#01 ~そっと人外化を添えて~

  ◇

  夏の夕暮れ。

  弓道部に所属する北条奈央は、部活を終え一人家路を急いでいた。

  「全く…… 部活が終わったら連絡して、って言ったのに」

  今日から両親が不在のため、スーパーに立ち寄って食材を買って帰るつもりだった。

  折角だし幼馴染みの聡を誘って夕飯でもご馳走しようと思ったのだが……

  「ま、仕方ないか」

  スーパーへ行くつもりでいたが、路地を曲がり弁当屋の方へと足を向け歩き出す。

  その時だった。

  コツッ と何かを足で蹴った感触が爪先から伝わる。

  足元を見ると “木の実” のような物が一つ転がっていた。

  「何だろう?」

  形はクルミのようだが、色は真っ白で見た事のないものだった。

  奈央はそれを拾い上げて夕日に向けると、キラキラと光を反射しどこか神秘的な雰囲気を感じ取った。

  「綺麗…… 聡にも見せてあげよ」

  彼女はハンカチを取り出し、それを包み込むとスカートのポケットへ仕舞い再び歩き出した。

  ポケットの中で人肌に温められたその物体が、孵化の準備を着々と進めている事には当然気付くはずもなく───

  ◇

  自宅に戻った奈央は、一人夕飯を済ませ自室に戻ると、そのままベットへと横になる。

  制服のままだが、部活の疲れが一気に押し寄せシャワーを浴びる気力もない。

  今にも瞼が閉じられそうな状態で、奈央はスマホを手に取りメッセージアプリを立ち上げた。

  【今日はごめん!! お詫びは絶対にするから!!】

  聡からのメッセージが届いていた。

  クスッと笑みを浮かべ怒りマークのスタンプを返すと、奈央は何となく聡のプロフィール画面を開く。

  彼が撮ったと思われるよく分からない写真が一覧で表示され、その中の一枚の写真をタップし拡大表示する。

  剣道部に所属する聡が竹刀を構え真剣な表情をしている姿。

  奈央はその画面を見つめ、スマホを胸に抱くようにギュッと握ると静かに目を閉じた。

  (格好いい……)

  ◇

  時計は夜9時を指し、部屋の中はスゥ… スゥ… と奈央の規則正しい呼吸音だけが響いている。

  偶然なのか、それとも彼女の意識が途切れたタイミングを見計らったのか……

  スカートのポケットに仕舞い忘れていた白い“木の実”のようなものが パキッ と小さな音を上げ亀裂が走った。

  そして、中から数ミリほどの白い糸クズのような物が次々と這い出してくる。

  “卵” から “孵化” したそれは、線虫を思わせるような動きを取り、凄まじいスピードで分裂を繰り返し始めた。

  ほんの数秒で夥しい数にまで増殖し、奈央の体を這い上がりながら全身へと広がっていく。

  特に、彼女の股間付近に密集して集まったソレは、次々と割れ目の中へと潜り込んでいった。

  まるで彼女の体内へ寄生する事を目的とするかのように……

  彼女の体に異変が起きたのはその時だった。

  奈央の腹部が ボコッ と一気に膨れ上がり制服を内側から押し上げる。

  股間から侵入した寄生虫が膣と子宮内で物理法則では考えられないような分裂と増殖を始めたのだ。

  「がはっ!」

  声にならない悲鳴をあげながら、奈央の体がビクンッと大きく跳ね上がる。

  背骨が折れそうなほど弓なりになり、膨れ上がる腹部がブチブチッ とボタンを弾き飛ばした。

  激痛を超えた痛みが全身を駆け抜け、意識が一気に覚醒するも、体が硬直し指一本動かす事すら出来ない。

  すでに彼女の体には寄生虫がビッシリと張り付き、制服ごと全身を真っ白に染め上げていた。

  顔面は何層にも渡りモゾモゾ動く寄生虫の糸で覆い尽くされ、顎が外れそうな程に開いた口や耳の穴から寄生虫が次々と体内へ侵入していく。

  すでに脳にまで達した寄生虫は、脳細胞と融合するかのように次々と溶けて染み込んていった。

  全開まで見開いていた奈央の眼球が、瞼の奥から這い出てきた寄生虫によって浸食され、その瞳は一瞬にして白目へと変わる。

  開きっぱなしの口からは粘度の高い唾液が流れ落ち「あっあぁっ」と意味を持たない言葉を発し続けていた。

  数分後───

  腰を突き出すかのようにエビ反りになったまま硬直していた奈央の股間から、プシャーーッ! という水音と共に大量の白い粘液が吹き出した。

  それが終わりの合図であったかの様に体が弛緩すると、ダラリと脱力した奈央はベットに倒れ込む。

  全身を真っ白に染め上げていた寄生虫が、アメーバーのように溶けて奈央の体へと吸収さると、肌の色が徐々に元の色を取り戻し始めていく。

  白く濁っていた目に黒い瞳が戻り、一見すると奈央の姿形は元に戻っていたが、彼女の体内では肉眼では認識できない変化が始まっていた。

  グチョ… グチュ… という音を漏らしながら、寄生虫が奈央の体を作り替えていく。

  ゆっくりと時間をかけ、宿主の体を新たな存在へと変えるために……

  ◇

  「……ん……」

  どのくらいの時間が経ったのだろうか。

  奈央が意識を取り戻し、枕元に置いてある時計に目を向けると既に深夜3時を指していた。

  (あれ? 私……)

  奈央は気怠い感じを覚えながらも、起き上がろうとしてベットに手を突くと、スマホを触れた感触が伝わってきた。

  そして、スマホを拾い上げようと上半身を起こした瞬間、シーツがグッショリ濡れている事に気付いた。

  よく見ると制服や下着までもが湿っている。

  「なにこれ…… うっ!」

  部屋中に漂う強烈な生臭さが鼻をつく。

  異様な空気を感じ取った奈央は、恐る恐るスカートの中へと手を伸ばす。

  なぜかショーツを履いておらず、ピチャという感触が肌と指先に伝わってきた。

  ゆっくりと手を離すと、ねっとりした白濁液が指の間で糸を引いている。

  白濁の粘液に塗れた手を見つめるその先に、ベッドの上に転がる聡の写真が映し出されたスマホが視界に入った。

  「聡……」

  体の奥から湧き上がる抑えきれない感情の高ぶりを感じると、瞼の裏がボコボコと蠢き寄生虫が両目を侵食し真っ白に染め上げる。

  直後、体中から抑えきれないほどの淫猥な感情が湧き出し奈央の理性を一気に溶かした。

  無意識のうちに指に付いた白濁の粘液を レロッ と舐め取り、その指を再び秘所へと伸ばす。

  ヌルッとした感触が膣内に入り込み、指が奥へ奥へと沈み込み膣壁が蠢きながらキュッと締め付ける。

  ぐちゅ…… ぐちぃ……

  卑猥な音を響かせ奈央は自慰行為に没頭する。

  片手で胸をもみしだき、腰を突き上げて愛液を撒き散らすその体は快楽に包まれているように見えるが、その表情は快感とはかけ離れたものだった。

  まるで感情が死んでいるかのように無表情で、ただ機械のように指を動かし続ける。

  そんな激しい自慰を30分ほど続け、奈央は何かを思い出したかのようにベットから降り机へと向かう。

  指を秘所に突き入れ膣壁を引っかき回しながら、机の引き出しを開きお守りのような物を取り出した。

  それは高校受験の前に、聡と一緒に作ったお揃いのお守り。

  中には願掛けとして当時流行ったお互いの髪の毛を交換して入れてある。

  奈央は大切に仕舞っておいたそのお守りを何の躊躇もなく破り捨て、中に入っていた聡の髪の毛を指先で摘まんで取り出すと、瞳のなくなった目でじっと見つめる。

  まるで髪の毛から何かを読み込むように……。

  そして、ニヤリと笑った彼女は口を大きく開け、髪を口の中へと放り込んだ。

  「あ~ 聡…… お願い… 私をもっと気持ちよくしッ ─── ぐぅえェェェえッ!!」

  突然、奈央の口の中から白い触手のような物が大量に吐き出された。

  それは グチャグチャ と音を立てながら形を変え、人の顔のような形状へと変貌していく。

  口、鼻、目、耳……

  全てが形作られ、ゆっくりと色味が付くと髪の毛が伸びる。

  そこに現れたのは、紛れもない聡の頭部。

  「奈央」

  それは彼女を見つめて名を呼んだ。

  今よりも若干幼さが残る顔付きではあるが、その表情も声も寸分違わぬ高校入学前の聡である。

  しかし、首から下は無数の触手の集合体となり彼女の口の中へと繋がり、まさに顔だけしか無い状態だった。

  「あ~ 聡…… 嬉しい……」

  奈央は、聡の頭部を両手で掴んで自分の胸の前にあてがった。

  聡の口が開き舌を伸ばして彼女の乳首を舐める。

  ペロペロと可愛らしく舐められ、奈央の口から先程とは違い思わず甘い吐息が漏れ出す。

  自然と力が入り、聡の顔を胸へと押し当てると彼の口は貪るように彼女の乳房へ吸い付いてきた。

  ジュルッ…… ヂュッルルッ……

  唾液を絡ませながら強く吸われ、奈央は全身を仰け反らせて歓喜の声を上げる。

  ビクンッ ビクンッ と何度も大きく痙攣する体。

  絶頂を迎える度に股間からは潮を吹き出し、ベットを更に汚していく。

  「はぁ… はぁ… ねぇ、今度はここも舐めて……」

  奈央は聡の顔を自分の股間へと伸ばし、秘所へ押しつける。

  聡はそれに答え、舌を使って丁寧に愛撫を始めた。

  ヌルッとした柔らかい舌がクリトリスに触れ快楽を享受すると、聡はその部分を集中的に攻め始める。

  何度も、何度も聡の顔を秘所に押しつけ奈央は喘ぎ続けた。

  聡は自分の思い通りに気持ち良い場所を攻め続けてくれる。

  「ぎもじいよ 聡ー! もっど! もっど舐めでー!!」

  尽き果てる事のない性欲は日が昇るまで続き、ようやく満足した奈央は疲れた表情でベットの上で横になる。

  荒い呼吸を繰り返しながら枕の横に置いた聡の顔を見つめる。

  そこには、いつも通りの笑顔を浮かべた聡がいた。

  「綺麗だよ奈央。 愛してる」

  「……」

  聡がそんな事を言ってくれるはずがない。

  私がそう言って欲しいと思ったから、目の前の聡の “顔” はそう言ったのだ。

  これは、聡の髪の毛に含まれてた情報を元に構成した、ただの器。

  そう思うと今までの興奮が嘘だったかのようにスーっと冷め、奈央は聡の顔を “解” いた。

  ゴポォ…… ゴポッ……

  聡の顔は皮膚が溶け、肉が溶け、骨が溶け、脳が溶け… そして触手状に戻ると奈央の口の中へと消えていった。

  その光景は、ホラー映画のグロテスクなシーンを思わせるほど恐ろしいものだった。

  奈央の目に黒い瞳が戻り、一気に現実に引き戻される。

  「うっ! ぐえぇぇえっ!」

  胃から逆流してくるものを我慢できずにベッドの上に全て吐き出す。

  体がガクガクと震え、先程のおぞましい行為が頭の中にフラッシュバックする。

  「何… 今の…… 私は一体……」

  混乱する頭で必死に記憶を手繰り寄せる。

  彼女の頭に人間には存在するはずのない知識や感情が頭に流れ込んできた。

  自分自身を構成する遺伝子構造が手に取るように分かる。

  どこを書き換えればどんな変化を起こすのか。

  それだけじゃない。

  この体は、髪の毛1本からでも、その人物の遺伝子情報を取り込んで再現する事が出来る。

  記憶や知識、経験といった情報を解析して自分の体に組み込む事も出来る。

  そんな得体の知れない能力が奈央の中に存在している。

  「嘘…… 何これ、私……」

  ふらっとした足取りでベットから抜けると、鏡の前に自分の姿を映し出す。

  そこに写っていたのは、制服だけでなく、顔や髪も白濁とした液体に塗れてはいるが紛れもなく奈央の姿だった。

  恐怖を感じながらも、奈央は心の隅にある構成情報を自分の体に展開してみた。

  すると、左手から寄生虫のような物が湧き出し、一気に肘から下が白く染まるとアメーバのように形を変えながら聡の頭部が再生されていく。

  「嫌…… いやー!!!」

  おぞましい形へと姿を変えていく自分の左腕を振り回し壁に叩き付ける。

  中途半端に構成された聡の頭部が潰れて肉と脳が飛び散り、骨の砕ける感触が伝わってくるが一瞬で再生を繰り返し元通りに戻っていく。

  「ううううっ……」

  奈央は涙を流しながらその場に蹲った。

  こんな化け物になってしまった自分が恐ろしく、精神が崩壊しそうなほどの絶望を感じる。

  しかし、この体は精神崩壊などは絶対に起こす事はできないと理解していた。

  それどころか死ぬ事すら出来ない。

  奈央は自分の左手を自分の顔の前に近づける。

  構成情報が暴走し、もはや人の手とは思えない形状になっていた。

  生気のない表情で、その手をじっと見つめながら自分の遺伝子情報を異形の手に展開する。

  無数の寄生虫が腕から這い出し、白く染め上げると次第に人の手らしい形状へと変化を始める。

  やがて、五本の指を持つ本来の人間の手が再構築され肌の色が徐々に元へと戻っていった。

  「……」

  呆然とした表情で立ち上がり、鏡に向かってその手を動かす。

  そして、ゆっくりとその手で自分の顔に触れ撫で回した。

  ふと、鏡の隅に時計が写り込んでいた。

  「……。 お風呂に入らなきゃ…… このままじゃ学校に行けない」

  そう思い立ち上がった瞬間、それは必要ない事が分かった。

  全身から煙が上がり制服が一瞬で溶け落ちていく。

  そして、体内からアメーバーのような物が染み出し、下着や新しい制服が次々と構築されて奈央の体を包んでいく。

  シュー と音を上げ煙が消えると体にまとわりついていた白濁液は全て蒸発し、綺麗さっぱり何もかもが無くなっていた。

  まるで、最初から汚れていなかったかの様に……

  「……」

  その様子を奈央はぼーっとした表情でただ見つめていた。

  この体には構成情報を取り込めばそれを自由に再現出来る能力が備わっている。

  物だけでなく、人でさえもその情報を自分の物に出来る。

  奈央はそんな化物になってしまった自分の体に理性では恐怖を感じるも、同時に心の奥底では抑えきれない高揚感を感じていた。

  「ふふっ……」

  姿見に映る彼女の顔は、不気味な笑みを浮かべている。

  その表情は奈央自身の物なのか、寄生虫に乗っ取られた奈央なのか、もはや曖昧な状態だった。

  ◇◇◇

  「おはよ~ 奈央。 って、制服クリーニングにでも出した? いや、もしかして新品?」

  教室に入るとクラスメイトの由香が声を掛けてきた。

  クリーニング屋の娘だけあって鋭い指摘をぶつけて来る。

  奈央は自分の着ている制服の構成情報を確認すると、由香の言った通り確かに1年前に購入した時と同じ状態である事に気付いた。

  これからはボロが出ないよう、構成時に注意を払う必要がありそうだ。

  「おはよう。 今日は暑いね」

  奈央は制服の件は無視し、いつも通りを装って返事をする。

  一つ前の席に座る由香は、体を曲げて奈央の顔をニヤニヤとした顔で覗き込んできた。

  その仕草は聡の事を茶化す際に見せる顔。

  「ねぇ、3組の中村早紀って子が聡に告白したの知ってる?」

  「え?」

  突然の情報に奈央は言葉を失う。

  中村早紀…… 確か聡と同じ剣道部だった気がする。

  奈央は直接話をした事はないが、可愛らしい顔立ちと人当たりの良さから男子の間では人気の高い子である事は知っている。

  「そうなんだ」

  内心の動揺を悟られないように返事を返す。

  由香は顔を近づけ、口元に手を当てながらヒソヒソ声で話しかけてきた。

  「どうも聡は返事を保留にしたそうなんだけど、気になるよねぇ~ 聡ってああいう大和撫子風な女子って好きそうだし」

  由香の言う事は間違っていない。

  聡は昔からその手の女の子が好きだし、パソコンのZドライブなる隠しディスクの中に溜め込んでいるエッチいマンガや動画も、そんなのばっかりである事を知っている。

  奈央が弓道部に入った理由も……

  「ま、聡の好きにすれば良いんじゃないの?」

  「おやおや、幼馴染みの余裕ですか? 奈央もそろそろ自分をアピールしておいた方が良いよ~」

  奈央は、はいはいと軽く受け流すとトイレに向かうために席を立つ。

  そして教室を出ると、廊下で登校してくる友人達に挨拶を交わしつつ歩きながら考えていた。

  聡に告白してくる人がいても、それを咎める権利なんてない。

  奈央自身も男性から何度も告白を受けた事がある。

  当然、その好意は受け入れるつもりなどなく、もれなくお断りをしてきた。

  聡もそうだと勝手に思っていた。

  いや、奈央の知る限り全て断っていたはずだ。

  しかし、由香の話では今回は返事を保留にした… つまり聡は迷っているという事になる。

  正直なところ、嫌な予感しかしなかった。

  アピールならしているつもりだが、幼馴染みの位置からステップアップして聡の隣に立つにはまだ努力が必要……

  奈央はトイレに設置された洗面台の前に立ち、蛇口を捻る自分の手を見つめる。

  (今の私なら何ステップも先に進めるよね)

  その声に応えるかのように、手の平の皮下で寄生虫がモゾモゾと動き回った。

  同時に手が触れている物の構成情報を無意識に取り込んでしまう。

  頭の中に蛇口を構成する金属の情報が流れ込み、遺伝子の中に勝手にねじ込まれていく。

  「……」

  蛇口を掴んでいる右手の皮膚が溶け肉組織が露出すると、煙を上げながら新しい表皮が構築され再生されていく。

  肘から下が銀色に光る銅と亜鉛の合金に置き換わり、指先が鋭利な刃物のような形状へと変わった。

  人間の肉体ではありえない色…… そして構成物。

  その姿を目にし、心の奥底からドロリとした黒い感情が沸き上がるのを感じる。

  (この体で中村早紀を…… いや、その前に聡が彼女をどう思っているのかをこの体に取り込まないと)

  光沢を放つ異形と化した自分の腕を見つめながらニヤリと不敵な笑みを浮かべ、シュッと音をたて金属の爪を更に鋭く突き出した。

  奈央はその変化を確認しクスッと微笑む。

  そして、その視線を正面の鏡へと向けた。

  そこには、瞳が消え白く濁った鋭い目を自分に向けた人間とは思えない銀色の顔が映っていた。

  まるでサイボーグ。

  誰が見ても恐怖を覚えるほどの姿。

  それは、奈央の奥深くに押し込められていた理性にも届き、自分の顔を見つめる彼女の心が急速に冷めていく。

  そして本来の自分を取り戻すかのように瞳がゆっくりと黒く染まる。

  「ひぃ!」

  目の前の鏡に映る化物を見て奈央は小さく悲鳴を上げるも、それが自分だと一瞬で理解できた。

  奈央の顔は、そのほとんどを金属と化した皮膚に覆われている。

  間違いなく先程取り込んだ金属の情報を元に構成された表皮。

  しかし、人の細胞と融合したこの世に存在しない構造体を持つその顔は、表情筋に合せて口を開く事ができ、中から同じく金属で出来た鋭利な歯が覗いている。

  まだサイボーグの方がマシと思えるほど悍ましい姿がそこにあった。

  「嫌だ…… いや……」

  震えた声で小さく呟き、両手で口元を押さえようとするが自分の左腕が目に入るとその動作が止まる。

  左腕も全て未知の金属で覆われ、その先には鋭い刃を持った指が突き出ていた。

  金属のはずなのに、その表面には血管のような無数の細い線が走り、それが脈打つように動き自分の肉体と同化していることが分かる。

  「嫌…… こんな体…… 嫌! 戻って… お願い戻って!」

  奈央は必死の形相で叫ぶと、それに答えるかのように腕の金属部分が煙を上げて溶け出し始めた。

  顔の表皮も煙を上げてドロドロと溶け落ち、鏡には顔全体が肉組織と眼球だけとなった不気味な頭部が映し出される。

  「あぁ… 私の… 私の顔が……」

  赤茶色をした肉組織と大きく見開かれた目玉だけとなった顔が内側からボコボコと波打っている。

  そして、筋繊維の中から無数の寄生虫が這い出すと一瞬で顔全体を覆い尽くし、煙を上げながら新たな皮膚を再生させていった。

  その光景はとてもじゃないが直視できる物ではなかった。

  「うっぷ… ぐえぇぇええっ!」

  胃の中から込み上げてきたモノが洗面器の中にぶちまけられる。

  吐瀉物に交じって無数の寄生虫がモゾモゾと蠢いているのが見えた。

  奈央は、その場に倒れ込み両手を口元に当て震えていた。

  先程まで金属と化していた手も、元の柔らかな肌に戻っている。

  「押さえなきゃ…… このままじゃ私、取り返しの付かない事になっちゃう」

  先程まで自分が考えていた事が恐ろしくて仕方がない。

  それは人として踏み越えてはいけない一線…… いや人が考えつくような物じゃない。

  このまま感情に飲まれれば自分は姿だけでなく、心まで化け物になっていってしまう。

  (怖い。 助けて、聡……)

  奈央は恐怖に顔を歪ませながら、逃げるようにトイレを後にした。

  ◇

  放課後、奈央は部活の練習を終えるとその足で剣道部の道場へと足を向けた。

  トイレでの悍ましい出来事の後、すぐにでも帰ろうと思った。

  しかし、どうしても聡の顔が見たくなったのだ。

  クラスの違う彼と会って話をするには放課後位しか機会がない。

  このまま一人で居たら、自分を見失いかねない。

  (聡に会いたい。 会って少しでも良いから話がしたい)

  世間話をしたらすぐに帰ろう、と奈央は心に決めていた。

  聡のいる剣道部の道場前で深呼吸を一つするとゆっくりと重いドアを開ける。

  そして、出来るだけ平静を装い声を上げた。

  「聡~ ちょっと良い?」

  「おお、奈央か。 あっ、昨日はすまなかった。 ごめん!」

  聡は奈央の顔を見ると、小手を填めたまま両手をポンッと合わせ、防具姿のまま道場の外へと歩いてくる。

  たったそれだけで、奈央は心が温かく満たされていくのを感じ自然と笑顔になった。

  しかし、その光景を一人の部員が睨むように見ているのが視界に入る。

  敵意を剥き出しにしたその表情に、奈央の心がぐにゃりと歪む。

  「どうしたんだ?」

  「え? えっと…… メッセでも良かったんだけど、今日もうち両親いないから聡の家に行ってもいい?」

  そんな予定を考えもしていなかった奈央だが、自然と言葉が出てしまった。

  奈央が聡の家に行くのはよくある事で、お互いの親同士も公認の関係。

  昔に比べれば行く回数は減ったが、今でも時々聡の家に泊まる事もある。

  なので、特に不思議がる事も無く聡は答えを返した。

  「そうか。 んじゃ母さんに言っておくわ」

  「うん、よろしく!」

  奈央は普段通りの笑みを浮かべながら、聡の肩や首筋をわざと触れるようにして何度かポンポンと叩いた。

  そのやり取りを睨むようにして顔を向けている彼女に見せつけるかのように。

  首筋から流れ出た汗と、しっとりと濡れた道着の感触が手に伝わると同時に、様々な情報が頭の中に流れ込んできた。

  聡が着ている道着や防具の状態、素材の構成、傷の位置や痛み具合までが手に取るように分かる。

  そして、聡の記憶や想いも……

  「うち来るなら、今日は一緒に帰るか?」

  「え? わ、私この後少し用事があるから、先に帰ってて良いよ」

  聡は、耳を赤くして俯いた奈央を不思議そうに見ながら、分かったと返事をして再び道場へと戻っていった。

  奈央は理性を抑える事が出来なかった罪悪感と、自分の持つ力の恐ろしさを思い知ると同時に、聡の気持ちを知り嬉しさのあまり顔がほころんでしまう。

  (この格好のまま来たのは正解だったみたい)

  聡は奈央の弓道着姿を見た時、胸が高鳴ったのを感じていた。

  そして、聡はやっぱり私の事を……

  奈央は顔を赤らめモジモジと落ち着きの無い様子で道場をゆっくりと後にする。

  直後、後ろから道場のドアが開く音が聞こえた。

  「あの!」

  奈央に声をかけたのは、聡に告白をした中村早紀だった。

  予想通りの展開に、奈央はニヤリと笑う。

  「確か、3組の中村さん…… だっけ? どうしたの?」

  「お話があるんですけど」

  稽古の途中だったのだろう。

  面と小手こそ外してはいるが胴と垂れは着けたままで、道着や髪の毛はしっとり濡れていた。

  凜々しい出で立ちで、奈央を睨みつけるように見るその目を見れば、彼女が何を言いたいのかはすぐに分かった。

  「ここじゃあれでしょ。 裏に行こうか」

  ◇

  部室棟の裏。

  この場所は大掃除の時以外は誰も立ち入らない場所。

  部室には裏窓がないので誰にも見つかる事はない。

  「防具付けたままみたいだけど、決闘でもするつもり?」

  「違います」

  「そう。 で、私に何か用?」

  彼女は下を向いて無言になるが、意を決したように顔を上げて奈央の目を見つめてきた。

  その目は真っ直ぐに奈央の顔を捉えてる。

  「聡と付き合っているんですか?!」

  彼女の言葉に奈央の瞼がモゾリと動く。

  他の女子が聡の事を呼び捨てにするのは何とも思わないが、何故か彼女が呼び捨てにするのが許せなかった。

  奈央の体の中で沸々と人のものではない感情が湧き上がり、ソレが活動を始める。

  「付き合ってないよ。 でも聡とあなたは付き合えないから」

  「はあ? それ、どういう意味?」

  明らかに敵意剥き出しの口調。

  おそらく彼女は奈央と聡が幼馴染みである事を知り、先手を打って告白したのだろう。

  しかし、先程聡の心を除いた奈央は、彼女が聡と付き合うことが出来ないことを知っている。

  「聡はあなたと付き合う気はないみたい。 でもね、その白防具を着けた姿 “だけ” は好みだって。 確かに凜々しくて格好いいし、聡好みのポニーテールも似合ってるけど」

  奈央の言葉を聞いた瞬間、早紀は顔を真っ赤にして俯いた。

  もう答えは出ているようなものだが、格好だけとはいえ聡の好みだという事が奈央には気に食わなかった。

  だから……

  「ねぇ、私にその姿を頂戴?」

  「はぁ?」

  彼女は意味が分からないという顔を奈央に向けた。

  奈央はそれに構わず一歩前に踏み出して、彼女の顔を両手で包み込むようにして掴む。

  突然の事に早紀は驚き、奈央の手を振り払おうとするがもう遅い。

  「何!? この馬鹿力!」

  「酷い言い方。 あなた剣道部なんでしょ? 弓道部の私より力がないの? 弱っ」

  逃げようと必死でもがいていた早紀の顔が上がり、キッとした鋭い視線を奈央に向けてきた。

  しかし、奈央の顔を見た彼女の目が次第に大きく見開き、その表情が恐怖の色に染まっていく。

  「ひぃ!」

  瞳が消え白く濁った奈央の目を見た彼女は、喉の奥から絞り出すような悲鳴を上げた。

  それはまるで、化け物を見るかのような怯えた表情。

  奈央は早紀の体を自分の方へ引き寄せ、その耳元で囁くように呟く。

  「この程度で恐怖に染まるのは早すぎだよ? 本当の絶望はこれからなんだから」

  彼女が感じている恐怖心が、奈央の体に流れ込んでくる。

  人生で一番の恐怖と絶望……

  同時に早紀が聡の事を好きだという事実が、奈央の心に更なる怒りと憎しみの感情を呼び起こした。

  「あなたの情報だけもらおうと思ったけど辞めた。 全部を取り込んで私の物にするね。 だから邪魔者は消えろ!! ぐぅえぇェエッ!」

  奈央は口を大きく開くと無数の寄生虫とを早紀に向かって吐き出した。

  一瞬で彼女の顔は寄生虫で埋め尽くされ、鼻や口そして耳の穴から次々と体内に入り込み浸食していく。

  「何これ! 嫌! 痛っ! 痛い痛い痛─── ぐぉぼボッ!」

  早紀が悲鳴を上げ口を開いた瞬間、奈央は口から触手状の器官を複数伸ばし、彼女の口の中へと強引にねじ込んだ。

  彼女の目には今まで見たことのないようなおぞましい顔が映っているだろう。

  鏡など無くても奈央には分かる。

  自分が寄生虫まみれの顔で口から触手を吐き出している化け物だという事を。

  だから言う。

  強く、はっきりと。

  人成らざる化け物である自分を怒らせた報いを受けさせる為に。

  「体や姿だけじゃなくて記憶や思考も、あなたのぜーんぶを私がもらってあ・げ・る」

  触手が彼女の脳に到達したことを把握すると一斉に脳内へと突き刺した。

  奈央の中に様々な情報が流れ込んでくる。

  初めて生身の肉体から直接吸い上げる行為に、全身がゾクゾクと震え快感が突き抜ける。

  ただ触れただけの吸収とは比較にならないほど情報の繊細度。

  人の身には備わっていない、奈央にしか存在しない器官から理性やら道徳やらが簡単に吹き飛ぶほどの強烈で凶暴な快感が溢れ出てくる。

  「あ…… がっ…… ぐぎぎぎぃ!」

  早紀は白目を剥きながら小刻みに体を震わせ、股間からは黄色い液体が流れ出していた。

  それを見ても、今の奈央には何の感情も浮かんでこない。

  次々と脳内に流れ込んでくる早紀の知識と記憶、そして遺伝子情報を取り込み、奈央は自らの意思で中村早紀を自分の体と融合させる。

  そして、最後に彼女の着ていた下着や道着、防具の構成情報までしっかりと残らず取り込んだ。

  「ごちそうさま」

  数分間に渡る寄生と吸収を終えると、奈央の目の前には先程まで居たはずの中村早紀の姿は跡形もなく消えていた。

  奈央は彼女の抜け殻を遺伝子レベルで分解し、ここの土と同じ構成物へと変換したのだ。

  中村早紀という個体はこの世から消えた。

  だが、彼女の知識や記憶、思考や感情、そして遺伝子情報は奈央の中にその存在がしっかりと刻み込まれた。

  彼女が着ていた下着や道着、防具といった構成情報と同列の扱いとして……

  「人間の構成情報って、本当単純。 こんなにも簡単で脆いんだ」

  ペロリと舌なめずりをしながらそう口にしたのは、白い剣道防具に身を包んだ少女。

  ポニーテールの長い髪が風になびいて揺れている。

  そう、奈央はその身に取り込んだ早紀の構成情報を、自分の肉体へと展開し中村早紀となっている。

  「へぇ~ 防具で隠れていたから分からなかったけど、結構胸があるんだ」

  胸部を覆う胴に圧迫される胸の感触に、奈央は嬉しそうに目を細めた。

  彼女から吸い上げた情報を元に構築したその体は偽りの姿ではない。

  今の奈央は正真正銘の中村早紀。

  当然、彼女の記憶や思考もしっかりと受け継いでいる。

  「全く…… 聡をおかずに朝から自慰するなんて、私ってとんだ変態大和撫子ね」

  姿だけでなく、声も性格も記憶も知識も、何もかもが遺伝子レベルで寸分違わぬ中村早紀。

  身に纏っている道着も防具も、直前まで彼女が着ていた物と全く同じ状態で構成されている。

  「うわっ、臭っ……」

  思わず顔をしかめてしまうほどの臭いが漂ってくる。

  防具に染み込んだ汗の臭いだけでなく、捕食中に彼女の漏らした尿の臭いが混ざり合い強烈な臭いを放っていた。

  「いい歳してお漏らしだなんて、何てはしたない…… あっ!」

  奈央は最低な事を考えついた。

  取り敢えず悪臭を放つ尿の成分だけを体から排除すると、奈央は自分の体を無理矢理発情させる。

  一瞬で口から涎が垂れ顔が紅潮し、腰が勝手にガクガクと動き出す。

  秘所から愛液が垂れ始めたのを確認すると、ショーツを破り捨て秘所の中に指を突っ込んで激しく出し入れを始めた。

  飛び散る愛液をわざと袴に染み込ませるようにしながら、指で引っかき回す。

  「あぁ~ この体、すっごい敏感…… きもひいぃ~」

  腰が勝手に前後に動き、秘所を弄る指の動きが早くなっていく。

  口から漏れる涎も気にする事無く、奈央は夢中で自慰行為を続けた。

  袴がたっぷりと愛液を吸収してしっとりと濡れると、何とも言えない臭いが体から漂ってくる。

  「はぁ~ 汗と愛液ですっごい臭い…… 早く道場に戻らないとぉ~」

  奈央は淫らな臭いをまき散らしながら、道場へ向け歩き出した。

  中村早紀だった土の上に自身の愛液を滴らせ、わざと踏みつけながら……

  ◇

  剣道場へと戻ってきた早紀…… 奈央は、彼女がいつもこなしている後片付けを部員達と始めた。

  奈央と彼女が一緒に歩いていた姿は何人かの生徒に見られている。

  このまま中村早紀がいなくなると不審に思われるかもしれない。

  最後に早紀が下校する所を目撃させておけば、奈央が疑われる心配はない。

  そのためには、出来るだけ早紀がこの時間までこの場にいたという印象が残るようにしておく必要がある。

  そう、強烈な印象を……

  部員達は中村早紀から発する淫猥な臭いに気づき軽蔑の視線を向けている。

  わざと頬を染め発情した表情を作り、隠れて股間を触る仕草を取る。

  その様子を一人の後輩が見たのを察知し顔を向けた。

  後輩は顔を真っ赤にしながら、視線を逸らし何事も無かったように作業を再開する。

  「今日は暑いね。 防具で体が蒸れちゃって…… あなたも、凄い事になってるわね……」

  愛液がべっとりと付着した手で後輩に触れると、まるで汚物を見るような目で睨み返してきた。

  彼女に触れた事で頭の中にその子の思考が流れ込んでくる。

  この後輩は早紀を憧れの存在として見ていたらしい。

  だが、彼女の中で早紀は最低の人間になったようだ。

  他の女子部員達も、触れて心を読んだ限り早紀の事を嫌悪し侮蔑する存在へと変わっていた。

  (聡を惑わした罰はこの位で許してあげる)

  ◇

  中村早紀の姿で学校を後にした奈央は、彼女の自宅近くまで歩くと人気の少ない路地裏に入り込んで適当な人間を捕食した。

  そして、自分の構成情報を書き換えて存在しない人物の姿になりすまし聡の家へと向かう。

  周りに注意を払い、定期的に人目の付かない場所へと入り人間を捕食して姿を変えながら……

  聡の家に行くためだけに、奈央は見ず知らずの人をすでに5人捕食しこの体に取り込んだ。

  最初は自身の姿を見られないようにする事が目的であったが、いつしか捕食という行為そのものを楽しむようになっていた。

  きっと、今の奈央の本性を知ったら聡に嫌われてしまうだろう。

  いや、それどころの話ではない。

  それでも……

  奈央は愛する聡を自分の物にしたかった。

  聡を愛している気持ちは誰にも負けない自信がある。

  このまま聡に嫌われて離れる位なら、彼を縛りつけてでも自分の物にしたい。

  だから……

  聡にはこの体を好きになってもらえば良い。

  聡の望む理想の女性… 理想の性癖にだって私はなれる力を得たんだから。

  そう思うと自然と口元が緩み口角が上がる。

  聡の家の前で奈央は周りに誰もいない事を確認し肉体を本来の姿へ変換した。

  制服は… 汚れの全くない新品の構成。

  下着も、ソックスも、全部新しい物。

  聡には少しでも綺麗な自分を見てもらいたいから……

  ピンポン

  玄関のチャイムを鳴らし、開いた扉から現れた少年に向かって、奈央は満面の笑みを見せた。

  「お待たせ! 聡」

  ◇◇◇

  いつもと変わらない聡の部屋。

  床の上にはマンガ本や段ボールが無造作に置かれている。

  年頃の女の子を通す部屋とは思えないが、それが逆に奈央の心を安心させた。

  奈央は足元に転がる1冊のマンガ本を手にすると、パラパラとページをめくった。

  変身ヒーローというのだろうか。

  バッタの改造人間が悪の組織と戦っているという内容のマンガ。

  聡は昔からこの手の物を好んで読んでいた。

  小さい頃はよく二人でごっこ遊びをしたのを覚えている。

  奈央はそんな昔の事を思い出しながら本を閉じて本棚へと仕舞った。

  「悪いな。 急に親が実家に戻っちまって」

  「親戚の人が病院に担がれたんじゃ仕方ないよ」

  どうやら聡の親戚が急に倒れてしまい、見舞いのために両親は母方の実家に戻ったそうだ。

  両親がいないという事は、今日はこの家には聡しかいない……

  「丁度私も一人だし、今日はここに泊まってくね。 ご飯は任せて」

  「わりーな。 助かる」

  ◇

  頭をポリポリと掻きながら苦笑いを浮かべる彼を見ながら、奈央は部屋を出ると1階へと向かった。

  キッチンの前に立つ奈央は、放課後に聡へ触れて取り込んだ彼の記憶を展開しトレースを始める。

  彼の好みの味、好きな料理……

  全てを把握した状態で、冷蔵庫の中にあった食材を使い手早く夕飯の準備を始めた。

  肉じゃがと唐揚げ、海苔の味噌汁、少し硬めのご飯。

  彼の好物の食材を冷蔵庫に揃えているおばさんに少しの嫉妬を覚える。

  でも、間違いなく私の方が彼を満足させられる。

  「だって……」

  奈央は出来上がった料理を前にし、一品一品に人差し指を軽く押し当てていく。

  指が触れた箇所には数ミリほどの寄生虫が付着しモゾモゾと蠢いている。

  それは、ゆっくりと溶けてアメーバー状になると吸収され消えていった。

  その様子を奈央は無表情で眺めている。

  「聡は私が作るご飯以外じゃ、もう満足できないんだから……」

  テーブルに並べられた食事を前に聡は目を輝かせた。

  そんな彼に笑顔を向け、奈央は向かい合うように席へと座る。

  「私の料理人生で最高の出来。 さあ、召し上がれ」

  「すっげー美味そう! いただきます!!」

  箸を手に取ると、彼は勢いよく食べ始めた。

  何度も美味しいと言ってくれる聡に、奈央は嬉しさを隠しきれず笑みをこぼす。

  「残さず食べてね。 栄養満点だから」

  「おう、完食余裕。 ってか奈央ってこんな料理上手かったんだな。 こんな幼馴染みを持ったオレは幸せもんだ」

  聡の言葉に一瞬ドキッとしてしまうが、奈央は平静を装いながら笑顔を浮かべた。

  「聡のために頑張って作ったんだから。 美味しいのは当たり前ですっ」

  奈央は偉ぶった口調でそう言うと、聡は照れくさそうに微笑んだ。

  ◇

  食事を終え片付けが終わると、二人はリビングのソファーに並んで座りテレビを見ていた。

  聡一押しのアメコミヒーロー物の映画。

  彼の記憶を探る限り、28回は見たであろう作品だ。

  奈央は映画の盛り上がり箇所に合わせるように驚いた振りをして、聡の手を握ったり、わざと肩を触れ合わせる仕草をとる。

  聡はその度に恥ずかしそうに顔を赤くしながら背け、体をモジモジとさせたりしている。

  その仕草がまた可愛らしく見えて、奈央は思わず彼を抱きしめたい衝動に駆られた。

  そして、彼女の頭の中に一つの欲望が浮かぶ。

  聡を自分の体で包み込んであげたいという欲求が……

  映画が終わり、時計を見るとすでに夜10時を指していた。

  奈央は聡の肩に手を置き、彼の今の気分を読み込んだ。

  そろそろ頃合いだろう。

  そして、耳元に顔を近づけて囁いた。

  「ねぇ、聡の部屋行こう?」

  「え? あっ、ああ。 そうだな」

  奈央の甘い吐息混じりの声に、聡は頬を染め鼓動が激しくなるのを感じた。

  彼女の言葉に素直に従い立ち上がると、そのまま二人で二階にある聡の部屋へと向かった。

  ◇

  部屋に入ると、聡はベットの上にゴロンと横になる。

  奈央はその端にちょこんと腰を掛け、モジモジと指先を動かしながら聡の方へと視線を向けた。

  「ねぇ、聡って好きな子はいる?」

  「え?」

  突然の質問に、聡は横になっていた体を起こして奈央を見つめ返す。

  真剣な眼差しの彼女の顔は赤く染まり、スカートの裾をギュッと握り締めている。

  「私はね、好きな男子がいるよ?」

  「……」

  聡は驚きと困惑の表情を浮かべる。

  その相手が、まさか自分とは思っていない。

  奈央が男子から人気があり、沢山の告白を受けてきた事を聡は知っていた。

  だから、自分に好意を持っているなんて微塵も考えていないのだ。

  聡にとって奈央は憧れの女性。

  自分には手の届かない存在。

  彼女が自分に優しくしてくれるのは幼馴染みだから。

  奈央は聡の考えが手に取るように分かる。

  彼女の頭の中には彼の記憶と思考が全て入っているのだから……

  「ねぇ聡、相談に乗ってもらえるかな?」

  奈央はゆっくりとベットの上を四つん這いで移動し、聡の目の前にやってくる。

  そして、彼の顔に自分の顔を近付けた。

  至近距離まで迫る奈央の整った綺麗な顔に、聡は緊張した面持ちで唾を飲み込む。

  「私、聡が好き。 ずっと前から好きだった……」

  奈央は肉体の発情を引き上げ、頬を火照らせ潤んだ瞳で真っ直ぐに聡の目を見つめてそう言った。

  その表情に、聡は驚きで目を見開いたまま固まっている。

  自分が奈央に好意を持たれているなんて微塵も考えていなかったのだから……

  頭の中が真っ白になる。

  だが、奈央は聡の思考が正常に戻るまで待つつもりなどなかった。

  「好き」

  奈央はゆっくりと目を閉じ、顎を軽く上に向ける。

  まるでキスを待つかのように……

  「奈央……」

  聡の唇が吸い込まれるように奈央の唇と重なり合う。

  それは、初めてのキス。

  二人の舌先が軽く触れ合い、ゆっくりと聡の顔が離れていく。

  奈央は名残惜しそうな表情で聡を見つめ、彼の言葉を待った。

  「俺も、お前の…… 奈央の事がずっと好きだった」

  聡は奈央の目をしっかりと見てそう告げる。

  その言葉に奈央の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

  奈央は両手を広げて聡の首に回すとぎゅっと抱きつくと、彼の首すじに顔を埋めた。

  聡も奈央の背中に腕を回して優しく抱き寄せる。

  「嬉しい……」

  かすれる小さい声で奈央はそう囁くと、両胸を押しつけるかのように体を密着させる。

  柔らかい感触が聡に伝わり、彼の下半身が徐々に硬さを増していくのを奈央は感じた。

  それを受け入れるかのように、奈央は両足を聡の腰にまわして絡めると、聡の股間へ腰を擦り付ける。

  「して…… 私を聡だけの女にして」

  「え!?」

  聡は驚いた声を上げた。

  それは、奈央の言葉に対する物ではない。

  履いていたはずのズボンとパンツがいつの間にか脱がされ…… いや消えてなくなっていたからだ。

  それは奈央も同じで、スカートと下着が消え彼女の股間が露わになっている。

  「脱ぐの面倒だし、これならすぐに出来るでしょ」

  奈央はそう言うと、聡のモノを手で掴み自分の秘部へとあてがう。

  状況が把握できず呆然とする聡を尻目に、彼女は自らの秘所に彼のペニスを入れようと腰を動かし始めた。

  しかし、なかなか上手く入らない。

  「……。 そっか、こっちもすぐ発情させるからちょっとだけ待っ── んあぁッ!」

  奈央の体がビクンッと跳ね上がる。

  口から涎を垂れ流し、秘所からトロッとした愛液が聡の太ももに滴り落ちた。

  「これで入るね……」

  奈央は完全に発情しきった顔で微笑むと、彼の目を真っ直ぐに見つめながら腰をゆっくり下ろす。

  膣内はすでに愛液で満たされ、柔らかく暖かい膣肉が聡のペニスを優しく包み込みながら奥へ奥へと誘う。

  「はぁ~…… 聡のが入ってくる…… んっ、あっ、あぁッ!」

  聡の目の前に広がる奈央の顔が紅潮し、徐々に快楽に染まっていく。

  その淫靡な表情と、初めて味わう気持ち良さに聡は一瞬意識が飛びそうになるが、明らかに異常な事態に我に返った。

  「な、奈央…… お前一体…… 今ズボンが消えて───」

  「そんな事考えなくても良いよ。 考えなくて良い」

  快楽に酔いしれていた表情とは打って変わり、奈央が冷たい表情と声で言い放つ。

  直後、聡は頭の中で弱い電流のような物が走る感覚を覚えた。

  何に驚いていたのか、何を疑問に思っていたのかが分からなくなり頭の中から消えていく。

  「……。 ああ、そうだな…… ごめん、俺の勘違いみたいだ」

  「初めてで緊張してるんだね。 私もだから大丈夫だよ」

  奈央は、聡を抱きしめながらベットへ押し倒すと、騎乗位でゆっくりと腰を動かし始めた。

  結合部からじゅぷじゅぷと音を立て、彼女の愛液と聡の我慢汁が混ざり合い泡立ち始める。

  「はっ、はッ…… 聡のおちんぽ気持ちいいよぉ~ 私のオマンコに聡の形を覚えさせて」

  奈央は恍惚の表情を浮かべ腰を激しく上下に動かし、まるで聡を煽るかのように柔らかな乳房を大きく揺らす。

  その挑発的な仕草に、聡の手が自然と奈央の揺れる乳房を鷲掴みにした。

  「んあっ! もっと激しく揉んで! 私の体をグチャグチャに犯してぇ!」

  柔らかく弾力のある奈央の胸に、聡の手指が深く沈んでいく。

  奈央は聡の手を掴み、まだ足りないと言わんばかりに自分の乳首に押し当てるようにしながら激しくその手を動かした。

  「ねぇ、見える? 私のオマンコに聡のが入っているところぉ。 おちんぽ吸い付いて離そうとしないのぉ」

  そう言って、奈央は繋がっている部分を見せつけるようにしてグリグリと動かす。

  聡のペニスを咥え込んだ奈央の腰が浮くと、聡のモノを離すまいと膣が伸び ぐぽポっ… ぶジュっ と卑猥な音を奏でた。

  彼女らしからぬ淫らな言葉と、その淫乱な光景を目にし、聡のペニスがさらに膨張して大きくなった。

  「ふふっ。 聡は女の子がいやらしい言葉を言いながらエッチするのが好きなんだよね。 ほらぁ、私の淫乱なオマンコをもっと見て?」

  奈央はそう言いながら指で秘所を左右に広げるようにして見せつけた。

  彼女のそこは肉棒を咥え込みながらヒクつき、トロリとした粘液が糸を引きながら滴り落ちる。

  「これって……」

  この光景に聡は見覚えがあった。

  男の上に跨がり、自ら腰を振りながら甘い声でイやしい言葉を叫ぶその姿が、昨日の夜に見たAV動画のワンシーンとよく似ていた。

  「ふふっ。 私に隠し事なんて出来ないんだよ? 聡の好きな事はぜ~んぶ知ってるんだから」

  奈央は得意げにそう言うと腹部に手を当ててグッと押し込み、聡に膣内に入っているペニスの存在を意識させる。

  その瞬間、奈央の膣内はギュッと締まって彼のモノを絞り上げるように絡みついた。

  「私のオマンコ、気持ちいい?」

  奈央は腰をゆっくりと円を描くように回す。

  そして、聡に覆い被さると頬に手を添え再び唇を重ねる。

  今度は口の中に舌を入れ、お互いの唾液を交換し合う激しいディープキス。

  奈央は聡の舌を吸ったり、歯茎を舐めたりと積極的に攻めてくる。

  まるで、昨日の夜に見たAV動画の女優のように……

  じゅぽ… ちゅぱ…… 二人の舌が絡み合い、唾液が混じり合う音が室内に響く。

  「ぷはぁ…… う~ん、女優さんみたいに上手くいかないね。 聡はこっちの方が興奮するかも」

  聡の顔から離れた奈央は、いつの間にか弓道着姿になっていた。

  道着は汗でしっとりと濡れ、まるで部活後のように上気した顔でこちらを見つめている。

  その表情がとても色っぽく、聡は更なる興奮を覚えてしまう。

  だが、これは明らかにおかしい。

  「奈央、いつの間にそんな───」

  言い終わる前に聡の頭に再びピリッと電気が流れる。

  同時に、聡は奈央の格好が変わった事に何の違和感も抱けなくなっていた。

  奈央は自由に服装を変える事が出来る。

  そんなのは当たり前であり、それが出来るのが奈央なのだから。

  「ああ…… そうだな……」

  聡の脳には食事の際に体内に入り込んでしまった寄生虫がすでに寄生している。

  それは奈央の細胞と同じ遺伝子で構成され、彼女の体の一部と言っても良い存在。

  当然、異能と化した彼女の意思で自由に操る事ができ、寄生した物体の組成や記憶の改ざんを容易に行う事すら可能だ。

  奈央はその力を、まるで最初から知っていたかのように使いこなし、そこに疑念を抱く事すらなくなっていた。

  「どうせなら胸当もあると最高だ」

  「ふふっ。 何それ」

  奈央はクスリと笑うと、聡の希望通り胸部に胸当を作り出す。

  ついでに右手に “かけ” を挿し、足には白い足袋、髪型をポニーテールへと変えた。

  その姿は、絵に描いたような凜々しい大和撫子。

  聡の大好きな弓道部の奈央そのものだ。

  「うん。やっぱ奈央はその格好が似合うよ」

  「私、聡はこういうの好きなんじゃないかな~って思って弓道部に入ったんだよ? だからそう言ってもらえると嬉しい」

  奈央は嬉しそうな笑みを浮かべて聡の顔を見つめる。

  その笑顔はとても可愛らしくて、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚を聡は覚えた。

  それと同時に自分のために、そこまでしてくれていた奈央の事が愛おしくて堪らないという感情が湧き上がってくる。

  聡は奈央の体に手を回し、ぎゅーと強く抱きしめながら彼女への愛を囁いた。

  「好きだ、奈央」

  「うん。 私も聡が大好き」

  奈央は腰を動かしながら聡の唇を奪うと、聡のモノを膣内で再び擦り始める。

  ヌルッとした温かい感触に包まれて、聡のペニスは更に硬さを増していく。

  彼の腰の上で激しく振り乱れる奈央の姿は、胸当てがズレて大きな乳房が露わになり、それが激しく揺れる姿はとても官能的だった。

  そんな聡の視線を察してか、奈央はかけを挿した手を口に入れ、ちゅぱちゅぱと黒ずんだ革をしゃぶりながら腰をグリグリと回すようにくねらせる。

  それは普段の彼女からは想像も出来ない程に淫らで、まるで聡の性癖を全て知り尽くしているかのような行為だった。

  当然それは聡の性的欲求を刺激し、彼の理性を奪って更なる欲望と願望を膨れ上がらせていった。

  聡の奥深くに現れた新たな欲求を察知した奈央は、急に腰の動きを止めるとニヤッと不敵な笑みを浮かべ彼の耳元に唇を寄せる。

  「へんた~い」

  まるで心を見透かされたかのようなタイミングで、そう言われて聡は一瞬ドキリとする。

  しかし次の瞬間、それ以上の驚きが聡を襲った。

  ずしりとした重い感触が聡の体にのし掛かる。

  聡にはその重さに覚えがあった。

  自分の体を見渡すと剣道の防具を身に着けていた。

  それは、間違いなく普段自分が使っている物。

  面は付けていないが、胴に入る傷、垂れの痛み具合、小手から伝わる感触は、まさに慣れ親しんだ物で間違いない。

  そして、体から漂ってきた臭いにも。

  道着はしっとりと濡れており、軽い稽古後のような……

  いや、この臭いは前日に猛稽古をして干さずに着た時と同じ、いやそれ以上かも知れない。

  所々に汗が白く吹いており、かなり強烈な臭いを放っている。

  「女の子にこんな姿でエッチさせるなんて、今日だけだからね?」

  「奈央…… お前その格好……」

  聡の腰に跨がっている奈央は、白い防具と道着に身を包んでいた。

  それは彼の所属する剣道部の女子が着用している物であり見慣れた姿。

  しかし一点だけ違う所がある。

  奈央の来ている白い道着と防具が激しく汚れていた。

  道着や小手先に藍の色が移り、激しい稽古をした後のような状態になっている。

  一日や二日の稽古ではここまで汚れる事はない。

  「聡と猛稽古して、道着と防具を放置した状態を1週間繰り返した状態を再現してみたんだけど…… 凄っごい事になってるね。 それにこの臭い、想像以上……」

  奈央は自分の手にはめた小手に鼻に近づけると、クンクンと匂いを嗅いで顔をしかめる。

  彼女の言う通り、長い時間をかけて染み込んだ汗の臭気が道着と小手から濃厚な臭いを出していた。

  そんな悪臭を放つ防具姿の奈央を見ていた聡は、ふとある事に気が付いた。

  彼女の付けている垂れに【中村】という刺繍が入っている。

  「それ、早紀の防具か?」

  「え?」

  奈央は自分の付けている垂れに目を落とすと、少し考えるような仕草をする。

  その直後、刺繍の名前が【奈央】に変化した。

  聡は、何故自分と奈央が防具を付けているのか、何故垂れの名前が一瞬で変わったのか疑問を持つ事が出来なかった。

  それは当たり前であり、何の不思議もない。

  「二人で猛稽古しよ? この姿で、二人きりの夜の猛稽古……」

  聡のペニスが興奮を隠せないようにビクンと脈打ち堅さを増した。

  それを合図にするかのように、奈央は腰を浮かせて聡の肉棒をギリギリまで引き抜くと、そのまま一気に腰を落とす。

  ずんっ! と音を立て大量の汗を染み込ませた防具と道着を身につけ重量が増した奈央の体に、聡の剛直が今まで以上に深く突き刺さった。

  何故防具を身につけ、袴を穿いた状態でこんな事が出来るのかなど考えるだけ無駄だった。

  奈央なら出来る、彼女に出来ない事など何もないのだから。

  膣内を押し広げて侵入した聡の肉棒は最奥まで到達し、子宮口をこじ開けるようにぐりぐりと押しつけられる。

  奈央は声にならない悲鳴を上げながら、背中を大きく仰け反らせた。

  「あ~ 凄い…… 聡、今日一番興奮してるね」

  「奈央だって、今の突きだけでイッ─── うあっ!」

  聡の言葉を遮るように奈央は激しいピストン運動を始める。

  パンっ、パンっ、と力強くぶつかり合う音が響き、ミシミシと防具が軋みを上げる。

  「ねぇ、私は聡の妄想するこんな性癖も喜んで受け入れる事が出来るの。 聡のためならどんな格好にも、どんな姿にだってなれるんだよ」

  「奈央… 奈央ぉっ!!」

  聡は奈央の腰を掴み、下から何度も肉棒を突き上げる。

  奈央の体は聡に突かれる度に跳ね上がり、その動きに合わせて秘所から愛液を吹き散らかす。

  二人の結合部は泡立ち、飛び散った粘液が袴をすり抜けて二人の防具を白く染めていく。

  「ああっ! 激しっ!! イッくぅ!!」

  奈央は背中を大きく仰け反らせ絶頂を迎えた。

  彼女が付けている胴が小刻みに震え、口から涎を垂らしながら虚ろな目で天井を見つめている。

  そして、力尽きたかのように聡の体に覆い被さった。

  「はぁ、はぁ…… ごめんねぇ、私だけ先にイッちゃって……」

  「おい、そんなにくっ付くと白防具にもっと色が移っちまうぞ」

  聡が身につけている防具と道着の藍染めの色が、どんどん奈央の着ている白道着に移っていく。

  奈央はそんなことお構いなしと言わんばかりに聡の体の上で体を揺すっていた。

  「汚して…… 道着や防具だけじゃなく、私の体もいっぱい聡の色に染めて…… んあぁッ!」

  「早紀!?」

  奈央の声が… 姿が中村早紀に変わっていた。

  顔が、声が、体つきまで間違いなく早紀のものだ。

  「私の…… んっ! 奈央の体はちょっと疲れちゃったから、この子の体を使わせて貰うね? 捕食した罪悪感も少しあるし、この体で聡とセックスだけさせてあげる。 んあぁぁ!」

  早紀が大きく仰け反り、完全に発情しきった膣がきゅぅと締まった。

  先程まで感じていた奈央のモノとは異なる感触。

  それは見た目だけでなく、肉体そのものが完全に奈央以外のモノへと変化していた証拠であった。

  「んっ…… この子の体、凄く敏感。 聡の突き入れたまま変身しちゃったから…… それとも、毎日聡の事を考えてオナニーしてたからかな」

  早紀は腰を上げ、聡の肉棒を引き抜くと今度は自分がベッドに寝転がる。

  そして股を開き、聡に見せつけるように、そして誘うかのように愛液を垂らしヒクヒクと蠢く秘所を指で広げて見せた。

  秘所の形に合わせ袴がポッカリと開き、そこから覗く膣口がはっきりと見えている。

  袴は愛液をたっぷりと吸い込んでいて、それが半透明の糸を引きながら垂れ落ちる様はとても淫靡だった。

  「お願い。 入れて」

  聡は誘われるがままに腰を突き出し彼女の膣内に挿入する。

  「んっ!」

  「きっつ!」

  膣壁がペニスを締め上げ、奥へ進ませまいと抵抗してくる。

  彼女もそれを感じたのか、聡の両腕と掴んで引き寄せると、両足を腰の後ろに回してガッチリとホールドした。

  ミチリと音を上げ聡のペニスが根元近くまで飲み込まれる。

  「ンあァァン!」

  早紀は甲高い喘ぎ声を上げた。

  その表情は苦痛に耐えているようにも見える。

  「大丈夫か?」

  「うん…… この体すごく感じやすいの。でも、全開までオマンコ蕩けさせてあるから気にしないで」

  早紀の顔は笑みを作っているが、その目から涙がぽろぽろと零れ落ちていた。

  「痛いのか?」

  「違うの。 この子、聡と繋がっているのが嬉いみたい…… だからいっぱい犯してあげて!」

  目の前の早紀は、本物の早紀なのか、それとも奈央なのか聡には判断がつかない。

  ただ、その言葉に答えるように聡は腰を動かし始めた。

  腰を引くたびにカリ首が引っ掛かり、亀頭が抜けそうになる。

  それを逃さないとでも言うかのように、早紀の膣が吸い付いてくる。

  あまりの刺激に聡の射精が促され、腰の奥から熱いものが込み上げて来た。

  「うっ! 出そう。 抜くぞ」

  「ダメぇ!! 抜かないでぇ!」

  急いで抜こうとした時、早紀が絡めいた足が力強く聡の腰を引き寄せそれを阻止した。

  そして、体を起こし両腕で聡の頭を抱きしめると耳元に唇を寄せそっと囁く。

  「出すなら私の…… 奈央の中に頂戴」

  それは奈央の声だった。

  早紀のポニーテールに結い上げていた髪がふわっと垂れて聡の頬を撫でながら靡くと、セミロングの黒髪が視界に入る。

  耳元にあった顔がゆっくりと離れ、聡の瞳に映ったのは奈央の笑顔。

  膣内の感触も奈央のものに戻っており、ぎゅぅと強く聡のモノを握りしめてきた。

  「射精して! 私の! 奈央の子宮の中に溢れる位ぶちまけてぇー!」

  聡は堪らず腰を突き出し、奈央の子宮口にペニスの先端を叩き付ける。

  びゅーっと勢いよく精液が飛び出し、奈央の子宮内を満たしていく。

  「うわっ! 何だこれ…… 止まらない!」

  聡の睾丸内で増殖した寄生虫が、大量の精子を強制的に作り出し奈央の子宮へ注入していく。

  普段の自慰とは比較にならないほどの量と長い射精に、聡は腰を引こうとしたが奈央の足がそれを許さない。

  奈央の足が聡の腰を強く掴み、逃がさないと言わんばかりに更に深く自らの膣内へと誘導した。

  奈央の子宮が降り、聡の精子を一滴たりとも逃すまいと膣壁が蠢いているのがペニス越しに伝わってくる。

  「凄いドクドクしてる…… 私の中、聡の子種汁でいっぱいだよ……」

  奈央はガクガクと震えながら自分の胴に手を当て、愛おしむようにさすり始めた。

  そんな状況でも子宮に注がれた聡の精子一つ一つから遺伝子情報を精査し、最も密度の濃い一つの精子を選び出す。

  奈央は満足そうな笑みを浮かべ、自らの肉体へとその情報を転写し自らのモノとしていく。

  「ごちそうさま」

  奈央は両手に填めていた小手を脱ぎ、腰を浮かせ肉棒を引き抜くと、秘所からこぷこぷと溢れ出る聡の精液を小手の中に溢れ落としていった。

  その様子を聡が不思議そうに見つめている。

  「はぁ、はぁ…… 奈央、一体何をして……」

  聡が言い終わる前に、奈央は聡の精液で満たされた小手を再び手に填め手先を動かす。

  「だって勿体ないでしょ? それに小手の中、聡の精液でグチョグチョして凄く気持ちいい……」

  奈央はうっとりとした表情で何度も何度も小手の中で手を動かし、中の液体を馴染ませるようにクチュクチュと音を上げかき混ぜる。

  そして、床に飛び散った精液も小手に擦り込むようにしながら拭き上げると、ドロドロになった小手先を自分の顔に押し当て塗りたくった。

  小手の中からポタポタと濁った液体を垂れ落とし、まるでその臭いを嗅ぐように鼻に密着させて大きく息を吸い込む。

  「あ~ 聡の臭い大好き…… 聡の濃厚な精液と濃縮された汗の臭い…… 体に刻み込んだよ」

  「奈央……」

  そんな異常とも思える行動、言葉を発する奈央を見て、聡は戸惑いを覚えるもそれを拒否出来ずにいた。

  そんな聡の表情を察し、奈央は小手先を口にあてギュッと歯で噛み締める。

  汗と精液が混じる濁った液体がジュワッと染み出し、それをゴクンと喉を鳴らして飲み込みながら聡に微笑みを向けた。

  「私、聡よりも性癖が歪んでるみたい。 だから、聡の性癖も全部受け入れられるよ…… こんな女の子は嫌い?」

  奈央の姿は、まるでレイプをされた後かのように白濁とした精液と愛液に塗れ、防具と道着が着崩れている。

  湯気が立ちそうな程に熱を帯びた彼女の顔は、口から聡の精液を垂らして艶めかしさを漂わせていた。

  そんな奈央の姿は、聡の最も好む性癖を刺激するもので興奮を覚えないわけがない。

  「最高にエロくて興奮する」

  「でしょ?」

  奈央は聡の言葉を聞いて、荒い息を吐きながら微笑を浮かべる。

  当然だ。

  これは聡が心の奥に隠していた願望であり、奈央はそれを引きずり出して彼が最も興奮するシチュエーションを作り上げたのだから。

  思い人が、自分が最も好む格好と性癖を満たして乱れ、喘ぎ、果てていく姿を見て喜ばない男などいない。

  今の奈央にはそれが出来る。

  いつでも、どんな姿でも彼の望むままになれるのだ。

  でも、この格好でのセックスはちょっとだけ苦痛かもしれない。

  重いし、動きにくいし、それに臭い……

  「でも、今日は特別だから。 次は普通の激しいエッチをしようね」

  「普通の意味がよく分からないけど…… なら、次は清楚なお嬢様でよろしく」

  「変態」

  防具と道着の構成情報を解除し、ようやく全裸になった二人は汗だくの体で笑い抱き合うと、どちらともなくキスをした。

  奈央は聡の体から伝わる体温を感じ、聡は彼女の柔らかさと匂いに包まれる。

  そして、聡の心の中から奈央の支配欲が芽生えていくのを彼女は感じ取ると、それが嬉しくて仕方がなかった。

  この時間がずっと続けばいいのに……

  それから二人は長い時間ピロートークを楽しんだ。

  奈央は、聡の体の上で甘えながら余韻を味いながら考えていた。

  今日一日で自分の体の構造と能力は大体把握出来た。

  こんな体に変わってしまった時は取り乱したが、今ではどうしてあんなに絶望していたのか不思議に思えるくらいだ。

  奈央は人や物質の情報を融合し、自身の体に展開できる人外の力を手にした。

  中村早紀のように人を別の物質に変換することだって出来る。

  人間を捕食し、完全な構成情報を取得できれば、姿だけでなく記憶、人格までも完全にコピーして再現が可能。

  いや、それはコピーではなくオリジナルになると言っても良いだろう。

  そして、それを自分の意思を持ったままで思うように再構築し制御できる。

  何て素晴らしい体なのだろう。

  しかし、この体にはまだ未知の部分も多い。

  この体に他の生物を取り込んだら、どうなってしまうのだろうか……

  もっと自分の能力を調べる必要がありそうだ。

  「どうした奈央」

  「ん? 何でもないよ」

  でも、今は聡と一緒にいるだけで良い。

  それだけが今の奈央にとって全てなのだ。

  寄生体の影響なのか、奈央の奥にある本性だったのかは分からないが、彼女は自分が淫乱で快楽に貪欲である事を知った。

  (今度、聡のお気に入りのAV女優を探し出して捕食しようかな……)

  そんな事を何の躊躇もなく考えている自分はもう以前の自分ではないのかも知れない。

  それでもいい。

  お陰で聡とこうして愛し合う事ができる関係になれたのだから。

  もう戻らない…… 絶対に手放さない。

  私は人間を辞めた。

  「ねえ聡? ずっと私と一緒にいてくれる?」

  「当たり前だろ。 絶対に離すもんか」

  聡の答えに私は満面の笑みを浮かべると、彼は優しく体を抱きしめてくれた。

  私はそんな聡の頭を抱き寄せると、耳元に唇を近づけて囁いた。

  「嬉しい…… 一緒に堕ちていこうね」

  「なんだそれ?」

  ははは、と笑う聡からは見えないが、奈央の目からは瞳が消え白く濁り、口元が裂ける様にニタリと大きく開いていた。

  二人は精液と愛液が飛び散る異様な雰囲気に包まれた部屋で抱き合い、互いの温もりを感じながら眠りについた───

  つづく