「ニィ……いる?」
図書館に入り、辺りをキョロキョロ見渡す。この時間帯は、まだ誰も来館していないようだ。静寂だけが、図書館を包んでいる。
「んゃ?オイラのこと呼んだ?」
本棚の上からやや間抜けな声が響く。見上げると、そこには小ぢんまりとした青い毛色の猫がいた。猫……とは言ったが、2本の足で立っており、真っ白いお腹がぽっこり出ている上、人の言葉を話す。
「ニィ!」
猫の姿を認めると、すぐさまニィのいる方へ駆け寄る。そして、こちらへ降りてこいと言わんばかりに両手を広げる。ニィは、仕方ないなぁ~という表情で、本棚から飛び降りる。
「はいはい、今降りるよぉ」
ストンと床に着地する。そして、自身のお腹をポンと叩く。実にのんきな様子だ。
「んー、いつにも増してもちもちしてるなぁ〜」
自身のお腹を撫でながら、その柔らかさにご満悦の様子のニィ。その姿を見ていると、私も触りたくなってくる。
「わ、私も触っていい?」
恐る恐る尋ねる。するとニィは、少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで返答した。
「全然構わないよぉ」
その言葉に甘え、ゆっくりとお腹に触れる。すると、その柔らかさに驚きを隠せなかった。もっとフワフワしていると思っていたのだが、意外と固い毛並みで肌触りが良いのだ。しかも、お腹だけでなく全身ふわふわの毛で覆われており、その毛並みの手触りはクセになってしまいそうな程だ。
「おっ、ニルもこの毛並みの虜になったみたいだね」
ニィは、私の手がお腹に触れていることに気付き、優しく撫でる。
「うん……すごく気持ちいい……」
少し顔が火照るのを感じたが、その手を止めることは出来なかった。しばらくお腹を撫でて満足したところで手を離す。そして、本題に入ろうとする。
「それでね……ニィに相談したいことがあって」
そう言うと、ニィは真剣な表情になる。一体どんな相談なのだろうか?という疑問が、顔にありありと浮かんでいる。
「相談っていうのはね……」
そう言いながら、バッグから一つの瓶を取り出す。中には一杯の液体が詰められているのが見える。
「この薬を飲んで欲しいの。ネルルから貰った薬、だよ?」
薬をニィに差し出す。すると、ニィは反射的に鼻をくんくんと近づける。
「ネルル、かぁ……今度は一体、何を企んでいるのやら……」
呆れたように呟く。しかし、ニルの頼みを断ろうとする様子は無かった。
「ま、暇だし飲んでみるよ。ニルの頼みだしね」
そして瓶を受け取ると、中に入っていた液体を勢いよく飲み干す。すると、すぐにニィの表情が変化する。
「に……ニィ?」
ニルの心配そうな表情を見てか、ニィは無理やり笑顔を作って話しかける。
「へへっ、ちょっと眠たくなってきたかな」
そう言って、その場に横になる。そして間もなくして、すやすやと寝息を立て始めた。あまりの早い寝付きの良さに驚くが、きっとこれも薬の効果なのだろう。
しばらくすると、ニィの体に異変が起こる。ぶくんっ!っと、ニィの真っ白なお腹が膨れたのだ。さっきも、もちもちなくらいにぽよんと膨れていたのだが、それよりも更にふっくらしてきている。まるで、オーブンに入れたパンみたいに、膨らみを増していっている。
「ね、ニィ……」
心配になって声をかけるが、ぐっすりと眠っているのか反応は無い。すると次の瞬間には、ニィのお腹がぶくんっと一段と大きくなったのだ!しかも、そのままぽよんぽよんとどんどん膨れ上がっていく……
「に……にぃ……!」
ニルは恐怖を感じつつも、好奇心からだろうか?ジックリ観察していた。そして、パン生地のようなお腹はパンパンに膨れ上がってしまった。明らかに破裂寸前であろうことが分かるほどだ。もし、こんな風船みたいなお腹に思いっきり抱きついたら……
「えいっ!」
ニルは好奇心に負け、そのふかふかのお腹を目掛けて抱きついてしまった。もふっ!とした柔らかな感覚がニルを包み込む。この感触だけで、気持ちよくなってしまいそうだ……しかし、次の瞬間には後悔することになる。
「うぷっ!?」
急に視界が真っ暗になる。顔全体に柔らかいお腹が押し付けられたのだ。ふわふわした体毛が顔をくすぐる感覚がある。そして、僅かな隙間から空気を取り込もうとする。しかし、入ってくる空気はニィの柔らかい体毛ばかりである。
「く……苦しい……」
ニルはバタバタと手足を動かして抵抗するが、ふかふかのお腹に押さえつけられてしまい全く意味をなさない。また、息継ぎしようとしても、ふわふわの体毛が邪魔して呼吸すらままならない。何とか顔を動かすことは出来るものの、肺の中に入ってくる空気は体毛から出てくるふわふわの綿あめのような物だけだ。これでは息など出来ないだろう……
「んぷぅ……」
ニルは抵抗を諦め、全身を脱力させる。もうどうにでもなれ!という気分だ。ニルが抵抗しないのを確認したのか、ニィはお腹をもふもふと動かす。しかし、それはニルにとっては苦しいだけである。ニルの苦しげな表情を見てか、ニィはお腹を動かし続けるのを止める。その後、何やらゴロゴロという音が鳴り始める。ニィのお腹から聞こえてくる。まるで、お腹の中で何かが生み出されているような……そうこう考えているうちに……
ぶおおおっ!!!
すぐ近くで轟音が響く。それと同時に、鼻を刺すような臭いがニルの鼻を掠める。それは、下痢便のような臭いであった。ニルは、この臭いが何なのかすぐに理解した。そう、お腹の中に溜まったおならだ……そして、そのガスの矛先は……
「くしゃいいいぃぃぃっ!!」
ニルはその悪臭に悶絶する!しかし、それは終わりではなかった。その後も何度も何度もおならを放出するニィ。その度に、ニルは悶え苦しむのである……
ぶふぅっ!!ぼふぅっ!ぶっぷすぅぅううぅぅぅっ!!
下品な音を立てて、ニルの顔面におならが容赦なく襲いかかる。ニルは、そのあまりの臭いに涙目になっている。しかし、そんな時でもお腹の中のおならは止まることを知らない……
ぶうぅぅ~~っ!ぶしゅるるるぅ~~!!
ぶびびぃぃぃぃっ!ばふぅぅっ!!ぶりりぃっ!ぷすぅぅうっぅ~……
爆音のようなおならが炸裂する。その度にニルの体が大きく跳ねる。そして、その後に訪れる猛烈な臭い。ニルは、もう限界を迎えようとしていた。そして、それを感じたのかニィがお腹を揺らすのを止めると……
ブブゥゥ~~ッ!!ブッスウゥゥ~……ブリリリィィ~~ッ!!
特大のおならをお見舞いする!もはや、その臭いは兵器といっても過言ではない威力であった。ニルの顔全体が覆われる程の巨大なおならだ!あまりの悪臭にニルは気絶寸前であった。だが、ここで気絶してもなおニィのお腹は止まらなかった。
ブッボオオォォォォッ!!ブビビビイイィィィ~~ッ!!
下品な音を響かせて、ニルの顔面に巨大なおならを放出する!その臭いたるや、もう言葉では表せられない程に強烈であった。しかし、ニルにとって救いだったのはニィが寝ている間に終わった事だ。もし起きていれば……そんなことを考えてゾッとするニルなのだった……
そして、ニルが目覚めた頃にはニィは元に戻っていた。どうやら薬の効果が切れたようだ。お腹の膨らみもすっかりなくなっており、元の姿に戻っていた。
「私……なんであんな馬鹿なことを……」
ニルは自分の行動を思い返し、頭を抱える。そして、今までにない羞恥心に苛まれたのだった……