淫肉受胎

  

  男はこう考えた。

  日々募っていく狂おしいばかりの性欲を満たすためにはどうしたらいいのか。

  男は人一倍、そして誰よりも性欲が強かった。

  自慰に濡れたペニスが乾かないうちにまた悶々とやましい欲望が腰の奥から湧き上がってくるのである。そのたびに辟易と下半身を慰めながら男は考えるのだ。限りなく高まってしまうそれを手っ取り早く処理できる最善の方法がないものか、と。金がない、場所がない、おまけに出会いもない。そんなないない尽くしの状況で男が辿り着いた先は、傭兵稼業に身を置くことだった。

  雀の涙ほどだが金が出る。雨風を[[rb:凌 > しの]]げる程度だが寝床がある。

  そして――[[rb:選 > よ]]り取り見取り、掃いて捨てるほどの相手が[[rb:ここ > ・・]]にはいる。

  相手とはこの場合無論、性処理するための相手だ。

  男は同性にすこぶる興奮を覚える[[rb:性質 > たち]]だった。それも自分と同じく筋肉質で血気盛んな若者により興奮した。

  傭兵団はむくつけき野郎だらけの園だ。

  同性に欲情して[[rb:止 > や]]まない男の目には別天地に映っただろう。右を見ても左を見ても体を鍛え抜いた逞しい男たちがわんさか集まっているのだから[[rb:堪 > たま]]ったものではない。女の影のひとつとてない暑苦しい男どもの巣窟はこれほど居心地いいものだったのだと身をもって知った。

  傭兵はいつ命を落とすとも知れない酷なものだとよく承知している。

  だが、男にとって自分の命と欲望を天秤にかけた結果、釣り合うどころか命のほうが余裕で軽かったのだから仕方ない。別に傭兵稼業でなくてもよかったのだ。ただ自分には頭脳と比べて体力が大きく勝っていたから、体を酷使できて、かつ男しかいないこの傭兵稼業を深く考えることなく選択したに過ぎなかった。

  鼻をひとたび鳴らすと、鼻腔を満たす臭いに男はうっとり目を細めた。

  それは革製の武具と、それに長年染み込んだ汗の[[rb:饐 > す]]えた臭い、それにろくに水浴びもできていない野郎どもが放つ体臭とが濃密に混ざり合った、淫臭。総数千人を抱える傭兵団が駐屯しているこの朽ちた古城跡は、むさ苦しい男の臭いに満ちていた。

  何と性欲をそそる淫らな臭いであろうか。

  その四桁にも及ぶ集団がこの辺境のうらぶれた地で寝食を共にする日々は早一ヶ月を過ぎようとしていた。転戦が常である[[rb:生業 > なりわい]]であるから一ところに留まることなく、こうして一時的に[[rb:屯 > たむろ]]する傭兵生活も慣れれば楽なものだった。

  一月も経てば陣所の見た目もだいぶ様になる。

  崩れた城壁などの遺構の合間を埋めるようにして、天幕の群れが青天にその白さをより輝かせながら向こうの森のほうまで長く伸びている。その反対に目を向ければ、屋根を失った石積みの尖塔の近くに一回り大きな、同じく白いテント張りの幕営が見えた。あの中ではきっと今頃、口うるさい団長が遅い昼食を取っている頃だろう。

  一足早く食欲を満たし終えた男は再びその黒い鼻を鳴らした。

  「はぁぁぁ雄臭ぇ……ったく堪んねぇぜ野郎の臭いはよぉ」

  一呼吸するごとに問答無用で男の臭いが肺に入ってくる。汗と獣のその臭気は窒息して溺れさすほどに濃く、じっとりと肺胞にまで染みていく。毎日こんな臭いを嗅がされては堪ったものではない。現にいま、男の生殖器は硬く芯が通っていた。

  男は天を仰ぎ見た。

  爽やかな青空を見上げてホッと一息つく、この男はそんな玉ではない。体に走った快感にどうにも辛抱堪らずに熱い吐息を空へと放ったのだ。

  「いい具合に締めつけるんじゃねぇよボルガっ、[[rb:射精 > で]]ちまうところだったじゃねぇか」

  男はそう言って愚息を埋めているでかい尻を平手打ちに鳴らした。

  「あうぅっ、すっすまねぇルドルフの兄貴っ、あまりに気持ちよかったもんでつい」

  「つい、じゃねぇよ肉便器野郎が。俺はじっくり[[rb:愉 > たの]]しみたいんだからよ」

  再び、牛獣人ボルガのよく鍛え上げられた分厚い尻肉が鳴る。

  ルドルフと呼ばれた狼男は、程よく緩んだ尻穴の感触に満足そうに喉を鳴らした。

  誰が想像するだろうか。こんな雲一つない快晴の下、真っ昼間から駐屯地の一角で[[rb:盛 > サカ]]りあっている一組の兵士がいるなど頭の片隅にも思うまい。なんせここは野郎しかいないのだ、性交など起こるべくもないのだが。

  と、ほぼ異性愛者が周りを占めるなか、彼らは先ほどから男同士のまぐわいに励んでいた。

  天幕の裏はそれをするには打ってつけの場所だ。山と積まれた木箱と石塀によって視界の遮られた角地で、汗だくになりながら快感を貪る雄二人。皆が鍛錬に汗を流している時間帯だったが、この男が我慢できるわけがない。もちろん、欲望を満たそうと声をかけたのは性欲が人一倍旺盛なルドルフのほうからだった。

  壁に両手を付いて差し出されたデカ尻に自慢の一物を沈めていく。

  「もう随分と上手に俺様の[[rb:魔羅 > マラ]]を咥え込めるようになったじゃねぇか」

  長さ30cmはある見事な上反りが括約筋を押し広げる様子に興奮しきりで褒め称えた。

  これまでの幾人もの男たちとの肛交にすっかり黒く淫水焼けしたこの巨根の持ち主は、また相応に2m近い巨躯を誇っていた。

  傭兵のルドルフ。

  戦場では度々、殊勲を立て続けた者がやがて英雄視され、さらには尾鰭がついて軍神や救世主として大層に[[rb:崇 > あが]]められたりするが、このルドルフもまたその道程を歩める逸材だった。剣を手にする者たちの間でルドルフの名を知らない者はいなかった。傭兵のルドルフと言えば、この男をおいて他にない。

  戦場の黒狼。

  その通り名が指すのもまたルドルフであった。彼の姿を一度目にすれば網膜に、記憶に、否応なく焼きつくというものだ。名の通り、全身が黒い被毛に覆われた背丈2mの筋骨隆々たる男に誰が畏怖を覚えないでいられるだろう。艶やかな漆黒の毛を[[rb:靡 > なび]]かせて単騎、縦横無尽に戦場を駆る巨大な狼獣人。死屍累々の真ん中で黒い毛並みの揺らめく様子はさながら冥府より生じし[[rb:禍々 > まがまが]]しい黒炎のごとく敵方の目に映ったに違いない。その業火に舐められたが最後、次の瞬間には首と胴が切り離されるのだ。

  そんな剛の者が傭兵の枠に収まるわけがない。いつしかどこかの皇軍の[[rb:麾下 > きか]]、いや一国の大将にまで上り詰めるかもしれない男だった。

  それほどの器である男がいま、日中からだらしなく顔を[[rb:蕩 > とろ]]かせてセックスに耽っている。

  英雄色を好むと言えば聞こえはいいが節度というものがあるだろうに。

  ルドルフはその長大なペニスを根元まで埋め込むと気持ち良さげに長息した。

  「かっはぁぁぁ……ったく、本当にお前のケツマンは最高だぜ! きつく竿に吸いついてきやがる。そこまでして俺様の種が欲しいのかよ、ああん?」

  「ほ、欲しいっス! 兄貴の種をケツに欲しいっス!」

  「だろうな、竿に吸着したまま離しやがらねぇんだからよ。どんだけ俺のガキを孕みてぇんだこの淫乱牛が」

  下卑た笑みを浮かべて、ボルガの尻たぶを鷲掴みに指を食い込ませながら交接部をグリグリ擦りつける。

  「がぁっ、ひぃぃっ凄ぇっ! 兄貴のが奥までっ、そんなに突かれたら狂っちまうっ俺っ俺っ!」

  いやいやというふうに顔を振って襲いくる快感に耐えている雄牛だが、

  「おうっチンポ狂いになっちまえ! 俺様の魔羅なしじゃ生きていけねぇ体にしてやるっオラッオラオラッ!」

  黒狼は激しい腰使いで容赦なく[[rb:喘 > あえ]]がせるのだった。

  食欲の次は性欲。食欲を満たしたら、腹ごなしに適度な運動は欠かせない。ルドルフにとってその運動がセックスなだけのことだ。生粋の男好きはだからこうして昼飯後にまぐわうことが日課になっていた。

  それにしてもそのルドルフの巨根を丸呑みにするボルガもまた好色と言わざるを得ない。

  斧使いの傭兵ボルガ。

  固太り体型のその薄茶色をした巨体はすっかり汗だくだった。背後から突かれるたびに汗を飛び散らせながら甘い吐息を漏らしている。今は女のように喘いでいるこの男が、戦場に出れば厚刃の[[rb:戦斧 > せんぷ]]を軽々と振るう悪鬼と化すのだから驚きだ。血糊でべっとり濡れた斧をブンブン振り回して重戦車のような体が突っ込んでくる恐怖は想像に余りある。そんな暴れ牛が……たわわに育った豊満な胸のピンと勃った乳首から、じわりと白い液体を滲ませる牝牛と化すとは。

  屈強な雄までもその自慢の一物で[[rb:雌 > メス]]に堕とすというのかルドルフという男は。

  ボルガの体からもわっと立ち昇ってくる獣臭さに黒狼はその深い青色の瞳を細めた。

  駐屯地内に立ち込めている野郎共の体臭では満足しきらない狼の研ぎ澄まされた嗅覚が、貪欲にその新鮮な臭いを鼻腔に送り込む。

  「糞っ、臭っせぇ臭いで俺様を焚きつけやがって……っ!」

  男根がより充足していくのをルドルフは感じた。

  この傭兵団に世話になって早数年になるが、その間に幾人もの同胞の尻を味わってきたが、体の相性はボルガが一番だった。どっしりと重い安産型の臀部の抱き心地がなんともいいのである。肉厚の尻がやんわりと愚息を包み込む感覚は格別だった。今ではすっかり己の生殖器の形を覚えてしまって具合良く納まる肉鞘になったが初めはそうではなかった。

  元は異性愛者だったボルガをこうまでしたのはルドルフ本人だ。

  周りは女に飢えた野郎ばかりのこの環境で、男色に引きずり込むのはそう難しくなかった。一日中、精液を放つことに頭を悩ませている性欲盛んな若者の耳元で囁くのだ、女では味わえない極楽を俺が味わわせてやると。そうすると初めは渋い顔をするものの、やがて好奇心に負けて耳を傾けるのである。それでも甘言に釣られるのはほんの一部の男だけだったが、どうしても犯したい男には小銭を握らせて関係を持った。新入りや武勲のない奴は金がないから女遊びもままならずに、渋々と頷いて尻を貸すのだからちょろいものだ。

  これほど野郎漁りに恵まれた場所はない。

  ルドルフは好みの男を物色しては片っ端から声をかけた。脈有りだと踏めば金を握らせて尻遊びに興じた。相手も小金稼ぎと性欲発散が同時にできるのだからそう悪い話ではないと股を開くのだ。

  そういう連中のなか、たまに男色の沼にどっぷり[[rb:嵌 > は]]まってしまう奴が現れる。

  このボルガがいい例だ。

  一昔前まで暇さえあれば女との情事を自慢げに言いふらしていた男が今ではどうだ、尻穴を野郎に犯されて涎をダラダラ垂れ流すまでになってしまったのだから。当初は古参のルドルフの誘いに嫌々ながらだった彼も、近頃は自ら進んで尻を差し出すまでになったのだから大した進歩である。まあ、専用の性処理係に任命しているのだから当然と言えば当然なのだが。

  肉便器野郎、先ほどのルドルフの言は何も蔑称ではなかったのだ。

  その無駄な贅肉のない引き締まった体を汗だくにさせながら黒狼は腰を振る。肛交の醍醐味はまったくもって後背位に限った。群青色の瞳は先ほどから接合部に縫いつけられていた。色素沈着した黒い魔羅が色鮮やかな肉色の肛門を[[rb:虐 > しいた]]げるべくズブリと貫く様子が、ねっとり泡立った白い愛液の滴る様子が、[[rb:眩暈 > めまい]]を覚えるほどいやらしい。

  ルドルフは[[rb:専 > もっぱ]]ら掘る専門だった。

  だが処女ではない。一度だけ物は試しと尻にペニスを嵌めてもらったことがあったが股間に響くほどの快感は得られなかった。

  その遊び慣れていないルドルフの桃色の秘肛がひくつき始めた。毛量豊かな黒い尾がゆっくりと反り上がっていく。

  「ぐうぅっ糞っ、そろそろ[[rb:射精 > で]]ちまいそうだっ!」

  ジリジリと込み上げてくる絶頂感に鋭い牙を剥きながら肉便器へ告げる。

  「ああっ種付けしてくれ兄貴っ! 俺っ腹の奥で感じてぇよ、兄貴の熱い種、早く早くぅっ」

  「肉便器ごときが俺様を急かすんじゃねぇっ、ぐっぐうぅっ!?」

  子種を欲する種壺が一段ときつく愚息を締めつける。

  性奴の分際で何と厚かましい種壺か。主人の許しも得ずに勝手にペニスを締め上げて精液を搾り取ろうとするとは。どれほど子を宿したいというのか。一たび放ってしまったら遠慮なしに腸壁を纏わりつかせて最後の一滴まで吸い尽くすつもりだろうがそうは簡単にくれてやらんぞ。

  ルドルフは抜ける寸前まで竿を引き抜くや、

  「指図すんじゃねぇよ俺様にっ、オラァ!」

  「がっはぁ!? あひっいぎぎぎぃ……おちんぽ、あ、兄貴のおちんぽしゅげぇ……」

  一気に根元までブチ込まれたボルガの怒張から黄色い液体が勢いよく迸る。

  前立腺を手加減なしに押し潰されて失禁したのだ。相応な罰だがはたして肉便器には罰になっているかどうか、舌をだらんと垂らして白目を剥いたアヘ顔を見る限り[[rb:甚 > はなは]]だ疑問だ。

  小刻みに痙攣するデカ尻を叩きながらルドルフは[[rb:酩酊 > めいてい]]にも似た快感に酔った。

  もう少しだ。あともう少しで達する予感がする。

  この睾丸のキュッと迫り上がった体に今少し、[[rb:一匙 > ひとさじ]]ほどの刺激を与えれば難なく絶頂の高みへと上り詰めてしまうだろう。[[rb:癪 > しゃく]]だ、肉便器がもたらす快感で無様に果てるなど……。ルドルフは自身の豊富な胸毛に埋まっている乳首を[[rb:抓 > つね]]ると、快感が電流のごとく全身を駆け巡った。

  堪らず開いたマズルが天を仰ぐ。

  「ぐっがぁぁ堪んねぇっ、乳首っ、乳首堪んねぇぜ!」

  遊びすぎてすっかり浅黒く色素沈着したそれを指先に[[rb:捻 > ひね]]り潰すたびに体が跳ねる。

  乳首に走る甘やかな快感と男根を襲うめくるめく快感の上下同時責めについに射精中枢が弾けた。

  「[[rb:射精 > で]]るっ! ぐおおっおっおっおおっ!」

  ボルガの腰を極限まで引きつけて最奥で射精する。

  「俺様の種をしこたまくれてやるっ、ぐっがぁぁぁーっ!!」

  咆哮すると同じく尿道を凄まじい勢いで駆け抜ける熱水。それは瞬く間に鈴口から噴出するや、腸内を白い粘液で満たしていく。

  「ぐおおっ!? おっ、おっ、おごっ、射精がっ止まらねぇっ!」

  ルドルフの顎先から滴るのは脂汗か冷や汗か。たっぷり種を仕込んだというのに会陰の脈動が止まらない、止まる気配がない。やはりこの厚かましい肉壺は精液が干乾びるまで吸い取る気だったのだ。

  「兄貴凄ぇっ、凄ぇよぅ……熱いのが腹一杯に流れ込んでっおおぅ! そんなに出したら俺、孕んじまうよぅ」

  「ぐっ、ぐうぅぅぅっ!!」

  S字結腸を30cm超の巨砲で強引に伸ばしながら、なけなしのザーメンまで送り込む。とんだ[[rb:阿婆擦 > あばず]]れ牛だ。こいつとのセックスはいつもこうなる。やはり体の相性が抜群なのだ。

  ようやく脈動が一段落するとルドルフは男根をずるりと引き抜いた。

  「はぁはぁ……ったく、俺様から搾り取れるだけ搾り取りやがって」

  開きっ放しの肛門から溢れる自身の放った種汁を見やりながら荒い息を整える。しかし何度見てもいい眺めだ。皺の伸び切った白濁まみれの肛門が、抜けたばかりの異物の太さを維持したままぽっかりと口を開けている様は。それが艶かしい鮮紅の[[rb:秘奥 > ひおう]]を覗かせながら、抜かないでくれと言わんばかりに物欲しげに、くぱぁと収縮を繰り返すのだから堪ったものではない。夜に逢い引きするときはこのまま二回戦に[[rb:臨 > のぞ]]むのが二人の常だったが、さすがに今は時間がない。

  「じ、じゃあ兄貴、俺は任務があるんでまた……」

  まだ興奮冷めやらないのかボルガは乙女のようにポッと頬を赤く染めながら言うと、脱ぎ捨ててあった革ズボンを手早く[[rb:穿 > は]]いてそそくさとその場から立ち去っていった。

  「おう、また頼むぜ」

  ごつい後姿にそう声をかけながらルドルフは心地いい疲労感に身を委ねるのだった。

  積まれた木箱に背を預けて[[rb:火照 > ほて]]った体の熱を冷ましながら、毎回事後に思うのだ。次は誰を喘がせてやろうかと。

  ボルガの放った地面の粘ついた白い染みをぼうっと瞳に映しながら、

  「……鳥野郎のゴドとセバスか、いやガドクリフとも一戦交えてみてぇな」

  脳裏に次々浮かんでくる美味そうな野郎の名を舌に乗せる。

  どれも最高に脂の乗った、食い頃でそして食い出のある男ばかりだ。

  ゴドとセバスは勇ましい[[rb:鷹 > タカ]]の兄弟だ。

  血の気の多い奴らだが、二十歳そこそこの青い果実は実にルドルフの気を引いた。兄のゴドの方が気性が荒くて好みの面構えだったが、弟のセバスもなかなかどうして筋肉質な体つきは味わい甲斐がありそうだった。彼らの総排出腔にペニスを捻じ込んで鳴かせてみたい、鳥野郎はいったいどんな声で鳴くのだろうか。それを夢想すればするほど股間がガチガチにおっ[[rb:勃 > た]]って仕方がなかった。できれば目の前に二人を並べながら交互に犯して兄弟丼と洒落込めれば言うことはないのだが。

  ガドクリフは反対にルドルフより年上の壮年の獅子獣人である。

  いつの日だったか川辺で水浴びしている奴の裸を見かけたことがある。分厚く膨れた体の至るところに戦傷が刻まれていて痛々しくはあったがそれがかえって雄々しさを際立たせていた。古傷は歴戦の証だ。あの水にしっとり濡れて筋肉の起伏も露わになった戦士の肉体美を[[rb:己 > おの]]が物にしたかった。成熟した雄野郎の処女を奪ってみたかった。

  萎びていた愚息に再び血が集まっていく。

  「チッ……やっぱもう一発抜いとくべきだったな」

  ゆっくりと剥けていく包皮にルドルフは苛立たしげに舌を鳴らした。

  やはり一回精を放っただけでは体は満足しないらしい。男との情事を少し夢想するだけでたちまち下腹部が熱くなってしまうのだから困ったものだ。ボルガを帰したのは失敗だったと今更ながらに後悔した。

  「くっ……」

  平常時ではすっかり皮を被っている真性寄りの仮性包茎はすっかり勃起し切っていた。

  それでも半分ほど剥けていなかったが、添えた手を手前に引くと皮はたちまち反転して凶悪な亀頭を露出させていった。余談だが、自身の皮被りについてはルドルフは激しい劣等感を抱いていた。以前それをからかい半分で弄くってきた同胞を半殺しにした過去がある。彼の弱点は何かと問われれば唯一それが挙げられるかもしれないが、他人に話したことがもし彼の耳に入りでもしたら半殺しの憂き目に遭うことを覚えていても損はない。

  治まりのつきそうもない性欲にルドルフは竿を激しく上下に扱く。

  「ぐぅっ……はっ、くっ……」

  虚しい自慰行為であっても痺れるような快感につい息が弾む。

  ルドルフは目を[[rb:瞑 > つむ]]ると再び男たちとの痴態を[[rb:目蓋 > まぶた]]の裏に描いた。

  全裸になったボルガが、ゴドとセバスの兄弟が、ガドクリフが、よく見えるようにケツの穴をおっ広げながら誘っていた。発情した雄どもは皆一様に顔を上気させて、黒狼のその熱く[[rb:滾 > たぎ]]った怒張をこの蜜たっぷりの肉壺に[[rb:挿入 > い]]れてくれとせがんでくるのだ。

  さて、誰の穴を塞いでやろうか。

  血管のビキビキに浮き立った魔羅を扱きながら吟味するルドルフだったが、いざ事に及ぼうと身を乗り出そうとしても足は一歩たりとて動く気配がない。何だ? どうしたことだ……[[rb:垂涎 > すいぜん]]のケツマンのはずなのにこいつらでは俺の体は満足しないとでもいうのか。

  ルドルフは目を凝らした。

  並ぶ四体の向こうの暗がりに大きな影が立っていた。

  闇の中に何かが、いた。

  その体の輪郭には覚えがある。よく見知っている、どんな男よりもよくお前を。

  「…………ヴ、ヴァルター!」

  影を覆っていた闇色のベールが、彼が名を呟いた瞬間、溶けるように取り払われていく。

  驚くのも無理はない。さらに彼の声色に甘美な響きが混じっていたのも無理はない。

  オレンジに近い濃い黄色と黒の美しいまでの被毛を纏った精悍な虎獣人が泰然と佇んでいた。その体躯は丈2mの黒狼に勝るとも劣らず、いや、[[rb:僅 > わず]]かに上回るか、同じぐらいの[[rb:上背 > うわぜい]]だが横に広い100kgを超えるバルクマッチョ体型は畏怖の念を対峙者に与えた。だが、黒狼の顔に[[rb:怯 > おび]]えの色はない。

  それも道理だろう、突如現れたのは彼が唯一、恋心を抱いている相手だった。

  気付けば四体の姿はことごとく霧散して跡形もなく消えていた。ヴァルターの圧倒的な肉体美の前に存在が霞んで掻き消えてしまったのだ。

  一糸纏わないその雄姿からルドルフは目が離せなかった。武骨に膨れ上がった筋骨隆々たる威容、眼光鋭い男臭い面立ち、見るからに精力の満々に[[rb:漲 > みなぎ]]っている肉体からは今にも高めの体温に[[rb:醸 > かも]]されて強い体臭が臭ってくるようだった。現実では雌を、否、同性すらも発情させてしまうような雄の濃気をぷんぷんと放っている男であった。

  戦場の死神、ヴァルター。

  敵兵から[[rb:冠 > かん]]されたその二つ名は虚飾ではない。

  黒狼がもし死神の異名を送られたらその風体からわかりやすいが、ヴァルターは文字通り常に死の臭いを辺りに漂わせていた。それは死臭ではなく血臭だったが、無論全身に浴びた返り血であることに疑いの余地はない。敵は死神と得物を交えたが最後、軍刀の[[rb:錆 > さび]]となる定めであった。……実際は血糊が錆と化す前に新たに血塗られてしまっていたが。

  ともあれ、ルドルフはそんな[[rb:血腥 > ちなまぐさ]]い男に心底惚れていた。

  最古参の一人であるヴァルターがこの傭兵団をここまでの規模にまで育て上げたと言っても過言ではない。旧知の仲であるルドルフも共に戦場を駆けてはよく彼を支えたものだが、ついぞ今日まで胸に秘めてきた想いを打ち明けたことはなかった。

  ヴァルターの雄大な一物が重たげに垂れている。

  その触り心地は、硬さは、臭いは、そして味はどんなものだろう。きっと恍惚と甘い吐息を漏れさせてくれるに違いなかった。今まで何度それを妄想しては手淫に励んだだろうか。尻は遊び慣れていないがヴァルターになら専用の穴になってもいいとすら思っている。

  だが――それはどだい無理な話だった。

  ヴァルターは根っからの女好きなのだ。

  金さえあれば娼館に入り浸ったり、酒場の酒盛り女を引っかけたりして女色に耽る日々を送っている男にいくら色目を使っても無意味だった。男色の良さをどれほど説いても、金をいくら握らせても、靡く気配すらなくただの骨折り損に終わるのは目に見えていた。下手をすれば怒りを買う恐れすらあった。

  完全脈なしの男に声をかけるほど己は愚かではない。

  だからボルガのように万年金欠で節操のなさそうな男を落としては性欲処理を済ませてきたのだが、本音はヴァルターと契ることができたら申し分なかった。だがそれは夢のまた夢だ、この高嶺の花はどんな策を[[rb:弄 > ろう]]しても手にすることはできまい。

  唯一できることがこうして夢想の中で[[rb:汚 > けが]]すことだった。

  「なかなかいいブツをぶら下げてんじゃねぇかヴァルターよぉ……」

  眼前で棒立ちになっている逞しい虎男の裸身をまじまじと見やりながら言った。

  体を重ねることが叶わなければ想像に頼るしかない。ルドルフは目蓋の裏で赤裸々に想い人の陰部を奮い立たせた。体格に見合った、長さ30cm超、太さ10cmの逸物が隆々と勃起しながらその[[rb:雄渾 > ゆうこん]]ぶりをまざまざと見せつける。

  「畜生、やっぱり凄ぇなぁお前の魔羅はよ。それでいつも女を[[rb:善 > よ]]がらせてやがんのか」

  長さは若干、己のほうが勝っているが横幅はヴァルターが上だった。

  同胞の間ではヴァルターの持ち物のでかさは有名だった。猥談でその話題を耳にしたのも一度や二度ではない。男なら誰でも羨むほどのサイズなのだから噂になるのも当然といえば当然だが、そこには半分[[rb:妬 > ねた]]みも混じっていたかもしれない。何せ女が途切れたことがないのだ、縁も金もない野郎ばかりの場はこれからもさぞ溜息の吐き合いになることだろう。

  太魔羅が膣内を隙間なく満たして子作りに抜き差しされる様子を思い描きながらルドルフは愚息を扱きまくった。

  「……ヴ、ヴァルター、俺をっ俺のケツを使ってくれっ! ぐくっ、ううっ」

  お前になら苦手な女役でも何でもやってやる。

  そして想像するのだ、自身の尻が深々とヴァルターの剛直に[[rb:抉 > えぐ]]られる姿を。凶悪に浮き立つ血管の凸凹とした竿肌で腸壁がこそがれていく感覚を。

  「ああ、ヴァルター……やっべぇ、俺様が雌にされちまう……ああぁあああっ」

  規格外の巨根が体内に押し入ってくる。生殖を果たそうと、子を孕まそうと、問答無用でアナルを拡張させながら雄膣に侵入してくる。この傍若無人たる侵入者は何が何でも目的を達成するに違いない。己がどんなに拒絶しても、泣き[[rb:喚 > わめ]]いて慈悲を乞うても聞き届けられずに膨大な種汁を注ぎ込まれてしまうのだ。

  [[rb:疼 > うず]]く、疼いてしまう……腰の奥底が子を宿したいと訴えている。

  「ああ、ああいいともヴァルター! [[rb:射精 > だ]]してくれ、卵子にブッかけてくれ、俺にお前の子を産ませてくれっ!」

  刹那、[[rb:臍 > へそ]]の下辺りで熱い体液が[[rb:迸 > ほとばし]]るのを感じるや、

  「でっ[[rb:射精 > で]]るっ、[[rb:膣内射精 > なかだし]]されて俺様もイッちまうぅっ……ぐ、んっ、んがあぁあぁあぁっ!!」

  ルドルフも腰を前に突き出して絶頂に体を震わせた。

  ふしだらな夢想に悶々と高まっていた劣情が勢いよく射出する。それは驚くほどの飛距離で向こう側の天幕まで飛ぶと白く粘ついた線を何本も縦に引いていった。

  「がっはぁはぁはぁ……糞ったれ、またやっちまったぜ……」

  ザーメンを放つのはできるだけ男の尻の中で、と決めている彼だったが、[[rb:殊 > こと]]、ヴァルターに関してだけはつまらない自慰でも夢中で励んでしまうのだった。

  未だ先端から滴る白濁を放心の眼差しで見やりながら、まだ頭の片隅にこびりついている想い人の残影に思いを寄せる。

  なぜ、夢想の中に忽然とヴァルターが現れたのか。

  答えは明白だ。

  先刻、幕舎に呼ばれて団長の口から奴の名を聞いたからに他ならなかった。

  団長曰く、ヴァルターの消息が掴めないらしい。詳しく[[rb:訊 > き]]けば、帝都で盗みを働いた不届き者を追っていたらしいのだが、どうにも要領を得なかった。相手はたった一匹らしくて、そう手こずるような難しい任務ではない。いやヴァルターにとっては役不足に過ぎた。そんな腕に多少なりとも自信があれば遂行できる任務に就いて、七日以上経っても帰還しないのは確かに眉を[[rb:顰 > ひそ]]める話だ。

  しかも単独ではなく、奴の相棒ダリルが随伴しているというのだから尚さら不可解であった。

  ダリルはヴァルターの腰巾着のような豹獣人の男だったが、その獣性を生かした俊敏な剣[[rb:捌 > さば]]きにはルドルフも一目置いていた。[[rb:膂力 > りょりょく]]は片割れに遥かに劣るが、それでも決して[[rb:三下 > さんした]]盗賊なんぞに後れを取るような柔な男ではない。

  二人は何か只事ならない事件に巻き込まれたのだ。

  そう判断を下した団長にルドルフも少しの逡巡を挟むことなく首肯した。同意見だった。下半身は確かにだらしなくて隙の多い男だが、責務についてはこの傭兵団の誰よりも真摯で手を抜いたことは一度たりとてなかった。やはり何かしらの不測の事態に陥ってしまった線が濃厚だろう。

  黒狼は整ったマズルにゆっくり息を通すと[[rb:踵 > きびす]]を返す。

  「……手間かけさせやがって」

  苛立たしげにそう愚痴を[[rb:零 > こぼ]]しながら天幕脇から表に出ると、[[rb:燦々 > さんさん]]と降ってくる昼下がりの陽光に海よりも深いその群青の瞳を細めた。

  体が[[rb:気怠 > けだる]]いのは立て続けに吐精したせいかそれとも。

  面倒なことになりそうだった。漆黒の狼は忌々しげに雲ひとつない空を見上げながら、団長から[[rb:下命 > かめい]]された新たな任務に赴くのであった。

  舐めていた。

  ルドルフは顎先から汗がポタポタ垂れるのもそのままに重く足を取られる[[rb:泥濘 > ぬかるみ]]をまた一歩前に進んだ。腕を上げる動作すら著しく体力が削られるようだ。

  密林に分け入ってからどれほど経過しただろうか。

  相変わらず全面を埋めるのは濃緑の壁だった。厚い樹冠に覆われているために陽光の筋がどうにか届いている視界は、大気まで薄っすらと緑の[[rb:紗 > しゃ]]がかかっているかのように映った。熱帯雨林の植生は七割ほどが樹木だ。五層ほどに分かれてそれぞれに高さの違う植物が枝葉を伸ばしている。日光が各層で貪欲に貪られた結果、食べ零されたその僅かな光の筋を浴びようと地面では下草がところどころで繁茂していた。

  入る汗に目を瞬かせながらルドルフは舌を鳴らした。

  発汗量が尋常ではなかった。

  湿気の被膜がじっとり全身を覆っていた。

  陸上にいて溺れさすほどの高密度の湿度にはさしもの黒狼も弱音を吐かざるを得ないだろう。北国出身の彼にとってこの場所は心底恨めしいに違いない。見れば被毛はすっかり汗に濡れて重く体に張り付き、装備している革鎧と革ズボンもその色を濃くしていた。

  軽量とはいえ熱のこもる革鎧を脱ぎ捨てれば幾分かましになるが思い[[rb:止 > とど]]まった。

  身を隠す場所は至るところにあるのだ。

  樹木の陰か、もしかしたら樹上で虎視眈々とこちらを何者かが窺っているかもしれない。ヴァルターたちが不意打ちされたと仮定したならそいつがまだこの広大な密林の中で息を潜めている可能性は十分にあった。用心するに越したことはない。

  ルドルフは帯刀している一振りの[[rb:柄頭 > つかがしら]]を撫でた。

  もし強襲されたらこの得物が血を吸う準備はできている。抜き身は少しの間を置くことなく襲撃者の命を奪うだろう。飛び道具もどれほどのものか、黒狼は次いで革鎧を撫でた。厚い革を[[rb:蝋 > ろう]]で煮込んで硬化処理を施したうえに、金属製のリベットを打ち込んで防御性を高めてあるからまず[[rb:鏃 > やじり]]が貫通することはあるまい。

  それよりも目下、重要なのは二人の行方だ。

  本拠地から二日半ほどかけて、帝都とは反対方向にあるこの南方の密林に目星をつけた。

  近くにある比較的大きな街に立ち寄って尋ねて回った際に、酒場の主がそれらしい男を覚えていたのだ。まああれほどの巨躯であるから人目を引きやすいのだろう。その酒場の近くの[[rb:宿場 > しゅくば]]でも軍装の[[rb:厳 > いか]]つい虎男と豹男の組み合わせはとくに記憶に刷り込まれていたようで、お陰で足跡が掴めた。そこの主人曰く、密林がどうたらこうたらとぼやいていたらしい。

  それから密林で狩猟を生業とする狩人から、人がよく利用する進入経路を訊きだした。

  だが、現時点で足取りはぷっつり途切れていた。

  虎男の足跡も、匂いも、この漠々とした熱帯雨林の濃密な自然の中にすっかり溶け込んでその行方は[[rb:杳 > よう]]として知れなかった。

  落ち葉や[[rb:枯死 > こし]]した木の堆積した腐食質の泥濘に足を取られて、

  「冗談じゃねぇ、野郎どこまで行きやがったんだ……」

  ずぶずぶと沈む革靴をどうにか抜きながらルドルフは嘆いた。

  ヴァルターはおそらくこの劣悪な環境は苦とも思っていなかったはずだ。熱帯生まれの奴にとって高温多湿は不快要素に入らないだろうし、熱病に[[rb:罹 > かか]]って行き倒れてしまったとも思えない。もしや盗賊は一匹ではなくて、ここで待ち伏せに遭って捕らえられでもしてしまったのか。いくら凄腕のヴァルターでも地の利のある[[rb:万夫 > ばんぷ]]に囲まれては多勢に無勢だったとも考えられる。それとも、もしやすでに……。

  ふと湧いた最悪の結果に眉を寄せているルドルフの体が突如[[rb:傾 > かし]]いだ。

  高い湿度に緩む意識が、一瞬判断を遅らせた。

  「ぐおおっ!?」

  狼の俊敏さは発揮されることなく、崩れる足場もろとも体が沈む。

  何事か。堆積していた落ち葉や土砂を踏み抜いてしまったか、足元は地表に口を開けた割れ目だったか。咄嗟に[[rb:縁 > ふち]]を掴もうと手を伸ばしたが、湿った腐葉土に手は虚しく滑った。

  「糞っ!!」

  ザザザッと激しい音を立てて枯れ葉や土砂と一緒くたにぽっかり開いた穴へ急速落下していく。

  最悪な状況だが、それでも運があったと言えるかもしれない。

  この亀裂がもし底まで数十mもあったらルドルフは絶命していただろう。不幸中の幸い、彼の体はすぐさま底に打ち据えられた。

  「ぐううっ! なっ、何だってんだっ!? くぅぅぅ……」

  [[rb:強 > したた]]かに背を打って走る痛みに顔を[[rb:顰 > しか]]めながら反射的に頭上を見やる。

  そこに不穏な人影は認められなかった。

  体が落ちている最中にもう一つの可能性を黒狼は瞬時に弾き出していた。落とし穴だ。これは敵が仕掛けた罠で、己はまんまと敵の術中に嵌まってしまったのではないかと思ったのだが、

  「…………ふぅ。さすがに狙いが限定的か」

  視界に揺れる影はなく、安堵に息を吐く。

  だだっ広い密林でピンポイントに罠を仕組む効率の悪さを考えたらその線は薄そうだった。やはり己は自然にできた地面の裂け目に運悪く嵌まってしまったようだ。長い年月を経て積もった枝葉や[[rb:砂礫 > されき]]が覆い隠して穴を塞いでしまっていたのだろう。

  黒狼は再び、今度は当惑の溜息を吐いた。

  さてどうしたものか。

  周囲は真っ暗で何も見えなかった。ただでさえ密林は薄暗いのに、穴の中は闇夜かと思うばかりに漆黒一色に塗りたくられていた。この穴がどれほどの広さなのか、毒を持った危険な生物が潜んでいないか、こればかりは目が慣れてくるのを待つしかない。

  どうやら12、3mほど下に落ちてしまったらしい。体感的に、そして頭上の穴の大きさからそう推察できた。

  それにしても見事な真円だ、人工的と思えるほど。

  それはどこか闇夜に浮かんだ満月を想起させた。濃い緑色をした月だが、朧月のようにぼやけた輪郭を闇に溶けさせて光っている様子をしばし黒狼は見つめていた。

  やがて暗闇に目が慣れると辺りの様子を用心深く窺った。

  奇妙だった。

  そう、視神経が伝えてきた映像を言葉として言い表すには、奇妙の一言が最も的確だった。

  「何だこれは……?」

  まず球形のドーム状をした空間に面食らった。

  落ちてきた穴の途中で横に一気に広がっているようで、その形状は丸型フラスコと表現したら伝わるだろうか。しかし、歪みのない曲線には驚きはするが、特筆すべき点はまた別にあった。

  土壁の色が普通ではないのだ。

  まるで狂った画家がありったけの油絵の具をぶちまけたような色彩に溢れていた。ある所はどす黒く、またある所は毒々しく紫や[[rb:緑青 > ろくしょう]]に、肉々しく[[rb:鮮紅 > せんく]]や[[rb:濃緋 > のうひ]]に、湧き水で濡れているせいか本当に油独特の照りを放っているかのようだ。こういう地層も世界には探せばあるのかもしれないがどうにも薄気味が悪い。

  こんな胸糞悪い場所で悠長に時を潰しているわけにはいかない。

  ルドルフは悪趣味な壁に近寄った。

  軽く見回した限り足場になりそうなものは見当たらない。手頃な大きさの岩石か何かあったらそれに上って、と考えたのだが辺りにあるのは何の足しにもならない枝葉などの落下物だけだった。

  しかし問題はない。

  岩壁でない限り簡単に崩れて穴を[[rb:穿 > うが]]てるはずだ。それを足掛かりにして壁をよじ登っていけばいい。天井辺りは少々骨が折れそうだが握力には自信があった。

  だが、崩れたのは彼の算段のほうだった。

  靴先で、軍刀の[[rb:頭 > かしら]]で、抉ろうと突き立ててみたが壁面はびくともしない。今度は渾身の力を込めてやってみたが結果は同じだった。

  「これは……」

  青い目を[[rb:訝 > いぶか]]しげに細めて黒狼は軍刀の頭を見やった。

  壁と刀とが細い糸のような物で結ばれていたのだ。

  「糸……いや違う」

  粘液だ。

  透明な糸らしき物は刀を引くと、引き伸ばされてやがてだらんと垂れてからぷっつり切れた。

  てっきり水で濡れていたのかと思ったがそうではなかった。この妙にぬらぬらと照っている液体は高い粘性を帯びているというわけだ。

  ルドルフは今一度周りの壁を見渡した。

  壁全体が濡れていた。どこもかしこも、ぬめった独特の艶を浮かべている。つまり粘液に[[rb:塗 > まみ]]れた壁だということだ。

  「…………」

  無言でルドルフは目の前の壁に触れた。

  指が滑った。

  もう一度、今度は指先に力を込めて触った。

  また、指が滑った。

  それでも[[rb:登攀 > とうはん]]を試してみようと、片腕を上げて鋭い爪を壁に突き立てた。刺されば壁を登れるはずだったが、その腕も虚しく滑り落ちていく。

  「ハッ、んな馬鹿な話があるかよ、おい?」

  10数mある縦穴の1mすらも登れないという事実にさすがに喉から乾いた笑いが漏れる。

  途方に暮れる男の脳裏にふとある光景が思い浮かんだ。

  この状況は食虫植物のそれに酷似していた。植物が分泌した粘液に絡め取られた虫は逃げ出すことも叶わずに養分となってしまうのだ。食虫植物が粘液を纏う理由は捕虫するためなら、この土壁を覆っている粘液は何のために……。だが、いくら思考を巡らせても明確な答えなど出るはずもなかった。

  無風の空間で黒狼の皮膚にじっとりと嫌な汗が滲む。

  「糞がぁっ!!」

  大声で叫ぶや勢いよく抜刀すると間髪を[[rb:容 > い]]れず壁面に突き刺した。

  ずぶり、と刀身が沈む。

  斬れたのだ。この不可思議な壁は切り裂くことが可能なのだ。それは黒狼に一筋の光明を与えただろう。硬質の[[rb:土塊 > つちくれ]]なら上手いこと四角形に切り出して、それを積み重ねて足場に使うことができる。もし自重に耐えられないような脆さだったら、小さく抉ったその小穴に足を引っかけて出口を目指せば脱出できるかもしれない。

  しかし、彼の思考はそこまで及ぶことなく停止していた。

  「おい、この壁は……」

  黒い喉仏がごくりと上下する。

  ルドルフは大きく見開いた目を手元に落とした。

  軍刀を握る手が微かに震えていた。

  甚だしく違和感があった。斬った手応えが土のそれではなかった。男はその感触をとてもよく知っていた。その記憶は……人肉だった。信じられないことにこの壁は人の肉質にも似た斬り応えを手に伝えてきたのだ。

  そのとき、刃の半分ほど埋没した壁がぐにゃりと[[rb:蠢 > うごめ]]いたかのように一瞬見えた。

  立ち眩みか。うだるような暑さに溶ける意識が歪んだように錯覚させたのか。

  [[rb:怪訝 > けげん]]に細めた目は、だが再び大きく見開かれた。

  その斬り口、刀身と貫いている壁の間にできた僅かな隙間がぷっくりと膨れ上がったかと思うや、次の瞬間、濃い緑色の液体がどろりと溢れ出てきたのだ。粘度の高さを窺わせる小さな泡を無数に噴かせながら。

  ルドルフの背中に[[rb:怖気 > おぞけ]]が走った。

  「なっ、何なんだこの気色悪い壁はっ!」

  噴き出た緑色の粘液が不気味な色の壁面をとろとろと濡らして流れ落ちていく、鼻に纏わりつくような強烈に甘い芳香を放ちつつ。

  「……ぐっ!」

  黒狼は歯噛みした。

  抜こうと腕に力を込めたが刀がどうやっても引き抜けない。薄気味悪い壁をなます切りに切り刻んでやろうとしたのに、こめかみに青筋が浮かぶほど気張っても軍刀は1cmたりとて動かなかった。

  この感覚、覚えがある。

  ……そう、刀を突き刺さされた人体が筋肉を極限まで引き締めて、相手に刀を抜けなくさせるような。そしてその隙に相打ち覚悟で敵の首級を[[rb:獲 > と]]る……。

  それは戦士としての勘か。

  ルドルフは握っていた軍刀の柄をパッと放した。

  なぜそんな勘が働いたのか自分でもわからなかった。無生物がそんな芸当できるわけがないのに。だが、歴戦の戦士の肉体は敏感に察知したのかもしれない、及ぶべくもない危険を。幾度戦場を駆け抜けて、それでも命脈を保っている強運がここでも働いたか。

  咄嗟の機転は、しかしあろうことか功を奏した。

  全人類の中で、この事象を目撃した者はこれまでいったい幾人いるだろうか。

  「あ……あ、ああ……」

  現世に存在している億単位の人類、いや、故人を含めてもおそらくいないに違いない。黒狼は人類史上初めて、人智の及ばない怪異生命体との[[rb:邂逅 > かいこう]]を果たしたのだ。光の一条も届かない深い闇の深淵の[[rb:理 > ことわり]]に触れてしまったのだ。

  「こ、こんなモンがいるはず……」

  人類の網膜に初めて刻まれた事象は存分に声を震わせるものだった、無論、歓喜にではなく恐怖に。

  目の前の壁面の一ヶ所が、ぼこりと膨れた。

  続いて視界の右上の辺りでまた、ぼこり。今度は反対側の下で、ぼこり。ぼこり、ぼこぼこぼこぼこっ! 至るところで壁が小さく隆起する。それはまるで[[rb:土竜 > モグラ]]が地中に掘った土を地上へ掻き出したときにできる土竜塚のようだった。

  先ほどは立ち眩みのせいかと思ったが目の錯覚ではなかった。

  地鳴りが響き、今や空間全体が胎動し始めていた。不気味な壁が蠢いている、脈を打つように拍動している、血管にも似た青黒い筋を縦横無尽に[[rb:蔓延 > はびこ]]らせながら。

  「ぐうぅっ化け物がっ!」

  化け物――。

  黒狼はそれを命あるものと断定したのだ。その事象の大本を生命体と認めることにどれほどの葛藤が渦巻いていただろう、勇気がいっただろう。決して認めたくはあるまい、この壁が生物の体の一部だということも、この空間自体が生物の体内だということも。

  己の立場は今、籠の中の鳥だった。

  いや、鳥であったらどれほど救われただろうか、羽さえあれば頭上の穴から抜け出せたのだ。達者な脚力の持ち主というだけでは脱出は到底叶わない望みだった。

  身の危険を察して壁から一歩後ずさっていたルドルフは目を剥いた。

  おぞましい光景だった。

  壁に生じた無数の肉芽が、一斉にその先端をうねうねと蠢かせるや突如としてこちらへ向かって伸び始めた。凄まじい勢いだった。その総数、数十本はあろうか、赤褐色の半透明に透けた、よくしなる生きた鞭がルドルフを急襲する。

  「ぐおっ、があぁぁっ!?」

  完全に虚を衝かれた。

  予想だにできない未知の生命体の動きに反応することもままならずに、体は真正面からその粘液塗れの餌食になった。首に、腕に、脚に、容赦なくぐるぐると絡みつく。

  「放しやがれ糞がっ、何だってんだこいつはっ!!」

  体を揺すってもがけばもがくほど、その[[rb:生温 > なまぬる]]い拘束具はさらに四肢を締めつけてくる。

  この一瞬の瞬発力ある動き、反応、明らかにこの生命体は強い意思を持っていた。

  こんな得体の知れない怪物がこの世に存在するのか。驚きとともに、この動きは捕食者のそれであり、己は被食者であるのだと承知させるには十分すぎた。この鞭状のものは獲物を拘束する触手で、この空間はもしや胃袋なのではないか。そんな空恐ろしい疑念が沸々と湧いてくる。

  意思ある触手は、獲物を大の字に背中から肉壁へ[[rb:磔 > はりつけ]]にした。

  「かはっ……はっ」

  壁が脈動する感触を背に感じてルドルフの喉から[[rb:掠 > かす]]れた息が漏れる。

  軍刀を引き抜けていればこんな触手など一刀両断にしてやるのに、両腕が自由だったら引き千切ってやるのに。口惜しい、ただただ口惜しい。[[rb:咬牙切歯 > こうがせっし]]にマズルの隙間から重い唸りが漏れる。

  今や壁から無数に生えた触手の群れが視界いっぱいを埋めてうねっていた。

  そのうちの十数本が黒狼の体に絡みつく。

  ああ、己は食われてしまうのか……。上肢に下肢に巻き付いたそれに絞め殺されるのか、それとも首に巻きつく一本が[[rb:縊 > くび]]り殺すのだろうか。否応なしに脳裏に浮かぶ悲惨な末路にルドルフは観念したかのように目を閉じた。

  だが、しばらく時間が経過したが一向にその気配がない。

  何だ、どうした、己は喰われるのではないのか。体を覆う触手は緩むでもなく締まるでもなく巻きついたままだ。恐る恐る目を開けてみたが別段目の前に異形の化け物の顔があるわけでもなかった。

  そもそも殺意が感じられない。

  獲物を仕留める場合、捕食者は大なり小なり殺意を放っているものだ。

  それがなかった。約8m四方の空間に殺伐とした気はなく、相変わらず淀んだ重々しい陰気が満ちている。

  ふと、ルドルフは違和感を体に覚えた。

  体を這っている触手の触感をやけに生々しく感じるようになっていたのだ。その気味悪い生温さとぬめった感触まで伝えてくる。

  「……なっ、何だこれは!?」

  驚くのも無理はない。

  触手の拘束がようやく緩んだと感じるや、その下から現れた自身に驚愕した。あるはずのものがなかった。装着していた頑丈な革鎧が、革ズボンが、革靴が、硬い革製の股間当てまでもがすっかり消失していたのだ。

  すぐさま溶かされたのだとわかった。

  足元に装具だったと思われる、焦げた臭いを放つ黒い液溜まりができていた。

  触手の分泌物には有機質を溶かしてしまう溶解成分が含まれているらしい。溶けなかった革鎧の金属製リベットが、緩んだ拘束の合間から数個ポロポロと落ちていった。もしかしたら金属などの無機物には対応できないのかもしれない。だから先ほど爪では駄目だったが軍刀では壁を斬りつけることができたのか。

  溶かしたのは強烈な酸か。しかし、肉体には傷ひとつついていない。

  この化け物は器用に[[rb:ガワ > ・・]]だけを溶かせてみせたのだ。

  真意が測りかねた。

  触手で絞殺して食うのでもなく、溶解液で溶かして食うのでもない。硬い鎧が邪魔だからまずはそれを取り払うために溶かした、器用に……。そこまでの知性と手際をこの化け物は備えているとでもいうのか。

  生まれたままの姿になってしまった体の上を触手の束がうねっている。

  ねっとりと[[rb:温 > ぬく]]い粘液を纏った何十本もの触手が、それぞれ不規則な速さや角度で体表を擦っている。ゆっくりじっくりと獲物の肉付きを確かめるように蠢いている。実に妖しく艶かしく。

  よく鍛え上げられた厚い胸板を這い、

  弄り倒してきた浅黒い乳首を這い、

  [[rb:巌 > いわお]]のように硬く割れた腹筋の溝を這い、

  背後から股下に侵入した一本が肛門を這うや、露わになってしまった生殖器を優しく撫で上げていく。

  全身がいま触手の愛撫に包まれていた。

  「お……おお、おおおっ……」

  黒狼の喉から低くくぐもった声が漏れた。

  この好色な男が我慢できるはずもない。それは明らかに肉欲を喚起させる動きだったのだ。恐れを抱きつつも男の体はたちまち反応を示した。重なり合う触手の少しの[[rb:間隙 > かんげき]]を縫って、海綿体を著しく硬くした生殖器がドゥルンッと飛び出した。

  「ふはぁっ!?」

  その僅かな摩擦ですら甘美な刺激となって、つい男は熱い吐息を放った。

  強制的に呼び覚まされた性欲は凄まじく腰を痺れさせた。股間がやけに熱いのだ。体が異常とも思えるほどの射精欲を覚えていた。視線を落とせば、抑圧から解放されてグンッと力強く前に[[rb:迫 > せ]]り出した愚息が早くもだらだらと透明な恥ずかしい液を垂れ流しているではないか。

  30cmの逸物が下腹部を触手に強く圧迫されてビキビキにおっ勃っている。

  「……やめろ、やめてくれ……あぁ、このまま続けられたら俺は……」

  淫水焼けしたペニスがさらに赤黒く茹る姿を見てルドルフは訴えた。

  こんな気味悪い化け物に絶頂させられるなんて死んだほうがましだった。戦士として、男として、いや一個の知的生命体として、下等生物なぞに生殖機能をいい様に操られるなど[[rb:矜持 > プライド]]が許さなかった。

  ぱっくり開いた鈴口から先走りがとくとくと溢れ出てくる。

  この生殖器は射精したいのだ。肉壺の締めつけを感じたいのだ。

  「駄目だそれだけは……駄目なんだ、もう許してくれ、勘弁してくれ……」

  人の言葉が理解できるはずもないのに口が勝手に詫びる。

  我慢汁が亀頭から陰茎を伝い、やがて触手に付着した瞬間、触手の動きが急変した。

  四肢を壁に縫いつけているもの以外のほぼ全ての触手が体から離れるや、男の性感帯という性感帯を一斉に愛撫し始めたのだ。

  カウパー液が触れて男が性的興奮状態にあると知覚したのか。

  「おあっ!? がっやめっ、おごおおおおーっ!!」

  黒狼はマズルを大きく割って悶えた。

  離れたそのうちの一本が、先端をぷっくり膨らませて怒張にかぶりついていた。噛まれたのではない。内部が空洞状になっている触手に丸呑みに咥え込まれたのである。黒狼が放った咆哮はその触手の内壁がもたらす超絶的な快感のせいであった。

  微細を極める幾千万本にも及ぶ柔らかな繊毛の絨毯がペニスに戯れていた。

  「おほっ、おおおっ……すっ凄ぇ、凄ぇぞ何だこれはっ」

  人体が生み出すことのできる快楽の比ではなかった。

  それは自慰や肛交では到底味わうことのできない途轍もない絶楽。この深淵より生まれし異形のみが与えることのできる悦楽。

  異形の放つ甘ったるい芳香に、粘液に、含まれるのは強力な催淫成分。一たび皮膚に塗れば、細胞は歓喜に打ち震えながら主を身悶えさせるのである。今、空気中に揮発したその成分が黒狼の鼻腔に、また、粘液から直接皮膚に浸透して血流に乗り全身を巡っていた。心拍数の急激な上昇によって如実に効果が表れる仕様で。

  [[rb:微風 > そよかぜ]]が肌をふわっと撫でただけで思わず絶頂してしまうほど敏感になってしまった体に、

  「ぐがああっ頼むっ許せっ、許してくれぇっ後生だ、がああぁっ!」

  気を昂ぶらせまいと必死に牙を食い縛って情けなく哀願するほかなかった。

  これが戦場の黒狼、として敵方に恐れられた男だとは。声を震わせてその目に薄っすら涙を溜めながら許しを乞う姿を見たら誰が畏怖を覚えようか。音に聞こえし二つ名も形無しだ。

  マズルから涎が糸を引いてだらだら垂れていく。

  「うぅ……うううっうぐううっ……」

  粘液をたっぷり含んだ触手内部の[[rb:襞 > ひだ]]がペニスをいやらしく揉んでいる。特に鋭敏な亀頭周りは丹念に揉み[[rb:解 > ほぐ]]されていた。分厚い雁首を挟むようにこそぎ、雁裏に微かにこびりついていた恥垢はたちまち溶けて剥ぎ取られていった。尿道口に至っては愛撫はその激しさを極めた。塩味の強いカウパー液は好物なのか、吐き出される勢いに押し戻されながらも繊毛は鈴口の奥に向かって懸命に先端を伸ばして肉に吸いついていた。その微細な一本一本が極小の触手であったのだ。

  陰茎の皮膚にうぞうぞうねうねと群がる万本の襞。

  よもや細胞単位で快感を与えようというのか。松瘤のように節くれ立つ竿肌にぴったり吸いついたまま前後する触手の動きに合わせて吸着した襞が横滑りする。その吸いつきを伴った強烈な触手の魔羅扱きに途轍もない快感が黒狼の身を焼いていく。

  それらは疑いようもなく射精を促す動きだった。

  この怪異な生命体の目的が、雄性生殖器で作られる精液だと、ぐずぐずに蕩ける脳味噌が弾き出す。

  「あぁああぁ……ばっ馬鹿な、そんな生物っいるわけねぇっ、があぁっ!」

  ルドルフは耐え難い快楽に体を激しくくねらせながら全否定した。

  腕の一本でも自由だったら引き剥がしてやるのにそれもできそうになかった。気づけば黒狼の四肢の先から半分ほどが肉壁の中に埋まっていた。手も足も化け物の体内に深く取り込まれてしまっては文字通り手も足も出ない。

  怒張を咥える触手の動きが[[rb:忙 > せわ]]しくなった。

  赤茶けた透明状の触手の中でペニスが激しく前後しているのが見えた。

  「んぐううっ!? ぐっ止めろぉ! [[rb:射精 > で]]ちまうっそれ以上扱かれたら[[rb:射精 > で]]ちまうってぇっ!」

  射精感が込み上げるまで数分と持たなかった。野郎との肛交ではいつも遅漏気味なのに、[[rb:千摺り > オナニー]]を覚えたてのガキの頃のように一気に精液が性器の[[rb:袂 > たもと]]まで上がってきていた。

  黒毛を生やした特大のふぐりがキュッと引き[[rb:攣 > つ]]った直後、

  「もう駄目だっ、[[rb:射精 > で]]る[[rb:射精 > で]]る[[rb:射精 > で]]るっ、んぐっ……ンガアァァァーッ!!」

  背を[[rb:弓形 > ゆみなり]]に反らせて黒狼はオーガズムに体を震わせた。

  この数日吐き出されることのなかった溜まりに溜まっていた精液が凄まじい勢いで鈴口を最口径まで押し広げて迸っていく。

  「おごっ、ごっ、ごおおおおっおほっおほおおおっ!!」

  熱したザーメンに尿道を激しく焼かれてルドルフは狂ったように頭を左右に振りながら悶えた。今まで経験したことのない未曾有の快感が体を襲っていた。腰が砕け、心臓が麻痺して魂が持っていかれるようだった。[[rb:今日 > こんにち]]まで野郎と軽く四桁はまぐわって尻に種付けしてきたが、今まで放ってきた射精の快感が陳腐と思えるほどだった。

  少しでも気を抜けば意識が持っていかれそうだ。

  逞しく脈打つ会陰部が瞬く間に貯精されていた分を体外へ送り出していく。

  「おお、おおおっまだ[[rb:射精 > で]]るっ、ああっまだ、まだ[[rb:射精 > で]]てしまうっ!」

  途切れることなく噴出する精液が触手の中を通って長く白い筋となっていた。それは触手が生える壁の中へと続いているということはやはり雄の精液を養分とする生命体だったか。地上を行く雄を落とし穴に模した罠にかけて、こうして捕らえた獲物の精を搾取して生命を維持していたのだ。何と奇異極まる生態か。

  群青の瞳が白目を剥いた。

  「あ、がっ……おいっう、嘘だろっ、射精が、と、止まらねぇっ!?」

  体に異変が起きていた。

  射精の勢いがまったく弱まる気配がない。とっくに底をついていてもいいはずなのに、止め[[rb:処 > ど]]なく精液が噴き出している。

  「あぁっああああっ止まっ! 止まってくれぇっ体がっ俺の体がぁっ!」

  頭がどうにかなりそうだった。射精がもう数分間も続いている。

  その間ずっと耐え難いほどの絶頂感に襲われているのだから気も触れそうになるというものだ。その原因は、感度及び精液生産能力の飛躍的な向上効果によってルドルフの体質は著しく変質させられていたのだが、異形の纏う粘液がもたらす効果はそれだけに[[rb:止 > とど]]まらなかった。

  乳首に吸いついた触手の管の中に白い線が走っていた。

  その正体は何か。

  信じられないことに、男からは出るはずのない乳が乳首から漏れていた。

  ルドルフは正真正銘の男であるというのにその両の乳首から母乳を搾り取られていたのだ。いや、母乳ならぬ父乳と言うべきか。体内に浸透した粘液の成分によって彼の乳腺は極端に肥大させられていたとは本人は知るよしもない。

  精液と同様に父乳もまた怪物の栄養源になるというわけだ。

  「ああ胸がっ、胸が熱いぃぃ、出てるぅ乳が……はあぁぁ俺の胸から乳が出てやがるぅっ!」

  逞しい胸をゆっさゆっさ揺らしながら、ぽってり膨れた肉厚の乳輪を吸われて善がる戦士ルドルフ。勃起した浅黒い乳頭を咥える触手に健気に授乳させながら善がる戦士ルドルフ。歩む先は、すわ一国の大将かと皆に将来を[[rb:嘱望 > しょくぼう]]されていた勇敢な戦士の姿はもはや見る影もなかった。

  搾精と搾乳、同時に上と下から白い体液を搾り取られる快感はいかばかりか。

  その狂おしいほどの快楽にすでに黒狼の精神は蝕まれていた。

  意識の判然としない中で気づけているだろうか、肛門にその径5cmはある極太の触手が押し当てられている事実を、今よりその異物が体内に侵入するという近い未来を。

  「あ、あ、ああ……そ、こは……駄目だ、そこ、は……」

  さすが強靭な戦士、どうやら正気は糸一本ながらも保てているらしい。

  ぐ、ぐ、ぐぐぐ、と触手がその丸い頭部で肛門を無理くりにこじ開けていく。

  「よせ、やめろっ……俺は尻を、弄くられる趣味はっ!」

  だが、括約筋は主の意思に反してゆっくりと緩んでいった。彼の肉体はさらなる快楽を求めているとでもいうのか。

  潤沢に粘液を纏った先端が、にゅるりと粘った音を立てて体内へ潜り込む。

  「ああっ!」

  直腸の埋まる圧迫感にルドルフから熱い吐息が漏れる。

  肛門の皺がすっかり伸び切ってしまっているというのに不思議と痛みはなかった。粘液に含まれている催淫成分のせいか、[[rb:痛痒 > つうよう]]はすぐさま快感へと昇華されていった。

  「ケツがぁ……俺のケツマンがぁ、ああっまただっまた[[rb:射精 > で]]やがるっ、糞ガアアッ!」

  尻を掘られての再度の大量射精に黒狼は体を硬直させた。

  射精に収縮を繰り返すアナルの強い締めつけを物ともせずに触手が我が物顔で押し入ってくる。そして腸内を堂々と支配下に収めるや、さらなる快楽を与えるべく抜き差しに動き始めた。

  「ハッ、ぐぅっ、凄ぇっぐおぉっおうぅっいぎぃぃケツ凄ぇ感じるっ!」

  尻を犯されるのがこれほど気持ちのいいものだったとは。

  今まで何度か女役に挑戦したことがあったが、どれもいまいちだった。てっきり己にはその素質がないものとばかり思っていたがどうやら勘違いだったようだ。柔軟に形を変える侵入者にS字結腸のさらに奥の腸壁まで舐められてルドルフは身震いした。

  何と気持ちがいいのか。

  激しい[[rb:抽挿 > ピストン]]に脳裏にいくつも星が生まれては散っていく。

  そうまで責め立てて俺に種を出して欲しいのか……、ルドルフの締まりの消えた口から涎が一筋垂れていった。下から突き上げられるたびに精液がドクッドクッと噴き上がる。前立腺がごりごり押し潰される感覚が超絶的な快感を生んでいた。そこを愛撫される悦びを男は生まれて初めて知ったのだった。

  異形ははたして十分すぎるほどの精液と乳を得たはずだ。

  生命活動に必要な栄養は蓄えられたはずだ。

  なら捕らえた獲物はすでに用済みとなるのか。それともさらにこの上、血肉まで欲するというのか。

  ――今、新たに一本の触手が黒狼の股間に忍び寄っていた。

  それは彼の会陰部の辺りでぴたりと動きを止めると、そのまま黒い被毛の上へと吸着した。

  もしやそこを新たな性感帯として開発するつもりなのか。

  だが触手は何かを探るようにその辺りでもぞもぞと蠢くや、しばらくしてまた静かになった。数瞬を挟んで、今度はその赤褐色の先端が熱を帯びたかのように仄明るく光り出したのだ。

  触手が不気味に発光しだして間もなく、

  「グギィィィィーッ!?」

  突如、静寂を切り裂く絶叫が空間中に響き渡った。

  見れば黒狼の体が激しく痙攣していた。彼の体毛という体毛が針鼠のように総毛立ち、目を真っ赤に血走らせたその形相たるや悪鬼のごとくであった。

  いったい何事が起こったのか。

  光る触手の触れる先、会陰部の肉が、ぐじゅり……と溶けた。

  目を疑うような光景が彼の[[rb:股座 > またぐら]]で繰り広げられようとしていた。世間に知れ渡れば驚天動地の大事件として黒狼は波乱に満ちた生涯を送ることになるだろう。それは神の[[rb:御業 > みわざ]]か悪魔の所業か。今、ルドルフの体内にゆっくり形成されつつあるのは、[[rb:紛 > まご]]うことなき女性器であった。

  硬い繊維質の肉が、[[rb:麝香 > じゃこう]]や乳香にも似た甘い香を漂わせながら蕩けていく。

  触手の放つ溶解液にたちまち会陰部の体細胞という体細胞が溶解していった。薄っすら血の混じった桃色めいた粘液体となったすぐそばから、新たな体細胞に再構築されて膣や子宮の細胞核を有した姿へと変容していくのだ。

  それは卵巣や輸卵管がない、膣と子宮のみという簡素な女性器だった。

  それだけで十分なのだ創造主にとっては。最終目的が獲物の体内に己の卵を産みつけることだったのだから排卵機能など必要がないというわけだ。

  獲物は雄でも雌でもよかった。

  雌ならそのまま活用して抱卵させればいい。雄ならこうして体内に女性器を造って苗床とした。黒狼は化け物が繁殖するために捕らえられたということになる。栄養価の高い精液だけでなく、苗床としても利用できる雄はさぞかし利用価値も高いに違いない。

  会陰部に肉々しい割れ目が出来上がっていた。

  それを押し広げれば、膣がねっとりと濃桃の艶を帯びて早くも媚を売っている姿を見ることができるだろう。とろりと透明な愛液を滴らせながら挿入される男性器を待ち望んでいるとわかるだろう。

  両性具有者となった黒狼は相変わらず身を焦がすほどの肉欲に悶えていた。

  会陰部にいきなり走った激痛はそう長くは続かなかった。マズルに突っ込まれた触手から鎮痛成分を含んだ粘液を飲まされて痛みは消えていた。

  「ああっあ……う、疼く…腰がっ腰の奥が疼いちまう……」

  己の体に突如として誕生した女陰にはたして気づいたのか。

  その薄っすらと紗のかかった瞳を見る限りまだ理解していなそうだった。雄に加えて雌の生殖能力を持つ淫靡な肉体に改造されてしまったことを知ったらどう反応するだろうか。好き者だから両性の快感を味わえることに歓喜するか、それとも雄の威厳が台無しだと憤怒するか。いや、この男からはもう答えを望めそうにもない、正気を保っているかどうかも怪しいものだ。

  それにしても触手が放つ粘液の有用性には目を見張るものがある。

  女性器の形成に肉体がショック反応を起こさないように、性的感度を大幅に上げる催淫成分とは別に、痛覚を麻痺させるほどの強い鎮痛成分を含んでいるとは。これほどの麻酔効果の高さなら外科医が放っておかないだろうが、何分先に述べた効果がもれなくついてくるのは問題か。

  ふたなり野郎のヴァギナへ触手が伸びていく。

  誕生したばかりの女陰を愛でるかのように優しく先端が触れた。

  「あはぁぁっ!」

  黒狼から女々しい嬌声が上がった。

  まだ男を知らないそこが触手の粘液に妖しく濡れる。何と妖艶な淫気を放っているのだろうか、魔性の者の手によるものだからか。周囲にびっしり生えた黒毛はまるで陰毛のようで、肉色の粘膜を覗かせた割れ目はまさに女性器を見るようであった。

  触手が陰唇を上下に擦った。

  「ああっ、そこっ凄っ、もっとそこを弄ってくれ……あぁぁっいい、いい……」

  異形に[[rb:強請 > ねだ]]るとは。恐怖心や誇りなどとっくに消失してしまったようだ。

  執拗に[[rb:舐 > ねぶ]]られる肉厚の陰唇。

  触手の粘液に、割れ目から滲む愛液に、ぐっしょり濡れながら[[rb:初 > うぶ]]な桃色からさらに赤味を深めていく。擦られるたびに恥肉が[[rb:捩 > ねじ]]れて穴がその秘奥を覗かせる。その暴かれた侵入路に、だが触手の頭はまだ潜り込もうとしない。

  「はああぁっ熱い、堪らなく腰が熱いんだ……早く、早くそれを突っ込んで俺を満足させてくれ」

  腰を振って催促する男に、しかし焦らすかのように愛撫は陰唇をこそばゆく[[rb:弄 > もてあそ]]ぶのだった。

  「んな意地悪すんじゃ……ねぇよ……はっああっ頼むっ、何でも言うことを聞く、だから」

  まさか人語が通じたか、触手の頭が穴を塞いだ。

  ルドルフは恍惚の表情で震える息を頭上へと吐いた。

  すでに確信していた。この巧みに情欲をくすぐってくれる触手が体を貫いてくれるものと。そして己は雌となるのだ、肉棒に善がり狂わせられるはしたない雌犬に。

  その待望の肉棒が今ゆっくりと未通の[[rb:純潔穴 > バージン]]へ侵入していく。

  「あ、ああ……そ、そんなっ! うおおおっほああーっ、ああっんあああーっ!!」

  涙を[[rb:滂沱 > ぼうだ]]と流して喘いでしまうのは当然だ。

  絶頂とはまた別種の快感がルドルフの体を襲っていた。それは現世の理から大きく外れた異界の淫楽。薄弱な者なら一秒とも持たない禁断の享楽。僥倖にも黒狼は決して人類が至ることの叶わない境地に達していた。そう、僥倖だ、彼のうっとり喜悦に染まった表情がすべてを物語っているのだから。

  膣の肉が歓喜にわなないていた。

  触手が触れると細胞という細胞からとろりと蕩けた白い淫液が染み出してくるようだった。細胞単位で絶頂していた。淫火に[[rb:炙 > あぶ]]られて滲み出る愛液を纏いながら触手はさらに深く膣奥へと潜り込んでいく。完璧に形成されていた処女膜を奪い、やがて先端は行き止まりにぶち当たった。子宮口だ。

  「ひぎぃっ!? ひっひぃぃぃっ! いぎぃぃぃぃぃぃ!」

  膣奥を掻き[[rb:毟 > むし]]るように刺激されて、射精する男のマズルから引き攣るような艶声が迸る。

  驚くことにその子宮口までもが触手に突破されようとしていた。固く閉じていた小さな口が圧力に屈して緩んでいく。やがて僅かに見せた狭い通路を異物は頭を上下左右にぐりぐりと振りながらさらに奥へ奥へと進む。やがて辿り着いた先は開けた子宮の内部だった。

  終着点に到達した触手のその根元、壁際が大きく膨れ上がった。

  それは異形の卵子。

  径10cmほどの薄青の巨大な卵子は卵管と化した触手の中を音もなく進んでいく。その数、一、二、三……八個にも及んだ。

  「ほあっ、はっ、入ってくる、ああっまた入って……またあぁっ!」

  すっかり弛緩し切った子宮口が卵子を楽々と呑みこんでいく。卵の最大径が通り過ぎて穴が窄まるたびに男の口からホッと安堵したような熱っぽい吐息が上がっていた。

  次々と排卵される卵子に子宮内はすぐさま埋まった。

  それでも子宮口を押し広げて後から後から詰め込まれる卵子に、やがて気づけば黒狼の腹は異様なほど大きく膨れ上がっていた、それこそ妊婦のように。

  「ああ凄ぇ……凄ぇよ、ヴァルター……」

  つと、黒狼の口から傭兵団の同胞、ヴァルターの名が漏れた。

  すでに意識が混濁してまともな精神状態でない彼にとって、己の膣に埋まっているのはヴァルターの男根であった。壁に四肢を拘束されているのではない、背後からヴァルターに羽交い絞めにされて犯されているのであった。『お前はまともなプレイで満足する玉ではないだろうからこんな羞恥を覚える体位に付き合ってやってるがまったく助平野郎だな』そう嫌味のひとつでも零しながら、そして腹が膨れるほどまで中出しされてついにルドルフは感極まってしまったのである。

  ずっと想いを寄せてきた愛しい男が耳元で囁いてくる。

  「ルドルフ、おめぇいいマンコ持ってんじゃねぇか最高に気に入ったぜ」

  「……本当かヴァルター?」

  「おう、たっぷり中出ししちまったから孕んじまうな」

  吐息に含まれた扇情的な台詞が鼓膜を震わせる。

  虎男の白い髭が視界の隅で揺れていた。

  熱い体温を背に感じた。燃え盛るような情熱を腹に感じた。想い人の愛情を、胸に感じた。

  未だ膣に埋まったまま少しも衰えない滾る灼熱にその群青の瞳を細めながら、ルドルフは恥ずかしげに頷いた。

  「ああ、お前の子だったら産んでやるとも。きっと元気な子に育つだろうさ」

  「ハッ、違いねぇ。だが覚悟しろよ? 一人とは言ってねぇぞ? 俺の種は百発百中だからな」

  「望むところさ。お前のためなら俺はどんなことでも……」

  抱かれただけでも幸福だったのにさらに[[rb:夫婦 > めおと]]になれる望外な幸せにルドルフは涙した。

  菌糸が伸びるがごとく、ゆっくりと、だが確実に黒狼の精神が異形の毒に侵されていく。幻視と幻聴を与えられながら。愛しいヴァルターが住まう、夢見心地の快楽の世界へと[[rb:誘 > いざな]]われながら。

  ――現実は何と残酷なことか。

  卵子を吐き終えた触手に代わって、今度は先端が男性器の亀頭に酷似した触手が子宮の中へと入り込んでいた。それを最愛の人のモノだと信じる女陰が健気にも射精を促すべく刺激を与えてしまうのだ。

  膣の搾り取るような締めつけに男根型触手が絶頂する。

  「かはぁっ! ああっヴァルター……お前の子種がまた俺の腹にたくさんっ凄ぇ凄ぇよ本当……」

  触手の先から勢いよく射出した青白く光る粘液が、子宮にぎゅうぎゅうと詰まっている卵子の隙間に満ちていく。満ちていくそばから卵子は受精卵となっていった。

  「出来ちまうんだな……お前との子が。待っていてくれ、お前似の勇ましい子を産んでやるからよ」

  ルドルフは至福げに微笑みながら、脳裏に描いた青写真に思いを馳せた。

  ヴァルターほどの男なら今の稼ぎだけでも十分二人でやっていける気がした。そうしたら己は傭兵稼業を辞して育児に専念しよう。帝都とまでは言わない、どこか環境のいい街や村で大きな家でも建ててそこで慎ましく家族の時間を過ごすことができたら最高じゃないか。近所でも評判の子沢山な一家として有名になってしまったらどうしようか。そんな贅沢な悩みを抱えるときがやって来るかもしれない。

  ああ、そうだ……ボルガ、お前もついて来ないか?

  金回りの悪い傭兵なんぞ辞めて、俺たちの家で住み込みで働かないか?

  いや、ヴァルターが妬いちまうか、嫉妬深そうだからな。

  そんな空想に耽りながら黒狼は幸せを噛み締めていた。いつの日かどれも現実になりそうな気がした。待て、産まれてくる子の名はどうしようか……、次から次へと頬の緩むような悩みが浮かんでくる。ああ目蓋が重い。疲労困憊の黒狼は、体を襲う強い睡魔にやがて[[rb:微睡 > まどろみ]]みの淵へと落ちていった。

  [newpage]

  腹部の強い張りにルドルフは目を覚ました。

  どれほど眠っていたのか、中央に落ちていた陽光の淡い円はすっかり暗くなっていた。夕暮れ時と判断すると半日近くは経っているようだ。相変わらず手足は壁に埋まったままだったが、あれほど生えていた触手の群れは姿形すらなかった。

  腹の張りがまた強まった。

  よくよく見れば微かに動いているのが視認できた。

  驚くことに異形の卵は僅か半日の間に、消化器官、神経、臓器を形成し、孵化寸前にまで成長していたのだ。

  子宮に着床した受精卵は、一時間後には[[rb:卵殻 > らんかく]]から伸ばした[[rb:臍帯 > さいたい]]を近くの子宮内膜へ接合する。そうして宿主から養分と遺伝子を吸いながら爆発的なスピードで細胞分裂を繰り返していくのである。

  出産の時が迫っていた。

  大きな腹をした妊夫の眉が苦痛に歪む。孵化を控えて、鳥の雛が誕生後もしばらくは腹に包み込んだ卵黄で生きていけるように、ここぞとばかりに卵が栄養を貪っているのか再び激しい睡魔が体を襲う。

  目蓋が下りる。おそらく次に目覚めたら己は母となっているに違いない。

  先ほどの比ではない、今度は張り裂けるような、規則的に反復して起こる腹の激痛に黒狼は目を覚ました。

  陣痛が始まっていた。

  全身から脂汗を流しながら黒狼はどうにか耐えるしかなかった。

  地上から落ちてくる木漏れ日で出来た円が明るさを増している。すでに一日が経過していた。

  ここ一番の激しい陣痛が襲った刹那、黒狼の腹の中で薄っすらと透けた卵膜が破れた。すると連動するかのように次々と熟れた卵は破水していった。母体がうんうん唸りながら腹に力を入れて息むと、膣から流れ出る大量の羊水とともに、

  ……ぼとり。

  ぼとっ……ぼとり……。

  ……ぼとっぼととっ……ぼとり。

  ぼとり……。

  羊水の水溜りに我が子が産まれ落ちていく。

  分娩の痛みはなかった。それどころか異常なまでの性的[[rb:亢進 > こうしん]]状態に黒狼は陥っていた。羊水に催淫成分が凝縮していたのだ。産道を赤子に擦られるたびに猛烈な絶頂感が骨の髄まで痺れさせた。男は堪らず、子を産み落としながら同時に、屹立したペニスから精液を迸らせた。

  凄絶な出産アクメだ。

  涎を、鼻水を、涙を、汗を、尿を、精液を、父乳を、体から出るありとあらゆる体液を無様に垂れ流しながら善がり狂った。産まれたての[[rb:嬰児 > えいじ]]と繋がるヘソの尾が揺れるだけでも、精が打ち上がる。[[rb:娩出 > べんしゅつ]]して用済みとなった胎盤が脱落しただけでも、精は何本もの白い軌跡を宙に描いた。

  その青臭い劣情は愛しい我が子へと降りかかって、柔っこい皮膚をべっとりと濡らすのだった。

  黒狼はそのとき初めて視線を下ろした。

  そして愛に濡れる瞳は映した。夫との間に出来た、待ち望んでいた赤ん坊の姿を。

  体長60cmほどの[[rb:鈍色 > にびいろ]]をした肉塊が数匹、水溜りの中でのたうち回っていた。[[rb:匹 > ・]]――。それがその肉塊を表す数詞としてこの場合最も適切だと思われた。丸々と肥え太った、それこそ肉の塊に、何本も生えた小さな触手がうねうねと空を掻いている様子はまるで母親の温もりを求めて探し回っているかのようだった。この醜い幼体には目も口も鼻も耳もなかった。

  愛情の灯った瞳のまま男の表情筋が硬直していた。

  己は異形の子を孕んでしまっていたのか。

  絶頂と絶望の狭間で、男の喉から声にならない声が迸った。

  ズズズ……と重そうに体を引き摺りながら赤ん坊が足元まで這い寄ってくる。そして短い触手を懸命に伸ばして男の脚をゆっくりゆっくりと這い上がっていく。一匹、二匹、三匹……と。その後ろには[[rb:蛞蝓 > なめくじ]]が這ったような粘液の跡が漆黒の毛を銀色に艶めかせていた。

  甘えたいのだ、自身を産んでくれた母親に。

  膝から太腿へ進んだ一匹がやがて股間へと辿り着くと、そのまま男の怒張へ触手を伸ばしていった。陰嚢に伸び、陰茎に巻きつき、そして一本が亀頭を愛おしそうに舐め上げた瞬間、鈴口からたちまち獣液が噴射した。赤子は生まれながらにして雄を発情させる成分をその粘液に含んでいたというわけだ。

  細い触手の中にさらに極細の白い線が走っていく。

  初めての食事だ。

  逞しい戦士の精液だ、さぞ美味かろう。

  女体化を促す成分を注入されて乳が噴き出すようになったのも授乳させるためだったか。それにしても母を射精させて自ら食事を済ますとは出来た子ではないか、将来有望ではないか。実に精悍な成体に育つことだろう、あの虎男のように。

  黒狼は再び幻影を見ていた。

  目に入れても痛くないほどの可愛らしい虎の赤ん坊が懸命に己の張った乳首を吸っていた。狼の赤ん坊は己の魔羅をこれまた必死になって小さなざらついた舌で舐めていた。母乳が、精液が、湯水のようにとくとくと溢れてくる。育児は母の責務だ、元気な子に育つようにたっぷり飲ませてやろう。青写真に描いていた通りに子沢山になってしまったが、なってみれば存外に嬉しいものじゃないか。

  もしかしたら黒狼は自ら望んで異形が見せる幻視を受け入れたのかもしれない。

  ――やはり、現実はあまりに酷であった。

  辛い現実から逃避して快楽の海で溺れながら、たとえそれが[[rb:欺瞞 > ぎまん]]とわかっていても愛する家族に囲まれた幻想の世界で生きる道しか彼には残されていなかったのだ。もう片方の真実の道は選べまい、戦場の黒狼が見てきた地上の地獄絵図よりも[[rb:惨 > むご]]い責め苦が[[rb:永劫 > えいごう]]と続くのだから……。

  異形の子を産む母体として彼は生きていく。

  体力が消耗すれば栄養豊富な液体を胃に流し込まれながら命尽きるまで子を産む苗床として彼は生きていく。

  [[rb:闇 > くら]]い闇い異形の[[rb:揺籃 > ようらん]]の中で。

  

  

  十年、百年、千年に渡ってその特異な生命体は密林の奥地でひっそり息衝いてきた。この辺境の星に図らずも辿り着いた運命を[[rb:呪詛 > じゅそ]]することなく、いつかかるとも知れない獲物をただひたすら待ち続けてきた。

  黒狼は実に数百年ぶりに生命体へ繁殖の機会を与えたのだった。

  今は、がらんどうとなった生命体の体内に人影はない。

  喰われてしまったか。

  否、禍々しい色彩を放つ肉壁の中にすっかり体を取り込まれてしまっていたが黒狼は生きていた。光の届かない闇の海に[[rb:浸 > ひた]]りながら寂しく生きていた。だが孤独ではない。意思疎通は出来なくとも大勢の犠牲者が闇の海には居たのだから。

  もしかしたら、その中に[[rb:彼 > か]]の人も居るのかもしれなかった。

  まだ言っていなかったな……ヴァルター、お前を誰よりも愛している。

  誰もいない空間で、聞こえるはずもない声が壁の方から聞こえた気がした。

  いや、それははらはらと舞い落ちてきた一葉の枯れ葉の囁きだったかもしれない。

  完