発情性猛牛ヒーローと学ぶ、緊急時最優先事項

  「くっ……オキタカさん! ベイグル! シデマス!」

  「やばっ……離れちゃった!? 戻らないと!」

  「ダメだ追手が山ほど――こっち来い!」

  「っ……! みんなー! あとで合流!!」

  迫る人波を越えて叫ぶ。

  声が届いていればいいのだけど、わからない。

  ほとんど抱えられるようにして、その場から逃げるしかない。

  「ど、どうしよっ……皆までヘンになっちゃったら!」

  「今は――っ、自分のこと最優先にしろ!」

  思わず漏れる弱音に強めの喝。

  場所は空飛ぶ健診会場。皆と分断されて、猛牛ヒーローと二人。

  今はただ、ただ走っている。

  ……たぶんこれ、すごく健康に悪い。

  

  [chapter:発情性猛牛ヒーローと学ぶ、緊急時最優先事項]

  「……[[rb:撒 > ま]]いた、かな?」

  そして今。

  二人で逃げ込んだのは、かなり端の区画にあるトイレだった。

  周囲に人の気配はなく静か。こちらを目指していたというより、逃げていたらここまで来てしまったというのが正しい。

  

  見回すトイレ内部は改装したばかりなのか、かなり綺麗だ。

  大きく息を吐き出して――手を洗わせてもらった。ついでに顔も。

  息の上がった体に冷たい水、正直かなり助かる。

  

  「早く戻って合流しなきゃ」

  「ああ……」

  鏡越しのヒーロー、オブシディウス。

  不意にそのデカい……大きな体がグラリと揺れて、壁に手をついた。

  「えっ、どうしたの!?」

  「ち、ちょっとタンマ……! 触るな……!!」

  近寄ろうとしたら、大きな手をこちらに向けて制止のポーズ。

  強い拒絶の意思表示に息を呑めば、

  

  「あッ、いやそうじゃねえ……スマン……けどちょっと、今は……」

  

  何か様子が、と思って見て気付く。気付いちゃう。

  ……まあ気付かないわけがなく。

  お互い、恰好は健康診断の際に着用したシマシマの検査着。

  薄くて柔らかい布素材だから服の下に[[rb:突起物 > ・・・]]でもあればすぐにわかる。

  つまり――オブシディウスのそれ。おへそ以上の高さにそそり立って……。

  いやあの、このヒト確かに街中で襲ってきたりするけど、さすがに今は緊急事態だし、その。

  …………もう、ホント、エロ牛……。モジモジ。

  「あのさ……エッチなのはいい、けど……TPO……」

  「ちがっ……!? ヒトをアタマチンコ野郎みたいに!!」

  言いながら、更にぐうっと顔をしかめるオブシディウス。

  額からぼたぼたと脂汗さえ落ちて。

  「――えっ、まさかケガ!? 大丈夫!?」

  「そうじゃ……だからっ! こ、擦れてっ……感じるんだよ……!」

  …………。

  …………えっと?

  一瞬真顔。笑うこと? でもすぐわかる。そうじゃない。

  オブシディウスは自分で胸ぐらを掴んで、荒い息を繰り返している。かなり苦しそう。

  「さ、[[rb:洗脳 > さっき]]の影響……!?」

  「わかんねえ……けど、健診で機械に弄られまくってから、カラダ、おかしい……」

  「ちょっと待って……!」

  慌ててハンカチを濡らして、額の汗を拭いてあげる。

  オブシディウスはぎゅっと目を閉じたまま、絞り出すみたいに言った。

  「クソ…………お前にっ……情けねえとこ、見せたくねえってのに……!」

  「――――」

  その様子にか、言葉にか。

  張っていた肩が、すとんと下りていた。

  自然と手が伸びる。彼の[[rb:顔許 > かおもと]]に。

  「……おいっ!」

  「いいから。頭下げて。デカいんだから」

  「このっ……くそぉ……、ンンっ……!」

  指先にうなじの毛の感触。

  オブシディウスが身体をビクリと震わせる。けど我慢できる程度だったみたいですぐ大人しくなった。

  たぶん首周りは皮膚が厚いから。思った通りだ。

  「急に触られるとツライんでしょ。だったら、こうしてればさ……」

  巨木を抱きかかえるみたいにそっと手を回す。

  髪の毛、いつもよりも伸びたみたいだ。忙しくて切りに行けてないんだろう。

  そうしていると、フゥフゥと荒かった息が徐々に落ち着いてきた。

  「……平気?」

  「ああ……。……汗かいてて、嫌、だろ」

  「気にしないって。あったかい」

  「――ホント、そういうところだぞ、お前……」

  耳元で吐かれる熱く大きな息。それから、ぎゅうっと抱きしめられた。

  ――あったかい。包まれる感覚に力が抜けると、さらにぎゅっとしてくれる。

  こちらも、刺激しないようにしながら抱き返した。

  「皆、ヘンになっちゃって……」

  「ン……」

  「こわかった、から」

  

  汗で冷えて、緊張で縮こまっていた身体。

  それ以上に、わけもわからないまま知り合いと戦っていた、心を乱す嫌な感じ。

  「オブシディウスが元に戻って、ホントよかった」

  「……手間、かけてスマン」

  「頼りにしてる、頭脳派」

  「――オゥ」

  少しの間、二人でそうしている。

  聞こえるのは、オフューカスⅠのエンジン音と空調の音だけ。

  はぐれた皆も今は上手く隠れてるみたい。

  ――とてつもなく緊急事態だけど、今は、これも必要なことだって思いたい。

  トラブル中じゃなかったらもっと良かったのに……いやこんな時だからでもあるのは確か。不謹慎だけど……。

  その時、そんなに遠くない外から物音。

  「!」

  「!!」

  二人して息を呑む。足音だ。誰か来る!

  慌ててトイレの個室――ダメだ。扉閉まってたら怪しまれる。

  それで個室に併設されてる用具入れの戸を開けて二人で飛びこんだ。

  物は殆ど入ってない。助かった。狭いけど……。

  オブシディウスの胸元に顔を埋めれば、ぐっと抱き寄せてくれる。

  ちょっと苦しい。あと、彼の強い匂い。

  外、音から察するに見回り中か何かのヒトが普通にトイレを利用しに来ただけみたいだった。

  狭い中で二人、息を潜めて音だけに集中している。じりじりする時間。

  ようやく水の流れる音がして……なんか鼻唄歌いだした。

  「何やってんだよオイ……」

  オブシディウスがもどかしそうに口の中で呟いている。

  くっついている身体はまだ熱く、時々、思い出したように小さく痙攣する。

  まだ完全に落ち着いたわけじゃないみたい。

  いやそれより……ずっとこちらの[[rb:鳩尾 > みぞおち]]あたりにゴリゴリ当たってるやつ……。

  上目遣いでジト見れば「仕方ねーだろ」と口の動きで言われて睨まれる。照れてら。

  

  検査着の股間――くっきりと形が浮き出ているその部分。

  張った先端、割れ目まで……おまけにそこは少し滲んでいて。

  思わず、指の先を。

  「っ!? おい……!!」

  声は押し殺しつつも静止しようとするオブシディウス。

  わざと無視して――筋に合わせて、縦に、爪を。

  「ッ!? よせやめ……んをぉ……!」

  肩を掴む手に容赦なく力が入った。丸太みたいな両の脚が突っ張る。

  狭いせいで大暴れにはならなかったのは幸い……かどうか。

  「……! ……っ!! ッ!!!」

  指先を動かすたび、ビクビク痙攣する巨体。

  ……ここまでの反応、見たことない。

  続けると、ついには刺激に耐えるためにか、自分で太腿を拳でごつごつ叩きだす。

  ――どうしよう。

  頼りにしてる逞しいヒーローが、快感に身体をよじっている。

  その姿が、どうしようもなくいやらしくて……止められない。

  密着している身体から熱が伝播して、頭がぼうっとしたみたいに。

  空いている方の手を伸ばす。厚い胸板。生い茂る胸毛。

  はだけた検査着の胸元からのぞく突起――。

  こちらのしようとしていることに気付いたのか、オブシディウスが何度も首を振る。懇願するみたいに涙目にさえなって。

  「やめ、やめっ……[[rb:そこ > ・・]]だけは、オマエ……ッ!!」

  はっきりと上を向くその先端を、爪で。

  弾く。

  「ヒッ……! ンン゙――――ッ!!」

  電気が流れたみたいに、その体が大きく仰け反った。

  両手で口を押さえて、声が出るのを寸前で何とか堪えてる。

  ぎりぎりと歯を食いしばる音。浮き上がる顎の筋肉。

  また額にいくつもの汗の珠が浮かんでくるのが見える。

  ……ごめん。ホントごめん。でも――でも止められなくて。

  今度は、両手で。

  「ハァッ、アァッンン……!!」

  押さえていてさえ喘ぎが漏れる。

  今やそこには、はっきりと切なげな熱が含まれ出していて。

  ――感じてる。

  さらに[[rb:乳首 > そこ]]を責め立てると、オブシディウスが腰を前に出して突き上げ始めた。

  こちらのお腹や胸を擦り上げる太い雄牛の象徴。

  見上げれば、潤んだ視線を送ってくる瞳と目が合う。

  頷いて、検査着のお腹のボタンに手をかけたその時――、

  「……ぐぅっ!」

  「わっ……!?」

  

  どちらかの肘か膝かがガツンと扉に当たって、もつれ合うように狭い空間から転がり出てしまった。

  トイレを使用していた誰かは、とっくに退出している。

  で、こちらが口を開く間もなく、額をごつんとぶつけられて目がくっつきそうなほどの距離で睨まれた。イタイ。

  「オ・マ・エな……!!」

  あ、目、完全に据わってる。正直洗脳されてた時より遥かにコワイ。

  「怒ってますで、す?」

  「これが怒ってねーように見えたら眼科に蹴り込んでやる」

  「……興奮した?」

  「したに決まってんだろ!」

  言いながらオブシディウスは[[rb:躊躇 > ためら]]いもなく、検査着を脱ぎ捨てた……パンツ履いてない。

  目の前に、天井の照明を隠すほどの巨躯が仁王立ちする。

  ハァッと、湯気でも見えそうなほどの熱い息。

  

  「膝ついてしゃがめ」

  低く命じる言葉に、こちらは大人しく従う。よく[[rb:躾 > しつ]]けられた従順な犬みたいに。

  目の前に突き出される、ぬらぬらと濡れて黒光りする肉棒。

  「しろ」

  両手で支え持つソレはずっしり重い。熱く硬く、太い血管が脈打っている。

  可能な限り舌を伸ばして奉仕する。上から下、下から上へ。唾液を塗りたくる。

  「これ、ヒト殴れる……凶器」

  「握りしめながらちょっと面白く言ってんじゃねえ――よ!」

  「――――!」

  

  デカい手で頭を掴まれて、一気に口の中に突っ込まれた。

  喉の奥まで容赦なく埋め尽くす欲の塊。さっき感じていたのを遥かに凌駕する雄臭。そうして掴まれたまま、激しく前後に出し入れされて。

  「ヒトのことっ……エロ牛だとか散々言うくせにお前だってなあ!」

  ムリ顎ダメになる。唾液が溢れて止まらない。

  えづきながら苦しさを紛らわすために口と手の全部を使って強く扱けば、雄牛の喘ぎが高くなって動きが更に激しくなる。

  意識が飛びそうになる寸前で――口からずるりと引き抜かれた。

  ぼたぼたと口から垂れた涎が床に珠のシミを作る。

  何度も咳き込んでいると、抱き上げられて洗面台に乗せられた。

  今度はおでこ同士をコツンとして、目の前で半眼でオブシディウスが言う。

  「……“ごめんなさい”は?」

  「……ごぶぇんなさい」

  「ったく、オマエさっ……あんま、俺のこといじめるなよ……」

  「だって弱ってるオブシディウスかわいかったから」

  「だからそういうトコロだよ!」

  こちらも着ているものを全て剥ぎ取られて投げ捨てられた。

  暴力的に塞がれる口。蹂躙し合うみたいな舌の交わりを何度も繰り返す。

  覆い被さってくる巨体。ゴツい手が裸の腰あたりを痛いくらいにぎゅっと掴んで、放して、また掴む。

  それから下腹部にかけて、思い切り引っかかれる。

  「んぁちょっ……その触り方やらし……!」

  「うるせえ! お前に言われたくオオアァン!」

  「乳首っ……そんな感じるのほんとエロ牛じゃん……っ!」

  「喋ってる時にやめっんモお!!」

  発情した獣同士、匂いを擦り付けるみたいに身体と身体を揉みくちゃにし合う。

  どこが、なんてことはなく全身全部が性感帯。快感が脳を奔る。

  もはや流れている汗がどっちのものかもわからない。

  両脚を抱え上げられ、[[rb:抉 > えぐ]]る勢いで内股に擦り付けられる巨根の感触。

  粘液が肌を汚して幾重にも糸を引いているのが見なくてもわかる。

  ゴリゴリ当たって……ヤバい。下腹ヤバい。

  

  「ああもうっ! [[rb:挿入 > い]]れてえっ……中で、[[rb:射精 > だ]]してえ!」

  「オブシディウス……いい、よ……っ」

  「バカっ緊急事態だろ今ぁ……!!」

  ――わかってる。その緊急事態に何をやってるのかって話。

  でも、でも。

  でもお互い、[[rb:それ > ・・]]もわかってるんだ。

  そういうのが、ひどく興奮させるってこと。

  洗面台から引き下ろされて壁に手をつかされた。目の前には小用のための便器。

  そこに向け、押し込めるみたいに背後から羽交い絞めにされて。

  太くて硬いモノが腰とお尻に当てられて――あ、これ本気の時の体位……。

  「オラ言えよ欲しいって! 言え!」

  「欲し……オブシディウス、欲しい……!」

  「俺とっ……俺とエロいことしたかったんだろ!!」

  「うん……したいっ、オブシディウス――!」

  発情して交わす卑猥な対話。

  それでも最後の一線を超えなかったのは。

  今が緊急事態で、彼が良識ある学者で、ヒーローだったからかもしれない。

  熱いモノが、痛いくらいの勢いで股の間を出入りする。

  でも繰り返し突き上げる勢いはいつもより激しいくらい。こちらの敏感なところはソレを求めて否応なく反応してしまって。

  ついに――、

  「あぅ――っ!」

  「イッ……も、もうイクッ!!!」

  ガクガク震える下半身。腿の内側を濡らす熱い液体の感触。

  ぎゅううっと羽交い絞めする力が強烈になって、こちらは身動きできない。不規則な背後からの痙攣に刺激されるたび変な声が喉から漏れる。

  それでちょっとだけさっきの彼の気持ちがわかった。ホントゴメンナサイ。

  ――ていうか、こっち、触らずにイっちゃ……。

  汗のかき過ぎか、激しい行為のせいか、頭がぼうっとしている。

  肉体を密着させたまま、繰り返すのは両者の荒い息だけ。

  だけ、だったら良かったのだけど。

  

  「何か声が聞こえたか? 悲鳴みたいな……」

  「おい、誰かいるのか!?」

  ――やっば、誰か来る!

  そりゃそうだ。こんだけ大きな声出してたら!

  我に返って二人、慌てて離れる。

  「どどど、どーする!? 戦うか!」

  「戦うっても――スッポンポンだよ!?」

  戦うにも[[rb:配信 > ライブ]]しなきゃいけないし、変身解除なんかしたら宇宙規模で死ぬ!

  けどその時、思考に電流奔る。天啓。

  咄嗟に用具入れに走って、それを入り口に置いた。

  すなわち――“清掃中”の置き看板!

  そしてやってくる複数の足音は――、

  「むっ、ここは清掃中だ! クリーンオフィス!」

  「心と体の健康は環境から! お掃除いつもありがとう、だな!」

  「邪魔しちゃいけない! 定時退勤は基本だぞ! ワークライフバランス!」

  ……すぐに、去っていったのだった。

  「……なんとかなった」

  「お前、機転利きすぎてこえーよ……」

  そうして二人。

  顔を見合わせて、再び、ぐったり互いにもたれ掛かったのだった。

  ◆◆◆

  「身体、もとに戻ってきた?」

  「ああ。たぶんすげえ汗かいたからな……」

  「よかった。そ、それが[[rb:最優先事項 > トッププライオリティ]]だったんだよ」

  「――横文字照れんな。言いようじゃねえか。ったくモウ」

  隠れて移動しながら、こそこそ言い合う。

  その時、聞こえてくる激しい――戦闘音だ。

  「あっち! 皆の声もする!」

  「うし行くぜ! 戦闘準備頼む!」

  「うん!」

  また走りだそうとする――その前に、腰をぐっと掴まれて抱き寄せられた。

  すぐ目の前に彼の顔。

  「ど、どうしたの」

  「……こっちにだって、最優先することがあんだよ」

  

  鮮やかな紅い瞳がこちらをじっと覗き込んでいて。

  囁く。

  「心配すんな。俺が[[rb:絶対 > ぜってえ]]守ってやるから」

  「――うん」

  どちらからともなく近づく口と口。

  ――カメラあるかもって? 知るか。今はこれが最優先事項!

  「あと、[[rb:オリエントシティ > あっち]]戻ったら覚悟しとけよ」

  ……んでなんか付け加えるみたいに言ってらっしゃる。

  たぶん今更恥ずかしくなってきたからですね。

  いやこっちだって恥ずかしいわけじゃないので……わざっとそっけなく、

  「病院の予約しといたほうがいい?」

  「ブッ――いつもそんなひでーことしねーだろ!? ……あっ」

  盛大に吹き出してツッコむその声を聞きつけたのか、廊下の向こうから現れる複数の武装したヒトたち。

  「いたぞ! 要健康指導者!」

  「ム、だがなんだかひとっ走りしたみたいにさっぱりした顔をしているぞ!」

  「ひょっとして健康なんじゃないか奴らは!?」

  はい、とにかく変身――巨大なドリルを抱えたオブシディウスが、吼える。

  「ゴチャゴチャうるっせーな! 俺は健康――特に下半身は過去イチ元気だぁ!」

  「ライブ始まってるってぇ!!」

  その映像が、うやむやでアーカイブに残らなかったのだけは幸いである。

  空の上。

  健康診断に端を発した大騒動は、まだまだ続く。

  ◆発情性猛牛ヒーローと学ぶ、緊急時最優先事項

  ――了。