裏切り

  1

  ぐちゅりぬちゅり、と淫猥な音が二人の接合部分から聞こえてくる。灰色と黒の体毛が、激しく交わって音を立てているのだ。

  「あ、あ、あ、あ」

  俺が足首を掴んだまま激しく腰を打ち付けると、謙太のあえぎ声は高まっていく。

  気持ち良くてたまらないのだろう。いつもは笑うことしか知らないような柔和な表情の謙太は、泣きそうに顔をゆがめている。股間のチンポは直立不動の姿勢のまま、だらだらと先走りを流していた。黒豹獣人のそのつややかかな体毛は、汗と先走りでしとどに濡れ、蛍光灯に照らされて光沢を放っている。真っ赤に膨れ上がった肉棒は、今にも弾けてしまいそうだ。

  「だ、駄目だ、隆二。もうイっちまいそう」

  「我慢しろ」

  俺は震える謙太の片足だけを下ろすと、帆掛け舟の体勢を取った。右手で片足を掴んだまま、左手で乳首を刺激してやる。

  「どうだ、これもいいだろう」

  「んんっ、んんっ」

  親指と人差し指で優しく摘み上げると、ケツの締まりが格段に良くなる。今まで以上に感じているのだ。締めつけの増したケツ襞を押し広げるように、俺は腰の動かし方をゆっくりと、しかし深く貫くように変化させた。

  「んぐぅぅ」

  いやいやをする子供のように、顔を横に振る謙太。目をぎゅっ、と閉じ、開いた口はわなないている。

  「ケツが……気持ち、いい……」

  その間も俺は手を止めない。なめくじが這いまわるようにじれったいほど時間をかけ、謙太の肌を撫でまわす。乳首から胸全体に。わき腹から首筋へ。そして、そそり立つチンポに手をやる。

  「なんだ、もうもらしちまってるじゃないか」

  先走りに混じって、ザーメンがじわじわと亀頭の割れ目から漏れ出していた。。黒と白のコントラストがむやみにエロくて、俺はそそられる。

  「あぁ、うぅぅ」

  「まだまだイケるんだろ。空っぽになるまで出しちまえ」

  「くぅ……くるっ、ちまう」

  耐えかねた謙太が身を起こそうと、もがく。広げられた両腕を、俺は狼獣人として発達した筋肉で逃がすまいとがっちり押さえつける。その体が、何度も激しく揺らされる。

  「うわ、うわ、うわ」

  「俺はまだ、イカせてもらってねえぞ」

  そう言いながら、俺も限界にきていた。謙太の肉棒から少しずつザーメンが流れ出すたび、肉襞がやわやわと生き物のように蠢き、俺のチンポを刺激し続けるのだ。

  もう、何も考えられねぇ!

  「ち……くしょう……、もったいねぇ、けど……ぐぐぅ、イ、イっちまうぅっ!」

  どくっ、どくっ!

  俺はがむしゃらに腰を振って、男汁を謙太のケツにぶちまけた。

  2

  三年ぶりだという今年の猛暑は尋常ではない。夕暮れだと言うのに、歩いているだけで頭がくらくらしてしまう程だ。あまりの暑さに立ち止まった俺は、スーツの上着を脱ぎながら呟く。Yシャツにまで汗が染みて気持ち悪い。

  「もう、三年か」

  思い出す。ちょうど今と同じように暑かったあの時、狼獣人の俺―河内山隆二―は黒豹獣人である金巻謙太と付き合い始めたのだった。

  「時間が経つのって早いよな」

  あれは二一歳の頃だ。今じゃお互いスーツなんざ着こなしてリーマン面をしているが、出会った時は大学の柔道部で汗まみれになっていた。練習熱心だったわりに大して上達しない俺達。居残って寝技の稽古をしているうちに二人とも股座がいきり勃ち、ついには行き着くとこまでいっちまったという、嘘のような本当の話だ。

  「それが未だに続いているんだからな」

  謙太の昨日のよがりっぷりを思い出すと、股間が熱くなる。

  「ん?」

  何気なく目を下にやると、スラックスの上からでもテントを張っていた。道行く人に見られないかと、俺は慌てて鞄で前を隠す。

  「おいおい」

  我が事ながら呆れてしまう。しばらく火照りは収まりそうにない。このままじゃ、満員電車にも乗れやしない。

  「……ちょっとハッテン場で遊んでいくか。仕事帰りだしな」

  俺は駅へと向かっていた足を真逆の方向へ向けて、歩き出した。

  最近、俺達はお互いに仕事の時間帯が異なるため、なかなか会えずに欲求不満なのだ。学生時分は稽古が終わると、どちらかの下宿に寄って毎日さかるのが習慣だったのだから、合間合間にどこかで抜かなければ体をもてあましてしまう。

  そんなことを考えながら、俺はハッテン場の扉をくぐったのだった。

  

  シャワーを浴びて汗まみれの体をさっぱりさせた俺は、腰にタオルを巻きつけてハッテン場のフロアを歩き回る。いくつかの部屋を覗いて見るものの、客の姿はほとんど見られず閑散としていた。

  「まあ、しゃあないよな」

  平日の夕方なんか、こんなもんだ。

  ……放映してるエロビデオでも見て、せんずり掻いて帰るか。

  そんなことを考えながら勢いよく足を踏み出した途端、目から火花が散った。

  「いってぇ~」

  何かに思い切り頭をぶつけたのだ。額に感じた堅く分厚い感触に、俺はてっきり壁に衝突したものだと思い込む。

  「何でこんなところに壁があるんだよ」

  額を手で押さえながらぼやく俺。その頭上から、割れ鐘のようなだみ声が聞こえてくる。

  「壁やのうて悪かったな」

  え、と顔を上げる俺の視界に飛び込んできたのは、壁のようにそびえたつ、一人の熊獣人の親父だった。

  「いや、こちらこそ、すいません」

  ぶつかっておいて、壁呼ばわりしたのはこちらの方だ。俺は慌てて頭を下げる。

  ……それにしてもでかい親父だな。

  2メートルはあるんじゃないか。俺が170センチと小柄なのもあるが、首を思い切り上に向けなければ顔が見えない。言いたかないが、子供と大人ぐらいの差がある。でかいのは背丈だけじゃない。横幅もだ。ごつごつした筋肉の鎧をまとって、完全武装している。腕なんて俺の太ももほどもあるし、胸板は鉄板を思わせるほど分厚く、殴りかかったってこちらが手を痛めそうだ。俺も週に二、三度は柔道場に通って鍛えているから体には多少自信があるが、とてもかないそうもない。ぶつかった額の感触からしても、趣味で鍛えた筋肉ではなく、現役バリバリで肉体労働をしているのだろう。

  見上げた親父の顔は悪く言えば粗野な感じ、よく言えば男臭い。ゲジゲジの眉に、頑固そうにへの字に結んだ口元。団栗のような真ん丸の目は、俺の姿をねめつける。

  歳は四〇代前半ぐらいだろうその親父は、じっと凝視している俺の顔を見て、破顔する。口元を緩めると、妙に愛嬌のある親父だ。

  「兄ちゃん、かわいらしい顔してるやないか」

  そしてぽん、と俺の頭に手を置いた。その手のひらも、俺の頭を鷲掴みにできそうなほどでかい。

  「か、かわいい?」

  俺は熊親父の言葉に顔をしかめる。

  確かにこの背は不本意ながらかわいいサイズかもしれないが、よく牙と眼光のが鋭いと言われる顔立ちの俺は、厳ついとは言われても、かわいいと言われる事なんてありえない。

  しかし熊親父は、不審そうに見つめる俺の視線をものともしないかった。

  「どや、暇してるんやったら付き合わんか」

  熊親父は、不器用にウインクして見せた。

  3

  暗がりに連れこまれた俺は、ズラリ並べられた布団に押し倒され、キスを迫られる。初対面の男とキスするのは抵抗のある俺だったが、熊親父は否応もなく俺の口を蹂躙する。ヤニ臭さが唾液と一緒に流れ込んできた。舌を使って閉じられた歯をこじ開けると、すかさず侵入し、縮こまった俺の舌を絡め取る。

  「んんん」

  親父はそのまま抜き取るほどの勢いで舌を吸い、自分の口の中にくわえ込むとぬちゃぬちゃと音をたててじっくり弄ぶ。

  ……くそ、気持ちいい。

  抵抗したことも忘れて、俺は陶然としてしまう。

  「なんや、わしのキスが気に入ったみたいやな、兄ちゃん」

  熊親父は口の端を引き上げてみせる余裕の表情。

  「ところで、兄ちゃんの名前は何て言うんや」

  「……河内山、隆二」

  「隆二か。ええ名前やな」

  「あんたは?」

  「わしは啓三。箸方啓三や」

  「賢そうな名前だな」

  「わしの外見には似合わへんってか。ほっとけ」

  熊親父の啓三は、怒ったような声を出す。顔は笑っているので本気ではないのだろう。

  「年上をおちょくるなんて、罰が必要やな」

  啓三はグローブのような手で俺の両手首を掴むと、頭の上で交差させたまま押さえつけた。体の上には啓三が乗っているから身動きが取れない。

  「なっ!」

  「悶え狂わしたる」

  そのまま、俺の乳首に舌を這わす。生温かく濡れたものが乳首に覆い被さる感触に、俺は思わず声を上げる。

  「わっ……」

  俺はタチしかやらないから、こんな風に攻めることはあっても攻められることはないのだ。生温かい舌は俺の胸を優しく舐めていると思うと、今度は棒のように固くなってぐりぐりと押し付けられる。初めての刺激に乳首が大きくなると、今度は甘噛みをされ、鋭い痛みと気持ちよさが体を走った。

  「感じやすい体してるやないか」

  啓三は嬉しそうな顔を見せると、開いている左手を俺の体に這わす。芋虫みたいにぶっとい指はひんやりしていて、紙やすりのようにざらざらしている。そんな指先がすぅ、とわき腹を撫でていくと、俺の体はびくり、と震える。冷たい指先は止まらない。蛇のように俺の体を這い回った。触れるか触れないかのソフトタッチで、啓三の言った通り俺は悶え狂いそうになる。

  「け、啓三さん……交代してくれ。今度は俺が……やってやる」

  俺は何とか、口から言葉を吐き出す。今まで味わったことのない感覚に、俺は怖くなったのだ。

  「何言うてんねん。気持ちよさに身悶えしてる癖に」

  「でも、俺……タチだし」

  「ええねんええねん。たまにはウケもええもんやで」

  啓三は聞こうともしない。それどころか、勢いづいたように激しく俺を刺激する。乳首から胸元へと舌の這う範囲は広がっていき、硬い指先は俺の体中を縦横無尽に嬲りつづけた。俺のチンポはまだ触られてもいないのに、ビンビンに勃起して、先走りで腰のタオルに染みを作っている。

  胸元はぬらぬらと濡れ、体は興奮で赤く染まった頃、ようやく啓三は体を起こした。俺は感じすぎて脱力している。

  呆然としている俺の顔を「もうええやろ」と一瞥すると、啓三は自分の指先を口にくわえ、べっとりと唾液を塗りつけた。そしてそれを俺のケツに持っていく。ざらつく芋虫が固く強張ったケツに潜り込もうとする。

  「だ、めだ。ケツは、入れられたこと……ない、から」

  俺が途切れ途切れになりながら拒絶しても、啓三は相手にしない。

  「心配せんでもちゃんと感じさせたるさかい。嫌よ嫌よも好きのうち、ちゅう奴や」

  ぐりぐりとケツを押し広げるように啓三の人指し指が入っていく。

  「うぐ、うぐぐぐぐ」

  俺は痛みで顔をしかめた。それを見て啓三は俺のタオルを剥ぎ取る。

  「ほう、ええチンポしてるやないか。胴回りも太いし、雁もでかいし。うまそうや」

  ケツに指を突き刺した状態で、啓三は先走りにまみれた俺のチンポを一息に咥え込んだ。

  「ふぉぉぉぉぉぅっ!」

  柔らかい舌と口の内壁が、ねっとりと俺の肉棒にまとわりつく。亀頭が、喉の奥に当たる。じゅぽじゅぽ、と啓三の頭が上下する。

  ……き、気持ちいいっ!

  「だんだん、ゆるぅなっとるで」

  チンポに気を取られたせいか、ケツの痛みが薄れてきた。力が抜けてきたのか。

  くちゅ、くちゅ。

  「うぅぅ」

  濡れた音を立てているのが自分のケツだと気づいて、俺の顔が紅潮する。

  「どうや、根元まで入ってるで。だいぶこなれてきてるわ。今度は指二本にしよか」

  相手にやってる時は気にならないのに、自分がケツの様子を逐一報告されると、やたらに恥ずかしい。

  「……っ!」

  ケツに感じる異物感が倍増する。二本の指が蠢きながら、俺のケツ襞を探っていく。

  「ああっ!」

  俺は思わず叫び声を上げる。突っ込まれた指が前立腺を刺激したのだ。呑み込まれた肉棒と、ケツの刺激とで、頭がおかしくなっちまう。

  「初めてにしちゃあ、ええ反応しよる」

  そう言いながら啓三は、自分の腰に巻いたタオルを取り去った。そこにはすでにいきり勃った、どす黒い逸物がある。

  ……。

  一瞬、体を襲う快感も忘れて、俺は啓三の肉棒を見つめた。使い込まれたであろうくすんだ色の亀頭は、子供の握りこぶしほどもある。支える竿だって不足ないほどに太いのだ。片手で掴んだって指が回らない。25センチはあるような逸物を、まさか俺のケツに突き立てるつもりか。

  俺の頭に浮かんだ疑問に、啓三は答える。

  「今からケツを犯したるさかい、よう湿らせとけや」

  仰向けに寝ている俺の頭を両手で抱え上げると、俺の口に逸物をぶち込んだ。

  「んがぁっ、んがぁっ」

  口一杯に広げて、ようやく収まるサイズの肉棒。それで喉の奥を突かれ、俺は息が出来ない。

  「ちゃんと、舌を絡めて……そうや、ええぞ。……歯を立てたらあかんからな……ああ、いい……」

  気持ちよさげに目をつぶった啓三は、苦しさで涙をにじませる俺にはおかまいなしに、ぬちゃぬちゃと腰を抜き差しする。顎の下で、啓三の金玉が揺れる。だらっと垂れ下がっている金玉は、瀬戸物の狸を思わせる大きさだ。

  体もチンポも規格外にでかいせいか、吐き出す先走りの量も多い。まるで洪水のようだ。激しい腰の動きでよだれと一緒に混ぜ合わされて、だらだらと口からあふれでる。こぼれた先走りが、糸を引いて俺の胸を濡らす。

  「こんぐらい湿らせとったら、大丈夫やろう」

  じゅぽっ、と鳴らしながら引き抜かれる啓三の逸物。

  「はあ、はあ」

  苦しさから解放されて、俺は肩で息をする。

  「お楽しみはこれからやで」

  啓三が、俺の両足を掴み上げる。

  「ほな、いくで。力抜きや」

  ニヤニヤと笑っていた啓三の顔が、その時だけマジになる。

  ……あ、ああぁ。

  めりめりと音を立てるようにして、啓三の逸物が埋没していく。歯を食いしばりながら、俺は痛みに耐える。ケツが裂けそうだ。それでも、少しずつでも押し入れられていくのは、俺のケツが広げられたせいか。

  「んぐぐ……」

  「そうや、その調子やで」

  じわじわと時間をかけながら、啓三は俺の中に入っていく。痛みと圧迫感を恐ろしいほど感じる。まるで串刺しにされたようだ。身動き取れない。

  ……まさか、タチの俺がケツを犯されるなんて。

  どくどく、と脈打つような鈍い痛いと共に、ケツの奥がじんわりと熱くなるのがわかる。

  「な、なんだこれ……」

  「おう、気持ちええのぉ。隆二、お前のケツ襞、最高や」

  堪えきれなくなったのか、啓三は今までゆっくりと動かしていた逸物を急に、ぐい、と突っ込んできた。

  「うぐっ!」

  ケツを強くこすられ、鈍痛が鋭い痛みに変わる。それでも、ケツの奥にある疼きを伴う熱さは徐々に大きくなっていく。

  「おお、おお、堪らん」

  うめきながら腰を叩きつける啓三。ずんずん、と体を揺らされるほどの衝撃にワンテンポ遅れて、でかい金玉がぴちゃぴちゃと俺のケツを叩く。

  繰り返される衝撃に痛みが麻痺したのか、苦痛を感じなくなる。そして、ケツの奥に感じる熱がどんどん大きくなり、体中に広がっていった。その熱さが快感だと気づいた瞬間、俺の自制心が爆発した。

  「うぁっ、うぁっ、うぁっ、うぁっ!」

  周りで見てる奴もいるかもしれないのに押さえることも出来ず、ところかまわず大声でわめき散らす。

  ……き、気持ちいい。どうしていいのかわからない。

  俺が自分から両足を啓三の体にしがみつかせたのを見ると、啓三は足から手を離し、片手で俺の体を愛撫しながらもう一方の手で、俺のチンポをこねくり回す。快感の三乗だ。

  「うぁっ、イ、イカせてくれ、……頼む、啓三、イカせてくれぇっ!」

  俺は頭の中が真っ白になる。もう、何を言っているのか分からない。

  「よっしゃ、わしも……もう、あかん。……イキそうや。一緒に……イクぞ」

  我慢できないというように、啓三は腰の動きを早めた。ぐちゅぐちゅと、淫らな音が暗い部屋中に広がる。

  「ええか、イクぞぉ、イクぞぉ……うう、イクぅぅぅっ!」

  「俺も……イクっ!」

  俺のケツに熱いものが広がるのを感じた途端、俺のチンポから雄汁が噴き出したのを感じた。びく、びく、と肉棒が大きくしゃくりあげながら、何度も何度も白い銃弾を撃ち続ける。

  肉棒が痛いほどの量のザーメンを撃ち出すと、どさり、と大きな体が、俺の上にのしかかって来る。その重みが心地よい。

  「隆二……」

  俺の吐き出した白濁液で胸が汚れることも気にせず、啓三は俺を抱きしめる。俺も力を込めて啓三に抱きつくと口を重ね、舌を絡ませた。

  気が付けば時刻は一〇時を過ぎていた。もう四時間近く啓三とさかっていたことになる。

  「明日も仕事あるから、俺帰るよ」

  力の入らない足で、俺はふらふらと立ち上がる。

  「そんなんで、大丈夫かいな」

  呆れ顔の啓三が俺を支え、シャワーまで連れて行く。

  シャワーを浴びて服を着ると、少しすっきりした。

  「なあ、隆二」

  「なんだ、啓三さん」

  律儀に俺を見守っていた啓三が俺に話し掛ける。

  「なんや、呼び捨てでかまへんで。さっきイった時みたいに」

  その言葉で、俺の顔は赤くなる。

  「今日は楽しかったな」

  「ああ、こんなに感じたの、生まれて初めてだ」

  こんなに疲れたのも、生まれて初めてだが。

  「わしもや」

  啓三は笑う。

  「こんなに気持ちええケツマンは初めてやったからな。今日はすぐイってもうたけど、次はもうちょっと持続させたるで」

  照れたように言うと、啓三は俺にくしゃり、と紙を握らせる。見るとそこには携帯の番号が。

  「わし、隆二のことが気に入ったわ。また連絡してくれ」

  「いや、でも……俺付き合ってる奴いるし」

  俺が決まり悪げに言うと、啓三は笑う。

  「気が向いたらでええんや。連絡、待ってるで」

  「……」

  「じゃあ、気ぃつけて帰りや」

  無言のまま見つめる俺に軽く手を上げると、啓三はその場から立ち去った。

  

  家に帰り着いた俺は、飯も食わずにベッドに倒れこむ。

  もう、何をする元気もない。疲れてうとうとする俺の耳元に携帯の着信が聞こえた。

  ……謙太だ。

  着信音で謙太からだと分かっていながら、電話に出るだけの気力がない。それは疲れだけじゃなく、謙太に対する罪悪感もあるのだろうか。そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちていく。

  4

  ハッテン場から帰って、一週間経った。啓三に渡された携帯番号には連絡をしていない。一度遊ぶくらいならともかく、俺には謙太がいるから付き合うわけにはいかない。だというのに、俺の頭の中から啓三のことが離れない。

  それは、謙太と二人で過ごしているときも同じだった。俺はいつものように振舞っているつもりなのだが、どうも謙太から見ると、そうではないらしい。

  「隆二。お前、最近変だな。なんか、いつも上の空っていうか」

  「そ、そんなことねぇよ」

  俺は慌てて首を振り、頭の中に描いていた啓三の顔を掻き消した。

  ……確かに、あの厳つい顔と体は俺好みだけど、そんなこと考えては駄目だ!

  俺はやましさをごまかすように、謙太にキスを迫る。謙太はそれを目を閉じて、受け入れる。

  ……啓三はこんなんじゃなかった。

  俺より少し高いだけの背丈も、大学時代から比べて少し緩んだ筋肉も、柔和な顔も、俺の動きに受身な態度も、どうしても、啓三と比べてしまう。

  ……くそっ!

  俺は急に荒々しく謙太の口の中をかき回す。不審に思ったのか、謙太が目を開ける。

  「どうした?」

  「あのさ……」

  あの感触を取り戻したら、啓三を忘れられるかもしれない。俺は、顔が熱くなるのを感じながら、小声で言う。

  「今日は……立場変わらないか」

  「え?」

  怪訝そうな顔の謙太。

  「だ、だからさ。たまには、その……ウケとタチを逆にしてみないかな、なんて……」

  消え入りそうな声で言う俺に、謙太は申し訳なさそうな顔で答える。

  「ううん……俺がタチをやるのは、ちょっと無理じゃないかな」

  「そ、そうだよな。いや、いいんだ、別に。ただ、ちょっとそんなことを考えてみたりしただけなんだからさ。気にしないでくれよ、いや、全然」

  俺は焦って手を振る。

  「それより、いつものようにやろうぜ。俺がタチで、謙太がウケでさ」

  「そうだな」

  俺たちは服を脱ぎ、抱き合う。

  

  それから二時間。謙太が帰った後、俺は啓三に電話をしていた。

  5

  仕事終わりのせいか、汗の匂いをさせながら啓三は顔を見せた。

  「すまんな、こんな格好で」

  頭を掻きながら言い訳をする啓三。だぶだぶの作業着には泥やペンキがこびりついている。

  「待たせてしもうたかな」

  「そうでもないけど」

  俺と啓三が待ち合わせたのは、近所にある工事現場だった。今の啓三の仕事場らしい。

  「社長、お疲れ様っス」

  現場から立ち去る若者が、啓三に声を掛けていく。

  「お疲れさん。明日も頼むで」

  「社長?」

  啓三が?

  「ああ、しがない土建屋やけどな。まあ、一応肩書きは社長や」

  「……ヒラの作業員だと思ってた」

  きついこと言うやっちゃな、と啓三は苦笑いする。

  「こんな体してるからか。まあ、小さい会社やさかい社長も現場で働かなあかんねん。ところで、今日は普段着やけど、会社は休みか」

  「ああ」

  俺は頷く。

  「そうかいな。それやったらええんか? 付き合ってる奴がいてんねやろ。そいつを差し置いて」

  「いや、謙太とはさっきまで会ってたから」

  「男のハシゴか。元気ええのぉ。そんならわしが、その元気をみな搾り取ったるわ」

  俺の股間を軽く叩くと、啓三はかっかっかっ、と大声で笑った。

  わしの家に来るか、の言葉に誘われて、俺は啓三の家にお邪魔した。4LDKのマンションは広いが、家財道具が少なく、寂しい感じがする。

  「啓三、結婚は?」

  「しとったら隆二を家に呼んだりするかい。やもめや、やもめ」

  「一人でこの広さか。なんかもったいないな? 使ってない部屋もありそうだし」

  「それやったら、わしの嫁はんになってここで暮らすか。ちゃんと養ったるで。毎日かわいがったるし」

  そんな事言われても、返答に困る。

  「養子でもええで。もれなく未来の社長の椅子付きや」

  冗談めかした口調で、冷蔵庫を開ける啓三。

  「ビールでええか」

  「いや、そんなことより……」

  言葉を濁す俺の顔を見て、啓三はにかっと笑う。

  「なんや、せっかちな男やな。大方、相方とやったばかりでまだ体は火照っとるんやろ。分かった分かった」

  啓三は俺のほうへ近付いてくると、ぽんぽん、と頭を叩いた。

  「風呂入ってへんさかい、汗臭いけどかまへんか。ああ、それよりも一緒に風呂入ろか」

  「別に、俺は汗臭くても……」

  「いや、一緒に風呂入ろ。風呂場で気持ちよくさせたら、一石二鳥やさかいな」

  啓三は俺を引きずるように、風呂場に向かった。

  風呂場の浴槽は、俺たち二人が余裕で入れるほどに大きかった。

  「こうやって二人で入るのもなかなかええもんやな」

  湯に浸かった啓三は、俺のケツに手をやる。一週間前あんなに拒絶していた啓三の指を、するりと呑み込んだ。

  「なんや。こないだと違って、えらくこなれてるやないか。ひょっとして、自分でいじくっとったんかいな」

  「ば、ばか言うなよ」

  ……図星だ。

  慌てて答えた俺の様子で、ばればれなのだろう。

  「そうか。ほな、期待に応えんとな」

  啓三は嬉しそうに湯船の中で俺を持ち上げると、後ろから抱く格好で、ケツを犯していく。どす黒い逸物が、力任せにめり込んでいく。

  「ん、んぐぅぅぅ」

  前回よりスムーズに入ったが、やはりまだ痛みはある。そのことを啓三に言うと、当たり前やと笑われた。

  「そない簡単に、がばがばになられてたまるかいな」

  水中のせいで俺の体が軽いのか、啓三は自分の腰を動かさずに俺の体を上下に揺らす。正常位でやるよりも、深く貫かれた。ばしゃ、ばしゃと風呂の湯が波打つ。

  「くぅぅぅぅっ」

  ケツを犯される快感と痛み、そして快感と自分が玩具にされたような恥ずかしさで、俺は身をよじる。

  「ええ顔しとるやないか」

  啓三は後ろから俺の頭を抱え込み、強引に横に向けると、奪うように唇を塞いだ。

  「ん、んんん……」

  俺はされるがままに身を任せる。

  「気持ちええなあ。……くそ、辛抱たまらん。こんなまどろっこしいことやってられへんわ」

  啓三は俺を抱えたまま、勢いよく湯船から立ち上がった。

  「ほら、壁に手を突くんや」

  俺は言われた通り、浴室のタイルに手を突いて足に力を入れる。

  「これで気分よう、隆二のケツを掘れるわ。ここは二人だけやさかい、気兼ねせんと大声でよがってええで」

  巨躯をぶつけるようにして、啓三は腰を打ち付けてくる。ばしっ、ばしっと体が浮くほどのケツへの衝撃で、俺は倒れそうになる。

  「ほれ、もっと力をいれて踏ん張らんかい」

  啓三は言葉とは裏腹に、俺の乳首を刺激して体の力を奪おうとする。

  「あっ、あっ、あっ!」

  今まで経験したことのない激しい攻めで、チンポを触られもしないというのに、俺の絶頂はすぐやってきた。

  「あっ、ああっ、啓三、……もう、イキそう、だ。……イっても、いいか……」

  「おお、イケ。イっちまえ。思いっきりぶっぱなすんや!」

  「くぅぅぅっ、け、けぃぞぉぉぉぉっ!」

  びちゃっ、びちゃっ!

  弾け飛んだ俺の雄汁は、風呂場の壁に真っ白い模様を描く。

  「う、うぅぅぅぅぅ……」

  気絶するのではないかと思えるほどの脱力感を感じ、俺は啓三に寄りかかる。

  「おおっ、と。もうイったんかい。どうや、気持ちよかったか」

  俺をしっかりと抱きかかえ、啓三は湯船に沈む。ケツの中の逸物は、未だ元気よく脈打っている。

  「うん」

  快楽の余韻に浸り、俺は頷く。

  「そうか、そらよかった」

  啓三は、俺の体を痛いほど抱きしめる。

  「しっかし、ええんかいな」

  「何が?」

  「こうやって浮気しとるのが分かったら、隆二の相方、怒るんちゃうか」

  こんな時にそんなことを言うなよ。

  「うん、まあ……」

  俺は言葉を濁す。

  「そういえば、隆二の恋人の名前、謙太やったよな」

  「ああ、そうだけど。それが、どうかした」

  「いや。……そんなことより、これで終わりやないやろうな。わしはまだ満足してないで」

  啓三は、俺のケツの中で、いまだふてぶてしくエレクトしたままのチンポをずんずんと動かし始める。俺は再燃する快感に喘ぎ声を上げていく……

  6

  あれから、啓三とは三度会った。会うたびに増していく底の知れない快感と、男臭さに魅了され、謙太に悪いと思いながらも俺の足は啓三の部屋に向かってしまう。啓三もそれを拒むどころか、喜んで迎えてくれる。俺は謙太に対して心苦しく思いながらも、この生活を続けることしか出来なかった。

  しかし、当たり前だが、いつまでもそんな日々は続かなかった。

  いつものように啓三のマンションで、俺たち二人はさかっていた。ベッドの上で俺は押さえつけられ、体中を愛撫されながらケツを掘られる。快感をむさぼるのに夢中になっていた俺は、マンションの扉が開いたのも、それ開けた人間が息を呑んだのにも、気が付かなかった。

  「隆二!」

  俺は耳を疑った。ぼんやりとした頭の中に突然飛び込んできたのは、聞き覚えのある、謙太の声だったから。

  ……どうしてここへ。

  こいつはこの場所を、いや啓三のことを知らないはずだ。

  「わしが教えたんや」

  腰の動きを止めないまま、啓三は言う。

  「前に、相方の名前を聞いてたからな。悪いけど、隆二の携帯勝手に見て電話かけたんや。この時間に来てくれるようにってな。いつまでも二股かけてるわけにもいかんやろ」

  ……そんな。啓三は付き合ってる奴がいることを納得しながら、俺と遊んでいるんじゃなかったのか。

  「隆二、なんとか言えよ!」

  ……違うんだ。

  俺は謙太に分かってもらおうと、口を開く。しかし、口から飛び出たのは謝罪でも弁解でもなく、今まで堪えていた喘ぎ声だった。

  「あっ、あっ、あっ、あっ!」

  そんな俺の姿に、謙太は傷付いた顔をする。

  「俺を裏切るのかよ」

  切実な謙太の声。だが、俺は返事が出来ない。啓三の小刻みな腰の動きに翻弄され、うわ言のように気持ちいいと呟くだけ。それを見て、謙太の顔が嫌悪感に染まる。

  「どうやら、わしの方がええみたいやな」

  ……啓三、何を言うんだ。

  「そうか、分かったよ。お前の顔なんて、もう二度と見たくねぇ!」

  謙太は荒々しくドアを閉め、去っていった。

  「け、謙太……」

  俺は快感を振り払い、なんとか体を起こす。じゅるり、とケツから肉棒が抜ける感触に、う、と声が漏れそうになる。

  「ま、待ってくれ……」

  我ながら弱々しい声は、謙太の耳には届かなかった。ただむなしく、部屋の中に響いただけ。

  「ああ……」

  脱力感でベッドに倒れ伏す俺。それを押さえつけて、啓三は笑った。今まで見たことのないほど、いやらしい笑みだ。

  「さあ、邪魔者はいなくなったから、楽しもうやないか」

  そう言うと、もう一度俺のケツにいきり勃った逸物を押し付けた。緩みきったケツは、たやすく肉棒を咥え込んでしまう。

  「な、なんでこんなことを……」

  わざわざ謙太に伝えるなんて。

  「こないしたら隆二と別れてくれると思うたんや。しかし、もうちょっと抵抗すると思ってんけど、よがる隆二の顔に我慢できんかったみたいやな。これやからガキはあかんのや。変に潔癖すぎる」

  「……」

  俺は何も言うことが出来ない。

  「汚い大人のやり口やと思うか。わしはなあ、どんなやり方したかて気に入ったもんは自分だけのもんにせんと気が済まんのや。あの兄ちゃんには悪いけど、わしはお前が好きや、隆二。ほんまに好きなんや」

  そう言いながら啓三は再び腰を動かしだす。

  啓三のやり方は間違っているが、俺をこんなにも好いていてくれている。そして、それが嬉しい自分が存在するのも確かだ。

  「どうすればいいんだ……」

  後悔が頭をよぎるが、気持ちよさにとろけてしまった俺にはどうすることもできない。大体、すでに謙太は去ってしまった。もう、やり直すことは出来ないだろう。ならば、俺には啓三しかいないではないか。

  「何も考えんと、身を任せたらええねん。わしなしじゃ生きていかれへんぐらいかわいがってるさかい。みな、忘れさせたる。ほれ、どうや。ほら、気持ちええやろ。たまらんやろ」

  啓三の言葉と肉棒は、俺の心と体に、杭のように打ち付けられた。