軍畑式サバイバル・ハック! ―無人島生活に必要なこと―

  「参謀殿。お疲れではありませんか」

  そう声をかけられて顔を上げる。海辺の砂浜。

  視線の先には、白い獣毛が夕陽を受けてキレイな――サダヨシさん。

  ビーチバレーをしていた後を、二人で片付けていたところ。

  他の皆は食事の準備に取り掛かっている。

  「えっ全然元気。ご飯も美味しいし。むしろ仕事してる時より良く寝てるかも」

  「それは何よりです」

  ちょっと冗談も交えてみたけど、これは真面目に受け取られたみたい。

  サダヨシさんは大きく頷いて、シートや簡易ネットを丸める。

  こちらの倍以上の荷物を軽々と抱えて、

  「この生活も、はや何日……。自分では気付かなくとも疲れが出ます。意識して充分な休息を取ることが必要です」

  サバイバル生活に必要なこと、その一。意識して休む。

  さすが軍人さんらしいアドバイス。歩き出すその横に駆け寄って、

  「サダヨシさんこそ疲れてない? 毎日あんなに働いてさ。ビーチバレーもするし」

  毎日島を駆け巡っては、使えそうな資材を探したりバナナ(らしきもの)を運んできたり。バレーだってもはや日課。ボールを持って、遊びましょうと皆を誘う。なんなら一人でも飛んだり跳ねたりしている。ワンコ。

  「体力には、自信があります」

  フッと笑ってそう言うのは冗談か……うーん、これは本気か。

  まったくの嫌味もなくそんなことが言えるのもさすがです。

  「それに、ばれえは[[rb:別筋 > べつきん]]ですから」

  「別腹みたいに言うのやめてー」

  こっちはもちろん冗談だ。お互いに笑った。

  一部の横文字にやたら疎いだけで、このヒトは別にゆるふわさんてわけでもない。

  割と負けず嫌いだったり好戦的だったり。

  その一方での天然ぷりや優しいところも、どっちもサダヨシさん。

  そんなことがよくわかったのも、この急にやってきたサバイバル生活のおかげだ。

  と、こちらの足が止まっていたことに気付いて、彼が振り向く。

  大きな目をぱちくりして、

  「どうしました」

  「オレも、サダヨシさんくらい……は、全然ムリだけど。半分くらいでも体力あったら、役に立てるのに」

  「参謀殿は、充分活躍されているかと」

  「そうじゃなくてさ」

  うまく言えない。なぜかぽろっと出てしまった心の内。

  そんなこと言うつもりもなかったのに。夕陽のせいかもしれない。

  サダヨシさんも足を止めて、こちらにまっすぐ向き直った。

  沈む太陽の光を受けて、その瞳がきらきら光っている。

  「もっと、皆様の役に立ちたいのですね」

  「……うん」

  この生活で身に染みてわかったこと。

  力仕事や食事の用意とか。変身とかオペレーションとかじゃない……つまりもっとフツウのこと。そうしたことが充分にできているとは、とても言えない。

  サダヨシさんは一つ大きく頷くと、こちらを促してまたゆっくり歩き出す。

  「自分が何ができるのかを、常に考えるのです。誰かと比べるのではなく……」

  それはまるで、自分に言い聞かせてもいるようで。

  「サダヨシさんも、そういうこと、考える?」

  「はい。私ももっと世間慣れできればいいのにと、いつも思っております。本当に」

  「ええー? サダヨシさんが世間慣れしたら完璧になっちゃうし、オレがツッコめなくなっちゃうからダメですー」

  「完璧など……。ですが――ええ。

  それなら、貴方にもっとつっこんでもらうことにしましょう」

  こちらを向く顔は優しくて。――その笑みは、個人的な種類のものだ。とても。

  それが少しだけ、こちらの胸の奥にある何かを刺激する。

  ……面と向かって言うのはちょっと照れくさかったけど。

  「サダヨシさん、あのね」

  「なんでしょう」

  「その。いつも優しくしてくれて、ありがとう」

  大きな目がさらに大きくなって、何度も瞬きをした。

  いえ、と小さく言って逸らされる顔。夕陽が眩しい?

  「――俺は、貴方がいてくれるから……」

  「え、なに?」

  「なんでもございません」

  波音にさらわれて、呟きはこちらに届かず消える。

  でも、耳がぴくぴくっと動くのは見えた。そっちは見逃しません。

  「うそー、何か言いましたよねー?」

  「ひみつです」

  「教えてー」

  「ばれえで私から一本取れたら教えてあげます」

  「絶対教えない宣言じゃん!」

  「そんなことは。ばれえでなくとも構いませんよ」

  今度は顔いっぱいのニコニコでそんなこと。くそう。誤魔化してる。

  こういうところ、ホントに頑固。負けず嫌いの地が出てる。

  ジト目で睨むと、サダヨシさんはこほんと咳払いをして、

  「冗談はともかく……。胸の内を、外に出すのも大切です。特にこのような状況では。私なら、いつでも傍におりますから」

  「――うん!」

  サバイバル生活に必要なこと、その二。思っていることをちゃんと言う。

  彼のふさふさした大きな尻尾が、機嫌良さそうにゆったり揺れている。

  「しかし、ええ。参謀殿に心配かけてはいけませんね。

  今日は、私も早めに休ませていただくことにします」

  [chapter:軍畑式サバイバル・ハック!

  ―無人島生活に必要なこと―]

  「お[[rb:二方 > ふたかた]]、それでは今日は先に休ませていただきます。お休みなさい」

  「おやすみなさーい」

  夕食後、火の番をしてくれている二人に挨拶をして、サダヨシさんとキャンプを離れる。無人島だからどこで寝てもいいわけで(贅沢な話)、キャンプから離れすぎない適当な場所を探して歩く。

  夜の浜辺。波は穏やかだ。海の上には信じられないくらい大きな月。

  思わずサンダルを脱いで波打ち際で遊べば、裸足の感覚が気持ちいい。

  サダヨシさんは、付かず離れずの距離で見守ってくれている。

  遭難してなかったら、かなりいいシチュエーションなんだけど。

  「サダヨシさん、今日はゆっくり寝れるね」

  「というと?」

  「だってホラ! いっつもイサリビさんとユーハンさんに……その、抱きつかれて、寝てるし……」

  そう言えば今朝もそんなだった。サダヨシさんは少しうなされていたりして。

  なにより正直……ちょっとうらやましいのですが!

  そんなこちらの内心はいざ知らずか、サダヨシさんは真面目に考える顔をする。

  「お二人は……私のことを枕か、お座布団かなにかかとお思いのようで。いえ、まったく悪意も敵意もありませんので、どうにも……」

  「サダヨシさんモフモフだからだよ」

  「もふもふ」

  「首の周りとかさ」

  「――ああ、毛並み……。職務中にも、褒めて頂くことはありますが」

  「軍でもそういうことあるの?」

  「ええ。ただ、雑魚寝で抱きつかれるようなことはありませんね」

  「そうなんだ」

  「皆、死ぬほど疲れて泥のように眠っております」

  「軍隊こわっ」

  体力が、なんて言ったけどそうはなれないわと思う次第です。

  あまり自覚はなかったのか、サダヨシさんは自分で首元の毛を引っ張ってみたりしている。

  「もふもふ……お好きなのですか」

  「アッはい」

  「そ、そうですか」

  即答したら若干引かれてしまったようです。いけないいけない。

  その後、適度な茂みの奥を寝床にすることに決めて、

  「木や枝で屋根を作りましょう。ここが常夏の星とは言え、風や夜露を防げないと体力を奪われてしまいます」

  「そういうのも、軍隊で訓練するの?」

  「ええ。過酷な状況を先んじて経験し備える。これが訓練の第一目的なのです」

  さすが軍人さん、とか思ってるとサダヨシさん、ひょいひょいっと細いヤシの木の幹を蹴って飛び上がった。で、てっぺんからぐいーっと枝を引っ張って下りてくる。そのまま掴んだ二つの枝を結んで……簡単に屋根を作ってしまった。

  「そうだ。喉が渇いているなら、ヤシの実、割りましょうか」

  「そこらへんは、軍隊式じゃないよね……」

  「?」

  サバイバル生活に必要な……いや、これはサダヨシさんのフィジカルがないとムリなやつ。なんか不思議そうな顔してるけど!

  そしてさらさらの砂地の上に、ビニールシートとタオルを重ねて完成だ。

  アーチ状の屋根兼風よけが、秘密基地みたいでちょっと楽しい。

  「寒くはありませんか」

  「うん」

  並んで腰を下ろせば、必然的に距離が近い。

  こちらは借りた薄手のパーカーに、トランクスタイプの水着。

  サダヨシさんに至っては身体にフィットしたパンツだけ。

  

  露出した肌に時々触れる獣毛の感覚。

  そうでなくても、ほんの僅かでも手を伸ばせば届く距離。

  サダヨシさんは……軍人さんだから、そういうの気にしてないかもだけどさ。

  「む、向こうの二人は、まだ起きてるかな?」

  「おそらく。少しだけ、声が届きますから」

  「ギアンサルとザニアは、今日はさっさと寝ちゃったね」

  「無法者たちは、まったく……。――いえ。このような状況では、彼らとも協力する術を学ぶことも必要です。私は特に、あの手の[[rb:PC > ぴーしー]]スキルには疎いですから……」

  サバイバル生活に必要なこと。その三。落としどころを見つけること。

  で、そんなサダヨシさんが意識しているのは明らかに一人だ。

  まあ、色々と思うところがあるのはわかるので。

  フクザツな顔が面白くて見ていると、ごほんと咳払いをした。

  「[[rb:彼奴 > きゃつ]]の話はいいのです。今、参謀殿と二人でいるのは、わ、私なのですから」

  「あーやきもちだー」

  「ね、年長者をからかうものではありませんっ」

  「ごめんなさいー」

  甘えるように言えば、すぐ、しょうがないなという顔で許してくれる。

  たまに年上感出してくる、そんなところも、彼らしさ。

  「サダヨシさんといると……安心する」

  「それは」

  「なんか、お兄さんみたいで」

  「おに…………。ンン、二親等は些か問題がありますので。せめて、四親等で」

  ? よくわかんないけど頷いておく。

  それで不意に会話が途切れてしまった。

  お互い顔を見合わせたまま、しばし。

  「や、休みましょう……か」

  「は、はーい」

  横になっても沈黙はそのままだ。

  波の音だけが遠く、だけど、いやに耳について。

  ……そういえば、サダヨシさんとちゃんと二人きりになるのは、はじめて、かも。

  変に意識したら、なおさら。――と、

  「あっ――」

  何も言わず伸びてきた大きな手が、こっちの手首を取っていた。

  くっと引かれて――、抱き寄せられる。

  「サ、ダヨシ、さん……?」

  

  首元に顔をうめる形になって。モフモフっ……最高……だけど……。

  ――いいんです、か?

  目線だけ上げて見れば、サダヨシさんはどこかに視点を固定したまま。

  「寒くは、ありませんか」

  「う、うん……あったかい、けど」

  ……さっきも訊きましたよ、それ。

  「ひと肌で暖を取るのは、理にかなっています……から……」

  「そ、そう……?」

  サバイバル生活に必要なこと、その四。ひと肌で暖を取る……?

  それって……雪山とかの話じゃないか、な?

  背中と腰に、ぎこちなく大きな手が回されて。

  サダヨシさんが無駄に身体を硬くしていることが伝わってくる。

  緊張してるのはわかるんだけど……どうするんだろう。

  と、ぎゅっと目をつぶった。

  「お、お休みなさい」

  寝るんだ!?

  いやまあ、おかげであったかいし、目をつぶってしまえば……寝られる?

  「……おやすみなさ、い」

  喉の奥で、つっかえたように返事をする。

  もちろん、それで終わることなんてなかったのだけれど。

  [newpage]

  目を閉じていても、息を殺していても、感じるものがある。

  確かな熱を帯びた――大人の雄の匂い。

  毎日しっかり水浴びをしていたとしても、身体から発せられるそれ。

  “彼”を確かに主張するもの。

  間近にあっても、全然嫌には感じなかった。むしろ……。

  「――――っ」

  ……身体の向き、変えないと。こちとら健全な男子なわけで。

  胸もお腹も、その下も。ここまで密着していると色々なものを感じてしまう。

  それに、どうにかが無かったとしても、今のままじゃ寝返りも打てないし!

  身をよじって、寝返り…………。

  打てない…………。

  打て……。

  いや動けないんですが。

  がっしり固められてます。いつの間にか足首まで絡められていて。

  「え、待って寝技? これって寝技なんじゃ? 軍隊式? シメてます?」

  応答はない。若干、生命の危機まで覚えて、

  「サダヨシさんちょっと」

  「…………。」

  「ね、動けないんですけど」

  「…………。」

  「ウソ絶対起きてるでしょサダヨシさん!」

  ようやくもぞもぞする白いワンコ、もといサダヨシさん。

  「それは寝技ではなく関節技です」

  「結果おんなじだよ!? なんでそんなことしてるの!」

  「照れ隠しです……!」

  「正直か!」

  照れ隠しでシメられたらたまったものではないのですが。

  サダヨシさん、こちらを見ないまま、

  「あ、あまりその。動かないで頂きたく……あ、当たって、おりま、す……」

  「…………!」

  そんなこと言われたって! わかってますよ!

  「じゃちょっと……離してよ」

  「いやです」

  「おおい!」

  つまり……そういうことがしたいんじゃないですか! あなただって!

  で、背中に回した手を離すつもりはないらしい。ホントに頑固。

  それに人のこと言うけど――そっちだって、しっかり、水着の下……。

  とはいえ力比べで勝てるはずもない。本当にびくともしない。このう。

  もはやヤケで、思い切り首筋に顔を埋めてやる。モフモフ最高ッ!!

  「参謀、殿……っ!」

  大きく息を呑んで、白い胸が大きく膨れた。

  抱きしめる力が強くなる。でも全く苦しくはない。

  すごく気を遣ってくれているのはわかっているのだ。いつだって。

  しばし耳元で、お互いの息だけが、ひどく荒い。

  ――さっきの会話と同じだ。またそこから動けなく……。

  「サダヨシさん」

  彼に、譲れないものや苦手なものがあることくらい、わかってる。完璧なんかじゃない。こちらから言ってあげること。たぶんそれも、いま必要なことなんだ。

  「[[rb:する > ・・]]……?」

  抱きしめる腕がぴたりと止まって。

  それから。

  彼はこちらの首筋に顔を埋めたまま、小さく、だけど――しっかり頷いた。

  夜の海辺。さざめく波の音が、少し小さくなっている。

  ◆◆◆

  手を伸ばして、彼の背中から腰に沿って指を這わす。

  たどり着く水着のウエスト、尻尾の生え際。

  「ここは、スベスベしてるね……」

  「そこはっ、あまり外気に、触れませんから……んぁっ!」

  声を上げて、サダヨシさんが背を反らす。

  構わず指を動かせば、それに合わせてびくびく小刻みに揺れる身体。あ、ちょっとかわいい。

  さらに悪戯心が出て、尻尾の付け根を掴もうとしたら、ぎゅっとされる。

  「ダメっ。サダヨシさんダメっ。ぎゅっして動き封じるの禁止!」

  「ぎゅっ禁止……」

  「さ、参謀命令」

  「なんと」

  「ガマンして!」

  「ご無体な……っ」

  それでサダヨシさんは我慢モードに。

  うん、ちょっと軍人さんの扱い方がわかってきたかも、なんて。

  「さ、参謀殿はっ、んっ、大変経験が、おありで……百戦錬磨……あぅっ」

  「いやちがいます百戦錬磨なんかじゃありません」

  「自分はっ、自分は知識はありますが経験はありませんんnん!」

  「なんの主張!?」

  知識て。噛んでるし。

  「なのに、その知識がっ、役に立たないのですっ、どうしたら良いのですか……!」

  「そんな……の」

  そんなの、心配してるんだ。……するか、サダヨシさんなら。

  こちらのおでこで、おでこにコツンとしてあげた。

  「思ったこと言えば、いいんでしょ。……好きな人と、してるんだから……」

  「好きな――――そう、か。正直に……」

  「うん……」

  おでこをくっ付けたまま、彼は安心したように大きく息をついた。

  そして、笑う。とても個人的な、あの笑みで。

  「ほら。貴方は俺のできないことを、こんなにもできる。本当にすごい人なんだ」

  「っ――」

  「俺は知っています。貴方のこと、ちゃんと見ていますから」

  そんなこと、いま言ってくれなくたって……。

  悪戯心が引っ込んで、尻尾から手を離す。

  思わず唇を寄せると――けどサダヨシさん、今度は慌てて身を引いいた。

  「せ、[[rb:接吻 > せっぷん]]はっ」

  「接吻」

  「き、きすのことです……」

  「存じております……ってかバレンタインの時はそっちからしてきたのに!」

  「あれはっ、婚姻を前提としたお付き合いになるのかとっ」

  「うん、[[rb:婚姻 > それ]]は、一旦置いとこ……」

  もうこのヒトはホントに。

  でもわかる。わかってる。

  譲れないことや、すぐには変えられないこと。それを含めて、“らしさ”なら。

  「世間慣れしたいって言ってたけどさ。サダヨシさんのそういうところも……好き、だから。いいよ」

  「……参謀殿」

  ふっと力を抜いたサダヨシさんが、改めてぎゅっと抱きしめてくれた。

  お互いがお互いの首元に顔を埋めて。とても、あったかい。

  大きな手が胸にそっと添えられた。

  「では、その……俺からしても……よろしい、でしょうか」

  「うん……」

  そうして、タオルの上に仰向けにされる。

  ――サダヨシさん、馬乗りになってきた。やる気満々じゃないですか。

  にしても太腿の筋肉、すごい。みっしりと肉が詰まってる感触。

  大きな手が、パーカーのジッパーにかかる。

  細かい動作が苦手なのか、ひどくたどたどしく、もどかしく。

  それが逆に……劣情を[[rb:煽 > あお]]って。

  バンザイするみたいに大の字にされて――脱がされた。

  外気にさらされる肌。少し肌寒い……体温が上がってるせいだ。

  彼が上半身を折って、胸、脇、首筋に、鼻をつけて匂いを嗅ぐ。

  まるで本当に犬がするみたいに……いやらしい。

  「んっ……」

  耳に差し掛かった時、不意にちくっとする。

  えっ……?

  理解するのに、ちょっと時間がかかった。

  ――噛んでる? ……っ、また……。

  「ね、ねえ……キスはダメなのに、[[rb:甘噛み > それ]]はいいの……?」

  サダヨシさんは応えない。動きだけが止まらずに。

  そんなの、されたことない。全然百戦錬磨なんかじゃないのに。

  このヒトこそ、なんの知識をどこで仕入れてるんだか!?

  恥ずかしさに視線を横に流せば、木陰の向こうに遠く、大きな月。

  この状況、まるで――。

  茂みの中で、獣に襲われて、貪られているみたい。

  ……っ、やばい。変なコト考えたら、ますます……。

  身を硬くしたこちらに、彼はすぐ気づいたみたいだった。耳元に顔を寄せ、

  「……跡にならないように、しますから」

  低い[[rb:囁 > ささや]]きに、背筋から下腹部の深い部分にかけて、ぞくりと快感が[[rb:奔 > はし]]る。

  ……経験無いとか言っておいて。

  本能的にこういうこと好きなんじゃん……。

  じんとする頭。目を開けてられない。

  ちくちくが続いてもどかしいのに、腰を、太腿で完全に固定されてる。

  「――もうっ!」

  がむしゃらに、彼の水着に指をかけた。

  容赦なく――水着はきつく、どこかに引っかかったけど、一気に引き下ろす。

  「んんっ……!」

  呻きつつ、すぐに反撃に入るサダヨシさん。

  身体を曲げ、器用にこちらのトランクスに足をかけて。

  抵抗する間もなく、こちらも脱がされた。

  「お行儀悪いよ……っ」

  「いいのです……っ」

  そうして、何も身につけない姿で、ただ二人。

  四肢を絡め、敏感なところを擦り合わせて。

  後頭部を、腰を、下腹部を、揉みくちゃにし合う。

  でもキスしようとすると――、さっと避ける。そこは譲る気が無いらしい。

  わかりましたよ、もう。そこが落としどころってわけで。

  そんなことを、何回も、何回も繰り返した。

  くしゃくしゃになったタオル。めくれ上がるビニールシート。水着は……どこかにいっちゃった。

  砂にまみれることもいとわずに、二匹の獣がじゃれ合うように。

  「うぅっ」

  堪えきれなくなったような声を漏らして、サダヨシさんが半身を起こす。

  茂み越しの月明かりを受けて、その身体は白く輝く。

  こちらを見下ろす紫と青の瞳。映る複雑なハイライト。

  視線は怖いくらいまっすぐ、同時にとても、[[rb:艶 > なま]]めかしくて。

  手を伸ばして頬を撫でてあげると、目を細めて頬ずりする。

  ――このヒトも、そういう顔するんだ……。

  「サダヨシさん、一緒に、して」

  「はい」

  

  両者の[[rb:屹立 > きつりつ]]したそれを合わせる。

  サダヨシさんのそこも、綺麗な色をしている。

  すっかり塗れた先端からは、いまだにぬらぬらした液体が溢れていて。

  こちらの手を、白い大きな手が包む。

  茂みの中、低く響く卑猥な水音。

  ふたつの手の間に腰を突き入れる、剥き出しの本能。

  ぎゅうっと、彼の身体中の筋肉が、引き絞られるのが見えた。

  「イッ……参謀、殿――っ!」

  「こっち、も……んんっ……!」

  ぐっと持っていかれる感覚にひたすら耐える――って、ぅわっ……!

  思わずビビった。すごい。

  何がと言わないけど、こちらの顎どころか頬まで飛んできた。

  急激な疲労もあって、荒い呼吸を繰り返すしかできない。

  ホワイトアウトしかけた頭じゃ、全然現実に追い付けない。

  サダヨシさんは……と見れば。

  自分でもびっくりしたのか、硬直して今日一番目を丸くしてる。

  「…………。」

  「…………。」

  目が合う。そしてしばし――あ、真っ赤になった。今、死ぬほど照れてますね。

  そしてこちらが何を言う間もなく、問答無用で抱きかかえて。

  「わっ、ちょ――」

  「みっ水場へゆきますうおおおおおおおお!」

  [[rb:照れ隠し > また]]か! とツッコむヒマすら置き去りの猛ダッシュ。

  その首元に、こちらはしっかりとしがみつくしかなかった。

  ◆◆◆

  「寒くは、ありませんか」

  「うん。平気」

  で、場所は少し奥まった木立の中にあった綺麗な水場に。

  なんとなく無言のまま身体を洗ったけど、サダヨシさんは割とさっぱりしていたので、まあ良かった。

  先に上がったこちらが見ているのを意識してか、背中を向けてぶるっと身を震わせて水を払う。やっぱりワンコ。

  腰にしっかりタオルを巻いてからやって来る。

  そしてちょっとの逡巡を見せてから、隣に腰を下ろした。

  また照れてる。いいけどぉ。

  「あーやっぱりー、寒いなー」

  「はっ」

  「ひと肌……がいいんでしょ」

  「あっ。え、ええ……」

  察して、おずおずとこちらに身を寄せてくる彼。

  わかってました。そうなるだろうと思ってた。思ってたので。

  だから。

  近付いた時に――さっと顔を向けて、その唇にキスをした。

  「――――」

  完全にフリーズするサダヨシさん。

  ふふふ、油断大敵。ちょっと嬉しくて笑みが零れてしまう。

  「バレーじゃないけど、一本取りました! どうですか!」

  口を何度もぱくぱくしてから――彼は観念したように笑った。

  「……やられました。貴方は、本当に、負けず嫌いで」

  「サダヨシさんには言われたくない!」

  そう言い合って、二人して笑う。

  そして――もう一度、キスをした。今度はちゃんと、舌まで絡めて。

  ……一本取ったら、どうなるんだっけ。まあ……いいか。

  サダヨシさん、吹っ切れたのか、ちょんちょんと舌の先を触れさせてみたり、鼻と鼻を擦り合わせてみたりまでしてくる。

  めちゃくちゃ練習&研究してる。知識欲旺盛なのはいいけどアナタ。

  「キスしたかったくせに」

  言えばすぐ、唇をつんとしてまた目をどこかに向けたりして。

  はいこれ聞こえないフリ。聞こえないフリですよこれ。

  ツッコんであげようとする前に――また、砂地の上に仰向けにされた。

  優しく。でも有無は言わさない感じで。

  「サダヨシさん……?」

  「もう一度、しましょう」

  「えっ……マジです」

  「まじです。――したいのです。ダメ、でしょうか?」

  「ダメってことは……でも明日、起きられるかな」

  「起こしてあげます。寝坊しても構いませんし」

  「だって、ほら、サダヨシさんだって……疲れちゃわない?」

  応えてくる、無駄にキメ顔一発。

  「体力には自信があります」

  「知ってますよ!?」

  このヒト、ホントに!

  ――いやでも、知ってはいただけだった。

  彼の言葉を借りるなら、“知識はあったけど、経験はなかった”のだ。

  つまりその。そのあと、ええと。……もう一回どころか、[[rb:何回も > ・・・]]。

  月が大きくその位置を変えるまで、彼のその体力を、身をもって知らされることになったのだった。

  ……このヒト、ホントに!

  ◆◆◆

  そんなで、翌朝こちらはもちろん寝坊した。そりゃもう盛大に。

  サダヨシさんはと言うと、

  「参ります! スパアアァァァイクッ!!」

  ……むしろ昨日より元気になってない? なんか毛並みツヤツヤしてるし。

  轟音と共に砂浜に穴が開いてるし。ホントにビーチバレーかあれ。

  そんな光景を木陰でぼんやり眺めながら思うわけです。

  サバイバル生活に必要なこと。

  色々理屈こねてたけど。

  ……やっぱり体力なんじゃない?

  ◆軍畑式サバイバル・ハック!

  ―無人島生活に必要なこと―

  ――了。