ハロウィンとか、バレンタインとか、そういった行事はあまり得意じゃない。別にお菓子会社の販促習慣とかいう話をしたいわけではなくて、個人の味覚の趣味として。
俺は甘いものがあまり得意じゃない。油脂でべったりしたクリームの甘さとか、工夫を凝らした食感とか、繊細できらびやかな意匠とか、そういうのが。すぐ満腹になるような気がするし、それなら酒を飲んだり、焼き肉をしたりする方が好きだ。
恋人にはそれに合わせてもらうことが多い。
例えばバレンタインでは、俺からはチョコレートだのココア菓子だのを渡すが、彼から俺に対しては、酒のつまみだとかそういうのを贈ってもらった。その後焼肉をした。恋人はゴールデンレトリバー種なので恐ろしく大きく、そのため燃費が悪いのか、米も肉も面白いように消えた。悪くないバレンタインだったはずだ。
でもハロウィンには特に何をするかは決めていなかった。何が来るだろう。甘いものが苦手ということは知っているはずなので、そうじゃなったらいい。もしハロウィンスイーツみたいなのが出ても付き合おうじゃないか、くらいの気持ちで、自宅のマンションのドアを開けた。
「おかえりっす~!」
小麦色の犬の巨体が飛び込んでくる。
飛び込んでくる?!
QTEさながら、ほとんど反射でしゃがみこんで避ける——いでっ、膝がビキッつった、三十半ばの運動不足の身体には辛い。
「えっ反射神経ヤバッ」
恋人が無を抱く——俺の頭上でがばっと腕が空振りしたのが見えた——俺を飛び越えてマンションの廊下に飛び込み前転——人がいなくてよかった——ウルトラC——着地。ブレなし、10点。素晴らしい出来栄え。
振り向く。
「可愛い甘えん坊年下彼氏のお帰りなさいのハグを無視!?」
「アホか! 受け止められるわけないだろうが」
あと自分で言うな。
自分で可愛いとか言うな。
甘えん坊年下彼氏を自認するな。
坂下正智。24歳。187センチ、108キロ。レトリーバー種だからか犬の宿命だからか、ボディタッチはかなり多い方。体温が高い。部屋ではもっぱら下着で過ごしている。今は白いタンクトップに、ローライズのボクサー。丸くて黒い目に、大きなたれ耳。小麦畑のような色合いのサラサラの長毛。好物は甘いもの。
この大柄な男に対して、俺はヒューマンの中でも小柄な方だ。頭が胸に届くくらい。そんな体格差で飛び込まれたらたまったものではない。高さも厚さもウェイトも段違いなのだ。
首を折って死ぬか、転んで頭を打って死ぬか、窒息して死ぬかである。
「いやいやいや、やっぱそこは愛でカバーしてくださいよ、ラブですよ、アモーレですよ」
「ほら、そんな恰好で立ってないで入りなさいよ、痴漢になっちゃうぞ」
「はぁ~い」
もともとごねるつもりもなく、ただのおふざけだ。すんなり正智は返事をして、二人で部屋に入る。居間へ。彼はソファにだらっと腰を下ろした。二人で折半して買った黒いソファーだった。でっかい犬獣人が部屋にいるって、幸せが部屋にいる、みたいなものかもしれない。
アプリで知り合って三か月で付き合って、一年で同棲した。わあお手本みたいな交際手順。正智ほど見た目が良ければ入れ食いだと思うのだが、勝ち抜けたようでよかった。彼みたいなまっすぐな愛情表現は、俺がやるには照れが入るので、存分にしてくれて構わないのだ。彼の文法で愛情を返すのは、俺にとってはそれなりの勢いが必要になる。
恥ずかしいし。
それを横目で見ながら脱いだスーツを片付けて下着だけになる。スラックスだのベルトだのの締め付けから腹が解放される。30を過ぎると、中年太りの影が見え隠れしてくる。そのまま脱衣所に行き、パンツをを下ろす。座ってしまえばずっとだらけてしまうからだ。
居間に声をかける。
「お前も一緒に入る? まだ入ってなかったらだけど」
「えっ、いいんですか? キャホ——ウ!」
大げさなほどに尻尾をぶんぶんさせて、正智は脱衣所に突っ込んでくる——避ける。「あぁっ!? またしても……!」
二人で全裸になり、風呂場に入る。
向かい合って二人でシャワーを浴びた。温水を正智の身体に流しながら、黄金色の毛並みを指で梳くようにわしわしやって、水分をたっぷり含ませる。正智は気持ちよさそうに目をつぶっている。
「ハグはやだけど一緒にお風呂はOKってどういう基準なんですか?」
「逆だよ。ハグしなかったから一緒にお風呂に行くんだ」
「あえ……?」
正智は全然わからないけどまあいいや、という感じでうなずいて黙った。俺に身を任せてくれる。
シャワーを止め、人獣兼用のボディソープを手の平に出して、首から胸にかけてわしゃわしゃとやる。毛並み表面の汚れを分解し、地肌の無駄な脂や老廃物を指で浮かす。正智の身体を洗うのは好きだ。この美しい毛並みの保持に、自分の手があるのかと思うと、まんざらでもない。
首やら胸やらを洗っていると、腹に硬いものが当たった。二人暮らし向けのマンションの風呂場とはいえ成人のヒューマンとレトリーバー種だ。さすがに狭い。俺は少しだけ笑う。俺の腹に勃起が当たっていた。目を上げる——正智が俺を抱きしめる——覆いかぶさるように動きを封じるように——そのままキスをされる——口吻の先を触れ合わせるだけの、十代みたいなやつだ。正智は俺を抱きしめたまま、壁に俺を押し付ける。目が座っている。
「啓貴さんが洗ってくれるので勃っちゃいました」
ボディソープでぬるぬるの俺の手に、自分の大きな手を重ねて、にゅくにゅくと握ったり開いたりをする。悪い気はしないが、一回りも下の若者に体格が全然追い付いていないのをこれ見よがしにされているようで、少しだけ複雑になりかける。
「へへ……手ぇちっちゃあ」
正智の声は非常に緩くなっていて、何だか馬鹿らしくなってしまう。正智の身体に自分の身体を預ける。壁に押さえつけられたまま、正智はまた俺にキスをした。俺は目を閉じる。それは了承だった。正智はそれを拾ってくれる。分厚く長い舌が俺の唇を数回ちちろちろ舐めて、隙間から熱い舌が入り込む。歯茎や歯列を器用にたどり、ゆっくりと舌の肉を絡めあわせる。
「んん……」
「はふ……」
深いキスをしながら俺たちは身体をすり合わせる。ボディーソープの清潔な匂いと、ぬらぬらした毛皮が撫でてくるせいで、俺も硬くなっている。裏筋が正智のむっちりした太腿に挟まれて、柔らかく素股される。にゅるにゅるの毛が棒全体を柔らかくくすぐる。俺の腹に密着している恋人の性器は熱く、時折、ぐ、と脈動した。俺はこの性器に触ってあげたくなる。しかしこの状態ではされるがままでいるしかない。
しばらくキスをしているうちに、口蓋に舌先が触れる。そこはくすぐったくて好きじゃない。
「ん、ふ……っ」
ちょっとだけ拒むような喘ぎが漏れると、正智は俺を抱く力を強めた。正智の舌は軽い拒否を受けて、むしろ乗り気に口蓋の段や、軟口蓋との境目をいたずらっぽくなぞる。快感とほとんど背中合わせなくすぐったさで身をよじるがどこ吹く風だ。
「んぐ……」
目を薄く開けると、楽しくてたまらないという感じの、にたにたとした目と視線が合う。この男はこういう趣味があった——彼のペニスは俺の腹で楽しそうに震えている——がぶっ!——一瞬だけ歯に柔らかな感触。
「ぎゃうっ!?」
正智が顔を離す。抱擁が解かれ、彼は手で口吻を覆うようにして顔をおさえている。ぺたんとした耳、涙目。そんなに強く噛んだわけじゃない。たぶん油断していたもんだから、痛みより驚きが勝ったのだろう。
「ごめん、ちょっと強く噛みすぎた」
「こ、こちらこそすみません、啓貴さんが嫌がるのがかわいくて……」
俺たちは淡いキスをもう一度して、戯れに区切りをつけ、互いの泡を流す。その後は俺のシャンプーを正智がしてくれる。ぷにぷにの肉球が頭皮をマッサージしてくれる感触はとても気持ちよかった。
そろそろ出るか、というタイミングで、正智が再度俺を抱きしめてくる。愛い奴め。軽く拭いた身体はしっとりと湿っていて、筋肉の隆起や曲線が肌で分かった。
「あの、啓貴さん」
「うん」
「この後、ちょっとやってみたいことがあるんですけど……」
「やってみたいこと?」
聞きなおしたが、さっきのこともあってほとんど引き受けるつもりだった。正智は言いにくそうにもじもじ言う。
「ほら、もうすぐハロウィンじゃないですかぁ、で、ちょっとえっちな遊びをしたいというかぁ……、いやまあ遊びってわけじゃないんですけど……」
「なんだよ、歯切れが悪いなあ。いいよ、よっぽどじゃなきゃやろうよ」
「その、啓貴さんを食べたくって……なんと言いますか、甘いものを盛りつけたりとかして」
「ふうん……? あ、男体盛りのお菓子版か」
「そうです。あんまりメジャーなプレイじゃないんですけど、ちょっとやってみたくて。あっでもいやだったら全然……」
「いいよ」
「色々問題があって、食べ物で遊ぶとか、衛生とか……。啓貴さんって甘いもの苦手ですし、無理やりつき合わせるつもりは全然なくって……、えっ、いいんですか?」
「でも残さず全部食べること。俺も食べるからさ」
正智はさっきまでとは打って変わって、ぱあっと顔を輝かせ、尻尾もばさばさ振って風呂場を出ていく。準備をするのだという。
準備があるのは俺の方もだった。
自分の準備を終えるころには、正智の準備はすっかり終わっていた。黒いケツ割れだけを履いて寝室に行く。同じくケツ割れ姿の正智の腰かけたベッドにはナイロンのシートが引かれ、大の字に拘束できるように拘束具が取り付けられているのが見えた。金属とか革のものではなく、ナイロンや柔らかな布を使った、ちょっとした遊びの拘束具だ。
「待たせちゃったかな」
「や、今準備が終わったとこでした!」
元気よく振られる尻尾が、ナイロンをこすってさりさりと音を立てる。彼の前に置かれたローテーブルには見るからに甘そうな菓子たちが並んでいた。クッキー、ドーナツ、絞り袋に詰め込まれたホイップクリーム、常温でも液体のチョコソース、近所のパティスリーの箱。カフェオレとブラックコーヒーのボトルもあった。
それらを横目で見ながら、正智の隣に腰かけた。シートの冷たさが直に尻に伝わる。正智の腿に手を置く。光の当たり方で、白みが強まったり黄や赤が透けたりする毛並みの下に、筋肉のしっかりした硬い弾力があった。俺の指に反応したのか、く、とペニスが窮屈そうに布地を押し上げる。
「これ、このために買ったの?」
こくん。
「お、お恥ずかしながら……」
毛並みの流れに沿って、内腿に手をゆっくりと這わせる。正智がこちらを見る——俺も正智を見る——口づけ——了承——次の流れへ。彼がそっと俺をベッドに倒す。俺はその流れに従って、拘束しやすいように体を広げる。四肢の拘束を進めながら正智は俺の腹をつついて笑う。
「ヒューマンのお腹って全然毛がないし、柔らかくて不思議な感じ」
「中年太りだよ」
四肢の拘束を終えると、俺は大の字に固定される。ケツ割れを押し上げている勃起を正智は指で軽く押す。
「う……」
「啓貴さんって、経験すごいあるわりに、縛られるとすぐ勃ちますよね。やっぱりマゾなんだなあ」
「……うるさいなあ」
「あれれ、生意気な口利いちゃっていいんですか……」
言いながら、正智はパティスリーの箱を開ける。中には保冷材に守られた二切れのケーキが入っている。黒い生クリームとベリーが控えめに飾られ、つやつやとしたグラサージュで覆われたチョコレートケーキと、卵色のスポンジでたっぷりの生クリームとフルーツを挟み、苺が乗せられたショートケーキだ。果物や生クリーム、生地の甘い匂いに、チョコレートのほろ苦い香りが流れてくる。
正智はチョコレートの方を慎重に掴み、俺の腹にそっと乗せた。冷たい。呼吸で反射的にケーキを倒さないように、息が浅くなる。続けて、その隣にショートケーキが配置される。チョコレートケーキは肌にぺとりと張り付くようで、ショートケーキはさらりとしていた。気を抜いたら倒してしまいそうだ。
身体が——器——モノとして捉え直されていく。そこに食べ物が乗せられる。その異常さ。心拍が早まる。倒さないようになんて言われていないのに、俺は自然にケーキを倒さないように体を固めていた。
「啓貴さん、ちょっとくすぐったいかもですけど我慢してくださいね」
取り合わせに置かれたケーキの傍らに、数枚のクッキーが置かれる。ざらりとしたふちが肌を擦る。クッキーが一枚ずつ置かれるたびに、ペニスが震えた。
次に正智はホイップクリームを出した。それはすでに七、八分立てになっているようで、ためらうことなく彼は食器に金口を向けた。
「んん……」
ケーキを支えるように、腹とケーキを縁取るようにホイップクリームが絞り出される。
クリームはやはりかなり冷たい。震えてしまいそうな身体を筋肉で固く保つ。油脂が体温でじわじわととろけていく感じがする。ケーキの縁取りが終わると、クッキーの隣にクリームの山を作る。そして、悪ふざけのように俺の乳首にもクリームが盛られた。
「すごい、全然萎えてないですよ。ノリノリじゃないですか」
ケツ割れ玉袋ごとペニスが引き出される。剥き出しになった勃起に、正智は輪投げの的のようにしてドーナツを通す。砂糖の荒い粒にざりざりと擦れて、先走りが盛り上がる。正智はそれをうまそうに舐めとる。てらてらとする肉色の亀頭には、また生クリームだ。
最後にチョコソースがペニスから首元までまんべんなく振りかけられる。白と黒のケーキや、クッキーにふざけたドーナツ、それぞれに添えられた生クリームに、粘性のある黒いソースが飾る。余ったクリームやチョコは、へその穴に注がれる。胸焼けしそうなほど甘い匂いが立ちこめ、肌には質感の異なる油脂がちりばめられ、俺は場切れもなく器として捉えられていた。
甘味が苦手な俺自身が甘味で飾られていく光景は悪い冗談みたいだった。
正智は終始楽しそうで、真剣な様子だった。俺の身体を俺からはぎ取り、正智のモノとして真摯に捉え直そうとしていた、ように見えた。正智はできました、と言ってスマホで写真を撮った。映えるかどうかはともかく、さすがにSNSには上げられないだろう。
スマホをローテーブルに置くと、彼は俺の枕元に腰を下ろした。そしてお気に入りの調度品を愛でるような優しさで、俺の頭をそっと撫でた。それは恐ろしく幸福な感覚だった。鷹揚に彼は、ベッドに手をついて、俺の額に口吻を落とした。額——眉間——瞼——鼻、顔中に口づけをされる。やがて、俺の唇と正智の口吻が合わさった。さらりとした短い毛並みと、わずかに湿った黒い粘膜。反射。舌を迎え入れようと唇が開く。正智がちょっとだけ笑って、舌を忍ばせてくる。
「ん……」
舌の裏を舐め上げ、絡みついて、扱き上げるように締め付けられる。ゴールデンレトリバーの広く長い舌では、ヒューマンの舌は翻弄されるしかない。そもそも口の大きさが違うのだ。俺は誘い込むように舌を引き、口内を正智で埋めようとする。
やがて正智はクッキーを取ると、へその穴のクリームやチョコをすくい取る。俺から舌を引き抜いて顔を離すと、代わりにそのクッキーをくわえた。
「啓貴さん、あーん」
求められるまま、俺はひな鳥のように正智の牙からクッキーをついばんだ。山盛りにクリームにチョコのかけられたクッキーは甘すぎる。クリームが口の端にへばりつく。油脂——粘つき——ぬめり——匂い、普段ならば不快だったのだろうけれど、今はむしろ何かを煽った。
クッキーを飲み込むと、正智がブラックコーヒーのボトルに口を付け、俺に飲ませてくれる。豆の香りと苦みが、べっとりとした甘みを流してくれる。
「うぐー、にが」
当の正智は、俺から口を離すと苦さに眉をしかめていた。たぶんブラックコーヒーが俺のためのもので、隣のカフェオレのボトルが正智のものなのだろう。
正智は口元を荒く拭うと、ショートケーキを優しくつかみ、俺の口に近づける。俺は鼻をクリームに埋めてかじると、正智がその反対側に細長い口でばくりと噛みついた。至近距離で俺たちの視線がぶつかる。正智の瞳は、にたにたと露悪的な瞳をしていた。繊細な飾りつけを壊し、クリームの脂とはじけた果汁で頬の毛や鼻の頭を濡らしながら、俺たちはケーキを食い進み、そして甘い口付けをした。咀嚼したケーキが舌に乗って運ばれてくるので、自分の咀嚼したケーキを混ぜ込んで、正智の下に乗せる。またそれを交換する——それを交換する——それを交換する。正智の牙で噛み砕かれ、俺の臼歯ですりつぶされ、唾液と混ぜられたぐちゃぐちゃのケーキが、俺たちを往復する。じゅるりぐちゅりと音を立てながら、跡形もなくなるまで。
べたべたの手が俺の頬を挟む。俺の顔にへばりついたケーキを塗り広げるように、めちゃめちゃに撫でまわされる。
ケーキまみれの顔を、正智はこれより美味しいものなんかどこにもないってくらいうっとりした顔で、舐め回し始める。額のスポンジのかけら——鼻の穴に落ちかけた果肉——頬にべったりとついたクリーム——べちゃべちゃでどろどろにさせながら、正智の舌は下りていく。首筋を舌が舐め下りる。
「ああっ……んっ」
俺は快感を逃そうと喘ぐが、クッキーを突っ込まれて黙らされる。
「んぐ……、がふっ」
乾いた破片をいなしながら、前歯で砕き、臼歯で潰して舌で唾液をすり込む。そうしている間に、正智の舌は胸に移っていた。黒目がちな優しい瞳で乳首のクリームを眺め、正智はその片方にむしゃぶりついた。
「うううっ……!」
クリームが押しつぶされ、その舌の乳首を舌で転がされる。くにくにこりこりと舌の柔らかな刺激と、牙の先で甘噛みされる感覚に苛まれてペニスが跳ねる。乳首にむしゃぶりつきながら、彼はもう片方に手を伸ばし、乳首をつつきながらクリームをすくう。指が俺の口に伸びる。咥える。緩くなり始めた柔らかなクリームを纏った正智の指は、舌をもてあそぶように乱暴に愛撫する。一方的な愛し方だった。俺は正智に触れたくなる。でもこの状態ではなす術なくおもちゃにされるしかない。
舌が乳首を離れる。正智は腹のケーキをそのままに、へそに口をつけて、じゅるるるるっと音を立てて、とろけたクリームとチョコレートソースを啜った。
「ひあっ!」
不快と快の両方の感覚が打たれる。ペニスがまた跳ねた。へそに溜まったソースが少なくなると、正智は舌を穴に差し込んでべちゃべちゃと舐めとった。
へその中が何もなくなると、正智は身体を離して、ベッドに身体を載せる。俺の頭をまたいで、四つん這いになる。シックスナインだ。正智はケツ割れを下ろし、ペニスを露出させる。ゴールデンレトリバー種の中でどうなのかはわからないが、俺からすればはるかに大きな雄がぶるんと揺れた。正智の濃い匂い。正智はゆっくりを腰を下ろし、ペニスの先端を俺の唇に近づける。俺は口を開けて、歯を当てないように迎える。
「んん……っ、んく……」
「……はあぁ……」
正智の雄で俺の口はほぼ完全に塞がれる。慎重に鼻で息をしながら雄を飲み込むが、先端でとんとんと喉奥が小突かれ、食道が痙攣する。
「っえ、げぅっ……」
「おっと」
えずくと、正智は少しだけ腰を引いて呼吸の隙間を開けてくれる。しかし数秒だけ待つと、また喉に差し込まれる。そのまま最奥まで喉が犯され、玉袋で鼻も塞がれてしまう。
「んんん……っ!」
「あー……喉気持ちいいっす……」
うぐ。
ペニスが跳ねる。
俺は何も言えないまま耐えるしかない。
「え、なんで今反応したんです? もしかして俺が気持ちいいの嬉しくて感じちゃいましたんですか? 可愛い……」
「んぐ、んんん……」
言いながら少しだけ呼吸の隙間を作ってくれるが、別に返答を求めるものではないようで、すぐにまた塞がれてしまった。
とん、とん、とからかうように突かれ、えずくと休憩、というのを数度繰り返し、耐えられなくなると呼吸ができるくらいの位置で止まってくれる。
下腹部にさらりとした感触がした。
そしてすぐに自分のペニスが生温かいぬめりに包まれた。正智の舌だ。亀頭を飾ったクリームを絡めるようにして、ちろちろと舐めている。柔らかくて温かい感触が、尿道口やカリ首を責め立て始める。
「っく……」
「へへ、喉犯されながらちんちん舐められるの気持ちいいですね?」
でもそう言った正智は亀頭に舌を這わせるのをやめてしまい、カリの根元に舌を這わせた。
咀嚼音。ドーナツを頬張っているのだ。ざらざらの砂糖や鼻先がペニスを刺激する。さっきまでのフェラチオとは刺激の質が異なっていてもどかしい。ドーナツはほんの二口程度で彼の腹の中に収まる。
「ドーナツうまかった~。じゃ、クリームで口直ししようかな」
言って、正智は四つん這いのまま手を伸ばして、ホイップクリームを手に取ったのが太腿の向こうに見えた。
ひやりとした感じがペニスを覆う。クリームが絞られている。螺旋状に絞り出されるクリームにペニスを覆われてしまう。
「クリーム舐めるだけなんで、イっちゃだめですよ」
にゅるるる……とペニスに温かい舌が絡みつく。舌から舐め上げ、敏感なカリ首や裏筋を唾液と油脂でにゅるにゅるの舌がくちゅくちゅとクリームを舐めとる。ねちっこい愛撫が繰り返され、ペニスが彼の口内で跳ねた。もともとここまで散々感じさせられてきていたのだ。太ももの付け根に甘い痺れがわだかまっている。
「んんっ! んぐぐ……っ!」
「ちょっとうるさいんで静かにしててくださいね」
「げぶ……っ!」
深くペニスが差し込まれる。
神経が反射する。
玉袋が鼻を塞いでいる。
酸欠。
興奮が加速する。
あ、と思った瞬間に、俺は射精した。
「んぶ、ぐ、げぇ、……つ!」
正智の長い口の中、柔らかくて温かな舌にくるまれて耐えきれなかった。ペニスは暴れるように射精を繰り返した。筋肉が収縮するたびに濃い精液を射った。正智は口を離さずに精液を全て受け止めてくれる。
生理的な涙——滲んだ視界——俺たちの腹の間——チョコレートケーキが不思議に形を保っていた。俺はこんなにぐちゃぐちゃになったのに。
射精が終わると、じゅっと尿道の精液を吸って、正智は体を起こして口からペニスを抜いた。
「あ~あ、イっちゃいましたねえ。俺まだイけてないんですけど」
「ご、……ごめん」
「ちゃんと最後まで面倒見てくださいよぉ」
正智は言いながら、俺の両足の拘束を解き、身体を反転させる。俺の脚のあいだに膝立ちになって、肩に足を載せる。近くに転がっている絞り袋の中に手を入れ、中のクリームを直にすくうと、自分の勃起に乗せる。余りは俺や正智自身の腹になすり付けられる。クリームの白と毛並みの小麦色が破滅的だ。正智はクリームごとペニスをしごいてなじませ、腰を突き出す。アナルに雄が押し付けられる。
ローション代わりにクリームを使うということらしい。ベッド際にローションはあるし、クリームはほぼ脂肪だろうし、問題はないはず——いやあるんだろうが——あってもいい——俺は尻の力を抜く。正智のペニスは大きいが、すでにアナルは簡単に飲み込む。
「っ……う……」
「あ、もうほぐし終わってる……ノリノリじゃないすかー。俺に犯されるの楽しみでした? 年下甘えん坊彼氏にメスにされるの大好きですもんね」
正智は俺が何も言えないことをいいことに、好き放題言う。とはいえ、やはり苦しい。正智の下腹と俺の尻が触れて、そのまま少しの間だけ尻内臓を圧迫する雄を受け入れて、穴が馴染むまで少しだけかかる。待っている間に、正智は俺の腹の上に残っているケーキを手に取る。つややかなグラサージュが崩れ、体温でとろけ始めたチョコレートケーキにかぶりつく。唇から柔らかなクリームと、ベリーの果汁が垂れる。カカオと果実の南国のようなむっとするような官能的な匂いが漂った。
「うま。でもちょっと苦い……これ啓貴さんも食いやすいように選んだんですよ」
汁を舐めとりながら、べちゃ、と口にケーキが押し付けられる。しかし俺にはまだ甘い。焙煎された豆に、黒いスポンジケーキに練り込まれたココア、いくつもの層に重なった甘い香りが鼻に押し寄せる。正智がもてあそぶようにして、辛うじて残っていたもう半分の造形も、俺の顔と正智の手の平の間で、ぐちゃぐちゃにされてしまった。果肉が頬を滑り落ちて、ベッドに落ちる。
溶けたクリーム——チョコレート——果汁——それらを吸って重たい生地——てらてらとするヒューマンの皮膚——正智は馴染んできた頃を見計らって俺にのしかかる。
せっかく洗った毛並みに、脂や糖が絡みつくのをためらわず、正智は俺の身体を、上半身と下半身で折り曲げるようにして体重をかけ、密着する。毛並み——筋肉の弾力——匂い——重さ——幸福感がじわじわと滲んでくる。いつもなら俺の肌も正智の毛並みも乾いているが、今はその境界を油脂がぐちゃぐちゃに乱している。正智と本当に一つになりたい気持ちになる。
正智がゆっくりと腰を引き、差し込む。緩いピストンが、俺の穴を正智の形になるように丁寧に耕す。耳もとで、正智の荒い息づかいが聞こえる。早く動きたいのを我慢しているのだろう。
「正智……大丈夫」
「です?」
「あぁっ!」
おれは小さく囁くと、正智はちょっとだけ笑った気配がして、ピストンを強めた。前立腺が丸みを帯びた亀頭にえぐられる。正智は俺の前立腺の位置や、アナルのどこが感じるのかということを完璧に把握している。亀頭が前立腺を潰し、解放する。何度も。
「あっ! あひっ! んん……っ」
「啓貴さんってお尻で気持ちよくなると、全部どろどろになりますよねえ」
前立腺を攻めながら、正智は腸壁にペニスをこすりつける。ローションのぬめりとは違って、吸い付いて溶かし込むような油性のぬめりは、いつもと違う摩擦の感覚がある。腸の襞の一つ一つが、ぬとぬとになってペニスに絡みつく。
挿入と排出を繰り返しながら、正智は俺の頬に残ったケーキに口を付ける。舌で器用に舐めとり、口づけをする。ぐじゅぐじゅになったケーキを二人で咀嚼する。カカオもミルクも知ったことじゃない。腰を打ち付ける音と、唾液とケーキが混ざる濡れた音が部屋に響く。油脂と混ざって粘ついた正智の唾液を飲み、そのお返しにケーキのかけらを舌に載せて差し出す。性欲と食欲が奇妙な交合をする。ぐじゅぐじゅぴちゃぴちゃと幼稚に粘膜を合わせる。
「んんっ! んぐ、ああぁっ!」
亀頭がごりごりと前立腺を殴打している。先ほどよりも硬くなっている。そのうちにアナルが強く収縮し始める。それは俺の中の動きなのだけれど、何一つ俺は関与できない。ス打撃——収縮——幸福感——そして嵐がやってくる。
「イ、イきそう……っ!」
背中が弓なりにしなる。括約筋が正智のペニスに食らいつく。腹筋から何から肛門になってしまったようだ。正智のペニスは痛くないだろうか。でも止められない。暴力じみた快感と幸福がやってくる。
前立腺での絶頂の締め付けで、正智が最も深くまでペニスを突き入れた。そこは俺が一番来てほしいところだった。こりっとした部分を亀頭が越えた。正智の舌に強く吸い付く。俺は肛門を強く締め付ける。自分のペニスから液体が漏れていた。獣が俺の身体を強く抱きしめる。骨くらい折ってもよかった。でもそんなことにはならなかった。
「啓貴さん、啓貴さん、啓貴さん……」
正智の声は甘く荒れている。俺の雌が彼の雄を絞り上げている。正智は俺の腸壁でペニスを擦る。俺の身体で快楽をむさぼる。俺はセックスでこの瞬間が一番好きだった。
「あぁっ、クソ、まだ、うう……っ、ぐるるる……」
低い唸り——脈動——射精。ペニスは精液を吐き出すたびに前立腺を軽く押し、ざわつくような快楽があった。
射精が終わると、俺たちはそのままの姿勢で数秒の間じっとしていた。くっついた腹が、呼吸でゆっくりと国大と収縮を繰り返す。熱が冷め始めると、正智が精液や尿や菓子でめちゃくちゃになった体を起こし、ペニスを抜く。
「うううっ」
その刺激で俺のペニスがぴくんと跳ねて、透明な雫を漏らした。正智は力の抜けた微笑を浮かべて、俺の頭を撫でる。べたりとした手が髪を撫でる。わざと嫌そうな顔を向けるが、正智は笑みを深めるだけだ。
「ありがとうございます。付き合ってもらっちゃって」
「楽しかったようで……」
「えへへ、すごかったっす」
俺の手首の拘束を外してくれる。
「ありゃ、ごめんなさい、跡になっちゃいました」
「いいよそんなの」
拘束具は素肌にあたる部分にクッションが張られていたが、けっこうな力がかかっていたようだった。正智は俺の手首を大事そうに持ち上げて、口吻の先で優しくキスをして、ぺろりと舌で舐めた。丸い瞳が本当に申し訳なさそうに見えて、俺は彼の頬についたままのクリームを指で拭った。舐めとる。甘い。
「俺も気持ちよかったよ」
「二回もイってくれて嬉しかったです」
「言うな言うな、恥ずかしいから」
俺は身体を起こして正智を抱きしめる——抱きつく——でも抱きしめる、今はがちょうどいいだろう。正智毛並みはそれなりに長い。体液どころじゃないぞ。ケーキにチョコに生地にでめちゃくちゃだ。どうしようこの掃除。でも頑張ってくれた甘え上手の年下彼氏をまずねぎらうべきだろう。
手を伸ばして、テーブルに乗ったクッキーを手に取って、唇に咥えると、彼の口元に向ける。
「ん」
「んんー」
正智は牙をひっかけるようにして、硬い生地をかじる。二人で一枚のビスケットを食べる。半分ずつ飲み込むと、俺はブラックコーヒーを口に含み、正智にキスをする。
「んぐ……にがあ」
人の好さそうで優しそうなゴールデンレトリバーの顔を、ぎゅっとやってコーヒーを飲み込む正智。俺はほとんど膝立ちになって彼の額に唇を落とした。
明日とびきりのスイーツビュッフェに連れて行こう。苺っぷりのショートケーキ、シャインマスカットをあしらったフルーツタルト、秋のパンプキンパイにスイートポテト、甘いものをたらふく食わせよう。そして帰りにはパティスリーでケーキを買って、二人で食べるのだ。