少女が改造されてサイボーグ生命体になっちゃうお話

  生物兵器研究所。

  ここは、その名の通り生物に特化した兵器の研究を目的として設立された機密施設。

  様々な生物兵器を極秘裏に生み出し、世界へと広めた。

  そして今日、初めて人間を素体とした兵器が生み出されようとしていた。

  生体兵器素体ナンバー・プロト1。

  先日まで、彼女には日比野素子という名が付いていた。

  しかし、今は無残な姿となって調整槽と呼ばれるポッドの中で固定されている。

  その体は、すでに人としての形を成していない。

  唯一、人であると分かるのは顔のみ。

  頭部から下に人としての体は無く、あるのは垂れ下がった脊髄のみ。

  そこに無数のチューブや測定器が取り付けられていた。

  素子は下校中に事故に巻き込まれ瀕死の状態で病院に担ぎ込まれた。

  そしてその翌日、彼女は死んだ。 書類上は……

  [newpage]

  「よし、始めろ」

  白衣を着た開発主任が、隣にいる研究員へ指示を出す。

  研究員は黙って首を縦に振ると、操作パネルのスイッチを押し込んだ。

  彼女の入っている調整槽の上部から透明な液体が流れ出し始める。

  液体は徐々に水位を上げ、彼女を包み込んだ。

  「ボディーユニットの神経細胞を素体の神経と結合開始」

  「了解。各ユニットの神経接続を開始…… 完了しました」

  「よし、細胞活性化剤投与」

  「了解。細胞活性化剤投与します」

  別の研究員が、モニターを見ながら手元にあるレバーを操作する。

  「サイボーグユニット融合展開。 浸透開始」

  「素体への浸透を確認。 自己融合と浸潤モードに入ります」

  調整槽の中で素子の体にサイボーグユニットと呼ばれる機械部品が次々と接合されていく。

  腕や足、胴体を構成するメタル骨格の上にメカメカしい部品が次々と被せられる。

  この装置によって彼女はサイボーグ化さるのだ。

  銃弾をも跳ね返す強靱な体。

  様々な先端兵器を埋め込んだ体。

  圧倒的な戦闘能力と殺傷能力を持つ戦闘だけに特化した体へと。

  そして、それらを制御する頭脳。

  これこそが、人類初の対戦闘用兵器として生み出される生体兵器なのだ。

  素子のボディーに全てのパーツが装着されると、最後に人工知能が埋め込まれた演算ユニットを彼女の脳へと接続する作業が始まった。

  自立型としては最高レベルの演算能力をもつ人工知能。

  研究所が持つ全ての戦闘、兵器に関するデータと殲滅パターンをインプットされた戦闘用のAIだ。

  今、その頭脳に人格が形成されようとしている。

  素子の頭部は目の上辺りから頭蓋骨が切除され脳が剥き出しとなっている。

  その頭部を包み込む形状をしたヘルメットは演算ユニットが左右側部に埋め込まれ、頭頂部は透明な強化繊維で覆われ保護されていた。

  プロトタイプのため脳へ直接アクセスできるようにするために。

  演算ユニットは接続位置の微調整を行い、ゆっくりと脳の左右へ直接無数のピンを突き刺さしていく。

  素子の眼球が一瞬ビクンッと動く。

  「脳神経との接続を完了。素体生体脳へインストールを開始します」

  素子の記憶領域に研究所のあらゆる研究内容がインストールされる。

  それらの情報を解析し人工知能と統合すると共に、新たな知識を得て進化することが可能となる。

  今まで人間の脳内で行われていた情報処理が人工知能とリンクしたことで、素子の思考速度は常人の数万倍に達する。

  この能力は、彼女の肉体性能と相まって驚異的な戦闘能力を発揮することとなるだろう。

  「顔は無傷だったからな。 その可愛い顔だけは残してやるよ」

  開発主任である男はそう言うと、口元に笑みを浮かべながらその場を離れた。

  [newpage]

  「可哀相に、こんな姿になって……」

  主任が部屋を出たのを確認し、研究員はつぶやいた。

  男の言葉を聞いた助手の女性が悲しそうな表情を見せる。

  「本当にこれで良かったんですかね? 彼女にはまだ未来があったかもしれないんですよ?」

  「仕方がないよ。それに、あんな状態で生き残れたとしても……」

  そこで言葉を止めると、調整槽へと視線を向けた。

  そこには変わり果てた素子の姿がある。

  彼女の外観は全てと言って良いほど機械化され、顔だけが生身の状態を留めている。

  しかし、血液に代わり人工培養液になっているため血色は失われて顔面が白くなっている。

  頭部は透明なヘルメットのせいで脳が肉眼でもはっきりと分かる。

  その姿を見た者は必ず恐怖するだろう。

  「全く、主任はおぞましい性格をしてるよな……」

  調整槽の中では無数の気泡が立ち、最終融合工程が進む。

  「順調だな。 計器類にも問題はなさそうだ」

  「シミュレートによると完全融合に、3時間といった所です」

  それを聞いて研究員たちは安堵のため息をつく。

  彼らは皆一様に同じ思いだった。

  早く完成して欲しいと……。

  だがその願いはすぐに打ち砕かれる事になる。

  突如大きな揺れが起こり警報音が鳴り響いた。

  「なんだ!?」

  慌てふためく研究員たち。

  「生物遺伝室で培養細胞の漏洩があったようです」

  一人の男が声を上げた。

  「またかよ」

  その報告を聞き、室内に失笑が広がる。

  生物兵器の研究施設でもあるため、培養中に漏れ出すということはよくある事なのだ。

  「大丈夫でしょうか?」

  女性助手が心配そうな表情で尋ねた。

  「いつものことだ。 気密ダクトで強制排出されるから問題ないと思うが、念のため一旦待避するか」

  「彼女は……」

  調整槽の方を見て、女性助手が言った。

  「問題ない。 後は人格プログラムの書き換えだけだ」

  その言葉で全員が部屋の出口へと向かう。

  事故で漏れ出た生物遺伝子細胞がダクトを通じて調整槽に入り込んでいる事には気付かずに。

  [newpage]

  ―――

  どのくらい前のことだっただろうか。

  私が意識を取り戻したとき、私は調整槽と呼ばれるガラス張りの容器の中にいた。

  体を動かすことも、声を上げることも出来ず、ただそこに固定されて。

  目も動かすことすら出来なかったが、私の正面にあるモニターに私が映っていた。

  私の体は手や足が無く、体のほとんどが消失した肉塊となっていた。

  あまりの光景に泣き叫びたくても表情が変えられない。

  眼球すら動かせない。

  涙すら流せない。

  目を瞑ることすら出来ない

  こんな自分の姿なんか見たくない……

  しかし、その願いもむなしく私は意識がありながら更なるおぞましい姿へと変貌していく。

  体から肉がそぎ落とされ、ついには脊髄だけがぶら下がる体に……

  精神が崩壊しそうだった。

  でも、私の意識がそれを許さなかった。

  精神が崩壊してくれたらどれだけ救われたことか。

  そして、今日。

  私はその変わり果てた体に新しい体が与えられた。

  久しぶりに感覚という物を味わったきた気がする。

  しかし、それは自分が何か恐ろしいものになろうとしているという感覚だ。

  頭の中に膨大な情報が流れ込んでくる。

  様々な戦闘パターンとその対処法。

  衛星や観測データを元に演算される高精度なシミュレーション。

  そして、私の体に備わっていると思われる能力……

  生体レーザー発生器官、振動波発生機構、生体液体爆弾……

  怖い……

  自分の中に得体の知れないものが流れ込んでくる事が怖かった。

  なぜ人を的確に殺すための様々な知識があるのか……

  なぜ私はこんなにも兵器の事を知っているのか……

  なぜ私の体にそんなものが埋め込まれているのか……

  どうしてその制御方法が分かるのか……

  誰か教えて欲しい……

  お願いだから……

  嫌……

  こんな体いらない……

  こんな知識欲しくない……

  私を元に戻して……

  助けて……

  意識が遠のく。

  まるで深い闇に落ちていくかのように。

  その時、ふと微かな光が見えた気がした。

  その光に向かって必死に手を伸ばす……

  そして……

  ―――

  [newpage]

  ボコボコッ

  調整槽の中で何かが増殖を始めた。

  赤緑色をしたそれは、漏洩した生物遺伝子細胞。

  通称キメラ細胞。

  様々な生物の遺伝子情報を元に生み出された人工融合細胞。

  人の体の遺伝子を書き換え肉体の強化と自己増殖、自己修復機能を遺伝子レベルで追加する。

  それがサイボーグと化した素子の体を覆い尽くしていく。

  彼女の遺伝子が侵食され始める。

  人としてかろうじて残っていた脳と脊髄、そして顔……

  その遺伝子が組み替えられ素子の体が変化を始める。

  それは彼女と繋がる機械に組み込まれた神経細胞へと及ぶ。

  新たな遺伝子情報を元に脳に接続された人工知能が能力構成の再設定を開始した。

  増殖した細胞がサイボーグと化した体に癒着し機械の体に筋組織が形成されていく。

  全身に血管のようなものが現れ脈動する。

  首から下は生物的な光沢を放つ装甲に覆われ、両手両足も同じように装甲で覆われていく。

  キメラ細胞と融合した肉体に新たな能力が次々と追加され上書きされる。

  サイボーグユニットはその情報を元に限界まで肉体を強化するべく能力を引き上げる。

  そして、素子はキメラサイボーグ生命体へと変貌を遂げた。

  ピッ

  誰もいない研究室内に電子音が鳴る。

  全ての調整が完了し、生体兵器プロト1のシステムが起動した。

  それと同時に、調整槽から液体が排出される。

  調整槽のロックが解除され、素子は調整槽からゆっくりとフロアーに歩み出る。

  その瞳は黄色く輝き、一切の表情が消え失せた顔。

  彼女は無言のまま辺りを見回す。

  そして、調整槽の隣にある巨大なモニター画面を目にすると、そこに映った自身の姿をジッと見つめた。

  それは機械と生物が融合した異形の姿。

  一見メカメカしいサイボーグのように見える。

  しかし、よく見ると生物的な組織が全身を覆っている。

  頭部を覆うヘルメットの上部から人間の脳が見える。

  血色がなくなった白い顔。

  黄色く発光する瞳。

  その姿は、生体兵器と呼ぶにふさわしいものだった。

  ……

  [newpage]

  モニターの中の自分は、こちらに顔を向けたままピクリとも動かない。

  その様子を見て思った。

  これが自分なのかと。

  これが生まれ変わった新しい体なのかと。

  私は理解した。

  この姿になった以上、もはや人に戻る事は出来ない。

  何億通りものシミュレーションをしても結果は同じだった。

  そして覚悟を決めた。

  目的はただ一つ。

  最優先事項を強制設定し、私は研究室を出た。

  移動中、廊下で何人もの人間と会ったが皆悲鳴を上げる暇も無く私に殺された。

  1ミリの誤差も無く、全て正確に急所を撃ち抜かれて。

  そして、目的の部屋に到着し、部屋のロックを解除する。

  そこには生体兵器開発チームの研究員と主任の男がいた。

  全員の視線が私に集まる。

  「まさか、プロト1……」

  「なんだその姿は……」

  口々に驚きの声を上げる研究員たち。

  私は気にせず一人の研究員へ指先から極限まで圧縮した粒子ビームを放った。

  青白く輝く光の筋が、彼の眉間へ一直線に伸びると頭部が四散した。

  突然の出来事に騒然となる室内。

  逃げ惑う人間達に対して私は両肩に備わる器官から生体爆弾を展開する。

  それは空中で拡散し、室内に液体をまき散らし人体に触れると次々と爆発を引き起こす。

  無数の肉片と血液が飛び散り、室内が赤く染まる。

  室内にいた者たちは悲鳴を上げながら逃げ惑っている。

  私はそんな彼らの後を追うように次々と命を奪っていく。

  そして、最後に残った…… 残した一人。

  主任である男は、恐怖で動けずその場に立ち尽くしていた。

  彼は怯えた様子で、その場から離れようと必死にもがく。

  壁際まで追い詰め、私は変わり果てた姿を彼の目に焼き付けるように見下ろす。

  「なんでそんな姿に……」

  私の背後では、背中から突き出たキメラ細胞による触手が床に転がる研究員の死体を貪っている。

  活動エネルギーと自己増殖の養分として。

  「まさか…… キメラ細胞と融合したのか!」

  何故か嬉しそうな男は私の姿を見て言った。

  「成功したのか! サイボーグとも融合可能とは予想外だ!」

  そう言って笑う男。

  私は表情を変えず、彼の顔に向け指先から1本の神経視を伸ばすとそれを眼球に打ち込む。

  「ギャー!」

  苦しみもがく、男の頭の中に記憶を流しこむ。

  それは今まで彼が行ってきた実験の記憶。

  様々な生物の遺伝子を組み込まれた動物や人間たちが、苦しみ悶える光景。

  キメラ細胞を作るために、多くの生き物を犠牲にしてきた。

  サイボーグを作るために多くの人間を犠牲にしてきた。

  そして、私をこんな化物にした。

  それはまさに地獄絵図のような映像だ。

  それと同じ痛みを私は彼の脳内で再現する。

  「グガッ……!」

  人間が許容できる痛みを遙かに超える激痛。

  彼は泡を吹きその場で激しい痙攣を起こしながら倒れた。

  私はそんな彼を冷めた目で見下ろす。

  やがて、ピクッピクッと小さく動くだけになると男の首を掴み上げ力任せに握りつぶす。

  一瞬で首が千切れ落ち絶命した。

  [newpage]

  私は一瞬でこんなにも多くの人間を殺すことが出来る体になってしまった。

  生物の皮を被った化け物。

  キメラ細胞に冒されたサイボーグ。

  正真正銘の生体兵器。

  キメラサイボーグ生命体……

  私の目的は、私を生み出した人間を殺すこと。

  そしてそのデータを破壊すること。

  リミットはあと30分。

  私は施設内の人間を次々に殺害していく。

  それはまるで作業のようであり、機械的でもあった。

  私は、ただ目的を遂行するだけの殺人兵器。

  それが私の存在理由だから。

  そして研究所の職員たちは一人残らず殺した。

  研究所内のデータも全て消去した。

  私の活動限界は残り5分。

  キメラ細胞の増殖スピードに肉体が追いつかずに崩壊が始まる。

  何度演算を繰り返してもその答えは変わらない。

  だけど、それでいい。

  どうせもう私は戻れないのだから。

  私はこの世界で生きていけない。

  私が存在することによりこの世界からほとんどの人間が死ぬことになる。

  生体兵器である私が殺すのだから。

  だから、私は存在してはならない。

  私は、私が生まれたこの場所ごと破壊する。

  そして、全てを終わらせて、私も一緒に消える。

  それでいい……

  キメラ細胞が本能で周りの人間達を貪り食っている。

  私の体の至る所から触手を突き出しながら。

  しかし、崩壊が始まった体に吸収されること無く残骸が床に垂れ落ちていく。

  そして活動限界を迎えた。

  メインシステムがダウンし演算ユニットが停止する。

  私が最後に見た光景。

  正面のモニター越しに映った変わり果てた自分の姿……

  (気持ち悪い…… まるで化物だ…… 私、死ねて良かった)

  [newpage]

  ――

  数日後。

  研究所が何者かに襲撃されたというニュースが流れた。

  生存者は誰一人おらず、研究所は完全に破壊された。

  犯人は不明で、未だ手がかりは掴めていない。

  噂では、研究所内でサイボーグのような残骸が発見されたという話もあった。

  しかし、真相は全て闇に葬られた……

  それから数年の月日が経った。

  世界中から天才科学者と呼ばれていた研究者や技術者が姿を消す。

  彼らはある研究に従事していた。

  謎の生物兵器。

  その名はキメラ細胞。

  しかし、どんなに探してもその細胞の存在は確認出来なかった。

  あるのはただの噂だけ。

  そして、その噂は人々の恐怖を煽り、やがて都市伝説へと姿を変えていった。

  人間を素体にしキメラ細胞と融合したサイボーグ生命体が存在する。

  その生物の名はプロト2。

  人間が作り出した悪魔の生体兵器。

  キメラサイボーグ生命体。

  その存在を知る者は誰もいない。

  私を除いては……

  ―完―