテレビを見ている。見ているわけではないようだが所詮同じ事だ。質問に質問で返し、その反応が無いのなら、もう巌に打つ手は無かった。結局、会話はそこで遮られ、後は勝手に聞こえてくるベタなラブソングを聴くより他無かった。
(・・・そういやぁ・・・何かおかしいよな今日のコイツ・・)
ふと思い返して考えてみる。将の家に行く時もそうだった。普通、貞操が心配というだけで、呼ばれもしない食事会についてくるだろうか?まぁ冗談交じりだったのだろうが・・いくら相手がセクハラ獅子だとはいえ、日常生活において貞操の心配などするだろうか。ましてや巌は30代の虎族の厳つい雄。誰が好き好んで襲うというのだろう?襲う心配はしても襲われる心配などする必要が無い。まぁ巌はそんな事しないのだが。
それに帰り際、言っていた言葉も気になる。
(確か・・・『心の痛み』とか何とか・・・)
ケンは将さんを殴ったと言っていた。だとしたら、伴うのは『体の痛み』物理的な痛みだろう。なのにコイツは『心』と言った。あの言葉の意味は何なのだろうか?
それにもう1つ・・・
巌の思考は疑問で埋め尽くされていった。何をどう考えてみても一向に答えが出ない。
答えが出ないまま疑問がループする。まるで絨毯についた靄のように、晴れる事も無く。
巌が頭を抱えていると、隣に座っていたケンが立ち上がった。どうした?と巌が訊ねるより速く、口を開く。
「もう寝るね、疲れちゃったみたい」
「あ?あぁ・・・」
寝るとは言っても、まだ20時を過ぎたばかりだ。明らかにいつもより早い、早過ぎる。疲れたなんて言っているが、恐らく嘘だろう。そのくらいは巌もわかった。だが、いつもと様子が違うケンを、引き止める理由が、巌には見つからなかった。
「おやすみ」
そう言って軽く手を振り部屋を出て行く。
「おやすみ・・・・・なぁ?寝る前に1つ聞きたいんだが・・」
後ろ姿に疑問をぶつけてみる。考えても答えが出ぬのなら直接聞くまでだ。
「・・将さんに・・・帰る時、何か言ってただろ?まだ内緒って言ってたが・・・教えてくれてもいいんじゃねぇか?」
「・・・」
振り返らずに、巌を見ずに、出て行く姿のまま。困ったように微笑んで、ケンは口を開いた_____
2
「『天使の羽を無くさないで』・・・?そう言われたのですか?」
「・・・あぁ」
行為を終えシャワーを浴びた二人。何も身に着けず、産まれた時の姿のままベッドの上に居た。
将はバスタオルを頭にかけたまま、後ろから蒼の体に残った水分をドライヤーで乾かす。自分で出来ると断ったのに、私がやりたいんだと押し切られた。蒼は気恥ずかしさと同居しながら温かい風に包まれていた。そんな中。二人は話をしていた。
「・・・・・忘れ物でしょうか?何も無かった気がしましたが」
蒼は悩んだ。悩んで、自分なりに考えて導き出した返答だった。その返答に将は苦笑う。
「・・アオは真面目だな・・・」
まぁそういう所も含めて好きなのだが、と耳を撫でながら。蒼は自分が赤くなっていくのがわかった。
「あれはおそらく謎掛けだ」
「謎掛け・・・ですか?」
ドライヤーを止め、ブラシを手に取りながら将は続けた。
「・・・天使とはどういうものか解るか?」
将にブラッシングされながら訊ねられる。絡んでいた毛が解けていくのが判る。気持ち良さから頭がうまく働かない。
「え?・・・神話やおとぎ話に登場するもの・・確か、神の御使いとか」
「そうだな・・・話の中で、天使とは神に仕える僕、転生を待つ人の魂を象った、幸福を司る者として登場する。人は死後、生まれ変わる為に、天使として神に仕える。神に仕える事で、現世での罪や穢れを払う。この世界は神が創ったものだとされているからね__」
そこまで話して、将はよし!とブラシを置いた。布団に入ろうとする将に、風邪を引きます!今度は私が、と蒼はドライヤーを手に取る。すまないなと短く言うと、蒼に背を向け話を続けた。
「__この世が神によって創られたものならば、天使という存在も神が創ったものだ。なら、何故神は、天使という存在を創った?罪や穢れを払うだけならば他にも方法はあるのではないか?何故神は人を創った?罪や穢れに溢れた、人という存在を何故?・・・蒼はどう思う?」
「・・・・・」
難しい・・・。蒼は考えた。神様なんて、天使なんて信じていないけれど、それでも根が真面目な彼は、将に投げかけられた疑問の数々を解決しようと頭を働かせた。
何故神は天使という存在を創ったのか
何故神は人を創ったのか
何故『私』という人を創ったのか
蒼は将に拾われた時の事を思い出し、思考を現実から遠ざけた。結局は沈黙でしか答えられなかったが。余りに考え過ぎて、気がつくとドライヤーを持つ手が止まっていた。熱ッ!という将の短い悲鳴に現実へと戻ってきた。
「す、すみません!」
慌ててドライヤーを離す。気がつくとかなりの至近距離だった。火傷など負ってないか心配していると手を上げて制される。
「いや、大丈夫。ありがとう、もう乾いたようだ」
そう言うと自分でブラシを鬣に通し軽く解いた。
「・・・すみません」
蒼は自責の念から落胆していた。自分はこんな事も出来ないのかと。質問にも答えられず、好きな人にいつも与えられるばかりで、自分からは何もして上げられないのかと。
「そう何度も謝るな。・・・それに、答えはもう出ているじゃないか?」
「・・・?」
俯いていた顔を上げると将はいつの間にかベッドに横たわっていた。こちらを向き、隣に来いと手招きしている。言われるがまま、隣に横たわると太い腕で抱き寄せられた。肌と肌が密着する。互いの体温が伝わる。
「神も天使という存在も人が考えて創り出したものなのだよ。そこに答えなんて無い。なら何故人はそんなものを創り出したのか・・・・答えは優しさだ。優しさから『嘘』を創り出した。人は辛い事や悲しい事、苦しい事に遭遇すると現実から逃げ出したくなる、いや、逃げ出すんだ。逃げ出さない人間なんてきっといない、誰しもそうだ。そうして逃げた人は何処へ行けばいい?行き場を失った人達は何を頼ればいい?」
「・・・それが・・神や天使といった存在ですか?」
「そうだ。・・人は何かに頼らなければ生きていけない、罪深いものなのだよ・・・だから創った、居場所を、心の拠り所を。・・・ケン君の伝えたかった事は、そういう『優しさを忘れないで』という事だと、私は思う。さっきアオが私を心配してくれたようにね」
「・・・・・・」
頬にキスをされる。優しくて、掠めた鬣が少しくすぐったい。
「私は幸せ者だな・・蒼の隣にこうして居られるのだから・・」
「私も!・・・将さんの『居場所』になれて幸せです!」
照れて赤くなった頬を隠すように、大きな声で答えた。
ところで、何故ケンさんは、わざわざ謎解きのように伝えたのでしょうか?直接言えば良かったと思いますが?
それは私にも解らないが・・・
・・・・・・・・・
もしかしたら、何か思うところがあったのかも知れない
・・・・・・・・・あのぅ・・
だが大丈夫だろう、彼には巌君がいる、何かあれば・・
あのッ!!!・・・良い話してるところに申し訳ないのですが、・・・・お尻揉むの止めませんか?
?・・・あぁ!!すまない、つい手が勝手に・・・季節のせいかな?ははは
・・・本当にもう・・、私以外ならセクハラですからね?
わかったわかった!以後気をつけるよ・・・だがもう少しだけ・・
将さん!!・・・本当にもう!・・・少しだけですからね・・・
ん?珍しく素直だな?
そうですか?・・・季節のせいですよ、きっと・・
3
パタン・・、と扉が閉められた。
それは、テレビの音を掻き消すように。
ゆっくりと、心を閉ざした子供のように。
静かに。静かに。
独り部屋に残された巌は、エアコンとテレビを消し、またソファーに寄りかかった。タバコに火をつける。深く、ゆっくりと。深呼吸するように。
ようやくわかった。ケンの行動が。言葉の意味が。
最後のアイツの言葉を聞いて。どうしたいのか。どうされたいのか。
・・・今、アイツが何を想っているか。だが・・
「・・・ガラじゃねぇなぁ・・・」
巌は深く溜め息を吐き出した。同時に吐き出された煙が、1人だけの部屋を舞う。巌を茶化すように、ゆらゆらとゆらゆらと。
「・・覚悟・・決めるか・・」
何かを決心し、よし!と立ち上がると、タバコの火を消す。そして後を追うように部屋を出た。
誰も居なくなった部屋。明かりを灯されたままの室内は綺麗に。舞っていた煙は鮮やかに。彩られた街並を眼下に置いて、前夜祭の夜は更けていった。
4
寝室。ブラインドは深く下げられ、街の煌びやかな明かりも、月の光も、カーテンで一切を遮断された室内。照明も暖房器具も消され、まるで家主の心境を象ったようだった。無機質な電子機器の充電ランプだけが僅かな灯りを齎した。
冷えたベッド、冷えた布団を頭まで被り、ケンは仰向けになっていた。部屋の中とはいえ今は12月、それも終わりが近い。暖房を点けられる事の無いままの室内は、そうは思えないほど吐き出された息が白い。だがその白さも、少しばかりの熱と共に、闇に溶けて消えた。
このままでは眠る事など出来ないだろう、が、元々寝るつもりは無かった。何も見えないの中。時折目を開けては、また閉じる。どちらにせよ、見える色は黒。街の夜景と対照的な、黒。
(・・・何か・・・『らしく』ないかな・・?)
そう考えて、思わず笑ってしまう。『らしい』とは何なのか、自分でもよくわからないという、自嘲的な笑み。布団を被り直すと、横向きに体勢を変えた。
(・・・巌さん・・困らせちゃったな・・・・後で謝ろ・・)
あんな事いきなり聞かれたって誰だって困るよねと、今改めて思った。自分でも何で聞いたのかわからなかった。何となく、だった。ただ思い出してしまったのだ、昔の、幼い時の事を。将の家に行って、親子程、歳の離れたあの二人を見たときから。お互いを想い合う二人を見たときから。自分の過去の残像と重なって。叶うこと無かった願いを思い出して。
サンタクロースがいるかどうか。
今考えるなら答えは簡単だ。
そんなのはウソ。そんなものは、無い。所詮、人が創り出した空想のモノに過ぎない。
願いが叶うなんて有り得ない。それはサンタクロースだけに限らない。この世の中に存在する、全ての『そんなもの』そんな事で願いが叶うなら、誰だってそうする。そんな事があったなら、世界はもっと美しく狂っていくだろう。・・・現に、願いは叶わなかったじゃないか。
なら人は何故『嘘』をつくのだろうか。何故嘘をついてまで、そんなものを創り出したのだろうか。・・・何故、嘘をついてまで、家族を演じたのだろうか。
きっとそれは『罪』から逃れる為。背負った罪の重さに耐え切れなくなった人が創り出した、居場所。唯一の拠り所。神に縋る殉教者のように。・・・自分を、自分達を捨てた母親のように。
捨てるのなら最初から『嘘』なんていらない
嘘は罪。罪は嘘。
自分はどうなのだろうか?
巌さんに好きだと告げた気持ちに嘘は無い。本当の気持ちだ。
だが、自分『らしい』というのは何なのだろうか?
好きな人に見せているのは本当の自分なのだろうか
『嘘』ではないのだろうか
本当の自分とは何なのだろうか
普段の自分、今の自分、太陽みたいだと言われた自分、子供っぽい自分・・・
・・・幼い頃の思い出を引きずっている自分
偽っているのは誰なのだろうか?
一体何の為に?
人に好かれたいから?嫌われたくないから?
巌さんには嫌われたくない
嫌われたくないのに・・・
本当の自分がわからない
わからないまま『自分』を演じている
本当の自分がわからないまま『嘘』をつき続ける・・・
それが罪だとわかっていても・・・
そこまで考えて、ケンは思考を止めた。ふと気がつくと目には涙が溜まっていた。今にも溢れ出しそうな涙を服で拭う。
(・・あはは・・・やっぱ・・・『らしく』ないよね・・・)
寒さも合い混じって、流れそうになる鼻水を啜った。
今の自分を演じているのは誰なのだろうか
そう考えていた時だった。
コンコン…
ドアをノックする音が部屋に響いた。そして、誰?と思うより早くドアが開く。
ガチャ…
聞こえてくる無機質な音は真っ暗な部屋に光と色をもたらした。そもそも、誰?という疑問自体無意味な事に気付く。ここに居るのは、自分を除いて一人しかいないのだから。
5
「・・・起きてっか?」
「・・・・何か用?・・」
やはり巌だった。涙声になるのを抑え、布団を深く被ったまま何とかそれだけ口に出す。
「まぁな・・」
巌が部屋に入ってくる気配を感じる。
「・・・明日じゃ駄目?・・俺疲れてるから・・もう眠いし」
嘘だった。近づいてくる足音を『罪』で拒絶する。拒絶しても尚、足音は近づいてくる。
ケンは焦った。このままでは見られてしまう。涙の痕も、・・・演じきれない自分の姿も。気がつけば、巌の気配をすぐ側に感じた。
巌が布団の裾を持ち上げる。
ケンは震えていた。嘘がバレる時がきたのかと、『罪』を償う時がきたのかと。恐れから、また泪が流れそうになる。強く、目を閉じた。
すると、巌は意外な行動に出た。ケンの思考とは裏腹に、布団を持ち上げ、ベットに入ってくる。ケンとは逆の方向を向いたまま、ちょうど背中合わせの格好で。互いの尻尾が少しだけ触れた。
それからしばらく静寂が部屋を支配した。互いに何も言わず、互いを見ず、ただ時だけが悪戯に過ぎた。
ケンはただただ困惑していた。巌の行動の意図が解らない。あれきり何も言わないし、何もしない。ただ、振り返ればくっついてしまう距離のまま、隣で横になっているだけ。寝に来たわけでも無さそうだ。
そもそも一緒に寝てくれたのなど、初めて巌がこの部屋に来た時くらいのものだ。後はソファーでいいと断られ、それは何度自分が誘っても同じ事だった。自分からはあっても、巌からはというのは無かった。それが、こんな時に、こんな形でなんて思いもしない。
今のところ、巌がこちらを向く気配は無い。ただ、いつ『嘘』がばれない保障も無い。嬉しいのか、そうでないのか。結局は自分の鼓動を抑えるのが手一杯で、それ以上考える余裕は一切残されていなかった。
(・・・・・どうしたらいいんだろ・・・?)
このまま時が過ぎ去るのを待つべきなのか、聞いてみるべきなのか。・・いっそ本当に寝てしまおうか?なんて考えた時だ。巌が長い沈黙を破った。
「・・・・・・・・・昔話だ、別に聞いてなくても構わねぇよ・・」
そう、切り出し、自分の生い立ちを、順を追って話始めた。
田舎で育った事、両親を亡くした事、都会で就職した事、結婚した事、春実と千晴の事、春実と千晴を亡くした事、荒れていた時の事、宍蔵に拾われた事、宍蔵が亡くなった時の
事、そして・・・
「・・・そんな時、お前に出会った。始めは何だコイツは?頭おかしいんじゃねぇか?って何度も思ったな・・・」
鼻を鳴らし、軽く笑う。懐かしそうに語るそれをケンは黙って聞いていた。聞いていても、巌が何を言いたいのか、何を伝えたいのか・・・
「・・・お前は言った、怯えた眼をしたってな・・・・・実際俺は怯えていたんだよ・・人に優しくされる事にな・・・・何も守れない・・大切な人も、愛する人も守れないヤツが何故優しくされなければならない?その権利があるのか?って・・」
衣擦れの音が聴こえた。おそらくこちらに向きを変えたのだろう。尻尾から伝わる僅かな温もりが離れた。
「・・・それをお前が変えてくれた、お前に出会って・・俺は俺に戻れた。・・・だが、お前はどうなんだ?『今』のお前は誰だ?俺を救ってくれたお前は、・・・今どこにいる?」
距離がゆっくりと縮まる。顔が見られる、もう、嘘がバレる・・いや、もうバレているのかもしれない・・そう、思った。ぎゅっと目を瞑り、震えようとする肩を必死で抑えた。
そんなケンを、巌は後ろから抱きしめた。太い腕が、手が、強く握られる。熱が籠る。力強く。温かく。・・・優しく。
「・・・もう強がるのはやめろ・・寂しいのならそう言え・・・お前には俺が居るだろ?・・俺にはお前がいるようにな・・・・過去をどう振り返ったって変えられないって、気付かせてくれたのはお前じゃねぇか!そんなお前が、『過去』に囚われてどうする!?」
涙が
「・・・な・・んで・・・?」
溢れた
「・・・マスターから聞いた。簡単にだがな・・・・・なぁ?俺達、似たもの同士だと思わないか?・・先立たれるのも、捨てられるのも・・・どっちにしろもう、「会う」事は出来ないんだぞ?・・・」
ぽろぽろと
「・・・なら、似たもの同士・・・傷を舐め合うのも悪くないと思わないか?」
ぽろぽろと・・
巌は泣き顔にそっと口付けた。短く、触れ合うだけの軽いキス。
思えば、巌さんからしてくれたのは、これが初めてだった。
「そういえば、まだ言ってなかったな・・」
まだ目には涙を溜めたまま物足りなそうに、口を離した。
「メリークリスマス、ケン・・・」
『メリークリスマス、ケンちゃん』
忘れていた、忘れたかった過去の思い出がフラッシュバックする
ケンは泣いていた。
泣きたくて泣いているのではない。
ただ、涙が溢れて止まらなかった。
『メリークリスマス』という言葉が
こんなに嬉しくて
こんなに悲しいなんて
今まで知らなかった
「俺は・・・『ボク』は・・・本当は____!!」
ずっと、あの人に言って欲しかったんだ____
ケンは泣いていた。
子供のように声を上げて。
涙が、止まらなかった。
今まで溜めていたものを流すように。
巌はそんなケンをただ抱きしめた。
そっと優しく、子供を抱く母親のように
抱きしめながら耳元で巌は囁いた。
「・・・子供の頃の願いが、今更叶うなんてことはねぇし、・・・『俺がプレゼント』・・なんて言う気はねぇけどよ・・・・今日は・・・何でもお前のしたいように、していいぞ?」
その言葉にケンが驚き、振り返る。目にはまだ涙を溜めたままだ。
「・・・何でも?」
「あぁ・・・何でもだ。・・・・っつっても、俺は雄同士のセックスなんて、経験ねぇからな・・・お前に任せる」
「・・・俺も!・・好きな人とするのは、初めてだよ・・」
そう言うと巌はケンから一度手を離し、服を脱いだ。そして、ケンに口付けしながら、その服を脱がせていく。冷たい空気に負けないよう、二人はお互いを、強く抱きしめた。
「・・なんか・・・・『らしく』ないね?」
目を腫らせたケンが、そう言って笑う。連られて、巌も笑った。
「そうか?・・・そうかもな・・・・たぶん、季節のせいじゃねぇか?」
部屋に笑い声が響く。温かい、望んでいた、明るさが部屋を包んでいった。
6
「・・・大丈夫?」
尻尾が邪魔にならないよう、巌をベットの端に仰向けにして寝かせる。
「・・あぁ」
片足を持ち上げ、尻が見える格好にする。とてもじゃないが、巌の大きな両足を支えるのはケンには無理そうだった。
用意していたローションを手に取り、それを垂らしながら割られた尻に指を這わせる。なぞる様に、目的の場所を探す。
「う・・・・・ぐッ・・・」
目的の場所に指を這わせ、その穴に指を一本突き入れる。まだ固いその穴は、突き入れた指を締め付け、それ以上動かす事など許してはくれなかった。その感覚に巌がくぐもった声を上げた。少し苦しそうだった。
「・・・本当に、大丈夫?」
指を一度引き抜き、巌に聞いた。確認だった。続けていいのかどうか。
「・・・大丈夫だっつってんだろ?・・いいからやれ」
若干戸惑いながら、もう一度指を突き入れる。普段、排泄目的以外使われることの無かった穴は狭く、指一本でも安易に受け入れてはくれなかった。ケンはまたローションを手に取り垂らすと、ゆっくりと指を動かした。何度も何度も出し入れを繰り返す。
「・・・ッん・・・・あ・・・」
冷たさからか、その感覚からか、出し入れする度に巌が声を上げる。チュクチュクという卑猥な音と、普段聞く事の無い巌の声に、ケンは自身のモノをいきり立たせていた。
しばらくそうしていると、拒んでいた穴も、僅かではあるが徐々に広がりを見せ、ケンは入れる指を増やした。1本、また1本と。増やす度に巌は声を漏らす。だが、最初の頃より大分慣れたのか、苦しそうには見えない。
「・・も・・・・ッ!・・いい!」
指が3本、スムーズに出入り出来るようになった頃、巌は言った。準備は出来たという合図だった。
ケンは体積を増した自分のモノにローションを垂らすと、その入り口に添えた。我慢できないと、痛くしないようにという思いが交錯する。それでも何とか自分を抑えながら注入していった。抑えたつもりだった。
「・・う・・ぐあぁあぁぁッ!!!」
少し焦りすぎたのか。亀頭が収まったか収まらないかくらいの位置で、巌は悲鳴を上げた。
「ご、ゴメン!大丈夫!?」
突然の悲鳴にケンは焦った。傷つけてしまったのかと、一度引き抜いて、入り口が切れてないか確認する。
どうやら切れてはいないらしい。
「・・・・大丈・・夫だっ・・いいから・・続けろ・・ッ!」
「う、うん・・」
今度はゆっくりと、慎重に。
巌が力んでしまわないよう、ゆっくりと。
宝物を扱うように、慎重に。
「・・・入った」
2度目の注入はうまくいった。ケンのモノは、根元まですっぽりと巌さんの中だ。温かい、というよりは熱い。柔らかくて、包まれている感覚が気持ちがいい。巌の方も、まんざらではないように見える。
「・・・・動くよ?」
「・・・あぁ・・」
ゆっくりと腰を引く。半分程引き抜きローションを垂らす。そしてまた根元まで突き入れる。ゆっくりと繰り返す。
巌はというと引き抜かれた感覚が奇妙だったのか、肩に腕を、腰に尻尾を回し、抱きついてきた。まるで怖いものから逃れるために親に抱きつく子供のように。それを抱き返し、腕と尻尾を絡ませる。ようやく一つになれたという感覚が全身に伝わる。そこにはもう、寂しさなんて無かった。思わずまた泣き出しそうになるのを堪える。
慣れてきたのを見計らって徐々にスピードを上げる。
「・・うッ・・あぁ!!・・・ふ・・ぐ・・ッ」
何度も何度も、腰を打ち付ける。打ち付ける度、巌の喘ぎ声が部屋に響く。
「・・巌、さんッ・・巌さんッ・・!」
何度も何度も、名前を呼ぶ。呼ぶ声に、力が篭る。もう、この部屋が寒かった事なんていつしか忘れてしまっていた。
「・・う・・・があああぁあッ!!!」
ある一点に突き入れると、巌はいっそう大きな声を上げた。自分でも、何がどうなっているかわからないと戸惑っているようだった。巌のモノからは、止め処無く透明な液体が溢れ、飛び散り、お互いの腹を汚していく。回される腕がより強くなった。
「・・ッ!!」
そこを重点的に突いてやる。突く度に声が漏れる。
「ああッ!う、ぐッ!!ぅああぁあぁ!!!」
突く度に締め付けられる。波が押し寄せてくる。もう、どこからが自分で、どこからが自分じゃないのか。わからなくなる程に、腰を動かした。優しく、なんて余裕は一切無い。それはまるで獣のように、無我夢中に。
「も・・・うッ!!・・・・イく・・・ッ!!!」
絶頂が近い。巌の言葉に、より一層激しく突き入れる。
「・・・俺・・もッ!!・・ッ!!!!」
どちらからとも無く口を塞ぐ。
荒々しく、野蛮な、口付け。
「「~~~ッ!!!!!!」」
最奥にまでねじ込み、ねじ込まれ、二匹の獣は同時に果てた。互いの欲を、罪を、慰め合う様に。
「・・・はぁ!・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
肩で息をしながら、もう一度キスをする。お互いの存在を確認するかのように。
優しく、優しく
はぁ~・・・・体中・・ベトベトだね・・☆
・・あぁ・・・もう動けねぇ・・らしくねぇ事なんてするもんじゃねぇな・・だりィ・・
あはは、ホントにね~・・・でも・・・気持ち良かった・・・・
・・・あぁ・・まぁな・・・・
・・・お風呂、行こっか?
・・明日でよくねぇか?・・めんどくせぇ・・・
でも、乾いちゃったら後が大変だよ?・・・中に出しちゃったし・・・
・・・仕方ねぇな・・・肩貸せ・・・
・・・・・???
・・動けねぇんだよ!
あぁ!ゴメンゴメン!
・・・ん、さんきゅ・・・
・・・・・・・・・・・(ありがとうは、こっちの台詞
だよ)
ん?何か言ったか?
・・・ううん?何にも!
罪を認め、罪を背負った二匹の獣は、浴室へと姿を消した。
今年最後の月。聖なる夜の前夜祭。
後には、シーツを汚す、天使の羽根のように真っ白な、欲の種だけが残った。
7
「・・・・・・・・・・・・っていう展開を予想してたのにいいいいぃぃ~~~~!!!!!!」
深夜の住宅街。見上げれば雪がちらついている。
「・・・・うっせぇぞ酔っ払い・・・・近所迷惑だろうが」
ここまで来ると病気じゃないのかと心配になってくる程のケンの想像力に、頭が痛くなってきた。残った酒がそれを助長させているのは言うまでもない。
(今朝の夢といい、今といい・・・コイツ大丈夫なのか?)
想像を通り越して、妄想である。別な方向に進んでいたら、悟りでも開いていそうだと本気で思う。
酔っ払いと言われたケンはというと、酔ってませ~ん!と、酔っ払い特有の言い訳を放つ。
「ううぅ~・・・せっかくのクリスマしゅなのにいいいいぃぃ~」
最早ろれつが回っていない。灰色の毛並に覆われていても尚、顔が赤く見える。巌の肩に体重の半分を預け、何とか歩く。これを歩くというならば、どこの赤ん坊も歩いてしまうと言っていい程に足取りが危うい。千鳥足というのはこういう事を言うのだろう。大声で叫んだかと思うと急に黙り込み目を瞑る。とうとう、アパートを目の前にして肩から腕が外れ、電信柱に向かって倒れこんでしまう。
「お、おい!!起きろ!起きやがれ!!」
腕を掴んでも反応がない、というより、既に夢の中のようだ。どんなに揺さぶっても起きる気配すら感じられない。
「・・・ったく・・・焼酎2杯だけでこんなに酔えるもんなのか・・?」
電信柱に寄りかからせたまま、巌は呆れと溜息が混じった息を深く吐き出した。
将の家を出た後、飲み足りないという巌と、クリスマスなんだからどっか二人で行きたいとい意見が合致し、さっきまで呑んでいた。・・・クリスマスなんて無縁の、巌行きつけの高架線沿いにある屋台で。もちろんケンは散々喚き散らかし反対していたが、結局巌に付いていき、5~6時間程居座り、今に至る。帰る間、ずっとケンは話し続け、時折泣いたり怒ったりと、とにかく騒がしかった。最も、ケンの酒癖が悪いというのは今日になって初めて知った事で。
「・・・知ってたら別のとこにしたんだがな・・・」
それは私の知った事では無い。むしろ私も被害者だ。長い!ただただ、ひたすらに、長い!ケンの妄想癖がある話をやりたかった為だけに、その前振りだけでこんなにも引っ張らされるとは思わなかった。ただ家に帰るというだけなのに文字数気にしなければならないとか、読んで下さった方に、どこから?聞かれても、1からです・・と答えなければならないのが辛い・・。・・・話が反れた。
「ほら!こんなとこで寝てたら風邪引くだろ?」
何度か揺さぶってみても、帰ってくるのは気持ちよさそうな寝息のみで。
「・・・・仕方ねぇな・・・」
寝息を立てているケンの前で背を向けしゃがみ込み、力の入ってない腕を自身に巻きつける。腕を回し、よッ!っという短い掛け声と共にケンの体を持ち上げる。そしてそのまま背に乗せたまま、家へと歩き出した。
「くそッ・・・重ぇんだよ・・・」
自身も酒を飲んでいる。落としてしまわぬよう気を付ける。
「・・・ったく・・・図体ばっかデカくて中身はやっぱガキだな!!」
どんなに文句を言っても、背中で寝ている青年からは応答はない。ただ、雪が降りしきる街を、静かに歩いた。
アパートに着き、階段を上る。鍵を開け、部屋に入る。
暗い部屋に明かりを灯すと、ケンを床に下ろした。布団を敷き、着ていた服はそのままに、そこへ寝かせる。
巌は冷蔵庫から缶ビールを1本取り出すと、電気を消し、窓際に腰を下ろした。
カーテンを開けると、薄っすらと月明かりが部屋を染めた。ぼんやりと空を見上げると、降ってくる雪が月明かりに輝いて見える。ゆっくりと舞い降りる雪は、まるで天使の羽根のように。
空けた缶を傾けながら、巌は思い出していた。さっきのケンの言葉を。馬鹿にしていた妄想の数々を。
「・・・覚悟、か・・・・」
思い出して、また残りを飲み干した。
(・・・んなもん、とっくに出来てんだけどな・・・)
ちらりとケンを見る。相変わらず気持ちよさそうに寝息を立てている。
「ったく・・・人の気も知らねぇで・・・今度は何の夢を見てやがんのか・・・」
また月明かりに目を向けたときだった。
「巌さああぁあぁん・・・」
名前を呼ばれ、振り向いた。
「・・えへへ・・好きいいぃぃ・・・」
幸せそうに笑う。直後、また寝息が聴こえ始めた。
「・・・・寝言かよ」
巌は立ち上がると、ケンに布団を掛けてやった。
幸せそうな寝顔を見て、そのままゆっくりと顔を近づける。
互いの鼻先が触れ合いそうになる距離まで顔を近づけ、そして、顔を離した。
「・・・・・何やってんだか・・俺は・・・・・飲みすぎたか?」
らしくねぇなと立ち上がり、ケンの隣に自分の布団を敷く。カーテンを閉め、部屋を閉ざす。今日は疲れたと、自分も寝る体勢に入る。
「そういやまだ言ってなかったな・・・」
布団に入ると、ひんやりとした感覚に襲われた。
「メリークリスマス、ケン・・」
だが不思議と、寒くはなかった。
結局、聞きそびれちまったな・・・まぁいいか
やがて、二人の寝息が、聖なる夜に木霊していった。
そういえば、さっき何て言ってたんですか?
ん?
さっき、ケンさんに・・
あぁ・・あれか・・あれは
『サンタクロースは居ないかもしれないけど、
人はサンタさんになれるんだよ!』
ってな
・・ふふ・・何だかケンさんらしいですね
あぁ、そうだな
アナタは、クリスマスを誰と過ごしますか?
友達と過ごす方
どうか独りで悩まないでください
悩まずに話してください
きっと力になってくれるはずです
アナタにはクリスマスを一緒に過ごしてくれる、親友がいる事を忘れないでください
家族と過ごす方
どうか一緒にいる時間を大切にしてください
いずれ、別れの時が来ます
その時に後悔しないように
アナタには絆という血で繋がった、家族がいることを忘れないでください
恋人と過ごす方
どうか優しくしてあげてください
喧嘩をしても仲直りしてください
傷はやがて塞がります
アナタには愛し合った、恋人がいることを忘れないでください
独りで過ごす方へ
どうか気付いてください
本当はアナタのことを大切に想う人がいることを
今はまだ、気付いていないだけ
アナタは、本当は独りじゃないということを忘れないでください
全ての人々に幸福が訪れますように
メリークリスマス