狼TF

  「やべっ!久々にブヨにやられたか・・・」

  大学の夏休み中、バイト漬けだったので最後に4日連続して休みをもらって、昼まで12時間も寝た。さすがに体が鈍ったので夕方に川沿いを少し散歩した。一人暮らししているワンルームに帰ってから妙に痒いと思ったら、そこから血が出ていた。

  「処置遅れるとクッソ痒いのに・・・とりあえずできるだけ毒吸い出すか」

  1時間後

  「妙だな、痒くならないしそんなに大きく腫れてもいない・・・蚊だったのか?」

  ブヨに刺された時はまずそこから血が出て、処置が遅れたりしなかった場合は少し時間が経つと非常に大きく腫れ、蚊に刺された時とは比べものにならない痒みが来る。今回は川沿いを歩いていたこと、血が出ていたこと、少しだけ痒かったことからブヨと判断したが、どうやら違うらしい。

  「まぁいいや、寝よ。明日は朝早く出て久々にロードで峠でも行こうかな・・・」

  エアコンを25度に設定して常夜灯はいつも通りつけてねた。

  [newpage]

  深夜1時

  暑い。目が覚めた。無意識のうちにかけ布団は横飛ばし、服はパンツ以外脱いでいたようだ。

  「ぁんだよエアコン壊れてんじゃねーのか・・・温度下げるか。リモコンは・・・なんだこれ?」

  リモコンに手を伸ばして気がついた。指に灰色の毛のようなものが生えて来ている。否、指だけではない。夕方に刺されたところから広がってきている。新手のカビかと思って摘んで取ろうとした。

  「痛っ」

  確実に毛だ。自分は体毛が濃い方ではない。明らかに異常だ。病気か?

  「救急外来ってこの辺であったっけ?取りあえず向か・・・ウッ」

  立ち上がった瞬間、ドクンと心臓が大きく鳴った。意識が一瞬遠のき、膝をついてちょうど四つん這いのような格好になる。

  「熱っぽいしさすがにヤバそうだ・・・救急車・・・」

  枕元で充電中の携帯に手を伸ばす。そして気づく。

  「毛が急に広がっ・・・」

  そう言いかけた瞬間、全身に痛みが走った。まるで成長痛のようなじわりじわりとした、しかし激しい痛みが。にもかかわらず、なぜか迫り来る快感。まるで自慰のような。

  「ぅ・・グァ・・・」

  叫び助けを求めることもできず、ただ悶え、息を荒げた。体がうごかせない。痛みに歯を食いしばる。

  ゴキッ

  骨を伝って妙な音を感じた。恐る恐る右手に目をやる。指がおかしな方向へ曲がりつつ、短くなってきている。パキリという音とともに爪が割れ、吹き出す血とともに中から何か尖ったものが出てきた。そしてさらに骨が軋み、手の甲が細く、長く伸び始ていた。左手も続くように動き始めた。まるで特撮を見ているようだと感じたが、激しい痛みが現実であるのを強調していた。

  「あ・・・足が・・・」

  足が痛い。筋肉が痙攣し力が抜け、横に寝るような格好になった。音を立てながら踵から膝までの骨が短くなり、そして足の甲は手と同じく細く伸び爪が割れてきている。さらに親指が短くなってきた。痛みをこらえながら仰向けになり、足の激しい痛み抑えようと手を伸ばした。しかし見慣れた手は見えなかった。いや手だったものが見えた。

  「オオ・・カ・・ミ・・・?」

  親指は短くなり手の甲の横に張り付けられ、うごかせない。指は短くなり、物は掴めない。爪は黒く、そして尖っている。犬のような脚と人の手を合わせたような物がそこにあった。それでも足を抑えようと触れた。柔かい感触、肉球ができているようだ。急に攣るような痛みとともに足の肉がずり動く。踵から上全体が変化し始めた。足はより筋肉質に、そして獣の物へと変わっていく。さらに、尾骶骨に違和感を感じた。

  「まさか・・・」

  反射的に手、いや前足の鋭くなった爪で下着を破き、取り去った。そして・・・

  ブシュ・・・ズルズル・・・

  尾だ。血とともに赤い、そして細い尾が激しく出てきた。毛皮が後から覆う。そして完全に狼の尾となった。数分続く痛みに慣れてきたためか、こんな状態であるにも関わらず、動かしてみたい衝動に駆られた。

  「しっぽ・・・うご・・・かせる・・・」

  しかし、その余裕は束の間だった。今まで変化が無かった無かった胴体へ、そして頭へと毛が侵食し始め、すぐに覆われていった。心拍数が上がり、息が上がる。苦しい。暑い。苦痛とさらに激しくなった快感に顔が歪む。自然と舌を出して、ハァハァと激しく呼吸をしていた。

  「ハァハァ・・・グッ・・・ハァハァ」

  胸が中心から少しずつ前にはじめる。肋骨の変化が始まった。同時に体の中が掻き回されるような激しい痛みを感じ、がむしゃらに手足を振り回した。内臓までも変わり始めたようだ。腕が携帯を直撃しパキンという音とともに真っ二つに折れた。そしてなぜか胴体の変化は途中で終わり、肩から上へ、頭へと。

  「くぁ・・・ぁぁああぁぁ・・・」

  髪の毛が抜け、頭全体が灰色の毛に覆われた。目の痛みに瞳孔が開き、墨が無色透明の水へと落ち広がるように、白眼は黒く変わる。虹彩は茶色からまるで満月のような金色へと変わる。視界はモノクロへと変わり、まるで赤外線カメラのように暗いところがよく見えるようになっていく。ポロリ、ポロリと血を滴らせながら歯が取れ、肉を裂くための鋭い歯へと変わり始めた。

  「ァグゥゥ・・・」

  耳が上へと引っ張られる。顎が前にで突き出て来た。鼻は上顎に埋まるように前へと出て、先は黒くなりはじめた。痛みを伴い口が横へと裂ける。耳に頭蓋骨の軋む音ががガンガン響き、吹き出した血の匂いが鼻をつんざく。そして変化は一時収まった。

  「ハァ・・・ハァ・・・」

  なんとか立ち上がろうとしたが変化した足では筋が邪魔して踵つけて立ち上がれなかった。痛みを堪えつつ立ち上がる。無理やりに立とうとすると膝を少し曲げ、爪先立ちするような格好になった。背骨はS字では無く真っ直ぐなようで、どうしても真っ直ぐには立てず前のめりになる。無意識に尻尾でバランスをとって立ち上がる。そして目視で今の姿を確認する。手を動かし、顔を触れ、体を触れた。

  狼男。

  そんな言葉が浮かんだ。近くの鏡を掴もうとした。だが指が短くなり、肉球が付いた手では掴めなかった。慣れない体を動かし、なんとか電気をつけ、洗面所へ行き置いてある姿見で全体を見わたそうとした。一瞬、自分の姿に驚き、よろける。顔は中途半端に前へと伸び、耳は上へと移動していた。口の周りは変化で血だらけだった。肩と骨盤自体はあまり変わっていないようだったが、手足が多少短く、首と胴が少しだけ長くなっていた。

  「うそ・・らろ・・・」

  新たな口ではうまく話せない。声が少し低くなっていた。助けを求めようにも携帯は壊してしまった。外に出ようにも玄関は鍵のツマミが開けられそうになかった。そもそもこんな状態で外に出れば、警察官か猟友会に殺されるかもしれない。もしかしたら、時間経過で元に戻るかもしれない。それにかけてみよう。

  「くさい・・・」

  両手を使い水道を回し、血を流す。だが濡れた鼻は臭いをさらに敏感に感じさせた。部屋中様々な臭いが鼻を刺激する。嗅覚が鋭敏になっている。モノクロの世界の中で、臭いが色として見える。人ではなくなってしまったのを実感させられた。

  鼻を楽にしようと窓を開けようとした。いつもは重い鍵が軽々と開いた。勢い余って壊してしまう。

  「この力は・・・・」

  窓を開ける。新鮮な空気が入る。普段は感じないような排気ガスの臭いが少ししたが、気になるほどではなかった。近くに大きな通りがなくて良かったと思った。見上げるとそこには煌々とした満月が・・・目が釘付けにされた。体の熱が再び上がる。

  「アガッ!・・・クアアアァァ・・・」

  再び変化が体全体を襲った。バランスを崩し倒れた。顔は中途半端な物から完全な狼の物に。骨盤と肩甲骨が変化し、横へは開け無くなる。意思とは関係なしに体が動き、痙攣した。

  「アゥ・・・クゥゥゥン・・・」

  声が狼の物へと完全に変わり、意思とは関係なく目はとじられる。体は完全な狼となった。

  一瞬の間をあけ、視界が戻った。空腹を感じた。そして、動き出す。

  (体が勝手に!?動かせない!!)

  4足歩行で窓へと向かう。そして月に目を向けられた。

  「アウウウウウウウウウゥゥゥゥ!!」

  遠吠えだ。終わると体の自由が戻った。脳に遠吠えが響き、意識が朦朧とした。腹が減った。臭いを感じる。何か美味しそうな・・・。急に玄関が開いた。男・・・臭いもそこからだ。うまそう・・・いや何を考えてるんだ!?だが空腹がその思考をかき消した。そして意思とは関係なく、本能的に飛びついた。

  「お疲れ様」

  突然何かが体に当たり、男の手前で自分は地面に落ちた。左腕に何か細い物が見えた。針?急に力が抜け、目の前が真っ暗になった。

  [newpage]

  「ええ、実験は成功です。・・・はい。・・・被験者は眠らせてあります。・・・行方不明として通します。これで、私たちの計画も・・・了解です。彼、いや被験体を今からお持ちします。では。」