願いが力になる世界。
十年前に地球を通過した大流星群「願い星」以降、特殊な力を持つ人間や神話の世界の化け物、果ては星の力を狙う宇宙人まで現れて、世界は混迷を極めた。
そんな中、正しい心で星に願いヒーローになった者達が現れる。さあ、君も願いで世界を救おう!
「カッコいい〜」
俺はアキラと一緒に夕方のアニメに夢中だった。世界を守るヒーロー達を主人公にして悪のヴィランと戦う戦隊物だ。
「やっぱ俺はキャプテンウルフが一番だなっ、めっちゃカッコいいもん」
「リュウくん筋肉キャラ好きだよね。僕はワイルドベアかな。大っきくて優しくてお父さんみたい」
アキラはお父さんが大好きなんだって、でも今はレスキュー隊として世界中を飛び回ってるから全然会えないみたい。
「俺もこんな風にかっこいいヒーローになりたいなあ」
「んー、『願い星』があればリュウくんもなれるんじゃないかな?」
「だよなっじゃあ明日もいつものように『願い星』探しだっ」
「うんっ」
俺たちはそうやって『願い星』を探しながら、裏山や廃墟に入って遊んでた。『願い星』なんて数年前の大人たちの大捜索で普通の街になんか残ってないのは子供の俺たちにもわかってた。
だから大半は冒険目的の遊びだったんだ。普段は行かないような場所や大人たちのいない所でドキドキしながら遊んでた。
それが俺とアキラをあんな風に変えてしまうなんて思いもしなかった。
「はぁはぁ」
「リュウくん、僕を置いて逃げて」
「バカっ、そんなのできるわけないじゃん」
雨の降る森の中、俺たちは巨大な黒い影から逃げていた。
いつものように『願い星』を探して、今度は裏山の森の中を探検していたんだ。
そこで俺たちは六角推の石柱を見つけたんだ。まるでアンテナみたいに空に開くように立っている石柱は俺たちの背丈と同じくらいの高さがあった。
「何だろこれ、もしかして願い星かな?」
「願い星はもっと宝石みたいにキラキラしてるらしいよ。これはコンクリートみたいに灰色だし、手触りもなんかざらざらでただの石じゃないかなぁ?」
そう言ってアキラが少し触ったら、六角推の石柱があっけなく倒れてしまったんだ。
「えっ、おしてないよ?」
おとなしいアキラが乱暴に扱う訳がないから、多分何か別の理由で倒れたんだと思う。元々不安定な置き方だったんだから、絶対アキラのせいじゃない。
「おのれ・・・よくもぉ・・・」
そしたら倒れた石柱から、黒い影がたちのぼってでっかい化け物が現れたんだ
「我が帰る道を閉ざしおって許さんぞ」
そいつは頭が三つもあったんだ。
獅子の頭、山羊の頭、尻尾には蛇の頭。身体は象みたいにデカい。
「わっわっわっ、ごめんなさい」
「貴様の身体を奪ってやるぅ!」
その化け物はアキラめがけて突進してきたんだ。俺はアキラの手を掴んで夢中で森の中を逃げ回った。
走って走ってどこを通ったのか帰り道もわからなくなって、それでも化け物は追いかけてきた。
「リュウくん、僕もうだめ・・・」
アキラが疲れて倒れ込んだ。手足は擦り傷だらけでボロボロだ。
「アキラ、立って。走らないとアイツが」
「僕もうダメ・・・リュウくんだけでも逃げて」
「そんな事できる訳ないだろっ親友を追いて逃げるなんてヒーローじゃないよ」
「リュウくん・・・」
アキラに肩を貸して歩こうとした時、影が俺たちの周りを取り囲んだ。
「ふははっ、もう逃げられんぞ」
三つの頭が俺たちを睨む。
あぁ、もっと俺が身体が大きくて強かったらキャプテンウルフみたいにアキラを守ってやれるのに。
「その願い叶えてやろう」
重くて低い声が聞こえた。そしたら真っ白な光が空から降ってきたんだ。
「お前が望むならこの化物を倒す力をやろう」
太陽みたいに輝いてるけど、その声の光はとっても大きな人に見えた。もしかしてこれが願い星?
あの化け物は突然現れた光に眩しそうにしてるけどすぐにも襲いかかりそうに怒り狂ってる。
一か八かだ。俺は光の人に向かって叫んだ。
「うん! アキラを守れる力を! キャプテンウルフみたいなヒーローになりたいんだ!」
「承知した」
光が僕の中に入ってくる。熱い。身体が火のように熱い。それに何だか身体がムズムズする。
胸が苦しい。身体の奥から何かが大きくなっていく。
いや、俺が大きくなってるんだ。心配そうに俺を見つめるアキラの顔が少し遠くなる。俺の手や足がグングン伸びて、キャプテンウルフみたいに筋肉がモリモリになってく。
「すごいっ俺はヒーローになれるんだ」
両腕を曲げて力瘤を作る。筋肉がミチミチ音を立てて山のように盛り上がった。しかもまたまだ大きくなっていく。
願い星の話は本当だったんだ。キャプテンウルフよりも筋肉モリモリのヒーローになっちゃうかも。
「リュウくん!?」
アキラが僕を指差して驚いていた。どうしたんだろう。指の先は俺のお腹に向かっていた。
「えっ?」
お腹がまん丸に膨らんでいた。お母さんが弟を産んだ時みたいに大きかった。触るとブヨブヨで柔らかい。まるでお父さんのお腹を何倍も柔らかくしたみたい。
「なっ、なんだこれぇ?」
お腹はまだまだ大きくなる。それは俺の胸や腕、お腹が邪魔でよく見えないけど足にも広がって、ムキムキの筋肉をブヨブヨのお肉が隠していく。
「あわわっ」
ついにそのブヨブヨが首をたるませて、俺の顔まで広がった。
ほっぺたや口が重い。顔の形も何だが変わって顔全体がムズムズする。
「お゛ぉぉ」
俺の口から聞いたこともないような低い声が出た。どうなってるの?
「リュウくん、お父さんみたいな髭・・・」
アキラは俺の顔を呆然と見てる。一体どうしたの?
俺の顔はどうなってるの?
「んお゛っ」
おチンチンから何かが込み上がってきた。どうしよう、何だかビキビキして痛い。でも、ちょっと気持ちいい。
おチンチンがもっとビキビキして何だかグングン大きくなってる気がする。金玉も膨らんで僕の足の付け根がとっても重い。でもそれが強くなるほど、気持ちいいのも強くなってオシッコが出ちゃいそう。
「すごい・・・」
アキラが俺のおチンチンをすごい顔で見てる。おっきなお腹でどうなってるのかわからない。あぁ、見ないでオシッコ漏れちゃう。
「あっあっあっ、だめぇぇ」
おチンチンが震えてオシッコがすごい勢いで飛び出した。全然止まらない凄い凄い気持ちいい。
飛び出したオシッコは真っ白でネバネバしてた。それは水溜まりみたいに俺の足元に広がると、今度は俺のおチンチンに絡みついてきた。
「んっんんっ」
おチンチンや金玉をパンツみたいに白いオシッコが包み込んだら硬くて重い大きなベルトみたいに変わっていく。
「よしよし、これでしまいじゃ」
頭の中で声がした。何だか頭がわしゃわしゃして髪の毛が伸びてペタペタに固まった。
その時、俺の身体の芯から今までで一番の力が湧き上がって、自然に大きな声で叫んでしまった。
「どすこいっ正義のヒーロー金剛山!ここに見参!」
大きく四股を踏んで俺はムチムチした身体を震わせた。凄く気持ちが良かった。おチンチンからまたオシッコが漏れて、お腹を包んでる何かの中を濡らしちゃった。
「ええっ!?リュウくんがお相撲さんになっちゃった!?」
アキラの声に俺はハッとした。そうだよ、こんなデブデブで頭はちょんまげ、これってお相撲さんじゃん。
「これこれ、それはちょんまげではない。大銀杏といって力士の中でも強い者しか結えないのだ」
また頭の中から声がした。え、もしかして俺の中に誰かいるの?
「リュウくんっ危ない!」
「よこせぇっ!」
すっかり忘れてた。頭が三つある化け物が大きな身体で飛びかかってきた。
でも何だか怖くない。俺は虫でも払うみたいに手を軽く動かした。
「ぐへぇぇぇ!」
その手が化け物の頭の一つであるヤギの頭にぶつかった。その衝撃で化け物は木々を薙ぎ倒して吹き飛んでいった。
「うそ・・・」
「すっげぇ・・・」
まるで爆発したみたいに化け物と木が吹き飛んで、逆に俺たちがびっくりしてた。何だか夢みたいだ。
「どうだ。これぞ由緒正しい日本伝統文化、相撲の力だ」
俺の中からしゅるりと小さな光の玉が現れた。どうやらさっきから聞こえた声はこいつだったみたいだ。
「・・・あのあなたは誰ですか? リュウくんに何をしたの?」
アキラがどこか警戒しながら慎重に尋ねた。俺も知りたかった、どうしてこんな太っちょのお相撲さんになったのか。だって俺はキャプテンウルフみたいにムキムキマッチョになりたかったのに、どうしてこんなブヨブヨになったのか。それが知りたかった。
「いいだろう。とくと説明してやろう。・・・しかし場所を変えるとしよう。やつめ意外にしぶとい」
「えっ?」
「先程の化け物はまだ生きておるようだ。遠くから我等をうかがっておる。我の力も長く持たん、我の住処へと移動するぞ」
そう言って光の玉は更に輝いて眩しくて目が開けられないほど周りが真っ白になった。
それと同時に何処かに強く引っ張られたような感覚になる。
「ついたぞ」
着いたみたいだ。だけど目が真っ白にチカチカしてよく見えない。時間とともに少しずつ目が慣れて、青い空と緑の木と遠くに地平線が広がってるのがわかってきた。
「リュウくん、ほらっ僕らの街が見える」
アキラが見慣れた小学校や図書館を指差した。どうやらここは裏山の一番上みたい。
「ここなら少し落ち着いて話せるだろう」
後ろから声がしたので振り向くと、そこには森の中にぽっかり空いた草ボーボーの広場と壊れかけた神社があった。といっても鳥居と小さな祠があるだけで、とても長いこと誰も来てないのかボロボロだった。
光の玉はその祠の上をフヨフヨと浮いている。
「裏山にこんな所があったなんて知らなかった」
アキラは興味深そうに神社を見ていた。勉強好きのアキラでも裏山にこんな場所があるなんて知らなかったみたいだ。
「さて、何から話すか。まずはこれを見てほしい」
祠の扉が開いた。中から真っ白な光が溢れて、手のひらに収まらないほど大きな宝石が置いてある。
「えっもしかしてこれって」
「そう、我の願い星だ。遥か昔にこの地に落ちた隕石が我に奉納され、以来ここに安置されておる」
「遥か昔? でも願い星が降ったのって五年前だけど・・・?」
「わからぬ。ただ五年前、かの流星群が通り過ぎた時、この隕石はこのように輝き始め、そして我も覚醒した」
「えっ、つまり貴方はその時生まれたの?」
「いや、おぼろげだがまだこの神社に多くの人が参拝していた頃の記憶がある。ただこのように明確な意思を持ったのがその時ということだ」
「うーん、なるほど。・・・願い星のせいなのかなぁ」
「それは良いけど、早く元に戻してよ。何だかこの身体くさいんだ」
二人はなんだかよくわからない話を続けようとしてたので俺は我慢できなくなって突っ込んだ。とりあえず、元に戻して欲しい。何だか身体もムズムズして変な気分なんだ。
「承知した」
光の玉が輝くと俺の身体から光の粒が抜けでていく。
それと同時に、俺のデブデブなお相撲さんみたいな身体が縮んで元に戻っていく。
逾槫沺縺ョ螳郁ュキ閠??ェ蜉帷┌蜿梧ィェ邯ア髮キ髮サ轤コ蜿ウ陦幃摩驥大央蜉帛」ォ
んっ、なんだろ。何だかちょっと頭が痛かった気がする。
身体が戻るとマワシがさっきまで俺が着ていた服に変わって、すっかり何もかも変身前と同じに元通りになった。
「わぁ、よかった。リュウくんが元に戻ったぁ」
アキラが俺に抱きついてきた。普段はそんな喜び方をしない大人しい友達の行動に少しドキドキした。
「大袈裟だなあ。身体が大きくなっただけだろ?」
「違うよぉ、だってリュウくんはわからなかっただろうけど、凄い見た目だったんだよ。まるでくまのオジサンみたいで、本当にリュウくんなのか疑うくらい違ったんだから」
そんなに違ってたのか。全然わからなかった。
「でも、カッコよかっただろ? 横綱力士みたいで。俺も大人になったらあれくらいでっかくなりたいなぁ」
あぁ、もう一度あの姿になりたいなぁ。身体が臭いのは嫌だったけど、あれくらいでっかいと相撲でも負けないんだろうな。
やっぱり先輩たちみたいに俺ももっとちゃんこ食べないとな。
「リュウくん? なんか言ってること変だよ?」
「えっそうか?」
アキラが俺を心配そうに見つめてる。何だろなんか変な事言ったかな。
「我は力を使い過ぎたようだ。補充せねばあの化け物を倒せん。子供らよ協力してくれんか?」
確かに光の玉は何だかさっきよりも小さくて暗くなってる気がする。
またあの化け物が現れたら大変だ。俺とアキラはお互いにうなずいた。
「何をすれば良いの?」
「おお、優しき子供たちよ。我は人の信仰で生きておる。なので我に何か信仰の証を奉納してほしい」
「奉納って?」
「リュウくん、奉納ってのは神様に感謝してお金とか食べ物とかを捧げるんだよ」
「えっ、でも俺たちお金も食べ物もないぞ」
「なんか踊りとか歌とか、そういうのでも良いみたいだよ」
「へー、じゃあ俺たちで歌えば良いのか?」
歌なら音楽の授業でもやってるし、文化祭の合唱とかでたくさん練習もしてる。アキラも頷くと何を歌おうか考え始めた。
「相撲でも良いぞ」
光の玉が俺たちを見てそう言った。
『相撲』その言葉が俺の頭に染み込んできて、思考がスッキリする
「あっそっか、相撲でもやってるや」
「確かに昔は武芸も奉納してたみたいで、その中に相撲もあったけど、僕たちは相撲なんてできないし・・・」
アキラは何を言ってるんだろ?
俺が相撲できないわけない。
「いやいや、俺はちびっこ相撲倶楽部だぜ。毎日やってるんだから簡単簡単」
「えっ、毎日?」
「よく見たらこの草に埋もれてるのって土俵?」
「そうだ。我の土俵だ」
俺は服をパッと脱いでパンツ一枚になった。するとパンツがグニグニと粘土のように形を変えていつも締めてる回しと同じになった。
「四股踏みでいい?」
俺は光の玉に一応確認した。光の玉は嬉しそうにピカピカ光って俺を土俵にうながす。
「いよーし、やるぞー」
何だかドキドキする。いつも練習でやってる四股踏みだけど、場所が違うせいか初めて四股踏みをした時みたいに興奮してる。
「リュウくん、本気なの?」
アキラは心配そうに俺を見てる。そっかアキラは初めてだよな俺のマワシ姿。
そういえば俺が相撲してるって言ってたっけ?
いや、言ってたよな。だって幼馴染だし。でもアキラに見られるのはこれが初めてだし。
「どうした? 早く四股踏みを奉納しろ。化け物が襲ってきたら大変なことになる」
うーん、ごちゃごちゃ考えてても仕方ないや。あの化け物が来る前に奉納しなきゃ。
「よしっ」
俺は気合いを入れて細い足を高く振り上げた。
先輩達と比べたらハリガネみたいに細いけど、俺だって毎日真面目に稽古してるんだ。
ただ、アキラに見られるのは何だか恥ずかしい。大きく開いた俺の股間を目を丸くして見つめてる。
ううっ、なんでだ。いつもは監督や先輩に見られても何とも思わないのに。
でもここまできたら後には引けない。
俺は地面を強く踏み締めるように、足の裏を地面に振り下ろす。
荒れ果てた土俵に足をつけると何だかそこから力みたいなものを感じる。
俺はその力を広げるように大きく腕を動かしてみえをきる。
「なかなか良い。さすが我が選んだ子供だ」
光の玉の輝きが戻って来てる。俺の四股踏みが役に立ってるんだ。嬉しい、もっと四股踏みしてあげよう。
「リュウくん・・・」
アキラが俺を見てる。何だかその視線に凄くドキドキする。俺はもっとアキラに見えるように大きく足を上げた。
ああっ、マワシの中でおチンチンがムズムズしてる。さっき変身した時みたいにオシッコが漏れそうな感じ。
でも悪い気分じゃない。どっちかというと早く出しちゃいたい気持ち。
そのまま足を土俵につけた。
「あっ」
漏らしちゃった。
足をおろした衝撃でマワシの中にピュッて出してしまった。
「どうしたの?」
俺が小さく声をだしたので、アキラが不安そうに聞いてきた。
「ううん、何でもないよ」
大丈夫。マワシは分厚いからきっとお漏らししたのはバレてない。このまま四股踏みを続けよう。
でもまだムズムズする。また出そう。
あっ、出ちゃった・・・。何だかとっても気持ちいい。
また足を上げる。足を下ろす。それだけで少しづつマワシの中にお漏らししてしまう。
ああっすごい、すごいよ。駄目だ止まらない。四股踏みってこんなに気持ちいいんだ。
「リュウくん、本当に大丈夫? なんかちょっと変だよ?」
「そうかな?」
「うん、なんか顔が笑ってる・・・」
その言葉とアキラの怯えた目で俺はハッとした。そうだよ、お漏らししてるのに何で俺、こんな事。気がつけばマワシの中はぬちゃぬちゃして気持ち悪い。
「むっ、いかん。奴にバレたようだ」
光の玉が震えた。俺の四股踏みのおかげか少し眩しいくらいに輝いている。
「これなら再び合体できる。さあやるぞ」
「うんっ」
光の玉が俺の中に入ってくる。身体の奥から凄い力と気持ちいいのが溢れて大きくなっていく。
「リュウくん・・・」
アキラが俺の変身を見守ってる。大丈夫だよ、今度も守ってあげるから。だって俺は相撲ヒーローなんだから。
「どすこぉぉぉい!正義のヒーロー金剛山!ここに見参!」
山みたいに大きくなった身体を震わせて、今度は力強く四股を踏んで名乗りを上げた。相撲倶楽部の先生みたいな立派な体毛が何だか誇らしくてカッコよく思えた。
「いよっし、どこからでもかかってこい!」
気合いを込めて腹肉を叩くとパァンと良い音がした。元の僕の身体じゃこんな良い音は出ない。やっぱり変身してよかった。
「くるぞ」
光の玉の声と同時に草地を覆っていた木々が吹き飛んだ。たくさんの木屑と土を巻き上げて現れたのはさっきの頭が三個あった化け物だ。だけど、さっきまでいた山羊の頭はまるで切り取られたように無くなっている。
「見つけたぞぉ、我のものになれぇ」
残った獅子の頭と蛇頭の尻尾が俺たちを睨みつける。
「どうやら先程の攻撃で山羊頭は倒せたようだ。だがまだ油断できない。いっきに勝負を決めるのだ」
「でもどうやって?」
「お前も練習で張り手をしたことがあるだろう」
張り手・・・張り手・・・そうだった。俺は相撲ヒーローになったんだから、ちびっこ相撲倶楽部で練習した張り手で戦えば良いじゃないか。
何で気が付かなかったんだろう?
声をきっかけに俺が張り手を練習している姿が次々に思い出してくる。
その感覚を手のひらに乗せて、俺は迫り来る化け物へと腕を引き絞った。
「どっせいっ!」
渾身の張り手だ。空気を引き裂いて獅子頭に向かって飛んでいく。でも力を入れすぎて、狙いがずれてしまった。
俺の張り手は獅子頭から逸れて、後ろの蛇頭の尻尾に当たってしまった。
「ぐぇぇぇぇ!」
それでも効いたのか、化け物は木々を薙ぎ倒して遠くに吹き飛んでいった。
「やったぁ」
「・・・喜ぶのは早い。まだ化け物は生きている」
「えっ?」
「恐らくあの頭の数があの化け物の命の数だ。山羊頭、蛇頭を倒してもまだ獅子頭がいる。三度我々の前に現れるだろう」
「そしたらまた倒してやる」
「ああ、しかしそろそろ限界だ・・・」
声が小さくなっていく。それと同時に俺の身体から光の粒が抜けていき、でっかい身体が元の身体に戻りはじ・・・
逾槫沺縺ョ螳郁ュキ閠??ェ蜉帷┌蜿梧ィェ邯ア髮キ髮サ轤コ蜿ウ陦幃摩驥大央蜉帛」ォ
まただ・・・何だか頭がフラフラする。
光の粒が完全に抜けきった。辺りを見回してもあの光の玉がいない。
「おーい、どこ行ったんだよ?」
声変わりの始まった低い声で叫んでみたけど何の反応もない。
「・・・リュウくん・・・だよね・・・?」
アキラが怪訝そうに俺を見つめている。どうしたんだ何かおかしいのか?
自分の身体を見直す。どこにもおかしい事はない。
デカい胸と腹で下の方は見えないけど、足にも違和感は感じない。試しに四股を踏んでみた・・・うん、いつもとおんなじ。でもちょっとおチンチンが変な感じだ。
あっ、そういえば変身前まで着てた服が無くなってるやマワシも消えてるから、ちょっと寒い。
でもそれぐらいだ。裸くらいで俺は俺のままだ。
「なんか変かな?」
「変だよっ! さっきまでのリュウくんと全然違う! だってそんな太って! 声も変わり始めてるしっ! 何よりその・・・おチンチンから毛が・・・」
アキラの言ってる事がよくわからない。だって俺は元々デブだったし、小学生のくせに成長が早いから声変わりも、おチンチンから毛も生え始めてる。
相撲倶楽部の先輩達からは大人の証だって・・・アキラにも教えてあげたはずなのに。
「えっーと、良くわかんねぇんだけど・・・ちょっと落ち着けって」
俺はアキラの肩に手を置いて落ち着かせた。オドオドしていたけど、俺と話す内に次第に冷静になって何か考え事を始めた。いつものアキラだ。
「僕が冷静にならなきゃ・・・あのねリュウくん。キミはいまのその太った姿は昔からって認識なんだよね」
「おうっ」
「うん・・・僕ね携帯で昔の写真を見たんだけど確かに写ってるリュウくんの写真が全部いまの太った姿になってた」
「そりゃそうだよ」
「あと、ちびっこ相撲倶楽部だっけ。その写真もあったよ」
「だよな。お前も応援しに来てくれたもん」
「・・・でも僕にはそんな記憶ないんだ」
「えっ?」
「これって多分願い星のせいだと思う。ねぇ、リュウくんは何をお願いしたの?」
「えー、えーっと確かアキラを守れるように強い・・・ワイルドベアみたいな相撲ヒーローになりたいって・・・」
「本当に?」
「うん・・・多分・・・」
「キャプテンウルフってどう思う?」
「キャプテンウルフってあれだよな。ワイルドベアの仲間の・・・うーん、凄いと思うけど特には・・・」
「そう・・・。あのね、多分だけどリュウくんの願いがねじ曲げられてる」
「えっ?」
「きっとそれでおかしな事になってるんだ・・・あの光の人っていま居なくなってるよね?」
「うん、なんか限界とか何とか言って声が聞こえなくなった。でも・・・なんとなくだけど、まだ俺の中にいるんじゃないかな」
「そっかまだリュウくんの中に・・・」
アキラが俺の身体をじっとみてくる。まただ俺、アキラに見られるとドキドキする。どうしたんだろ?
「・・・あとリュウくんの服も何とかしないとね。とりあえず僕の上着とシャツでおチンチン隠そうか」
俺はアキラの着ていた上着とシャツを繋いで腰巻きみたいに巻いておチンチンを隠した。
アキラは上半身裸でズボンだけ。
「まるでどこかの部族みたいだね」
「そうだな」
お互いの酷い格好に俺たちは久しぶりに笑え合えた。
「願い星はどうなってるかな」
アキラと俺は祠の中を覗き込んだ。キラキラと宝石みたいに輝く願い星。でもその光はさっきよりも暗くなって、どこか弱々しい。
「なんか弱ってる」
「うーん、変身すると消耗しちゃうのかなぁ。車のガソリンみたいに」
「そういえば、あの光の玉は奉納して力を増すとか言ってたな」
「奉納か・・・」
「また四股踏みでもしようか?」
「・・・それはやめとこう。何だか良くない気がする」
「そっか。でもどうする? またあの化け物が来たら変身できないと、アキラを守れないよ」
「うーん、でも変身するたび、おかしな事になってるし・・・とりあえず願い星を持って街に帰ろう。大人の人に相談しなきゃ」
「わかった」
俺は手で願い星を掴んだ。何だろう、初めて見た時は大きく感じたのに。意外と小さいんだな。
それに温かい。まるで子犬でも乗せてるみたい。
「重くない?」
「いや、結構軽いよ。アキラも持ってみる?」
アキラの手のひらに願い星を乗せてあげた。アキラの小さな手じゃ両手でやっと乗るくらいの大きさだけど、これくらいなら持てると思った。
「あっ」
アキラが願い星に触ったら短く声を上げて、固まってしまった。慌てて俺は願い星を取り上げる。
「大丈夫か?」
「・・・うん、大丈夫・・・。ちょっと真っ白になって・・・」
アキラは少しフラフラしてた。少し考えて俺は願い星を元の場所に戻して、アキラを背中におぶってあげた。
「わわっ、だ、大丈夫だよ」
「気にするなよ。アキラをおんぶしても裏山くらい平気で歩けるし」
「でも、それだと願い星を持って帰れないよ?」
「うーん、だよな。どうすっかなぁ」
「気持ちは嬉しいけど、少し休めば大丈夫だから」
「でも急がないとあの化け物がまた来るかも」
「うーん・・・」
どうしたらいいんだろ。せめて願い星がもっと小さかったらなぁ。
「・・・リュウくん。願い星が」
振り向くと願い星がウネウネと動いていた。光の粒を撒き散らして、その分だけ大きさが小さくなっていく。
「わわっ」
その光の粒は俺たちの中に入ってきた。
俺は変身で慣れてたけど、アキラは初めてだから慌ててる。
「慌てなくて大丈夫だよ」
「いやいや、ただでさえ願い星のせいでおかしな事になってるのに、それな身体の中に入ってきたら慌てるよ」
「うーん、まぁそうかなぁ?」
でもそんなに悪い物でないと思うんだよね。何てったってあの願い星だもん。アキラを守りきったら、俺も相撲ヒーローとして活躍するんだ。
「あっ、願い星がこんなに小さく・・・」
気がついたら、願い星は飴玉みたいに小さくなってた。あんなに大きかったのに・・・。
「もしかして俺が願ったから?」
「えっ、そうなの?」
「うん、もっと小さかったら持って帰れるのにって」
「じゃあ、なんか光の粒が僕らに入ったのは?」
「それはわかんない」
俺の答えにアキラはまた何かを考え始めた。一人でブツブツと俺の背中で話しているので耳がくすぐったい。
「でもこれで持って帰れるか・・・家に帰ったら精密検査とかしなくちゃいけないかも・・・」
考え事が長くなりそうだったので、俺は小さくなった願い星を掴むと、アキラのズボンのポケットに入れた。
「えっ、僕が持つの?」
「だって、俺の格好見てよ。ポケットあるのアキラだけだし」
「そっか・・・じゃあ仕方ないか」
俺は背中にアキラと願い星を背負って街に向かって歩き始めた。
[newpage]
リュウくんの大きな背中が温かい。
どうしてこんな事になったんだろう。
携帯は化け物に襲われた時から繋がらない。こういう怪事件に巻き込まれると電波が遮断されるって話は本当だったんだ。
「大丈夫か? 気持ち悪くなったらいえよ」
リュウくんの低い声にも慣れてきた。あの小さなリュウくんは、まるで中学生みたいに大きくなって、僕の思い出にある彼の姿とは違ってしまった。
携帯の写真を見ても、写っているのは太ってて大きなリュウくんだらけ。もしかしたらおかしくなったのは僕の方なのかも知れない。
「リュウくんは何でワイルドベアが好きなんだっけ?」
ふと聞いてみた。僕が知ってるリュウくんはキャプテンウルフの大ファンだ。でも今のリュウくんはワイルドベアが好きになってる。
こんな事態になってからキャプテンウルフのことは何度も聞いたけど、好きだというワイルドベアの事は聞いてなかったと思ったんだ。
「えっーと、あれだよ。でっかくて優しくて父さんみたいだからかな」
・・・それは僕が言った事だね。それにリュウくんのお父さんは細身で長身。それは携帯の写真でも変わってない。やっぱり何かがリュウくんの願いをねじ曲げてる。
「きっと元に戻してあげるね」
僕はリュウくんをギュッと抱きしめた。肌と肌がより密着して心臓の音まで聞こえてくる。
「あれっ?」
声とともに動きが止まった。
リュウくんの視線を追うと六角垂の石が壊れているのが目に入った。
「あ、戻ってきたんだ」
祠の場所から街に向かって下るように降りてきたけど、たまたまあの化け物に襲われる事になった場所に戻ってきたみたい。
「どうする? アイツはいないみたいだけど・・・」
「うーん、ちょっと調べてみたいから連れてってくれる?」
悩んだけど、やっぱりこの状況を整理するために色々と知っておいた方がいい気がした。
そもそも何であの化け物は襲ってきたんだろう?
僕はリュウくんの大きな背中から飛び降りて、六角垂を改めて良く調べてみた。
良くみると細かい模様が彫ってあってまるで電子回路みたいに入り組んでる。
「どうだ?」
「うーん、何かの機械みたいだけど・・・地球の物じゃないかも・・・」
「ってことはアイツって宇宙人?」
「なのかなぁ? はぁ、もっとちゃんと『ヒーロー&ヴィラン完全攻略大全』をもっとちゃんと読んでおけばよかった。あれに何か書いてあったかもしれないのに」
「あぁ、あの分厚い本か」
「うん、あれって書いた人が凄く偏屈らしくてデジタル化されてないから携帯に入ってないんだよね」
「そっかあ、デジタル化されてれば良かったのになぁ」
リュウくんがそう言った瞬間、携帯を入れていたポケットが温かくなった。確かそこには願い星も一緒に入ってる。
慌てて携帯を取り出すと、見覚えのないアプリがあった。
「うそっ、これって完全攻略大全だ・・・」
中を開くと見覚えのある内容がずらずらと書かれてた。これもまさか願い星の力なの?
願い星をポケットから取り出す、もう宝石のような輝きは無くなって石ころみたいに真っ黒になってる。
「力が完全に無くなったってことか?」
「ちょっと待って調べてみる」
僕はさっそく攻略大全のアプリを使って願い星について調べて読み上げた。
「願い星は持ち主の願いを叶える。しかし、エネルギーが枯渇すると真っ黒に変わり、エネルギーが必要になる。エネルギーは持ち主の欲望によって変わるため不安定であるが、持ち主によっては安定した供給も可能」
どういう事だろう。エネルギーは持ち主の欲望って・・・願いって事だよね?
願いを叶えるには願いが必要ってこと?
いやそれだとおかしいし、欲望って何だろう・・・。
「何だか良くわからないなあ」
リュウくんもお手上げみたい。とりあえず、気を取り直して、この六角垂について調べよう。
デジタル化したせいか、対処を写真に撮るだけで勝手に検索してくれる機能もあるみたい。
何だかまた願いが少し変わってる気がする。
「えーっと、これは寄生型宇宙人『キマイラ』の使う母星との交信用アンテナみたいだね」
「キマイラ?」
「うん、あのたくさんある頭はいままで乗っ取った生き物たちみたい。本体はスライムみたいな液体なんだって」
「液体なのか。何だか楽しそうだなぁ」
「そうでもないみたいだよ。彼らは液体だから生き物として弱いみたい。力は筋肉のある生き物に勝てないし、知能は頭脳のある生き物に勝てない」
「へー、そっか液体だとそうなるのか」
「だから他の生き物の身体を乗っ取って奪うみたいだよ」
「何だか怖いな」
読んでて僕も怖いと思った。
あの化け物が言っていた奪うというのはきっと僕たちの身体を・・・。
「早く街に帰って大人の人に助けてもらおう」
嫌な想像を振り払って僕たちはまた歩き始める。リュウくんが僕をまた背負ってくれようとしたけど断った。
もうすっかりフラフラもなくなって前より調子が良いくらいだ。
それに木の間からもう街が見える距離だし、歩いていける。
「何かやばい気がする」
リュウくんが呟いた瞬間、当たりが真っ黒になった。
木々の間を黒い影がテントみたいに張って僕たちを囲っている。
「な、何だこれ?」
良くみるとそれは影でなくて、真っ黒な油のようだった。それはぬちゃぬちゃとうごめいて脈打ってる。
「ふははは、今度こそ逃さんぞ」
油の中から獅子の頭が浮かび上がった。あの化け物だ。山羊と蛇頭を潰されて、獅子だけになった化け物は象の身体を捨てて液体である本体で襲いかかってきたんだ。
「貴様と願い星を奪い。私は故郷に帰るのだ」
獅子の頭が油の膜から飛びかかってきた。
「どうしよう、いま変身できないぞ」
リュウくんも慌ててる。こんな子供二人じゃどうしようもできない。せめてリュウくんだけでも。
「ええいっ!」
僕は獅子の頭にぶつかっていった。
せめてリュウくんだけでも・・・。
強い衝撃と冷たい感覚。そして意識が真っ黒に・・・
[newpage]
「アキラっ!」
どうしよう。アキラがあの化け物から庇って、そのかわり真っ黒な油まみれで倒れて・・・
ダメだ。落ち着かなきゃ。
周りを見たら、俺たちを囲っていた黒い油は消えていた。いや、その全てが倒れたアキラに集まり始めてる。
身体を奪う気なんだ。
「やめろよっ!」
俺はそれを千切って投げ捨てた。でも全然応えてないのか次々にアキラに集まって、アキラの身体を黒く染めていく。
「あ、あっあっ」
どうする事もできない。アキラの胸に黒い油から獅子の頭が現れた。その獅子の口が喋り始める。
「実にいい身体だ。気に入ったぞ。そこの坊主。貴様はこの具合の良い身体の主に免じて許してやる。早くどこかに消えてしまえ」
倒れていたアキラの身体が起き上がった。まるで壊れた人形みたいに腕と首をだらりと曲げて、足をふらつかせながら森の奥に消えていく。
俺はただ呆然とその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
一体どうしたら・・・このまま帰るしか・・・嫌だっ、だって俺はヒーローなんだから、アキラを守れなくて何がヒーローだっ!
何か何かないのか?変身するにもエネルギーが無いし、何より願い星はアキラのズボンのポケットの中だ。
「どすこいっ」
俺は足を高く上げて四股を踏んだ。
悔しさと一縷の希望を込めて。祈るように四股を踏んだ。
俺の中にあの光の玉が残ってる気がする。アキラには止められたけど、また奉納してエネルギーを与えれてやれば変身できるかも知れない。
「どすこいっ」
俺は気合いを込めて木に向かって張り手を打ち込む。
アキラは俺は相撲なんてやってない。願い事が捻じ曲げられてるって言ってたけど、いまの俺に出来ることはこれしか無いんだ。
「どすこいっ」
何だかおちんちんがムラムラする。アキラがピンチなのに。エネルギーを溜めなきゃいけないのに。四股踏みや張り手をすると身体の奥が熱くて気持ち良くなる。
「いいぞ。その調子だ」
「あっ、光の人?」
「おかげで我の言語機能が再生した。再びお前と言語による指示を行える」
俺は四股踏みを止めて、アキラが拐われたことを伝えようとした。だけど、身体は勝手に動いて一人で相撲の奉納を続ける。
「奉納を続けよ。我は全て見ていた。案ずるでない神力さえあれば我らはあの者を助ける事ができる」
「どすこいっ」
口から勝手に言葉が出た。身体が勝手に動く。そんなどうして?
「さあ、我にお前自身を奉納せよ。これで我々は完璧な我になるのだ」
怖い。怖いけどそれ以上におチンチンが気持ちいい。何だか大きくなって俺の腹に当たってる。
「ぁぁ、我の欲望が満ちていく。願い星よ、我の願いを叶えたまへ」
背筋がゾクゾクする。ダメだおしっこ漏れちゃう。ああっだめっでるっでちゃぅぅぅ
「・・・」
[newpage]
我、地球人の幼年態との融合を確認。身体機能を保存していた成人個体へと拡張する。
骨格の成長。および筋繊維の成長を開始。願い星のエネルギー維持のため、欲望行動を維持。
警告。身体拡張行為と欲望行動の並列作業は体幹損壊。および転倒事故の可能性。
解。幼年態精神と成人個体の擬似人格を混合し身体オペレーティング機能を改善。
承認。幼年態精神と擬似人格との混合を開始。
[newpage]
「っ・・・はあっ」
快感で頭が真っ白になっていた。
我は気を取り直し再び足を高く上げて四股踏みを開始する。
「どすこいっ」
この星にたどり着いてから肉の身体を持つなど、オオゼキ以来、数百年ぶりである。早く身体の改変を終えなければ。
両脚は既に巨大化を完了している。外周1mを超える筋肉の束が二本。これならばこの後の上半身の巨大化にも耐えられるであろう。
「どすっこいっ」
腹、胸、腕、首。筋繊維を切りより強固に再生する。何度も繰り返されるその痛みに我が苦痛を感じぬように快感に変換する。
我のなかの人間が快感で酩酊し小さな陰茎が勃起している。そういえばオオゼキは己の小さな陰茎を気にしておった。我には良くわからぬが、ここも改造しておくか。
「どすっっぬぅぅぅ」
陰茎、および陰嚢の巨大化を始めた瞬間、我の中で喜びが爆発した。何だこれは擬似人格のエラーだろうか。
「ぬおおおっ」
喜びが肉体の改造を激しくしていく。巨大化を始めていた腹、胸、腕、首は人間の垣根を超えて熊や象のようである。
「ふぬぅっ、どすこっいっ!」
腹を突き上げて幼年態の足と変わらぬ大きさに育った陰茎が震えて我の中に快感が弾んだ。拳ほどの陰嚢では我の精液が作られて始めているのを感じる。喜びによって改造は過剰なものになりもはやこの個体の姿は人類の言葉を借りるなら『鬼』と言っても構わないだろう。
「どすこいっ、ふぐぅ。どすこいっ、ぬはぁぁ」
願い星のエネルギーのために四股踏みや張り手は止めらぬ。しかしその度に巨大な陰茎から精液が放出されるのはよくない。
我の願いの為にはこのように相撲をする度にケダモノのように精液を飛散させてもらっては困るのだ。
我は身体の改造を再び始めた。
若々しい個体は生殖行為への欲求が強すぎる。細胞を調整し分裂を抑え落ち着かせる。つまり老いさせる。
「どすこぉぉぉい」
声が低く掠れて重くなる。身体にも脂肪が増え丸々と太っていく。細胞調整のせいか身体中から体毛が生え毛深くなるが仕方ない。
我の顔も皺と脂肪が深まり、頭髪が薄くなる。しまった。これでは髪がゆえない。我は頭皮を活性化させ充分な頭髪量を確保したが、老化の影響が真っ白になってしまった。
「はぁはぁはぁ」
我は奉納行為を辞めた。
充分なエネルギーの補充と個体の改造が完了したのだ。
「これが我か・・・」
白髪の巨大な力士。股間からは包皮の被った巨根がだらりと垂れている。
「アキラを助けに行くか」
アキラは我の願い星を持っている。その気配を辿ればあのキマイラへと辿り着けるだろう。
「変身っ」
光が我の中から溢れ、願い星の力によって我は力士ヒーローに改変されていく。
「どすこいっ、力士ヒーローここに見参っ!」
幼年態の願望を我の願望によって歪めた力士ヒーロー。この力であればあのような化け物など簡単に倒せる。しかも今回は我と幼年態の完全な融合を果たしている。エネルギー切れによる我の胡散も起こらないだろう。
「ゆくぞ」
アキラの元へ我は足を踏み出した。我の中では幼年態の願望が渦巻いていた。
[newpage]
「なぜだっ、この願い星は私の願いを叶えない」
私の手のひらで輝く願い星。銀河の煌めきにも似たその光は、どんなに望み叫んでも私の願いを叶えることはなかった。
「私は帰りたいだけなのだっ!」
あの心地良い故郷へ。母なる黒き油が満ちる惑星へ。
故郷を模したこの黒い油の地底湖では私の悲しみを癒すことはできないのだ。
五年前、私は願い星を追いかけてこの惑星にやってきた。しかし、同じように願い星を狙う異星人やこの惑星住民の戦闘に巻き込まれ、宇宙船は大破し、母体となっていた知性体も損失した。
私たち寄生生命体は母体の能力が自身のスペックになるため、知能の低下した私では修理することもできず、ただ仲間に向けて救難信号を送るしかできなかった。
身を守る為、原生生物を取り込み融合したが、このような動物達の力ではあの異星人や星の力を振るう惑星住民達に勝てるはずもない。
息を潜めて潜伏し、ただひたすらに連絡を待つ。
「願い星よ頼む。せめて私の宇宙船を直してくれ」
地底湖で揺れるボロボロの宇宙船。ただの黒い石柱に見えるかも知れないが、私たちが寄生を重ねてたどり着いた知的生命体が作った次元走行も可能な船だ。これさえ修復できれば私は帰ることができるのだ。
その時、地底湖が大きく揺れた。まるで地震のような地響きとともに天井の一部が崩れ、そこから差し込む光とともに巨大な人類が落下してきた。
「キサマか・・・どうやらエネルギーを得たようだな」
「アキラを返してもらう」
「・・・やはりお前も寄生生物だったか。完全にその幼体・・・いや成熟体を我が物としたか」
この小僧の持っていたアプリを再度確認する。あの光を撮った画像から検出された答えは、私と同じ寄生生物『オド』。私は液体だが、あいつらは光だ。光によって寄生して母体の力を使い、考え、自己増殖する。
既にこの宇宙では絶滅したはずの種族だ。
「いや、どちらかの物という事はない。我は母体との完全な融合を行う。我は我であり、我は我である。ゆえにその幼体を助けにきた」
「なんと不完全な寄生なのか。それでは母体の影響を受けて己自身も変質してしまう。・・・絶滅の理由はそれか」
何と哀れな生き物か。母体など私たちにはその場しのぎの宿のような物であるのに。
「・・・我は我の願い以外に興味はない。さぁ、その幼体であるアキラを返せ。手荒な真似はしたくない」
「くっくっくっ、わかったぞ。お前がこの願い星の主人だな。差し詰め、願い星に認められたは良いが、具体的な願いを考える知性が足りなかったのだろう。だからその小僧に寄生して、その願いをねじ曲げて、己の願いを叶えさせようとしているのだな」
私たち寄生生命は母体が無ければボンヤリと空を見上げる夢遊者のようなものだ。そんな状態では心に念じた全ての事象を叶える願い星を充分に働かせる事はできない。
しかし、この小僧もなかなかの知性だ。身体能力を強化し脳を活性化して、更には私の知識を貸しているとはいえ、推測や推論。そして解答が容易に湧いてくる。
もしや、この母体ならば数年かければ宇宙船を修復するかも知れない。
しかし、もはや私は待つ事はできない。
「では、願い星の主を私に譲ってくれ。その力で私はこの惑星から去るとしよう」
「・・・不可能だ。願い星は我のもの。我が消えぬ限り、星は我の上に輝き続ける」
「では消えてもらおう」
哀れな同種よ。お前は願いの力を過信しすぎている。願い星の最たる力、現実改変の力は主自身がその願いをどれだけ難しいと思っているかでそのエネルギーの消失量が変化する。
生き物というのは単純だ。本能的に大きく恐ろしい物ほど困難だと認識してしまう。
「ぬぅぅん」
地底湖の私とリンクする。
隠れ住み孤独に耐え続ける間、私はこの洞窟全てを埋めるほど自己増殖して私を貯めたのだ。いまや私はこの洞窟の闇全てだ。
「さあ、私の願いを叶えさせてもろうぞ」
[newpage]
想定外だ。まさか我の住処の真下にこれほどの寄生生命がいたとは思わなかった。
この広大な地底湖、その全ての黒い油が我に向かって襲ってくる。
願い星による改変は恐らく願った瞬間に全エネルギーを使い果たし再び充填が必要になるだろう。
我は光を、我の一部を手のひら集め張り手を繰り出して、津波のように押し寄せる黒い油を跳ね飛ばす。それでも彼奴らは怯みもせず何度も押し寄せてくる。
「せめてアキラを見つけられれば」
繰り返され止まらぬ攻撃に流石の我も神力が減り始めている。このままでは負けてしまうであろう。
アキラは津波のように襲いくる黒い油にのまれて何処かに消えてしまった。黒い油からアキラを切り離せば知性が低下してこのような大量の油を操作できなくなるはずだ。
願い星の気配を頼りに探そうとしたが、願い星の反応を感じない。恐らく、キマイラが反応しないように策を打ったのだ。
どうしたものか。
「困った。この我はあまり知恵が回らん」
我の中で我が悲しんでおる。良いのだ我にはこの勇気がある。この黒き油の海原に臆することなく身体を動かす。まさに益荒男の心。
我の擬似人格の元になったオオゼキを思い出す。
「むっ、いかん」
足元から忍び寄る黒い油に気づくのが遅れてしまった。地面を踏み付け散らしたが足先が黒ずんでしまった。
遘√↓蟶ー繧梧腐驛キ縺ォ蟶ー繧碁サ偵¥譟薙∪繧檎ァ√↓譟薙∪繧
寄生による思考汚染。我を私だと認識をいじられる。同じ寄生生命として抵抗する事は容易だが、その対応に我を割くと目の前の黒い油の津波に押し負けてしまう。
寄生生物同士の戦いは容量の勝負だ。容量が多いほど複数の処理を行える。我らの容量とはリンクしている我々の数。つまり容積に等しい。故にこの地下一面に広がる此奴に対して我は圧倒的に不利だ。
「ぬははっ私よりも処理は早いようだが、この圧倒的な容量にはかなうまい。さぁ私に呑まれて朽ち果てろ」
黒い油でできた獅子の顔。それらが無数に地底湖から湧き出てくる。恐らく我に接触した情報から様子見をやめたのだろう。
もはや一か八かである。
「願い星は私のものだぁ!」
無数の黒い獅子が我を貪っていく。我の我が私に変わる。力士ヒーローが黒ずんで黒い油に塗りつぶされていく。
あぁ、真っ暗だ。
[newpage]
目が覚めたら光の中いた。風が木々を揺らし。人の笑い声が聞こえる。
身体がやけに軽い。そうか、俺って光になったんだっけ?
「そりゃお前、その石は村一番の相撲取り、このオオゼキのもんだぁ。簡単にはやれんよぉ」
「そうか。それは困った。我はその願い星で一族を復活させたいのだ」
森に囲まれた土俵。小さな祠と鳥居。間違いない裏山のあの場所だ。
でも土俵には草も生えてないし、祠も鳥居もピカピカだ。
その側で大きな男の人とあの光の玉が話してる。
「そうは言うてものぉ・・・この石は代々村の相撲大会で優勝した者で引き継いでおってな。神様にだってほいほい渡せんのだヨォ」
大きな人は困ったように頭を掻いて、それでも何とかならないか考えている。きっと良い人なんだろうな。
「ならばその相撲大会というものに勝てばよいのだな」
「あぁ、ただ相撲大会は星がいっぱい振る年にしかやらねぇから・・・次は三十年後とかかもしれねえぞ?」
「・・・なるほどこの惑星に訪れる流星群の周期に合わせているのだな。この惑星周期の三十年など我にとっては短いものよ。待つとしよう」
「でも、おめぇそのなりで相撲とれるのかぁ?」
「時に生命体よ。相撲というのは何なのだ?」
「ありゃぁ、そこから説明すんのかぁ」
眩しい光の中で二人は何だか楽しそうに見えた。もしかしたら人類初の異星人との交流かもしれないのに、そんな緊張感はまるでない。
(そうだ。我はこの惑星に降り立ち、願い星を見つけた時にオオゼキと出会ったのだ)
俺の中から声がした。いまや俺の一部になった光の玉だったものだ。
あれ? でもなんで俺は俺って、リュウって認識がある。
(我から俺を分離し、願い星に願ったのだ。かの日へと俺を飛ばす様に。情報量の少ない俺の方が過去へ飛ばしやすいと思ったのだ)
なんだかよくわからない。それにちゃんと我もいるじゃん。
(我は間もなく消える。俺よ、いやリュウよ。アキラを救いたくばこの時を上手く使うのだ。我の記憶をお前に譲る・・・勇気を持って進むのだ・・・)
何かがさらさらと溶けて俺の中に広がっていく。すると俺は理解した。
キマイラに負けそうになった我は、願い星の力で俺を過去に飛ばしたんだ。ここで未来に向けて、アキラを救うために。
でもどうしたらいいんだろう。
「なんとっ、つまり相撲を取るには我は人類の身体を借りるしかないではないか」
「まぁそういう事だなぁ」
「むむむ、時にオオゼキよ。我と一つにならぬか?」
「いやぁ、なんだか恐ろしいなぁ。やめとくよぉ」
「そうか・・・我らは合意無き融合は行わない紳士的な種族、無理に身体は奪わぬ・・・」
「まぁ、俺も一緒に探してやるよ。おめぇに身体を貸してくれる奴」
そうだ。この後、我とオオゼキは一緒に身体を貸してくれる人を探すんだ。この神社と土俵で子供たちに相撲を教えたり、時には旅をしたりして。
我にとってはたった三十年。でもオオゼキにとっては長い長い三十年。
光の玉がそれを理解したのは、オオゼキが年老いて病に倒れた時だった。
「いやぁ、すまねぇな。結局、お前さんに身体を見つけられなかった」
「良いのだ。あまりしゃべるな身体に障るぞ」
「折角、今年は星が降ったってのにな。お前の土俵入りを見てみたかったなぁ」
俺は気が付けば、あばら家で寝込むオオゼキと光の玉を見ていた。記憶を遡った一瞬で三十年という時間が経っている。これが異星人の時間感覚なのかもしれない。
「・・・なぁ、こんな爺さんの身体だがお前さんいるか?」
「なっ」
この時のことは記憶に深く残っている。寄生生命体である我がこの申し出を心底悲しく思ったのだ。
寄生生命体『オド』は母体と融合する。二つの意思が完全に一つになる。それはあたかも別人のようになる。
リュウである俺も、アキラと仲の良かったあのリュウではない。ただアキラを救いたいという思いは強く残っている。
「それは・・・それは・・・とても悲しい・・・」
「そうか・・・じゃあやるかぁ・・・」
オオゼキが寝床から起き上がった。重い身体を引きずって庭先に歩いていく。
「ちょっと裏山まではいけねぇけど、これで十分だろ」
庭に木材を埋めて丸く囲った土俵がある。年老いてからも、身体を壊して裏山に上れなくなっても、オオゼキは近所の子供に相撲を教えていたのだ。
「奉納相撲って前に説明したよな」
「あぁ、目に見えぬ神と相撲で一人戦うというあれだな」
「そうだ。いまからそれをやる」
「なっ、そんな身体で知恵が足らんのか?」
「うるせいやい。ほれオメェも土俵に上がれ」
二人は土俵に上がる。
オオゼキは光の玉向かって四股を踏み、構えると、一人で相撲を取り始めた。
それは熱戦だった。
目に見えぬもう一人のオオゼキと、オオゼキは立派に戦った。
肉と肉がぶつかり合い、汗が飛び散る。
「もうよい。オオゼキよ。やめてくれ」
我はそれを見続ける事しかできなかった。土俵の中でオオゼキは三十年で一番の名勝負をした。
そして・・・土俵から押し出された。
「いやぁ、負けちまったな。これで、願い星はおめぇのもんだ」
オオゼキは笑っていた。
その日の夜に彼は星空へ旅立っていった。
「こんな感情を我は知らぬ」
祠の中で我は願い星を見つめていた。小さな石ころのようであるが、その力は持ち主のあらゆる願望をかなえる。
我はこの時、数千年の時間を生きて初めて、友の大切さと命の儚さを知ったのだ。
そうだ。きっとこれだ。これが我の欲望なんだ。
「・・・あの」
俺は我に声をかけた。時を超えた自分自身に話しかけてしまうと時間軸が捻じれる危険があることは、我の記憶で分かっていた。
だけど多分、これが我の狙いだったんだと思う。
絶滅した自分以外の種族と出会ったことで、我は流石に驚いたけど情報を交換するためにリンクした事で全ての事情を察してくれた。
「・・・そうか友を救うために時を遡ったか」
「うん、アキラをどうしても助けたいんだ」
「容量か・・・。ならば我も容量を増やせばいい。残りの数百年を費やせば、オオゼキの拳ほどには増えようぞ」
「それじゃ全然足りないよ。相手は地下の洞窟全てを埋めちゃうくらいの量だよ?」
「良いか容量は確かに大事だが、我々は寄生生命体だ。その能力は母体に依存する。もしその母体に何か不備があれば、その寄生生命体はひとたまりもないだろう」
「不備って何さ?」
「我だ」
[newpage]
いい気分だった。この目の前で黒く染まった巨大な人間。
腹を揺らし胸は垂れ、老いた肌は私が全て覆いつくし、その意思も記憶も支配している。
「舐めろ」
私の命令で、この太った男は私の母体の陰茎を舐め始めた。
この巨大な男が力を入れれば簡単につぶれてしまうような私を、まるで王のように敬い奉仕するこの姿に喜びを感じる。
このような行為に今まで興味などなかったのだが、何の影響なのだろうか。
まあいい、そのような事は些末な事だ。いまや願い星は我が手に輝き、遥かに遠い私の母星に帰る前の余興に過ぎない。
「んっ、くぅぅ」
黒い油が陰茎から流れ出た。それを旨そうに哀れなヒーローは飲み込んでいく。もはや完全に私に染まり、その肉の内側にはあの忌々しい『オド』の気配はない。
「さて、楽しみは終わりだ。願い星の持ち主は消えて、私の物になった。さぁ私を帰してくれ、あの黒き大海原へ」
願い星を掲げて叫ぶ。しかし、その輝きは何も変わらず、ただ夜空の星のように瞬くだけであった。
「何故だ? くそっ、まだ私を主と認めていないのか?」
いや、もっと強く願うのだ。私の中から・・・あの星に帰る。仲間たちの元へと帰ると強く強く願うのだ。
「おおっ」
光が。仄かな光の粒が私の母体の中から漏れ出てきた。やはり願いの強さが足りなかっただけなのだ。もっとだもっと強く願うのだ。
光が身体から溢れ・・・真っ白に・・・
[newpage]
「えーっと、ちょっと整理させてね。時間旅行物ってタイムラインがあやふやになるから」
僕はタブレットにこれまでに時系列を書き出していく。
まず、大昔に僕たちの町に願い星が落ちて、それは代々の相撲大会の優勝者に受け継がれてきた。
そして数百年前に、光の寄生生命体「オド」がやってきて、その当時の相撲大会の優勝者である「オオゼキ」さんに出会う。
「オド」と「オオゼキ」は友達になったけど、死に別れて、その時に「オド」は「オオゼキ」から願い星を譲り受けた。
「うん、うん、アキラはやっぱり頭がいいな」
リュウくんが皺と髭の生えたお父さんみたいな顔で嬉しそうに僕のノートをのぞき込んでくる。
ここは裏山。あの土俵と神社のある場所に僕らは数年ぶりに再び訪れていた。
「ただ、書いてるだけでしょ。それで過去の「オド」と「リュウ」くんはどんな計画をしたんだっけ?」
「うん、アキラが寄生されるのは分かってたから、俺は願い星に寄生して自己増殖して十分育ったところにやってきたアキラの身体に寄生したんだ」
「あの時かぁ」
祠の中で願い星を持ち帰ろうとした時に、願い星から光の粒が放出されてその大きさが小さくなった。あれは外側にいた寄生生命体「オド」になったリュウくんが離れて、そして僕に寄生したんだ。
「それで「我」の方は、自分の記憶から未来の情報を消して仮死状態みたいな状態になってたんだ。その時が来れば目覚めるだろうって」
「ふーん、それで我さんは?」
「うーん、やっぱり「キマイラ」に食いつぶされて消えちゃったみたいだ。何も感じないや」
「そっかぁ」
裏山に来たのも「我」さんを探すためだった。僕のポケットには小さな石ころのような願い星。
この星は、僕やリュウくんがどんなに強く願っても何もかなえてくれない。
だから、もしかしたら「我」さんは生きているのかもと思ったんだけど・・・。
「はぁ・・・困ったなぁ。これじゃあリュウくんを元に戻せないよ・・・」
「うーん、別に俺はそんなに困ってないけどな。ワイルドベアみたいな立派なヒーローになれたし」
リュウ君が丸太のように太い脚を上げて四股を踏んだ。地面が揺れて木々が騒めく。
「ちょ、ちょっと仮にもベテランヒーローなんだから、力加減してよ」
「へへっすまねぇな」
リュウくんは、僕の中に寄生してキマイラが油断した時に、母体である僕とキマイラを切り離した。
本当は「我」さんが戦っている時にやりたかったらしいんだけど、時間軸の崩壊につながる可能性があるから、リュウくんが過去に飛ばされるまで待てと「我」さんから固く約束されていたらしい。
大量の黒い油を操作するのに僕の頭を利用していたキマイラはあっけなく瓦解して、自らの容量に潰れていった。大全で調べたらオーバーフローというらしい。
そうして僕とリュウくんは何とか生き残り、空っぽになった相撲ヒーローの身体にリュウくんは寄生することで、僕ら二人は裏山から戻ることができた。
ただ、願い星によって現実改変された世界では、リュウくんはベテランヒーロー金剛山として、ヴィランからみんなを助けたり、若い世代に相撲を教えたりしている。
「でもさ、アキラは大丈夫なのか? 俺はヒーローになれたからいいけど、アキラは別にヒーローになりたいわけじゃなかっただろ?」
「そうだね・・・ヒーローじゃなくてどっちかって言うとサイドキックになれたらよかったんだけど」
僕は丸々と太った自分のお腹を叩いた。熊みたいに大きなおなかの下には稽古で鍛えた筋肉がみっちりと詰まっている。
相撲ヒーローであるリュウくんに寄生されたせいか、あの事件の後で僕の身体は急成長した。モヤシみたいに細い手足はあっという間に成長して、中学校を卒業するころには大人にも負けない体格の立派な力士になってたんだ。
しかも、リュウくんのヒーローパワーも受け継いでいるみたいで、僕たちは年の離れた友達であり、師弟でもある関係になっている。
「うっし、折角土俵もあるしちょっと稽古していくか」
リュウくんはさっと服を脱ぎ捨てると褌一枚になった。老いても筋肉と脂肪が張り詰めた毛むくじゃらの肉体は僕の興奮を誘う。
リュウくんには言ってなかったけど、願い星の現実改変で僕のリュウくんへの仄かな恋心が捻じ曲げられて、太って逞しい力士に興奮するようになってしまっていた。
だから、こうして稽古をつけてもらえるのは非常にありがたいわけで・・・。
「良いよ。だけど今度こそ僕が勝ったら、師匠に入れさせて貰いますね」
「がははっ、良いぞ。アキラの童貞が卒業できるといいな」
若い僕が性欲にまみれた欲望をぶつけてもリュウくんはそれを受け止めてくれた。大人の包容力というのか、それともリュウくん自身にそういう事に興味があったのか。歪んだ現実ではその判断はできない。
でも僕は、友達であり師匠であり、恋人でもあるこの繋がりにとても満足している。