女の子が虫の遺伝子と融合しちゃうお話【改】

  [chapter:融合]

  頭が重い。

  閉じた瞼を通じて感じる光りが、私の意識を覚醒へと近づけた。

  「ん…… ここは」

  天上から沢山の管が垂れ下がっているのが見える。

  ピッピッ、という規則正しい電子音と、鼻をつく消毒薬の匂いが、ここがどこなのかを教えてくれた。

  「病院? 私、どうして……」

  大部屋のような広さの病室の中央に、私は寝かされていた。

  他にベッドはなく、その代わり部屋を埋め尽くすほどの医療機器が置いてある。

  無数のケーブルやチューブがベッドの周囲に張り巡らされ、病室とは思えない異様な光景だった。

  まるで、研究施設を思わせるような。

  『ようやく気が付いたようだね』

  男の声がスピーカのような物を通して聞こえてきた。

  医者だろうか…… 聞いたことのない声だ。

  「あの…… わたし……」

  頭がボーっとして、上手く考えがまとまらない。

  自分が何でこんな所に居るのか、ここがどこなのかを聞きたいが上手く言葉が出てこない。

  『おめでとう! 君に施した実験は大成功だ!』

  スピーカーから聞こえる男の声は嬉しそうだった。

  実験? いったい何の実験だろう。

  全く身に覚えがない……

  「実験って…… 私、何の実験をされたんですか?」

  自分で発した言葉に、少しずつ恐怖のような物を感じ始めた。

  周囲の光景と、鬼気迫るような男の口調が、私に不安を与える。

  『君の願いは現実のものとなった。 喜んでくれると嬉しい』

  「私の願い? あの…… それってどういう」

  必死に記憶を探ろうとするけど何も思い出せない。

  私の願いって、何? それに、この人は誰なの? 疑問ばかりが頭に浮かぶ。

  『君は力を欲した。 何者にも負けない絶対的な力を』

  「え?」

  この人は何を言っているのだろう。

  そんなの、私は望んだこと──

  『学校で同級生達から激しいイジメに遭っていたようだね?』

  「……」

  なぜ、この人がそれを知っているの?

  確かに、私は同級生達から毎日のように殴られたり蹴られたりしていた。

  でもそれは当たり前だと思っていた。

  だって私には友達と呼べる人が居なかったから。

  誰も私なんか相手にしてくれなかったから。

  教師ですら、私のいじめを黙認していた。

  だから仕方が無いと思って我慢していた。

  『可愛い顔をして、中々エグい願望を持っているようだ。 そんなに同級生達を殺したいのかい?」

  「あなた…… 一体何を言って……」

  心の中を見透かしたかのような男の言葉に、私は恐怖した。

  自然と体が震え、心臓が早鐘を打つ。

  『いやいや隠さなくて良いよ。 その感情があったおかげで君は今、存在することが出来ているんだから』

  確かに私は散々な目にあっている。

  みんな殺してやりたいとさえ思っている。

  でも、私にはそんな事をする勇気は無いし力も無い。

  ただ思っているだけ……

  それが私にとって唯一の気晴らしだったから。

  『順を追って状況を教えてあげないといけないよね。 君は先週この研究施設に運び込まれたのは覚えてるかい?』

  周りを見渡す。

  やはりここは病院などではなく、何かの施設のようだ。

  よく見ると、天井から伸びる沢山の管は、私の手や足だけでなく体の至る所に伸びて突き刺さり、何かの液体を流し込んでいた。

  『実際には高度な病院施設になっているけどね。 君はちょっと特殊な遺伝子を持っていてね、それでここに回されてきたんだ。 同級生に階段から突き落とされてたこと、覚えてない?』

  「あっ」

  そうだ。

  確か、私が掃除当番を押し付けられた時だったと思う。

  階段の上から男子達が私を突き落とした。

  咄嵯に身をかわそうとしたものの間に合わず、頭を強く打ち付けた。

  でっも、それから先の記憶は無い。

  「あの、私怪我をしてここに?」

  『あ~ そっちは全く問題ないよ』

  「でも病院に運ばれたのは先週だって…… それまで意識がなかったという事ですよね?」

  『まぁそうだね。 でもそれは別の理由でだから』

  別の理由?

  まさか植物人間になっていたのだろうか。

  体中に突き刺さっている管の量だってどう見ても普通じゃない。

  それになんだか凄く体が怠いし、重い感じもする。

  一体何が私の体に起こっているのだろうか?

  私は不安で胸がいっぱいになった。

  しかし、そんな私を気にする事無く男は話を続ける。

  楽しそうに、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のような口調で。

  「君の持つ遺伝子は、この実験にふさわしいものでね。 遺伝子融合実験初の被験者になってもらったんだ」

  遺伝子? 融合?

  話の内容が私の理解を超えていた。

  しかし、何かとても恐ろしい事に巻き込まれているという事だけは、はっきりと分かった。

  『簡単に言うと、人の体に別の生物を掛け合わせて、進化…… いや、新たな生物として生まれ変わらせる実験だよ』

  「え?」

  『君の体に様々な昆虫の遺伝子を掛け合わせて融合させたんだ』

  昆虫を掛け合わせる? 私の体に!?

  私は虫と融合させられたという事?

  そんな馬鹿げた話があるわけがない。

  そもそも、どうやって私の体に昆虫なんて入れたというのだろうか。

  いくら手術をしたって私の体は人間のはずだ。

  『君の体にはバッタ、クモ、蠍、ムカデ、ゴキブリ・・・ ありとあらゆる虫の情報が遺伝子レベルで捩じ込まれている。 もはや生物学上、君は昆虫だ』

  私は思わず自分の手足を見る。

  いつも見慣れた白い肌、どこにも虫のパーツなど見当たらない。

  『初回の遺伝子融合覚醒実験の様子を見せてあげよう』

  私の正面に備え付けられたモニターの電源が入る。

  そこに映し出されたのは、大量の管に繋がれ全裸でベットに横たわる……

  「なに…… これ……」

  茶褐色のような色と堅そうな皮膚を持つ顔に、触角のようなものが生えた頭部。

  口からは収まりきれないほどの鋭い牙が突き出し、下顎には蠅の触角のようなものが見える。

  脇腹付近に気門のようなものが並んで脈動し、体の至る所から出来損ないの昆虫の足のようなものがビクビク蠢いているその姿は、まさに昆虫を思わせ異形の姿だ。

  「ひぃ!」

  思わずその不気味な姿に悲鳴が飛び出す。

  これが、声の主が言っていた人間と昆虫を混ぜ合わせた生物の姿だというのだろうか。

  人間を逸脱してはいるが、その体付きや顔には面影が……

  「まさか、これって!?」

  私の問いに答えはなく、モニターの映像が別の場所を映し出した。

  そこに映し出されたのは……

  「結衣…… さん?」

  分厚い壁に四方を囲まれた部屋に、同級生の結衣が腰を抜かし何かを見上げている。

  私を毎日イジメていた中でも、特に陰湿な同級生の一人。

  その彼女の視線の先には、先程の生物が佇んでいた。

  『助けて…… お願い、私まだ死にたくない……』

  結衣が顔をグチャグチャにし、泣き叫ぶ。

  しかし、その生物は彼女のそんな姿に興奮でもしたかのように、全身に力を漲らせ大きく口を開いた。

  『グギャー! キシャー!!』

  人とは思えないような奇声を発し、化物の体中至る所がボコボコと波打っている。

  どこから現れたのか、大量の虫がその体を一瞬で覆い尽くし、表皮を鎧のような硬い皮膚へと変貌させていく。

  頭、体、脚、腕が次々と虫に覆われ硬質化すると、最後に指先の第一関節を吹き飛ばし槍のような凶暴な爪が姿を現した。

  モニターに映るあまりに悍ましい光景に私は目をそらし、口元を手で覆った。

  『どうだい? 凄い進化だろう? ここからが特に凄いんだ。 目を離さずよく見ると良い』

  そんな私に、男は興奮しながら話しかけてくる。

  その言葉に、私は恐る恐る視線を画面に戻す。

  もはや人とは思えない化物と化した生物。

  人間と昆虫を無理矢理混ぜ合わせたような、悍ましい姿になったソレは信じられない行動を取った。

  「ぎゃっ──」

  結衣の一瞬の悲鳴の後、彼女の頭部から血や肉片、そして脳みそと思われるものが飛び散る。

  ドサリと倒れた結衣の頭部が半分食いちぎられ、化物の口元からはみ出していた。

  「うっ! ぶぉえぇぇ!!」

  そのあまりにも凄惨な光景に、私は胃の中の物を全て吐き出してしまう。

  恐怖で体が震え、股間にジワリと暖かい感触が広がる。

  そんな私の様子を気にもせず、男は話を続けた。

  『どうだい? これが君が欲した力だ。 気に入ってくれたかな?』

  私が…… 虫の化物になった私が結衣を殺した。

  それもあり得ないような惨い殺し方で。

  私が結衣の頭部を食喰い千切った?

  『まさか虫の遺伝子を融合しただけでここまで進化するとは私もびっくりしたよ』

  「何よこれ…… ふざけないで! 誰がそんな事を頼んだって言うの!」

  私は妄想だけで十分だった。

  本気で殺したいとなど思ってなかった。

  それもあんな姿になってまで……

  『でも実際、こうやって君の手で殺しているじゃないか。 楽しそうに食い殺した。 これが力を得た君の本性さ』

  違う、そんなはずはない。

  だって私は、今まで普通に暮らしてきたんだもの。

  私は人間、虫の化物なんかじゃない。

  私は必死に自分自身に言い聞かせる。

  『同級生を殺すだけの圧倒的な力を欲していたのは君だ、違うのか?』

  「違う! 私はこんなこと望んでない!」

  大声で否定する。

  そうだ、力が欲しいなんて思ったことはない。

  虫の遺伝子と融合させられたなんて話も信じられない!

  しかし、男はスピーカー越しで笑いながら答える。

  その笑いが私の神経を逆なでする。

  『君の体は覚えているはずだ。 人間の力を遙かに超えた力をその身に展開し、君をイジメていた人間を殺した快感を。思い出してみろ、君の本能はどう感じた?』

  私の…… 本能。

  私はあの映像を見て恐怖を感じた。

  現に股間を濡らすほど……

  違和感を感じた。

  恐る恐る股間に手を伸ばし、その液体を指に絡め取る。

  ネットリと糸を引くそれは、紛れもない私の愛液。

  あんなにも悍ましい光景を見た私は、恐怖でなく興奮していたのだ。

  それを理解した時、私は自分で自分が分からなくなった。

  虫の遺伝子を強引に組み込まれ、人間の理性を既に失ったのだろうか。

  あんな惨い殺され方をした結衣を見て、私は性的に興奮した?

  『君は力を手に入れたんだ。 誰も君には敵わない絶対的な力を。 それでも、イジメられる事を望むのか?』

  毎日罵声を浴びせられ、イジメられていた日々を思い出す。

  理不尽に殴られ、蹴られていた毎日。

  許せななかった。

  私の心が、体が内側から湧き出る怒りに震えた。

  それは、生物の持つ攻撃本能そのもの。

  一度覚醒した本能は、自分を守るために強制的に遺伝子を変異させていく。

  室内の計測器からビービーとけたたましい音が鳴り響く。

  『そうだ、その感情が君に力を与えてくれる。 もっと欲するんだ! もっと! もっと力を欲しろ!!』

  全身の血流が激しくなったかのように体が熱くなる。

  それと同時に体の節々から何かが這い出てくる感触を覚えた。

  細胞が活性化し、体からメキリと音が鳴り響き、骨が軋み体中に激痛が走る。

  『君は選ばれた存在なんだ! だからもっとふさわしい姿になって復讐するんだ! 君はもう人間の枠を超えた最強の生命体なんだ!』

  男の言葉を合図に私の体は変化を始める。

  体中の皮膚が裂け、ギチギチと骨がきしみながら体の構造が変わっていく。

  「うっ、うがーー! シャァァアアア!」

  私の口から人外の叫び声が上がる。

  『素晴らしい!!』

  男の声を聞きながら私の意識は闇に落ちていった。

  ◇◇◇

  ピピピピ

  目覚ましの音が部屋に張り響く。

  気がつくと私はベッドの上にいた。

  「……ここは」

  周りを見渡すとそこは見慣れた光景。

  自分の部屋だ。

  一体いつの間に私はここに帰ってきたのだろう、記憶が曖昧ではっきりとしない。

  私は確か……

  「うぐっ!」

  突然、胸が苦しくなり思わず手で押さえる。

  心臓がドクンドクンと激しく脈打っている。

  息が苦しい。

  体中が熱い。

  それは、いつもの体の反応。

  私の心が学校に行くことを拒絶している証。

  「学校……」

  その時、部屋のドアが開く。

  そこには心配そうな顔をした母の姿があった。

  「体調はどう? 学校行けそう? 病み上がりだし今日は休む?」

  「大丈夫だよ。 ありがとうお母さん」

  私は笑顔を返す。

  母はそんな私を見て安心したのか、そのままリビングに戻っていった。

  ふと、横にある姿見に私の姿が映る。

  私はベッドから起き上がり、姿見の前に立つ。

  パジャマを脱ぎ、下着を脱いで全裸になると、鏡に映った自分を見つめた。

  「何も変わってない。 人間の姿……」

  鏡に映る私は、どこから見ても人間の女の子だった。

  あの悍ましい姿はどこにもない。

  しかし、私の本能が人間とは異なる存在になった事を告げてくる。

  私は、部屋の中に潜む無数の虫達の気配をはっきりと感じ取っていた。

  蜘蛛、ダニ、蠅、ゴキブリ……

  部屋の隅で息を潜め、自分より下等な存在を捕食する機会を待っている。

  彼らの放つ剥き出しの本能に、私は激しい高揚感を覚えた。

  ビクンッ!

  私の体が小さく震える。

  手を見ると太い血管が走り、爪が割れ奥から鉤爪のようなものが突き出していた。

  鏡の中の私の体がボコボコと波打ち、肋骨が皮膚を突き破って大きく左右に開き、節足を持った昆虫が持つ足のような姿へと変貌していく。

  「ふふっ」

  私は確信した。

  あれは夢じゃ無かったんだ。

  私はもう人間ではなく、虫の遺伝子を融合した化物になってしまったんだ。

  そして私は決意する。

  この力を使って、私をイジメてきた奴らに復讐をすると。

  「キシャー!」

  人とは思えない奇声を発する鏡に映る自分の顔は、下顎がバックリと開きドロリとした涎を垂れ流している。

  漆黒の堅い外骨格に包まれた異形の姿に変わり果てた自分の生まれ変わった姿を見つめ、これから起こる惨劇に胸を膨らませていた。

  [newpage]

  [chapter:覚醒]

  ◇◇◇

  「バーカ、お前なんか早く死ねよ!」

  放課後、教室の片隅で、私は数人の同級生達から惨い言葉と暴力を浴びせられていた。

  クラスのみんなに寄って集って殴られ、蹴られ、罵声を浴びせられる。

  それはいつもの光景であり日常だ。

  しかし、今日は違う。

  この状況の中、私の頭の中ではある光景が蘇り埋め尽くされていた。

  結衣が無残に死んでいく様を見たときは気分が悪くなったが、今はそんな感情は微塵もない。

  それどころか思い出しただけで興奮すら覚えるほどだ。

  (私、これからあんな悍ましい事をするんだぁ)

  無意識に自分の口角が上がっていることに気付く。

  自らの意思で虫の遺伝子を覚醒しようとする今の自分は、その思考回路すら化物に変わりつつあった。

  「これから皆あんな風に死んじゃうんだね」

  自然とそんな言葉を口にした瞬間、人では得る事の出来ない力が全身を駆け巡った。

  「はぁ? こいつ何言いってんの? ついに頭がおかしくなっちゃった?」

  クラスメイトの一人が私の言葉に反応して、嘲笑しながらそう言った。

  そう、その言葉に間違いは無い。

  だって私はおかしいのだから。

  この体には虫の遺伝子が融合され、これからその力で殺戮を繰り広げる化物に変わるのだから。

  彼らに絶望的な恐怖を味合わせるため、私は体内でより身の毛もよだつような姿へ変異するために遺伝子を組み替えた。

  私を構成する遺伝子がその情報を元に再構築を始め、全ての細胞が作り変えられていく。

  体の中で臓器が激しく動き回り、腹の中から大量の液体が逆流してくる。

  「ぐぇ!ぶぉえッ!!」

  吹き出すように口から白い液体が床へビチャビチャと吐き出され、胃の内容物が床にまき散らされる。

  その中に、人間の体の一部が混じっていた。

  「汚ったねぇなぁ! お前何…… お、おい、何だよこれ!?」

  一人がそれに気づき驚きの声を上げると同時に、周りの子たちも恐怖に支配された表情を浮かべている。

  私はその様子を見て口元が緩む。

  (そういえば、朝お母さんを食べたんだった…… 美味しかったなぁ)

  体内から出てきた母の残骸を見ながらゆっくり立ち上がると、クラスメイト達は私の顔を見て顔面蒼白になる。

  遺伝子改変を開始した私の顔は、内側からボコボコと波打ち、制服の下がボコリと大きく盛り上がる。

  「ねぇ、私の中からチカラが…… ぶボッ! 溢れてきて押さえられないの…… ぶぉえェェェェッ!」

  口や鼻、耳から夥しい量の虫が噴き出し、それは秘所からも同様にビチャビチャと糸引く白い体液を垂れ流しながら、床一面を大量の蠢く虫で埋め尽くしていく。

  あまりの気持ち悪さにクラスメイト達は悲鳴を上げ、教室から逃げ出そうとしていた。

  しかし、虫たちが次々と彼らの体にまとわりつき、体の自由を奪う。

  「さぁ、みんな…… グオッボ! 楽しみましょう…… グエェッ!」

  大量の虫が私の体を這い上がり、服を溶かしながら皮膚に纏わり付き隙間無くびっしりと体を包み込んでいく。

  体中を覆い尽くした夥しい数の虫は、次々と私の体と融合するかのように染み込み、幾重にもへばり付いては溶けて肉体と融合を繰り返していく。

  自由を奪われながらも、悲鳴を上げ逃げ惑う同級生たちの目の前で、私は異形の姿へ変貌を進める。

  指先が次々と吹き飛び、中から緑色の体液を垂れ流しながら押し出されるかのように槍のような鋭く太い爪が伸びる。

  足が弾け、昆虫を思わせる硬く異形の足へその姿と形を変えると、太くて凶暴な3つの爪が深く床を抉る。

  虫の遺伝子情報から、特に優れた機能を取捨選択し書き換えを繰り返しながら、肉体・臓器・骨格が再構成していくのが分かる。

  人としての姿は見る影もなく崩れ去り、血の代わりに備わった粘度の高い体液が、体の至る所からビュッビュッと吹き出し、触れる物を煙を上げて溶かしていく。

  体の内側から変異に伴うおぞましい音を鳴らし、歪な体に沿って張り付く虫たちが最後に強靱な外骨格へと姿を変え全身を包み込んだ。

  「キシャァッ!!!」

  人間では到底出せない奇声が教室中に響き渡る。

  最後に、虚ろな表情で同級生たちを見つめていた私の目玉が、大きく盛り上がって奥から押し出されるかのようにポンッ!と飛び出すと、真っ赤に染まる複眼が迫り上がり、私に新しい世界を見せてくれる。

  口に収まらないほどの強靱な牙が無造作に突き出した口をゆっくりと開き、どす黒く鋭い歯が一面ビッシリと埋め尽くされた口腔内を見せつけるかのように下顎を左右にバックリと開く。

  溶解液と化した乳白色の涎がドロリと垂れ落ち、床から白い煙と臭気が立ち上がる。

  「う…… うそだろ…… 何だよ、それ」

  クラスメイト達は、変わり果てた私の姿に言葉を失い床にへたり込んでいた。

  彼らを拘束していた虫達が、私の意思で一斉に離れ本体である私の元へ戻ってくる。

  膨大な数の虫が、私の脚を這い上がり股間に開いた穴の中へ、まるで巣穴に潜るように吸い込まれていく。

  体の変異で失われたエネルギーを補うかのように、虫たちが私の中に集まり力を蓄えてくれるのが伝わってくる。

  「うわぁああ! ば、化物!」

  「化物…… そうね、自分で見てもゾッとするおぞましい姿だわ。どう見ても虫の化物。 でもね?」

  私は声を上げた男子の首を異形と変わり果てた手で掴み、軽々と持ち上げる。

  彼の名前なんてもう思い出せない。

  今の私には、人間という下等な生物の識別なんて意味を成さないのだから。

  ただ一つだけ覚えていること、それは……

  「誰のせいでこうなったと思ってんだよ! キシャー!!」

  人外の悍ましい奇声を上げ、絶望の表情で変わり果てた男子生徒に向け下顎を左右にバックリ開くと、顔面に溶解液を吹き付ける。

  「ぎぃやぁぁあああッ!」

  彼の顔から煙が上がり、ジュクジュクと皮膚と肉が溶けて爛れていく。

  強烈な腐臭が教室に立ち込め、生徒たちはその場に嘔吐し悶え苦しみだした。

  「アハハッ どう? 私の体内で作った特製の溶解液は骨まで簡単に溶かしちゃうのよ。キャキャキャキャキャ!! アヒャァァァァ!!!」

  狂気に満ちた甲高い笑いを上げ、男子を放り投げ片手を向ける。

  私の意思に従って遺伝子構造が変化すると、手の平から大量の黄色い粘液が噴出された。

  「溶解液だけじゃなくて神経をズタズタに破壊する猛毒だってこの体は作れるの。 どうだ、想像以上に痛いだろ! ほらっ、もっとエグい物もくれてやるよ!」

  床で溶けただれ痙攣する男子生徒の腹部に体内で作り出した合成虫を口から大量に吐き出す。

  合成虫は、至る所から体内に入り込んで腐食液を吐きながらドロドロと肉を溶かし、内臓をグズグズに溶かしていく。

  「こんなに美味そうな匂いをまき散らせやがって、我慢できねぇじゃ──」

  原形をとどめないほどに溶解した男子生徒の頭を掴み持ち上げると、私が言い終わる前に溶けただれた腹部から下が千切れ地面に落ち、内臓がボタボタとたれ落ちた。

  「人間って、こんなに弱かったけ? まぁいいや、鮮度が落ちる前に喰っちまおうっと! アヒャヒャヒャ!!」

  凶暴な牙がいとも簡単に頭をかみ砕き、脳髄と血が勢いよく噴き出す。

  私はそれを一滴も逃すことなく舐め取り、濃厚な味のする脳髄をしゃぶりつくした。

  「人間の脳みそってこんなに美味しいんだぁ~ 私、味覚まで変わっちゃったのね」

  肉片や血がべっとりと付着した手を紫色の長いムカデのような姿をした舌でぺロリと舐め、生まれ変わった新たな自分の姿を確認する。

  「どうかしら? お前たちに復讐するために、人間を捨てまで得たこの姿と力は」

  腰を抜かす1人の男子生徒に向け、化物と化した姿を見せつける。

  その男子生徒は言葉も出せず、恐怖のあまり失禁しながらガクガクと震えている。

  「私ね、ちょっと体を弄られて昆虫の遺伝子情報をぶち込まれて組み替えられちゃったの。 虫の遺伝子が活性化すると、こ~んな風に変身しちゃうんだよね。 素敵でしょ?」

  私は恐怖心を煽るかのように口から肉片と血に染まった糸を引く唾液を垂らし、異形と化した顔を男子の眼前に近づける。

  「た、助けて…… 頼むから殺さないでくれ……」

  「こっちはあなたたちに復讐するために人間を捨てたのよ? 全員殺さなければ気が済まないの。 内臓を引きずり出して、激痛を味わいながら生きたまま食い殺してやるよ!」

  そう言い放ち、私は男子生徒の足を踏みつけた。

  「ぎゃぁーっ!」

  バキバキと足の骨が粉砕される音が響きわたり、一瞬のうちに足が潰れ肉片が散らばった。

  「うわーっ! あ、足が! あっ…… あッ!」

  痛みに耐えきれず意識を失った男子生徒の首を掴むと、力任せに引きちぎる。

  おびただしい量の血が噴水のように吹き出し、辺り一面を真っ赤に染め上げていく。

  「あはは! 脳みそたっぷり詰まってて、最高に美味そう!」

  私は、頭部から放たれる香ばしい匂いに我慢できず、大きく口を開けて齧り付く。

  強靱な下顎を左右に動かし、溶解液を滴らせながらグチャグチャと脳を咀嚼し、ゴクリと飲み込む。

  口の中に広がる濃厚な味にたまらず口元が更に大きく開き、頭部の肉も骨も喰らい尽くす。

  「やっぱり人間の頭部は格別だわ。 味も食感も申し分なし、癖になりそう」

  私は興奮冷めやらぬ状態で、次の獲物へと目を向けた。

  血だまりの中で絶望の表情を浮かべる人間のメス。

  既に逃げる気力も無く、恐怖のあまり失禁している。

  「次はお前を喰う」

  私は放心状態で腰を抜かしているソレに歩み寄ると、髪を鷲掴みにして強引に上を向かせる。

  そして、脇腹から突き出た昆虫の腕のような突起を伸ばし、右肩を貫いて意識を無理矢理戻す。

  「きゃー!! 痛い! 痛い痛い!!」

  悲鳴を上げる元気なメスに、私は顔を近づけて下顎を見せつけるかのように左右に開く。

  そして、口の中から蚊の口吻に似た針状の器官を伸ばし、ソレの額の上に触れさせた。

  「や、やめて…… うそ、こんな…… 私、死にたくない……」

  「アハッハッ! だめぇ~」

  プシュ!

  額に触れた針状の器官を更に伸ばし、エサの脳に突き刺す。

  そして、脳みそを啜り上げながら体内で作り出した溶解液を注入する。

  ビクビクと体を痙攣させながら、ソレは白目を剥いて口から泡を吹き一瞬で絶命してしまう。

  私はドロドロに溶かした脳を吸い付くし、用の無くなったエサをその場に投げ捨てると、次のエサへと近づいていった。

  「嫌だ…… 来ないで化物ぉ!!」

  「キシャー!!」

  ◇

  教室には、私の悍ましい本能を満たしてくれた犠牲者たちの残骸が無造作に転がり、床一面に血と肉片を垂れ流した地獄絵図が広がっていた。

  私は、様々な能力を試すため遺伝子情報を弄りながら、次々に同級生たちを喰らい殺した。

  蜘蛛の遺伝子割合を引き上げ、口から糸を吐き出して拘束し、溶解液で溶かしながら生きたまま食らって楽しんだ。

  スズメバチの遺伝子で、強靭な顎で頭部を砕き、毒針を体内に突き刺して即死させて楽しんだ。

  カマキリの遺伝子で、同級生たちの首を切断しては大喜びでかぶり付いた。

  ムカデの遺伝子で鋭い刃のような無数の足を伸ばし、逃げる同級生たちを串刺しにして引き裂いた。

  私は、途中から復讐ではなく食欲を満たすためだけに、同級生たちを殺していった。

  彼らを食らっていくうちに、人間という下等な生物の美味しさに夢中になっていたのだ。

  昆虫の遺伝子を無差別に展開したことで、私の肉体はより昆虫に近いものへと変貌しつつあった。

  もはや、元の姿など覚えてすらいない。

  私はもはや人ではない……

  人の遺伝子と昆虫の遺伝子が混ざり合った異形の虫。

  ただ、本能のままに人間という下等な生物を喰らい尽くすだけに進化した化物なのだ。

  だから、私はその本能に忠実に行動するだけ。

  「……。 上から逃した奴らの匂いがする。 エサだぁ!! キシャアァッ! 」

  背中の外骨格が大きく盛り上がり、巨大な昆虫のような羽が出現すると、天井を突き破りながら屋上へ向け飛び立つ。

  ◇

  轟音と共に屋上のコンクリートの床が崩れ落ち砂煙が舞い上がる。

  先ほど教室から逃げ出した生徒達が数名、恐怖で震えながら隅の方で固まっていた。

  「シャー!!」

  私は奇声を発しながら、さらなる異形の姿へと変貌した姿で砂煙の中からゆっくりと獲物に歩み寄っていく。

  そのあまりの醜悪さにエサ達は嘔吐し、恐怖でガタガタと震え動く事すら出来ない。

  「うわぁ!! な、何だよアレ!!」

  私の体は身長が2mを軽く超えるほどまで巨大化しており、体の至る所で自分の意思とは関係なくさらなる遺伝子の書き換えを進めていた。

  いつの間にか無数の視覚や聴覚器官が形成され、全ての方向の視界が頭の中で構成されている。

  体を包む外骨格の表面からは人が触れるだけで致死量となる猛毒が滴り、足の裏からは溶解液が染み出しているようで私が前へ進む度にコンクリートが煙を出しながら溶けていく。

  「キシャャーッ!! ギシャーー!」

  私はすでに人間の言葉を発する事すら忘れ、ただ人間を喰らい殺戮を繰り返すだけの化物と成り下がっていた。

  「ひぃっ!」

  「い、いやー 助けてー!」

  逃げ出そうとした一人のメスを簡単に捕らえ、首を掴み持ち上げる。

  軽く掴んだだけで、メスのエサは口から泡を吹き首が溶け、私はそのまま頭部を引き抜いた。

  脳髄がぶら下がる頭部を面白そうに見つめながら口を大きく開いて貪り食う。

  その光景はまるで地獄絵図そのもの。

  バリッ、ゴリゴリ……

  肉が裂け骨が砕ける音が鳴り響く。

  グチャグチャ、 グチャグチャ……

  内臓を引きずり出して貪り食う音が響き渡る。

  辺り一面に、血と脳漿の匂いが充満する。

  ほんの一瞬でエサは全て喰い尽くされ、周囲の生体反応は消失した。

  グジュグジュ…… カサカサ!

  私の臀部から、ムカデのような無数の足を持った尾が姿を現す。

  ソレは、意思を持つかのように動き出し、エサの肉片や骨を残さず喰らっていく。

  私は捕食を続ける尾を見つめ、自分の体が意思とは関係なくさらなる進化を遂げていることを実感していた。

  私は、本能に身を任せ人を喰らい、殺戮を繰り返す生物になったのだ。

  それが私が生まれ進化した理由。

  だから、この力で人間を…… 喰い尽くしてやる……

  そのためにはもっと力が要る。

  人間は賢い。

  だったら……

  この体に昆虫以外の遺伝子も取り込んで、更なる進化を続ければいい。

  この世の全ての生物の遺伝子をこの身に取り込めば、私は最強の生命体に進化できる。

  「キシャァーァァアアッ!」

  新たな獲物と力を求めて、見ただけで正気を失うほどの悍ましい姿をした化物が飛び立った。

  全身から猛毒を噴霧し、触れた物全てを溶解し跡形も無く溶かしながら……

  ◇◇◇

  とある研究所の一室。

  大量の血と原形をとどめない人だったものが散乱している。

  画面に映し出されているのは、どこかのイベント会場のようなホール。

  そこには、人を次々と捕食していく異形の姿をした生物と思われるモノが映っていた。

  明らかにこの世に存在しない悍ましい姿をした怪物。

  それは無数の生物をごちゃ混ぜにしたキメラのような姿に進化した、元人間の少女が成り果てた姿。

  机の上には血で真っ赤に染まったコントロールパネルがあり、その横に設置されたディスプレイにはその生物の体内にある遺伝子情報が表示されている。

  昆虫だけで無く様々な生物の遺伝子情報が何千ページにもわたってずらずらと並ぶ。

  隣の画面には遺伝子融合により進化を進めていく化物の姿が時系列で並び映し出されていた。

  時間経過ごとにその姿はおぞましく変化し、もはや人であった痕跡はどこからも読み取る事は出来ない。

  床に散乱した報告書───

  表紙と思われる紙には【遺伝子改造による戦闘生物兵器開発計画】と書かれていた。

  虫の遺伝子は人間の遺伝子より遥かに強力である為、その情報を人の遺伝子に追加し書き替える事により、進化を遂げる。

  しかし、その者はその姿に合わせるかのように人からかけ離れた精神へ変貌していく。

  そしてより優位な遺伝子を求め昆虫以外の生物の遺伝子融合を始めることになった。

  それは正真正銘の化物、いや生命体の頂点ともいえる存在。

  被験者1は生まれ変わった瞬間から殺戮を繰り返し進化を続けている。

  いずれはこの地球上のあらゆる生物の遺伝子を取り込み殺し尽くすだろう。

  プロジェクトは中止とし、改造生命体の処分を最優先事項とする。

  その報告書が記載された日付は3年前。

  怪物が処分されたのかは、その報告書には何も記されてはいない。

  そして、それを知る物は誰もいない。

  なぜなら、この世に存在する人間はすでに……

  完