少しヒビの入った表面を指でとん、と触ると、今の時間が十時二十六分であることを教えてくれた。スマートフォンをポケットに仕舞い、光を溜め込んだカーテンを開け放つと、サファイア、ネイビーのペンキを気分の比率で混ぜ合わせ、一枚板に殴りつけるように塗り込んだのに、しかし不思議と爽やかな色合いが視界いっぱいに広がる。
地上で一番大きなその水溜まりには、時折白の点が目線の中で行ったり来たりを繰り返しており、海上には相応しくないであろう、気まぐれな小動物の主が、気まぐれな小動物を思わせるウミネコだと気づいたのは数秒後のことだった。
空に対して雲が八対二くらいの割合であることから、天気は快晴までとは行かないけれども、晴れの中では最高のポテンシャル、といったところか。海の表情は凪といったところで、船を出せば心地よく釣りを楽しむことができるであろうと想像がついた。景色を十から十五度持ち上げると、空と海とを区切る境界が今日も優雅な直線美を見せてくれている。瞳を閉じて腹式呼吸をすれば、大海から揮発した潮の香が鼻腔をくすぐる。親の顔を見るよりも堪能した匂いだ。
景色が暗闇のまましばらくそうしていると、カップラーメンが出来上がるほどの時間が経っただろうか。日光をダイレクトに浴びていたせいか、体温の上昇により額に雫を噴いてきたことに気づく。
先程右ポケットに突っ込んだスマートフォンを取り出し、とん、と触ると、今の時間が十時三十一分であることを教えてくれた。今日はずっと晴れの予報で、陽が沈んだ後は綺麗な星空が、そして真ん丸綺麗な満月が見えるらしい。
流石に『山々を切り開き田園が延々と広がるような』とまでは行かずとも、田舎とド田舎の中間あたりに座する。という表現が正しそうなくらいには小さい。この町と市街地とで比較をしてしまえば、何をするにも不便と酷評せざるを得ない。勝る部分を探すほうが一筋縄ではいかないだろう。
下校ついでにコンビニでお菓子を買い食いする、といったエピソードは漫画かテレビでしか見たことがない。
というのも年中無休営業と名を打つ建物自体が存在しなかったことから、平時より金銭もとい財布を持ち歩く習慣を義務教育を終えるまで持ち合わせていなかった。確かにいつも帰宅してすぐに、居間にあるお茶請けの菓子をいくつか失敬するのがルーチンワークであったために夕飯までの空腹に耐える、ということが出来たわけで。
使い所がないキラキラした金属の集まりなんかに、若者のクオリティオブライフを僅かにでも上げることは不可能であっただろう。自販機などというものもちろんない。
事実、日々の生活は自家用車を所持しておらねば成り立たない。
バスならば、町内バスに乗り込んでから市内バスへ乗り継ぎをし、さらにそこから終点まで行けば駅だ。歩けば十分圏内のところに全国展開を見せるショッピングモールがある。これだけで片道八百円と、バス停での待ち時間が奇跡的にゼロだったとしても一時間半弱を浪費したことになるプランだ。ちなみに一本逃せば救いの手が現れるのは一時間後となる。もしこれだけの距離を歩いていくとなると、山を二つだか三つだかを超える羽目になり、片道四時間で着けばいいほうだねと笑われてしまう。何事も上には上がいるの対義的な慣用句として下には下がいるという表現があるが、『その中でも下から数えた方が早そうだなぁ』と自負している。そう思った後に、『携帯の電波が通ってるだけ進んでいるのかも』とやや顔を引きつらせて笑ってしまう。
舞台はこの窓枠から見える景色と全く同じ、海沿いにある小さな町だ。
両親が転勤族だったという関係で、厳密に言えば生まれ故郷ではないものの、育った場所であることに変わりはなく、
感覚として『ふるさと』という認識にさして特別感を感じたことはなかった。
むしろ、出身に関してだけいえば遠く離れた別のところというだけで、特に大きな理由はなくとも物珍しさからか、優越を得たような錯覚を感じたことはあった。
田舎比べの話題といえば、
やれ「バスが毎時間に一本しか来ない」だの
やれ「コンビニは存在しない」だの
やれ「街灯がないので夜になると真っ暗」だの……。
そんな、語り出すと悪態しか出てこない町で俺は学生時代を過ごした。
…ぶれたので時間軸を戻して話を進めることとする。
今からする話は、この窓から見える景色はそのままに、ざっと二十年ほど前の話。まだ青臭かった俺と、それから家族として、そして男として愛していた祖父の話だ。きっとあの日も、今日とほぼ同じ天気であっただろう。
「ただいまー!」
返事はない。
玄関の網戸を勢い良く、しかし力任せに壊してしまわないよう注意を払いながらこじ開けると同時に、犬を飼っていようものなら即座に踵を返して逃げてしまうぐらいの声量を腹から穿つ。靴を脱いではフローリングのエリアに足を進め、間髪入れず廊下の端っこへカバンを放り投げる。晴れの日から風雨を浴びる天気の登下校でも泣き言ひとつ言わず、理不尽に不要な教材を過多に押し込められる日々、いわば苦楽を共に……道連れにしている相棒などのことを考える間すらない。
木造の床に踵を幾度となくドタドタと叩きつけては、常日頃から家族より言いつけられているルールのひとつである手洗いうがいを済ませる。常備してある安物の、おそらく百円均一で購入したのであろうプラスチック製で緑のパステルカラーに身を纏ったコップは自分専用のものとして、八割がうがい、残る二割が水分補給と、その役割に日々文句ひとつ言う事なく何年もの間こなし続けていた。
・挨拶は自分からする。
・玄関の戸を開けっ放しにしない。
・脱いだ靴は向きを揃える。
・必ず手洗いうがいをする。
これが何年も前から言われ続け、すっかり身についた我が家の習慣の一部だ。遵守せねば身長の遥か上から何者かの拳骨が飛んでくる。当たり前の事で大事なことだと教わったが、ルールの理由を理解する知性と察しの良さは幼心に持ち合わせておらず、ただ単に叱られるのが嫌だからという理由があったが故に習慣化するのはそう苦ではなかった。
ルーチンといえるほど習慣的に視界が居間へ、そしてテレビ台とその付近に鎮座する据え置きの家庭用ゲーム機へと切り替わる。ゲーム中毒というほどではないと思っているが、退屈な授業中は特にその欲求が顕著で、登校のときはそうでなくとも、逆に下校となれば自然に足早に、息が荒くなるのも後から気づくほどに思考のリソースを奪われてしまっている。わくわくとした気持ちを抑えきれぬままカーペットに腰を落ち着けるも、ゲームを始める前に何か飲んで一息つこうと立ち上がろうとした頃。
奥にある和室から畳を一歩また一歩と、当人の自重もあってか少年よりも大きくて力強くありながら、確実にこちらへ狙いを定めて向かってくる足音と、衣擦れの音が聞こえていた。少年の二倍以上はあるであろう体躯、それは身長としてだけの意味だけではなく、大人としての存在が近づいていることを意味している。玄関、廊下、居間よりもさらにある部屋は祖父の持ち物だ。ということから、家族で自分以外を省くと唯一、X染色体とY染色体を併せ持つ性別の存在、祖父の可能性が濃厚となる。
「おう、帰ったか、暑いのう」
テーブルのトレイにある個包装の菓子の中から、御眼鏡に叶うものがあるかガサガサと物色しようとし始めた頃、バリトンボイスの更に下、意識的に聞かねば発言の意味合いを聞き漏らしてしまうバストーンのボイスが耳の奥へ駆け抜ける。虎獣人である祖父の声質は重く、骨身に染みるほどに硬い。本人は無自覚なのかもしれないが、少しでも声のボリュームを上げるだけで空気がビリビリと振動するような威圧感を覚えるほどである。どしん、どしんと体重を地面に押し付けながら、畳に裸足の踵が擦れ合うことで起きる独特な音を響かせながら。
「んー、ただいま爺ちゃん」
春と夏の変わり目に位置する今の時期、世間的にはそろそろ半袖が一般的であろうこの季節にも関わらず、肉体に熱が篭って堪らないのであろう獣の身体を宿す彼の姿は、人間と比べると真夏といって差し支えないのだろう。半袖だとかタンクトップだとかそういった煩わしい衣類を抜きとして、祖父の姿は頭に白タオルを巻き、それ以外にはやや色の落ちた赤い褌のみとした出で立ちだった。町で漁師として日々格闘する祖父の鍛え上げられた肉体は、還暦を迎えても尚衰えを知らず、腹にやや脂肪を蓄えておりながらも、それを欠点と見なせないほどに見事な体つきであるという評価は揺るがない。両の腕はどっしりとしていて肉というよりも鉄か何かの無機質な物で加工されているのかというぐらいに硬く、自分が二人いたとして片方ずつにしがみついたところで重心をずらすことなく直立し続けることができ、あわよくばその状態のまま、ガハハと笑いながらダンベル代わりに腕を上下させることもやぶさかでないだろう。
「何しちょったん?」
「おぉ、明日の仕込みを拵えちょった」
額にやや水滴を蓄えていた出で立ちを見ると、暑いと言っていたのは偽りではないのだろう。仕込みと言った言葉の意味合いが船釣りをする男として当然の作業をしていたであろうに想像は難くない。
幼少の頃に身長を聞いたときに二メートルだと言ってのける祖父の言葉を信じて疑っていなかったということもあり、こんなに立派な体格をしているにも関わらず、魚を捕らえる仕掛けを手仕込みで作ったり、使い込んでボロボロになっていく網の目を修繕したりと、まさに豪快な力仕事から綿密な作業までこなす様は十年単位でキャリアを重ねる歴戦のプロフェッショナルと言えよう。
布切れしか身に纏っていない虎獣人は、物心ついた時からすっかり見慣れた姿とは言えども酷く魅力的であることに変わりはなく、思春期を迎えた此方にとっては思わず生唾を飲み込み、そして肉体を凝視してしまうほどには猛毒と言わざるを得ない、そんな爆発的な火力を秘めていた。肉付きの良い大胸筋はムチムチと豊満で、指先で突っ付くと肉々しい弾力が返ってくるであろうことが想像でき、腕と同じように対照的に片側に一つ、もう逆側に一つと実った乳首には先端が丸まった果物のように房が成っている。手のひらで丸め込んだらどんな感触がするのだろうかと想像を膨らませてくれる。
極めつけに前袋に位置する雄の象徴は、赤の布地で隠されていることを加味しても、いやむしろ隠されているからこそ扇情的で、大人の男とはこういうものなんだろうと、教えられずとも見たままの知識として頭に常識として刷り込まれていく分には十分過ぎた。成人になれば特に何をしていなくとも自然と祖父のような立派な男らしい体格と風貌を纏えるようになるのだろうと思うには、この家庭に別の雄がいなかったことが原因なのが間違いない。肉体美から敢えて目を逸らしていても、年老いて色味の褪せた毛皮の色味が視界に入ってしまうだけで、数メートル内の同じ空間に壮年の裸が存在していることを脳が明瞭に示唆し、心臓の鼓動を早める本能的な動作はごく正常に行われていた。
家族なのだから服くらい着ろと言うことは簡単なのだろうけれども、目の前にある大型プレートの七面鳥の丸焼きをかぶりつきもせず、なぜラップで包んでしまうような愚かなことをするのか、その必要は微塵もないのである。というまさに今考えたであろう適当な理由付けから、こちらから祖父の服装に対して咎めるということは今までも、そしてこれからも未来永劫訪れないだろう。そんな祖父の肉体を目に穴が開くほど焼き付けろと嘯く悪魔と、さっさと先日買ってもらったゲームを堪能すべきと囀る悪魔が、脳内で聞くに堪えない言い争いを繰り広げて早十秒と少し。
「冷蔵庫に桃があぁけど、喰うか」 「食べる!」
祖父が可愛がりの為であろうか、おやつの誘いに対し食い気味に返事をする。
過ぎたことではあるが、我が家のルールである手洗いうがいを居間に進入するより先に終わらせていなければ、この会話自体が発生しない。
何事もなかったかのように、先にトレイから右手に失敬していた個包装のビスケットを戻す。その様子を見ながら返事を聞き取った祖父は目を細めて頷くと、のしのしと一歩ずつ地を踏みしめて台所に向かおうとする。その隙間に面積が一畳半ぐらいある机を一瞥するも、特に毎日代わり映えするでもなく、目新しく興味が唆られるものもなく。新聞紙と木製のトレイが二つ。片方には載せられた柑橘類がいくつか。あとは祖父に声掛けをされるまでに物色していた個包装のお菓子があったもの。
横を通り過ぎていった姿が視界から完全に消えたのを待つと、つい先程まで囁いていた悪魔との契約を果たそうと身体が動き出す。
隙有りと振り返って投擲ナイフのように鋭い視線を祖父の背面へと送ったのち、格式高い美術品を拝見するが如く粘着質にべたべたと塗りたくる。雄らしい汗の成分と年相応に熟した加齢からなる、フェロモンが混ざり合った香りが鼻に送り込まれた。加齢臭は好ましくない、という話は聞いたことがあるものの、祖父から香る匂いが加齢臭であるか否かということに疑問を持ったことがない。そもそも祖父のが好きだからという前提があるために、それが加齢臭であるかなどということはどうでもよいことであったからだった。残り香といえど、とても心地がよく思わず破顔してしまい、さぞかし自分は助平な表情をしているだろうと自分で恥ずかしくなってしまった。気分が高揚する不思議な感覚を噛み締める、願わくば残り香ではなく直にその匂いを味わってみたいと感じるのも自然な欲望と言えよう。
彼の性的魅力は嗅覚以外にも視覚で楽しませてくれることを忘れてはならない。先程の正面とは異なり、背面から見た姿でまず注目を集めるのは、およそ肩のあたり、三角筋に位置する場所でふんぞり帰っているタトゥーの存在だった。控えめな口紅のように薄いピンクで仕立てられたのであろう何らかの花模様の周りには獣人特有の体毛が生えておらず、そのオリジナリティ(最も祖父以外にタトゥーを身に纏った者を見たことがないが)から一目でその身体の持ち主が祖父であるということが分かるくらいに、存在感を醸し出している。以前、それはなんのタトゥーなのか。何故タトゥーをしているのかを直接問うてみたことがあったものの、どこか答えづらいような沈黙を幾分か噛ませたあと、適当にあしらわれてしまった記憶がある。あまり良い思い出ではないのだろうと、溢れる疑問への好奇心よりも空気を読むことを優先したのか、はたまた別の好奇心に遮られてしまったのか、家族に牽制され強制的に話を終えられてしまったか、定かではないがどことなく聞き出しづらくなっていた。祖父の妻である祖母に同様に質問してみても、答えは不明瞭なままで要領を得ず、ある種祖父の中にあるひとつの謎のようなものだった。
漁師といえば釣り上げたり引っ張りあげたりするだけなのだから、逞しいのは腕だけであろうとタカを括っていたもののやはりそういうわけではなく、波風立つ不安定な漁船の上で踏ん張りを効かせねばならぬことから、そのぶん腿や脚が隆々とするのは考えてみれば自然なことと言える。年老いても重心を前にして歩く、所謂猫背の姿勢になっているなどということは一切無く、むしろ逆に若者よりもピンと背筋を張っているのではないかと比べたくなるくらいに、そのシルエットは美しかった。広背筋から腰回りにおいて後ろから抱きつきたくなるような、いわゆる誘い型の抱擁力は非常に強く、揉み心地の良さそうな臀部と、その合間に漢らしさを一層際立たせる赤い紐が一直線に、そして一切の緩みを許すことなくきつく締め込まれている。極めつけはおまけと言わんばかりに、獣人特有の尻尾が垂れ下がっているわけではなく、「し」の字のようにどこか先端部分でご機嫌さを窺わせていたことだった。男らしいのに何処となく愛らしいさを仄めかす存在は、祖父が若かりし頃であっても男女問わずモテていたに違いない。
「おい、出来たぞ」
虎からしてみれば、ただ虚空を見つめてぼうっと物思いに耽けているように見えただろうか。急に話しかけられたものだからギョッとしてしまうも、その様子に祖父は特に何かを言うわけでも、不思議そうな顔をするわけでもなく、平然としたまま小皿に切り分けられた白桃が四、五切れ、銀色のフォークが皿に添えられた状態で運んできてくれた。
「冷えとるけぇ旨ぇぞ」
「あれ、爺ちゃんの分は?食わんの?」
それはそのはず。サーブされた小皿は一つしかなかったからである。考えるより先に現れた当たり前の疑問を口にすると、
「あぁ、切った時に摘んだけぇ要らん、お前ぇが全部喰え」
そう言いながらテーブルの真向かいに座する。長い舌をペロリと唇まわりで一周させ、それが終点に行き着いたタイミングで、ふんと鼻息を強く吐く。その動作が桃をつまみ食いした事で生じたものであると理解はできたものの、どうしてこんなに色気があるのかまでは及ばなかった。無自覚か、わざとかは、この際こちらの脳が致命的なまでに手遅れなので問題ではないが、祖父はおよそ年の半分近く裸同然で過ごしているという既成事実も相まって、過ごし方自体が企画モノのポルノ的な何かで、毎日なんらかのお約束タイムがあるものなのかと、ついつい有らぬ、有り得ぬ疑いまで持ってしまうことを心の隅で恥じた。
「わぁ、ありがとう。いただきます!」
たとえ間食と云えども食事前の挨拶を欠かしていないことを確認した祖父は、離席する前と同様に目を細め、それと同時に僅かに口角をあげていた。
「……おう」
帰宅してから会話を交わして、桃を取りに行ってから戻ってくるまで、終始性的な対象として妄想のネタに使われていたことなど微塵も考えはしないだろう。テーブル越しにあぐらを掻いているであろう祖父にこの桃を「あーん」してもらいたいだとか。あわよくば口移しだったらどんな展開になるのかとか。肉体を視姦しやすいようにこの家具が透明なガラス製だったらいいのにだとか。年頃を迎えた少年が抱くであろうまあまあコアな下心を、彼が全て知ったとき、いつものように笑ってくれるだろうか、とか。なんならその下心を全て悟った上で、ギリギリのラインを踏み越えないようにわざと焦らしているんじゃないか、とか。あわよくばワンチャン何か起きないか、とか。
そんな下らなくも生きがいに繋がる事柄を頭の大部分で何個も何個も考えながら消すを繰り返しながら、フォークで押し込む桃の味は、甘くありつつも果実特有の酸味が特徴的に染み込んで口の中で蕩け、歯を立てずとも舌だけで咀嚼できるくらいに柔らかく、そして勿論のこと美味かった。
父が幼い頃に他界し、父親代わりとして育ててくれた祖父以外にも親戚の男衆たちがいる。自身と比べると少なく見積もっても三回りは年上であるが、年数回しか姿を見せないという家系環境から、やましい意味合い以外のことも含めて身近に雄を感じることができる祖父の存在はかけがえのない貴重な存在だった。
視覚から性的刺激を無意識だか否かは分からぬままに与え続けてくる祖父は、その行動とは裏腹に寡黙で厳格でストイックな性格をしていた。怒ると落雷したかの如く凄まじい轟音が家中に鳴り響くし、職場が海であるために日が昇るよりも前から家にはいないし、気づいたときには風呂(厳密には水浴びに等しいが)を終えてしまっているし、日課である21時くらいから始まるテレビの天気予報を見たら床の間へ向かい、数分後にはいびきをかき始めてしまう。土日の休みという概念がない代わりに悪天候の日は一日中家にいることも少なくはないが、魅力的な祖父を独り占めにするには日が早いことも多いし、なにせこういったことは男同士の水入らずのセッティングで行いたかった。生活リズムが合わないというか、大前提に家族であるというのに、学生が帰宅した時間から数えても毎日最長で4,5時間しか顔を合わせる暇がないというのは仕方がないというのは理解した上で、子供心に不満を募らせるのは仕方がないことだった。
加えて残念なことに、食べ終えてから特に会話が続くわけでもなく。祖父は再び仕込みのため部屋に戻ってしまい、こちらはというと残りの囀る悪魔が言う通り家庭用ゲームをがっつりと数時間してしまい、風呂に入る時間を迎え、他の家族が全員帰宅して夕飯を囲み、翌日に備えて就寝するまでの間、特筆すべきことも特になく時間だけが過ぎていった。なんと勿体無い事か。
しかし日常というものはよく分からないもので、そんな退屈な生殺しの壁が音を立てて破られるのも、ある日突然のことだった。
----------------------------------------------------------------------------------
数日だか数週間だかが経ったある日。
その日も毎日と変わらないはずで、強いて細かな違いを挙げるとすれば、お茶請けにあるビスケットが煎餅になっているか否か。祖父が準備してくれる食べ物が有ったかどうか。テーブルの上に粗雑に放り投げられた新聞が最新のものに変わっているか否か。本当にそのくらいの、退屈な変化のはずだった。
風呂から上がり、夕飯を済ませてから各々が自由な時間を過ごしているとき、なぜかいつにも増して祖父の近くに居たいという説明し難い感情から、何か会話を交わすわけでもなく同じ空間に座り込み、褌姿でソファに落ち着ける祖父を横目にテレビを見ていた。
説明し難いというのは語弊で、正直に言うと今夜こそ何らかのアクションを起こしたい、と考え覚悟を決めたのが今日だったというだけだった。このアクション、という言葉は当然ながら猥褻な意味合いを持つ。
夕餉を終えたあと、日課であるウイスキーのショットを1杯、ぐいっと飲み干して台所を後にした祖父は、ほろ酔いでありながらも表情に酒の影響は現れなかったし、感情の起伏も目に見えて変わったりなどはしなかった。
個人的に、ゴールデンタイムのバラエティ番組の何が面白いのか分からないと思ってしまう。それは祖父も同じなのか、番組の観客席にいる大人たちが歓声だの笑い声だのをあげる瞬間であっても、感情ひとつ表すことなくただただ画面を見続けていた。
ふと、机上に置いてある新聞が目に留まる。数石前に祖父が読んでいたのかもしれない。紙面の隅に設けられた天気予報コーナー、明日は晴れだということで、やはり漁をしに行くのだろう。晴れを示す太陽マークには赤いサインペンで丸が書き込まれていた。目を滑らすと、その隣にはどこ需要か分からぬ月齢カレンダーの表示まで載っていた。
今日はちょうど満月らしかった。
読み慣れない新聞紙から首とともに視点を上げて柱のほうへ目をやると、チクタクと秒針を動かす仕事を行い続ける壁掛け時計が19時半を目前にしていた。この時計は1時間きっかり経つたびにその時間の数だけ鐘を鳴らす。12時なら12回、6時なら6回という具合に。また、毎時半を迎えるときは決まって1回、同様の音を家中へ響かせる役割も担っていた。この時間から逆算して、祖父はあと2時間弱で床につくということを示していた。
祖母は台所で夕飯の片付けをしているから、少なくとも1時間は此方の空間に足を踏み入れてくることはないし、仮に近づいてきたとしても祖父がいる場所は棚があるおかげで死角になっているから目に入ることもない。母親はいるものの2階だし、血縁関係のない父方の親なのだから、好き好んで舅姑に近付いたりはしないだろう。別に何かいやらしいことを期待しているわけでは毛頭ないけれど。
「ん?なんじゃ」 「なんでもない」 「---」
虎の発した声はチャイムに掻き消され聞くことが叶わなかった。おそらく、そうか。とだけ言ったんだと思う。何もこのタイミングで鳴らなくともよいものを。
当然の疑問を振り払うと祖父は特に気にも留めず、こちらにやっていた目線をテレビに戻してしまう。なんとなしに側にいてみたくなって、左隣を位置取りソファに腰掛けると、重力と体重に従ってそのぶん僅かに両者が沈んだ。
突然皿が落ちて割れるのと同等か、それ以上の出来事に頭の処理が追いつかなくなり、真っ白になってしまった。そしてその混乱と動揺は、ある一点の部位から目を離せなくなるという行動に縛りをかけられてしまったことで、虎にも知られてしまっているだろう。
それもそのはず、当人は一体何を考えたのか目前の虎は地につけていた両踵のうち左脚を三角に折りソファの上に足裏をつけた。互いに視線が空中でかち合うことは無かったものの、この角度だと褌の布地から持ち上げられた部位がより強調されてしまうのは分かっているはずだろう。
もしかして、わざとか?
疑問が疑念に変わっていく。
自身の心臓のどんどん高鳴っていくのを感じる。手足がすっかり発汗を始めているものの、また風呂に入らなければならないだろうかと考えを改めるほどの余裕もない。虎獣人の一物はもう、よいしょと腕を伸ばす労力すら必要ないほどに間近にあった。そのエピソードだけでも赤面し鼻息が荒くなるのを抑えきれなかったであろうに、祖父は悪戯心を刺激されたのか追撃の手を休めることなどしなかった。歳のせいかと言われればその通りなのかもしれないだろうが、目前に鎮座する獲物の様子が雄々しく変貌することはなかった。エロ同人じゃあるまいし当然かといえば当然か、孫をからかって遊んでいるに違いないと、その思考を悟られぬよう、溜息の成分を鼻から静かに漏らしていった。
しかし、こちらの考えすら虎は理解した上だったようで。
「気になあか」
獰猛そうな犬歯をちらつかせながら、赤布に納められた象徴の膨らみをデコピンの容量で弾き、聞いてくるその顔つきは、いわば確信的な行動だった。
たとえやめろと言っても、ちょっかいを出すことを辞めない腕白な男児のようで。目の前に映る雄は千歩譲っても万人が満場一致で男児とはならぬほどの巨漢で。こんな痴態を直近で見せられて気にならない方がおかしいに決まっている。
と、そう思えるほどにはまだ既の所で踏み止まっていた。雄として最大火力であろうそのセックスアピールに抗う手段を持ち合わせるには、保健体育と道徳と倫理と、あとやはり保健体育の履修経験が足りていない。それはもう一歩向こうから踏み込まれたら、最早逃げ場がないということも示していた。
「え?」 「さっきからずっと、此処を見ちょうが」
虎は視線を下げもう一度分かりやすく、一物を避けるように布地を押さえつけて象徴を目の当たりにさせてきた。
終わった。
そもそもこれからどんどん暑くなる時期を迎えているというのに、わざわざ隣に座る理由はないので誤魔化す理由がない。男色の気があるのかとそのまま訊かれてしまえば、全身の毛穴という穴から火を噴き出し即座に絶命してしまうだろう。舌を噛んで自死してしまいたくなった。
しかし冷静になって考えてみれば、【さっきからずっと】見ているのがバレているということは、祖父もずっと此方から視姦していることを黙認していたということで。それはつまり……。
実質的に合法なのではないかと考えを改めるのに大体5秒。
そして毒を喰らわば皿までと態度で示すに至るまで、
「んおッ……?」
2秒。
-------------------------------------------
気づいたら、
手が伸びていた。
わざわざ書き起こすことでもないが、人体が物理原則を超えて遥か彼方へ飛んでいってしまったわけではない。
しかし文字に綴るのであれば、これ以上ない適切な表現なのではないだろうかと思う。
身体が動くメカニズムというのは、脳が筋肉に対して[動け]という電気信号を送っているから、らしい。その指令を瞬時に的確に筋肉がこなしていくことで、我々は日々の生活を過ごしているということになる。1日が86400秒。そのうち数十万、数百万、或いはそれ以上の回数を無意識レベルに処理しているスーパーコンピュータの賜物といえよう。
何が言いたいのかと言うと、脳からの司令無くして勝手に身体が動いてしまうということは有り得ない、ということ。
直近の経験則から語るに学生のお泊まりを伴うレクリエーションイベントの一部として知られる、生徒たち同士のヌード博覧会。もとい入浴とは明らかに一線を画していた。獣人の同級生はいくつか心当たりがあるものの、人生で見かけた巨根ランキングがあるとすれば首位を確固たるものとしているだろう。年齢層が異なるので当然といえば当然だが、仮に引率の教員を含めたところで首位が揺るぐことは万に一つもない。そう確信するくらい祖父の持ち物は同じ雄として、家族として尊敬するに十分値するほど誇らしかった。
触覚から感じられたものはひとつ。いや、ふたつ。
それは大きく、こちらの体温よりも暖かかった。
今回こうして官能的に且つ艶めかしい姿勢で情欲を煽っていた虎獣人の耽美で肉々しい体躯に対して、当人の半分にも満たぬであろう非成熟な細い右腕を安全確認もなく無計画に飛ばし、そして不幸にも肉棒の収まるミラクルポイントである点Pに不時着してしまったという不運な事故について、無意識下か意識的かということは考慮されるべきではなく、極めて悪質な犯行だと言わざるを得ない。さらに、ややディープな雰囲気を感じ取ってから来たるべき好機を待ち構え、半ば確信に迫ったのちに手を出すという極めて悪質な、計画的なものであると考えられる事から容疑者に情状酌量の余地も与えられない。
「うん、気になる」
身を直接目にするまでもなく、赤越しに触れたという僅かな手がかりだけでもそれは明らかなことだった。この時こちらはどのような顔付きをしていたのだろう。それは世界で1人だけ、祖父しか知り得ないことだった。
「……そげか」
先の通り虎獣人視点から急所への接触を感知し、日常生活では決して発することのないであろう雄々しい肉声を隣人が耳にしたとなれば、両者が心臓の鼓動を一時的にとはいえ早めたのはなにも不自然なことではなく本能的な働きである。祖父が発声と同時にビクリと全身の筋肉を強張らせた姿を目に焼き付けた。となるとその感情の昂りは、ドラム缶いっぱいに波々注がれたガソリンへメラメラと炎の踊る松明を躊躇なく放り投げたときくらい。その位刹那的に瞬間火力の高いものだった。もちろん現実的には火どころか煙もあがっていないため、視覚的に景色が変わることなどないのだが。心持ちは対岸の火事よりもうちょっと近く、2軒隣の火事くらいの物々しさだった。その証拠に、伸ばした腕の皮膚上には塩分を含んだ滴が目視できるほど表れている。上下左右のいずれかに45度、いや30度でも傾けてしまえば、重力に従って滴はいくらか虎に向かって垂直に零れ落ち、獣人の持つ毛皮を僅かに濡らしてしまうだろう。
「………………」
そんな不埒で桃色な妄想で頭をいっぱいにしている間も、大柄な虎は白いソファに大股開きで腰掛け、力仕事で蓄えたであろう立派な両腕を組んでは目を細ませていた。此方に全てを任せる、といった意味合いなのだろうか。強靭な肉体を持つ雄が、この身体を好きにしろと言わんばかりに、無防備に弱点を晒して構えている様が非日常感を誘発しこれもまた扇情的だった。呼吸の頻度が浅く、小刻みに増えている気がしたが、おそらく気のせいではない。それもどちらのものかも分からなかった。
色恋かどうかは自覚できないとしても、少なくとも欲情の対象が至近距離にいるという状況。そしてそれに付随して鼻から酸素を取り入れようと吸えば、必然的に虎のケモノじみた雄らしい匂いが身体の中へ、おそらく細胞レベルで浸透していく。
ピンク色の考えが60フレームにも満たない短さであったにも関わらず頭から離れない創造の数々。その中でも耳に粘り強くくっついて離れない祖父の嬌声と呼ぶに等しい音が、祖父の妻にあたる祖母と、若い頃に遊びか成り行きかで抱いたであろう妻以外の女性数名の情事を彷彿とさせたのはわざわざ言うまでもない。惑星の端から端までくまなく探しても、数えるほどしか存在し得ないであろう祖父との肉体関係を繋いだ者のリストに、孫である自身が参入するというとんでもなく大きな優越感と背徳感を抱いたのは嘘偽りなどではない。
人差し指、中指、親指を使って囲い込み手のひらへと滑り込ませた褌越しの肉棒は、生殖活動の準備を始める前段階の状態だけでも自身のものと比べると大人と子供の身長ぐらい如実なものだった。
工作で用いる粘土を捏ねるよりも僅かに弱いくらいの力で包み込んだり離したり、指先で褌越しに獲物の先端部をなぞったりを何度か繰り返していると、先程まで微動だにしなかったはずのものが分かりやすく変わり始めた。それは触覚から来るものではなく、聴覚から来るものだった。緊張による発汗は先ほどと全く変わらないとはいえ、最早この際どうでもいいかと思うようになるくらいには心が吹っ切れていた。
「んッ………う…」
祖父が悶えているような声を喉奥から捻り出す。日常では絶対にまず味わえない貴重な体験だった。しかしながらこちらに抵抗を示す、といったことはなく。あくまで反射的に漏れてしまう嬌声に、そしてそれを聞かれているのが自身の遺伝子を分け与えた存在であるということに、半ば羞恥を感じているほうが正しそうだった。孫に一物を弄り回されて素直に喘いでしまうなど、海の男として許されないということなのだろうか。それとも孫だとかよりも、同じ性別の存在に好き放題されるのが気に入らないのか。むしろこの状況に興奮を覚えてしまっているのでは。
祖父の両脚の位置は変わらぬまま開いたままであるから触り放題なのは変わっていない。顔を見ると細めていたはずの瞳にはやや力が込められ、自意識的にこの光景を見ることを拒んでいるようにも見受けられた。ソファの上で何か擦れるようなし、その方向にちらりと視線を向けると、虎が利き手の拳を軽く握りしめていた。その行動が示す感情は最早明白である。祖父も立派な雄で、まだ衰えていない現役の獣であるということを示唆していた。
「ッふー……!ッん、ぐ…」
褌を捏ねる動作を休めることなく続けた。
祖父の体内に入ったアルコールもこの状況に対してプラスの後押しをしてくれているのだろうか。次第に手を加えていくことで、手中の玩具は徐々に徐々に、本来の姿を取り戻そうと太く、硬く、そして大きくなろうとしていた。雄として臨戦態勢に突入してしまうことが避けられないと理解した虎は、握った拳と逆の手でリモコンを取ると、隅にある赤色のボタンを押下した。するとその直前までコマーシャルが流れていたテレビが、すっと黙らされ同時に画面も真っ暗になり、待機電力モードになった。
情事に至る時は騒音に感じてしまう性質なのだろうか、などと考えていると虎は続け様にリモコンをぽいっ、と座布団の上へ放り投げる。そして、どうやらその勘はあながち間違いではなかったことをすぐに知ることとなる。祖父は、マズルをこちらの耳元まで口を近づけると重低音で、しかしゆっくりと聞き取りやすいように、それでいてアルコールらしい不快な匂いをさせることなく、次なる誘惑を囁きかけてきた。
「おい、布団行か来い、あっちでやあぞ」
手に触れていた祖父の怒張は、別のものかと訊いてみたくなるほど勃ち上がっている。竿の先端で、およそ中心にあたる部分は何か液体を零した、或いは漏らしたように其処だけ布地の色合いが変わっていることに気づいた。好奇心旺盛が過ぎると揶揄されてしまえばごもっともだが、今この目の前で元気に暴れている肉棒に興味を奪われたことで、祖父の言葉が右から左への状態になっているのは間違いない。
「んッ、んんう…!」
返事を返さぬまま、人差し指で濡れたその部分を掬うようになぞる。岩のように大きな巨体が、突然驚嘆し慄いたように身体をビクリと一度震った。その反応が面白くてもう一度、もっと見たくなってしまってもう二度、どうしようもなく堪らない気分にさせられてしまう。
「おッ、い……!」
先の挙動に加え慌てふためいたような声色で、たん、たんと背中をタップしてくる様を見るに、どうやら還暦を迎えようとも現役であることに変わりはないと確信を得てしまった。
虎からすれば、半分冗談で言ってみただけであるだろうに、本気にした孫のちょっかいが思いの外気持ちよく、どうしてやろうかと思いついた先が寝床に誘うことだったのはなんとなく想像がつく。本格的に一方的な亀頭責めが始まってしまうことを良しとしたくなかったであろう祖父は、耽美なアトラクションを楽しんでいたこちらの腕を、そのまま引っ掴んで起立し寝室へ足早に進んでいく。その間、考えが急いた所為で思い当たらなかったのか、むしろ逆に数秒の休憩で余裕ができたのか、それは分からないが、手の位置はがっちりと股間から一秒足りとも離されることはなかった。
「後悔しても知らんけぇな…」
夕飯の片付けをこなしていた祖母に寝ることを告げるわけでもなく、逞しい身体で右腕を軽く引っ張られながら、祖父の寝室へと連れて行かれる。承諾の返事をしなかったのにと思いながら背後から見た尾っぽは、先日同じ舞台となっていた居間で桃の問答をした凝視エピソードの時よりも強くぶんぶんとはしゃいでおり、虎の感情が火遊び程度の冗談などでなく、本気であることを表していた。
祖父母は共同で部屋を使っているものの、祖父に比べると遥かに朝の遅い(それでも六時台だが)祖母は寝室に入ってくるのが二十二時とやや遅い。居間で男同士、股座を弄りあっているシーンを誰かに見つけられてしまう可能性と比べると、寝室はその欲望に対して非常にローリスクハイリターンな密室空間だった。ついでにとはいえ、イレギュラーながらに男同士水入らずの環境が出来上がってしまった都合の良さと事の重大さに、頭の中で実は明晰夢か何かなのではないかと疑ってしまう自分もいる。
和室となっている祖父母の和室に男二人で足を踏み入れる。こちらの身体が襖の境界線を越えたのを目視で確認した虎は手慣れた様子で、素早く静かに戸を閉め、最近取り付けたのであろう取り付け式のスライド錠をかける。祖父からすれば誤って誰かが入室してしまうことへの対処に過ぎないのだろうが、今から行われることが施錠を必要とするほど重要であるという意志の現れに背徳感を禁じ得ない。
明かりの点いていない真っ暗な部屋の電球の紐を二回引くと、数秒遅れたのちに光が広がっていく。眩しすぎぬよう光量を調節してくれたのであろう。戸を閉める動作で手中の息子は離れていってしまったものの、改めて眺めた赤の布地は先の肉体言語ですっかり性的な意味合いで仕上がっており、不自然なほどに分かりやすく欲情が勃起という膨らみで表現されている。褌が鈴口から分泌された体液により、ソファでちょっかいを掛けたときよりも一層、淫らな様に仕上げていたかどうかまでは分からなかった。
部屋の隅に追いやられ畳んであった敷布団を引っ張り出し、バタンと雑に広げてはその上に胡座をかくと、人差し指でくい、くいっ、と接近を求めるジェスチャーを仕掛けてくる。
「よッしゃ、下脱いでこっちゃ来い」
正直言ってセックス一歩手前とはいえ、これから何をするのか明白になった虎は孫との濃密なコミュニケーションに胸を躍らせているのか、どこか愉し気な表情だった。対面に同じく胡座で腰を下ろすと、祖父は文字通り膝を突き合わすように身体を密着させる。
「お前ェも思い切り気持ち良くしちゃるけぇ、覚悟せえよ」
続け様に囁いてきた言葉は、まるで口説き文句のトドメうちのようで、不思議と身体が女にでもなってしまったかのように胸がきゅんとした。
念願としていた鼻腔に立ち込める祖父の匂いは、雄のフェロモンをムンムンと漂わせており、安心と興奮を足して二で割るような思いがした。手を触れずともドクンドクンと煩くて仕様がない脈拍は、態度にも言葉にも出さないノーリアクションで冷淡な自分に対する、身体が起こした精一杯の反抗だったのかも知れなかった。
「デカいじゃろう」
「……うん」
「…好きに触れい」
そう言いながらもしっかり握って欲しかったのか、離すなと言わんばかりに、再び強く押し当ててきたので握ることで了承の意を示す。ニヤリと牙を見せながらも対等な状況を作りたいのか、ごつごつとした手が下着の上から股間へ刺激を与えてきた。撫で回すようなその手付きに、思わず反射的に身体が反応してしまう。
「しっかし、お前ェもしっかり勃っちょるのう」
自分自身、勃起をしたこと自体は数えるのも馬鹿らしくなるくらい経験していたものの、その状態のペニスを誰かに触られたことなど無く、そんな事が起こり得るのはこの先何年もないと思っていた5ので、男として臨戦体勢になっていたことは百も承知だったが、それを面と向かって指摘されると小っ恥ずかしくて仕方がなかった。
「センズリ扱いた事はあるんか」
履いていたトランクスの真横から、痛いくらいに膨らんでしまった隆起を取り出させ、予想通りにギンギンとなったその姿を確認し、面白そうに一瞥したあと虎が述べる。
「センズリ?」
「チンポをこぎゃんに弄うことだけんな」
そう言いながら虎は、窮屈そうな褌の横から膨らんだ祖父の持ち物をズラしてはみ出させる。中に収まっていた、淫水焼けして黒ずんだ肉棒が明らかになった。皮はズル剥けて仮性包茎とは遠く離れた状態になっており、使い込まれた様子でありながらも清潔そのものだった。そして、大人気なくビクビクと震える形の先端からは、未だ見たことのない不可思議で透明な滴がチラリと溢れてきていた。
繰り返すが、二つの肉竿が相見えるといっても、言わずもがな祖父の持ち物が自身と比べて常軌を逸しているボリュームであったことは間違いようのない事実だ。
あくまでソフトな妄想しかしてこなかった身として、祖父の言葉を即座に受け入れられず耳を疑った。一人で風呂に入るようになってから、排泄にしか使ったことがなかったペニスをなんとなく触ってみたことはある。このようにマンツーマンの授業が始まると思ってなかったとはいえ、自分の身体のことであるから、ペニスは綺麗に洗っていたことが幸いしたと心の片隅で安堵する。
もしも順序が逆で、一人風呂場で好奇心を増長させた結果、勢い余って吐精でもしてみようものなら、このシチュエーションに心臓を吐き出しそうになるほど鼓動が高鳴ることはなかったであろうし、もしかすると性知識が持たないが故に、病気を患ってしまったのかとただ慌てふためいてしまっていたであろうことは想像に難くない。
しかしながら、先の虎の言葉を再度振り返ってみても、自身の陰茎から汁が出たことなど未だかつてないし、センズリなるものがそんなに魅力的なものかも到底分からないので、憧れの祖父の手前、下らない知ったかぶりの虚言を吐くわけにもいかず。
「…………やったことない」
「がははッ!そげか。あいつの分まで責任持って、ワシがちゃあんと教えちゃらんとな」
センズリの意味はともかくとして、あいつと言う存在が祖父の血を分けた息子で、自身の亡き父親ということだけはすぐに察しがついた。同時に、祖父が父親代わりに性教育を施してくれることを決定づけたということも意味していた。
そうこうしているうちに、筋骨隆々とした祖父の大柄な手がペニスに対して本格的に稼働を始めた。力強い肉体を持ちながらも、痛みを感じさせぬようにゆっくりと、雁首の周りから亀頭へ皮を剥いてはまた戻す動作を繰り出していく。一往復に一秒かかるかどうかくらいのペースで、時折こちらの表情を見つめながら。一擦り、二擦りと単調ながら気を遣ってくる淫猥な動作に、顔を乱しながら矯正を漏らしてしまうこともまた、人体の当然の仕様なのだから仕方がない。
「あっ………ちょ…ッ、あッ、ああ……ッ!」
気持ちが良い。この感覚は一体なんなのか。
仕返しにと、祖父の真似をして肉棒を摩ろうとしても、形状が全く異なり立派にズルムケなのだから、皮に当たる部分が無く上手く要領が掴めない。仕方無しに擦り上げては指の位置を戻すという、ぎこちないと評せざるを得ない動作をしているが、先程まで露骨な呻き声が耳に入ることはない。されど依然、ギンギンと天井に向かって一直線に勃つ祖父の肉棒は戦闘状態のまま。互いが互いの肉棒めがけて攻撃をし続ける光景に、祖父も興奮を隠し切れなくなったのか、はたまた隠す必要もないと考えたのか、徐々に鼻息が荒くなっていくのが分かった。
自分としては半ば不可抗力も交えたとは言え、ここまで来てしまった以上何が起きても過度に驚嘆することはないと腹を決めていたものだったが、いかんせん快楽のポイントだけを定点的に突き続けてくる手淫の威力というものは予想外のもので、股間に直接響く上下の往復がほんの僅かに早まりだした瞬間、胡座を解いてしまい思わず身を仰け反ってしまいそうになる。
「おおッと、危ねえ」
それすらも見越していたか、逃げるように仰向けになりかける身体の背から、虎は扱く逆の腕を回してそっと抱き寄せる。その勢いで胸元に顔を埋める姿勢になってしまい、直に嗅ぎたいと願っていた祖父の雄、獣、汗、全て一体となった芳しい匂いが電流となって全身を高速で貫いた。この匂いに包まれて眠ることが出来たらどんなに至福な事だろう、と湧き上がるあくまでもピュアな欲求は泉から溢れ出る水のように留まりを知らない。
「大丈夫か」
「う、んッ………あぁッ…!」
無様に股を広げてしまいながら、支えてくれている安心感もある中でこちらも抱擁すべく脚を祖父の後ろで軽く絡ませる。抱き留めながらも変わらぬペースで自慰させる指を止めぬケモノは言葉そのものは発さずとも、顔を上げてみればどうしたと挑発を述べんばかりに男らしく牙を輝かせて見せてくる。
体毛に比べるとやや薄まった、しかし太くてキリッと力の入った眉毛と合わさった厳つく雄臭いその顔は微笑ましく凄く優し気なのに、エロに対しては至極真面目なのか、相変わらず手中の上下運動は止まることが決して無い所為で、堪らず場違いに艶めかしい声が喉から漏れてしまう。
「気持ちええか」
「気持、ち……良い…」
「ワシも、お前ェのセンズリが気持ちええぞ」
孫に対する愛情にしては超が付くほど過度なものではないかと、考える隙すらも与えぬテクニックに、抱かれながらもビクリ、ビクリと身体を震わせてしまう。その反応がどうにも嬉しいようで、事細かに手淫が気持ち良いか、と促してくる虎と目を合わせるのが恥ずかしくて、けれどもこの肉体から離れたいとは微塵も考えを持つことが出来ない。苦し紛れにおでこを豊満な大胸筋に押し付けたまま下に目をやると、鈴口に集まった雫の粒がより大きくなっており、もう何度か続けていると指先に溢れ出しそうなくらいにまでなっていた。その情景に比例するが如く、ぐるるると心地良さ気に獣じみて喉を鳴らしては、悦を感じる様を所狭しと詰め込んだ猛烈なセックスアピールに早変わりするのだ。
「ッあ、ぐぅうう……堪らん、もっと…もっと、扱け」
虎がそう希望するものだから、少し力を込めて肉棒を握る。桃色の欠片すらない黒ずんだ亀頭は先走りに塗れて、照明の光を鈍く反射させる。そのやや水分に濡れた皮膚を指の腹でぐるりと小さな円を描くように転がしてみると、それだけでビュク、ビュクと透明な体液を吐き出して褌と指を汚した。身体を痙攣させながらも祖父は指の動きを休める訳がなかったのだけれども、加虐心が刺激されたせいかもっとこの虎を鳴かせたい、喘がせたいと黒い欲求が噴き上げてくる。
「ッおォォッ……!あ、あ……おッ!チンポッ、気持ちええ…!」
怒鳴った時は鬼の形相になるあの祖父が、家族のために職人のように漁の仕込みをこなす祖父が、センズリだのチンポだのと連呼し喘ぐ様が卑猥で堪らなかった。吐き出された先走りはぐちょぐちょと粘着質で、それでいて人肌ほどに温かった。人差し指と親指の二本で液体を拭うと、指の間に線が引かれてはすぐ消えてしまう。亀頭責めから再び上下のピストン運動に切り替えると、祖父の肉棒を擦るたびに水分を含んだ音色が響き渡るようになっていた。しかしそれだけに関して言えば向こうも同じ感想を抱いていたようで、
「んんッ…!爺、ちゃん……!」
「センズリ扱いて、雄汁がだらだらッ、出ちょるのう」
百戦錬磨であろう虎に比べて、性的体験にウブでしかないこちらを一方的に攻め立てれば、容易く精を飛沫いてしまうであろうことが推察できただろう。ただ絶頂に連れて行くだけでは面白くないと見たのであろうか。面前のケモノは、握った手を一瞬離し、口元から唾液を指先に塗す。すぐ戻ってきては小指以外の四本を使って雁から皮を優しく脱がすように愛撫したり、パターンを変えて扱いてくるだけではなく、不規則に亀頭を摘んで振動させるなどという、ただ擦るだけの単調なものとは打って変わってより酷く快楽的な攻めを考案しては実践に移してきた。
「あッ!ッああ…!…やッ、あッ………!!」
「おーらッ……!よく滑って良い塩梅じゃろう…!」
くちょくちょッ、くちょッ、ぬちゅっぬちゅっぬちゅっ
双方とも容赦なく下着を濡らし、多量に汗ばんだ腕が交差してお互いの獲物一点のみを重点的に虐め抜く。センズリなるものがこんなに良いものかを知るには、孫には十分すぎるほどの衝撃だった。
「んッ!んん!ッあン…!それ、すげ、気持ちい、い……!」
「ふんッ、こぉされぇ方が好きか」
ぐちゅッッ………ぬちょぬちょぬちょぬちょ…!
「ああぁぁあッ!!」
唾が潤滑油の役割を果たし、そのおかげで先走りだけでは行き得なかったところまで深く扱き上げてくる。初めと比較すると、手淫は倍の速度近くにまでなっていた。祖父の運動による消費エネルギーと発汗量は、比べものにならないほど右肩上がりとなっているであろうに、日頃から鍛錬された無尽蔵のスタミナで止めどなく襲い掛かってくる。
「おーら、どけか…、チンポこうされぇんが良いんか」
「…は…はぁ…あ、……好、き………」
「へへッ、可愛ぇのう………そらッ…」
液体の使用があったといえども、手技を変えただけで激しく鳴いてしまう様を見て、虎も興奮度合いがいよいよピークに達する。快楽に負けてこちらが嬲る手を緩めてしまうと、ここぞとばかりに虎は顔面を近づけてきた。顔色はすっかり汗に滲んで紅潮しきっており、ハァハァと発情しきった獣の吐息を幾度も浴びる。鼻と鼻が突き合わされてしまった状況下で、もう一寸、二寸未満の距離で唇を奪うところぐらいまで迫る超接近に、抗える術は持ち合わせていない。顔を背ければ耳元に祖父の息継ぎが捩じ込まれてくる。
「ッお、っふッ…!ハァ…ハァ…ハァッ、んッ、は!」
ぬちゅう……ずりゅ、ずりゅッ、ずちゅ!ずちゅ!
「ああンンン!!んっ、んっ、んッ!」
ぬちょッ………ぬちっ、ぬちっ、ぬちっ、ぬちっ…
絶えず何度も執拗に繰り返した所為で、意地悪くも瞳から目を逸らさず凝視し続けたまま、受け手としてもすっかりお気に入りとなってしまった先端あんま攻撃を継続して喰らい続けてしまう。
「はぁ…ッ、おッ、く、ッふン…!どうじゃ…参ったか…ッ」
「あああッ!んう!ッんんッ、お、あッあぁ!」
あくまで手加減されているとしても、狙って下腹部に落とされるに勢いで拳を強く振りかざされる。多量の水分と上下運動の甲斐もあって、先端に近い亀頭部ではなく、根本を改めてがっちりと握りしめられたら、身体に走る電力は一気にワット数を上げてしまう。
「分かるか……、…汁がどんどん溢れちょるぞ」
「んぁぁあ…ッ!爺、ちゃッ………!」
「ふーッ、ふーッ……ッ参った言うまで、止めちゃらんけェな」
「そん、なッ………あぁァァァあ!!」
「そげな事言うてッ、どんどん汁垂らしちょうけん、気持ち良かろう!」
恥じらいながら小水を垂れ流しているかのような錯覚に、喘ぐ以外の行動を禁じられてしまっているようで、それがまた酷く興奮する起爆剤となっていた。次から次へとペニスから迸り、先走りを吐き出す様子を面白がっては、より強い快楽を、より激しい悦楽を享受させようと虎も躍起になって手コキを行う。
気持ち良いのに、気持ち良いと再三伝えているのに終わりの気配を一向に見せない祖父は、この状況をさぞかし愉しんでいるだろうと思えた。彼の形相は慈愛から来る優しさをとうに越え、目の前のメスを、如何にして卑猥かつ満足に絶頂させてやろうかと、存分にオスとして理解させてやろうかという狂気の自信に満ち溢れたモノへと姿を変えていた。その変化は言葉責めにも如実に現れていく。
「ッお、ッお!…どうだ!ッふ、チンポ良いンか…!」
「簡単に負けてしまわんように、もぉッと鍛えちゃるけんなァ…!」
「ハァ、ッハァ!効くかァ…?ギンッギンに硬ェぞ…!おら、おらッ!」
汗で塊となりだした体毛を気にする様子はなく、ただひたすらに目の前のメインディッシュをがつがつと貪る。好きなように捏ねくり回しながらも、自分勝手に次のステップへと移ろうとしないあたり、性教育としての主導権はあくまで委ねているつもりのようだった。
二匹の間に蔓延る熱気はサウナのように蒸されて暑くなっており、肉棒の汁の様子だけ見れば、暴れたくなるほど気持ちが良いことなど明白であろう。それをわざわざ口にしてくるあたりが祖父も意地が悪い。猛攻に成す術もなく討ち取られてしまい、下品に声をあげることしか出来なくなった上で、それでも情交の中で優位に立つ雄として、この疑似セックスの評価を寄越せと求め続けてくるのだ。
じゅぐッ、じゅぐッ、じゅぐ、ぬちゃッぬちゃっ、ぬちゃ!
「あ“あッ、気持ち、良い、ッが、ぁあ!」
「あ"あん…!言うてみい、何処が、気持ちええんじゃッ……!」
ヌチャヌチャッ、ぬちゅ…、ぐぽッぐぽッぐぽッ!!
「チ、チンッ……あ"あ!ッぽ、ッああん"!」
「ッ聞こえンぞぉ、ッおらおらおらッ!!」
じゅぐン!!ッヌヂュ、ぬぢょッぬぢょ、ぐちょッぐちょッ!
ぬ…ちゃッ、ねちょ……じゅぐじゅぐじゅぐじゅぐッ!!
「チンッポ、チンポ気持ち、あぁあ!ッい、良いッ!」
「ッ上出来じゃあ!ッええ子には褒美をやらんとなぁッ…!」
………じゅぽ…………!!
……くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ!!
「あ"あぁァァ、ん"ぁあぁァァ"!!」
これ以上攻め立てられると頭が爆発してしまうかのようにおかしくなってしまいそうで、けれど気持ちが良いのは正真正銘の事実であるからこの肉体言語を止めたくなくて。亀頭責めを受け始めたあたりからどうすべきか考え始めていた結果、一度休戦すべきと脳は判断した。この行動が結果的に吉となるのだが、それが何故なのかはなんとなしに分かってもらえると思う。
「爺ちゃッ、ん……!あッ、あぁ!」
「んんッ…、なんじゃあ、どうしたッ……」
ぬぢゅぅう……くちょッ、………くちゃあぁ…………。
話しやすいように攻撃の手を緩めてくる。
「ッ………まッ……、参った…!チンポ、参った………!」
「がははッ!そげか、ッ…いいじゃろう」
無意識的に自らの口からも祖父の口調を借り、息も絶え絶えになって告げると意を聞き入れ、不規則になっていた嵐のような律動はピタリと静けさを取り戻した。猛烈な刺激が過ぎ、手から放たれた竿は勃起の勢いで反り返り、びたんと腹に一度打撃を喰らわす。ビクリ、ビクリと痙攣し、虐められた先端からは涙が溢れた。
「ヒヨッコがワシを下そうなんぞ十年早いが、偉いのう、初めてにしちゃあ、よぉけ耐えたもんじゃ」
股座からすうっと体温が離れ、ぐちゃぐちゃにかき回されて遊ばれたすっかり玩具と化した一物は照明を反射してテカテカに光っており、散々シェイクされた故に一部が泡沫状になりかけていた。
すっかり切れてしまった息を整えようと大きく深呼吸する。虎は枕の横に畳まれた手拭いで髪から滴りそうになっていた汗を拭き取ってくれた。繊維の一本一本に染み込んだ、汗まみれとは違う普段の祖父の香りに対しても、くどく恋情を抱いてしまい何度でも見惚れてしまう。ついさっきまでの全力疾走をしていたに等しい疲労感もみるみるうちに軽減されていく気がした。荒くも痛くはない力加減で、わしわしと水分をある程度拭えたのを確かめると、徐々に身体の下のほうへと降りていく。
「あッッ………」
胸、腹、股座と水滴を吸い取られ、残る最後に自身の体液塗れな一物もぽんぽんと生地が触れると、ついさっきまでの展開を思い出してしまい、またもや無意味に滴を生んでしまう。幸い虎の視界に入ることはなかったようだった。目にしていれば揶揄われていたに違いなかったからだった。
「…少し休まこい」
「んん………」
参ったとは言いながらも、祖父と共に気持ち良くなりたいと願う想いは未だ根強く残り続けていた。裏付けの主張と言わんばかりに、ものの数分に足るが濃密なコミュニケーションで、今はすっかり手から離れてしまい寂しそうに猛り狂う祖父の肉棒をむんずと捕まえると、自身の下半身を今より前に突き出す。これがこの日最大の最善手となる。
共に小休憩を挟んでくれると思っていた考えと裏腹に、エロの延長線を望む感触に、祖父は思わず呆けた声をあげてしまい状況を確かめんとした。
「む、おォ?」
肉と肉が、べちんとぶつかり合うその僅かな音と感触が響く。太さも大きさも異なる二つの突起を一様にまとめ上げようと四苦八苦していると、元気じゃのうと呟いて孫の頭をよしよしと撫でたのち、今度は両腕で包み込むように抱きしめる。
「今夜は満月じゃけェな、こっから先は優しく出来んかもしれんぞ」
「爺ちゃんなら、いいよ」
「……女じゃったらめちゃめちゃにしちょうわ」
人肌に密着してくる体毛は、がっしりとした体躯とは裏腹に皮膚に突き刺すようにチクチクとしておらず、優しくもっさりとしていて少しくすぐったい。熱量が篭っているのは百も承知なようで、ご褒美のハグは数秒したのみですぐに離れていってしまうが、次戦を雰囲気で悟ってくれた虎は、それだけで次の行動に何を施して欲しいか、具体的にどのようにして欲しいかを即座に理解せしめ、手ぬぐいをぽいっと戻しては再びニヤリと微笑った。
「ふへへッ……じゃあ次は、そうじゃな……ふふん…」
虎はエロさ満載の戯れを閃く。ずずいっと顔を近づけると、悪戯を考えた子供のように瞳をギラギラと輝かせ、わざと耳元でそのアイデアを言い立てた。
「男同士の、チャンバラごっこでもやら来い」
「ッ………」
思わず口内に溜まった唾の塊をごくりと飲み下す。何をするのかが簡潔に分かりやすいタイトルで、加えて魅力的で獰猛に訊いてくるものだから、こちらとしても連戦を誘っておきながら断るわけにも行かず、祖父の次に発するであろう言葉に期待と股間を膨らませる。
現代っ子なものだからチャンバラという怪我をしそうな遊びは一切無縁で、なおかつ未体験ではあるものの、肉竿が二本擦り寄ったシチュエーションと文脈から趣向は推察できた。その上で、この雄臭い虎がどのように卑猥にルールを教えてくれるのか。それだけが気になって仕方がなかった。
「ほれ、こっち側持っちゃれ」
突き出した股座から元気に震える肉棒を組み合わせながら、空いた手で空間の空いた反対側を指差してくる。いつの間に手回ししていたのやら、プラスチックの小瓶を懐から取り出す。どのようなものかは察せなかったものの、祖父のことだから大丈夫だろうと思っていると、それを横目に突起になった蓋をキュポンと鳴らして開封し、すぐに天地をひっくり返す。
「ひゃ……!」
瓶の中に収まっていた液体が一本の線となって二匹の隙目に堕ちていく様子をただ眺めていると、液体が皮膚に接触したのを感知して身体が違和感の警鐘を鳴らした。ずっと室内にあったはずのその液体は祖父を含めてももちろんのこと、不思議と今触れている室内の何よりも温度が低く感じられた。
「ん、うん」
言われた通りに肉柱を手中に収めると、ひんやりと冷たい液体はぬちゃっと鈍く粘着性のある音を立てる。その瞬間に、瓶に入っていた液体はこの状況に相応しいアイテムなのだと思った。祖父の唾も十分興奮を呼び起こすものとして過ぎるものであったが、液体はパラメータ的によりエロに特化している。この状況下で先程と同じ攻めを食らってみようものなら、半分かそれ以下、はたまた一瞬のうちに脳が破壊されてしまうであろうことは容易に察しがついた。
「持ったな…、そいじゃ、おっ始めえぞ……!」
おふざけの延長線から性の戯れになるという大前提があるのだから、チャンバラに形式ばったルールも何もあったものではないが、デモンストレーション、はたまたチュートリアルと言わんばかりに一度。一往復と言うべきか、祖父は掴み上げて重なり合った肉棒らをジュルッと振りかざした。
ジュッ…ぐちゅッッ
余談ではあるものの、此れが【兜合わせ】と呼称されるものだということを知識として得るのは、ここから更に数年後の話となる。
グンッッ…!
「~~~~~ッ………!?!」
獲物に添えた手が虎の力技によって引きずられるように降下していき、十数センチ先の終点まで速度の減衰を無視して落ちていく。潤滑油の影響力もさることながら、青筋を立て完全に密着したチンポ同士が濃厚にせめぎ合い、指の関節が裏筋をなぞって亀頭を下りては中央をずずずずっ、と液体を馴染ませ文字通り浸食していく。着地点となる根本へ辿り着けば、墜落の衝撃が股間全体にビリリと波紋が響き渡り、あわや声を出すことすら叶わなかった。下りもさることながら、上りとなると握力のみ味わっていた感触に合わせて突きつけられたもう一本が、手中から場外へギンギンと押し出そうとしてくる。さしずめ押し相撲のようで、先に音を上げるまで続投させられる戯れなのだと理解した。
じゅぐ…!ッじゅぐ……!ぬちゅ、ぬちゃあ…!
スタートからゴールまで寄り道の一切ない超短距離走を、鼻を鳴らして得意げに仕込む。何発か手本を見せ満足そうに鼻を鳴らし終えると、今度はお手並み拝見と言わんばかりに挑発してみせてきた。
「お前ェの番じゃ、ワシにもチンポぶつけぇ」
「……」
ギュッと握り込んだ指の隙間から溢れたローションの粒が見える。自分なりに見本に負けないくらいの強さで拳をスライドさせる。
ジュルンッ!
「ッん、おォ……!」
「ッあ…!」
たまらず声が上がる。
指で重点的に亀頭を責め立てられるとは異なり、迫るデカい一物が裏筋の細かなポイントをランダムに巻き込んで轢き回そうとしてくる。意識しなくとも、扱くことで奏でられる効果音は倍以上に目立つボリュームで、聞き耳を立てるまでもなく卑猥さを密室空間の中で全面に押し出してきていた。ズルムケのチンポに対して皮を擦る刺激が連鎖的に響き、ケモノにおける満月という発情周期も重なったおかげで何倍にも膨れ上がった快楽が虎を襲った。
「っお、ぐッ、あァァァ…ッ!」
久方ぶりに耳にした祖父が感じている声をうっかり声を漏らして台無しにしてしまわないよう、細心の注意を払いながら挑む。雄のシンボルをこれ以上ないほど見せつけて握り合っているのだから、祖父からして自慰をしていながらにも関わらず、無理矢理絞られているような錯覚を得ているに違いなかった。
じゅぐ…、ぬぢゅ!ぬちゅッぬちゅッヌヂュう…!!
ぢゅぶ!ッジュコジュコジュコジュコ……ッ!
「ッおお!ッお!っっがぁァ!ッああ、チンポ、堪らん…!」
「………ッ!」
「ぐぉおッ!!……!ッん、ッんうぅ!はあ、んぁあ!」
「降参する?」
もしかすると、と思って先に投げられた言葉をそっくりそのまま打ち返す。あまりに気持ち良さそうに頭を振るもんだから、つい出てしまった言葉でもあった。
これも血筋なのか、口ぶりから判るように虎も言葉による攻め立てられるというシチュエーションの属性に十分対応できると高らかに宣言しているようだった。それを意味するものがなんなのか理解した虎は、苦と悦がドロドロに混ざり切った顔と、獰猛に狩りをするという意識を持った鋭い目つきで挑発を受けて立つ。
「なんッの……、こげなもんじゃ、つまらんぞ…、男見せてみいッ…!」
「じゃあ、行くよ」
「…おう、来いや…」
そう告げる虎は、手拭いの働きを無碍にする早さであっという間に汗まみれの面になってしまったものの、実際にそう言うのだから仕方なく、そして遠慮も容赦も忖度もなく、本格的に仕返しじみた上下運動をお見舞いしてやる。
手とチンポから伝わってくる虎の握力は徐々に増していき、手を逃がさず、自らも離さずと言わんばかりに強く、正直なところ半ば痛みを覚えるほどではあったが、祖父とともに上り詰める快楽の為なら、そんなものは中止する理由にもならない程に些細なことだった。
ぬぢゅ!じゅぐヌチャヌチャヌチャヌチャヌチャ!
「ッむ、う!あッ、ああぁあぁ!!」
叫びに等しい音が上がるに合わせて、ビクリビクリと背を震わす様が愛おしい。手の圧迫を弾き返そうと二本の一物が膨らんで汁を垂れ流す様は何度見ても見飽きぬ光景だった。密着したチンポから出る先走りがこちらのモノにぶちまけられ、負けじと透明な体液を祖父の魔羅にぶっかける。結果として擦り合いの時間を経るたび、肉棒がどろどろと液体に揉み込まれていき、我慢だとか限界だとかを考える猶予がなかった。きっと、血族でありながら身体のマッチングが良いという稀有な組み合わせだったのだろう。少なくとも、興奮が途切れぬよう陰で見えぬ努力を祖父が行い続けている可能性は否定できないが。
「ッんあ!ッ良、い…!其処、じゃッ、!ッがぁ!ッふンン!んッ、んう、ンンン!おォォおォッ…!!」
「い"ッ、良いッ……!雄比べ、っく、堪らんのうッ!ッがあ、ッぬァァ、ッッああッ!!」
ヌチャヌチャと鈍いものから始まった交じり合いは、速度の上昇に伴ってアクセントを次第に変えていき、こんなことでもしないとあがらないのではないかという精強な響きへと変わっている。
どちゅッどちゅッどちゅどちゅッ、どちゅッどちゅッ!
グチョ…ッ!っぐちゃぐちゃぐちゃ!ぬぷッ……!
「来るッ!あ"ああ"あチンポええッッ!!ッおぉぉおお!ッおお!ッおっ、ッお、ッおぉ、ッおぉぉ!!」
亀頭責めという一方的な嬲りから兜合わせになりチンポへのシゴきが露骨に激しく変わりだした頃、全身へと走る電気が少しずつオーバーフローしてはまた直前に戻されるという感覚に襲われ始めていた。気持ち良いのだから今更この身に何が起きようがどうでもいい心算なのだけれども。
「ッ爺ちゃん……あッ!」
「おッおぉ!どうしたァ…!ッふん、ッおら!」
どちゅン!!
「ああ“あぁあッ!!ッんんン"うぅう!!」
祖父を乞う発声が幾度と無く高鳴る。ローションでぬめりキャパシティが詰め寄って来ているのを感じていた。小便を催す官能と酷く類似した其れが徐々に徐々に、すぐ側にまで近付いていることを虎に教えようと試みるのだけれども、あえて聞かぬフリをしているのか、はたまた祖父自身もこちらがそうしたようにマイペースに快楽を貪りたいと考えているのか。それは分からないが口を開こうとするその都度に決まって嬌声の上がってしまう気持ちが良いポイントを狙ってくるものだから、告げることすらままならず時間だけが過ぎていく。
「ッおら、そげに騒ぐと…婆がこっち来ちまあぞ!」
グイッ!
「ん、むッ、わッ………!!」
そりゃあ、居間より奥で台所から見えない空間とは言っても、誰より雄々しい猛りを見せつけて喘ぎ出したのは爺ちゃんが先であったはずだろうに理不尽な。文句を飛ばす隙を与えず、肩に腕を添えたかと思うと、力任せに虎側へ釣り込んで見せる。刹那的過ぎてあわや見逃してしまった抵抗の時間も無駄となり、勢い余って筋肉の布団に飛び込む形相を取ってしまい。衝突の恐怖から反射的に目を閉じてしまうが痛みは一切感じられず。
「騒ぐガキにゃ、躾せんと、なぁッ!」
ぼすっ、と音がしたかどうかは定かではない。瞳を開くまでの真っ暗な視界の中で感じられたことは、口元に感じた生暖かい感触だった。何が起きたかと恐る恐る光を受容して見れば、壮烈たる雄じみたケモノが一匹、顔を数十度傾けては唇から唇に零距離で吸い付いている光景だった。次々と叶っていく邪な欲望の数々に、明日命を落としてしまうのではないかと気が気でなくなってしまいそうだ。
「んヂュ…ッ、ん、ふッ、ンン…!」
「ッんぶ、ッ、ァあ!ンンうゥゥうッ………!」
太くてザラザラしたネコ科の舌が口内を事細かに蹂躙してくる。驚嘆して閉じようとする口角を顎から抑えてぐいっとこじ開け、硬口蓋から頬粘膜、ベロの下にある口腔底まで余す事なく貪る。ルートを一通り回ったと思えば歯の裏から歯茎まで見逃さず執拗に舐り、大体十秒に一回と不定期な間隔で鼻から大きく息を吸い込んでは、生理現象として分泌される唾液の全てを奪い去っていくのだ。
「んん"んんん"ん"ん"ッッ………ッ!!」
「ッふん!ッふ、ッふん!ふん!」
苦し紛れでも漏れてしまう呻き声と荒い息遣いは、連結された口腔というトンネルで作られた空間で押し留められ、結果的には室外に嬌声を許すのを防いでいた。
「んぶ、んッふうぅう!ッんっ、んッ!」
「ッはぁ!ッぐおォォ、おッぉお!ッぐ、ぐうう!」
鼻腔同士が圧力をかけて強くくっついている所為で上手く空気を取り入れることができないことに遅れて気づくも、その間数秒足りとも唇同士の濃密な接触を解いてくれることはなく、酸素を求めて涙腺を潤したのを見ては堪え性の無い孫だと言わん気な顔付きをして、しかし嬉しそうに人工呼吸の容量で吐息を押し付けてくる。深呼吸で鼻から息を吐き出していくタイミングが口内の強奪予告の合図になると理解してからはこの状況にも慣れ、悲願としていた祖父の吐息は一生分以上に味わえたことに相違なく、虎から施された酸素が無ければ窒息していただろうと、虎とのセックスアチーブメントがややアブノーマルな性癖を含めて少しずつ埋まっていくことに感謝と感激を募らせる。
ジュルルルルッ…………。じゅぷ、ッじゅぱっ……!
罪滅ぼしかお返しかを意識していたか定かではないが、数回に渡って盗まれていく水分と、送り込まれてくる空気にすっかり喉奥が乾いてしまい蒸せ返りそうになる、背中をタップしてそろそろ良いだろうと休戦を告げようと動き出す前に、それすら見越した祖父は先手を畳み掛ける。
「ほォれ、くれた分ッ、返しちゃらあぞ……!」
「ッッッ…?!」
ぐぷッッ……!
予見していたよりも遥かに大きな量が溢れて流れ込んでくる。普段口にする水よりも粘度が高く、加えて温度も人肌かそれ以上に温いものであったから、正直に言えば飲水としてさほど旨くはなかったのだけれど、虎獣人の遺伝子を感じられたことで幸福度合いが必然的に最高潮へと押し上げられ股間を濡らす。祖父の汗ばんだ良い匂いが香った。
一滴も溢さないとする強い意思を見せながら、物理的な許容量を超えてしまわぬよう気を配り、適量に何回かに分けては喉奥へと運び込んでいく。気休め程度に喉が潤され、一安心とばかりに嘆息した。しかしその程度で終わる訳は決してなく。
ぐじゅッ………!
「ん"ん"ん"ん"ん"!!?」
「旨ぇか…ッ、どォら、休んどる暇は無えぞ!」
濃密な接吻を繰り広げる以前と比べて、状況は何一つ変化して改善されていないことを忘れてしまっていた。発声する器官と呼吸を行う気道を塞がれてしまった状態になってしまっているのだから、状況は著しく悪化しているのが適切だろう。屈強な雄に逆らうとどうなるか教えてやると躾のように激しい動きは、時を経るごとに大きくなっていった。
どぢゅッッ…!ヌヂュヌヂュヌヂュヌヂュヌヂュ!!
祖父の猿真似でしか対抗できないのが手のひらで踊らされているようで癪だったが、残念なことにこれといった革新的なアイデアも思い浮かばない。負けじと舌先を捩じ込んで汚らしく音を奏でながら、同じように唾液と酸素を奪おうと行動してみるも、虎は体格差を活かすことで自在に鼻呼吸ができるのを失念してしまっていた。
「ッふー!ッッふンンンン"!ッぬ"!ッぐぉお!!」
必死で捕まえた虎の髪質は柔らかく、キスを通して唾液の交換をしながら祖父に目をやると、怒気を纏ったときのように瞳が血走っている。それは理性による我慢の箍がとっくに外れきってしまっていて、孫といえど手加減抜きで挑んでいるということを示唆していた。祖父を攻め立てているはずで、あちらも十二分に感じているのは分かり切っていたことだったが、雄のプライド故か一向に臨界点を見せる気配を感じさせなかった。
「ッは、ッは、むう、ッッんぐ、ッぢゅば!」
大したことのない反抗しか出来なかったものの、虎は用意していたシナリオ通りに孫がやり返して来たことはやはり気を良くしたらしく、ご褒美と評して肉棒を根本へ、どちゅんと数発食らわせながらこちらの後頭部を押さえつける。ディープな唇同士の交わりが好きなのか、ハァハァと吐息を漏らして強く舌を暴れさせてきたかと思いきや、十秒と経たず口を離してしまい、すっかり二人の汗に塗れた布団にごろんと押し倒す。理性が微かに残っていたのが幸いしたのか、腰から肩へ、首を浮かせ後頭部が優しく地についた。その優しさを最後に祖父はぷつんと、はたまたガタンとリミッターが外れ、完全なるケモノとして堕ちてしまう。
「……ああッ!」
声が上がるが早いか、跨われマウンティングポジションとなった祖父は両腕を引っ掴んで暴れられぬように固定するためか。すかさず唇を奪い、同時にチンポへの容赦ない扱きも抜かりない。抵抗する気など毛頭無かったが、獣人の性がそうさせるのだろう。無理やり侵入してくる舌は縦横無尽に暴れ回って口の中を滅茶苦茶に掻き乱していく。飽いたようにピタッと侵攻を辞めたかと思えば、チンポを激しく絞りながら唾液を吸い尽くされる。
じゅぐ……!れろれろれろれろ……、じゅずずずず!!
じゅば!ジュルルルルルッ!!じゅばじゅばじゅば!
「~~~~~~ッ!ッッッ!」
「ハァッ、ハァ!ッハァ!ッグルルル!ッぐぅう!ッふん!ぐるる…ッ!」
ジュコジュコジュコジュコ!!ッずりゅうう!
ずちゅん!ズチュッズチュッズチュッ!!
獣人らしいケダモノじみた力で圧倒してくる技量を見せつけてくる虎に、少しずつ反発する気力が削られていくのが分かった。そして案の定と言うべきか身体に、正確には扱かれまくった肉棒に変化が訪れる。
「あァッ、爺、ち…ゃッ………!」
「グルルル…!!ハァッ、ッハァ…!ッハァ…!」
残念なことに理性が遥か彼方へ飛んでいってしまったケモノに乞う言葉が届くことはなかった。もしかすると耳に入ってはいたのかも知れないが、色欲の渦に呑まれ切った雄がそれを聞き入れることが出来ようか。それでも限界が先延ばしになることはない。
「何か、チンポ、変…かも……知れッ……んん"むうぅ"うッ?!」
咄嗟に虎が動きを変えた。
荒い息と共に膝立ちになってはぐるりと百八十度を変え、目前に豊満な臀部が露わになる。やや数秒遅れてこれまでに無かった暖かみが肉棒を包み込んだ。肘を立てて視線を広くしてみれば、虎は顔を股間に埋めながら手を激しくピストンさせている。鈴口、亀頭に始まり、中へ中へと迫る滑ったザラザラとした特徴的な感覚は、今度は口を蹂躙した舌遣いと、唇で挟み込む荒技でチンポを攻め立てているのだと理解した。トドメ打ちと言わんばかりに、虎はこれまでの集大成を本気で穿つ。見たことのない祖父の姿に、すでにぼろぼろとなった根気は成す術もなくすんなりと瓦解していく。
じゅぽッ……!ぐぢゅヂュヂュ!ずりゅぅうレロレロ!
「ッふン!ぐッ、んぶ、ふッ!ッん"んうゥゥ!!」
グチャグチャグチャグチャ!ぢゅぱぢゅぱッじゅズズズズズ!!
「爺………ちゃッ、なん、か…………!出ッ……あ、あァ、あッ!」
じゅるッ、じゅぐッ!ッぬぽ!ッじゅ、ぢゅぐぢゅぐぢゅぐ!
ビクンッッ!
「ッ……………!!」
ヌチャヌチャヌチャヌチャ!ジュルルルルル!!
くちゃッ…………ぐぽぉッ、くぶッぐぽッぐぽッぐぽッ!!
ビクッ、ビクッ!!ッッビクン!!!
体躯が過去最高に震え出したのを感じて、虎も最後のラストスパートに入る。チンポを一気に口内に咥え込んだかと思えば、埋めた頭を更に奥まで押し込んで平気で喉奥へと連れ込んでいく。先端は虎の喉を軟口蓋を突き上げ、先走りを運ぶ尿道が含まれた肉を舌で巻き込み舐り倒す。もう手と違い頭をぶんぶんと上げ下げし、汗が太腿にぽつぽつと付着する。その中で、虎の声がフィニッシュの決め手となった。
「射精けェ………ワシに、雄汁見せてみいッッ!!!」
そう言って、再びチンポを奥深くまで咥え込んだあとだった。
ぢゅぐぅぅぅッ!ぢゅるッ、ぬぢゅぅうゥゥ!!
「あッ、あぁあ"あァアぁあァァァあぁああああぁあァァァァあァあぁァァ"あ!?!!!」
ビクンッッッ!!!!!
「グルルルッッ……ぐッッ、ぬぅぅううう!!!」
びゅくッ!ビュルルルびゅるるるるッ!!
びゅぐぅぅう!ッびゅぐッッ!びゅッ、ビュルルル!
ビクン!ッビクン!ぢゅぼ!ッビュクッッ、ビュル!
肉棒から何かを勢いよく漏らしてしまったのは間違いない。しかし、それがなんなのかは発情めいた虎が口に収めてしまっていたせいで明らかにはならなかった。
「ッあ、ッはぁ……はぁ……ハァ……んあッ?!」
ゴクリ、ゴクリと水をがぶ飲みしたときに発せられる音を立てて、虎がチンポから口を離した。ぬぽんとエロティックな効果音をさせる直前、勿体なさそうに鈴口に舌を這わせて舐め取ってからにしたものだから、発射後の敏感肌にむず痒さを覚えて思わず身じろぎしてしまった。
汗まみれとは言えどスッキリして極度の疲労を抱えているのが目に見えて分かったのだろう、疲労困憊となった孫を見下げ祖父はニヤリと犬歯を見せたあとに、行為の最中と同じように身体を引き寄せて、今度は優しく抱擁し頭を撫でてくれた。
「がいに出したのう」
「ハァ……ハァ…気持ち、良かった……」
「こげがセンズリじゃて、まあ、少しふざけちょったがな」
絶頂した孫を見て安堵したのか、祖父も嬉しそうにしていた。
「すっかり汗かいちょうが、こっそりもっかい浴びてき」
虎は手ぬぐいで互いの汗を拭う。それに賛成し部屋を出て浴室へ向かってからどうしたかはいまいち覚えていない。朧げに、うっすらとしていることは、シャワーを浴びたときローションがべたべたネチャネチャと落としづらかったことと、太腿から足にかけて、汗とは異なる白濁の点々とした液体が付着しておりこれもまた洗い流しづらいことだった。
後日、一人でセンズリなるものを実践してみたとき、その形状から分かったのは、付着していた液体が祖父の精液であるということだった。
……というのが、約二十年ほど前に経験した俺の精通エピソードとなる。
あれだけ白熱した体験談を思い出して、僅かに股間に集まり始める血流を感じていながらも、窓枠の外に向かって、ふーっ、と煙を吐く。社会人のストレスから手を出した煙草の愛煙歴は五年をとうに超えた。口から漏れた煙は、大部分が部屋から外の世界へ飛び出していくものの、群れからはみ出したほんの一部はふわふわと部屋の中へ漂っていく。右手の人差し指と中指に挟まれた紙巻き、その先端から登る煙は、仏壇に供えられた線香よりも太く、吸わない者からすれば不健康で不潔なものとなろう。あの虎も煙を嗜んでいるのは見たことがない。おそらく今抱き着こうものなら、煙草臭いと眉を顰めるに違いない。そして今ならばもっと、あの頃よりも虎を満足させる事ができるはずだろうという自信も今ならばあった。
あの性教育エピソード以降というもの、独りで自慰へ向かうにあたって、祖父がオカズとなって致すというのはまあ多々ある話で。現在に至るまでの間、祖父とはあれからも似たような情景で身体を共にすることがあった。虎は男色家というわけではなかっただろうが、こちらから求めた日には嫌な顔ひとつせず性処理に対して寛大に付き合ってくれた。流石に気を遣って、獣人の発情周期である満月の日かどうかだけは念入りに確認をした上でという事だけ明記しておくが。そしてあれほどまでに分かりやすく、性豪と表現できるのが似合う雄というのも、しばらく祖父で固定され動かない認識となっている。
【似たような体験】というのは、さして大きな差と呼べるほどのものではないけれど、またいずれ話そう。
あの虎を想って吸い込み、吐き出した煙は天高く青空へと昇っていき、たちどころに消えていった。
終