【フリー台本】サーカスの見せ物(獣人)である貴方を人化の薬を飲ませて駆け落ち提案してくれる調教師のお話

  //檻を開ける音

  うんちょっとだけ入らせてくれる?

  …ごめんね最後に話をしたくて。

  ほら私、明日になったらココにはいないからさ。

  …って、そんなの君が一番知ってるか。

  ふふ、そう思うとそんなことまで話すような仲になってたんだね私たち。

  元はサーカスの獣人と調教師、っていう惹かれあうはずのない2人なのにね。

  ねぇ…。

  貴方はここを抜け出したいと思ったことはないかな。

  前に外の世界を見てみたい…。

  なんて話してくれたときがあったよね。

  最後に私はそれが心残りだったんだ。

  だから夜も眠れなくて、今日ここに訪れたってわけ。

  //「確かに言った…。けど、この身体じゃ外にすら出れないよ」

  …うんそうだね。

  耳も尻尾も人とは全然違う。

  背丈も2m近い…。

  獣人だから君がいなくなったらすぐに捜索されて。

  何処に隠れててもすぐに見つかっちゃう。

  確か…その時もその話で落ち着いたのを覚えてる。

  それでね…話は終わりじゃなかったの。

  私にとってはね、それが始まりだった…っていうのかな?

  …この街の噂は聞いたことあるかな。

  //「…怪しげな薬を作ってる人がいるらしいね」

  そ。

  君は耳が良いからどこかで聞いているはずだよね。

  望むものなら何でも作ってくれる薬師の話。

  いまじゃココのサーカスなんか目もくれないくらい街の注目の的になってる人の話。

  なんでこんな話をしたかっていうとね…。

  //ことり、と液体の入った小瓶を置く

  これ、何だと思う?

  …一時的にだけど君を人にしてくれる薬。

  この薬を飲めば君も晴れて日の元に出られる。

  いまじゃ出られないこの檻も何なく抜けられるし、誰にも注目されないただの人にね。なれるんだよ。

  //「頼むのには法外な値段を要求される…とも聞いてるよ」

  …ううん、高い買い物じゃなかったよ。

  君がここの生活から逃げられると思うなら全然安いものだった。

  お金で叶えられる願いなら何だって安いよ。

  まぁ事実…。

  話してた退団の時期よりも遅れてしまったのは隠すまでもない本当の話だけど。

  さてと。

  誰が聞いてるかもわかんないし話は早い方がいいね。

  明日の朝、私と一緒に来てほしい。

  それでこの団抜けて違うところで暮らそう?

  はは駆け落ち…

  なんて言ったら多少は格好がつくんだろうけどね。

  どうしてって…。

  そんなわかりきったこと私の口から言わせる気?

  私は君のことが好きだからだよ。

  …はは。

  気付いてなかったの?

  嘘でしょ、

  これでも結構心開いてたつもりだったんだけどなー…?

  そうだよ、好きじゃないとここまでのことやらないよ。

  それに私はどちらかと言うと節約家な性分だしね。

  目についた困った善人を全員助けるほどのお人好しでもない。

  そんな人間が優しさを向けるとするなら、それしかないでしょ。

  …どうかな。

  君にとってもいい提案だと思うんだけど…。

  //「素敵な提案だね。でも、一時的なものなんだよね。…その後は?」

  …そうだね。

  続いても1ツキ。

  あくまでここを抜け出して、生活を整えるための薬だと思ってほしい。

  その後は…。

  少なくともここの生活よりは良くなる…って、言えないのがもどかしいよ。

  正直私だって本当にうまくいくかなんて…ううん。

  ごめん君にそんな複雑そうな顔させるつもりはなかったんだ。ただの調教師がでしゃばりすぎちゃった、かな。ライン越えってやつ、だったのかも。

  でもね…君に鞭打つのは…

  たとえ仕事だとしてももう限界なんだよ…

  こうやって言葉で話せることを知ってて。

  賢いことも私だけが知ってるからこその苦悩があったから…

  私は君と暮らす幸せな正解を夢見てしまっただけ…なのかもしれないね…。

  勝手な真似して、ごめん。

  ん…。

  この薬は置いてくよ。

  最初から人間の私には使い道がないし。

  仮に、いまはそのタイミングじゃなくても使うときがあるかもしれないから。

  君に向けた最後のプレゼントだと思って。

  …君の答えがどちらにせよ、

  私が明朝ここを出るのは決まったことだから。

  ただ、ただね…?

  私は君を助けたい一心だったんだ。

  …その事だけは覚えててほしい。

  …。

  ……。

  はは、最後まで私は貴方を傷つけることしか出来なかった、みたいだね。

  じゃあお別れだ。

  いままで、ありがとう。

  うん…。

  …おやすみ。

  //檻を閉める音

  【明朝】

  来てくれたんだ。

  それともお別れの挨拶だけ?

  っていうのは…

  尻尾も耳ない君に聞くのは意地が悪すぎるか。

  …ありがとう。

  あんな身勝手なことをしたのに私との道を選んでくれて。

  ぎゅってしていい?

  ……ねぇ、私約束する。

  これからは君を傷つけるんじゃなくて守るよ。

  何があっても絶対に。

  それがたとえどんなに険しい道でもね。

  うん、私も貴方のその気持ちに応えたいなって思ったから。絶対私たちが私たちらしく生きられる場所があると思う。

  だって、この空見てみてよ。

  世界はこんなに広いんだよ?

  空も見えない幕が降ろされたサーカスにいるよりも、ずっと可能性がある。

  この空が見える間は必ず救いがある…。

  私はそう思うんだよ。

  2人でいればきっと大丈夫、だから。

  …うん。

  じゃあ他の人たちが来る前に行こっか…。

  手、繋いでてくれる?

  そう、これからも迷わない道を進めるように、ね。