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カナ
「『結末』に、ワープしちゃう?」
する→[jump:2]
しない→このまま読んでね!!
トン!
「ヒロキー!そっちに行ったぞー!」
「わかってる!」
飛んでくるボール。おれはそれを足で受け、
そのまま地面に縫い付けるように踏みつけた。
そしてすぐさま駆け出し、敵陣へと切り込んでいく。
「やらせるかよ!」
すると相手チームのDFが3人、おれの前に立ち塞がった。
「邪魔だ」
しかしそいつらを強引に突破する。
「うおっ!?」
「な、なんだコイツ!?」
「くっそぉー!!」
3人のDFたちは悔しそうに顔を歪めていた。
それを見て、少しいい気分になる。
「よし、これで1点ゲットだ」
おれはそのままゴールへと駆け出す。
「させるかー!」
だがその行く手を阻まれる。さっきの奴らとは別のFWだ。
そいつはおれにスライディングを仕掛けてきた。
「無駄だよ」
しかしおれはそれをかわし、逆にそいつの股下を滑り抜ける。
「なっ!?……くそ!」
「はい、シュートチャンス」
相手の悔しそうな声を聞きながら、 おれはペナルティエリア内に侵入し、そのままボールを蹴った。
放たれたシュートは弧を描き、ゴールへと飛んでいく。
「いかせるかよ!」
だがそこにまたしてもディフェンスが立ち塞がってきた。
さっきとは違い、今度は4人だ。さすがにこの人数相手に一人では厳しいか? そう考えた瞬間だった。
「おれを忘れちゃいないか?」
そう言って現れたのはうちのキャプテンだ。
彼はおれの放ったシュートに合わせるように跳躍し、 ヘディングでボールをゴールに叩き込んだ。
「よっしゃ!」
「ナイスシュート!キャプテン!」
チームメイトから賞賛の声を浴びる彼。
「へへっ、まあな」
照れ臭そうに笑うその姿は、とても誇らしそうだった。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
今のプレー、完全に計算された動きだった。
あの人数差にも関わらず、誰一人として抜かれることなく、 完璧なタイミングでパスを出したのだ。
「このチームなら今度こそ、県大会優勝も夢じゃないかもしれない……!」
自然と笑みがこぼれる。
「……バーカ!『優勝』の壁は高いぞ?」
と、チームメイトであり、同級生の
琴蔵間人(ことくらはしと)
が言った。
「……うるさいな。わかってるよ」
たしかに彼の言葉は正しい。でもそれでも、 ここまできたら勝ちたいじゃないか。
それに……、
「もしそうなったら、きっと楽しいだろうな」
心からそう思う。
サッカーはやっぱり面白い。
だからもっと上手くなりたい。もっと強くなれるはずだ。
1年前…
「オラ!」
ドガッ!!
藤原弘樹(ふじわらひろき)は前の学校では荒れていた。いわゆる不良というやつである。
「ぐはっ!?」
そんな弘樹は今、サッカー部に所属している。
というのも、前の学校で問題を起こして退部させられた後、父親の勧めで転校することになったのだが、その際に父親が、『自然の中でのびのびと生活するのも悪くないんじゃないか?』と言ってきたのだ。
正直、最初は嫌だった。なぜならここは都会ではなく田舎だったからだ。
周りには田んぼしかなく、コンビニに行くにも車で10分かかるような場所なのだ。
でも、父親のすすめもあり、渋々了承したのだった。
「よし、今日はここまでにしよう」
キャプテンの号令により、練習が終わる。
「ふうー、疲れた。汗臭いし早く風呂に入りてえなあ」
タオルで汗を拭きながら呟く。
「おいおい、贅沢言うなよ」
すると隣にいた[[rb:間人 > はしと]]が呆れたように言った。
「だってよー、金江村って何もないんだぜ?やることと言ったら、山で虫取りしたり川で釣りしたりするぐらいだしよお。そんなのガキの頃以来だぜ」
そう、この村には娯楽と呼べるものがほとんどないのだ。唯一あるとすれば、それはコンビニぐらいだろう。あとはせいぜい、カラオケがあるくらいだ。それも若者が少ないためか、潰れかけてるらしいが……。
「仕方ないだろ?ここには映画館もゲームセンターもないんだ。学校での部活が唯一の楽しみなんだからさ」
「……つまんねえ」
まったくもってその通りだと思う。だからこそおれはここに来たくなかったのだ。こんな退屈な場所にずっといるなんて耐えられないからだ。
(はあ、さっさと帰りたいぜ……)
そんなことを思いながら着替えを済ませると、部室を後にする。すると、誰かにつけられているように感じた。
振り返ってみるが誰もいない。気のせいだろうか……? まあいいやと思い歩き出すと、また視線のようなものを感じた。やはり誰かがついてきているようだ。
「……誰だ?」
小声で呟いてみたが返事はない。どうやら無視を決め込むつもりのようだ。
「ちっ、めんどくせえな」
舌打ちをして、踵を返す。
「おい!いるのはわかってるんだぞ!さっさと出てこい!」
「きゃあ!」
そこの角にいるのが分かっていたので、わざと大きな声を出してみると、案の定女が出てきた。
「お前、何してんだよ」
「あ、あの、えっと……」
そいつはおどおどしながら、何か言おうとしているようだった。よく見ると、同じクラスの女子だった。名前は確か……、
「なんだ、三田(ミタ)か…一体何の用だ?おれを尾けたりして」
三田香菜(ミタ・カナ)という名前だった気がする。いつも教室の隅っこで本を読んでいるような奴だ。話したことはないが、あまり目立たない生徒だったのでよく覚えている。
「その、用っていうか、ただ単に気になっただけで……ご、ごめんなさい!」
そう言って彼女は走りだそうとする。
「待てよ。」
がしっと三田の肩を掴み、押し止める弘樹。
「わざわざ気配を殺してつけてたってことは、おれに何か言いたいことがあったんだろ?」
そう言うと、彼女はびくっと体を震わせた。
「わ、私は別に……」
「嘘つけ、じゃあなんでさっきから目が泳いでるんだよ?」
図星だったのか、彼女は何も言えずに黙り込んでしまった。そんな姿を見て、弘樹はため息をつく。
「はぁ、なんか調子狂うな、用件を言え。用件を。」
その言葉に、意を決したのか、ようやく三田は口を開いた。
「あの、実は私、あなたのことが気になってて、それで……、できればお付き合いしたいなって……思ってます!好きです!私と付き合ってください!」
「……は?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。だがすぐに理解する。
「……そういうことか。」
近くで見ると意外と可愛い顔をしている。それに胸もでかいしスタイルもいい。顔も童顔なので、歳下に見えるかもしれないが、おそらく同い年だろう。まあ、見た目だけなら申し分ないかもしれない。
「いいぜ。」
弘樹はあっさりokする。
「え!?本当にいいの!?」
まさかOKしてもらえるとは思っていなかったのだろう。彼女の顔がぱっと明るくなる。
「ああ、ただし条件がある。」
「じょ、条件……?」
途端に不安そうな顔になる彼女。
「そうだ、おれの言うことを何でも聞くこと、それだけだ。どうだ?できるか?」
「それは…」
「別に『じゃあ別れてくれ』とかは言わないからな。『死ね』って言うわけでもないから。」
「そ、それなら大丈夫だけど……」
それでもまだ迷っているようだ。無理もないだろう。突然こんなことを言われたら誰だって迷うはずだ。
だから、彼女の背中を押すことにした。
「大丈夫だ。おれは絶対にお前を裏切らないからさ。だから安心してついてこいよ。」
「……うん!」
こうして二人は付き合うことになったのだ。
弘樹自身は正直、戸惑っていた。前の学校では荒れに荒れていたため、こういうことに免疫がないのだ。
(まいったな……)
正直、どうすればいいのかわからない。とりあえず、今まで通り接すればいいのだろうか?それとも……
「どうしたの?」
考え事をしていると、彼女が話しかけてきた。
「いや、なんでもない」
慌てて返事をする。
「そう?ならいいんだけど」
「ところでさ、これからどうするんだ?」
すると、弘樹のスマホに着信が入る。母親からだ。「悪い、ちょっと電話に出てくる」
彼女に断りを入れ、電話に出る。
「もしもし、母さん?」
「あら、弘樹じゃない。どこほっつき歩いてんの?晩御飯の時間なのに帰ってこないから心配になって連絡したのよ」
「ごめん、ちょっと野暮用があってさ。すぐ帰るつもりだったんだけど……」
「今すぐ帰ってらっしゃい。晩御飯、冷めちゃうわよ…?」
「…わかった。」
そう言うと弘樹はピッ!と
通話を切ると、荷物を持って立ち上がる。
「すまん、急用ができたから今日はこれで帰るわ」
「あ…そうだね。用事があるなら…帰らないとね。」
三田がもじもじとしながら言う。その様子を見てピンときた。
「もしかして、寂しいのか?」
「えっ!べ、べつにそんなことないけど……!」
顔を赤くして否定する三田だったが、明らかに動揺しているのがわかる。どうやら図星だったようだ。
「ふーん、そっかー、そんなにおれのことが好きなんだなぁ」
ニヤニヤしながら三田の顔をのぞき込む。
ぽん。と三田の頭の上に手を乗せると
「わりぃ!また今度な!」
と言って走り出す。そしてそのまま振り返ることなく家へと帰っていったのだった。
家に帰るとすでに夕食の準備ができており、急いで食べるとすぐに部屋に戻った。そしてベッドに横になると、大きく伸びをする。
(あー疲れた)
肉体的な疲労はあまりないが、精神的な疲れの方が大きかった。なにせ女子と話す機会などほとんどなかったので、どう対応していいのかわからなかったのだ。
「ヒロキ、ごめんね。誰かと一緒にいたみたいだけど…」
「気にすんなって。母さんのご飯、美味しいからさ、つい長居しちゃったんだ」
「ふふっ、ありがとう。でも次からはちゃんと早く帰ってくるのよ?」
「はいはい、わかったよ」
そんなやりとりをして部屋に戻ると、弘樹はスマホを取り出した。
「さて、まずは情報収集だな」
検索エンジンを開く。エンジンの文字が、月の形をかたどったものに変わっていた。
「そうか、季節によってたまに変わるんだったな」
そう言いながら、フリック入力で文字を打ち込んでいく。
『恋人 作り方』
しばらくして、画面が切り替わり、質問の一覧が表示される。その中から適当に選んでクリックしてみた。
『Q.恋人を作りたいのですが、どうすれば良いですか?』
A.まず、自分磨きをしましょう。異性から魅力的に見えるようになれば、自然とモテますよ。
「……なんかむかつく回答だなぁ」
その後もいくつか質問をしてみるが、どれも似たようなものばかりだった。
「はぁ、やっぱりネットじゃあんまり参考にならないか……」
ため息をつきながらベッドに寝転がる。なーんも思いつかない。
「明日、学校に行ったら、話しかけてみるか…」
そうつぶやくと、ゆっくりと目を閉じた。
翌日、弘樹はいつもより早めに家を出た。教室に着くとまだ誰も来ていなかったのでホッとする。
(ふぅ、なんとか間に合ったぜ……)
椅子に腰掛けて一息ついていると、ドアが開いて女子生徒が入ってきた。三田だ。彼女はキョロキョロと辺りを見回している。弘樹の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「おはよう…今日は、早いんだね…」
「ああ、まあな」
ぶっきらぼうに返す弘樹。もじもじとする三田に対し、弘樹は尋ねた。
「なあ、昨日のことなんだけどさ、お前、おれのどこが好きになったんだよ?」
すると、三田の顔がみるみる赤くなっていく。
「えっと、その、優しくて、頼りがいがあって、カッコいいところとか、あとは……」
しどろもどろになりながら答える彼女。だが、弘樹には理解できなかった。優しい?頼りになる?誰が?おれが?
「いや、ないない。ありえないだろ、それ」
思わず本音が漏れてしまう。だが三田はそんな弘樹の様子を見ても、嫌な顔ひとつしなかった。むしろ、なぜか嬉しそうですらある。
「ううん、そんなことないよ。私は好きだよ……?あなたのこと」
「そ、そっか……ありがとな」
なんだか照れくさくなってしまい、頭をかく弘樹。その様子を見ていた三田がくすっと笑う。
「なんだよ?」
「な、なんでもない!なんでもないのですます…」
慌てて言い直す三田を見て、さらに恥ずかしくなってしまう弘樹。しばらく沈黙が続いた後、今度は三田の方から話しかけてきた。
「ふ、藤原くん…。」
「…ヒロキでいいぞ。彼氏と彼女ってそんなもんなんだろ?」
そう言うと、三田の顔がぱぁっと明るくなる。そして、恥ずかしそうにしながら答えた。
「うん……!よろしくね、ヒロキくん!」
「ああ!改めてよろしく。『カナ』」
ぼっ!!
と彼女の顔が真っ赤になる。耳まで真っ赤になっているのを見て、弘樹は思わず吹き出してしまった。
こうして二人は付き合うことになったのだ。アンバランスな2人が紡ぎ出す、恋の行方とは―――!?
後日。
「おはよーっす」
朝、いつものように登校してきた弘樹だったが、今日はいつもとは違うことがあった。それはクラス中の視線が自分に集まっていることだ。
「おいおい、どうしたんだみんな?おれの顔に何かついてるのか?」
戸惑いながらも尋ねる弘樹だったが、返ってきた答えは意外なものだった。
「いやぁ、お熱いねぇ?このこのぉ~」
「え……?」
訳がわからずポカンとしていると、クラスの女子たちが次々と話しかけてくる。
「まさかこんな展開になるとはね~、びっくりだよ」
「そうそう、でもおめでとう、お似合いだと思うよ」
「あ、ありがとう……」
突然の祝福に、弘樹は戸惑うばかりだった。
「で……なんのことだ?」
ズコーッ!!っと一斉にずっこけるクラスメイトたち。どうやら本気で言っているらしい。やれやれといった表情で一人の少女が進み出る。委員長の佐藤さんだ。彼女は眼鏡をクイッと上げると説明を始めた。
「あのね、あなたこないだ告白されたでしょ?それでOKしたんでしょ?」
「……あー、そういうことか。おう。おれは『カナ』と付き合うことにした。文句あるか?」
ぼっ!!と再び顔を赤くする委員長。そしてうつむきながらボソボソとつぶやいた。
「……別にないけど」
「じゃあいいだろ」
そう言って席に着く弘樹。しかし、まだ終わりではなかった。
「おい、ちょっと待て」
後ろから声がかけられる。振り返るとそこには一人の男子生徒が立っていた。彼は琴蔵間人。サッカー部の同じ部員だ。普段はクラスのムードメーカーなのだが、今は明らかに様子がおかしい。
「それで終わりか?」
間人(ハシト)は、弘樹のことをギロリと睨みつける。
「どういうことだ?」
弘樹が尋ねると、間人はイライラとした様子で言った。
「だから、付き合って終わりなのかって聞いてんだよ」
「ああ、そうだが」
弘樹がそう答えると、間人の目つきはさらに鋭くなった。
「おまえな…付き合うって、どういうことかわかってるか?遊びじゃないんだぞ?本当に好きな相手なら、ずっと一緒にいてやりたいと思うはずだろ?それなのに、お前は……!」
「待て待て待て、落ち着けよ。いったいどうしたっていうんだ?」
「うるさい!もういい!!」
吐き捨てるように言うと、そのまま自分の席に戻っていく。残された弘樹は呆然としていた。
「……なんだってんだよ一体……」
その後も休み時間や昼休みなど、多くの時間を質問攻めにされて過ごした。やっとのことで放課後になり、帰宅しようとする弘樹の前に現れたのは、なんと三田だった。
「ヒロキくん…今日、放課後、時間…ある?」
もじもじと
しながら尋ねてくる彼女にドキッとする弘樹。だが、今日はこの後用事がある。
「ごめん、今日はちょっと無理なんだ」
そう言うと、三田の表情が曇ったような気がしたが、すぐに笑顔に戻る。
「そっかぁ、残念だけど仕方ないよね。また今度誘うことにするね!」
そう言って手を振りながら教室から出て行く三田。その後ろ姿を見ながら、弘樹は思った。
(あいつ、やっぱりいいやつだよな……おれなんかにはもったいないくらいだぜ……)
そんなことを考えながら帰路につく弘樹だったが、その道中でも、またしても誰かに見られているような感覚に襲われていた。
(うーん、やっぱり気のせいじゃないのか?それとも、おれが自意識過剰すぎるだけなのかな?)
下手すぎる尾行に、踵を返し、柱の陰に隠れたヤツを見つけた。
「おい、間人(ハシト)。そんなとこで何してんだ?」
ビクッと震える間人。ゆっくりとこちらを振り向くと、バツの悪そうな表情で言う。
「バレてたか……悪いな、邪魔するつもりじゃなかったんだが……」
ポリポリと頭をかく間人を見て、思わず笑ってしまう弘樹。
「いや、いいよ別に。今からメシ食いに行くんじゃなかったのか?お前約束してただろ」すると、間人は申し訳なさそうに答えた。
「いや、実は断ったんだ。お前に話があったからな」
「……そうか」
なんだか嫌な予感がしたが、とりあえず近くのファミレスに入ることにした二人。注文を済ませると、早速本題に入った。
「単刀直入に聞くぞ、どうして付き合ったりしたんだ?」
間人のまっすぐな視線が突き刺さる。それはまるで、親友を心配するかのような表情だった。だからこそ、こちらも真剣に答えなければならないだろう。
「なんでってそりゃあ、あいつが好きだからだよ」
それを聞いた瞬間、間人がガタッと立ち上がった。
「ふざけるなよ……!おまえ、今朝も言ったけど、『好き』になるってことは、どういうことか、わかってんのか…?!そんなの簡単なことじゃないんだぞ!相手のことを想う気持ちだって必要だし、一緒にいる時間もたくさん必要なんだからな!それをおまえは……簡単に、しかも遊び半分みたいにしやがって……!」
一気にまくし立てる間人の言葉を聞いているうちに、弘樹の中でふつふつと怒りが込み上げてきた。
「じゃあどう言えばいいんだ?おれはこんなこと初めてで、どうしたらいいかわからないんだよ。それに、おれはお前のことを信じてたんだ。きっと応援してくれると思ってた。それなのになんだよ、いきなり怒鳴り込んできて、意味わかんねえことばっかり言いやがって!おれはただ、カナのことを大切にしたいだけなんだ!それのどこがいけないって言うんだ?!」
「……大切……だと……?」
その瞬間、間人の顔から表情が抜け落ちた。そしてゆらりと立ち上がると、弘樹の胸ぐらをつかむ。
「ふざけんな……大切なら、もっと慎重になれよ……。おまえの彼女になった奴は、ただのおもちゃじゃねえんだぞ?!人の心を弄ぶような真似だけはするな!!」
「弄んでなんていねえよ!なんでそんな言い方されなきゃならないんだ!?だいたい、おまえこそおれに何を期待してるんだよ!そんなに言うなら、おまえが代わりに付き合えばよかったじゃねえか!!」
「なっ……!」
弘樹の言葉に絶句する間人。しかし、すぐに反論する。
「そんなことできるわけねえだろ!俺は、お前が……!」
そこまで言って、ハッとする間人。二人の間に沈黙が流れる。
「ハンバーグ(レア)セットと、ナポリタンスパゲッティです。おまたせしました〜!」
「あ、ぼくがナポリタンです。」
そう言うと、弘樹はナポリタンスパゲッティを自分のほうに引き寄せ、フォークを手に取る。それを見た間人も、慌ててハンバーグを切り分け始めた。
「…お前、『肉』食わねえのな」
「…ああ、あんまり好きじゃなくてな…」
ぎこちない会話が続く中、黙々と食事を進める二人。やがて食べ終えると、会計を済ませて店を出た。その間もずっと無言だ。
「…なんか…すまねぇな」
「…ああ、こちらこそ、すまない」
お互いに謝りあったところで、再び気まずい空気が流れた。そんな中、先に口を開いたのは弘樹のほうだった。
「なあ、最後に一つだけ聞かせてくれ。お前はどうして、そんなにおれのことを気にかけてくれるんだ?おれたち、友達なのにさ……」
すると、間人は一瞬驚いたような表情を見せた後、少し笑って言った。
「決まってるだろ、お前の親友だからだ」
「え?」
「だから、親友だから心配してたんだよ。ただそれだけのことだ」
そう言うと、間人はそのまま歩いて行ってしまった。弘樹はしばらくその場に立ち尽くしていたが、我に返ると家路についたのだった。
「あらお帰り。ヒロキ、明日のことなんだけど…」
「ただいま。母さん、明日がどうかした?」
「早く帰って来なさいね。大事な用事があるから…」
それだけ言うと、そそくさとリビングに入っていった母を不思議に思いながらも、自室に戻る弘樹。ベッドに横になると、明日のことについて考えていた。
(そういえば、明日はカナの誕生日だったな……)
そう思うと、急にプレゼントを用意しなければという思いに駆られたが、今の彼にはお金がない。どうしたものかと考えているうちに、引き出しの中からあるものを見つけた。
「これは―――――」
ヒロキにとっては思い出の品。それは、小学生の頃、初めて自分で貯めた小遣いで買ったものだった。当時は、これが精一杯だったのだ。今はもう必要ないと思っていたが、それでも捨てずに持っていたのだ。
「まだ持ってたのか、これ……」
手のひらサイズの小さな箱。その蓋を開けると、中には銀色の指輪が入っていた。
「懐かしいなぁ……でも、パチもんだけどな…ハハハ」
苦笑しながらもその箱を机の引き出しに入れようとした時、ふと気がついた。
「まずは、これを渡して、いつか本当に好き同士になったときに、本物を買ってやるかな…それまではこれで我慢してもらうか!」
そう呟くと、そっと蓋を閉じた。そして、それを大事そうに仕舞うと、布団にくるまった。
〜翌日〜
「いってきます」
玄関先でそう言って家を出た弘樹だったが、足取りは重かった。昨日のことを思い出していたのだ。
『彼女のことを思うなら、もっと慎重になれよ!』
『親友だからって、何でもかんでも話せるわけじゃない』
「そうだよな……おれもそう思うよ、間人……」
そんなことを呟きながら、学校へと向かう。いつもなら、彼女と待ち合わせをして一緒に登校しているのだが、今日は一人である。なんだかとても寂しく感じたが、だからといって彼女に話すわけにはいかないだろう。そう思いながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「おはよう、ヒロくん!珍しいね、一人で来るなんて……」
振り向くとそこには、カナがいた。いつもと変わらない笑顔でこちらを見ている。そんなとき、いつものようにもじもじとしながら、ヒロキに話しかける。
「あのぅ…ヒロくん今夜、お父さんもお母さんも家にいないの…もしよかったら、なんだけど…」
もじもじと下を向いたまま、恥ずかしそうにしている。そんな彼女を見て、弘樹は胸が熱くなるのを感じた。
(そうだ、おれは何を迷ってたんだ?こんなに自分のことを想ってくれる子が他にいるか……?いや、いるわけがない……!)
そう考えると、自然と口が動いていた。
「あのさ、おれからも話があるんだ。今日の放課後にでも時間作ってくれないかな……?」
それを聞いた途端、パッと顔を上げて笑顔を見せるカナ。そして、嬉しそうに頷いた。
「うんっ!」
その日の授業はほとんど頭に入らなかった。それほどまでに緊張していたのだ。なぜなら、生まれて初めて女の子をデートに誘ったのだから――
放課後になり、二人で並んで歩く。その間も、どこかぎこちない雰囲気だった。だが、それも無理はない。今までは普通に話せていたはずなのに、今ではお互い目を合わせることができないのだ。
しばらく歩いたところで、弘樹は言った。
「え…っと…さ?今夜、カナの両親は出かけてるんだっけ?」
「あ、はい……そうなんですよ〜」
なぜか敬語で答えるカナ。それを見て吹き出しそうになるのをこらえながら、さらに続ける。
「そっかぁ〜じゃあ今夜は二人きりなんだなぁ〜アハハハハ」
わざとらしい笑い声を上げるヒロキだったが、内心はかなりドキドキしていた。こんなところを誰かに見られたらどう思われるだろうか、という不安もあったし、何よりカナの反応が気になったからだ。しかし、彼女は特に気にした様子もなく、こう答えた。
「そうですね〜二人っきりですね〜!」
そんなやりとりをしているうち、いつのまにか目的地に到着していたようだ。そこは、カナの自宅だった。
「そそ、それでは、どうぞ〜お入りくださいです〜」
まるでロボットのような動きで玄関のドアを開けると、中へと案内する。
「お邪魔しま~す……」中に入ると、弘樹はまず驚いた。家の中がきれいに掃除されていたからだ。初めて入る女のコの家。それだけでもかなり興奮するのに、それが好きな子のものとなればなおさらだ。
(落ち着け……落ち着くんだ、俺!)自分にそう言い聞かせるものの、胸の高鳴りを抑えることはできなかった。すると、それに気づいたのか、彼女が声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
心配そうにこちらを見つめてくる彼女を見ていると、ますます鼓動が激しくなるのがわかった。このままではまずいと思った弘樹は、とっさに思いついた言い訳を口にした。
「い、いや……ちょっと緊張しててさ」
それを聞いて納得した様子のカナだったが、次の瞬間には顔を真っ赤にして俯いてしまった。どうやら恥ずかしがっているらしい。それを見た弘樹はさらに動揺してしまったのだが、なんとか平静を装って言った。
「そ、それよりさ、そろそろ本題に入ろうか!」
「あ、はい……!」
二人は向かい合って座ると、早速話を始めた。まずは、弘樹から切り出す。
「え〜と、どこから話せばいいかな……実は、今日話したいことっていうのは、カナの誕生日のことなんだよ」
それを聞いた途端、彼女の顔がパアッと明るくなる。
「覚えててくれたんですね!嬉しいです!!」
嬉しそうな顔を見せる彼女に、思わず見とれてしまう弘樹だったが、すぐに気を取り直して続けた。
「それで、プレゼントを買おうと思ってたんだけど、ちょっとお金が無くてな…」
そう言うと、申し訳なさそうに頭を下げた。それを見て慌てるカナ。
「そんな……気にしないでください!こうして来てくれただけで嬉しいんですから!」
そうは言うものの、やはり何かしたいという気持ちがあったのだろう。少し考えた後、何かを思いついたようにポンッと手を打った。
「それじゃあ、一つだけお願いを聞いてもらってもいいですか……?」
その言葉に身構える弘樹。
「まずは、私の部屋にご案内します…」
言われるままについていくと、階段を上り二階へ上がった。そのまま一番奥の部屋に入ると、ベッドや机などが置かれているのが見えた。おそらくここが彼女の部屋なのだろう。キョロキョロと見回していると、突然後ろから抱きしめられた。
「うわっ!?」突然のことに驚く弘樹。そんな彼をよそに、耳元で囁くように言う。
「今日は、特別な日です。」そう言うと、彼女はゆっくりと後手にドアをパタン。と閉めるのだった。
その頃。
「ヒロキ、遅いわね…」
「何処かで道草を食ってるんだろう。」
ヒロキの自宅では、
両親が彼の帰りを待っていた。だが、待てども待てども帰ってこない息子に痺れを切らしたのか、母親が立ち上がった。
「私、捜してくるわ!」
そう言って出て行こうとする彼女を父親が止めた。
「まて、やめておけ。もし『奴ら』のところにいたら、それこそ――」
父親と母親は『なにか』に怯えていた。それは、一体なんなのか―
「こうなってしまうと、祈るほか無い。」
「ヒロキ―――――。」
両親は祈る気持ちで、『奴ら』の住処にいないことを願った。
パサ!
パサ!
次々と服を脱いでいくカナ。
あっという間に下着姿になってしまった彼女は、恥ずかしそうにしながらも、弘樹の前で裸になっていった。そして、ついに一糸纏わぬ姿になったとき、そこには女神のような美しさがあった。透き通るような白い肌、すらっと伸びた手足、形の良い胸、くびれた腰回り……全てが完璧だった。そんな彼女を見ていると、カナは急に口を開く。
[newpage]
「ごめんなさい。知っていたんです。あなたが『人間』だってこと――」
それを聞いた瞬間、弘樹はドキッとした。なぜそれを知っているのか。もしかして、最初からバレていたというのか?様々な考えが頭をよぎるが、答えが出ることはなかった。
「でも、それでも良かった。たとえ、あなたが『人間』だとしても、私はあなたを愛していた。」
彼女はそう言うと、彼女の身体が熟したトマトみたいに熟れだした。赤く熟れていく白い肌。それはどんどん大きくなり、いまや彼女の身長は2m近くになっている。
「は…?なんだよ、その姿…つか『人間』って…?」
メキメキメキ!
彼女の身体はどんどんと熟れていき、可愛らしかった指は伸び、爪が鋭く伸びる。足がベキベキと音を立てて、逆関節になる。広背筋ががっちりと発達し、腕も筋肉がついて丸太のように太くなっていく。
「ごめんなさい、そして―『いただきます』。」
そう言うと、彼女はこちらに背を向けたまま、さらに全身の筋肉を隆々とさせ、窓に向かって口を開ける。アゴが、バキリバキリと伸びていき、顔が前に突き出していく。歯がどんどんと尖り、牙になっていく。まるで狼のようだった。
「う、嘘だろ……」
あまりの光景に呆然とする弘樹だったが、ここでようやく気がついた。今、自分の置かれている状況が最悪だということに。
最後に全身に銀色の体毛が生え揃い、頭頂部に三角形の耳が生えたところで変化が終わったようだった。そこにいたのは一匹の獣だった。大きな身体に鋭い爪を持つ怪物だ。その姿を見た途端、恐怖のあまり腰を抜かしてしまう弘樹。
(に、逃げないと…!!)
そう思ったのだが、体が動かない。腰が抜けて動けないのだ。その間にも化け物はゆっくりと近づいてくる。一歩ずつ確実に距離を詰めてくるその姿は、獲物を追い詰めた肉食獣のそれだった。
(動け……!動け!!)必死に身体を動かそうとするが、言うことを聞いてくれない。とうとう目の前まで来た化け物は、その剛腕をヒロキの右肩に振り下ろす。
グチャッ!!
「がああああああ!!」
弘樹の右肩が、綺麗に千切れていた。あまりの出来事に言葉を失う彼に対し、容赦なく追撃を加える化け物。今度は左脚を掴み、同じように引きちぎった。ブシュゥウ!という音と共に血が吹き出す。激痛が走るが、不思議と痛みは感じなかった。もう既に感覚が麻痺しているのだろう。
「そうか…おれはここで死ぬんだな―――」
薄れゆく意識の中で、彼は悟った。
千切ったおれの足を、まるで焼いたチキンのようにしゃぶりつくカナ。
その光景を最後に、おれの眼の前は真っ暗になった――――
グチャッ!グチャッ!
2階から聞こえてくる、何かを咀嚼するような音。1階のテーブルの上には、置き手紙が置かれていた。
「お誕生日おめでとう、カナ。美味しいお肉を味わってね♡」
そして、ヴーン…ヴーンと鳴る弘樹のスマホ。ポップアップウィンドウにメッセージが表示された。
ポーン。
『よう弘樹?こないだはゴメンな?つい熱くなっちまった。食わず嫌いじゃなくてさ?さっさと人間の肉食べに行こうぜ?仲直りのしるしによ!!』
両親たちは、この村に越してから気づいたのだ。ここが人喰いの人狼達の住処であることに。
だから、満月の夜には、弘樹を必ず家に帰らせていた。絶対に外へ出ないように言っていたのだ。
「――――ヒロキ…」
帰ってくるはずのない、息子を待ち続ける母。夜空には満月が爛々と
輝いていた――
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