七、ケンの嘘

  ユウは体の大きさに似合わない俊足だった。もう走れません、と泣き言を漏らすタビの背中を押しながら、なんとか見失わずに神社にたどり着いた。

  サキは全員が揃うと「みんなに話さなきゃいけないことがある」と、神隠し事件の全容を語った。今更驚きも無かった。この三日間で、現実として受け入れられる幅が大きく広がった。成長であればいいけれど、少し違う気もする。

  「タビにも本当の願いがあるんじゃない?」

  促すと、タビは「はい」と頷いた。秘密基地を見に行こうと誘ってきたときよりも、力強い目をしていた。

  「みんなと友達に戻りたいんです。大人になっても」

  あまりに単純な願いで拍子抜けしたけれど、タビらしいとも思った。気を遣いすぎるきらいがあるのだ。自分を縛らずにもっと自由であればいいのに。

  「それにはサキも入っているのか」

  ユウが口を挟む。質問ではない、確認だ。

  「もちろん。サキさんも一緒に戻りましょう」

  「ケン、お前はどうだ」

  当然。全員で戻って友達になれるのなら。でも実際はサキの問題がある。空白の十五年を抱えて家族もいない場所へ戻れと、身勝手なことを言っていいのか。

  いなり様の力で【サキがいたことにする】のは可能だろう。巫女バイトを終えた後、失踪を無かったことにできると、いなり様は言ったのだから。でも、その後の十五年を自ら選び続けたサキに居場所を与えてくれるわけではない。対価が支払われない限りは。

  本当に、サキを連れ戻すのは正解なのか?

  姉ならどうするか、と顔を思い浮かべる。

  『ケンは本当に願いが叶ったの? 子供に戻ったのは体だけって感じがするけど』

  そうか、これか。

  後先を[[rb:憂 > うれ]]えるなんて子供じゃない。自分の正義でいい。自分に嘘をつかないのが子供の誠実さだ。遠慮なんて要らない。愚直でいい。乱暴に言えばわがままでいい。それが子供の特権じゃないか。自分を縛らずにもっと自由でいい、なんて人に言えたもんじゃない。

  俺がどうしたいかを言えばいいんだ。一番望んでいることを。やんちゃをしよう。後のことは大人の俺達に任せよう。子供の尻拭いをするのが大人の役目なんだから。今だけ、俺は俺に嘘をつくのをやめよう。

  [[rb:逡巡 > しゅんじゅん]]する間、ユウはじっと俺を見ていた。歯を食いしばったように。

  「俺も。サキに戻って来てほしい。サキには思うところがあるかもしれないけど。みんなで戻りたい。また友達に戻りたい」

  ユウがずんずんと歩み寄って来て、俺の肩に腕を回した。ぎょっとした。ユウから肩を組んでくるなんて初めてだった。

  「ケンが戻ってきたな」

  「何、どういうこと」

  「こっちの話だ」

  瞬間、紙芝居を引き抜いたみたいに周囲の景色がまるごとごっそり変わった。

  砂利を敷いてトラロープで区切っただけの有料駐車場。小さな祠。

  と、いなり様人形。

  「願いは叶ったな。では解散じゃ。供物はいつでも待っておるぞ」