バニパルウィット 猫貴族の回想録〈ネコ公爵のアナザー・ストーリー〉
※注意※
本小説は「バニパルウィット とつぜん!猫の国」の重大なネタバレ及び、該当作品に対する独自設定が御座います。
上記の作品の視聴をしてくだされば本小説を楽しめる物になっておりますので、此方の作品を読む前に、そちらの視聴をお勧めします。
それでも宜しい方は…『彼』が知りうるあの世界での物語をお楽しみ下さい。
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『猫生とは、偶然と必然の連続である。』
此処バニパルウィットよりも遠くにある国の言葉であると、今は隠居の身である両親から聞いたモノではあるが、今までの我輩の事を振り省みると、確かにその様な[[rb:猫生 > びょうせい]]だったと深く噛み締めておる。
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[chapter:第一章「バニパルウィットと我輩、それと始まり」]
我輩、フールー・フォン・ポップシュハイン公爵は幼き頃、ここバニパルウィットとは違う国から『技術交流の為の[[rb:要猫 > ようびょう]]』、としての両親に引き連れられて此処に来た経歴を持っており、元々この国で培われた『魔法を扱う技術』と此方の国で扱っていたという『此処とは違う世界に行き来できる技術』を交換し合う為に、バニパルウィットの城主の元に推参したのである。
バニパルウィットの城におられた王様は、それはそれはお優しい方であり、交流の代表であった両親やそれの付き添いとして控えていた我輩を含めて、快く滞在する許可を出して下さって、側に居られました王妃と共に歓迎のパーティーをしてくださる事になったのである。
しかしながら、そのパーティーの参加者として王様と王妃の娘であるというブブリーナと呼ばれている姫は、我輩の第一印象としては最悪の部類に入っていた。
王様と王妃の寵愛を受けた結果、傲慢な[[rb:猫柄 > ねこがら]]になっており、気に食わないことがあれば癇癪を起こし、我儘を言えば同年代の猫達よりもたちの悪さが目立つモノだった。
幸い、王様と王妃の僅かながらの良心のお陰で、両親と我輩含め城に住んでいた者達に被害が及ぶ事は無く、順調に技術の交流は進んでいってきてくれており、確言う我輩も城下街から来たという男に対して、我輩の知りうる限りの情報や実験等を話した事があり、その時は父上から矢鱈無闇に教えるでないと叱られる羽目に成ってしまったが、男は我輩の事を庇ってくれながらも、更に自身が知りうるバニパルウィット特有の技術を教えると伝えてくれたので、結果としてある意味褒められたモノとなった出来事であり、我輩初めての関係を持った時でもあった。
因みに、件の男は『ヘノジイ』という名前だったそうで、その男と知り合った事によって我輩は、『変わり猫達の一番弟子』という二つ名というモノを承ったのであるが、どういう意味なのか皆に聞いても城内の者達はしらばっくれて聞く耳持たずだった事をここに記しておく。
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[chapter:第二章『レムラム殿と我輩、怒りを添えて』]
そんなこんなで技術交流を進めていった我輩達であったが、ある日ブブリーナの我儘によってとんでもない事態が起こる事に成ったのである。
それは『レムラム』と呼ばれている魔法使いが、娘であるリリーという子を連れて城に入ったのが切っ掛けであった。
リリーと呼ばれたその娘は、それはそれは見事な芸達者な猫であり、数々の見事な芸を披露してゆき城に住んでいた者達を喜ばせてくれていた。
ところが、それ等の芸をブブリーナがつまらないと宣ってくれた事で状況は一変した。
そう言い出したブブリーナは大掛かりな芸をするように命ずると、幼いリリーには酷な芸である『綱渡り』を行わせたが為に、転落死という残酷なる結果を引き起こしたのである。
亡くなったリリーの姿を見て呆然とするレムラムとその惨状に絶句する我々とは違い、この事態を引き起こした当の本猫は、フンッと鼻で笑うかのように息をしてから寝室の方へと行く事を両親に伝えつつ、軽く欠伸をして見せたのである。
その死した相手に対し軽視するような態度に対し、我輩は怒りを感じて糾弾を仕掛けようとしたその時、周りの者達は気づかなかったが亡くなりしリリーの身体を抱きかかえていたレムラムの瞳には、憤怒を持ちながらにして罪人に対し審判を下す者の面影が写っていた。
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レムラムの瞳により、ブブリーナを糾弾しようと仕掛けた我輩がゾッとして動けない間に、リリーの亡骸を棺桶に入れて王様と王妃が精一杯の謝罪を行ったらしく、気まずい雰囲気の中で、両親に連れられ会場を後にし寝床としている部屋に着いて一緒に寝る事になったのであるが、我輩の頭の中には亡くなりしリリーの事と怒りに満ちていたレムラムの瞳がこびり付いてしまっており、それに対する気持ちに我慢ならなくなっていた我輩は両親が眠ったのを確認してから、初めて己の意思で部屋から出るという事を行ったのである。
城内は寝静まっており、見回りの兵士が歩き回っておった状況ではあったのだが、技術交流の合間に退屈凌ぎで城の中を駆けていっていた当時の我輩にとっては大した問題では無く、レムラムは何処におるのかと城中を隈なく駆け回って行ったところ、城の外に通じている城門にてリリーを入れた棺を載せている手押し車の近くに彼の姿を見つけ、急いで其処に向かった。
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「レムラム様、何処へ行かれるのですか?」
「おや貴方は…フールー様でございますか。リリーに見晴らしの良い所を見せてやりたいのでね…其処に墓を建てようかと」
「其れだけではないでしょ…ブブリーナ様に対し何をするつもりですか?」
「…やはり、子供は察しが良いな…当然、傲慢なる姫にはそれに値する呪いを…願わくば、娘の様な悲劇が起きぬように…娘よ、肖像画よ、力を貸したまえ…!」
レムラムの元に辿り着けた我輩が彼と話し合いながら、あの時ブブリーナに対して見せたあの瞳の事含めそう聞いてみようとしてみた所、彼は苦笑を見せてからそう言ってみせると、自身の掌に何かしらの力を具現化させて出し始めてきている事が分かり、その様子に口が開いたままと成っていた我輩の事など露知らずに、『魔法』とこのバニパルウィットで呼ばれているソレの準備を整えたレムラムが振るった瞬間、ソレは天高く舞い上がってから何処かの方へと飛んでいってしまわれた。
「あ、あれは…一体…?」
「あっ、フールー様、此処にいらしたのですか…ご両親がお待ちかね…あっ、レムラム様!?」
それが魔法だと知らずに我輩がそう呟き掛けた時、見回りの兵士の者が我輩の姿を見つけたらしく、その様な事を言いながら近づいて部屋の方へ戻るように伝えようとした時、娘の棺を運ぼうとするレムラムの姿を見つけて、その様な声をあげてみせた。
「おや、これはこれは…丁度良い。フールー様、貴方に姫と肖像画におかけした呪いについて纏めたのをお渡ししましたのでご確認を…」
「えっ、あなっ…いつの間に…!?」
レムラム殿からその様な事を言われふと懐に違和感を感じた我輩は、ソコを探ってみたところ丸まった羊皮紙が入れられており、其処に何かが書かれているのか分かった。
「あ、レムラム様!?」
「それでは、この国に良き物語が在らんことを…」
兵士の声を聞いて我輩も顔を上げると、レムラム殿はリリーを載せた手押し車を押し行きてゆき、段々とその姿が霧に紛れるかのように薄れていって姿が消えてしまったのを、我輩と兵士の二人が眺めるだけだった。
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[chapter:第三章『我輩とデボンレックス、目覚めた呪い』]
「…んうっ、んんー…っつ、レムラム様から受け取ったコレ、夢ではなかった…」
他の兵士達が我輩と兵士を見つけて場内へと連れてゆき、レムラム様がリリーと共に行かれた事をあの兵士が報告する中、我輩はレムラム様から受け取った羊皮紙を持ったまま両親に連れられて寝室へと戻って寝かされてから、翌日となった。
両親よりも先にベッドから起きられた我輩は、懐に収まっているあの羊皮紙が胸に当たる感覚を感じた事により、昨夜の出来事が夢幻のことではないのを理解した。
「…肖像画といえば、謁見の間にあったあのブブリーナの絵の事なのか…一体あれに何を…」
「イキャアァァァァァァ…!」
「っ、この声は!」
ベッドから一足早く出て寝間着から普段使っている服へと着替え始めた我輩は、レムラム殿が語った言葉の中にあった『肖像画』という部分に対し、初めてこの城に通された際に最初に入った謁見の間と呼ばれる場所に掛けられていた数々の肖像画を思い出し、その中にあったブブリーナの姿を描いた物に対しレムラム殿が何かしらの呪いをかけたのでは、と考察し呟いて着替え終えた我輩が両親の起床を待っていたその時、城内中に響き渡るように劈くような悲鳴が聞こえてきだし、我輩はソレにいち早く気付き起き出していた両親を他所に部屋を飛び出し走り出していった。
こうして、城全体に駆け巡ったその悲鳴がブブリーナから発せられたモノであるのを知ったのは、聞こえた方向へ向かう途中に同じ声を聞いたであろう兵士の一人が『姫様が眠っている部屋からだ』、との事で彼らと共に同行した時であった。
「ややっ、貴方様はポップシュハイン殿の御子息ではありませんか。もしや昨夜レムラム殿が去る間際、側に居られたという方は…」
「えぇ、その通りです。ついでに言いますと、彼はあの時ブブリーナと肖像画に呪いとやらをかけた事を…」
「な、何とっ!?」
兵士達と共に駆けてゆく中、兵隊長と思われる者が我輩の事を部下から聞いていたらしく、彼のレムラム殿の近くに居た者であるかの質問に対しそう答えつつも、懐にある羊皮紙を見せながら我輩はレムラム殿が呪いをかけた事を伝えてゆくと、ブブリーナの部屋にどうやら辿り着いたらしく、既に部屋の入り口には猫集りが出来上がっておった。
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「くっ、流石にあの声を聞かぬ者は居らぬか…姫様ぁ、ご無事でおられますかぁ!?」
「んっ…しょ、あっ失礼しますね魔法使い様。おっと料理長殿、少し気になりまして…」
猫集りの影響で部屋の様子は見えておらず、兵隊長が大声を上げてブブリーナの無事を確認する中で、我輩は猫集りの合間を縫う様に通ってゆきながら部屋へと近づいており、父から教わっていた立ち振る舞いを上手く使って会う方達にしっかり対応してゆく。
「こ、これは一体…」「なんの呪いなの…?」
「おぉっ、これは公爵殿。少し部屋の様子をと父母から…って、えっ?」
王様と王妃の呟きが聞こえ、眼前に居られた公爵殿にそんな嘘を言いながら潜りながら遂に部屋の眼の前に着いた我輩が見つけたのは、呆けた口をしているブブリーナの目の前にて
「ニャ、ニャニャ…!?」
とある世界では『デボンレックス』と呼ばれている種族の女性騎士が、その身に纏っていた鎧を砕くほどの体型に成って宙に浮かんでいる姿であり、その姿を見た我輩はある『モノ』を連想し思い出していた。
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[chapter:第四章『我輩、懐かしき事を思う』]
我輩の産まれた国にある『此処とは違う世界に行き来できる技術』の関係上、異界から様々なモノが此方に来るらしく、ソレは『者』であったり『物』だったりするのではあるが、吾輩がまだあの国に居た幼い頃に一つだけ印象に残っているモノがあった。
それは『風船』と呼ばれる物であり、最初はブニブニとした変な皮のような物体であるのだが、空気を吹き込めば忽ちソレは大きくなることが出来、元の世界では様々な使われ方をした『物』であるということを、ソレをこの世界に招き入れた者は語っており当時赤子だった我輩は、その者が手渡された緑色の風船を見入てキャッキャッと満面の笑みを浮かべておったそうだ。
しかしその『風船』にも欠点があるらしく、それは鋭く尖ったトコロ、我々で言うところの『爪』や『牙』をソレに立ててしまうとパンクを起こすというものであり、それを知った際尻尾を逆立てて吠えていたものだ。
その様な事を思い出していた中で、驚いて呆けておった王様が恐る恐るデボンレックスに近づくとなんと爪を出し始めていて、どうやら突いてなんの呪いなのかを知ろうとしていたらしいのだが、そんな事など露知らなかった我輩は大いに驚いてしまった。
「あっ、王よ待たれよ!」
「んおっ、だ、誰だ…ぽ、ポップシュハインの息子ではないか…もしや、この呪いについて何か知っているのか…?」
我輩のその大声に一瞬手を止めた王様が、誰がそんな声を出したかを知るとその様な事を言って訝しんでいるのを感じ、その空間にいた多くの者からの視線をその身に受けつつ、我輩は風船に対し知りうる限りの事を伝えつつ、懐にあったレムラム殿から受け取った羊皮紙を出し開けてみせ其処に書かれていた内容を話していった。
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[chapter:第五章『ブブリーナとサンダダ様、放たれし呪い』]
羊皮紙に書かれていた内容は大きく2つ。
一つ目は昨夜レムラム殿が唱えた言葉の正体として、ブブリーナが産まれた際にこの国随一の画家に書かせ、『サンダダ』と呼ばれるお方が、その女の成長を写しとるという魔法を掛けさせたという肖像画全てに、『ブブリーナのお姿を見た者は、彼女の虜になる呪い』というのを掛けたとの事で、試しにその場にあった肖像画の一つにコックの一人が拝見してみた所、頬を赤らめ彼はブブリーナの好きな料理の準備を始めに厨房へと駆け行ったと、後に貴族の面々が伝えてくれた。
そして、二つ目として我々の眼前にて起きている事態の答えとは、ブブリーナに『触れるもの全てが風船になる呪い』を掛けたが故に巻き起こった事態であり、下手に彼女が触れ続ければあっという間にパンクを引き起こす事が記されている事実を知るや否や、兵士達は慌て出して城を駆けずり回り、貴族の者達はアタフタとそれに右往左往しながら一部の者は腹に一物を抱え出す中、ブブリーナの親である王様と王妃は一段と大慌ての様相を見せており、部下に対し様々な命令を伝え出しておった。
因みに、デボンレックスの女兵士が何故この様な姿に膨らみ上がってしまったのか、実は『女の癖に兵士とか生意気』と癪に感じておったブブリーナが、寝起きしたばかりの状態で軽く彼女に触れた事によって、それによりデボンレックスの女兵士は見事に風船にされてしまったというのが、事の真相だったのである。
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「…という事ですのでブブリーナ様。変わらぬお過ごしをするのでしたら、その手袋を外さないようにしていただきたいのですじゃ」
「ふーん、そうなの…」
王からの名に依り呼び出されたサンダダ様は、ブブリーナに対しその様な忠告をしているにも関わらず、当の[[rb:本猫 > ほんびょう]]は彼から受け取り身に付けた美しき手袋を見つめながらその様に返してみせた。
さて、ブブリーナに掛けられた『触れるもの全てが風船になる呪い』は欲しいと願ったモノ含めて触れるモノ全てを風船へと膨らませあげてしまう呪いらしく、このままでは日常生活に支障が出る可能性があると、王様からの命令でほんの一部を残し殆どの肖像画を回収しに来たサンダダ様がそう考え、その呪いを遮させる事が出来る手袋を作り出したらしく、先程まで彼女の手のサイズに合わせてた様だ。
ところで、もう片方の呪いを掛けられた肖像画の方はどうしたのかと言われると、この時は大きめの箱を使って呪いが付けられているであろう肖像画全てを、我輩や他の者たち含めてサンダダ様主体で呪いを弾くことの出来る色眼鏡を掛けながら、肖像画をそれに納めていって何とかなったのであるのだが、当初サンダダ様は『廃棄』してまた新しいのを用意すれば良いとの考えだったが、娘可愛さの王様と王妃様によって非難轟々を受けられてしまい仕方なく、『廃棄』ではなく『解呪』の方へとシフトしこの様な事態に成ってしまったことを愚痴っていたのを覚えておる。
それと、風船へと成ってしまったデボンレックスの女兵士の処遇はどうなったかというと、当時『触れるもの全てが風船になる呪い』がどの様な呪いであるのかが分からず、故に解呪のしようがなくどうしたのかと周りの者達が悩んでおった中で
「それと、余り彼女に負担は掛けぬ方が…」
「なにサンダダ、私に何か言いたいの?」
「ニャ、ニャハアァ…」
「い、いえ…」
ブブリーナが、座る為のクッション代わりとして尻落としの要領で女兵士の腹部へと腰かけており、当の本猫はその重さに一瞬苦しさを感じさせながらも身体のツボを押されてる様な、我輩の父が医者から受けておる関節への治療やマッサージを想起するような痛みを含む心地よさを感じているらしく、後に彼女はブブリーナ専用のクッションとして日々を暮らす事になっていったそうな。
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[chapter:第六章『我輩と黄色近衛、それからというもの…』]
「…姫は如何をお過ごしで?」
「それが、お出しした食事は頂いてくださるのですが…如何せんあの気質に加え王様と王妃のアレがあって…」
「…はあぁ、陛下の御愛聴は些か度が過ぎる。このままでは婚期さえ危うい事になるぞ…?」
それからというもの、城内の様子は一変しており、ブブリーナは貴族達の手によって表向きは『姫様のお身体が不調の為』とし、真相は『姫様が持っている触れるもの全てが風船になる呪いに恐れ』、彼らが職人に命じさせて作らせた『ある部屋』に半ば軟禁状態で住まう事になったのが広まり、極一部の者達以外には表向きの話が国中に広まっていってた。
「そういえば、あの噂は本当なのかい?」
「あぁ…姫様の手であぁなった方々の事だね。うん、ホントに飲まず食わずで過ごしているみたいなんだ…」
「な、なんとまぁ…あぁなった兵士や従者達が苦もなく過ごせてるからまさかと思ったが…」
その部屋にて住まうブブリーナの機嫌を取る為、度々王様とお妃様の指示のもと兵士や従者を集めて元々彼女の日々の世話を行っているメイドの代理を行っており、何とかして彼女の世話をやっていっているが時々彼女の不満が爆発を起こす事があり、その呪いを持つ手を使って膨らませてゆき風船にさせたりパンクさせる事態を引き起こしており、後者の目にあった者達は全身が紙屑のような状態となりつつも生きていて、当時はそうなった彼らを我輩がサンダダ様の所に送って元に戻そうと躍起になっていた頃、場内ではある噂が出てきておった。
『ブブリーナの手によって風船にへと成ってしまった者は、飲まず食わずで老いる事なく過ごせれる』というその噂は、当の犠牲者の中に寝る事はあれどもその様な事に成っている者がいるらしく、一説では『レムラム殿が犠牲と成ってしまう者達が無事に居られるようにと掛けたもの』だとか。
「へ、兵隊長殿もやられたので…?」
「いえいえ、噂をお聞きして年中お仕え出来る様にと考えまして…姫から受けた次第!」
兎に角その噂を知った一部の兵士や従者達は、『王様とお妃様に長く仕えたい』、『この様な事になったのに対する罪滅ぼしに』、『長生きしたい』等々色んな願いから彼女の所に向かって風船の身体と成り、何時しかそうなった彼らが身に付けている装備の色から『黄色近衛』と呼ばれ、ブブリーナの御世話と御守りをする様になったのはそう遠くなかった。
「ところでフールー殿、本日も彼らと?」
「え、えぇ…自分達の後輩が出来たとスットボケが喜んでて…」
そんな跳ねながら動きブブリーナの為に行う『黄色近衛』達とは違い、歳を経てバニパルウィットと遠くにあるとされる我輩の国、それらの国としての友好関係の旗印と成ろうと考えている我輩にとってはその呪いを得よう等とは考えておらず、肖像画を片付ける中でサンダダ様と話していった所、技術交流の際に知り合ったヘノジイや空への憧れを持っている『ホイホイ』、おっちょこちょいだが我輩より少し年上で親しく出来る『スットボケ』、彼ら三人をサンダダ様は弟子として様々な事を教えていっている事を知り、彼らとサンダダ様の事を気に入った我輩が個人的に関係を築いてゆき、やがてこのバニパルウィットに技術的躍進を行った第一人者へとなっていったのである。
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[chapter:第七章『我輩とサンダダ様、空への開拓』]
「…んおっ、おぉーフールー殿ではありませんか!」
「こんにちわヘノジイ、サンダダ様はお元気で?」
「えぇ、今試作機の準備を最近弟子入りしてきた彼としており…あっ、まだ紹介しておりませんでしたな。試作機の機能の復習序でに其方へご案内しましょう」
サンダダ様が住んでいる屋敷のドアを軽めにノックし、部屋に入る許可を聞き取ってから入った我輩を見つけヘノジイがそう言い出しており、彼等との交流と研究の中で造り出せた試作機の準備をサンダダ様と最近弟子入りしてきた者がしている旨を伝えながら、彼等との成果を楽しみにしていた我輩を引き連れながら庭へと通じる通路を歩んでいった。
「確か…この世界から他の世界へ飛ぶ事が出来る物でしたよね、どの様な物なので?」
「えぇ、その通りですが…一つお伝えたい事が…パンクしちゃった方々を一々此方に送って来ないで下さい。時々ガタゴト動く事あって正直ビビりますんじゃ」
歩み始めて我輩がその試作機の機能を思い出しながら呟くと、ヘノジイはそれに頷きながらも最近の悩みを出しており、どうやらブブリーナの手によってパンクさせられ破片と化した者達が今も尚動こうとしているらしく、入れ物ごと揺れて鳴り聞こえる音があまりにも不気味で怪異や物怪の類を彷彿とさせて、事情を知らぬ者が観たり聞いたりすれば恐怖に苛まれそうな状態と成っているらしく、その事に対しそうぼやいていた。
「あー、流石に一編に送るのは不味かったでしたか…今度防音性のある箱に入れ物入れて送りますね?」
「あー、まぁ…彼らを送っていってくださっているお陰で、試作機が完成できたのですじゃ…!」
その事を知り我輩が謝罪をし、今後送る際に破片が入った入れ物の上から防音性のある物を使う事を伝えると、ヘノジイは少し頭を掻いてみせながら送られてきた方々によって試作機が出来上がった事を伝えながら、庭に通じる扉を開けてみせた。
「お、おぉー…あれが、そうなので…?」
「えぇ、彼らの身体から分かった性質を持った物を造り出せまして…それを使った物が此方の、『クルーズ・キャット』ですじゃ!」
庭に入った我輩の目前では、我々を模したような風船を上部に取り付けた装置が組み立て上げられており、スットボケとホイホイがそれをやっていっている様子をサンダダ様が見ておるそんな中で、彼の近くで佇んでいる一人の青年も同じ様にしていたのを覚えている。
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「いよっと…ホイホイ、計測する為のやつ持ってきたぞー!」
「おぅ、ありがと。これを取っ付けりゃあ…準備万端になりますよー!」
「おぉ、そうなのか…ふうぅ、これが上手くいけば、バニパルウィットは前に進めれるのぉ…」
「そうなれば、俺がもっと魔法を学べる時間が出来るのですよね!」
「こらこらドウドウ…お主にはまだまだ学ぶべき事があるぞ…おやっ、」
「サンダダ様、相変わらず魔法の習得には手厳しいですね…君が、ヘノジイ達が自慢しておった…」
「あ、はい。わたくし、ドウドウと申しあげます。えっと…」
「フールー、フールー・フォン・ポップシュハインだ。宜しくな?」
「…ふぇ、フォ、フォンって事は…ご貴族の方なのか…!?」
ヘノジイが言ったクルーズ・キャットと呼ばれた物に、スットボケが持ってきた最後の物をホイホイが取り付けてゆく段階に入ってきている様であり、その様子を見ておったサンダダ様がそう言ってみせたのを聞き逃さなかった青年は、目を煌めかせながら魔法を学ぶ事に執心の様子を見せているのを師匠は咎め、彼にはまだ学ぶべき事があるのを伝えかけたその直後に我輩の姿を見かけ中断し、その様子に我輩が幼い頃に知った魔法の習熟の難しさを思い出しながらヘノジイ達の後輩である青年に対しそう言い出すと、青年は礼儀正しく自身の名を言ってみせてから我輩の事を聞いてきたので、軽く自身の名前を出してみたらギョッとした表情で戦きだした彼を他所に、我輩はサンダダ様の方へと歩んでいった。
「これが彼らが言ってたクルーズ・キャットか…これからどうするおつもりですか?」
「あぁ…取り敢えず、此方は試作機ですので様々な試運転を行っていって…此れがどれ程使える物であるのか調べてゆく予定なんですじゃ。」
「調べあげた物は此方に連絡してくださいよ、王様に伝えるのお忘れしてあわや大変な事に成りかけた事もありますからね…」
「す、すまんの…あの時は皆がエライ事に成り掛けおったからの…」
我輩が、スットボケが持ってきた物をホイホイがクルーズ・キャットに取り付けていっている様子を見ながらサンダダ様にそう言いだし、彼がその様に行ってゆく事を伝えたのを聞いて我輩はしかめっ面をしながら過去に起きた事を思い出しながらそう言ってゆくと、サンダダ様は痛いところを付かれたかの様にそう答えてみせつつ、我輩の手元へ羊皮紙を渡してみせた。
「んっ、これは…」
「それと…例の呪いに対する報告書で御座います。あれから、様々な手を用いて解こうとしたのですが…今まで此方に送って下さった方々からでは限界がありまして、流石にブブリーナ様ご[[rb:本猫 > ほんびょう]]が此方に来られませんと…」
「あー…ちょっとそれは難しいお話ですね。あの方、あの呪いを悪用して益々我儘が酷くなってしまっておられて…下手したら乗り気すら湧かないと思います。」
報告書を受け取りながら、サンダダ様は小声でブブリーナと肖像画に掛けられている呪いの解呪が滞っている事を伝えだし、その問題の解決策に彼女ブブリーナがサンダダ様の住まう屋敷に来る様にしてほしい旨を言い出すも、『触れるもの全てが風船になる呪い』を受けて尚ブブリーナは自身の傲慢さを反省する事はなく、それどころかその呪いを使って色々と途轍もない事を行っている節がある様で、傍若[[rb:無猫 > ぶびょう]]っぷりに拍車がかかってると当時の貴族の間で噂されるほどであった。
「考えうる言葉として…
はぁ?
なんであたしが?
するならあんたたちですませてちょうだい
…と高圧的に嫌がる可能性があるのです」
「そうなのですか…んっ?」
我輩が少々ブブリーナの口調を真似てその様に言ったのを、サンダダが反応したその瞬間、どうやら我々の話をドウドウが聞いていたらしく我輩達の方を見ながらジッとしており、続きを聞くかのように成っていたと後にサンダダ様から知ったのである。
「ふむ…この話は、また今度に致そう。クルーズ・キャットの方もあるのじゃからな…」
「サンダダ様ー、クルーズ・キャットの準備完了出来ましたぞー!」
ドウドウのその様子に少し怪しさを感じたサンダダ様が、そう言って話を切り出したのを切っ掛けにするかの様に、ホイホイとスットボケの二人の様子を見ていっていたヘノジイがそう言い出すと、クルーズ・キャットの方から軽快な音が鳴り出してきた。
「そうですね、彼らがどの様な物を造り出したのか…この目で見させてもらおう」
我輩がそう言ってみせてから、クルーズ・キャットの試運転が始まりだした。
その後、クルーズ・キャットの報告を聞いて大層気に入られた王様や王妃様によりその技術を一部簡略化させた書物の提供を行い、我輩の父が此処とは違う世界に行っていた中で見つけたソレと酷似していた事もあって、その乗り物は『気球』と呼ばれる様に成って最初貴族達の中で流通する様になったのは、皆も知っての通りだろう。
[newpage]
こうして、バニパルウィットに素晴らしい技術をもたらした我輩が、現在の貴族としての地位を手に入れバニパルウィットと我輩の故郷の国の橋渡し役としての職を手にしたのを知った両親は、満足して隠居する旨を伝えると共に祖国の方へ帰還を果たすと、我輩主導の元で技術交流はドンドン行われていったのである。
そんな事もあり、段々とサンダダ様達との交流が少なくなっていた我輩は、今や国を跨いで技術革新や交流の中心として忙しく過ごし、更に仕事の合間には貴族同士の交流会に参加したりと忙しなく動いているが、サンダダ様達とは文通を通じて交流を続けていた。
当時もっとも印象に残っていたモノの内容は、どうやら最近弟子のドウドウ殿の様子がおかしいとの事で、解呪が出来ぬ肖像画らを封じ込めている箱に対して探ろうとしているらしく、嫌な予感を感じソレを秘密としているのを手紙でぼやいているのが書かれていたのが記憶に残っておる。
[newpage]
[chapter:第八章『ブブリーナと我輩、変えられて風船』]
そんなこんなで、我輩とサンダダ様達との交流を行っていっていたある日、我が猫生を大きく変えてしまった出来事が有ったのである。
それは皆も知っていたり覚えているであろう『眠り猫事変』より数ヶ月程前の事であり、我輩がその日最後のサンダダ様からの手紙を読み終えた時であった。
「ふむ、自らが持つ魔法の力を拡張する道具とは…まこと、魔法への精進は惜しまぬ方だ…」
「ご主人様、王様からの呼び出しが来ております…」
手紙の内容はサンダダ様が新たな道具を作り出した事を知らせており、魔法への探求心を疎かしてない旨が書かれている事に我輩が笑みを溢していた所、我輩が住まう屋敷の管理や身辺の準備を行ってくれる使用人がそう言いながら書状を出しており、我輩はその書状を受け取って内容を一通り読み込んでみたところ、どうやら我輩が今まで行っていった研究や技術を公にする発表会を先ず貴族相手にやってほしいとの依頼であり、その後にパーティーがある為にそれに対しても参加して欲しいとの旨が書かれてあった。
「どの様にしますか、ご主人様」
「ふむ…断る理由もないな」
「んっ、では…着替えの方はお任せを…!」
使用人が我輩が自ら読み終えた手紙を受け取って内容を確認し、軽く思案している姿を見ながらその様な事を聞いてきたので、下手な意味合いは無いだろうと思いそう言ってみせ、城で行われる発表会とパーティーへの参加に向けての準備をする事にした。
[newpage]
「おぉー…ポップシュハイン公爵殿、貴方もこの発表会に来られたのですね!」
「えぇ、王様からご依頼をされまして…しかしやけに黄色近衛の方々が動いていらっしゃいますね?」
スカーレットとサーモンピンクのストライプとしたオー・ド・ショースを履き、フロントクロスの意匠を凝らしたレモンイエローのベストと白い襟の上からアップルグリーンのコートを着こなして、頭に技官として就いたが故に得られた二角帽子を被っている我輩に対し、得られたモノを上手く使うことで新たな発明を作ることを仕事としている候爵殿が挨拶してくださり、我輩より下の立場ながらもその先見の明には尊敬さえ感じるお方であった彼に対し、我輩も挨拶を返した。
「確かに、発表会にしては黄色近衛達の動きが大きいですな。変な予感でなければ良いが…」
「…おや、サンダダ様はどうしたので…此処に居ないようですが…?」
「そういえばそうだ…あの方がこの様な大きな事に参加されぬ日は無かった筈、」
我輩が、警護の為か城中を跳ね回りながら視ていっている黄色近衛の数が少しばかり多くないかと呟くと、候爵殿はその様に言いながら、城まで付いて来てくれた我輩の使用人とメイド二人、自身の護衛も含めた彼らも黄色近衛達の動きに訝しんでいる事に気付いておった。
そんな中、少し怪しげな様相となっておる会場を見渡していた我輩は疎らにそれぞれの席へと着いている面々の中に、この様な大きな催し事に参加する筈のサンダダ様の姿が見受けられない事に気付きそう言い出すと、候爵殿の護衛である者もそれに気付いたらしく、サンダダ様が座るであろう席が空白と成っているその事実に、我輩は一抹の不安を感じ出していた。
「えー、皆さま。お集まり下さり誠にありがとうございます…本日はお日柄も良く、このような場に参加できて光栄にございます。」
サンダダ様含め、幾分かの席が空白のまま発表会の時間が来てしまったらしく、王様によって選ばれたであろう司会者が壇上からそう言い出してきた。
「さ、サンダダ様や他の方々がまだ…」
「ここの参加は自由だからの…他の事に時間割いてしもうてこうなったのだろう。仕方がないと…思う」
我輩がその様相に言い掛けた所、侯爵殿は発表会の参加は自由である事を伝えつつも、後半少し不安な気持ちを払拭するかの様に彼の口から半ば苦し気であったが、そう発してみせた。
「では、挨拶もほどほどに…今回は皆様方が得られたモノを王様にお伝えする発表会であります。皆様、慌てず騒がず自ら得られたものを此処で発表していってくださいませ!」
(とか何とか言ってはおるが…恐らく、各貴族が得られた技術を交流させて更なる発展を行う算段であろうな。全く、中々強かな王様であるな…)
司会者が書状の前半の方に書かれていた内容をこの場でお伝えし、未だ何の技術を用意できる才能もなければ努力もせず、祖先の威光を傘に着て義務を果たさず権利だけを主張する大貴族達が狼狽する様を見ながら、若輩者ながらそれなりの爵位である我輩はこの発表会の真の目的を察しており、同じ答えに至っているであろう侯爵殿も落ち着いた様子で粛々と発表に向けての準備を行い始めた。
「うむ…これからワシが名前順から呼んでゆくので、呼ばれた者から発表を始めてゆこうと思っとる…それでは最初の発表を行ってもらうのは…」
玉座に座したまま手にしている長い羊皮紙を見てゆきながら、王様がアルファベット順と成っている貴族達の家名を出し始めて、発表会が始まりだした。
[newpage]
発表会が始まると、様々な技術や議論が飛び交う大荒れの場に近い物と成り始めており、新たな技術の発表から便利だけどどの様な時に使うのかと問いたくなるような発明などが次々と発表され、中には実物を会場内に持ち出して実演で発表を行い出す者も出ており、その様な発明達に対しイチャモンやら否定的な意見を出して妨害を行おうと仕出している輩というのはどこの場でも出るらしく、互いの足を引っ張りあったが故に両者共に共倒れと化す事態になる事もしばしばあり、温厚ながら常識的な王様が居なければ発表会はもっと酷い事と化したであろうことは想像に難くない。
「えー…我輩が発表致します物は、この場に知らぬ者など居らぬであろう気球についてで御座います。サンダダ殿との共同研究によって、気球の量産が出来る様になりました!」
「オオォー!」「何とっ」「素晴らしい…」
「此方の気球、皆様方も知っておられる姫様の呪いによって風船とされてしまった方々から調べあげる事によって見付けることが出来た素材で出来ており、その素材さえあれば量産は可能であります。」
そして、我輩ポップシュハイン家も、サンダダ殿との共同によって量産化出来た気球を実物交えて会場内にいた面々に発表することが出来、膨らませた際の状態の姿を写し取った図を見せた事により静かな歓声を上げる彼らを見ながらも、我輩はこの場にサンダダ殿が居ない事への一種の寂しさを感じさせておった。
「それにしても、我々の顔を酷く模した様な物であるなぁ…これしかないのか?」
「…あ、あぁいえ…ある程度丸に近い形であれば気球や風船にすることが出来まして、今回の形に関してはあくまでも分かりやすいのを…という考えでこのように」
「…んっ?」「ほほぉ」「それはそれは…」
先程話しに出していたイチャモンを付けようとする輩が、図に描かれている気球の形を見ながらその様な事を言ってみせ、寂しさに気を取られてた我輩は一旦仕切り直してからそれに対する回答を出していってみせると、どよめきの中に好意的なモノを感じさせるのが出始めており、良い予感を感じさせた。
「…よって今後の方針として、気球の元となる素材の安定的な供給、制作に充分な工房、それらを扱えるような人材が揃えば十分に量産化可能であるということになりました。」
我輩が気球に対する今後の方針についてそう伝えてみせると、
「それなら我々が用意しましょう…我々が制作を行う工房、その技術を扱える人材、そしてそれらを賄う資金を提供しようではないか。だから、是非うちと共同開発をしてくれないか?」
「いえいえ、それは我々がしてゆきますので…我々と致しましょう、共に新しい気球のデザインを作ってゆこうではありませんか?」
「あいや待たれよ、貴殿らは専門家ではなかろう。我々はポップシュハイン家程ではないが空に関しては多少の心得がある…我々が彼の支援をやるべきではないかな?」
最初の勧誘の声を皮切りに、次々と共同開発をしたいと今までの発表の中で王様や同僚達の気を引き付けれなかった者や、発表出来得るモノを用意できずにどうしたものかと悩んでいた様子であった者達が、我先にと立候補をし始めており、挙げ句明らかに貴族ではない者達までも参加し始め騒動になりかけたが為に、
「そ、その話はこの後のパーティで、ゆっくりと詳しく綿密に対話致しましょう!」
司会者のこの一言と王様が発表終了を知らせるベルを鳴り響かせたことにより、ひとまずこの場は収まった。
[newpage]
「…はふうぅ、些か強情過ぎるのではないか?」
「ポップシュハイン公爵殿、こちらを…」
紆余曲折あったが我輩の発表は何とか終わり、未だ勧誘をしてゆきたいと願う者達からの視線を感じ取っておった我輩に対し、侯爵殿はそう言いながら持ってきていたハンカチを我輩に手渡し、先程の皆からの圧によって出てきていた変な汗をそれで拭いておくように示しており、言わずとも伝わっておった。
「あ、ありがたい…ふうぅ、其処までして我輩の発表した物に興味があるのか…?」
「ふむ…ここバニパルウィットを楽に移動出来る乗り物だったからのぉ…利権を目当てに一枚噛もうとする輩は多い…気を付けておくのじゃぞ?」
侯爵殿から受け取ったハンカチで、一通りの汗を拭き終えた我輩がそう言い出してみると、侯爵殿は我輩が発表した『気球』の利便性についてそう評しており、それによって齎されるであろう利益を他の者達が見逃さぬ事など有りはしない事を伝えながら、我輩を気遣う様にそう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます…候爵様」
「次の者…えぇっと、これこの読み方で合ってるのかな…うむっ、ドゥガリー・グラントとやら、お主の発表であるぞ!」
我輩がそれに対して感謝していた丁度その時、訝しげに羊皮紙の一部を眺めておった王様が其処に書かれていた次の名前を言ってみせた所、我々が座っている席の一つにいた全身をフード付きのマントで包み、顔や足元すら見えない怪しい者が教壇に立つ為に歩き始めていった。
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「な、なんだあやつ?」「全身がマント…」
「あの様な者、居ったかのぉ…?」
「…おやっ?」
その怪しげな風貌から先程まで熱気が籠っていた会場はまるで嘘のように静寂と成っており、周囲から小さくも困惑と疑問符のある声が止まらない中で、我輩は彼の来ているマント越しに、右側の方が不自然な程膨らんでいることに気がついた。
「お初にお目にかかります皆様、先ほど紹介されたドゥガリー…グラントでございます」
そして彼が壇上に上がってから落ち着いた口調で話した後、
「それでは、私の発表を…」「んんっ…?」
ゴソゴソとマント中をまさぐるような動作をし、嫌な予感を感じた我輩であったが
「ご覧ください!」「あっ、な…ゲホッ!」
大きな声と共にマントを翻して腕を大きく振りかぶると、何かを大量に壇上を越えた近場の床にぶん投げてみせると、それらから白煙が会場中を包み込んでみせた。
「ゲホッ、ゴホッゴホッ!」
「な、なにも見えぬ!」「兵士、兵士!」
「お、王よ此方に!」
「み、皆様落ちつい…んあっ、おぉー!?」
会場は白煙で何も見えなくなってしまい、混乱する者達の言葉が様々な所から聞こえてゆく中で、衛兵達が直ぐ様会場の扉や窓を開けてゆくと換気によって段々と煙は晴れていった。
「ケホッ…み、皆無事か…?」
「…オーッホッホッホッ!」
白煙の量が多く軽く咳き込みつつも、我輩は使用人とメイド二人に対し無事であるかと問いかけたその時、壇上の方から聞き苦い覚えのある女性の高笑いが聞こえてきた。
「あ、貴女様は…!」「なっ、何で…!?」
「な、何故此処におられるのですか…!?」
我輩含めて皆、驚愕した表情を浮かべながら先程の声の主がなんなのを覚えており、声の聞こえた方向から煙か完全に晴れゆくと、
「…答えてもらおうか、ブブリーナ!」
「フフッ…随分面白い事やってるじゃない、しかもこの後パーティーもあるんでしょう…なのに、なぜ王女である私が招待されてないかしら…?」
そこには、教壇の上にて仁王立ちで我々を睨み付ける様な視線を送っていたブブリーナと、その後ろで頭を垂れて跪き控えておったグラント氏が其処にはあった。
[newpage]
「ぶ、ブブリーナ…何故此処に…!?」
「王よ、この場は我々にお任せを!」
「あら、何処へ行こうとしてるの…お・と・う・さ・ま?」
「姫様、御部屋にお戻りに成られて下さいませ…!」
我輩を先頭にしたその光景を見て、王様は酷く動揺を隠せておらず、お側に居られた兵士達が彼とブブリーナとの間を阻むかの様に立ち塞がり、王様を使用人達が引き摺るかの様に共に退避をしている様を、ブブリーナがそう言っているのを我々が遠目で見ていると
「あら、せっかく私自ら来てあげたのにもうお開きかしら…確かにちょぉーっと飾りが足りないわよねぇ…?」
「な、何だと…ぁなっ、もしかして!?」
そうブブリーナが怪しくほくそ笑んだのを見て、その様子に対し違和感を感じ始めた我輩であったが、彼女がサンダダ様から何時もする様にしている筈の手袋が無い事と、会場上部から変な音が鳴っている事に気付き慌てて其方の方へと視線を送ったところ、
「だから、私が飾りを用意してあげる。可愛くふっくらとした風船をね!」
「だ、誰かー…助けてぇー…!」
ブブリーナの手によって、風船と成ってしまった司会者が演幕の一部を掴んでいる姿が其処にはあり、我輩含め一部の者達がその光景に呆気に取られてしまっていたのが、この場においての運の尽きであった。
「…はっ、しまっ…!」「ソニャアァ…!」
その事に気付きブブリーナの方へ向こうと仕掛けた我輩であったが、既に彼女は我輩含めた者達の懐にまで近づいてしまっており、その俊敏さによって繰り出された爪に対して為す術なく食らってしまっていた。
「っ…うわはっ、お、おぉぷっ…!?」
彼女の爪によって引っ掻かれたという痛みは来なかったものの、それを我が身で受けたことによる身体の変化は一瞬で始まりだしており、全身に変な感覚が沸いた途端に胴体を中心に身体が膨らみだし、それによって大食いした時よりも強い膨満感を感じ、その気持ち悪さに対し口を抑えようと試みた我輩であったが、それさえも行えない程に腕や脚含めて様々な所が膨らんでいってみせると、その身体は宙へと浮かび上がり始め動くことすらもままならなくなってしまった。
そう、我輩が幼き頃に邂逅したあの緑の風船の如く。
[newpage]
「オーッホッホッホッ、オーッホッホッホッホッホッ…!」
「にっ、逃げろ!」「なんてこった!」
「黄色近衛達は何をしておったのだ!」
「早く外にこの事を!」「は、はいっ!」
「うわ…く…いてっ!」「うぐおっ…ぶっ!」
「だ、誰だ私の身体に当たるのは!」
「あぁ…申し訳御座いません御主人様!」
「…な、なんて…事だ…!」
次々と風船へ代わりだし始めてゆく貴族や使用人に護衛達を見て、会場は混沌渦巻くモノにへと変貌し出しており、我先に文字通りブブリーナの魔の手から逃れようと、身分関係なく会場口から出ようとしている者達で溢れ出してしまっており、そんな事等お構い無しにブブリーナは近くにいる者達から手当たり次第にその手で触れ風船へと変えてみせてゆき、その蛮行を止めたり宥めようとして近づこうとする衛兵や使用人達に対してもお構いなく風船へと変える為に、会場は我輩含めた風船と化してしまった者達だけの状態にへと変わり出していっておった。
「あぁ…流石はブブリーナ様…わたくしが彼処から解放した甲斐があったと言うもの…」
「…ん、むむっ…あれって…?」
会場がそうなっておる中で、グラントと呼ばれておった者の声が何処かで聞いたことがある事を我輩は感じ取り、着ていたマントを翻した事でその間から大きな手袋のような物を右腕に着けているのが見て分かり、宙に浮かんだままである我輩はその装備に何処かで見たことがあるような気持ちを抱いた。
「って、あっ、逃げやがった…待てっ!」
「ドウドウ…後でどうにでもなる。先に膨らんだヤツらを集めな!」
「わ、わかりました…。」
「あ…な…ど、ドウドウ…だと…!?」
ふと唐突に彼がそう言い出して、外に逃れることに成功した者達を捕まえようと追い掛けようとしていたのを、ブブリーナは彼に対しそう呼び止め、彼女が彼に対して『ドウドウ』と呼んだのを聞き、その名前に聞き覚えのある我輩は驚愕の感情が隠せずにいたところ
「…おーやお久しぶりですね、フールー殿」
「んっ、なっ…ほ、本当にドウドウお前なのか!?」
上を見上げて我々の状態を確認しようした彼のフードが脱げ落ち、その下から出てきた顔立ちは、アンバーに満たされた虹彩と目の一番上と下を結ぶ程に長い瞳孔を持ちつつ、その体毛はアッシュグレーに染まり上がってしまっており、その風貌の変わりように我輩は一瞬分からなかったが、ドウドウのマントの下にあった服装がくすんだ色合いながらも彼が何時も着ていた服であるのが分かり、我輩は直ぐに目の前の彼がドウドウである事に気付いてしまった。
「ど、ドウドウ…何故お主が其処におる。サンダダ様はどうしたのだ!?」
「…サンダダなんぞ知らねぇぜ、今はブブリーナ様一筋なんだからなぁ!」
「な、なんだと…んぉぐっ!?」
「だ、旦那ごめんっ!」
我輩があまりにも変わりすぎてしまっているドウドウに対し、此処におらなかったサンダダ様の事含めその様に聞いてみたのだが、まるでブブリーナだけにしか眼中に無い態度を彼が取ったかと思うとその右手に嵌めていた大きな手袋のような物を軽く動かして見せた所、我輩含めて周囲に居た使用人や貴族の者達が何かに引っ張られる感覚と共に風船となった身体が自身の意志関係なく動き、皆がブブリーナの姿が見れるように顔が地面を見れるような体勢にされており、今までの発表会に似たような状況と成っていってみせていた。
[newpage]
「ブブリーナ様、準備出来ました!」
「ふふん、中々やるじゃないかドウドウ?」
「えぇ…あの場所で貴女様のお姿をお見つけになられてから短き時では御座いまするが、此処まで上手くいったのは始めての事…あぁ、わたくしがあの老いぼれからこの手袋を盗み取る事に成功し、貴方様をあの場所から解放出来たことに始まり…」
皆を聞き入ることの出来る状態にさせたドウドウはブブリーナにそう報告し、当の彼女が我々の方を見ながらその様に言ってみせると、ドウドウはまるで演劇の役者の如く大袈裟に身振り手振りを行ってそう言いながら、その様子に若干辟易しているブブリーナに向けたと思われる物言いで彼が此処に至るまでの事を話し始めていった。
ドウドウ曰く、サンダダ様の元で一人前の魔法使いに至ろうと精進していたドウドウであったが、そんなサンダダ様でも匙を投げかけている『物』が、自身が居候している屋敷の何処かにある事をドウドウは知り、ソレを己の力で持ってどうにかしてしまえばサンダダ様に認められるのではないかと感じだし、彼本人にそれとなく聞いてみたり、サンダダ様やその弟子達が寝入ってる中でバレないように探してみたりと様々な手法でやっていったところ、妖しげな雰囲気を醸し出していた箱を見つけてその中身を見ようとした所、
「あぁ…あの時の事を思い出す度、焦がれゆく我が身が愛おしく感じます!」
「そういうの良いから私に変わりなさい!」
「アフンッ!」
彼はブブリーナからの愛に抱かれ酔いしれて、サンダダ様が作っていた『魔術師の手』を盗み取って貴方の居られるところまで馳せ参じた事を言ってみせるのだが、恐らく『ブブリーナのお姿を見た者は、彼女の虜になる呪い』が掛けられている肖像画全てを納めていた物の中身を直視した事によって身体が変化する程の虜にされてしまい、ブブリーナの心の中で籠っておった様々な思いによってこの様な凶行へ至ったのだと、未だ混乱覚めぬこの場の中でその様子を見ていた我輩はそれに対し理解してしまった。
「まさか、サンダダ様の弟子だとは…っ!」
「で、では今この場に彼が居らぬのは…」
「…十中八九、ドウドウが手にしているあの道具を探しているという事であろうな…!」
我輩の近くにて、混乱から何とか気を取り直せていた我輩の使用人や他の方に付いていた護衛の者が同じ風船の身体と成っていながらも以前と遜色ない会話を行っており、下手な[[rb:芸猫 > げいびょう]]みたいな事を行っているブブリーナとドウドウを注意深く観ておった我輩が彼等の言いたいことを引き継ぐ形でそう言ってみせ、サンダダ様が何故この発表会に参加していなかったのかを理解することが出来た。
[newpage]
「さーて、ここまで来たからには私からコレからの事を話そうじゃないか…」
「あぁ、それでは準備しますね!」
「こ、此処までの事をしておいてまだ何かするつもりか…?」
会場の混乱が粗方収まってきたのを確認したブブリーナがそう言い出すと、それを聞いたドウドウは自信が座っていた椅子の下から大きめの袋を取り出し右手の魔術師の手を動かしてみせると、その中から出てきたのは背中にバニパルウィットの街を乗せながら、頭部に当たる部分から左右に二つの頭が出てきておる巨大な猫の人形と、腹部が極端に出ていて若干不器量で間抜けと思える程の面をしている鼠の人形の二つであった。
「貴族の皆なら知ってるわよね、このバニパルウィットは眠り猫の上にあるという事を…」
「ね、眠り猫…?」
「あー…ご、御主人は此処の歴史についてお知りでありませんでしたね。眠り猫とは…」
ブブリーナがそう言ってみせ、ドウドウが眠っている猫の人形を魔術師の手を使って持ち上げて見せているのを、我輩は疑問符を出しながらそう呟くと、同じ風船と成っている使用人は我輩の仕事関係の都合上父からこのバニパルウィットの歴史についてを聞いておらぬ事を思いだし、ブブリーナが此方の方を向いてないことを見ながら小声で矢継ぎ早に眠り猫についてを説明していった。
曰く、このバニパルウィットは『眠り猫』と呼ばれている双頭の猫の上に一体化する形で乗っている状態と成っているらしく、この街を支えているその猫が起きようものなら街はトンでもないことに成ってしまうとの事。
[newpage]
「そ、そんな存在がいるとは…待てまさか」
「そんな眠り猫の前に、大きなネズミが出てきたらどーなると思う…それも、とびっきり美人なネズミがねぇ!」
我輩は、その眠り猫とやらがこの国の地下深くに眠っている事を知り、その事を念頭にしたブブリーナに対し嫌な予感を感じさせた我輩であったが、ドウドウが今の我々の様な風船の様な姿となっている鼠の人形を出し浮かして、眠り猫の目の前に出してみせると
「そうすれば眠り猫は目覚めバニパルウィットを崩壊させるから、皆私の思い通りに…ってドウドウどうしたの!?」
「ちょ、ちょいと…これ等操るの大変…あ」
眠り猫が起きて鼠を襲おうとしている動きを出していたドウドウであったが、魔術師の手ではどうやら動かしづらくブブリーナがその動きに違和感に気付いてそう言い出すと、後に『ネズミバルーン』と呼ばれる鼠が全ての糸が切れた人形の様に床に落ちてポンッと弾ける音が聞こえると、床一面に複数十個の小さめの球体がゴロゴロと中から出てきておった。
「ドウドウ何してるのよ…このスカポンタン!」
「す、すんません…あでっ!?」
そんな不甲斐のないドウドウに対し、ブブリーナは仕置きの意味も含めたであろう蹴りを一発叩き込むも、絞まらない空気が会場に満たしかけていた。
[newpage]
「…んんっ、とこんな風にバニパルウィットを一度めちゃくちゃにしてから、私の為のバニパルウィットに作り替えるのが私の目的なのよ?」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
「そんな事、王が許す事など…!」
「だ、第一そんな大鼠が存在する筈は…」
そんな空気を会場から追い出すかの様に、ブブリーナは咳払いを行ってから自身の目的を語ってみせたところ、同僚達や彼等に従う者達の間で困惑と批判の声が上がり始めてゆく中で
「…居ないのなら、作れば良いだけの話」
そうドウドウが語ると、おもむろにネズミバルーンの人形を持ち上げてみせた。
「この人形の様に、外は布で中身を詰めた物でも…充分眠り猫を誘う事は可能だ」
「…はっ、まさか…我々をこの状態にさせたのは…」
ドウドウがそう言いながら、ネズミバルーンの人形の中にあった丸い玉を複数取り出そうとしているのを見て、我輩はブブリーナが何故我々を膨らませたのかが、予想づいてしまった。
「そして、お前たちにはこの…ネズミバルーンの中身になるのさ!」
そして、我輩の予想に答えるかの如く、ドウドウが人形から取り出した複数の玉をよく見てみると、服を着た風船にされたネコらしき模様が描かれているのが目に写ってしまった。
[newpage]
「…ふ、ふざけるなっ!」
「ワガママにも程があるぞ!」
「第一、暴れる眠り猫を静める方法なぞ…」
「そんな事を行えば、民は住む場所を失ってしまうぞ!」
「…滅茶苦茶にも限度というものが御座います、そんな事さえ考えて居らぬのは…余りにも愚の骨頂だぞ…ブブリーナっ!」
会場は直ぐ様、我々による非難の声が次々と上がってゆく状況と化しており、段々とその増えゆく声で誰が言っているのか分からなく成り掛けの所であったが、
「あぁぁぁーっもーう…うるさい!!」
「ヒヤッハヒィッ!」
「…ど、どうされました姫様…!」
「なんだなんだ…貴族の方々が風船に成ってるぞ…!?」
その批難の声の多さに、ブブリーナは逆ギレと呼べる状態に成ると共に怒りの声をあげてみせ、その声に恐れ驚いて人形を取り落としてしまうドウドウと、それを聞き付けて会場に入って早々、自分達以上に膨らみ上がってしまっている貴族達を目撃し呆然と驚愕が広がってゆく黄色近衛の方々が、揃い踏みとなった。
「ドウドウ、それと暇そうな衛兵達…コイツらの口を塞いでおしまい!」
「はっ、はい仰せのままに!」
「な、何をするん…ムグッ!?」
ブブリーナが怒りのままそう命令を下してみせると、それにドウドウが勢いそのままに返事をしてみせ、人形の補修に使おうとしたと思われる白いテープを引き出し切ってみせると、風船にされた我々の口に対し貼っていって塞いでゆくのを見て、困惑しその場で戸惑う黄色近衛達にもブブリーナは容赦なく。
「なーに…お前たち、私の命令が聞けないのかい…?」
その手を怪しく動かしつつも、イライラとした表情を隠しげもなく出しながら黄色近衛達を睨みつけて、ブブリーナがそう言い放った。
「ひっ…お、お前達早くドウドウ殿から急いでアレを受け取って言われた通りにしていってくれ!」
「は、ははっ!」「りょ、了解です!」
後に聞いた話であるが、彼等黄色近衛達もブブリーナの癇癪によって更に膨らまされて粉々にパンクされてしまった者達が居たらしく、それに対する恐怖によって逆らえないようにされてしまっており
「ふ、フールー殿…申し訳ございません!」
「お、おいお前…ンウゥッ!?」
彼女に対しビクビクと怯えつつドウドウと同じ様に、風船の身体に成ってしまった我輩の口に対しても白いテープを貼っていってみせ、強引に我らを静寂へと変えていった。
[newpage]
「オーッホッホッホッホッ…いいざまねっ、私に逆らったり、機嫌を悪くさせるからそうなるのよ!」
「ア、アニャウウゥ…!」
「ぶ、ブブリーナ様…彼等は此処に置く予定なのでしょうか…」
いつの間にかクッション代わりであるデボンレックスの女騎士に座ってみせており、嘲笑うかのように高笑いをした後にそう言い放つブブリーナに対し、不安気に黄色近衛の1人がその様な質問を出してきた。
「それは、さっきドウドウが言った通り全員残らずバルーンの中身にするのよ」
「し、しかし…それでは我が国の優秀な技術者が眠り猫に食べられてしまうやもしれません。それはきっとブブリーナ様の今後に、悪影響を与えかねません事に成りますよ!」
少し呆れた様な声で答えてみせたブブリーナに対し、その質問を行った黄色近衛がそう物申したのを、他の黄色近衛も同意見であったらしく
「そ、それにこの中には…他国の貴族様が何名もおられます。もし、彼ら彼女らにもしものコトが遭ったりしたら…国際問題になりかねません!」
「最悪の場合、戦争に成る可能性も…」
別の黄色近衛二人がそう進言してみせ、この国が大変な事に成ってしまうのを避ける為に、ブブリーナを説得しておった。
「…そんなこと、私の知ったことか!」
「ヒエェッ!」「ワヒッ!」「ギョッ!」
「ワチョッ…アラァー!」
「ンンッ…ムム!」
物申しが琴線に触れたかブブリーナは怒りの表情を一瞬出してみせ、そう言い出した黄色近衛三名と、人形を直し途中であったドウドウが恐れ戦く事態と成り掛けるも、
「っと言いたいけど、国際問題になるのも戦争になるのは面倒だし…よし、貴族連中は城の外にでも浮かばせておいて頂戴」
「え…は、はぁ…」「き、切り替え早し…」
直ぐにブブリーナは冷静な顔へ戻ってみせた途端、思いを巡らしていき、ある程度纏まって出来た事をその様に答えてみせており、黄色近衛達は彼女の切り替えの早さと下手な知恵者より頭の回転が見事な事に舌を巻いておった。
「それに…風船が沢山浮かんでる城も可愛いと思わないかい?」
「は、はい…ブブリーナ様の住まう城にぴったりかと!」
悪どい笑みを浮かべながらそう言ってみせたブブリーナを目撃し、ドウドウもそれに賛同してみせる様にしていたのを見た我輩は、彼が底まで堕ちてしまったのだと確信してしまった。
[newpage]
「いっよし…となると先ずは、城の外に飛ばす方々を選んでゆかないとな…」
「しかし、私は貴族に対しそこまで詳しくはない…」
黄色近衛の一体が城の外に出す貴族や従者達の選別を行おうとしていたところ、悩む様に顎に手を置くドウドウが突如、次の事を発してみせた。
「そうだっ、お前ら、自分の国の技術者はわかるよな…技術者連中共はネズミバルーンの製作に必要だからお前らがしろっ!」
「えぇっ!?」「ね、ネズミバルーン…?」
「ど、ドウドウっと言ったか…それは…」
閃いたかの様にそんな事を黄色近衛達にドウドウが言い放つと、彼等の中で少しのどよめきが出てくるのもお構い無しに、回収し終え補修したネズミバルーンの人形と眠り猫の人形を袋に閉じながら立ってみせると。
「私は必要そうな素材を集めたり、お前達が選別した技術者を製作の工房へ連れていくからなっ!」
そう言い出したかと思えば、ドウドウは駆け足気味に城内の方にへと向かってしまったらしく、黄色近衛達の溜め息が僅かに会場を響かせておった。
「仕方ない…俺らで選別をやってくぞ?」
「分かりました…」「へい、了解です…」
「もしもの時の為に、彼等の監視を行える物が必要だな…此処で見つかりゃ良いんだが」
さて、気持ちの整理をつけ終えた黄色近衛達は其々別々に別れて行動するらしく、自国の技術者を風船となっている者達から選別してゆくグループ、ドウドウが欲している自国の技術者達を城内にある道具作成用の工房へと連行してゆくグループ、そして、我々貴族や従者達を空へと出し飛ばしてゆくグループの三つに別れだしておってゆく中に、先見の明を持った者が紛れ込んでたらしく会場内で今後の役に立つ物を探してたのを覚えている。
「よし、他国の方々を外から出してくぞ!」
「分かる者から率先していってくれ…分からない者は私に伝えてくれ、私は…彼の方を」
「ン、ンンッ…ンウッ!?」
黄色近衛達の間でされている会話を聞いていた我輩であったが、突如風船となっている我輩の身体に触れる感覚が訪れると共に、彼等の手によって運び出されてしまっているのが理解でき、どうやら他国の代表格で分かりやすい存在である我輩から、外に出す事にしたようである。
「申し訳ありません、ポップシュハイン公爵殿…!」
「ンッ…ンンー、ンウゥー!」
黄色近衛の謝罪でそれが分かってしまった我輩は、悪足掻きに根本が膨らんでしまっている手足をバタつかせて逃れようとしたものの、彼等からの力強くも物憂げな一押しと共に果てしない浮遊感を感じ取り、その感覚が我輩を外に出してしまった事への証明を伝えているように感じた。
[newpage]
「ヴーッ、ンヴーウ…ンンッ!?」
空に飛ばされ放逐されてしまった事に、当時の我輩は恐怖心で一杯になってしまい無我夢中で抵抗しようと、足掻く為に手足をバタつかせていた。
すると、偶然片手が何か硬いものに触れたのを一瞬の内に気づいてソレを掴んでみせたところ、それは我輩を出さした窓の縁の上辺部であったらしく、偶発的で逆さまの体勢であったがギリギリの所で空に飛ぶ事無く、黄色近衛達に気付かれない状態と成っておった。
「ンウッ…ムムッ、ンー…ンムムゥ!?」
「ム、ムムゥ…ヴッ、ムゥグウゥー!」
「ムウゥー!」「グムヴ…」「ン…グゥ!」
されど風船と化している身体によって会場内の様子を見ることは叶わず、我輩が何とか戻ろうともう片方の手を使って窓の縁を掴もうとしていたところ、我輩をもう外に出し飛ばせたと考えておった黄色近衛達の手によって、次々と我輩と同じくテープで口を封じられてしまって風船と成っておる貴族や従者達が外に出され飛んでゆくのが目に映った。
ある者は我輩が出る直前に行っておった悪足掻きを行いながら、またある者は転がるように回りながら浮かんでいってゆきながら、はたまたある者は辺りを世話しなく見ていって何とか状況を乗り込もうとしてゆきながら、一番滑稽であったのは、我輩の気球に対し彼処まで立候補をしておった貴族達が縁に留まってる我輩に対し、助けを求める様にジタバタしたり空回りする事によってその場でくるくる回りながら浮かんでいった時であった。
「ム、ムムッ…ンムッム…ムッ!」
「オーッホッホッホッ…ザマァないわね、お前達っ…でも、眠り猫を鎮める方法が無いのは事実ではあるのよねぇー」
貴族達にとってはあんまりな光景に対して、不謹慎ながらも笑いを堪えておった我輩であったが、会場内でブブリーナが発したらしき声を聞いて我輩は気を取り直し、念のために彼女が発する事に対し聞き耳を立ててゆく事に専念することにした。
[newpage]
「一度暴れてそのままって成ったら…最悪私も巻き添えをくらう羽目に遭う可能性があるのよねぇ…何か、眠り猫に対抗出来うる手段が無いものか…」
動き回っていた黄色近衛達には聞こえぬ程のブブリーナの声量ではあったが、窓の縁に掴まっておった我輩には手に取るように聞き取れており、どうやら眠り猫をどう取り扱うかについて今だ手探り状態であるらしく、そんな事を呟きながら歩いておる音が聞こえていた。
「ムゥッ…ンンッ、ムムゥッ…ンンッ?」
窓の縁を掴んでいる手が痺れ出してきたのを感じ取り、我輩はもう片方の手で窓の縁に掴もうとバタバタと踠いていたところ、視界の端の方にて見覚えのある『乗り物』が一つ隣で我輩より下の空中で停まっている事に気が付いた。
(あ、あれは…クルーズ・キャット?
何故此処にサンダダ様の物が…)
「閃いた、ドウドウが私を助ける際に乗ってきたって言うアレがあったじゃないか…確かあれには、此処とは違う世界を渡れる力があるそうじゃないか…」
(なっ、何を馬鹿なことを言ってんだっ!?)
サンダダ様と彼の弟子の手によって造り出されたクルーズ・キャット、どうやらドウドウがブブリーナの軟禁場所から解放する為に保管場所から盗み乗ってきたらしく、我輩と同じ物を見てると思われる彼女の口からその様な事が聞こえた際は我が耳を疑った。
[newpage]
我輩の国の技術の関係上、異界から様々な『者』や『物』が我が国に来ている事を知ったサンダダ様は、当時の記録を含め調べてみたと文通で教えてくださり、それによると異界の生き物が此方の世界で過ごすと変異を起こすらしく、その条件は詳しくは分かっていないが此方の世界の太陽の光が関係してる事が判明した。
1回目の太陽の光を浴びると姿形が此方の世界に適したものに成るが精神的な面においては変化せず、2回目の太陽の光を浴びると更に姿形が変異を起こし、今度は精神面がイカれたかの様に変異する可能性が高いとの意見らしく、その変異のメカニズムを解明すれば元の姿と精神に戻せる様に成れるのだとも書かれていた。
その変化のメカニズムが、数ある異界の1つとして、文明は技術や機械に関する事は我々と同等かそれ以上されるほど発展をし、我々と同じ様な体型で頭以外の体毛が殆ど無い『人間』と呼ばれる種族が覇権を握る世界、『人間界』と仮に呼ばれた世界での人間は、日の光を浴びると体毛のない皮膚が焼けて色が変わるという『日焼け』という現象があるらしく、それが異界から持ち込んだ生物の変異のメカニズムに似ているとの意見であった。
「ブブリーナ様っと…どうしましたんで?」
「ドウドウ…♪確か、コレを使えば他の世界とかに行けるんだったわよね…?」
その事を振り返っていた我輩の耳に、悪巧みをするかの様な声が聞こえだす。
「は、はい!そうですが…」
「そ・れ・な・ら〜私を他の世界へ連れてってくれないかい?」
黄色近衛の者が証言するには、準備が整ってさぁ始めようとしたところに惚れた女にその様に聞かれ、少し挙動不審になりながらもドウドウがその様に答えるのを待っていたかの様に、ブブリーナは少し楽しそうな様子でその様な命令を下したのだそうだ。
「ええぇっ!?そ、それは一体…」
声しか聞こえないが、明らかにドウドウが動揺しているのが手に取るように分かり、恐らく他の者達に知られないようにブブリーナが小声でその後の事を伝えてみせたらしく、直後に倒れる音が聞こえた事から察するにあまりに突拍子の無い内容を伝えられドウドウは気が動揺し、着ていたマントを踏んだ結果その様に成ったのだと理解する事が出来た。
[newpage]
「しょ、正気なのですかブブリーナ様!?」
「前にお前から聞いた他の世界ってのに興味がわいたの、だから連れて行きなさい、そこで眠り猫を大人しくさせる方法を探すわ」
「ぶ、ブブリーナ様…大変申し上げて難いのですが、ブブリーナ様をクルーズキャットに乗せて異界に行くのはオススメできません」
驚きを隠せずそう言い出したドウドウに対し、少し期待したような声で話してみせるブブリーナ、そんなご様子の彼女に申し訳なさそうな様子の声でドウドウがその様に断ってみせた。
「…なんだって…?」
まるで怒りを抑えたかのように低くもハッキリと聞こえる声でブブリーナはそう吐き捨ててきたのを聞き、苦虫を噛み潰したような声でドウドウはこう答えた。
「異界渡りをするに至って未だに把握しきれていない危険性を抱えておりますし、異界へ行った際その空間に出ると我々も容姿が変わります…その際に発生する副作用もまだ研究段階ですので、このバニパルウィットの未来である姫様にもしものことがあればそれこそこの世界の損失です!」
異界渡りは確かに可能ではあるが、まだ研究途中であり異界から持ち込んだ物が此方の世界に合わせて変異するように、向こうの世界へと行こうとすれば我々の姿も変異するという事はサンダダ殿とのやりとりで吾輩は知っていた為、ドウドウが必死にブブリーナを説得している理由も理解出来た。
「それに、ブブリーナ様のその御力…『触れたもの風船に変える力』でクルーズキャットが風船に変えられでもしたら…異界渡りの途中で遭難したり、異界から帰れなくなる可能性すらありますっ。ですので、眠り猫を大人しくさせる方法の捜索はこのドウドウに…お任せくださいませ!」
「…ふうぅーん。そこまで言うんだったら、頼んだわよ、ドウドウ…でも、私が満足出来る成果を持って来れなければどうなるか…お解り?」
自分が探し出すからと説得をしてみせたドウドウに対し、少し納得は出来なかったものの思うところがある様にそう言ってみせてから、彼に対しブブリーナはドスの効いた声でそう放つと、ドウドウは息を飲んでみせたのを感じ取れたのだが、
(…うっ…あ…ヤバ…もう、限、界…!)
「ウッ…ンンッ、ムウゥー…!!」
我輩の手の痺れはその続きを聞き取る事を拒んでしまったらしく、限界と成ったその手を離してしまった我輩の風船の身体は、今まで浮かび上がってしまった者達と同じ様に、口を封じられて浮かぶしかない存在と化してしまっていた。
[newpage]
こうして膨らんでしまった我輩の風船の身体によって、他の貴族や従者達と同じ様に他の貴族や従者達と同じ様に黄色近衛が乗りこなしている気球によって監視される形で、バニパルウィットの空に浮かぶ事と成ってしまい、我輩は口を封じられたまま空腹や喉の乾きが呼び起こされることの無い風船の身体でフワフワと宙を漂うことに対し、最初は抵抗があったものの、次第に落ち着きを得られると同時に他の者達への様子を見る事に注力することが出来、未だにブブリーナに対し反抗の意思を示す者や何故この様な事態に陥ってしまったのだと悩み出した者、最早元に戻れぬと諦め四肢を投げ出している者や、我輩と同じこの状況に慣れ他の事に興味を示す者やらに分かれていっており、それが当時の我輩の退屈さに対する娯楽代わりと成っておった。
[newpage]
[chapter:第九章『ブブリーナとパパドール、落ち来る獣』]
そんな日々を送っていた我輩であったが、ある日の事、何気なく城の方を視線を見遣ってみせたところ、あの『眠り猫事変』で猛威を振るってみせた『モノ』が何足るかを知る事となった。
(…おや、あれはドウドウが使っておるクルーズ・キャットではないか…何か動きが変ではないか?)
この空に我輩含めた者達が浮かび上がったその日の内に、ドウドウがクルーズ・キャットに乗り込んで何処かへと向かって行ったのを目撃しており、後に彼は人間界の方に行っておった事をサンダダ様から聞き知ったのであるのだが、幾日もの経過程度では異常が起きぬ筈のクルーズ・キャットの挙動が、何やらおかしな動きをしておったのである。
「ムゥ…ン、ムグムッ!?」「ンムゥ!?」
「ムウゥー…ンッ!?」「ンウゥ!?」
「ンッ、ンンゥ…ンンッ!?」
(ど、どうしたんだ…うわっ!?)
まるでマタタビを堪能し酔うたかの如く、フラフラとした動きでクルーズ・キャットは進み、このままではそのまま地面に墜落してしまうと我輩は思ったが、かろうじて地面を引き摺るような形でクルーズ・キャットは庭に不時着してみせた。
「…ムッ、ムムゥ…ンッ?」
(な、何だったんだ…ん、何か連れてきておるぞ?)
「ゲヘッ、ゲヘッ…ぐうぅ、まだ抵抗するかこいつっ…!」
「バウ…グルルウゥ…!」
不時着する形となったクルーズ・キャットから、中から黒煙を噴き出しながら這い出る様にドウドウが出てきており、彼が引きずる様に手にしていたロープの先にあったのは、背中側が茶色がかったグレーであり、腹側とごく一部の者が持っておる『マズル』と呼ばれる所がクリーム色がかった白である、左目下と右鼻横にブチ模様持ちの半垂れ耳な生き物であった。
[newpage]
(あ、あの生き物は…もしや…『犬』、か?)
遠くからであったがその存在を見つける事が出来た我輩は、サンダダ様との文通の中で異界の生き物を話題にした際、最も気を付けるべき存在について話したことがあり、その内の一つに『犬』と呼ばれる我々より遥かに大きくかつ強大な力を持っているとされる存在であるという事であったが、実際に見るその犬の大きさはクルーズキャットから出た直後は頭の先から尻までが我々ネコの平均的な身長の半分程度だったのが、太陽の光を浴びた途端に変異が始まり、全体の色が暗くくすみだし若干緑色を帯びて大きさも頭の先から尻までの大きさが我々以上とも思える大きさと成っておった。
『地面についた足から背中の上までのサイズが我々ネコの平均的な身長の半分より少し高いくらいに変異した。』この時点で充分に脅威的だが、明日の朝日と共に更に変異し凶暴になると考えると、今これを書いている我が身でも震えが止まらなかった。
「んんっんー…やっと帰ってきた様だねぇ、ドウドウ?」
「…はっ、ブブリーナ様っ!」
遠目であったがブブリーナがデボンレックスのクッションに乗りながらドウドウの元に来たらしく、軽めの伸びをしてみせてから近づいてみせておった。
「…それで、その子が眠り猫を大人しくさせる方法なの?」
「え、えぇそうです。サンダダから聞いた程度で御座いますが…」
帰還したクルーズ・キャットがおかしな動きを見せながら不時着したのを見て急行した黄色近衛の一人曰く、ブブリーナがデボンレックスのクッションに乗っていながら、ドウドウがサンダダ様から聞き齧りに近い上に穴抜けな『犬』の情報を解説していっており、彼がその手に捕らえておった犬が『パパドール』という名であるのを後に知ったのだそうだが、ここバニパルウィットとは別の世界から生き物であり、更に本能的な所に刺激を受けるからなのか怯えの感情が沸き上がるらしく、震え止まらず大丈夫なのかという不安が当時の黄色近衛達に広がっていたのだそう。
[newpage]
「…ということで、眠り猫に対抗し得るであろう犬を探して幾星霜、とある世界に入ってみた所…この犬が住んでいたと思われる建物に『パパドール』と屋根と入り口の上辺りと思われる所にその世界で使われている言葉で書かれておりまして、恐らくこの犬の名前かと…」
「ふぅーん…そうなの…」「ッ、グルヴゥ…」
黄色近衛たちがその様な感情を抱き出してゆく中、ドウドウが連れてきた犬の名前を説明してたらしく、彼が連れてきたというパパドールに対しブブリーナは興味が出てきた様であり、彼が持っているロープから逃れようと試行錯誤しておった件の犬を観察し始めたそうで、それに気が付いたパパドールは彼女に対し唸り声を上げ出しており、一見すると我々に対して警戒心を出している様に見えたが、その表情の何処かに悲しげで誰にも相手にされていない事からくる猫肌が恋しいと言える寂しさが滲み出している様であり、ブブリーナはそれにその時風船と成っていた我輩以外に唯一気づいていた様であった。
「この世界の法則上、明日にでもなればパパドールは眠り猫に対抗出来得る存在に成るのは確実…そうすればブブリーナ様の計画も…あ、ぶ、ブブリーナ様!?」
どうやらこのバニパルウィットにおける変異についても伝えてみせたらしく、ブブリーナに対しそう言ってみせて、彼女からのご褒美を得ようと不敵な笑みを浮かべておったドウドウとは違い、低い唸り声を出すパパドールと呼ばれた犬と思わしき存在に対し、武器を差し向けるも言葉を出すことも出来ず大きく揺れるだけで黄色近衛達が酷く怯えて見せている中で、当の本猫はロープに繋がれていたパパドールに対し無警戒に近づいてみせていた。
「…あっ、姫様お、御下がりを…ぉ?」
「グルヴウウウウゥー…」
無警戒にパパドールに近づいてみせるブブリーナに対し、黄色近衛がそう言い出すも彼女はゆっくりと手を伸ばしてみせ、未だに威嚇を止めぬパパドールに対し傷つけようとする意思を感じさせないその手で触れてみせると、頬を優しく撫でられていったパパドールは唸り声を納めてゆき、目を閉じて落ち着いてゆく様子を見せておった。
[newpage]
「…はっ、何をしてるんだ俺。ブブリーナ様大丈夫なのですか!?」
「…驚いたわ、今までこの手で触れてきたのは風船と成っていってたのに…」
微妙な空気と成ったその場にて、ドウドウが真っ先に気を取り直してブブリーナに対しそう聞いてみると、彼女はパパドールを撫でてゆきながらその毛並みや感触、暖かさを懐かしく感じている様に見受けられ徐々にその表情が怪しき笑みへと変わり出していった。
「ぶ、ブブリーナ様…如何致しましたか?」
「ドウドウ…こいつ私のモノにしても良いかいッ!?」
「…はあぁ!?」「ふぇっ!?」「い!?」
「うそーん!?」「しょ、正気なのか!?」
ドウドウがブブリーナの様子を伺っていると、突如彼女の口からその様な事が言い放たれており、それを聞きいて黄色近衛達各々は吃驚仰天様々な反応を見せていっており、その場は騒然と成っていった。
「だってこの子…とっても私に似て独りぼっちで死んでいる様だった…あー、分かりやすく言えば寂しそうな感じだったのよ」
その場の中でブブリーナはパパドールに対しての何かをドウドウに伝えてみせたのは確かであり、途中で小声で話したが故に我輩や黄色近衛達はその内容を判断する事が出来なかったものの、丁度我輩と同じく風船と成っている者の中に耳聡い猫物が居たらしく、その者からの証言を元に上記に記した発言と成ったことをご了承願いたい。
「…左様で御座いましたか。えぇ、構いませんよ…本当はサンダダの所から手に入れた魔術師の手を使って、コイツを眠り猫に対する存在にしてゆく予定でしたが…それ程仲が宜しければブブリーナ様のご命令も容易く行ってくれることで御座いましょう。ですので、私の身の安全や眠り猫の作戦を行う際の指示を聞いてくれる様に…それらに関する魔法をこの『パパドール』に掛ける許可を下さい」
ドウドウはそれを聞いて、納得の表情を見せ大きく頷いてからそう語って姿勢を正してみせると、パブブリーナが可愛がっているパパドールの名を然り気無く伝えてみせ、恐らく『魔術師の手』を使ってパパドールに魔法を掛ける許可を乞うておった。
「ふぅーん…コイツ、パパドールって言うのかい…良いわ、その行為許してあげる。さっパパドール…ふふっ」
ブブリーナはドウドウのその要求に対し許可を出し、彼がこのバニパルウィットに連れてゆく為にパパドールに着けていたロープを外しながら、彼女はパパドールを抱き抱えてその感触を味わいながらも視線を合わせるようにしてみせると、パパドールは自らの孤独に付き合ってくれる友を手に入れた様な表情を見せ、ドウドウがネズミバルーンの進捗具合はどうなのかを知るのと『魔術師の手』を持ってくる為にその場を離れてみせると、ブブリーナとパパドールの二体は黄色近衛達が怯えてみせる中で城の内部へと歩んでみせるのを、その姿が見えぬ時まで風船と成っている我輩は眺めるだけであった。
[newpage]
ドウドウがパパドールを連れてきたその夜の事、どうやらパーティーが城内で行われておったそうであるが、風船と成って外で浮かぶ状態である我輩の目には届かず、時折我輩の身体を風船にさせたあの夜の際にあげておったブブリーナの笑い声だけが耳に入る状況と化しており、参加したであろう黄色近衛に聞こうにも彼女の傍らにはパパドールが居たらしく、そのパパドールに対し警戒し過ぎたり怖がってしまったり等で、食事も喉を通らず楽しむ暇なく何をしてたかも覚えてない有り様らしく、皆して満足のいく証言を出せぬ惨状であった。
そんな彼らとは裏腹にブブリーナは楽しんでいたらしく、パーティーもそろそろお開きとなりそうな頃、妖し気感じる夜が去りて陽が目覚めんとする朝が来そうな時に、彼女はパパドールを引き連れ城から出てきたのが目に写った。
「…何時見ても良い光景ねぇ、私に逆らう連中も口うるさい連中もいない…いるのは私とお前だけ、お互いに周囲から除け者にされた悲しいを分かち合える私たちだけ…どうだい?
人間の世界よりも良い所だろう…ねぇ…パパドール?」
「ウォンウォン!」
ブブリーナのその言葉に反応するかの様にパパドールは吠えてみせ、盟友のような関係性をこの短時間で紡ぎあげれたのが手に取るように分かり、そのままゆっくりと無言でくつろぐブブリーナとパパドールを尻目に城が騒がしくなってきてたのが理解できた。
「後思い当たる場所はこの辺りの筈…おぉ、見つけましたぞっ!」
「あっ…ブブリーナ様っ、なぜお一人で外に行かれたので…」
夜明け直前にドウドウを先頭とし、そのあとに続く形で黄色近衛たちも城から出てブブリーナ達を見つけ出し、その様な事を言い出しその後にも何かを伝えようとし掛けたその時、バシュン、ヒュルルルーっと音と共に何かが撃ちがる音が聞こえた。
そちらに目を向けるとちょうど太陽が打ち上がる瞬間であった。
その時、周囲は一瞬静寂に包まれたがパパドールと呼ばれた犬に変化が起きた。
そう、バニパルウィットの外から連れて来た生物は二回目の太陽の光を浴びると更に変異するということを彼らは思い出しており、我々の目の前でパパドールの二回目の変異が起き始めていった。
[newpage]
「ワヴッ…ヴゥ、ヴグルルウゥ…ッ!」
パパドールの口からその様な唸り声が聞こえた途端、顔から変化が始まりだし両の眼が大きくなりながら各々見当違いの方向を向くと、耳の穴から紫の煙を吹き上げながら顔色が急変し出しており、全身から怪しげな色合いをした煙を出し始めながらまるで細かな装飾を施していた気球を初めて膨らませた時の様に、各部が根本から末端へと大きく力強いモノへと変わりだしていっており、時折さながら小さな子供が布の下を素早く動く様な奇怪な動きが変異の完了がされてないと思われる部位に走るように現れたりもしていて、主に黄色近衛達に強烈な印象を残していってみせていた。
「ヴッ、ヴグルヴウウゥァア…ッ!」
近くにいたらかなり深刻に感じうる異音を身体から響かせていたらしく、パパドールの口から漏れ出ている声からはそれを思わせるモノが聞こえ、斜視へと変わり出しておるその瞳の奥底で狂乱の予兆が見受けられ、彼が踏み締めている地面には僅かながら亀裂が入り出しておった。
「グルウゥ、ヴッウゥ…ウヴゥッ…」
「ど、ドウドウ…パパドール大丈夫なのこれ!?」
「…ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」
パパドールがどんどん変異してゆく様を、ブブリーナが心配しドウドウに対してそんな問いを言い出すも、当の彼は答えること自体無理な状態と化しており、目の前で起きてるパパドールの変異に対してただただ怯え身体を震えさせる事しか出来ておらず、それはドウドウの後ろにいる黄色近衛たちも各々反応は異なるものの同様の状態と成っており、其処にいる誰もがマトモな判断を下せないそんな中、突如パパドールの口から出ていた唸り声が止むと共に煙から姿を現さなくなった。
「…ぱ、パパドール…大、丈夫…?」
パパドールが無事であるかブブリーナが煙に近づき口に手を添えながらそう聞いたその時であった。
「…バヴウウゥゥーンッ!」
耳を貫き、バニパルウィット全域に響き渡る程の咆哮をあげながら、その巨大なる躯体に纏っていた煙を吹き飛ばしつつも、黄緑に変色した白目に赤く変色した瞳と目の周りが赤く縁取られたモノと化し、全体的に元の色より緑がかった配色と成っており、特徴的なブチ模様は毒々しき桃色へと変わり、舌も緑がかった灰色に桃色の水玉模様のある恐ろしげのある色合いにへと、変貌を遂げさせた姿を我々貴族や黄色近衛の他、ドウドウやブブリーナの眼前に見せ付ける事態となった。
「ひ、ひえぇ!」「ば、バケモンじゃ…!」
「ぶ、ブブリーナしゃまあぁ…!?」
「アババワワワ…」「ブクブクブク…!」
「ム、ムムゥ…!?」「ヴゥーッ、ヴー!」
「…ンキュゥ」「ンムヴゥー!」
「ンウッ、ンヴーヴー、ンヴッンヴゥー!」
(な、なんて姿に変貌を遂げたんだ…やばっ、近すぎる…っ!)
腰が抜けて座ろうとするも跳ねてしまう者や、あわてふためいて言葉が変になったり口から泡を吹き出してしまう者達と化した黄色近衛達と同じく、我々貴族や従者達も彼等と同様の気持ちであったが、パパドールの変異による巨大化によって距離が一気に近づいた事に加え、唯でさえ風船の身体では自由に身動きを取ることが不可能な状態であるが故、恐怖の度合いで言えば黄色近衛達以上であると言え、彼等以上に大慌てになるわ、伸びて気絶するわ、取り乱す者やらが多く出てしまう事態になっておった。
「…」
「ぱ、パパドール…大丈夫かい、私のこと…わかる…?」
「…え、はっ、ぶ、ブブリーナしゃまっ、今パパドールに近づくのは危険かと…っ!」
咆哮をあげ終えその場に座り込んだままとなったパパドールに対し、その様な言葉と共にゆっくりとパパドールの元へ手を伸ばしながら歩くブブリーナを見つけ、変異した姿があまりにも想定外過ぎたらしいドウドウは、未だ恐怖で満たされている身体でへっぴり腰になりながらも彼女を止めに入ったそうで、十数名の証言を元にこの様な形ではないかと我輩なりに書いた事を此処に記しておく。
「「…」」
そんな混沌とした場の中、無言のままパパドールの方にブブリーナが手を伸ばしてゆっくりと近づいていっており、止めに入ろうとしたドウドウは身が竦んで動く事が不可能な状態であり、彼含め我輩も入っている無事な者達がそれを心配そうに見守ることしか出来ぬそんな中
「…あっ」「…グウゥーン」
あと少しで触れられるところまで手を伸ばしていたブブリーナに、パパドールが自分から撫でてもらえるよう顔を近づけて自ら彼女の手に触れてみせた。
「バウゥン、クゥン…」「…パパドール!」
パパドールに触ることが出来たという事実に、彼の名前を大声で叫びながら抱きついてみせたブブリーナが、凄く印象に残っているとの事を黄色近衛の団長が証言していた事をここに書き記し伝えよう。
[newpage]
それからブブリーナとパパドールによって何が行われていったのか、諸君らも知っての通りの事ではあろうが我輩から改めて伝えると、バニパルウィット中をブブリーナはパパドールを使って蹂躙していっており、建造物だろうと自然と出来上がったものであろうと容赦なく破壊へと至る思考は我々は勿論、黄色近衛達にとっても余りに横暴すぎる考えだったそう。
無論、建物に住まう住民達はパパドールが口に収めて城の方へと拉致すると、ドウドウ主導の眠り猫を操る為のネズミバルーンの中身として時が来るまで城の一角に閉じ込めていたらしく、既に経験とそうなってしまった身もいるであろう。
その様な行いをすれば、王様と王妃から批難が出るのではないかと考えている諸君らには、先に出た御二方含め残る者達もブブリーナの手によって既に風船の身体へと変えられてしまっており、更に王様と王妃の御二人は昔ブブリーナが軟禁されていた部屋の方に居させられていた事を伝えておこう。
[newpage]
[chapter:第十章『トリヤスと我輩、流星の如き希望と成る』]
それからどれほど経っただろうか、この飲まず食わず要らずの身体が唯一出来るのは眠る事だけなので、一週間程なのか一月程そうなっておったのかとんと見当がつかない程の時間が過ぎたとある日、ブブリーナの例の計画、即ち『眠り猫事変』が実行もとい起きた日の夜の事、何時ものようにフワフワ浮かんでおったその時だった。
「…ニャニャニャニャニャニャニャ…!」
突如後ろの方から、久方ぶりに聞いた声に気付いた我輩が後ろの方を向いたところ
「ぐえっ!」「ンウッ、ウ…!」
突然我輩の背と尻尾の中間に当たる所に、誰かが飛び乗った様な感覚と共に其処に圧迫感を感じてしまい、思わずテープ越しの声を漏らしてしまった。
「…ンンッ!?」「おっ?」
我輩の身体に飛び乗りおった者は、此処に居た我々とは違い風船に成っておらぬどころか頭部に異なる色の毛を生やしておったのがその時近くに居った者が証言しており、後にサンダダ様経由で知った事であるのだが、この少年もとい彼は『トリヤス』と言う名前であるらしく、なんと此処バニパルウィット中を荒らし回っていたパパドールの『飼い主』であるそうで、何とか城から逃げ延びる事が出来た者から一部始終を知る事が出来たサンダダが独自に調査を行った結果、彼がパパドールに無関心になっている事に気付いたドウドウが寝静まる夜の間に、クルーズ・キャットにパパドールを乗せてバニパルウィットへと連れていった事を知って大慌て。
クルーズ・キャットや気球から得られたモノを元に新たな次世代機『トム・キャット』を開発し、ヘノジイにホイホイ、スットボケの三人に飼い主を此処に連れてくる様に伝え送った結果、『ミーコ』という小娘も付いてくるというアクシデントはあったものの、トリヤスをバニパルウィットに連れてくることに成功。
猫に成ったトリヤスとミーコに、ドウドウの妹である『チュチュ』とヘノジイ、ホイホイ、スットボケの何時もの三人に加え、ブブリーナによって風船にされたものの、まだまだ元気なサンダダ様の計七名がパパドールを元に戻す為に大奮闘を行ってゆき、ようやく変異したパパドールを元に戻す方法をトリヤスが手にし、我輩の身体へと行き着いたのがこれまでの経緯なのだそう。
「これだ…っ!」
そうして我輩の身体に飛び乗ったトリヤスは、体勢が悪くずり落ちてしまわぬ様に左手で我輩の尻尾に触れたところ、今の我が身が風船であることに気づくと共にその様に言い出して、良からぬ事を企てているのが分かった。
「ンウッ、ンヴーヴー、ンヴッンヴゥー!」
それに気がついた我輩は、彼を止めようと精一杯の抵抗を示そうとしたものの、膨らみ上がってしまった両腕脚では行動さえ取れぬモノと化し、その場をジタバタするしか出来なかった。
「ごめん、急いでるんだっ、ちょっと身体貸して!」
「ンッン、ンウヴ…ンムヴゥ、ムヴゥ…!」
そんな我輩の事などどこ吹く風と言わんばかりに、トリヤスはその様な事を言い出してこれから行う事への通達をしてきたのを、我輩は『それだけは駄目』との意思で首を横に振って伝えようとしたものの
「ごめんねっ…」
彼の無慈悲なその一言と共に、我輩の尻尾の先を彼が爪を立てて押してみせたところ、其処から我輩の中に溜まり居座っておった空気が外界へと逃れ出し始めていった。
「ヴッ、ヴウゥー…!!!」
尻尾に穴を開けられたのならば、何とか長い時間を過ぎてゆけば元の姿に戻れるのではないかと考える方も居るであろう。
その疑問に対し、我輩の口から言えるのは『否』の一言である。
尻尾から空気が出てきているのは分かるものの、出るそばからこの身体を維持させるかの様に、何処からか我輩の身体の中へ空気が入ってきてしまっているのが分かってしまい、我輩はその感覚の気持ち悪さに変な汗を滝のように流しながら、空気が出てゆく反動によって我輩の身体は流星の如く飛びだし始めてしまった。
[newpage]
サンダダ様と共にクルーズ・キャットを作りだした関係上、風船と化した者達は如何なる物理的手段でも元の姿に戻るのは不可能に近く、穴を開けて空気を抜こうとするとその体型のまま空気の出る反動で飛んでしまい、パンクさせてバラバラになった後で元に戻ろうにも何故か風船となった際の姿にしか元に戻れず、それの調査をしようにもブブリーナ本猫が協力的になる筈もなく、呪いの解明を一層難航させることになっているのは知っておった。
まさか我が身で何ゆえ元の身体に戻れぬのかを知る事になるとは予想外のことであり、空気が我輩の尻尾から抜けてゆく度、その空気と同量の何かが我輩の中を満たしてゆこうとしているのが手に取るように分かってしまい、風船となる前に我輩が最後に頂いた昼食を含め今まで我が身の糧となっておった物が尻尾を通じて外へと一気に抜けていってゆくような錯覚と、それらの代わりと言わんばかりにその何かが押しのけ満たそうとしておったが故に、強烈な吐き気が出てきておったのも相まって、酷く真っ青な顔で飛んでおった事だけは覚えておる。
「キェェェェッ、ウワァァァ!?」
そんな状態の我輩の気が取り直せれたのは、パパドールを奪われてたまるものかとブブリーナが気球に乗った黄色近衛を起こし、それに乗ったままトリヤスの姿を探そうとしたところにトリヤス乗せた我輩がその気球の側を周り通り過ぎていったらしく、その際に彼女が上げた奇声によって我輩は意識を取り戻すことが出来た。
未だ尻尾から空気を出してゆきながら、その代わりに我輩の身体の中に何かが入ってきている感覚は残ってはいたが、吐き気と気持ち悪さはある程度慣れ収まってはいるもののまだ健在で、更に口を封じられたまま高速で動き回っていた為、テープの影響で鼻呼吸しか出来ない我輩にとっては充分な量を吸うことが出来ず少し意識か朦朧としておった。
いやっ、本来なら慣れてはいけないようなことであり、もう2度と経験も体験もしたくはないモノである。
兎に角、尻尾から空気が出ていっている為勢いそのまま勝手に飛んで行ってしまうのがこの時の我輩の状態であり、それも考慮し此処からの展開を見ていって欲しい。
[newpage]
「うわーあぁー…!」
トリヤスを背中に乗せたまま制御不能で飛んでいってしまっている我輩は、何処をどう飛んでいたのか皆目見当も付かない状態であり、後ろの方で特徴的な音と共にあの発表会で出された物の一つである花火の一種、『ロケット花火』が我輩に対し追ってきているのが耳で分かり、右へ左へ大きく飛んでいってみせておった。
「わわぁっ!」
ロケット花火が我輩のすぐ後ろの方に付いた途端、爆発音がして少し安堵したのも束の間、突如ガキンッガキンッと何かが激しく開閉する機械音の様な音が後方から聞こえだすと同時に乗っておったトリヤスが慌てだし、恐らく通路を繋げる為の橋と建物を我輩が潜り抜けた後にそれらが破壊される音が聞こえてしまい、追ってきているものがかなりヤバイ物に成っている事に肝が冷えてしまった。
「っ、ぶつかるうぅ!」「ンンッ!?」
我輩の目の前に城壁が立ちはだかり、このままでは城壁と追ってきているモノによるサンドイッチになり掛けそうになったその時、乗っていたトリヤスが我輩の耳を掴むと上の方へと引っ張り上げ、それによって顔が上の方向に向くと共に風船の身体が上昇をし、城壁ギリギリの処を沿う様に回避すると後ろの方で衝突音が聞こえ、我輩を追ってきていたモノは其処で動けなくなった事を理解した。
「どいてどいてえぇー!」「ひえぇー…!」
思いっきり耳を引っ張られ、上に上昇した事で我輩が先程まで飛んでいた場所は城の一部だったという事が分かり、遠くで何時ものようにフワフワ浮かんでいる同僚達が目の片隅に写ったものの、突然空から降ってきた様に何時も我々を監視しておった黄色近衛の乗る気球に似た物、後に知ったのだがソレがトム・キャットである、が目の前に現れてあわやそれと衝突しそうに成りかけたところで、トリヤスが我輩の身体の一部に自身の体重を掛けてみせると、その掛けた方向に何故か我輩の身体は曲がってみせて、トム・キャットとの衝突を見事に避ける事に成功した。
我輩がそれに驚愕しかける暇もなく、彼の絶妙な体重のかけ方に応えてみせておる我輩の身体は、距離があるもののそのまま真っ直ぐ行けばパパドールの元へと行けれる状態となっておった。
「あっ、パパドール…よしっ、このまま真っ直ぐだよっ!」
恐らく無意識ながらも自身の体重を使って我輩を飛ばしていっているトリヤスがそう言いだし、我輩の背中に乗っている彼が、バニパルウィット中を騒がせたパパドールの飼い主である事実を知った我輩の事など露知らずに、フワフワ浮かんでいる同僚達の間を抜け様な感じに飛んでゆかせると、少し身体が回りだしてきたそのタイミングで、彼は大声でこう叫び出した。
「パパドールッ!」
我輩の近くで張り上げんばかりにそう言いだし、遠くの方でロケット花火の着火音を聞いていた我輩の耳に相応のダメージを与えながらも、さらに駄目押しと言わんばかりに続けてそう叫んでみせた。
「伏せえぇー!」
トリヤスのその言葉を聞いて、パパドールの頭に電流が走ったかの如く身体を一瞬震わせてみせると、全ての脚を前に出して止まってから其処で腹を足と同じ位置にまで下げると、先程まで空中を歩くかの様に動き回っておったパパドールがその場でジッと置物みたいに停止してみせ、その光景を見ていた尊敬する候爵曰く『まるで魔法の様であった』と後に語ってみせていたが、その言葉を間近に喰らってかつ吐き気と気持ち悪さを堪えながら呼吸する暇のなかった我輩にとっては、意識を朦朧とさせるのに十分すぎる程の代物であった。
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「これ取ってやるから…お尻の穴塞いでね?」
「ムグググ…プハッ、ハァ…ハァ…」
頭がクラクラで危うく気絶しそうに成っておった我輩を、トリヤスはそう言いながら我輩の口に貼られておったテープを両手を使って剥がしてくれたらしく、吐き気が収まってくれるのと同時に新鮮な空気を取り入れることが出来、何とか気を取り戻す事に成功するも直後に言われた事に対して、返答を返す暇も無くテープを手渡されてしまうと
「よしっ…良い子にしてろよパパドール!」
止まっておったパパドールの後方から近づき、我輩の身体の上で立ち上がったトリヤスがそう言いながら、我輩を大道[[rb:芸猫 > げいびょう]]が使っておった『トランポリン』と呼ばれる物の代わりと言わんばかりに両足を使って跳躍をしたのは分かったものの、其処からどんな事が起きたのかは我輩には分からなかった。
ただ、視界の片隅でブブリーナを乗せてロケット花火を付けられていた気球が爆発を起こして、その反動に我輩の身体が一回転を引き起こした際に持っておったテープが偶発的に尻尾の先に出来た穴を封じる事に成功し、ようやく体勢を安定をする事が出来た際に辺りを見回したところ、トリヤスとその傍らにドウドウの妹であるチュチュがいると共に、此処バニパルウィットに初めて降り立った時と殆ど変わらぬ姿に戻ってくれた、パパドール含めた二名と一匹が湖に水柱を上げながら落下した姿が、其処にはあった。
「な、何とか…なったのか…んあっ?」
元に戻ったパパドールのその姿に、我輩は安心し掛けたその時であった。
遠くの方でいつの間にか崩壊し始めておったネズミバルーンの一部に、風船の身体ではないレディの子がしがみついていており、後に手紙でのヘノジイ経由で知ったのだがトリヤスと共に人間界からバニパルウィットに来た『ミーコ』という娘が、ここに来て二回目となるバニパルウィットの日の光を浴びるという地味に危険な状態だったのである。
「あ、あやつこのまま飛んでいってしまったら…大変なことに成るのではないか!?」
この時の我輩は、彼女が人間界から来た存在だという事なぞ知らなかった為、あのままネズミバルーンに捕まって居続けてしまったら、黄色近衛達が捕まえられぬ所にまで向かって行ってしまうと考えておった。
「な、何とかせねば…って、また飛ぶなぞ無理であるぞ…おぅっ!?」
何とか彼女を助けようと考え掛けた我輩であったが、尻尾に貼り直されたテープはしっかりと漏れなく貼り付けられており、それに加え先程までトリヤスの手によって飛ばされていった記憶が頭の中に浮かびだし、どうしたものかと思ったその瞬間であった。
我輩が先程まで飛んでおった時の速さと同じかそれ以上の速度でトム・キャットが其処へ一直線に向かって行っていたのである。
「も、もしや…おぉっ!!」
我輩はそのトム・キャットに今誰が乗っているのか察しづいたその一瞬であった。
トムキャットの窓か入り口かが開かれてゆきながら、其処にいたトリヤスが身を乗り出しながらミーコに手を差し伸べてみせると、それを掴んだ彼女を機体へと一気に引き込んでみせてから窓か入り口かを瞬く間に閉めてみせると、トム・キャットは赤き光を描きながらまるで水面に飛び込むかの如く早き動きで消えてゆき、その場に紫の波紋を浮かばせていってみせたのである。
「…ふふっ。あやつら、まるで流れ星の様であったな…まっ、少々後を濁しておるようだがな…!」
ちょうど太陽が打ち上がってみせ、周りが明るくなってゆく中で我輩は解放された顔で笑みを浮かべながらそう言い、ネズミバルーンの中身として使われていたであろう風船と化している者達と、今まで自身の口に付けられていたのが今度は尻尾に出来た穴を封じてくれている白のテープを眺めていったところで、魔術師の手を取り戻せたドウドウがその力を奮ってくれた事によって、風船から元の身体へと元に戻れた事による久方ぶりの空腹の音を聞きながら、我輩は他の者達と共に湖にボシャリと落ちていったのである。
[newpage]
[chapter:現実世界にて…]
「…ふうぅ、サンダダ様もこれには大満足だろ…!」
僕はそう呟きながら、様々な添削を行い清書して出来上がった羊皮紙の束の一部を新品の机で揃えてみせた。
父さんから貴族としての学を習った際、他の者達に下に見られては成らぬ事を教わり表での自身を貴族としてのモノにしている僕なのだが、他者の目に写らない場所、即ち家の中でなら本当の自分を解放することが出来、それを知るのは極々一部である従者のみの見事なセキュリティを形成させている。
っと、あの眠り猫事変の後に一体何が起きていったのかをここに記す必要があるな。
えーと確か、『元に戻れた我々を待っていたのは住民達からの矢継ぎ早な質問の嵐であり、何と返したものかと悩んでおったところにサンダダ様が来てくださり、彼が的確な事を答えてみせてゆく中、我々貴族は一度帰路に帰ることを決めた。』こんなんで良いだろう。
まぁその後の事ではあるのだがマジで大変だった。
元の姿には戻れたものの、パパドールの手によって破壊されてしまった建物は元に戻れる訳など無く、一部を破壊されてしまったモノならまだマシ、僕の持ち家の様に木っ端微塵に原型残んない状態とされてしまったら、王様からの支援で作られたこの屋敷で修復が終えるまで過ごすというある種の地獄を見る羽目になる。
一応最低限の従者込みで過ごすことの出来る造りには成ってはいるが、逆に言えばそれ以上となったら溢れてしまう従者や兵士が出てきてしまう代物であり、しかも他の貴族が住んでいる屋敷と距離が近すぎるか誰かが文句でも言おうものなら、巡りめぐってどエライ目に遭うことは必定。
その為この屋敷に入った際に僕が真っ先に行った事は、自室を防音性のある物で囲んで自身から漏らすことが無いように気を付けたのである。
当然こんな状況下で発表会の続きなぞ出来る筈もなく、僕が用意した気球は住民達の復興の資材運搬用として運用されることが決まり、僕との共同開発を行おうとしていた彼らは臍を噛んだ表情を浮かべながらも支援を求めた際は笑いが止まらなかったものだ。
さて、そんな王様からの屋敷の中で僕が行っている事はなんなのかというと、あの眠り猫事変とその前に我々が巻き込まれてしまった出来事についてを書き上げて、それらを纏め上げた物を彼ら民衆に伝える様にとの事を王様から伝令を受け、僕はそれに答えようも頑張っていったのだが、最近の者達は何故か眠り猫事変についてを知ってない。
やれ『チャオチュール』だの、やれ『ネコミーム』だの、なんだか変な言葉が行き交っており、それに何故か眠り猫事変の証人が少なくなってきていて、その影響もあって当時の証言を纏め上げる事にも時間が掛かりすぎてしまい気疲れも出たり、紆余曲折ありながら、ようやく下書きから清書を行って出来上がった物が、僕の目の前に置かれてあった。
「これならば、問題もない出来であるだろうな…しっかし、一体いつに成ったらコレが剥がれたりするのだろうか…?」
「ご主じーん、サンダダ様が此方に来られました!」
「おっと…んんっ、分かった、すぐに向かう。」
清書し終えた羊皮紙の束を眺めながらそう呟きつつ、僕は元の姿に戻れながらも今に至るまで、己の尻尾に今尚張り付いてしまっている白いテープが剥がれる時を待ち望んでいる事に対しそう言ってみせると、僕が今までやっていった事を手伝ってくれた使用人から、文通を行っていたサンダダ様がこの屋敷に来られてきた事を伝えて来てくれたのを聞き、僕は貴族としての自分に変えてみせると、部屋に置かれていたカツラを被りながら身なりを整え着替えてみせると、サンダダ様へのご準備を我輩は行ってみせていった。
[newpage]
…その後、屋敷に来られたサンダダ様の口から、己の身体は自在に風船と成れてしまえる不老のモノへと変わってしまっており、更に白いテープを貼られていた尻尾が実は三股に別ってしまって他の[[rb:常猫 > じょうびょう]]達とは違う存在と成ってしまっているのを知ったフールー・フォン・ポップシュハイン公爵は、サンダダの手によって尻尾がバレぬようにテールリングを付けられ彼の持ちうる手で用意した方法によって何とか身バレする事は避けられたが、後に『妖しき風船猫の貴族』として、フールーの執筆したまるで嘘の様な真実の物語がバニパルウィットの歴史に残る有名なお話の一つと成ったのは、彼の預かり知らぬ事であった。
「うふぅっ…仕方ないとはいえ、この様な形で行方を眩ませるとはなぁ…」
そんな状況の中、彼は例の事件の事や外から来た人間と僅かばかりであるが関わりがあること、先程ここに記した状態や能力から良くも悪くも騒ぎ可能性を考慮し、俗世から少し離れながら世界も違う所へと避難も兼ねて転移させられて、拠点としたその地の空にて、風船の身体で浮かんでいた彼がそうぼやいておったそうな…
End…?
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フールー・フォン・ポップシュハイン公爵
バニパルウィットに住んでいた猫の一体である青年。
パールグレーの毛色で尻尾にチャーコルグレーの縦縞模様が特徴であり、ある時から太く見えるように成る。
性格は穏やかで良識のある貴族であり一人称は『我輩』と成ってはいるものの、それは表向きの『貴族』としての性格。
本来の性格は少し世間知らずながらも博識であり、友人との関係を大事にする技官であり、彼の本来の一人称は『僕』である。
生まれはバニパルウィットではなく、その国の技術を手にしようと模索した国から『技術交流の為の[[rb:要猫 > ようびょう]]』としての両親によって、幼い頃本国に来られた経緯をもっており、その為関係を持てたのはサンダダ様とその部下、ほんの一部の年上の貴族達ばかりである為、同年輩や年下の者に対し少し憧れのような感情を抱いている。
バニパルウィットで魔法使いレムラムの娘リリーの亡くなった事や、其れによる彼の怒り手によってブブリーナに呪いが掛けられた事を最初に知った猫である。
元々彼が住んでいた国が持っていた『此処とは違う世界に行き来できる技術』の関係上『風船』の存在についていち早く知っており、それによってブブリーナに掛けられた『触れるもの全てが風船になる呪い』を受けた者の被害を防ぐことが出来、更に呪いを受けて風船の身体と成ってしまった方々をサンダダ達と調べていった結果、バニパルウィットで初となる複数の猫を乗せて異世界と行き来できる乗り物『クルーズ・キャット』や、其れをデチューンして扱いやすくした『気球』を開発することに成功し、それらに関する功績を出したことによって公爵としての立場を得られた。
ある日、今まで行っていった研究や技術を公にする発表会を行うことを知り、その日の夜にストローイエローのカツラを被りスカーレットとサーモンピンクのストライプのオー・ド・ショースを履き、フロントクロスの意匠を凝らしたレモンイエローのベストと白い襟の上からアップルグリーンのコートを着こなして、技官として就いたが故に得れた二角帽子を被った服装で発表会に参加。
一応は自身が持ち得ている技術を公表し、会場が盛り上げる役目を行う事に成功したものの、偽名で参加していたドウドウの手によって解放されたブブリーナの手に引っ掛かれてしまい風船の身体にされた事で、浮かんで身動きが出来なくなって風船にされた他の者達と共に発表会の会場でフワフワと浮かぶだけにされてしまい、そのままの状態でブブリーナが己の考えている『眠り猫事変』の当初の計画を聞かされる事に成るも、その余りにも荒唐無稽で住民達にも被害が起きることを他の者達含めて抗議してゆくとそれにブブリーナが逆ギレ、ドウドウや黄色近衛達の手によって彼女に批判した貴族共々口にテープを貼られてしまって窓の外へ放り出されてしまったが、辛うじて手が窓の縁に届き留まることが出来た影響で、ブブリーナが眠り猫への対抗策として異世界の存在を利用しようとしていたことを知ってしまうも、その場面で手を離し空を浮かび漂うことに成ってしまう。
その後、ブブリーナの指示でクルーズキャットで異世界渡りをしたドウドウが連れてきたパパドールを目撃し、その変異の顛末も見届けた。
その後、パパドールがバニパルウィットを蹂躙していく様を見ることしかできないことを歯痒く思いながらも時が過ぎ、ついに『眠り猫事変』の日。
サンダダの弟子たちが連れてきた人間の『トリヤス』の手によって尻尾に穴を開けられ、パパドールを共に戻すための乗り物にされるも口のテープを剥がしてもらい、乗り捨てられた後に穴をテープで自力で塞いだ。
その後、魔法の手袋を取り戻したサンダダの力で元の姿に戻れるも、仕事の関係上少食だったのが痩せの大食いに成っており、白いテープを貼っていた尻尾が三股に別たれた所謂『猫魈』と呼ばれる存在に成ってしまっている事を、フールーの身体の調査を行ったサンダダが正体不明ながらも突き止めてくれたのを聞き、尻尾に複数のテールリングを着ける事で身バレを防いだものの、『眠り猫事変』の事や外から来た者と僅かばかり関わりを持った事や、『不老』であることや『身体を自在に風船にする事の出きる能力』から騒ぎに成る可能性を考慮し、俗世から少し離れた避暑地の様な世界に避難も兼ねて転移をし、ほとぼりが冷めるまで時々風船化をしながら日々を楽しんでいる。
その間の状態の経過報告やバニパルウィットの近況を知る為にサンダダとの交流は今も尚続いており、関係は良好。
[[rb:風船 > かぜぶね]]の加護
自身の身体を風船と同じ性質にさせ自在に風船のように膨らんで空中に浮遊する事ができ、その身体は再生はするが老化(細胞劣化)をしない『不老』の能力を与えられた呪いが変異した加護のような物。
ブブリーナが持つ『欲した触れるもの全てが風船になる呪い』をフールーが受けて、更なる要因が重なった事により変性を起こした結果、生み出された能力。
本来『欲した触れるもの全てが風船になる呪い』は、肖像画に掛けられていた『ブブリーナの姿を見た者は彼女の虜になる呪い』とセットでレムラムが掛けていたモノであり、ブブリーナが『誰かを思いやる心とブブリーナを心の底から愛してくれる他者の両方が揃うまで解けない呪い』としてのモノであったが、彼女はその呪いを逆に悪用し傍若無人の限りを尽くした結果、多くの猫が風船にされ中にはパンクさせられた者も出たとされる曰く付きの呪いであった。
『眠り猫事変』の後、サンダダの手によって風船化した猫達は全員元の姿に戻れたのだが、その事変の最中に人間界から来たトリヤスに尻尾を突っつかれ穴を開けられてしまったフールーのみにこの変異が起こった為、『異世界の存在の干渉』によって発生した変異なのではとサンダダが推測していたが、結局のところは不明のままの奇跡の産物と呼べるモノである。